最近読んだ本

4560047480マーティン・ドレスラーの夢
スティーヴン ミルハウザー Steven Millhauser
白水社 2002-07

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スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』(柴田元幸訳 白水社)
 小さな葉巻店の息子として生まれたマーティンは、持ち前の工夫とアイディアで、店を繁盛させていました。ホテルで働くようになった彼は、次々と多彩な才能を発揮し、昇進していきます。やがて富を得た彼は、自分の理想的なホテルを建てようと考えます…。
 ミルハウザーお得意の、天才的な芸術家が、自らの才能を発揮していく…というパターンの物語です。短編では「芸術」を扱ったものが多いのですが、この作品ではそれが「ビジネス」に置き換わっているのが特徴。ホテルの描写がとても魅力的です。



4560046514三つの小さな王国
スティーヴン ミルハウザー Steven Millhauser
白水社 1998-05

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スティーヴン・ミルハウザー『三つの小さな王国』(柴田元幸訳 白水社)
 手作りのアニメーションにこだわる男を描く『J・フランクリン・ペインの小さな王国』、王と王妃、王の親友である辺境伯との三角関係を描く寓話『王妃、小人、土牢』、天才画家の生涯を彼自身の絵画の描写で描く前衛的な作品『展覧会のカタログ ─エドマンド・ムーラッシュ(1810~46)の芸術』の三篇を収める作品集。
 どれも魅力的ですが、いろいろな物語の可能性を想像させてくれる『王妃、小人、土牢』が特にお気に入りですね。



4384040830怖るべき天才児
リンダ キルト ミヒャエル ゾーヴァ
三修社 2006-11

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リンダ・キルト『怖るべき天才児』(二宮千寿子訳 三修社)
 風変わりな才能や性質を持った子どもたちを描いた短篇集です。冒頭の『幼な子の口から』が、嘘をつくたびに口からヒキガエルが出てくるようになってしまった女の子を描く作品で、これは童話を現代風にアレンジしたものかと思いきや、次の『回想録』が、異様に忘れっぽい男を描く、奇妙な味の作品になっていたりと、バラエティにとんだ作品集になっています。
 収録作はどれも面白いのですが、自分の名前を目の前で口にすることによって、対面した人間を消してしまえる少年を描いた『蒸発』、生まれつき軽い体を持つ男の物語『存在の限りない軽さ』あたりが、シュールで楽しめます。



4150017913美しき罠 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ビル・S. バリンジャー 尾之上 浩司
早川書房 2006-09-15

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ビル・S・バリンジャー『美しき罠』(尾之上浩司訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
 正義感に溢れ、家族にも恵まれた刑事ラファティは、しかし場末のダンサー、ローズと出会い、彼女に惹かれていきます。ローズが求める生活を実現するための金を得るため、ラファティは、警官としての誇りを失っていきます…。
 かって知り合いだったラファティの変貌ぶりを知った語り手が、彼の人生をたどっていくという、いわゆる「巡礼」形式で描かれています。とくにミステリ的な要素はないものの、ラファティの人物像が興味深く、飽きさせずに読ませます。悲哀に満ちたクライム・ストーリー。



4488242057フランクを始末するには (創元推理文庫)
アントニー・マン 玉木 亨
東京創元社 2012-04-27

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アントニー・マン『フランクを始末するには』(玉木亨訳 創元推理文庫)
 あらすじ紹介にあがっている、相棒に赤ん坊が押し付けられた刑事の物語『マイロとおれ』は正直それほどでもないものの、全体にブラック・ユーモアにあふれた作品集で楽しめます。
 ペットの豚をかわいがる富豪の夫婦を描く『豚』、チェスの必勝法を見つけた男の皮肉な物語『プレストンの戦法』などが面白いです。異色短編好きには外せないでしょう。



4152092890リライト (Jコレクション)
法条 遥 usi
早川書房 2012-04-20

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404394490X地獄の門 (角川ホラー文庫)
法条 遥
角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-03-24

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法条遥『地獄の門』『リライト』
 デビュー作『バイロケーション』(角川ホラー文庫)が、かなり面白かったので、続けて読んでみましたが、どの作品も工夫が凝らしてあって愉しませてもらいました。ひさびさにちょっと追いかけてみたい作家ですね。
 『地獄の門』は、娘とともに殺された男が、復讐のために現世によみがえろうとする物語です。地獄のパートと、男の恋人が犯人を探す現世のパートとが、交互に描かれます。ファンタジーがかった設定ですが、ミステリ的な趣向が絡められており、結末のどんでん返しも楽しめます。
 『リライト』(早川書房)は、タイムトラベルを扱った作品。未来からやってきた少年と彼をめぐる少女を描く青春SFと見せかけて、とんでもなく暗い情念に満ちたダークファンタジー。
 どの作品もバッドエンドが激しいので、読み手を選びそうな気はしますが、ホラー系の作品が好きな方なら楽しめるかと思います。



4883793427睡沌氣候
コマツ シンヤ
青林工藝舎 2011-06-30

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コマツシンヤ『睡沌氣候(スイトンキコウ)』青林堂
 オブジェに満ちた異空間を舞台に、ファンタスティックな物語が繰り広げられるマンガ作品です。たむらしげる、あるいは稲垣足穂を思わせるような感性に満ちています。とにかくその心地よい世界観にずっとひたっていたいと思わせる魅力があります。
足穂好きにはオススメしたい作品です。



4063805697さらば、やさしいゆうづる (KCx(ITAN))
有永 イネ
講談社 2012-04-06

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有永イネ『さらば、やさしいゆうづる』(講談社 KCx(ITAN))
 新人漫画家による短篇集です。母親が蒸発し、誰も学ぶことを学べなかったという意識を持つ少女の心の揺らぎを描いた『さらば、やさしいゆうづる』、有能な双子の弟にコンプレックスを抱く姉を描く『なき顔のきみへ』などもいいのですが、巻頭に収録された『ひとつめは木曜になく』が大傑作!
 二人の少年はるかとじゅん。彼らには、特別な能力がありました。毎週木曜日にだけあるものが見えるのです。「ひとつめさん」。それは心が弱った人にとりつくものなのです。「ひとつめさん」は、とりたてて害のないものの、しかしそれは、とりついた人の情念をあらわすものだったのです。「ひとつめさん」のとりついた人を助けようとするはるかに対し、じゅんは「ひとつめさん」を忌避しますが…。
 マンガを描き始めてほんの数年程度だということですが、新人とは思えない筆力ですね。
5月の気になる新刊
5月9日刊 レイ・ブラッドベリ『お菓子の髑髏 ブラッドベリ初期ミステリ短篇集』(ちくま文庫 予価998円)
5月10日刊 ミステリー文学資料館編『「宝石」 一九五〇 牟家殺人事件』(光文社文庫)
5月10日刊 マシャード・ジ・アシス『ブラス・クーバスの死後の回想』(光文社古典新訳文庫)
5月12日刊 南川三治郎『推理作家の家 名作のうまれた書斎を訪ねて』(西村書店 予価2730円)
5月18日刊 鹿島茂『職業別 パリ風俗』(白水社予価3570円)
5月19日刊 ブレーズ・サンドラール『モラヴァジーヌの冒険』(河出書房新社 予価2940円)
5月28日刊 オラシオ・キローガ『野性の蜜 キローガ短篇集成』(国書刊行会 予価3570円)
5月下旬刊 レイ・ブラッドベリ/サム・ウェラー『ブラッドベリ、自作を語る』(晶文社 予価1995円)
5月刊 ヴェニアミン・カヴェーリン『二人のキャプテン』(郁朋社 3570円)

 ちくま文庫から出る予定のブラッドベリ短篇集は、以前徳間から出ていた『悪夢のカーニバル』が元本でしょうか。ブラッドベリが初期に発表したミステリ系の作品って、かなり色調が暗くてホラー寄りのものが多かったように覚えています。増補作品があるとうれしいですね。
 晶文社からは、ブラッドベリの自作についての本が出ます。以前に出た同著者サム・ウェラーのブラッドベリ伝記本は、正直作者を美化しすぎているような面があったのと、作品そのものについての記述がそんなに多くなかったので、今回の本には期待したいところです。
 国書刊行会のキローガ短篇集は5月刊行になったようです。
『セス・アイボリーの21日』と『霜と炎』
スターダストメモリーズ (幻冬舎コミックス漫画文庫 ほ 1-4) 2001夜物語 1 新装版 (双葉文庫 ほ 3-4 名作シリーズ) ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
 星野之宣といえば、諸星大二郎と並ぶSFコミックの巨匠です。諸星大二郎は以前からファンだったのですが、星野之宣に関しては、今まで読んだことがありませんでした。というのも、個人的にハードSFや宇宙ものが苦手なのですが、彼の著作のあらすじなどを見るにつけ、そういうジャンルの作品が多そうだな、と思っていたからです。
 最近ふとしたきっかけから、彼の短篇集を読んでみました。これが面白い! 読まず嫌いだったのを後悔しました。そんなわけで、続けて星野之宣の作品をいくつか読みました。『残像』『2001夜物語』『大いなる回帰』『妖女伝説』『スターダストメモリーズ』『はるかなる朝』『サーベルタイガー』など。もっぱら手に入りやすい文庫版作品集(全部短編か連作短編ですが)を集めて読みました。
 正直、ハードSF的な科学考証についてはさっぱりなのですが、とにかく作品のスケールが大きいのと、その詩情に惹かれました。なかでも気に入ったのが、人類の宇宙開拓を描く連作シリーズ『2001夜物語』と、これもまた連作の『スターダストメモリーズ』です。
 この中で一番印象に残った短編はと言えば、間違いなくこの一編『セス・アイボリーの21日』『スターダストメモリーズ』収録 幻冬舎コミックス漫画文庫ほか)でしょう。
 宇宙船に事故が起こり、とある惑星に不時着した女性、セス・アイボリー。彼女以外の乗組員は全て死亡してしまいます。事故前に送った救援信号が届いていれば、21日で救援が来るはずなのです。
 その惑星の植物の成長の早さに目をみはるセスでしたが、やがて恐ろしいことに気がつきます。植物の成長が早いのではなく、生物に及ぼす時間の影響が早いのです!気がつけば自分の体も老化しています。そのスピードは、2日間で約10歳ほど。
 このままでは、救援隊が来る21日後までに、老衰で死んでしまう。そこでセスがとった行動とは、自分のクローンを作ること。彼女の考えとはいったい何なのか…?
 自らの死が避けられなくなったとき、人は何を考え、何をすべきなのか。生きるとは何なのか? 短めの短編作品ながら、いろいろと考えさせる要素を持った作品です。
 『セス・アイボリーの21日』を読んで思い出したのは、レイ・ブラッドベリの『霜と炎』(大西尹明訳『ウは宇宙船のウ』 創元SF文庫収録)という作品です。設定が非常に似ているのです。同じく、時の流れが速く、生物がたちまち老いてしまうという惑星が舞台ですが、こちらでは、宇宙船である惑星に遭難した乗組員たちの子孫がすでに世代を重ねている、という設定です。第一世代の残したロケットの元にたどりつこうとする主人公と、それを邪魔する勢力の対決など、冒険小説的な要素もある作品でした。
 星野之宣が『霜と炎』を読んでいるのかどうかはわかりませんが、ブラッドベリ作品とは全く異なった味わいの作品になっています。読み比べてみると、同じ設定を使いながらも、哲学的なヒューマンドラマを生み出している星野作品に軍配が上がるでしょうか。
 どちらの作品も、一度読んだら忘れられないような作品ですので、気になった方はぜひ。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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