年末の積読本
ノルンの永い夢 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション) イギリス式結婚狂騒曲―駆け落ちは馬車に乗って (中公新書) 動物裁判―西欧中世・正義のコスモス (講談社現代新書) これが密室だ! 瑠奈子のキッチン

 年末の大掃除ということで、部屋の片づけをしています。僕の場合、部屋のそこかしこに本が積んであるので、掃除イコール本の整理になってしまうんですが(笑)。
 積んである本をどけてみると、こんな本買ったんだっけ?と、すっかり忘れていた本も出てきます。復刊されて買ったばかりのC・A・スミス『イルーニュの巨人』の元版が出てきたりとか(てっきり持ってないと思ってました。読んだ覚えはあるんですが。)。
 そんなわけで、恒例(というわけでもありませんが)の積読・未読本から、いくつかご紹介。

 テリー・ビッスン『世界の果てまで何マイル』(ハヤカワ文庫)
 短編集『ふたりジャネット』で話題を呼んだビッスンの長編作品。マジック・リアリズムによるロード・ノヴェル風作品であるとのこと。

 ロザリンド・アッシュ『蛾』(サンリオSF文庫)
 一部では評価の高い、カルト的幻想小説。僕も某ブックガイドでその存在を知り、入手に至ったのですが、いまだに未読です。

 平谷美樹『ノルンの永い夢』(早川書房)
 これは比較的新しい作品ですね。タイムトラベルとナチスをからめたSF小説です。

 サミュエル・ R・ディレーニ『時は準宝石の螺旋のように』(サンリオSF文庫)
 ニューウェーヴ派とみなされることの多いディレーニの短編集。雑誌に訳載されたものもあるので、一部は既読です。

 岩田託子『イギリス式結婚狂騒曲―駆け落ちは馬車に乗って』(中公新書)
 これはテーマが魅力的だったので買いました。イギリスの「駆け落ち婚」についての歴史を描いた本。文学作品への言及も多めのようです。

 池上俊一『動物裁判』(講談社現代新書)
 「法廷に立つブタ、破門されるミミズ、モグラの安全通行権、ネズミに退去命令…。13世紀から18世紀にかけてヨーロッパに広くみられた動物裁判」について書かれた本。これもテーマに惹かれた本ですね。

 ポール・ギャリコ『愛のサーカス』(早川書房)
 置き去りにされるサーカスの動物と人間たちの物語。ギャリコの作品は見つけたら、無条件で入手することにしています。
 
 松尾由美『瑠奈子のキッチン』(講談社)
 SFやファンタジー要素を含んだ「普通小説」というか、ジャンル分け不可能なところが、松尾由美作品の魅力。平凡な主婦がディスポーザーをきっかけに、陰謀に巻き込まれる…という素っ頓狂な話です。

 ロバート・エイディー『これが密室だ!』(新樹社)
 タイトル通り、密室を扱った短編ミステリを集めたアンソロジー。個人的に、ミステリでも「本格」や「謎解き」にあんまり興味がないので、後回しに。

 種村季弘『一角獣物語』(大和書房)
 一角獣について語ったエッセイ集。

 エリック・F・ラッセル『宇宙のウィリーズ』(創元SF文庫)
 ユーモアSFの巨匠(?)ラッセルによる連作短編集。ハリイ・ハリスンなんかもそうですが、このエリック・F・ラッセルも、現代では失われてしまったSFの「楽しさ」や「面白さ」を持っている作家だと思うので、再評価してほしいですね。短編集『わたしは"無"』だとか『パニック・ボタン』なんか、傑作だと思います。

 アーシュラ・K・ル・グィン『風の十二方位』(ハヤカワ文庫)
 収録作の一編『オメラスから歩み去る人々』が、傑作だという評判を聞いて買った本です。結局『オメラスから歩み去る人々』しか読んでいないのですが、たしかにこれは傑作ですね。
 
 風見潤・安田均編『ロボット貯金箱』(集英社文庫コバルトシリーズ)
 かって出ていたコバルト文庫のSFシリーズの一冊ですが、収録作がかなりマニアックで、この本でしか読めないものばかり、というところがポイントです。収録作家は、ヘンリー・カットナー、ケイト・ウィルヘルム、テリー・カー、キース・ローマー、クリフォード・D・シマック。

 『シュオブ小説全集3 架空の伝記』(南柯書局)
 博覧強記で知られるフランス19世紀の作家、マルセル・シュオブによる「伝記」を集めた本です。ただし実在した・しないにかかわらず、その「伝記」は作者の創作になるもの、というところが特色です。澁澤龍彦もこの作品が好きだったとか。

 H・R・ハガード『古代のアラン』(国書刊行会)
 ハガードの邦訳作品はほとんど読んでいて、未読はたぶんこれが最後の一冊。ハガードの2大シリーズ「アラン・クォーターメン」と「女王」の顔合わせという作品。

 というわけで、年内最後の更新になるかと思います。今年も一年お世話になりました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

1月の気になる新刊
1月8日刊 ミステリー文学資料館編『江戸川乱歩の推理試験』(光文社文庫)
1月8日刊 赤川次郎『ぼくのミステリ作法』(徳間文庫 予価600円)
1月19日刊 『中島敦』〈KAWADE道の手帖〉(河出書房新社 予価1570円)
1月16日刊 ウィリアム・トレヴァー『アフターレイン』(彩流社 予価2940円)
1月22日刊 ノーマン・ロック『雪男たちの国 ジョージ・ベルデンの日誌より』(河出書房新社 予価1470円)
1月下旬刊 エド・マクベイン編 『十の罪業 RED』(創元推理文庫 予価1680円)
1月下旬刊 エド・マクベイン編 『十の罪業 BLACK』(創元推理文庫 予価1680円)
1月下旬刊 アルジャナン・ブラックウッド『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(創元推理文庫 予価1260円)
1月下旬刊 キアラン・カースン『シャムロック・ティー』(東京創元社 予価3360円)

 赤川次郎『ぼくのミステリ作法』は、かって角川文庫から出ていたものの復刊でしょうか。とくに赤川次郎ファンでなくても楽しめる本だと思います。
 ウィリアム・トレヴァーの邦訳が意外に続きます。3冊目の短編集は彩流社から。
 エド・マクベイン編 『十の罪業』は、大物作家の書き下ろし作品を集めたアンソロジー、だとのことです。2分冊になっていることからして、一編一編がかなり長めの作品みたいですね。
 ブラックウッド『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』は、ゴースト・ハンターものの古典「ジョン・サイレンス」の短編集。かって国書刊行会から出て、それが角川ホラー文庫に収録されていました。出版社が創元なだけに、おそらくオマケがあるんでしょうね。
 来月いちばんの要注目本は、キアラン・カースン『シャムロック・ティー』です。創元社の広告によれば「色彩の万華鏡、聖人の逸話、ヤン・ファン・エイクの絵、ドイル、チェスタトン、ワイルド。カーソンが紡ぎ出す交錯し繁茂するイメージの蔓に絡め取られる、摩訶不思議な物語。」だそうです。カースンの初邦訳『琥珀捕り』が、とても魅力的な物語だっただけに、今回も期待が高まります。
完全無欠のファンタジー  フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『金剛石のレンズ』
4488538029金剛石のレンズ (創元推理文庫)
Fitz‐James O’Brien 大瀧 啓裕
東京創元社 2008-12

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 19世紀半ば、アメリカで活躍し、夭折した伝説の作家、フィッツ=ジェイムズ・オブライエン。ポーとビアスをつなぐと言われるオブライエンの作品は、発表から100年以上を経た現在でも、みずみずしさを失っていません。奇抜な想像力、変幻自在のストーリーテリング、溢れる情感。その全てが「物語」の完成度を高めています。
 わが国でも、欧米怪奇小説の定番アンソロジー『怪奇小説傑作集』(創元推理文庫)に収録された『あれは何だったのか』によって、オブライエンの名は、怪奇小説ファンには知られていました。サンリオSF文庫から傑作集『失われた部屋』(大瀧啓裕編訳)も出ていましたが、絶版になって久しく、長年オブライエンの作品をまとめて読むことはできませんでした。
 今回出版された『金剛石のレンズ』(大瀧啓裕訳 創元推理文庫)は、サンリオSF文庫の傑作集の増補改訳版ということですが、未訳の4編を加えた、オブライエンの決定版短編集となっています。いくつか紹介していきましょう。
 
 『金剛石のレンズ』 幼時から顕微鏡の魅力に憑かれた青年は、長じてからは、学業を放棄して、顕微鏡の研究に打ち込みます。やがて市販の顕微鏡の限界を悟った彼は、巨大なダイヤモンドを使い、完全な顕微鏡を作ることに成功します。彼がその顕微鏡で除いた水滴の中には、世にも美しい女性がいたのです。彼女に「アニミュラ」と名付けた青年は、彼女への恋情に身を焦しますが…。
 極小世界に存在する女性への、不可能な恋に身を悩ます男の物語。無駄な部分をまったく感じさせない、間然するところのない傑作です。

 『チューリップの鉢』 異様に嫉妬深い男ヴァン・ケーレンは、妻が不貞を働いているのではないかと疑い、死に追いやってしまいます。死の床で後悔したヴァン・ケーレンは、死後、幽霊となって現れます。幽霊が持つチューリップの鉢は、何かの象徴なのではないかと考えた「わたし」は、屋敷の中を探索しますが…。
 生前に罪深かった男が幽霊となって現れる、というオーソドックスなゴースト・ストーリーです。「チューリップの鉢」についての謎はあっけないものの、ヴァン・ケーレンの人物描写に精彩が感じられます。

 『あれは何だったのか』 幽霊屋敷と噂される館に、女主人とともに引っ越した下宿人たち。ある夜、暗闇で何者かに襲われた「わたし」は、格闘の末、それを捕縛することに成功しますが、明かりをつけたそこには、何者の姿もありませんでした。しかし、触ればそこに肉体はあるのです…。
 目に見えない怪物を描いた怪奇小説。江戸川乱歩の分類によるところの「透明怪談」のマスターピースです。作中、ブルワー=リットンやホフマンの名が言及されるところから、オブライエンの読書指向も窺えます。

 『失われた部屋』 ある日、自分の部屋に見知らぬ人間たちが闖入しているのを見つけた「わたし」。何故ここにいるのかという質問に彼らは、あざ笑い、とり合おうとしません。しかも、自分のもののはずの部屋の中身は、微妙に違うものに置き変わっているのです。やがて彼らは、部屋の所有権をめぐって、賭けをしないかと持ちかけてきますが…。
 闖入者たちは何者なのか? 部屋の中身はどこにいってしまったのか? 不可解な状況に合理的な説明がつけられないため、無気味な余韻を残す作品です。

 『墓を愛した少年』 子供のものと思われる小さな墓。その墓に惹かれるものを感じた少年は、墓を飾り愛します。そんなある日、見知らぬ男たちが訪れ、墓の主は高貴な生まれであり、霊廟に移すためにやってきたと告げます。少年は悲しみに沈みますが…。
 墓を愛する少年を描いたファンタジー。哀惜の思いが胸を打つ、傑作掌編です。

 『世界を見る』 ありあまる詩への情熱を持ちながらも、それを表現する技術に欠ける青年チプリアーノは、魔術師の評判をとる医者セゲリウスに相談を持ちかけます。悩みの解決は可能だというセゲリウスの言葉に、チプリアーノは喜びますが、それには条件がありました。死ぬまで、あらゆるものを見て、理解してしまう、というのです。
 やがて天才的な詩を生み出すようになったチプリアーノは、すべてを「見て」しまうために、愛する女性にも美しい音楽にも価値を認めることができなくなってしまいます…。
 あらゆるものごとを理解する能力を手に入れた詩人の青年。しかし完全な能力とは、裏返せば、世界の不完全さを認識してしまうということでもあったのです。人間の幸福はどこにあるのか、ということを考えさせてくれる寓意作品。

 『パールの母』 美しく魅力にあふれた女性ミニーと結婚した「わたし」は、芝居を見るためにニューヨークに出かけます。芝居を見た夜、ミニーは突然ナイフで「わたし」に襲いかかります。妻は精神の病にかかっているのではないかと「わたし」は疑いますが…。
 妻が豹変した理由は何なのか? 凄惨な結末が、強い印象を残す作品です。
 
 『絶対の秘密』 両親を失い孤児となった青年は、互いに犬猿の仲にある二人の伯父の間で育ちます。片方の伯父の娘と恋仲になりながらも、もう一人の資産家の伯父の財産のために、彼女を捨てようとした彼は、結局どちらをも失ってしまいます。ひょんなことから死んだ人間と入れかわった青年は、謎の組織に追われることになりますが…。
 よんどころない事情から身元を偽った青年は、謎の組織に追われ続けます。追われる理由も示されず、事件の全容がまったくわからないままに終わってしまうという、まるでサスペンス小説の発端だけを読まされているような、何とも奇妙な物語です。謎が謎のままに終わる「リドル・ストーリー」の変種的な作品として読むのもありでしょう。

 『ワンダースミス』 ガロシュ通りに住む人形作りヘル・ヒッペ、通称ワンダースミスは、邪悪な魂を人形たちに埋め込むことによって、人形たちに人々を殺害させる計画を練っていました。せむしの青年ソロンは、ワンダースミスの娘ゾーニラを救うため、彼らの計画を阻止しようと考えますが…。
 邪悪な人形使い、せむしの青年、美しい少女。魅力的な人物やガジェットに溢れた、みずみずしいファンタジー作品です。

 『手から口へ』  ある夜、下宿から閉め出された「わたし」は、ゴロプシャス伯爵と名乗る男に出会い、一夜の宿を貸してもらうことになります。しかし連れていかれた先は、壁に目や手の生えた奇怪なホテルでした。隣の部屋に美女が捕らえられていることを知った「わたし」は、彼女を救い出そうと考えます…。
 壁一面に生えた手や目という異様なイメージとともに、なんともシュールなストーリーが展開する怪作です。正直、結末には問題があるのですが、それまでの展開があまりにインパクト大なので、最後がどうでもよくなってしまうほど。

 『金剛石のレンズ』『失われた部屋』『墓を愛した少年』『世界を見る』『ワンダースミス』『手から口へ』 。素晴らしい傑作の数々に、もはや言葉も出ません。「古典」といっていい年代の作品ながら、この新鮮さ、みずみずしさはどうでしょう! 清涼感あふれるファンタジーの数々に、読者は至福の時を得られるはず。
 ちなみに、オブライエンについては、本書の訳者でもある大瀧氏によるエッセイ『オブライエン覚書き』(幻想文学出版局『幻想文学45号』掲載)が参考になりますので、興味を持たれた方はご一読を。
 場合によっては、未訳の作品を集めた続刊の可能性もあるようです。ぜひ実現していただきたいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

浮遊と幻想  マイケル・パークス
4594058019エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)
John Crowley 大森 望
扶桑社 2008-11

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9071867137The World of Michael Parkes
John Russell Taylor
Steltman Editions 1998-10-01

by G-Tools

 先日再刊された、ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』(大森望訳 扶桑社ミステリー)を入手しました。カバー画に何か見覚えがあるなあと思って、見返しに書かれた名前を見てみると、絵の作者はマイケル・パークス(Michael Parkes)でした。
 じつは、このマイケル・パークスという画家、最近個人的に興味を持っている人です。
 もとはといえば、かって福武書店から出ていたウィリアム・コツウィンクル『ファタ・モルガーナ』という本。この本のカバー画に、このパークスの絵が使われていたのです。リアルなタッチで描かれた、謎めいた道化の絵。この幻想的な絵が、また作品の内容ととてもマッチしていたこともあって、強いインパクトを残しました。
 このパークスの画集が出ていないものかと思って、調べてみたのですが、どうやら日本語では出ていないようです。それではと、洋書で調べて購入したのが『The World of Michael Parkes』という画集です。
 パラパラとめくると、ありました。『ファタ・モルガーナ』で使われていた絵が。そして、『エンジン・サマー』のカバー画に使われた『Magician's Daughter』も載っています。道理で見覚えがあったわけです。
 まだ現役の画家らしく、画像を直接載せるのは問題がありそうなので、とりあえず彼の作品が載せられているページをリンクしておきます。
http://www.theworldofmichaelparkes.com/html/artists.asp) 
 さて、彼の絵の魅力はいくつかありますが、一番にあげられるのは、たおやかな女性像でしょう。神話的なイメージを帯びた女性像にはとても魅力があります。そしてもうひとつの特徴としては、絵の背景。たいていが澄んだ空、高いところにある建物が舞台になっています。
 登場人物は、翼を持っていたり、空に浮かんでいたりします。また鳥や動物などが飛翔していることもあります。背景となる美しい空とあいまって、ふしぎな浮遊感を感じさせてくれるのです。例えば、この『Juggler』という作品や『Falcon Games』などを見てもらえば、その感じがわかっていただけるかと思います。
 そして女性の他に、パークスの絵に頻出するモチーフとして、白鳥、豹といった動物、道化師などが挙げられます。非日常的な背景を舞台に、非日常的な人物やモチーフがあらわれる、という意味では、徹頭徹尾、幻想的なファンタジーなのですが、そこに充分なリアリティを感じさせるのは、画家の非凡な画力のゆえでしょう。
 わが国での知名度はあまりないようなのが残念ですが、ファンタジー好き、幻想小説好きの方の琴線にふれる画家だと思うので、日本でももっと紹介してもらいたいものです。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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