最後の審判の巨匠 (晶文社ミステリ) 単行本 – 2005/3/1 本邦では、幻想的な歴史小説『第三の魔弾』で知られるレオ・ペルッツ。『最後の審判の巨匠』(垂野創一郎訳 晶文社)もまた、不思議な味わいを持った作品です。
20世紀初頭のウィーン。かっての名優ビショーフが取引先銀行の倒産で窮状にあることを、周りの人間は本人に隠していました。俳優としても落ち目になっていたビショーフがその事実を知れば、自殺しかねないことを知っていたからです。ビショーフの妻ディナに、かって恋心を抱いていたヨッシュ男爵は、自分でも無意識に、ビショーフに自殺を示唆するような言動を繰り返します。 そんな中、客の一人、ゴルスキ博士のすすめで、ビショーフは「リチャード三世」の役を披露することになりますが、役作りのために、あずまやにこもったビショーフは拳銃自殺を遂げてしまいます。ヨッシュに対して反感を抱いていた、ディナの弟フェリックスは、ヨッシュを弾劾しますが、エンジニアのゾルグループは、拳銃が二発発射された事実から、別の犯人による犯行だと主張します…。
この作品「ミステリ」として読むか、そうでないかで、評価がだいぶ分かれる作品だと思います。ミステリとして読むには、かなり無理がある作品なのです。前半は、論理的に殺人や真犯人の証拠を求めていくのですが、後半になると、そのあたりがかなり曖昧になってしまいます。 ただ、ミステリとして読まなければ、もつれた人間関係の心理ドラマとして、読み応えのある作品です。かっての恋人の屋敷に通い続け、恋敵であるビショーフを妬むヨッシュ男爵の執着、その気持ちを見越したフェリックスの反感。このあたりの心理的なサスペンスは息詰まるようで、迫力があります。 この作家ならではの、幻想的な雰囲気は素晴らしいものですので、「ミステリ」というよりは「幻想小説」として読んだ方が楽しめる作品でしょう。
テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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