死んでも愛してる  マテオ・ヒル監督『エル・タロット』
B000IHXTYYスパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット
ホルディ・ダウデール; フアン・ホセ・バイェスタ; ナタリア・ミヤン マテオ・ヒル
video maker(VC/DAS)(D) 2006-11-24

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 年上の謎めいた女性に憧れる少年、というのは、よくあるテーマですが、〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、マテオ・ヒル監督『エル・タロット』もそのテーマをうまく使った佳作です。
 初老の作家トマスは、40数年ぶりに故郷の町に帰ってきます。田園地帯だった町は、すっかり近代化されていましたが、丘の上の家だけは、町を離れたときのまま。かって、その家に住んでいた女性モイラと、トマスは恋愛関係にあったのです。
 好奇心から、魔女の噂をたてられている女性を見ようと、友人たちと丘の上の家を訪れたトマスは、ふとした拍子で転び、気絶してしまいます。そこに住む女性モイラに介抱されたのをきっかけに、トマスは彼女に恋心を抱きます。しかし、町の人間は、モイラを淫らな女だとして、軽蔑の念を隠そうともしません。
 人々の噂など信じなかったトマスでしたが、やがて嫉妬の念から、隠れた男がいるのではないかと、疑心暗鬼に駆られます。夜に合うことを頑なに拒むモイラの態度をいぶかしんだトマスは、意を決して深夜モイラの家に出かけます。そこでトマスが見たものとは…。
 ホラー映画シリーズの一編ながら、後半ギリギリまで、とくに超自然的なことは起こりません。主人公が見る幻影、象徴的なシーンなど、ツボとなるポイントはあるものの、基本的には年上の女性を恋する少年の視点で物語は進みます。
 前近代的な村、宗教心の強い人々、異様に潔癖な母親など、モイラとトマスの恋の障害となる舞台設定は細かくできています。男女の仲になりながらも、何かを隠し続けるモイラに対し、トマスが疑心暗鬼になってゆく過程も説得力豊かに描かれます。
 交互にあらわれる年老いたトマスのパートから、件の女性モイラがすでに死んでいることはわかるのですが、それがなぜ起こったのか、トマスとの恋の行方はどうなったのか?というサスペンス風味も用意されています。
 後半に起こる惨劇シーンも直接的な描写を避けて、暗示や象徴でうまくまとめており、淡い恋物語のトーンをうまく崩すことなく物語を構成しているのには、感心しました。それだけに、最後の最後で起こる超自然的なシーンのインパクトが強く感じられる仕組みになっています。
 青春物語としても秀逸な、異色のホラー作品です。
芸がなさ過ぎ  ジャウマ・バラゲロ監督『悪魔の管理人』
B000IHXTYOスパニッシュ・ホラー・プロジェクト 悪魔の管理人
マカレナ・ゴメス; アドリア・コヤド; ヌリア・ゴンザレス ジャウマ・バラゲロ
video maker(VC/DAS)(D) 2006-11-24

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、ジャウマ・バラゲロ監督『悪魔の管理人』。これはいまどき珍しい、コテコテのスプラッターでした。
 家を売ってしまい、立ち退き期限が迫っている若夫婦のクララとマリオ。広告で見つけた物件を見にいこうと、マリオはクララとともに郊外に向かいます。しかしたどり着いた場所は、廃墟と見まがうばかりのさびれた土地。アパート自体もひどい代物で、クララは帰りたがりますが、管理人の女性が来てしまったために、とりあえず中を見ることになります。
 アパートのひどさとは対照的に、管理人の女性は上機嫌でアパートのメリットをまくしたてます。そのうちに、妊娠中のクララは、気分が悪くなり、寝室で少し休むことになります。ふと部屋のすみに目をやったマリオは、自分が捨てたはずのスニーカーが置いてあるのを見つけ驚きます。そしてクララが見つけた写真立てには、彼ら夫婦の写真がなぜか飾ってあったのです…。
 邦題のタイトルから、だいたいの内容は想像がつくと思いますが、まったくその通りの話です。狂った管理人に襲われた夫婦を描く、スプラッターホラー。それはかまわないのですが、問題は脚本の甘さ。単純なB級ホラーに脚本もなにもあったものではないといえば、そうなのですが、それにしてもツッコミ所が多すぎます。
 主人公たちがよけいなことをし過ぎ、もしくはしなさ過ぎ、なのです。いちいち危険を招くような行為をしたり、チャンスがあったのに、みすみす逃すとか、見ていて腹が立つぐらい登場人物がバカに見えてしまいます。
 作中で、意味深な夢のシークエンスがはさまれるので、これは何か構成上に工夫があるのかと思いきや、まったく何もありません。夢のシーン自体、話の展開にまったく関与してこないのです。
 話そのものも、ほんとうにただの殺人鬼ホラーで、何の新味もありません。演出もどこかで見たようなものばかり。夫婦が逃げるシーンで、カメラがやたらと揺れるのは演出なんでしょうが、これもただ不快なだけ。結末のばからしさにも唖然としてしまいます。
 ただ流血シーンだけは、やけに生彩があります。とはいっても全体の印象をくつがえすほどのものもなし。
 監督のジャウマ・バラゲロは、『ネイムレス』『ダークネス』では、非常にシャープでダークな映像を見せてくれていたので、この作品も期待していたのですが、期待外れもいいところでした。典型的な駄目ホラーなので、見るほどのことはありません。

正義は必ず勝つ  アンドリュウ・ガーヴ『黄金の褒賞』
20061125220220.jpg
黄金の褒賞 (1960年)
福島 正実
B000JANXWS

 かって評論家の瀬戸川猛資は、ミステリ評論集『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)で、イギリスの作家アンドリュウ・ガーヴについて、こう書いていました。

 お話は同じパターンのものが多く、結末がとても甘い。人物描写がとくに印象的ということもないし、文章が際立ってうまいわけでもない。もちろん、謎やトリックの興味に溢れているわけでもない。また、イギリスの男性作家のくせにユーモア感覚があまりなく、洒落っけにも乏しい。

 ひどい貶しようだな、と思いきや、瀬戸川はこの後こう続けます。

 こういうミステリが、それほどおもしろいはずがない。ところが、実際に読んでみると、どれもこれもあきれるほどおもしろいのだ。まったく不思議である。
 察するに、これがストーリイ・テリングの力というものなのだろう。


 そう、瀬戸川猛資のいうことは、的を射ています。ガーヴの作品は、だいたいどれも同じような展開で、結末は必ずハッピーエンド。筋の予想もついてしまうことが多いです。それでも、面白いのです。やはりそれは、ストーリイ・テリングによるところが大きいのでしょう。
 今回紹介する『黄金の褒賞』(福島正実訳 ハヤカワ・ミステリ)も、件のパターンにそった物語ではありますが、他のガーヴ作品に比べると、すこしスパイスの利いている作品です。
 思わぬ遺産を手に入れ、働かなくても暮らしていけるようになった主人公、ジョン・メランビイ。ある日、彼の留守中に、海に出かけた息子と妻がおぼれかかりますが、危機一髪のところをロスコオなる男に救われます。
 感謝してもしきれないメランビイ夫妻は、ロスコオに援助を申し出ますが、彼はそれを固辞します。しかし、全くの善人に見えたロスコオは実はとんでもない詐欺師。メランビイ夫妻の知り合いの女性に色目をつかい、あまつさえ金を要求してきたのです。
 同じく、ロスコオに妻を乱暴されかかった男シアーストンが怒鳴り込んできたことから、メランビイは誤ってロスコオを殺してしまいます。彼らは悩みの末、死体を埋めてしまうことで、すべてを葬ろうとします。しかし、メランビイの良心はとがめていました…。
 犯してしまった殺人を隠し続けようとする主人公の話、というのは、よくありますが、この作品では、主人公メランビイが「善人」であるところがポイント。善人であるだけに、メランビイが苦しみつづけるという展開は、痛々しいものがありますが、サスペンスは十分です。
 とはいえ、上にも書きましたが、ガーヴの作品は基本的にハッピーエンド。とするなら、この物語もハッピーエンドのはず、と考えていくと、結末の予想はだいたいついてしまいます。ところが、この作品に限っては、それをさらに裏切る展開が待っています。単純な勧善懲悪には終わらない、ほろ苦い結末。そして、最後の最後でメランビイがとる行動とは…?
 徹底的に窮地に追い込まれる主人公。それゆえ、読者は欲求不満がたまります。結末に至っても、それは完全には解消されません。しかし最後にメランビイがとる行動には、人間性に対する信頼があらわれていて、ほろ苦い結末ながら、気持ちの良い読後感を与えてくれるのです。
 主人公が「一般人」であるために、感情移入もしやすく、物語に入り込むのも容易です。「プロット職人」ともいうべき、ガーヴの佳作といっていいでしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

内宇宙拡大中!  J・G・バラード『ウォー・フィーバー』
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ウォー・フィーバー―戦争熱
J.G. バラード James Graham Ballard 飯田 隆昭
4828840338

 「内宇宙への旅」をテーマとしたJ・G・バラードの作品は、ときおり難解になることもあり、読者を選ぶところがあります。しかし、本書『ウォー・フィーバー』(飯田隆昭訳 福武書店 )に収録された作品は、比較的なじみやすく、一般読者にも楽しめる作品が多いようです。

 『ウォー・フィーバー』 ベイルートに住む少年兵が、永遠の平和を夢見て、国連のブルーの帽子をかぶりはじめます。それを機に、戦争行為は止まりますが、やがてまた戦争が再開されてしまいます。それは、戦争を続けるウィルスのせいだったのです…。限りなく普通小説に近い作品です。

 『夢の船荷』 化学廃棄物を積んだ船に乗り込んでいた船員ジョンソン。船長たちは、船を廃棄し、救命ボートに乗り込みますが、ジョンソンはただ一人それを拒否して、自らが船長となります。やがてとある島に流れ着いた彼は、そこで女学者クリスティーン博士に出会います。船から出た化学物質が島の生態系に影響を及ぼし、新しい生物が生まれつつあるのに興奮するクリスティーン。やがて外部の人間に発見された島は焼却処分を受けることになるのですが…。
 廃棄物によって汚染されたジョンソンが、麻薬さながらトリップを起こす幻覚小説。化学物質によって変容する島の描写には、妙な迫力があります。

 『エイズ時代の愛』 エイズが蔓延した近未来、低下する出生率を上げるため、国家による性行為の強制管理が行われます。愛のない相手と義務的な性行為を行わなければならないのです。主人公の青年は、いつもどおり指定された女性をたずねますが、その相手ルシールとの間に深い愛情を芽生えさせてしまいます。しかし、それを当局に関知された二人は、仲を引き裂かれてしまうのですが…。
 極度に管理された未来社会を描く、いわゆるディストピア小説です。定番の「引き裂かれる恋人たち」を扱っているせいもあり、本書で最もわかりやすく、読みやすい作品でしょう。

 『尋問事項に答える』 不可思議な能力とカリスマ性を持つ男。彼を殺した罪に問われている別の男の、尋問の答えのみで構成されるという実験的な作品。質問が全く示されないため、答えが何を示しているのかわからない部分があるのですが、妙なリアリティが感じられます。「いいえ」とか「ほとんど毎日」とか思わせぶりな回答のみが示されるのが特徴的。

 『未確認宇宙ステーションに関する報告』 事故を起こした宇宙船が、運良く無人らしい宇宙ステーションに不時着します。しかし、内部探索に出た人間はいつまで経っても戻らないのです。残りの船員たちはステーション内部を探し始めますが、最初はごく小さなものだと思っていた内部が無限にも思える広さであることに気がつきます。このステーションは太陽系や銀河系をも包含する無限の世界だったのです…。
 最初は、推定1マイルの大きさだったステーション。それが、だんだんと数が大きくなり、最後には1500万光年にまだ至るという壮大なスケールの作品。ここでは宇宙ステーションが宇宙そのものになっているのです。ボルヘスがSFを書いたら…といった趣の寓話作品。

 『月の上を歩いた男』 生活に倦み疲れたジャーナリストは、ある日カフェで、老夫婦に話しかけられる男に、ふと気がつきます。彼は、宇宙飛行士を自称していたスクラントンという男でした。しかし、彼の経歴は真っ赤な贋物。詐欺師として世間に知られていたにもかかわらず、鉄面皮にも同じ行為を繰り返していました。人々もそれを知りつつ彼に近づいていたのです。ジャーナリストは、記事のタネとして、冷やかし気味にスクラントンにインタビューしますが、やがて共感を感じ始めた彼は、スクラントンと行動をともにするようになります…。
 事実はどうあれ、自分のなかで宇宙飛行士になりきっているスクラントン。そんな彼に羨望の念を覚え始める主人公の心理が面白いです。「でもやはり、彼は宇宙に行ったのだ。」というセリフには、非常に説得力があります。

 『巨大な空間』 妻に去られた男バランタインは、ある日、出勤する寸前にふと妙な考えに囚われます。これから二度と家から出ないと決心したのです。車のエンジンをかけっぱなしにしたまま彼は家に閉じこもります。妻が残していった、いくらかの食料を元に、彼は家での生活を始めます。不審に思った秘書や近所の住人が訪ねてきても、彼は何でもないと陽気に振る舞い続けます。やがて食料が尽きると、彼は、ドアから近所のペットを誘い込み、食料にし始めます。ペットたちもほとんどいなくなり、飢えかけた頃、テレビ工事に派遣された若者が現れるのですが…。
 突然わけのわからない衝動にかられ、家にとじこもる男。食料が乏しくなってゆくにもかかわらず、男は妙な高揚感を抱き続けます。意識や空間の拡大、といったいわゆる「インナースペース」のテーマを扱っていながらも、妙に即物的な展開がユニークです。ナサニエル・ホーソーン『ウエイクフィールド』を彷彿とさせる奇妙な味の作品。

12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
11月下旬刊  ピーター・ディキンスン『キングとジョーカー』(扶桑社ミステリー 予価880円)
11月刊    柴田元幸編『紙の空から』(晶文社 予価2730円)
12月上旬刊  梅田正彦編訳 ローダ・ブロートン他『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』(鳥影社 予価1680円)
12月上旬刊  マイケル・イネス『証拠は語る』(長崎出版 予価2310円)
12月7日刊  ワイルド『ドリアン・グレイ』 仁木めぐみ訳(光文社 古典新訳文庫)
12月7日刊  宮部みゆき編『贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き』(光文社文庫)
12月中旬刊  R・A・ラファティ『子供たちの午後』(青心社 予価1680円)
12月15日刊 テリイ・サザーン『ブルー・ムーヴィー』(早川書房 予価1995円)
12月15日刊 グレッグ・イーガン『ひとりっ子』(ハヤカワ文庫 予価882円)
12月22日刊 横溝正史『喘ぎ泣く死美人』(角川文庫 予価567円)
12月下旬刊 『横溝正史翻訳コレクション』(扶桑社文庫)
12月刊    ロバート・E・ハワード『魔女誕生』《新訂版コナン全集2》(創元推理文庫)
12月刊    平野嘉彦『ホフマンと乱歩』〈理想の教室〉(みすず書房 予価1575円)
12月刊    マイクル・イネス『アララテのアプルビイ』(河出書房新社)
12月刊?   ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』(国書刊行会 予価2400円)
12月予定?  ジェフリー・フォード『メモランダ』(国書刊行会)

12月8日発売 『シーラ号の謎』(DVD)(予価690円)

 12月は、いろいろ面白そうな本が出ますね。
 『キングとジョーカー』は、かってサンリオSF文庫で出たものの復刊。古本では、万単位のとんでもない値段がついていたりする本ですね。面白いかどうかはともかく、気になる怪作のようです。
 『紙の空から』は柴田元幸編のアンソロジー。テーマがどんなものなのかは、わからないのですが、気になっています。
 今回一番注目しているのはこの本、『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』。女流作家の怪奇小説アンソロジーだそうです。この編者の人は、数年前に突然、20世紀初頭のイギリスの作家バーナード・ケイプスの怪奇小説集『床に舞う渦』を出した人ですね。『床に舞う渦』は、マニアックにも程があるという感じの作品集でしたが、作品の面白さもさることながら、編者の怪奇小説に対する愛が感じられるという点で、良質の本でした(装丁のセンスは最悪でしたが)。そういうわけで、このアンソロジーも期待できそう。
 マイケル・イネスはもしかして来月2冊刊行ということになるんでしょうか。『アララテのアプルビイ』の方は購入即決定ですが、『証拠は語る』の方は実物を見てから。あんまり聞いたことのない出版社ですし。
 ラファティ『子供たちの午後』は、〈青心社SF〉の一冊。実はシリーズ中、これ一冊だけ持ってるので、購入するか迷ってます。
 『ひとりっ子』は、グレッグ・イーガン待望の短篇集。河出の〈奇想コレクション〉にも予定があがっていましたが、中身はかぶらないんでしょうか。
 横溝正史『喘ぎ泣く死美人』は、単行本未収録の短篇を集めたもの。これはともかく気になるのは、扶桑社から刊行予定の『横溝正史翻訳コレクション』。たぶん〈新青年〉などに翻訳した横溝正史初期の翻訳を収めたものでしょうが、マイナーなスリラーなどが収録されそうなので、期待しています。
 タイトルで、かなり気になっているのが『ホフマンと乱歩』。ホフマンと乱歩、どちらも好きな作家なのですが、どうやら二人の作家の共通するテーマを語った本みたいです。
 ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』は、期待の新シリーズ〈短篇小説の快楽〉第一弾。
 ジェフリー・フォード『メモランダ』は、あの傑作『白い果実』の続編。たぶん刊行が遅れると思いますが、一応。
 あと、これはDVDなのですが、『シーラ号の謎』が出ます。ミステリ映画の隠れた傑作!という評判を聞いているので、ぜひ見てみたかった作品なのです。値段も非常にリーズナブルなので、買いですね。
 

テーマ:**本の紹介** - ジャンル:本・雑誌

お友達といっしょ  エンリケ・ウルビス監督『リアル・フレンド』
B000HXE3IKスパニッシュ・ホラー・プロジェクト リアル・フレンド
ゴヤ・トレード; ネレア・インチャウスティ; ホセ・マリア・ポウ エンリケ・ウルビス
video maker(VC/DAS)(D) 2006-10-27

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 ホラー映画競作シリーズ〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、エンリケ・ウルビス監督『リアル・フレンド』は、想像力の豊かな少女を主人公にした、変わり種の作品。この主人公が、ホラー小説や映画のファンであるというところが、ホラー映画ファンの心をくすぐります。ちなみに、監督のウルビスは、『ナインスゲート』の脚本家だそうです。
 小さいころに父親を亡くし、母親と二人暮らしをしている少女エストレイヤ。仕事の忙しい母親は、不在がちで、エストレイヤはホラー小説やホラー映画を見たりして過ごしています。彼女の友達は、ホラー映画の怪物たち。『悪魔のいけにえ』の殺人鬼レザーフェイスを空想上の友達として、寂しさをまぎらわせていました。
 そんなある日、エストレイヤの前に、映画で見た吸血鬼そっくりの男が現れます。彼女は、男とすっかり仲良しになります。しかし、ことあるごとに、空想の友達の話をするエストレイヤを、母親は心配します。そして、ある夜、とうとうエストレイヤは「吸血鬼」を夕食に連れてくるのですが…。
 ホラーというよりは、ファンタジーといった方がふさわしい、不思議な感触の作品です。空想上の友達、この作品の場合「レザーフェイス」なのですが、それを少女の空想だけでなく、現実の日常生活の場面にも登場させてしまう、というところが、なかなか面白い試みになっています。
 学校の授業中にエストレイヤのとなりに座ったレザーフェイスが、他の少女にいたずらをしようとするのを叱る場面など、じつにシュールな光景で、おかしなユーモアをたたえています。いわば映画自体が、少女の空想的な視線から作られているわけですね。
 それだけに、作品中で起こる出来事が、実際に客観的に起こった出来事なのか、少女の空想なのかが、はっきりとしない仕組みになっています。画面に登場する怪物の存在だけでなく、友達になった男は、本当に吸血鬼なのか。さらに言えば、母親は本当に管理人の男と恋仲になっているのか、という現実生活におけるレベルの出来事さえ、事実なのかどうかが、判然としないのです。
 作品の後半、死んだはずの父親の正体、そして母親の過去などが、少女の聞いていたものとは違うことが仄めかされます。それに対して、事実を隠そうとする母親。そして醜い事実を聞きたくないという、少女自身の望みに従って、レザーフェイスは現実を抹殺しようとするのです。
 身も蓋もない、きわめて現実的な話を、少女の空想的な視線を通して語るという、考えるとかなり技巧的な作品です。漫然と見ていると、冗長な話だととられかねないのですが、いま語られていることが事実なのか、それとも少女自身の空想(希望)なのかと、注意しながら見ると、なかなか面白い発見のある、刺激的な作品でしょう。

いなかった男  アレックス・デ・ラ・イグレシア監督『ベビー・ルーム』
B000HXE3IAスパニッシュ・ホラー・プロジェクト ベビー・ルーム
フアン・ハビエル・グティエレス; ソニア・レオノール・ワトリング; ドミンゴ・サンチョ・グラシア アレックス・デ・ラ・イグレシア
video maker(VC/DAS)(D) 2006-10-27

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 スペインで制作された、ホラー映画競作シリーズ〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉。DVD化されたのを機に、その一本、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督『ベビー・ルーム』を見てみました。
 これは面白い。オーソドックスな「幽霊屋敷もの」と思わせておいて、後半ひねる展開は、なかなか斬新です。
 赤ん坊が生まれたばかりの若夫婦フアンとソニア。二人は、建てられたのは古いものの、きれいにリフォームされた家に引っ越してきます。姉夫婦からのプレゼントの中に、受信機を見つけた二人は、面白半分に、赤ん坊のいるベビー・ルームにそれを置いてみます。
 聞こえてきたのは、赤ん坊の笑い声と、そして別の男の声! あわててベビー・ルームにかけつけたフアンでしたが、そこには誰もいません。警察に連絡し、防犯設備をとりつけたものの、不安に駆られたフアンは、今度は赤外線テレビモニター付きの受信機を購入し、ベビー・ルームに設置します。
 そこでフアンが見たのは、赤ん坊の前に座る男。包丁をつかんで駆けつけたフアンですが、そこはまたしても赤ん坊以外だれもいない部屋。しかし、男を直接目撃していないソニアは、フアンの精神がおかしくなっているのではないかと、疑念を抱きはじめます。そしてある夜、侵入者と勘違いして妻と子を傷つけそうになるフアン。恐れを抱いたソニアは、実家に戻ってしまいます。
 そして精神的に消耗したフアンが、一人で受信機を見ていると、そこには引きずられていく人間の足が…。
 因縁のある、いわくつきの家。ささいな事でたびたび起こる夫婦喧嘩。精神のバランスを崩していく夫。夫を恐れはじめる妻。と、今となっては定番となりつつある「幽霊屋敷+サイコ」ホラーとしてのオーソドックスな展開は、新味はないものの楽しめます。夫が目撃したことを信じない妻、というお約束の展開も効果的です。
 ここまでは「普通」のホラーなのですが、この後の展開がじつに面白いです。詳しいことを書くとネタバレになるので書きませんが、いわゆる「SF的」な設定が導入されるのです。かといってジャンルがSFにシフトするのではなく、その後もホラーとして進むところが、興味深いところです。
 結末を不安を持たせるシーンで終わらせるところも、このジャンルがよくわかっているな、という感じ。T・L・シャーレッド『努力』やデーモン・ナイト『アイ・シー・ユー』をホラー風に撮った作品だと言えば、わかる人にはわかるかも。とにかく、ケレンに満ちた外面上の演出ではなく、あくまで「お話の面白さ」を追求したホラー映画といえるでしょう。

テーマ:DVD - ジャンル:映画

最近買った本
 積読本はたまっていく一方なのですが、相変わらず、新本・古本問わず買っています。その中から、最近手に入れた本をいくつかご紹介。

マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』(ソニー・マガジンズ)

 以前から懸案だった本ですが、とうとう手に入れました。さすがに重い。5000円近くするだけあって、装丁・造本・組版どれも凝っていますね。眺めているだけで愉しくなってくる本です。


ロバート・シルヴァーバーグ『我ら死者とともに生まれる』(早川書房)

 短篇集。シルヴァーバーグの長編に関してはどうも波長が合わないものが多かったのですが、短篇に関してはどれも面白かったので。


岩田託子・川端有子『英国レディになる方法』(河出書房新社)

 19世紀イギリスにおける女性が「レディ」になるまでの、生活や文化についての本。小道具やファッションなど、図版が多く、ビジュアル要素の強い本。


樺山紘一『肖像画は歴史を語る』(新潮社)

 いくつかの絵をとりあげ、それに関連した画家やモデル、時代や文化について触れるエッセイ集。著者が美術専門でないだけに、視点がなかなか面白そうですね。


鈴木一誌『ページと力』(青土社)

 グラフィック・デザイナーである著者が、本作りやデザインについて語った評論。文字についてのこだわりが半端でないようです。


アントニー・ギルバート『つきまとう死』(論創社)

 『薪小屋の秘密』が面白かったので購入。


小鷹信光編『ブロードウェイの探偵犬』(大和書房)
小鷹信光編『ラヴレターにご用心』(大和書房)

 20年近く前に出版された、小鷹信光編纂のテーマ別アンソロジーシリーズの2冊。全5巻のうち、3冊は河出文庫で再刊されていますが、この2冊は文庫化されていない貴重な作品集。『ブロードウェイの探偵犬』は、「犬ミステリ」、『ラヴレターにご用心』は「手紙ミステリ」をテーマにしています。


ティム・クラベー『洞窟』(アーティストハウス)

 衝撃的な作品『失踪』を書いた、オランダの作家クラベー(クラベ)のサスペンス小説。ちなみに、カバーの作者紹介によると、人口の少ないオランダでは5~20万部でベストセラーなんだとか。


白尾元理『月のきほん』(誠文堂新光社)

 新刊書店で気になって、思わず購入してしまった本。「月」に関するいろいろなデータや情報をわかりやすく解説したもの。「きほん」というだけあって、科学的な部分に関しても、かなりわかりやすく書かれているようです。


道尾秀介『背の眼』(幻冬舎)
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮社)
道尾秀介『シャドウ』(東京創元社)

 この三冊に関しては既に読んだのですが、この作家なかなかの曲者ですね。『背の眼』は水準作でしたが、『向日葵の咲かない夏』には驚かされました。自殺した友人の死の謎を追う少年の物語、というと、みずみずしい物語を想像しがちですが、案に相違して、ひたすら暗く陰鬱な話。なのですが、読みやすさは抜群で、ミステリとしての結構も秀逸。「歪んだ」作品がお好きな人にはオススメです。『シャドウ』『向日葵…』ほどではないにせよ、かなり面白い作品。ロバート・ブロック風のサイコ・ミステリです。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

死んでみればわかること  ジョン・メイブリー監督『ジャケット』
B000H5U25Gジャケット
キーラ・ナイトレイ ジョン・メイブリー エイドリアン・ブロディ
松竹 2006-10-28

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 タイムトラベルと切ないラブロマンスとは、相性がいいらしく、傑作も多数あります。ジョン・メイブリー監督『ジャケット』(2005 アメリカ)も、その例にもれません。
 1992年、湾岸戦争で頭に重傷を負ったジャック・スタークスは、奇跡的に命をとりとめたものの、後遺症の記憶障害に悩まされていました。
 ヒッチハイクで旅をしていたジャックは、道ばたである母娘に出会います。故障した車の前で酔いつぶれている母親、それとは対照的な素直な幼女ジャッキー。車を修理してやったジャックは、ジャッキーにねだられて、自分の認識票をプレゼントします。
 その後、別の男の車にのせてもらったジャックは、後ろから警察の車に呼び止められます。運転手の男は、突然警察に発砲し、ジャックはその際に意識を失います。
 目覚めたジャックは、警官殺しの罪で裁判にかけられてしまいます。心神喪失で無罪とされたものの、精神病院に収容されてしまうのです。しかも、ジャックの治療を担当することになったベッカー医師は、急進的な男。治療と称して、薬漬けにされたジャックは「ジャケット」(拘束衣)を着せられ、地下の死体安置所の引き出しに閉じ込められてしまいます。
 引き出しの中で、過去の記憶のフラッシュバックに悩まされるジャックが気づくと、そこはさびれたレストランの前。ウエイトレスの女性は、所在なさげなジャックを見かね、家に招待します。その女性の部屋でジャックが見つけた物は、以前ジャックが幼女にあげた認識票、そしてあの母娘の写真でした。
 ジャックは、女性から驚くべきことを聞き出します。今が2007年であること、目の前の女性はかって出会った幼女ジャッキーであること、母親が火事で焼死したこと、そして自分は1993年の元旦に死亡したことを…!
 タイムトラベルによって、自分の死を知った男が、その原因を知るために調査に出る…という物語です。自分の死のタイムリミットまでに、真相に迫れるのか、というサスペンスはなかなかのもの。主人公を演じるエイドリアン・ブロディの繊細な演技とも相まって、避けられない死に向かって突き進むクライマックスには迫力があります。
 ただ、タイムトラベルの原因やらその理屈には、ほとんどふれられません。「そういうこと」として流されてしまうのです。この分野では『バタフライ・エフェクト』という超絶的な傑作があるだけに、それと比べてしまうと、脚本上の甘さがかなり目立ってしまいます。
 周りの人々がタイムトラベルを信じない…というのは定番の設定ですが、恋人となるジャッキーにそれを信じさせる過程に、説得力があまり感じられないのは弱いですね。
 タイムトラベル自体の設定にも、どうも説得力が弱いような気がします。拘束衣を着せられた状態でタイムトラベルしているのに、着いた先では普通の服装になっているとかいうのはともかく、都合良く毎回ジャッキーの目の前にあらわれるとか、何回未来へ行っても、前回の訪問の後の時刻に着く、というのもかなりできすぎのような気が。
 ジャックが罪を着せられることになった殺人事件が、全く解決しないままで終わってしまうのには、驚きました。ジャックが精神病院に放り込まれるという、前提を導入するだけのための要素としてしか使われていないのです。これは非常にもったいない。
 さらに言うなら、ジャックが自分の死の真相を探り出す過程に関しても、あまりにすいすいと進んでしまうというか、障害がないのが気になります。ジャックを酷い目にあわせるベッカー医師にしても、未来ではすでに失脚しています。それゆえ「復讐」や「旧悪を暴く」といった爽快感はあまりありません。謎解きというほどの謎もなく、起こってしまった既定事実をジャックがたどる…といった趣が強いのですが、諦観に満ちた作品のトーンにはむしろ合っているのかもしれません。
 いろいろアラが見つかる作品ではあるのですが、それをうち消すほど、主人公をはじめとする俳優たちの演技が素晴らしいです。静謐な雰囲気、繊細な心理描写など、ドラマとしては第一級のものになっています。
 厳密なタイム・パラドックスやSF的な趣向を求めると物足りない点が残りますが、人間ドラマとしては、かなりの佳作でしょう。

テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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