3月の気になる新刊
3月2日刊 山白朝子『エムブリヲ奇譚』(メディアファクトリー 予価1554円)
3月8日刊 デイヴィッド・ゴードン他『ミステリアス・ショーケース』 (ハヤカワ・ミステリ 予価1890円)
3月9日刊 クリスティン・マシューズ編『主婦に捧げる犯罪』 (RHブックス・プラス 予価998円)
3月15日刊 ミハイル・ゾーシチェンコ『俺の職歴』(群像社 予価1575円)
3月17日刊 東雅夫『文学の極意は怪談である 文豪怪談の世界』(筑摩書房 予価1890円)
3月中旬刊 エリス・パーカー・バトラー『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』(国書刊行会 予価2415円)
3月中旬予定 都筑道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか? 増補版』(フリースタイル 予価2100円)
3月23日刊 ジュディ・バドニッツ『居心地の悪い部屋』(角川書店 予価1890円)
3月下旬刊 エルヴェ・ド・サン=ドニ『夢の操縦法』(国書刊行会 予価3990円)
3月発売 《ナイトランド》 創刊号(トライデント・ハウス 予価1700円)

 短篇集『死者のための音楽』で幻想小説ファンを驚かせてくれた、山白朝子『エムブリヲ奇譚』が登場です。某有名作家のペンネームだとされていますが、このペンネームでは非常な寡作なので、もっとこの手のジャンルの作品を書いていただきたいですね。
 3月の一押しはこれでしょうか。群像社から刊行予定のミハイル・ゾーシチェンコ『俺の職歴』。ゾーシチェンコ(ゾシチェンコ)は、ロシアのユーモア作家。まとまった翻訳としては、1961年刊行の『世界ユーモア文学全集 第12巻』収録のいくつかの短編ぐらいでしょうか。僕はこの叢書でゾシチェンコの作品を読み、とても面白いなと思った記憶があります。浅倉久志さんがまとめていた≪ユーモア・スケッチ≫と似たような感じの作品を書く作家です。とりあえず、数十年ぶりに翻訳が出ること自体、慶賀すべきですね。
 澁澤龍彦の著書をはじめ、「夢」に関する本を読んでいると、たいてい出てくる名前として、エルヴェ・ド・サン=ドニの名前があります。欧米では古典となっている著作ですが、ようやく日本語訳『夢の操縦法』が登場です。「夢」に関心のある人は必読でしょう。
 ホラーの専門誌なんて、何年ぶりでしょうか。《ナイトランド》は、「幻視者のためのホラー&ダーク・ファンタジー専門誌」。創刊号の特集は「ラヴクラフトを継ぐ者たち」だそうです。目次予定を見る限り、かっての『幻想と怪奇』を髣髴とさせるような雰囲気ですね。これは期待したいです。
詳細については、こちらを参照願います。
欧米の怪奇小説をめぐって  フランスの怪奇小説 その1
怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫) フランス幻想小説傑作集 (白水Uブックス (71)) 45734.jpg 14.jpg e5805d6cde.jpg

 怪奇小説の本場といえば、イギリスとアメリカ。いわゆる英語国が突出しています。とはいえ、他の国にもその国独自の怪奇小説が存在します。その点で、フランスの怪奇小説はとくにユニークだと言えます。
 フランスの怪奇小説の特徴は、とにかく「明るい」こと! 「明るい」というと、語弊がありますが、このジャンルにつきものの、陰惨さや陰湿さが少ないと言えばいいでしょうか。非常にカラッとした作品が多いのです。
 ただ裏を返せば、怪奇小説の魅力のひとつである「雰囲気」の弱さ、「神秘性」の少なさ、という点にもつながります。例えばブラックウッドやM・R・ジェイムズなどのようなタイプの作家は、フランスには非常に少ないといえます。
 とはいっても、フランスの怪奇小説には、この国ならではの魅力があります。抑制の利いた語り口。明晰なストーリー。軽妙さと、そしてエスプリ。英米型の怪奇小説とはまた違ったジャンルとして、フランスの怪奇小説は楽しむべきでしょう。
 そんなわけで今回は、フランスの怪奇小説を紹介してきたいと思います。
 まずアンソロジーから。いくつかのアンソロジーがありますが、筆頭に挙げるべきは間違いなく、『怪奇小説傑作集4巻 フランス編』(澁澤龍彦編 創元推理文庫)です。過去に何度も言及していますので、細かい紹介は省略しますが、これ一冊で、一通りフランス作品についての理解は得られるでしょう。
 マルキ・ド・サドやシャルル・ノディエといった、このジャンルの先駆的な作家たちから始まり、ネルヴァル、ゴーチェといったロマン派の作家をはさみ、アポリーネールやアンリ・トロワイヤといった20世紀の作家まで、バランスよく配分した傑作集です。
 歴史順に代表的作家を並べるだけという教科書的な編集ではなく、シャルル・クロス、アルフォンス・アレなどといった、特色あるマイナー作家をまぎれこませるレイアウトが見事ですね。
 『フランス幻想文学傑作選』(全3巻)(窪田般彌、滝田文彦編 白水社)は、18世紀から現代までのフランスの主要作家の幻想文学、怪奇小説を網羅した大アンソロジーです。
 1巻は、18世紀から19世紀半ばごろの作品を収録しています。ノディエの『トリルビー』やゴーチェの『オニュフリユス』といった、このジャンルの「名作」よりも、前半に収められた先駆的な作品の方が、物語としては面白く、楽しめます。ルイ=セバスチャン・メルシエのSF的な掌編や、ヴォルテールのコント、なかでもレチフ・ド・ラ・ブルトンヌの『ルソーのからっぽの墓』『フランスのダイダロス』の面白さが半端ではありません。この二編は長編の抜粋なのですが、飛行機械を発明した主人公が山の上にユートピアを作ってしまうという、SF的な作品です。完訳も出ています(植田祐次訳『飛行人間またはフランスのダイダロスによる南半球の発見』創土社)ので、こちらもオススメしておきます。
 2巻は、主にロマン派の時代の作品を集めています。収録作家も馴染みのある作家名が増えてきますね。ペトリュス・ボレル、フローベール、ネルヴァル、ユゴー、ボードレール、リラダンなど。マイナーポエットである、グザヴィエ・フォルヌレやシャルル・クロスのナンセンス作品も収録されています。
 他には、エルクマン=シャトリアン『降霊師ハンス・ヴァインラント』、アレクサンドル・デュマ『サン=ドゥニの墓』などが面白いですね。
 3巻は、現代に近い年代の作品が集められています。このアンソロジーの中では、もっとも「怪奇小説らしい」巻なので、この巻から読むのもありかと思います。ジュール・バルベー=ドールヴィイ、ジョルジュ・サンド、モーパッサン、マルセル・シュウォッブ、アンリ・ド・レニエ、アポリネールなど。
 J・H・ロニー兄の『吸血美女』、ガストン・ルルー『悪魔に会った男』、モーリス・ルナールの二編『リズロ氏の奇妙な思い出』『歌姫』あたりは、明確に怪奇小説を指向している作品ですね。
 残念ながら、この三巻のアンソロジーは現在入手困難になっているようです。好著なので、ぜひ復刊していだきたい本です。
 さて、『フランス幻想文学傑作選』よりも新しい年代の作品を集めたものとして、『現代フランス幻想小説』(マルセル・シュネデール編 清水茂ほか訳 白水社)があります。収録作家は、ジュール・シュペルヴィエル、マルセル・ブリヨン、ジョルジュ・ランブール、マンディアルグ、アラン・ロブ=グリエ、ジャン・フェリー、ジャック・ステルンベール、マルセル・ベアリュ、ジュリヤン・グリーンなど。
 じつはこのアンソロジー、白水社から出た国別の『現代幻想小説』シリーズの一冊なのですが、このシリーズ中では、かなり読みやすい部類に入ります。というのも、このシリーズ、硬派な「幻想小説」を集めていて、かなり純文学に接近した作品を多く収録しているため、エンタテインメントとして読むには、非常にきついものがあります。イギリスやアメリカの巻でさえ、かなり難物なのですが、中ではフランスの巻は、比較的読みやすくなっています。これはこの巻だけ、フランス人であるシュネデールの編集になっているせいもあるんでしょうね。
 さて脱線していまいましたが、内容としては、シュペルヴィエルに始まる幻想コントがとても魅力的です。アンリ・ミショー『犬の生活』、ベアリュ『首輪・まどろむ乗客』、ジャン・フェリー『虎紳士』など、どれも軽妙で幻想的なイメージに富む掌編です。あとは、『ジョワイユーズの泉』(ジャン=ルイ・ブーケ)が、着想がドイツの怪奇作家H・H・エーヴェルスの作品と酷似していると話題になった作品だそうですが、怪奇味が強く、楽しめる佳作です。
 タイトルの似た『フランス幻想小説傑作集』(窪田般彌、滝田文彦編 白水uブックス)というのもあります。これは『フランス幻想文学傑作選』『現代フランス幻想小説』から抜粋した一巻本アンソロジーです。入手しやすいので、この本から読むのもありでしょう。
 『フランス怪談集』(日影丈吉編 河出文庫)は、河出文庫の怪談集シリーズのフランス編として編まれたアンソロジー。ネルヴァル、ゴーチェ、メリメ、アナトール・フランス、レミ・ド・グールモン、マルセル・エイメなど。おそらく作品としての完成度と美しさを優先した編集なのでしょう、かなりオーソドックスな作品を集めています。
 特筆すべきは、残酷譚で知られたモーリス・ルヴェルの作品『或る精神異常者』が収録されていること。今では、創元推理文庫でルヴェルの短編集が読めますが、当時としてはルヴェルの作品が読める数少ない本だったのです。アンソロジーとしては、それほど刺激的な本とはいえませんが、基本図書として押さえておきたい本ではあります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

謎が謎を呼ぶ  紀田順一郎編『謎の物語』
4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02-08

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 結末を明示せず、読者の想像力に委ねる…という物語。いわゆる「リドル・ストーリー」には何ともいいようのない魅力があります。作品を読む読者によって、それぞれの結末を考えることができる…という点で、読者が物語づくりに参加できるような感触を持てるからでしょうか。
 紀田順一郎編『謎の物語』(ちくま文庫)は、そんな「リドル・ストーリー」を集めたアンソロジーです。かって、ちくまプリマーブックスの一冊として出ていましたが、今回ちくま文庫より復刊になりました。文庫化にあたり、おまけが少しはあるのかなと思っていたら、予想以上の面目一新!ほとんど別アンソロジーといってもいいほどの増補がされていました。

 収録作品を挙げておきます。
マーク・トウェイン『恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス』
フランク・R・ストックトン『女か虎か』
フランク・R・ストックトン『三日月刀の督励官』
ジャック・モフィット『女と虎と』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード 続』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
小泉八雲『茶わんのなか』
O・ヘンリー『指貫きゲーム』
ハックスリー『ジョコンダの微笑』
ロード・ ダンセイニ『野原』
サキ『宵やみ』
ラドヤード・キプリング『園丁』
ディーノ・ ブッツァーティ『七階』

 あらすじを述べると、興をそいでしまう恐れのあるジャンルなので、内容に関しては詳説は避けることにしますが、やはりストックトン作品のインパクトは別格です。続編での続け方も人を煙に巻くようなやり方で、さすがに古典になるだけのことはあります。読者の求めるところを心得ているなという出来です。
 あとは、クリーヴランド・モフェット『謎のカード』の続編の収録が嬉しいところです。本編は人を煙に巻くような、典型的な「リドル・ストーリー」なのですが、続編は完全に「種明かし」になっています。
 「種明かし」が、ミステリというよりは、ほとんどホラーになっていてびっくりしました。これはこれで面白いのですが、真相がわかってしまうと、やはり「普通」の小説になってしまいますね。ストックトンとモフェットの、それぞれの続編の書き方を較べると、「リドル・ストーリー」の本質というか魅力といったものに関して見えてくるものもあるかと思います。
 さて、ついでに旧版(ちくまプリマーブックス版)の収録作品も紹介しておきます。

フランク・R・ストックトン『女か虎か』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ディーノ・ ブッツァーティ『なにかが起こった』
小泉八雲『茶わんのなか』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
木々高太郎『新月』
上田秋成『青頭巾』
ウォルター・デ・ラ・メア『なぞ』
稲垣足穂『チョコレット』
ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』

 新版では、ブッツァーティ作品が差し替えられていますが、彼の作品は、その多くが「リドル・ストーリー」に分類しても差し支えない類のものなので、よしとしましょう。
 デ・ラ・メアの『なぞ』や稲垣足穂『チョコレット』は他の本でも読めると思うのでいいのですが、新版でおちてしまった中では、唯一、ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』が惜しいです。荒俣宏編訳『魔法のお店』(ちくま文庫)にも収録されていますが、こちらも絶版のようです。簡単に内容紹介しておきましょう。
 中年男性の主人公が、ふと骨董店のウィンドウに目を留めます。そこにあったのは、自分が二十年も前に持っていたおもちゃでした。懐かしくなった男が店の中に入ると、そこにあったのは自分が持っていたおもちゃばかりだったのです…。
 「リドル・ストーリー」というとちょっと違う感触の作品ですが、とても味のある作品なので、これも収録してほしかったですね。
 とにかく『謎の物語』は「リドル・ストーリー」を扱ったアンソロジーとしては、質量ともに圧巻のアンソロジーといっていいかと思います。読んでいる最中、また読み終わってからも、そういえば過去に読んだあの作品も「リドル・ストーリー」だよな…と思い浮かんできたりもして、そういう点でもとても楽しめる作品集になっています。
 「リドル・ストーリー」の章として5編を収録しているアンソロジー『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』 (角川文庫)と合わせると、「リドル・ストーリー」の全体像をつかめるかと思いますので、こちらもオススメしておきましょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2月の気になる新刊補遺
2月15日刊 クリス・ボルディック選『ゴシック短編小説集』(春風社 予価3675円)
2月27日刊 『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』(国書刊行会 予価6510円)
2月下旬刊 都筑道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか? 増補版』(フリースタイル 予価2100円)

 クリス・ボルディック選『ゴシック短編小説集』は、その名の通り、ゴシック小説の流れを俯瞰できるアンソロジー、だそうです。本当のゴシック小説時代の作品だけでなくて、アンジェラ・カーターなど、ゴシック的な要素のある、現代の作家の作品も集めているようです。33編収録ということなので、かなりの大冊ですね。
 もう一つ、大冊としては、国書刊行会から『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』という本も出ます。種村季弘の単行本未収録の翻訳作品を集めたアンソロジーですね。2001年に出た前川道介『独逸怪奇小説集成』(国書刊行会)の種村季弘版、といったところでしょうか。ドイツ系の翻訳は、数が少ないので貴重ですね。
 都筑道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか? 増補版』は、同名タイトルの増補版です。元本は、ミステリの評論としては、ひじょうな名著なので、期待しています。

テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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