 かって、SF初心者がまず読むべきとされた作家たちがいました。ロバート・シェクリイ、レイ・ブラッドベリ、フレドリック・ブラウン、彼らの作品は、非常にとっつきやすく、初めてSFを読む読者にも、SFの面白さを味あわせてくれる貴重な作家たちでした。 彼らの作品には、共通点がいくつかあります。まず、主要作品が短編であること。難解な科学用語やガジェットがあまり使われていないこと。起承転結のきいたストーリー展開があること。そして、「センス・オブ・ワンダー」があること! 諷刺のきいたシェクリイ、感性豊かなブラッドベリの作品も素晴らしいものがありましたが、こと「センス・オブ・ワンダー」に関する限り、間違いなくフレドリック・ブラウンが、頭抜けていたといっていいでしょう。極度に短い作品の中に、SFの核となるようなアイディアをめいっぱいにつめこんだ、ブラウンの作品は、今読んでも十分に楽しむことができます。斬新なアイディア、大胆な対比、思いもかけない展開、と彼の作品は、日常では味わえない「認識の変化」を与えてくれます。作品が短かったせいもあるのでしょうが、余計な風俗描写などがないことが、普遍的な面白さを出すことに成功した一つの要因ではないかと思われます。 初期の日本SFに絶大な影響を与え、星新一の作風の原型ともなったフレドリック・ブラウン。今回は、そんな彼の作品を概観してみましょう。
博士が発明したタイム・マシンを使って、憎んでいた祖父を抹殺しようとした青年の末路は…。愉快なショート・ショート『最初のタイム・マシン』(中村保男訳 創元SF文庫『スポンサーから一言』収録)。
迫害を逃れ、未来へと逃走した吸血鬼一族の生き残りの二人組が出会ったものとは…『血』(中村保男訳 創元SF文庫『スポンサーから一言』収録)。
突如、素裸で見知らぬ部屋にいることに気づいた青年。机の上には自分にあてられた手紙。ここはいったいどこなのか? 時間旅行の秘密を解き明かした青年の、究極の選択とは…。斬新なタイムトラベル小説『鏡の間』(中村保男訳 創元SF文庫『スポンサーから一言』収録)。
気がつくと、男は見知らぬ惑星のドームの中に入れられていました。そして、目の前には不可解な球体が。孤立無援の不条理な戦いを強いられる男の物語『闘技場』(中村保男訳 創元SF文庫『スポンサーから一言』収録)。
ハービー坊やが、奇術師に扮した悪魔から世界を救う顛末を描いた、楽しいファンタジー『悪魔と坊や』(小西宏訳 創元SF文庫『天使と宇宙船』収録)。
息子が親に隠れて読んでいたSF雑誌。それに憤慨した父親は、妻を叱るのですが…。極端な対比が際だつ、アイディアの勝利というべき作品『非常識』(小西宏訳 創元SF文庫『天使と宇宙船』収録)。
ある日チャーリーは、目の前でミミズに翼が生え、昇天するのを目撃します。その後もつぎつぎと起こり続ける不可思議な出来事。チャーリーが突き止めた世界の秘密とは…。センス・オブ・ワンダーの極致、名作『ミミズ天使』(小西宏訳 創元SF文庫『天使と宇宙船』収録)。
目に見えないこびとの原理「ユーディの原理」に巻き込まれた、青年二人組が遭遇するおかしな出来事の数々。目のまわるようなイメージが素晴らしい、奇妙な味の作品『ユーディの原理』(小西宏訳 創元SF文庫『天使と宇宙船』収録)。
核爆弾による突然変異により、不死身に近い肉体を得た男。彼は、18万年にわたって人間社会を見守ります…。すさまじいスケールが感動を呼ぶ『不死鳥への手紙』(小西宏訳 創元SF文庫『天使と宇宙船』収録)。
タイム・マシンを開発したユースタスの運命を、三通りに語るという面白いショート・ショート『タイム・マシンのはかない幸福』(小西宏訳 創元SF文庫『未来世界から来た男』収録)。
ハルパリンばあさまの誕生会の席で起きた殺人事件。一族ばかりの出席者たちは混乱しますが、思わぬ結末が…。「一族もの」のミステリを皮肉ったかのような作品『ばあさまの誕生日』(小西宏訳 創元SF文庫『未来世界から来た男』収録)。
好色なウォルターが悪魔から手に入れた「魔法のパンツ」。だがそれには意外な盲点が…。おかしな艶笑譚『魔法のパンツ』(小西宏訳 創元SF文庫『未来世界から来た男』収録)。
財産目当てに伯父を殺そうとした青年の失敗とは…。究極のショート・ミステリ『大失敗』(小西宏訳 創元SF文庫『未来世界から来た男』収録)。
少女が持っていた人形には秘密がありました。それぞれの家族に見立てた人形について、少女が語る話は現実になるのです…。無気味な結末が印象的な怪奇小説『人形』(小西宏訳 創元SF文庫『未来世界から来た男』収録)。
地球上に生き残った最後の男が部屋に座っていると、突然ドアにノックの音が…。思いもかけないストーリー展開が興味深い作品『ノック』(中村保男訳 創元SF文庫『宇宙をぼくの手の上に』収録)。
殺人の事実について誰も知らないのは一体何故なのか? 困惑する警部が知った驚くべき真実とは…。謎解きとしても秀逸な近未来ミステリ『白昼の悪夢』(中村保男訳 創元SF文庫『宇宙をぼくの手の上に』収録)。
宇宙ロケットに乗せられた実験用のネズミは、異星人との接触によって高度な知能を手にいれます…。主役のネズミがかわいらしい、楽しい作品『星ねずみ』(中村保男訳 創元SF文庫『宇宙をぼくの手の上に』収録)。
宇宙船の故障により、宇宙飛行士の男は、異星でサバイバルを強いられることになります。その星の生物をペットにした男は、救出を待ち続けます。ようやくたどり着いた救援隊が洩らした真実は、男の人生を一変させるものでした…。人間の普遍的な心理にも踏み込んだ、味わい深い佳品『みどりの星へ』(星新一訳 早川書房『さあ、気ちがいになりなさい』収録)。
誰もいない森の中で、木が倒れたとき、音はしたことになるのだろうか? 不倫をした妻と恋人を見殺しにした男の罪はいったいどうなるのだろうか? 認識にかかわる哲学的問いをミステリに応用した、超絶的な傑作『沈黙と叫び』(星新一訳 早川書房『さあ、気ちがいになりなさい』収録)。
自分はナポレオンだという妄想狂のふりをして、精神病院に潜り込んだ記者の青年。しかし、それには問題がひとつありました。実は自分はナポレオンなのだ! 正常と異常の境目がわからなくなってしまう、相対的思考の極致。めくるめくような作品『さあ、気ちがいになりなさい』(星新一訳 早川書房『さあ、気ちがいになりなさい』収録)。
あと、長編では、突如パルプ・マガジンの安っぽいパラレルワールドに転移してしまう『発狂した宇宙』(稲葉明雄訳 ハヤカワ文庫SF)と、ある日火星から大挙して、地球にやってきた火星人たちが起こす顛末をユーモラスに描いた『火星人ゴーホーム』(稲葉明雄訳 ハヤカワ文庫SF)が面白いです。とくに『火星人ゴーホーム』は、単なる宇宙人の騒動モノかと思わせておいて、非常に奥深い哲学的なテーマを持った傑作です。
ブラウンの主要作品を三人の作家が漫画化したという『フレドリック・ブラウンは二度死ぬ』(講談社漫画文庫)という本も出ています。中では『ミミズ天使』と『さあ、気ちがいになりなさい』を漫画化した作品が、面白いですね。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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