 前回は、第一期『奇想天外』について書きましたが、この雑誌で、もうひとつ言及しておきたいシリーズがあります。 奇想天外社から刊行された第二期『奇想天外』は、日本作家中心の雑誌になってしまいましたが、その代わりといっていいのかどうか、海外作家の作品を集めた別冊が、何冊か刊行されました。それがこの『別冊奇想天外』です。 海外短篇を載せただけなら、それこそ他の雑誌でもやっていることで、そう珍しくはありません。『別冊奇想天外』のいちばんの特徴は、頻繁に、詳細なリストを載せていたことです。例えば2号を見てみましょう。特集は『SF再入門大全集』でしたが、この号では、3種類のリストが載っています。フランツ・ロッテンシュタイナーの『世界SF名作表』、デイヴィッド・G・ハートウェル&ポール・ウィリアムズの『60年代の重要な長篇SF』、アンソニイ・バウチャーの『私の手離したくないSF50選』の3つです。 「再入門」とうたっているだけあって、ちょっとひねったセレクションのリストが掲載されています。例えばロッテンシュタイナーのリストは、「名作表」とはいうものの、著者がヨーロッパ人だけに、共産圏や東欧の作家や作品も散りばめられています。またバウチャーのリストも、名作中の名作からは少しずらした、玄人向けのリストです。 特集号によってはリストが載っていないものもありますが、全体的に、どの号も資料性が高かったのは事実です。インターネットもまだ存在しない時代、毎号これだけの情報量をつめこんだ雑誌は、そうはなかったと思います。 以下、主な特集号を並べてみましょう。 別冊奇想天外 1号『ヒューゴー賞SF大全集』 別冊奇想天外 2号『SF再入門大全集』 別冊奇想天外 3号『ドタバタSF大全集』 別冊奇想天外 4号『SFの評論大全集』 別冊奇想天外 7号『SFのSF大全集』 別冊奇想天外 10号『SFファンタジイ大全集』 別冊奇想天外 12号『SFゴタゴタ資料大全集』 別冊奇想天外 13号『SF MYSTERY大全集』 別冊奇想天外 14号『レイ・ブラッドベリ大全集』 別冊奇想天外 15号『びっくりユーモアSF大全集』
1号『ヒューゴー賞SF大全集』は、タイトル通り、ヒューゴー賞受賞作品を集めたもの。野田昌宏編のヒューゴー賞受賞イラストレイター特集などが楽しいです。ロバート・F・ヤング、トマス・バーネット・スワン、シオドア・スタージョン、ポール・アンダースンなどの作品を収録。 2号『SF再入門大全集』は、上にも書きましたが、SFの「再入門」のための特集。リストを含めて、硬軟とりまぜた作品が言及されていて、非常に参考になります。石上三登志による『映画化されたSF作品完全リスト』など、以前は重宝したものです。 3号『ドタバタSF大全集』は、スラップスティック風のユーモアSFを集めています。ヘンリイ・カットナー、ロン・グーラート、ゲイアン・ウィルスンなどの作品を掲載。 4号『SFの評論大全集』は、ほぼ一冊まるごと評論だけを集めたという、画期的な特集号です。しかも、海外作家の評論を多く載せているところがまたにくいです。C・S・ルイス、デーモン・ナイト、スタニスワフ・レム、J・G・バラード、ブライアン・オールディスなどの評論を収録。今読んでもなかなか面白い号です。 7号『SFのSF大全集』は、SFらしいSFということでいいんでしょうか、かなりオーソドックスかつスタンダードなSF作品を集めています。ドナルド・ワンドレイ、エドモンド・ハミルトン、リー・ブラケットなどの作品を掲載。 10号『SFファンタジイ大全集』は、間違いなくこのシリーズ中、いちばんの大当たり企画でしょう。この号を探しているホラー・ファンタジーのファンの人もいるはず。 おそらく荒俣宏が中心となったセレクションだと思うのですが、ひと味ちがった、しゃれたファンタジーを多く収録しています。アレクサンドル・グリーン、ヴェニアミン・カヴェーリン、A・E・コパード、シャルル・クロス、フラン・オブライエン、ロード・ダンセイニ、キース・ロバーツ、レオノーラ・カリントン、スワヴォミル・ムロージェクなど、いまだにこの雑誌でしか読めない短篇も見受けられます。 巻頭の幻想アートの特集も含めて、素晴らしい出来の特集号です。この号は、ぜひ何らかの形で復刊してもらいたいものです。 12号『SFゴタゴタ資料大全集』は、その名の通り、リストだけで一冊編集してしまったという、前代未聞の特集号です。『別冊奇想天外』のウリである資料性を極限まで追求した一冊です。現在では、さすがにリストは古くなってしまっていますが、ファンならリストを眺めているだけで楽しくなってくることうけあいです。『SF人名辞典』『SF地名辞典』なんて面白い試みもありました。『アンソロジー・リスト』は、今でも貴重でしょう。 13号『SF MYSTERY大全集』は、SFとミステリの間の子作品を集めたもの。ハリイ・ハリスン、フリッツ・ライバー、ランドル・ギャレット、ポール・アンダースンなどの作品を収録。 14号『レイ・ブラッドベリ大全集』は、『別冊』唯一の個人作家特集。ブラッドべリに関する参考書としては、いまだにこれを上回るものがないのではないでしょうか。ブラッドべリ本人によるエッセイはもちろん、読みごたえのあるサム・モスコウィッツのブラッドべリ論も載っています。あと、作品につけられた佐竹美保のイラストが出色の出来栄え。 15号『びっくりユーモアSF大全集』は、3号と似たような企画ですが、3号よりは少し洗練された系統の作品が集められているようです。ロバート・シェクリイ、ウィリアム・テン、ゴードン・R・ディクスン、ノーマン・スピンラッド、トマス・M・ディッシュ、ジョン・スラディックなどの作品を収録。
この『別冊奇想天外』シリーズ、いまでも意外と古本屋で見かけます。古書価もそう高くはないようなので、見かけたら是非ご一読をオススメします。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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