ここではないどこかへ  ゴンサルヴェス、トムソン『Imagine a Place』
1416968024Imagine a Place
Rob Gonsalves
Atheneum 2008-09-02

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 以前にこのブログでも紹介した、ロブ・ゴンサルヴェスとセーラ・L.トムソンのコンビによる二冊の絵本『終わらない夜』『真昼の夢』(ともに金原瑞人訳 ほるぷ出版)は、非常に魅力的な作品でした。chess_master.jpeg
 このシリーズの魅力は、なんといっても、ゴンサルヴェスのだまし絵にあります。現実ではありえない不思議な光景が、微細な描写で描かれ、ずっと見ていても飽かせません。空がいつの間にか海とつながってしまったり、小さなものがいつの間にか大きな建物になっていたりと、思いもかけないものが思いもかけない仕方で描かれ、毎回読者を驚かせてくれるのです。
 さて、そんなゴンサルヴェスとトムソンのコンビによる絵本の第三弾『Imagine a Place』(Atheneum)が出版されました。といっても、まだ邦訳の予定はないようなので、原書をご紹介します。
library.jpg  一冊目は「夜」、二冊目は「昼」と、大まかに作品集のテーマが決まっていたようですが、今回のテーマは「どこかの場所」といったところでしょうか。相変わらず驚異的なビジョンを見せてくれています。個人的に気に入ったのは、チェスの駒が巨大な塔に変容する『Chest Master』と、ドールハウスの人形がいつの間にか原寸の人間になってしまうという『Doll's Dreamhouse』あたりでしょうか。積まれた本が建物と化す『The Library』も、本好きの琴線をくすぐる絵ですね。
dolls_dreamhouse.jpeg 前二冊が邦訳されていますので、いずれ本書の邦訳も出るとは思うのですが、もともと文章部分は短くて簡単なものですし、正直、文を読まずに絵だけ味わっても問題のないタイプの本です。ですので、気になった方は原書を味わってみるのもいいのではないでしょうか。
flood_fences.jpg the_dancing_wind.jpg

テーマ:絵本 - ジャンル:本・雑誌

最近入手した本など
 長年探していた本が、最近いくつか入手できました。長いこと探していれば、ある程度の探求書は集まるものですが、それと同時に欲しい本も増えてくる、というのが世の習い。
 インターネット時代になって、よっぽどのレアケースでなければ、だいたいの本は手に入ります。ただ、希少本は高値で落ち着いてしまうので、これはこれで手に入りにくいのは確かなのですが。
 例えば、悪名高いヘレン・マクロイの『幽霊の2/3』『殺すものと殺されるもの』なんか最たるものですね。珍しい本であるのは確かですが、文庫本一冊に数十万というのは、いくらなんでもやり過ぎの気がします。先日、創元社からこの2冊は復刊予告が出されたので、この極端な値付けも落ち着くとは思いますけど。
 さて、以下、いくつか入手した本についてご紹介します。

 ジュール・シュペルヴィエル『ひとさらい』薔薇十字社
 澁澤龍彦訳。内容は以前に図書館で読んでいましたが、本自体は持っていなかったので嬉しいです。「ひとさらい」の夫婦がこどもをたくさん誘拐してきて育てる…という、シュペルヴィエルらしいファンタスティックなストーリーです。澁澤龍彦の翻訳全集にも収録されているので、読むこと自体はわりと容易です。

 後藤優編訳『カンタービル館の幽霊』珊瑚書房
 これ、あんまり聞かない書名でしょうが、ゴースト・ストーリーのアンソロジーです。昭和40年発行と、わが国ではわりと初期に出版された先駆的なアンソロジーです。表題作のオスカー・ワイルド作品とか、リットンの『幽霊屋敷』、ジョン・ケンドリック・バングズの『ハロウビイ館の幽霊』など、今となっては他の本で読めるものばかりなので、コストパフォーマンスはそんなに高くありません。編者のあとがきを読むと、あんまり怪奇小説ジャンルに愛着のある人ではないようなのが残念。

 アウグスト・モンテロッソ『全集・その他の物語』書肆山田
 グアテマラの作家モンテロッソの短編集です。わが国では、干し首をビジネスにしたアメリカ人を風刺的に描いたユーモア作品『ミスター・テイラー』や、「超短編」の元祖として知られる一行だけの作品『恐竜』が有名でしょうか。ちょうど、この2作品も本書に収められています。どの作品もブラック・ユーモアが利いており、ひじょうに才気の感じられる作品集です。異色短編が好きな人にはオススメです。

 《イメージの冒険》シリーズ全7巻 河出書房新社
 それぞれのテーマに沿って編集されたムック形式のアンソロジー。とはいっても、小説ではなく、エッセイや評論を集めたものです。テーマは『文字』『地図』『神話』『イラストレーション』『絵本』『写真』『少女』。豊富な図版とわかりやすい編集が見事です。とくに『イラストレーション』『絵本』の巻は、美しいイラストや本が紹介されていて、ブックガイドとしても楽しいです。

 内沼晋太郎『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』朝日新聞出版
 「ブックコーディネーター」である著者の、本にかかわる様々なトピックについて書かれた本です。いままで存在しなかった「ブックコーディネーター」という職を作ってしまった人なだけあって、とても刺激的な試みにあふれています。書店のディスプレイから始まって、本に関わる現代芸術、そして本そのものに対する人間の関わり方にも考えを巡らせています。本好き、本に関心のある人なら、読んで損はない本です。

 Luis-martIn Lozano『The Magic of Remedios Varo』D Giles Ltd; Bilingual
 これは洋書。ファンタスティックな絵を描く女流画家、レメディオス・バロの作品集です。バロの画集で、日本語で手に入る本といえば、既に絶版になってしまったリブロポート版作品集と、一度だけ開かれた展覧会の際の図録しかありません。どちらも入手難で、高値がついています。
 本書は、アメリカで開かれた展覧会の図録を書籍化したものらしいのですが、収録作品も多く、印刷も綺麗です。日本版図録に収録されていない作品も収録されています。Amazonで、2000円前後で買えるので、日本語版の作品集を買うよりは、コストパフォーマンスもいいと思います。
 ちなみに、以前書いたバロの記事はこちら

 Simon Heneage and Henry Ford『Sidney Sime Master of the Mysterious』THAMES AND HUDSON
 これも洋書。ロード・ダンセイニの挿絵で知られる、ファンタジー画家シドニー・シームの画集です。シームの絵は、見るたびに惚れ惚れとしてしまいますね。

 ウィンザー・マッケイ『夢の国のリトル・ニモ』PARCO出版局
 アメリカ漫画黎明期の傑作にして、現在のアニメの源流ともいえる絵本です。ずっと欲しかったのですが、下手すると、10万円単位の値がついていて、今まで手が出ませんでした。というわけで、もったいなくてまだ読んでいません。最近入手したなかで、いちばん嬉しい本ですね。

 最後におすすめしておきたい本をひとつ。

 荻巣康紀『マイナー通信 海外ミステリ短編の愉しみ』
 ミステリファンの方が発行された、いわゆるファンジンなのですが、翻訳ミステリ短編についてまとめられた特大号です。有名無名あわせて、海外作家50人の翻訳短編リストと短評が掲載された、非常な労作です。
 収録作家は、ロバート・アーサー、A・H・Z・カー、ジェラルド・カーシュ、D・S・ディヴィス、パット・マガー、ネドラ・タイヤ、パトリック・クェンティン、デヴィッド・イーリイ、ミリアム・アレン・デフォード、アンソニー・ギルバート、ローレンス・G・ブロックマンなど多数。翻訳短編ひとつひとつに、簡単な梗概と翻訳書誌が掲載されており、短編ファンにとっては、とても役に立つリファレンスになっています。
 こちら(http://homepage1.nifty.com/maiden/doujinshi/doujinshi01.html)で委託販売していますので、興味のある方はどうぞ。
現実と虚構  埋もれた短編発掘その26 アン・ベイヤー『血縁』
 わたしの存在は現実なのか? それとも…? 現実を模倣する物語、そして物語を模倣する現実。
 アン・ベイヤー『血縁』『EQ 1988年1月号』光文社収録)は、現実感覚を狂わせるようなふしぎな物語です。
 ルイーズは、犬猿の仲である妹コーラが書いた小説がベストセラーになったことを知ります。その作品の表紙を見たルイーズは驚きます。

 表紙には、コーラ・スタツィオーネ作、長編小説『死せる贈り物』と書かれている。その下に、床に倒れて死んでいる女の絵。女の眼鏡がひんまがって、顔の横を血がしたたりおちている。
 その殺人の被害者は、実在のある人物に似ていた。つまりわたしだ。読んだから、わかっている。


 そして絵だけではなく、小説の中に登場する女の人物像もまたルイーズにそっくりなのです。
 周りの人間がみな妹のことを話題にのせるのに嫌気がさしたルイーズは、ふと入った旅行代理店でノルウェイへの旅行を申し込みます。
 イェーテボリからノルウェイ行きの船に乗り込んだルイーズは、資産家のボールドウィン・マーシャルという男と知り合います。コーラ・スタツィオーネと関係があるのかと訊ねられ、仕方なくルイーズは妹だと答えます。しかし、続いて出てきた言葉は驚くべきものでした。なんと妹も同じ船に乗船しており、朗読会を開く予定だと言うのです。
 妹と対面したルイーズは、自分の栄光のおこぼれに預かるために現れたと非難され、口論になります。ルイーズは、妹の留守を狙って彼女の部屋に忍び込みますが、そこで見つけたのは、妹の新作小説でした。『血縁』と題されたその原稿に目を通したルイーズは驚愕します。

 わたしは凝然と目を見はった。いままでここに書いてきた物語が、そこには一言半句たがえずにくりかえされていた。なにもかもそのままそっくりだ。わたしが旅行代理店へおもむいたこと。イェーテボリへ飛んだこと。億万長者と知りあい、コーラがおなじ船にのっているのを知り、彼女と出くわし、競馬ゲームで負け、《ペールギュント》をなかば居眠りしながら聞いたこと。いったいこれはどういう意味だろう? わたしは実在の人物なのだろうか?

 混乱しながらも、ルイーズは原稿を読み続けます。もし自分の人生が描かれているなら、この現在よりも後の出来事もまた書かれているにちがいない。しかしそこに書かれていたのは、思いもかけない結末でした。なんと自分は殺されてしまうというのです。

 時間は切迫している。わたしが生き残れるチャンスはひとつだけ。なんとか自分の手で運命を書きかえなければ。だが、どうやって?

 小説に書かれていることは現実なのか? 自分は妹の小説の登場人物でしかないのだろうか? そしてルイーズのとった手段とは?
 小説と現実との不自然なまでの一致。それが妄想なのか現実なのかは、最後まで明かされません。現実と想像が入り組んだ、不可思議な味の物語です。
 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

5月の気になる新刊と4月の新刊補遺
4月16日刊 加藤耕一『「幽霊屋敷」 の文化史』(講談社現代新書 予価777円)
4月23日刊 諸星大二郎『闇の鶯』(講談社 1100円)
5月10日刊 『新・幻想と怪奇』(ハヤカワ・ミステリ 予価1365円)
5月12日刊 ミステリー文学資料館編『探偵小説の風景 トラフィック・コレクション 上』(光文社文庫)
5月12日刊 ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周 上・下』高野優訳(光文社古典新訳文庫)
5月25日刊 川本静子・佐藤宏子編訳『英米女性作家ゴースト・ストーリー傑作選』(みすず書房 予価3380円)
5月27日刊 八木敏雄・巽孝之編『エドガー・アラン・ポーの世紀』(研究社 予価4200円)
5月下旬刊 ガブリエル・ヴィットコップ『ネクロフィリア』(国書刊行会 予価2625円)
5月予定 ミロラド・パヴィッチ『帝都最後の恋(仮)』(松籟社)

 小説ではありませんが、加藤耕一『「幽霊屋敷」 の文化史』は、ちょっと気になる本ですね。
 来月の目玉は、早川書房の『新・幻想と怪奇』と、みすず書房の『英米女性作家ゴースト・ストーリー傑作選』でしょう。どちらも収録作家・作品がまだはっきりしません。おそらく『新・幻想と怪奇』はエンタテインメント路線、『英米女性作家ゴースト・ストーリー傑作選』の方は主流文学作家のゴースト・ストーリー中心になるのではないかな、と思います。みすず書房から怪奇小説集が出る、というのも考えたらすごいですね。
 来月の古典新訳文庫は、ヴェルヌの『八十日間世界一周』です。上下に分けるほど長い作品だったっけ?と疑問も湧きますが、とりあえず期待しましょう。もっともヴェルヌは未訳作品がまだあるのだから、そちらを優先してほしかったですね。
 八木敏雄・巽孝之編『エドガー・アラン・ポーの世紀』は、ポーに関する論集ですが、執筆陣になかなか興味を引かれる人たちを揃えています。西崎憲、青柳いづみこ、鴻巣友季子あたりの名前が気になりますね。

切り取られた物語  リン・ディン『血液と石鹸』
4152089571血液と石鹸 (ハヤカワepiブック・プラネット)
柴田元幸
早川書房 2008-09-26

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 かって、アルゼンチンの作家ボルヘスが編んだいくつかのアンソロジーがあります。例えば『夢の本』『幻獣辞典』『天国・地獄百科』など。それらのアンソロジーに共通するのは、収録されているのが、それぞれ作品の一部の文章だということです。短編を最初から最後まで収録するのではなく、テーマに沿ったエッセンスを含んだ一部の文章のみを収録する…。わが国の澁澤龍彦も同じような試みをしていますね。
 このタイプのアンソロジーを初めて読んだとき、驚きかつ困惑しました。これじゃ「ストーリー」がまるでわからない! しかし読み進むうちに、これはこれで面白いんじゃないか、と考えを改めました。一部の抜粋から、全体のストーリーを想像するのもよし。また抜粋だけでも完結した「物語」を持つものもありました。結局、小説を楽しむには、起承転結のある「ストーリー」がなければいけないというわけでもないのです。
 そんなことを思い出したのも、このリン・ディン『血液と石鹸』(柴田元幸訳 早川書房)を読んだからです。ベトナム系のこのアメリカ作家の描く作品は、ボルヘスのアンソロジーを彷佛とさせる味わいがあります。極度に短い作品の中で、完結されたストーリーが展開されることはまれです。ポンと投げ出されたかのような骨組みだけの作品、もしくは骨組みさえない作品が多いのですが、何ともいえない魅力があるのです。
 全く知らない言語の辞書を与えられた囚人が、その辞書をもとに自分だけのひとつの世界を作り上げてしまうという、ボルヘス的な短編『囚人と辞書』、架空の英語体系を作ってしまった奇妙な教師の話『“!”』、金持ちと貧乏な友人の寓話『$』など、わりとオーソドックスなつくりの作品もあります。
 もちろんこれらの作品もユニークで素晴らしいのですが、より印象に残るのは、物語の断片をつなぎ合わせたかのような『八つのプロット』『一文物語集』のような作品です。例えば『一文物語集』から少し引用してみましょう。

 大衆が映画スター、スポーツ選手、政治家、革命家、大量殺人犯、詩人に魅了されるのを無視して、丹念なリサーチに基づいて詳細な注を施し図版も盛り込んだ。バスの運転手やレジ係や美容師や文書整理係や配管工や屋根職人の伝記を彼は書いた。

 そのお似合いの夫婦は結婚後五年経ってもまだ子供がなく、いまでは二段ベッドを使って夫は上に妻は下に寝ているが、時折場所を取り替えはする。

 彼女は突然、夫の誕生日も、子どもたちの名前も、夫の顔も、夫を裏切ったことがあるかどうかも、そもそも自分が結婚しているかどうかも思い出せなくなった。

 どれも短い文章ですが、そこから読者がストーリーを想像できるだけの「膨らみ」を持っています。逆にこれを短編の形で描いたのなら、それほどユニークには思えなかったのかもしれません。 
 小説の形式としては多少「前衛的」ではあるのですが、「物語」のエッセンスを考える、という意味では、とても刺激的な作品集になっています。「ふつうの」小説に飽きた方に読んでいただきたい短編集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪談のススメ  東雅夫『怪談文芸ハンドブック』
4840127514怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)
東雅夫
メディアファクトリー 2009-03-25

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 このたび出版された、東雅夫『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー 幽BOOKS)は、今までありそうでなかった「怪談」の入門書です。「怪奇小説」や「ホラー」ではなく、「怪談」というところがポイントですね。

 まず「幻想文学」と総称される、はなはだ広大な文芸ジャンルがあり、そのサブジャンルとして「ファンタジー」「SF」「伝奇小説」などと並んで「ホラー」として括られる一分野がある。さらにその「ホラー」の中のサブジャンルとして「怪談」がある…という構造です。

 つまり「ホラー」よりも狭い概念として「怪談」をとらえているわけです。その言葉通り、本書には、我々がイメージする現代の恐怖小説、いわゆる「モダンホラー」などは登場しません。本書でふれられるのは、欧米ならブラックウッドやマッケン、日本で言えば芥川龍之介や岡本綺堂らの時代まで。言ってみれば「クラシック」な怪談を中心に取り扱っているといっていいでしょう。
 さて内容の方ですが、まず第一部として「怪談をめぐる七つのQ&A」が置かれています。怪談の定義やその魅力、実話怪談などについて、初心者にもわかりやすく、まとめられていて参考になります。懇切な解説もさることながら、ところどころで、著者のこのジャンルに対する愛情がひしひしと感じられます。例えば、次のくだりを見るとそれがよくわかると思います。

 とはいえ、だからといって肩身の狭い思いをする必要はありません。
 ラヴクラフト先生が力説するように、怖いもの見たさに促されるまま、怪談とかホラーの世界に魅力を感ずる読者は「感受性に富む繊細な人間」であり「重要な人びと」なのですから!


 そして第二部は、世界の怪談の歴史を国別に語った歴史編になっています。ギリシャから中国の古典についてふれた第一章。欧米についてふれた第二章。そして日本の作品についてふれた第三章。
 非常に幅広い地域にわたって、古代から近代まで要領よくまとめられています。欧米のみ、もしくは日本のみなど、個々の歴史についてまとめた本は、既にありますが、ここまで広く世界中の「怪談」についてまとめられている本は初めてではないでしょうか。
 具体的に言及される作品についてだけでなく、同テーマの作品やそれに触発されたと思しい現代の作品についてふれられている点も、非常に好感が持てます。例えば『古事記』の部分では、黄泉比良坂伝承をテーマとしたものとして、小松左京、坂東眞砂子、今邑彩、倉橋由美子らの作品についても言及されています。
 ガイドブックとしては、コンパクトにまとめられた良書といえます。ただ、紹介する国や地域を幅広くとっているため、個々の分野については、少々物足りない感はあります。しかし入門書としての性格を考えると、そこまで求めるのは、欲張り過ぎというべきでしょう。
 この本で大まかな「怪談」の歴史と魅力を知ったら、興味を持った分野について、また他のガイドブックや具体的な作品について読み進む、というのも楽しいでしょう。その点では、参考文献リストなどをつけてもらえたら、もっといい入門書になったと思います。
 せっかくなので、個々の分野について、参考になるブックガイドを挙げておきたいと思います。

 中国の怪奇小説に関しては、竹田晃『中国の幽霊』(東京大学出版会)が間違いなくオススメです。
 日本のものでは、須永朝彦『日本幻想文学全景』(新書館)、『日本幻想文学史』(平凡社ライブラリー)、東雅夫・石堂藍編著『日本幻想作家名鑑』(幻想文学出版局)あたりでしょうか。
 ゴシック・ロマンスに関しては、『ゴシック幻想』(紀田順一郎ほか 書苑新社)。
 英米のゴースト・ストーリーに絞るなら、南條竹則『恐怖の黄金時代』(集英社新書)。
 欧米のホラー小説全般に関する通史なら、風間賢二『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)がいちばんでしょう。
 各国の幻想文学をテーマ別にまとめた『幻想文学1500ブックガイド』(「幻想文学」編集部編 国書刊行会)は、読みたいテーマで作品を探せるのがとても便利です。
 他にもいろいろ類書はありますが、主だったガイドを紹介してみました。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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