最近読んだ本
 最近読んだ本から、いくつかご紹介します。


4163281703プロメテウスの涙
乾 ルカ
文藝春秋 2009-04

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 死のうとしても全く死ぬことができないアメリカの死刑囚と、謎の発作を繰り返す日本の少女。調べるうちに、同じ発作を持つ子供たちは一定の年齢で死んでいることが判明します。少女を救うため、主人公は親友とともに、二人のつながりを探り始めますが…。
 テーマを述べてしまうと、楽しみが半減してしまうので述べませんが、ホラーではわりとよくあるテーマを扱っています。猟奇的なシーンもあるものの、全体のトーンとしてはヒューマン・ストーリーに近い作品なので、後味は悪くないです。この作家、以前に出したホラー短編集『夏光』(文藝春秋)がわりと良かったので、読んでみたのですが、なかなか秀作かと思います。



4488404111五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)
深水 黎一郎
東京創元社 2010-01-30

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 昆虫好きの大人しい少年が起こした殺人事件。しかし、その動機は全くわかりません。家裁調査官の森本は、少年の背景を調査しますが…。
 バッハの「五声のリチェルカーレ」、そして昆虫の擬態。二つのテーマを扱った、技巧的なミステリです。少年の学校生活が続けて描かれる前半は、ちょっと退屈してしまう部分がありますが、作中人物には理解しえない「五声のリチェルカーレ」が読者にのみ明かされるという真相は見事の一言。物語の潤いには欠けますが、技巧を楽しむ作品としては一級品でしょう。



4048738844詩羽のいる街
山本 弘
角川グループパブリッシング 2008-09-25

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 郊外の小さな都市を舞台に、「詩羽」と呼ばれる女性をめぐって繰り広げられるエピソードを集めた連作短編集です。仕事も決まった収入も、住まいすら持たない彼女は、街の人々を巡り合わせ、何かを作り出すことで生きていました。詩羽と出会った人々は、いずれも人生を変えられていきます…。
 人々をつないで生きる女性…、「いい話」「感動もの」みたいな印象を受ける作品かと思いますが、ちょっとニュアンスが違います。「詩羽」自体が現実にはありえない、ファンタジー的な人間なので、そういう意味では、そんな人間が実際にいたらどうなるか?という、思考実験的なSFとして読むこともできます。作中で、アニメやサブカル的な要素が、必要以上に強調されるので、そのあたりが合わない人にはちょっとつらいかも。



ボアロー、ナルスジャック『島』(山根和郎訳 ハヤカワ・ミステリ)
 『譫妄』『島』の二編を収める中編集です。『譫妄』は、不倫の結果、恋人の夫を殺してしまった男が陥る不安をサスペンスたっぷりに描いた作品。『島』は、世間に疲れ果て、生まれ故郷の島でやり直すために戻ってきた男を描く物語です。
 とくに『島』は、著者お得意の不穏なサスペンスの横溢する傑作です。結末の真相もショッキングで、映画化してみたいような作品ですね。



4046538015マンガの脚本概論
竹宮 惠子
角川学芸出版 2010-04-08

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 大学での講義をもとに、マンガの書き方についてまとめた本です。ひじょうにわかりやすい実例と説明で、読み物としても優れています。実作と理論、両方のバランスがよくとれた好著でしょう。



4062160137西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かを、そっとマンガと呼んであげればいい。 (講談社BOX)
西島 大介 さやわか
講談社 2010-06-02

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 マンガ家志望の生徒たちを集め、三日間の講義ですべての参加者をマンガ家にしてしまおう、という企画の内容を書籍化したものです。上に挙げた竹宮惠子の著書がオーソドックスなものだとすると、こちらは、ものすごく革命的です。
 一般の人が想像するような、マンガの「書き方」や具体的な技法は、全くといっていいほど触れられません。著者のスタンスが、マンガはなにをやってもいいんだ、という部分にあるせいもあるのでしょうが、ある意味、ひじょうに実利的な講義になっています。
 マンガもビジネスであって、経済的な見返りを考えたときに、効率のよい描き方がある、という指摘は目から鱗でした。その実例として、30分や10分程度で絵を描かせる、というカリキュラムがあるのですが、短時間で描かれたものでも、マンガとして成立する可能性はある、という見方は新鮮です。



4087205487小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣
集英社 2010-06-17

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 ミステリ作家として知られる著者が、自らの小説作法を語った本。ですが、一般の小説作法の本とは一線を画しています。小説がことさら好きなわけではなく、ビジネスとして戦略的に作品を書いた、と言い切っています。もともと理系の研究者だけに、その思考はじつに合理的。出版社の旧弊さや不合理さにも、歯に衣着せず批判をしています。そのスタンスは一貫しているので、読んでいて気持ちがいいほどです。
 具体的な技法については、終わりの方でわずかに触れられるだけですが、その部分に関しては、わりとオーソドックスなアドバイスをしているのにも好感が持てます。
 
7月の気になる新刊と6月の新刊補遺
発売中 ダニイル・ハルムス『ハルムスの世界』(ヴィレッジ・ブックス 1995円)
6月下旬刊 ダニイル・ハルムス『ズディグル アプルル』(未知谷 予価2310円)
7月8日刊 H・G・ウェルズ『盗まれた細菌/初めての飛行機』(光文社古典新訳文庫)
7月9日刊 G・K・チェスタトン『新ナポレオン奇譚』(ちくま文庫 予価840円)
7月9日刊 東雅夫編『文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆』(ちくま文庫 予価924円)
7月10日刊 レイ・ブラッドベリ『火星年代記 新版』(ハヤカワ文庫SF 予価903円)
7月14日刊 金原瑞人編訳『八月の暑さのなかで ホラー短編集』(岩波少年文庫 予価714円)
7月20日刊 テリー・ビッスン『平ら山を越えて』(河出書房新社 予価2205円)
7月22日刊 ロバート・W・チェイムバーズ『黄衣の王』(創元推理文庫 予価1260円)
7月25日刊 中村融編『宇宙開発SF傑作選 ワイオミング生まれの宇宙飛行士』(ハヤカワ文庫SF1050円)
7月27日刊 大森望・日下三蔵編『量子回廊 年刊日本SF傑作選』(創元SF文庫 予価1365円)

 ダニイル・ハルムスは、前衛的なロシアの作家。彼が多く書いたナンセンスな掌編は、今で言うショート・ショートに近いものになっています。断片的な翻訳は続けられてきたものの、単行本としては『ハルムスの小さな船』(以前、こちらの記事でも紹介しています)があるくらいでした。それがここに来て、突如2冊の作品集の邦訳が出るのには驚かされました。ヴィレッジ・ブックスの『ハルムスの世界』は、68篇の掌編を収録。こちらの方は、既に店頭に並んでいるところもあるようです。一方、未知谷の『ズディグル アプルル』は、100話を収録だそうで、こちらも楽しみです。
 光文社古典新訳文庫では既にお馴染みになった感のある、南條竹則訳の最新作は、H・G・ウェルズの短編集『盗まれた細菌/初めての飛行機』。SFだけでなく、普通小説も収録されるようです。
 ブラッドベリの名作『火星年代記』の新版は、序文と2短編が加わったバージョンだそう。
  〈奇想コレクション〉の最新刊は、テリー・ビッスンの短編集第2弾『平ら山を越えて』。ヤングの『たんぽぽ娘』はまだまだみたいですね。
 今月の一押しは、これでしょうか。ロバート・W・チェイムバーズ『黄衣の王』。ラヴクラフトの「ネクロノミコン」のモデルとも言われる、呪われた本をめぐる連作短編集です。ラヴクラフト以前の作品ですが、クトゥルー神話に組み込まれることもある古典的作品です。以前出た、C・A・スミスの作品集にも劣らぬ好企画だと思います。
 ハヤカワ文庫の『宇宙開発SF傑作選 ワイオミング生まれの宇宙飛行士』は、 〈SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー〉全3巻の1巻目。宇宙開発テーマの作品を集めています。この企画も楽しみですね。

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ループものライトノベル 続編
ご無沙汰しております。仕事の方が忙しく、なかなか更新の暇がありませんでした。

以前「ループものライトノベル4題」と題した記事で、ループもののライトノベルを4作品ほど紹介しました。実はそのうち、3作品までも続編が出ています。今回はそれらの続編をご紹介していきたいと思います。



空ろの箱と零(ゼロ)のマリア (電撃文庫) 空ろの箱と零のマリア〈2〉 (電撃文庫) 空ろの箱と零のマリア〈3〉 (電撃文庫) 空ろの箱と零のマリア〈4〉 (電撃文庫)
御影瑛路『空ろの箱と零のマリア』(電撃文庫)
 この作品の特色は「箱」と呼ばれる超能力の存在。正体不明の超越者によって、能力を与えられた人間が毎回事件を引き起こし、主人公たちがそれに巻き込まれるという、超能力バトルものの変種といっていい作品です。
 1巻のストーリーは、同じ時間を繰り返すタイムループに巻き込まれた主人公が、ループを引き起こしている能力者を探し、ループから脱出する、というもの。ドンデン返しが繰り返される展開に加え、恋愛小説的な側面もあり、なかなかの秀作でした。
 ループはあくまで特定の超能力者によって引き起こされたという設定だったので、2巻目以降は、基本的にループが主題ではありません。ですが、ループものでなくても、このシリーズ、かなり面白いです。2巻は、相手の体を乗っ取る能力者が相手の話で、小粒ですが、なかなかよくできたサスペンス。3巻、4巻は続きものなのですが、これが1巻にも劣らぬ素晴らしい出来!
 日常に退屈を感じている能力者によって、主人公たちは異空間に囚われてしまいます。そこは殺人ゲームの舞台でした。周りの人間を殺し、自分に与えられた条件を満たさない限り、その空間から脱出はできないのです。誰も殺しを行わなかった場合、全ての人間が死んでしまうという、実にえぐい設定になっています。
 疑心暗鬼の中、皆が権謀術数をめぐらす心理戦がメインになっており、サスペンスたっぷり。この巻に限らず、このシリーズ、心理描写が細かいのが特徴です。基本的にはかなりシリアスな展開で、挫折感や罪悪感など、テーマも重いものが多いのですが、読みごたえはあり、おすすめのシリーズです。



クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫) クイックセーブ&ロード 2 (ガガガ文庫) クイックセーブ&ロード 3 (ガガガ文庫)
鮎川歩『クイックセーブ&ロード』(小学館 ガガガ文庫)
 「死ぬ」ことによって、過去に「セーブ」した時間・場所から人生をやり直す能力を持つ主人公が、事件を解決するために、自殺を繰り返すという物語です。2巻では、主人公と同じ能力を持つキャラクターが登場し、ある種の「あやつり」テーマの作品にもなっています。
 3巻が最終巻なのですが、この巻では趣が変わっています。『セーブ&ロード』能力が都市伝説となり、それを信じた子供たちの自殺が流行するなか、主人公は記憶を失い、自らの能力が使えなくなっています。自分が記憶を失うこととなった事故を起こした犯人は誰なのか? 主人公は調査を続けますが…。
 死ねばすべてやり直せるという、ある意味何でもありの設定だけに、どう完結させるのかと興味深く読みましたが、なかなか上手い終わらせ方かと思います。何とも不謹慎な設定の話なので、読む人を選びますが、ループものの新機軸として、面白い試みかと思います。



サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫) サクラダリセット2  WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL (角川スニーカー文庫)
河野裕『サクラダリセット』(角川スニーカー文庫)
 現在2巻まで出ています。様々な超能力者が住む都市を舞台にした、超能力バトルもの的な作品です。時間を三日分巻き戻すことのできる能力を持つ少女を相棒に持つ、主人公の少年が、能力を駆使して事件を解決するという展開になっています。
 2巻では、都市で唯一の予知能力者と、能力自体を封印できる能力者をめぐってストーリーが進められます。自分自身は大した能力を持っていないにもかかわらず、仲間の能力を活用して戦うという主人公の造形がユニークです。とくに、複数の人間の能力を組み合わせて使うというアイディアがじつに秀逸。主人公の過去をはじめ、都市や秘密機関の謎など、読者をひっぱるテクニックも巧みで、リーダビリティはひじょうに高いです。
 


プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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