〈異色作家〉のひとりとして、また、オムニバスドラマ『ミステリー・ゾーン』の脚本家としても知られるチャールズ・ボウモント(ボーモント)。 〈異色作家短編集〉の一冊として刊行された『夜の旅その他の旅』以来、数十年を経ての邦訳となる短編集『残酷な童話』(仁賀克雄訳 論創社) は、期待に違わない出来です。
『残酷な童話』 精神状態のおかしくなった母親とともに暮らすロバート。男性を憎む母親の手により、ロバートは女の子として育てられます。外界との接触を断たれたロバートは成長するにつれ、違和感を抱き始めます。しかし母親は強圧的な態度で、彼を支配し続けようとします…。 かって『ロバータ』という題で訳されていたこともある作品です。主人公の実際の性別を隠すような「仕掛け」をせずに、異常かつ残酷なシチュエーションをあくまで淡々と描写するというところに、この作品の凄みがあります。レイ・ブラッドベリの『びっくり箱』とも通底するテーマを扱った、インパクト溢れる作品。
『消えゆくアメリカ人』 ある日突然、周りの人間から見えなくなってしまった男ミンチェル。妻子にさえ彼の姿は見えません。彼は思い当たります。自分の姿は突然消えたわけではない。いつの間にか、長い間をかけて、だんだんと薄れてきたのだ…。 「透明」になってしまった男が、自分のアイデンティティーを取り戻そうとする、哀感あふれるファンタジー。姿が消えてなお、会社には行き続けなければならないと考える、主人公の姿が印象的です。
『フェア・レディ』 ささいな言葉のやり取りから、バスの運転手の男に恋をしたオールドミス。毎朝、彼の運転するバスに乗り続けた彼女は、ある日彼が配置転換させられたことに気づき愕然としますが…。 オールドミスのささやかな恋を描く、スケッチ風の小品。洗練された最後の一行が記憶に残ります。
『ただの土』 「ただ」であることに異様に執着するミスター・エイオータは、ある看板に目を引かれます。そこには「無料の土」について書かれていました。彼はさっそくトラックで運びきれないほどの土を持ち帰ります。しかしその土は「墓地」のものだったのです…。 「墓地の土」というホラー味のあるアイテムに、主人公の特異なキャラクターを絡ませた、非常にユニークな作品です。プロットとキャラクターが有機的に結びついた、一読忘れがたい、奇妙な味の短篇。
『自宅参観日』 疎遠だった友人たちの訪問を受けたミスター・ピアス。喜ぶべきことなのに、彼の顔は冴えません。トイレを使いたいという友人をピアスは必死に引き止めます。バスルームには妻の死体があったからです…。 殺人の発覚を防ぐために、ピアスのとった行動とは…? 友人を始末せざるを得なくなった男を描く、皮肉なクライム・ストーリーです。
『ダーク・ミュージック』 女性教師ミス・メイプルは、時代錯誤なほどの潔癖症でした。性教育を徹底拒否し、男女のつきあいにも不寛容な彼女は、周りの人間から疎まれていました。しかしある夜、不思議な音楽に誘われて外に出たミス・メイプルは、妙な高揚感に囚われます…。 「お固い」女性教師が「牧神」らしき存在に誘惑される性的ファンタジー。
『変態者』 異性愛が禁止された近未来、異性とつきあう人間は犯罪者とみなされていました。ジェッシは、男装した恋人と逢い引きしようと考えますが…。 同性愛の立場を逆転させた風刺SFです。題材がかなりストレートなだけに、今読むと、いささか古びている感もあります。
『子守唄』 心に病気をかかえた老女は、自分の息子がいまだに幼児であると思い込んでいました。大人になった息子を見ても、自分の子であると認識できないのです。ある夜、犯罪を犯した息子が、かくまってくれと家に飛び来んできますが…。 狂った母親と、その影響で犯罪に手を染めた息子。家族の歪んだ関係を描くサイコホラーです。
『犬の毛』 異常なほど死を恐れる男ギッシングは、ある悪魔じみた男から取引を持ちかけられます。男は、不老不死を提供しようというのです。支払いの代価はなんと「髪の毛一本」! 毎月、髪の毛一本を送付する限りにおいて、永遠の命が保証されるのです。ただし髪の毛は本人のものでなければなりません。ギッシングは喜んで契約しますが、やがて自分の髪の毛が薄くなりつつあることに気づきます…。 「悪魔との取引」を扱ったユーモラスなファンタジー。オチは脱力系ながら、発想はなかなかユニークです。
この短編集、SFやホラーに混じって、普通小説もいくつか含まれていますが、今読むと大分古びている感は否めません。全体的に、訳文が、あまりこなれていないせいもあって、よけいそんな印象を持ってしまうのでしょうか。 ただ、訳文の悪さを差し引いても、いくつかの作品の素晴らしさは変わりません。とくに『残酷な童話』や『ただの土』は、ぜひ読んでいただきたい傑作です。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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