6月の気になる新刊
6月8日刊 『久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集』(河出文庫 予価798円)
6月10日刊 カミ『機械探偵クリク・ロボット』(ハヤカワ・ミステリ 予価1260円)
6月15日刊 中井英夫『とらんぷ譚4 真珠母の匣』 新装版(講談社文庫)
6月25日刊 チャイナ・ミエヴィル『ジェイクをさがして』(ハヤカワ文庫SF 予価945円)
6月29日刊 ビル・S・バリンジャー『歯と爪』 新版(創元推理文庫 予価966円
6月29日刊 ノエル・カレフ『死刑台のエレベーター』 新版(創元推理文庫 予価987円)
6月下旬刊 ウィリアム・リッチー・ニュートン『ヴェルサイユ宮殿に暮らす 優雅で悲惨な宮廷生活』(白水社 予価2520円)
6月下旬刊 アドルフォ・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』(国書刊行会 予価2520円)

 6月の新刊でいちばん気になるのは、カミ『機械探偵クリク・ロボット』ですね。一部は『ミステリマガジン』に訳載されたもののようですが、とにかくカミの作品が刊行されること自体、慶賀すべきでしょう。
 カミは、20世紀前半に活躍したフランスのユーモア作家。ナンセンス味の強い、奇妙奇天烈なコントを多く書きました。アンソロジーなどには、割とよく収録されますが、単独の邦訳単行本は少なく、どれも絶版になっています。とくに長編『エッフェル塔の潜水夫』は、底抜けに楽しい作品なので、オススメしておきます。
 中井英夫の『とらんぷ譚』の新装版も『真珠母の匣』で完結です。『とらんぷ譚』自体は、創元社から一冊本としても出ていますが、やはり手にとりやすさという面では、こちらの分冊版も捨てがたいですね。
 創元推理文庫からは、バリンジャー『歯と爪』とカレフ『死刑台のエレベーター』の新版が登場。どちらも名作だと思いますが、個人的には『死刑台のエレベーター』が好きですね。シンプルなサスペンスに特化しているだけに、リーダビリティは高いと思います。
 ウィリアム・リッチー・ニュートン『ヴェルサイユ宮殿に暮らす 優雅で悲惨な宮廷生活』は、貴族の日常生活に迫ったノンフィクションだそうですが、ちょっと気になったので挙げておきます。
秘密の庭  アイナール・トゥルコウスキィ『月の花』
4309271774月の花
Einar Turkowski
河出書房新社 2010-03-25

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 独特の美意識に裏打ちされたユニークな造形と、驚異的な画力。前作『まっくら、奇妙にしずか』で我々を驚かせてくれたドイツの絵本画家、アイナール・トゥルコウスキィ。『月の花』(鈴木仁子訳 河出書房新社)は、そんな彼の新作絵本です。
 前作同様、ストーリーは単純です。周りの人間から離れて、ひとり大きな屋敷に住む男が主人公。彼は植物や動物などの自然を愛し、ひとり暮らしでありながらも、充実した生活を送っていました。そんなある日、庭のかたすみに、不思議なつぼみが芽吹いていることに、男は気づきます。花を咲かせようと、男はいろいろな方法を試します…。
 今回の作品では、登場人物(登場する人間といった方がいいでしょうか)は、主人公ひとりのみ。何せ、物語は男の住む屋敷内だけで展開するのですから。前作とは対照的です。
 前作では、主人公と周りの人間とのやりとりの中で、グロテスクな人間模様が描かれ、そこが作品の魅力のひとつともなっていました。それに対して、『月の花』では、人間の代わりに登場するのは、植物や、庭を訪れる昆虫や動物たちなのです。
 その植物や動物たちも、ありきたりのものではありません。作者トゥルコウスキィのデザインになる、架空の不思議な植物や動物たちなのです。植物や動物、ひとつひとつの奇抜な造形を見ているだけでも、まったく飽きさせません。
 前作でもそうだったのですが、トゥルコウスキィは、画面内の小物にいたるまで手を抜いていません。建物の何気ない一部でさえ、オリジナルの造形を施しているのです。そして、その細部の筆致はあくまでリアル。
 しかも、細部はリアルであるにもかかわらず、全体を見渡したときには、不思議な幻想性をたたえているところに、トゥルコウスキィ作品の魅力があります。
 解説によると、彼が使うのはHBのシャープペンシルだけであるとか。たった一本のシャープペンシルで、これだけ濃密な世界を構築できるとは、脱帽せざるを得ません。
 架空の植物誌や動物誌としても楽しめる作品ですので、例えば、レオ・レオーニ『平行植物』や、ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミゲーラ『秘密の動物誌』などがお好きな方にもオススメしておきます。
月の花4 月の花3 月の花1 月の花2

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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