11月の気になる新刊
11月7日刊 T・S・ストリブリング『ポジオリ教授の冒険』(河出書房新社 2520円)
11月上旬刊 エミール・ガボリオ『ルルージュ事件』(国書刊行会 予価2625円)
11月14日刊 『モーム短篇選 下』(岩波文庫)
11月20日刊 広瀬正『T型フォード殺人事件』(集英社文庫)
11月下旬刊 ジョン・クロウリー『エンジンサマー』(扶桑社ミステリー)

 〈KAWADE MYSTERY〉シリーズの新刊『ポジオリ教授の冒険』は、つい先ごろ河出文庫で出た『カリブ諸島の手がかり』の続編。文庫化はこれを出す伏線だったようですね。いずれ、『ポジオリ教授の事件簿』(翔泳社)も含めて文庫化するつもりなんでしょうか。
 ガボリオ『ルルージュ事件』は、本邦初の完訳、だそうです。歴史的には「世界初の長篇探偵小説」らしいのですが、今読んでも面白いかどうかは、なかなか難しいところでしょう。
 ジョン・クロウリー『エンジンサマー』は、以前福武書店から出ていたものの改訳復刊。名作との評判が高かったので、これは楽しみです。

あのころの怪奇  歳月社『幻想と怪奇』
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 1973~74年にかけて発行された『幻想と怪奇』(歳月社刊(創刊号のみ三崎書房))という雑誌がありました。タイトルからもわかるように「怪奇小説」や「幻想小説」の専門誌です。欧米の作品の翻訳が中心で、評論やエッセイも取り混ぜた、とても面白い雑誌でした。
 実質的な編集者は、紀田順一郎と荒俣宏。寄稿者には、桂千穂、鏡明、大滝啓裕、山下武、安田均などが名を連ねています。
 全部で12号が発行されましたが、全号揃いとなると、古書でも高値がつくことが多いようです。出版物の常で、後半の号の方が入手が難しく、僕もようやく最近になって、全号を揃えることができました。というわけで、今回はこの雑誌『幻想と怪奇』を紹介したいと思います。
 この雑誌、毎号特集が組まれているのですが、まずは、全号の特集内容を並べてみましょう。

創刊号 魔女特集
 二号 吸血鬼特集
 三号 黒魔術特集
 四号 ラヴクラフト=CTHULHU神話特集
 五号 特集/メルヘン的宇宙の幻想
 六号 幻妖コスモロジー 日本作家総特集
 七号 特集=夢象の世界
 八号 中編小説特集・オカルト文学の展開
 九号 特集=暗黒の聖域
 十号 現代幻想小説特集
十一号 幽霊屋敷特集
十二号 特集:ウィアード・テールズ<パルプマガジン>

 「魔女」とか「吸血鬼」はともかく、「夢象の世界」とか「暗黒の聖域」なんて、かなり肩ひじ張ったタイトルもありますね。この雑誌にかける編集陣の意気込がうかがえるようです。それがよくわかるのが「創刊の辞」。少し引用してみましょう。

 昨今の時代的風潮から、この種文学への関心が高まっているが、いまだその主流にあたる作品が未紹介な現状に隔靴掻痒の思いを抱いている読者も多いことと思われる。
 われわれはここに多年の探究と豊富な資料を背景に、このジャンルに理解ある人々の助力を得て読者に”もう一つの世界像”を提供したい。埋もれた文献の発掘や研究評論、日本の作家の育成にも力をつくしたいと念願している。


 現在であれば「ホラー」「怪奇小説」はエンタテインメント・娯楽扱いでしょうが、編者の紀田順一郎と荒俣宏の考え方も反映されているのでしょう、むしろ怪奇幻想小説を「文学」として認めてほしい、という口吻が感じられます。
 実際、雑誌の前半の号は、意気込みに負けないだけの質の高さになっています。例えば創刊号では、M・R・ジェイムズ、A・E・コッパード、アーサー・マッケン、E・F・ベンスン、ロード・ダンセイニ、H・P・ラブクラフト、ブラム・ストーカー、アルジャナン・ブラックウッドなど、この分野ではお馴染みの作家たちの短篇が訳載されています。他にも種村季弘、権田萬治、瀬戸川猛資らのエッセイ、山下武のブック・レビュー、橘外男の作品の再録、カゾット『悪魔の恋』の長編分載など、非常に充実したつくり。巻末には、荒俣宏になる『世界幻想文学作家名鑑』が掲載されています。
 ちなみに、この荒俣宏『世界幻想文学作家名鑑』は、のちに『世界幻想作家事典』(国書刊行会)としてまとめられることになります。
 また、二号では、アレクセイ・トルストイ、C・A・スミス、H・R・ウェイクフィールド、H・ウォルポール、W・デ・ラ・メア、W・H・ホジスンなどの作品を収録。J・B・キャベルやL・P・ハートリィのファンタジーなども掲載されています。
 この調子で六号あたりまでは、翻訳といい、評論やエッセイといい、ひじょうな充実度を誇っています。とにかく掲載されている翻訳短篇の数が多いのがウリで、アンソロジーとしても楽しむことができます。
 特集としては、トールキンやドイツ・ロマン派の「メルヘン」を扱った五号や、全編日本作家で埋めた六号などは、非常にユニークな企画でした。
 さて、この『幻想と怪奇』、六号まではページ数も多く、紙質も良かったのですが、七号から途端に総ページ数が激減します。もともと隔月刊だったのが、この号から月刊になっています。それを考えに入れても、かなりパワーダウンしているのは否めません。経済的な要因なのでしょうが、やはり翻訳の数が激減しているのが痛いです。全体にかなり薄味になってしまっています。
 それでも、特集はユニークなものが多く取り上げられています。十号の「現代幻想小説特集」、十一号の「幽霊屋敷特集」、十二号の「ウィアード・テールズ」などは、ひじょうに面白い企画でした。
 とくに「幽霊屋敷特集」では、ブラックウッド、L・A・G・ストロング、H・R・ウェイクフィールド、デビッド・H・ケラー、ロバート・エイクマンらのゴーストストーリーを載せるという、じつにマニアライクなセレクション。ウェイクフィールドの作品は、かの有名な幽霊小説の逸品『赤い館』(これが初訳ではないでしょうか)です。
 時代的に早過ぎたということもあり、商業的には失敗だった雑誌といえるのでしょう。ただ、何の需要もないところに、ポンとこの雑誌が創刊されたと考えるのは早計です。当時の時代背景を考えに入れる必要があります。
 桃源社の《大ロマンの復活》シリーズによる、戦前の異端文学・探偵小説の再刊、それに続く夢野久作や久生十蘭の復活がありました。創土社からは、《ブックス・メタモルファス》シリーズとして、M・R・ジェイムズ、ブラックウッド、エーヴェルス、ホフマンなど、欧米の幻想文学の紹介。牧神社からはアーサー・マッケンの集成が刊行されました。折しも、映画『エクソシスト』の公開によるオカルトブームなどもあり、怪奇幻想文学の出版物を出す余地は高まっていました。
 ただ、そのブームが一時的なものであり、いまだ「ホラー」や「怪奇小説」が日本に根付くのが、90年代に始まるホラーブームを待たねばならなかったことを考えると、この雑誌が短命に終わったのも仕方がないことなのかもしれません。
 雑誌の内容は、いま読んでも充分に魅力的です。もともと内容からして、数十年程度で古びるようなものではありませんし、いまだにこの雑誌でしか読めない翻訳短篇も多いです。そして、この雑誌から、後の《世界幻想文学大系》(国書刊行会)や荒俣宏編『世界幻想作家事典』(国書刊行会)が生まれたこと、そして、後のこのジャンルの出版・翻訳紹介に多大な影響を及ぼしたことを考えると、歴史的にも重要な雑誌であったということができるかと思います。
 この雑誌の復刻企画が進んでいるとの話もちらほらあったのですが、どうやら途絶しているようです。同じような系統の雑誌『血と薔薇』の復刻企画もありましたし、『幻想と怪奇』の復刻もじゅうぶん実現可能なような気がするのですが。
 『幻想と怪奇』については、全号の目次を載せた『幻想文学25号』(幻想文学出版局)の「ファンタスティック・マガジン」特集、あと、この雑誌の編集者であった紀田順一郎の回想『幻想と怪奇の時代』(松籟社)が参考になります。

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青年の未来  埋もれた短編発掘その25 W・C・モロー『アブサンの壜の向うに』
 極限状況に立たされた青年が出会った謎の男。男との出会いは、青年をどこへ導くのでしょうか…?
 W・C・モロー『アブサンの壜の向うに』(山本やよい訳『ミステリマガジン1984年8月号』早川書房収録)は、二人の男の出会いを語った、異様なシチュエーションの物語です。
 ある雨の夜、まだ若いアーサー・キンバリンは、空腹をかかえて街にたたずんでいました。手元には金目のものはなく、もう70時間も何も口にいれていなかったのです。

 紳士の家に生まれ、紳士として育てられた彼には、物乞いする勇気も物を盗む才覚も欠けていた。思いがけない出来事が訪れない限り、二十四時間以内に湾に飛びこんで溺れ死ぬか、肺炎を起こして路上でのたれ死ぬかのどちらかになるだろう。

 あてどもなく歩いていたキンバリンは、通りかかったレストランの前に、一人の男が立っているのに気づきます。

 キンバリンの同情をゆさぶったのは、たぶん言いようのない苦悶の表情だったのだろう。若者はおずおずと足をとめて、未知の男を見つめた。

 男は、キンバリンに一杯飲まないかと誘いをかけます。中に入ると、男はカウンターでアブサンを一本買ってきてくれないかと、金を出します。すきっ腹に酒を流し込み、一心地ついたキンバリンに、男は賭けをしないかと持ちかけます。やがてゲームが始まると、キンバリンの勝ちが続きます。

 このころになると、アブサンの酔いでキンバリンの体の機能は鋭敏そのものと化し、酒が餓えに与えた一時的な満足感が消え去ったあとに、肉体の苦痛がその攻撃力をうんと高めてもどってきた。買った金で夕食を注文してはいけないだろうか。だめだ、とんでもない話だ。それに謎の男は食事のことなど一言もいっていない。

 キンバリンの勝った額は莫大なものとなりますが、男はそろそろ最後の一勝負をしようじゃないかと言い出します。キンバリンはためらうことなく承知します。

 謎の男がじれったいほど緩慢な動作で賽筒を取り上げるのを見ながら、腹をすかせた若者の心臓は激しい動悸を打った。男が筒を振るまでにかなりの時間があった。

 若者に比べ、ふところに余裕のあるらしい謎の男。しかしその苦悶の表情には、キンバリンと似たものがありました。謎の男の正体とは? 互いに孤独を抱えた二人の男の勝負の行方は…?
 そしてキンバリンは、思いもかけない事態に出会います。彼に降り掛かったのは「幸運」なのか「不運」なのか。
 全編を通して登場するのは、ほぼ二人の男だけ。異様な静けさにもかかわらず、横溢するサスペンス。多様な解釈を許す結末には、人間の運命の残酷さ、そして不可思議さが感じられます。まさに傑作と呼ぶにふさわしい短篇です。

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手堅いオムニバス  ダン・カーティス監督『アメージング・ファンタジー』
アメージング・ファンタジー
アメージング・ファンタジー
ビデオメーカー 1989-08-10

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 ダン・カーティス監督のオムニバス・ホラー映画『アメージング・ファンタジー』(米 1977)には、作家のリチャード・マシスンが脚本家として参加しています。もともと短篇の名手であるマシスンの脚本は、映像化においても優れた「異色短篇」として楽しむことができます。

 第1話 青年の趣味は、クラシックカーを復元し、実際に走らせるようにすること。彼が新しく手に入れたのは、1920年代の車でした。しかしその車にはいわくがありました。かって、その車に乗っていた青年とそのガールフレンドが、汽車と競争しようとして事故を起こし、死亡していたのです。
 どうにか修理をした車でドライブをはじめた青年は、周りの風景がいつの間にか変わっていたのに気付き驚きます。周りを走っているのは、自分の乗っているのと同じぐらい古い型の車ばかり。しかも人々の格好もどこか古くさいのです。やがて到着した町を見て、青年は悟ります。ここは1920年代の世界なのだ…。しかし、周りに気を取られているすきに、何者かが彼の車に乗って走り去ってしまいます。青年は途方に暮れますが…。
 過去に取り残された青年はどうなってしまうのか?と思いきや、わりとあっさりと現代に戻れます。しかし、その後の展開で、青年の行動が世界を少しだけ変えていたことがわかるのです。彼自身の運命をも変えた「第二のチャンス」とは…?
 原作は、ジャック・フィニイ『第二のチャンス』(福島正実訳『レベル3』早川書房収録)です。淡々とした語り口で語られる物語は、まさにジャック・フィニイの世界。静謐な雰囲気に満ちた、ノスタルジックなファンタジーです。

 第2話 若く美しい妻は、吸血鬼にたびたび襲われ、衰弱していました。夫である教授は、さまざまな対策をとりますが、妻の衰弱は止まりません。やがて教授の招きに応じて、知り合いの青年が助けに訪れます。青年は吸血鬼の存在を否定しますが、教授の話を聞いて、確信が揺らいでゆきます…。
 あまりにもストレートな吸血鬼もの、と思いきや、ひとひねり加えたクライム・ストーリーです。原作はリチャード・マシスン『吸血鬼などは…』(青木日出夫訳 矢野浩三郎編『恐怖と幻想 第1巻』月刊ペン社)。

 第3話 母親は、息子の死を受けいれられないでいました。海で行方不明になった息子の死体は発見されていないのです。やがて思い詰めた母親は黒魔術を行い、息子が帰ってくるようにと願います。深夜、ドアをたたく音を耳にした母親は、ドアの下で震えている息子を見つけます。
 意識を失って倒れていたという息子の話を聞いた母親はそれを信じます。しかし、息子の態度にどこかおかしい点があるのに、母親は気付きます。妙な質問を繰り返しするのです。やがて、息子はかくれんぼがしたいと言い出し、家中の電気を壊します。そして母親への攻撃はエスカレートしていきますが…。
 帰ってきた息子は本当に本人なのだろうか? 無気味な言動をとり続ける息子の存在が、恐怖感を高めていきます。後半、真っ暗な家の中で、息子から逃げ続ける母親が描かれるシーンは、かなりの迫力です。三話の中では、いちばんの力作でしょう。

 現代のホラーを見慣れた今見ると、派手さはありませんが、マシスンの脚本の良さもあって、じつに手堅い作りになっています。「異色短篇」が好きな方なら、充分楽しめるでしょう。

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

『新パパイラスの舟』のこと
 以前、刊行予定が出されたということで、記事にも取り上げた小鷹信光のエッセイ『新パパイラスの舟』。どうやら、10月下旬刊行ということで本決まりのようです。
 予告されていたタイトル『<新パパイラスの舟>と21の短篇』からも、オマケの短篇がつくことはわかっていましたが、刊行元の論創社のページを見ると、収録作品も決定しているようです。
 というわけで、以下の作品が収録内容です。

D・ライアン『不可能犯罪』
W・フェイ『初めての殺人』
C・マージャンダール『さそり座の女』
G・グリーン『拝啓ファルケンハイム博士』
P・C・スミス『隣人』
W・タッカー『脱獄』
H・スレッサー『夢を見る町』
C・ハイムズ『へび』
C・シェイファー『犬の厄日』
C・B・ギルフォード『ラム好きの猫』
F・ブラウン『死の十パーセント』
J・ノーマン『奇妙な乗客』
J・トンプスン『ベルボーイ』
L・ブロック『この町売ります』
R・ブラッドべリ『窓』
R・ハードウィック『死者からの招待状』
H・ブルームフィールド『罠』
R・アーサー『切り裂きジャックは言った……』
E・P・ヒックス『密造酒業者の肖像画』
R・トゥーイ『隣家の事件』
J・リッチー『吸血鬼は夜駆ける』

 エッセイの中身の、それぞれのテーマに沿ったボーナス短篇ということで、これは本当に好企画ですね。ブラッドベリやL・ブロックあたりは、それぞれの個人短編集で読めると思うのですが、それ以外は、雑誌に訳載されたきりのものなどが多く含まれているようです。
 今月の新刊では、いちばんの要チェック本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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