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とある惑星の出会い  町田洋『惑星9の休日』
4396460430惑星9の休日 (単行本)
町田 洋
祥伝社 2013-08-12

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 星と月と宇宙。ボーイ・ミーツ・ガール。町田洋のコミック作品『惑星9の休日』(祥伝社)は、辺境の小さな星、「惑星9」に暮らす人々を描いた連作短編集です。
 情感を盛り込みながらも、陰湿にならず、軽さを感じさせる作風は独特です。収められた8編、それぞれ独自の味がありますが、とくに印象的なのは『惑星9の休日』『衛星の夜』の二編です。
 表題作『惑星9の休日』は、このような話。惑星9は、恒星に対して垂直に自転しています。そのため、永遠に光が当たらない窪地があり、そこは「永久影」と呼ばれています。影の中には、町がまるごとひとつ凍りついているのです。その影の町に永遠にたたずむ少女に惹かれる男と、その男を追いかける時計店の少女を描いた物語です。
 クリストファー・プリーストの『限りなき夏』、あるいは梶尾真治の『美亜へ贈る真珠』を思わせるようなストーリーですが、面白いのは『惑星9の休日』に登場する男には、悲壮感がないところ。過去に固定された少女に惹かれながらも、男には過去に対する執着はないようなのです。後半に起こる事件により、「永久影」は姿を消すことになりますが、残るのは絶望ではなく希望なのです。
 『衛星の夜』は、惑星9から月が永久に離れてしまう夜を舞台にした物語。かって月に行ったという男の回想が描かれます。月の調査にたった一人で派遣された男は、窪みに落下してしまい、死ぬしかない状況におかれていました。彼を助けたのは、月で生まれた粘菌のような生物。粘菌は生物の頭の中から情報を取り出し、どんな形にもなれる生物でした。宇宙船内のポスターに映った少女そっくりになった粘菌は、男によりワルツと名づけられます。
 ワルツの希望はただ一つ、友達でした。永遠に近い時間を孤独に過ごしたワルツの思いを知った男は、ワルツを故郷に連れ帰ろうと考えますが…。
 物悲しい結末を迎える作品においても、そこに暗さはなく、ある種、あっけらかんとしたオプティミズムが感じられます。清涼感に満ちた読後感が、魅力の一つでしょう。
短編小説好きに勧める、最近のマンガ短編集

4091885942路地裏第一区 ―ムライ作品集― (IKKI COMIX)
ムライ
小学館 2012-07-30

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 丸焼きの鳥や電球の頭を持つ男など、ダリやマグリットを思わせる、ちょっと不気味なテイストの登場人物たちが繰り広げるシュールなストーリー。独特の世界観をもっています。詳しい説明や描写がないだけに、読者を選ぶところはありますが、はまる人は、はまると思います。アート系の細密な画風も魅力的です。
 


4091237355とよ田みのる短編集 CATCH&THROW (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
とよ田 みのる
小学館 2012-05-11

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 最近メジャーになりつつある作者の短編集です。人間の優しさ、不器用さなどをある種ベタなまでに描く、ヒューマンストーリーが持ち味です。
 収録作品はどれも水準以上の出来ですが、メデューサの子孫が、ペルセウスの子孫に恋してしまうという『素敵な面倒さん』、孤独な少女が呼び出した魔物が現実を侵食するという『ヒカルちゃん』などが特に魅力的。
 長編作品としては、子ども時代に戻り、制限時間内に友達を100人作らないと地球が滅亡してしまうという『友達100人できるかな』(講談社)、呪いのために不幸を呼び寄せてしまう少女と妖怪たちとのふれあいを描く『タケヲちゃん物怪録』も面白い作品です。



4047284084九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)
九井諒子
エンターブレイン 2012-10-15

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 竜や人魚など架空の生物をテーマにした、ファンタジー短編集です。
 少年と人魚との出会いを描く『人魚禁猟区』、環境汚染で棲家を追われてしまった山の神を家に連れ帰った少女の物語『わたしのかみさま』、狼男症候群にかかった少年と母親とのやりとりを描く『狼は嘘をつかない』、王の病を治すための竜の鱗を求める王子と道案内の女の物語『竜のかわいい七つの子』など、バラエティー豊かで飽きさせません。



425321715X空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)
阿部 共実
秋田書店 2012-03-08

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 今回イチオシなのがこの作品です。主に10代の少女を主人公にしたオムニバス・ストーリーになっています。かわいい絵柄、各話短いページ数でありながら、与えるインパクトは強烈です。
 素直でないこと、普通でないことに悩む少女の心の揺らぎを描いたり、大人になりきれない痛々しさを表現する、ある種オーソドックスな青春ストーリーから、狂気を描くサイコサスペンス、不条理なホラーまで、各エピソードのバラエティ、幅の広さが尋常ではありません。しかも、それをごく短いページ数でやっているところに、才能を感じさせますね。
 微笑ましいエンドもあれば、まったく救いのない結末もあり、読み終わるまでどんな話に転ぶかわからないところも魅力的です。
夢マンガをめぐって

4904376625エデナの世界
メビウス
ティー・オーエンタテインメント 2011-09-24

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 発売されたばかりの、メビウス『エデナの世界』を入手しました。メビウスはフランスのマンガ、≪バンド・デシネ≫の巨匠と言われる作家です。さっそく一読したのですが、この『エデナの世界』、「夢」が重要なモチーフになっています。
 主人公のステルとアタンは、宇宙船で、エデンの園を思わせる、楽園のような惑星に辿り着きます。しかしふとしたことから、二人は離ればなれになってしまい、見知らぬ土地で互いを探し合うことになります。
 ホルモン抑制剤を飲んでいた二人は、この星で暮らすうちに、本来のホルモンが活動し始め、それぞれ男女らしい体つきになっていきます。離れ離れになった二人が互いを探しあううちに、この星の「神」と「悪魔」にあたる存在が、それぞれの思惑を持って二人の冒険行にからんでいきます。
 二人がことあるごとに「夢」を見るのですが、これが単なる「夢」ではなく、物語に重要な関わりあいを持ってくるのです。
 読み終えて、そういえば最近読んだマンガに似たモチーフを扱った作品がいくつかあったなあ…と思い出したのが、岸浩史『夢を見た』とフジモトマサル『夢みごこち』



4575302945夢を見た
岸 浩史
双葉社 2011-04-06

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 岸浩史『夢を見た』は、一編がそれぞれ2ページ程度で描かれる、ファンタジー作品。明確なストーリーがあるわけではなく、夢で見るような、ある種不条理なイメージを視覚化したものが描かれます。「夢」といっても、それを見て楽しめるエンターテインメントに昇華しているのが素晴らしいです。



4582287360夢みごこち
フジモト マサル
平凡社 2011-01-30

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 フジモトマサル『夢みごこち』は、連作短篇集なのですが、1篇1篇が終わるごとに、それが夢だった…という展開になっています。いわゆる「夢オチ」作品といえるのですが、それが毎回繰り返されることによって、物語の舞台が現実なのか夢なのか判然としなくなってきます。登場人物たちは、著者独特のかわいいタッチで描かれる動物で表現されているのですが、夢がなかなか終わらない…という、ある種悪夢のような展開とのミスマッチが、何ともいえない雰囲気を生み出しています。
 それぞれの短編も、世界すべてが自分の夢だと思っている男が、夢警察に囚われる話だとか、空を飛ぶ夢を見ている女がラジオ番組に電話をかけてくる話、人格改造システムの実験によって、記憶を奪われてしまう話など、異色作家短篇集を読んでいるような味わいで、楽しめます。

テーマ:アニメ・コミック - ジャンル:アニメ・コミック

生きることは罪じゃない  おがきちか『エビアンワンダー』
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 中世風の異世界ファンタジーは、いまやありふれているとさえ言えます。ただ、数多いその種の作品の中で、そのファンタジー世界の設定が、物語にとって必然性のあるものかどうか、という点になると、疑問を覚える作品が多いのが事実です。
 その点、おがきちかの漫画作品『エビアンワンダー』(一迅社 ZERO-SUM COMICS 全4巻)は、この世界、この登場人物たちでなければ成立しない、という意味で、じつに練られた物語世界を構築しています。
 主人公の女性フレデリカは「銀符」と呼ばれる存在。「銀符」とは、悪魔との契約により、悪人の魂を地獄に送る役目を負った狩人なのです。ただし「銀符」になる代わりに、願いをひとつだけかなえることができます。その願いに対する負債が終わるまで、その役目から解放されることはないのです。
 幼い頃、両親から捨てられたフレデリカが望んだのは、「自分より小さく」「絶対に裏切らない」家族。契約を結んだ悪魔ペイシェントは、彼女の望み通り「弟」ハウリィを作ります。成長したフレデリカは、ハウリィとともに悪人の魂を狩る旅に出ますが…。
 基本的なプロットは、毎回、フレデリカが悪人たちを裁いていくという、よくあるパターンではあります。ただ、この「悪人」たちが単なる悪党でないところがミソです。善人面をした聖職者が、とんでもない悪党だったり、その逆もまたしかりなのです。
 そしてそれは、主人公フレデリカも例外ではありません。彼女が悪魔との契約で求めたのは、自分を裏切らない「弟」の存在。しかし悪魔に造られたハウリィは、その契約上、姉であるフレデリカなしでは生きていけないように造られています。ある年齢以上に成長することのできないハウリィに、ふつうの人間としての幸福を与えることはできないのです。
 この世界に、完全な「善」も「悪」も存在しない。そんな人間たちの「罪」を裁くフレデリカは苦悩します。そして、自らのために「弟」を造ってしまった自分に「罪」はないのだろうか? 
 物語後半、フレデリカは、自分を捨てた両親との再会を果たします。自らの親を「罪人」として裁くことができるのか? 裁く権利が自分にはあるのか? そして明かされるフレデリカと悪魔ペイシェントの契約の真相とは?
 前半の物語に埋め込まれた伏線が、後半になって全て収束するという、ファンタジーらしからぬ巧妙なストーリーテリング。クライマックスでフレデリカが直面する、弟ハウリィと自らの存在意義。人間が生きることへの疑問とその解答。何の気なしに読んできた読者は、後半の怒濤の展開、恐るべき密度に驚かされることでしょう。
 人間の「善」と「悪」そして「罪」と「罰」に対して、深く考えさせてくれる、じつに思索的なファンタジーです。切れば血のにじむような「痛み」にあふれた作品ですが、それだけに、読み終えたときの感動も大きいはず。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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