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最近読んだ漫画作品

黒―kuro― 1 (ヤングジャンプコミックス) 黒―kuro― 2 (ヤングジャンプコミックス) 黒―kuro― 3 (ヤングジャンプコミックス)
ソウマトウ『黒―kuro―』(ヤングジャンプコミックス 全三巻)

 少女「ココ」と真っ黒な猫「クロ」との日常生活を描くコミック作品なのですが、ホラー的な背景がだんだんと明かされるという不穏な作品です。
 少女ココは愛猫クロとともに屋敷で暮らしていました。町の道を外れると得体の知れない怪物が闊歩しており、人間を襲ってくるのです。しかしココにはその怪物たちは見えず、クロはココを守るように怪物たちを殺して回っていました…。
 特に世界観の説明もなく唐突に怪物が現れるものの、ヒロインの少女はそれらが見えず、怪物の血を浴びてもそれに気付かない…という不穏な状況で物語が始まります。どうやらこの世界では人間を襲う怪物がたくさん存在するらしいのです。
 なぜココは怪物を認識できないのか? クロは何者で、なぜココを守るのか? ココの過去に何があったのか? 複数の謎が、過去の出来事を描くエピソードで少しづつ明かされていきます。
 少女の悲しい過去と、世界に関する謎が少しづつ明かされていく展開は非常にサスペンスフル。少女を見守る大人や友人は彼女を助けることができるのか? 短めの作品ながら世界観に厚みがある作品です。結末に至っても明かされない部分もあり、いろいろ想像しながら読み進むのも楽しいですね。
 キャラクターは可愛い絵柄ながら、怪物はグロテスクで、血が出るシーンは結構強烈です。読む人を選びそうですが、傑作といっていい作品ではないでしょうか。



マリアの棲む家 (ビームコミックス)
ハセガワM『マリアの棲む家』(ビームコミックス)

 本格的なホラーコミック作品なのですが、怪異描写の邪悪さ・異様さが群を抜いています。
 五年前に行方不明になった上場企業の社長令嬢、真理愛。彼女には父親から莫大な懸賞金がかけられていました。依頼を受けた探偵日村は真理愛の捜索を開始します。奇怪なことに、捜索範囲はかって真理愛が住んでいた「一軒家内」だというのですが…。
 いわゆる「幽霊屋敷もの」に属する作品といっていいのでしょうか。行方不明(すでに死亡?)になった少女の影響で家が奇怪な状態になっており、その家に近づいた人間に悪影響を及ぼしています。この家の怪異現象の表現が、普通の霊的・超自然的なそれとは一線を画しているのが特徴です。
 特に後半に登場する「異界」の表現はシュールかつグロテスクで、その風景はまるでボッシュかブリューゲルといった趣。お話自体はわりとシンプルなのですが、この「異界」描写の強烈さだけでも印象に残る作品ですね。



おなかがすいたらおともだち (ビッグコミックススペシャル)
おぐりイコ『おなかがすいたらおともだち』(ビッグコミックススペシャル)

 人を寄せ付けない優等生といじめられっ子、二人の少女の友情を描くマンガ作品ですが、実はいじめられっ子の方はすでに死んでいて虫のような知性体に寄生されていた…というすごい話です。
 知性体は人間をエサにしていて、家にさそいこむために優等生の少女と友達になろうとする…というホラー作品なのですが、やがて人間としての友情に目覚め始めるという思いもかけない展開に。
 二人を見守る優しい教師がエサとして食べられてしまったりと残酷かつスプラッターな描写と、初々しい少女たちの友情シーンが同時進行で描かれるという独自の作風で、これは傑作といっていいのではないでしょうか。



報いは報い、罰は罰 上 (ビームコミックス) 報いは報い、罰は罰 下 (ビームコミックス)
森泉岳土『報いは報い、罰は罰』(ビームコミックス)

 イギリスから移築された巨大な屋敷を舞台にしたゴシック・ホラー作品です。全篇、闇と影に覆われたタッチが素晴らしいです。
 アメリカから帰国した清水真椿は、妹の真百合が失踪したという知らせを受けて、妹が嫁いだという小田家を訪れます。訪れた家は、一族の曾祖母ヴィクトリアがイギリスの本家から移築したという巨大な屋敷でした。
 出会った小田家の一族は、妹の夫である当主の道之をはじめ、皆が奇矯な性格の人間でした。妹のことを訊ねてもはっきりしないどころか、夫の道之に至っては既に愛人まで引き連れていたのです。屋敷とそこに住む人々に不穏な思いを感じながらも、妹が残した娘、葛野を連れ帰ろうと考える真椿でしたが…。
 何やらいわくのあるらしい屋敷と一族、妹はいったいどこに消えたのか? やっと出会えた姪も何やら精神的におかしくなっているらしく、主人公は困惑します。そもそも主人公自体、夫との結婚生活が破綻し、精神的に不安定になっているのです。そんな中、やがて殺人が起こりますが…。
 全篇、屋敷を覆うタッチは闇と影ばかりであり、序盤、まだ何も起こっていない段階からして、すでに禍々しい雰囲気が漂っています。ただの部屋や廊下の描写なのに、これほどの「暗さ」の描写は初めて見ました。正直、怪奇現象や霊現象が起こらなくても、すでに「怖い」です。
 妹の失踪、一族が抱える思い、心を閉ざす姪、精神のバランスを崩した主人公、そしていわくのある巨大な屋敷…。不穏な要素のオンパレードで、不安になるような作品です。読んでいて、シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』を思い出しました。
 一族の血の争いと超自然現象が同時に進行するという、本格的なホラー作品で、近年のホラーコミックの収穫の一つと言っていいのではないでしょうか。結末に至るまで解けない謎もあり、物語が「広がり」を持っているところも魅力的です。



セリー (ビームコミックス)
森泉岳土『セリー』(ビームコミックス)

 近未来、大幅な気候変動で人類が滅びつつある世界を舞台にした作品です。
 気候変動により、文明と人類がゆっくり滅びつつある時代、成人男性カケルは標準型ヒューマノイドのセリーとともに、家に留まっていました。備蓄や発電設備もあり、何より書庫のある家をカケルは愛していたのです。
 日々、書庫の本をセリーとともに読んでいたカケルでしたが、ある日突然システム・エラーが起こります…。
 滅びつつある世界の中でひたすら本を読み続ける…という静謐さにみちた作品です。未来のない世界で、本の記憶を残すことに何の意味があるのか…?
 「書物」や「記憶」が重要なテーマになっている作品で、幻想小説好きの方の琴線に触れる作品だと思います。
 併録の短篇「手牛の血」も、非常にシュールな味わいの作品で楽しめます。
 透明なカバーを始めとした造本もとてもお洒落ですね。



THE  MOON (1) (小学館文庫) THE  MOON (2) (小学館文庫) THE  MOON (3) (小学館文庫) THE  MOON (4) (小学館文庫)
ジョージ秋山『ザ・ムーン』(小学館文庫)

 1972~1973発表の、少年たちが精神力でロボットを操作し、悪と戦うというロボット漫画なのですが、善悪の観念が揺らぐような思想、強烈なバッドエンドと、少年漫画の枠には収まりきらない問題作です。
 少年サンスウを初めとする9人の子供たちは、大富豪魔魔男爵から、巨大ロボット「ザ・ムーン」を贈られます。莫大な金を使って作られた「ザ・ムーン」は、少年たち9人の精神力が揃ったとき初めて操作することができるのです。少年たちは日本の平和を脅かす敵たちと戦い続けることになりますが…。
 正義心の強い少年少女たちがロボットを使って敵と戦う…という、一見、ロボット漫画のフォーマットに則った作品なのですが、ところどころ少年漫画の枠を超えたような描写や思想が現れる、異様な迫力のある作品です。
 登場する敵たちの考えもそれなりに筋が通っており、中には単純に悪とは言い切れない人物も登場します。そんななか、主人公たちも自分たちが本当に正義なのか自問するシーンも見られたりと、善悪の相対化が見られるのです。
 ロボットがあるといはいえ、主人公たちは基本的に普通の子供たちであり、素手ではそれほどの力があるわけではありません。彼らを狙ってくるプロの暗殺者たちもあり、囚われたり攻撃されたりと、少年たちを分断しようとする勢力も現れてきます。
 そんな中、魔魔男爵の配下である忍者「糞虫」が彼らをサポートすることになります。この「糞虫」、ネーミングはひどいのですが、凄腕の忍者であり、人間離れした動きと戦闘力で、度々子供たちの危機を救います。
 「ザ・ムーン」は子供たち9人が揃わないと動かないため、その秘密を知った敵たちは子供たちを分断しようとします。ロボット起動まであと一人足りない…というのが、毎回サスペンスを高める働きをしていますね。
 主人公の少年がサンスウ、ヒロインがカテイカなど、9人の子供たちの名前が皆、学校の科目名と同じになっているのも面白いところです。
 「ザ・ムーン」は「格好いい」というよりは、どこか「不気味さ」のあるロボットで、起動音が「ムーン、ムーン」という擬音で表されるのも独特です。起動時に目からオイルが流れ、それが泣いているように見えるというのもユニークですね。この表現が最終話では非常に効果的に使われています。
 今読んでも、その前衛性・先駆性が感じられるぐらいなので、発表当時(1970年代初頭)は相当ショッキングな作品だったのではないでしょうか。



デロリンマン 1970・黒船編
ジョージ秋山『デロリンマン 1970・黒船編』(復刊ドットコム)

 異色のヒーローものマンガ『デロリンマン』の連載後半部分で、長らく読めなかったもの。SF要素が強めの「破滅SF」作品です。
 『デロリンマン』は元々ギャグ漫画なのですが、この『黒船編』では、黒船に乗ったぺリル星人という宇宙人が自分たちの正義を主張し、地球を征服する…というシリアス路線のお話になっています。
 主人公のデロリンマンは、両者を和解させようと奮闘しますが空しく、地球は滅ぼされてしまいます。クライマックスでは後年の作品『ザ・ムーン』で登場するロボットの原型が登場します。ただこのロボット、敵の宇宙人側の兵器で、人間側はなすすべがありません。
 なかなか面白く読んだのですが、そもそも原典の『デロリンマン』を読んでいないのもどうかと思い、そちらの方も読んでみました。



デロリンマン 1~最新巻(文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]
ジョージ秋山『デロリンマン』(徳間コミック文庫)

 オリジナル(といっても連載の前半部分です)はこんな話です。主人公が自殺未遂によって二目と見られぬ顔になってしまうのと同時に、精神にも異常を来たしますが、自らをデロリンマンと称して人々を助けようとします。しかし全てが空回りしてしまう…という作品。
 妻子に再会してもその容貌ゆえに父親と認めてもらえないうえに、いろいろとひどい目に会う…という悲喜劇で、タッチはギャグながらかなり強烈なテーマ性を持った作品です。
 ややこしいことに『少年ジャンプ版』(後半は黒船編)のあとに『少年マガジン版』があり、『マガジン版』はリメイクになっています。『マガジン版』の方が少し救いがあって、後半でデロリンマンは妻子に認めてもらい一緒に暮らすようになります。
 しかしこちらはこちらでブラックな展開があります。デロリンマンの息子が事故のショックで変貌してしまい「独裁者ノーリターン」なる怪人になってしまうのです。
 どちらのバージョンでもデロリンマンの思想を否定する「オロカメン」という仮面のキャラクターが登場し、デロリンマンと対立します。「力なき正義は無力」という、後の『ザ・ムーン』にもつながるテーマは興味深いところですね。
 2000年代になってから書かれたという『平成版』というのもあって、こちらも『黒船編』に収録されているのですが、タッチがリアルすぎて、こちらはちょっと違和感がありますね。



地上最強の男竜
風忍&ダイナミックプロ『地上最強の男 竜』(角川書店)

 ギャグすれすれのツッコミどころ満載のマンガなのですが、飽くまでシリアスに展開される作品です。カルト作品として有名になっているようですね。
 なぜか世界中から命を狙われる男、竜が主人公。彼はかってその強すぎる力で対戦相手を殺してしまっていました。対戦相手の恋人である女性は、竜の師匠に武芸を習い、彼を殺そうと襲ってきますが…。
 仮面によって力を封印されているとか、序盤の時点でかなりおかしい設定ではあるのですが、復讐をメインに据えた前半部分はまだまともな雰囲気です。
 強烈なのは後半です。竜を倒すために封印されていた救世主キリストが復活し、キリストはさらに最強の男として宮本武蔵とブルース・リーを復活させるのです。
 毎ページどこかしら「変」だという、シュールな格闘マンガなのですが、これがまた読んでいて面白いのですよね。画力が高いだけに、その「変」さも際立っています。
 1977年発表ですが、今読んでも面白い作品です。



聖マッスル
『聖(せんと)マッスル』(ふくしま政美画、宮崎惇原作 太田出版)

 カルトコミックとして有名な作品ですが、予想以上にシュールで迫力のある作品でした。荒廃した世界を舞台に、記憶を失った主人公の男が様々な都市をめぐりながら人間の生き方について考える…という、結構真面目で真摯なテーマの作品なのですが、グロテスクなまでに誇張された人間の肉体や筋肉の描写が強烈で、テーマの方がかすんでしまうというシュールな作品です。
 なぜか主人公が登場時からずっと全裸という設定からしてシュールです。第一話に登場する敵とその屋敷の描写も異様なグロテスク味があって、序盤から唖然としてしまう人が多いかと思います。最初はギャグやユーモアのつもりでやっているのかと思いながら読み進んでいくと、大真面目にやっていることが段々わかってきます。そのテンションに慣れてくると、これはこれで面白い作品だと思えるようになるから不思議ですね。



ひょうひょう
ネルノダイスキ『ひょうひょう』(アタシ社)

 ユニークな発想と珍妙な世界観で、とにかくシュールなマンガ作品です。何が起きてどうなるのか、最初から最後まで予想がつかない…という意味ですごく面白い作品集ですね。
 柴犬の尻を拭く部署に配属された新人社員を描く「コーサ」、同居人の壁の住人との生活を描く「エソラゴト」、死後の世界を探索するという「アザーサイド」、捨てられた家を焼く仕事を描いた「家葬」、ある日田んぼに現れた謎の存在「もへじ様」との対決を描いた「へのへのもへ」、古い絵皿の中の世界に入ってしまうという異世界譚「皿TRIP」などが面白いですね。
 死後の世界を見て回るという「アザーサイド」はホラーとして読んでもいいようなかなり怖い作品です。謎の存在「もへじ様」に襲われる一行がそれを封印しようとする「へのへのもへ」はアクションもあって楽しい作品。
 古い絵皿の中に別世界があって、そこに仙人のような存在が住んでいるという「皿TRIP」は、中国の古い幻想物語を思わせて味わいがありますね。
 登場人物たちは、主にシンプルな描線の猫のような存在として描かれるのに対して、背景や物体に関してはかなり描きこまれていて、その対比も面白いです。特に「アザーサイド」で描かれる死後の光景は、リアルかつシュールで見ごたえがありますね。



グランド・ツアー―英国式大修学旅行 (中公コミック・スーリスペシャル)
石ノ森章太郎『グランド・ツアー 英国式代修学旅行』(中央公論社)

 18世紀、英国貴族の子弟の教育の一環として行われていたフランス・イタリアなどをめぐる旅行、通称「グランド・ツアー」をマンガ仕立てで描いた作品です。
 「グランド・ツアー」は、英国の貴族の子弟が当時文化の先進国だったフランスやイタリアの各都市を教育を兼ねてめぐるという大旅行。短い場合は一年、長い場合は五年近くも旅行して回ったといいます。
 ぼんくらの若殿トーマスと家庭教師のスミス先生を主人公として、ヨーロッパの各地(といってもフランス・イタリア・スイスです)をめぐる旅がユーモラスに描かれていきます。外国語がわからなくて立往生したり、スリにあったり、現地の女性に目を奪われたりと、二人の旅はなかなか上手くいきません。
 パリの街が非常に汚かったとか、貴婦人の結い上げた髪の中に虫がいっぱいいるとか、オペラや芝居を客がちゃんと見ていないとか、当時の町や人々の様子が美化せずに描かれているところが面白いですね。
 原作は、本城靖久『グランド・ツアー 英国貴族の放蕩修学旅行』(中公文庫)というノンフィクションで、こちらもすごく面白い本です。石ノ森章太郎はこちらの本のエッセンスを上手く絵に置き換えていて、秀逸な作品になっていると思います。



未来の想い出 (ビッグコミックス)
藤子・F・不二雄『未来の想い出』(小学館)

 漫画家、納戸理人はかっては人気作家だったものの、今では作品を打ち切られるなど落ち目になっていました。参加したゴルフコンペでホールインワンを出した納戸は、ショックで気を失います。気がついた納戸は、自分が漫画家の卵だった20年前に戻っていることに気がつきます。
 納戸は、自分の作品で新たな道を模索すると同時に、命を落としたかっての憧れの女性、水谷晶子の苦境を救おうと考えます。しかし運命を変えようとすると、強烈な頭痛が始まってしまうのです…。
 漫画家の主人公が何度も人生をやり直すという「ループもの」作品です。人生を変えようとすると「運命」が邪魔をしようとしたり、別の形で災難が降りかかるなど困難はあるものの、大体において、主人公の願いは少しづつ実現していきます。その意味で、多少物足りない感がしないではないのですが、主人公のポジティブさとも相まって、非情に読後感のいい作品になっています。
 読んでいて、ジャック・フィニィのいくつかの作品や、リチャード・マシスン原作の映画『ある日どこかで』、ケン・グリムウッド『リプレイ』など、似たテーマの作品が思い浮かんできますね。
 『未来の想い出』には、こうした時間SFテーマのエッセンスが作品全体に散りばめられていて、海外のSF小説が好きな方には非常に楽しめる作品だと思います。



憂夢: あの頃にもう一度 (1) (ビッグコミックススペシャル) 憂夢: 面影ふたたび (2) (ビッグコミックススペシャル) 憂夢: 愛のはじまり (3) (ビッグコミックススペシャル)
藤子不二雄A『憂夢』(小学館ビッグコミックス)

 レンタルビデオ店「憂夢」から借り出したビデオを見た客に、様々な不思議な出来事が起こる…という作品。同著者の有名作『笑ゥせぇるすまん』と同じく、ちょっとブラックなオムニバス短篇連作集です。
 この『憂夢』に、ジャック・フィニィへのオマージュがあります。第1話のタイトルは「ふりだしに戻る…」であり、作中にフィニィの本そのものも登場するというフィニィのファンには非常に楽しいエピソードになっています。
 ビデオというメディアが題材になっている関係上、ノスタルジックなエピソードも多く、作品の成立そのものにフィニィ作品の影響もおそらくあるのでしょう。
 エピソードの内容は、妻子と別居同然になっているベテラン漫画家が、レンタルビデオ店「憂夢」でビデオを借りるが、そこには若き日の自分と思いを寄せる女性の姿が映っていた…というお話です。A先生らしくブラックな結末が待っています。
 今となってはビデオというメディア自体が古くなってしまいましたが、この作品の作風上、今読むと逆にレトロな雰囲気も感じられていい味を出しています。憂夢は、世界に一つだけしかないというビデオを、毎回9990円で貸し出すのですが、これは安いのか高いのか…。
 ちなみに作中に登場する『ふりだしに戻る』は、1973年刊の角川書店の海外ベストセラー・シリーズ版ですね。1991年に角川文庫版が刊行されるまで、この本は入手が難しく、貴重な本でした。

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ダークサイドの物語  三堂マツリ『ブラック・テラー』
ブラック・テラー
 三堂マツリの短篇コミック集『ブラック・テラー』(バンブーコミックス タタン)は、不気味と隣り合わせの街「クリーピー・サイド」で起こる出来事を描いた連作短篇集です。かわいらしい絵柄ながら、描かれるのはブラックなストーリーばかりで、そのギャップも魅力的。

 人の恐怖心が見たいがために殺人鬼のふりをして人を驚かす男の物語「注目せよ」、ホラー映画が上映される映画館での出来事を描く「ホラーナイト」、人間の皮で装丁された本に執着する青年を描く「グリーンスキン」、思い出を蘇らせるため動物の内臓を食べる少女を描いた「思い出の味」、靴泥棒が思いもかけない出来事に遭遇する「イン・マイ・シューズ」、傷に執着する青年がパーティで出会った女性に惹かれるという「ハロウィンパーティ」、大胆な手術で有名な医者を描く「専門医」、死の香りを感じ取る少女と浮浪者の物語「死の匂い」、脱字だらけの手紙を届けに訪れた郵便配達夫が出会う奇怪な出来事を描いた「スペースオペラ」、各話の登場人物たちが一堂に会する最終篇「クリーピー・サイド」、死体愛好者の青年が死体との間に生まれた娘を育てることになるという読切作品「リビングデッド・ベイビー」を収録しています。

 ブラックでありながらも人間の情についても描いていて味わい深い作品、ももちろんあるのですが、救いがない徹底したブラックなストーリー、猟奇的で強烈なホラーもありと、収録作の揺れ幅が非常に広いのが魅力的ですね。
 「思い出の味」「イン・マイ・シューズ」「スペースオペラ」などでは、発端の出来事から思いもかけない展開があり、えっそんな展開に!という驚きがあります。

 死ぬ直前の人間の匂いを感じ取れる少女が、匂いのする浮浪者に惹かれていくという「死の匂い」は、予定調和的な部分がありつつも、ほのかな暖かさの感じられる作品になっています。集中でも一番「いい話」ではないでしょうか。

 一番印象に残るのは、巻末の読切作品「リビングデッド・ベイビー」でしょうか。
 死体愛好者の青年は、ある日死体との間に生まれたとしか思えない赤ん坊を見つけます。世間の目を恐れた青年は、娘をひそかに育てることになりますが…。
 非常にブラックな設定でありながら、描かれるのは親子の愛情であり、青年が立ち直るまでの物語。これは傑作だと思います。

 全体に非常にレベルが高く、怪奇幻想ファンにはお薦めしておきたい作品集です。
 「リビングデッド・ベイビー」に関しては、作者の三堂マツリさんのtwitter上で公開されていますので、気になった方はお読みになることをお薦めしておきます。

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不思議な玩具の物語  詩野うら『有害無罪玩具』
有害無罪玩具 (ビームコミックス)
 詩野うら『有害無罪玩具』(ビームコミックス)は、SF的・幻想的な要素の濃いマンガ短篇集です。「人間の自由意志はあるのか?」とか「自分は本当に自分なのか?」といった哲学的なテーマがところどころに埋め込まれていて、恐ろしく密度の濃い作品集です。

 なぜか販売が停止された品物を収集する博物館を描く「有害無罪玩具」、止まった時間の中に閉じ込められた女性を描く「虚数時間の遊び」、不死で知性のない人魚をめぐる「金魚の人魚は人魚の金魚」、時間飛行士になった女性が1000年後の世界を訪れ、亡くなったパートナーの魂に出会おうとする「盆に覆水 盆に帰らず」の4篇を収録しています。

 「有害無罪玩具」では、販売中止になった様々な不思議な道具が紹介されていきます。自我のあるしゃぼん玉、0.5秒先の未来が見える眼鏡、未来に自分が描く絵を予知する機械、人によって見える姿が変わる人形、存在しなかったアニメの偽装記憶を植えつける装置など。
 アイディア自体も面白いのですが、さらに面白いのはその道具を使う人間の意識や行動が変わっていく様を描くところです。例えば0.5秒先の未来が見える眼鏡によって、自分の行動に意識的になり上手く動けなくなってしまう…とか。

 見る人をだましてその人の五感にとって好ましいデザインに感じさせるという「万能デザイン人形」のパートでは、その効果を示すために、人形を見ている二人の視点が同時に描かれるという面白い試みがなされています。
 二人には同じ人形が全く違う姿に見えているのですが、その姿を表現する相手の言葉までもが改竄されるので、同じものについて語っているとしか認識されない…というのです。他の道具のパートでも大なり小なりこうした問題意識が描かれており、非常に考えさせる作品に仕上がっていますね。

 「虚数時間の遊び」は、止まった時間の中に閉じ込められた女性を描く作品。無限の時間を過ごすために、主人公は様々な暇つぶしを考えます。あまりの退屈さに「幻の自分」を作り出したり、1億年単位で暇つぶしを考えたりと、ある意味、非常に恐ろしいテーマを扱った作品です。

 「金魚の人魚は人魚の金魚」は、人間が愛玩用に作り出した金魚の人魚が描かれます。不死であるのでどんな環境でも生きられ、しかし知性はないに等しいのでただ回遊するばかりという存在。周りの人間が争ったり、文明が壊滅してさえ、人魚自体は何も変わらないのです。
 やがて宇宙に追放されたり、地球が人間の住めない星になっても、人魚はただそこにいる…という無常観と、愚かな行動を繰り返す人間が対照的に描かれていて、文明批評的な視点もありますね。

 SFでいうところの「センス・オブ・ワンダー」が感じられる作品集で、これはお薦めしておきたいと思います。

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7月の気になる新刊
7月2日刊 チャールズ・ウィルフォード『拾った女』(扶桑社文庫 予価1026円)
7月8日刊 スティーヴン・キング『ジョイランド』(文春文庫 予価907円)
7月9日刊 ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』(白水Uブックス 予価1944円)
7月9日刊 イーヴリン・ウォー『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(白水社 予価2592円)
7月11日刊 東雅夫編『怪談入門 乱歩怪異小品集』(平凡社ライブラリー 予価1728円)
7月11日刊 フェルディナント・フォン・シーラッハ『テロ』(東京創元社 予価1728円)
7月11日刊 J・G・バラード『ハイ・ライズ』(創元SF文庫 予価994円)
7月12日刊 フケー 『水の精(ウンディーネ)』(光文社古典新訳文庫)
7月19日刊 ザーシャ・アランゴ『悪徳小説家』(創元推理文庫 予価1058円)
7月20日刊 ミュリエル・スパーク『あなたの自伝、お書きします』(河出書房新社 予価2376円)
7月21日刊 グレアム・ジョイス『人生の真実』(創元海外SF叢書 予価2700円)
7月22日刊 ディーノ・ブッツァーティ『古森の秘密』(東宣出版 予価2052円)
7月25日発売 『ミステリマガジン9月号 特集=ロアルド・ダール生誕100周年』 (早川書房 1296円)
7月28日刊 パット・マガー『四人の女 新版』(創元推理文庫 予価1080円)


  『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』は、初訳5篇を含め、15作品を収録した短篇集。長編の邦訳はけっこうあるものの、短篇集の刊行は初めてじゃないでしょうか。ウォーの短篇はブラック・ユーモアが効いているものが多く、<奇妙な味>の短篇として読めるものも多いので、これは楽しみです。

 東雅夫編『怪談入門 乱歩怪異小品集』は、乱歩の怪奇小説関連の随筆・エッセイをまとめたものに、怪奇系の短篇をいくつか収録したもの。以前、映画とのタイアップ的に刊行された『火星の運河』(角川ホラー文庫)の増補版、といった感じのようですね。

 J・G・バラード『ハイ・ライズ』は、映画公開の恩恵での再刊でしょうか。
 バラードといえば、創元社のメルマガで、バラードの短篇を集成した《J・G・バラード短編全集》全五巻の刊行が予告されていました。
 97の短編を執筆順に収録する決定版全集で、ハードカバーでの刊行になるようです。1巻は8月刊行とのこと。

 ディーノ・ブッツァーティ『古森の秘密』は、岩波少年文庫で刊行されたばかりの 『古森のひみつ』 と同一作品の邦訳のようです。偶然なのかわかりませんが、ファンとしてはせっかくの機会、別の作品の邦訳を出してほしかったな、というのが正直なところですね。

 『四人の女 新版』は、パット・マガーの名作の新版。マガーの作品は、どれも趣向を凝らしているのに加えて、メロドラマ部分が面白いんですよね。マガーは短篇も面白いものが多いので、いつか短篇集もまとめてもらいたいものです。
追悼フジモトマサル
夢みごこち いきもののすべて 二週間の休暇 (MouRa) スコットくん (中公文庫―てのひら絵本 (Pふ2-2))
 漫画家、イラストレーターのフジモトマサルさんが亡くなったそうです。知る人ぞ知るといった存在だったのが、じわじわと人気が出てきて、最近では村上春樹の挿絵を手がけるなど、まさに油の乗り切ったところでした。非常にショックです。
 僕がこの方の作品に最初に触れたのは、クラフト・エヴィング商會の吉田浩美さんの『a piece of cake』(筑摩書房)にゲスト参加したイラストだったと思います。
 このイラスト(というよりマンガに近い?)作品で、興味を持ち、他の作品を探して読み始めました。『長めのいい部屋』(中公文庫)、『スコットくん』(中公文庫)、『ウール100%』と続編『ウール101%』『こぐまのガドガド』(中公文庫)など。
 フジモトさんの作品の特徴は、登場人物が主に動物であるところ。といっても、人間と同じように話し、仕事をし、日常生活を営んでいます。彼らが暮らす世界には、実際の人間も一緒に生活しているのです。擬人化された動物キャラを使った寓話、といった感じでしょうか。
 動物をメインキャラクターにしていることから、ほんわかした作風を思い浮かべると思いますが、実態はちょっと違います。確かにほんわかとしてはいるのですが、どこかしら冷めた視線が感じられるのです。インテリを気取りつつも実は俗物というペンギンを主人公にした『スコットくん』あたりから、その冷めた視線は感じていたのですが、後期作品になるにしたがって、皮肉なユーモアが増えてきます。
 四コママンガ集『いきもののすべて』(文藝春秋)あたりでは、かなりシニカルな印象が強くなっています。単純なギャグ作品ではなく、読んだ後に少し考えさせられる、余韻のある作品が増えているのです。
 そして長編作品『二週間の休暇』(講談社)と『夢みごこち』(平凡社)、この2作がフジモトマサルの最高傑作ではないかと思っています。記憶を失った女性のアイデンティティーをめぐる物語『二週間の休暇』、「夢」をテーマにした連作短篇集『夢みごこち』。どちらの作品も、寓話としても物語としても素晴らしい完成度に達しています。
 アメリカのコミックでは、文学の領域にマンガを近づけようとした「グラフィックノベル」というジャンルがありますが、フジモトマサルの近作は、形式こそ違え「グラフィックノベル」の領域に近づいていたように思います。それだけに、早過ぎる死が惜しまれます。

テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック

迷宮の遊び方  たかみち『百万畳ラビリンス』
4785956011百万畳ラビリンス 上巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

by G-Tools
478595602X百万畳ラビリンス 下巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

by G-Tools

 たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)は、迷宮をテーマにした、魅力的なコミック作品です。
 人見知りの大学生、礼香は幼い頃から周りの環境に溶け込むのが苦手でした。唯一心から楽しめるのは、ゲームだけ。やがて、ゲーム会社でバグ探しのアルバイトをするようになります。ルームシェアをすることになった庸子が、同じゲーム好きであったことから、意気投合し友人になります。
 ある日突然二人は、謎の巨大建築物の内部にいることに気がつきます。部屋の扉を開けても、そこにはまた別の部屋が続いているのです。建物の内部には、現実にはありえないような作りの部屋や不思議な家具が次々と現れます。二人は出口を探しますが、一向に見つかる気配がないのです…。

 迷路のような謎の建築物からの脱出という、何とも魅力的なテーマを持った作品です。まず、どうやって食料を手に入れるのか? という疑問が浮かびますが、じつは建造物内部の部屋には普通に家具が置いてあり、時折、冷蔵庫も存在します。中には食料が入っているのです。
 冷蔵庫だけでなく、それぞれの部屋には電気もガスも水道も通っており、トイレや風呂もパソコンも携帯電話も存在するのです。生き延びるに当たって、当座は困ることがありません。
 サバイバル的な面では切迫感がないために、最初はのんびりとした空気さえ漂っています。実際、礼香はこの世界に来たことで、生きる意欲を取り戻し、建造物内にずっといたいとさえ考えるようになっていくのです。
 しかし、インフラが整っている以上、この建造物を管理している存在がいるに違いない。その考え通り、二人は、建造物を作ったらしき存在と遭遇を果たします。それは人間ではなく、しかも二人に敵意を持っているようなのです…。

 この作品のいちばんの魅力は、なんといっても、巨大建造物とその内部の部屋や家具にあります。見た目は普通の家具ながら、不思議な特性を持ったものが数多く存在するのです。
 例えば、行く先々でやたらと見かける、同じ型のちゃぶ台。これらのちゃぶ台は全て同期しており、何か物を置くと、すべてのちゃぶ台の上に、同じものが現れるのです。そしてそこから物を取り除くと、物は消えます。
 ちゃぶ台だけではなく、異世界の法則やルールを、手探りで探っていく過程の面白さは抜群です。この建物はいったい何なのか? 何の目的で作られたのか? 出口はあるのか?
 やがて明らかになる、建造物の謎。そして脱出のための方法。脱出の方法が判明したとき、礼香のとった選択肢とは…

 冒険行のなかで、主人公二人の友情や思いもまた変化していきます。現実の世界では人と関わることをしなかった礼香は、現実的な性格の庸子と触れ合うなかで、他人の気持ちを慮るようになっていくのです。
 小説作品では、恩田陸『MAZE』(双葉文庫)など、正面から迷宮を扱った作品がありますが、マンガ作品でこれだけ正面きって迷宮を扱った作品は初めてではないでしょうか。迷宮の魅力だけでなく、成長物語としての側面も持った意欲作です。

 ちなみに、タイトルがとても印象的なのですが、レイ・ブラッドベリ『百万年ピクニック』からインスピレーションを受けているのでしょうか。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌

高山和雅『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』

4883794016天国の魚
高山 和雅
青林工藝舎 2014-09-20

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 高山和雅のコミック作品『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』(青林工藝舎)は、どこか懐かしい味を持ったSF作品です。

 巨大彗星の接近により、破滅の迫る地球が舞台です。島に暮らす家族5人は、本土への避難をあきらめ、島の施設に過去に作られたというシェルターに逃げ込みます。
 巨大な地震と津波に襲われ、意識を失った直後、5人は自分たちがなぜか町のなかにいることに気づきます。しかも驚くべきことに、その町は現代の町ではなく、1970年代の町だったのです。
 町の人たちは自分たちのことを知っており、家族は、以前からその町で仕事をし、居住していたことになっているのです。違和感を感じながらも、日常生活を送ることになる家族でしたが…。

 過去の時代に来ていることから、タイムトラベルものと思いきや、さにあらず。その後も二転三転し、次々と事態が変転していき、退屈する暇がありません。
 「破滅テーマ」「タイムトラベルテーマ」、他にもSFでお馴染みのテーマがこれでもかとばかりに放り込まれています。正直、個々のテーマ自体に目新しさはあまりありません。ただ、そのテーマの演出と構成がひじょうに巧みなので、一気に読ませられてしまいます。
 いろいろなSFのテーマが扱われているので、SF作品を多く読んでいる人ほど、楽しめるのではないでしょうか。もちろんSF慣れしていない人でも、楽しく読める作品だと思います。
 SFのガジェットやテーマだけが先行するのではなく、メインとなる家族5人の人物も、細やかに描かれています。家族同士の愛憎、運命の皮肉、そして最終的には驚愕の結末へと流れ込むのです。
 複雑な構成をもつ作品ですが、読後感はオーソドックスなSFのそれです。筋は確かに複雑なのですが、作品中で丁寧に絵解きされていくので、読んでいけば、混乱することはないでしょう。
 クライマックスに明かされる事件の真相、そして家族5人の選ぶ、それぞれの選択。盛り込まれたさまざまなテーマ、緻密な構成、物語と有機的に結びついた人物像と、おそるべきバランスの良さと完成度です。再読、三読したときにも、また違った味わい方ができる、懐の深い作品だと言えます。

 初めて聞く作者名だったので、新人だとすると、ものすごい筆力と構成力だと驚いたのですが、調べてみると、ベテランの作家だったのですね。かなり寡作なようで、他の作品は現在手に入らないようですが、これは他の作品もぜひ読んでみたい作家です。
 物語の筋を細かく紹介すると興をそいでしまうタイプの作品だと思うので、あまり内容は紹介しませんでしたが、共通する印象の作品を挙げることで、具体的な物語を紹介するのに代えさせてもらいたいと思います。
 広瀬正『マイナス・ゼロ』、ケン・グリムウッド『リプレイ』、フィリップ・K・ディックの諸作、フレッド・セイバーヘーゲン『バースディ』、ロバート・A・ハインライン 『輪廻の蛇』、星野之宣『2001夜物語』
 これらのタイトルでピンと来た方には、オススメしておきましょう。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌

生きているってなんだろう?  内田善美『草迷宮・草空間』(集英社)

4087821013草迷宮・草空間
内田 善美
集英社 1985-03

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 内田善美は、少数の作品を残して消えた伝説的な漫画家です。1980年代に沈黙して以来、その作品は一切再版されていません。それにもかかわらず、今でも、その作品の魅力について語る人は後を絶ちません。
 彼女の代表作といえば、まず第一に挙がるのが『星の時計のLiddell』(全3巻 集英社)でしょう。夢をテーマに、重厚かつ哲学的に描かれたファンタジーですが、ある種、難解でもあり、万人に受け入れられるといった物語ではありません。
 それに対し、もう一つの代表作というべき作品『草迷宮・草空間』(集英社)は、親しみやすいキャラクターの登場する、愛すべきファンタジーに仕上がっています。

 ある日、大学生の青年、草は捨て猫らしき鳴き声を聞き、様子を調べに出かけます。そこにいたのは猫ではなく、小さな女の子でした。ふとしたことから、草は彼女と共同生活を送ることになります。「ねこ」と名乗る不思議な少女は、かってボス猫と一緒に暮らしていたと話します。やがて「ねこ」は人間ではなく人形だったことがわかりますが…。

 魂を持つ人形「ねこ」と、青年「草」との日常を描いた作品ですが、この作品の特殊性は、人形「ねこ」の不思議な感性にあります。
 「ねこ」は、周りのあらゆるものに興味を持ち、植物・動物・人間の区別をせず、生命というものにひときわ関心を抱きます。また、ふてくされてみたり、満面に喜びを表してみたりと、彼女の行動は、みずみずしい感性に彩られているのです。
 「ねこ」の行動を見ていて想起するのは、子ども。そう、「ねこ」は、ある種の、子どもの寓意でもあるのでしょう。「子ども」のように、「ねこ」は草との生活のなかで、いろいろなことを理解していきます。
 そしてまた、「ねこ」だけでなく、共同生活者である草という青年もまた、独自の感性を持つ人間として描かれています。何かを飛びぬけて愛したり嫌うのではなく、まったく同じ比重で全てを受け入れる心の広さを持ち、彼の中ではガールフレンドのアケミと「ねこ」とは同じぐらい大切な存在になっているのです。
 物語後半、現在のアケミと、写真で見た子どもの頃のアケミとが、同一人物であることを理解した「ねこ」は、驚きます。生命は成長する、ならば自分もまた成長するのではないか?
 草との生活を通して、「ねこ」も、精神的に成長していきます。しかし人形であるがゆえに、肉体的に成長することは不可能だということまでは思いが至らない幼さ。そして、そこから先二人がどうなるのかは読者の想像に委ね、物語は幕を下ろします。
 生きていることの豊かさ、愛おしさをこれほどチャーミングに描いた作品を他に知りません。
 微妙な心理の綾を丁寧に、丁寧に描いた作品です。まさに工芸品の趣のある、愛すべきファンタジー作品といえます。
カニのための進化論  アルチュール・ド・パンス『カニカニレボリューション』
4864102856カニカニレボリューション (EURO MANGA COLLECTION)
アルチュール・ド・パンス 原正人
飛鳥新社 2013-10-09

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 近年、フランスの漫画「バンド・デシネ」の邦訳もずいぶん多くなりました。日本漫画に慣れた目には、斬新な形の作品が多く、読むたびに驚かされることも稀ではありません。
 そんなバンド・デシネの中でも、アルチュール・ド・パンス『カニカニレボリューション』(原正人訳 飛鳥新社)は、更にユニークな作品といえるでしょう。
 これ、なんとカニを主人公にした物語なのです。そう聞くと、動物を擬人化した子供向けの作品なのでは? と思い勝ちですが、なかなかどうして深いテーマを持った作品なのです。
 フランス南西部に生息する、何の変哲もないカニ。その名も「タダノドコニデモイルガニ」。彼らは食用にも適さず、横方向にしか移動できません。同じ種族内でさえ、互いに関心を持たず、名前という概念さえ持ち合わせていませんでした。
 他の動物たちからも哀れみの視線を向けられるカニたちですが、ある日、初めて名前をつけたカニたち、ソレイユ、バトー、ギターは、現状を打倒しようと立ち上がります。生命の危機に陥ったソレイユは、方向転換の技術を身につけ、それはカニたちの進化を引き起こしていきます…。
 一方向にしか動けないカニたちと、それを嘲笑する周りの動物たち。そこから寓意を読み取ることも可能なのでしょうが、そうした深読みをしなくとも、十分魅力的な物語になっています。
 カニたちはビジュアル的にはほとんど同じキャラクターたちなのですが、しっかりと個性を持って描かれているのは見事です。基本的に海が舞台なので、他に登場するキャラクターたちも、海の動物が多いのですが、色鮮やかなカラーリングも見ていて飽きません。
 コンピュータで描いているという絵は非常にチャーミングで、コマ割も洗練されています。動きを重視している日本漫画と違い、バンド・デシネは、じっくりと読まないといけない作品が多いのですが、この作品は、日本漫画のように、スピーディに読み進めていけるのも爽快ですね。
 もともと、アニメーションも手がける作家らしく、大コマの演出も凝っています。というか、この『カニカニレボリューション』自体が、短編アニメーション作品をふくらませて出来た作品だそうです。
 現在、アニメ作品の方も翻訳付きでYou Tubeで見ることができます。(http://www.youtube.com/watch?v=fHnekg3JNU8
 アニメ作品と比べてみると、バンド・デシネ作品の方はもう完全に別物ですね。物語の膨らませ方といい、見事なイマジネーションです。
kani1.jpg kani3.jpg kani2.jpg

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
2019年10月に作成した「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を盛林堂書房さんで通信販売中です。
2019年12月に同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を刊行予定(盛林堂書房さんで通販予定です)。



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