さようなら、マシスン
13のショック (異色作家短篇集) 運命のボタン (ハヤカワ文庫NV) リアル・スティール (ハヤカワ文庫NV) 不思議の森のアリス (ダーク・ファンタジー・コレクション) ある日どこかで (創元推理文庫)
 SF・ホラーの巨匠である、作家リチャード・マシスンが亡くなったそうです。
 1950年代から、近年にいたるまで、小説・映像分野で活躍し続け、後続のクリエイターたちに多大な影響を与えました。
 長編では、吸血鬼ものの新解釈にして、ゾンビものの嚆矢ともいえる『地球最後の男』、馬鹿らしいまでのアイディアが突き抜けた『縮みゆく人間』、サイキック・スリラーの元祖『渦まく谺』、幽霊屋敷ものの新機軸『地獄の家』、タイムトラベルロマンスの名作『ある日どこかで』などが思い浮かびます。
 また、短編では、斬新なアイディアの作品を多く発表し、今読んでもその面白さは色あせていません。
 近年、映画化の影響で短編集の邦訳が何冊か続いていたので、ちょっとしたマシスン・ブームが起きるのではないかと思っていただけに、非常に残念です。
 長編も素晴らしい作品がたくさんありますが、マシスンといえば、やはり短編です。『血の末裔』『こおろぎ』『機械仕掛けの神』『高度二万フィートの悪夢』『長距離電話』』『次元断層』『陰謀者の群れ』…。SF的なアイディアを使った作品もたくさんありますが、本質的にはマシスンはホラー作家だったのではないかと思います。『機械仕掛けの神』『次元断層』などで感じられる「薄気味の悪さ」は、ホラー作家ならではのものです。
 あらすじやテーマが頭に残りやすく、人に話して聞かせられる、というのも、マシスン作品の特徴でしょう。こういう作品だ…というのが、まとめやすく、紹介しやすいのです。このあたり、映画化するのにひっぱりだこだった、という事情もうなずけるように思います。その点、近年映画化もされた『運命のボタン』など、もはや「寓話」の域に達していた作品だと思います。

 「異色作家」の中でも、ロバート・ブロックと並んで、とても大好きな作家でした。
 ご冥福をお祈りいたします。

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7月の気になる新刊
7月2日刊 コリン・ウィルソン他『古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待』(扶桑社ミステリー 予価1000円)
7月5日刊 大泉黒石『黄夫人の手 黒石怪奇物語集』(河出文庫 予価798円)
7月9日刊 ポール・ラファージ『失踪者たちの画家』(中央公論新社 予価2205円)
7月10日刊 ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』(光文社古典新訳文庫)
7月11日刊 ステファノ・ベンニ『海底バール』(河出書房新社 予価2940円)
7月20日刊 中村融編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』(創元SF文庫 予価1029円)
7月23日刊 市川春子『宝石の国1』(講談社 630円)
7月24日刊 法条遥『リライト』(ハヤカワ文庫JA 予価651円)
7月24日刊 法条遥『リビジョン』(ハヤカワ文庫JA 予価651円)
7月25日刊 J・L・ボルヘス編『新編バベルの図書館 第6巻』(国書刊行会 予価7140円)


 『古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待』は、コリン・ウィルソン、ブライアン・ラムレイ、ラムジー・キャンベルの3人の作家の作品によるアンソロジーです。前巻に引き続き、ラムジー・キャンベルの作品収録が嬉しいです。
 ポール・ラファージ『失踪者たちの画家』は、聞いたことのない作家ですが、あらすじ紹介が興味を惹きます。「消えた恋人を探し、画家は監獄、人形工場、裁判所へ流れ着く。虚と実、生と死の境がゆらぐなか都市の秘密が垣間見え…無類の奇譚小説」。翻訳が柴田元幸氏なので、期待できそうです。
 中村融編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』は、『時の娘』に続く、時間SFを集めたアンソロジー。詳しい収録内容は不明ですが、名作『努力』(シャーレッド)が収録予定だそうです。
 「バッド・エンドの『時をかける少女』」との評もあった、法条遥の『リライト』が早くも文庫化です。しかも続編『リビジョン』が同時発売。早川書房の近刊予定を見てみると、紹介文に「時の4部作」の文字が。これはもしかして四部作になるのでしょうか? 楽しみです。
運命と人間  アドルフォ・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』
433604841Xパウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)
アドルフォ・ビオイ=カサーレス 野村竜仁
国書刊行会 2013-05-30

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 ボルヘスと並び称され、短編の名手との評も聞かれる、アルゼンチンの幻想作家アドルフォ・ビオイ=カサーレス。日本でも数編の短編が訳されていましたが、ようやく本邦初の短編集『パウリーナの思い出に』(野村竜仁、高岡麻衣訳 国書刊行会)が刊行されました。
 バッカス神に翻弄される人間たちの物語『愛のからくり』、動物に生まれ変わった人間たちの顔が見えるようになった男を描く風刺的な『真実の顔』、時間の止まった屋敷に暮らす父娘とそれをめぐる詩人たちの物語『雪の偽証』など、力作が目白押しですが、集中でも飛びぬけた傑作として、表題作『パウリーナの思い出に』『大空の陰謀』が挙げられます。
 『大空の陰謀』は、テストパイロットの男が事故を起こして墜落し、自分の世界とは微妙に異なる世界に迷い込むという物語です。いわゆる「平行世界」を扱っているのですが、著者の筆致が非常に不気味な雰囲気をかもし出しており、悪夢のような幻想小説になっています。
 表題作『パウリーナの思い出に』では、幼い頃から自他ともに認める恋人として過ごしてきた女性が、結婚を目前にして、別の男のもとに走っていってしまいます。傷心の主人公は海外に旅立ちます。
 帰国した主人公のもとに、その女性パウリーナが現れ、かっての愛を取り戻したかに見えますが、やがてパウリーナは、恋敵の男の手で数年前に殺されていたことを知ります。あのパウリーナは亡霊なのか…?
 愛、幻影、分身…。長編『モレルの発明』の変奏曲ともいうべきテーマを持つ傑作小説です。
 収録作品のほとんどに、幻想的もしくはSF的な要素が認められ、広義の「幻想小説」といっていい作品になっています。文学性と物語性が高いレベルで結実した作品集となっており、幻想文学好きにはたまらない短編集でしょう。

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冒険とロマンス  ロード・ダンセイニ『ドワーフのホロボロスとホグバイターの剣』
ドワーフのホロボロス
 西荻窪の古書店、盛林堂さんが刊行しているシリーズ≪盛林堂ミステリアス文庫≫。その最新刊として発売されたのが、ロード・ダンセイニ『ドワーフのホロボロスとホグバイターの剣』です。
 晩年のダンセイニが、孫のために書いたといわれている短編童話です。童話とはいえ、その味わいは全盛期のダンセイニ作品、例えば『サクノスを除いては破るあたわざる堅砦』『ウェレランの剣』などを思わせます。
 悪の国の王は、樺の国の王に戦いを挑みます。しかし樺の国の王には、魔法を持った金の頬髭があり、それに打ち勝たないことには、戦争に勝つことはできません。悪の国の王は、金の頬髭を持ってきたものには、王女をめとらせることを約束します。
 青年イグドラシオンは、森の魔女から、金の頬髭に打ち勝つ方法を教えてもらいます。頬髭はホグバイターの剣でしか打ち落とせないのです。ホグバイターの剣は、森の一番古い樫の木の中に埋まっており、その木からホグバイターの剣を取り出すには、ドワーフのホロボロスの斧を使うしかありません。
 イグドラシオンは、ドワーフのホロボロスを探し出し、協力を求めますが…。
 筋立ては単純なものですが、その語りには、物語の喜びがあふれています。老境になっても、これだけ純粋な物語を語れるダンセイニは、やはり生粋のファンタジー作家なのでしょう。

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怪談への想い  南條竹則『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』
477803760X怪奇三昧 英国恐怖小説の世界
南條 竹則 荒木飛呂彦(カバーイラスト)
小学館 2013-05-24

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 2000年に刊行された、南條竹則氏の『恐怖の黄金時代 ―英国怪奇小説の巨匠たち』(集英社新書)は、怪奇小説ファンには外せない名著です。アーサー・マッケンやアルジャーノン・ブラックウッドなど、イギリスの怪奇小説の巨匠たちの略伝や作品を紹介するという、とても新書で出るとは思えないマニアックな本でした。
 怪奇小説への愛にあふれたこの本、残念なことに品切状態が続いていたのですが、今回増補した新版として刊行されました。それが、『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』(集英社)です。
 増補部分としては、まずリチャード・ミドルトンの章が追加されています。また、ラヴクラフトなどの翻訳がいくつか加えられました。
 とはいっても、増補部分以前に、まずは元版の目次を紹介すべきでしょうか。

第一章 四大の使徒-アルジャノン・ブラックウッド
第二章 セント・ジョンズ・ウッドの市隠-アーサー・マッケン
第三章 師匠と弟子-ダンセイニ卿とラヴクラフトについて
第四章 ケンブリッジの幽霊黄金時代-M・R・ジェイムズその他
第五章 霊魂の交わるとき-メイ・シンクレア
第六章 レドンダ島の王たち-M・P・シールとジョン・ゴーズワース
第七章 魔の家を見し人は-H・R・ウェイクフィールド

 なんというマニアライクな内容!
 四章の「その他」では、M・R・ジェイムズのほかに、ベンスン三兄弟やアーサー・キラ=クーチが紹介されています。ブラックウッド、マッケン、M・R・ジェイムズのいわゆる「三大巨匠」はもちろんのこと、ダンセイニ、ラヴクラフト、ウェイクフィールドなどに一章が割かれているのは異論のないところでしょう。
 著者の独自性が発揮されているのは、やはり五章と六章だと思います。メイ・シンクレアとM・P・シール、どちらも、ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズに並べられるほどの作家かというと、正直疑問です(個人的には好きな作家たちです)。そこに一章を割いているところに著者の見識を感じますね。
 さて、新版では第八章として、リチャード・ミドルトンの章が追加されています。著者お気に入りの作家だけに、紹介文にも気合が入っています。
 全体に、非常にわかりやすくまとめられており、初心者にとって読みやすいガイドになっています。代表作のあらすじやテーマ、また未訳作品も取り上げられており、その点マニアが読んでも楽しめます。
 怪奇小説ジャンルに不案内な人に、とくに注意しておきたいのですが、本書は怪奇小説ガイドとはいうものの、このジャンルの作品を網羅したものではありません。取り上げられているのは、ほぼイギリスの正調怪奇小説(こういう言い方をしていいのかどうかわかりませんが)です。時代的に一番新しい作家が、H・R・ウェイクフィールド(1888-1964)ですので、いわゆるモダンホラーや現代作品にも触れられていません。
 その意味で、ガイドブックとしては、扱っている範囲が非常に狭く、怪奇小説を歴史的に俯瞰したい方にとっては、少し趣が異なります。ただ、怪奇小説ファンにとっては、まさにこの時代、この地域の作家たちこそ、黄金時代の怪奇小説作家といえます。本書をとっかかりに、個々の怪奇作家の作品に触れていくのが有用な読み方といえるのではないでしょうか。ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズは個人作品集が出ていますし、ウェイクフィールドも先ごろ怪談集『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)が出ています。メイ・シンクレアに関しても、怪談集の出版が予定されているようです。
 怪奇小説ファンとしては、もし自分がガイドを書くとしたら、誰を取り上げるだろう、と考えながら読むのも楽しいですね。A・E・コッパード、オリヴァー・オニオンズ、シンシア・アスキス、イーディス・ウォートン、ジョン・メトカーフ、A・M・バレイジ エルクマン=シャトリアン。このジャンルには歴史があり、素晴らしい作家がたくさんいます。自分のお気に入りの怪奇作家を探すのも楽しい作業になるのでは。

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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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