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真実の物語  エミリー・ロッダ『彼の名はウォルター』
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 エミリー・ロッダの長篇『彼の名はウォルター』(さくまゆみこ訳 あすなろ書房)は、少年が見つけた不思議な本をめぐって展開される、サスペンス要素を含んだファンタジー小説です。

 週末に、遠足として田舎町グロルステンの町を訪れた教師と生徒たち。バスが故障してしまい、コリン、タラ、グレース、ルーカスの四人の生徒と教師のフィオーリ先生がその場に残ります。待っている間、運転手の計らいで、彼の父親が所有しているという近くの屋敷で過ごすことになります。
 うち捨てられたような不気味な屋敷で、コリンは、机の隠し引き出しから本を見つけます。本の書名は「彼の名はウォルター」となっていました。
 その本には、ウォルターという孤児の生涯を描いた物語が記されていました。時間つぶしとして、彼らは物語を読み始めます。孤児として「ハチの巣」で育てられたウォルターは、成長してから外の世界で魔女のマグダと出会い、彼女としばらくの間暮らすことになります。マグダの予言に従い、旅立ったウォルターは、マグダの孫娘スパロウと出会い恋をしますが、彼女との恋には困難が待ち受けていました…。

 ふとしたことから、古い屋敷で見つけた本の中の物語に夢中になった子どもたちが、その物語を追っていくことになる…という作品です。
 ウォルターを主人公とした物語は、遠い昔を舞台にし、幻想的な出来事や魔法が登場する、おとぎ話のようなのですが、コリンとタラ、特にタラは、これは実際に起こったことで、最後まで読まなければならない、という、謂れのない義務感に駆られます。
 バスの故障が直り、屋敷から引き上げるまでに本を読んでしまわなければならないという、時間的なリミットもサスペンス要素として機能していますね。

 子どもたちは、全員が物語に夢中になるわけではなく、一番のめり込むのは、特殊な能力を持つらしい少女タラと、感受性豊かな少年コリンです。活動的な少女グレースや、コンピュータ以外興味のないらしい少年ルーカスは、最初は本の物語にあまり興味を持たないのですが、タラとコリンの熱気にあてられ、巻き込まれていくことになります。

 ウォルターをめぐる作中作は波瀾万丈、後半では令嬢スパロウとの恋を成就することができるのか? というところで大変面白い物語になっています。
 明らかにファンタジー的な物語であるウォルターのお話と、外枠となっているコリンやタラたちの現実世界の物語がどう結びついてくるのかというところに関心が湧くのですが、二つの物語の照応の仕方が思いもかけない形で表れるところに驚かされますね。
 ウォルターとスパロウの互いへの思いが、本を通して子どもたちに伝わり、現実的に事態を動かすことになる…という展開には感動があります。

 幻想的な物語が現実的な解釈をされ、それでもなお幻想的な要素が残る…というタイプの物語で、軸足は「現実」にあると思いますが、作中作で表れた魔法や不思議な出来事が、何かの象徴だったのか、それとも本当に起こったことなのか、完全に割り切れないところにも余韻がありますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

不可思議な物語  ポール・ジェニングスの短篇を読む
 イギリス生まれ、オーストラリア育ちの作家ポール・ジェニングス(1943-)の短篇はもっぱら子ども向けに書かれていますが、大人が読んでも楽しめる作品となっています。突拍子もないユーモア、奇想天外なアイディア、破天荒な物語展開…。一篇一篇は短めながら、読んだ後の満足度が非常に高いです。
 日本では、1990年代に《PJ傑作集》として、トパーズプレスより全七巻の短篇集の邦訳が刊行されました。順に紹介していきましょう。



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ポール・ジェニングス『ありえない物語 PJ傑作集1』(吉田映子訳 トパーズプレス)

「シャツも着ないで」
 話す際に、なぜか語尾に「シャツも着ないで」を付け加えずにはいられない少年ブライアン・ベルは、それが原因で馬鹿にされていました。亡き父が残した犬シャベルが砂浜で見つけてきたのは骨のかけらでした。かけらを集めているうちに、それは人間の足の骸骨になりますが…。
 妙な口癖のある少年が、犬が探し当てた骨を集めているうちに不思議な現象に巻き込まれるという作品です。「シャツも着ないで」という言葉の理由が分かる結末には、思わず膝を打つのでは。もの悲しさとユーモアが入り交じった雰囲気も魅力的です。

「取りつけ式飛行具」
 四時間のみ超強力な接着力を発揮する〈ギッフェンの驚異の接着剤〉を売って回る男ギッフェン。実演して売りさばいた後に逃げ出すという、詐欺のような行為を繰り返していました。
 発明家を名乗る男フリンティーと出会ったギッフェンは、彼の開発した「取りつけ式飛行具」に魅了され、その発明を盗んでやろうと考えますが…。
 詐欺師が自らの悪行のために身を滅ぼす…というお話です。よりにもよって、自らの接着剤が原因となって二進も三進も行かなくなる、という展開が楽しいです。

「外便所の骸骨」
 両親が亡くなり、フローおばの家に引き取られることになった少年ボブ。おばは、盗まれた一家伝来の絵のことを残念がっていました。高い価値があるというその絵は、かって家を貸していたネッドじいさんの死とともに行方が分からなくなったというのです。
 ボブは外にある外便所を怖がっていました。そこで幽霊らしき存在を目撃していたのです。その幽霊は、トイレで死んでいたのを発見されたというネッドじいさんのようなのですが…。
 後悔から、死んだ外便所に憑りつきつづける老人の幽霊を描いたゴースト・ストーリー。怖がった少年がトイレを我慢し続ける、と言う部分にはユーモアがありますね。幽霊が登場するシーンは、恐怖度も結構高いです。

「ラッキー・リップ」
 女の子から嫌われていた少年マーカスは、魔女の噂もあるスクリチェットばあさんを訪れます。彼女から、それをくちびるにつけると、女なら誰でも一度だけキスしたくなるという、魔法のリップスティックを手に入れますが…。
 どんな女性もキスしたくなると言う魔法のリップスティックを手に入れた少年ですが、目当ての女の子だけでなく、思わぬ女性からキスされてしまう、という皮肉な物語です。

「牛糞カスタード」
 野菜作りを趣味とする父親の手伝いで、様々な動物の糞を使った肥料作りを手伝わされていた少年グレッグは、周囲からからかわれることに嫌気がさしていました。ある日父親は牛糞を元にした肥料を作り上げますが、その酷い臭いはハエを殺してしまうほどで、近所からも文句を言われてしまいます。
 それを教訓に、臭いのしない「肥料百号」を作りますが、それは人間には感知できないものの、ハエを大量に引き寄せる効果を持っていました。何百万匹ものハエがグレッグ親子に襲い掛かることになりますが…。
 そのあまりの臭いからハエさえもが死んでしまうという強烈な肥料「牛糞カスタード」。しかし、別の肥料によって引き起こされた緊急事態には、それが逆に役に立つことになるという、ブラック・ユーモアにあふれた作品です。

「灯台のブルース」
 老人のスタンと共に灯台で働いていた少年アントン。スタンはバイオリン好きで、さらにその父アラン・リカード、その祖父キャプテン・リカードもまた生前音楽好きだったというのです。灯台の音楽室では、たびたび彼らの幽霊らしき存在が出没し、音楽を奏でていました。
 ある日、灯台を取り壊し自動化するという知らせが届けられ、スタンとアントンはそれに反対することになりますが…。
 灯台の仕事と音楽を愛していた幽霊たちによって、灯台の取り壊しが防がれる…という物語。哀愁溢れる作品となっています。

「スマート・アイスクリーム」
 頭脳明晰ではありながら、利己的で嫉妬深い少年の「ぼく」。馬鹿にしていた少年ジェロームが自分に劣らぬ成績を取ったことに疑問を抱いた「ぼく」はその理由を探ろうとします。
 ミスター・ペッピが扱うアイスクリームには不思議な力があると言われていました。「ぼく」はそれを手に入れようとしますが…。
 不思議な力を持った魔法のアイスクリームを扱った物語です。頭は良くも性格の悪い少年が、さらに知恵を付けようとしますが、逆にひどい目にあってしまいます。その効果が永久的なものなのかは明確にされないこともあり、ちょっと残酷味が強い感じの物語となっています。

「ワンダーパンツ」
 「ぼく」のために、母親がある生地から作ってくれたパンツはピンク色で、しかも妖精の模様がついていました。穿くのを恥ずかしがる「ぼく」でしたが、それを付けているときに限り、尋常ではない力が出るのを知り、驚きます…。
 穿けば強力な身体能力を得られる魔法のパンツをめぐる物語。パンツが縮んでしまって穿けなくなり、下手をすると命を落としそうになる、というしょうもない展開に笑ってしまいます。縮んだパンツを有効利用して成功するという後半の展開には、アイディアが溢れていますね。



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ポール・ジェニングス『とても書けない物語 PJ傑作集2』(内藤里永子訳 トパーズプレス)

「氷の乙女」
 魚屋を営むマントリーニさんは、美しい氷の彫刻を作り、ショーウィンドウに飾ることで有名でした。しかし毎月一日にその彫刻を溶かしてしまい、新たなものを作るのです。マントリーニさんさんがある日作ったのは、美しい少女の像でした。
 像に恋してしまった「ぼく」は毎日のように像のもとに通います。撤去の日が近づくにつれて、像を溶かすのを何とか防げないかと考えますが…。
 氷の少女像に恋してしまった少年を描く物語です。「人形愛」テーマのバリエーションともいえるでしょうか。彫像を持ち出そうとした少年がひどい目にあってしまう様が描かれますが、少年の恋心が報われ、ちゃんとハッピーエンドになるところに安心しますね。
「バードマン」
 砂浜でねこの形をした奇妙な帽子を見つけた少年ショーンとスパイダー。帽子をかぶると、ねこの目が開いて閉じ、目撃した生き物の行動を真似してしまうようなのです。出場する飛行大会のため、ジェレミーおじさんからハングライダーを送ってもらっていた二人でしたが、それをいじめっ子のバギンズに奪われてしまいます。自作のハングライダーとねこ帽子を使って、事態を打開しようと考えますが…。
 見た者の行為をトレースする不思議なねこ帽子が登場する作品です。人間だけでなく、犬などの動物の行動もトレースしてしまうのです。しかしねこ帽子の動きはランダムなようで、狙って何かをしようとしてもなかなか上手くいきません。
 主人公の少年たちが、いじめっ子の意地悪に負けず成功できるのか、といったところにハラハラドキドキ感がありますね。

「チョロチョロ噴水」
 ことあるごとに兄のサムに馬鹿にされていた弟のウィーズルは、母親のアドバイスに従い、兄に負けまいと必死にトレーニングを重ねます。その結果とは…。
 兄に負けまいと努力する弟のお話なのですが、その行為がスポーツや勉強ではなく、しょうもないある行為(タイトルで分かってしまいますね)であるところが面白いですね。

「ハーモニカ」
 山火事の際、皆を助けて命を落としたハードブリスルの奥さん。夫のハードブリスルさんは悲しみに沈んでいました。子どもたちが助けられた穴があった場所にマグノリアの木を植えますが、その木の花が咲けば自分は妻に許してもらえるのではないかと考えていました。
 ハードブリスルさんの望みを叶えたいと考える「わたし」は、木に肥料と間違って除草剤をかけてしまいます。新しい木を買うため、町中でギターを演奏し、お金を稼ごうとしますが、なかなか上手くいきません。
 突然現れたポニーテイルの青年は「わたし」にハーモニカを貸してくれます。そのハーモニカは、思いを込めた曲を吹くことによって、人々の感情を刺激する不思議な楽器でした。これでお金が稼げると考えた「わたし」でしたが、ハーモニカを借りていられるのは一日だけの約束でした…。
 約束を違えて、不思議な楽器を自分のものにしてしまおうとする少女を描いた作品ですが、その動機は他者を思うがゆえのもので、その純粋な動機は、別の形で報われることになります。ハーモニカによって、人々が心を揺さぶられるシーンは美しいですね。

「ビロードの玉座」
 一緒に暮らす「がっつき」ことアーノルドに、給料ばかりか生活のすべてを支配されていたシンプキンは、嫌気が差して家出を敢行しようと考えていました。仕事帰りに公園のトイレに入りますが、壁にはたくさんの落書きがありました。
 五時に鍵がかかる、という落書きを見た直後に、トイレには鍵がかかり、出られなくなってしまします。また、最上の椅子という落書きを見た直後には、ビロードの玉座のような便座が現れます。どうやら読んだ落書きの内容が現実化するようなのです…。
 トイレの壁に書かれた落書きの内容が現実化するという作品です。落書きだけに、その内容はナンセンスかつ不条理なもので、下手をすると命の危険すらありそうなのです。危険なトイレで過ごしているうちに、嫌気が差していた横暴な同居人のいる家に帰りたくなってくる、というのも皮肉な展開です。

「泣けよ、泣き虫」
 何をやっても上手く行かない少年ギャヴィン。母親が大事にしている便箋を汚してしまったギャヴィンは衝動的に祖父が出かける車に乗り込んでしまいます。祖父は、砂漠であめためがえるを見つけることを願っていました。
 しかしギャヴィンのせいでトラブルに巻き込まれ、砂漠の中で水さえ失ってしまいます…。
 とことん間の悪い少年が、同行した祖父も危険な状態に追い込んでしまう…という物語。しかし、その間の悪さが功を奏して幸運を呼び込む、という展開には爽快感がありますね。

「嘘発見器」
 ひねくれた少年の「おれ」は、友人の天才少年ボフィンが作った?発見器で、クラスに二人いる金持ちの子どもサンドラとベンをやりこめてやりたいと思っていました。サンドラがベンに恋しているのではないかと考えた「おれ」は、サンドラに様々な質問をしかけますが…。
 二人をやりこめるつもりが、サンドラの恋の対象は意外な相手で…。これは微笑ましい物語ですね。

「どろどろポンコツ車」
 「ぼく」は、、クランチ教頭にイヤリングを取り上げられ、代わりの品物を買いに訪れます。青いランニング・シャツの男が片方だけ買っていったというイヤリングの片方を手に入れることになります。
 タンク・ローリーに乗った青いランニングの男と揉め事になった「ぼく」とその父親は、タンク・ローリーからヘドロのようなゴミをあびせられてしまいます。その直後から、「ぼく」はゴミを体に引き付ける磁石のような体質になってしまいます…。
 ゴミを引き寄せる体質になってしまった「ぼく」が、それをなんとかしようと奔走するという、スラップスティックなファンタジーです。冒頭に登場するイヤリングのエピソードはただの趣向なのかと思っていると、ちゃんと物語に結びついてくるところに感心します。

「目は知っている」
 父母から離婚を告げられ、どちらに着いていくかの決断を迫られたハリーは動揺し、決断をリトル・ロボットに託そうと考えます。ロボットの鼻をつまむと、目の色がスロット・マシンのように赤か緑になるのです。
 やがてハリーは、ロボット任せの決断に慣れてしまい、自分で選択ができないようになってしまいます…。
 決断を恐れるようになった少年が、ロボットのランダムな選択に頼るようになってしまうという物語です。日常で出会う様々なことをロボット任せにした結果、とんでもない事態に追い込まれることになります。
 父母の離婚を撤回させることはできないものの、そう悪くはない落としどころを見つける、という現実的な結末も味がありますね。



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ポール・ジェニングス『がまんできない物語 PJ傑作集3』(吉田映子訳 トパーズプレス)

「なめちまった」
 アンドルーの父親は我慢強い性質でしたが、二つほど欠点がありました。それは、ハエが大嫌いで、ハエを見ると殺すまで狂ったようになってしまうこと、そしてテーブルマナーにうるさいことでした。息子の食事中のマナーに対して度々注意していましたが、上司のスピンクスさんが家に食事に来ることになり、その席ではマナーに関して口を出さないことを誓います。
 いたずら好きなアンドルーは、父親の上司の前で、わざと汚らしい食べ方を繰り返しますが…。
 反抗心の強い少年が、父親の嫌がることを目の前で行う…という物語。テーブルマナーだけでなく、もう一つ父親の嫌いな「ハエ」に関しても強烈な行為をすることになり、その部分の印象は強烈ですね。

「黒い粒つぶ」
 母親からジーパンについた黒い汚れを指摘され、その理由を話しはじめた少女サリー。その汚れは、山羊の糞だというのです。新聞紙を着た心優しい世捨て人ペーパーマンが保護したカンガルーの子どもは、手術が必要な状態でしたが、それには二百ドルもかかると言います。
 全財産であるというオパールをお金にかえてきてほしいと言いつかったサリーでしたが、それを突然現れた山羊に食べられてしまいます。糞と一緒に体から出てくるのを待とうと、山羊を監視し続けることになりますが…。
 宝石を山羊に食べられてしまった少女が、それを取り戻そうと、体内から出てくるのを待ち続けるという物語。常時、山羊に張り付き、出た糞を調べる行為が周囲に怪しまれてしまうという、ユーモアたっぷりのお話になっています。
 ユーモラスではありながら、「いい話」として展開していた物語がひっくり返される結末もブラックで楽しいです。

「罪をかぶるのみ」
 鳥かごをかぶって学校に現れた少年ゲイリー。マーズデン先生はその理由を聞き出します。ゲイリーは隣人の少女キムにぞっこんでした。彼女は片方の羽しかないインコ、ベートーヴェンを保護して可愛がっており、ゲイリーは、インコの次に一番の親友と言われて舞い上がっていました。
 ゲイリーの飼う犬スキップが鳥を傷つけるのではと心配していたキムでしたが、ある夜、犬を小屋につながなかったところ、スキップは鳥を殺してしまいます…。
 犬を離していたところ、恋する少女の飼鳥を殺してしまったことに気づいた少年がパニックになる、という物語です。様々な手段を考え、似た鳥を買って入れ替えておくことも考えることになります。鳥をわざと片羽にすることは残酷だとあきらめたり、犬自身に責任はないと考えるなど、少年の心根は綺麗なため、ブラックな展開にはなりません。ハッピーエンドになるところで、逆に安心してしまいます。

「来世では」
 「ぼく」は漫画の真似をして、父が大事にしているにわとりラスタスに催眠術をかけると、みごと術にかかってしまいます。硬直してしまった状態が解けなくなり、慌てた「ぼく」は衝動的に家を出て、友人のスプリンターに相談します。スプリンターへの催眠術も効果を発揮してしまいますが…
 ふざけてかけてみた催眠術が効いてしまう少年を描いた作品です。その結果困難に追い込まれてしまうのです。後半では、催眠術で前世の人格を呼び出せることを知った少年が、それを呼び出し事態の解決を図るという、とんでもない展開に。それぞれの人間の前世が思いもかけないものだった、という意外性が楽しいです。

「爪」
 父親と共にある島にやってきた息子のレーマン。母親は行方不明でした。父は何かを探しているようなのですが、その詳細は教えてくれません。レーマンには、妙なかゆみと、体のあちこちから爪が生えるという現象が発生していました。疑問だらけのレーマンは、父親を問い詰めますが…。
 母親はどこに消えたのか? 父親が探しているものとは何なのか?この島には何があるのか? 息子の体に起きた謎の症状とは? 謎だらけのミステリアスな幻想小説です。
 謎があらかた解けた後に登場する世界観が、また魅力的。幻想のあわいに消えていく結末にも味がありますね。

「ヤッグル」
 病気の妹ミッジを喜ばせるため、マッシュルーム集めの賞品のイースター・エッグを手に入れようと決心したポケッツと友人のカクタス。一日かけて集めたマッシュルームをいじめっ子のスマッターに盗まれてしまいます。
 落胆した二人でしたが、ふと見つけた、茶色の巨大きのこが何かの役に立つかもしれないと、持って帰ることにします。ポケッツはきのこに自己流の名前ヤッグルと名付けます。
 ヤッグルには奇妙な性質がありました。見たものの形そっくりに変形し、その後爆発して粘液をまき散らすのです。ヤッグルを使って、スマッターに一泡吹かせようと考えるポケッツでしたが…。
 妹のためにがんばっていた苦労を水の泡にされた少年が、いじめっ子に復讐し、賞品を取り返そうとする物語です。異様な性質を持つきのこがいじめっ子に対して使われるとは予想がつき、その意味で予定調和的ではあるのですが、やはり爽快感のある物語になっていますね。

「祖父の贈り物」
 祖父が昔鍵をかけて以来、開けてはならないと言われている戸棚を、シェーンは開けてしまいます。中にはきつねの毛皮のようなものが入っていました。父によれば、祖母にプレゼントするために祖父が撃ったというのです。
 庭のレモンの木の実をもいで持ってきてほしいという夢を見たシェーンは、実際にレモンをもいできつねの毛皮の口にくわえさせます。次に戸棚を覗くと、レモンは消えており、きつねの毛皮の中に骨のようなものが増えていました。レモンをくわえさせるたびに、きつねは生前の体を取り戻していきますが…
 祖父が殺したきつねの毛皮が、レモンによってどんどんと再生していくという不思議な物語です。
 祖父の罪を孫が贖う…というテーマのお話とも読めるのですが、祖父が戸棚に鍵をかけた理由や、なぜレモンに不思議な力があるのか、きつねは超自然的な存在だったのか、などいろんな不明点もあり、読む人によって解釈もいろいろ出てきそうな、魅力的な物語となっています。
 無機物として登場したきつねが、段々と生命を取り戻していく過程はファンタスティックですね。

「悪臭足の偉業」
 少年ベリンの足の臭いは強烈で、本人には感じ取れないものの、人間はもちろんのこと、動物を気絶させてしまうほどのものでした。
 毎年海岸にやってくる二百歳のウミガメ、オールド・シェリーの産卵を楽しみにしていたベリンは、不良少年のホースとその仲間がウミガメを殺そうと目論んでいることを知ります。自らの足の悪臭を使ってそれを止めようと、ベリンは三か月間、同じソックスとシューズを使い続け、悪臭を最大のものにしようと考えていました…。
 ウミガメ殺しを止めようと奔走する少年の物語で、それはそれで「いい話」なのですが、それを止める手段が「足の悪臭」という、とんでもない設定の作品です。
 主人公ベリンの足の臭いは強烈で、一日分の臭いで動物が気絶してしまうほど。それが数か月分溜まったらどうなってしまうのか? というところで妙なハラハラドキドキ感があります。学校で足の臭いを開放し、周囲の人々が次々と倒れこんでしまうシーンは抱腹絶倒ですね。



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ポール・ジェニングス『想像もつかない物語 PJ傑作集4』(谷川四郎訳 トパーズプレス)

「根がかり」
 父親と共に釣りをしていた十四歳の少年ルーカスは、つり上げたサメの腹の中から、食いちぎられた人間の指が出てきたことに驚きます。指には小さな熊の刺青が入っていました。気味悪がって指を捨ててしまいますが、いつの間にか熊の刺青はルーカスの指に移動していました。
 皮膚上で動き出した刺青は、どうやら刺青の持ち主の元に導こうとしているようなのですが…。
 命を持った刺青が、その持ち主の救助を求めて動き出すという物語です。ようやく遭難者を見つけるものの、体全体の刺青が少年の体に移動してしまい、新たなトラブルが発生することになります。
 意思を持った刺青という、まるでレイ・ブラッドベリを思わせるようなテーマの作品です。

「幽霊ごみ捨て場」
 町に引っ越してきた「ぼく」と双子の兄弟ピート。二人の父親は、ごみ捨て場から色々なごみを拾ってくるのが趣味でした。ごみ漁りの現場を乱暴者の少年グリブルたちに目撃された兄弟は、転校初日から目を付けられてしまいます。
 ごみ捨て場には、かって孫を失いその行方を求め続ける盲目の老人チョンパーじいさんの幽霊が出るとされていました。肝試しとして、夜にごみ捨て場に行って証拠を持ち帰ることを強要されてしまいますが…。
 幽霊が出るというごみ捨て場に行かざるを得なくなった双子の兄弟を描くゴースト・ストーリーです。登場する幽霊が、実のところ噂とは違って、話の分かる幽霊だった…というユーモラスな展開となっています。

「冷凍動物」
 横暴な男グラヴェルに飼われていた牝牛のジングルベルは、日の光を浴びることもできず、ひどい扱いをされていました。同情した「ぼく」は、牝牛を解放してやろうとします。様々な生き物の死体を氷付けにしてコレクションしているジャック・ソーじいさんの協力を得て、牝牛をグラヴェルから逃がしてやろうとしますが…。
 不遇な牝牛を、横暴な男の手から解放してやろうとする少年の冒険を描いた作品です。そこに動物の死体を冷凍にして保存するのが趣味の男が登場し、彼の技能が役立つことになります。
 牝牛が非常に健気に描かれていて、彼女の境遇に一喜一憂してしまうのですが、幸福な結末を迎えるところで安心します。

「UFD」
 UFOを見たという通報を受けて、サイモンの家にやってきた空軍のコリンズ中佐。サイモンは、目撃したのはUFOではなく、空を飛ぶ犬だと言いますが、ホラだとして怒られてしまいます…。
 空飛ぶ犬についての「でまかせ」が実現してしまうという、奇妙な味の物語です。発端の通報の話がそのまま展開せず、踏切での父親の車の事故とその目撃者の話に切り替わるのですが、そこから更に空飛ぶ犬の話題に戻ってくるという、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な論理に唖然としてしまいます。

「ぶちこわし」
 生徒のあらゆる行為に文句をつける悪質な教師ミスター・スナッパー。彼のお気に入りの生徒ルーシーの指名により、ラッセルは、スナッパーの孔雀羊歯の鉢を持ち帰り世話をすることになってしまいます。
 引っ越したばかりのラッセルの家は、二人の人間が死んだことで安く買えた、いわくつきの家でした。しかも死んだ少年サミュエルの幽霊も出るという噂もありました。部屋に現れた少年の霊はラッセルにつきまとうことになりますが…。
 幽霊につきまとわれることになった少年を描く物語です。幽霊の少年のこれまた死んだ叔父が魔術師で、幽霊に対してある術をかけていたことから、彼の手助けをすることになります。それがまた、いじわるな教師を改善することにもつながる、というのは思いもかけない展開で驚かされますね。

「グリーンスリーヴス」
 貧乏なため、父親とトレーラーハウスで暮らす少年トロイ。父親はいずれちゃんとした家を持ちたいと考えていました。折しも、市では海岸に打ち上げられた鯨の死体の悪臭に困り果てていました。市長から依頼を受けた父親は、ダイナマイトを鯨の体内に仕掛け、バラバラにして処分しようと考えます。父親の仕事を手伝うことになったトロイでしたが、仕事の経過を見に来た市長の息子で、手癖の悪いことで有名なニックが一緒にやってきたことから、嫌な予感を抱いていました…。
 仕事を請け負った親子が、鯨を爆薬で吹き飛ばして処理しようとするものの、トラブルが起き、大惨事になってしまうという物語です。タイトルの「グリーンスリーヴス」は、父親が息子にプレゼントした時計のメロディーが同名の曲になっていることから来ています。こちらの時計が原因となって、親子のトラブルが解消される…という流れも良いですね。

「ねずみ男」
 シドおじさんの家に遊びにやってきたジュリアン。好人物のおじさんと比べスクロッチおばさんは、ジュリアンを嫌っていました。久しぶりにやってくると、シドおじさんが閉じ込められていました。おばさんによれば、おじさんは自分をねずみだと思い込んでいるというのです。
 しかもおばさんは、おじさんが発明したという装置を探し回っていました。ねずみに幻覚を見させ、家から追い払うというその装置が見つかれば、巨万の富が稼げるというのですが…。
 発明家のおじがおかしくなり、自分をねずみだと思い込んでお話、だと思っていると、思わぬ展開に。夫を道具扱いする冷酷なおばが痛い目に会うことになりますが、その「罰」があまりにも強烈で、そのブラックな味わいに驚いてしまいます。

「スパゲッティむさぼり食い」
 いじめっ子のガーヴィーに嫌われたことで友人がいなくなってしまったマシュー。孤独な息子にと、ある日父親が買ってきたビデオデッキは異様な形をしていました。ふとリモコンを飼い猫バッドスメルに向けて、一時停止ボタンを押したところ、猫は硬直してしまいます。
 どうやら生き物に対して「一時停止」「巻き戻し」「早送り」ができる品物のようなのです。外でリモコンを使って楽しんでいたところ、ガーヴィーに見つかり、リモコンを取り上げられてしまいますが…。
 生物に対して適用できるビデオリモコンを手に入れた少年の物語です。ビデオと同じく「一時停止」「巻き戻し」「早送り」などができるのです。特に「巻き戻し」は、食べたものを吐き出し元に戻すことさえ可能でした。
 大食い大会でリモコンを悪用しようとした少年がひどい目に会うことになりますが、クライマックスシーンの悪趣味さは強烈です。

「お見とおし」
 父親が海岸から見つけてきた古いトランクを開けてみると、そこには沢山の服が入ってしました。それらは遭難船から落ちたサーカス団員たちの服のようなのです。兄のマシューは赤い服を手に取りますが、それに対しケートは、それを付けていたのは邪悪な人間のような気がすると話します。
 服を身につけると、その持ち主の技能が発揮されるようで、マシューは服を着て、道化師や綱渡りの演技を見事にこなせたことに気分を良くします。
 赤い服を身に付けさせたかかしは、顔つきを変えていました。邪悪な意思をもったかかしは、段々と家族の方へ動いてきていましたが…。
 サーカス団員たちの服を手に入れた家族が、それを着せたかかしに襲われる、というホラー作品です。服を着ると、技能ばかりか邪悪な意思までも受け継いでしまうようで、ある服を着せたかかしに襲われてしまうことになります。
 家族は服の効果を信じず、唯一ケートのみがその危険さに気づくことになり、かかしに対しても対策を取ることになります。ケートは服の技能を利用して、かかしを撃退しようとします。上手く作戦を立てられたのは、ある技能のおかげということが最終的に明かされ、そこでタイトルの意味が分かる仕組みになっています。
 モチーフが服ということもありますが、登場人物たちのキャラクター性よりも象徴性が強くなっており、ポーを思わせるような、寓意的味わいの強い作品となっています。



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ポール・ジェニングス『先の読めない物語 PJ傑作集5』(内藤里永子訳 トパーズプレス)

「くしゃみする棺桶」
 トレイシーの母親の再婚相手は、葬儀屋を営むラルフでした。お金のないラルフは霊柩車を日常的に使い、それが理由でトレイシーは恥ずかしい思いをしていました。しかもラルフはトレイシーを将来的な共同経営者にしたいとまで考えていたのです。
 ラルフの仕事の手伝いで、何度もうんざりするような事態に出会ったトレイシーは、もうラルフの手伝いはしないと宣言しますが…。
 義父の葬儀業を手伝わされることになった娘が、散々な目に会う…という作品です。周囲に囃し立てられるだけでなく、死体を扱うことで、気味の悪い目にも会ってしまうのです。死体を使ったブラック・ユーモアも強烈ですね。

「サンタ・クローツメ」
 クリスマス・イヴにデパートの屋上でサンタ・クロースの格好をした小男を助けたショーン。小男は長く鋭い鉤爪をしており、自分は「サンタ・クローツメ」だと名乗ります。彼は兄弟全員に二つずつ願いを叶えてやろうというのですが…。
 奇妙なサンタ・クロースに願いを叶えてもらうことになるという物語です。この手の物語の通例で、願いの結果がおかしくなり、その結果を打ち消すためにもう一つの願いが使われてしまう、という展開になります。最終的に取り返しのつかない願いが叶えられてしまう、というあたりもブラックですね。

「一ダースのばらの花束」
 美人で有名なジェニーさんの花屋に現れた内気な少年ジェラルド。彼はばらの花束を購入しますが、電車のドアに挟まれて、花を失ってしまいます…。
 内気すぎる少年が、恋する人のために花束を購入しますが、それを失ってしまい、取り返しのつかない事態に追い込まれてしまう…という物語。
 微笑ましい純愛物語かと思っていると、それが悲劇になり、更にホラーになるという、目まぐるしい展開が魅力です。
 物語の語り手の一人称が最後まで登場しないところに、技巧的な仕掛けがされています。

「扁桃腺異変」
 ガールフレンドのタラから一つ目の小人の像ガーデン・ノームをもらった「ぼく」は、像ののどの奥に豆つぶ半分ほどの小さな顔があるのに気が付きます。顔をはがそうとすると、飛び出した丸顔は「ぼく」ののどに張り付いてしまいます。
 また、腹を立てて削り取った目玉は、右手の指に張り付いて取れなくなってしまいます。しかもその目は第三の目として機能していたのです。のどに張り付いた小さな顔をはがそうとする「ぼく」でしたが、顔は移動して逃げ回っていました…。
 もらった一つ目人形の目と顔に取りつかれてしまった少年を描く奇妙な味のファンタジーです。退治するのかと思っていると、それらを使った金儲けの話になってしまうところに驚きます。

「いつまでも不幸せに」
 アルバートは先生をからかったということで、厳しいブラウン先生によって、むちで折檻されてしまいます。逆上してしまったブラウンは気を落ち着けようと海にボートで漕ぎ出しますが、渦巻に巻き込まれ気を失ってしまいます…。
 生徒にむちを振るう厳しい教師が、奇怪な幻影に巻き込まれていくという、不条理かつ悪夢のような短篇です。彼が見させられるのは地獄のような光景で、人が殺されるシーンを千回以上目撃するなど、恐怖を感じさせるものばかり。
 ようやく現実世界に戻るものの、そこでも悪夢は終わっていなかった…という結末は強烈ですね。

「二人組幽霊会社」
 ミックとシフティは幽霊の扮装をして人を怖がらせることを商売にしていました。彼らの仕事は、主に人を家から追い出すための手段として使われていました。
 首なしにわとりの幽霊が出るという伝説のあるパブを安く買いたたくために、二人は機械仕掛けのにわとりを作り出しますが…。
 幽霊のふりをして悪事を働く二人組が、ひどい目に会うという因果応報譚です。笑い話で済めばいいのですが、何十年も住んでいる住人を追い出したり、心臓発作で死なせてしまったりと、二人組の行動は質が悪いので、結末には爽快感がありますね。

「コピー」
 天才科学者ウーリー博士によって開発されたクローン・マシンは、生物を含む物質を完全にコピーし、またそれを消すこともできるという、驚異の機械でした。
 博士の失踪後、マシンを手に入れたティムは、恋人フィオーナに執着する恋敵マットに対抗するため、自分の体を増やそうとします…。
 クローン・マシンによって自分の体をコピーするものの、力のなさや意気地のなさは自分と同様で、全く役に立たないどころか、「自分」の占める位置をめぐって争いにまでなってしまうという物語です。
 片方が消滅させられてしまうことになりますが、残ったのは本当に「オリジナル」だったのか…? というところで、非常にブラックな結末となっています。

「剥製」
 がまがえるを愛するマーティンは、かえる清掃業を営み、彼らを保護するばかりか、ペットとしても飼っていました。マーティンは、かえるを捕まえ剥製にして商売している男フリスビーの行動を止めようとしますが…。
 かえるを愛する主人公が、かえるを商売道具にする男を撃退するために奔走するという物語です。恩返しと言うべきか、最終的にかえるたちの協力で男を撃退する、というところも良いですね。かえる好きの方の琴線に触れる作品だと思います。

「〈いいえ〉は〈はい〉」
 スクレイプ博士から、十四年にわたる研究の成果を見せたいと言われた青年ラルフ。博士は自分の娘リンダに、外界の影響を全く与えず、自分だけで言葉を教えこんだといいます。しかも、日常使われるのとは全く違う、間違った言語体系を覚えさせたというのですが…。
 邪悪な意図から、間違った言葉の使い方を覚えさせられた少女と、彼女を救おうとする青年を描いた物語です。少女が使う言葉が指し示すのは、言葉とはまったく違うものでした。〈いいえ〉は〈はい〉を指し示しているようなのです。
 命の危機に陥った博士が、娘に覚えこませた言葉ゆえに墓穴を掘ってしまう、という結末はとんでもなくブラックですね。最終行は、まさに「最後の一撃」ともいうべき迫力があります。



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ポール・ジェニングス『信じられない物語 PJ傑作集6』(吉田映子訳 トパーズプレス)

「ピンクの蝶ネクタイ」
 転校早々、校長に呼び出された「ぼく」。ピンクのおかしな蝶ネクタイを馬鹿にしたところ、それが校長だったのです。頭を金髪に染めている理由を問われ、「ぼく」はその理由を話すことになります。
 電車に乗っている最中、たばこを吸っている少年が注意されますが、何と彼は急に年齢が上の大人になってしまたのです。少年が<年齢調整機(エイジ・レイジャー)>なる機械を使ったことを知った乗客たちは、自分たちもそれを使おうと騒ぎになりますが…。
 年齢を自在に変えることのできる機械が登場する作品です。大体の人間は若返ろうとしますが、若返りすぎて元に戻ろうとして死んでしまう人間までもが現れます。
 ものすごいテクノロジーの機械なのですが、それが唐突に理由もなく登場するところで、不条理味もありますね。

「一生一回ねり歯みがき」
 アントニオが将来ごみ収集人になりたいことを話すと、歯科医のビン先生は、自分も同じ職業に憧れていたものの、歯科医になった理由を話すことになります。子どものころ、近所の家のごみ漁りが趣味だったというのです。
 一人暮らしのモンティじいさんの家のごみに、大量の歯みがきのチューブがあることに気づいた先生は、モンティの家を探ることになりますが…。
 大量の歯みがきを使用しているらしい老人の家に気づいた少年が、その秘密を探ることになるという物語です。とんでもない展開のホラ話で、最後まで唖然としてしまいます。

「そんなもの、いるわけがない」
 下水道にドラゴンがいるという妄想があるということで、強制的に入院させられてしまった祖父。孫のクリスは祖父の言葉を信じて、証拠となるドラゴンの写真を撮ってこようとしますが…。
 下水道のドラゴンという、都市伝説風の奇談です。実際にドラゴンがいたことは分かるのですが、ある事情から写真を紛失してしまうことになり落胆したところ、別の証拠で光明を見出す…というファンタジー的な展開になります。これは楽しいですね。

「裏を返せば」
 ホラー映画が大好きな少年ゴードンは怖いもの知らずでした。怖がりの妹メアリーと喧嘩し、外に飛び出したゴードンは、廃墟のような古い家を見つけそこで時間をつぶそうと考えます。
 様々な怪奇現象がゴードンを襲いますが、彼は何の驚きも覚えません。現れた幽霊は、これから人間を驚かす試験を行うが、もし怖がってくれなければ試験に落ち、ゴードンも一年間囚われてしまうというのです。無理にでも怖がろうとするゴードンでしたが…。
 怖いもの知らずの少年が、人を怖がらせる幽霊の試験に協力せざるを得なくなる…というホラー風味のファンタジー短篇です。「裏を返せば」という幽霊の術が、とんでもない結果を引き起こすのですが、その結果を直接的に描かないところが想像力を刺激します。
「大道芸人」
 ガールフレンドとのデートに行くためのタクシー代を父親から断られた「ぼく」は、砂浜を歩いていたところ、暗い中で老人に出会います。事情を聞いた老人は、自分の過去を話し出します。
 大道芸人だったという老人は、自分の芸ではろくに金が稼げず、連れていた犬のチビに対して金を入れてくれている人が多いことに気が付き、腹を立てます。井戸の中にチビを入れて、三週間そのままにしておくことにしますが…。
 金と友を求める大道芸人が、試行錯誤を繰り返しますが、結局、最大の友はそばにいた犬だったことに気づく、というお話です。振り返るチャンスは何回かあったものの、それらを全て台無しにしてしまい、取り返しのつかない状態に陥ってしまうのです。
 それだけに、話を聞かされた少年も、それによって考え方を変えることになる…というあたり、上手い語り口ですね。「徒労」に近いとはいえ、人の一生が凝縮されて語られている感もあり、寓話としても面白い作品です。

「スープーマン」
 成績の落ちたロバートは、集めていた「スーパーマン」のコレクションを親に処分されてしまいます。激しい物音を聞いたロバートは、小さな子どもが閉じ込められているのかと思い、とっさにそばの部屋に入りますが、そこで見たのは、窓から中に入ろうとしている男の姿でした。
 その姿からスーパーマン本人だと思い込んだロバートでしたが、男は自らを「スープーマン」だと名乗ります。スープ缶を食べることによって、力を発揮するのだというのです。しかもそのパワーは30分しか続かないというのですが…。
 スープによって力を発揮するスープーマンを描いた駄洒落のような物語です。正義感が強いものの、なかなか上手く行かないスープーマンの活躍が楽しい作品です。危機に際してスープ缶を開けようとするものの、缶が開かず、結局瀕死の状態で救助を行うシーンはコミカルながら哀愁がありますね。

「ユーカリ戦争」
 スイングドアに挟まれた結果、鼻が長くなってしまった「ぼく」は学校に通うことを嫌がり、祖父のマクファディに預けられることになります。マクファディは幼馴染の隣人フォクシーと長年にわたって喧嘩をしていました。
 ふと「はさみの音もかろやかに」という曲を耳にした「ぼく」は、いつの間にか左手に掻き傷が出来ているのに気が付きます。マクファディが言うには、近くに生える特殊なユーカリの葉を使った木の葉笛で「はさみの音もかろやかに」を吹くと、その曲を聞いた人間に傷や病を移せるというのです。「ぼく」の傷もフォクシーの仕業だというのですが…。
 相手に病や傷を転移させられる不思議なユーカリの葉をめぐる物語です。祖父とその友人の長年の因縁を、孫が解消することになります。
 転移させられるのは葉一枚につき一回だけで、写された病や傷は再転移できない、というルールがあるのも面白いですね。

「鳥の紛失物」
 両親が亡くなり、祖母と共に暮らしていたトレイシーとジェンマの双子の姉妹。父親が持っていた高価なルビーを売れば祖母の助けになるのではないかと、実家の<かもめ荘>を探索することになります。<かもめ荘>を訪れた姉妹は、膨大な数のかもめの糞に襲われますが…。
 父の遺産を求める姉妹が、大量のかもめに襲われるという物語です。生きているかもめだけでなく、中には見えない幽霊のかもめさえもがいるようなのです。彼らの望みは何なのか…? 特殊な形のゴースト・ストーリーともいえるでしょうか。
 大量の糞によって家全体が覆われてしまう、というシーンはインパクトがありますね。

「スヌークル」
 ある日牛乳と共に配達されてきた「スヌークル」。それはびんの中に浮かんでいる大きな目玉二つだけの存在でした。中から出してやると、スヌークルは解放してくれた人の召し使いとなって働いてくれるようなのです。
 しかし、スヌークルは勝手に頭の中を読み、相手の意思をおかまいなしに動いていました…。
 解放してくれた人の手伝いをしてくれる精霊のような存在スヌークル。しかし普通の人間にとっては煩わしさが勝ってしまうのです。やがて、スヌークルが理想の働き場所を見つけ、ある人に幸せをもたらす…という結末には暖かさが感じられますね。



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ポール・ジェニングス『やってられない物語 PJ傑作集7』(谷川四郎訳 トパーズプレス)

「こうもり少年」
 こうもりたちを保護するため、環境保護運動家の父親と共に、彼らが住む洞窟の近くにやってきた娘のレイチェル。ある夜、野生で育ったような汚れた少年に出会います。父によれば、彼は、母親の死後に行方不明になってしまった少年フィリップではないかというのですが…。
 環境保護運動家の父娘が、こうもりだけでなく、彼らと共に育った野生の少年をも助けることになる…という物語。この「こうもり少年」フィリップが、裸の体の上にこうもりたちをまとわせ、服代わりにしているという、ユニークな造形をされています。結末はちょっとファンタスティックですね。

「おしり騒動」
 文字が読めない障害を持つ少年アダムは、転校先で乱暴者のケヴィンから、肝試しとして契約書にサインしろと言われ、内容も分からないままサインしてしまいます。そこには、橋の上でパンツを下ろし、校長のミスター・ベローにおしりをむき出してみせるということが書かれていました。
 仕方なしに従うことになりますが、そのことで校長は怒ってしまい、コンペティションに出すはずだった絵の件も取りやめになってしまいます…。
 読字障害を持つ少年が、いじめっ子に散々な目に会うものの、その才知で幸運を引き戻す、という物語です。主人公アダムは、字が読めない代わりに、絵の才能があり、それを利用していじめっ子に復讐することになるという展開には爽快感がありますね。

「お鼻ばたけ」
 「わたし」は孫のアンソニーが好き嫌いが多く、栄養のあるものを食べないことに不満を持っていました。自家製のミューズリと合わせた肝油を無理に食べさせようとしますが、アンソニーはそれを飲み込みません。やがて肝油から植物が発芽し始めますが…。
 強情な少年が肝油を口の中に含み続けていたところ、そこから一緒に入っていた植物の種が発芽して成長してしまう、という物語です。
 少年も強情ですが祖父も強情で、食べ物を飲み込むまで孫にヘッドロックをかけ続けるなど、強烈なキャラクターとして描かれています。まるで落語のような展開で、楽しい作品となっています。

「目を覚ましたら」
 もうすぐ弟が生まれる母と二人暮らしのサイモンは、クラスメイトからもつまはじきにされており、友人が欲しいと思っていました。
 ある日、目が覚めると校庭に立っており、そばにはマットレスがありますが、自分以外にはそれが見えないようなのです。
 夢かと思いきや、マットレスは消滅してしまいます。そこでは、サイモンの母親はサイモンを生んだ際に亡くなっており、引き取られた家庭の息子ポッサムと親友となっていました…。
 眠りの中でパラレルワールドに転移してしまった少年を描く物語です。赤ん坊を妊娠中のシングルマザーの母親と二人暮らしのはずが、もう一つの世界では、母親はサイモンを生む際になくなっており、養子となった家庭でその家の息子ポッサムと親友になっているようなのです。ずっと願っていた親友のいる世界を取るのか、母親といずれ生まれる弟のいる世界を取るのか、少年の決断が描かれることになります。
 二つの世界を転移する際に使われるのが、マットレスというガジェットなのも面白いですね。

「頭がいっぱい」
 農場の息子ボンバーは、生まれたばかりの子牛ムーンビームを愛するようになります。しかし父親は牡牛は食肉用として売らざるを得ないというのです。ボンバーは反対するが、家の経済状況からもどうすることはできません。
 夢遊病のように、夜に泥沼に入り込んでしまうようになってしまったボンバーは、沼の中で赤ん坊の哺乳瓶のようなものを見つけます。それに入れて水を飲むと、他人の頭の中が分かるようになるようなのです…。
 子牛を売らせまいとする息子と父の対立が描かれるのと同時に、他人の頭の中が読めるようになる魔法の哺乳瓶が描かれ、それが合流するというユニークな構成の物語です。
 読心能力を得て高揚するボンバーですが、無制限に頭の中に人の考えが入ってきてしまい混乱することになります。タイトルの「頭がいっぱい」はこのあたりの事情を指しています。
 主人公の夢遊病や瓶の発見にも超自然的な香りが強く、物語の背景にそうした力が働いているような節もあって、奥行きが深い物語となっています。

「一寸先は透明」
 転校生のナイジェルが新種のかぶと虫を発見したことを妬んだエリックは、夜に理科室に忍び込み、それを盗み出してしまいます。かぶと虫に手をかまれてしまったエリックは、その手が透明になり、内部の血管や腱が見えることに気が付きます。
 やがて透明化現象が顔にも現れ、二目と見られぬ顔になってしまったエリックは、山に逃げ込み、一人で暮らすことになりますが…。
 透明(厳密には、皮膚が透明でしょうか)になってしまった少年が人里を離れて山の中で暮らすことになる…という物語。性格が悪く、招いた事態も自業自得ではあるのですが、長年人間社会を離れることになります。
 山にこもってからの生活の部分と、やがて判明する透明病の仕組みが描かれる部分なども面白いです。
 転校生を妬むいじめっ子の話が、こんな話になるとは、本当に予想もつかない展開で驚きますね。結末もブラックです。

「さすが女だ」
 少人数の学校に通うサリーは、女生徒が自分一人だけで、たびたび馬鹿にされることに不満を持っていました。スポーツ万能だったという亡きエッソおばさんの形見の真鍮の文鎮を身に付けたサリーは、それにより幸運と人並外れた力を発揮することになりますが…。
 偏見と差別を受け続ける少女が、意地悪な男子生徒たちに一泡吹かせる、という物語です。エッソおばの形見には魔法のような力があるらしいのですが、その「中身」は思いもかけないもので、それが明かされる結末にはインパクトがありますね。

「判断するのはきみだ」
 砂漠にモーテルを開業した父親と息子である「ぼく」。砂漠には「ウォビー・ガーグル」なる不思議な生き物が住んでいるという伝説があり、それを当て込んで開業したというのです。
 ある晩、置いてあった水筒の水が減り、砂の上にぬれた足跡を見つけた「ぼく」はその後を追うことになります。砂漠で遭難してしまった「ぼく」の前に現れたのは、全身が水でできた人型の生き物「ウォビー・ガーグル」でした…。
 砂漠で、水でできた不思議な生き物「ウォビー・ガーグル」と出会うことになった少年を描く物語です。ウォビー・ガーグルは善意を持って少年を助けてくれることになり、彼もまた誠意をもって答えることになるという、異色の友情物語となっています。
 ウォビー・ガーグルは、自らの体から他の生き物に水分を分け与えることができるのです。自らの身を削って他人に尽くす…というのが、視覚的に表現されており、その造形が素晴らしいですね。
 温かみのあるファンタジー作品となっています。


 ポール・ジェニングス作品、死骸、排泄物、ごみ、虫など、グロテスクで「汚らしい」モチーフが頻出するのも特徴で、ここまでやるか、と感銘を受ける作品もままありますね。ただ、それでいて下品にはなりきらず、場合によっては、そこに詩情や哀愁さえ感じさせるのは、著者の才能なのでしょう。
 シリアスで詩的な物語もありますし、ポップでユーモラスな物語、ブラックでグロテスクな物語もありと、様々な物語が楽しめる、ショーケース的な作品集シリーズとなっています。
 刊行から30年近くが経っていますが、今読んでも面白さは衰えていません。何らかの形で再刊してほしいシリーズですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

「魂」の殺人  ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』
4150111928ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)
ロバート・J. ソウヤー Robert J. Sawyer 内田 昌之
早川書房 1997-05

by G-Tools

 「魂」は本当に存在するのでしょうか? そんな古くからの疑問をテーマに、娯楽性豊かに描かれたSF作品がこれ、ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』(内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF)です。
 医学博士ピーター・ホブスンは、老女が死ぬ瞬間に「魂」と思われる反応を記録することに成功します。そして胎児にも、同じ実験を試みます。その結果、妊娠して、ある程度の間を経て「魂」が宿るのを確認したのです。
 「魂」の存在を確信したホブスンは、コンピュータに自分の脳をスキャンし、三通りの自分の複製を作り出します。一つは自分と全く同じ状態の「コントロール」、二つ目は、老いや死を削除した不死の「アンブロトス」、三つ目は肉体的な条件を取り除いた死後の自分のシミュレーション「スピリット」。
 そんな折り、妻の浮気相手が殺されます。しかも、殺しを依頼したのは、ホブスンの三つの複製のどれかである可能性があるのです。犯人はいったい「だれ」なのでしょうか…?
 謎解き要素も含んだ、じつに意欲的なSF作品です。ただ上に紹介したような、ミステリ的な趣向が出てくるのは、作品が半分を過ぎるころからです。それまではずっと、ホブスンが「魂」の存在を発見する過程が描かれます。
 「魂」が発見され、それに対する世界の反応を描いたパートは、ユーモアも交えて描いていて、すごく面白いです。ちなみに「動物には魂がなかった」とするのは、いかにもキリスト教的な発想で、不快になる人もいるかも。わかった上で、冗談まじりに設定している風でもあるのですが。
 それと並行して、ホブスンと妻との軋轢が描かれます。この妻であるキャシーとのやりとりが、どうも変に「下世話」というか、少々うっとうしいのですが、この軋轢が、後半の伏線にもなっているところに、ソウヤーのしたたかさが窺えます。
 死後の生や魂の謎を追う前半はスリリングですし、後半からのフーダニットも劣らず面白いです。ひとつ気になる点は、この主人公の複製を作るという展開が、どうも唐突な感があるところでしょうか。
 あとフーダニットにしても、本格的にミステリファンを満足させる出来かというと、ちょっと疑問です。ジャンルミックスのエンターテインメントとしては、比類ない出来であるのは確かなのですが、もうちょっとそれぞれのジャンルの色を濃くしてくれると、もっといい作品になっただろうと思います。
 いろいろ注文を並べてしまいましたが、物語としての面白さは抜群であり、最後まで全く飽きさせないので、万人に勧められる良作ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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