怪奇の楽しみ  ハーバート・ヴァン・サール編『終わらない悪夢』
4846007677終わらない悪夢 (ダーク・ファンタジー・コレクション 8)
ハーバート・ヴァン・サール 金井 美子
論創社 2008-05

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 ハーバート・ヴァン・サール編『終わらない悪夢』(金井美子訳 論創社)は、英国の怪奇小説を集めたアンソロジーです。いちばんの特徴は、収録作家の大部分が、無名作家だというところ。このアンソロジー以外では、見かけたことのないような作家ばかりが並んでいます。それゆえ、既訳作品と重複しているものがほぼないという意味で、コストパフォーマンスが、ひじょうに高いです。
 品のよい、伝統的な英国怪談とは異なり、どちらかと言うと、扇情的でどぎつい短篇を集めています。多少古びているとはいえ、エンタテインメント志向で書かれた作品が多いので、退屈せずに読めるでしょう。

 ロマン・ガリ『終わらない悪夢』 ナチスの悪夢から逃れ、南米で仕立て屋として成功を収めたユダヤ人シェーネンバウムは、隊商の一員になりすました、かっての知人グルックマンと再会します。ナチスの拷問によって、精神的に病んでいたグルックマンは、いまだに恐怖にとりつかれていました。シェーネンバウムの仕事を手伝うようになったグルックマンは、落ち着きを取り戻しつつあるように見えましたが…。
 痛めつけられ、ねじれてしまったグルックマンの心にたどり着いたものとは…? 人間心理の恐ろしさを見事に描いた傑作です。純然たる心理サスペンス作品にもかかわらず、凡百のホラー作品よりも、圧倒的な緊張感を持っています。

 ベイジル・コパー『レンズの中の迷宮』 膨大な美術品と資産を持つジンゴールドは、その財産にもかかわらず、なぜか小額の借金を返すのを渋っていました。疑問を持ちながらも、高利貸しであるシャーステッドは、彼の邸をたずねます。そこで彼の持つ「カメラ・オブスクラ」に魅了されるシャーステッドでしたが、やがてジンゴールドは、シャーステッドが金を貸している貧しい女性について非難を始めます…。
 莫大な財産を持ちながら、のらりくらりと借金の催促をかわすジンゴールド。彼の持つ不可思議な道具の秘密とは…? 悪党が罰を受ける…というステレオタイプではあるものの、描かれた世界観は魅力的です。

 ジョン・バーク『誕生パーティー』 子供が苦手なアリスは、しかし息子のために誕生パーティーを開きます。子供たちから、のけ者にされている少年サイモンが、招きもしないのに現れたことを不審に思いながらも、子供の扱いが上手な夫の帰りをひたすら待ち続けますが…。
 どこか無気味な少年サイモンが引き起こす惨劇。レイ・ブラッドベリ『十月のゲーム』を思い起こさせる残酷譚です。

 アドービ・ジェイムズ『人形使い』 かって一世を風靡した人形師デカーロは、いまは落ちぶれて、人形たちだけが生き甲斐となっていました。人形の一体、もっとも美しい人形にリリスと名付けた彼は、彼女をかわいがります。やがて他の人形を邪慳に扱うようになったデカーロに対し、人形たちの不満が募りつつありました…。
 人形がひとりでに動く世界を舞台にした、不思議な手触りのファンタジーです。

 ジョン・D・キーフォーバー『冷たい手を重ねて』 強烈な自我を持つ女性アニタに惹かれた「ぼく」は、彼女とわりない仲になります。アニタは、大きな手に異様な執着を持っていました。彼女の家の手伝いをしている男ジョージもまた大きな手を持っていましたが、彼はやがて失踪したはずのアニタの夫ネルソンについて、妙なことを話はじめます…。
 奔放な女アニタの秘密、そして夫の失踪の原因とは…? 話自体はわりと陳腐なものなのですが、アニタが好む「手」のフェティッシュな描写と、取り憑かれたようなジョージの姿が無気味さを醸し出します。

 エイブラハム・リドリー『私の小さなぼうや』 コンスタンスは自分の息子とともに部屋に監禁されていました。夫は滅多に姿を見せず、彼女の世話をするのは、エルビンストーンという太った女性だけ。夫を狙うエルビンストーンは、自分たちを殺すつもりなのではないかと、コンスタンスは考えますが…。
 若い女性の一人称による、心理サスペンス作品。すべては彼女の妄想なのか?結末において、謎が解かれる仕組みになっています。

 H・A・マンフッド『うなる鞭』 犬の見せ物で評判をとるスクワラーは、鞭と恐怖でもって、犬たちを支配していました。手に入れたばかりの犬をしつけようとしている矢先に、いたずら好きの少年によって邪魔をされたスクワラーは激怒します。やがて他の少年たちもスクワラーの邪魔をし始めます…。
 殺人も幽霊も登場せず、怪奇小説とは少し異なるニュアンスの作品なのですが、独特な魅力があります。

 ウォルター・ウィンウォード『悪魔の舌への帰還』 かっての友人であり、戦争の英雄ローソンを自宅に招いた「私」は、彼が落ち着きを取り戻しつつあるのを喜んでいました。ある夜、ローソンが家を抜け出すのを不審に思った「私」は、彼のあとをつけます。そこには、見知らぬ美しい女性と逢い引きをするローソンの姿がありました。その直後、二人を襲ったのは女性の夫でした。斧を持ち、二人を殺そうとする男を止めようと考える「私」でしたが、なぜか体が動かないのです…。
 過去に起こった殺人事件と対応するかのような、奇妙な事件。SF的な要素も含んだ作品です。

 セプチマス・デール『パッツの死』 かって国の公認で、人体実験を繰り返していた男パッツは、いまや死刑囚として死刑を待っていました。しかし全身が麻痺するという障害のため、刑は終身刑へと減刑されてしまいます…。
 改悛の情を示さず、傲岸な態度を崩さない男パッツ。そして、彼を憎々しく思いながらも、介護をせざるを得ない男たち。憎悪が極点に達したときに起こった惨劇とは…?
 全身麻痺でありながら、非人間的な言動を崩さないパッツのキャラクターが印象に残ります。

 アドービ・ジェイムズ『暗闇に続く道』 警官を殺害し、逃亡を続ける重罪人モーガンは、車の事故を起こし、意識を失います。通りすがりの司祭に助けられた彼はしかし、司祭の態度に腹を立てます。やがて馬に乗った美女に出会ったモーガンは、司祭を振り切り、女の後をついていきますが…。
 人気のない場所で出会う、謎の司祭と女性。彼らはいったい何者なのか?終始、不穏な空気のなかで展開される怪奇小説。

 リチャード・スタップリイ『基地』 自らに関する記憶を全て失い、男は監禁されていました。「実験体9号」と名付けられた彼は、周りの人間たちの言う通りに行動しますが…。
 男を監禁し続ける組織の目的とは何なのか? そして男自身の正体とは…? トーマス・M・ディッシュ『リスの檻』にも似た、不条理SF風ホラー。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

悲しき人生  オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』
無伴奏ソナタ
無伴奏ソナタ (ハヤカワ文庫 SF (644))
オースン・スコット・カード
早川書房 1985-12

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 オースン・スコット・カードの短編集『無伴奏ソナタ』(野口幸夫訳 ハヤカワ文庫SF)の収録作品に共通するのは、人間の醜い部分、暗部が描かれているところでしょうか。かといって、ペシミズムに陥るわけではなく、あくまで希望を失わないところに、カードの美点があります。
 それでは、以下収録作品について、いくつか紹介していきましょう。

 『エンダーのゲーム』 異星人からの侵略をたびたび受けた人類。大人の兵士を多数失った彼らは、子供たちを軍人として鍛えるためのスクールを設立します。十一歳の少年エンダーは、天才的な知略を駆使して、またたくまに指揮官の座を手に入れますが…。
 天才的な少年司令官が、毎回、圧倒的な不利をものともせず、知略のみで勝ち進んでいくという物語。とはいっても、戦闘は実戦ではなく、模擬戦闘なのです。しかしエンダーに対して与えられる課題は、エスカレートしていきます。極端なまでのハンデをつけられることに対して、エンダーは疑問を抱きます…。
 リアルな戦闘シーンもさることながら、結末で明かされる真実には驚かされることでしょう。
 
 『王の食肉』 その星では、王と女王の食事として、国民の体の一部が食べられるというしきたりがありました。肉を集めて回るのは「羊飼い」の仕事。どんなに抵抗しようとしても、彼の杖に触れられると、言うがままになってしまうのです。やがて、五体満足な人々がいなくなったころ、宇宙から来訪者が現れます…。
 人々から憎まれる「羊飼い」。しかし彼はまた、人々を生かすために働いていたのです…。残酷な結末には、賛否両論あるかもしれません。

 『呼吸の問題』 ある日、妻と子供の呼吸のタイミングが一致していることに気づいたデイルは、不思議に思いますが、その直後、事故で二人は亡くなります。そして、デイルの両親を含めた人々の呼吸が一致しているのに気づいた直後に、彼らの乗った飛行機が墜落したのです。これは死のサインに違いない! そう確信したデイルは、それが起こるたびに、うまく災難を免れますが…。
 たびたび死を免れるデイルでしたが、それにも限界が…。死の前兆を読み取れるようになった男の悲喜劇を描く異色短篇です。

 『時蓋をとざせ』 近未来、タイムマシンを悪用する退廃的なグループがありました。彼らは、「死」を味わうために、わざと過去のトラックに轢かれては、現在に戻ってくるというゲームを繰り返していました。グループのリーダー、オライオンを逮捕しようとする刑事の思惑に対し、彼は法律を犯してはいないと言い張りますが…。
 退廃の極致を体現するグループがゲームにしたのは、何と「死」そのもの。「タイムマシン」と言うガジェットに、こんな使い方があったとは驚きです。

 『四階共同便所の怨霊』  妻との不和のため、安アパートに引っ越したハワードは、共同便所に赤ん坊が突っ込まれているのを見つけます。よく見ると、その赤ん坊にはヒレがあり、どう見ても人間ではないのです。やがて、赤ん坊に襲われた彼は、赤ん坊を切り刻んで始末します。安堵したのもつかの間、殺したはずの赤ん坊が、たびたびハワードの前に現れます…。
 利己的で冷血漢の男ハワードの前に現れ続ける謎の赤ん坊。しかもハワードの眼にしか赤ん坊は見えないのです…。 
 赤ん坊は、主人公の罪の意識の象徴なのでしょうか。それにしては、妙に実在感がある赤ん坊のインパクトが強烈。

 『死すべき神々』 突如現れ、地球に対し友好的に振る舞う異星人たち。世界各地に寺院らしきものを立て続ける彼らの目的は何なのか? 疑問を抱いたクレーン老人は、異星人のひとりに疑問をぶつけますが…。
 不死の種族にとっては、死すべき種族こそが「神」である、という逆説を描いたアイディア・ストーリー。短いながらも奥行きの感じられる作品です。
 
 『解放の時』 ある日体の不調に気づいた経営者マーク・タップワースは、突如焦燥感に駆られ、帰宅します。あわてて帰った彼の家には、なぜか棺が置いてあり、彼を驚かせます。ひょんなことから、行き場所のない棺を預かる羽目になったというのです。子供も怖がるだろう、と妻に言いかけた彼は、自分達には子供などいなかったことを思い出します…。
 妻が欲しがっていた子供は結局できなかったはずなのに、なぜ、たびたび子供がいたような気がするのだろうか? これは妄想なのかそれとも…?
 死の寸前に男が見た幻想、それとも妻の願望が現実を改変したのか。多様な解釈が可能な幻想小説です。

 『猿たちはすべてが冗談なんだと思いこんでいた』  民族虐殺から生き延びたアグネスは、長じて人々のためになることをしたいと考えていました。宇宙船のパイロットとなった彼女は、宇宙に突如出現した、謎の物体の調査に赴きます。物体の内部は、地球によく似た環境であり、膨大な人口を養えることを知ったアグネスは、地球からの移住を実現させ、英雄としてあがめられるようになりますが…。
 人類愛に燃える主人公が、新天地を発見し人々を導く…。ストレートなヒューマン・ストーリーが、後半思いもかけない展開になります。ただ、本編より、作中作の「シリル」の物語の方が、寓意に富んでいて、魅力的に感じられます。

 『磁器のサラマンダー』 産褥で死んだ妻を悲しむあまり、娘に呪いの言葉を吐いてしまった父親。その呪いは実現し、娘はひとりではろくに歩けない体になってしまいます。娘が成長するにつれ、後悔の念を深める父親は、魔法のかかった「磁気のサラマンダー」を手に入れて、娘に与えます。やがて娘はサラマンダーを愛するようになりますが…。
 動きを止めると死んでしまうために、常に動き回らなければならないという「磁気のサラマンダー」のキャラクターがユニークです。娘からの愛情を受けても、自分は「磁気」のために、同じような愛情を抱くことはできない、というところも、じつに意味深。
 お伽話風の世界でありながら、どこか「痛み」を伴った寓意ファンタジーです。

 『無伴奏ソナタ』 その世界では、社会は完全に管理されていました。幼くして芸術的な才能を認められた「創る人」は、外部からの影響を受けずに、完全にオリジナルなものを生み出さなくてはならないのです。音楽の才能を認められたクリスチャンは、森の中で暮らしながら、周りの自然から、つぎつぎと曲を生み出していました。
 しかしある男が、バッハの曲が入ったテープを持ち込み、クリスチャンに聞かせようとします。禁じられているにもかかわらず、好奇心に負けたクリスチャンは、テープを聴いてしまいます。
 やがてクリスチャンの作品から、外部の影響を見て取った「監視人」は、彼を追放し、音楽を禁止してしまいます…。
 完全にオリジナルなものを強要する、狂信的な世界。禁じられても、音楽を愛し続ける青年。青年を襲う残酷な運命にもかかわらず、希望を残す結末が感動を呼ぶ傑作短篇です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

9月の気になる新刊
9月5日刊 ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫)
9月9日刊 ミステリー文学資料館編『江戸川乱歩の推理教室』(光文社文庫)
9月10日刊 東雅夫編『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』(ちくま文庫 予価1050円)
9月10日刊 アンドリュー・ガーヴ『ヒルダよ眠れ』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価840円)
9月10日刊 フレドリック・ブラウン『天の光はすべて星』(ハヤカワ文庫SF 予価735円)
9月10日刊 スタニスワフ・レム『宇宙飛行士ピルクス物語 上・下』(ハヤカワ文庫SF 予価各840円)
9月10日刊 アーサー・ポージス『八一三号車室にて』(論創社 予価2310円)
9月17日刊 行方昭夫編訳『モーム短篇選 上』(岩波文庫)
9月17日刊 阿部公彦訳『フランク・オコナー短篇集』(岩波文庫)
9月19日刊 広瀬 正『エロス』(集英社文庫)
9月25日刊 コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』(早川書房 予価1890円)
9月25日刊 リン・ディン『血液と石鹸』(早川書房 予価1680円)
9月25日刊 『エドガー賞全集 [1990~2007]』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価840円)
9月25日刊 小林信彦編『横溝正史読本』(角川文庫 予価540円)
9月下旬刊 ジェラルド・カーシュ『犯罪王カームジン』(角川書店)
9月下旬刊 アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』(白水社 予価3570円)
9月下旬刊 P・G・ウッドハウス『ジーヴスと封建精神』(国書刊行会 予価2310円)
9月刊 アンドルー・クルミー『ミスター・ミー』(東京創元社)

 ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』は、キングの息子ということでも話題になったジョー・ヒルの短編集。
 ガーヴ『ヒルダよ眠れ』は、新訳で登場です。おそらく、この作者のいちばん有名な作品ですが、ガーヴの最良の部分が出た作品とは言い切れないんですよね。個人的には、『メグストン計画』『ギャラウエイ事件』あたりの方が良かったような気はします。
 それにしても、早川の9月の新刊は、復刊ものといい新刊といい、異様に充実してます。ブラウン『天の光はすべて星』はともかく、スタニスワフ・レム『宇宙飛行士ピルクス物語』には驚きです。
 新刊としては、コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』『エドガー賞全集 [1990~2007]』は買いでしょう。とくに『エドガー賞全集 [1990~2007]』の方は、以前に『エドガー賞全集』『新エドガー賞全集』という、この賞の受賞作品を集めたアンソロジーが出ていて、それの続編という形になるようですね。
 小林信彦編『横溝正史読本』は、角川文庫の横溝正史シリーズの中でも、もっとも入手困難で知られた希少本。まさか復刊されるとは思いませんでした。
 カーシュ『犯罪王カームジン』は、シリーズ・キャラクター「カームジン」の登場作品を集めたミステリ作品集です。
 論創社からは、アーサー・ポージス短編集『八一三号車室にて』が出ます。アンソロジーやショート・ショートが好きな人にはお馴染みの職人作家ですが、本が一冊にまとまるのは初めて。これはいい仕事ですね。
 さて、小説作品以外で、来月いちばん気になるのは、アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』でしょうか。「今東西の実在・架空の図書館を通して、書物と人の物語を縦横無尽に語る」本だそうですが、ボルヘスの友人だったというこの著者、以前に出た『読書の歴史』もなかなか面白いものだったので、期待大です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ふしぎな人間たち  シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』
影よ
影よ、影よ、影の国―怪奇とファンタジーのスタージョン傑作選 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
シオドア・スタージョン
朝日ソノラマ 1984-01

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 いまや、日本でも根付いた感のあるスタージョン人気。復刊により、代表的な作品もずいぶん読めるようになりましたが、唯一復刊されていない短編集がこれ、『影よ、影よ、影の国』(村上実子訳 ソノラマ文庫)です。
 傑作揃いの『不思議のひと触れ』『輝く断片』などの収録作品に比べると、明らかに「小粒」と言わざるを得ないのですが、それでも中には、スタージョンらしい異様な発想や展開を見せてくれる作品も含まれています。

 『影よ、影よ、影の国』 子供嫌いな継母から、ことあるごとに叱られていた少年ボビー。ある日、おもちゃ遊びを禁じられた彼は、影あそびを始めます。罰を与えているはずなのに、部屋から聞こえる笑い声に継母は激昂しますが…。
 子供の想像力を扱ったダーク・ファンタジーです。こういう孤独な子供を描かせると、スタージョンは上手いですね。

 『秘密嫌いの霊体』 ある日、風変わりな娘マリアに一目惚れしたエディ。しかしマリアには秘密がありました。彼女は「憑衣」体質であるというのです。それは、周りの人々の悪意や憎悪を感じ取り、真実を人々の前にさらけ出してしまうという能力でした。人前に出るのを嫌がるマリアをパーティに連れ出したエディは、彼女の告げ口によって、仕事を失ってしまいます…。
 美人で聡明ながら、秘密をまったく守れない妻。夫が考え出した打開策とは…?
 「霊」が憑くのではなく、「憎悪」が憑いてしまう、という発想は、じつにユニーク。エンタテインメント性の強いアイディア・ストーリーです。

 『金星の水晶』 重要な資源である「金星水晶」を手に入れるため、宇宙船で金星に向かったクルーたち。しかし、技術者や専門家ばかりのクルーの中で、喜劇役者スロープスは、ただ一人場違いな人間でした。何の役にも立たないスロープスを、皆は笑い者にします。やがて到着した金星で、先住民である〈わめき屋〉たちにクルーたちは襲われます。スロープスは一人で彼らに向かっていきますが…。
 人間とは異なる宇宙人の文化と同時に、軽んじられていたスロープスの本当の性質もまた明らかになります。明かされる真実も、じつに諧謔に富んだもの。認識の相対性を描いた、スタージョンらしい佳作です。
 
 『嫉妬深い幽霊』 若く美しい娘アイオラ。しかし、彼女の周辺に近付く男たちには、必ず災難が降りかかるのです。それは彼女に恋慕する「嫉妬深い幽霊」のせいだと考えたガスは、ある対策を考えますが…。
 幽霊を欺く手段が、ちょっと拍子抜けです。軽めのゴースト・ストーリー。

 『超能力の血』 超能力を持つ「ぼく」の血を引いた娘トウィンクは、生まれる前の胎児ながら、父親とのテレパシーを発達させていました。事故の衝撃で、母体ともども傷を負ったトウィンクが瀕死の状態であると思い込んだ「ぼく」は、彼女を生かすべきなのか逡巡します…。
 超能力を持つ親子の絆を語った作品。赤ん坊の原初的な感情に圧倒される父親の苦悩が読みどころです。

 『地球を継ぐもの』 愚かな行為を繰り返し、絶滅の淵に立たされた人類は、自分たちの英知を合金に彫り込み、次代の生命に残そうと考えます…。
 人類を継ぐ種族は、ある動物。この動物の選択がスタージョンならではというべきでしょうか。シリアスなテーマながら、動物のあっけらかんとした様子がユーモアを持って描かれます。

 『死を語る骨』 発明家ドンジーが作り出したのは、骨からその生前の記憶を追体験できるという装置でした。羊や牛の意識を体験した彼は、ふと疑問にとらわれます。一週間前に事故死した女性ユーラの骨を見てみれば、彼女の死因がわかるかもしれない。愛人と駆け落ちをしようとした矢先の事故だと言われているが、彼女はそんな人間ではないはずだ。ユーラをないがしろにしていた夫ケリーに、ユーラの骨で記憶を追体験させようと、ドンジーは考えますが…。
 「骨」の人生を追体験できるという装置をめぐるファンタジー。動物の「骨」を体験するユーモラスな前半部分と、不幸な女性ユーラをめぐるシリアスな後半部分とが、コントラストをなしています。

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深夜のショッカー  ロバート・ブロック『夜の恐怖』
夜の恐怖夜の恐怖 (1960年) (世界ミステリシリーズ)
中田 耕治
早川書房 1960

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B0018B7IIMデッド・サイレンス
ライアン・クワンテン, アンバー・ヴァレッタ, ドニー・ウォルバーグ, ボブ・ガントン, ジェームズ・ワン
ジェネオン エンタテインメント 2008-07-09

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 最近、ある映画作品を見て、思うところがありました。具体的なタイトルを挙げさせてもらうと、ジェームズ・ワン監督のホラー映画『デッド・サイレンス』なのですが、結末を見終えて思いました。これってロバート・ブロックじゃない?
 刺激的なストーリー、悪趣味すれすれのブラック・ユーモア。ホラー小説を書き続けてきた、ロバート・ブロック風の味がそこにはありました。その意味で、ブロック作品は、いまだにアメリカの映画や小説に影響を与え続けているんだなあ、と嬉しくなりました。
 現在でも、サービス精神にあふれたロバート・ブロックの作品は、楽しく読むことができます。ホラーといっても、例えばスティーヴン・キングのように、リアルで身につまされるような類いのものとは異なります。ブロックの作品は、ある種「フィクション」であることを意識しつつ楽しむ、というタイプの作品なのです。
 今回は、そんなブロックの短篇を集めた『夜の恐怖』(中田耕治他訳 ハヤカワ・ミステリ)です。

 『夜の恐怖』 深夜に玄関のドアの音で眼をさました、ボブと妻のバーバラ。そこに立っていたのは友人のマージョリイでした。彼女はたしか、神経障害で精神病院に入院していたはず。病院から逃げ出してきたというマージョリイは、夫が、自分を病院に閉じ込めたというのですが…。
 深夜に精神病院から脱走してきた女性の告白。彼女の言っていることは本当なのか、妄想なのか? すべてが妄想だと思わせてじつは…というストーリーは、予測がつきやすいものの、結末の処理は非常に巧妙です。

 『湖畔』 刑務所で知り合った男から、隠してあるという大金の情報を手に入れたラスティは、金を手に入れるため、男の未亡人ヘレンに近付きます。男の話とはまるで違うヘレンの容姿に失望しながらも、ラスティは金を手に入れるために、ヘレンに惚れたふりをよそおいますが…。
 大金を横取りしようという男の犯罪計画。しかしそこには落とし穴が…。単純なクライム・ストーリーかと思いきや、終盤のどんでん返しには驚かされます。

 『心の友』 包容力のある母性的な妻を持つジョージ。何の不満も感じずに過ごしていたジョージのもとに、ふとしたことから、大金が転がり込みます。友人のロデリックは、妻を始末して人生を楽しむべきだ、とジョージをそそのかしますが…。
 悪魔的な友人ロデリック。彼の言うことに心を惹かれながらも、誘惑をはねのけるジョージでしたが…。ブロックの技が冴えるサイコ・サスペンス作品。

 『みごとな想像力』 手伝いの青年と妻との不倫に気づいたローガンは、ある計画をたてます。ただ殺すだけでは能がない。彼の計画は着々と進みますが…。
 「想像力」を駆使した犯罪の結果とは…。ポーの作品に触発されたと思しい犯罪小説です。

 『趣味をもつ男』 ボーリング大会で盛り上がっているある街。酒場には、ボールを入れたバッグを持った男たちがたむろしていました。そこで「ぼく」は、スポーツを馬鹿にする、傲慢な男と出会います。やがて男は「人切り魔」の話を始めますが…。
 殺人を匂わせる不穏な男。彼は殺人鬼なのだろうか? ブロックらしいオチが楽しめる、鮮やかな作品。

 『幸運の女』 ツキに見放され、アル中寸前になっていた青年フランキーは、ある夜、赤いドレスの黒髪の美女に出会います。彼女の指し示す通りに行った賭けも行動も、すべてが上手くいくのです。しかも、彼女の姿は自分以外には見えないらしいのです。彼女は幸運の女神に違いない。しかし調子にのった彼は、彼女を邪慳に扱ってしまいます…。
 「幸運の女神」をめぐるファンタジー、なのですが、作者がブロックだけに、結末はホラーのそれになっています。

 『真珠の頸飾り』 東洋から来たという美しい王妃。彼女の持つ真珠の頸飾りに眼を奪われた、詐欺師の二人組は、頸飾りを盗み出そうと画策します。相棒のウィリアムは、王妃を口説いたとジェリーに自慢しますが、その直後に姿を消してしまいます。相棒の行方を知っているという王妃に誘われ、彼女のもとを訪れたジェリーでしたが…。
 近付く男たちが次々と失踪してしまうという、謎の王妃。彼女の正体とは…? 結末の強烈なブラック・ユーモアが読みどころです。

 さて、上記でふれた『デッド・サイレンス』ですが、簡単に紹介しておきましょう。
 ジェイミーとリサの若夫婦のもとに、ある日、腹話術の人形が送られてきます。人形と妻を部屋に残したまま、ジェイミーは外出しますが、帰宅すると妻は殺されていました。しかも舌を切り取られて。
 警察に容疑者扱いされたジェイミーは、妻の死は腹話術人形と関係があるのではないかと考えます。謎を解くために、その人形を作った腹話術師の住んでいた町、そして彼自身の故郷でもある、レイブンズ・フェアに向かいます…。
 この『デッド・サイレンス』の結末なのですが、これ、人によっては受け入れがたいものかもしれません。つまり、あまりに大げさで、ある意味「馬鹿らしい」からです。
 そしてそれは、ブロックの『夜の恐怖』の収録作品で言うと、『趣味をもつ男』『真珠の頸飾り』などの味に、非常に似ています。これらの結末を「ブラック・ユーモア」として、受け入れられるかどうかで、「B級ホラー」を楽しめるかどうかが、決まるように思います。逆に言うと、ロバート・ブロックの作品が好きな方は、『デッド・サイレンス』も楽しめるでしょう。
 興味を持たれた方は、『デッド・サイレンス』を見て、感想でも聞かせていただくと、嬉しいです。



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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