ジャック・リッチーのこと
ミステリマガジン 2013年 09月号 [雑誌] クライム・マシン (河出文庫) カーデュラ探偵社 (河出文庫) ダイアルAを回せ (KAWADE MYSTERY) 10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)
 今月号の『ミステリマガジン』を購入しました。特集は「魅惑の宝塚/作家特集ジャック・リッチー」です。宝塚はともかく、ジャック・リッチー目当てに購入しています。
 ジャック・リッチー(1922-1983)は、とぼけたユーモアと簡潔なプロットで、魅力的なクライムストーリーをたくさん書いています。作家生涯で、ほぼ全ての作品が短編という、まさに筋金入りの短編作家。
 似たようなタイプの作家では、ヘンリー・スレッサーやエドワード・D・ホックがいます。ただ、彼らにくらべてリッチーは、本国では生前は表立って脚光を浴びた作家ではなかったようです。むしろ本国より、日本での方が人気があったのではないでしょうか。
 僕がリッチーの名前を最初に意識した作品は、おそらく、『現代アメリカ推理小説傑作選01』(立風書房)というアンソロジーに収録されていた『デヴロー家の化け物』(現在は『クライム・マシン』(河出文庫)に「デヴローの怪物』という題名で収録)だと思います。デヴロー家に伝わる怪物の目撃談が相次ぐなか、殺人事件が起こる、という怪奇趣味横溢の作品ですが、全体にとぼけたムードが漂っていて、何ともいえない味の短編でした。
 2000年代になってから、何冊かの短編集が日本オリジナルで編纂されましたが、それまでは、リッチー作品は、アンソロジーや雑誌のバックナンバーに掲載されたものを読むしかありませんでした。古くは『ヒッチコックマガジン』、後には『ミステリマガジン』『EQ』などで、リッチー作品がよく掲載されており、どれも水準以上の楽しみを与えてくれる作品です。エンタテインメント短編の職人作家ですね。

 日本で刊行された短編集は、以下の4冊です。
 
 『クライム・マシン』 (晶文社→河出文庫)
 『10ドルだって大金だ』(河出書房新社)
 『ダイアルAを回せ』(河出書房新社)
 『カーデュラ探偵社』(河出文庫)

 いちばん新しい『カーデュラ探偵社』が出てから、そろそろ3年。もうリッチーの邦訳書は出ないのかな、と思っていた矢先ですので、今回の『ミステリマガジン』の特集は、嬉しい限りです。
 さて特集内容ですが、小鷹信光氏の監修なので、小特集とはいえ、充実しています。本邦初訳の短編が3編、リッチーの息子による回想録、総短編リストなど。
 掲載短編はどれも面白かったのですが、いちばん気に入ったのは『オレンジ連続殺人事件』。喧嘩中に衝動的に妻を刺し殺してしまった夫が、妻がオレンジをつかんだまま死んでしまったことから、架空の殺人鬼を作り出し、嫌疑を逃れようとする話です。やがてオレンジ殺人鬼を利用して、妻殺しを実行する夫たちが現れ始める…という、リッチーらしいオフビートなユーモアミステリです。
 小鷹氏作成のリストも労作です。相変わらず、小鷹氏の書誌的な仕事には脱帽ですね。かなりの数の短編が訳されているような気がしていたのですが、まだ、こんなに未訳作品が残っていたとは。
 しかも、嬉しいお知らせが! 今年の秋に、早川書房から、リッチーの初訳作品を集めた短編集が出るという知らせが載っており、これは非常に楽しみです。

 ちなみに、来月号の『ミステリマガジン』で、リチャード・マシスンの追悼特集をするようです。『SFマガジン』でやると思っていたら、『ミステリマガジン』なのですね…。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

8月の気になる新刊と7月の新刊補遺
7月22日刊 鹿島茂コレクション3『モダン・パリの装い 19世紀から20世紀初頭のファッション・プレート』(求龍堂 3465円)
7月24日刊 アレハンドロ・ホドロフスキー/メビウス『猫の目』(竹書房 2200円)
7月刊 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』(文遊社 予価2940円)
8月2日刊 ウェンディ・ムーア『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(河出文庫 予価1260円)
8月2日刊 『澁澤龍彦訳 暗黒怪奇短篇集』(河出文庫 予価998円)
8月7日刊 真鍋博『真鍋博のプラネタリウム 星新一の挿絵たち』(ちくま文庫 予価735円)
8月8日刊 クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価1785円)
8月10日刊 アレハンドロ・ホドロフスキー/メビウス『天使の爪』(飛鳥新社 2625円)
8月22日刊 リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』(河出書房新社 予価1995円)
8月22日刊 ジェフ・ライス『事件記者コルチャック』(ハヤカワ文庫NV 予価1155円)
8月30日刊 チャールズ・ボーモント『予期せぬ結末2 トロイメライ』(仮題)(扶桑社ミステリー)


 アレハンドロ・ホドロフスキーとメビウスが組んだBD作品が続けて刊行されます。『猫の目』『天使の爪』です。『猫の目』は以前、雑誌にも掲載されましたが、短いながらも素晴らしい作品でした。視点の取り方が斬新で驚かされます。
 『永遠のアダム』に続き、文遊社から復刊されるのは、ジュール・ヴェルヌの『ジャンガダ』。こちらは、集英社から出ていた『ヴェルヌ全集』からの復刊ですね。ヴェルヌ作品の中でも、冒険小説的な色の濃い作品です。
 ウェンディ・ムーア『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』は、以前出た単行本の文庫化ですが、そこらのフィクションより面白いノンフィクションです。18世紀イギリス、近代医学の父ジョン・ハンターの生涯を描いた作品。
 『夢幻諸島から』は、プリーストが書きついでいる≪ドリーム・アーキペラゴ≫ものの短編集です。
 好評だったジョン・コリアに続く≪予期せぬ結末≫シリーズの新刊は、チャールズ・ボーモント。扶桑社のブログを見ると、続刊予定にロバート・ブロックやリチャード・マシスンもあがっているようです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本

4892570842永遠のアダム
ジュール・ヴェルヌ 江口清
文遊社 2013-06-03

by G-Tools

 ヴェルヌの短編を集めた作品集です。表題作『永遠のアダム』は、地球の大地のほとんどが水中に没してしまい、生き残った人間たちが新たな世界を作るという話です。これをさらに未来の人間の目を通して語る…という、スケールの大きな物語。
 ヴェルヌの長編に比べ、短編はコンスタントに面白く読めるような気がします。創元文庫から出ていた『オクス博士の幻想』もいまは入手が難しいようですが、面白い短編集でした。



4594068057予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー)
ジョン・コリア 井上 雅彦
扶桑社 2013-04-30

by G-Tools

 短編の名手コリアの粒ぞろいの作品集。未訳作品、そして雑誌のバックナンバーに訳載されたきりの短編など、単行本未収録短編が多く収録されており、コリアファンにとっては感涙ものの短編集です。
 どれも面白いのですが、オススメは『恋人たちの夜』。人間の美女に化けた天使と悪魔が恋の駆け引きを繰り広げるという、コリアの真骨頂である≪天使と悪魔≫もの短編です。
 シリーズの次の配本は、チャールズ・ボーモントだそうで、これも楽しみです。



4878923261ラヴクラフトの世界
スコット・デイヴィッド アニオロフスキ
青心社 2006-09

by G-Tools

 ラヴクラフトが言及した都市や地名にインスピレーションを受けて書かれた作品を集めるというコンセプトのアンソロジーです。ラヴクラフト風味にはなっているものの、全ての作品が、必ずしもクトゥルー神話ものになっているというわけではありません。
 玉石混交ですが、見たものを死に追い込む謎の絵を扱った『ファン・グラーフの絵』(J・トッド・キングリア)、怪物に支配されたパラレルワールドに迷い込んだカップルを描く『闇のプロヴィデンス』(ドン・ダマサ)、農場で暮らす夫婦が変調をきたしていく様子をじっくりと描いた力作『ポーロス農場の変事』(T・E・D・クライン)などが印象に残ります。
 


4861824419都会の蜃気楼
岡野 薫子
作品社 2013-05-24

by G-Tools

 著者は、児童文学の分野ではベテラン作家。大人向け作品を集めた作品集だということです。SFやファンタジーというほどのジャンル味はありませんが、いわゆる「奇妙な味」が楽しめる作品が多く収録されています。画家の仕事を始めた女と、画廊に現れた幼馴染との不思議な関係を描く『青いピエロの少年』、妻が飼っていた空想上の犬がやがて迷い込んできた現実の犬と一体化する『ジェミーのクリスマス』など、例えばパトリシア・ハイスミスやルース・レンデルにも似た味わいです。



4047289299魔女マリー 上巻 (ビームコミックス)
天乃タカ
エンターブレイン 2013-05-15

by G-Tools
4047289302魔女マリー 下巻 (ビームコミックス)
天乃タカ
エンターブレイン 2013-05-15

by G-Tools

 これはコミック。心を奪う代わりに、あらゆる願い事をかなえるという魔女マリーをめぐるオムニバス・ストーリーです。願い事をする各話のゲスト・キャラクターの人間性を描くのと平行して、魔女マリー自身の謎をからめていく展開はなかなか見事。
 かわいい絵柄なのですが、物語は非常にシリアスで読みごたえがあります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する