9月の気になる新刊
9月4日刊  ロラン・トポール『幻の下宿人』(河出文庫 予価819円)
9月6日刊  R・L・スティーヴンスン『新アラビア夜話』(光文社古典新訳文庫)
9月6日刊  ミステリー文学資料館編『江戸川乱歩と13の宝石2』(光文社文庫)
9月7日刊  COCO『今日の早川さん』(早川書房 予価1050円)
9月7日刊  高原英理『ゴシックスピリット』(朝日新聞社 予価1890円)
9月12日刊 タニス・リー『悪魔の薔薇』〈奇想コレクション〉 (河出書房新社 予価1995円)
9月12日刊 ジャック・リッチー『ダイアルAを回せ』〈KAWADE MYSTERY〉(河出書房新社 予価2100円)
9月中旬刊 中村融編『千の脚を持つ男』(創元推理文庫)
9月中旬刊 須永朝彦『日本幻想文学史』(平凡社ライブラリー 予価1470円)
9月下旬刊 D・M・ディヴァイン『悪魔はすぐそこに』(創元推理文庫)
9月下旬刊 リチャード・マシスン『フュリー・オン・サンデー』(扶桑社ミステリ)
9月刊   P・G・ウッドハウス『ブランディングズ城の夏の稲妻』(国書刊行会 予価2200円)

東京創元社2007年復刊フェアより
G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち』
ロバート・シェクリー『残酷な方程式』
W・H・ホジスン『夜の声』
J・G・バラード『溺れた巨人』
フレドリック・ブラウン『宇宙をぼくの手の上に』

 9月は気になる書目がたくさんありますね。まずトポール『幻の下宿人』は、かって早川書房の〈ブラック・ユーモア選集〉に収められていたもの。かなりブラックな味わいのユーモア小説です。主人公が不条理な目にあう、いたいたしい話です。
 今回の光文社古典新訳文庫からは、スティーヴンスン『新アラビア夜話』が要注目。都会を舞台にした奇談なのですが、とにかく雰囲気が素晴らしいです。アーサー・マッケンの『怪奇クラブ』に影響を与えた作品としても有名なので、怪奇小説ファンは要チェックです。
 〈奇想コレクション〉の新刊は、タニス・リー。随分意表をついたセレクションですね。ファンタジー作家の印象が強いリーなのですが、今回は異色短篇よりの作品が集められているのでしょうか。
 〈KAWADE MYSTERY〉のほうは、今やおなじみジャック・リッチーです。どの作品も安心して読める質を持っているので、これは躊躇いなく買いです。
 中村融編『千の脚を持つ男』は、「モンスター」をテーマにしたアンソロジーだそうです。SF・ホラーファンはチェックを。
 D・M・ディヴァインは、1960年代に活躍したイギリスのミステリ作家。つぶれてしまった現代教養文庫から、いくつかミステリ作品が出ていましたが、今やすべて絶版。しばらくぶりの邦訳です。この人の作品は、謎解きもさることながら、物語部分の密度が非常に濃いんですよね。心理サスペンス的な要素も強く、今でも充分読むに耐える質を持っています。
 リチャード・マシスン『フュリー・オン・サンデー』は、マシスン50年代の長編だそう。マシスンの作品の中でも、ものすごく渋いところを狙ってきた感じです。
 今年の東京創元社2007年復刊フェアからは、いくつかチェック書目がありますね。とくにシェクリー『残酷な方程式』は、久方ぶりの復活なので要注目です。
文学と音楽のはざまで ホフマンによる音楽紹介
ジュゼッペ・タルティーニ:ヴァイオリン協奏曲 全集 シュターミッツ:交響曲集(Stamitz: 4 Symphonies) レオ:チェロ協奏曲(全6曲) Martini: Sonatas Cello Concerti 1-3
 絵画、音楽、文学、と多方面に才能を発揮した、ドイツ・ロマン派の幻想作家、エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン(1776-1822)。作家として名を成した彼が、いちばんなりたかったのは「音楽家」だったといいます。それだけに「挫折した音楽家」である彼の文学作品、その大部分には、音楽が何かしらのテーマやモチーフとして使われているのが特徴です。
 さて、ホフマンの生きた時代は、音楽史でいうところの「古典派」の時代。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)やルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の活躍期と重なります。筆名の「アマデウス」がモーツァルトにあやかったと言われているように、ホフマンがモーツァルトの心酔者だったのは有名です。
 ホフマンの作品を読むと、モーツァルトを初めとして、音楽家の名前がよく出てきますが、その大部分は、一般の人には馴染みのない名前でしょう。
 しかし、クラシック界では、近年「古楽器」によるバロック・古典派の音楽家の復興が盛んになり、今まで音楽辞典でしか見たことのなかったような作曲家の作品がCDとして出され、実際に耳にすることができるようになっています。なかには「世界初録音」の作曲家であるとか、作品も珍しくなくなっているのです。
 今回はホフマンの短篇作品『クレスペル顧問官』(池内紀訳『ホフマン短篇集』岩波文庫収録)をサンプルとして、何人かの作曲家を紹介していきましょう。ちなみにこの『クレスペル顧問官』は、次のような物語です。
 語り手は、あるとき、奇人として有名な、クレスペル顧問官と知り合います。クレスペルは学識豊かな法律家であり、趣味とするヴァイオリン製作の腕にかけては、超一流との評判でした。クレスペルの家には、アントニエという非常に美しい娘がいますが、クレスペルは彼女を家から一歩も出さずに軟禁しているというのです。何年か前に突然クレスペルが連れてきたというアントニエ、彼女とクレスペルの関係がどんなものなのかは、誰も知りません。
 ふとしたことから、クレスペルの家に招かれた語り手は、彼とヴァイオリンの話で盛り上がります。美声の持ち主であるというアントニエの歌を聞いてみたいと考えた語り手が、ふとピアノで伴奏を始めると、アントニエは目を輝かせてピアノの前にとんできます。しかし、その様子を見ていたクレスペルは何故か激怒し、語り手は追い出されてしまうのですが…。
 クレスペルとアントニエとの関係とは…? 二人の人物についての謎が、読者の興味を引っ張っていきます。ユーモアも交えた魅力的な人物描写と、全体を通して流れる幻想性。そこにはもちろん音楽が重要な意味を持って現れてきます。ホフマンの名作のひとつといえるでしょう。
 それでは、作中からいくつか引用してみましょう。

 「あれね、あのヴァイオリンはですな-」といって、こんな話をした。
 「名も知れない名人の作でして、タルティーニの時代につくられたものと思いますね。…」


 ジュゼッペ・タルティーニ(1692-1770)は、18世紀前半に活躍したイタリアのヴァイオリニストにして作曲家。夢のなかで悪魔に教わったという逸話のある『悪魔のトリル』で有名です。悪魔的な技巧を持ったヴァイオリニストといえばパガニーニ(1782-1840)が有名ですが、さしずめタルティーニは18世紀版パガニーニといったところでしょうか。ヴァイオリン・ソナタやヴァイオリン協奏曲では、技巧もさることながら、優美な旋律美が特徴です。
 
  「故しゅたーみっつ氏が引退興行ノ際ニ用イタル弦ノ一部ナリ」

 これはカール・シュターミッツ(1745-1801)のことでしょうか。ドイツのマンハイム楽派の祖、ヨハン・シュターミッツの息子で、ヨーロッパ各地で演奏旅行を行い人気を博しました。モーツァルトが、書簡のなかでこの人のことを「書き殴り屋」と言っていることでも有名。しかし実際シュターミッツの曲はかなりモーツァルトに近い感じで、なかなか魅力的。優雅で落ち着いた感じのする曲が多いです。

 と言いながら、古いレオナルド・レオの名曲を弾きはじめたとたん、アントニエの頬がぱっと赤らんだ。

 レオナルド・レオ(1694-1744)は、イタリア、ナポリの作曲家。オペラ、教会音楽、器楽曲など多方面の作曲を行い、どれも高い質を保っています。「スターバト・マーテル」で知られるペルゴレージ(1710-1736)の師匠でもあります。チェロ協奏曲がよく演奏されるようですが、どの曲も「歌うような」旋律を持っています。

 アントニエは繊細な感受性によって、変わり者の父の心の底にあるやさしさを感じとっていたようだった。彼女はマルティーニ作のモテットを歌った。

 ジョヴァンニ・バッティスタ・マルティーニ(1706-1784)は、イタリアの作曲家。音楽学者としても名声を馳せ、学識豊かな音楽教師として、人望も厚かった人です。モーツァルトが指導を受けたことでも非常に有名です。

 『クレスペル顧問官』のあらすじからもわかるように、ホフマンの作品の大部分は、だいたいにおいて音楽が重要な位置を占めています。音楽に興味のない人でももちろん楽しめますが、ホフマンの言及する作曲家や曲を聞くことで、さらに楽しみを増すことができるのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

安く、面白く  荒俣宏『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』
4582253040パルプマガジン―娯楽小説の殿堂
荒俣 宏
平凡社 2001-04

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 アメリカの翻訳小説を好む人なら、いちどは目にしたことがあるであろう単語「パルプマガジン」。「パルプマガジン」とは、20世紀前半に一斉を風靡した廉価な小説雑誌の総称です。以前に紹介した怪奇小説誌「ウィアード・テールズ」もその一つですが、怪奇小説だけでなく、ミステリ、SF、ウエスタン、スポーツ、戦記ものなど、ありとあらゆるジャンルがあるのが「パルプマガジン」の特徴です。
 SFやホラーなどの、ジャンル小説系の雑誌については、日本でもわりと知られています。しかし、この「パルプマガジン」を全体的に俯瞰した書物というのは、ありそうでありませんでした。荒俣宏の『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』(平凡社)は、そんな「パルプマガジン」の全体像をつかむのに最適の一冊です。
 とにかく安い小説誌、というコンセプトからもわかるように、純粋に金儲けのために生まれた感のある「パルプマガジン」。それが大量に広がるに及んで、量が質に転化した…という軌跡がうかがえます。
 黎明期の雑誌「アーゴシー」であるとか、「悪書」とうたわれた「スパイシー」など、日本では馴染みがないながら、興味深い事例がたくさん載っています。とくに「スパイシー」を紹介した章は、読み物としても、たいへん面白くなっています。
 過激な表現がウリだったこの雑誌、当局に睨まれるのを想定して、なんと表現をソフトにした「検閲版」を同時に作っていたというのです。結局「スパイシー」は、その後すべて廃刊という憂き目を見るのですが、その顛末は、したかかな商売人根性を窺わせますね。
 もちろん、日本でもわりと有名な「ウィアード・テールズ」、ミステリ雑誌「ブラック・マスク」、SF雑誌「アメージング・ストーリーズ」などにも、それぞれ章が割かれており、ジャンル小説の読者にも面白く読むことができます。
 珍しいのは、女性読者を対象にした「パルプマガジン」。ラブストーリーの専門誌なんてのもあったようです。あと戦時中に流行ったという「人種差別もの」など、ほんとうにあらゆるジャンルの専門誌があったのだということを認識させてくれます。
 荒俣宏ならではの、目配りのきいた良書といえるでしょう。もちろん単なる研究書ではなく、ツボをおさえた文章で、退屈せずに読ませるのも高評価です。

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幽霊を感じるために  イーディス・ウォートン『幽霊』
4861821339幽霊
イーディス・ウォートン 薗田 美和子 山田 晴子
作品社 2007-07

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 わが国では、印象的な怪奇小説『あとになって』で知られるアメリカの女流作家イーディス・ウォートン(1862-1937)。彼女のゴースト・ストーリーを集めた作品集『幽霊』(薗田美和子、山田晴子訳 作品社)が刊行されました。
 劇的な展開などは、あまりありませんが、じわじわと高まる緊張感、無気味な余韻を残す結末といい、ゴースト・ストーリーの醍醐味を満喫させてくれる作品ぞろいとなっています。

 『カーフォル』 友人のランリヴェンにすすめられて、ブルターニュ地方で売りに出されている館を下見に訪れた「わたし」。しかし、その館カーフォルに管理人はいませんでした。いたのは「わたし」を威嚇するかのような態度をとる数匹の犬だけ。不審に思いながらも、引き返した「わたし」の話に、ランリヴェン夫人は驚きます。「ほんとうに犬を何匹もごらんになったの? カーフォルには一匹もいないんですよ」。
 不思議な犬の幽霊が出るという館カーフォル。そこには数百年前に起こったある事件が影を落としていたのですが…。
「犬の幽霊」という珍しい題材を扱った怪奇小説です。原因となる過去の事件が後半に明かされるというオーソドックスな展開ながら、過去の因縁話のパート自体が、ゴシックロマンス風で楽しめます。ランリヴェン夫人の話によって、語り手が見たものが幽霊だとわかるというシーンは、なかなかショッキングです。

 『祈りの公爵夫人』 イタリア、ヴィンチェンツァのある別荘を訪れた男は、礼拝堂に飾られた女性の彫像に目を惹かれます。ベルニーニ作と伝えられるその彫像は見事な出来ながら、その女性の表情には、恐怖が表れていたのです。管理人の老人は、祖母から聞かされたという、不思議な話を語ります。その彫像は、最初はそのような表情をしていなかったというのです。ある時を境に、恐怖の表情が張り付いてしまったのだと…。
 『カーフォル』同様、数百年前に起こった因縁話が語られます。陽気で若い妻と、初老の夫。夫から外出を禁じられていた妻は、夫の親類である若い男性に惹かれていきますが、ある時、悲劇が起こってしまいます。起こった出来事を直接的に描写せず、遠回しにぼかす表現が効果を上げています。

 『ジョーンズ氏』 ふとしたことから、由緒のある古い屋敷を相続することになったレイディ・ジェイン。屋敷を下見に訪れた彼女は、使用人の娘から中に入るのを拒否されてしまいます。「ジョーンズさんが許してくれないので」と。やがて館に住むことになったジェインは、ことあるごとにジョーンズの存在を感じはじめます。館に長く住み続けているというジョーンズは、この屋敷のほとんどを取り仕切っているようなのです。しかし会いたいといっても、家政婦のミセス・クレムは、病気だといって決して会わせてくれません…。
 姿をまったく見せないにもかかわらず、圧倒的な存在感で館を牛耳るジョーンズ氏。彼はいったい生きているのか死んでいるのか? ミセス・クレムが語りたがらないジョーンズの秘密とは? 因縁話が付け足されるものの、それでも割り切れないジョーンズ氏の存在感が強烈です。
 
 『柘榴の種』 新婚間もないシャーロットは、夫ケネスと幸せな生活を送っていました。前妻を亡くして、意気消沈していたケネスも、シャーロットとの結婚で、元気を取り戻していたのです。しかし新婚旅行の直後から、夫あてに差出し人のない手紙が届くようになります。定期的に届けられるその手紙を見るたびに、ケネスに苦悩の表情が表れます。昔の恋人からの手紙ではないかと疑うシャーロットは、夫を問いつめますが、その内容については全く話してくれません。そしてある日夫は姿を消してしまうのですが…。
 幸せな結婚生活に影を落とす前妻の影。具体的な怪奇現象は全く起こらず、起こるのは夫あてに届く手紙だけ、というのが、逆に効果を上げています。結末にいたっても、前妻の具体的な情報はほとんど示されないため、夫の失踪が超自然的な現象と関与しているのかどうかも、曖昧なままになっているところが特徴的です。

 『ホルバインにならって』 初老を迎えた男アンソン・ウォーリーは、かっての社交界の寵児であり、今でもそれなりの自負を持っていました。このところ、目まいと混乱に襲われがちなウォーリーは、気が付くとジャスパー夫人の屋敷の前にいます。一方、脳の病気で介護生活を送るジャスパー夫人は、かっての晩餐会のことが忘れられず、昔と同じように振る舞って、周りの人々を困らせていました。しかしその夜、招待状を受け取ってもいないウォーリーが館に現れ、ジャスパー夫人と晩餐会を始めます。二人の目には、他にたくさんの招待客が見えているようなのです…。
 痴呆が進む老婆と初老の男の奇妙な晩餐会が描かれます。招待客はすでに死んだ人々なのだろうか? そして結末において、さらなる驚愕が待ち構えています。非常に技巧的なゴースト・ストーリーです。

 『万霊節』 語り手の「わたし」は、従妹のセアラから奇妙な話を聞かされます。夫を亡くした後も、なじみの屋敷に住み続けていたセアラは、万霊節の前夜、散歩の帰路、見知らぬ女性を見かけます。屋敷の娘に会いに行くという、その女性を追いこしたセアラは、ふとしたことで足首を捻挫してしまいます。折りから外は雪になり、絶対安静を命じられたセアラは、ベッドで過ごすことになります。しかし、翌日の朝、待てど暮らせど使用人が誰も部屋に現れません。訝しく思った彼女は、痛む足を引きづりつつ、館の中を歩き回りますが、驚いたことに、だれひとりとして人間がいる気配がないのです…。
 作品中でも言及されますが、乗客が全員消えてしまったという「マリー・セレスト号」の話から、インスピレーションを得たと思しい作品です。大雪の中、まったく人気のない館を歩き回るシーンの無気味さは比類がありません。結末で、超自然現象の原因が、スコットランド出身のメイドにあることが仄めかされますが、大部分は謎に包まれており、余韻を残しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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