3月の気になる新刊
3月5日刊 日下三蔵編『日本SF全集2 1972-1977』(出版芸術社 2625円)
3月6日刊 『諸星大二郎ナンセンスギャグ漫画集・妙の巻』(ジャイブ 725円)
3月6日刊 『諸星大二郎ナンセンスギャグ漫画集・珍の巻』(ジャイブ 725円)
3月10日刊 鹿島茂『パリ、娼婦の館』(角川書店 予価2625円)
3月10日刊 オットー・ペンズラー編『ポーカーはやめられない ポーカー・ミステリ書下ろし傑作選』(ランダムハウス講談社海外文庫 予価998円)
3月上旬刊 『狩久探偵小説傑作選』(論創社 予価3570円)
3月21日刊 マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』(新人物往来社 予価1890円)
3月23日刊 ジェローム・K・ジェローム『改版 ボートの三人男』(中公文庫 予価820円)
3月25日刊 リチャード・マシスン『運命のボタン』(ハヤカワ文庫NV 予価882円)
3月25日刊 北村薫『ミステリは万華鏡』(角川文庫 予価600円)
3月26日刊 アイナール・トゥルコウスキィ『月の花』(河出書房新社 予価1890円)

 『パリ、娼婦の館』は、鹿島茂お得意の19世紀フランスに関する本。今回は、「娼婦の館」を扱っているそうです。
 オットー・ペンズラー編『ポーカーはやめられない ポーカー・ミステリ書下ろし傑作選』は、ポーカーを扱ったミステリを集めた書き下ろしアンソロジー。
 3月の新刊でいちばんの要注目本はこれです。マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』。マーガニータ・ラスキといえば、怪奇小説アンソロジーに収録された『塔』という作品で名前をご存じの方もいるでしょう。独特の雰囲気のある作品でした。
 本作は、ラスキのファンタジー的要素の強い長編小説だそうです。あらすじを引用させてもらうと「幸せな生活に満足していたメラニーが、ある日、骨董屋で買ったヴィクトリア時代の寝椅子でうたた寝して目覚めると、1800年代にタイムスリップし、寝椅子の元の持ち主であるミリーという女性になっていた。」というような物語。翻訳は横山茂雄だそうで、これもまた期待大ですね。
 ユーモア小説の古典『ボートの三人男』の改訳版が登場。これをインスピレーション元にしたコニー・ウィリス作品のおかげで、再度脚光を浴びるようになった作品ですが、ユーモア小説として今読んでも充分に面白い作品です。イギリス流のとぼけたユーモアは絶品ですので、ウッドハウスなどがお好きな方はぜひ。
 『運命のボタン』は、表題作の映画化に合わせた企画のようですが、中身は日本オリジナル編集だそう。異色作家ファンは外せないでしょう。
 北村薫『ミステリは万華鏡』は、以前集英社文庫から出たものと同一タイトルなのですが、再刊でしょうか。北村薫のエッセイは、本格ミステリの話題から「日常の謎」まで、あらゆる話題を「ミステリ話法」で語っているので、題材そのものに直接興味がなくても読ませられてしまいます。エッセイの理想的な形のひとつと言っていいのではないでしょうか。
 ダークな色調と物語で楽しませてくれた『まっくら、奇妙にしずか』のアイナール・トゥルコウスキィの絵本の第二弾『月の花』が登場。これは楽しみです。
眩惑のミステリ  パオロ・マウレンシグ『狂った旋律』
4794208634狂った旋律
Paolo Maurensig
草思社 1998-12

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 オークションで、17世紀に作られたバイオリンの名器を手に入れた語り手の前に、小説家を名乗る男が現れます。彼はヴァイオリンを譲ってくれないかと申し出ます。理由を尋ねる語り手に対し、小説家はそのバイオリンの元の持ち主の数奇な生涯を語り始めます…。
 こんな魅力的なプロローグで始まるのが、イタリアの作家、パオロ・マウレンシグの『狂った旋律』(大久保昭男訳 草思社)です。語りの中に語りがあり、さらにその中に語りがあるという重層的な構造。真実はいったいどうなっているのか? 読者はそんな疑問にとらわれつつ、物語を読み進めることになります。
 小説家が酒場で出会った、うらぶれた男。しかし彼の弾くバイオリンは超一流でした。イエネー・ヴァルガと名乗る男は、自分の生涯を話し始めます。ハンガリーの片田舎に生まれたヴァルガは、私生児として母親に育てられました。父親が残していったバイオリンに触れるようになったヴァルガは、才能をめきめきと現します。やがて名門の音楽学校に入学を許されたヴァルガは、そこで親友となるクーノと出会います。貴族の子弟であるクーノの屋敷に招かれたヴァルガでしたが、やがて二人の間に軋轢が生まれ始めます…。
 貧しい家に生まれながら、音楽の才能によりその環境から抜け出す主人公。閉鎖的な学校での行き詰まるような生活。身分違いの友との軋轢。そして、音楽に情熱を燃やし続ける少年の前に近付く戦争の足跡。
 単純に、少年の成長物語として読んでも、充分に面白い作品です。ことに、友情を誓い合ったヴァルガとクーノが、やがて袂を分かつことになるまでの、心理的な描写は読みごたえがあります。そしてクーノの父親の屋敷でヴァルガが出会う希望と幻滅。
 結末に至って、物語はその様相を変えてきます。ヴァルガ少年の生涯を語り終える前に、ヴァルガは行方をくらましてしまいます。やがて明かされる意外な事実により、ヴァルガという男は本当に存在したのかさえもが曖昧になってくるのです。そしてバイオリンを手に入れた語り手もまた、ヴァルガと関わりのある人間だということが明かされます…。
 結末でそれまでの物語が反転してしまうという重層的な語り。目眩を起こさせる、不思議な味わいの音楽ミステリです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

『SFが読みたい!』2010年版
415209107XSFが読みたい! 2010年版―発表!ベストSF2009国内篇・海外篇
SFマガジン編集部
早川書房

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 毎年恒例の『SFが読みたい! 2010年版』(早川書房)が発売され、さっそく目を通してみました。正直、年度ベストにはあまり興味がないのですが、去年読んで衝撃を受けた『紫色のクオリア』(うえお久光)が日本編の10位に入っていたのは嬉しかったです。
 海外編では、3位の『洋梨型の男』(ジョージ・R・R・マーティン)、4位の『TAP』(グレッグ・イーガン)、8位の『時の娘』(中村融編)、13位の『金剛石のレンズ』(フィッツ=ジェイムズ・オブライエン)あたりが、既読のもの。
 毎回そうなのですが、普段とくに要注目しているわけではないジャンル、とくにライトノベルなどで、気になる作品が出て来たりすることがあるので、このガイドは重宝するんですよね。今回気になったのは、樺山三英の『ハムレット・シンドローム』(小学館ガガガ文庫)という作品。久生十蘭の『ハムレット』を翻案した作品らしいです。
 あとは、スルーしていたんですが、アラン・ムーアの『フロム・ヘル』は、やっぱり評価の高い方が多いようで、気になってきました。
 今年度版の特別企画は、『ゼロ年代SFベスト』。アンケートによるベスト、座談会、ベスト30ガイド、で構成されています。海外ものに関しては、ゼロ年代に翻訳された作品という解釈のため、レムの『ソラリス』、べスターやウルフ、ディッシュの作品も入っていたりします。
 そして一番楽しみにしている、各出版社の2010年刊行予定のコーナー。まず目を引かれたのが、河出書房の《ストレンジ・フィクション》という新シリーズです。《奇想コレクション》の長編版といった趣のシリーズのようで、第一段は、アブラム・デイヴィッドスン『エステル・ハージイ博士の事件簿』になるとか。
 《奇想コレクション》の方の新刊は、テリー・ビッスン短編集の第2弾です。うーん、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』は、刊行予定が出てから何年も経っていますが、いっこうに出ませんね。
 国書刊行会からは、ビオイ=カサーレスの短編集『パウリーナの思い出に』、ジャック・ヴァンスの傑作集、『アルフレッド・ジャリ全集』あたり。あと気になるのは、扶桑社のリチャード・マシスン『縮みゆく人間』新訳版と日本オリジナル短編集ぐらいでしょうか。
 今年度版は、特別企画がちょっと物足りない感じでした。結局ベストのベストみたいな感じになっちゃってますし。テーマ別のガイドなんかをつけてくれると嬉しいんですけどね。
ブログ開設4周年と《パラノイアSF》のはなし
 2月7日で、ブログ開設4周年となりました。改めて御礼申し上げます。
 久々に、ブログの過去エントリを読み直してみたのですが、驚くほど今現在と嗜好が変わっていないなあ、と自分でも思いました。趣味が偏っているといえばそうなのですが、逆に言えば、安定した方向性があるということでもあります(と、自分を納得させております)。ともあれ、これからも応援してくださると幸いです。

 さて、話は変わりますが、僕には昔から、気になるジャンルというか、テーマの作品がありました。SFやファンタジー、ホラー系統の作品を読んでいて、あっ、こういう話好きだなあ、と思わされるような作品に時々出会いましたが、こういう話を何と呼ぶのかわからなかったのです。それらの作品は、SFの伝統的なテーマ分類で言えば、〈パラレルワールド〉であるとか〈次元・空間テーマ〉に分類されるものが多いようでした。具体的なタイトルとしては、フレドリック・ブラウンの『事件はなかった』『唯我論』『火星人ゴーホーム』、ロバート・A・ハインライン『彼ら』、フレデリック・ポール『幻影の街』、ロバート・シェクリィ『夢売ります』、シオドア・スタージョン『昨日は月曜日だった』、アラン・E・ナース『悪夢の兄弟』あたりの作品です。
 長年のもやもやが晴れたのは、以前にも紹介した山本弘のSFガイド本『トンデモ本?違う、SFだ!』(洋泉社)を読んでからでした。この本の中で紹介されていた《パラノイアSF》の項を読んでいて、これだ!と思い当たったのです。『トンデモ本?違う、SFだ!』から引用させてもらうと、次のような説明になります。

 「現実は見た目通りではない」「我々が現実と思っているものはフィクション(夢、妄想、小説、芝居、コンピュータ・シミュレーション)にすぎない」という発想で書かれた話だ。

 この世界が誰かの見ている夢だった、とか、コンピュータ上に再現された世界だった、とかいう類いの話ですね。街全体が、政府の実験のためにしつらえられていた、というように、現実的に解釈される場合もあるし、世界全体が作家の創作だった、というメタフィクション的な場合もあります。今で言う「ヴァーチャル・リアリティ」や「仮想現実」を扱ったものも、このテーマに含められるでしょう。
 世界や現実が見た目通りではない、偽りの世界である、というところから、真実の世界の探求、もしくは現実の改変、といった展開になることが多いようです。このテーマの魅力は、日常生活に倦んでいる読者に、別世界への可能性を見せてくれるところにあるのでしょう。または、強固だと思っていた現実が、意外とたわいないものであったことからくる、驚きと認識の変化。これを言い換えて「センス・オブ・ワンダー」といっていいのかもしれません。
 ですが、この手のテーマを読み慣れてくると、やはり新鮮さはなくなってきます。オチや結末にこのテーマが使われていることが多い、ということもあります。つまり、種あかしとして、この世界は「虚構」だった、と示されるわけです。
 そんな中で、最近新鮮な驚きを味わったのが、谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ(角川スニーカー文庫刊)です。世間では大分流布した作品なので、具体的なあらすじは省かせてもらいますが、この作品の斬新なところは、「世界」が「虚構」だったという事実を、結末ではなくて、スタート地点に持ってきてしまうところにあります。序盤で真相が明かされてしまい、後は事態をどう打開するのか、といった面に焦点が当てられることになるのです。
 と同時に、この作品の人気が出た理由の一端が何となくわかったような気もしました。キャラクター人気的な面は別として、この作品の《パラノイアSF》的な面が、読者にとって非常に魅力的に感じられたのではないでしょうか。SF作品をそれなりに読んできた自分でも、充分魅力的な作品でしたが、SFのアイディアに慣れていない読者は、かなりの「センス・オブ・ワンダー」を味わったのではないかと思います。
 そんなわけで、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ、オールドSFファンも楽しめる作品だと思うのでオススメしておきます。とくに4巻『涼宮ハルヒの消失』は、傑作だと思うので是非。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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