4月の気になる新刊
4月10日刊 スティーヴン・キング『ビッグ・ドライバー』(文春文庫 予価760円)
4月上旬刊 レイ・ブラッドベリ『刺青の男 新装版』(ハヤカワSF文庫)
4月11日刊 フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(東京創元社 予価1680円)
4月13日刊 ロン・カリー・ジュニア『神は死んだ』(白水社 予価2310円)
4月16日刊 ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』(岩波文庫 882円)
4月17日刊 フランセス・F・バーネット『白い人びと』(みすず書房 予価2940円)
4月20日刊 バルドゥイン・グロラー『探偵ダゴベルトの功績と冒険』(創元推理文庫 予価1155円)
4月23日刊 岡本綺堂『近代異妖篇 岡本綺堂読物集3』(中公文庫 720円)
4月23日刊 ジョン・コリア『予期せぬ結末 ミッドナイト・ブルー』(扶桑社ミステリー)

 4月の要注目は、やはり岩波文庫のブッツァーティでしょう。名作『タタール人の砂漠』の文庫化です。まさか岩波からブッツァーティが出るとは思いませんでした。しかも5月には、短編集『七人の使者・神を見た犬 他13篇』の刊行が予定されています。河出の単行本『七人の使者』の文庫化なのだとは思いますが、元本も絶版になって久しいので、嬉しいニュースですね。
 フランセス・F・バーネット 『白い人びと』は、かって『怪奇幻想の文学』 『白いひと』 という訳題で収録されたこともある幻想小説の名品。
 異色短編ファンとして嬉しいのは、扶桑社ミステリーのジョン・コリア短編集。どうやら異色作家シリーズを続けて出してゆくようです。

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『たんぽぽ娘』と『奇妙なはなし』
tanpopo1.jpgたんぽぽ娘―海外ロマンチックSF傑作選2 (1980年) (集英社文庫 コバルトシリーズ)
風見 潤
集英社 1980-02

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kimyo2.jpg奇妙なはなし (文春文庫―アンソロジー人間の情景)
文芸春秋
文藝春秋 1993-02

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 最近、ロバート・F・ヤングの名作短編『たんぽぽ娘』が話題になっています。確かに名作だけれど、現役本では、この作品が読める本はなかったような…。
 どうやら、最近人気の作品、三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)及びそのドラマ化作品でとりあげられたことで、読みたいという人が増えたせいのようです。
 その影響かどうか、何年も前から刊行予告がなされていながら、ちっとも出なかった、河出書房の奇想コレクションの一冊『たんぽぽ娘』(伊藤典夫訳)が、5月に刊行予定になったそうです。さらに、かってコバルト文庫から出ていたアンソロジー『たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2』も、同じく5月に復刊が決まったそうです。
 こんなところで、ちょっとしたヤングブームが起きるとは思いませんでした。これを機に、未訳の作品がもっと訳されるといいのですが。
 さて、僕が『たんぽぽ娘』を初めて読んだのは、文春文庫のアンソロジー『奇妙なはなし』でした。『たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2』は、その当時すでに絶版で、古書でもほとんど手に入らない状態でしたから、いちばん手に入れやすいのは、この本でした。
 同じく『たんぽぽ娘』が収録された『年刊SF傑作選2』 も手に入れました。あと、後に『SFマガジン』の40周年記念特大号(525号)にも収録されています。
 『たんぽぽ娘』自体も、甘酸っぱくていい作品なのですが、この作品を収録したアンソロジー『奇妙なはなし』がまた、すごく良いアンソロジーです。収録作品を挙げておきましょう。

『ミリアム』トルーマン・カポーティ
『足あと』カレル・チャペック
『魔物』中山義秀
『過去への電話』福島正実
『たんぽぽ娘』ロバート・F・ヤング
『沼』芥川龍之介
『人面疽』谷崎潤一郎
『死人の村』ラドヤード・キップリング
『蛇』夏目漱石
『エル・ドラドオ』香山滋
『時間をかけた料理』津山紘一
『猫町紀行』つげ義春
『簟笥』半村良
『防空壕』江戸川乱歩
『沼のほとり』豊島与志雄
『セメント樽の中の手紙』葉山嘉樹
『穴の底』伊藤人誉
『花妖記』渋澤龍彦
『空中』夢野久作

 いわゆる「奇妙な味」を集めた作品集です。どれも面白かったのですが、なかで僕がいちばん惹かれたのが、津山紘一『時間をかけた料理』。津山紘一は1970年代終わりから80年代初め頃に活躍していた作家ですが、今となっては忘れられてしまっているようです。正直、とびぬけた作品はないように思うのですが、『時間をかけた料理』が収録された連作短編集『時のない国 その他の国』だけは、傑作だと思います。変わり者の夫婦が、これまた奇妙な国ばかりを旅してゆくという物語です。童話風の雰囲気を持ちながら、時折強烈なナンセンスの見られる、変わったロード・ノベルです。
 『奇妙なはなし』も復刊されて、『時のない国 その他の国』も復刊!されるといいのですが、なかなか難しいでしょうね。

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怪作の悦び  会津信吾/藤元直樹編『怪樹の腕』
4488013066怪樹の腕 (〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選)
会津 信吾
東京創元社 2013-02-27

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 20世紀前半にアメリカで一世を風靡したパルプマガジン、その中でも怪奇小説専門誌として、今でも語り継がれる雑誌『ウィアード・テールズ』。日本でも1970年代ごろから、アンソロジーの翻訳などで、たびたび紹介されてきました。
 しかし、数あるアンソロジーの中でも、この『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』(会津信吾/藤元直樹編 東京創元社)は、一味違います。
 新訳ではなく、戦前の翻訳を集めたアンソロジーなのです。つまり、ほぼリアルタイム、同時代に読まれた翻訳を集めようというコンセプトです。歴史資料的な意味合いもありますが、何より編者が戦前訳にこだわったのは「イカガワシさ」。このあたりの事情を序文から引かせてもらいましょう。

 戦前の〈ウィアード・テールズ〉邦訳は、現在までに三十七編が確認されているが、その約半数にあたる十八編が舞台を日本に置き換えたり、主要登場人物の性別を入れ替えるなど、原作に何らかのアレンジを加えた「翻案」作品なのである。その目的は創作に見せかけるためだったり、恐怖感を高めるための読者サービスだったりとさまざまだが、結果として只でさえB級テイスト濃厚な原作が、翻案というフィルターを経由することによって、さらに奇怪さ、イカガワシさがアップすることになった。こうした原作からの逸脱を「著作権意識がユルかった時代ならではの創意」として積極的に評価し、楽しもうというのが本書の狙いのひとつである。

 上記の文章にもありますが、翻訳だけでなく、舞台を日本に置き換えた改作、いわゆる「翻案」作品も収録しているのがユニークなところです。翻訳の正確さが問われる現代において、ゲテモノ視されかねない翻案を積極的に取り上げているのにも、好感が持てますね。
 さて、収録作品を紹介しておきましょう。

『深夜の自動車』アーチー・ビンズ/妹尾韶夫訳
『第三の拇(ぼ)指紋』モーティマー・リヴィタン/延原謙訳
『寄生手(きせいしゅ)─バーンストラム博士の日記─』R・アンソニー/栄訳
『蝙蝠鐘楼(こうもりしょうろう)』オーガスト・ダーレス/妹尾アキ夫訳
『漂流者の手記』フランク・ベルナップ・ロング/訳者不明
『白手(しろて)の黒奴(くろんぼ)』エリ・コルター/訳者不明
『離魂術(りこんじゅつ)』ポール・S・パワーズ/甲賀三郎翻案
『納骨堂に』ヴィクター・ローワン/大関花子訳
『悪魔の床(とこ)』ジェラルド・ディーン/大関花子訳
『片手片足の無い骸骨』H・トムソン・リッチ/大関花子訳
『死霊』ラウル・ルノアール/安田専一訳
『河岸(かし)の怪人』ヘンリー・W・ホワイトヒル/辺見素雄翻案
『足枷の花嫁』スチュワート・ヴァン・ダー・ヴィア/内海雄翻案
『蟹人(かにおとこ)』ロメオ・プール/大川清一郎翻案
『死人の唇』W・J・スタンパー/訳者不明
『博士(はくし)を拾ふ』シーウェル・ピースリー・ライト/大川清一郎翻案
『アフリカの恐怖』W・チズウェル・コリンズ/小幡昌甫翻案
『洞窟の妖魔』パウル・S・パワーズ/小幡昌甫翻案
『怪樹(かいじゅ)の腕』R・G・マクレディ/小幡昌甫翻案
『執念』H・トンプソン・リッチ/妹尾アキ夫訳
『黒いカーテン』C・フランクリン・ミラー/妹尾アキ夫訳
『成層圏の秘密』ラルフ・ミルン・ファーリー/妹尾アキ夫訳

 無名作家のオンパレード! 怪奇小説アンソロジーで見たことのある名前も見えますが、一般に名の通った作家といえば、オーガスト・ダーレスぐらいじゃないでしょうか。
 この本の編集方針から想像がつくとは思いますが、正直な話「傑作」は皆無です。いわゆるB級作品、他愛のない怪奇小説が大部分です。ただ、現代では書けないような、その単純さ、臆面のなさという点で、逆に今読んでも面白い作品が多く含まれています。
 また、特筆したいのは、それぞれの作品についての解説が非常に充実しているところです。作家だけでなく、訳者やその背景事情についても丁寧に解説してくれますし、翻案作品に関しては、原著からの変更点、別の訳者による翻訳がある場合は、それとの相違点まで語るという念の入れようです。
 収録作品に関しては、読んでもらうのに如くはないのですが、あえて面白かった作品をあげると、H・G・ウェルズ風の『離魂術』(ポール・S・パワーズ)、陰惨な復讐物語『片手片足の無い骸骨』(H・トムソン・リッチ)、アフリカを舞台にしたサイコ・スリラー『黒いカーテン』(C・フランクリン・ミラー)あたりでしょうか。
 B級作品について、懇切丁寧、まじめに取り組んだ「研究書」としての面と、とにかく面白い作品を集めた「アンソロジー」と、両面を持つ、非常にお得かつ楽しい作品集です。

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3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
発売中 J・K・バングズ『ラッフルズ・ホームズの冒険』(論創社 2100円)
発売中 ナサニエル・ホーソーン『ラパチーニの娘』(松柏社 1785円)
3月6日刊 西崎憲編『短篇小説日和 英国異色作家傑作集』(ちくま文庫 予価1050円)
3月上旬刊 R・A・ラファティ『蛇の卵』(青心社 予価1890円)
3月15日刊 フョードル・ソログープ『かくれんぼ・毒の園 他五篇』(岩波文庫 693円)
3月20日刊 『ナイトランド 5号』(トライデントハウス 1700円)
3月25日刊 ホルヘ・ルイス・ボルヘス編『新編バベルの図書館 第3巻』(国書刊行会 予価6825円)

 もう発売になっているようですが、J・K・バングズの作品が論創社より出ました。J・K・バングズは、20世紀初頭に活躍したアメリカのユーモア作家。日本では、ポケミスの『幻想と怪奇』に収録されたユーモア怪談『ハロウビー館のぬれごと』、風間賢二編『クリスマス・ファンタジー』収録の『サーロウ氏のクリスマス・ストーリー』などが知られているでしょうか。
 今回の作品集は、ホームズのパスティーシュ集といった感じのもののようですが、この作家の邦訳を待っていた者としては、うれしい驚きです。
 西崎憲編『短篇小説日和 英国異色作家傑作集』は、以前単行本で出た『英国短篇小説の愉しみ』(全3巻)の再編集版ですが、新規収録作品もあるようです。
 ホラー専門誌『ナイトランド』は、順調に出ているようで嬉しいですね。5号の特集は「サイバーパンク・SF/ホラー」だそうです。4号までの特集が、非常に伝統的なテーマだったので、オーソドックスなテーマからはみだしつつあるところに、今後さらに期待していきたいです。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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