8月の気になる新刊
8月7日刊 アンドレ・ブルトン編『黒いユーモア選集1』(河出文庫 予価998円)
8月7日刊 アンドレ・ブルトン編『黒いユーモア選集2』(河出文庫 予価998円)
8月7日刊 横溝正史『山名耕作の不思議な生活』(徳間文庫 予価660円)
8月8日刊 東雅夫編 文豪怪談傑作選『柳田國男集 幽冥談』(ちくま文庫 予価924円)
8月8日刊 イタロ・カルヴィーノ『魔法の庭』(ちくま文庫 予価756円)
8月20日刊 鹿島茂『鹿島茂の書評大全 和物篇』(毎日新聞社 予価1890円)
8月20日刊 鹿島茂『鹿島茂の書評大全 洋物篇』(毎日新聞社 予価1890円)
8月24日刊 シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』(創元推理文庫)
8月24日刊 北原尚彦『SF奇書天外』(東京創元社 キイ・ライブラリー)
8月28日刊 江戸川乱歩作 ヤン・シュヴァンクマイエル画『人間椅子』(エスクァイアマガジンジャパン 予価2625円)

 アンドレ・ブルトン編の名高いアンソロジー『黒いユーモア選集』が文庫化です。これは好企画ですね。
 横溝正史『山名耕作の不思議な生活』は、初期短編集。横溝の初期作品は、後年のものと違って、明るくて軽妙なエンタテインメントが多いので、個人的には好きです。
 シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』は、以前に学研から出たものの、絶版になっていた作品。邦訳のあるものでは、間違いなく最高傑作でしょう。新訳ということなので、解説も含めて期待大です。
 北原尚彦『SF奇書天外』は、かって『SFマガジン』に連載されていたもののようです。マイナー好きにはこたえられないブックガイドになっていると思います。
すれっからしのためのリスト 『別冊奇想天外』
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 前回は、第一期『奇想天外』について書きましたが、この雑誌で、もうひとつ言及しておきたいシリーズがあります。
 奇想天外社から刊行された第二期『奇想天外』は、日本作家中心の雑誌になってしまいましたが、その代わりといっていいのかどうか、海外作家の作品を集めた別冊が、何冊か刊行されました。それがこの『別冊奇想天外』です。
 海外短篇を載せただけなら、それこそ他の雑誌でもやっていることで、そう珍しくはありません。『別冊奇想天外』のいちばんの特徴は、頻繁に、詳細なリストを載せていたことです。例えば2号を見てみましょう。特集は『SF再入門大全集』でしたが、この号では、3種類のリストが載っています。フランツ・ロッテンシュタイナーの『世界SF名作表』、デイヴィッド・G・ハートウェル&ポール・ウィリアムズの『60年代の重要な長篇SF』、アンソニイ・バウチャーの『私の手離したくないSF50選』の3つです。
 「再入門」とうたっているだけあって、ちょっとひねったセレクションのリストが掲載されています。例えばロッテンシュタイナーのリストは、「名作表」とはいうものの、著者がヨーロッパ人だけに、共産圏や東欧の作家や作品も散りばめられています。またバウチャーのリストも、名作中の名作からは少しずらした、玄人向けのリストです。
 特集号によってはリストが載っていないものもありますが、全体的に、どの号も資料性が高かったのは事実です。インターネットもまだ存在しない時代、毎号これだけの情報量をつめこんだ雑誌は、そうはなかったと思います。
 以下、主な特集号を並べてみましょう。
 
別冊奇想天外 1号『ヒューゴー賞SF大全集』
別冊奇想天外 2号『SF再入門大全集』
別冊奇想天外 3号『ドタバタSF大全集』
別冊奇想天外 4号『SFの評論大全集』
別冊奇想天外 7号『SFのSF大全集』
別冊奇想天外 10号『SFファンタジイ大全集』
別冊奇想天外 12号『SFゴタゴタ資料大全集』
別冊奇想天外 13号『SF MYSTERY大全集』
別冊奇想天外 14号『レイ・ブラッドベリ大全集』
別冊奇想天外 15号『びっくりユーモアSF大全集』

 1号『ヒューゴー賞SF大全集』は、タイトル通り、ヒューゴー賞受賞作品を集めたもの。野田昌宏編のヒューゴー賞受賞イラストレイター特集などが楽しいです。ロバート・F・ヤング、トマス・バーネット・スワン、シオドア・スタージョン、ポール・アンダースンなどの作品を収録。
 2号『SF再入門大全集』は、上にも書きましたが、SFの「再入門」のための特集。リストを含めて、硬軟とりまぜた作品が言及されていて、非常に参考になります。石上三登志による『映画化されたSF作品完全リスト』など、以前は重宝したものです。
 3号『ドタバタSF大全集』は、スラップスティック風のユーモアSFを集めています。ヘンリイ・カットナー、ロン・グーラート、ゲイアン・ウィルスンなどの作品を掲載。
 4号『SFの評論大全集』は、ほぼ一冊まるごと評論だけを集めたという、画期的な特集号です。しかも、海外作家の評論を多く載せているところがまたにくいです。C・S・ルイス、デーモン・ナイト、スタニスワフ・レム、J・G・バラード、ブライアン・オールディスなどの評論を収録。今読んでもなかなか面白い号です。
 7号『SFのSF大全集』は、SFらしいSFということでいいんでしょうか、かなりオーソドックスかつスタンダードなSF作品を集めています。ドナルド・ワンドレイ、エドモンド・ハミルトン、リー・ブラケットなどの作品を掲載。
 10号『SFファンタジイ大全集』は、間違いなくこのシリーズ中、いちばんの大当たり企画でしょう。この号を探しているホラー・ファンタジーのファンの人もいるはず。
 おそらく荒俣宏が中心となったセレクションだと思うのですが、ひと味ちがった、しゃれたファンタジーを多く収録しています。アレクサンドル・グリーン、ヴェニアミン・カヴェーリン、A・E・コパード、シャルル・クロス、フラン・オブライエン、ロード・ダンセイニ、キース・ロバーツ、レオノーラ・カリントン、スワヴォミル・ムロージェクなど、いまだにこの雑誌でしか読めない短篇も見受けられます。
 巻頭の幻想アートの特集も含めて、素晴らしい出来の特集号です。この号は、ぜひ何らかの形で復刊してもらいたいものです。
  12号『SFゴタゴタ資料大全集』は、その名の通り、リストだけで一冊編集してしまったという、前代未聞の特集号です。『別冊奇想天外』のウリである資料性を極限まで追求した一冊です。現在では、さすがにリストは古くなってしまっていますが、ファンならリストを眺めているだけで楽しくなってくることうけあいです。『SF人名辞典』『SF地名辞典』なんて面白い試みもありました。『アンソロジー・リスト』は、今でも貴重でしょう。
 13号『SF MYSTERY大全集』は、SFとミステリの間の子作品を集めたもの。ハリイ・ハリスン、フリッツ・ライバー、ランドル・ギャレット、ポール・アンダースンなどの作品を収録。
 14号『レイ・ブラッドベリ大全集』は、『別冊』唯一の個人作家特集。ブラッドべリに関する参考書としては、いまだにこれを上回るものがないのではないでしょうか。ブラッドべリ本人によるエッセイはもちろん、読みごたえのあるサム・モスコウィッツのブラッドべリ論も載っています。あと、作品につけられた佐竹美保のイラストが出色の出来栄え。
 15号『びっくりユーモアSF大全集』は、3号と似たような企画ですが、3号よりは少し洗練された系統の作品が集められているようです。ロバート・シェクリイ、ウィリアム・テン、ゴードン・R・ディクスン、ノーマン・スピンラッド、トマス・M・ディッシュ、ジョン・スラディックなどの作品を収録。

 この『別冊奇想天外』シリーズ、いまでも意外と古本屋で見かけます。古書価もそう高くはないようなので、見かけたら是非ご一読をオススメします。

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欲張りな面白さ  『奇想天外』第1期
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 これまで日本では、いくつかSF雑誌が創刊されてきましたが、本家『SFマガジン』を除き、そのほとんどは長続きせず、廃刊の憂き目を見ています。
 その中でも、とくにユニークな印象を残しているのが『奇想天外』です。1970~80年代にかけて出ていたこの雑誌、ご存じの方もいるかと思いますが、何度も休刊しては復刊していた珍しい雑誌です。しかも復刊の度に、雑誌のカラーが極端に変わっているのが特徴。
 第1期は海外作品中心、第2期は、日本作家中心に海外短篇、エッセイなどを交えた総合誌、第3期は、ほぼ完全な小説誌、という感じです。
 とくに面白いのが、この第1期のシリーズです。紙質は悪いし、表紙絵に至っては悪趣味といってもいいほどなのですが、中身はちょっと類を見ないぐらい充実しています。
 まず驚かされるのが、背表紙にある、SF FANTASY HORROR MYSTERY NONFICTION の文字。いったいジャンルは何なの? とお思いでしょうが、要は、面白い作品なら何でも載せちゃえ、という欲張りな編集方針だったようです。
 収録作家名をいくつか挙げると、ロバート・ブロック、リチャード・マシスン、ジャック・フィニィ、シャーリイ・ジャクスン、ジェラルド・カーシュ、デビッド・イーリイ、レイ・ブラッドべリ、ロッド・サーリング、マレイ・ラインスター、デイヴィス・グラッブ、ウイリアム・F・ノーラン、ジョセフ・ペイン・ブレナン、カート・ヴォネガット・ジュニアなど、ミステリ・SF・ホラー・ファンタジー系統の作家の作品がたくさん載っています。
 特集号としては、「レイ・ブラッドべリ」「恐怖短篇」「異色作家」「ショート・ショート」などがありますが、特筆すべきは「ジェラルド・カーシュ」特集でしょう。カーシュの作品を5編もならべたこの特集、この作家の特集をしたのは、後にも先にもこの雑誌だけだったようですね。
 とにかく面白い海外短篇がいっぱいつまった欲張りな雑誌でした。基本的には、ハヤカワの異色作家短篇集みたいなテイストを想像していただくとよいかと思います。
 いまだに、この雑誌だけでしか読めない短篇もたくさんあります。アンソロジーであるとか、何らかの形で復刊してほしい雑誌ですね。第1期は10冊分なので、例えば、河出文庫から出た『血と薔薇』のような形での復刊もありだと思うんですが。

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近況
 ここしばらく、更新もご無沙汰しています。
仕事が忙しかったのですが、来月あたりから落ち着くと思います。そういうわけで、恒例になりますが、最近入手した本の紹介でも。


イリヤ・ワルシャフスキー『夕陽の国ドノマーガ』(大光社)

 ワルシャフスキーという作家、『SFマガジン』のオールドファンなら、ご存じかもしれません。フレドリック・ブラウンや星新一を思わせる、ショート・ショートを得意とした作家です。あまりロシア(当時はソ連)臭がなく、作者名を隠されたら英米の作家だと思うかも。ブラウンや星新一ほどの洗練さはないけれど、今読んでも十分に面白い作家だと思います。


矢野浩三郎監修『アンソロジー 恐怖と幻想』(月刊ペン社)

 全3巻の怪奇小説アンソロジーです。いまとなっては、収録作品は、他の本でも読める物が多いのですが、この本が出た当時(1971年)としては、バランスのとれた編集といい、画期的なアンソロジーだったのではないでしょうか。ブロック、マシスン、コリアなどの異色作家から、ブラックウッド、M・R・ジェイムズなどの古典ホラー、そしておそらく『ミステリマガジン』の収録作品から選んだものだと思うのですが、マイナーながら面白い作品も混じっています。どの作品も、ストーリー重視の読んで面白い作品ばかりなので、怪奇小説ファンでなくても楽しめるようになっています。


スタニスワフ・レム『すばらしきレムの世界1・2』(講談社文庫)

 いわずと知れた、SF界の巨人レムの日本オリジナル短編集。レムのすごいところは、哲学的・難解な作品に混じって、抱腹絶倒のコメディや、エンタテインメント的な作品も書けるところですね。正直レムのシリアス系統の作品は、難しくて歯が立たないのですが、『泰平ヨン』だとかのユーモア編は大好きです。
 国書刊行会から刊行中の〈スタニスワフ・レム コレクション〉も、基本的にはシリアス路線のようなので、ユーモア路線のレムの選集などを出してくれると嬉しいんですが。


鮎川哲也編『戦慄の十三楽章』(講談社文庫)

 音楽をテーマにしたミステリを集めたアンソロジー。音楽といっても、基本的にはクラシックですね。現代だと、音楽といっても、ジャンルが細分化してしまっていて難しいと思いますが、昔の探偵小説での音楽の取り扱い方は、かなりロマンチックで好みです。


●shenさんへ

 情報&メッセージありがとうございます。
〈幻想と怪奇〉は、僕もバラでは何冊か持っていますが、なかなか揃えられずにいます。創刊号とか二号は意外に見かけるんですけど、後半の号が全然見つかりませんね。〈幻想と怪奇〉は、復刊の噂もちらほらあるので、ここで無理して揃えるのもなあ、と躊躇っています。
 どこか初めての場所に行くと、古本屋を探してしまう、というのは同感ですね。思いがけない「発見」を日々期待しています。

テーマ:本とつれづれ - ジャンル:本・雑誌

生き延びろ!  ジェイムズ・ホワイト『生存の図式』
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生存の図式 (1983年)
伊藤 典夫
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 極限状況に置かれた人間たちのサバイバル、そのシチュエーションも様々に描かれてきましたが、この作品ほど、極端な状況に置かれた登場人物たちは、前代未聞でしょう。
 ジェイムズ・ホワイト『生存の図式』(伊藤典夫訳 早川書房)は、シチュエーションがじつにユニークな、サバイバルSF小説です。
 第二次世界大戦の最中、アメリカ海軍の軍用タンカーが敵軍に撃沈されてしまいます。しかし、船は完全な沈没を免れます。さらに、船底には五人の男女が生存していたのです。幸運なことに、船内には充分な酸素と食料がありました。
 しかし、船内から生きて外界に脱出するのは不可能。それならば、と彼らは船内で生きるための工夫を始めます。人力発電でエネルギーを起こし、また人口農園を作り、酸素と食物を作りながら数十年を生き延びるのです。そして彼らの子孫もまた同じ環境で一生を過ごしますが…。
 SFのテーマのひとつに「世代間宇宙船」というものがあります。長期間の宇宙飛行のために、乗務員が何世代もわたって宇宙船内で生活を余儀なくされる、というシチュエーションの物語です。舞台こそ海底に置かれていますが、この作品は、「世代間宇宙船」テーマのヴァリエーションといっていいでしょう。
 やはり注目すべきは、潜水艦内部で生き延びる人間たちのサバイバル部分。助けが来るまで生き延びる方法を探る、というのではなく、助けはまず来ないものと仮定して、狭い船内で、生活ができる環境を作ってしまう、という発想がすごいです。
 一応、沈没した時点では、食料や酸素は十分ということになっていますし、船内にとりのこされたクルーの中に、医者と、潜水艦を知り尽くした人物がいる、とある程度の条件は揃っているものの、何世代もの人間がせまい船内で生き続ける、というのはやはりインパクトがあります。
 食料や酸素など、生存のための具体的な手段はともかく、生存者たちが考え出すものの中に「ゲーム」というものがあるのですが、これがなかなか興味深いところ。外界から遮断された船内で、娯楽もかねたこの「ゲーム」をすることによって、彼らは記憶を研ぎ澄ますのです。これがあるために、生存者たちの子孫は、第一世代の人間たちの知識をそのまま受け継ぐ事ができるという設定は秀逸です。
 さて、サバイバル部分が興味深いといっても、結末までそれがずっと続けば、飽きてしまいかねないのですが、後半、思いもかけぬ展開が待っています。地球規模の災厄が起きるのですが、その解決の鍵は、潜水艦で生き延びる生存者の子孫によってもたらされるのです。その解決法も、彼らしかなし得ないもの。その意味で、生存者たちが過ごしてきた人生そのものが、結末の伏線になっているといっても過言ではありません。
 作品内の要素要素が、すべて有機的に結びついているという、たいへん完成度の高い作品。ヒューマニズムあふれる結末といい、読後感もすばらしい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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