乱歩大正浪漫  東 元『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』
赤い部屋江戸川乱歩怪奇短編集~赤い部屋 (ヤングジャンプコミックス)
東 元
集英社 2008-07-18

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 現在でも人気のある江戸川乱歩作品。映像化作品をはじめ、漫画化作品も数多く出版されてきました。ですが、私見によれば、今までの漫画化作品は、乱歩作品の怪奇性・官能性を強調したタイプの作品が多かったように思います。最近の作品から挙げると、丸尾末広 『パノラマ島綺譚』(BEAM COMIX エンターブレイン)などは、その最たるものといえるでしょう。
 もともとの乱歩作品自体に、そういう要素が強いのは事実なので、それはそれでひとつの方向性だとはいえます。
 今回、乱歩作品の漫画化を担当したのは、東 元。大正時代を舞台にした作品には定評のある作者です。たおやかな描線で描かれた、今回の漫画化作品『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』(ヤングジャンプコミックスBJ 集英社)は、今までの漫画化作品よりも、より繊細で、ロマン性の高まった作品集に仕上がっています。
 原作として取り上げられているのは、主に初期短篇です。収録作品のタイトルを挙げておきましょう。

 『百面相役者』
 『双生児』
 『人間椅子』
 『鏡地獄』
 『人でなしの恋』
 『赤い部屋』

 基本的には、原作に忠実な漫画化となっていますが、いちばんの特色としては、全体が枠物語のかたちになっているところでしょうか。この世の快楽に倦み果てた会員たちが集う、秘密倶楽部「赤い部屋」を舞台に、毎回ゲスト会員たちが、自身の物語を語る、という構成の連作短編集となっています。
 もちろん乱歩作品であるので、猟奇的な事件が起こるわけですが、それらの事件よりも、より印象に残るのは、たおやかな女性像です。『人間椅子』に登場する女性作家、『鏡地獄』のお手伝いの女性、そして『人でなしの恋』の人妻…。「妖艶」というよりは「清楚」といった方がふさわしい女性たちには、とても魅力があります。
 その点でより魅力的なのは、冒頭に置かれた作品『百面相役者』でしょう。まるで本物としか思えない、複数の人物に化ける、美貌の女役者を描いたこの作品、女役者のみならず、作中で描かれる芝居の雰囲気も巧みで、見事な出来になっています。
 そう、作品を通して、大正時代の雰囲気が上手く醸成されているのにも感心しました。そしてそれがいちばんよく出ているのが、最後に置かれた『赤い部屋』です。絶対に捕まらない「プロバビリティー(可能性)の犯罪」を追求した青年が、最後に選んだ犠牲者とは…。
 夜の都会を背景に、秘密倶楽部の終焉を描いたこの作品、結末の付け方も絶妙なのですが、最後から1ページ前、見開きで描かれる夜の風景の美しさは絶品!
 上記でもふれたように、この作品集、猟奇性はあまり強くありません。それゆえ、乱歩独特のどろどろとした情念はあまり感じられないのですが、そのかわり、透明感のあふれるロマン性の強い作品集になっています。
 初期短篇を中心に集めたのも、「大正浪漫」という、この作品集のテーマにマッチするがゆえでしょうか。乱歩作品の新たな魅力を描き出した、という点でも、出色の作品といえるでしょう。ぜひ、続きのシリーズも描いていただきたいですね。
 参考に、著者のホームページアドレスを貼っておきます。画風を見てみたい方はどうぞ。
http://www3.ocn.ne.jp/~azumagen/

夢見る家と夢見られる人  内田善美『星の時計のLiddell』
リデル1 リデル2 リデル3

 現在でも「漫画は芸術なのか?」という問題が、取沙汰されることがありますが、この作品に限っては、無条件で「芸術」だと言い切ってしまってもいいのではないでしょうか。
 詳細に描き込まれた美麗な絵柄、哲学的なテーマ、そして幻想的、詩的な物語。内田善美『星の時計のLiddell』(集英社)は、漫画作品の一つの極致を示すものといっていいでしょう。
 青年ヒューは、長い間、同じ夢を見ていました。そこはいつも必ず同じ場所、ヴィクトリアン・ハウスの屋根裏部屋なのです。そしてその家で、彼は美しい少女と出会います。少女の名は「リデル」。彼女は、彼のことをなぜか「幽霊さん」と呼びます。
 行ったことのないはずの家を、なぜこうも繰り返し夢に見るのだろうか? 裕福な友人ウラジーミルの助けを借り、二人は夢の中の家を探すために、旅に出ますが…。
 ヒューが主人公ではあるのですが、全体を通して、物語は友人ウラジーミルの視点から語られます。屈託がなく、天真爛漫なヒューに対して、ウラジーミルは故国を失い、どこにも自分の故郷がないと感じている青年です。このウラジーミルを語り手にすることによって、ヒューの体験する「夢」にも、客観的な距離感が置かれており、絶妙なリアリティを出しています。
 上に記したあらすじで「旅に出る」と書きましたが、物語がそこまで来るのに、ほぼ全体の3分の2が費やされています。このことからもわかるように、あまり展開に動きのある作品ではありません。ヒューの「夢」に対する、人々の解釈や、周りの人々の微妙な心の揺れ動きの描写などが、大部分を占めています。
 物語の基本的なアイディアは、作品内で言及される、荘子の「胡蝶の夢」と同じものです。ちなみに、「胡蝶の夢」は、荘子が蝶になった夢を見て、自分は蝶になった夢を見た人間なのか、それとも人間になった夢を見た蝶なのか自問する、という寓話です。つまりヒューが「家」や「少女」を夢見ているのか、それとも逆なのか、ということです。
 じつは、この『星の時計のLiddell』そっくりの小説があります。それは、アンドレ・モーロワ『夢の家』(矢野浩三郎訳 各務三郎『世界ショートショート傑作選1』講談社文庫収録)という作品です。
 ある家を繰り返し夢に見ていた男性が、あるとき夢と同じ家を見つけて訪ねる、という話。とくに明記されているわけではないのですが、『星の時計のLiddell』は、この作品からインスピレーションを得たのではないかと、個人的には考えています。もちろん二つの作品はまったくの別物、というかモーロワ作品の方は、ちょっとしたショート・ショート作品であって、この掌編から、あの雄大な物語を作り出したとするならば、やはり作者は天才と言わざるを得ません。
 物語後半、ついにヒューとウラジーミルは「夢の家」を発見します。「夢」の少女の正体とは? ヒューと少女は会うことができるのでしょうか? そして、それまで「傍観者」として事態を見てきたウラジーミルもまた、自分が「傍観者」などではなく、壮大な「物語」の一部であったことを悟るのです。
 結末自体は、はっきりと示されるわけではなく、解釈に迷うところもあるのですが、それも含めて、余韻をたたえた素晴らしいものです。おそらく再読、三読したときに、その素晴らしさがわかる作品でしょう。
 作者の内田善美は、完璧主義といっていいほど、手抜きのない美しい絵で知られた漫画家ですが、現在ではすべての作品が絶版になっています。作者自身が、自分の作品の再版を拒否しているとのことです。そのため、新刊で手に入れることはできないのですが、この作品だけでも、ぜひ再版していただきたいですね。
あっと驚く話  佐々木淳子『Who フー』
フーWho―超幻想SF傑作集 (ベルコミックス)
佐々木 淳子
東京三世社 1993-04

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 SFの魅力は「センス・オブ・ワンダー」にあると言われます。「センス・オブ・ワンダー」とは、日常では味わえない目眩のするような感覚、当たり前だと信じて疑わなかった価値感に衝撃を与えてくれるもの、とでも言ったらいいでしょうか。この言葉の定義は、人によっていろいろあるでしょうが、身も蓋もない言い方をしてしまうなら「あっと驚く話」といってみてもいいかと思います。
 そして漫画作品において、この「あっと驚く話」の描き手といえば、まず、佐々木淳子の名を挙げなくてはなりません。彼女の作品には、大胆なSF的アイディアが溢れています。その読後感は、まさに「センス・オブ・ワンダー」としか呼びようがありません。
 そんな佐々木淳子の魅力が凝縮されているのが、初期短篇を集めた作品集『Who フー 超幻想SF傑作集』(佐々木淳子 東京三世社 マイ・コミックス)です。今回はこの中から紹介しましょう。

 『赤い壁』 夢の世界に迷い込み、もとに戻れなくなった少女。彼女は、謎の少年の力を借り、夢の世界から逃げ出そうとしますが…。
 少女は、いつの間にか他人の夢の中へと紛れ込んでしまいます。恋する青年、病気の幼児、ひとびとの夢の中はすべてつながっているのです…。のちの代表作『ダークグリーン』につながるようなテーマを内包した作品です。

 『のこされたこころ』 遺書を残し、崖から飛び下りをはかった少女みさこ。しかし死の間際になって、生への執着がよみがえります。ふと気が付くと、みさこは男の赤ん坊、道人として生まれ変わっていました。前世の知識を残す道人は、その知識を活用し、天才児として世を騒がします。テレビでも取り上げられた道人を見た、みさこの母親は、彼は娘の生まれ変わりに違いないと確信し、彼のもとを訪れますが…。
 生まれ変わった少女の運命とは…? 前世の死をトレースするかのような、結末の衝撃度は強烈。ホラーとしても読める異色短篇です。

 『メッセージ』 近未来、博物館で、過去の生活展示品を見学していたサミオは、ある品を見て目眩を感じます。これは自分の使っていたものだ…。そして、不治の病のため、冷凍睡眠で眠っていた女性メグミ・イワクラを見たとたん、彼の前世はメグミ・イワクラであると確信します。発展した治療技術のため、冷凍睡眠から目覚めさせられたメグミは世間の耳目を集めます。しかしメグミが目覚めているときには、サミオは眠りに入ってしまうのです。これは一つの魂を二人で使っているせいに違いない。彼女はサミオにメッセージを送ります。そこには「どちらかが消えなければならない」と書かれていました…。
 冷凍睡眠で目覚めた女性が、自分の前世の姿だったという、なんとも興味深い設定です。魂は常時一人分しかないため、二人の間で争いが起きる、と思いきや、意表をついた結末もなかなかのものです。

 『ミューンのいる部屋』 二人暮しの母親から構ってもらえず、空想上の友達と遊ぶことを覚えた少年フィル。彼の作った女の子ミューンは、日に日に存在感を増していきます。やがて、母親の実家に預けられることになったフィルは、伯母のアナイジーとの生活の中で、充実感を得るようになり、それに伴いミューンは姿を消します。しかしアナイジーとボーイフレンドとの関係に嫉妬したフィルは、再び内にこもるようになります。やがて彼の幻を作る能力は暴走しはじめますが…。
 いったんは幸せを得たかに思えた少年が裏切られたとき、空想は彼の手を離れていきます。空想が現実化するというファンタジーですが、後半の展開は、非常にブラック。最後の一ページの衝撃度は、半端ではありません。オーガスト・ダーレス『淋しい場所』やジェローム・ビクスビイ『きょうも上天気』を想起させる作品。

 『母はやさしく』 ある日落ちていた時計を拾ったことから、泥棒扱いをされてしまった佳澄。たびたび盗難事件が起こり、彼女は孤立していきます。それらが、クラスメートの宇田川の策略であったことを知った佳澄は、ふとしたはずみで彼を死なせてしまいます。彼女は、すべてを許してくれる「母」に相談しますが…。
 どこか夢の中にでもいるような、ぼんやりとした佳澄の行動に、違和感を抱きつつ読み進めると、驚くべき展開に。すべて笑って許してくれる「母親」の秘密とは…? 得体の知れない「母親」の無気味さが際立つ作品。

 『WHO フー』 ある日自転車から転げ落ち、気を失った少年。目覚めると、まわりに人気が全くないことに気づきます。どこに行っても、全く人間の姿が見えないことに驚いた少年は、しかし、たった一人女性が通りかかるのを見つけて駆け寄りますが…。
 短い掌編ですが、唸らされます。フィリップ・K・ディックを思わせる作品。

 『リディアの住む時に』 山の中でドライブを楽しんでいた青年ゼブは、突然飛び出してきた少女に驚きます。ビイと名乗る少女は、なぜかゼブのことを知っていました。彼女が暮らす館を訪れたゼブは、そこで暮らす女性たちが、みな歳こそ離れているものの、そっくりの顔をしていることに気づきます。
 いちばん幼いエイダ、その次に若いビイと親しくなったゼブは、みなが概ね彼に好意を示すのに対し、ただ一人シーラだけが、敵意を示すのに怪訝な気持ちを抱きます。なぜみな、ゼブのことを知っているのかと言う問いに、シーラは彼が8年ごとにあらわれるから、と不可解な答えを返します。
 部屋で蛇に襲われたり、毒入りのお茶を飲まされそうになったゼブは、命を狙われているのではないかと考えますが…。
 ゼブはなぜ命を狙われるのか? そしてそっくり同じ顔をした女性たちの秘密とは? やがて、彼女たちの悲劇的な運命が明らかになります。結末にいたって、タイトルにもある、リディアが住む「時」の意味がわかるという仕組みは非常に技巧的です。
 入り組んだ謎と目くるめくような展開が、読者をつかんで離しません。短い作品ながら、一人の女性の全人生を暗示させるという強烈なテクニック。驚くべきアイディアと、深いテーマとが融合した、恐るべき傑作です。

 とにかくどれを読んでも、斬新なアイディアが溢れています。初期の作品だけあって、絵柄的には洗練されているとはいえないのですが、内容は、それを補ってあまりある魅力があります。かって、フレドリック・ブラウンやロバート・シェクリイの作品が与えてくれたのと同種の感動を与えてくれます。「センス・オブ・ワンダー」を味わってみたい方はぜひ。
鳥の飛ばない世界 フジモトマサル『二週間の休暇』
4062140659二週間の休暇 (MouRa)
フジモト マサル
講談社 2007-10-26

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 フジモトマサルは、暖かみのある絵と、どこかシュールなユーモアセンスとを持った、ユニークな漫画家兼イラストレーター。主に、擬人化された動物たちを主人公にした、四コマ漫画や短篇漫画を得意としていますが、今回の『二週間の休暇』は、初めての長編作品です。
 若い一人暮らしの女性、日菜子は、目覚めると何事もなかったかのように、フライパンを洗い、買い物に出かけます。町に出ると、通りすがるのは、二本足で歩く大きな鳥たち。しかし日菜子は、それらを不思議とも感じません。
 夕食を食べている最中に、突如鳴り響いたサイレンに驚いた日菜子は、それを機に、同じアパートに住む住人たちと知り合います。アパートの最古の住人である「長老」、発掘をしている「ロンゴ」、フリーペーパーを編集している「よもぎ」。仕事を尋ねられた日菜子は、しかし自分が何をしていたのか、どういう素性なのかも、まったく思い出せないことに気づきます。記憶があるのは、昨日のことだけなのです。
 同情した「よもぎ」から、雑誌編集を手伝わないかと誘いを受けた日菜子は、その申し出を受けます。彼女は、記憶を失いながらも、その町の生活にどこか充実感を覚えつつありました。そんな折り、突然、日菜子の部屋に怪しい二人組がたずねてきます。二人組は、日菜子に「記憶の紅茶」セットを持ってきたと告げます。

 丸いラベルの紅茶を飲むと失った記憶がよみがえります。
 四角いラベルの紅茶を飲むとそれまでの記憶が消えます。
 もし過去が知りたくなったら試してください。
 熱湯で3分。


 不審に思いながらも、好奇心に囚われた日菜子のとった行動とは? 彼女の過去の秘密とは? そして徐々にこの世界の秘密が明らかになっていきますが…。
 二本足で歩き、人間の言葉を話す鳥たちが住む世界。そして、その世界を当たり前のように歩く日菜子。そうか、これは、鳥たちと人間たちが同居する世界なんだな、と読者が納得しかけた矢先に判明する、日菜子の記憶喪失。そういえば、日菜子以外に、この世界には「人間」は登場していない…。
 この世界自体、そして日菜子の過去に何か秘密がある、ということが明らかになっていくプロセスはとても刺激的です。しかしそんなサスペンスフルな展開にもかかわらず、物語の流れ方は、飽くまで落ち着いています。それは、この世界では、時間はゆったりと流れ、あくせくする「人間たち」はいないからです。そして主人公の日菜子もまた、記憶喪失という状態にありながらも、その状況を受け入れ、楽しみさえしているのです。
 町の住人たちや、その生活の描写にも魅力があふれています。年がら年中、発掘の仕事を続ける「ロンゴ」、雑誌編集に生き甲斐を見いだす「よもぎ」、自分で書いた膨大な本だけを売る「ニライ書房」の主人など、こまごました部分も丁寧に描かれています。
 後半、「ロンゴ」が発掘現場から掘り出した謎の品物たち。それらを見た日菜子は、世界の成り立ちを知ります。そして、結末に至って読者は、「二週間の休暇」の意味を知ることになるのです。
 素朴な絵柄、全編手書きのセリフ文字、レトロな町並み、落ち着いた雰囲気の物語は、読者を癒してくれるはず。単なる「動物擬人化」ファンタジーだと侮るなかれ。 
心の声  清原なつの『家族八景』
404725018X家族八景 上巻 (1) (KADOKAWA CHARGE COMICS 16-1)
筒井 康隆 清原 なつの
角川書店 2008-03-05

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4047250198家族八景 下巻 (2) (KADOKAWA CHARGE COMICS 16-2)
筒井 康隆 清原 なつの
角川書店 2008-03-08

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 人の心が読める超能力を持つ少女、火田七瀬を主人公にした〈七瀬もの〉3部作は、筒井康隆の作品のなかでも、とくに人気のあるシリーズです。3部作の中では、第2作『七瀬ふたたび』が、飛び抜けて知名度と人気があるようです。超能力者たちを巡るアクション小説の趣のある作品ですが、スピーディな展開といい、面白さは抜群です。ドラマ化された作品で覚えがある方もいらっしゃるでしょう。
 その点、シリーズ第1作である『家族八景』は、『七瀬ふたたび』に比べると、少し地味な作品であることは否めません。ですが、漫画家、清原なつのは、今回、あえてこの作品の漫画化に挑戦しています(清原なつの『家族八景』角川書店 KADOKAWA CHARGE COMICS)。
 原作は、お手伝いとして様々な家庭に入り込んだ七瀬が、ひとびとの心理を見聞きする…というコンセプトの異色心理作品です。あまり展開に動きのある作品ではなく、あくまで人々の心理を七瀬が探る、というものですので、この作品が漫画化されたと聞いたとき、一抹の不安を覚えたのですが、その心配は杞憂に終わりました。
 原作のいちばんの特徴は、七瀬が聞く登場人物たちの「心の声」の表現です。実際に発音された言葉とは別に「心の声」が地の文に混じって表記されるのです。そのため、複数の登場人物たちが同時にしゃべっている場面などでは、それぞれの人物の実際の会話と「心の声」とが混じって表記されるので、かなり読みにくいシーンもあります。
 さて、清原なつのはこの「心の声」をどう表現しているのか?というと、登場人物の背後に、その本音を語るデフォルメされた人物像を配置することによって、この表現を視覚化しています。安易な方法のように思えますが、これが思いのほか効果的。本音を語る人物像に、その本音に見合った表情や態度をとらせることによって、実際の態度と本音が、ひと目で分かるようになっているのです。この点、原作よりも非常に整理されて、わかりやすい印象を受けます。
 かわいらしい絵柄で知られる著者だけに、主人公七瀬のキャラクターは非常に可憐。原作では「強い女」のイメージがあるだけに、少しギャップがあるような気もしますが、これはこれで魅力的です。基本的には、原作のストーリーを忠実に漫画化していますが、時折見られる漫画ならではの表現にハッとさせられる面もあります。
 最初はただ、家族たちの傍観者だった七瀬が、自分の身に危険が及ぶことを察知し、能力を活用して非常に攻撃的なアプローチをするエピソードがいくつかあるのですが、ことに、これらのエピソードに味があります。例えば『水蜜桃』のエピソード。自尊心を回復するために、七瀬を襲おうとした初老の父親に対して、七瀬の精神的な攻撃によって、父親の精神が崩壊してしまう、という場面の表現などは非常にユニークに描かれています。
 全体を通して、いわゆる「いい人間」はほとんど登場しません。どんな人間も一皮剥けば、自尊心と虚栄心のかたまり…。原作は、醜悪な人間心理を暴く、といったトーンが強い作品なのですが、清原なつのの細やかな絵柄で、そのアクの強さがいくぶん和らげられており、一般の方にも読みやすい作品に仕上がっているように思います。原作を知らなくても、もちろん楽しめますし、また原作とは別個の作品としてみても、充分な魅力を備えた作品だといえるでしょう。

テーマ:コミック - ジャンル:本・雑誌

キュートな残酷劇  水野純子の作品世界
 小説を語る際に、よく取り上げられるテーマのひとつに次のようなものがあります。「描く内容」よりも「描き方」が重要である…。
 内容そのものよりも、それを描く「描き方」によって、作品は良くも悪くもなる、ということを言ったものでしょうか。この理屈を漫画に当てはめてみると、さしずめ「描き方」は「画風」や「絵柄」と言い換えてもいいかと思います。
 じっさい、漫画の主たる魅力は、その「画風」にある、ということについては、否定される方も少ないでしょう。さらに、問題になるのは「描く内容」と「描き方」のマッチングです。アクション漫画やスポーツ漫画は、やっぱりスピード感や大胆なコントラストが必要でしょうし、恋愛漫画であれば、繊細な描線や落ち着いたコマ取りが合っている、といえると思います。つまりは、そのジャンルに合った「絵柄」というものがあるわけです。
 逆に言うと、取り扱っている内容とかけ離れた「絵柄」を採用すると、それは「笑い」や「ギャグ」の要素が強くなる、ということです。実際、バロディ漫画などでは、ある漫画家のタッチで、別の漫画家の作品を描いてみたら、という発想で描かれたものが多くあるようです。
 さて、この「内容」と「絵柄」のマッチングおよびミスマッチング、ということでは、興味深い漫画家がいます。それは、水野純子。
 彼女の作品の特徴は、そのかわいらしいタッチの「絵柄」。デフォルメのきいたキャラクターは、単体の「絵」としても、見事なものです。しかし、扱っている内容は「絵柄」に反して、じつに「身も蓋もない現実」なのです。その「絵柄」と「内容」とのギャップが、彼女の作品の魅力ともなっています。
 今回は、このユニークな漫画家の作品を概観してみたいと思います。



ピュアトランスピュア・トランス
水野 純子
イースト・プレス 1998-07

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『ピュア・トランス』(イースト・プレス) 近未来、戦争により荒廃した地上を避けて、地下に移住した人類。そこでは、自然な食物は貴重品とされ、食料不足から開発されたカプセルが、主要な栄養源となっていました。しかし、そのカプセルで過食症になる人間も問題になっていたのです。
 治療センターのナースである香織は、その正義感からくる行動のために、横暴な院長である山崎蛍子にことあるごとに虐げられていました。香織は、幼い子どもたちを連れて地上に脱出しますが、院長の部下が追っ手として迫ります…。
 「人類のたそがれ」を描くという、何ともハードな内容の長編です。主人公、香織の宿敵である院長が、ものすごいサディスティックな悪役なのが印象的。なにせ、薬物中毒で、自分が気に入らないというだけの理由で、部下のナースを殺してしまうのですから。
 「正義」が勝つとは限らない…、という強烈なバッドエンド。インパクトでは水野純子作品中で一、二を争う問題作です。



シンデラーラ水野純子のシンデラーラちゃん
水野 純子
光進社 2000-02

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『水野純子のシンデラーラちゃん』(光進社) 焼き鳥屋を経営する父親が突然死して、シンデラーラは悲しみます。しかし父親は、ゾンビとなって蘇り、家に帰ってきます。しかも父親は、同じゾンビの女性と再婚してしまいます。彼女には二人の連れ子がいました。義理の姉にいじめられるシンデラーラは、ある日、王子様に出会い恋をします。ただし王子はゾンビだったのです…。
 童話をモチーフにした作品第一弾。シンデレラがモチーフですが、主要なキャラクターがゾンビである、というところがユニーク。シンデラーラと王子の恋を妨げるものは「身分」ではなく「生死」なのです。



ヘンゼルとグレーテル水野純子のヘンゼル&グレーテル
水野 純子
光進社 2000-11

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『水野純子のヘンゼル&グレーテル』(光進社) 主人公は、坂崎ヘンゼルとグレーテルの姉弟。彼らの両親が営むスーパーに、ある日食料品が全く入ってこなくなります。卸元が品物を卸してくれなくなったのです。町にある食料品屋は、彼らの店たった一軒だけ。そんな折り「食べものランド」の噂が町に流れます。そこにはいろいろな食べものがあるというのです。抗議に出かけた両親が帰ってこないのを心配したヘンゼルとグレーテルは、両親の後を追いかけますが…。
 「ヘンゼルとグレーテル」をモチーフにした作品。グレーテルが「ヤンキー」という設定が面白いです。食料品の卸元が、髪に野菜のなる野菜人間だったり、自分の肉を切って売る巨大なブタだったりと、細部の設定も手が込んでいます。
 水野純子作品には珍しく「毒」が少ないので、一般にもお勧めしやすい良作。



4821199149人魚姫殿
水野 純子
ぶんか社 2001-12

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『人魚姫殿』(ぶんか社) 美しい人魚の三姉妹は、海の漁師を誘いこんで殺しては、その肉を食べていました。長女のトゥーラは、母親を殺されて以来、人間に深い恨みを抱いていたのです。次女のジュリーはそんな生活に疑問を覚えていましたが、ある日、人間の男である末吉に出会い、恋に落ちます。しかし、末吉はジュリーたちの母親を殺した内海一族の人間だったのです。姉の反対も押し切り、彼と駆け落ちしたジュリーは、人間になろうとしますが…。
 「人魚姫」をモチーフにした作品。「人魚姫」に依りつつも、独自の要素を上手く入れ込んだ先の読めないストーリー展開は、じつにドラマティック! 各キャラクターの描き込みも見事です。とくに、人間と恋に落ちる次女ジュリーと、憎しみに囚われた長女トゥーラの人生が対比して描かれています。
 抑えた色使いといい、大胆な構図といい、もはや「アート」の領域。さらには、哀感さえ漂う結末といい、童話三部作のみならず、水野純子作品の中でも屈指の完成度を誇る力作です。



4063645266水野純子の四畳半妖精図鑑 (KCピース)
水野 純子
講談社 2003-08

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『水野純子の四畳半妖精図鑑』(講談社KCピース) 地方から上京してきた冴えない大学生はじめ。しかし、彼が住む四畳半のアパートには、彼の知らない様々な妖精が潜んでいたのです…。
 はじめが出会う様々な妖精を見開きで紹介するという、アート的要素の高い作品です。ただし妖精と言っても、「こたつの妖精」とか「エロ本の妖精」とか「トランクスの妖精」など、本来妖精とは結びつかないようなキッチュなものが多いのが特徴です。
 毎回巻頭に、はじめの近況が文章のみで語られるのですが、これがまた不運続きの人生。かわいらしい妖精たちのページとの極端な対比をなしています。面白いのは、妖精たちは、主人公に直接接触するわけではないところ。主人公は妖精たちの存在に全く気が付いていないのです。



4757713150ファンシージゴロ ペル (1) Beam comix
水野 純子
エンターブレイン 2003-03

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『ファンシージゴロ・ペル』(エンターブレイン Beam comix) 「姫コトブキ星」に住むのは、みな美しい「姫コトブキ星人」。しかし主人公ペルだけは、みなと違っていました。自分が「内臓」だけの特異な生物だと知ったペルは、自分の赤ちゃんを生んでくれるお嫁さんを探して地球に向かいます…。
 地球に嫁探しにきた異星人、という連作コメディなのですが、ペルが遭遇するのは「身も蓋もない現実」ばかり、というところが類似作品と異なる点でしょう。初恋の女性には恋人がいるし、家を追い出されてホームレスになるし、と散々な苦難の毎日。毎回ペルの恋は挫折してばかりなのです。彼はお嫁さんを見つけられるのでしょうか?
 冒頭から苦難続きのペルの人生なのですが、後半の展開はそれに輪をかけて「悲惨」の連続です。親友のホームレスのおじさんは死んでしまうし、薬物中毒になって生死の境をさまようし、結末に至っては信じられないような最悪の結果が…。
 そんな「悲惨」なストーリーにもかかわらず、暗くならないのは、主人公ペルの楽天的なキャラクターと明るい絵柄でしょう。一般読者を想定したと思しく、非常にエンタテインメント性に富んだ展開も、読みやすさの一因ですね。


 水野純子の作品はどれも、そのかわいらしい絵柄とは対照的に、非常に「毒」をはらんだものが多数を占めています。グロテスクな描写も、残酷な話も多いです。その点、作品は一種のファンタジーでありながらも、「幻想」に逃げないファンタジーを描く作家、といっていいかもしれません。読者を選ぶ作家であるとも言えますが、一度その魅力にはまると、病み付きになりそうな作家でもあります。
 現実に傷付きやすい、繊細な人にこそ読んでいただきたい作家ですね。

テーマ:コミック - ジャンル:本・雑誌

匿名のイメージ化  コミック星新一『午後の恐竜』『空への門』
4253104606コミック☆星新一午後の恐竜
星 新一 志村 貴子 小田 ひで次
秋田書店 2003-06

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4253104614コミック☆星新一空への門
星 新一
秋田書店 2004-07-15

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 ショート・ショートの代名詞的存在である作家、星新一。彼の作品は、教科書にも載るほどの人気と知名度を持っています。
 そんな星作品の漫画化という、ありそうでなかった企画がこの二冊『午後の恐竜』『空への門』(ともに秋田書店刊)です。どちらも、複数の漫画家が、それぞれ短篇やショート・ショートを漫画化するという競作の形をとっています。
 まずはそれぞれの収録内容を紹介しましょう。

 『午後の恐竜』
 『ボッコちゃん』JUN
 『金色のピン』川口まどか
 『天使考』木々
 『殺し屋ですのよ』かずはしとも
 『おーい、でてこーい』鯖玉弓
 『午後の恐竜』白井裕子
 『現代の人生』有田景
 『生活維持省』志村貴子
 『夜の事件』小田ひで次
 『箱』小田ひで次

 『空への門』
 『空への門』鬼頭莫宏
 『鏡』羽央
 『患者』東山むつき
 『冬の蝶』阿部潤
 『処刑』阿部潤
 『程度の問題』人見茜
 『宿命』川口まどか
 『ゆきとどいた生活』鈴木志保

 あまたある星新一作品の中でも、人気のあるものが集められている感じですね。とくに『ボッコちゃん』『おーい、でてこーい』『午後の恐竜』『ゆきとどいた生活』などは、超のつく名作といってもいいと思います。
 有名な作品ばかりなので、あえてあらすじは紹介しませんが、印象に残ったものについて、いくつか記しましょう。
 『午後の恐竜』収録作品では、小田ひで次の2作品が出色。『夜の事件』では、地球侵略に現れるエイリアンたちが、ユーモアたっぷりに表現されていて、愉しい作品になっています。『箱』は、原作自体が余韻のある寓話なのですが、それを見事に具体化しています。この方の絵柄は、ある種、泥臭いといっていいぐらいなのですが、それが上手く原作とマッチして「暖かさ」や「懐かしさ」を出すのに成功しています。
 『空への門』収録作品では、『鏡』に登場する「悪魔」が、かなりグロテスクに造形されているのが印象に残ります。いちばんよかったのは、阿部潤の『処刑』でしょうか。画風はリアルタッチなのですが、追いつめられた主人公の感情を、非常に上手く表現しています。
 両書とも、作品のストーリーやプロットの完成度は保証されているので、原作のあらすじを知らない人が読めば、どれも面白く読めるでしょう。
 その点、原作をすでに読んでいる人にとっては、ちょっと物足りない面もあります。作品の筋を知っているだけに、漫画化の際の表現や演出などに、しぜんと意識が向かうのですが、無難にまとまってしまっている作品が多いな、という印象を受けてしまうのです。
 もともと星作品の特徴は、時代を感じさせる風俗や風景を描かない、というところにあります。作品が古びるのを防ぎ、普遍性を作品に与えようと意識的になった結果、登場人物も抽象化されているわけです。「エヌ氏」に代表される登場人物は、どれもみな年齢や容貌など、具体的なイメージが極力排されていることからも、それはわかります。
 抽象性、匿名性を強調されている星新一作品を漫画化(具体的なイメージ化といっていいかもしれません)すること自体に、かなり無理があるわけで、そういうことを考え合わせると、それなりに成功しているとはいえるでしょう。
 とりあえず、原作を読んでから漫画化作品を読むと、あらためて原作の凄さ、面白さがわかりますし、漫画化された作品の工夫も感じられると思います。原作と合わせてお読みになることをお勧めしておきます。

テーマ:オススメ本 - ジャンル:小説・文学

こわい絵  『アントワーヌ・ウィールツ』
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アントワーヌ・ウィールツ
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 先日記事にも取り上げた『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』を読んでいたときのこと。表題作のローダ・ブロートン『鼻のある男』のなかで、気になる記述がありました。
 主人公の新婚夫婦は、旅行中なのですが、ある日、ブリュッセルの美術館に出かけます。

 今日はヴィーツの絵を見に行った。読者はごらんになったことがあるだろうか。比較的少数の人にしか知られていないけれど、もし読者がこの世のものとも思えないようなホラーに興味をお持ちならーもしホラーの数々を心ゆくまで鑑賞したいのなら、急いでここへ来られるといい。指定されたのぞき穴から、ぼくたちはおぞましいコレラ患者の絵を見た。死者と間違えられて生き埋めにされた男が、棺桶の蓋を上げ、幽霊のような顔を見せて、まつわりついた布の下から土気色の両手を伸ばしている。

20070106233149.jpg 訳注もないし、表記が「ヴィーツ」になっていますが、これはベルギーの画家アントワーヌ・ウィールツのことでしょう。怪奇小説三大巨匠のひとり、M・R・ジェイムズもエッセイのなかで、この画家を褒めていた記憶があります。怪奇小説を生業とする彼らが、この画家を誉めるのも、理由のないことではありません。この画家の作品、恐怖や狂気の描写力が半端ではないのです。子供に見せたらトラウマになりそうなぐらい、陰鬱なものも中にはあります。とにかく「こわい絵」なのです。
 幸いにも日本版の画集が、一冊だけですが、出ています。今回はその『アントワーヌ・ウィールツ』(デザインエクスチェンジ)について紹介しましょう。
20070106233219.jpg 19世紀前半に、ベルギーに生まれたウィールツは、最初はアカデミックな神話画や歴史画を描くことによって世に出ました。その成功に気をよくした彼は、パリに出ますが、思ったような成功を得られず、ベルギーに戻ります。政府から援助金を得た彼は、その後、死や狂気、残酷なものを扱った作品ばかりを描き続けるようになり、そのため晩年まで一般的な評価は得られませんでした。
 流派的には、自然主義や印象派に対抗するようにして勃興した、いわゆる象徴主義に分類される画家です。ウィールツの場合、象徴主義というよりも、ほとんど悪魔主義と言うに近いほど、暗く残酷な題材を扱っています。思えば、初期の神話画を見ても、トーンは暗く、登場人物の驚愕の表情には、後年の作風を予感させるものがあります。
 さて『鼻のある男』からの引用にある絵は、そのものずばりのタイトルである『早すぎた埋葬』。怪奇映画の一シーンを思わせる、扇情的ながらインパクトあふれる絵です。
20070106233201.jpg 自殺のシーンを象徴的に描いた『自殺』は、暗鬱な雰囲気ながら、惹かれるものがあります。自殺する男の両隣りにいるのは、ほくそ笑む悪魔と嘆き悲しむ天使なのでしょうか。
 作品自体のテーマは陰鬱ながら、ウィールツの描く女性にはかなり魅力があります。『麗しのロジーヌ:ふたりの乙女』に登場する裸婦も、コケットリーで魅力的です。澁澤龍彦の美術評論でもとりあげられていましたので、ご存じの方もいるかもしれません。内容は、若さや美はいずれ滅びる、という伝統的な画題を扱ったもの。ひとりはともかく、タイトルにあるもうひとりの乙女は、すなわち骸骨、であるわけです。
 ウィールツには、『火傷の幼児』とか、狂気に陥った母親が子供を殺す『飢えと狂気と犯罪』とか、とんでもなく残酷な作品もあるのですが、あまりに強烈なので画像をアップするのはやめました。興味のある方はネットで探してみてください。
101匹死んだ猫大行進  サイモン・ボンド『死んだ猫の101の利用法』
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B000J7UVNA死んだ猫の101の利用法 (1981年)
二見書房 1981

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 自殺するうさぎを描いたブラック・ユーモア漫画集『自殺うさぎの本』と、その続編『またまた自殺うさぎの本』(ともにアンディ・ライリー著 青山出版社)は、大変に面白い作品でした。一部で話題を呼んでいるようで、ファンとしては嬉しいかぎり。二冊セットでクリスマス限定バージョン(『自殺うさぎの本 死ぬほどXmasパッケージ』)なんてのも出ているようですね。クリスマスプレゼントには、ちょっとブラックすぎるような気もしますが、なかなか洒落ています。
20061203190636.jpg さて、本題。今回は『自殺うさぎ…』の元祖ともいえる漫画集、サイモン・ボンド『死んだ猫の101の利用法』(二見書房)を紹介しましょう。タイトルからもわかるように、死んだ猫を徹底的に「モノ」として再利用する…というコンセプトのブラック・ユーモアにあふれた漫画集です。
20061203190532.jpg 日常生活に使う道具を「猫」と置き換えたらどうなるか?というのが基本的なスタンスなのですが、これがまた極端に即物的なのが特徴です。敷物として使う、なんてのは誰でも思い付きそうなネタですが、その後はどんどんエスカレートしていきます。ダーツの矢として使う、とか、書見台として使う、鉛筆立てとして使う、ローラースケートとして使う、テニスのラケットとして使う、など、多種多彩。
 一番笑えたのは「小鳥の巣箱」として使う、というもの。
 漫画なので、当然、材質とか機能性とかは全く無視しています。そのため、えっ、こんなものまで? と驚くような使い方がされていて、楽しめます。
20061203190714.jpg 『自殺うさぎ…』も、うさぎ好きの人は怒るかも、という感じがしましたが、それ以上に、この本は、猫好きにはきついかもしれません。実際、この本に怒って『死んだ人間の101の利用法』(フィリップ・リーフ著 二見書房)という漫画集を出してしまった人もいるほど。こちらの本は、猫が人間を「モノ」として使う、という漫画集。ちなみに、こちらの本は『死んだ猫…』ほど、洗練されていなくて、面白みに欠けます。
 残念なことに、この『死んだ猫の101の利用法』、現在、絶版になっています。『自殺うさぎ…』に関連づけて、復刊すれば、けっこう売れると思うんですけどね。
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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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