10月の気になる新刊
10月5日刊 シオドア・スタージョン『輝く断片』(河出文庫 予価893円)
10月7日刊 ヴィルヘルム・ハウフ『隊商 キャラバン』岩波少年文庫(復刊)
10月12日刊 鹿島茂『怪帝ナポレオン三世』(講談社学術文庫)
10月13日刊 メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(光文社古典新訳文庫)
10月15日刊 アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』(原書房 予価2520円)
10月21日刊 マックス・ビアボーム『ズリイカ・ドブソン』(新人物往来社 予価2701円)
10月23日刊 ダニエル・デフォー『完訳 ロビンソン・クルーソー』(中公文庫 予価1100円)
10月26日刊 ロバート・バー『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(国書刊行会 予価2310円)
10月28日刊 J・G・バラード『人生の奇跡 J・G・バラード自伝』(東京創元社 予価2310円)
10月刊 ピーター・アンダーウッド『英国幽霊案内』(メディアファクトリー 予価2310円)

 スタージョンの名短編集『輝く断片』が文庫化です。どちらかと言えば、ミステリ寄りの作品が多い作品集なので、スタージョンのSF作品集が苦手な方もぜひ。
 岩波少年文庫の創刊60年記念復刊フェアということで、いくつか復刊タイトルがあるようですが、なかでもオススメは、ヴィルヘルム・ハウフ『隊商 キャラバン』でしょう。枠物語の形をとったメルヒェンですが、ひとつひとつのお話がとにかく面白いので、大人の読者にも読んでいただきたいです。他のタイトルとしては、イディス・ネズビット『火の鳥と魔法のじゅうたん』、ピエール・グリパリ『木曜日はあそびの日』あたりが気になるところ。
 光文社古典新訳文庫からは、怪奇小説の古典『フランケンシュタイン』が登場。訳者は、小林章夫氏。古典新訳文庫は、ほんとうにジャンルを問わずにいろんなタイトルを出してきますね。
 ピーター・アンダーウッド『英国幽霊案内』は、「英国各地で語り継がれる数多の幽霊譚を一冊で味わえる幽霊ガイドの決定版」だそうで、英国幽霊譚ファンとしては気になります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

絶望の底  森下 一仁 『「希望」という名の船にのって』
4902257203「希望」という名の船にのって
森下 一仁 きたむら さとし
ゴブリン書房 2010-07

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 SFのテーマのひとつに「世代間宇宙船」という魅力的なテーマがあります。長期間の宇宙飛行のため、乗務員が何世代もわたって宇宙船内で旅を続ける、といったシチュエーションを扱う物語です。
 森下 一仁のジュヴナイル長編 『「希望」という名の船にのって』(ゴブリン書房)も、このテーマを扱った作品ですが、その設定にひねりを加えているのが特徴です。
 その宇宙船「希望」は、「新しい地球」を目指して宇宙を飛んでいました。何世代にもわたって宇宙を旅するために、食料は内部の農場でまかなう構造になっていました。狭い船内には、何組かの家族が暮らしていましたが、船が出発してから生まれたために、地球のことを知らない子供たちも、すでに多くなっていました。
 少年ヒロシもその一人でしたが、日頃抱いていた疑問を確かめるため、船の科学者である水沢博士のもとを訪れます。その疑問とは、旅の目的地、そしてそこへの到着はいつになるのか、というものでした。
 博士から、自らそれを確かめるようにと促されたヒロシは、子供たちには立ち入りが禁止されている船のブリッジに向かいます…。
 これ以上あらすじを書くと、ネタを割ってしまうので書きませんが、物語序盤で、初期の設定が引っくり返されるのに驚かされます。もっともネタが分かってしまったとしても、この作品の魅力は削がれないとは思いますが。
 序盤では、子供たちには隠されている宇宙船の秘密、そして目的地の秘密などの謎を主人公たちが探っていくのかな、と思いきや、意外にあっさりとその謎は解かれます。というのも、船にいる乗務員とその家族たちは、みな仲間であり、基本的には「悪役」は出てこないのです。つまり、主人公の行動の邪魔をするような人物は出てきません。
 じゃあ何が物語を動かすかというと、船、ひいては自分たちの命をおびやかす事態の発生です。これを防ぐために、乗組員たちは力を合わせて立ち向かうのです。大人向け作品であれば、ここで仲間割れとかさせるのでしょうが、ジュヴナイルゆえでしょうか、陰湿な展開にはなりません。
 そういう面がないだけに、大人が読むと物足りない面を感じてしまうのですが、それを補う別の魅力があります。筆頭にあげるべきは、船内での食料生産のディテールをはじめとする、船の内部生活の描写でしょう。実験動物として持ち込んだネズミが、ペットとして人気を得るようになる、というあたりも微笑ましいです。
 船内生活のリアリティと言う面では、例えば、ジェイムズ・ホワイトの 『生存の図式』、アレクサンドル・ベリャーエフの 『無への跳躍』などと比べてしまうと、さすがに物足りないですが、ジュヴナイルとしては、これで充分でしょう。
 かなり絶望的なシチュエーションでありながらも、タイトル通り、全体に明るく希望に満ちたトーンで描かれており、結末も気持ちのいいものになっています。大人の鑑賞にも耐える秀作だといえます。 
最近読んだ本

4480426337ノーサンガー・アビー (ちくま文庫)
ジェイン オースティン Jane Austen
筑摩書房 2009-09-09

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ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』(中野康司訳 ちくま文庫)
 19世紀初頭に活躍した、イギリスの女性作家オースティンの初期作品です。ゴシック・ロマンスのパロディーとして有名で、僕もそうした面を期待して読んだのですが、いい意味で予想を裏切られました。
 ストーリーは、主人公のキャサリンが、リゾート地で男性に出会い恋をする、といった至極単純なもの。なのですが、この主人公がロマンティックな気質で、ことあるごとに妄想をしてしまう…という設定が、話を面白いものにしています。「勘違い」や「思い込み」を多用して、登場人物たちの感情のすれちがいを描くときの作者の筆は一級品。今読んでも面白い、ラブコメディーの古典です。



長く大いなる
ウィルスン・タッカー『長く大いなる沈黙』(矢野徹訳 ハヤカワSFシリーズ)
 最終戦争後の世界を描く、いわゆる「破滅SF」に属する作品です。細菌兵器の影響により、人々が大量に殺されてしまった世界が舞台。ミシシッピー川をさかいに、人々は感染して死んでしまいますが、生き残った人々は川を封鎖し、とりあえず感染を封じ込めることに成功します。主人公の兵士は泥酔していたため、川向こうから取り残されてしまいますが、免疫があったためか、感染せずに生き延びます。川向こうに渡るために、主人公はいろいろな手を使いますが…。
 主人公が、人を殺したり、利用したりするのに躊躇を覚えないという設定になっているのがユニークです。積極的に悪事を働くわけではないにしても、自分のためなら基本的には何でもするという性格なので、読んでいて感情移入はしにくいですね。この作品を読んでみると、他の「破滅SF」がいかに「ロマンティック」なものだったか、というのに気づかされます。



4594030467四年後の夏 (扶桑社ミステリー)
パトリシア カーロン Patricia Carlon
扶桑社 2000-12

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パトリシア・カーロン『四年後の夏』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)
 兄を殺された女性が、私立探偵のもとを訪れます。容疑者は、四年前にヒッチハイクをしていた二人の少女。二人の供述は食い違い、決め手を欠いていたために、犯人は捕まっていませんでした。二人のどちらかが嘘をついているはずだ。四年後、片方の少女の兄と恋仲になった女性は、真実を確かめるために、捜査を依頼します…。
 交互に、それぞれの容疑者の過去の回想が一人称で語られます。同じ事件や出来事に対して、まったく相反する供述が出てくるのはいったいなぜなのか? 真実を話しているのはいったいどちらなのか?
 読者を引き込む導入部、魅力的な謎、興味深い登場人物と、ひじょうに良質なサスペンス小説です。



コスモス
コスモス・ホテル (1980年) (ハヤカワ文庫―JA)
森下 一仁
早川書房 1980-10

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森下一仁『コスモス・ホテル』(ハヤカワ文庫JA)
 叙情性の強いSF短編集です。SFとしては、オーソドックスなテーマが多くて、その意味で斬新さはないんですが、何とも言えない叙情性があって、やみつきになるような味があります。表題作『コスモス・ホテル』は、カナヘビと心が入れ替わってしまった少年の意識を描く作品。人間ではなくなってしまった主人公が悲壮感を抱くのではなく、妙に落ち着いてしまうところに面白味がありますね。
 置き去りにされた星に住む生物が、主人公の心を読み、かっての恋人の姿になるという、レムの『ソラリス』を思わせる『若草の星』、十数年に一度帰ってくる夫を迎えるために、冷凍睡眠する妻を描く『風の浜辺』などが味わい深いです。

 
4334748384災園 (光文社文庫)
三津田 信三
光文社 2010-09-09

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三津田信三『災園』(光文社文庫)
 ホラー小説、《家》シリーズの三作目です。狐憑きの家系に生まれた少女が、養父母を失ったため、生家に帰ります。実の父親が経営する学園は、訳ありの子供たちを、高い金で預かっていました。少女が戻ってきた日から、怪異が起こりはじめますが…。
 このシリーズ、すべて幼い少年少女を主人公にしていることもあって、ジュヴナイル的な味が強いんですが、演出が上手いので読ませられてしまいますね。謎解きの要素もあるので、ミステリファンでも楽しめます。


 
4791761944脳の彼方へ―神経心理学の旅
ポール ブロックス Paul Broks
青土社 2005-06

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ポール・ブロックス『脳の彼方へ―神経心理学の旅』(小野木明恵訳 青土社)
 脳の障害が原因で現われる不思議な症例や、そうした人々の周辺を描いたエッセイです。本国ではオリヴァー・サックスと比べられているようです。実際テイストとしては、近いものがあるのですが、違う点は、ブロックスの方が「文芸寄り」だということでしょうか。
 事実に関するエッセイだけではなくて、著者の手になるフィクションや小説がたびたび挿入されていて、エッセイとも小説ともつかない、奇妙な味わいの作品になっているのが特徴です。どの章も面白いのですが、障害を負った以後の記憶がまったくできなくなった女性を描いた『鏡』、火星へのテレポーテーションの転送ミスで、自分が二人になってしまった男のアイデンティティーについて語った『二人で生きるか、一人が死ぬか』が興味深いです。とくに『二人で生きるか、一人が死ぬか』は、まるでグレッグ・イーガンの短編かと思うような作品で、SF小説としても力作でしょう。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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