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最近読んだ(観た)画集

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井村君江『妖精美術館』(レベル)

 妖精研究の第一人者である著者がまとめた、妖精画の画集です。主に、19世紀から20世紀初めに描かれた作品が収録されています。リチャード・ドイル、ラッカム、デュラックといったこの分野で有名な画家だけでなく、マイナーな画家の作品も多く収録されています。
 個人的に一番惹かれたのが、画家不詳(W・H・フーパー伝)のシェイクスピア『夏の夜の夢』の挿絵本(写真左のもの)。一枚一枚が独立した絵画のような細密な美しさです。
 コナン・ドイルの父チャールズ・アルタモント・ドイルの作品も魅力的です。添付画像は彼の《五尋の海の下》という作品。海底でピアノを弾く人魚という、ユーモラスながら美しいモチーフを扱っています。
 絵・イラストの画像だけでなく、取り上げられた作品についての解説、画家の略歴、扱われた妖精モチーフについての説明なども掲載されており、いろいろと参考になりますね。読んでいて楽しく、まさに「眼福」といっていい画集になっています。
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海野弘『おとぎ話のモノクロームイラスト傑作選』(パイインターナショナル)

 英国を中心に、西洋で描かれたモノクロの挿絵を幅広く紹介した画集です。時代的には、18世紀末から20世紀初めの挿絵本黄金時代まで、作家で言うと、トマス・ビュイック、ジョージ・クルックシャンクからアーサー・ラッカム、カイ・ニールセンまで、広い時代と作家にわたって、幅広く紹介されています。
 挿絵製作の技術の発展についても分かりやすく解説されています。特に、当時よく使われた木口木版の技術やその変遷などについての部分は参考になりますね。「モノクロ」作品紹介がメインですが、多色刷りの作品もいくつか紹介されていますし、挿絵本自体がカラーで紹介されているページもあります。
 個人的に気に入ったのは、イギリスの画家ジョン・オースティン(1886-1948)の作品。ビアズリーに影響を受けたそうです。官能的で、ちょっと禍々しさを感じるところも魅力的です。
 天・地・小口に金箔が貼られた、三方金加工も素敵です。本文がだいたいモノクロページだけに、金が映えていますね。
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海野弘監修『北欧の挿絵とおとぎ話の世界』(パイ インターナショナル)

 おとぎ話をテーマに描かれた北欧の画家たちの挿絵やイラストレーションを収録・解説した画集です。
 北欧の伝説や伝承、その地域の特色なども解説されており参考になります。有名どころではカイ・ニールセンやトーベ・ヤンソン、カール・ラーションも紹介されていますが、日本ではあまり有名でない画家が多く紹介されていて貴重です。
 個人的にお気に入りになったのは、スウェーデンの画家ヨン・バウエル。繊細な女性像が美しいのですが、同時に描かれる怪物たちの造形は奇怪でありながらユーモラス。その対比も面白いです。
 こちらは、フィンランドの画家ルドルフ・コイヴ。アール・ヌーヴォーに影響を受けた人だそうですが、全体にキュートな絵柄が魅力ですね。
 こちらはスウェーデン生まれ、アメリカに渡った画家グスタフ・テングレンの作品。細かい描線の幻想的な作品が魅力ですが、輪郭の濃い可愛らしい絵もあったりと、多様なタッチの作品があるようです。
 北欧画家のイラストレーションが総体的にまとめられた画集で、日本ではあまり類書がないと思います。各画家のプロフィールや、挿絵に扱われているシーンや物語の解説も丁寧で、文章部分の読み応えもある良書です。
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田中友子『ビリービンとロシア絵本の黄金時代 改訂版』(東京美術)

 ロシアの絵本作家・イラストレーター、イワン・ビリービン(1876-1942)の作品から、主におとぎ話を題材にした絵本イラストを紹介した本です。
 ビリービン作品、輪郭がはっきりしており、丁寧かつカラフルな画面構成が魅力でしょうか。作風を例えるなら、「絵画的」というよりも「コミック的」といっていいかもしれません
 装飾として、飾り罫や縁取りが多用されるのも面白いです。しかも飾り罫や額縁部分に、その作品と連動した動植物が登場するのも洒落ていますね。絵のメインテーマの他に、こうした細部の作りを眺めるのも楽しいです。
 日本の浮世絵の影響もあるらしく、『サルタン王物語』の挿絵では、日本の北斎にも似た表現が使われています。
 自国であるロシアのおとぎ話をテーマにした作品が多く、その内容についても要領よくまとめられています。日本ではあまり馴染みのない民話が多いですが、結婚した相手がカエルだったという『カエルの王女』の話なんて面白いですね。
 作者ビリービンの生涯と作品の概説、同時代の別の画家たちの紹介コーナーもあったりと、いろいろな面で参考になります。ページの全体だけでなく、挿絵の拡大図もあるので、細部がとても見やすい画集となっています。
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『ルドンの黒 眼をとじると見えてくる異形の友人たち』展図録(2007年)
ルドンの石版画や木炭画などモノクロ作品が200点近く紹介されています。見たことのない作品も多数で、満足感がありました。
「目」や「顔」のモチーフが頻出し、不気味でありながらユーモラスな画も多数です。
怪奇幻想小説の表紙で使われている作品もところどころにあって、やっぱりルドンの画は怪奇幻想作品にぴったりだな、と思わされます。解説を読むと、本人もオカルト的な方面に興味があったようですね。
今回の図録でいちばん楽しみにしていたのが、こちらのシリーズ。ブルワー=リットンの有名な怪奇小説の挿絵として作成された「幽霊屋敷」です。こちらも雰囲気があって良いですね。
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テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

最近読んだマンガ作品

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おみおみ『血と処女 ~修道院の吸血鬼たち~』 (シルフコミックス 全二巻)

 フィレンツェに羊毛を運ぶ途中だった商人のバルトロは船の難破で遭難してしまいますが、気が付くと孤島の修道院のベッドに寝かされていました。そこには六人の修道士たちと、ニコと名乗る幼い子どもが暮らしていました。
修道士たちは皆が皆、白髪赤眼であり、彼らの一人が言うには、同じ病を抱えているために、ここに隔離されているのだというのです。バルトロは、一緒に連れていた元奴隷の少年ベニートのことを心配していましたが…。

 孤島の修道院で修道士として暮らす吸血鬼たちと一人の少女を描いた、ダーク・ファンタジー作品です。
 最初のエピソードでは、外部から迷い込んだ男が修道士たちの秘密の一端に触れる…と言った形の紹介編になっており、次のエピソードからは、修道士たちに育てられた少女ニコが、修道士と修道院の秘密について徐々に知っていくことになる、というミステリアスな展開となっています。
 修道士たちが吸血鬼であることは早々に明かされるのですが、彼らがなぜ孤島で暮らしているのか? 何をして暮らしているのか? ニコはなぜここで育てられていたのか? など様々な謎が提出され、それらが段々と明かされていきます。
 修道士たちの中でも意見の相違があるようで、中でも、常時厳しい態度を崩さないジャンパウロには独自の思惑もあるようで、それはニコに対しても同様なのです。
 吸血鬼である修道士たちの「罪と罰」、そして、歪んだ形ではあれど、純粋な「愛の形」が描かれるという、重厚なテーマの作品となっています。わずか二巻の物語ですが、この短さでこの密度の物語を紡げるとは驚きです。
 暗い情念の横溢する、ゴシック趣味たっぷりの物語なので、怪奇幻想小説のファンにもお勧めしておきたいと思います。



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おみおみ『バベル式 神ガール』 (バンチコミックス 全二巻)

 日向暮高校に入学したばかりの新入生、樋田日高は、ある日、他の人間には聞こえない不思議な声を耳にします。声の主は、校内の外れにたたずむ塔のような建物「部室棟未満」に住んでいるという「かみさま」でした。
 巨大な少女の姿をした「かみさま」の声を聞くことができる日高は、見込まれて「かみさま」の世話をする「かみさま部」に入ることになりますが…。

 巨大な少女の姿をした「かみさま」と、彼女に関わることになった少年をめぐるファンタジー作品です。
 舞台となる建物「部室棟未満」が、まるで「バベルの塔」のような部室が集まった塔で、「かみさま」の想念によっていくらでも不思議な事が起こる…というファンタスティックな設定になっています。
 主人公日高が、毎回いろいろな事件を通して「かみさま」と心を触れ合わせていく…という、かわいらしいファンタジーなのですが、終盤に出来する「かみさま」顕現の秘密をめぐる部分に関しては、かなりシリアスな雰囲気ですね。融通無碍だと思っていた「かみさま」や「部室棟未満」など、作品の世界観がちゃんと説明されるところは、ファンタジーとしてとてもよく出来ています。
 考えてみると、「思い」や「想念」によって現実が変容するという作品のメインテーマも、まるでボルヘスやダンセイニのある種の作品を思わせますね。



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伊藤潤二『ミミの怪談 完全版』(原作 木原浩勝、中山市朗 ソノラマ+コミックス)

 実話怪談集『新耳袋』のエピソードを伊藤潤二が脚色して漫画化した、ホラー漫画連作集です。
 原作は実話怪談ですが、本作では、主人公キャラとして関西弁を話す女子大生ミミが設定されており、彼女が出会う超自然現象を描く連作となっています。恐怖度よりも奇想が勝るオリジナル作品よりも、全体に恐怖度が高めの作品になっている感じでしょうか。
 中では、見るたびに背の高さが異なる黒づくめの女を描いた「隣の女」、家の前の墓地の墓石が何時の間にかずれているという「墓相」、焼身自殺した母親の霊が娘にとり憑くという「ふたりぼっち」、友人の祖父母宅の跡から発見された謎の部屋をめぐる奇談「朱の円」などを面白く読みました。
新装版で追加された短篇「お化け人形」も面白いです。
 イベント会社に勤める女性桜井は、企画を求められ、「襖の下の幽霊」なるアイディアを出します。それは子どものころ実際に体験したもので、倒れた襖の下から髪の毛が伸びており、それに触ろうとすると異様なうめき声がする、というものでした。
 事故に遭った先輩社員、竹田の断末魔の声を聞いた桜井は、それを録音し、イベントに使おうと考えますが…。
 人間の末期の悲鳴を使ったお化け屋敷イベントが異様な現象を引き起こす、というホラー作品です。ヒロインが子どもの頃の回想に出現する、襖の下に広がる黒髪というビジュアルもかなり怖いですね。



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諸星大二郎『アリスとシェラザード』(小学館)

 ロンドンに暮らすアリス・ミランダは霊媒能力を持っていました。アリスはその能力を生かし、助手のミス・ホブソンと共に、人探しの仕事を請け負っていました。しかし、持ち込まれる依頼は奇怪極まりないものばかりだったのです…。

  ロンドンで「人探し」を請け負うアリスと助手ミス・ホブソンの活躍を描いた、ファンタスティックな連作漫画短編集です。ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、女性コンビが活躍する雰囲気たっぷりのミステリ、なのですが、持ち込まれる依頼はヘンテコなものばかり、出会う事件も奇怪極まりないという作品です。殺人も頻繁に起こるなど、残酷なシーンも多いのですが、そのタッチもコミカルに描かれていて、ブラック・ユーモアたっぷりです。
 美しい女性の手に憑かれた男が起こす惨劇を描いた「ファーストネームで呼ばないで」、プリマの人形の紛失の謎を描いた「プリマの復讐」、人妻に横恋慕する男によって眼球が盗まれてしまう「眼球泥棒」、交霊会に現れる船長の幽霊の謎を描く「海から来た男」、古城に現れる首なしの幽霊の物語「首を捜す幽霊」、かって籠に閉じ込められていたという女性の霊をめぐる「紅玉の首飾りの女」、高圧的な母親から逃げて家具になりきってしまう息子の物語「椅子になった男」、足だけで猛スピードで走り回る幽霊自転車の怪を描いた「スピード大好き!」の第8話を収録しています。

 アリスが霊媒の力を使って霊的な接触で情報を得たりする一方、助手のミス・ホブソンは武闘派で、肉体的な危険をその力でしのいでいくことになります。ミス・ホブソンが「シェエラザード」という自分のファーストネームを嫌がっているという設定も楽しいですね。
 各エピソード、どれも面白いのですが、江戸川乱歩風の猟奇事件が発生する「ファーストネームで呼ばないで」、眼球が視覚を維持したまま盗まれてしまうという「眼球泥棒」、交霊会に現れる船長の幽霊を調べていくつちに、歴史的なある事件の謎を解くことになるという「海から来た男」、文字通りの「人間椅子」を描いた「椅子になった男」、自転車を禁止された少女の妄念が幽霊自転車になってしまうという「スピード大好き!」は特に面白いですね。
 中でも「海から来た男」は、実在の有名な事件の謎解きになっていて、読んでいて驚きがあります。



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ボウツ ハルミ『アザレア 新四谷怪談』(ニチブンコミックス)

 帰宅した田宮優也は怯えていました。家に入ると、新婚の妻、愛衣が夕食の支度をしています。しかし、愛衣は数日前に優也によって殺されたはずなのです。何事もなかったかのように、夫に愛情を向けてくる愛衣に恐怖を感じる優也でしたが…。

 殺したはずの妻の霊に執着され続ける夫の恐怖を描いたホラーコミック作品です。
 四谷怪談に材を取っており、毒を飲まされて醜く変貌した末に殺される…というところは、そのまま使われているのですが、殺されてしまう愛衣が、生前から強力な超能力者(霊能力者?)だった、というユニークなアレンジがなされています。
 その危険な能力から逃れるために、結果として妻を殺してしまった、という形なので、夫が妻への愛情を失ったわけではない…というところがポイントですね。
 その能力がすさましく、死後も夫への愛情から、人間の形を取って現れ続ける、というあたりも非常に怖いです。
 後半では、愛衣に対抗する力を持つ能力者も登場するのですが、そちらの人物との霊能力合戦はヴィジュアル的にも強烈なインパクトがありますね。
 タイトルにもあるように、毒を持つ花アザレアが、メインモチーフとして上手く使われています。最初と最後にアザレアのシーンが登場しますが、その意味するところが違ってくる…というのも見事です。
 夫に執着する妻の霊が登場する「ゴースト・ストーリー」ではあるのですが、この妻の力が強力過ぎて、ほとんど「モンスター・ホラー」に近い味わいの作品になっています。霊能力者同士の戦いが描かれる部分にはオカルト風味も強く、古典を題材にしながらも、新しい感覚の「モダン・ホラー」といってよい作品になっているように思います。



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模造クリスタル『スターイーター』(イースト・プレス)

 四篇を収録した漫画短篇集です。お菓子好きの魔女の少女と、彼女がお菓子から作り出したゴーレムの少女との日常を描いた「カウルドロンバブル毒物店」、根暗な少女が友だちになった人間嫌いの少女は魔女の卵だったという「スターイーター」、ダンジョンの地下で暮らす、本好きなアリのモンスターの少女が人間の冒険者と出会う「ザークのダンジョン」、勇者見習いの少年が友人のワイバーンを助けるため、伝説のドラゴン、ネムルテインの封印を解くという「ネムルテインの冒険」の四篇を収録しています。
 ユーモアと哀愁が一体となった、独自の作風のファンタジー漫画集です。異世界やファンタジー世界を舞台にした、いわゆるハイ・ファンタジー的な作品が多くなっています。

「カウルドロンバブル毒物店」
 お菓子好きの魔女の少女ウェザリンは、祖母に相談した結果、手伝いとしてお菓子からゴーレムを作り出すことになります。魔法によって生まれたのは、お菓子のゴーレムの少女インゴッドでした。しかしインゴットは役に立つどころか、迷惑ばかりかける厄介者だったのです…。
 やっかい者ながら愛嬌のあるゴーレムの少女と主人公少女との日常を描いたスラップスティックなファンタジーです。ゴーレムの少女インゴットが主人のことを「ボス」と呼ぶのが楽しいですね。

「スターイーター」
 根暗な少女きりんは、ひきこもりの友人と出会うために意を決して出かけますが、結局相手に会えず、町をうろつくことになります。たまたま出くわした声優のオーディションで引っ張り込まれてしまい、無理やり手伝わされてしまいます。少しやる気のでたきりんは、学校で人嫌いの少女不安に話しかけ、友人になりますが…。
 現実世界を舞台にした、根暗な少女の日常を描いた作品かと思いきや、突然現れるファンタスティックな要素にびっくりします。単純なハッピーエンドにならず、哀愁を帯びたラストには味わいがありますね。

「ザークのダンジョン」
 ダンジョンに住むアリ型モンスターの少女が主人公。一族は数千年前に行方不明になったクイーンの神殿を探し続けていました。本好きの少女は地表に憧れていましたが、ある日ダンジョン内で空腹で動けなくなっている人間の冒険者アーリエと友人になります。
やがて捕まってしまったアーリエを逃がそうとしますが…。
 アリ型モンスターの少女が人間との出会いをきっかけに、地表を目指すというファンタジーです。モンスターの一族の社会の詳細が描かれている部分が興味深く読めますね。
彼らの社会では、本が非常に高い価値を持つ品物になっており、物々交換の基準になっている…というのも面白いところです。

「ネムルテインの冒険」
 邪悪なドラゴンから、友人のワイバーン、キリによって逃がされた勇者見習いの少年サグテ。キリを助けに向かうために、伝説のドラゴン、ネムルテインの封印を解き、彼女の力を借りながら冒険をすることになりますが…。
 様々なドラゴンが登場するという、集中でも一番ファンタジーらしい異世界ファンタジーです。主人公サグテのパートナーとなるネムルテインがメスのドラゴンで、ちょっと嫉妬深いところが微笑ましいですね。

 この著者、人間のキャラクターも可愛らしいのですが、モンスターやドラゴンなどの、人外のキャラクターの造形も可愛らしく、愛嬌がありますね。「カウルドロンバブル毒物店」に登場するゴーレムのキャラクターも破天荒で魅力があります。



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曽祢まさこ『魔女に白い花束を』(講談社漫画文庫)

 17世紀初頭、オーストリアの山間にある小さな村トリーゼンベルク。そこに流れ着いたルチアとその娘グレートリは、村の中でも裕福なシュテース家の世話になることになります。しかし、ルチアは魔女狩りの汚名を着せられて処刑されてしまいます。
 成長したグレートリは、シュテース家の長男アロイスに恋心を抱き、アロイスもまたグレートリを愛するようになっていました。一方、ヨス=リュディは自分の娘スティーナとアロイスを結婚させたい旨を、アロイスの父ヤーコプに持ち掛け、ヤーコプもそれに賛成します。ふとしたことから、グレートリがアロイスを愛していることを知ったスティーナは、自分の結婚を邪魔する者としてグレートリを憎み、彼女が魔女だという噂を広めようとしますが…。

 マリアンヌ・マイドルフ『魔女グレートリ』(牧神社)を原作としたコミックで、魔女狩りに巻き込まれた少女の悲劇を描いたゴシック・ロマンス作品です。母親を魔女狩りで殺された少女が、自らも魔女狩りの犠牲になってしまう…という徹底して悲劇的な作品です。
 もともと邪心を持っている人間だけでなく、本来善人であるはずの人々も、結果的に魔女狩りに加担していってしまう、というあたりも怖いですね。
 グレートリの養父母である善人のシュテース夫婦も周囲の行動を止めることができず、かってグレートリが助けた若伯爵の助けも間に合わない、と、ことごとくが間の悪い方向に向かっていってしまう展開には、悪い意味でのハラハラドキドキ感もあります。
 ただ互いを思いやっていただけの少年少女が、時代と周囲の状況に翻弄されてしまうという悲劇作品となっています。グレートリはもちろん、その恋人アロイス、そして密告者となったスティーナも、誰一人幸せにはならない…という点で、後味は非常に悪い作品なのですが、そのシンプルな物語設定には人を惹きつける魅力がありますね。
 原作である『魔女グレートリ』のストーリーにかなり忠実に描かれた作品なのですが、この漫画版では、さらに悲劇的な展開が付け加えられており、小説版にも増して救いのない作品になっているのは凄いです



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犬のかがやき『犬のかがやき日記』(KADOKAWA)

 奇想に溢れた「エッセイ漫画」集です。著者のtwitterアカウントにて公開されていた作品を集めたエッセイ漫画なのですが、その発想や展開が異次元の領域で、その読後感はSFやファンタジーに近い、という異色の漫画作品です。
 主人公は、大体、作者自身(?)のお団子頭の女性(?)です。「エッセイ漫画」らしく、日常の何気ないシーンから始まるパターンが多いのですが、それが日常のレベル内で終わることは少なく、非現実的・空想的、場合によっては形而上学的なラストを迎えることもあり、読んでいて唖然としてしまいます。
 同時に二つの行為をすることに快感を覚えた著者が、それを繰り返した結果「解脱」に至る話だとか、手足を身に付けたカニがブラック企業に勤めて幸せを感じる話、二日酔いの際に祈る神の造形を考えた結果、その神が広まってしまう話、犬の概念が広くなった結果、いろいろなものが「犬化」してしまう話など、どうやったらこんな発想が出てくるんだ、というお話が盛りだくさんです。
 日常の気づきをテーマにした、普通の「エッセイ漫画」ももちろんあって、こちらはこちらで面白いです。自転車が盗まれないように「呪いの箱」を作って取りつける話とか、果物を切って「トータル・リコール風盛り合わせ」を作る話などは抱腹絶倒ですね。



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津川智宏『人魚町』

 夢テーマの短編マンガを集めた作品集です。唐突さや理不尽さなど、夢の不条理性を強く出しながらも、物語としての面白さを失わないところが、非常にバランスのいい作品集だと思います。
 かって住んでいたアパートの外で野次馬が車を燃やしているという「野次馬たち」、家族と共に訪れたダムで異様な生き物を目撃する「夜のダム」、化け物に追われ娘と共に逃亡するという「黒い手」、不思議なリモコンによってさまざまな部屋に転移し続けるという「ハニカム」、異国で起きた耳の痛みから不思議な現象が起こるという「籠の虜」、海賊から王女を救った主人公が奇妙な体験をする「シンバの城」、温泉町の宿を訪れた男の奇談「人魚町」、名探偵の死をめぐる「訃報」、地下街の中の昭和の香りのする不思議な町を描いた「地図に無い町」を収録しています。
 夢がテーマになっているだけに、主人公が突然不条理な状況に追い込まれたり、理不尽な事件に遭遇する…というシチュエーションは共通していますが、読んでいて、どこか「ミステリーゾーン」であるとか<異色作家短篇集>に似た味わいが感じられる奇談集となっています。
 「地図に無い町」は、地下街の中にできている町に入り込んだ主人公が不思議なノスタルジーを覚える、というお話なのですが、作中でフィリップ・K・ディックの幻想短編「地図のない町」が言及されたりもします。タイトルにせよ、ディックへのオマージュ的な要素もあるようですね。
 どれも面白く読みましたが、個人的にいちばんお気に入りのお話は「ハニカム」でしょうか。奇妙なリモコンによって様々な部屋を空間移動できる主人公が、部屋を移動しているうちに同じように転移を繰り返している男に出会う、という物語。短めのお話ながら、すごく魅力的な世界観を構築していますね。
 あと「野次馬たち」は、不条理ホラーとして非常に怖い作品です。かって住んでいたアパートを訪れた主人公は、その部屋に弟が住んでいるのを見つけ驚きます。弟に言われて、自分が弟を置いて10年も自分が行方知れずだったということに気づくのです。鍋を食べ始めるものの、そこには肉は入っておらず、弟は肉を持ってくると言い出しますが、外は危険だと言い残して出かけてしまいます…。
 不条理な展開が怖い作品です。野次馬たちが外で燃やしているものの正体や謎の女の存在など、その背景を想像させるところも魅力的ですね。



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津川智宏『イチモンジ1』

 イチとモンジのコンビが、様々なトラブルに遭遇するという冒険アクション作品です。
 別次元の高度な技術で作られたロボットであるイチと、鬼の力を持つもんじが活躍する作品です。互いに頼りなく見える二人が、実はものすごい強さを持っており、いざというときにその力を発揮する…というのが爽快です。敵も化物だったり妖怪だったりとバラエティ豊か。
 作品の背景となる世界観も独特で魅力的です。どこかレトロな街並みの中にも妙にハイテク(?)な機械が登場します。マンガのコマの背景がディテール豊かに描かれているので、一つ一つのコマの背景を眺めているだけでも楽しめます。
 お気に入りのエピソードは、振り袖の中のお菓子の国の工場に子どもたちが囚われてしまうという「ペーロの工場のまき」でしょうか。世界観にせよキャラクターにせよ、物凄く密度が詰まったマンガ作品で、これはお勧めです。



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津川智宏『昔むかし怪し』
 昔話風に語られるオリジナルな時代劇で、不思議で怪しい雰囲気がたまりません。
 山奥の寺に泊まることになった商人がそこに現れた奇怪な老人と酒の飲み比べをするという「亜門の酒甕」、追われていた辻斬りがかって殺めた死者たちの世界に迷い込む「命路」、愛犬の魂を取り戻すため地獄に入り込んだ百姓を描いた「亡者の国さがし」、姫をさらった化物を倒すため自らも秘薬で半分化物になった男を描く「剣巌山の化物」、茶屋のばあさんを助けるため死神に対して策略をしかける商人の物語「食わんかこんにゃく団子」、山で遭難した猟師がヒヒ退治をすることになる「源作岳の一夜」、やっかい者たちの家に現れた巨大な男と賭けをすることになるという「賽の目くだり」を収録しています。
 どの短篇も作りこみがすごくて密度が濃いです。「亜門の酒甕」「亡者の国さがし」「食わんかこんにゃく団子」などはユーモアの要素も濃く楽しい作品になっている一方、「命路」「賽の目くだり」などは、恐怖度の高いホラー短篇になっていますね。
 一番面白く読んだのは「賽の目くだり」でしょうか。やっかい者の四人の男が集まっていた小さな小屋。鍋を作っていると、そこに図体の巨大な男が突然現れます。四九郎と名乗る男は、一晩小屋に置いてくれないかと話します。彼をカモにして金を巻き上げようと考えた男たちは、四九郎を受け入れます。持っていた小判を次々と巻き上げますが、四九郎は奇妙な賭けをしようと提案してきます。それは、さいころがゾロ目になったら獣の面をかぶっていき、最後に残って「人」のままの者が総取りするという賭けでした…。
 現れた巨体の男が妖怪的な存在だとは予想がつくのですが、思いもかけない方向への展開が魅力的です。



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津川智宏『ネムリインターチェンジ』
 昼と夜、生と死、過去と未来の境界線にあるインターチェンジで、相棒の「ごん」と共に働く女性ネムリ。そこを訪れるのは車ではなく、訳ありの人物ばかりでした…。

 この世とあの世の境界線であるらしいインターチェンジで働くネムリが出会う不思議なエピソードを描く連作マンガ短篇集です。
 狩人に追われるキツネの兄弟を描く「走れアオ」、年老い書けなくなったミステリー作家とその編集者を描く「岬のグラハム」、世話をしていた子どもを待ち続ける子守りロボットの物語「偉大なるゲーリー」、かって一世を風靡しながら駄目になってしまった人気漫画家が、自ら創作した登場人物たちと共に現れる「ロックス大戦」、特殊能力を持つがゆえに追われ続ける三人の老婦人を描いた「ヴランコの淑女」、死んだ男に追われる保安官を描いた「荒地のレトロ」、息子のために村人たちから体の一部を奪った医者が復讐されそうになるという「ドミノの子ら」、幽体離脱下乗除がインターチェンジに現れる「計諱子の夜」、弟子と共に火事で焼け死んでしまった落語家の物語「燕わたる」、ネムリがインターチェンジの管理人になる原因となった出来事を描く「ネムリとオコリ」の10篇を収録しています。
 ネムリの元に現れるのは、様々な人種と時代の人間。ときにはロボットや人外のものまでも現れます。特殊な能力を持つらしいネムリと相棒のごんが、彼らを手助けすることになります。
 境界線を越え「死後の世界」に送り出すこともあるし、「生の世界」へ送り返すこともありと、彼らの「人間模様」(人間でないものもいますが)が味わい深く描かれていくところが魅力でしょうか。
 ネムリの先輩であるらしい男性オコリも登場し、彼らの関係性がエピソードを通して徐々に明かされていく部分もミステリアスですね。
 個人的に気に入ったのは、特殊能力を持っているがため、何十年も追われ続けているという三人の老婦人を描いた「ヴランコの淑女」、息子の体を直すために、村人たちから体の一部を奪った医者が描かれる「ドミノの子ら」の二篇でしょうか。
 「ヴランコの淑女」は、その特殊能力が軍事目的で使われていた女性たちが逃げ出すという、リチャード・マシスンの短篇「魔女戦線」『運命のボタン』ハヤカワ文庫NV 収録)を思わせるお話でした。
 「ドミノの子ら」は、息子の体を直すために、村人たちから体の一部を奪った医者が描かれ、いわゆる「マッド・サイエンティストもの」かと思いきや、意外な展開で驚かされます。「夢見るものと夢見られるもの」のバリエーションとも取れる作品でしょうか。


最近読んだ本(ヴィジュアル本・マンガ作品中心に)

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海野弘監修『知られざるアメリカの女性挿絵画家 ヴァージニア・ステレット』(マール社)

 夭折したアメリカの女性挿絵画家ヴァージニア・フランシス・ステレット(1900-1930)の作品を集めた世界初の画集です。
 カイ・ニールセンやエドマンド・デュラックの影響を受けたそうで、もちろん彼らの影響も感じますが、日本と中国と中東を合わせたような不思議なオリエンタル風味がところどころに現れており、大変魅力的な画風となっています。
 このステレット、30歳そこそこで亡くなっており、残した挿絵本は三冊のみ。『フランスの古いおとぎ話』(セギュール夫人作)、『タングルウッド物語』(ナサニエル・ホーソン作)、『アラビアン・ナイト』の三冊です。どれも魅力的ですが、独特の東洋描写が目立つ『アラビアン・ナイト』は特に面白いですね。
 浮世絵風というかジャポニスム風というか、日本風のデザインや、中国的な『アラビアン・ナイト』などには独特の魅力があります。
 挿絵本に掲載された挿絵やその物語の紹介、ステレットの画風についての解説などのほか、当時のアメリカの画壇、イラストレーション市場や文学作品の解説など、ステレット本人だけでなく、彼女を取り巻く状況についての文章も多く掲載されており、大変参考になる本でした。
 ステレットに関しては、30年以上前から荒俣宏さんがところどころで紹介されていました。<妖精文庫>の月報などでも紹介されていた覚えがあります。この人の絵をまとめて見てみたいものだと以前から思っていたので、今回の画集の刊行はとても嬉しいものでした。
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海野弘監修『流線の挿絵画家 ジェシー・キング』(マール社)

 スコットランド出身の画家ジェシー・マリオン・キング(1875-1949)の作品を集めた画集です。
 繊細でたおやかな画風が特徴の画家なのですが、生涯を通して画風も変遷しており、画集を通して見ていくと、その違いが分かるのも面白いですね。
 人物像では横顔が多く、フラットな画面構成は、ビアズリーやジャポニスムの影響もあるとか。彼女に強く影響を与えたと言われているのが、チャールズ・レニー・マッキントッシュ(1868-1928年)率いるグラスゴー派。
 グラスゴー派の人たちは当時、お化けのようなスタイルだと揶揄されたこともあると聞くと、その影響関係にもなるほど、という感じがします。グラスゴー派は、作風的にはケルト的なアール・ヌーヴォーといった感じのようです。
 初期の繊細な描線スタイルに対して、後期になるにしたがって自由闊達、明朗で楽しい画風になっていくのも面白いところです。こちらはこちらで魅力的です。
 どの作品も良いのですが、旧約聖書のエピソードをテーマにした「幸福の七日間」は淡い色彩が効果を挙げていて素晴らしい出来になっていますね。
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『チャールズ・レニー・マッキントッシュとグラスゴー・スタイル』

 2000~2001年に開催されたグラスゴー派の展覧会の図録です。この前ジェシー・キングの画集を読み、彼女が影響を受けた流派ということで気になって購入してみました。
 有名な総合デザイナー、マッキントッシュを中心に、彼を含む四人のグループ「ザ・フォー」の作品、また影響を受けた後進の作家たちの作品が掲載されています。
 さっそく眺めてみたのですが、一番いいなと思ったのは、マーガレットとフランシスのマクドナルド姉妹の作品。特にフランシスの作品は幻想的で魅力がありますね。ちなみに図録の表紙の絵はマーガレットの作品《海のオペラ》。こちらも魅力があります。
 ジェシー・キングの作品もいくつか紹介されていました。下の写真は、ジェシー・キングがデザインしたというジュエリー作品。
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トム・ゴールド『月の番人』(古屋美登里訳 亜紀書房)

 主人公は月のコロニーの安全を守るために常駐する警察官。しかし町の過疎化は進んでいました。人間の姿は少なくなり、設備はどんどんと自動化されていました。数少ない知り合いたちも次々と地球に戻ってしまい、孤独感を抱える警察官でしたが…。

 過疎化の進む月面の町で、パトロールを続ける警官の姿を、哀感と共に描いたコミック作品です。事件らしい事件は起きず、ただ警官が町をパトロールする日常が描かれていくという、静かな雰囲気の作品です。著者のシンプルな描線とも相まって、主人公の警官が何を考えているのか、はっきりとは示されないのですが、逆にそのシンプルさから孤独感や寂寥感を感じられます。
 主人公の警官は、次々と地球に帰還する人々に別れを告げ、自らも転属願を出すものの、それは受理されません。月の美しさには感嘆するものの、孤独感を抱え続ける警官は、同じく月の情景を愛する女性と出会います。二人に恋が芽生えるのかといったところは触れず、あくまで静かに二人が共に過ごす時間が静寂と共に描かれる部分には、哀感が感じられてすごく良いですね。
 描かれる月の町の設備やコンピュータ、ロボットたちが妙にアナログに造形されているのにも味があります。主人公が使うコンピュータが妙に古臭かったり、派遣されてきたロボットの充電がすぐ切れて壊れてしまったりするところにも、軽妙なユーモアがあります。
 全体に哀感の溢れる作品なのですが、上記のようなユーモアがところどころにあって「深刻」な感じにはならないところも好感触です。ところどころに「余韻」があって、読む人それぞれの感想が出てくるような、懐の広い作品だと思います。



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トム・ゴールド『木のロボットと丸太のおひめさまのだいぼうけん』(金原瑞人訳 ほるぷ出版)

 なかよく国をおさめていた、王さまとおきさきさま。子どもを願う二人は、それぞれ、はつめい家とまじょのもとを訪ねます。はつめい家は歯車のつまった木のロボットを、まじょは丸太にまほうでいのちを吹き込み、丸太のおひめさまを作ります。
 家族となった四人は幸せに暮らしていましたが、ある日ある理由からおひめさまが失踪してしまい、兄の木のロボットはおひめさまを探しに旅に出ることになります…。

 それぞれ木を元に作られたロボットとおひめさまの兄妹。失踪してしまったおひめさまを探しにロボットが旅に出るという物語です。最初はロボットが捜索に出かけることになりますが、後半では倒れてしまったロボットをおひめさまが助けることになります。
 また、二人ともがピンチに陥った際には、ロボットが助けていたある存在によって救われることにもなり、思いやりと愛情が皆を助けることになる…という暖かいテーマの作品となっています。
 著者のゴールド、もともとシンプルな描線を得意とする作家ですが、この絵本では、鮮やかなカラーリングとも相まって、その描線の可愛らしさが最高度に発揮されています。
 木のロボットと丸太のおひめさま、それぞれの紹介シーンや活躍するシーンが、シンメトリカルに構成されているのも洒落ています。愛らしさと暖かさに包まれたファンタジー作品です。



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ジョン・サウスワース著、デイヴィッド・ウィメット絵『夜の白昼夢』(柴田元幸訳 飛鳥新社)

 独特のイラストと共に、ごく短い物語が集められた掌篇物語集です。
 カボチャの舟に乗った少女と大男の冒険を描く「ビッグ・ルーとリトル・ルイーズの冒険」、初めてスイカを食べた漁師の物語「漁師フィンガスと最初のスイカ」、ある日頭からヒマワリを生やした図書館長を描いた「図書館長ハリー」、クッキーを売るガールスカウトの少女の不思議な体験を描く「ガールスカウト・クッキー」、ローンボウリングをやるために集まる老婦人たちの奇妙な物語「秘密ローンボウリング協会」、月へ行く鉄道を描いた「月へ行く鉄道」、ある日突然、裏庭に観覧車を置かれてしまった男を描く「裏庭に観覧車を置いていた変な男」、雨を死ぬほど怖がる木で出来た男の子の物語「木で出来た男の子」、妖精たちの国歌を歌う「小さな女の子たち」、八歳にして白髪になってしまった男の子の物語「白髪の男の子」、水族館の夜間警備員の男を描いた「水族館の夜」、遠くの丘に住む憂鬱な鯨の物語「遠くの丘に住んだ鯨」、象が描かれた魔法の箱を持つ元煉瓦職人を描く「象が描かれた魔法の箱」の十三篇を収録しています。
 全ての物語が一ページ以内に収められるため、十分お話が展開する前に終わってしまいます。というか、もともと作者に物語を小さくまとめてしまう意図はないようで、中途半端に途切れてしまうことが多いのですが、逆に物語のその後を想像させるような楽しみがありますね。
 例えば、「ガールスカウト・クッキー」では、元気溌剌だった少女がある体験を機に三年間も引きこもってしまうことになるのですが、彼女に何があったのかは語られません。また「秘密ローンボウリング協会」では、裸の老婦人たちが現れ泳ぐのですが、それが何のためなのかも分かりません。
 「象が描かれた魔法の箱」では、魔法の箱が登場しますが、その魔法が何なのかも語られず、さらに描かれた象の絵の意味も分からないという、何ともナンセンスなストーリーになっています。
 どれもこれも、ナンセンスでシュールなストーリーなのですが、幻想的でユーモラスなデイヴィッド・ウイメットの絵とも相まって、独特の味わいが出ていますね。比喩的・象徴的な表現も多く、大人の味わいの絵本といえます。



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ペーター・ヴァン・デン・エンデ『旅する小舟』(岸本佐知子解説 求龍堂)

 二人の謎の男によって紙で折られ、海に押し出された小舟は、大海原を超えていき、様々な冒険を繰り広げることになります…。

 ベルギーの作家ヴァン・デン・エンデによる絵本作品です。文字が全くなく、絵だけで展開されるという異色の絵本です。
 紙の小舟が大海原を超えていき、様々な出来事や生き物たちに出会うという物語なのですが、登場する事物や生き物が、どれも幻想的かつ奇怪な造形を持っているのが特徴です。
 小舟が行く海の背景に様々な生き物たちが登場していきますが、最初は、風変わりながら、おとなしめだった魚や海の生き物たちが、あっという間に奇怪な生物群となり、やがては人とも動物とも思えない奇怪な「怪物」も現れます。そもそも、小舟を作った人物の一人は「悪魔」のような異形の姿をしており、そのあたりの説明もされないので、いろいろと想像力をそそる形になっています。
 説明がされないといえば、この物語の世界観も奇妙極っていますね。建物や機械などがファンタスティックな造形をされているのもそうですし、人間に近い形をした海の生物が登場したり、クジラのような生物がどうやら人間の仕事を手伝ったりもしているようです。石油プラントのようなものがあり、そこでは人型ロボットが働いてもいるようなのです。
 異形の怪物たちが徘徊する一方で、科学や技術はかなり進んでいる節が見えるなど、一筋縄ではいかない世界観となっていますね。
 「主人公」となる小舟の冒険も見逃せません。セリフも説明も全くありませんが、その行動で雄弁に語ってくれます。海の生き物を仲間のもとに連れていったり、脱出したロボットを救ったり、善行を繰り返すのみならず、様々なトラブルに遭遇しながらもなんとか生き延びて海を進んでいきます。
 一枚一枚の絵に細密に描きこまれた情報量が非常に多く、いろいろと眺めているだけで発見がありますね。現れる生物や建物・機械などの造形を見ているだけでも飽きさせません。
 謎に満ちた世界観、そして小舟がいったいどこに向かうのか?といったサスペンス味もありますね。ショーン・タンと比較する向きもあるようですが、タン作品に比べ、ヴァン・デン・エンデ作品では、幻想的な世界観構築が重視されているように感じます。神秘的な世界観と、奇怪でありながらもどこかユーモラスでもある異形の生物たち。異色のファンタジー絵本として素晴らしい作品となっています。
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マリー・ドルレアン『夜をあるく』(よしいかずみ訳 BL出版)

 真夜中に、母親に起こされた二人の姉弟。両親を含めた四人の家族は暗い夜の中、外に出かけます。夜の町を通り、山の中へと入っていきますが…。

 フランスの作家マリー・ドルレアンによる、「夜」をテーマにした美しい絵本作品です。真夜中に家を出て、山の方角に向かう家族たちの夜の旅路を描いています。夜だけに、外はほぼ真っ暗な状態で、絵も青みを帯びた暗いトーンで構成されているのですが、ところどころで登場する「光」や「明かり」が、逆に強調されてインパクトを与える形になっています。
部屋のライト、街灯、ホテルの窓から漏れる光、鉄道の光、懐中電灯、そして月光…。かすかな光と画面の大部分を覆う闇とが対比的に描かれており、そのコントラストが美しさを感じさせます。
最終的に夜が明けることになるのですが、それを表す最終ページの表現も大胆極まりなく、驚かされてしまいます。お話そのものはシンプルながら、その卓越した表現技法で魅せる絵本となっています。
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デイヴィッド・ウィーズナー『ロボベイビー』(金原 瑞人訳 BL出版)

 父親のラグナット、母親のダイオード、娘のキャシー、三人のロボットの家族の元に、赤ん坊ロボットのフランジのパーツが入った箱が届きます。ダイオードはフランジを組み立てますが、上手く組み立てられません。兄のマニホルドを呼んで組み立ててもらいますが、マニホルドはマニュアル通りに組み立てず、勝手な改良を加えていました。起動したフランジは暴走を始め、大騒ぎになってしまいます…。

 ロボットの家族の元にやってきた赤ちゃんロボットの組み立てをめぐって、騒動が起こるというユーモラスな作品です。
 マニュアル通りに組み立てずに勝手な改良を加えたため、赤ん坊が暴走してしまいます。改造された赤ちゃんロボットの造形はもちろん、家族たちや周囲のロボットたちがそれぞれユニークな造形をされていて、飽きずに楽しめるようになっています。
 とにかくディテールがよく出来ていて、近所の人が持ってきた食事が「さびスープ」や「歯車のオイルづけ」というところも笑ってしまいます。
 家族のペットとして、人型でないロボットが飼われていたりするのですが、赤ん坊ロボットとの違いは何なのか考えると分からなくなってくるあたりも面白いですね。
全体に、ロボットや機械の造形がデフォルメの効いたレトロ風なのも味わいがあります。 絵の中の吹き出しにセリフが書き込まれているコミック形式で描かれているので、マンガ感覚で読める作品になっています。



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イバン・バレネチェア『ボンバストゥス博士の世にも不思議な植物図鑑』(宇野和美訳 西村書店)

 架空の不思議な植物を紹介した図鑑、という体裁のファンタスティックな絵本作品です。200年前、植物学者にして自然哲学博士のボンバストゥス・ドゥルシメールが作った植物図鑑、という体裁で描かれた絵本作品です。
 架空の植物がいろいろと紹介されていくのですが、面白いのは、これらの植物が品種改良によって作り出された…とされているところ。
 植物たちは、人間の役に立つように作られた実用的なものになっているのが特徴です。神殿の柱のような外見を持つ「柱アカンサス」、迷路のように伸びる「迷路ヒバ」、音感の強い「音楽フランスギク」、木が階段状になった「階段リンゴ」、空に浮かぶ「気球洋ナシ」など、多種多様な植物が紹介されます。
 実用性の高い植物に交じって、なぜこんなものが?というナンセンスな植物も紹介されるのが楽しいところですね。
 絵柄はデフォルメの効いたユーモラスなタッチなのですが、絵そのものは細密です。主題となる植物だけでなく、それに関わる人物や背景となる建物などに関しても、細かいところまでが丁寧に描かれているので、見るたびに新たな発見があり、飽きさせません。
 ちなみに、イバン・バレネチェアはスペインの作家とのこと。
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スヴェータ・ドーロシェヴァ『妖精たちが見たふしぎな人間世界』(竪山洋子訳 マール社)

 妖精たちが、架空の生き物「人間」とその世界について、文章とイラストで報告したという体裁の幻想イラストレーション画集です。
 妖精界では「人間」が架空の生き物とされており、その実在について疑問視されていた…という、人間と妖精との関係を逆転させた、面白い設定の本です。実際に人間界を訪れた妖精が(中には想像だけで書いた人物もいるようですが)、人間と彼らが住む世界について文章と絵で報告した文書が複数まとめられています。ただ、その報告には多分に想像と誇張が混じっていて、奇想天外、頓珍漢なものばかりになっているのです。
 人間の体の構造、生活や文化、言語など、様々な側面から、妖精から見た人間像が語られますが、それらが美麗なイラストで紹介されていきます。人間だけでなく、報告者となる妖精の紹介もなされるのですが、こちらは主にフルカラーのイラストレーションで描かれており、見応えがありますね。
 作者はウクライナ出身、現在イスラエルを拠点に活動している人です。カイ・ニールセン、エドマンド・デュラック、ジョルジュ・バルビエなどの影響を受けているそうです。200ページ以上ある本ですが、ほぼ全てのページにイラストが入れられています。内容の面白さもさることながら、美麗な幻想画集としても楽しめる本になっています。
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平松洋『ラファエル前派の世界』(KADOKAWA)

 イギリスの<ラファエル前派>についてまとめられた本です。具体的な絵画作品が多く収録されていて画集として楽しめると同時に、歴史や人間関係、作風などについての解説がついていて、勉強にもなりますね。
 影響を受けた先行画家、流派に属してはいないものの作風的には影響を受けている作品など、広く関連作品を紹介しているのも特徴です。分かりにくい人間関係をまとめた「人物相関図」も参考になりますが、恋愛関係のみをまとめた「恋愛相関図」はユニークな試みですね。
 <ラファエル前派>の呼び方や、定義上どこまでを包含するのかといったところから、その歴史、作風の変遷、影響関係など、要所でポイントを抑えた解説です。この派に関する本で、これほど分かりやすい本は初めて読みました。幻想・文学的なモチーフも多い流派なので、幻想文学ファンにもお勧めです。
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北村みなみ『グッバイ・ハロー・ワールド』(rn press)

 テクノロジーや他惑星への移住などを通して変化した、未来の人類の様々なシーンを描くSFマンガ短篇集です。軽やかな筆致ながら、いろいろな問題提起が含まれた、密度の濃い作品集になっています。
 地球から3000光年彼方の星で人類最後の一人となった少女の生活を描く「3000光年彼方より」、毒性のウイルスが蔓延する星でドームの中の生活に疑問を抱いて外に飛び出した少女の物語「さいごのユートピア」、自信に満ちた女性が、自らの人生の選択が全て脳に埋め込まれたチップによるものではないかと悩む「点滅するゴースト」、AR技術が普及した世界で、初めて生身のクラスメイトに出会う少女を描く「サマタイム・ダイアリー」、地球の異常気象に適応するため、蓄電と電脳化の能力を手に入れ変容した人類の物語「終末の星」、安楽死が認められた社会で、難病の夫の安楽死を見届けた妻が自葬パーティーを開くという「幸せな結末」、伝染病を避けるために生涯を部屋の中で過ごし、小型機械で意識だけを外に飛ばす社会を描いた「リトルワールドストレンジャー」、有害物質を除去する仕事に就いた男性に、物質を分解するために飲んでいた細菌と一体化した赤ん坊が生まれるという「来るべき世界」、男性同士のカップルが、電子上で成長する仮想の子どもを育てるという「夢見る電子信号」の9篇を収録しています。
 軽やかでユーモアたっぷりに描かれるマンガ作品集なのですが、それぞれのエピソードに埋め込まれた問題意識はシリアスです。実現された高度なテクノロジーや、他惑星への移住、人類の身体そのものの進化など、SF的な設定・枠組みを使うことによって、いろいろと考えさせる視点が生み出されています。
 例えば、次のような問題提起がなされています。
・人類の最後の一人になったとき、その人間は何をすれば幸福になれるのか?
・人生の選択を肩代わりするコンピューターチップが脳に埋め込まれた人間は、本当に自らの意思で人生を選択しているのか?
・AR技術が発展した世界で、生身の肉体で動くことの意味とは?
・汚染された世界で、その世界に適応した新人類が生まれたとき、旧人類は滅ぶべきなのか?
・仮想空間で育った人工知能は本物の人間といえるのか?
 各エピソードの読み味はほとんど「ハードSF」で、まるでグレッグ・イーガンの作品でも読んでいるよう。それでいて、シンプルで読みやすい物語になっているのが魅力ですね。



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石ノ森章太郎『石ノ森章太郎コレクション 初期少女マンガ傑作選』(ちくま文庫)

 著者の少女マンガ作品からの傑作選です。SF、ファンタジー、ホラー的な味わいのある作品が多く収められています。
 月の魔法により体の小さくなった少女が動けるようになった人形たちと触れ合うという「青い月の夜」、会うたびに成長していく少女に恋した青年漫画家を描く「きのうはもうこない だが あすもまた…」、龍神が崇拝される村でたたりのような出来事が相次ぐという「龍神沼」、幼い子どもたちの家庭教師になった娘が、その家の主人の災難に巻き込まれる「夜は千の目をもっている」、吸血鬼になってしまった娘の人生を三つの時代を通して描く「きりとばらとほしと」、買い取った野良犬が天使だと信じる少女とその周囲の人たちを描く「あかんべぇ天使」、漫画家志望の少女が描いたマンガに作者自身が現れ指導するという、メタフィクショナルな「MYフレンド」を収録しています。
 初期に描かれた少女マンガを集めた傑作集ですが、この時点で、構図やレイアウトなどが完成されていて驚きますね。物語もSF・ファンタジー・ホラーといった、ジャンル小説的な要素を盛り込んでいて、単調になっていません。
 特に印象に残ったのは「きのうはもうこない だが あすもまた…」「きりとばらとほしと」
 「きのうはもうこない だが あすもまた…」は、ロバート・ネイサンの小説『ジェニーの肖像』(もしくは映画版)から影響を受けたと思しい作品です。
 売れない青年漫画家の水島健二は、出会った幼い少女ミミと友達になります。出会うたびに急激なスピードで成長していく彼女を不思議に思うものの、健二はミミに惹かれていきます。彼女はフランス大使の娘だというのですが、大使には娘などいないというのです。またミミがくれた薬は、空腹を解消してくれる不思議な薬でした…。
 短期間にどんどん成長する少女というテーマは、『ジェニーの肖像』に影響を受けていると思しいのですが、石ノ森作品では、この少女の秘密を合理的に説明しているため、SF作品としての印象が強くなっています。
 悲恋に終わるのは、インスピレーション元と同様ですが、いろいろと作者自身のアレンジが加えられて、完成度の高い作品になっていますね。
 「きりとばらとほしと」は、吸血鬼になってしまった少女をめぐるオムニバス・ストーリー。萩尾望都の『ポーの一族』はこの作品に影響を受けているとか。
 少女リリが住む屋敷では、馬車の事故で気絶した娘ミラーカを預かることになります。ラミーカは吸血鬼でした。彼女に噛まれたリリも吸血鬼となり、不死の体になってしまいます…。
 吸血鬼となった娘リリの人生を、過去・現在・未来のオムニバスで描くストーリーとなっています。
 第一部はレ・ファニュ「カーミラ」をモデルとしていますが、数ページにてあっさりラミーカはあっさり退治されてしまい、主人公リリが吸血鬼になるきっかけを描くためのエピソードという印象です。
 第二部の舞台は日本。記憶喪失になったリリが日本人の家庭に世話になることになります。その家では殺人が発生し吸血鬼騒ぎが起こることになります。
犯人はリリなのか? というところで、真犯人探しのサスペンスの趣もありますね。
 第三部は近未来。宇宙船から現れた神話のような怪物たちは、地球人たちを襲撃し、またたくまに地球は制圧されてしまいます。ガンマ博士の養女となったリリは、恋人ヘンリーと共に彼らを撃退する方法を探していましたが…。
 神話を思わせる異星人たちと、第一部の吸血鬼ミラーカの存在に関しても、SF的な解釈が示されます。「怪物」が大多数となり、「人間」がマイノリティとなってしまうというモチーフが現れますが、こちらはリチャード・マシスン『地球最後の男』(『アイ・アム・レジェンド 』)の影響が強いようですね。



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石ノ森章太郎『石ノ森章太郎コレクション ファンタジー傑作選』(ちくま文庫)

 石ノ森章太郎のファンタジー短篇マンガを集めた作品集です。初期から後期まで、様々な年代の作品が取られています。
 特に面白く読んだのは、五つのサブストーリーが同時進行し、最終的にその全てが破綻を迎えるという「そして…だれもいなくなった」、山小屋にやってきた父娘が行方不明になっていた母親と再会するという幻想的な伝奇物語「永遠の女王ヒミコ」、不遇な少女が幻の少女に襲われ続ける「びいどろの時」、〈かごめかごめ〉の夢を見る少女が後ろに立つ謎の人物に対して恐怖を抱くという「うしろの正面だあれ」、過去に両親殺しの容疑をかけられた絵描きの青年の心理を探るという「ヒュプノス」などですね。
 もっとも完成度が高いのは「びいどろの時」でしょうか。少女時代から、たびたび見知らぬ幻のような少女に襲われ、殺されかけて来た女性メリー。両親を亡くしたメリーは、パリに上京しますが、悪い男に騙され続け、身を落としてしまいます。
ようやく出来た娘シビルは、母親に反抗的な態度を取るようになりますが、改めて見たその顔は、かって自分を殺そうとした少女にそっくりであることにメリーは気づきます…。 親と子の因果が時間を超えて絡み合うというファンタジー作品で、最初から最後まで間然するところのない傑作です。この作品一編だけでもこの本を買う価値があると思います。
 「そして…だれもいなくなった」の構成もすごいです。ナンセンスギャグ「シアワセくん」、核戦争の危機を語る「指令Z」、学園コメディ「ゴリラがいく」、スパイスリラー「脱出」、父を殺した大鹿に復讐を誓う青年の物語「しばり首の木」、全く異なる五つのストーリーが同時進行し、それぞれが結末を迎える直前に、全てを吹き飛ばすカタストロフが訪れるという、何とも不条理な味わいの物語になっています。



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石ノ森章太郎『石ノ森章太郎コレクション SF傑作選』(ちくま文庫)

 著者のSF短篇を集めた作品集です。
 記憶を失い遭難したパイロットが地球上のものとは思えない生物たちに襲われる「敵 THE ENEMY」、町中の人々が狂気に囚われていくという「狂犬」、放射能を逃れて地下でロボットに匿われていた子どもたちを描く「おわりからはじまる物語」、引越し先の押し入れから突然現れた動かない女をめぐる「四帖半襖の下張りの下」、近未来、暴力的な感覚マンガで名を成した男の栄光と挫折を描く「おとし穴」、火星にて戦わされ続けるサイボーグ兵士を描いた「赤い砂漠」、超能力を手に入れ人類の「天敵」となった少年を描く「天敵」、UFOに憧れる孤独な少年の物語「UFO」を収録しています。
 一番の力作は「狂犬」でしょうか。喧嘩っ早い少年五郎は、喧嘩の最中に梯子から落下してしまいますが、幸い重いけがはしませんでした。その直後に五郎の自宅が火事になり、母親は亡くなってしまいます。目撃者によれば火の玉が家に降ってきたというのです。
 また町中の人々が急に暴力的になり、別人のようになってしまいます。教師の木暮によれば、宇宙からやってきて、人間そっくりに姿を変えた菌が、本物の人間と入れ替わっているのではないかというのですが…。
 作中でも言及される、ジャック・フィニイ『盗まれた街』と同様の複製人間が登場し、これはフィニイ作品と似た侵略SFかと思いきや、火の玉現象や鳥の狂暴化、また別の超自然現象なども起こるので、その原因が本当に宇宙人であるのかも分からなくなっていきます。
 身近な人間がすり替わってしまう…というアイデンティティーの不安が描かれながらも、最終的には自らの心に相対することになるという恐怖が描かれています。典型的な侵略SFの形を取りながら、その真相が明かされる結末には驚かされますね。
 結末に至って、タイトルの「狂犬」の意味が分かるようになっています。侵略テーマ、超能力者テーマ、破滅テーマと、様々な要素を持ったSF作品です。
 上に挙げた『盗まれた街』以外にも、作中で鳥が狂暴化するシーンは、ヒッチコックの『鳥』(もしくは原作のデュ・モーリアの「鳥」)からインスピレーションを得ているようです。
 「UFO」も味わい深いです。水商売の母親と共に団地で暮らす少年は、UFOに憧れていました。UFOが攻撃を仕掛けてくる幻を見た少年は、逃げ出すべきだと母親や他の人間に伝えますが、まるで信じてもらえません…。
 孤独な少年がUFOに憧れを持つ、という作品なのですが、面白いのは、このUFOが地球に攻撃を仕掛けてくるという意思を持っている(と少年は認識している)にも関わらず、そこに脅威と共に憧憬の念が混ざっていること。
 少年のセリフの中に、UFOが自分と「ともだち」だという言葉がありますが、そこに孤独を抱える少年がつながりを求めていることが示されています。
 結末では実際UFOが姿を現すのですが、少年に対して友愛を示すのか、殺してしまうのか、その結果は描かれずに物語は閉じられます。非常に余韻のある作品になっていますね。



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熊倉献『ブランクスペース1』(ヒーローズ)

 ある雨の日、傘を忘れた女子高生の狛江ショーコは、同級生の片桐スイと出会います。スイは雨をはじく透明な傘をさしていました。彼女は小さいころから、頭の中で想像した物を作ることができるというのです。その品物は自分にしか見えず、他人には見えません。また物を作るには想像の中で、部品をしっかりと組み立てなければならないというのです。友人となったスイとショーコは、一緒に様々な品物を作ることになりますが…。

 見えない品物を作ることのできる少女と、彼女と友人になった少女を描くSFファンタジーコミック作品です。
 想像の中で物を作って現実に引き出す、というスイの能力を探る過程が抜群に面白いです。透明なトースターでパンを焼けるかどうか実験するなどのシーンは、非常にファンタスティックですね。
 主人公ショーコが能天気で天然の少女で、スイとの交流を楽しむ一方、地味な少女スイはいじめにあっており、そのせいもあって、想像の中で生み出す品物も、刃物であったり武器であったりと、だんだんと不穏なものになっていきます。
 イライラを抑えるために、仮想の風船を作っては割る、というスイの行為が描かれるシーンには、とてもリアリティがありますね。

 明るく楽しい絵柄とは裏腹に、シリアスでダークなテーマも内包した作品です。1巻の結末では、さらにファンタスティックで設定が導入されていて、続きが気になる感じになっています。
 スイが本好きという設定で、関連した文学作品のタイトルがいくつか言及されています。具体的には、イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』、ボルヘス「円環の廃墟」『伝奇集』、エドモンド・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」など。これらのタイトルがお好きな人には楽しめる作品ではないかなと思います。



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熊倉献『ブランクスペース2』(ヒーローズ)

 想像力によって品物を作り出すことのできる高校生の少女スイ。作った物は本人だけにしか見えないものの、物理的に実在しており、他の人間にも触ることが可能なのです。いじめられていたスイは、次々と凶器を作り出していましたが、友人になったショーコの「彼氏を作ろう」という提案から、次第に人間そのものを作り出す計画に夢中になっていきます。
 一方、ショーコはスイの作り出す人間がサイコパスのシリアルキラーである可能性を考慮して、対抗策を必死で考えていました…。

 想像力で品物を生み出せる能力を持つ少女スイと友人ショーコを描いたSFファンタジーコミックの第2巻です。想像で人間を作り出す試みに夢中になったスイが、ついに本物の人間を生み出すことになります。「テツヤ」と名付けられた彼と付き合うことになったスイですが、周囲では不穏な現象が起き始めていたのです。
 本巻では、スイとショーコのメインパートの他に、かって想像によって恋人の女性を作り出したという小説家中道ゴロウの本を手に入れた映像業の時田と、ゴロウの遠縁である小説家志望の青年中道のパート、
 また、夢の中で新人漫画家今給黎(いまきいれ)モモと繰り返し出会う古本屋の孫アキラのパートが登場します。
 他の二つのパートを通して、スイ以外にも物や人間を生み出す能力を持っていた人間がいたこと、「テツヤ」以外にも創造された存在がいることが示唆されていきます。
どうやら複数のパートをつなぐ鍵は、かって恋人を創造しその顛末を小説に書き残した中道ゴロウにあるようなのです。
 2巻では、スイだけでなく、他にも同じような能力・現象があることが判明したり、その現象に絡む人々が登場したりと、ぐっとスケールが広くなってきていますね。
 また「テツヤ」が不穏な動きをしていたり、見えない謎の猛獣が登場したりと、続きが非常に楽しみな展開となっています。
 スイの作り出す物や存在は、第三者的な視点から「見えない」状態で描かれるのですが、具体的な行動や言動が見えないため、逆に想像力をそそる形になっていますね。
 軽妙でユーモラスなタッチで描かれるものの、そのテーマは「空想と実在」。非常に哲学的なコミックとなっています。その読み心地は、まるでボルヘス、スタニスワフ・レム、またはカルヴィーノ、ダンセイニなどを思わせます。まだ進行中の作品ですが、この時点ですでに大傑作といっていいのでは。



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吉田真百合『ライカの星』(HARTA COMIX)

 4篇を収録したマンガ短篇集です。どれも面白く読みましたが、表題作「ライカの星」は、特にインパクトが強いです。
 かってソ連の実験で宇宙船に載せられ、その後捨てられた犬ライカ。宇宙空間で神のような存在に出会い、新しい体と住むための新しい惑星を与えられたライカは、その星で犬たちの楽園のような星を作ります。
 数十年後、宇宙船に乗組員の犬たちと共に乗り込んだライカは、自分を死に追いやった人類を滅ぼすために地球に向かうことになりますが…。
 宇宙実験のために殺され蘇った犬ライカが、人類への復讐のために地球に舞い戻る…というお話です。一緒に乗り込んだ仲間の犬たちは地球の環境や人類とも馴染んでしまい、裏切られた想いのライカは一人、自暴自棄になってしまいます。
 人類を憎みながらも、その根底には、捨てきれないかっての愛情、そして故郷への思いがあるのです。複雑な思いを抱くライカの「生涯」が描かれていきます。「故郷」に帰還するという結末のシーンも美しいですね。
 他に、人面犬を崇拝し、その力によって家族を不老不死にしようとする少女を描いた「さようなララバイ」 、地球を侵略した異星人の兄弟のすれ違いを語った「愛の焦土」、宇宙に憧れる情熱的な犬とその飼い主の冷静な少年の物語「海底着陸」が収められています。
 「さようなララバイ」は人面犬が登場する物語。この人面犬、普通にしゃべったり、噛みついた相手を不老不死にする能力があるなど、独自の設定付けがなされています。お話も、少々愛情過多な少女が、その愛情ゆえに暴走してしまうという流れが、ユーモラスに描かれていて面白い作品です。
 この短篇集、ポップで可愛い絵柄と一見コミカルな表現、その一方でダークでシリアスな内容とのギャップが魅力的な作品集になっています。多くの作品にいろんな形で「犬」が登場するのも面白いところですね(「愛の焦土」の異星人が「犬」であるかは微妙なところですが…)。



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こおにたびらこ『にょろにょ~ろ』(Liluct Comics Hugピクシブシリーズ)

 半身蛇の少女ニョロリンの日常が描かれる、シュールでナンセンスなコミック作品です。冒頭の1ページでその面白さが分かるかと思います。
 主人公ニョロリンを始め、登場する人物たちも風変わり。物や食べ物までがしゃべる一方、そうでないただの「物」もあったりするあたり、何ともシュールな世界観です。起きる出来事も常識外れのことばかりで、ナンセンスな味わいですね。
 トマトに話しかけるニョロリンが、周囲の食べ物や植物たちに馬鹿にされるという「トマトが喋るわけないよ」、ニョロリンの弟ヘビオが部屋を掃除しないために現れた妖精たちの食物連鎖が描かれる「弟とお姉ちゃん」、市場に来たニョロリンが買い物が何だったか忘れてしまう「それはどんなもの」、朝食を用意するたびに当の朝食自身が別の朝食を勧めてくるという「朝食と朝食」などが面白いですね。
 中でも「弟とお姉ちゃん」「朝食と朝食」のエピソードのぶっ飛び加減はすごいです。
  「弟とお姉ちゃん」では、ニョロリンの弟ヘビオが部屋を汚くしていたところ、汚い部屋にのみ現れる妖精が出現します。その妖精を食べに「妖精食い」が現れ、さらにそれを食べる「ウサバト」が現れます。
 また「ウサバト」を食べる「玉ネコ」が現れ、と食物連鎖の上の生き物がどんどん現れてくる、というストーリー。やがては家そのものを食べるような怪物さえが現れます。「汚い部屋」の話題からこんな展開になるとは全然予想できないです。
 「朝食と朝食」は、こんなお話。ニョロリンが朝食にサンドイッチを作ったところ、パンはホットケーキを作ることを勧めてきます。ホットケーキを作ったところ、そのホットケーキがリンゴがおいしいと勧め出し、リンゴの木に実を取りに行くことになります。リンゴはミカンを勧め出し、さらにミカンを取りに行くことになります…。
 朝食が別の朝食を勧めてきて、さらに別の朝食へ…という、シュールすぎるお話になっています。
 シュールで常識外れの設定なのですが、お話自体は起こった事態がエスカレートしていくという、意外と古典的な作りになっています。何でこんな展開に?というSFともファンタジーともつかないエピソードが沢山です。
 一種の「センス・オブ・ワンダー」のようなものが感じられて、まるでフレドリック・ブラウンの短篇でも読んでいるかのような味わいです。



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岡崎武志、古本屋ツアー・イン・ジャパン編『野呂邦暢 古本屋写真集』(ちくま文庫)

 夭折した芥川賞作家・野呂邦暢が生前密かに撮りためていた古本屋の写真を集めた写真集です。
 『愛についてのデッサン』などで知られる作家、野呂邦暢(1937年~1980年)が、東京を訪れた際に撮りためた古本屋の写真集です。主に1970年代の神保町、早稲田、渋谷、池袋など、各地の古本屋の写真が集められています。
 特に、古書店街として知られる神保町と早稲田に関しては、写真も多くなっています。解説でも触れられていますが、まだデジカメも存在せずフィルムカメラの時代、店を正面切って撮影するのは難しかったらしく、少し離れた位置から撮影した写真が多くなっていますね。
 そのため、店の棚にどんな本が並んでいたのか、といったあたりは読み取るのが難しくなっています。ただ、その一歩引いたところからの古本屋写真、今見ると、とても味わいがあるのですよね。
 神保町や早稲田などでは、現存しているお店も多く、昔と今の画像を比較するのも面白いのではないでしょうか。神保町にある文庫専門のお店「文庫川村」では、何十年間も同じ棚を使っているとか聞くとびっくりしますね。
 この『野呂邦暢 古本屋写真集』、盛林堂さんから2015年に刊行された本に増補再編されたうえ、文庫化されたものです、著者の本に関わるエッセイなども追加されています。
 作家の文章ではなく、古本屋を撮った写真集ということで、異色の本といえますが、本好きの琴線に触れる本ではないでしょうか。


波との暮らし方  パス『波と暮らして』とその絵本化作品
400110864Xぼくのうちに波がきた (大型絵本)
オクタビオ・パス キャサリン・コーワン マーク・ブエナー
岩波書店 2003-06-20

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 メキシコの詩人オクタビオ・パスに、『波と暮らして』(井上義一訳 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』福武文庫収録)という、幻想的な短篇小説があります。
 海に出かけた男性が、「波」を見初めて家に連れ帰り、一緒に暮らし始めます。最初は楽しかった生活ですが、気まぐれな「波」は、物を壊したりと自分勝手を始めます。逃げ出した男性が、冬に家に戻ってみると…という物語。
 「波」を「女性」の擬人化として描いた、ファンタスティックな作品です。男性をからかったり、嫉妬させたりと、現実の女性のアナロジーとして描かれており、官能的な要素も強くなっています。

 かなりエロティックな作品といえるのですが、なんとこの作品を絵本化した作品があります。それがこれ、『ぼくのうちに波がきた』 (キャサリン・コーワン文、マーク・ブエナー絵 岩波書店)。
 子供向けのアレンジのため、エロティックな要素はなくなっています。そのため、こちらの作品では、主人公は少年で、「波」は少女として描かれています(といっても、ヴィジュアル的にはただの「波」なのですが)。「波」が少女(子供)のように描かれているため、後半に波が荒れ狂う場面も、子供のわがままとして解釈できるところは、見事な換骨奪胎ですね。
 お話の流れは、原作とほぼ同じです。原作では「波」を連れ帰ろうと、飲料水タンクに「波」を入れた主人公が、毒を入れた容疑をかけられ、刑務所に1年間入れられてしまうという部分があるのですが、さすがにそれはカットされています。
 画面いっぱいにヴィジュアル化された「波」が非常にユーモラスに描かれており、見応えがあります。これは絵本ならではの表現ですね。
 絵本だけで読んでも、充分魅力的ですが、原作と絵本を読み比べると、いっそう楽しめると思いますので、気になった方はぜひ。
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いつかの情景  ディーノ・ブッツァーティ『絵物語』
4885880882絵物語
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
東宣出版 2016-04-15

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 イタリアの幻想文学の鬼才、ディーノ・ブッツァーティは、作家として有名ですが、イラストレーターとしての面も持っており、本人はむしろ画家を自認していたといいます。
 昨年邦訳された『モレル谷の奇蹟』(中山エツコ訳 河出書房新社)は、絵と文章が一体になった作品で、ブッツァーティのイラストレーターとしての魅力を感じさせてくれるものでした。

 今回出版が成った『絵物語』(長野徹訳 東宣出版)は、ブッツァーティの画集といっていい作品集です。ただ純粋な絵画作品ではなく、それぞれの絵に対し、短い文章が添えられているのが特色です。
 文章は、絵に描かれた情景を補完するものであることもあるし、そのイメージとは一見関係のないようなものであることもあります。このあたり、例えば、ベルギーのシュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの作品が、作品とは直接関係のないようなタイトルを付けられているのと似たような感覚を覚えますね。
 そもそも、文章なしでも、絵そのものが、ある種の物語性を感じさせるところが魅力です。そして、添えられた文章との関連を想像しながら、絵を「読む」のも、また面白い作業なのです。

 『モレル谷の奇蹟』同様、画風も、いろいろなタッチのものが混ざっています。素朴なものもあるかと思えば、ジョルジョ・デ・キリコを思わせるシュールなものもある。果てはアメコミ風のものもあるといった具合。
 幻想的な情景を描いたものが多いのですが、動物や異形の人間、怪物などを描いたものに、ことに魅力がありますね。
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月の皮がむけるとき  タイガー立石『ムーン・トラックス』
4875024614ムーン・トラックス "MOON TRAX" (タイガー立石のコマ割り絵画劇場)
タイガー立石 Tiger Tateishi
工作舎 2014-12-11

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 1980年代前半に、思索社から《思索ナンセンス選集》というシリーズが出ていました。画家や漫画家によるナンセンスでアヴァンギャルドな漫画を集めたシリーズです。梅田英俊とか、佐々木マキ、久里洋二などの作家にまじって、面白い名前の作家がいました。それがタイガー立石(1941~1998年)です。
 その選集に収められていたのは『タイガー立石のデジタル世界』という作品集ですが、一読して、驚かされました。知的でユーモアたっぷり、斬新な手法としっかりした画力。デジタルビットで漫画を描こうなんて、当時誰も考えつかなかったでしょう。
 しかもタイガー立石が凄いのは、アヴァンギャルドな手法を使うにもかかわらず、手法倒れに終わらず、一般の人にもしっかりと楽しめるというところ。まさにエンターテインメントなのです。
 以前工作舎から刊行された『TRA(トラ)』は、著者の漫画作品を集めた作品集ですが、現在でも楽しく読むことができます。今回、著者の絵画作品集が出るということを聞いて、漫画作品は面白かったけど、絵画作品はどうなんだろう?と不安に思ったのですが、杞憂でした。
 今回刊行された『ムーン・トラックス タイガー立石のコマ割り絵画劇場』(工作舎)は、「コマ割り絵画」を集めたものです。「コマ割り絵画」は、名前の通り、コマで割った絵画で、絵画の手法で漫画を描いたものとでもいえばいいのでしょうか。
 漫画作品ほど、明確なストーリーやオチがあるわけではありません。その代わりに、思いもかけないイメージや大胆な構図が多用されていて、見る人を驚かせてくれます。絵画の遠近法を利用したトリック、形やイメージの変容など、エッシャーやマグリットを思わせる作品も見られます。
 以前から、タイガー立石の作品には、SF的な感性が感じられると思っていたのですが、この本の解説を読んで、その疑問が解消されました。
 彼はSF作品が好きで、よく読んでいたというのです。名前が挙げられていたのは、ロバート・シェクリイ、ロバート・A・ハインライン、筒井康隆などですが、一番影響を受けたと言っているのは、シェクリイの短篇集『人間の手がまだ触れない』(ハヤカワ文庫SF)だそうです。道理で、知的でスマートな感触があったわけです。
 一昔前、純文学と大衆小説の融合というテーマが取り沙汰されたことがありましたが、そういう観点から言うと、タイガー立石の作品は、アートとエンターテインメントの融合というべきでしょうか。とにかく「面白い絵」を見たい!という方には、オススメしたい作品集です。

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バベルの塔のある風景  フランソワ・スクイテン、ブノワ・ペータース『闇の国々』

4796871012闇の国々 (ShoPro Books)
ブノワ・ペータース フランソワ・スクイテン
小学館集英社プロダクション 2011-12-17

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 近年、フランスのコミックである「BD」(バンド・デシネ)の邦訳が盛んになってきています。そんなBDの魅力といえば、第一に「絵」の素晴らしさでしょう。1コマ1コマ丁寧に描かれた「絵」は、それ自身がすでにアート。
 ただ「絵」の魅力に比べて、ストーリーがわかりにくい作品が多いのも事実です。漫画の文法が日本のものとは異なるので、日本人にはとっつきにくいという面もあるのでしょう。そういう意味で、「絵」と「物語」、両方が傑作というのは、なかなか稀だと思います。しかしこの作品に限っては、全てが傑作と言い切っていいかと思います。
 フランソワ・スクイテン、ブノワ・ペータース『闇の国々』(古永真一、原正人訳 小学館集英社プロダクション)は、われわれの現実世界とは少し違った世界を舞台にしたSF的な物語です。
 同じ世界観を舞台にした、それぞれ独立した物語がシリーズを構成しています。今回の邦訳では、3つの作品が収められています。

『狂騒のユルビカンド』
 天才建築家のもとに、ある日突然謎の格子状立方体が現れます。最初は小さかったそれは、見る間に増殖・拡大していき、都市を飲み込んでいきます。戸惑っていた人々は、やがてその格子に慣れ、生活の一部に取り込んでいきますが…。

『塔』
 いつの時代に建てられたかもわからない巨大な塔の内部で、数十年にわたって修復の仕事をしている男が主人公。彼は、塔の真実を探るために、最上階を目指して旅を始めます…。

『傾いた少女』
 ある日突如、少女は体が傾いて立つようになってしまいます。一方、地球には謎の星が接近していました。この二つの現象は何か関係があるのだろうか? 少女は自分の体を直せるかもしれないとの期待を持って、科学者のもとを訪ねますが…。

 それぞれの物語は、どれもSF的な要素があり魅力に満ちています。SF的な要素といってもハードSF的なそれではなく、H・G・ウエルズやジュール・ヴェルヌのような科学ロマンス風とでもいったらいいでしょうか。SFが苦手な人でもすっと入っていけると思います。
 建築に造詣のある作者であるらしく、作品世界の中で描かれる都市や建物の存在感が半端ではありません。例えば『狂騒のユルビカンド』では、謎の格子立方体がどんどんと拡大し、都市を侵食している情景が描かれますが、これなど都市を描くためだけの作品といっても過言ではありません。
 そしてそうした要素の極致といえるのが、『塔』です。これは「バベルの塔」をモチーフにしているのだと思いますが(実際、作中にブリューゲルのバベルの塔の絵も表れます)、塔の内部の細部描写がすさまじく細かいのです。解説文で作者がインスピレーションを得たと話している、ピラネージの版画シリーズ「牢獄」の情景も現れますが、それが引用にとどまらず、世界観にとけ込んでいるのが驚異的です。
 カフカ、あるいはボルヘス風の物語自体も魅力的ですが、塔の内部描写を眺めているだけでも、至福の時を過ごせるでしょう。
 異世界を舞台にした作品は数多くありますし、コミック作品でも例外ではありません。しかし、この作品ほど確固とした幻想世界を視覚化した例は見たことがありません。難解になりすぎず、ほどよいエンタテインメント性を持ったストーリーと合わせ、幻想文学の愛好者には、ぜひ一読を勧めておきたい傑作です。
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黒い物語  トーマス・オットの不気味な世界
Cinema Panopticum R.I.P.: Best of 1985-2004 The Number: 73304-23-4153-6-96-8
 以前から「文字のない絵本」や「文字のないマンガ」というものに関心がありました。古くは、リンド・ウォードの『狂人の太鼓』、最近ならデイヴィッド・ウィーズナーのいくつかの作品、日本語版が出たばかりのショーン・タン『アライバル』。日本なら、とり・みきの実験的なギャグマンガなどもそれに相当するでしょうか。
 この手の作品をいくつか読んできて、不満だったのは、いわゆる怪奇小説・ホラー小説をこの「文字のない」手法で描いた作品がほとんどない、ということ。ところが最近、この不満を解消してくれる作家に出会いました。スイスの漫画家、Thomas Ott(トーマス・オットでいいのでしょうか)です。
 この作家の作品には文字やセリフがありません。読者は絵を見て、物語を想像していくわけです。ただ、文字がないからといって抽象的な話にはなっていません。丹念に絵を追っていけば、物語はきちんとわかるように作られています。
 もう一つ特徴があります。オットは作品をすべて「スクラッチボード」で描いているのです。「スクラッチボード」とは、黒い画用紙のこと。そこにとがった道具で紙を削って、絵を描いていくものです。黒紙がベースなので、当然絵のタッチも黒っぽくなります。
 作品の内容も、画風に見合ったダークなものになっています。例えば『CLEAN UP!』は、殺人を犯した男が、自分の指紋が気になりだし、家中の指紋を拭いて回る、という作品。『GOODBYE!』は、いろいろな方法で自殺を試みる男がいずれも失敗し…という話。『BREAKDOWN』は、たった一人宇宙船に乗り込んで旅をする男が、船外で修理活動をしている際に、いろいろな幻影を見る、という話。殺しの報酬として義眼を手に入れる男を描いた『THE JOB』なんて、シュールなストーリーもあります。
 時にはブラックすぎる話もありますが、作者がホラー作品が好きで描いているんだなというのが伝わってきて、怪奇小説好きにはたまりません。
 個人的にいちばん気に入ったのは、『Cinema Panopticum』という作品です。これはオムニバス短篇集で、お祭りに出かけた少女が、ふと入った小屋の中でいろいろな物語りを覗き見る、という趣向になっています。
 オットの作品には、英語版、ドイツ語版など、いくつかの版がありますが、絵だけの物語なので、基本的にはどの版を入手しても同じです。
 お勧めは、オットの過去のベストをまとめた作品集『R.I.P.』、そして『Cinema Panopticum』ですね。
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秘密の庭  アイナール・トゥルコウスキィ『月の花』
4309271774月の花
Einar Turkowski
河出書房新社 2010-03-25

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 独特の美意識に裏打ちされたユニークな造形と、驚異的な画力。前作『まっくら、奇妙にしずか』で我々を驚かせてくれたドイツの絵本画家、アイナール・トゥルコウスキィ。『月の花』(鈴木仁子訳 河出書房新社)は、そんな彼の新作絵本です。

 前作同様、ストーリーは単純です。周りの人間から離れて、ひとり大きな屋敷に住む男が主人公。彼は植物や動物などの自然を愛し、ひとり暮らしでありながらも、充実した生活を送っていました。そんなある日、庭のかたすみに、不思議なつぼみが芽吹いていることに、男は気づきます。花を咲かせようと、男はいろいろな方法を試します…。

 今回の作品では、登場人物(登場する人間といった方がいいでしょうか)は、主人公ひとりのみ。何せ、物語は男の住む屋敷内だけで展開するのですから。前作とは対照的です。
 前作では、主人公と周りの人間とのやりとりの中で、グロテスクな人間模様が描かれ、そこが作品の魅力のひとつともなっていました。それに対して、『月の花』では、人間の代わりに登場するのは、植物や、庭を訪れる昆虫や動物たちなのです。

 その植物や動物たちも、ありきたりのものではありません。作者トゥルコウスキィのデザインになる、架空の不思議な植物や動物たちなのです。植物や動物、ひとつひとつの奇抜な造形を見ているだけでも、まったく飽きさせません。
 前作でもそうだったのですが、トゥルコウスキィは、画面内の小物にいたるまで手を抜いていません。建物の何気ない一部でさえ、オリジナルの造形を施しているのです。そして、その細部の筆致はあくまでリアル。
 しかも、細部はリアルであるにもかかわらず、全体を見渡したときには、不思議な幻想性をたたえているところに、トゥルコウスキィ作品の魅力があります。

 解説によると、彼が使うのはHBのシャープペンシルだけであるとか。たった一本のシャープペンシルで、これだけ濃密な世界を構築できるとは、脱帽せざるを得ません。
 架空の植物誌や動物誌としても楽しめる作品ですので、例えば、レオ・レオーニ『平行植物』や、ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミゲーラ『秘密の動物誌』などがお好きな方にもオススメしておきます。
月の花4 月の花3 月の花1 月の花2

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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