忌まわしき祭礼  トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』
悪魔の収穫祭〈上〉 (角川文庫)悪魔の収穫祭〈下〉 (角川文庫)
 広告会社の重役ネッドは仕事に疲れ、たまたま見つけた田舎の村コーンウォール・クームに、妻と娘とともに移住することになります。牧歌的と見えた村の生活ですが、やがてそこに住む人々は因習に囚われており、文明の利器に対しても否定的だということがわかってきます。
 村には、村人たちの主な生業である、とうもろこしに関する収穫祭があり、その祭りでは「とうもろこし王」と「とうもろこし姫」が決められます。「とうもろこし王」に選ばれれば、いろいろな恩恵を受けられるというのです。しかし前回の「とうもろこし王」は事故で死んでおり、その婚約者も自殺しているといいます。不審に思ったネッドは、情報を得ようと、村人たちから話を聞こうとしますが、なぜか人々ははっきりとした話をしてくれません…。

 トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』(広瀬順弘訳 角川ホラー文庫)は、閉鎖的な村を舞台にじわじわと恐怖を盛り上げてゆく、モダンホラー作品です。
 作品の前半は、主人公ネッドたちが暮らす村の生活と人々との交流が描かれます。劇的な事件は起こらないものの、村全体が非常に保守的で閉鎖的だということが詳細に描写されていくのです。医者や警察といった公権力はまともに働いておらず、人々は昔から変わらない農業に従事しています。農業にトラクターを導入することさえ反対するという保守的な村人たち。
 医者のいないこの村では、ウィドー・フォーチュンと呼ばれる年配の女性が、医療や祭事をとりしきっています。ウィドー・フォーチュンが、喘息で死にかけた主人公の娘の命を助けたことから、妻と娘は村に溶け込んでいきます。
 隣人の女性との浮気めいた話をきっかけに、夫婦の信頼感も崩れていくなか、ネッドは村やその祭事に不信感を持ち、過去の事件の聞き込みを始めます。前回の「とうもろこし王」はどのように死んだのか? 「とうもろこし姫」はなぜ自殺に追い込まれたのか?
 やがて村に伝わる祭事のいまわしい秘密が明らかになっていくのです。

 1973年の作品なのですが、正直、村の秘密や祭事の真相は、現代の読者からすると、それほど強烈なものではありません。ただ、表面上、木訥で親切に見えた村人たちの本心がわかる後半の不気味さは比類がありません。村人たちの間の反目や対立などが、実際は目に見えていた通りではなく、まるで違っていたことがわかるのです。
 序盤から散りばめられた細かな伏線が、結末に至って結びつくという、練られた構成であり、完成度の非常に高い恐怖小説です。

 ちなみに、作者のトマス・トライオン(1926-1991)は元俳優で、何冊かの著作を残しました。邦訳されている中でホラーに属する作品は、この『悪魔の収穫祭』の他にもう一冊『悪を呼ぶ少年』(深町眞理子訳 角川文庫)があります。こちらもかなりの傑作です。

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ラヴクラフト『文学と超自然的恐怖』邦訳リスト
4480430113幻想文学入門―世界幻想文学大全 (ちくま文庫)
東 雅夫
筑摩書房 2012-11-01

by G-Tools

 H・P・ラヴクラフトについての読書会用に作成した資料なのですが、せっかく作ったので公開したいと思います。
 H・P・ラヴクラフト『文学と超自然的恐怖』は、ラヴクラフトが実際に読んだ怪奇幻想小説を紹介してゆくという、ブックガイド的なエッセイです。その中から、邦訳があるもののみをリストアップして、邦訳文献を併記しました。

※テキストは、植松靖夫訳(東雅夫編『世界幻想文学大全 幻想文学入門』ちくま文庫収録)を使用しました。
※邦訳があるもののみのリストです。
※書名は、『文学と超自然的恐怖』の表記ではなく、邦訳されているタイトルを使用しています。


ダニエル・デフォー(1660-1731)
『ミセス・ヴィールの幽霊』(平井呈一訳 平井呈一編『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)

ホーレス・ウォルポール(1717-1797)
『オトラント城奇譚』(平井呈一訳 荒俣宏/ 紀田順一郎編『怪奇幻想の文学3 戦慄の創造』新人物往来社収録)

クレアラ・リーヴ(1729-1807)
『イギリスの老男爵』(井出弘之訳 国書刊行会)

ヨーハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)
『コリントの許婚』(竹山道雄訳 須永朝彦編『書物の王国12 吸血鬼』国書刊行会収録)

ウイリアム・ゴドウィン(1756-1836)
『ケイレブ・ウイリアムズ』(岡照雄訳 白水U ブックス)

ウイリアム・ベックフォード(1760-1844)
『ヴァテック』(私市保彦訳 国書刊行会)

アン・ラドクリフ(1764-1823)
『イタリアの惨劇』(野畑多恵子訳 国書刊行会)

サー・ウォルター・スコット(1771-1832)
『老吟遊詩人ウィリーの物語』(鈴木英夫訳 小池滋/ 富山太佳夫編『悪魔の骰子』国書刊行会収録)

チャールズ・ブロックデン・ブラウン(1771-1810)
『ウィーランド』(志村正雄訳 国書刊行会)
『エドガー・ハントリー』(八木敏雄訳 国書刊行会)

マシュー・グレゴリー・ルイス(1775-1818)
『マンク』(井上一夫訳 国書刊行会)
『古城の亡霊』(上坪正徳訳『ゴシック演劇集』国書刊行会収録)

ジェーン・オースティン(1775-1817)
『ノーサンガー・アビー』(中野康司訳 ちくま文庫)

フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケ(1777-1843)
『水の精(ウンディーネ)』(識名章喜訳 光文社古典新訳文庫)

チャールズ・ロバート・マチューリン(1782-1824)
『放浪者メルモス』(富山太佳夫訳 国書刊行会)

フレデリック・マリヤット(1792-1848)
『人狼』(宇野利泰訳『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)

オノレ・ド・バルザック(1799-1850)
『神と和解したメルモス』(私市保彦/ 加藤尚宏編『バルザック幻想・怪奇小説選集3 呪われた子・他』水声社収録)
『あら皮 欲望の哲学』(小倉孝誠訳 藤原書店)
『セラフィタ』(沢崎浩平訳 国書刊行会)
『ルイ・ランベール』(私市保彦訳『神秘の書』水声社収録)

ワシントン・アーヴィング(1783-1859)
『ドイツ人学生の冒険』(志村正雄訳 志村正雄編『米国ゴシック作品集』国書刊行会収録)

メアリ・シェリー(1797-1851)
『フランケンシュタイン』(森下弓子訳 創元推理文庫)

ヴィルヘルム・マインホルト(1797-1851)
『琥珀の魔女』(前川道介/ 本岡五男訳 創土社)

ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)
『氷島奇談』(島田尚一訳『世界の文学7』中央公論社収録)

エドワード・ブルワー=リットン(1803-1873)
『幽霊屋敷』(平井呈一訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)
『不思議な物語』(中西敏一訳 国書刊行会)
『ザノーニ』(富山太佳夫/ 村田靖子訳 国書刊行会)

プロスペル・メリメ(1803-1870)
『イールのヴィーナス』(杉捷夫訳 東雅夫『世界幻想文学大全 怪奇小説精華』ちくま文庫収録)

エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)
『壜のなかの手記』(阿部知二訳『ポオ小説全集1』創元推理文庫収録)
『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』(大西尹明訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫収録)
『メッツェンガーシュタイン』(小泉一郎訳『ポオ小説全集1』創元推理文庫収録)
『群衆の人』(中野好夫訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫収録)
『赤死病の仮面』(松村達雄訳『ポオ小説全集3』創元推理文庫収録)
『沈黙』(永川玲二訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫収録)
『影』(河野一郎訳『ポオ小説全集1』創元推理文庫収録)
『リジイア』(阿部知二訳『ポオ小説全集1』創元推理文庫収録)
『アッシャー家の崩壊』(河野一郎訳『ポオ小説全集1』創元推理文庫収録)

ナサニエル・ホーソーン(1804-1864)
『大理石の牧神』(島田太郎/ 三宅卓雄/ 池田孝一訳 国書刊行会)
『牧師の黒のベール ある寓話』(坂下昇訳『ホーソーン短篇小説集』岩波文庫収録)
『野望に燃える客人』(国重純二『ナサニエル・ホーソーン短編全集1』南雲堂収録)
『七破風の屋敷』(大橋健三郎訳『世界文学大系81』筑摩書房収録)

トマス・プレスケット・プレスト(1810-1879)
『恐怖の来訪者』(『吸血鬼ヴァーニー』の抜粋)(武富義夫訳 矢野浩三郎編『怪奇と幻想1 吸血鬼と魔女』角川文庫収録)

テオフィル・ゴーチェ(1811-1872)
『化身』(小柳保義訳 店村新次/ 小柳保義編『ゴーチエ幻想作品集』創土社収録)
『ミイラの足』(小柳保義訳『変化 フランス幻想小説』現代教養文庫収録)
『死女の恋』(青柳瑞穂訳 澁澤龍彦編『怪奇小説傑作集4』創元推理文庫収録)
『クレオパトラの一夜』(小柳保義訳『魔眼 フランス幻想小説』現代教養文庫収録)

チャールズ・ディケンズ(1812-1870)
『信号手』(橋本福夫訳『怪奇小説傑作集3』創元推理文庫収録)

エミリー・ブロンテ(1818-1848)
『嵐が丘』(小野寺健訳 光文社古典新訳文庫)

ギュスターヴ・フローベール(1821-1880)
『聖アントワヌの誘惑』(渡辺一夫訳 岩波文庫)

ジョージ・マクドナルド(1824-1905)
『リリス』(荒俣宏訳 ちくま文庫)

エルクマン=シャトリアン(エミール・エルクマン(1822-1899)/ アレクサンドル・シャトリアン(1826-1890))
『見えない眼』(平井呈一訳 平井呈一編『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)
『梟の耳』(小林晋訳『エルクマン- シャトリアン怪奇幻想短編集』ROM 叢書収録)

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン(1828-1862)
『あれは何だったか?』(橋本福夫訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集3』創元推理文庫収録)
『ダイヤモンドのレンズ』(南條竹則訳『不思議屋/ ダイヤモンドのレンズ』光文社古典新訳文庫収録)

ヴィリエ・ド・リラダン(1838-1889)
『希望』(釜山健訳『最後の宴の客』国書刊行会収録)

アンブローズ・ビアス(1842-1913?)
『ハルピン・フレーザーの死』(飯島淳秀訳 荒俣宏編『アメリカ怪談集』河出文庫収録)
『怪物』(大西尹明訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集3』創元推理文庫収録)
『環境が肝心』(大津栄一郎訳『ビアス短篇集』岩波文庫収録)
『右足の中指』(飯島淳秀訳『完訳・ビアス怪異譚』創土社収録)
『幽霊屋敷』(飯島淳秀訳『完訳・ビアス怪異譚』創土社収録)

ヘンリー・ジェイムズ(1843-1916)
『ねじの回転』(蕗沢忠枝訳 新潮文庫)

ロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850-1894)
『ジキル博士とハイド氏』(夏来健次訳 創元推理文庫)
『死骸盗人』(河田智雄訳『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫収録)
『マーカイム』(高松雄一/ 高松禎子訳『マーカイム/ 壜の小鬼 他五篇』岩波文庫収録)

ブラム・ストーカー(1847-1912)
『吸血鬼ドラキュラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
『七つ星の宝石』(森沢くみ子訳 アトリエサード)

ギイ・ド・モーパッサン(1850-1893)
『オルラ』(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
『だれが知ろう?』(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
『恐怖』(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
『水の上』(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
『幽霊』(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
『狼』(青柳瑞穂訳『モーパッサン短編集3』新潮文庫収録)

ラフカディオ・ハーン(1850-1904)
『怪談』(平井呈一訳 岩波文庫)

メアリ・E・ウイルキンズ=フリーマン(1852-1930)
『壁にうつる影』(梅田正彦編訳『ざくろの実』鳥影社収録)

オスカー・ワイルド(1854-1900)
『ドリアン・グレイの肖像』(仁木めぐみ 光文社古典新訳文庫)

フランシス・マリオン・クロフォード(1854-1909)
『上段寝台』(乾信一郎訳 ロアルド・ダール編『ロアルド・ダールの幽霊物語』ハヤカワ・ミステリ文庫収録)
『死骨の咲顔』(平井呈一訳 荒俣宏/ 紀田順一郎編『怪奇幻想の文学4 恐怖の探究』新人物往来社収録)

H・R・ハガード(1856-1925)
『洞窟の女王』(大久保康雄訳 創元推理文庫)

アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)
『北極星号の船長』(北原尚彦/ 西崎憲訳『北極星号の船長』創元推理文庫収録)
『競売ナンバー二四九』(北原尚彦/ 西崎憲訳『クルンバーの謎』創元推理文庫収録)

シャーロット・パーキンズ・ギルマン(1860-1935)
『黄色い壁紙』(西崎憲訳 倉阪鬼一郎/ 南條竹則/ 西崎憲編『淑やかな悪夢』創元推理文庫収録)

クレメンス・ハウスマン(1861-1955)
『人狼』(野村芳夫訳 荒俣宏編『怪奇文学大山脈 西洋近代名作選1 19 世紀再興篇』東京創元社収録)

M・R・ジェイムズ(1862-1936)
『好古家の怪談集』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
 『マグナス伯爵』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
 『笛吹かば現われん』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
 『トマス僧院長の宝』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
『続・好古家の怪談集』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
 『バーチェスター聖堂の大助祭席』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』創元推理文庫収録)
『痩せこけた幽霊』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集2』創元推理文庫収録)
 『寺院史夜話』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集2』創元推理文庫収録)
『猟奇への戒め』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集2』創元推理文庫収録)
『五つの壷』(紀田順一郎訳『五つの壷』ハヤカワ文庫FT 収録)

ラルフ・アダムス・クラム(1863-1942)
『死の谷』(関桂子訳『ミステリマガジン1984 年8 月号』早川書房収録)

アーサー・マッケン(1863-1947)
『夢の丘』(平井呈一訳 創元推理文庫)
『パンの大神』(平井呈一訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)
『白魔』(南條竹則訳『白魔』光文社古典新訳文庫収録)
『怪奇クラブ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
 『黒い石印』(平井呈一訳『怪奇クラブ』創元推理文庫収録)
 『白い粉薬のはなし』(平井呈一訳『怪奇クラブ』創元推理文庫収録)
 『大いなる来復』(平井呈一訳『怪奇クラブ』創元推理文庫収録)
『輝く金字塔』(南條竹則『輝く金字塔』国書刊行会収録)
『赤い手』(平井呈一訳『三人の詐欺師 アーサー・マッケン作品集成2』沖積舎収録)
『恐怖』(平井呈一訳『恐怖 アーサー・マッケン作品集成3』沖積舎収録)
『弓兵・戦争伝説』(平井呈一訳『恐怖 アーサー・マッケン作品集成3』沖積舎収録)

ウイリアム・ウイマーク・ジェイコブズ(1863-1943)
『猿の手』(平井呈一訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)

R・W・チェンバース(1865-1933)
『黄衣の王』(大瀧啓裕訳 創元推理文庫)

ラドヤード・キプリング(1865-1936)
『イムレイの帰還』(橋本福夫訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集3』創元推理文庫収録)
『獣の印』(橋本槇矩訳 東雅夫編『世界幻想文学大全 怪奇小説精華』ちくま文庫収録)
『幻の人力車』(岡本綺堂訳『世界怪談名作集』河出文庫収録)

エドワード・ルーカス・ホワイト(1866-1934)
『こびとの呪い』(中村能三訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)
『セイレーンの歌』(森美樹和訳 荒俣宏/ 紀田順一郎編『怪奇幻想の文学5 怪物の時代』新人物往来社収録)
『鼻面』(西崎憲訳 荒俣宏編『怪奇文学大山脈 西洋近代名作選2 20 世紀革新篇』東京創元社収録)

M・P・シール(1865-1947)
『ゼリューシャ』(南條竹則『怪談の悦び』創元推理文庫収録)
『音のする家』(阿部主計訳 荒俣宏/ 紀田順一郎編『怪奇幻想の文学4 恐怖の探究』新人物往来社収録)

リチャード・マーシュ(1867-1915)
『黄金虫』( 榊優子 創元推理文庫)

E・F・ベンスン(1867-1940)
『遠くへ行き過ぎた男』(中野善夫訳『塔の中の部屋』アトリエサード収録)
『歩く疫病』(西崎憲訳 森英俊/ 野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』ちくま文庫収録)
『恐怖の山』(鈴木克昌訳 東雅夫編『書物の王国18 妖怪』国書刊行会収録)
『顔』(八十島薫訳『ベンスン怪奇小説集』国書刊行会収録)

グスタフ・マイリンク(1868-1932)
『ゴーレム』(今村孝訳 白水U ブックス)

アルジャーノン・ブラックウッド(1869-1951)
『柳』(宇野利泰訳 早川書房編集部編『幻想と怪奇1』ハヤカワ・ミステリ収録)
『ウェンディゴ』(夏来健次訳『ウェンディゴ』アトリエサード)
『幻の下宿人』(樋口志津子訳『死を告げる白馬 』ソノラマ文庫海外シリーズ収録)
『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』(植松靖夫訳 創元推理文庫)
 『霊魂の侵略者』(植松靖夫訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』創元推理文庫収録)
 『古えの妖術』(植松靖夫訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』創元推理文庫収録)
 『炎魔』(植松靖夫訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』創元推理文庫収録)
 『秘密の崇拝』(植松靖夫訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』創元推理文庫収録)
 『犬のキャンプ』(植松靖夫訳『心霊博士ジョン・サイレンスの事件簿』創元推理文庫収録)
『ジンボー』(北村太郎訳 月刊ペン社)
『ケンタウルス』(八十島薫訳 月刊ペン社)

アーヴィン・S・コッブ(1876-1944)
『魚頭 フィッシュヘッド』(曽田和子訳『別冊幻想文学 クトゥルー倶楽部』幻想文学会出版局収録)

H・H・エーヴェルス(1871-1943)
『アルラウネ』(麻井倫具/ 平田達治訳 国書刊行会)
『魔法使いの弟子』( 佐藤恵三訳 創土社)
『蜘蛛』(植田敏郎訳『怪奇小説傑作集5』創元推理文庫収録)

ウォルター・デ・ラ・メア(1873-1956)
『死者の誘(いざな)い』(田中西二郎訳 創元推理文庫)
『シートンのおばさん』(大西尹明訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集3』創元推理文庫収録)
『樹』(脇明子訳 由良君美編『イギリス幻想小説傑作集』白水U ブックス収録)
『深淵より』(柿崎亮訳『デ・ラ・メア幻想短篇集』国書刊行会収録)
『世捨て人』(長井裕美子訳 シンシア・アスキス編『恐怖の分身』朝日ソノラマ文庫海外シリーズ収録)
『ケンプ氏』(柿崎亮訳『デ・ラ・メア幻想短篇集』国書刊行会収録)
『オール・ハロウズ大聖堂』(橋本槙矩訳『恋のお守り』ちくま文庫収録)

ウィリアム・ホープ・ホジスン(1877-1918)
『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(野村芳夫訳 アトリエサード)
『異次元を覗く家』(荒俣宏訳 アトリエサード)
『幽霊海賊』(夏来健次訳 アトリエサード)
『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』(夏来健次訳 創元推理文庫)

ロード・ダンセイニ(1878-1957)
『驚異の書』(中野善夫ほか訳『世界の涯(はて)の物語』河出文庫収録)
『夢見る人の物語』(中野善夫ほか訳『夢見る人の物語』河出文庫収録)
『山の神々』(松村みね子訳『ダンセイニ戯曲集』沖積舎収録)
『旅宿の一夜』(松村みね子訳『ダンセイニ戯曲集』沖積舎収録)
『神々の笑い』(松村みね子訳『ダンセイニ戯曲集』沖積舎収録)
『女王の敵』(松村みね子訳『ダンセイニ戯曲集』沖積舎収録)

E・M・フォースター(1879-1970)
『天国行きの乗合馬車』(小池滋訳『E・M・フォースター著作集5 短篇集1 天国行きの乗合馬車』みすず書房収録)

ヒュー・ウォルポール(1884-1941)
『ラント夫人』(平井呈一訳『恐怖の愉しみ』創元推理文庫収録)

H・R・ウェイクフィールド(1888-1964)
『赤い館』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『ケルン』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『彼の者現れて後去るべし』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『彼の者、詩人なれば…』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『目隠し遊び』(南條竹則訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『見上げてごらん』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
『ダンカスターの十七番ホール』(南條竹則訳 南條竹則編『怪談の悦び』創元推理文庫収録)

クラーク・アシュトン・スミス(1893-1961)
『大麻吸飲者』(蜂谷昭雄訳『魔術師の帝国』創土社収録)

L・P・ハートリー(1895-1972)
『豪州からの客』(小山太一訳 エドワード・ゴーリー編『憑かれた鏡』河出書房新社収録)


 18世紀のゴシック小説から、ラヴクラフトの同時代の作品まで、挙げられている作品はかなりの数に上ります。英米の作品だけでなく、バルザック、メリメ、リラダン、モーパッサンなどのフランス作家、マインホルト、エーヴェルス、マイリンクなどのドイツ作家にも目を通しているあたり、本当に読書家だったことがわかりますね。
 挙げられた作品数が多い作家ほど、ラヴクラフトの評価が高かったとするなら、とくに評価の高い作家は、エドガー・アラン・ポオ、ギイ・ド・モーパッサン、M・R・ジェイムズ、アルジャーノン・ブラックウッド、アーサー・マッケン、ロード・ダンセイニ、H・R・ウェイクフィールド、ウィリアム・ホープ・ホジスンあたりになるでしょうか。
 ちょっと意外だったのは、ウォルター・デ・ラ・メアの評価が高いこと。雰囲気小説の達人ともいうべきデ・ラ・メアと、ラヴクラフト自身の作風とはかなり異なりますが、それもまた興味深いところですね。

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ラヴクラフトの暗黒宇宙
ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1)) ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2)) ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3)) ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4)) ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫) ラヴクラフト全集〈6〉 (創元推理文庫) ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)
 H・P・ラヴクラフト(1890-1937)は、アメリカの怪奇小説家。彼の作品に現れる独自の世界観は「コズミック・ホラー」や「クトゥルー(Cthulhu)神話」と呼ばれ、後世に多大な影響を与えました。
 「コズミック・ホラー」とは、人類の誕生する遙か古代に地球を支配していた「旧支配者」と呼ばれる種族が、現代に蘇るというモチーフで書かれた作品群です。

 ラヴクラフトは、主に《ウィアード・テイルズ》を初めとするパルプマガジンに作品を発表しますが、生前は不遇であり、広く名前を知られるまでには至りませんでした。
 創作だけでなく、他の作家との文通や文章添削などを行い、後進の作家からは広く慕われていました。生前から、同人仲間同士で、ラヴクラフトの世界観を流用した作品を書くという試みが行われており、これが後に「クトゥルー神話」が広まる一因ともなります。
 40代の若さで亡くなった後、ラヴクラフトに心酔していたオーガスト・ダーレスとドナルド・ワンドレイは、ラヴクラフトの作品を出版するために、アーカム・ハウスという出版社を設立します。
 ダーレスはラヴクラフトの作品集を出版するほか、自らも我流の「クトゥルー神話」作品を書くなど、ラヴクラフト作品の普及に努めました。ラヴクラフト自身は、自分の作品に登場する世界観やキャラクターを整理体系づけることはしておらず、それを整理し、体系づけたのはダーレスとされています。その意味で「クトゥルー神話」は、ダーレスが作ったという意見もあります。

 非常にオリジナリティのある世界観を作ったラヴクラフトですが、ラヴクラフト自身、先行する作家たちをよく読み、そしてその影響を受けています。彼がどんな作家を読んでいたのかは、例えば『文学と超自然的恐怖』(植松靖夫訳 東雅夫編『世界幻想文学大全 幻想文学入門』ちくま文庫収録)というエッセイを読むとわかります。
 多くの作家が挙げられていますが、ラヴクラフト作品を読むと、ロード・ダンセイニ、アーサー・マッケン、アルジャーノン・ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、ウィリアム・ホープ・ホジスン、エドガー・アラン・ポーなどの影響が感じられますね。
 特にダンセイニの影響は強く、『白い帆船』『ウルタールの猫』『サルナスの滅亡』など、直接的な影響が見られる《ダンセイニ風掌編》と呼ばれる一連の作品があります。『サルナスの滅亡』などは、非常によく出来ていて、ダンセイニの作品と言われても通るのではないでしょうか。
 また、「旧支配者」の独特のネーミングにも、ダンセイニの影響が感じられますね。

 ラヴクラフト作品によく登場するアイテムとして「魔導書」があります。その代表例が「ネクロノミコン」なのですが、これも先例があり、それがロバート・W・チェンバース『黄衣の王』に登場する同名の本です。
 『彼方より』『魔女の家の夢』『エーリッヒ・ツァンの音楽』など、この世とは異なる次元から怪物や怪異が出現する話などは、ホジスン作品の影響でしょうか。

 ラヴクラフト作品では、早い時期から「旧支配者」が登場しますが、後期になるまでその描かれ方は、人間とは隔絶したものとして描かれています。その点、伝統的な怪奇小説に登場する「幽霊」や「悪魔」に近い感覚なのでしょうか。なかでも、「魔王」のような存在である「アザトース」や「ヨグ=ソトース」は、次元を異にした存在のように描かれ、不気味さは比類がありません。
 後期作品になると「旧支配者」に関して、裏付けというかその由来が描写されることが多くなってきます。人類と隔絶しているのは確かなのですが、宇宙からやってきた生命体として、物質的な性質が強調されるようになります。
 後期の作品『狂気の山脈にて』は、その意味で重要な作品です。南極探検に訪れた探検隊が、発掘作業の途中「旧支配者」らしき生物と、彼らが住んでいた都市を発見するという物語です。
 作品中で、壁画から「旧支配者」の民族の盛衰が判明するのですが、そこでは、彼らが宇宙から飛来した地球外生物であることが明かされます。怪奇小説の枠内ではあるのですが、よりSF的な要素が強くなっています。
 これも後期の作品、『時間からの影』は、古代の生物に精神的に寄生している知性体が、時空を超えて現代の人間に精神を送り込み、中身を入れ替えてしまうという作品です。こちらはもうSFに分類してもいいような作品ですね。
 『狂気の山脈にて』『時間からの影』を読む限り、ラヴクラフトがもっと長生きしていたら、よりSF寄りの作品を書いていただろうことは確かだと思います。

 とくに「クトゥルー神話」には属さないものの、伝統的な怪奇小説として面白い作品もいくつかあって、狂気に囚われた男との出会いを描く『家のなかの絵』、常に冷房のある部屋に閉じこもる男を描いた『冷気』、ある家に住む人間が次々と死んでいくという『忌み嫌われる家』、飛来した隕石の影響で肉体的にも精神的にもおかしくなってしまう農夫一家を描く『宇宙からの色』などは、怪奇小説単体として面白いものです。

 後期作品では、SF的な要素が強くなっていると書きましたが、実際にそれらの作品を読んでみると、やはり怪奇小説以外の何者でもありません。というのも、ラヴクラフトが作中で「旧支配者」の由来を説明しても、それは彼らを理解しようとか、研究して対策を取ろうとか考えているわけではないからです。あくまで人間と隔絶した恐怖の対象ということは変わらず、人間はそれに対して無力なのです。
 ラヴクラフトは、突き詰めると一つのテーマだけで書いている作家です。それは「未知のものへの恐怖」。どの作品にも、そのテーマが伏流していて、それがあるがゆえに、時には筆が不器用にすべったとしても、怪奇小説としての魅力が感じられるのではないでしょうか。

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1970年代ホラーを読む

404265701X悪魔のワルツ (角川ホラー文庫)
フレッド・M・スチュワート 篠原 慎
角川書店 1993-04

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フレッド・M・スチュワート『悪魔のワルツ』(篠原慎訳 角川ホラー文庫)

 もとピアニストの作家マイルズは、世界的ピアニストであるダンカンのインタビューに訪れます。狷介で知られるダンカンとその娘ロクサーヌは、なぜかマイルスを気に入り、何くれとなく親切にしてくれるようになります。
 しかし、マイルズの妻ポーラは、ダンカン父娘の行動に疑いを抱きます。やがてダンカンは老衰で死にますが、それを境にマイルズの行動に微妙な変化が起こります。しかもピアノの腕が突如上達し、そのタッチはダンカンを思わせるものだったのです…。

 人格交換を扱ったホラー作品です。一応、人格交換が行われたかどうか、明確に記述はされないのですが、ダンカン父娘が、過去に魔術にかかわったと思われる伝聞情報や、実際に魔術を行う場面も描かれるので、実際に人格が交換されたことはわかってしまいます。
 それがわかってしまったら面白くないのかといえば、そういうわけではなく、結構面白いのですよね。夫の人格が変わってしまってから、妻が真実を求めて調査を重ねていくのですが、その過程で、ダンカン父娘の噂やスキャンダルが掘り起こされていくのです。父娘のいびつな関係や、過去の軋轢、娘のロクサーヌに至っては、過去にすでに人格交換がなされているのではないかという疑いも持ち上がります。
 夫の魂が失われたことを確信した妻は、自らも魔術を使って復讐のために立ち上がります。結末で、その強烈な方法が暗示されるに至って、ダンカン父娘よりも妻ポーラの行動の方に戦慄を感じさせられるのです。



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ヘパイストスの劫火 (1980年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
トマス・ペイジ 深町 真理子
早川書房 1980-06

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トマス・ペイジ『ヘパイストスの劫火』(深町眞理子訳 ハヤカワノヴェルズ)

 地震による地割れから現れたのは、古代から地中で暮らしていたゴキブリに似た虫たちでした。虫たちには触角により火を起こす能力がありました。炭素そのものを食料とする彼らは、火災を起こし、それにより食料である灰を作ろうとしていたのです。
 頻発する火災により大量の死者が出るなか、科学者たちは、虫たちを殲滅するための手段を探し回りますが…。

 ゴキブリをテーマにしたパニック・サスペンス作品です。題材が題材だけにゲテモノ作品かと思いきや、意外にも丁寧に書かれた作品です。
 このゴキブリ、動きが遅く、人間を直接襲うことはありません。ただ、ものすごく頑丈でウィルスに対しても強く、半端ではない生命力を持っています。科学者たちは、虫たちの天敵を探し、サソリ、クモ、猛獣など、様々な生物と戦わせますが、どれも歯が立ちません。
 人間が殺そうと思えば、数匹は殺せるのですが、知らない間に家に火を付けられてしまえば、それでおしまいなのです。
 やがて、虫たちの撃退方法が見つかり、事態は収束したかに見えますが、研究に飽き足らない科学者の独断により、新世代の虫が生み出されてしまいます。人間とコミュニケートできるほどの知能を持つ彼らを撃退することは可能なのか? 後半は積極性を増した虫たちとの戦いが描かれます。

 虫たちと人類との戦いといっても、そんなに緊迫した感じではありません。火災によって被害は出るのですが、虫たちは基本的には人間を襲わないので、スプラッター的な描写もほとんどありません。それもあって、ゴキブリを題材としながらも、意外と後味も悪くないのです。
 作品の大部分は、虫たちの生態やその弱点を探す研究について描かれます。そこがこの作品の一番面白いところで、様々な生物たちとの戦いの描写や、虫自身の生態の研究部分はそこだけでも面白く、ストーリーの展開がゆっくりなのもあまり気になりません。
 変わり種のパニック小説として、一読の価値がある作品です。



B000J9496Iデラニーの悪霊 (1971年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ラモナ・スチュアート 小倉 多加志
早川書房 1971

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ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』(小倉多加志訳 早川書房)

 大学教授の夫と離婚後、二人の子供と暮らす主婦ノラは、作家として生計をたてていました。世間では、若い女性を狙った連続殺人が続くなか、ノラは、弟ジョエルの様子がおかしくなったことに気付きます。やがて、ジョエルの恋人だった女性が首を切断されて発見されますが…。

 悪霊に憑依された男が殺人を繰り返す…という話を、取り憑かれた男の姉の視点で語るという、オカルト・サスペンス小説です。正直、ホラー作品のテーマとしては手垢のついたパターンではあるのですが、語り手の女性ノラのキャラクターが立っていて、それなりに面白く読ませます。
 弟が取り憑かれているのは、すぐわかってしまいます。読者の興味としては、どのように取り憑かれたのか、取り憑いているのは誰の霊なのか? といった部分で読んでいくことになります。この取り憑いている霊の生前の姿を、語り手ノラが調査していくのですが、この犯人(というか霊)の生い立ちや周囲の環境の描写が、なかなか面白く読めます。
 ホラーとしての結構よりも、キャラクター描写に生彩があるタイプの作品ですね。



B000J8U2N8タリー家の呪い (1977年)
ウィリアム・H.ハラハン 吉野 美耶子
角川書店 1977-08

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ウイリアム・H・ハラハン『タリー家の呪い』(吉野美耶子訳 角川書店)

 アパートの取り壊しのため、立ち退きを求められている中年男性が主人公。長年仲良く暮らしていた同じアパートの住人たちも、次々と引っ越しを決めて出ていきます。そんな中、主人公は、何ともいいようのない音を何度も耳にするようになります。
 精神的な病気ではないかと考え、医者にかかる主人公ですが、医者の判断は特に異常はないというものでした。友人は霊能力者の助けを借りるべきだと諭しますが、主人公は意に介しません。
 一方、数百年前にイギリスからアメリカに渡ったタリー家の末裔を探す男が描かれます。息子たちの系図をたどり、どれも子孫が途絶したかに見えた途端、また子孫がいたことがわかり、となかなか現代の末裔にたどり着くことができません。
 2つのパートがどのように結びつくのか? 結末寸前まで、その関係性はまったくわかりません。アパートを舞台にしたパートでは、だんだんと人がいなくなる建物の中で怪奇現象が頻発するようになるという心霊小説的な味わい、系図をたどる男のパートでは、一族の歴史をたどっていく面白さがあります。
 そして結末において、二つのストーリーが交錯し、印象的な幕切れを迎えます。読んでいてなかなか本題に入らないのは確かなのですが、構成や語りに工夫がされており、飽きずに読むことができるのは、ミステリやサスペンスの技法が上手く使われているからでしょうか。ミステリタッチのオカルトホラー小説として、佳作といっていい作品かと思います。

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B級ホラーの職人芸  ショーン・ハトスン作品を読む
 ショーン・ハトスン(1958-)は、イギリスのホラー作家。ホラー以外の邦訳も何冊かあるようですが、ホラー作品は、1980年代後半に、ハヤカワ文庫NVの《モダンホラー・セレクション》で刊行された3冊のみのようです。
 このハトスン、悪趣味、猥雑さ、派手さをモットーとする《ナスティ・ホラー》系統の作家で、邦訳された作品を読む限り、ストーリーの整合性や丁寧な人物描写などよりも、スプラッターシーン、残酷シーンに極端にベクトルを振った感じの作家です。 
 いわゆるB級ホラーといっていいのですが、悪趣味さが突き抜けていて、ある種、清々しいまでの徹底ぶりです。ただ「悪趣味」といっても、本当に肉体的なものだけに限定されていて、人間関係のドロドロしたものとか心理的な嫌悪感といったものは少ないので、変な言い方ですが、後味は意外と悪くありません。『スラッグス』のナメクジみたいな嫌悪感はありますが。
 それでは、以下、3冊のホラー作品を見ていきたいと思います。



hutson1.jpgスラッグス (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
シヨーン・ハトスン 茅 律子
早川書房 1987-06

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ショーン・ハトスン『スラッグス』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV) (1982)

 下水で大量発生したナメクジは、従来の種とは異なる、巨大で肉食性の生物でした。水道を通り、民家に侵入したナメクジたちは人を襲い始めます。衛生検査官ブラディは、彼らを殺すための手段を探し回りますが…。

 巨大化したナメクジが人を襲う…という、シンプル極まりないストーリーの作品なのですが、襲われる人たちや、調査を続ける主人公たちの行動が、カットバックでテンポよく描かれていくので、リーダビリティは非常に高いです。
 キャラクターたちの人物の掘り下げなどは全くなく、ただただ人が襲われて死んでいくシーンを詳細に描いていくという作品です。
 襲ってくるのがナメクジということで、イメージ的には弱そうに感じてしまいますが、この作品中のナメクジは強靱な歯を持ち、一度食いついたら話さないという強力な力を持っています。多数のナメクジにとりつかれたら、そのまま喰い殺されてしまうのです。
 また、体内に寄生虫を持ち、彼らが出す粘膜を口にしてしまっただけで、狂犬病のようになり死んでしまいます。
 人がナメクジに襲われるシーンを描くにあたって、著者は、体の部位だとか内臓の部分など、喰われている箇所を詳細に描写していきます。いちいち残酷シーンが強烈なのです。その極めつけは、サラダと一緒にナメクジの一部分を食べてしまった男の描写でしょう。
 やがて、下水道でナメクジが繁殖していることに気付いた主人公ブラディは、案内人とともに地下に潜り込むことになります。彼らを全滅させ、地下から生還することができるのでしょうか?
 スプラッターシーンが視覚的かつ具体的なので、その種の作品が苦手な方は読まない方が吉でしょう。悪趣味なホラー小説の一つの極致ともいうべき作品です。



hutson2.jpgシャドウズ (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
船木 裕 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-10

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ショーン・ハトスン『シャドウズ』(船木裕訳 ハヤカワ文庫NV)

 超自然現象を専門とするノンフィクション作家ブレイクは、心霊治療を行う男マシアスを取材し、彼の力の秘密を調査しようとしていました。
 一方、人間の潜在意識を研究する女性科学者ケリーは、催眠術を使った実験の際に、被験者が急に豹変し、暴れ出すのを目撃します。人間の心には誰でもある邪悪な領域、その部分を解放する手段があることを知り、彼女は戦慄します。
 やがて、マシアスを主賓としたパーティーの席に集まった人々が、凶悪な殺人や傷害事件を起こし始めます。しかも犯人は皆、犯行の意識がないというのです。すべては、人間の心の奥底に秘められた領域「シャドウズ」が原因なのだろうか?
 ケリーはブレイクと協力し、真相を調べ始めますが…。

 前半は、主人公たちが、ひたすら心霊術や超心理学などの研究を続けるという、地味なシーンが続くのですが、後半から、怒濤のスプラッターシーンが展開されます。
 本来は温厚な普通の人間たちが、突如豹変し、周りの人間に襲いかかる様を、詳細に描いています。演出は派手で、政治家が除幕式の最中に他の人間の体をまっぷたつにしたりと、悪趣味そのもの。このあたり、作者の本領発揮といったところでしょうか。
 怪しげな人物が実は犯人ではなく、真犯人は全く別の人間…というミステリ的な趣向もありますが、正直、ミステリとしては穴だらけです。序盤から登場し、思わせぶりに重要人物扱いしていた心霊治療者マシアスが、いつの間にかフェイドアウトしてしまうなど、ストーリーとしては、かなりずさんなところがありますね。
 ただ、スプラッターシーンは、著者が嬉々として描いているのがわかるぐらい生彩に富んでいて、この部分のみに限るなら、ホラーとしては魅力的な作品といえるかもしれません。



hutson3.jpg闇の祭壇 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
茅 律子 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-04

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ショーン・ハトスン『闇の祭壇』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV)

 建設現場で発見された地下の古代の遺跡から、多数の人骨が発見されます。そこは古代のケルト人が祭事に使っていた場所でした。女性考古学者キムを初めとする発掘メンバーが調査を進めるなか、関係者が次々と殺されていきます。
 殺人と同時に、子供が何人も失踪し、キムの娘もまた姿を消してしまいます。
 人間の仕業とは思えない殺害現場を見たウォレス警部は、事件には古代のケルト神話が関係しているのではないかと考えますが…。

 発掘された古代遺跡の調査と平行して、連続殺人が描かれます。殺人事件の原因は、どうやら古代ケルトの宗教的なものにあることが匂わされます。実際、黒魔術の儀式を行っている怪しい男とその一味が描かれるので、よくある邪教集団ものかと思ってしまうのですが、それを裏切る後半のひっくり返しが強烈です。
 お話の体裁は、連続殺人の犯人は誰か? というミステリ的な展開で進むように見えるのですが、殺人シーンを見る限り、明らかに超自然的な存在が犯人なので、フーダニット的な興味は湧きにくいですね。
 そもそも、直接的に行われる殺人のほか、何らかの超自然的な原因による事故や惨劇も多数混じっているので、常識的な意味での「犯人」がいるのかどうかもはっきりしないのです。
 殺人や人体損壊のシーンは異様に詳細、残酷描写は強烈で、おそらく作者が一番描きたかったのはこれらのシーンなのでしょう。例えば、これは事件ではなく、ただの偶然だと思うのですが、青年が落ちてきた強酸をかぶってしまうシーンがあります。そこでも酸で顔や体が溶けるシーンが詳細に描写されるのですが、その強烈さは目を覆うほど。また、話の筋には直接関係のない闘犬の描写などもはさまれ、こちらも無意味なほど派手な残酷描写がなされます。
 全体にスプラッターシーンが派手で、その意味では面白いのですが、問題は、本筋であるストーリー自体がだれ気味なところ。伏線らしき描写が全然伏線でなかったりと、つっこみ所が非常に多いのです。
 テーマであるケルトの伝説と殺人事件のつながりがはっきりせず、もどかしさがあるのですが、結末付近でようやくそれが明確になり始めます。そこからは非常に盛り上がります。かなり絶望的なシーンで終わるのですが、この手のホラー作品で、これだけスケールが大きいものは、なかなかないのではないでしょうか。
 弱点はいろいろあるものの、B級に徹した作りで、ホラーとしては好感の持てる作品といえますね。

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連鎖する呪い  マイケル・マクダウエル『アムレット』
4150404763アムレット (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
マイケル マクダウエル 冬川 亘
早川書房 1988-02

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 ライフル工場が唯一の産業である小さな田舎町で、義母とともに暮らす若妻サラ。徴兵されていた夫は、ライフルの暴発事故により植物状態で家に帰ってきます。介護を要する夫と口うるさい姑との生活の中で、サラは健気に家庭を守ろうとしていました。
 夫がこんな状態になったのは、夫の親友でありライフル工場の責任者でもあるラリーのせいだと逆恨みする義母は、ある日見舞いに訪れたラリーに対し、奥さんへ上げてくれと美しい首飾りを渡します。ラリーの妻は、首飾りを身につけた直後に豹変し、家族を惨殺してしまいます。
 その後も、首飾りを手に入れた人間とその周りの人間が死んでいくことに気付いたサラは、すべては義母の仕業なのではないかと考え始めますが…。

 マイケル・マクダウエル『アムレット』(冬川亘訳 ハヤカワ文庫NV)は、呪いの首飾りをめぐるホラー作品です。主人公サラの義母が間違いなくその元凶であることはわかるのですが、白を切り続ける彼女からは、なかなか真実を聞き出すことはできません。
 この首飾りの威力が強烈で、身につけた瞬間から凶暴になり、あっという間に殺人を犯してしまうというゾンビウイルスそこのけの威力なのです。
 首飾りの呪いについて、具体的な情報がほぼ全く明かされないため、それを拾ったり、触った瞬間に、その人物の死が決定してしまうという恐ろしいもの。首飾りを手にした人物が死に、次に手に入れるのは誰なのか? というサスペンスもあります。

 ある程度話が進むと、首飾りを手に入れた人間が惨劇を引き起こすというパターンがわかってしまうので、その意味で展開に驚きはないのですが、飽きずに読ませるのは、作者の筆力ゆえでしょうか。
 凶行場面の描写が詳細でショッキングなのと(美容院で髪をはぎ取ったり…)、ブラック・ユーモアを交えた人物描写が冴えているせいなのもあるかと思います。ことに主人公サラの義母のキャラクターが強烈です。息子を産んだのは自分が楽をするため。そして、自分と息子以外は、すべて敵であり死ねばいいと、日頃から公言し、嫁のサラに対しても虐待まがいの発言を繰り返します。
 しかし、実の家族を全て亡くし、家もないサラにとっては、この義母の家だけが我が家であり、不具になってしまった夫の面倒を見ることは、自分の義務だと思い込んでいるのです。そんな息のつまるような生活の中、首飾りによる殺人が続き、それが義母の仕業だと確信するようになったサラは、逆に義母と夫に対して憎しみを覚え始めます。

 サラは、首飾りを見つけ破壊しようと町中を探しまわりますが、なかなか出会うことができません。保安官の協力を得るものの、惨劇は続き、やがて町の中心であるライフル工場に首飾りは姿を現します。クライマックスでは、工場を舞台に、大惨劇が繰り広げられるのです。

 ブラック・ユーモアあふれる人物描写と、要所で見せ場となるショッキングシーン。テーマはオーソドックスながら、読ませるホラー作品です。

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奇妙な分身  クリスティーン・キャスリン・ラッシュ、ケヴィン・J・アンダースン『残像を殺せ』
448880117X残像を殺せ (創元ノヴェルス)
クリスティーン・キャスリン ラッシュ ケヴィン・J. アンダースン Kristine Katheryn Rusch
東京創元社 1996-06

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 車の修理の手伝いを求められたところ、突然暴行され、放火されてしまった女性レベッカ。意識を取り戻し、助かったと思いきや、自分の体が男のものになっているのに気がつきます。しかもその姿は、自分が殺されかかった犯人そのものだったのです。
 レベッカを助けたのは、人間によく似た妖精の一族「ダークリング」たちでした。彼らには、体を再生させる能力があるのです。しかし何らかの要因で、再生の際に、体が変貌してしまったというのです。ダークリングが言うには、外見に囚われず、彼女の正体を見破ってくれる人間がいれば、レベッカは元に戻れるはずだと言うのですが…。

 クリスティーン・キャスリン・ラッシュ、ケヴィン・J・アンダースン『残像を殺せ』(藍堂怜訳 創元ノヴェルズ)は、殺された女性が蘇ったものの、犯人の姿形になってしまうという、面白い設定の作品です。呪いを解くために、元の彼女をよく知る人間のもとを訪れるヒロインですが、本人しか知り得ない情報を話したために、逆に怪しまれてしまいます。
 殺害現場を目撃していた少年たちの証言により、レベッカは犯人として追われてしまうことにもなります。唯一の理解者ともいうべき弟に接触しようとするレベッカですが、本物の犯人との遭遇で、それも失敗してしまうことに。

 もともと孤独だった彼女を助けてくれる人間はほとんどおらず、ダークリングたちに援助してもらうことになるのですが、ダークリングたちの中でも、反目や陰謀があり、一筋縄ではいかないのです。
 このダークリングという種族、周囲で人間が死ぬと、その影響で肉体に変貌が及んでしまうという、奇妙な特徴を持っています。例えば、人間に恋をしたダークリングが、肉体が変わってしまったため、本人であると認めてもらえなくなってしまったりします。肉体の変貌だけでなく、それにより魔力を高めることもできるのですが、それを目的に、やがてダークリング内での殺人も発生し、彼らの中でも犯人捜しが始まります。

 元に戻ろうとするヒロインのほか、殺人を続ける犯人、犯人を探す警察、陰謀を進めるダークリング、それを追う別のダークリングなど、視点が次々に入れ替わります。同時進行で複数のパートが進行し、それがサスペンスを高めており、リーダビリティは非常に高いです。

 「ダークリング」という妖精族が登場したり、蘇りの魔法があったりと、題材としてはファンタジーなのですが、精神を病んだ殺人犯や、孤独なヒロインの内面描写など、サイコ・スリラー的な要素も強く、ジャンルが混合したハイブリッド・エンターテインメントになっています。非常に面白い作品です。

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癒しと呪い  トマス・M・ディッシュ『M・D』
M・D〈上〉 (文春文庫) M・D〈下〉 (文春文庫)
 信じていたサンタクロースの存在を否定され、ショックを受けていた幼い少年ビリーの前に現れたのは、「マーキュリー」を名乗る神でした。神はビリーに、癒しと呪いの能力を持つ「カデューシアスの杖」を授けます。
 しかし、杖は無条件に願いをかなえるものではなく、代償を伴うものでした。ビリーは、杖を使い、家族の健康や長命を願いますが、願いそのものは叶ったものの、予期せぬ悲劇が続いてしまいます…。

 トマス・M・ディッシュ『M・D』(松本剛史訳 文春文庫)は、人間の健康をつかさどる魔法の杖を手に入れた少年の人生を描いた作品です。この「カデューシアスの杖」、使えば使うほど効果が上がっていき、しかも無制限に使うことができます。しかし他人に健康や癒しを与えれば、その代償として、別の人間に死や病を与えなければならないのです。
 とりあえず、愛する家族に健康を与えたいと、杖の能力を使うビリーでしたが、願いそのものは叶うものの、結局それらが無駄になってしまうような事態が副産物として起こってしまうのです。
 しかも、「マーキュリー」は、叶えられるのは人の健康と病に関する願いだけであって、能力を使われた人間の運命がどうなろうと、感知しないというのです。例えば父親の健康を願った直後に、その当人が事故死してしまいます。「カデューシアスの杖」にコントロールできるのは、体の健康のみであって、事故は力の及ぶところではない…というのです。
 この作品で主人公に能力を与える神「マーキュリー」は、ホラー作品によく登場するような「悪魔的存在」とは異なります。そもそも彼には善も悪もなく、人間を堕落させようとする意図もないのです。ただ結果がどうなるかを面白がっているような、トリックスター的存在として描かれます。

 一方、主人公ビリーも、子供時代から人の死や不幸を何度も目の当たりにしながら、それにほとんど動揺もせず、目的のためには手段を選ばないという、強烈な個性を持つ人間として描かれます。杖による被害も、個人レベルだったものが、やがて世界的な疫病を引き起こすまでになったりと、スケールが広がっていってしまいます。
 やがて医者になった彼は、世界を破滅させるような事態を引き起こすことになるのです。

 主人公を含め、ほぼ全ての人間が死んだり不幸な目に会ってしまうという、徹頭徹尾、暗いホラー作品なのですが、なぜか読後感はそんなに悪くないという、不思議な作品です。登場人物たちの運命に対する皮肉と悪意がところどころに感じられるところは、作者ディッシュの個性というべきでしょうか。モダンホラーの変わり種であり、強烈な個性の感じられる傑作です。

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狭間の世界で  T・M・ライト『マンハッタン・ゴースト・ストーリー』
4087602265マンハッタン・ゴースト・ストーリー (集英社文庫)
T.M. ライト T.M. Wright
集英社 1993-11-01

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 写真の仕事のため、ニューヨークにやってきたカメラマンのアブナー。彼は、旅行中である友人アートのアパートを一時的に借りることになります。訪れたアパートには、アートの恋人だと名乗るフィリスという若い黒人女性がいました。
 アパートに出入りするフィリスと愛し合うようになったアブナーでしたが、アートからの電話に動揺します。なんと、友人はフィリスを殺してしまい、その容疑で逃げているというのです。それではアパートにいる女性は何者なのか? アートは、その女はフィリスではなく、別人に違いないと告げますが…。

 T・M・ライト『マンハッタン・ゴースト・ストーリー』 (矢倉尚子訳 集英社文庫) は、タイトルから想像がつくように、マンハッタンを舞台にしたゴースト・ストーリーです。
 序盤で登場する主人公の恋人が、すでに死んでいるということは、早い段階でわかってしまいます。わかった後も、主人公は、なんとか恋愛を成就させようと、かけずり回るのです
 主人公には、もともと霊能力が備わっており、恋人との出会いを境に、その能力が開花します。その能力とは、死者が見え、彼らと語ることができるというもの。しかし、その能力には欠点もあります。主人公には、逆に生者と死者の区別がつかないのです。生者のつもりで話しかけていても、それが周りの人間には見えていないことから、死者と認識することになったりと、出会った人間が本当に生きているのかがわからなくなっていきます。
 恋人フィリスが姿を現さなくなり、彼女を求めてアブナーはかけずり回ります。やがて、日常生活においても支障をきたしはじめるアブナー。彼女と会うために、死者の世界との接触を図ろうとするアブナーですが、生きたまま、その世界に入り込むことは容易ではないのです。

 幽霊との恋愛を描く「ラブストーリー」と言えるのですが、甘美な雰囲気だけでなく、死者の世界の不気味さも感じられるところが特徴です。
 恋人フィリスのように、生者と全く違いのわからない死者もいれば、同じ場所で同じ言動を繰り返す地縛霊のような死者もいたりと、いろいろなタイプの死者が描かれます。
 死者の世界自体も、生者が簡単に接触できるようなお手軽なものとしては描かれず、その得体の知れなさ、不気味さが描かれており、ホラーとしてもなかなかに魅力的な作品です。

 作者のT・M・ライトは、1970年代から活躍しているアメリカのモダンホラー作家ですが、邦訳されたのは、1984年発表のこの作品だけのようです。本作品を読む限り、ホラー作品としての雰囲気醸成の巧さといい、リーダビリティの高さといい、非常にバランスの取れた作風のようで、もっと他の作品を読んでみたい作家ではありますね。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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