夢マンガをめぐって

4904376625エデナの世界
メビウス
ティー・オーエンタテインメント 2011-09-24

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 発売されたばかりの、メビウス『エデナの世界』を入手しました。メビウスはフランスのマンガ、≪バンド・デシネ≫の巨匠と言われる作家です。さっそく一読したのですが、この『エデナの世界』、「夢」が重要なモチーフになっています。
 主人公のステルとアタンは、宇宙船で、エデンの園を思わせる、楽園のような惑星に辿り着きます。しかしふとしたことから、二人は離ればなれになってしまい、見知らぬ土地で互いを探し合うことになります。
 ホルモン抑制剤を飲んでいた二人は、この星で暮らすうちに、本来のホルモンが活動し始め、それぞれ男女らしい体つきになっていきます。離れ離れになった二人が互いを探しあううちに、この星の「神」と「悪魔」にあたる存在が、それぞれの思惑を持って二人の冒険行にからんでいきます。
 二人がことあるごとに「夢」を見るのですが、これが単なる「夢」ではなく、物語に重要な関わりあいを持ってくるのです。
 読み終えて、そういえば最近読んだマンガに似たモチーフを扱った作品がいくつかあったなあ…と思い出したのが、岸浩史『夢を見た』とフジモトマサル『夢みごこち』



4575302945夢を見た
岸 浩史
双葉社 2011-04-06

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 岸浩史『夢を見た』は、一編がそれぞれ2ページ程度で描かれる、ファンタジー作品。明確なストーリーがあるわけではなく、夢で見るような、ある種不条理なイメージを視覚化したものが描かれます。「夢」といっても、それを見て楽しめるエンターテインメントに昇華しているのが素晴らしいです。



4582287360夢みごこち
フジモト マサル
平凡社 2011-01-30

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 フジモトマサル『夢みごこち』は、連作短篇集なのですが、1篇1篇が終わるごとに、それが夢だった…という展開になっています。いわゆる「夢オチ」作品といえるのですが、それが毎回繰り返されることによって、物語の舞台が現実なのか夢なのか判然としなくなってきます。登場人物たちは、著者独特のかわいいタッチで描かれる動物で表現されているのですが、夢がなかなか終わらない…という、ある種悪夢のような展開とのミスマッチが、何ともいえない雰囲気を生み出しています。
 それぞれの短編も、世界すべてが自分の夢だと思っている男が、夢警察に囚われる話だとか、空を飛ぶ夢を見ている女がラジオ番組に電話をかけてくる話、人格改造システムの実験によって、記憶を奪われてしまう話など、異色作家短篇集を読んでいるような味わいで、楽しめます。
10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
9月22日刊 ヴィンシュルス『ピノキオ』(小学館集英社プロダクション 予価3150円)
9月24日刊 メビウス『エデナの世界』(ティー・オーエンタテインメント 予価5040円)
9月下旬 ジョン・ウィンダム『時間の種』(創元SF文庫 復刊)
10月1日刊 レーモン・クノー・コレクション10『地下鉄のザジ』(水声社 予価2310円)
10月1日刊 レーモン・クノー・コレクション11『サリー・マーラ全集』(水声社 予価3675円)
10月4日刊 ロバート・カークマン『ウォーキング・デッド』(飛鳥新社 予価3570円)
10月12日刊 ジャンニ・ロダーリ『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫 予価800円)
10月12日刊 ショーン・タン『遠い町から来た話』(河出書房新社 予価1890円)
10月20日刊 リチャード・マシスン『リアル・スティール』(ハヤカワ文庫NV 予価840円)
10月21日刊 紀田順一郎『幻想怪奇譚の世界』(松籟社 予価1995円)
10月24日刊 チャールズ・アダムス『アダムス・ファミリー全集』(河出書房新社 予価2310円)
10月28日刊 D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』(創元推理文庫 予価1155円)
10月刊 アンソニー・ドーア『メモリー・ウォール』(新潮社 予価2100円)

 今月下旬から10月にかけて、コミックや絵本など、ヴィジュアル関係の新刊が目を引きますね。ピノキオをテーマにしたダーク・ファンタジー、ヴィンシュルス『ピノキオ』。ゾンビをテーマにしたアメリカン・コミック、ロバート・カークマン『ウォーキング・デッド』。フランスの大物作家メビウスの『エデナの世界』
 中でも、期待しているのが次の二冊です。ショーン・タン『遠い町から来た話』とチャールズ・アダムス『アダムス・ファミリー全集』『遠い町から来た話』は、『アライバル』で素晴らしい想像力を見せてくれたショーン・タンの作品、『アダムス・ファミリー全集』は、映画化作品で知られた同名作品の「全集」です。映画化のときではなく、なぜ今ごろ?という感はありますが、とりあえず出版企画自体を喜びましょう。
 翻訳が難しいといわれていたレーモン・クノーの作品をこれだけまとめて紹介するとは…と驚かされたのが、水声社の≪レーモン・クノー・コレクション≫。有名な『地下鉄のザジ』と一緒に初邦訳の『サリー・マーラ全集』が登場です。
 ジャンニ・ロダーリ『羊飼いの指輪 ファンタジーの練習帳』は、かって筑摩書房から出ていた『物語あそび ―開かれた物語―』の新訳のようですね。この作品は、ロダーリが考えたお話を子供たちに聞かせ、子供たちが考えた続きを何種類か載せるという、面白い趣向の短篇集です。サブタイトルの「開かれた物語」があらわすように、読んでいて自分も話の続きを考えたくなってくるような楽しい作品集です。
 怪奇幻想ファンには、マシスンの短篇集『リアル・スティール』、紀田順一郎『幻想怪奇譚の世界』もオススメしておきたいと思います。
9月の気になる新刊
発売中 ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』(河出文庫 735円)
9月7日刊 東雅夫編『女霊は誘う 文豪怪談傑作選・昭和篇』(ちくま文庫 924円)
9月13日刊 ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(光文社古典新訳文庫 960円)
9月13日刊 つばな『第七女子会彷徨4』(徳間書店リュウコミックス 通常版620/限定版880円)
9月13日刊 つばな『見かけの二重星』(講談社KCデラックス 620円)
9月15日刊 ジャン・トゥーレ『ようこそ、自殺用品専門店へ』(武田ランダムハウスジャパン 予価1785円)
9月16日刊 ティツィアーノ・スカルパ『スターバト・マーテル』(河出書房新社 1680円)
9月17日刊 ゲーテ/ハリー・クラーク画 荒俣宏訳『ファウスト』(新書館 予価3990円)
9月22日刊 グレッグ・イーガン『プランク・ダイヴ』(ハヤカワ文庫SF 予価945円)
9月23日刊 市川春子『25時のバカンス 市川春子作品集(2)』(講談社 予価620 円)
9月29日刊 高野史緒編『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』(東京創元社 予価2625円)
9月下旬刊 ジェフ・ニコルソン『装飾庭園殺人事件』(扶桑社ミステリー)
9月刊 ジャック・ヴァンス『奇蹟なす者たち』(国書刊行会 予価2625円)

 9月の一押しは、創元社の高野史緒編『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』です。かって創元SF文庫から30年ぐらい前に出ていた『東欧SF傑作集』以来の、東欧SFのアンソロジーです。具体的な収録作家名などは公開されていないようですが、タイトルからして現代作家中心の収録になるのだろうと思います。これは期待大ですね。
 もう店頭に並んでいるだろうと思いますが、ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』は、秘境冒険小説の名作ですのでぜひ。有名な「シャングリ・ラ」というユートピアが出てきます。あまり派手な展開はないですが、滋味のある作品です。
 ジャン・トゥーレ『ようこそ、自殺用品専門店へ』は、初紹介の作家だと思いますが、あらすじが面白そうです。「老舗の「自殺用品専門店」に大問題発生!店を営む超ネガティブ一家に、無邪気な明るい赤ちゃんが生まれ、店は経営危機に…」。ブラックユーモア作品のようですね。
 マンガ作品では、市川春子『25時のバカンス 市川春子作品集(2)』とつばなの『第七女子会彷徨』の4巻がオススメ。つばなは、別作品『見かけの二重星』も同時発売です。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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