最近入手した本など
 最近入手した本を、未読・既読とりまぜて紹介したいと思います。


ピエール・ルイス『ポーゾール王の冒険』(東京創元社)
ピエール・ルイス『紅殻絵』(奢灞都館)

 今世紀前半に活躍したフランスの作家、ピエール・ルイスの長編と短編集です。官能的・享楽的な作品で知られる人で、その軽やかさと洒落っけは、読んでいて非常に楽しいです。



4197202954EMANON さすらいエマノン Episode:1 (ロマンアルバム)
鶴田謙二
徳間書店 2010-02-24

by G-Tools

 梶尾真治の人気作『エマノン』の漫画化作品の第二弾です。といっても、タイトルに「Episode:1」とあるように、内容はすごく短いです。それをオールカラー、大きいサイズのムック形式で出した、というところが売りなんでしょう。鶴田謙二の絵は魅力的ですが、どうも物足りない一冊。



4860112024二十世紀から出てきたところだけれども、なんだか似たような気分
本の雑誌社 2010-03-15

by G-Tools

 作家、翻訳家として知られる鏡明のエッセイ集です。『本の雑誌』の長期連載からまとめられたものだそう。主にSFをテーマにして始まったエッセイですが、SF以外のことを語っている部分がかなり多いのが特徴です。ただ、そういう部分も含めて思わず読ませてしまう、というのは話芸なのでしょう。SF関連書というよりは、普通のエッセイ集として読んでみたい本です。



泰平ヨンの回想記
泰平ヨンの回想記 (1981年) (ハヤカワ文庫―SF)
早川書房 1981-11

by G-Tools
スタニスワフ・レム『泰平ヨンの回想記』(ハヤカワ文庫SF)
 このあいだ新訳の出た『泰平ヨンの航星日記』の《泰平ヨン》シリーズの第二作品集です。『航星日記』が宇宙を舞台にしたスラップスティックな作品中心なのに対して、この『回想記』は地球を舞台にしています。作品はどちらかというとホラー寄りなのが特徴です。ガジェットとしては古びているものもありますが、テーマとしては今でも全く古びていないのはさすが。仮想世界テーマさえ扱っていることに驚きます。



英国流立身出世
英国流立身出世と教育 (岩波新書)
岩波書店 1992-06

by G-Tools
小池滋『英国流立身出世と教育』(岩波新書)
 英国の「立身出世」と「教育」を著者得意の文学とからめて書いた本です。イギリスの学校の由来や、当時の教育環境など、19世紀のイギリス作品を読むうえで、ひじょうに参考になります。ディケンズの社会改良家としての面を描いた部分は面白いですね。



4033481702はなおとこ
ジョエル スチュアート
偕成社 2009-06

by G-Tools

 主人公は「はなおとこ」。鼻に足が生えた、奇妙なキャラクターです。この主人公が自分の居場所を求めてさすらう、というようなストーリーですが、面白いのは、この主人公が訪れるそれぞれの背景が「はなおとこ」の鼻の部分と合わさって、ひとつの「顔」に見えるというところ。毎ページ、いわゆる「だまし絵」になっているわけです。アルチンボルドの作品を知っている人なら、あんな感じといえば、わかってもらえるでしょうか。



4887830009アルチンボルド (ニューベーシック) (タッシェン・ニューベーシック・アート・シリーズ)
タッシェン 2001-06-13

by G-Tools

 上にも名前を挙げたジュゼッペ・アルチンボルドの作品集。廉価な美術作品集で知られるタッシェン社のニューベーシック・アート・シリーズの一冊です。このシリーズ、けっこう丁寧な解説と充実した図版で重宝します。有名画家だけでなく、あまりメジャーでない画家の作品集もたまに入っていて、この『アルチンボルド』もそんな一冊。簡単に説明すると、この画家は、いろんな物を集めて人の顔に見せるという「だまし絵」で知られる人です。アルチンボルドの絵は、いろんな所で引用されたり紹介されたりしているので、一枚ぐらいは見たことがあるかもしれません。ただ、これだけまとまって彼の作品を見ることができる画集は、日本では今のところこれくらいしかありません。値段もリーズナブルでオススメしたい一冊です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

4月の気になる新刊と《20世紀イギリス小説個性派コレクション》
4月6日刊 『ヒー・イズ・レジェンド』(小学館文庫 予価860円)
4月15日刊 中井英夫『とらんぷ譚3 人外境通信』(講談社文庫)
4月21日刊 ダニエル・ウォレス『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』(武田ランダムハウスジャパン 予価2310円)
4月24日刊 大槻ケンヂ『大槻ケンヂが語る江戸川乱歩 私のこだわり人物伝』(角川文庫 予価460円)
4月25日刊 coco『今日の早川さん3』(早川書房 予価1050円)
4月25日刊 coco『今日の早川さん3 限定版』(早川書房 予価1785円)
4月28日刊 シャーロット・アームストロング『風船を売る男』(創元推理文庫 予価1050円)
4月刊 レイ・ブラッドベリ『ナウ・アンド・フォーエバー』(仮題)(晶文社 予価1995円)
4月刊 スタニスワフ・レム『短篇ベスト10』(国書刊行会 予価2940円)
4月刊 アドルフォ・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』(国書刊行会)

 『ヒー・イズ・レジェンド』は、リチャード・マシスンへのトリビュート作品を集めたアンソロジーです。正直なところ、トリビュートアンソロジーよりも、本人の未訳作品をもっと出してもらった方がいいような気はするのですが、これが呼び水になる可能性もあるので、期待したいところです。
 本読みにはお馴染み、『今日の早川さん』の3巻が登場。限定版は「早川さんいろはかるた」付きだそうです。CDドラマ企画も進んでいるそうで楽しみですね。
 『風船を売る男』は、シャーロット・アームストロングの久方ぶりの邦訳。アームストロングは、日常的な風景からサスペンスを醸成する仕方が上手いので、とくにミステリ好きでなくても楽しんで読める作家だと思います。
 ちゃんと来月に出るか怪しいですが、国書刊行会のビオイ=カサーレス短編集『パウリーナの思い出に』は、来月いちばんの要注目作品ですね。短篇の邦訳は十編に満たないくらいだと思うのですが、どれもが硬質な幻想小説の佳作でした。表題作『パウリーナの思い出に』は、分身テーマのアンソロジーにも収録されたことのある名作です。

 先月の気になる新刊でご紹介した、《20世紀イギリス小説個性派コレクション》の第1弾、マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』、入手しました。まだ未読なのですが、驚いたのは、帯に書かれていたシリーズ続刊のタイトルです。並べてみましょう。

シルヴィア・T・ウォーナー『フォーチュン氏の楽園』
マックス・ビアボーム『ズリイカ・ドブソン』
パトリック・ハミルトン『孤独の奴隷』
エヴェリン・ウォー『卑しい肉体』

 エヴェリン・ウォーは、イヴリン・ウォーのことだと思いますが、それ以外は何ともマニアックなラインナップです。なかでも注目はシルヴィア・T・ウォーナーでしょう。邦訳は『妖精たちの王国』(月刊ペン社)だけだと思います。以前ちょこっと紹介したのですが(http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-266.html)、この作品は僕のオールタイムベストになっています。これは楽しみですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

悪夢の実験  ボアロー、ナルスジャック『私のすべては一人の男』
私のすべては一人の男
私のすべては一人の男 (1967年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
中村 真一郎
早川書房 1967

by G-Tools

 巧緻なサスペンスを得意とするフランスのコンビ作家、ボアロー、ナルスジャック。彼らの作品の中でも、とりわけ異色な味わいを持つのが『私のすべては一人の男』(中村真一郎訳 ハヤカワ・ノヴェルズ)です。
 臓器移植の大家マレック教授は、政府の協力を得て、大胆な実験を計画します。それはひとりの人間の体を、複数の人間に移植しようというものでした。しかし、それには五体満足な体が必要でした。そこで選ばれたのは、残虐な死刑囚ルネ・ミィルティル。改悛の情を見せているミィルティルの体は、死刑執行後、即座に移植手術に使われることが決定します。
 事故で重傷を負った、7人の患者たちに施された手術は全て成功し、患者たちは命を取り留めます。死刑囚の体を手術に使用した事実を伏せたまま、彼らの様子を見守るように指令を受けたギャリックは、患者たちの様子を見守ることになります…。
 題材が猟奇的なものなので、どぎつい物語を期待しがちですが、意外と淡白なトーンで話は進みます。手術が終わった後は、語り手のギャリックが手術後の患者たちを観察するくだりが続くのですが、このあたりもなかなかの読みどころです。
 うだつの上がらなかった画家は、腕を移植されたことによって独自の画風を生み出し、肺を移植されたミュージシャンは活力を取り戻します。足を移植された男は、同じくもう一つの足を移植された女に恋情を抱くようになるのです。
 観察者のギャリックもまた、かってのミィルティルの恋人レジィーヌと出会うに及んで心をかき乱されます。いまだミィルティルに執着を抱くレジィーヌは、恋人の体が移植された患者たちに会ってみたいと言い出し、ギャリックを困惑させます。
 しばらくは何の問題もなかったように見えたものの、やがて患者のひとりジュモージュが自殺したのを皮切りに、患者たちの自殺が続きます。ギャリックは疑問を抱きはじめるのですが…。
 死刑囚の体を移植された患者たちに、異常が起こり始める…。ホラーの愛読者ならば、超自然的な展開を予想しますが、面白いのは、あくまで合理的に謎が解き明かされるという点です。その解決には、ミステリ慣れした人も驚かされるはず。一読の価値はある怪作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

理想の人生  ディヴィッド・アンブローズ『リックの量子世界』
4488735010リックの量子世界 (創元SF文庫)
渡辺 庸子
東京創元社 2010-02-20

by G-Tools

 最愛の妻が死んでしまったとき、あなたはどうしますか? どうにもならない現実を前に、現実を変えてしまった男を描いたのが、ディヴィッド・アンブローズ『リックの量子世界』(渡辺庸子訳 創元SF文庫)です。
 最愛の妻と、信頼できる友人。出版の仕事も順風満帆だったリックは、ある日突然、異様な感覚に襲われます。妻が危ないと感じた彼は、会議の席を抜け出します。たどり着いた場所で見たのは、事故にあった自動車。そしてその中には、息をひきとる寸前の妻の姿がありました。
 認めたくない現実を前に、リックは必死で現実を否定します。そして気が付いたときには、妻は無事で、なぜか自分が事故で大怪我をしていたのです。妻が生きていたことに安堵するリックでしたが、周りの世界がどこかいつもと違っていることに気がつきます。
 自分達の息子のチャーリーは存在せず、仕事も異なる。そして妻や親友までもが、どこか今までと違っているのです。精神を病んでいると判断されたリックは、盲目の精神科医エマの診断を受けることになります。エマの催眠療法にかかったリックは、自分がいた世界とは異なる別の世界に来ていることを知るのです。
 この世界の自分は「リチャード」と呼ばれており、リックの精神はその別の自分の体に同居しているらしいのです。しかも同時に体の支配権を得ることはできません。リックは、リチャードと協調し、元の世界に帰る方法を模索し始めます…。
 大まかには似ているものの、少しずつ異なった別の世界、パラレルワールドに来てしまった男を描く物語です。妻の死を否定した主人公は、その死を回避したものの、また別の困難に出会ってしまいます。
 妻や親友を含めた周りの人間たちが、自分の知っているのとは微妙に異なる人間であること。だからと言って、もとの世界に戻れたとしても、そこはやはり妻が死んでいる世界なのです。新しい世界に適応しようと考えるリックでしたが、なかなか思うようにいきません。自分が知っているよりも淡白であるらしい妻、皮相的なつきあいでしかない友、そして何よりこの世界での自分自身(リチャード)が、リックにとっては俗物に感じられてしまうのです。
 やがて起こる愛憎問題を境に、悲劇的な事件を起こしてしまうリチャード。切羽詰まったリックがとった手段とは…?
 パラレルワールドが出てくるものの、その科学的な仕掛けよりも、主人公リックの内面描写が重視されていて、心理サスペンス的な要素が強くなっています。なかでも、ひとつの体に同居しているリチャードとリックのやり取りは、じつにユニーク。冷静なリックに対して、リチャードは短気に描かれています。リックを邪魔者とみなすリチャードに、自分の存在を認めさせることができるのか? このあたりの展開は興味深いですね。
 正直、最後の方で、ご都合主義的な部分はあるのですが、それを差し引いても、なかなか面白い作品だといえます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する