11月の気になる新刊
11月7日刊 東雅夫編『世界幻想文学大全1 幻想文学入門』(ちくま文庫 予価861円)
11月7日刊 東雅夫編『世界幻想文学大全2 怪奇小説精華』(ちくま文庫 予価1260円)
11月7日刊 スティーブ・ジョーンズ『罪と罰のロンドン』(ちくま文庫 予価1050円)
11月7日刊 須永朝彦編訳『江戸奇談怪談集』(ちくま学芸文庫 予価1785円)
11月21日刊 アイナール・トゥルコウスキィ『おそろし山』(河出書房新社 予価1995円)
11月29日刊 ケイト・アトキンソン『世界が終わるわけではなく』(東京創元社 予価2205円)
11月刊 エリザベス・ボウエン『ボウエン幻想短篇集』(国書刊行会 予価2940円)

 11月のちくま文庫は、幻想文学づいていますね。何といっても東雅夫編の≪世界幻想文学大全≫が素晴らしい企画。『幻想文学入門』は、幻想文学論やエッセイを集めたもの。『怪奇小説精華』は、「時代を超えたベスト・オブ・ベスト」のアンソロジーだそうです。収録内容は、ルキアノス、デフォー、ホフマン、ゴーチエ、ゴーゴリ…とありますが、もしかして超有名作ばかりでしょうか?コレクターズ・アイテム的な短編が収録されることを期待しています。
 『まっくら、奇妙にしずか』『月の花』と、細密な画風で驚かせてくれたトゥルコウスキィの邦訳第3弾『おそろし山』が登場です。
 短編ファンとしては、「奇妙な味」の短編集だという、ケイト・アトキンソン『世界が終わるわけではなく』と、短編の名手エリザベス・ボウエンの幻想作品を集めた『ボウエン幻想短篇集』が要チェックですね。
短編小説好きに勧める、最近のマンガ短編集

4091885942路地裏第一区 ―ムライ作品集― (IKKI COMIX)
ムライ
小学館 2012-07-30

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 丸焼きの鳥や電球の頭を持つ男など、ダリやマグリットを思わせる、ちょっと不気味なテイストの登場人物たちが繰り広げるシュールなストーリー。独特の世界観をもっています。詳しい説明や描写がないだけに、読者を選ぶところはありますが、はまる人は、はまると思います。アート系の細密な画風も魅力的です。
 


4091237355とよ田みのる短編集 CATCH&THROW (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
とよ田 みのる
小学館 2012-05-11

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 最近メジャーになりつつある作者の短編集です。人間の優しさ、不器用さなどをある種ベタなまでに描く、ヒューマンストーリーが持ち味です。
 収録作品はどれも水準以上の出来ですが、メデューサの子孫が、ペルセウスの子孫に恋してしまうという『素敵な面倒さん』、孤独な少女が呼び出した魔物が現実を侵食するという『ヒカルちゃん』などが特に魅力的。
 長編作品としては、子ども時代に戻り、制限時間内に友達を100人作らないと地球が滅亡してしまうという『友達100人できるかな』(講談社)、呪いのために不幸を呼び寄せてしまう少女と妖怪たちとのふれあいを描く『タケヲちゃん物怪録』も面白い作品です。



4047284084九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)
九井諒子
エンターブレイン 2012-10-15

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 竜や人魚など架空の生物をテーマにした、ファンタジー短編集です。
 少年と人魚との出会いを描く『人魚禁猟区』、環境汚染で棲家を追われてしまった山の神を家に連れ帰った少女の物語『わたしのかみさま』、狼男症候群にかかった少年と母親とのやりとりを描く『狼は嘘をつかない』、王の病を治すための竜の鱗を求める王子と道案内の女の物語『竜のかわいい七つの子』など、バラエティー豊かで飽きさせません。



425321715X空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)
阿部 共実
秋田書店 2012-03-08

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 今回イチオシなのがこの作品です。主に10代の少女を主人公にしたオムニバス・ストーリーになっています。かわいい絵柄、各話短いページ数でありながら、与えるインパクトは強烈です。
 素直でないこと、普通でないことに悩む少女の心の揺らぎを描いたり、大人になりきれない痛々しさを表現する、ある種オーソドックスな青春ストーリーから、狂気を描くサイコサスペンス、不条理なホラーまで、各エピソードのバラエティ、幅の広さが尋常ではありません。しかも、それをごく短いページ数でやっているところに、才能を感じさせますね。
 微笑ましいエンドもあれば、まったく救いのない結末もあり、読み終わるまでどんな話に転ぶかわからないところも魅力的です。
武宮閣之さんのこと
 先日、書棚の整理をしていた際に、つい『ミステリマガジン』のバックナンバーを拾い読みしてしまいました。その中にあったのが、1992年の8月号。
 この号、『ミステリマガジン』毎年恒例の「幻想と怪奇」特集なのですが、1992年度のタイトルは「新しい日本の恐怖小説」として、日本作家の恐怖小説を集めた特集でした。
 ほぼリアルタイムで買った号です。ただ、掲載作が日本作家の作品ばかりなので、その当時は海外作家一辺倒だったこともあり、おそらく(記憶は定かではないのですが)目を通していない号です。
 目次を見てみると、武宮閣之さんの作品『十七番目の羅漢』が載っています。僕はこの人の作品のファンなのです。以前にも2回ほど、このブログで紹介しています。

 無限公園  武宮閣之『魔の四角形』
 失われた目を求めて  埋もれた短編発掘その24 武宮閣之『月光眼球天体説』

 児童文学として出版された『魔の四角形』(文溪堂)を除けば、『ミステリマガジン』にいくつか掲載された短編しか、公に発表されたものはないようです。この方、今はどうされているんだろう?と思って、ふと検索してみると、今年度のやまなし文学賞の受賞者として名前が挙がっていました(朝田武史(あさだたけし)名義「祝人伝」(ほいとでん))。筆を折ったのかと思っていましたが、ずっと書き続けていたんですね。
 インタビューを読むと、幻想小説の執筆にも意欲をお持ちのようで、また新作短編が読めるかもしれないと思うと嬉しいです。
 『月光眼球天体説』とか『緑砂花園』(どちらも『ミステリマガジン』掲載の短編です)などは、将来的にアンソロジーで発掘され、アンソロジー・ピースになる可能性を秘めた作品だと思いますが、現役作家としてまだまだ活躍してくれるなら、もちろんその方が嬉しいです。
 とりあえず、これを機会に『ミステリマガジン』に発表された短編をまとめて単行本化していただきたいですね。
 さて、ついでに『十七番目の羅漢』の紹介をしておきましょう。
 ふと、職場を離れて、自分でもわからないまま京都へやってきた男。幸福だった学生時代を過ごした町だからだろうか。サラリーマン生活に疲れた男は、そんなことを考えながら歩きつづけます。そぞろ歩きを続けた男が見つけたのは、とある寺でした。
 数年前に、パフォーマンスを見に訪れたことのある場所だと気づきますが、今日は人気がありません。庭を眺めていた男の前に、突如半裸の男が現れ、奇妙な舞踏を始めます。そしてその半裸の男は、男と全く同じ顔をしていたのです…。
 静寂そのものの寺に現れた奇妙な現象。半裸の男は、男の心の表れなのか? スティーヴンソンの『マーカイム』を思わせる、妙に心に残る作品です。
 これは、今読んでこそ味のわかる作品かもしれません。リアルタイムで買った学生時代には、わからなかったかも。
見えない眼  暗闇をめぐる物語
おろち 1 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 4) 暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫) この闇と光 (角川文庫) 夜が明けたら (ハルキ文庫) 閉じた本 (創元推理文庫) トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫) 老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
 恐怖漫画の巨匠、楳図かずおに『おろち』(小学館ほか)という作品があります。謎の少女「おろち」を語り手に設定したオムニバス・ストーリーです。
 全体のトーンとしては、人間の不思議さ、業の深さを描く、といった感じの作品なのですが、このシリーズの一編に『眼』と題された作品があります。
 主人公の少女は生まれつき目が視えません。ある日、自宅に男が助けを求めて飛び込んできますが、男は後から来た男に殺害されてしまいます。
 殺人容疑で、少女の父親は逮捕されます。犯人が落とした身分証明書を見つけた少女は、仲の良い少年と協力し、犯人を見つけようと考えます。
 一方、犯人は身分証を落としてきたことに気づき、少女の家に現れます…。
 主人公の目が視えないのをいいことに、殺人犯が堂々と家に入ってきたりと、サスペンスたっぷりな作品なのですが、この作品を読んでいて思い出したのが、乙一の『暗いところで待ち合わせ』(幻冬舎文庫)でした。
 乙一作品では侵入してくるのが、悪人ではなく、善人の青年なのですが、どちらにせよ、目の見えない中で他人が侵入してくるというのは、惹きつけるものがあるテーマですね。
 視覚がない人間を主人公にした作品といえば、古くはアーネスト・ブラマの探偵マックス・カラドス、あとはベイナード・ケンドリック『指はよく見る』の探偵などがあります。これらの場合、ハンデがあるというよりは、視覚を失った代わりに、荒唐無稽なほど超人的な能力を身に着けてしまっているという点で、あまりリアリティがありません。
 逆にリアリティのなさを逆手にとって、メルヘン風の雰囲気を醸成するのに成功しているのが、服部まゆみ『この闇と光』(角川文庫)。母親を亡くし、視力を失った主人公の王女が囚われの生活を送るという密室劇です。
 ギルバート・アデア『閉じた本』(創元推理文庫)では、主人公の作家は、事故で視力を失ってしまいます。助手の青年によって与えられる情報で、作家は世界像を形成するのですが、その情報がもし歪んでいたとしたら…というサスペンス作品。
 ピーター・シェーファー『ブラック・コメディ』(構想社)は、アパートのヒューズが飛んでしまい、暗闇になってしまったという設定で演じられる舞台劇。暗闇の時には、舞台は明るくなり、逆に明るくなったときに舞台が暗くなるという演出になっているそうで、実に皮肉が利いています。
 流星を見た人類の大部分が盲目になり、その隙に食人植物トリフィドに襲われてしまうというのが、ジョン・ウィンダムの破滅SF『トリフィド時代』(創元SF文庫)。
 小松左京『夜が明けたら』『夜が明けたら』ハルキ文庫収録)では、地球の自転が停止したため夜が数ヶ月も明けなくなってしまった世界を舞台にしたパニックSF作品。さらに不条理なのが、ベンセスラオ・フェルナンデス・フローレス『暗闇』(東谷穎人編『スペイン幻想小説傑作集』収録)。世界全体が暗闇に包まれてしまったら…という不条理恐怖小説。かなり怖い作品です。
 小川一水のユニークな迷宮物語『ギャルナフカの迷宮』『老ヴォールの惑星』ハヤカワ文庫収録)では、主人公は反逆罪で、地下迷宮に落とされてしまいます。薄暗い迷宮の中で、生き延びるための最低限の食料のみが与えられます。混沌の支配する迷宮のなかで、主人公は社会をまとめようと考えます。
 視覚に限らず、五感が制限される…という状況はサスペンスを高めます。ただ五感の中でもとくに視覚が働かない、という状況は飛びぬけてリスキーなため、物語を語る際の強力な原動力になるのだと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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