8月の気になる新刊
8月4日刊 P・G・ウッドハウス『ドローンズ・クラブの英傑伝』(文春文庫 予価900円)
8月4日刊 ハインリヒ・フォン・クライスト『チリの地震』(河出文庫 予価840円)
8月9日刊 東雅夫編『妖魅は戯る 文豪怪談傑作選・大正篇』(ちくま文庫 予価924円)
8月9日刊 鴻巣友紀子『全身翻訳家』(ちくま文庫 予価798円)
8月10日刊 ミステリー文学資料館編『悪魔黙示録 「新青年」 一九三八 探偵小説暗黒の時代へ』(光文社文庫)
8月12日刊 山口雅也『モンスターズ』(講談社文庫 予価730円)
8月20日刊 J・G・バラード『殺す』(創元SF文庫 予価630円)
8月25日刊 大森望『不思議の扉 午後の教室』(角川文庫 予価540円)
8月25日刊 ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価815円)
8月25日刊 ゾラン・ドヴェンカー『謝罪代行社』(ハヤカワ・ミステリ 1575円)(ハヤカワ・ミステリ文庫 上下 予価各815円)
8月30日刊 渡辺温『アンドロギュヌスの裔』(創元推理文庫 予価1575円)

 ハインリヒ・フォン・クライスト『チリの地震』は、以前出た文庫の復刊になると思うのですが、傑作ぞろいの短篇集なのでぜひ。ほとんど「バイオレンス小説」の域に達している『チリの地震』、極限まで削られた幽霊物語『ロカルノの女乞食』、音楽をめぐる魅力的な奇跡譚『聖ツェツィーリエ』など。
 ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷 新訳版』は、幻想小説としても読めるミステリ『火刑法廷』の新訳版です。
 ゾラン・ドヴェンカー『謝罪代行社』は、「謝罪代行業を始めた若い四人の男女を凄惨な殺人事件が、そして思いもよらぬ悲劇が待ち受ける。」という話だそう。なかなか面白そうな作品なのですが、ハヤカワ・ミステリ版と文庫版とが同時発売だそうで、珍しい形ですね。
 8月のいちおしはこれです。渡辺温『アンドロギュヌスの裔』。探偵小説誌『新青年』の編集に携わり、珠玉の掌編を残した伝説の作家、渡辺温の傑作集です。以前から刊行の予定はささやかれていましたが、とうとう刊行です。
今までは、渡辺温の作品を読もうと思ったら、アンソロジー収録作品以外では、薔薇十字社版の作品集か、博文館新社から出た『叢書 新青年 渡辺温』ぐらいしかなかったので、文庫版作品集の刊行はうれしい限りです。薔薇十字社版の作品集は、3万~5万というすさまじい古書値がついていますし、『叢書 新青年 渡辺温』の方も、割と高価ですしね。
黒い物語  トーマス・オットの不気味な世界
Cinema Panopticum R.I.P.: Best of 1985-2004 The Number: 73304-23-4153-6-96-8
 以前から「文字のない絵本」や「文字のないマンガ」というものに関心がありました。古くは、リンド・ウォードの『狂人の太鼓』、最近ならデイヴィッド・ウィーズナーのいくつかの作品、日本語版が出たばかりのショーン・タン『アライバル』。日本なら、とり・みきの実験的なギャグマンガなどもそれに相当するでしょうか。
 この手の作品をいくつか読んできて、不満だったのは、いわゆる怪奇小説・ホラー小説をこの「文字のない」手法で描いた作品がほとんどない、ということ。ところが最近、この不満を解消してくれる作家に出会いました。スイスの漫画家、Thomas Ott(トーマス・オットでいいのでしょうか)です。
 この作家の作品には文字やセリフがありません。読者は絵を見て、物語を想像していくわけです。ただ、文字がないからといって抽象的な話にはなっていません。丹念に絵を追っていけば、物語はきちんとわかるように作られています。
 もう一つ特徴があります。オットは作品をすべて「スクラッチボード」で描いているのです。「スクラッチボード」とは、黒い画用紙のこと。そこにとがった道具で紙を削って、絵を描いていくものです。黒紙がベースなので、当然絵のタッチも黒っぽくなります。
 作品の内容も、画風に見合ったダークなものになっています。例えば『CLEAN UP!』は、殺人を犯した男が、自分の指紋が気になりだし、家中の指紋を拭いて回る、という作品。『GOODBYE!』は、いろいろな方法で自殺を試みる男がいずれも失敗し…という話。『BREAKDOWN』は、たった一人宇宙船に乗り込んで旅をする男が、船外で修理活動をしている際に、いろいろな幻影を見る、という話。殺しの報酬として義眼を手に入れる男を描いた『THE JOB』なんて、シュールなストーリーもあります。
 時にはブラックすぎる話もありますが、作者がホラー作品が好きで描いているんだなというのが伝わってきて、怪奇小説好きにはたまりません。
 個人的にいちばん気に入ったのは、『Cinema Panopticum』という作品です。これはオムニバス短篇集で、お祭りに出かけた少女が、ふと入った小屋の中でいろいろな物語りを覗き見る、という趣向になっています。
 オットの作品には、英語版、ドイツ語版など、いくつかの版がありますが、絵だけの物語なので、基本的にはどの版を入手しても同じです。
 お勧めは、オットの過去のベストをまとめた作品集『R.I.P.』、そして『Cinema Panopticum』ですね。
Ott-01.jpg 9397_1161259378_1ea1_p.jpg ThomasOtt3.jpg

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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