厭な話4題
 先日発売されたアンソロジー『厭な物語』(文春文庫)を読みました。読後感の悪い物語を集めたという、異色のアンソロジーです。千街晶之さんの解説に、最近後味の悪い作品も増えてきたとあり、そういえば、このところ読んだ本も後味の悪い作品が多かったな、と考えてしまいました。
 そこで、このところ読んだ「後味の悪い作品」を中心に、作品を紹介したいと思います。


4167812150厭な物語 (文春文庫)
アガサ クリスティー モーリス ルヴェル ジョー・R. ランズデール シャーリイ ジャクスン パトリシア ハイスミス Agatha Christie
文藝春秋 2013-02-08

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 正直、収録作品は読んだことのある作品が多かったのですが、アンソロジーとして、非常によくできた作品集だと思います。いちばん感銘を受けたのは、ウラジーミル・ソローキン。ぶっとんだ作家だとは聞いていたのですが、作品を読むのは初めて。これは他の作品も読んでみたいですね。
 掌編ながら、ものすごく技巧的なのが、リチャード・クリスチャン・マシスンの『赤』という作品。再読ながら、やはり名作だと感じ入ったのが、シャーリィ・ジャクスン『くじ』とフレドリック・ブラウン『うしろをみるな』
 もし初読の作品ばかりだったら、ものすごいインパクトを受けたと思います。



41678121421922 (文春文庫)
スティーヴン キング Stephen King
文藝春秋 2013-01-04

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 キングが徹底的に救いのない話を書いたという中編集『星もなく深い闇』の前半部分を収めた作品集です。
 土地をめぐる諍いの末、妻を殺した父と子を描く『1922』、伝統的な「悪魔との契約」テーマのキング風変奏『公正な取引』が収録されています。
 どちらの作品も、不幸に陥る登場人物たちが、とりたてて悪人ではないところが、またやりきれなさを感じさせます。『公正な取引』にいたっては、善人の家族がどんどん不幸になっていくという不条理さ。



4061828622404 Not Found (講談社ノベルス)
法条 遥
講談社 2013-02-07

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 タイムトラベルの新機軸『リライト』が話題になった、法条遥の最新作のテーマは、「ループもの」!
 強迫観念にかられ、飛び降り自殺した主人公が眼を覚ますと、自室のベッドの上でした。しかも、意識が飛ぶたびに、時間が戻っているのです。しかもその戻り方は一様ではありません…。
 「ループもの」であることは、序盤から明示されていますし、その原因も途中で勘のいい人は気づくと思います。ただそれがわかってからの展開がすごい。『リライト』でもそうでしたが、自分が「世界の中心」ではないと気づいた人間はどういう行動をとるのか? ゆがんだ人間を描かせると、非常に上手い作家です。



4103014733リカーシブル
米澤 穂信
新潮社 2013-01-22

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 父が失踪し、義理の母親と弟とともに故郷へやってきたハルカ。予知としか思えない能力を発揮する弟サトルに対し違和感を抱くハルカは、奇しくも、予言能力を持っていたという「タマナヒメ」の伝説が、街に伝わることを知り、独自に調査を始めます…。
 転生を繰り返すという「タマナヒメ」をメインテーマに、思春期の少女と、その義理の家族の関係を描いた青春小説的な作品です。
 「タマナヒメ」に関する部分は、SFもしくはホラー的な味付けなのですが、その謎を追っていく骨格部分は、あくまでミステリになっています。主人公への突き放し方がかなりきつく、そういう意味で『ボトルネック』を想起させるところもあります。「ほろ苦い」というよりも「苦い」作品だと言っていいかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2月の気になる新刊
2月7日刊 アーシュラ・K・ル=グウィン『コンパス・ローズ』(ちくま文庫 予価998円)
2月7日刊 澁澤龍彦訳『幻想怪奇短篇集』 (河出文庫 予価998円)
2月8日刊 文藝春秋編集部編『厭な物語』 (文藝文庫 予価690円)
2月15日刊 ミハイル・アイヴァス『もうひとつの街』(河出書房新社 予価1995円)
2月21日刊 日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50 Ⅰ』 (ハヤカワ文庫 予価840円)
2月22日刊 菊地章太『妖怪たちのラビリンス 西洋異界案内』(角川書店 予価1785円)
2月27日刊 会津信吾・藤元直樹編『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉 戦前邦訳傑作選』 (東京創元社 予価2940円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『跡形なく沈む』(創元推理文庫 予価1155円)
2月27日刊 フィリップ・K・ディック『空間亀裂』(創元推理文庫 予価1029円)

 『幻想怪奇短篇集』は、澁澤龍彦が訳したフランス作品を集めた短編集。長らく絶版だったアンリ・トロワイヤのブラック・ユーモア怪談集『共同墓地』(ふらんす怪談)が収録というのが売りです。面白くて、かつ非常に洒落た作品集なので、オススメです。以前に書いたレビューはこちら
 後味の悪い短編を集めたという、変わったコンセプトのアンソロジーが『厭な物語』。文春文庫から以前に出ていたアンソロジーの系譜に連なるものでしょうか。あのシリーズのなかでは、奇妙な味の作品を集めた『奇妙なはなし』なんて、すごく面白い作品集でした。
 怪奇小説ファンとしては、期待大なのが、『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉 戦前邦訳傑作選』 です。怪奇小説専門のパルプマガジン〈ウィアード・テールズ〉の、ほぼ同時代の邦訳を集めたというのは、着眼点がいいですよね。


プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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