7月の気になる新刊と『トンネル』のこと
7月5日刊 フィリップ・K・ディック『トータル・リコール』(ハヤカワ文庫SF 予価987円)
7月10日刊 由良君美『椿説泰西浪曼派文学談義』(平凡社ライブラリー 予価1785円)
7月10日刊 北村薫『謎の部屋 謎のギャラリー』(ちくま文庫 予価998円)
7月12日刊 フリードリヒ・デュレンマット『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』(光文社古典新訳文庫)
7月18日刊 金原瑞人編訳『南から来た男 ホラー短編集2』(岩波少年文庫 735円)
7月20日刊 レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』(国書刊行会 予価2730円)

 7月刊で気になるのは、光文社古典新訳文庫のデュレンマット傑作選と、ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』でしょうか。
 デュレンマットといえば、今回の傑作選の収録作品に『トンネル』が挙げられているのですが、この作品、長年読みたかった作品なんですよね。とはいいながら、ついこないだ既に読んでしまったんですが。
 というのも、今年出版された『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』に収録されているからです。
 この作品のあらすじを知ったのは、たぶん角川文庫から出ていた『短篇小説の快楽』というガイド本です。このガイドを読んだのが、おそらく1992年あたり。約20年も読みたいと思いながらも果たせなかった作品が、今年になって2冊も出る、というのも、妙なめぐり合わせです。
 長年ずっと読みたいと思っていたために、いろんな想像をめぐらして期待していた作品が、実際に読んでみたら、想像していたのと違って失望した、ということもあります。
 ただ、実際に読んでみた『トンネル』は、想像通り、というか、失望はしませんでした。あらすじを紹介すると興を殺いでしまいそうなので書きませんが、A・ノイズの『深夜特急』とか、フリオ・コルタサル『続いている公園』などに似た雰囲気の作品と言えばわかってもらえるでしょうか。
 とりえあず、今回の新訳で『トンネル』を読み比べてみたいと思います。
バラード短編強化月間
時の声 (創元SF文庫) 溺れた巨人 (創元SF文庫) 時間都市 (創元SF文庫) 永遠へのパスポート (創元推理文庫 629-7)
 最近続けて読んでいるのが、J・G・バラードの短篇集。雑誌やアンソロジーに訳載されたものは、ちょこちょこ読んでいたのですが、短編集単位で読んだのは、じつは『ウォー・フィーバー』(福武書店)のみ。
 『ウォー・フィーバー』は、面白く読んだ覚えがあるので、他の作品集も読んでみようと思い立ちました。積読の本の山を探してみたら、創元社の短篇集が5冊出てきました。というか、創元社から出ている短篇集は揃ってました。
 バラードと言えば、「ニューウェーブSF」の代名詞的存在。「難解」とか「意味がわからない」という評価もちらほら聞かれます。
 ですが、読んでいて思ったのは、意外にオーソドックスな作品が多いな、ということ。確かにシュールな設定や展開の話が多いのですが、今現在読むと、そこまで意味がわからなくはありません。現代の一部の純文学や、マジック・リアリズム作品だと言われれば、納得してしまうような感じです。
 あと、初期の作品には、センス・オブ・ワンダーの感じられる作品があったのも、意外な収穫でした。
 印象に残った短編を挙げてみると、以下のようなものになるでしょうか。

『音響清掃』(創元SF文庫『時の声』収録 )
『マンホール69』(創元SF文庫『時の声』収録)
『至福一兆』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『静かな暗殺者』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『最後の秒読み』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『九十九階の男』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『アルファ・ケンタウリへの十三人』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『逃がしどめ』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『ゴダード氏最後の世界』(創元SF文庫『時間の墓標』収録)
『溺れた巨人』(創元SF文庫『溺れた巨人』収録)

 『マンホール69』は、実験的に「睡眠」を奪い、一日中意識を保てるようになった男たちを描く作品です。覚醒し続ける男たちの意識の変容を描いているのですが、この展開が異様で、まるでホラー作品。
 『至福一兆』は、人口が増大した近未来が舞台、土地や家が極端に少なくなり、一定以上の広さの家に住むことが不可能になっています。ふとしたことから、アパートの隠れ部屋を見つけた主人公たちは…。
 よくあると言えば、よくあるテーマですが、バラードの手にかかると、妙な雰囲気の作品になりますね。
 『静かな暗殺者』は、かっての恋人の死を防ごうと、未来から暗殺者としてやってきた男が陥ったジレンマを描く作品。ずいぶん派手になりそうなテーマなのですが、終始淡々と話が進むのはバラードならではでしょうか。
 『最後の秒読み』、これが今回一番驚いた作品ですね。保険会社の社員である主人公は、上司への不満をノートにつづっていました。ある日ふと、上司が死ぬという記述を書き加えたところ、実際に上司が死を遂げてしまったのです。ノートに書き込んだ人物を殺す能力に気づいた主人公は、邪魔者を次々消していきますが…。
 これ、漫画『デスノート』にそっくりな設定なんですよね。主人公が傲慢でサイコパス的な人物なのもあって、かなり派手な作品になっています。
 『九十九階の男』は、わりとシンプルなクライム・サスペンス、『アルファ・ケンタウリへの十三人』は、「世代間宇宙船」に乗船した人間たちがどう行動するのかを確かめるため、地球上で宇宙船に似た施設を作る実験に参加した医師を描く作品。
 『逃がしどめ』テレビを眺めていた男は、突然同じ番組が繰り返されているのに気づきます。しかし妻は、そんなことはないと言い張ります。自分だけが短い時間のループに巻き込まれている気づいた男は、時間の繰り返しから脱出しようとしますが…。
 「タイム・ループ」ものです。解決があっさりしていますが、面白いですね。
 『溺れた巨人』浜辺に打ち上げられた巨人の死体を眺める人々。やがて彼らは浜辺を去って行きます…。「巨人の死体」という魅力的な題材を扱っていながらも、ただただ静かな情景が展開されていくという、異色の作品。バラードの魅力はこういうところにあるんでしょうね。

 短篇集単位で言うと、『時間都市』がいちばん物語性が強い作品が収められていて、異色短編好きには楽しめると思います。次に『時の声』『永遠へのパスポート』でしょうか。バラードを読みたいと思っている方には、上の順番で読んでみることをオススメしておきます。

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さよなら、ブラッドベリ
 レイ・ブラッドベリが亡くなったそうです。

 近年の作品にはあまり馴染めなかったものの、初期の作品に関しては、今でも素晴らしいものだと思っています。
 『火星年代記』『黒いカーニバル』『10月はたそがれの国』『刺青の男』…、ブラッドベリといえば、やはり短編です。
 『万華鏡』『骨』『霜と炎』『火の柱』『びっくり箱』『こびと』『群集』『二階の下宿人』『草原』『鉢の底の果物』『みずうみ』『棺』『ダドリィ・ストーンのすばらしい死』『泣き叫ぶ女の人』『歓迎と別離』『ほほえむ人々』、名短編の数々が思い浮かんできます。ミステリであろうとSFであろうと、普通小説であろうと、そこにはブラッドベリにしかない香気がありました。
 まともに小説を読み始めた15歳ごろ、ブラッドベリに出会ったのもその頃でした。感受性の強い若い時期に、ブラッドベリを読むことができたのは、幸運だったのでしょうか。
 テレビで放映されたオムニバス番組『レイ・ブラッドベリ・シアター』では、毎回始めに書斎のブラッドベリ本人の姿が映るのですが、初めて彼の姿を見たとき、イメージ通りの人物だなあと思ったものです。
 個人的には、作家そのものに思い入れをあまりしないタイプの読者だと思っていますが、さすがにブラッドベリの死には衝撃を受けました。
 素晴らしい作品の数々を贈ってくれたブラッドベリに感謝です。ご冥福をお祈りいたします。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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