懐かしのテイスト 山口雅也責任編集『ミステリマガジン 2012年10月号』
B008WI16LYミステリマガジン 2012年 10月号 [雑誌]
早川書房 2012-08-25

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 『ミステリマガジン 2012年10月号』は、『ヤマグチ マサヤズ ミステリ マガジン』として、一冊まるごと山口雅也さんの個人編集という、面白い特集号となっています。
 山口雅也さんの好みを反映した短編作品、エッセイなどが掲載されているのはもちろんですが、レイアウトやデザインなど、細かい部分が非常に凝った作りになっているのに感心させられます。
 表紙のイラストは、かっての『EQMM』(エラリイ クイーンズ ミステリ マガジン)を模したデザイン、各短編の扉のカットやデザインも当時を彷彿とさせるものになっています。そして巻頭の山口雅也さんの写真、これも当時の雰囲気を再現するために、わざと粗く印刷しています(印刷では「出力線数」というものがあり、この線数を低くすると、写真が粗くなります)。これには驚きました。
 そして、特集の最後には架空の『次号予告』まで! しかもその中にマイクル・クライトン『世界最強の仕立屋』のタイトルがあります! 以前このブログでも内容を紹介していますが(http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-137.html)、個人的に大好きな作品なのです。山口雅也さんもこの作品を評価しているのがわかって、うれしいです。
 さて、内容の方を紹介しておきましょう。

『目撃』スティーヴン・バー 各務三郎/訳
『白柱荘の殺人』G・K・チェスタートン 村崎敏郎/訳
『1ドル98セント』アーサー・ポージス 伊藤典夫/訳
『町みなが眠ったなかで』レイ・ブラッドベリ 都筑道夫/訳
『では、ここで懐かしい原型を……』ロバート・シェクリイ 伊藤典夫/訳
『殺人生中継』ピエール・シニアック 末継昌代/訳
『退化した人たち』チャールズ・アダムス 山口雅也/訳
『ストーリー展開について』ジョン・ディクスン・カー 森 英俊/訳
帰ってきた『ミステリーDISCを聴こう』 山口雅也
編集ノート/次号予告 山口雅也

 チェスタートン、カーはともかく、ポージス、シェクリィなど、厳密にはミステリとはいえないものが多く掲載されています。また、再録作品が多いので、オールドファンには物足りなく思える面もあるでしょうが、とにかく読んでいて感じる楽しさは格別です。
 小説の中では、スティーヴン・バーの怪奇作品『目撃』がいちばんのオススメ作。冒頭と結末がループする展開は実に見事です。掲載誌も掲載アンソロジーも入手難になっているので、貴重な作品ですね。
 アーサー・ポージスのファンタジー、シェクリイのパロディ作品、そしてチャールズ・アダムスのノンシリーズの漫画を集めた『退化した人たち』も実に楽しい。
 僕は以前『ミステリマガジン』のバックナンバーを集めていました。近年こそ、興味のある特集号のときしか購入しなくなりましたが、『EQMM』創刊号から『ミステリマガジン』の600号あたりまでは、ほぼ全号読んでいるはずです。
 それだけの号に目を通してみると、同じ雑誌とはいえ、時代ごとに特徴があるのに気がつきます。とくに1960年代後半から1970年代後半ごろの『ミステリマガジン』は、狭義のミステリだけでなく、いろんなジャンルの小説を載せていて、たいへんに面白い雑誌になっていました。
 毎年恒例になっている≪幻想と怪奇≫特集の号でもないのに、ホラー作品が載っていたり、ヒロイック・ファンタジーが載っていたり、冒険小説が載っていたり、ユーモア小説が載っていたりと、多様なジャンルの作品が載っていました。「フィーリング小説」として、ジャンル分けできないような作品も載ってましたっけ。とにかく、この時期の『ミステリマガジン』は、「ごった煮」的な魅力のある雑誌でした。
 今号の『ミステリマガジン』は、そうした過去の号の楽しさを思い出せてくれる特集でした。過去にこの雑誌を読んでいたことのある読者にとっては、たまらない魅力のある特集号ではないでしょうか。また、若い読者にも、かっての『ミステリマガジン』の楽しさを知ってもらう(最近の『ミステリマガジン』がつまらないというわけではありませんが)という意味でも、面白い特集でした
 ひじょうに楽しい特集だったので、ぜひ、またやっていただきたいですね。また個人が責任編集を行うというスタイルも、ほかの作家や翻訳家の方を迎えてやってみてほしいと思います。
9月の気になる新刊
9月5日刊 エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』(河出文庫 予価998円)
9月6日刊 レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金(きん)の林檎 新装版』(ハヤカワ文庫SF 予価987円)
9月6日刊 レイ・ブラッドベリ『瞬きよりも速く 新装版』(ハヤカワ文庫SF 予価1029円
9月11日刊 ロザムンド・ラプトン『シスター』(河出書房新社 予価2100円)
9月12日刊 ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』(光文社古典新訳文庫)
9月14日刊 オノレ・ド・バルザック『サラジーヌ 他三篇』(岩波文庫 693円)
9月18日刊 山川方夫『歪んだ窓 ふしぎ文学館』(出版芸術社 1575円)
9月20日刊 ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』(早川書房 予価2310円)
9月20日刊 R・A・ラファティ『昔には帰れない』(ハヤカワ文庫SF 予価777円)
9月21日刊 ウィリアム・ピーター・ブラッティ『ディミター』(創元推理文庫 予価1155円)

東京創元社 2012年復刊フェアより(9月下旬)
エラリー・クイーン編『犯罪は詩人の楽しみ』
アントニイ・バークリー『試行錯誤』
A・E・ヴァン・ヴォークト『終点:大宇宙!』
フレドリック・ブラウン編『SFカーニバル』

 ≪奇想コレクション≫より、エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』が文庫化です。増補作品も3編ほどあるそうなので、旧版を持っている方も買いですね。
 出版芸術社の≪ふしぎ文学館≫のひさしぶりの新刊は、ショート・ショートの名手、山川方夫の『歪んだ窓』。収録予定の『親しい友人たち』は、かって『ヒッチコック・マガジン』に連載された、軽妙なショート・ショートです。
 早川書房からは、ラファティの短編集『昔には帰れない』が登場です。『SFマガジン』に訳載されたきり、単行本未収録の作品がかなりあったと思うので、もう1冊ぐらいは出せそうですね。
 今年の創元社の文庫復刊フェアからは、上記の4冊がオススメでしょうか。クイーン編『犯罪は詩人の楽しみ』は、英語圏の文豪のミステリ的作品を集めたアンソロジーです。日本で言うところの『文豪ミステリ傑作集』みたいなものですね。フレドリック・ブラウン編『SFカーニバル』は、長らくSFの初心者向けのアンソロジーとされていた名アンソロジーです。編者がブラウンだけに、軽妙でしゃれた作品が集められています。収録作家は、ロバート・アーサー、マレイ・ラインスター、エリック・フランク・ラッセル、マック・レナルズ、ネルスン・S・ボンドなど。未読の方はこの機会にぜひ。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ラボチェッタの密かな愉しみ
二十世紀イリュストレ大全〈1〉ロマンティックドリーム―少女まんがのルーツをもとめて ブックス・ビューティフル〈1〉―絵のある本の歴史 (ちくま文庫) 図像探偵―眼で解く推理博覧会 (光文社文庫)
 翻訳家の中村融さんのブログ≪SFスキャナー・ダークリー≫を見ていたら、雑誌『銀河』の1975年11月増大号のことが紹介されていました。
 30年近く探していた、との言葉が見えますが、確かにこの雑誌、古書店でもめったに見かけません。僕も30年とまではいきませんが、20年ぐらいは探していた末に入手しました。
 『銀河』のこの号は、ファンタジーの小説作品とイラストレーションの特集号でした。ブラッドベリ、デイヴィス・グラッブ、ヴォネガット・ジュニアをはじめとして、海外と日本の小説作品が多く載っています。ただ、それよりも特筆したいのは「マリオ・ラボチェッタの世界」として、異色のイラストレーター、マリオ・ラボチェッタのイラスト作品が紹介されている点です。
 マリオ・ラボチェッタは、20世紀はじめに活躍したイタリア生まれの挿絵画家です。荒俣宏さんのお気に入り画家で、1970年代から、いろんな媒体でラボチェッタの魅力を語っておられましたが、当時としては、まとまって彼の作品を見ることができる本はほとんどありませんでした。僕は、ハヤカワFT文庫から出た『五つの壷』の挿画、月刊ペン社刊の≪妖精文庫≫の月報などで、ラボチェッタの作品に触れ、その魅力に囚われました。
 ラボチェッタの魅力は、まず、全体にみなぎる官能性でしょうか。人物はもちろん、画面内に登場する建物までもが、妙に艶かしいのです。そして色彩豊かなカラーリング。ぜひ、まとまった数の作品を見てみたいものだと考えていました。
 『銀河』にラボチェッタ作品の特集があると知り、古書店で探しましたが、全く見つかりません。年が経つうちに、ラボチェッタ作品を紹介した本もちらほら出てきました。荒俣宏『絵のある本の歴史』(平凡社→ちくま文庫)、同じく荒俣宏『図像探偵』(光文社文庫)、ラボチェッタの挿絵入り『ホフマン物語』(松居友訳 立風書房)など。
 結局『銀河』を入手したのは、探し始めて20年後ぐらいでした。現在でも、ラボチェッタ作品に触れられる本は多くはありませんが、入手がいちばん容易なのは、荒俣宏『二十世紀イリュストレ大全』(長崎出版)でしょう。
 今ではインターネットで容易に画像を見られますし、原書の入手自体も価格の面はさておき、随分手軽になりました。ただ、インターネットもなく、アクセスできる資料も少なかった当時、マリオ・ラボチェッタは、間違いなく僕にとって「幻の画家」だったのです。
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幻影の帝国  アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』
4309630014エステルハージ博士の事件簿 (ストレンジフィクション)
アヴラム・デイヴィッドスン 池 央耿
河出書房新社 2010-11-16

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 アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(池央耿訳 河出書房新社)は、東欧を思わせる架空の国、スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国を舞台に、エステルハージ博士が様々な事件に遭遇するという、連作短編集です。
 「事件簿」というタイトルから、ミステリ的な趣向を期待する読者もいると思いますが、そこはあまり期待しない方がいいかもしれません。
 毎回、探偵役のエステルハージ博士が、怪事件に遭遇するのですが、その事件は超自然的なこともあれば、そうでないこともある、といった具合。W・H・ホジスンの『幽霊探偵カーナッキ』あたりと近い感触でしょうか。
 ただ『カーナッキ』と違うのは、主人公のエステルハージ博士は、事件に対してそれほど積極的に動くわけではないところです。事件が勝手に推移して解決してしまう、それを眺めているだけ…というパターンもあります。
 数十年間も年をとらずに眠り続ける少女をめぐる『眠れる童女、ポリー・チャームズ』、「人熊」と暮らす老女の生涯の謎を解く、不思議な人情物語『熊と暮らす老女』、天才とも山師ともつかぬイギリス人の魔術師を描いた『イギリス人魔術師 ジョージー・ペンバートン・スミス卿』などが面白いです。
 どの短編も、読み終わるまで、どういう方向に転ぶのか予想できない面白さがありますね。SF的、もしくはオカルト的な解釈、場合によっては、何も超自然的な事件はなかった、などという場合もあります。
 個人的にはお気に入りの作品となりましたが、万人にオススメできる作品とはいえません。単純に、ストーリーが面白い、または「謎解き」が面白い、といった作品ではないからです。ストーリーは面白いのですが、変な方向にねじれていたり、起承転結がはっきりしていない短編もあったりするのです。
 そういう意味で、作りこまれた世界観、バラエティ豊かな事件、風変わりな登場人物たちを愉しむ作品といった方がいいでしょうか。ミステリ好きよりは、幻想小説好きに親和性の高い作品だと思います。

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幻想のプラハ  レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』
4336055173夜毎に石の橋の下で
レオ・ペルッツ 垂野創一郎
国書刊行会 2012-07-25

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 いつまでもこの世界に浸っていたい…。そう思わせられるような作品に出会ったのは久しぶりです。20世紀前半に活躍したオーストリアの作家レオ・ペルッツの『夜毎に石の橋の下で』(垂野創一郎訳 国書刊行会)は、ルドルフ2世統治下のプラハを舞台にした幻想歴史小説です。
 連作短編集の形をとっていますが、大枠としては、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世、ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスルとその美しい妻エステル、高徳のラビ・レーウらを巡る物語が中心となっています。
 いま「中心」とは言いましたが、これらの登場人物たちが、常時、表舞台に立ち、ストーリーを展開していくわけではありません。皇帝にせよマイスルにせよ、各エピソードに少しづつ現れる程度なのです。その合間に、芸人、貴族、錬金術師、道化、そしてケプラー、ヴァレンシュタインなど、実在の有名人物たちを含む登場人物たちが、様々な物語を繰り広げます。
 その意味で、決まった主人公がいるわけではありません。群像劇とでもいったらいいでしょうか。また、それぞれのエピソードは時系列的につながっているわけではなく、過去と現在、未来を行ったり来たりします。
 何事にも運のない男が処刑を宣告されるものの、魔術の効果で、一緒に牢屋に放り込まれた犬から話を聞くという『犬の会話』、妄想にとらわれた皇帝と臣下たちとのやり取りを描く『地獄から来たインドジフ』、宮廷錬金術師と彼を慕う道化との奇妙な友情物語『忘れられた錬金術師』などが印象に残ります。もちろんどのエピソードも、それ一編で一つの短編小説として完成されたものばかりです。
 ルドルフ2世、モルデカイ・マイスル、ラビ・レーウなどのメインとなる登場人物たちは、各エピソードに主役もしくは脇役として登場したり、伝聞的な形で情報が示されます。読み進むにつれて、読者の中に彼らの人物像が形成されていく仕組みです。
 そして結末に至り、冒頭の挿話の謎が解けるという、ミステリ的な興味も見逃せません。
 各短編の完成度もさることながら、一つの長編として読んだときの魅力はまた格別です。全体を通して、古き良き時代のプラハの空気が感じられるようです。
 これほどの作品が未訳だったとは、まさに驚き。幻想文学としてだけではなく、一般の文学作品としても一級の作品でしょう。広く読まれてほしい作品です。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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