10月の気になる新刊
10月1日刊 花輪莞爾『悪夢十六夜 残夢整理』(学研マーケティング 予価2100円)
10月5日刊 柴田元幸翻訳叢書『アメリカン・マスターピース 古典篇』(スイッチパブリッシング 予価2205円)
10月8日刊 マイクル・コーニイ『パラークシの記憶』(河出文庫 予価998円)
10月8日刊 ミステリー文学資料館編『古書ミステリー倶楽部』(光文社文庫 予価840円)
10月8日刊 東雅夫編『日本幻想文学大全2 幻視の系譜』(ちくま文庫 予価1365円)
10月12日刊 イサク・ディネセン『ピサへの道 七つのゴシック物語1』(白水Uブックス 予価1470円)
10月12日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ボルヘス・エッセイ集』(平凡社ライブラリー 予価1260円)
10月17日刊 バーナード・マラマッド『魔法の樽 他十二篇』(岩波文庫 987円)
10月22日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス&マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』(晶文社 予価2940円)

 
 柴田元幸翻訳叢書『アメリカン・マスターピース 古典篇』は、アメリカの古典小説のアンソロジー。収録作品は、ナサニエル・ホーソーン「ウェイクフィールド」、エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人」、ハーマン・メルヴィル「書写人バートルビー」、エミリー・ディキンソン「詩」、マーク・トウェイン「ジム・スマイリーと彼の跳び蛙」、ヘンリー・ジェイムズ「本物」、O・ヘンリー「賢者の贈り物」、ジャック・ロンドン「火を熾す」です。
 マイクル・コーニイの青春SF『ハローサマー、グッドバイ』の続編『パラークシの記憶』がようやく登場です。コーニイに関しては他の作品の復刊の話もあるようですね。
 10月の新刊でいちばんのオススメはこれでしょうか。イサク・ディネセン『ピサへの道 七つのゴシック物語1』。以前、晶文社で刊行されていたものの復刊ですが、収録作品全てが傑作といってもいい物語集です。幻想文学好きなら読んでおくべき作品集でしょう。
仮面の下の愛憎  フォルチュネ・デュ・ボアゴベ『鉄仮面』
4061982966鉄仮面〈上〉 (講談社文芸文庫)
ボアゴベ Fortun´e Du Boisgobey
講談社 2002-05

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 「鉄仮面」といえば、17世紀後半にフランスに実在した伝説的な囚人です。常に仮面で顔を覆い、その正体は当時の人々にとっても、謎だったと言います。ヴォルテールを始め、数々の人間によって、その正体が取り沙汰され、現代でもその正体は、はっきりしません。
 文学作品でも、何度も取り上げられており、日本ではアレクサンドル・デュマによる作品が有名でしょう。
 フォルチュネ・デュ・ボアゴベの『鉄仮面』(長島良三訳 講談社文芸文庫)も、そんな鉄仮面伝説を扱った作品のひとつです。
 ルイ14世の御世、青年貴族モリスは秘かに国王に対する反乱活動を指揮していました。同じく反乱の同士であるソワソン伯爵夫人の従僕フィリップは、国務大臣ルーヴォアの部下、ナロ会計長の口車に乗せられ、反乱活動を失敗させるため、腹心の友のふりをしてモリスに近づきます。
 モリスの恋人ヴァンダや、部下のブリガンディエールは、フィリップを信用しないようモリスをいさめますが、モリスは、陰謀の詳細をフィリップに話してしまいます。
 やがて国王の誘拐を実行する段になり、フィリップの密告により先回りされたモリス一行は、奇襲を受け、モリスは命を落としてしまいます。しかし内情を知るフィリップは、捕らえられ幽閉されてしまうのです。
 恋人の復讐に燃えるヴァンダは、幽閉されたフィリップを探し出し殺そうと考え、ブリガンディエールとともに計画を立て始めます。同時に、フィリップを愛していたソワソン伯爵夫人もまた、フィリップを救出しようと動きはじめるのです…。
 幽閉された「鉄仮面」の正体は、陰謀の詳細を知ったために囚われた、密告者フィリップだという設定になっています。この男を殺そうと考えるヴァンダの一味と、助けようと考えるソワソン伯爵夫人の一味が、それぞれ権謀術数を繰り広げていきます。
 これだけでも十分面白いのですが、陰謀をつぶそうと暗躍する国務大臣ルーヴォア、魔術で貴族たちをたぶらかす女占い師ヴォワザン、宝石商にして盗賊のモンヴォワザン、モンヴォワザンの可憐な娘マリエット、マリエットに恋する青年判事ピエールなど、多彩な人物が入り乱れ、ストーリーを彩っていきます。
 面白いのは、物語を動かす二人の主人公、ヴァンダとソワソン伯爵夫人が、どちらも女性であること。それぞれ恋人の復讐、恋人の救出と、二人ともその行動の原動力は愛なのです。目的のために、ヴァンダは牢獄に潜り込もうと身分を偽って侵入し、またソワソン伯爵夫人は財力と権力を使い、囚人を釈放させようと活動します。剣戟や活劇こそありませんが、二人の行動は読んでいて読者を夢中にさせます。
 メインとなるストーリーに加え、逮捕された女占い師ヴォワザンの処刑を止めようとするマリエットとピエールの冒険を描くサイドストーリーなども絡み、決して一本調子にはならないところも、魅力的です。
 後半になると、「鉄仮面」の正体がフィリップではなく、生き残ったモリスなのではないかという疑惑も生まれてきます。本当に最後の最後まで「鉄仮面」の正体はわからず、サスペンスが途切れることがないのです。19世紀の作品ながら、今読んでも十分に面白い、波乱万丈の歴史ロマンといえるでしょう。 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本(日本作家を中心に)

4488010075銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件
アンドリュー・カウフマン 田内 志文
東京創元社 2013-09-11

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 その銀行強盗は、金ではなく奇妙なものを奪っていきました。それは各人の「もっとも思い入れのあるもの」。居合わせた人たちの身に、次々と不思議な事件が起こり始めます。そして妻の身に起こったのは、身長がどんどん縮んでしまうという現象でした…。
 身長が縮む妻を始め、ライオンに追いかけられる女性や、夫が雪だるまになってしまった女性など、奇天烈な事件が繰り広げられます。はっきりとした説明はなされないのですが、それぞれが人生の寓意になっているのでしょう。魅力的なファンタジーです。



4087451100もしもし、還る。 (集英社文庫)
白河 三兎
集英社 2013-08-21

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 主人公の青年が目を覚ますと、そこは砂漠でした。しかもそこに突如電話ボックスが降ってきます。電話で助けを求めようとしますが、つながるのは特定の相手のみ。やがて、電話ボックスの外に出した体の一部が消えてしまい、外に出れば死んでしまうことに気づきます…。
 冒頭から、ものすごいシチュエーションで驚かされます。不条理なことが続くので、この手の話を読みなれた読者は、だいたいの予想はつくと思いますが、それを差し引いても非常に面白い作品です。



4061828851セカンドタウン (講談社ノベルス)
嶋戸 悠祐
講談社 2013-08-07

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 街全体が塀に囲まれた「セカンドタウン」。郊外の穴の底で発見された教師は、信じられないような体験談を語ります。疑念を抱いた主人公の少年は、親友に相談しますが、やがて親友は姿を消します。時を置かずに「探偵」を名乗る男が現れますが…。
 序盤のリーダビリティは抜群です。後半、唐突に世界観の説明が始まるなど、作品バランスが良いとはいえないのですが、ホラー好きなら面白く読めるのではないでしょうか。



4061828959紙の眼 (講談社ノベルス)
大山 尚利
講談社 2013-09-05

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 5編が収められた短編集です。
 眼が描かれただけの奇妙な貼り紙を見つけた主人公が騒動に巻き込まれる『紙の眼』、現在の夫と結婚しなかった並行世界に紛れ込んだ主婦を描く『キューピッド』、同窓会に招かれたものの、十数年前の記憶が全くない男が、過去の記憶に向き合う『濡れた喪服』など。
 どれも面白いのですが、とくに巻末に収められた『鉄柱』が力作です。ある日、空き地に鉄柱が忽然と現れます。どうやっても引き抜くことのできない鉄柱のそばに、さらに裸の男が現れ、鉄柱にもたれかかり立ち続けます。やがて男は「神」なのではないかという噂がたち、男を見ようと、行列ができはじめます…。
 「異色短編」や「奇妙な味」がお好きな人にはオススメの短編集です。



4043805020おやすみ、ロビン (角川ホラー文庫)
大山 尚利
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-03-25

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 小学生の主人公は、ある日親友と遊んでいる最中に、小屋に置き去りにされた赤ん坊を見つけます。大人に知らせれば、赤ん坊は不幸になると信じ込んだ二人は、自分たちだけで赤ん坊を世話し始めます。やがて親友が引っ越してしまいますが…。
 赤ん坊を育てていく過程が非常にリアルに描かれます。知識も経験もない少年たちが、試行錯誤する描写は上手いの一言。結末は賛否両論分かれるでしょうが、少年小説の傑作だと思います。
魂のゆくえ  リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』
430920631X私のいた場所
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ 沼野 恭子
河出書房新社 2013-08-26

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 『私のいた場所』(沼野恭子編訳 河出書房新社)は、現代ロシアの女流作家、リュドミラ・ペトルシェフスカヤの幻想的な短編を集めた作品集です。「幻想的」とはいっても、例えば童話風だったり、実話風だったり、寓話風だったりと、その「幻想」の質はさまざま。
 傾向別に4章に分けて作品が並べられていますが、特に面白く読めたのは、1章≪不思議な場所≫と2章≪東スラヴ人の歌≫です。
 1章では、死んだ娘を生き返らそうと奔走する父親の物語『噴水のある家』、青年に生まれ変わった父親が、かっての妻と息子に再会し愛情をそそぐ『新しい魂』が面白いですね。
 2章≪東スラヴ人の歌≫は、かって『東欧怪談集』(沼野充義 河出文庫)にも収録された、怪談的要素の強い作品群。どれも短めですが、簡潔なだけに力強い印象を与えます。とくに2章最後に収録された『復讐』は、アパートの隣に住むシングルマザーとその子供を憎む女の狂気を描いています。短めながらも強烈なインパクトのサイコスリラーです。
 ちなみに、3章≪お伽噺≫は、お伽噺をモチーフにした作品群、4章≪死の王国≫は、生と死の狭間を描く作品を集めています。
 いわゆる「ジャンル作家」ではないので、きっちりとSFやファンタジーに分類はできないのですが、作品内に流れる独特の空気は非常に魅力的です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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