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孤独と復讐  ステフェン・ギルバート『ウイラード』
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 ステフェン・ギルバート『ウイラード』(村社伸訳 角川文庫)は、孤独な青年が飼育したネズミを利用して犯罪に手を染めていく…というサスペンス作品です。

 かって社長だった父親のもと裕福な生活を送っていた「ぼく」は、父の死後零落し、かっての父の部下ジョーンズのもとで、一事務員として働いていました。家にネズミが出るということで、母親から駆除を頼まれた「ぼく」は罠をしかけますが、哀れみから彼らの命を助けます。
 「ぼく」になつくようになったネズミたちの中で、飛び切り知能の高い特殊なネズミが生まれ、「ぼく」は、そのネズミに「ソクラテス」と名付け特別に躾けます。やがて「ソクラテス」は仲間を率いて集団で行動するようになります。
 経済的に行き詰った「ぼく」はネズミたちを使い、食料や金を奪うようになりますが…。

 物語が始まった段階で、主人公の青年は非常に虐げられた環境に置かれています。家は経済的に没落しており、それにも関わらず母親のプライドから広大な屋敷は手放さずにいます。また父親のかっての部下ジョーンズは、主人公に対して屈折した感情を抱いており、安月給でこきつかっているのです。
 友人や恋人もいない主人公は、知能の高いネズミ「ソクラテス」と出会い、彼を親友とも思うようになります。やがて「ソクラテス」がネズミの群れをコントロールできることがわかると、彼らを使って盗難を繰り返すようになるのです。

 あらすじや表紙からは、ネズミが人間を襲うホラーのような印象を抱きがちなのですが、そういう感じではありません。確かに人間を襲うシーンもあることはあるのですが、それは一部で、大部分は屈折した青年がネズミとともに社会に復讐していく…という内容で占められています。
 その意味で、全体としては「ピカレスク小説」的な要素が強い作品だと思います。また、青年の犯罪計画の他、ネズミの飼育や躾けに対する試行錯誤、ネズミ飼育を周りに隠していることに対するサスペンスなど、いろいろ読みどころがあります。

 クライマックスに至るとホラー味もかなり強くなってくるので、ホラー小説として読んでも楽しめる作品かと思います。動物が人を襲うという、いわゆる「動物パニックもの」作品の中でも、ちょっと毛色の変わった作品で、一読の価値ある作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

幽霊探偵 in 1953
 死んでしまった主人公が幽霊となって(生き返って)、自分を殺した犯人を探すという、いわゆる「幽霊探偵もの」作品。現在ではそれほど珍しいテーマではありませんが、このジャンルの先駆的な作品とされる三作が、奇しくも全て1953年に発表されています。
 同じようなテーマを扱いながらも、その取扱い方にはそれぞれ工夫がされており、読み比べてみると、なかなか面白いものがあります。それぞれ紹介していきましょう。


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J・B・オサリヴァン『憑かれた死』(田中小実昌訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
 タワー・シティの新聞でコラムニストとして名を馳せたピーター・パイパーは、ある夜自宅で飲んでいたところ、拳銃で射殺されてしまいます。しかし、その直後ピーターは自分が幽霊となって自分の体のそばに倒れていることに気付きます。
 犯人の顔を見ていなかったピーターは、自分を殺した犯人を見つけようと、家族や知り合い、警察の捜査などを観察して回ることになりますが…。

 幽霊が探偵するという、いわゆる「幽霊探偵」もの作品なのですが、1953年発表と、このテーマのものとしては非常に速い作例ですね。
 語り手ピーターは幽霊なので、物理的に何かを動かすこともできませんし、生者に話しかけることもできません。その意味でただ事態を傍観するだけの語り手ではあります。
 探偵役は別におり、ピーターの未亡人マリオンが捜査を依頼したスティーヴ・シルクという私立探偵、そして警察のタルボット警部が同時進行で捜査を行うのを、ピーターが見ていく…という構成になっています。

 面白いのは、この未亡人マリオンが非常に魅力的な女性で、タルボット警部と恋仲だったところをピーターの出現によって引き裂かれたという過去があるところです。ピーターとの仲が冷えていたマリオンが作った愛人フォウセットが殺人の容疑者となったことから、タルボットはフォウセットに憎しみを抱き、フォウセットを追い詰めていきます。それに危惧を抱いたマリオンは私立探偵シルクに依頼をすることになるのです。そしてシルクもまたマリオンに惹かれつつある…という設定。
 他にもマリオンの妹ベテイと彼女に恋する青年デレック、パイパー家の居候マーチン、ピーターの浮気相手ミッシェルなど、複雑な人間関係が事態を混乱させていきます。語り手のピーターもまた、それらの人間関係のドラマを見ながら、自らの人生について振り返るようになっていく…という人間描写の面白さがありますね。

 作品のトーン自体は私立探偵シルクを主人公としたハードボイルド調です。ただ、そこに幽霊の語り手というファンタジー的な要素を入れているにもかかわらず、作品のカラーが崩れていないのが面白いですね。そもそも幽霊とはいいながら、物理的に移動しなければ、他の場所の様子は窺えないし、幽霊だからといって、人の内面がわかるわけではありません。その意味で、ファンタジー的な要素を採用していても、そこに頼っていないしっかりした描写力の感じられる作品になっています。
 これは今でも読む価値のある作品といっていいのではないでしょうか。



死後 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 433)
ガイ・カリンフォード『死後』(森郁夫訳 ハヤカワ・ミステリ)
 世間の評価も高い作家ギルバート・ワースは、ある日、身内の人間が自分に対して殺意を抱いていることを知ります。最初に気がついたのは、階段の電球が切れ掛かっていることと、転びそうな場所におはじきが置いてあったこと。そして二度目は毒入りの牛乳でした。
 どちらも何を逃れたものの、最終的には書斎でうたた寝をしていたギルバートが気がつくと、目の前には拳銃で頭を吹き飛ばされ死んでいる自分の体がありました。幽霊になってしまったギルバートは、自分を殺したのが誰なのか、家族や知り合いの人間の様子を探ることになりますが…。

 幽霊になった男が探偵となって、自分を殺した犯人とその理由を探し求める…という物語です。ただこの作品、ミステリの叢書に入ってはいるものの、殺人の謎を論理的に解いていくというような感じではありません。
 語り手が幽霊となったことによって、人前では見せない人間の隠された本性を暴き立てていく…というような感じが近いでしょうか。イギリス作家らしい、皮肉なタッチのブラック・ユーモア小説となっており、メインは人間観察の面白さということになると思います。

 幽霊となった主人公ギルバートにしてから、利己的で尊大で自信家、あまり好きになれない人物ではあるのですが、ギルバートの殺人容疑者というべき家族や使用人、友人たちもまた、誰一人欠点を持たない人間はいないとばかり、ブラックな人物描写がなされていくのが特徴です。
 感情をほとんど表さない冷たい妻シルヴィア、作家志望の享楽主義者の長男ジュリアン、聖職者を目指す偽善者の次男ロバート、母親思いながら感情的な娘ジュリエット、ギルバートの愛人兼秘書の奔放なロジーナ、シルヴィアに横恋慕する友人ケントなど、登場人物はくせものばかり。使用人たちにしても、主人を悪く言うものばかりで、容疑者が絞り込めないぐらいであるのです。
 ギルバートの死後、家族たちの間で複雑な人間関係が起こりますが、特に目立つのはロジーナをめぐってのあれこれ。彼らの軋轢と葛藤を追うだけでも非常に面白い物語になっています。

 この『死後』、同テーマの作品であるJ・B・オサリヴァン『憑かれた死』と比較しても、なかなか個性が強い作品になっているように思います。面白いのはオサリヴァン作品の幽霊がわりと無色なナレーターであるのに対して、カリンフォード作品では、語り手の個性が強いことです。
 語り手ギルバートが非常に皮肉屋なのですが、そのシニカルな視線によって、人物たちがデフォルメされていきます。ただ、ギルバートが人々の動向を見ていくうちに、ある人間の善良な部分やそれまで気がつかなかった本音が垣間見れたりするところも面白いですね。

 犯人探しという意味では、わりとあっさりと決着がついてしまうのではありますが、思ってもみなかった展開があり、家族の葛藤が変わった形で解決される…というのも面白いところです。
 皮肉の効いた、文学性高めのブラック・ユーモア小説として一読に値する作品だと思います。



51番目の密室〔ハヤカワ・ミステリ1835〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
C・B・ギルフォード「探偵作家は天国へ行ける」(宇野利泰訳 石川喬司編『世界ミステリ全集18 37の短篇』早川書房 収録)
 52歳の有名な探偵作家アリグザンダー・アーリントンが気がつくと、彼は天国におり、天使長ミカエルと相対していました。てっきり心臓発作で死んだと思っていたアリグザンダーは、ミカエルから自分のs死因は殺人だと告げられショックを受けます。
 犯人がわからなければ天国には行けないというアリグザンダーに対し、ミカエルは、殺される前の12時間をもう一度過ごす機会を与えますが…。

 J・B・オサリヴァン『憑かれた死』、ガイ・カリンフォード『死後』と並び、1953年に発表された「幽霊探偵もの」の嚆矢となる作品です。
 この作品の場合、主人公はもう一度生き返っているので、厳密に言うと「幽霊探偵もの」とは言いにくいかもしれません。
 ただ、最終的に殺されると言う運命は逃れられないとされており、主人公ができるのは犯人を特定するために捜査をすることだけなのです。またその行動も大きく「運命」を外れることはできない…という設定も面白いところです。

 主人公の周りの人物が皆動機を持っている人物ばかりで、容疑者を絞り込むのが難しくなってきますが、ちゃんと論理的に犯人が特定されるなど、ミステリとしての枠はしっかりしています。
 主人公の行動を監視するミカエルから何度も電話がかかってくる、というのもユーモアたっぷりで楽しいですね。

 この「探偵作家は天国へ行ける」『37の短篇』から再編された二冊のアンソロジーの一つ『天外消失 世界短篇傑作集』(ハヤカワ・ミステリ)で、今でも読むことができます。



こわい部屋―謎のギャラリー (ちくま文庫)
ブライアン・オサリヴァン「お父ちやん似」(高橋泰邦訳 北村薫編『謎のギャラリー こわい部屋』ちくま文庫 収録)
 9つの少年の「ぼく」は近所の7つの少年マイケル・メイアーと仲良くしていました。マイケルの母親が病死したことから、「ぼく」の両親はマイケルの面倒を度々見ることになります。
 マイケルの父親メイアーが、見るからに体調を崩していくなか、ある日「ぼく」と遊んでいたマイケルはカウボーイごっこの最中に首吊りの輪を作り始めますが…。

 ついでに、J・B・オサリヴァンの息子ブライアン・オサリヴァンが9歳の時に書いたということで有名な短篇も紹介しておきましょう。
 子供の視点が上手く使われています。9歳で書いたとは思えないほど、完成された作品ですね。アンソロジーの『こわい部屋』に収録されていることからも予想がつくように、ちょっと「こわい」話でした。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

はじめまして
 はじめまして。このブログでは、自分が読んで面白かった本やCDを紹介したいと思います。まだ始めたばかりで、使い方がよくわからないので、その点はご容赦ください。今回は最初なので、僕の読書傾向を少し書きたいと思います。
 子どものころから、長編は苦手で短編集ばかり読んでいました。初めて読んだものから50冊くらいは、全部短編集だったんじゃないでしょうか。そして出会ったのが、早川書房の異色作家短編集です。この叢書の中では、ロアルド・ダールやスタンリイ・エリン、シャーリィ・ジャクスンなどを上位にあげる人が多いようですが、僕はロバート・ブロックやリチャード・マシスンといった作家の方が好みです。ダールやエリンのような、わかる人にはわかる、というハイブロウな味よりも、起承転結のはっきりした物語性の強い作品の方が好きなんですね。もちろんダールやエリンも好きですが。
 最近では、短編の復権の傾向があり喜んでいます。河出書房の奇想コレクションだとか、晶文社の晶文社ミステリなどは、往年の異色作家短編集を彷彿とさせる企画ですね。本家の異色作家短編集も復刊が始まっていて、一昔前の状態を考えると夢のようです。デイヴィッド・イーリイの単行本未収録の作品を読むために、ミステリマガジンのバックナンバーを一生懸命集めた日々が思い出されます。今ではイーリイは二冊も短編集が編まれていて、雑誌に埋もれた作品はあまり残っていないようですが。あとミステリマガジンで読んだ作家といえば、これも最近単行本が出たジャック・リッチーもいいですよね。多分単行本にはならないだろうけれど、いい作家はたくさんいます。ロバート・マクニア、ミリアム・アレン・デフォード、ジェイムズ・パウエルなど。そのうち雑誌に埋もれた作品の紹介もしたいと思いますので、どうぞよろしく。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(盛林堂書房さんでの通販分は完売。2019年11月に開催の「文学フリマ東京」にて少数ですが販売予定です)。
2019年10月に作成した「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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