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奇想の歴史を読む  井波律子編訳『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』

中国奇想小説集
 井波律子編訳『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』(平凡社)は、六朝時代から清代まで、およそ1500年間にわたって書かれてきた中国の奇想・幻想小説を集めたアンソロジーです。
 各時代からそれぞれ作品を選び、その作品や時代背景についての解説がつくという丁寧な作り。また特筆すべきは、収録作品が選ばれている時代の広さです。中国の特定の時代の作品を集めた作品集は過去にもあったと思いますが、これだけ時代を広く取った、総合的な中国幻想小説アンソロジーは初めてではないかと思います。

 一部を除き、どれも短くて短時間で読めるものが多いです。古典的な幻想物語のほか、非常にシュールでナンセンスな味わいの作品も多いですね。人間がどんどんと入れ子状に別の人間を吐き出すという「籠のなかの小宇宙」(呉均)、神にボール代わりに蹴られ続けるという「胡求鬼の球と為りしこと」(袁枚)などは、ナンセンスの極みで非常にモダン。このナンセンス味、小説として洗練されてきた時代の作品ゆえかと思いきや、4世紀という早い時代の「捜神記」(干宝)から採られた話でも、勧善懲悪や因果応報とは異なったセンスの話があったりするのだから、すごいものです。

 また中国幻想小説に共通する特徴として、怪異や別世界がひどく「人間的」に描かれるというものがあります。動物や花の化けた美女との恋愛があるかと思えば、死者や仙人たちとの交流もあるという具合。
 登場する幽霊や死者たちもひどく人間的で、彼らに応対する生者たちも、ほとんど生きた人間と変わらずに接するのが面白いですね。それゆえ、幽霊も日本のそれほど「怨念」を感じさせないものが多いです。例えば、日本では翻案として普及した幽霊物語「牡丹灯記」(瞿佑)。
 幽霊の美女に取り殺されてしまうという怪談なのですが、日本のものに比べてかなり陰惨さが薄いのですよね。他の作品も同様で、日本の怪談に比べて随分陽性なのが面白いところです。

 集中で一番長く読み応えがあるのは「白娘子永えに雷峰塔に鎮めらるること」(馮夢龍)でしょうか。美女に化けた白蛇が人間の男に恋をするという話なのですが「怨念」や「愛執」の話というには、いささかユーモラス。男が裁判に巻き込まれると美女の方は逃げ出してしまうのだから、笑ってしまいます。

 巻末に収められた「少女軽業師の恋」(宣鼎)は、19世紀の作品ということもあり、現代小説といっていい内容の作品です。
 軽業師の少女が、愛した男のために盗みや殺人など極悪行為に手を染めるという作品。この少女のキャラクターが強烈で、その極端な愛情に男もだんだん怖くなる…という展開です。

 広い時代からのバラエティに富んだ作品を集めた非常に面白いアンソロジーです。ユートピアを描いた「桃花源」(陶潜)、「邯鄲の夢枕」の故事のもとになった「枕中記」(沈既済)、幽霊物語「牡丹灯記」(瞿佑)などの古典としても有名な作品が入っているかと思えば、『聊斎志異』(蒲松齢)、『子不語』(袁枚)、『閲微草堂筆記』(紀昀)といった有名な怪異小説集からの抜粋、また現代に近い時代の作品まで、中国怪奇幻想小説の流れをコンパクトに一望できる作品集だと思います。



中国幻想ものがたり (あじあブックス)
 ちなみに『中国奇想小説集』の副読本としてお薦めしたいのが、同じく井波さんの著書『中国幻想ものがたり』(大修館書店あじあブックス)です。中国の幻想小説を<夢><恋><怪異>をキーワードに紹介した好読物になっています。
 様々な古典幻想小説のあらすじがテーマごとに紹介されていて、非常に面白い読物です。『中国奇想小説集』よりも詳細に、作品や時代、テーマなどについて語られているので、併読すると一層興趣が増すかと思います。
 どのテーマも面白いのですが、特に興味深いのが「夢の巻」。同じ「夢」を扱った話でもこれだけバラエティがあるんだ、と感心してしまいますね。
 目次を紹介しておきます。

夢の巻
1 古代の夢ものがたり
2 宝島の夢
3 分身の夢
4 夢のなかの夢
5 恋の夢
6 邯鄲の夢
7 交換の夢
8 龍宮の夢
9 転生の夢
10 異類婚の夢
11 架空旅行の夢
12 夢の文法

恋の巻
1 古代の夢
2 報われぬ恋
3 恋の追跡
4 恋の追跡(続)
5 恋のとりちがえ
6 遊里の恋
7 恋の狂言まわし
8 恋の狂言まわし(続)
9 恋する男装の麗人
10 侠女の恋
11 不在の恋
12 英雄たちの恋

怪異の巻
1 器物の怪
2 花の怪
3 虎の怪
4 狐の怪
5 狐の怪(続)
6 雷の怪
7 幽霊たちの戯れ
8 憑依の怪
9 女仙の変遷
10 快足の怪物
11 冥界往還
12 絵姿美人の怪

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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