11月の気になる新刊
11月刊 パスカル・ラパテ『イビクス ネヴゾーロフの数奇な運命』(国書刊行会 2625円)
11月5日刊 シオドア・スタージョン『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』(河出文庫 893円)
11月10日刊 ジェイン・オースティン『マンスフィールド・パーク』(ちくま文庫 予価1470円)
11月10日刊 『ちくま文学の森4 おかしい話』(ちくま文庫 予価998円)
11月22日刊 海野弘監修『幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン』(マール社 予価2310円)
11月25日刊 『きょうも上天気 浅倉久志訳SF短編傑作選』(角川文庫 予価735円)
11月25日刊 リチャード・マシスン『アースバウンド―地縛霊―』(ハヤカワ文庫NV 予価840円)
11月25日刊 山岸真編『ポストヒューマンSF傑作選 スティーヴ・フィーヴァー』(ハヤカワ文庫SF 予価987円)
11月30日刊 アルベルト・マングウェル『奇想の美術館 イメージを読み解く12章』(白水社 予価5040円)
11月刊 梶原和男監修『ホラー映画大全集』 (近代映画社 予価2310円)
11月刊 アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社 予価2100円)

 国書刊行会から、フランスのコミック「バンドデシネ」を集めたシリーズ〈BDコレクション〉が刊行です。第一弾はパスカル・ラパテ『イビクス ネヴゾーロフの数奇な運命』。原作がアレクセイ・トルストイだそうで、その点でも気になります。
 このアレクセイ・トルストイって、同名に近い作家が二人いるんですけど、どっちでしょうか?『カリオストロ』(創元推理文庫『怪奇小説傑作集5』収録)の作者のアレクセイ・ニコライヴィッチ・トルストイか、それとも〈吸血鬼三部作〉(国書刊行会『ロシア神秘小説集』収録)の作者のアレクセイ・コンスタノビッチ・トルストイなんでしょうか。ちなみに、『戦争と平和』で有名なトルストイは、レフ・ニコラーエヴィチ・トルストイ。ややこしいですね。
 《ちくま文学の森》シリーズの新刊は、『おかしい話』。この巻には、ボンテンペルリ、エーメ、カミとひじょうにナンセンスかつ愉快な作品が多く収められているので、とくにオススメです。
 海野弘監修『幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン』は、幻想的な挿絵で知られる画家カイ・ニールセンの画集のようです。挿絵本はともかく、日本ではまとまった作品集は今までなかったので、楽しみですね。
 『きょうも上天気 浅倉久志訳SF短編傑作選』は、タイトル通り、先日亡くなった名翻訳家浅倉久志の訳したSF短編を集めたアンソロジーです。あんまりレアな作品が入るわけではないようですが、彼の翻訳のファンなら買いでしょう。
 河出書房からは、ずいぶん前から予告されていた新シリーズ〈ストレンジフィクション〉がスタート。まずはアヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』が登場です。このシリーズも楽しみですね。

死後さまざま   デイヴィッド・イーグルマン『脳神経学者の語る40の死後のものがたり』
4480878270脳神経学者の語る40の死後のものがたり
デイヴィッド・イーグルマン 竹内薫
筑摩書房 2010-10-09

by G-Tools

 死んだら、人間はどうなるのか? 昔から人間を悩ませてきた、永遠のテーマです。このテーマについて書かれたユニークな作品が、デイヴィッド・イーグルマン『脳神経学者の語る40の死後のものがたり』(竹内薫・竹内さなみ訳 筑摩書房)です。
 著者のイーグルマンは脳神経学者なので、死後の世界を科学的に探求したノンフィクションなのかと思いきや、案に相違して、これはフィクションなのです。
 著者が空想した死後の世界が、フィクションの形で書かれているのですが、どれも上質のショート・ショートになっていて飽きさせません。タイトル通り、40種類の物語が収録されていますが、それが全て死後の世界について書かれているというのがすごいですね。
 動物への生まれ変わりを望んだために訪れる皮肉な結末がおかしい『種はすべりおちる』、他人が覚えている限り人は存在できるという『死は鏡のなかの世界』
 コンピュータに遺された自動返答アルゴリズムが、本人が生きているフリをするという『死のスイッチ』、物質的なものだけでなく精神的なものまで持ち込めるため、人間が創造した神々までもが天国にいるという『神々の墓地』
 天国や地獄があったり、それが思いもかけない場所であったり、神様がいたり、それが意外な形で存在していたり、そもそも死後の世界はなかったり、と考えられるいろいろなシチュエーションの物語が展開されます。同一テーマにもかかわらず、バラエティに富んでいるのが実に見事。ちょっと皮肉が利いている作品が多いのも洒落ています。
 収録作品が同じシチュエーションといえば、例えば星新一『ノックの音が』(新潮文庫)なんて作品を思い浮かべますが、コンセプトといい、収録作品の肌触りといい、星新一を読むような楽しさがあります。アイディアに富んだショート・ショートを読みたい方はぜひ。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

欧米の怪奇小説をめぐって  『世界怪談傑作集』
世界怪談
 先日、ある雑誌を古本で手に入れました。『別冊宝石』の1961年9月号です。別冊ではない『宝石』の方は、江戸川乱歩が協力していたことでも有名な探偵小説誌です。それに対して『別冊宝石』は、主に翻訳ものを中心に掲載していた雑誌ですね。
 『別冊宝石』だけでも100冊以上が刊行されているのですが、今回その中でも1961年9月号を手に入れたかったのには理由があります。特集内容が怪奇小説だったからです。『別冊宝石1961年9月号 世界怪談傑作集』。今回はこの特集号について、ご紹介したいと思います。
 今でこそ、ホラー、怪奇小説はひとつのジャンルとして認知されていますが、まだこの時代、1960年代には単独のジャンルとして市民権を得てはいませんでした。後に毎年恒例となる『ミステリマガジン』《幻想と怪奇》特集も、まだはじまっておらず、単行本の翻訳紹介も散発的、単発的なものにとどまっていました。そんな中、刊行されたこの号は、日本の怪奇小説にとってトピックとなるべきものだったといえるでしょう。
 とりあえず、掲載作品の全リストを掲げます(小説作品のみ)。

アルジャーノン・ブラックウッド『秘密礼拝式』
ロバート・ブロック『子供にはお菓子を』
E・F・ベンスン『アムワース夫人』
アンブローズ・ビアース『考える機械』
J・S・ル・ファヌ『ハーボットル判事』
W・W・ジェイコブズ『井戸』
マイクル・アレン『アメリカから来た紳士』
ブラム・ストーカー『牝猫』
M・R・ジェイムズ『マグナス伯爵』
A・J・アラン『怪毛』
アントニー・バウチャー『噛む』
ジョン・コリア『ビールジーなんているもんか』
ジェローム・K・ジェローム『ダンシング・パートナー』
H・G・ウェルズ『故エルヴシャム氏の話』
H・P・ラヴクラフト『冷房装置の悪夢』
サキ『開いた窓』
トーマス・バーク『唖妻』
ロード・ダンセイニ『遥かなる隣人たち』

 刊行時から約50年を経て、翻訳も進んでいるため、ほとんどの作品は別の形で読めるようになってはいます。ただ、当時これだけの作品を一挙に掲載したというのは、ある種の事件といっていいかと思います。
 古典的な作品が中心になっており、そのため現代の怪奇小説ファンには既読のものも多いかと思いますが、いまだにこの雑誌でしか読めない作品もあります。僕の調べた限りでは、W・W・ジェイコブズ、マイクル・アレン、トーマス・バークの作品はこれ以外に翻訳はないようです。A・J・アラン『怪毛』なんて作品も、長らくこれ以外に読めなかったのですが、『怪奇礼讃』(中野善夫・吉村満美子編 創元推理文庫)に『髪』として新訳が収録され、読めるようになりました。
 古典作品をあらためて紹介するのも何なので、前記の、この雑誌でしか読めない作品を、簡単に紹介しておきます。

 W・W・ジェイコブズ『井戸』 資産家の娘と婚約中の男のもとに、金に困ったいとこが現れます。脅迫を始め、金を要求するいとこを男は殺して井戸に投げ込みます。いとこは失踪したことにされますが、娘が形見の腕輪を井戸に落としてしまったことを知った男は…。
 筋立ても展開も予想の範囲内なのですが、安心して読ませるのは作者の筆力ゆえでしょうか。他人が井戸に入ろうとするのを必死で止める主人公の姿は、ひじょうにサスペンスフル。

 マイクル・アレン『アメリカから来た紳士』 アメリカからやってきた剛胆な男ピュース。ひょんなことから、イギリス人の男二人組と賭けをすることになります。その賭けとは、幽霊屋敷で無事に一晩過ごせたら、大金を進呈する、というものでした。夜中のつれづれに、屋敷内にあった「少年少女のための怪談集」を読みはじめたピュースは、暗闇から何者かが近付いてくる音を耳にします…。
 オーソドックスな幽霊話かと思わせておいて、じつは…という、なかなか手のこんだ作品です。幽霊屋敷の雰囲気もなかなかですね。主人公が読む「少年少女のための怪談集」の中の話が話中話としてはさまれているのですが、これが都市伝説を思わせるショッキングなスリラーになっています。
 全体のプロットが、現代のホラー映画のようです。これ、発表当時はすごい斬新だったんじゃないでしょうか。

 トーマス・バーク『唖妻』 貧しい生まれの娘モイ・トゥーンは、若い航海士と恋いに落ち、男の子をもうけます。航海士に捨てられたモイは、生活のために富裕な老人と結婚します。しかし、病的に嫉妬深い老人には子供の存在を隠していました。ある日隠れて子供と会おうとしたモイは、それを老人に男との密会と勘違いされてしまいます…。
 怪談というよりは、奇譚といった方がいいでしょうか。超自然的な現象は起こりませんが、哀感のある人情話として出色の出来栄え。

 さて、小説以外では、座談会として『夏の夜の恐怖を語る』が掲載されています。出席者は、渡辺啓助、星新一、双葉十三郎。内容はさすがに時代を感じさせるものですが、そのあたりも含めて、今読むとなかなか興味深いです。
 怪奇小説ファンとしては、今でも読む価値のある一冊かと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する