白い黒人  マーク・トウェイン『まぬけのウィルソン』
4882023229まぬけのウィルソンとかの異形の双生児—マーク・トウェインコレクション (1)
マーク・トウェイン Mark Twain 村川 武彦
彩流社 1994-11

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 マーク・トウェインの『まぬけのウィルソン』は、作品中で「指紋」を初めて使用しているということで、ミステリ史でも取り上げられることの多い作品です。時代的には、ミステリ黎明期にあたる時期の作品のため、今となっては、ぬるい作品ではないの?と思われるかもしれませんが、これがまた面白い! ミステリとしてどうだ、という以前に、物語として、コメディとして、抜群に面白いのです。
 なお、本作が収録された『まぬけのウィルソンとかの異形の双生児』(村川武彦訳 彩流社)は、『まぬけのウィルソン』と成立過程を同じくする作品『かの異形の双生児』を収録するという、面白い構成になっています。
 ミズーリ州ドーソンズ・ランディングという町に、あるとき、デーヴィッド・ウィルソンなる男がやってきます。ウィルソンは、この町で、弁護士として開業するためにやってきましたが、不用意な発言をしたために「まぬけのウィルソン」なる渾名を頂戴してしまいます。風変わりな彼の趣味は、人々の指紋をガラス板にとり、収集することでした。
 数十年後、殺人事件が起こります。容疑者は、ヨーロッパからやってきた双児の兄弟。彼らは、以前に被害者と決闘になったいきさつがあり、命を狙われていることを知っていました。しかも、紛失したと思われていた双児のナイフが凶器に使われたことから、双児の容疑は濃厚になります。しかし、ウィルソンはナイフについた指紋から、犯人は別の人物の可能性があることを指摘します…。
 世界初の「指紋小説」とはいえ、ミステリ的に見たときの、トリックや謎解きは、さすがに今ではたわいなく感じられるところがあります。しかし、もともと作者の狙いは「指紋」による謎解きとは、別のところにある節があります。
 双児の殺人容疑の話とは別に、サブとなるストーリーとして、子供のすりかえ事件が扱われているのですが、こちらのストーリーが大変に魅力的。名門ドリスコル家の御曹子トムは、実は赤ん坊のころに、ちょうど同い年だった本当の御曹子チェンバーズとすりかえられた真っ赤な偽物。トムの実の母親であり、奴隷の身分のロクシーが、将来を悲観してすりかえたのです。このロクシーとその息子は、黒人奴隷とされていますが、黒人の血はわずかしか入っておらず、見た目はほとんど白人と変わりません。そのためにすりかえは、まんまと成功してしまいます。
 すりかえによって、御曹子となったトムは、わがまま放題に育ち、手のつけられない不良になります。実の母親であるロクシーに対する扱いも邪慳で、ギャンブルで借金を重ねます。しかも借金返済のために、盗みを何度も働く始末。
 それに対して、本来の御曹子、今は奴隷扱いのチェンバーズは、身体強健で性格はおだやかですが、作中ほとんど活躍しません。最初の頃こそ、トムとの対比で、いろいろ描写されるのですが、犯罪がからんできてミステリの要素が強まってくるころになると、わき役扱いになってしまうのです。
 作品中、大部分を占めるのは、実母から真相を聞かされたトムとロクシーとの丁々発止です。真相を知っても、行為が改まることもなく悪事を重ねるトムと、何度裏切られても、したたかに生きるロクシーとのかけあいが読み所。最後の方になるまで、トムの悪行はことごとく成功するために、ウィルソンの捜査もうまく行かず、本当にまぬけに見えてきてしまうのです。
 黒人奴隷と白人の御曹子とのとりかえ、というテーマは、同じ作者の『王子と乞食』を想起させます。身分や富と、人間的な価値とは別物であるというテーマこそが、本書でトウェインが語りたかったことでしょう。トムやロクシーは、ほんのわずか黒人の血が入っているだけで、奴隷にされてしまっているのです。このあたりトウェインは人種差別を皮肉っているのが明らかです。
 本来正しい側であるはずのチェンバーズの影が薄く、悪人であるはずのトムとロクシーが活き活きとしているのも、面白いところ。とくに母親のロクシー、彼女のキャラクターは大変に魅力的で、この作品の影の主人公といってもいい存在です。実の子に金の無心を断られると、なんと真相を話して、恐喝してしまうのです。そのくせトムの盗みの事実を知ると、事後共犯になってしまいます。息子のために奴隷に売られるかと思えば、何度裏切られても息子に愛情を抱き続けるのです。
 息子に対する愛情と憎悪、そして利己心とが混ざって、実に複雑な人格をかたちづくっています。このロクシーに比べたら、ウィルソンや他の登場人物の扱いは、ほとんど素描程度にしか思えません。本来なら主人公格のチェンバーズにいたっては、書き割り程度です。
 同じようなテーマの『王子と乞食』が、王子と乞食が互いの立場に立ち、建設的な方向に向かうのとは対照的です。本作では、重心は、悪人側のトムやロクシーにあります。被害者であるはずのチェンバーズが、最終的にハッピーエンドを迎えないのも、その印象を強めています。
 強烈なキャラクターが縦横にかけめぐる「悪人小説」として、今なお、魅力の失せていない作品です。

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おかしな双児の物語  マーク・トウェイン『かの異形の双生児』
4882023229まぬけのウィルソンとかの異形の双生児—マーク・トウェインコレクション (1)
マーク・トウェイン Mark Twain 村川 武彦
彩流社 1994-11

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 『まぬけのウィルソン』と成立過程を同じくする作品『かの異形の双生児』『まぬけのウィルソンとかの異形の双生児』収録 村川武彦訳 彩流社)は、成り立ちそのものを作者が語りながら、物語が進むという、多分にメタフィクション要素の強い作品です。
 作者によれば、本来は『かの異形の双生児』が最初にあって、シャム双生児のような、双児の兄弟を主役にした物語を構想していたのですが、ロクシーとウィルソンとトムという3人の人物をとりいれたところ、そちらの登場人物が物語を支配してしまい、本来中心となるべき人物たちが背景に退いてしまったというのです。そのために本来、喜劇として構想していた部分をぬきだして、別作品に書き改めた、というのが本作です。
 冗談小説の色合いが濃く、ストーリー自体もあってないような感じです。物語の本筋とは別に、作者の一人語りが頻出する部分が目立ち、かなり前衛的な作風になっています。登場人物、出来事が共通しているものの、基本的に『まぬけのウィルソン』とは全く別の作品だと考えた方がよさそうです。
 『まぬけのウィルソン』に登場する双児は、ただのふつうの2人の人間でしたが、『かの異形の双生児』の双児は、身体のくっついた奇形です。また設定がふるっていて、1週間単位で、決まった時間になると身体の支配権が兄弟間で移動するというのです。この設定をうまく使って、一方が出かける場所がもう一方には不愉快であるのを、面白おかしく描いています。決闘の最中に支配権が移ってしまい、平和主義者であるもう一方が逃げ出してしまうシーンなど、抱腹絶倒です。
 双児を使う作品の常で、兄弟は正反対の性格を持っていることになっています。ルイージは、酒のみで自由思想家、野卑で勇敢です。アンジェロは、禁酒主義者で、宗教心が厚く、温厚で平和を好みます。当然一方の行動が、もう一方には気に入りません。しかし、利点もあって、アンジェロが薬が苦手なために、薬はすべてルイージが飲んでやります。
 作品のタッチは完全にファルスのそれなので、起こる事件や結末も、かなりぶっとんでいます。今風に言うと、いわゆる「バカミス」の範疇に入るのでしょうか。
 作品の成立上、『まぬけのウィルソン』を読んだことが前提になっているので、この作品だけ読んでもその面白さはわかりにくいのは確かです。けれど『まぬけのウィルソン』と一緒に読むことによって、作品の成立過程や、物語の変奏の仕方などが、透けて見えてくるという、面白い体験を得られるでしょう。

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取り返しのつかない夜  フランシスコ・プラサ監督『クリスマス・テイル』
B000JVS584スパニッシュ・ホラー・プロジェクト クリスマス・テイル
マル・バルディビエルソ; イバナ・バケロ フランシスコ・プラサ
video maker(VC/DAS)(D) 2006-12-22

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉最後の一本は、フランシスコ・プラサ監督の『クリスマス・テイル』です。『スタンド・バイ・ミー』を思わせる雰囲気のこの作品、かなり異色です。主人公は、12才の5人の少年少女で、物語の舞台もわざわざ1980年代に設定してあるところも、どこか確信犯的です。
 クリスマスも間近いある日、5人の仲良しの少年少女が、森の中の穴に落ちているサンタ姿の女性を見つけます。とりあえず彼女を穴から助け出そうとしますが、警察に向かった少年が見た指名手配書によって、この女性が、大金を盗んで逃亡中の指名手配犯、レベッカであることを知ります。
 子供たちは警察への通報を取り止め、レベッカから金のありかを聞き出そうとします。最初はしらを切っていた彼女も、怪我と飢えから、とうとう金を渡すことを承知します。しかし今さら出す事はできない、と子供たちが内輪もめをしている間に、レベッカは死んでしまいます。恐くなった彼らは、警官に連絡しますが、たどりついた穴の底はからっぽでした。そしてクリスマス、子供たちのたまり場に現れたのは…。
 前半は、ひとりの人間の運命を手中にした子供たちの心理が描かれます。最初は面白がっていた彼らも、だんだんと不安になっていきます。散々もてあそんでおきながら、今さら出したら報復が恐い、として金だけ受け取り後は放置してしまおう、とするエウヘニオたちに対して、リーダー格のコルドや紅一点のモニは、約束は守るべきだとして、グループ内に反目が置きます。総じて、子供たちの残酷さ、身勝手さ、醜さが描き込まれているところに、見応えがあります。
 後半は、穴から抜け出したレベッカに追われる子供たちを描いて、アクション風に展開します。あれだけ弱って、怪我もしているレベッカがそんなに動けるのか、という点も不自然ですし、最後の撃退シーンにいたっては失笑もので、安っぽい展開です。ここの部分は、本当にB級で、退屈するのは否めません。
 しかし結末で、その印象は覆されます。それまでは、それこそテレビ映画のノリで冒険をしているつもりだった彼らに、現実が突き付けられるのです。自分たちが犯してしまったことに愕然とする子供たち。今までの安っぽい演出は、このためだったのか、と感心させられました。
 相手が強盗犯とはいえ、残酷な行為を繰り返す子供たちを描いている前半は、見ていてかなり不快感を感じる方もいるでしょう。レベッカをもっと重罪人、たとえば殺人犯などに設定してあれば、もう少し子供たちの行為にも説得力が増したのに、とは思いますが、子供の理不尽な残酷さを描く、という点を考えると、これはこれでよかったのではないかとも思えます。
 テレビやフィクションに影響されて行動してしまう子供たち、という極めて現代的なテーマを、いかにもわかりやすく描いた作品として、なかなかの佳作ではないかと思います。ただ、中盤かなりだれるので、もっと時間を刈り込んでいた方がよかったのは確かですね。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

消えた胎児  ナルシソ・イバニエス=セラドール監督『産婦人科』
B000JVS58Eスパニッシュ・ホラー・プロジェクト 産婦人科
ニエベ・デ・メディーナ; モンセ・モスタサ; アレハンドラ・ロレンソ ナルシソ・イバニエス=セラドール
video maker(VC/DAS)(D) 2006-12-22

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本『産婦人科』は、ナルシソ・イバニエス=セラドール監督の作品。彼は、大人を襲う子供たちを描いたショッキングなホラー『ザ・チャイルド』で知られる人ですが、この作品でも同じく「子供」がテーマになっています。
 未婚の母である看護婦グロリアは、友人の産婦人科医アナの家に、一緒に住まないかという誘いを受け、承知します。娘ビッキーの学費や家賃の値上げで困っていたグロリアにとっては、願ってもないことでした。診療所兼自宅で、アナの助手として働くことになったグロリアでしたが、広く静かな家に時々、妙な気配がすることに気付きます。
 そんな折り、グロリアは、アナから診療所で行っている裏の仕事を手伝ってくれないかと、打ち明けられます。それは、望まぬ妊娠をしてしまった女性に堕胎を行うこと。アナに対する恩義もあり、ためらいながらも、グロリアはその仕事を手伝うことになります。新しい生活にも慣れつつあったグロリアでしたが、つきあっていた男との間に子供ができてしまったことを知ります。アナは激怒し、堕胎を勧めます。
 弟を欲しがるビッキーの姿を見て、一時は生むことを決心したグロリアですが、経済的な不安から、結局は堕胎を決心します。アナの手で堕胎手術を受けたグロリアは傷心で眠りにつきます。一方、アナが、手術室から目を離したすきに、なんと堕胎した胎児の姿が消えていることに気がつきます。時を同じくして、屋根裏で見つけたという箱を手もとから離さなくなったビッキー。まさか…と思いながらも、アナは不安を隠せません。
 その後、堕胎手術を受けにやってきた若い女性が、診療所内で殺されているのが発見されるのですが…。
 ミステリアスな要素が散りばめられた作品です。どうやらレズビアンの気があるらしい産婦人科医アナ、行方知れずの前住人、隣に住む寝たきりの老女とその狂信的な妹、ビッキーが手もとから離さない謎の箱。魅力的な謎がたっぷりなのですが、これらの要素や伏線が、ほとんど発展もせず、解消もされないところに致命的な弱点があります。ただ、作品内の雰囲気を高めるための小道具としてしか、機能していないのです。
 唯一、物語のミスディレクションとして、ビッキーの箱の謎が生かされていますが、それ以外は完全に物語が破綻しているとしかいいようがありません。さらに致命的なのは結末。唐突に打ち切られたかのような印象を受けてしまいます。好意的に見れば、意味をとれなくもないのですが、それにしても、それまでの展開からすると、不自然すぎます。
 題材が題材だけに、流血シーンが満載かと思いがちですが、意外なほどその種のシーンはありません。殺人シーンも直接描写は全くなく、間接的なものになっていますし、堕胎シーンに関してもあっさりとしています。全体に演出面に関しては、抑制が利いていて、かなり洗練されている印象を受けるので、脚本面でも、もっとしっかりしていれば、佳作になったのではないかと思うと残念ですね。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

1月の気になる新刊と12月の新刊補遺
12月21日刊 コニー・ウィリス『最後のウィネベーゴ』(河出書房新社 予価1995円)
12月25日刊 ジョン・ディクスン・カー『幻を追う男』(論創社)
1月上旬刊 シーバリー・クイン『グランダンの怪奇事件簿』(論創社)
1月11日刊 ラドヤード・キプリング『プークが丘の妖精パック』《光文社 古典新訳文庫》
1月15日刊 ブライアン・W・オールディス『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』(河出文庫 予価672円)
1月15日刊 異色作家短篇集18『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』 若島正編(早川書房 予価2100円)
1月20日刊 マイケル・マーシャル『孤影』(villagebooks 予価945円)
1月下旬刊 ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』(国書刊行会 予価2520円)
1月下旬刊 ジェフリー・フォード『記憶の書』(国書刊行会 予価2520円)
1月刊 山田正紀・恩田陸『読書会』(徳間書店 予価1575円)
1月刊 石上三登志『名探偵たちのユートピア』(東京創元社 予価2205円)

 コニー・ウィリス『最後のウィネベーゴ』は、もう店頭に並んでますね。巻末の続刊予定のリストに名前が増えていて、びっくりです。ウィリスの次は、グレッグ・イーガンとロバート・F・ヤングで終わりかと思ってました。新たに予定にのぼっている作家は、パトリック・マグラア、タニス・リー、ジョン・スラデック、ジョージ・R・R・マーティン。一番気になるのは、マグラアでしょうか。短編集『血のささやき、水のつぶやき』(河出書房新社)が素晴らしい出来だったので、楽しみです。あとは『サンドキングス』(ハヤカワ文庫SF)がなかなかだったマーティンも面白そうですね。
 ジョン・ディクスン・カー『幻を追う男』は、ラジオドラマ集だそう。カーのラジオドラマは、かなり娯楽性に富んでいるので、気になります。
 〈ダーク・ファンタジー・コレクション〉の新刊は、シーバリー・クイン『グランダンの怪奇事件簿』です。怪奇探偵ものでは、けっこう有名なシリーズですが、まとまった短編集が邦訳されるのは初めて。
 復刊中の異色作家短篇集もとうとう新編集のアンソロジーまで来ました。今回の『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』に続いて、アンソロジーが続くはずなので、楽しみです。
 マイケル・マーシャル『孤影』は、あの傑作『死影』の続編。『死影』で作中の大体の謎は明かされてしまったので、続編でどうつなげるのか気になるところです。
 

テーマ:本に関すること - ジャンル:本・雑誌

ハリウッド残酷物語  デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』
4488598013幻のハリウッド
デイヴィッド アンブローズ David Ambrose 渡辺 庸子
東京創元社 2003-11

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 デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』(渡辺庸子訳 創元推理文庫)は、タイトルからして、映画にあまり興味のない人からは、手に取ってもらいにくいと思うのですが、なかなかどうして面白い作品集です。トーンとしては、〈異色作家短編集〉を思わせる「奇妙な味」の短編集になっています。もっとも、全てが異色短編というわけではなく、普通小説に近いものも混じっています。
 タイトル通り、すべての短篇がハリウッドをモチーフにしているのですが、とくに映画やハリウッドへの思い入れが感じられるというわけではなく、たまたま舞台に選んだだけだという感が強いです。いいかえれば、ハリウッドでなくてもいいので、その点映画ファンでなくても、充分楽しめるでしょう。
 ロバート・ブロックを思わせるホラー『生きる伝説』、不治の病を宣告された売れないプロデューサーの皮肉な運命を描いた『ハリウッドの嘘』、ドラマの登場人物が現実化する『へぼ作家』、ハリウッド貴族になろうとする、野心の強い女優の話『ハリウッド貴族』など、バラエティ豊かです。
 中でも面白かったのは、異色短篇では『へぼ作家』、普通小説では『ハリウッドの嘘』でしょうか。あと、恋愛小説としても面白い『名前の出せない有名人』も捨てがたいところです。
 『へぼ作家』は、作家が生み出した悪役が人気者になりますが、その役を演じていた俳優がやめることになり、ドラマの中で悪役を死なせることになる、という物語。ところがその直後、作家のパソコンの中に、その悪役の名前でファイルがあらわれ、作家を脅迫し始めるのです。無視していると、とうとう悪役の人格は、それを演じていた役者にとりつき、作家の目の前にあらわれます…。
 小説やドラマの登場人物が現実に侵入するという、テーマとしては使い古された作品です。落ちの方も古典的。予想通りの展開と言えば言えるのですが、そのフォーマットに則った小説作りが、手堅く出来ていて安心して楽しめます。
 上にも書いたように、異色短編に混じって、普通小説と呼べるような作品があるのですが、そちらの方が小説としての出来栄えは上でしょう。たとえば、『ハリウッドの嘘』。そこそこ売れたことがある二流プロデューサーが、カムバックをかけた脚本を、上の人物に持ち込みます。気に入った上役は、製作を決定し、有名な監督やデザイナーに話を持ちかけます。とんとん拍子に話が進み、意気軒高としていたプロデューサーは、医者からとんでもないことを聞かされます。なんと、プロデューサーは不治の病にかかっているというのです。しかも、本人には内緒で周りの人物にそのことを教えたというのです。それじゃ脚本の件も、皆のお情けだったのか?
 運命に翻弄される男の悲喜劇。映画化してみたいような、ひねりのきいた物語です。
 『名前の出せない有名人』では、売れない俳優がポルノ業界に入り、二流ながら有名になります。ある日、彼は、ポルノ女優に恋をしてしまいます。女優は仕事上では彼とセックスをしますが、私生活では一線を超えようとはしないのです。思いつめた俳優は、ある日撮影現場をめちゃめちゃにしてしまいます…。
 恋愛とセックスは別、というテーゼを小説化したかのような、よくできた作品。俳優と女優の対比が面白く、男女の恋愛観を考えさせられます。
 普通小説にしろ異色短篇にしろ、プロットは古典的だし、展開も予想通りのものが多いのですが、面白く読めてしまうのが不思議です。飛び抜けた傑作というのはないにしても、どれも高水準で愉しく読める、ウエル・メイドな作品集です。

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ふたりで帰ろう  ウィリアム・アイリッシュ『暁の死線』
4488120024暁の死線
ウィリアム・アイリッシュ 稲葉 明雄
東京創元社 1969-04

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 ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』は、タイムリミットを上手く利用したサスペンスでした。本作『暁の死線』(稲葉明雄訳 創元推理文庫)もまた、タイムリミットを設定しているのですが、それが心理的なものであるのがミソになっています。
 都会生活に疲れた青年は、つい魔が差して、盗みを働いてしまいます。ふとしたことからダンサーの若い女性と知り合った青年は、偶然にも、彼女が同じ町のすぐ近くの出身であることを知り、惹かれ合います。
 女性に諭された青年は、金を返そうとするのですが、思いもかけない事に、その住人が殺されていることを知ります。朝までに犯人を見つけなければ、青年が容疑者として、捕らえられるのは目に見えている…。二人は朝までに、真犯人を捜そうと決意します。タイムリミットは、故郷に向かう始発のバスが出る6時まで。夜のニューヨークで、二人の必死の調査が開始されます…。
 本作品では、故郷のバスが出る時間まで、というのがタイムリミットに設定されています。あらすじからだと、このタイムリミット、あまり必然性がないように感じられます。けれど読んでいくうちに、必死で犯人を捜す男女の心理的な焦燥が、上手く伝わっきて、この心理的なタイムリミットが絶対的なものに感じられてくるのです。章ごとに、時計の針のマークでタイムリミットを示す趣向も、なかなか洒落ています。
 最初は全く手がかりのない状態で、殺された男の部屋の状態から推理を進めていく序盤の展開は、なかなか論理的なものがあり楽しめます。ただ、この作家の通例で、全体として謎解きは、あまり緻密なものではありません。
 しかしサスペンス風味は十分です。限られた制限時間から、二人はそれぞれ手分けして、調査を進めることになります。それぞれ手がかりを求めて調査する過程が章ごとに展開されるのですが、お約束どおり、二人とも何回か失敗します。
 そして最終章では、二人とも窮地に陥るのです。ここの展開はなかなか面白いです。二人が相対しているうち、殺人犯はどちらなのか?という疑問もさることながら、どちらも危険にさらされているので、パートナーを助けにいけない、という点で非常にサスペンスを高めています。
 厳密に考えると、要所要所で、かなり穴だらけの設定や、説得力に欠ける部分があるのですが、それを補ってあまりあるサスペンスと作品のムードは捨てがたいものがあります。静寂に満ちた夜の大都会、登場人物たちの望郷や悲哀の念、情緒的なものでは第一級の作品でしょう。
死ねない理由  ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』
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 大事故から、奇跡的な生還をとげた男。彼が助かった理由とは? そして、彼にたくされた使命とは? ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』(関口幸男訳 サンケイノベルス)は、魅力的な謎で、読者を引っ張る異色作です。
 ある秋の夜、ロンドン郊外にジャンボジェット機が墜落します。300人近い乗客は全員即死かと思われましたが、副操縦士のデビッド・ケラーだけが、奇跡的に、かすり傷も負わずに助かります。
 世間の冷たい目に加え、同乗していた恋人キャシー、恩師である機長ローガンを失ったケラーは、鬱々としていました。しかも飛行中の記憶が、彼にはまったくないのです。事故原因に不審の念を抱いたケラーは、友人でもある、事故の調査官テウスンに話を聞きます。テウスンによれば、原因は爆弾の可能性が高いというのです。
 しかし、ケラーには、フライトの前にローガン機長と激しい諍いをした記憶がありました。もしや事故の原因は自分にあるのでは? 悩み続ける彼の前に、突然、降霊術者を名乗るホッブスという男が現れます。事故の犠牲者の霊が接触してきたというホッブスの言葉を、ケラーは半信半疑で聞きますが、実際に降霊術の結果を見て、徐々にホッブスを信じはじめます。
 おりしも、飛行機が墜落した小さな街のあちこちで、奇怪な事件が頻発します。窓を突き破って墜死した夫婦、線路で自殺した少年、教会内で発狂する牧師。これらはみな事故と関係があるのだろうか…?
 死者数百名を数える大事故にもかかわらず、かすり傷ひとつ負わなかった男。冒頭から、読者を引き付ける題材で、物語は始まります。そして、そのあとは、事故の原因を探るケラーの調査と平行して、頻発する町の異変が描かれます。
 町で起こる異変のパートでは、悪霊や悪魔の仕業としか思えないような無気味な事件が続きますが、こちらはオカルティックな要素が非常に濃くなっています。とくに、教会に現れ、牧師を発狂させる悪霊の登場するシーンなどは、迫力満点。ただ、ほとんどが露骨に超自然的な事件なので、人間の仕業、という可能性はほとんど除外されてしまいます。
 そのため、奇跡的なケラーの生還の謎についても、超自然的な解決がなされるのだろうとは、予想できてしまうのです。謎自体は魅力的なのですが、読み進むにしたがって、合理的な解決は望めないだろうことが、読者にはわかってしまうのは、ちょっともったいないところですね。
 そのあとは単なるオカルトホラーになってしまうのかと思いきや、結末でもうひとひねりあるのには感心しました。ただ、意外な真相ではあるのですが、伏線もなく、とつぜん出されるので、唐突というか困惑してしまうところがあります。しかも解決の仕方も、ちょっといいかげんというか、脱力系のオチを使っているので、怒る読者もいるかも。
 いわゆる「トンデモ系」に属する作品だとは思うのですが、序盤のサスペンスや怪奇現象の描写などは、なかなかのものなので、一読の価値はある作品でしょう。
 ちなみに、この作品、M・ナイト・シャマラン監督の映画『アンブレイカブル』導入部の設定が、そっくりです。ネタ元のひとつなのでしょうか?

奥様は魔女  フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』
448862507X妻という名の魔女たち
フリッツ ライバー Fritz Leiber 大滝 啓裕
東京創元社 2003-12

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 大学教授のノーマン・セイラーは、大学町ヘンプネルに来てから、人生が順風満帆に進んでいると感じていました。これも妻のタンジイの内助の功のおかげだ…。しかし、ある日ふと、妻の部屋の引出しを開けると、次々とあらわれたのは、魔術の小道具! 妻は、この魔術でノーマンを守っていたというのです。ノイローゼだと一笑に付し、妻にそれらの魔術をやめさせた途端に、ノーマンの身に災難が次々とふりかかりはじめます。そして、妻自身も姿を消してしまうのです。本当に魔術は存在するのだろうか? 妻は他のだれかの魔術にとらわれてしまったのだろうか?
 フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』(大滝啓裕訳)は、妻が魔女だったら?という設定を、大真面目に書いてしまった作品です。あらすじからは、コメディにしかならないような話に思えるのですが、これが最後まで、かなりシリアスに描かれています。
 一番のポイントは、作品全体が、ノーマンの視点から語られているところでしょう。合理的で「迷信」を信じないノーマンは、超自然的な災難がふりかかっても、飽くまで魔術の存在を認めようとはしません。後半で、ノーマンは、自ら魔術を行う羽目に陥るのですが、その際にも、妻のために形式的におこなうだけだと、自らを納得させる始末。
 懐疑的なノーマンの視点から、物語が語られることによって、読者は、魔術が本当に存在するのか、すべては妻の妄想なのか? という疑問を抱かせられる仕組みになっています。
 あとユニークなのは、魔術の設定です。魔術も科学と同じく、それなりの合理性に基づく公式があり、しかも時代とともに変化する、というのです。古代から伝わる魔術をそのまま実践しても、何か変更点があった場合には、効力がうすれてしまう。実際、主人公も魔術のやり方を公式にまとめ、一般化した効果的な手段を探すという展開になります。ここのところをもうちょっと詳しく描写して、魔術合戦の趣にしたら、さらに面白くなったかもしれません。
 ただ、書かれたのが、1940年代のため、作品の背景が多少古くなっているところがあります。基本的に、登場する男性はすべて「合理的」で、女性は「迷信的」というところも、ちょっと引っかかる読者もいるかも。まあこれは、物語の設定上、風刺として描かれている節もあります。
 本来ファンタジーになる素材をホラーとして語ってみた、という印象の強い作品です。語り方ひとつで、ジャンルはファンタジーにもホラーにもなる…ということを気付かせてくれる点で、ジャンルについて興味のある読者にも楽しめる作品でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

私を見つけて  クリストファー・プリースト『魔法』
4150203784魔法
クリストファー プリースト Christopher Priest 古沢 嘉通
早川書房 2005-01

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 「透明」になれたら…というのは、誰でも一度は考える空想ですが、実際に「透明」になれたとしても、また違う困難が待っているのです…。
 「透明人間」という、ある種、使い古されたガジェットを使って、これほど魅惑的な物語を語り得るとは。クリストファー・プリースト『魔法』(古沢嘉通訳 ハヤカワ文庫FT)は、透明になれる能力をめぐる、異色のラブストーリーです。
 テロに巻き込まれ、記憶を失った男グレイは、ある日魅力的な女性、スーザンの訪問を受けます。彼女の話では、スーザンとグレイは、恋人同士でしたが、ゆえあって別れたというのです。グレイはスーザンと一緒に、記憶を取り戻そうとします。その過程で、グレイは再びスーザンに惹かれていくのです。
 しかし、スーザンのまわりには、常にナイオールという謎の男がついてまわります。ナイオールは、普通の人間には自分の姿を見えなくすることができる能力「グラマー(魅力)」の持ち主である、「不可視人」だというのです。そしてスーザンも「不可視人」であり、グレイもまた、潜在的な「不可視人」だと。しかもナイオールは「不可視人」にさえ「不可視」になることのできる絶大な能力を持っているというのです。いまここにこうしているときにも、ナイオールはそばで様子を窺っているかもしれない…、と。
 やがて記憶を取り戻しはじめるグレイ、しかしその記憶は、スーザンの語るものとは、微妙な違いがあったのです…。
 じつに、たくらみに満ちた物語なのですが、それを示すかのように作品の構成にも、工夫がこらされています。最初と最後に現在の状態が描かれ、あいだにグレイとスーザンの回想がはさまれる形になっているのです。
 グレイの回想では、あくまでスーザンとの出合いはノーマルであり、超能力の存在には懐疑的です。ナイオールの存在も不確かな、曖昧なものとして、捉えられています。
 それに対してスーザンの回想では、はじめから能力の存在が確かなものとして示されるのです。ここでは、「不可視人」ゆえの悲しみ、ナイオールとの関わりあいなどが語られます。ただ、スーザンもまた、ナイオールの存在が、自分の妄想ではないかと考える記述もあり、ひとすじなわでは行きません。
 透明になれる能力「グラマー(魅力)」。しかし他人から不可視になるということは、自分のアイデンティティをも見えなくしてしまうのです。「グラマー(魅力)」とは、天賦の才能なのか、それとも、人間関係を築けない重荷でしかないのか。グレイ、スーザン、ナイオール、彼らの三角関係も、それを象徴しているようです。「可視」の世界に属するグレイ、「不可視」の世界に属するナイオール、そしてその両側を揺れ動くスーザン。彼女は最終的にどちらを選ぶのか。
 全体を通して、すさまじい技巧がこらされた作品なのですが、ただ、メタフィクション的な結末は、必ずしも成功していない感じを受けます。明確な結末を求める読者には、納得がいかないかもしれませんが、すばらしい傑作であることは間違いないでしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

悪の慈善家  コリア・ヤング『トッド調書』
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 生き延びさせる価値のある人間のためなら、価値のない人間を犠牲にしても許されるのだろうか? 古くからある、この倫理的なテーマを扱った医学ミステリが、コリア・ヤング『トッド調書』(皆藤幸蔵訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)です。
 世界有数の大富豪であるホレス・トッド。彼は心臓を病み、死にかけていました。心臓移植手術をしなければ、いまにも命がなくなるという状態。しかもトッドの血液型は、非常に稀なものだったのです。
 病院への問い合わせの結果、たまたま同じ血液型の女性が危篤状態にあることがわかります。しかし、女性の家族は宗教上の理由から、移植手術を拒みます。望みを絶たれたかに思われた直後に、偶然にも有名な元スポーツ選手が死に、移植手術は行われることになります。
 手術を担当した医師は、スポーツ選手の遺体を見て不自然な点に気付きます。もしや彼は、臓器移植のために殺されたのではないのか…?
 作品は、各登場人物の手記で構成されています。重要人物であるトッド自身は、最後まで登場しないのがミソで、周りの登場人物たちの主観から、そのキャラクターが描き出される仕組みになっています。トッドは、莫大な資産と、絶大な権力を持つ人物ですが、この種のタイプにありがちな傲慢さとは縁遠い人物です。むしろ慈善家、人格者としての面が強いらしいことが、登場人物たちの情報から、うかがえます。
 恩を受けた人物には礼を忘れない。そうした人物が、自分が生き延びるために他人を殺すだろうか? 作品を読みすすめながら、そんな疑問が浮かび上がってきます。
 ここまで読んだ方なら、だいたい真相は予想がつくと思うのですが、作品の主眼はそうした推理的な部分にはありません。本質的には、善人であるトッドが、それでも悪を犯してしまう。そうした人間のミステリアスな部分を探るのと同時に、読者にも倫理的なテーマを考えてもらおうという、意欲的な作品になっています。
 ただ、トッド自身のキャラクターはかなり細密に描かれるものの、その犠牲者となる方の人間に関しては、あまり、ふれられません。犠牲者の側に関しても、もっとスポットをあてていれば、人間の割り切れなさを描く、という点で、もっと面白くなったとは思えます。そういう点を含めて、掘り下げが足りないのは否めないのですが、作品の構成にも工夫がしてあり、退屈せずに読むことができます。
 ちなみに、作者コリア・ヤングは、ホラー作家ロバート・ブロックの変名です。ショッキングなホラーを得意とするブロックの作風とはまた違って、かなりストレートな作品だったのですが、ブロックの器用さを証明した作品であるとも言えるでしょうか。

101匹死んだ猫大行進  サイモン・ボンド『死んだ猫の101の利用法』
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B000J7UVNA死んだ猫の101の利用法 (1981年)
二見書房 1981

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 自殺するうさぎを描いたブラック・ユーモア漫画集『自殺うさぎの本』と、その続編『またまた自殺うさぎの本』(ともにアンディ・ライリー著 青山出版社)は、大変に面白い作品でした。一部で話題を呼んでいるようで、ファンとしては嬉しいかぎり。二冊セットでクリスマス限定バージョン(『自殺うさぎの本 死ぬほどXmasパッケージ』)なんてのも出ているようですね。クリスマスプレゼントには、ちょっとブラックすぎるような気もしますが、なかなか洒落ています。
20061203190636.jpg さて、本題。今回は『自殺うさぎ…』の元祖ともいえる漫画集、サイモン・ボンド『死んだ猫の101の利用法』(二見書房)を紹介しましょう。タイトルからもわかるように、死んだ猫を徹底的に「モノ」として再利用する…というコンセプトのブラック・ユーモアにあふれた漫画集です。
20061203190532.jpg 日常生活に使う道具を「猫」と置き換えたらどうなるか?というのが基本的なスタンスなのですが、これがまた極端に即物的なのが特徴です。敷物として使う、なんてのは誰でも思い付きそうなネタですが、その後はどんどんエスカレートしていきます。ダーツの矢として使う、とか、書見台として使う、鉛筆立てとして使う、ローラースケートとして使う、テニスのラケットとして使う、など、多種多彩。
 一番笑えたのは「小鳥の巣箱」として使う、というもの。
 漫画なので、当然、材質とか機能性とかは全く無視しています。そのため、えっ、こんなものまで? と驚くような使い方がされていて、楽しめます。
20061203190714.jpg 『自殺うさぎ…』も、うさぎ好きの人は怒るかも、という感じがしましたが、それ以上に、この本は、猫好きにはきついかもしれません。実際、この本に怒って『死んだ人間の101の利用法』(フィリップ・リーフ著 二見書房)という漫画集を出してしまった人もいるほど。こちらの本は、猫が人間を「モノ」として使う、という漫画集。ちなみに、こちらの本は『死んだ猫…』ほど、洗練されていなくて、面白みに欠けます。
 残念なことに、この『死んだ猫の101の利用法』、現在、絶版になっています。『自殺うさぎ…』に関連づけて、復刊すれば、けっこう売れると思うんですけどね。
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テーマ:絵本 - ジャンル:本・雑誌

自己紹介バトン
 よくお邪魔している「日常&読んだ本log」のつなさんから、「自己紹介バトン」なるものをいただきました。
日常&読んだ本log」は、主に、本の感想のブログですが、特定の分野にとどまらない、いろいろなジャンルのものがとりあげられていて、参考になります。つなさんの文章も、素直で繊細な感性が感じられて、とても魅力的です。日常について語っている文章と、本について語っている文章との間に、全く違和感がないところに感心します。ブログのタイトルどおり、「日常」と「読んだ本」が、渾然一体となっていて、とても落ち着いた、居心地の良いブログになっているんですね。

それでは、例のごとく、本にからめた話で行こうかと思います。


1.回す人を最初に5人

これ、回してるときりがないんで、あんまり好きじゃないんですが、せっかくの機会なので、答えていただけそうな方に。
迷跡目録」の迷跡さん、「TK.blog」のTKATさん、お暇があったら、よろしくお願いします。


2.お名前は?

kazuouです。
ハンドルネームを考えるのが面倒だったので、本名にアルファベットを一字加えただけ。もうちょっとひねった名前にすればよかったかな、と今頃考えています。


3.おいくつですか?

これは内緒で。


4.ご職業は?

製造業勤務。ホワイトカラーとブルーカラーが半々ぐらいの微妙な職種。


5.ご趣味は?

まあ、読書ですね(笑)。あとはクラシック(だいたいバロック)音楽を聴くこと、たまに美術館とか行くぐらいでしょうか。ちなみに、戸外活動は苦手です。


6.好きな異性(本)のタイプ

現実に足場を置きながらも、想像力で別世界に足を踏み入れさせてくれるような作品。
「現実に足場を置く」というところがポイント。日常の現実が何気なく幻想世界と直結する…といった作品が好みです。具体的な作家名で言うと、マルセル・エイメ、ジョン・コリア、アルフォンス・アレ、クルト・クーゼンベルク、ロード・ダンセイニ、ジュール・シュペルヴィエルあたりでしょうか。


7.特技は?

本探し!(笑) 古書店めぐりは、しょっちゅうするので、これは得意です。興味がある分野なら、どこの古書店の、どこの棚に何があったか、程度はわかります。


8.資格は何か持ってますか?

いちおう職に関係するものを持ってますが、実質的には全然役立ちません。


9.悩みとかありますか?

積読本が減らないこと(笑)。というか、けっこう笑いごとじゃない量にきてるかも。


10.好きな食べ物と嫌いな食べ物は?

・好きな食べ物
肉料理が好き。あと甘いもの好き。

・嫌いな食べ物
これはいっぱいあります。たまねぎ、セロリ、パセリ、ブロッコリー…etc。


11.貴方が愛する人(本)へ一言

自分が知らなかった世界や考え方を教えてくれたことに感謝。


12.回す人5人の紹介文を簡単に

迷跡目録」の迷跡さんは、小説に限らず様々なジャンルに精通されていて、いつも感心させられます。本を読んでも、単なる感想にはとどまらない、深い問題意識が感じられますね。かといって、生真面目になるのではなく、非常に軽妙な発想がその核にあるので、いつも興味を持って記事を楽しませていただいています。

TK.blog」のTKATさんは、小説だけでなく映画の紹介もされています。どんな作品に対しても、先入観なしで、素で作品にぶつかっていくその姿勢は、うらやましいかぎり。ほんとうに素直に感じたままを書いている、ということがわかる文章は、誰でも同感できる魅力にあふれています。


愛はすべてを救う  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』
4150107394たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 浅倉 久志
早川書房 1987-10

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 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの作品には、モラルやタブーを扱った硬派なイメージが強いのですが、またロマンティックでリリカルな一面をも持っています。そんな一面がよく出た作品集が、『たったひとつの冴えたやりかた』(浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF)でしょう。
 舞台は未来、人類とエイリアンとが知り合った時代。異星種族である「コメノ」のカップルが、これまた長い寿命をもつ種族である司書のモア・ブルーから、古い時代の人類の記録書を紹介される、という枠で語られる連作短編集です。

 『たったひとつの冴えたやりかた』 資産家の娘コーティー・キャスは、宇宙に憧れていました。親から買ってもらったスペース・クーペでの旅行中に、彼女は行方不明だった宇宙船に出会います。乗務員は死亡していましたが、その原因は寄生タイプのエイリアンに脳を食い尽くされたためでした。そしてコーティーの脳内にも若いそのエイリアンが寄生してしまいます。シロベーンと名乗るそのエイリアンに、まだ若いコーティーは共感を覚え、故郷の星に返してやろうと考えます。しかし「師匠」から技術を学んでいないシロベーンは、理性を失いコーティーの脳を破壊しかけてしまうのです。制御できないエイリアンの胞子を人類に近づけないために、コーティーがとった「たったひとつの冴えたやりかた」とは…。
 無邪気で純粋な少女コーティーの冒険物語と思いきや、少女にはあまりに重い責任が降りかかります。ためらうことなく決断する少女の凛々しさと哀しさ、そして純粋な愛の発露。スタージョンの作品にも通底する、ロマンティシズムとリリシズムをたたえた傑作です。

 『グッドナイト・スイートハーツ』 サルベージ船の持ち主レイヴンは、ある日、修理を請け負った宇宙船で、かっての恋人である女優イリエラと再会します。冷凍睡眠でまだ若さを保っているレイヴンに比べ、彼女は度重なる美容整形手術で美貌を保っていました。折り悪く、そこを襲撃する海賊船。レイヴンはうまく海賊たちを捕らえますが、その海賊船に囚われていた若い娘は、なんとイリエラのクローンであるレーンだったのです! レイヴンはイリエラとレーンの間で戸惑うのですが…。
 かっての恋人との再会、海賊との戦い、二人の女の間で揺れ動く男。これでもかとロマンチックな要素を詰め込んだスペース・オペラです。しかし結末はティプトリーならではの苦いものになっているところが、また味わい深いところでしょう。

 『衝突』 初期の宇宙探査船から連絡を受けた本部は驚かされます。異星人ジーロとファーストコンタクトを果たしたというのです。しかし、彼らは何故か人類を憎んでいる様子。それは人類のはぐれものたちが作り上げた〈暗黒界〉の連中がジーロの隣人であるコメノたちを虐殺しているからでした。探査船のクルーたちは、ジーロに敵意はないことを必死で訴えますが、彼らの疑惑は容易にはとけません…。
 ティプトリーお得意のエイリアンとのコミュニケーションを扱った作品です。平和の意志の疎通という、ティプトリーにしてはかなりオーソドックスなタイプのテーマを扱っていますが、ジーロの奇妙な生態や生け贄の習慣など、その異質性の描写はさすがに際だっています。

 どの作品も、舞台や道具立てはSF色が強いものの、その根本は、基本的に人間ドラマになっているので、ハードSFが苦手な方でも楽しめるでしょう。『たったひとつの冴えたやりかた』『グッドナイト・スイートハーツ』には、ティプトリーには珍しく、少女趣味が顕著なのですが、単なる少女趣味には終わらない、深いテーマと感動をもたらしてくれます。SFファンならずとも読んでほしい作品集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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