幽霊の掟  岩城裕明『煉獄ふたり』
4062195445煉獄ふたり 優しい幽霊はコンビニにいる (講談社BOX)
岩城 裕明 スオウ
講談社 2015-05-13

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 幽霊を主人公にしたファンタジーはままありますが、この作品ほど、物理世界に囚われた幽霊も少ないのではないでしょうか。岩城裕明『煉獄ふたり 優しい幽霊はコンビニにいる』 (講談社BOX)は、幽霊の探偵コンビの活躍を描く連作短篇集ですが、幽霊や、彼らが属する世界が細かく設定されており、その設定が物語の重要な伏線にもなっているという、丁寧な作りの作品です。

 この世に未練を抱いて死んだ人間は、煉獄に幽霊となって残ります。幽霊たちは、それぞれ死ぬ直前に肉体から持ち込んだ「現世の欠片」と呼ばれる品物を持っています。それは指であったり、目玉であったりといろいろ。それらを使うことによって、一時的に現実世界に干渉できるのです。また「欠片」を集めれば幽霊は生き返ることができるという噂もありました。
 噂を信じる幽霊キリンは、コンビニに探偵事務所を開きます。霊を見ることのできる生者の友人イツキの協力も得ながら、連れの少年アオバを生き返らせるため、幽霊たちの問題を解決し、その代わりに「欠片」を集めようとするのですが…。

 各話の最初に、客観的な視点からの霊的事件が描写され、本篇ではそれが幽霊たちのどんな行動によるものかが解き明かされる…という体裁になっています。
 幽霊たちの人間くさい側面が描写される、ユーモアファンタジー的な味わいが強いのですが、煉獄や幽霊のルールが細かく設定されており、それが上手くストーリーを盛り上げていくのが面白いところ。
 例えば、煉獄は、幽霊にとっての世界であり、見た目は現実世界と変わりません。幽霊たちは、物理的なものを動かすことはできず、物質をすり抜けることもできません。部屋に閉じ込められれば、誰かが開けてくれるのを待っているしかないのです。
 現実世界に干渉できず、普通の人間には見えない幽霊たちが唯一、現実に影響を与えられるのは「欠片」と呼ばれるアイテム。それは幽霊たちによって様々なのですが、指であれば、それを使い人に触れることができ、目玉であれば、それを生きた人間にはめこむことにより、幽霊たちの姿を見せることができるのです。
 恨みを残して死んだ女の霊を演じる幽霊の劇団の話、いじめられている少女の「守護霊」になり、少女を助けようとする男の物語、トンネルと一体化し、他の霊を取り込む女の霊の話など、ひねったストーリーが多く楽しめます。
 話が進むにつれ、探偵キリンがなぜアオバを生き返らせようとするのか、霊を見ることのできるキリンの友人イツキが、なぜアオバだけ見ることができないのか、などの疑問も解消されていきます。伏線が綺麗に回収されていくので、読んでいて爽快感がありますね。
 どこかとぼけた味わいの中に、ハートウォーミングな展開もありと、読後感も非常によい作品です。

 同じ作者の『牛家』(角川ホラー文庫)や 『三丁目の地獄工場』(角川ホラー文庫)が非常に面白かったので、この作品にも手を出してみたのですが、期待にたがわぬ面白さで、ちょっと追いかけてみたい作家の一人になりました。
異界との取引  篠たまき『やみ窓』
4041050774やみ窓
篠 たまき
KADOKAWA 2016-12-23

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 短い結婚生活を経て、夫と死別した柚子。しかし義母は、柚子のせいで息子は死んだと信じ込み、罵倒を繰り返します。柚子は、義母から隠れるように団地に移り住みます。
 柚子の住む部屋には秘密がありました。夜になると時折、窓を通して、あるはずのない場所につながるのです。そこからやってくるのは、異界の住人たち。彼らは、柚子を神とあがめ、物々交換を求めます。何の変哲もないペットボトルと交換に彼らが差し出すのは、植物であったり、織物であったりと、様々な品物でした。彼らはやがて、とんでもない品物を運んできますが…。

 篠たまき『やみ窓』(KADOKAWA)は、どこか見知らぬ場所とつながる窓を入口に、そこから来る人々との物々交換を描いた、ユニークなテーマの連作短篇集です。
 作品のプロローグともいうべき最初の一篇『やみ窓』を読むと、窓から訪れる人々は、この世の存在ではないかのように思わされますが、やがて彼らもまた人間であり、過去に住む人々らしい、ということがわかってきます。しかし貧しい生活を送る人々にとっては、柚子の容姿や部屋の内部は現実離れしており、それゆえに、柚子を神とみなし、あがめ始めるのです。
 柚子がペットボトルと交換に手に入れた品物はインターネットで高く売りさばくことができ、彼女はそれを生業にするようになります。しかし住人たちの要求はエスカレートし、それを拒んだ結果、住民たちは悲劇に直面することになるのです。

 異世界の存在と物々交換をするというテーマでは、クリフォード・D・シマックの短篇『埃まみれのゼブラ』(小尾芙佐訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇2 宇宙怪獣現わる』ハヤカワ文庫NV収録)という作品を思い出します。
 シマックの作品では、相手側は完全に異世界の存在で、交換で手に入った品物は使用方法もよくわからない変梃な品物ばかり、という設定でした。
 『やみ窓』では、取引相手の人々は、獣じみてはいるものの、普通の人間であることがわかってきます。品物は現実的な物質であり、その意味で、取引される品物の珍しさが、物語の主眼になっているわけではありません。メインで描かれるのは、ヒロインの柚子と取引相手の人々との人間模様です。
 取引に欲を出す人間。口をすべらし、領主にひどい目に遭わされてしまう人間。柚子を殺そうとする人間。従来から過酷で貧しい生活を送っていた人々に、柚子が関与することによって、更なる悲劇を引き起こしてしまうのです。まさに、この世の地獄のような生活が描写されますが、柚子自身の精神もまた、地獄のような領域に踏み入りつつある…というのが読みどころでしょうか。

 団地の窓は、一種のタイムマシンといえるのですが、ふとしたことから、自分が与えた影響により、過去の村や人々がどうなったのかを柚子は知ることになります。同時に耳にした伝説はまた、柚子自身の将来をも暗示するかのようなのです…。
 主人公を含め、誰も幸せにはなりません。運命を変えることもできず、悲劇に向かっていくしかない…という、諦観とほの暗さにあふれた作品ながら、リーダビリティは非常に高く、読み応えのある作品です。

テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

日本ホラー小説大賞受賞作を読む
 日本ホラー小説大賞の受賞作品は、毎年、面白そうな作品だけ選んで読んでいますが、今年度の刊行作品は、それぞれ興味をそそる内容でした。結局、刊行された3冊全てを読むことになりましたが、まとめて感想など書いてみたいと思います。



4041035562ぼぎわんが、来る
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川書店)
 新婚の妻と生まれる予定の娘、順調な人生を送る田原秀樹のもとに、原因不明の怪現象が起こり始めます。自分の身の回りに起こった現象が「ぼぎわん」と呼ばれるものであり、かって祖父母が恐れていたのと同じ怪異現象ではないかと考えた秀樹は、家族を守るために、女性霊媒師とそのパートナーに援助を求めますが…。

 主人公たちを襲う怪奇現象「ぼぎわん」が、霊的なものというよりは、ほとんど物理的な暴力を伴ってくるところが特徴です。神出鬼没であり、その攻撃もほとんど人間には防げないという、とんでもないレベルなので、読んでいる間のハラハラドキドキ感が尋常ではありません。
 「ぼぎわん」に対抗するために、霊媒師を頼ることになるのですが、繰り出す方策がことごとく潰されていく絶望感が凄いですね。
 いわゆる「日本の妖怪」をモダンホラー風に仕上げた作品といえるのですが、リーダビリティが非常に強烈です。ただ怪物に襲われるだけのホラーではなく、主人公やその周りの人間たちの事情、なぜ襲われるのかといった謎解きや、霊媒師側のキャラクターの掘り下げなど、読みどころが沢山あり、飽きる暇がありません。
 エンタテインメント度でいったら、過去の受賞作品で一、二を争う作品ではないでしょうか。



4041035570二階の王
名梁 和泉
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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名梁和泉『二階の王』(角川書店)
 東京の郊外で両親と暮らす八州朋子には、引きこもっている兄がいました。30歳を過ぎた兄は、外部の人間だけでなく、家族に対しても全く姿を見せずに、日常生活を送っていたのです。
 一方、元警察官の仰木とその仲間たちは、考古学者の砂原が残した予言をもとに、世界に邪悪をもたらす存在〈悪因〉の探索を続けていました。彼らの仲間たちは、邪悪な存在を五感で感じとることができるのです。
 グループの一員である掛井は、同じ職場の朋子にひそかに思いを寄せていましたが、彼女の周りで、人々に対する〈悪因〉の影響が強まったことに気付きます…。

 読んでいくとすぐにわかる、<クトゥルー>ものバリエーションの作品です。とはいえ、家族内の軋轢が世界の破滅につながっているという、その組み合わせの妙が素晴らしい。 陰々滅々となりそうなテーマですが、意外にも読みやすく、結末もある種のハッピーエンドになっているところに才気を感じさせます。
 ときおりはさまれる、能力者の回想シーンがミスディレクションになっているのにも感心しました。援助団体の名前に「ウェンディゴ」が使われていたりと、ところどころで見られるお遊びも楽しいですね。



4041035546記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店 2015-10-24

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織守きょうや『記憶屋』(角川ホラー文庫)
 「記憶屋」とは、忘れたい嫌な記憶を消してくれるという都市伝説の怪人。大学生の遼一も単なる噂だと気にも留めていませんでした。しかしある日、恋人の記憶がなくなっていることを知り「記憶屋」の正体を探すことになります…。

 この作品で、消去される記憶は、記憶の全てではなく、本人が嫌だと思う一部の記憶のみというものです。しかし、消した記憶に伴い、それらに関連している他の人間に対する記憶も消えてしまうのです。
 記憶がなくなったとき、その人間と周りの人間の関係はどう変わるのか?そもそも、本人以外が他人の記憶を消す権利などあるのか? 主人公の遼一は、自ら遭遇した事件から、「記憶屋」に対し、怒りを抱くことになります。
 テーマも真摯であり、面白いことは面白いのですが、主人公の行動原理がいまいち納得しづらいのと、「記憶」そのものに対する掘り下げがちょっと浅いのが気になりますね。 すでに続編が予定されているようです。


 ついでにもう一冊。これは、受賞作品とはいっても、ちょっと古めの作品です(1996年 第三回日本ホラー小説大賞短編賞佳作)。あんまり話題にならなかったようですが、なかなかの佳作だと思います。



4043622015ブルキナ・ファソの夜 (角川ホラー文庫)
桜沢 順
角川書店 2002-01

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櫻沢順『ブルキナ・ファソの夜』(角川ホラー文庫)
 『ブルキナ・ファソの夜』『ストーリー・バー』の短篇二篇を収録した作品集です。

『ブルキナ・ファソの夜』
 旅行代理店に勤める主人公が耳にしたのは、ある噂でした。それは地図にも記されていない寒村へのツアーで、参加した人々は、帰国後異様に老け込んでしまったというのです。しかも参加者は皆ツアーへの満足感を持っているといいます。その後も続く謎のツアーの評判を聞いた会社の上司は、主人公に対し、ツアーの内容を調査するように命じますが…。
 実態のつかめない謎のツアーをめぐる作品ですが、それらの内容がどれも魅力的です。実際に旅行代理店勤務の経験があるという作者だけに、作品中の異国の風景がエキゾチックで惹かれます。

『ストーリー・バー』
 雑居ビル内にある店「ストーリー・バー」の売り物は、なんと物語でした。複数の「ストーリー・テラー」が客に対し、物語を語るのです。しかし「テラー」に対し、顔を見たり、私的な会話はしてはならないというルールがありました。
 ある日、主人公のなじみの「テラー」は、行方不明の友人についての話を語り始めます。主人公はその話にのめりこんでいきますが…。
 これは、なんとも魅力的な作品。事実か空想かわからない物語が、やがて現実に反転するという、夢幻のような雰囲気を持った作品です。ゾラン・ジフコヴィッチの『ティーショップ』(山田順子訳『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』黒田藩プレス収録)を思わせます。
 

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

江戸川乱歩、没後50周年のことなど
 今年は、江戸川乱歩の没後50周年だそうです。没後50年でこれだけ話題になる作家がどれだけいるかと考えると、乱歩の人気はいまだに衰えていないようですね。何より、ほぼ全作品が、今でも書店で普通に手に入るというのは、すごいことだと思います。
 没後50周年に伴い、関連図書の出版や企画などが相次いでいます。ここ数ヶ月で刊行された乱歩関連書から、いくつか、ご紹介していきたいと思います。



4791702921ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩
北村薫 辻村深月 丸尾末広 岸誠二 上坂すみれ 高原英理 樺山三英 倉数茂
青土社 2015-07-27

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『ユリイカ 2015年8月号 特集=江戸川乱歩』(青土社)
 乱歩に関するエッセイ・論考が掲載されています。乱歩をテーマにした漫画作品が3篇、小説が4篇と、創作が多く掲載されています。
 漫画3篇がどれもショート・ショートといっていい短さながら、面白く読めます。『押絵と旅する男』をテーマにした玉川重機作品と『屋根裏の散歩者』をテーマにした駕籠真太郎作品が出色の出来です。
 論考に関しては、わりとアカデミックなものが多く、ミステリや怪奇小説など、エンタテインメント作品としてのアプローチがほとんどないのが気になります。



B00XYX3ZOSミステリマガジン 2015年 09 月号 [雑誌]
早川書房 2015-07-25

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『ミステリマガジン 2015年9月号 幻想と怪奇 乱歩輪舞ふたたび』(早川書房)
 前年度に引き続き、乱歩をテーマにした<幻想と怪奇>特集です。今回のテーマは『人間豹』。コッパードの『銀色のサーカス』『人間豹』の歌舞伎脚本などが掲載されています。
 切り口は非常に面白いと思うのですが、どうも特集の密度が薄い感じがします。さらに言えば、翻訳作品の紹介誌であるはずの『ミステリマガジン』で、こうも翻訳作品が少ないのはどうかと思う次第です。翻訳権の問題で、近年の作品が掲載できないにしても、怪奇小説の古典ならもっと載せられると思うのですが。
 乱歩には、特集のテーマにできそうな怪奇幻想小説が他にもたくさんあります。例えば『鏡地獄』をテーマにして、鏡やレンズを扱った作品を集めたりとか、『人でなしの恋』をテーマにして、人形を扱った作品を集めたりとか。
  ずばり怪奇小説について書かれたエッセイ『怪談入門』をコンセプトにした『乱歩の選んだベスト・ホラー』(森英俊、野村宏平編 ちくま文庫)みたいな例もあるので、せっかくの<幻想と怪奇>特集、もう少し頑張ってほしかった、というのが正直な気持ちですね。



4785955805江戸川乱歩妖美劇画館 1巻 (『パノラマ島奇談』『地獄風景』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・上村一夫 作画・桑田次郎
少年画報社 2015-07-24

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4785955813江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 (『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』『お勢地獄』『巡礼萬華鏡』『お勢登場』) (SGコミックス)
原作・江戸川乱歩 作画・石川球太 作画・真崎・守 作画・池上遼一
少年画報社 2015-07-24

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『江戸川乱歩妖美劇画館1・2巻』(上村一夫、石川球太ほか 少年画報社)
 江戸川乱歩作品の漫画(劇画)化作品のアンソロジーです。主に乱歩の怪奇幻想小説の漫画化になっています。『パノラマ島奇談』『白昼夢』『人間椅子』『芋虫』など、エログロ風味も強い作品が多いですね。
 収録作品のほとんどが1970年代に描かれたものなので、現代の読者には絵柄的に受付けにくいものも多いかもしれません。



4800306116乱歩ワールド大全
野村 宏平
洋泉社 2015-03-19

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野村宏平『乱歩ワールド大全』(洋泉社)
 乱歩の小説作品を読み込み、分類・分析した労作です。キャラクターやキーワード、トリック集成、シチュエーションなど、とにかく分類が細かいのが特徴です。乱歩自身に、ミステリのトリックを分類した『類別トリック集成』がありますが、それを乱歩作品に適用したかのような作りになっています。
 1990年代の終わりに、雑誌『太陽』の特集をもとにした『江戸川乱歩』(平凡社コロナ・ブックス)というムックが出ていました。これは乱歩作品を象徴するキーワードを抜き出して、それぞれ執筆者がそのキーワードについて語るというものです。切り口は魅力的ながら、どうも物足りないと思っていたのですが、この『乱歩ワールド大全』はその物足りない部分を語りつくしてくれた、という印象です。
 乱歩作品に登場する怪人の一覧表なんて、初めて見ました。レファレンスとしても使える、乱歩ファン必携の本だと言えます。
 


B0116RSG7O乱歩奇譚 Game of Laplace 1 (完全生産限定版) [Blu-ray]
アニプレックス 2015-09-30

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『乱歩奇譚 Game of Laplace』(フジテレビ『ノイタミナ』枠にて放映中)
 これは、乱歩のエッセンスを使って、設定を現代に移し変えたオリジナルアニメです。現在6話まで放映されています。
 中性的な少年「コバヤシ」が、探偵の「アケチ」に出会い、友人の「ハシバ」とともに、猟奇的な犯罪を捜査してゆく…。これが、メインのストーリーになります。各話のタイトルは、原作小説の題名が使われていますが、中身は原作のエッセンスや登場人物の名前を借りているだけで、直接的な関係はありません。
 主人公の「コバヤシ」が、日常生活に生きがいを感じられず、猟奇的な犯罪や犯人に共感を抱くという、いささか精神病質の人間として描かれているのが特徴です。それに伴って、主人公が興味を抱いていない人間は、画面上でシルエットとしてしか表示されないという、前衛的な手法も使われています。
 「影男」や「黒蜥蜴」「二十面相」など、怪人も多数登場するので、ファンタジーとしての要素が強いのかと思いきや、各エピソードで起こるのは、現実を思わせる残忍な犯罪なのです。犯罪に対するやりきれなさなど、社会的なテーマも感じさせるのが面白いところですね。それらの犯罪に対し、主人公がどう動いていくのかが、見所になるのでしょうか。
 原作の改変というより、ほぼ別作品なので、原作ファンとしては、受け入れられない人もいるでしょうが、これはこれで、面白い試みだと思います。
果実たっぷりの女  唐瓜直『美しい果実』
4041030366美しい果実 (幽BOOKS)
唐瓜 直
KADOKAWA/角川書店 2015-05-22

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 第9回『幽』文学賞短編部門大賞の受賞作である、唐瓜直『美しい果実』 (幽BOOKS) は、恋人を食べるという「カニバリズム」と、人間が植物に変身するという「植物幻想」を合わせたような奇想小説です。

 皮膚の硬化する謎の病気にかかった妻は、夫に自分をある農園に埋めてほしいと懇願します。望み通り、農園に妻を埋めますが、そこには自分と同じように、妻を埋めたという夫たちが多数働いていました。やがて、妻を埋めた場所からは、人型の果実が育ち始めますが…。

 愛する妻や恋人にもう一度会いたい。男たちの純粋なまでの愛情が悲劇を引き起こす…と思いきや、そうはなりません。農園に埋められた女たちは、体に果実を宿した果実人間として生まれ変わり、その果実はこの世のものとも思えないほど美味なのです。
 妻をこの世にとどめておきたいと考える男たちの愛情は、やがて果実そのものとなった妻を食べたいという倒錯したものに変わっていきます。そこに悲壮感はほとんどなく、あっけかんとしたユーモアさえたたえています。
 テーマからは、グロテスクな作風を思い浮かべるでしょうが、そうした要素はあまり感じられません。むしろ、果実になった女たちのエロティシズム、食べることそのものに関する官能性が強く押し出されているのが特徴です。

 受賞作は短篇なのですが、本作はそれを核とした連作短篇集になっています。二話目以降の語り手は、妻を失った当事者だけでなく、マッサージ師であったり、一般の女性だったり、学生だったりと、バラエティに富んでいます。
 果実の特徴や、農園の主催者である男の謎などが、小出しに明かされてゆくミステリ的な興味もあり、読んでいくうちに作品世界が広がっていくのも魅力の一つですね。

 同種のテーマを扱った作品として、ジョン・コリア『みどりの思い』、水谷準『恋人を喰べる話』などが、選評でも挙げられていますが、確かにこれらの作品に近いようなトーンを持った作品ですね。自分が読んでいて思い出したのは、R・C・クック『園芸上手』(橋本槙矩、宮尾洋史訳『イギリス怪奇傑作集』福武文庫収録)です。
 あるいは、ハリー・クレッシング『料理人』(一ノ瀬直二訳 ハヤカワ文庫 NV)や、ジェフ・ニコルスン『食物連鎖』(宮脇 孝雄訳 早川書房)などとも、食に関する官能性を描いた作品としては共通するところがありますね。

 従来から、いわゆる「怪談」をテーマにしてきた『幽』文学賞ですが、今回から文学賞の名前から「怪談」を削除したそうです。それに合わせたかのように、本作は「怪談」というよりは「奇談」といった方がふさわしいような作品になっています。
 変わった小説、面白い小説を読みたい方には、オススメしておきましょう。

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

最悪の時間旅行  法条遥《時の四部作》
 「SF史上最悪のパラドックス」という謳い文句でも話題になった法条遥の『リライト』(ハヤカワ文庫JA)。2作目の『リビジョン』(ハヤカワ文庫JA)、3作目の『リアクト』(ハヤカワ文庫JA)を経て、最終巻『リライブ』(ハヤカワ文庫JA)が刊行されました。4作のあらすじを簡単に記しておきましょう。



4150311196リライト (ハヤカワ文庫JA)
法条 遥 usi
早川書房 2013-07-24

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 1作目の『リライト』のあらすじは次のようなものです。未来からやってきた転校生、保彦を救うため、未来へ飛んだ中学2年生の美雪。彼女は少年との経験を小説に著します。しかし大人になった美雪のもとに、過去の自分が現れないことに気づいた美雪は、過去が書き換えられている可能性に気づきます…。
 タイムトラベルを扱った青春小説、であるかに思われたストーリーが、どんどんとねじれていき、とんでもない結末を迎えるという、何ともインパクトのある作品でした。

 
リビジョン (ハヤカワ文庫JA)
法条 遥 usi
415031120X

 2作目の『リビジョン』は、家系に代々伝わる、未来を見ることのできる鏡を持つ女性、霞が主人公。ある日、息子が死ぬというビジョンを見てしまった霞は、わが子を助けるために未来を変えようとする…という話。
 1作目の「時の改変」が、人為的なものであるのに対し、2作目では「時」そのものの圧倒的な力が強調されています。直接的な続編というよりは、1作目のスピンオフ的な印象の作品ですね。

 
リアクト (ハヤカワ文庫JA)
法条 遥
4150311544

 3作目『リアクト』では、タイムパトロールの少女ホタルが登場します。過去が見える能力者、坂口霞との出会いから、ホタルは、小説『リライト』に疑問を抱くようになります…。
 前2作を踏まえて、『リライト』そのものの書き換えが行われるという、複雑な構成になっています。

 
リライブ (ハヤカワ文庫JA)
法条遥 usi
4150311897

 そして最終作『リライブ』。何度も転生を繰り返す女性、国枝小霧。時代や家庭環境はその都度異なるものの、まったく同じ女性として生まれ変わりを繰り返しているのです。しかも生まれるときは、かならず同じ名前であり、しかも目が見えないのです。私はいったい何のために生まれてくるのか…? 結婚式当日現れた少年は、その秘密を語りだしますが…。
 シリーズを通して現れる少年の、真の目的が明かされる完結編です。
 

 このシリーズ、タイムトラベルや歴史改変といった「時間もの」なのですが、特徴を一言で言うと、「複雑すぎ」ということになるかと思います。とにかく複雑なのです。1作目にしてからが、ある人物の計画がすでに複雑だというのに、さらにそれをひっくり返す展開が用意されています。そして、その1作目自体が、後続の巻でさらにひっくり返されるという有様です。
 このあたりの事情を、解説者は「面倒」という言葉で表現をしています。僕も解説者の言葉に同感で、物語をわざと「面倒」にしている感がありますが、そこにある種の魅力もあるように思います。タイム・パラドックスものの名作とされる、ロバート・A・ハインラインの『時の門』よりも、複雑な作品に出会えるとは思いませんでした。
 科学的考証はなきに等しいので、「タイムマシン」や未来の技術に関しては、とくに説明もなく、「そういうもの」として導入されます。そういう意味で、パラドックスのためのパラドックスといっていいのでしょうか。とにかく複雑すぎて、その論理が破綻していないのか検証するのも、難しい。2読、3読しても、ちゃんと理解できるか怪しいものです。
 欠点も見られますが、いわく言いがたい魅力のある作品であることも事実なのです。傑作かどうかは別にして、後世に残る問題作ではあると思います。
幽霊屋敷の新機軸   三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』

4120046370どこの家にも怖いものはいる
三津田 信三
中央公論新社 2014-08-08

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 三津田信三のホラー作品の怖さには定評があります。「幽霊」「お化け」、言い方は何でもいいのですが、そうした得体の知れない存在が、登場人物たちに迫ってくるときの切迫感が半端ではないのです。その怖さは、精神的なものというよりは、むしろ物理的なものに近い感触です。
 新作『どこの家にも怖いものはいる』(中央公論社)も、そんな「怖さ」を味わえる作品です。
 初期の作品でもそうでしたが、この作品でも主人公は、作家である三津田信三自身です。彼がふと知り合った編集者の三間坂から、怪奇現象を記述した日記と手記を渡されたことから、物語は動き始めます。
 ひとつは現代の新築の家から子どもが消えてしまった事件、もう一つは少年が奇怪な女に追いかけられ、謎の屋敷に迷い込む事件。時と場所も異なっているらしい二つの事件でしたが、それぞれの現象にどこか共通点があることを感じ取った三津田と三間坂は、事件について調べ始めます。やがて第三、第四の事件について記された資料が見つかりますが…。
 幽霊屋敷テーマについて書かれた作品なのですが、それが一つではなく、五つも出てくるという、ホラーファンにとってはたまらない趣向です。それぞれの事件は一見全く関連のない、独自の怪奇現象に見えるのですが、それらに共通点を感じ取った主人公たちが、事件の背景を調査・推理していくという形式になっています。
 5つの事件は、それぞれを短篇小説として読んでも十分に面白いのですが、それが最後にひとつの事件に収斂されていくのには驚かされます。
 この著者の描く怪奇現象の描写はほんとうに怖いのですが、本作でもそれは十分に発揮されています。霊的な場所に入り込んでしまった登場人物が、得体の知れない存在に追いかけられる。単純に言ってしまえばそれだけなのですが、それがわかっていても怖いのだから、その筆力はただ事ではありません。
 ホラー・怪奇小説ファンにとっては、ひじょうに満足できる作品といえるのですが、唯一難点を挙げるとすると、最終的に理に落ちてしまうところでしょうか。5つの事件のうち、4つ目までは、ほんとうに怖くて面白いのですが、それらの事件の元凶として語られる5つ目の事件が描写されることによって、因果性が見えてしまうのです。
 怪異は不条理なほうが怖いのです。「~のせいだった」といった、理由が説明されてしまうと、やはり怖さが半減してしまいます。
 ただ、事件の共通点を推理していったり、怪奇現象について論理的に考えていくという、ミステリ的な興味はそれはそれで楽しく読めるのも事実です。その意味ではミステリファンにも楽しめる作品でしょう。
 総体的にはホラーとミステリのハイブリッド作品といえるのですが、かなりホラー寄りに書かれた作品でしょうか。ホラーファン、とくに幽霊屋敷ものが好きな方にはオススメしたい作品です。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

武宮閣之さんのこと
 先日、書棚の整理をしていた際に、つい『ミステリマガジン』のバックナンバーを拾い読みしてしまいました。その中にあったのが、1992年の8月号。
 この号、『ミステリマガジン』毎年恒例の「幻想と怪奇」特集なのですが、1992年度のタイトルは「新しい日本の恐怖小説」として、日本作家の恐怖小説を集めた特集でした。
 ほぼリアルタイムで買った号です。ただ、掲載作が日本作家の作品ばかりなので、その当時は海外作家一辺倒だったこともあり、おそらく(記憶は定かではないのですが)目を通していない号です。
 目次を見てみると、武宮閣之さんの作品『十七番目の羅漢』が載っています。僕はこの人の作品のファンなのです。以前にも2回ほど、このブログで紹介しています。

 無限公園  武宮閣之『魔の四角形』
 失われた目を求めて  埋もれた短編発掘その24 武宮閣之『月光眼球天体説』

 児童文学として出版された『魔の四角形』(文溪堂)を除けば、『ミステリマガジン』にいくつか掲載された短編しか、公に発表されたものはないようです。この方、今はどうされているんだろう?と思って、ふと検索してみると、今年度のやまなし文学賞の受賞者として名前が挙がっていました(朝田武史(あさだたけし)名義「祝人伝」(ほいとでん))。筆を折ったのかと思っていましたが、ずっと書き続けていたんですね。
 インタビューを読むと、幻想小説の執筆にも意欲をお持ちのようで、また新作短編が読めるかもしれないと思うと嬉しいです。
 『月光眼球天体説』とか『緑砂花園』(どちらも『ミステリマガジン』掲載の短編です)などは、将来的にアンソロジーで発掘され、アンソロジー・ピースになる可能性を秘めた作品だと思いますが、現役作家としてまだまだ活躍してくれるなら、もちろんその方が嬉しいです。
 とりあえず、これを機会に『ミステリマガジン』に発表された短編をまとめて単行本化していただきたいですね。
 さて、ついでに『十七番目の羅漢』の紹介をしておきましょう。
 ふと、職場を離れて、自分でもわからないまま京都へやってきた男。幸福だった学生時代を過ごした町だからだろうか。サラリーマン生活に疲れた男は、そんなことを考えながら歩きつづけます。そぞろ歩きを続けた男が見つけたのは、とある寺でした。
 数年前に、パフォーマンスを見に訪れたことのある場所だと気づきますが、今日は人気がありません。庭を眺めていた男の前に、突如半裸の男が現れ、奇妙な舞踏を始めます。そしてその半裸の男は、男と全く同じ顔をしていたのです…。
 静寂そのものの寺に現れた奇妙な現象。半裸の男は、男の心の表れなのか? スティーヴンソンの『マーカイム』を思わせる、妙に心に残る作品です。
 これは、今読んでこそ味のわかる作品かもしれません。リアルタイムで買った学生時代には、わからなかったかも。
山口雅也トークショーとリドル・ストーリー
4152093188謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) (ミステリ・ワールド)
山口 雅也
早川書房 2012-08-24

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 山口雅也さんの新刊『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』(早川書房)は、リドル・ストーリーだけを集めた個人短編集という、斬新な作品集でした。表紙は≪異色作家短編集≫の初刊版を模したりと、遊び心に溢れています。
 先日ご紹介した『ミステリマガジン』の責任編集の仕事といい、マニア心をくすぐる作家さんですね。
 さて、『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』刊行記念ということで開催されたトークショーの映像がニコニコ動画に挙がっており、興味深く見させていただきました。
 リドル・ストーリーの話からはじまって、≪異色作家短編集≫についての話、そして『ミステリマガジン』の責任編集の話など、興味深い裏話などもありました。
 『ミステリマガジン』の表紙絵やカット、レイアウトなどが、初期の『ミステリマガジン』を意識したつくりになっていたのに感心したのですが、山口雅也さん自身が全て指示したわけではなく、早川書房編集部の力によるところが多いようですね。
 気になったのは、山口雅也さん以外にも、何人かの作家に対して責任編集の話が行っていたというところ。綾辻行人、北村薫、法月綸太郎などの名前が出て、おおっと思いました。綾辻行人さんのセレクションなど見てみたいですね。
 リドル・ストーリー、異色作家、往年の『ミステリマガジン』などに関心のある方は、ぜひトークショーも見ていただくと面白いかと思います。




 ついでに、リドル・ストーリーに興味のある方に対して、参考書リストを挙げておきましょう。以前このブログで紹介したことのあるものが多いですが、ご容赦を。


4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02-08

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 リドル・ストーリーのアンソロジーの決定版ともいうべき本です。リドル・ストーリーの代表作が網羅されており、これ一冊でリドル・ストーリー通になれます。旧版のちくまプリマーブックス版には異同作品があるので、興味のある方は読んでみるのも面白いでしょう。



4043455038山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)
山口 雅也
角川書店 2007-12

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 山口雅也さん好みの作品を集めたアンソロジーです。本格風味の作品からSF的な作品までバラエティに富んだセレクション。『リドル・ストーリーの饗宴』という章で、ストックトン作品をはじめとする5編が収録されています。上記『謎の物語』が出るまでは、リドル・ストーリーをまとめて読める本は、この本ぐらいでした。



410137323X謎のギャラリー―名作博本館 (新潮文庫)
北村 薫
新潮社 2002-01

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  現在、ちくま文庫で復刊中の『謎のギャラリー』シリーズの解説編というべきエッセイ集です。いくつかのテーマごとに、対話形式で作品が紹介されています。リドル・ストーリーについての章が設けられています。



4061362186夢探偵―SF&ミステリー百科 (講談社文庫)
石川 喬司
講談社 1981-10

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 日本SF黎明期に、SFとミステリの啓蒙家として活躍した著者のガイド本です。ジャンル内のサブジャンルについて、初心者にもわかりやく解説しています。リドル・ストーリーについても触れられています。



4087203085ショートショートの世界 (集英社新書 (0308))
高井 信
集英社 2005-09-16

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 リドル・ストーリーのみならず、短編、ショートショートについての本としては、この本が決定版でしょう。著者のショートショート愛があふれた幸福な研究書。

 そして、現代日本でのリドル・ストーリーの実作としては、今回取り上げている山口雅也『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』(早川書房)と米澤穂信『追想五断章』 (集英社文庫)が双璧でしょう。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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