「魂」は本当に存在するのでしょうか? そんな古くからの疑問をテーマに、娯楽性豊かに描かれたSF作品がこれ、ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』(内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF)です。 医学博士ピーター・ホブスンは、老女が死ぬ瞬間に「魂」と思われる反応を記録することに成功します。そして胎児にも、同じ実験を試みます。その結果、妊娠して、ある程度の間を経て「魂」が宿るのを確認したのです。 「魂」の存在を確信したホブスンは、コンピュータに自分の脳をスキャンし、三通りの自分の複製を作り出します。一つは自分と全く同じ状態の「コントロール」、二つ目は、老いや死を削除した不死の「アンブロトス」、三つ目は肉体的な条件を取り除いた死後の自分のシミュレーション「スピリット」。 そんな折り、妻の浮気相手が殺されます。しかも、殺しを依頼したのは、ホブスンの三つの複製のどれかである可能性があるのです。犯人はいったい「だれ」なのでしょうか…? 謎解き要素も含んだ、じつに意欲的なSF作品です。ただ上に紹介したような、ミステリ的な趣向が出てくるのは、作品が半分を過ぎるころからです。それまではずっと、ホブスンが「魂」の存在を発見する過程が描かれます。 「魂」が発見され、それに対する世界の反応を描いたパートは、ユーモアも交えて描いていて、すごく面白いです。ちなみに「動物には魂がなかった」とするのは、いかにもキリスト教的な発想で、不快になる人もいるかも。わかった上で、冗談まじりに設定している風でもあるのですが。 それと並行して、ホブスンと妻との軋轢が描かれます。この妻であるキャシーとのやりとりが、どうも変に「下世話」というか、少々うっとうしいのですが、この軋轢が、後半の伏線にもなっているところに、ソウヤーのしたたかさが窺えます。 死後の生や魂の謎を追う前半はスリリングですし、後半からのフーダニットも劣らず面白いです。ひとつ気になる点は、この主人公の複製を作るという展開が、どうも唐突な感があるところでしょうか。 あとフーダニットにしても、本格的にミステリファンを満足させる出来かというと、ちょっと疑問です。ジャンルミックスのエンターテインメントとしては、比類ない出来であるのは確かなのですが、もうちょっとそれぞれのジャンルの色を濃くしてくれると、もっといい作品になっただろうと思います。 いろいろ注文を並べてしまいましたが、物語としての面白さは抜群であり、最後まで全く飽きさせないので、万人に勧められる良作ですね。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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