 銀色の白鳥たち―ある童話作家の告白 ポール・ギャリコ 古沢 安二郎
 『ジェニィ』『ポセイドン・アドベンチャー』『雪のひとひら』『七つの人形の恋物語』など、ポール・ギャリコの描いた物語は、さまざまなジャンルにわたっています。しかし、それらの作品に共通するのは、登場人物に寄せる作者の限りない愛情。どのジャンルの作品を読んでも、「物語」を読んだという満足感と、後味の良さが残ります。 本書『銀色の白鳥たち ーある物語作家の告白ー』(古沢安二郎訳 ハヤカワ文庫NV)には、ギャリコの数少ない短編が集められていますが、そこにも同じく、登場人物たちへの優しい視線が感じられるのです。
『主として自伝的な』 生誕からスポーツ・ライター、そして作家になるまでの生涯を語った自伝的読み物。そこはギャリコのこと、単なる事実の羅列には終わりません。印象的なエピソードを、面白おかしく語っています。そして何よりも、人生に対する、いい意味での楽観主義、積極性が強く感じられ、読んでいて心地よい文章になっています。
『マッケーブ』 夜勤の記者マッケーブは、クリスマスの夜、重大なニュースを受け取ります。それは有名なギャングが殺されたというもの。しかし印刷工たちは皆帰った後でした。マッケーブは、最低限の職人たちを駆り集め、たった一人で号外を出そうとしますが…。 ギャリコの短編デビュー作。生硬な部分も感じられるものの、物語に込められた熱意が心地よい作品。
『魅惑の人形』 町医者であるスティーブン・アモニイは、玩具店で姪へのプレゼントを探しているとき、えも言われぬ魅力を持つ人形を見つけます。関心を持ったアモニイは、店の主人から、人形の作者はローズ・キャラミットだということを聞き出します。ある日、偶然にローズ・キャラミットの家を往診に訪れた彼は、その女の俗物性に驚きます。やがて人形の本当の作者が、足の不自由なローズの姪、メーリィであることを知ったアモニイは、彼女に惹かれていきます。衰弱しつつあるメーリィを助けるには、彼女をローズから引き離さなくてはならないと、彼は考えるのですが…。 精神的な傷をもつ無垢な少女と医者の、可憐なラブストーリー。人形が実にうまく使われており、物語の中で重要な役割を果たしています。
『帽子』 ギリシャ人の工夫パブリデスは、たまたま通りかかった汽船の人々に対して帽子をふりますが、ふとしたはずみに帽子が飛ばされてしまいます。それ以来、落ち着かなくなった彼は、帽子を取り戻すために、船の行方を探します。乗客の一人が、帽子をかぶってアメリカに渡ったという情報を聞いたバブリデスは、自分もアメリカに渡ることを決意します…。 帽子を追って旅をする男、という何ともロマンチックなストーリー。そしてアメリカで、功成り名を遂げたバブリデスが帽子に再会した場所とは? 運命の悪戯を描く、まさに大人のメルヘンともいうべき冒険物語。
『ムッシュ・ボンバルのばかげた秘密』 フランスの片田舎のレストランの店主、ムッシュ・ボンバルは、いつかミシュランの星付きのレストランになることを夢見ていました。ミシュランの検査官が来ることが前もってわかりさえすれば、自慢の料理を出す自信がある、と考えていたボンバルは、ある日、匿名の手紙を受け取ります。そこには店に検査官が来る日付が記してあったのです。しかも、その日付けは今日! 彼は、あわてて料理の支度を始めますが…。 予想にたがわず、ムッシュ・ボンバルの料理は失敗してしまうのですが、思わぬどんでん返しが…。ほろりとさせる暖かい結末が読みどころです。
『銀色の白鳥たち』 老年にさしかかったファンドビィ博士は、テムズ川のそばで停泊している屋形船を見つけます。船の持ち主は驚くべきことに若い女性でした。タコを飼い、古い楽器をつま弾くその女性は、テティスと名乗り、博士を魅惑します。ある夜、劇場に訪れた博士は、主演女優アリス・アダムズが、あのテティスと同一人物であることを知って驚きますが…。 天衣無縫なテティスのキャラクターが、実に魅力的。お話は型通りのラブストーリーではありますが、キャラクターの繊細かつ愛らしい描写で読ませます。 『ガラスのドア』 詩人を自称する「わたし」は、マディスン街にあるビルのガラス越しに、花嫁衣装を着て撮影をしている若い女性を見かけます。輝くばかりの美しさにとらえられた「わたし」は、その理由を知りたいと思います。数日後、タクシーに乗ろうとしている彼女を再び見かけた「わたし」は、思いきって声をかけます。しかし、彼女の容姿は相変わらず美しいものの、あの輝きは失せていました。「わたし」は、その理由を探ろうとしますが…。 ロマンティックな性癖をもつ青年が追い求める「美しさ」の秘密とは? 男女の駆け引きと、すれちがいが織り成すストーリーが、余韻のあるラストへ読者を導きます。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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