最善の方策  埋もれた短編発掘その21
 これは珍しい、マイクル・クライトンのユーモア短編『世界最強の仕立屋』(浅倉久志訳 早川書房 ミステリマガジン1974年1月号所収)。恐らく作者名を伏されたら、クライトンだとはわからないでしょう。
 大統領の信頼も厚い、科学顧問の物理学者ジョン・ハンセンは、ある日大統領の執務室に呼ばれます。驚いたことに執務室には、閣僚が勢揃いしていました。大統領を含め閣僚たちが、みな突っ立っている中で、見知らぬ男が一人座っているのに、ハンセンは注意を引かれます。
 年の頃はおそらく60歳を越え、小柄で白髪の老人。それにもかかわらず威圧的な態度と傲岸な言葉。

 そして、ハンセンはショックとともにさとった-大統領はこの男をこわがっている。ハンセンは一同のほうに目をやった。みんなもこわがっているらしいことが、いまになって感じられた。

 ボラックと名乗る男は、自分はシンシナティの仕立屋だと言いますが、身の程もわきまえず、驚くべき要求を出してきます。なんと50億ドルをよこせと言うのです!
 金を払わなければ、ニューヨーク市を燃やし尽くす。それがボラックが出した条件でした。そんなたわごとを信じるのかというハンセンの疑問に、大統領は答えます。政務次官のジョン・ハーパーが、目撃者の目の前で燃やし尽くされた、と。

 「…それによると、ボラック氏が目をとじてなにごとかを口の中で唱えたとたん、ハーパー次官の全身は火に包まれた。そのとき、ボラック氏と彼とのあいだには、数ヤードの距離があったそうだ」

 さらに目の前で、自分のネクタイに火をつけられたハンセンは、ボラックの言葉を信じ始めます。とたんに、彼は、ボラックの提案を呑むようにと、態度を豹変させます。あまつさえ、軍事的な協力を求めたらどうか、と言い出す始末。大統領は、失望の色を隠せません。
 ハンセンが態度を豹変させた理由とは? 明晰な頭脳を持つハンセンが導き出した、驚くべき対策とは?
 あまりに意表をつく結末には、驚かされるはず。はっきり言って、その解決法はアンフェアなのですが、頭を使ったアイディア・ストーリーに慣れている読者にとっては、逆に新鮮に感じられるかも。

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9月の気になる新刊と8月の新刊補遺
8月25日刊 仁賀克雄訳 リチャード・マシスン『不思議の森のアリス』(論創社 2000円)
8月25日刊 仁賀克雄訳 フィリップ・K・ディック『人間狩り』(論創社 2000円)
9月 6 日刊 マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ編『短篇集 シャーロック・ホームズのSF大冒険(上・下)』(河出文庫 予価各924円)
9月 7 日刊 ロダーリ『猫とともに去りぬ』《光文社古典新訳文庫》
9月 7 日刊 東雅夫編『吉屋信子集 生霊』(ちくま文庫 予価998円)
9月10日刊 アイリーン・ガン『遺す言葉、その他の短篇』(早川書房 予価各1575円)
9月25日刊 ビル・S・バリンジャー『美しき罠』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ 予価各1050円)
9月刊    ガブリエル・ガルシア=マルケス『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社)
9月刊    若島正『殺しの時間 乱視読者のミステリ散歩』(basilico)

 『不思議の森のアリス』『人間狩り』は、論創社の新シリーズ〈ダーク・ファンタジーコレクション〉の初回配本。いわゆる異色作家の短編集のシリーズですが、怪奇小説への比重が強い感じです。ディックは以前ちくま文庫で出ていたものの復刊のようなので、買うかどうか微妙ですが、マシスンは買い。このシリーズ、他にも、アントニー・バウチャー、ヘンリー・スレッサー、シーベリー・クイン、チャールズ・ボーモント、C・L・ムーアなど、異色作家が目白押しで楽しみなシリーズです。
 『短篇集 シャーロック・ホームズのSF大冒険(上・下)』は、タイトル通りホームズのパスティーシュものアンソロジーなんですが、珍しいのは、SFやファンタジー風味の作品を集めたものらしいところ。
 『猫とともに去りぬ』は、古典を新訳するという《光文社古典新訳文庫》の1冊。シェイクスピアとかツゥルゲーネフなどの名作に混じって、このタイトルがあるんですが、これって有名な作品なんでしょうか? 作者のロダーリって、イタリアの児童文学作家のジャンニ・ロダーリですよね? もしそうなら買いです。
 『吉屋信子集 生霊』は、〈文豪怪談傑作選〉の真打ち。他の作家セレクションは森鴎外だの川端康成だのと、珍しくもないのですが、この巻は楽しみにしています。
 『遺す言葉、その他の短篇』は、新人SF作家(?)の短編集。初邦訳が短編集というのも珍しいのですが、とりあえず短編好きとしては、気になるところです。
 『美しき罠』は、バリンジャーの未訳の作品。とりあえずサスペンスの名手バリンジャーの作品と言うことで。
 『わが悲しき娼婦たちの思い出』は、ガルシア=マルケスの新作らしいのですが、川端康成の作品『眠れる美女』に啓発されて書かれた作品だとか…。
 『殺しの時間 乱視読者のミステリ散歩』は、『ミステリマガジン』に連載されていたエッセイをまとめたもの。著者好みの未訳の作品を紹介した本です。連載終了後、いくつか邦訳されたものはあるものの、基本的には一般には見向きもされないような、変わった作品を多くとりあげているのが目を引きます。

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悪意のある風景  ジョナサン・キャロル『黒いカクテル』
4488547109黒いカクテル
ジョナサン・キャロル 浅羽 莢子
東京創元社 2006-07-11

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 『パニックの手』につづく、キャロルの短編集『黒いカクテル』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)。『パニックの手』に比べ、寓意性が強いというか、抽象的で「難しい」作品が多いように感じます。しかし、どの作品にも悪意がまぶされているのは、相変わらずです。

 『熊の口と』 金持ちに憧れていた貧しい青年が、宝くじに当選し、夢見ていた大金を手に入れます。大金をどのように使ったらいいのか? 不安に苛まれた青年は、魔法使いに相談することにしますが…。
 「魔法使い」がいきなり登場するなど、日常にふいに超自然的な描写がはさまれる、いわゆる「マジック・リアリズム」風の寓話。ユーモアをたたえた諷刺、を狙っているのだと思うのですが、あまり成功していない感じです。

 『卒業生』 愛する妻子を持ち、順風満帆な32歳のルイスは、今でも時折、みじめだった高校時代の夢を見ます。ただ、すぐに目が覚めることがわかっているので、安心感がありました。しかし、今回の夢は違います。いくら経っても目が覚めないのです。鏡に映った顔は、現在の32歳のルイスの顔。しかも周りの同級生たちは、それにも全く頓着しないのです…。
 大人になっても見る、子供時代の悪夢。誰でも覚えがあるような感覚をうまく小説化した作品。夢の中の世界が、現実とつながっているという暗示で終わる結末は効果的です。

 『くたびれた天使』 双眼鏡でのぞき見していた女に惹かれた「ぼく」は、うまくその女トニーと知り合い、わりない仲になります。しかし実際につきあう彼女との生活は、思っていたよりも退屈でした。本人の前では、愛情をふりまきながら「ぼく」は裏で彼女に嫌がらせ電話をかけつづけるのですが…。
 ストーカーもののヴァリエーション。主人公の「ぼく」の残酷さが不快感を残す、嫌な味の短編です。

 『我が罪の生』 ハリーは、ヨーロッパで思いもかけず、高校時代の同級生エプスタインと再会します。エプスタインは生まれながらの嘘つきであり、その嘘を利用して貪欲に成功を得ようとするような男でした。しかし再会したエプスタインは、自分の非を認めます。あのエプスタインがどういう風の吹き回しだ? 不審に思うハリーが聞かされたのは、奇妙な打明け話でした…。
 不道徳な男の改心話かと思っていたら、思いもかけない展開に。キャロル節とでもいうべき結末は、悪夢めいていて無気味。

 『砂漠の車輪、ぶらんこの月』 根っからの善人バイザーは、自分が数ヶ月後に失明することを知り、あることを考えます。自分が年をとったときの写真を撮り、それを頭に焼き付けようというのです。有名な写真家とメイクアップ・アーティストの助けを借りたバイザーは、それぞれ50歳、60歳、70歳に見せかけたメイク後の姿を写真に撮ってもらいます。しかし出来上がった写真に写っていたものは、予想だにしないものでした…。
 失明することを知った男の行動は、実に奇矯ですが、その展開は非常に魅力的。結末は、寓意性が強すぎるきらいもありますが、本作品中で一、二を争う力作でしょう。

 『いっときの喝』 結婚に破れ、わびしい生活を送る男の家に、ある日突然美しい女が訪れます。弟を伴った女は、昔この家に住んでいたことがある、ついては家の中を見せてもらえないか、と頼み込みます。男が気がつくと、家の中の情景が一変していました…。
 家が思い出を再現する、というキャロルにしては珍しいノスタルジックな作品。とはいえ、そこにあるのは、失われたものへの後悔と寂寥感であるところが、キャロルならではというべきでしょうか。

 『黒いカクテル』 ゲイの恋人を失い、傷心のイングラムは、義弟からマイケル・ベイなる男を紹介されます。マイケルは不思議な話術で、イングラムを虜にします。そして、マイケルは、自分の少年時代に自分を守ってくれた不良じみた少年クリントンについて話します。クリントンは、マイケルをいじめた少年を射殺した後、姿を消してしまったというのです。ある日イングラムは、15歳のときのまま年をとっていなクリントンに出会いますが…。
 悪夢めいた雰囲気は、他と共通しますが、次々に真相がひっくり返るどんでん返し的構成は、ミステリっぽくて面白いところでしょうか。結末のモチーフは、どこかスタージョンを思わせます。

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物語を続けよう  トマス・ウォートン『サラマンダー -無限の書-』
4152085002サラマンダー―無限の書
トマス ウォートン Thomas Wharton 宇佐川 晶子
早川書房 2003-08

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 読み続けても終わらない、無限に続く本。それは、本好きの人間が夢見る究極の願望です。カナダの作家トマス・ウォートンの作品『サラマンダー -無限の書-』(宇佐川晶子訳 早川書房)は、真っ向からそのテーマを扱った力作。
 舞台は18世紀、オスマン・トルコとの戦争で息子を、出産で妻を失った、スロヴァキアの貴族オストロフ伯爵は、領地の城に閉じこもってしまいます。パズルや暗号など、謎かけの熱狂的な愛好者である伯爵は、自らの城を機械仕掛けに改造する作業に没頭します。
 城内のあらゆる部屋や家具は、機会仕掛けにより、次々とその場所を変えるようになります。そしてその中核にあるのは図書館でした。

 客が芳香を放つ風呂を楽しんだり、淫らな気分で召使いを追いかけたりしていると、目に見えぬギアの震音とともに、岩のように堅牢だったはずの仕切がうしろへ滑走し、本棚やら読書机やらががたごととそばを通過し、しばしばそのあとを伯爵当人が時計を見ながら、家具の進み具合の正確さとタイミング以外いっさい眼中にない様子で歩いていくといったありさまだった。

 城内の本の管理をするのは、伯爵の娘イレーナ。今や、たった一人の家族となったイレーナを、伯爵は溺愛していました。婚期を迎えても、まったく結婚する気のないイレーナでしたが、伯爵は、娘が自分の助手としても有能であることを発見して以来、城内の人間の数を減らし、ひたすら機械仕掛けを増やしていました。
 ある日、城にとどいた本の仕掛けに感心した伯爵は、ロンドンから、それを作った印刷職人フラッドを呼び寄せます。そして、フラッドにつきつけられた課題とは驚くべきもの。なんと、無限につづく本を作れというのです!
 フラッドは、難題に対し試行錯誤を続けますが、やがてイレーナとの間に恋が芽生えます。しかし、二人の仲を知った伯爵は、激怒し、フラッドを地下牢に幽閉してしまうのです。
 そして十数年後、フラッドの独房を一人の少女が訪れます。

 「こんにちは、シニョール・フラッド」彼女は英語でいった。「わたしの名前はパイカ。あなたの娘です」

 フラッドが幽閉から解放された理由とは? 彼女は本当にフラッドの娘なのでしょうか? やがてフラッドは、パイカとともに「無限の書」を求めて旅に出ることになるのです。そしてイレーナの行方は…?
 書物をめぐる幻想小説、なのですが、作品中にあらわれるガジェットがことごとく魅力的。無限に続く本、機械仕掛けの城、動く書棚、人工庭園、驚異の小部屋、自動人形、女海賊。何より全体を通して、書物や本に対する愛情が感じられるところが、本好きにはこたえられないところです。
 前半のオストロフ伯爵の城での「無限の書」作りのくだりは、もう素晴らしいの一言につきます。動く図書館とも言うべき城のからくりは、どれも魅力的です。そして機械仕掛けの城で繰り広げられる、フラッドとイレーナのロマンスもなかなか。
 ただ、幽閉されたフラッドが、娘とともに旅に出る後半になると、どうも作品のトーンが異なってくるのに気がつきます。海洋冒険小説的な色彩が濃くなってくるのです。フラッド父娘はつぎつぎと仲間を加え、世界中の様々な都市を訪れることになります。ヴェニス、アレキサンドリア、スリランカ、マダガスカル、広東など、その旅はエキゾチックかつファンタスティック。ストーリーの合間に、本編とは独立したエピソードもはさまれ、これはこれで飽きさせません。
 ただ、上にも書いたように、「無限の書」作りに対する焦点がぼけてくるきらいがあるのは否めません。目的自体がなくなったわけではないものの、旅の途上の異国の風物や冒険の方が、前面に出てくる感じなのです。その点、作品冒頭のトーンで、話が進むと思っていると、ちょっとはぐらかされます。端的に言うと、前半と後半とで、どうも違う話のようなのです。
 主人公だと思っていたフラッドが、あまり積極的に活動しないのも、ちょっと気になります。オストロフ伯爵に幽閉されてからは、ほとんどいいところなし。対して、その後は娘のパイカが主に活躍することになります。しかしそれでも「無限の書」作りが明確に達成されるわけでもなく、結末もどうも曖昧なのがちょっと弱い。
 そして、致命的に弱いのは、やはり作中での「無限の書」の扱いでしょう。「無限の書」というからには、それなりの魅力を感じさせなくては駄目だと思うのですが、この作品では、その内容も明確に示されず、曖昧なまま終わってしまいます。前半は、内容というよりもむしろ物理的な仕掛けで「無限」を作れないかという試み、後半になってからは、象徴的な「無限」として、話をにごしてしまうのです。まあ強いて解釈するなら、後半の冒険行そのものが、すなわち終わらない旅であり、「無限の書」である…、ともとれなくはないのですが。
 さらに言うなら、伯爵やフラッドが、なぜ「無限の書」に取り憑かれるようになったのかという点にも、あまり説得力が感じられません。この「無限の書」の魅力を読者に感じさせることができたなら、本作は、もっと素晴らしい作品になったと考えると、ちょっと残念です。
 ちなみに、読み終えた後、思い浮かべたのは澁澤龍彦の『高丘親王航海記』(文春文庫)でした。後半の旅のパートで訪れる、アジアやアフリカの都市の雰囲気など、実にそっくりです。ペダントリーも作中にばらまかれており、澁澤龍彦が好きな方なら楽しめるのではないでしょうか。

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ブラッドベリアーナ その3
サウンド・オブ・サンダー デラックス版 太陽の黄金の林檎 ウは宇宙船のウ ヴィレッジ

 ブラッドベリの映像化についても、少し語っておきたいと思います。ブラッドベリの作品は映像化不可能だ、とする意見もあるようですが、それなりに成功した作品もあると、個人的には思っています。フランソワ・トリュフォー監督の『華氏451度』は、ブラッドベリのセンスとは異なるとはいえ、映像美としてはかなりのものでしたし、ディズニーの『何かが道をやってくる』も悪くはありませんでした。
 短編の多いブラッドベリだけに、海外のドラマシリーズなどでは、ちょくちょく映像化もされているみたいです。未見ですが『ミステリー・ゾーン』でも、いくつかのエピソードが放映されています。僕の見たことのあるものでは『新トワイライトゾーン』の二つのエピソード、『エレベーター』『バーニングマン』があります。どちらも大したことのない作品で、どうも作品選択が間違ってるんじゃないかという節があります。
 個人的に一番評価したいのは、カナダで作られたオムニバス形式のドラマシリーズ『レイ・ブラッドベリ・シアター』。関東では、13年前ぐらいに、テレビ日本などで『怪奇の館』というタイトルで放送されていたので、ご覧になった方もいるかもしれません。
 ブラッドベリ本人が監修しているだけあって、作品のムードを実によく再現していたように思います。ちなみにビデオ化もされています(廃盤のようですが)。毎回冒頭に、ブラッドベリ本人が現れて、自分の部屋で前置きを語るシーンが映されるのですが、この部分だけでも、ブラッドベリ好きとしては、感涙ものです。
 映像化された原作を挙げると、『風』『骨』『少年よ、大茸をつくれ!(ぼくの地下室においで)』『泣き叫ぶ女』『群衆』『誰も降りなかった町』『ティラノザウルス・レックス』『こびと』『マリオネット株式会社』『使者』『遊園地』『ダドリィ・ストーンのすばらしい死』『みずうみ』『歓迎と別離』『棺』『草原』『鉢の底の果物』など。ブラッドベリファンなら泣いて喜ぶタイトルが目白押し。
 『使者』での詩的な結末、『ダドリィ・ストーンのすばらしい死』で原稿をばらまく幻想的なシーンなど、印象的な映像が今でも記憶に残っています。
 あと注目すべきエピソードとしては、『雷のような音』。原題は"A Sound of Thunder"。そう、これ、この前公開されたピーター・ハイアムズ監督『サウンド・オブ・サンダー』と同じ原作。
 近未来、タイムマシンが開発されますが、それは過去の時代での恐竜狩りをするという商売に使われていました。ある日、客の一人が、ふと蝶を踏みつぶしてしまったことから、未来が変わってしまう…という話。原作はごく短い短編で、過去のささいな出来事が未来に甚大な影響を及ぼすという、いわゆる「バタフライ効果」を扱った作品。
 ついでに、映画版『サウンド・オブ・サンダー』にも触れておきましょう。映画版では、過去からあるものを持ち帰ってしまったがために、未来が変わってしまうのですが、その影響が「時間の波」として、視覚化されるのが特徴。それによって、次々と植物や動物などの進化の道筋が変わってしまい、世界は荒廃してしまう…という展開になっています。一気に未来が変わるのではなく、何回かに別れて変化が訪れるので、人間には最後に影響が及ぶという設定になっています。
 この辺がどうもご都合主義な感じがするのですが、まあそれは良しとしましょう。あと、CGがけっこうしょぼいです。何しろ序盤の恐竜狩りのシーンが使い回しの映像を使ってたりしますから。でも、まあそれもあんまり気になりません。
 この映画の見所は、過去を元に戻そうという主人公たちが、異様な進化を遂げた動物や植物の攻撃をかわしながら、現代にものを持ち帰ってしまった客を捜す、というサバイバル的な部分にあるからです。このあたりは、いわゆるパニック・ホラーとして、なかなか秀逸。特殊CGを使った映像スペクタクルを期待すると、がっかりするでしょうが、演出もなかなか手堅く、飽きさせない作りになっています。そういう意味では、傑作ではないものの、まあまあ楽しめる佳作といえるでしょう。
 でも、ブラッドベリの作品とは全然違うトーンの作品であることは確かです。どうせ映画化するなら、短編を集めたオムニバスにしてほしかった…というのが、個人的な希望です。
 映像化、といえば萩尾望都の漫画化作品『ウは宇宙船のウ』(小学館文庫)も忘れられません。熱狂的なブラッドベリファンであるらしい作者が漫画化しただけあって、原作に対する愛情が感じられるところが、嬉しいところですね。
 画風的には好みではないのですが、うまく原作を視覚化していると思います。中では『泣き叫ぶ女の人』『びっくり箱』などが気に入っています。
 『びっくり箱』といえば、M・ナイト・シャマラン監督の映画『ヴィレッジ』『びっくり箱』にそっくりだ、という話があったようです。たしかにメインとなるネタはかぶっているような気がします。ただ、これ以前にも似たネタを使った映画や小説はあったようですし、パクリとか盗作というには当たらないような気がします。実際僕が思いつく範囲でも似たようなネタを使った作品があります。チャールズ・ボーモント『ロバータ』とかイアン・バンクス『蜂工場』、服部まゆみ『この闇と光』なんかも、そうでしょうか。
 問題は、長編映画であのオチを持ってくるところにあるのではないかと思います。しかも結末ではなく、その一歩手前でネタあかしをしてしまうところに、さらに問題が。要するに演出次第・上映時間次第では、もっとうまく出来たのではないかと思わせられるという意味で、お世辞にも傑作とは言えない、というところです。
 ちょっと脱線してしまいましたが、映画化においてはブラッドベリは今のところ、あんまり恵まれていないというのが正直なところですね。ただ前出の『レイ・ブラッドベリ・シアター』は、掛け値なしに素晴らしい出来なので、もし中古ビデオ屋で見かけたら、購入しておくことをオススメしておきます。

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本バトン
折れた魔剣 ナイトランド 地中海遊覧記 奇術師の密室

 「くろにゃんこの読書日記」くろにゃんこさんから、本バトンのご指名をいただきましたので、ちょっと書いてみようかと思います。こういうのは、あんまり好きではないのですが、内容が「本」とくれば、答えないわけにもいきません(笑)。

1.持っている本の冊数
 わかりません。数えたことがないので。
たぶん3000~4000冊ぐらいだと思います。10年ぐらい前に整理したときに、たしか2500ぐらいだったので、それぐらいになってるかと。
「気になった本は、とりあえず買っとけ!」をモットーにしていますので、本の増加が半端ではありません。これでも随分処分してるはずなんですけどね(笑)。あと基本的に、読んで面白かったと感じた本は、処分しません。ちなみに、文庫よりは、ハードカバー派。


2.今読みかけの本、読もうと思っている本
 以前の記事でも、似たようなことを書いた覚えがありますが、今回はまた別の本をいくつか。たまには小説以外のものも混ぜてみましょうか。といっても、実際に読むのはいつになるやら。

ポール・アンダースン『折れた魔剣』(ハヤカワ文庫SF)
竹下節子『キリスト教』(講談社選書メチエ)
中野美代子『ひょうたん漫遊録』(朝日選書)
今邑彩『時鐘館の殺人』(中公文庫)
コーネル・ウールリッチ『マンハッタン・ラブソング』(新樹社)
イサク・ディネーセン『復讐には天使の優しさを』(晶文社)
西川正美『孤絶の諷刺家アンブローズ・ビアス』(新潮選書)
コリン・ウィルソン『世界犯罪史』(青土社)
江村洋『フランツ・ヨーゼフ』(東京書籍)
中野博詞『ハイドン復活』(春秋社)
磯山雅『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』(東京書籍)
ボリス・ヴィアン『人狼』(早川書房)
ロジェ・カイヨワ『蛸』(中央公論社)
マーク・トウェイン『地中海遊覧記 上下』(彩流社)
栗原成郎『スラヴ吸血鬼伝説考』(河出書房新社)


3.最後に買った本
最後というか、ほぼ毎日何か買ってるような気がするので、きりがないんですが。
とりあえず最近買ったのは、

ダグラス・アダムズ『ほとんど無害』(河出文庫)
リチャード・マシスン『奇術師の密室』(扶桑社ミステリー)
梶尾真治『百光年ハネムーン』(出版芸術社)
コニー・ウィリス『わが愛しき娘たちよ』(ハヤカワ文庫SF)
ボアロ&ナルスジャック『犠牲者たち』(創元推理文庫)

あたりでしょうか。


4.特別な思い入れのある本、心に残っている本5冊
えーと、これもありすぎて、きりがないんですが。涙を飲んで挙げてみます。

阿刀田高『恐怖コレクション』(新潮文庫)
絵本や児童文学を除いて、大人向けとしては、初めてまともに読んだ本。ホラー小説集と勘違いして買ったので、エッセイだと知ってがっかり。けれど、せっかくだからと、読んでみたところ、そこに紹介されていたレイ・ブラッドベリ、ロバート・ブロック、ジョン・コリアなどの異色作家への道を開いてくれたということで、読書のよき指針となってくれました。

ジャック・フィニィ『盗まれた街』(ハヤカワ文庫SF)
おそらく、初めて読み通した長編小説。それまで短いものしか読んでいなくて、長編はいくつか挑戦したものの、挫折していました。強烈なサスペンス、ひねりのきいたプロット。本当に面白い作品は、長さなど関係ない、ということを教えてくれた本。

W・H・ホジスン『ナイトランド』(原書房)
荒俣宏の本で紹介されていて、読みたくなった本。未来を舞台にしたヒロイック・ファンタジーは数あれど、この作品ほど独創的なものには、未だお目にかかっていません。荒廃した世界、異次元からの侵入者、徘徊する亡霊。凄まじい迫力に満ちた世界観は、まさに「異界」。同じような暗い未来を描いていても、これに比べると、映画『マトリックス』なんか、お粗末の極み。

マルセル・エーメ『マルタン君物語』(ちくま文庫)
すっとぼけたユーモア、奇天烈な登場人物と事件、破天荒なストーリー。想像力に満ちた、真に独創的なユーモア小説集。以前に書いた感想は、こちら

織田正吉+松田道弘『遊び時間の発想』(日本経済新聞社)
知る人ぞ知る、パズルやトリック、ミステリや謎解きの啓蒙者である二人の著者が、縦横無尽に語り合う対談集。ミステリのミスディレクションや、固定観念を打ち砕く思考方法など、どこを読んでも面白い一冊。そんじょそこらの自己啓発本や思考トレーニングの本とは、まったく次元の異なる名著。


5.部屋にある本棚の数
2メートルぐらいの大型の本棚が6つ。小型の本棚が2つ。それでも入りきらないので、そばに山ができてます。本棚を新しく購入しても、あっという間に埋まってしまいます。それ以前に置くスペースもないんですが(笑)。


6.よく読む5冊
そんなに繰り返し読む本はないですね。そんな暇があったら、積読本を消化しないと。あえて挙げれば、いわゆるブックガイド系の本でしょうか。こちらは、よくパラパラと眺めています。

荒俣宏『世界幻想作家事典』(国書刊行会)
「読む」事典の最高峰。プロパー作家だけでなく、ヘッセ、マン、シェイクスピア、ゲーテなど、いわゆる純文学作家の幻想作品にも筆を割いている点が強み。

荒俣宏『空想文学千一夜』(作品社)
空想的な文学についての文章を集めた本。いくつかの大枠の章に分かれています。幻想文学ファンにはたまらない本。著書鍾愛のダンセイニの章などは、熱気に満ちた文章が収められています。

北上次郎『冒険小説論』(ハヤカワ書房)
デュマ、ヴェルヌからスパイ小説、現代物まで、冒険小説に分類される作品を取り上げた評論集。その分析が非常にわかりやすく、面白い! 『ミステリマガジン』連載だっただけあって、ディクスン・カーの剣豪小説なんかにも触れているところがユニーク。

「幻想文学」編集部編『幻想文学1500ブックガイド』(国書刊行会)
幻想文学系統の作品を長編・短編とりまぜて、それぞれのテーマ別にあらすじ紹介をした本。これはもう本当に、すり切れるほど読んだかもしれません。

瀬戸川猛資『夢想の研究』(創元ライブラリ)
ミステリファンには同著者の『夜明けの睡魔』でしょうが、僕にとってはやっぱり『夢想の研究』。本や映画、ミステリ・SF・ホラーなど、ジャンル横断しつつ語られる文章には、まさに目から鱗。評論というのは、わかりやすくあるべし!といった見本のような本。


7.次にまわす人
こういうのを指名するのも何なので、興味のある方、答えてみたい方は、ご自由にお持ち帰りください。

ブラッドベリアーナ その2
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 今回は、印象に残っているブラッドベリの作品について、書いてみます。
 まず、SFでの代表作となると、やはり連作短編集『火星年代記』ということになるのでしょうか。これは確かに傑作だと思います。火星が舞台といっても、ブラッドベリの描く火星というのは、SF映画のイメージにあるような宇宙的なものでは全くありません。設定を読み飛ばしたなら、舞台はアメリカの田舎町なのかと思うような、きわめて地上的なもの。そういうところが「科学的」ではないと批判される所以なのでしょうが、ブラッドベリに関してはこれがむしろ魅力になっているのではと思います。
 読む前は、火星に植民した人々の生活をリリカルに語る作品…だと思いこんでいたのですが、これ前半に関しては、なかなかサスペンス味が豊かで驚きました。『第三探検隊』など、人間に敵対する火星人がけっこう得体が知れなかったりして、ホラーとしても読むことができます。
 火星で鞄を売る男の話『鞄店』だとか、結末の『百万年ピクニック』なんかもよいのですが、個人的に一番好きなのは、やはり『優しく雨ぞ降りしきる』。物語という物語があるわけではないのですが、静謐なイメージが、ただただ、美しい一編。
 あと単独での短編についても、いくつか触れてみたいと思います。 
 SF的なアイディアで、いちばん驚いたのは『霜と炎』(創元SF文庫『ウは宇宙船のウ』収録)。時間の流れが異様に速い惑星が舞台。ここでは人間は生まれてすぐに大人になり、老衰してしまうのです。その寿命はわずか一週間程度! 主人公は、先祖が乗ってきた宇宙船でこの星を脱出しようとしますが、それを邪魔する勢力が。残された寿命は、あとわずか数日…。
 人質に残された時間はあとわずか、とか死刑執行何日前、とか〈タイム・リミットもの〉は数あれど、ここまで極限的な条件を課された作品は前代未聞なのではないでしょうか。まさに究極のタイム・リミット・サスペンス・SFです。
 イメージの美しさでは『万華鏡』(ハヤカワ文庫NV『刺青の男』収録)。宇宙船の爆発により船外に放り出された乗組員たち。仲間たちは各惑星の引力に引かれて落ちていきます。そして主人公は地球に流れ星となって降り注ぐ…。結末の映像美は比類がありません。
 『鉢の底の果物』(ハヤカワ文庫NV『太陽の黄金の林檎』収録)は、リチャード・マシスンを思わせるパラノイア・ストーリー。殺人を犯した男は、立ち去る間際に自分の指紋が残っていることに気づきます。あわててふき取ったものの、考えれば自分はこの家のあちこちに触っている…。ある種、滑稽なまでの結末が印象的。
 『歓迎と別離』(ハヤカワ文庫NV『太陽の黄金の林檎』収録)。いつまで経っても成長せず、外見は子供のままのウィリー。しかし、本当は43歳なのです。その秘密のために、彼は同じところに数年間以上いることはできません。仕事につくことも不可能な彼が見つけた天職とは…。「永遠の子供」を真っ正面から取り上げた作品です。
 『誰も降りなかった町』(早川書房『メランコリイの妙薬』収録)。ふと電車から降り立った男。彼は長年の考えを実行にうつそうとしているのです。それは見知らぬ町の見知らぬ人間を殺す、というもの。ホームにいた一人の老人を標的と見定めた彼でしたが、老人は思いもかけないことを話し出します…。
 殺人願望を秘めた男のクライム・ストーリーが、思いもかけない結末に。まさに、ブラッドベリにしか書き得ないミステリ。
 『十月のゲーム』(新潮文庫『十月の旅人』収録)。妻とうまくいっていない男。彼は妻に復讐するために、自らの血をも引いている娘を殺そうとします。そしてハロウィーンのパーティの夜に…。
 理解できない、まったくの異物としての妻と娘。疎外感に苛まれた男のサイコ・スリラーとも読める残酷譚。
 『夜のコレクト・コール』(ハヤカワ文庫NV『キリマンジャロ・マシーン』収録)。火星の捨てられた町に一人残った狷介な男。他人の全くいない、静寂そのものの町に、数十年ぶりにかかってきた電話。それは男が若い頃に設置した自動電話システムでした…。
 傲慢な男が、冗談まじりに作った電話。老齢となった孤独な男が自らの声によって、さらに孤独を深める…という皮肉な物語。火星の見捨てられた町の夜の情景が美しい作品です。
 『火の柱』(創元SF文庫『スは宇宙のス』収録)。突然墓の中から生き返った男は、そこが未来であることを知ります。ポオやラヴクラフトが焚書になるこの世界に憎悪を覚えた彼は、衝動のままに、ひたすら殺人を繰り返すのですが…。
 変わってしまった世界に対し、ひとり戦いを挑む主人公。失われたものに対する哀惜の感情が胸を打つ、神話的な趣さえ感じられるピカレスク・ロマン。
 まだまだ語りたい作品はあるのですが、とりあえずこのぐらいで。

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ブラッドベリアーナ
10月はたそがれの国 ウは宇宙船のウ【新版】 スは宇宙(スペース)のス 何かが道をやってくる

 レイ・ブラッドベリ。一般にSF作家ということになっていますが、SFにとどまらない彼の作品は、ジャンルを越えて読者を魅了しています。
 ブラッドベリの魅力を語る人の大部分が、その作品の印象と、自分の若い頃の感性を結びつけて語っているようです。そういう意味では、ブラッドベリは青春の書なのかもしれません。
 ご多分にもれず、僕もブラッドベリの作品を読んだのは、高校一年生のとき。たしか阿刀田高のエッセイで、その名前を知った記憶があります。そのときに俎上にのせられていたのは、『夜』という作品。そのころ既に手に入らなかった〈異色作家短編集〉のキキメ本『壜づめの女房』に入っていた作品です。それで興味を持って、早速その本を探しにいったわけですが、近所の新刊書店に置いてあるわけもありません。
 それならば、とブラッドベリの名前がついた本を探していたときに、目に付いたのが創元推理文庫やハヤカワ文庫などの文庫本。そのころブラッドベリは軒並み現役本で、その辺の本屋にも置いてあったんですね。で、その中から選んだのが『黒いカーニバル』『十月はたそがれの国』。もともとホラーが好きだったので、怪奇味の強そうな短編集を選んだわけです。いま考えると、この二冊は僕にとってベスト・セレクションだったなあ、と思います。
 この二冊、パルプマガジンなどに発表された、ブラッドベリの初期の名作が集められています。
 周囲に理解してもらえない孤独な青年がとった究極の手段とは…残酷美にあふれる結末が印象的な『ほほえむ人々』。金持ちの兄が作った棺には奇妙な仕掛けが…ブラックな笑いに満ちた『棺』
 子供のころの悪夢がよみがえる『遊園地』。毎夜サーカスのミラーハウスを訪れるこびとの話『こびと』
 骨と肉体にまつわるグロテスクなストーリー『骨』。母親に殺意を抱く胎児を描く『小さな殺人者』
 事故のたびに集まってくる群衆の秘密、彼らは一体何者なのか?『群衆』
 病弱で部屋を出られない少年のもとに、犬が連れ帰ってきたものは、とんでもないものだった…。ノスタルジック・ホラー『使者』
 風の秘密を知った男は、風に命を狙われる…『風』
 超のつく名作揃い。特に『十月はたそがれの国』の方は、すべてが傑作といってもいいぐらいのハイレベルの作品集だと思います。
 後年の感傷過多なものと違って、本当の意味での「みずみずしさ」が溢れた作品群。まあ怪奇小説がほとんどなので「みずみずしさ」というのも、おかしな話なのですが、実際、それ以外に形容しようのない感じなのです。
 なにより怪奇小説にこんなに「情感」を盛り込めるのか、というのが一番の驚きでした。ムードのある怪奇小説、というのはそれまでにも読んだことがありましたが、それはあくまでホラーとしての雰囲気醸成のことであって、ブラッドベリの作品におけるものとは、趣を異にしていました。
 ちなみに、上に挙げた作品名から、一般に評価の高い『みずうみ』『びっくり箱』などが抜けているのに、気づいた方もいるでしょうか。そう、高校生のころは、まだストーリー展開や話の面白さだけで、本を読んでいたので、これらの作品にはぴんと来なかったわけですね。ですが、逆に言うと、そんな高校生でも、ある程度の「情感」を感じ取れるほどの魅力が、ブラッドベリにはあった、ということもできるのかもしれません。
 あとになって『みずうみ』『びっくり箱』などの作品も楽しめるようになりました。代表作『火星年代記』をはじめ『刺青の男』『太陽の黄金の林檎』『よろこびの機械』『メランコリイの妙薬』『ウは宇宙船のウ』『スは宇宙のス』『とうに夜半をすぎて』『何かが道をやってくる』なども、そのあと読みました。これらの作品集は、『黒いカーニバル』『十月はたそがれの国』に比べて、SFやホラーなどのジャンル色が薄くなっているものが多く、最初に手に取っていたら、あんまり楽しめなかったんじゃないかと思います。
 そんなわけで、ブラッドベリ熱に取り憑かれた僕は、手にはいる限りのブラッドベリの本を買い集めて、読みふけりました。邦訳をほぼ読破して、改めて思ったのは、ブラッドベリが本当に傑作を書いていたのは、初期から中期までだ、ということ。後年の作品、とくに70年代あたりからの作品は、かなり駄目になっているというのが、正直な感想です。
 ここ数年でも、何冊か短編集が出ましたが、どれも完全に感傷だけで成り立っている作品。しかもその感性さえ古びている感じは否めません。ブラッドベリの作品は、時代が下るにつれて、SF臭が消え、限りなく普通小説に近づいていくのですが、それに伴ってブラッドベリ本来の魅力も薄れていく感じがします。
 作家には、初期に傑作を書ききってしまい、後はダメになってしまうタイプと、じわじわと実力をつけながら後年になって傑作を書くタイプとがあると思うのですが、そういう分類で言うとブラッドベリは明らかに前者です。
 とはいえ、初期の作品だけでも、ブラッドベリの業績は残るでしょう。それでも作家活動をやめずに、ここまでずっと来たのは、幸か不幸かわからないところですね。
 ブラッドベリのことを書いていると、長くなりそうなので、次回も少し続けたいと思います。

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想像力の旅  ゴンサルヴェス絵、トムソン文『真昼の夢』
4593504694真昼の夢
セーラ・L. トムソン Sarah L. Thomson Rob Gonsalves
ほるぷ出版 2006-07

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 Acrobatic_Engineering.jpgロブ・ゴンサルヴェスとセーラ・L.トムソンのコンビによる絵本の第二弾『真昼の夢』(金原瑞人訳 ほるぷ出版)は、相変わらずゴンサルヴェスのだまし絵が魅力的な本です。
 前作『終わらない夜』は、まさに「終わりのない夜」を視覚化したような絵を集めた秀作でした。今回は、タイトルを見るとわかるように「真昼」の絵、白昼での幻想的な光景を描いた絵が多く集められています。前作の「夜」と今回の「昼」と、タイトルとコンセプトがうまく対応しているのにも、感心させられます。
high_park_pickets.jpg 文章に関しては、今回もトムソンの文は冴えません。というか、ゴンサルヴェスの絵自体に「物語性」が非常に豊富に含まれているので、どんな文章をつけても蛇足のような気がしてしまうのも確かです。その意味では、トムソンは絵の雰囲気をうまく壊さないように文章をつけている、といえるのかもしれません。
 ゴンサルヴェスの絵は、だまし絵の巨匠エッシャーの作品から刺激を受けているのがよくわかるのですが、それをさらに徹底したリアリズムで描いたところに特色があります。細部が非常にディテール豊かで現実味があるのにもかかわらず、全体として何ともいえない幻想的な雰囲気を醸し出すことに成功しています。
written_worlds.jpeg この画家は、やっぱり「夜」の光景を描いた方が精細があると思うのですが、「昼」の光景もなかなか捨てがたいものがあります。今回の絵の中で一番気に入ったのは巻末の『written worlds』という作品。図書館の光景を描いているのですが、そこから様々な世界へと扉がつながっています。「想像力の旅」を視覚化したような、本好きにはたまらない魅力を持った絵です。
 前回には絵本に使われた絵のタイトルの一覧が、巻末に収められていたのですが、今回はそれがないのが、唯一残念なところでしょうか。ちなみに、上に挙げた絵のタイトルは著者のサイトで参照しました。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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