2009年を振り返って(主に漫画の話)
ももきや 1 (GAコミックス) フライングガール 1 (IKKI COMICS) 笠辺哲 短編マンガ集 バニーズ ほか  IKKI COMIX 第七女子会彷徨 1 (リュウコミックス) アフター0―著者再編集版 (1) (ビッグコミックスオーサーズ・セレクション) 冒険野郎伝説 アヴァンチュリエ (BEAM COMIX) 刻刻 1 (モーニングKC) 福助 1 (モーニングKC) ペット リマスター・エディション 1 (BEAM COMIX) あめのちはれ 1 (B’s LOG Comics) かげふみさん 1 (バーズコミックス) オトノハコ (KCデラックス) 全能のノア 1 (BUNCH COMICS) 俺と彼女と先生の話 (WINGS COMICS)
 今年ももうすぐ終わりということで、ちょっと雑感を。

 今年は、小説作品だけではなくて、漫画作品をずいぶん読んだように思います。もともと漫画は好きでしたが、ここ何年かはそれほど積極的に読んでいなかったんですよね。なかなか忙しかった関係で、活字作品より手にとりやすかったというせいもあるかもしれません。知らなかった作家や作品に、積極的に手を出してみたりして。その中で、いくつか収穫もありました。とりあえず、順不同で主だったタイトルを挙げてみます。
 笠辺哲の作品(『ももきや』『フライングガール』『バニーズ』)、つばな『第七女子会彷徨』、岡崎二郎の諸作品(とくに『アフター0』)、クリストフ・クリタ『冒険野郎伝説 アヴァンチュリエ』、 堀尾省太『刻刻』、伊藤静の作品(『福助』『なんじゃもんじゃ』)、三宅乱丈『ペット』、びっけ『あめのちはれ』、小路啓之『かげふみさん』、岩岡ヒサエの作品(とくに『土星マンション』『オトノハコ』)、小野洋一郎『全能のノア』、トジツキハジメ『俺と彼女と先生の話』など。
 並べてみると、やっぱりSFやファンタジーがかった作品が多いです。いくつか簡単に紹介しておきましょう。
 今年一番はまった漫画家といえば、笠辺哲なんですが、この人の作品はどれも面白かったです。たいてい不思議な道具が出て来て、それによって主人公たちがドタバタに巻き込まれるというパターンが多いんですが、どれも絶妙なユーモアセンスで、笑えるんですよね。
 つばな『第七女子会彷徨』もおかしな発明品が出てくるという点では共通してますが、こちらは主人公が女子高生だけに、ちょっと小洒落た感じ。
 岡崎二郎は、しっかりした科学考証に裏打ちされた、安定した出来の短編が多く、安心して読める作家です。『アフター0』はオムニバス短編集で、『トワイライトゾーン』風の異色短編も多く収録されています。基本的にヒューマニズムの人なので、後味が良いのがいいですね。
 クリストフ・クリタ『冒険野郎伝説 アヴァンチュリエ』は、ハーフの作家だそうですが、今時珍しいタイプの冒険もの短編集。洗練された画風と、ジュール・ヴェルヌを思わせるストーリーが魅力的です。
 堀尾省太『刻刻』は、時を止まった世界を移動できる能力を持った一族と、それを狙う組織の戦いを描くサスペンス。三宅乱丈『ペット』は、人の精神を破壊できる超能力者たちをめぐる作品。
 びっけ『あめのちはれ』は、「雨」の間だけ性転換してしまう、五人の高校生の少年を描く学園もの。性転換ものなら、過去にも例がありますが、人数が五人というのは非常に面白い試みですね。トジツキハジメ『俺と彼女と先生の話』は、いわゆる「心霊もの」になるんでしょうか、霊に触れる能力を持った青年と少女を描く物語。最終話の「冥界くだり」のシーンは圧巻です。
 このあたりの漫画に関しても、そのうち細かくご紹介したいなと考えています。

 とくに感想やレビューはしなかったのですが、以前完集したとお伝えした《異形コレクション》シリーズ。最新の2、3巻は除いて、ほぼ読み終えました。初期のものよりも、新しい巻の方がより秀作が多くなっているように感じました。あとテーマが、伝統的なテーマのものより、ちょっと変わった趣向とかSFよりのテーマのものの方が面白く読めたような気がします。
 時間テーマをSFではなくホラーに引き寄せた『時間怪談』、かなり曖昧なイメージなので書きにくかったろうなと思わせる『夢魔』、幽霊にSF的な解釈を加えた『心霊理論』、もろSF的なテーマな『進化論』あたりが良かったですね。ショート・ショートを集めた『ひとにぎりの異形』なんてのも面白かったです。
 書き下ろしアンソロジーの常として、玉石混淆なのは否めませんが、全体的な水準で言えば、相当ハイレベルなアンソロジーになっているのは確かだと思います。

 毎年書いているような気がしますが、積読本は全然減らなかったです。というか、増えてます(笑)。とくに長編もの。長編に関しては、普段なかなか読めないので、正月休みを利用して読んでおきたいですね。とりあえず、レ・ファニュ『墓地に建つ館』とかM・G・ルイス『マンク』あたりは、なるべく早く読んでおきたいところです。
 
 これで、年内最後の更新になるかと思います。今年も一年お世話になりました。
ユーモアと幻想  エルクマン-シャトリアン『怪奇幻想短編集』
シャトリアン
 エルクマン-シャトリアンは、アルザス・ロレーヌ地方出身である、エミール・エルクマンとアレクサンドル・シャトリアンの二人からなる合作作家のペンネームです。19世紀後半に、主に地方色豊かな大衆小説で人気を得ました。
 本邦では、彼らとしては余技だった、短編怪奇小説の書き手として認識されているようです。とくに平井呈一の訳になる『見えない眼』『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)は、読者に強い印象を残しています。ただ、邦訳短編の数は数編にとどまり、彼らの怪奇短編を俯瞰するには難しい状況が続いていました。
 今回、同人出版という形ではありますが、エルクマン-シャトリアン『怪奇幻想短編集』(小林晋訳 ROM叢書)が刊行されたことは、じつに意義のあることと言わねばなりません。
 以下、主だった作品を紹介していきたいと思います。

 『謎のスケッチ』 経済的に困窮していた画家の「私」は、ある夜、衝動に突き動かされてスケッチを描きあげます。それは殺人の場面を描いた陰鬱な作品でした。しかしスケッチに描かれた情景は、実際に起きた殺人事件の犯人しか知り得ないとして、「私」は投獄されてしまうのです…。
 神秘的な力に突き動かされて描いたスケッチ。それは得難い能力なのか、それとも…。怪奇現象の理由がまったく説明されないところが、不安感を高めています。

 『ハンス・シュナプスの遠眼鏡』 変人として知られる薬剤師ハンス・シュナプス。彼の作り出した遠眼鏡には不思議な力がありました。見るものの心のままに、望む世界を見せてくれるのです…。
 短めの作品ながら、なんとも魅力的なレンズ嗜好の一品。

 『梟の耳』 梟の耳と呼ばれる廃墟に、何者かが潜んでいるという報を受けた村長は、その場所で不審な小男をとらえます。しかし事情を聞く前に、男は首を吊って死んでしまいます。男が潜んでいた場所から発見された文書にはある秘密が…。
 文書に描かれた秘密は本当なのか、それとも男の妄想なのか? 曖昧な結末が味を出しています。『ハンス・シュナプス』同様、SF味のある作品。

 『親方の懐中時計』 一稼ぎにやってきた楽士の二人組が、泊まった旅籠で殺人事件に遭遇します。遺留品の懐中時計を証拠として捕まった相棒の嫌疑を晴らそうと、「私」は奔走しますが…。
 犯人はいったい誰なのか? サスペンス風味豊かな一編。

 『三つの魂』 狷介な学者ヴォルフガング・シャルフには、一つの持論がありました。人間には三つの魂がある。植物魂、動物魂、そして人間魂。この仮説を証明するために、彼はカトリーヌ婆さんを監禁し、飢えさせていました。シャルフは、その事実を知った「私」までも監禁しようとしますが…。
 狂気の人体実験を繰り返す学者。監禁された人間の描写は、じつにリアル。今読んでも、迫力のあるサスペンス作品です。

 『ハンス・シュトルクス』 聖歌隊指揮者の職を得て、ようやく名士となった「私」は、旅の途中で、ハンス・シュトルクスと名乗る測量技師と出会います。学問的情熱に燃える彼は、化石の蒐集をしていました。シュトルクスに蒐集品を身に来ないかと誘われた「私」が聞いたのは、彼が殺人を犯したという知らせでした…。
 情熱の対象を奪われた不遇な男が起こした事件とは…。哀愁感ただよう、スケッチ風小品です。

 『蟹蜘蛛』 温泉地で発見された白骨死体は、原因不明の事件として処理されていました。「私」と友人のサー・トーマスは、洞窟のそばの池を訪れますが、サー・トーマスは死体となって発見されます。「私」は、後見人であるヴェーバー医師に助けを求めますが…。
 奥地に怪物が潜んでいたという、典型的な怪物ホラー。ただ怪物の造形にはインパクトがあります。

 『鴉のレクイエム』 音楽家のツァハリアス伯父は、スランプに悩んでいました。彼は仕事の邪魔をする鴉を悪魔の化身だと信じていたのです。奇人のハーゼルノス医師は、伯父の飼っている猫と引き換えに、彼の悩みを解消しようと申し出ますが…。
 ツァハリアス伯父といい、ハーゼルノス医師といい、登場人物がコミカルかつ情感豊かに描写されるのが、じつに魅力的。終始ユーモラスな調子のスラップスティックな作品です。

 『見えない眼』 屋根裏部屋に住む画家のクリスティアンは、窓から見える旅籠屋で首吊りを目撃します。しかも首吊りは、これが最初ではないというのです。旅籠屋の向かいの家に住む奇怪な老婆が、首吊りの原因なのではないかと疑うクリスティアンは、ある対策を考えますが…。
 平井呈一の既訳がある作品ですが、英語からの重訳ではなく、フランス語からの翻訳になります。何度読んでも迫力のある、名作短編といえます。

 『壜詰めの村長』 ぱっとしない宿で口にしたワインに感銘を受けた友人のヒッペルは、その夜、悪夢にうなされて目を覚まします。なんと彼は夢の中で、とある村の村長だったというのです。強欲な村長が死ぬまでを体験したというヒッペルの言葉に、「私」は半信半疑でしたが、実際に夢に見た村にたどり着くに及んで、彼の言葉を信じ始めます…。
 夢の中で他人の人生を生きるという、テーマだけを見れば目新しさのない作品ですが、夢の中で語られる村長の人物描写がリアルで読みごたえがあります。客観的には嫌われ者の村長と一体化したために、彼をあくまで良く見てしまうヒッペルの姿に、皮肉なユーモアが感じられます。

 『絞首人のヴァイオリン』 才能はありながらも、オリジナリティに欠けるという師の言葉を受けて、ハーフィッツは、それを克服する旅に出ます。ふと立ち寄った宿屋で、彼は不審の念にかられます。狂ったような娘の言葉、野ざらしになった絞首人によく似た亭主、そして深夜に聞こえるヴァイオリンの音…。
 硬派なゴースト・ストーリー。出現する幽霊の立ち回りの描写が、実に繊細で素晴らしいです。

 『蜜蜂の女王』 アルプスの山を訪れた植物学者のエネティウスは、山の中で三人で暮らす親子に出会い、彼らの家に世話になることになります。純朴な家族に親愛の念を抱くエネティウスでしたが、なかでも盲目の幼い娘レーゼルにひときわ惹かれます。彼女は盲目にもかかわらず、山の天候や様子を正確に言い当てるのです…。
 蜜蜂との共感能力を持つ娘を描いた作品です。終始やさしい雰囲気で描かれた、心あたたまる一編。

 タイトルに「怪奇幻想」とはありつつも、厳密には「怪奇幻想」でないものも含まれています。共通するのは、味のある人物描写と繊細な情景描写。ユーモアや哀感を盛り込む手腕はじつに巧みです。派手さには欠けるものの、読んでいて楽しい作品集になっています。
 訳文も上質で、古き良き怪奇小説のファンには、ぜひ読んでいただきたいですね。

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1月の気になる新刊と12月の新刊補遺
12月18日刊 巖谷國士監修『Scope 桑原弘明作品集』(平凡社 定価2100円)
 1月 8日刊 デイヴィッド・イーリイ『タイムアウト』(河出文庫 予価998円)
 1月 8日刊 スティーヴン・キング『夜がはじまるとき』(文春文庫 予価750円)
 1月 9日刊 シーベリイ・クイン『悪魔の花嫁』(創元推理文庫 予価966円)
 1月13日刊 吉村正和『心霊の文化史 スピリチュアルな英国近代』(河出ブックス 1365円)
 1月19日刊 フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』(河出書房新社 予価1995円)
 1月25日刊 エドワード・D・ホック『夜の冒険』〈現代短篇の名手たち8〉(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価882円)
 1月刊    諸星大二郎『MADMEN 最終版 THE DIRECTOR'S CUT』(光文社 予価2800円)


 まだ現物を確認していないのですが、桑原弘明の作品集『Scope 桑原弘明作品集』が平凡社から今月刊行です。「スコープ」とは、小箱の中に極小の部屋を作り、レンズ越しに中を覗くという、魅惑的なオブジェ。そんな「スコープ」を作り続ける桑原弘明の作品集です。同じく「スコープ」を扱った作品集『スコープ少年の不思議な旅』(パロル舎)が以前に出ていますが、あれも素晴らしい本でした。
 イーリイ『タイムアウト』は、晶文社から出た短編集『ヨットクラブ』の文庫化。とくに増補改訂はないようです。
 《ウィアード・テイルズ》で活躍したB級作家の雄、シーベリイ・クインの長編『悪魔の花嫁』が、創元推理文庫から登場。以前に《ダーク・ファンタジー・コレクション》から出た短編集が呼び水になったんでしょうか。できれば《ウィアード・テイルズ》とか《アーカム・ハウス》系統の作品を、どんどん出してほしいところですね。
 1月の目玉はこれ、《奇想コレクション》の新刊、フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』。猫ものとして有名な〈ガミッチ〉シリーズ連作を中心としたセレクションとのこと。これは楽しみ。
清澄なファンタジー  コッパード『天来の美酒/消えちゃった』
4334751970天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)
Alfred Edgar Coppard
光文社 2009-12

by G-Tools

 イギリスの作家、アルフレッド・エドガー・コッパード。本邦では、いくつかの怪奇小説の翻訳を通して親しまれてきました。例えば、『アダムとイヴ』『怪奇小説傑作集』創元推理文庫収録)や『消えちゃった』『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)などは、このジャンルのファンにとってはお馴染みでしょう。
 今回刊行された『天来の美酒/消えちゃった』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)は、1996年刊行の短編集『郵便局と蛇』(西崎憲訳 国書刊行会)に続く、二冊目の作品集になります。

『消えちゃった』 フランスへ旅行にやってきた夫婦ものとその友人。車を走らせているうちに、どことなく不安にとらわれた彼らは、近くの町に立ち寄ります。フランス語もできない友人が、買い物に行ったまま姿を消してしまったのを心配した夫婦は…。
 不安げな雰囲気につつまれた、奇妙な味の作品。なぜ人が「消えて」しまうのか? 結末の素っ頓狂さには一読の価値があります。

『天来の美酒』 親との反目から、独立独歩で生きてきた男ラッチワース。父親の死で財産を受け継いだ彼は、それを機に故郷へと戻ります。蔵にしまわれていた酒をふと飲んでみると、その味わいは絶品でした。残り一本を残して、あっという間に酒を飲み干してしまいます。最後の一本は、おばが亡くなったときに飲もうと誓いを立てます。そんな折り、美しい女性が屋敷を買いたいと、ラッチワースのもとを訪れます…。
 序盤から、まったく予想のつかないストーリーが展開され、結末に至っては奇妙なクライムストーリーに。酒はいったいどこから来たのか? 女性の目的は何なのか? いくらでも深読みのできる、ミステリアスな味わいの作品。

『ロッキーと差配人』 頭が弱いと皆から馬鹿にされているロッキー。しかし彼には不思議な力がありました。牛の疾病に悩む差配人は、駄目で元々だと、ロッキーに治療法を相談しますが…。
 ロッキーの使う魔術の描写がじつに楽しい一編。愛すべきファンタジーです。

『マーティンじいさん』 マーティンじいさんは昔、母親の言ったことを信じていました。最後に墓場に入った者は、奴隷になって他の者に仕えなければならない。愛する姪のモニカが死に、彼女が苦しんでいるのではないかと悩むじいさんは、牧師に助けを求めますが…。
 素朴なマーティンじいさんの願いは届くのか?「死」を扱っていながらも、どこか暖かさにつつまれた一編。

『去りし王国の姫君』 小さな王国を治める姫君は、美しい若者に恋をします。しかし若者は死に、姫君は悲しみに沈みます…。
 清澄なイメージにあふれた詩的な作品です。

『レイヴン牧師』 信徒たちを引き連れて天国の門にやってきたレイヴン牧師。全ての人間が罪のないものかと訊ねる天使に対して、逡巡しながらも牧師は「はい」と答えますが…。
 「いい話」かと思いきや、じつに皮肉な結末へ。単純な善悪問題に帰着させないところにコッパードの思想が垣間見れます。

『おそろしい料理人』 料理の腕は確かながらも傲慢な料理人は、地主の主人以外には、心を許さず、ついには地主夫人までをも罵倒します。解雇を言い渡した主人に対して、料理人はしつこく食い下がりますが…。
 終始、どこか調子外れなトーンで描かれる作品ですが、結末の一瞬に繰り広げられるシーンの美しさは絶品です。

『天国の鐘を鳴らせ』 農家の息子に生まれながら、俳優にあこがれる少年フェントンは、やがて望み通り俳優になります。しかし怪我をきっかけに俳優を諦めたフェントンは、ふとしたことから宗教団体の名演説家として名声を博することになります…。
 少年フェントンの生涯の遍歴を描いた、長めの短篇。宗教的、思想的な要素の強い作品ですが、読みごたえがあります。

 正式な学校教育を受けず、独学で学んだという経歴も影響しているのでしょう。どの作品も先が読めないというか、自由闊達な広がりを持っています。ジャンル分けを拒否する、まさに「ワンアンドオンリー」の作品群。贅沢な読書時間を楽しめます。

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欧米の怪奇小説をめぐって  怪奇小説の三大巨匠
M・R・ジェイムズ怪談全集〈1〉 (創元推理文庫) 怪奇クラブ (創元推理文庫 F マ 1-1) 白魔 (光文社古典新訳文庫) 心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿 (創元推理文庫) ブラックウッド傑作

 欧米怪奇小説の三大巨匠として、名前が挙げられるのが、アルジャーノン・ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、アーサー・マッケンの三人の作家。人によっては、ラヴクラフトや、他の作家を加えて四大巨匠とする場合もあったりするようですが、上記三人に関しては、ほぼ衆目が一致しています。
 幸い、日本でもこの三人は翻訳があり、主だった作品にふれることができます。ジェイムズに関しては、作品数が少ない関係もあり、ほぼ全作品を読むことができます。
 今回は、この三大巨匠に関して、一通り見ていきたいと思います。

 まず、M・R・ジェイムズから。三人の中では、最も怪談らしい怪談を書いた作家といえるでしょう。本職は学者で、怪奇小説は余技として書かれました。純粋に趣味で書かれたという経緯もあり、いい意味でのアマチュアリズムが感じられます。
 平凡な日常から、だんだんと怪異が起こっていく様を丁寧に描いていく、という手法は、現代の「モダンホラー」の源流とも位置づけられています。クライマックスに幽霊が出現したり、怪奇現象が発生したりするのですが、そのクライマックスに向かって、淡々と物語を盛り上げていく演出はまさに絶品。
 学者だけに、舞台を学校や古い遺跡にとったり、主人公が研究者だったりするのも、雰囲気を高めるのに一役買っています。
 作品は、長編ファンタジー『五つの壷』を除けば、全て短篇の怪奇小説です。魔女狩りをテーマにした『秦皮の樹』、あるはずのない部屋をめぐる『十三号室』、奇怪な銅版画をめぐる奇譚『銅版画』、ジェイムズにしては動きのある、オカルト小説『人を呪わば』など。
 創元推理文庫の『M・R・ジェイムズ怪談全集』(全2巻 紀田順一郎訳)で、その全貌がつかめます。

 アーサー・マッケンは、三人の中でもっともユニークな作家でしょう。彼の作品に現われるのは、牧神であったり妖精であったりと、人ならざるものたち。しかもそれらは「可愛らしい」ものではなく「邪悪」なものなのです。触れてはいけない超越的な存在に触れてしまった人間はどうなるのか? そんなテーマに憑かれた作家です。しかし作者自身、それらのものたちへの「官能性」に惹かれているところに、一種なまめかしい魅力もあるのです。
 宗教的、秘教的な面が強く、その面があまりに強く出てしまっている作品はかなり読みにくいため、読者を選ぶところがあります。かって出ていた『アーサー・マッケン作品集成』(全6巻 平井呈一訳 牧神社、後に沖積舎より復刊)で、主だった作品が読めますが、格別のファンでない限り、読み通すのは難しいかもしれません。
 最近刊行された『白魔』(南條竹則訳 古典新訳文庫)もなかなかいいセレクションなのですが、まず読むべきは、代表作とも言える短篇『パンの大神』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集1』収録)、スティーヴンソンの『自殺クラブ』を意識したという、連作短篇『怪奇クラブ』(平井呈一訳 創元推理文庫)でしょう。
 『パンの大神』は、脳外科手術の失敗で白痴と化した娘が牧神の子供を身ごもり、その娘が男たちを破滅させる…という物語。『怪奇クラブ』は、主人公たちが大都市ロンドンで出会う怪異を描いた連作短篇小説。なかでも『白い粉薬のはなし』のインパクトが半端ではありません。
 これらの作品を読んで、マッケンが気になるようになった方は、『作品集成』に進まれるとよいかと思います。

 アルジャーノン・ブラックウッドは、三人の中でもっとも作品数が多いため、未訳の作品も多数あります。知名度もいちばん高い作家でしょう。純粋に怪奇小説を「生業」にしたという点でも、特筆すべき作家だといえます。
 全体に汎神的、神秘主義的な傾向が強く、大自然や運命に対する畏敬の念が、たびたび作品の中に現れます。そのせいもあって、背景描写に独自の魅力が感じられます。例えば、『柳』(宇野利泰訳『幻想と怪奇1』ハヤカワ・ミステリ収録)や『ウェンディゴ』(紀田順一郎訳『ブラックウッド傑作選』創元推理文庫収録)といった自然を背景にした作品では、怪異そのものよりも、舞台となる自然の描写だけでも「怖く」なります。
 翻訳はたくさんあるのですが、ほとんどが絶版で、手に入りやすいものというと、『ブラックウッド傑作選』(紀田順一郎訳 創元推理文庫)と『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(植松靖夫訳 創元推理文庫 角川ホラー文庫版は『妖怪博士ジョン・サイレンス』)ぐらいでしょうか。
 『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』は、オカルトに通暁する医師、ジョン・サイレンスが巡り会う不可思議な事件を描いた連作短篇です。萩原朔太郎の『猫町』と比較されることもある『いにしえの魔術』『秘密の崇拝』『犬のキャンプ』あたりが力作ですね。
 『ブラックウッド傑作選』『ジョン・サイレンス』の収録作品が、かなり密度の濃い作品ばかりなので、ブラックウッドってこういう作家なんだと思いがちなのですが、意外とオーソドックスな怪談も多数書いています。例えば『幽霊島』『世界恐怖小説全集2』東京創元社)に収められた諸作品を読むと、それがよくわかります。呪いの人形をめぐる怪奇譚『人形』、ふと泊まったホテルの部屋での戦慄を描いた『部屋の主』、ヴァイオリンに執着する男の生霊を描く『片袖』など、エンタテインメントとしての完成度が非常に高くなっています。
 怪奇小説とはまたベクトルが違うのですが、長編『ジンボー』(北村太郎訳 月刊ペン社)、『妖精郷の囚われ人』(高橋邦彦訳 月刊ペン社)は、愛すべきファンタジーに仕上がっています。とくに『妖精郷の囚われ人』は、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』とも通底する作品なので、日本人には親しみやすい作品かと思います。
 比べて『ケンタウルス』(八十島薫訳 月刊ペン社)は、かなり思想色が強い作品なので、読者を選ぶところがありますね。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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