たらいまわし本のTB企画第41回「私家版・ポケットの名言」
 恒例の企画『たらいまわし本のTB企画』第41回が始まりました。今回の主催者は「ソラノアオ」の天藍さん。そして、テーマは「私家版・ポケットの名言」です。

本の海から掬い上げた、「打ちのめされた」一言、「これがあったからこの本を最後まで読み通した」という一行、心震えた名文・名訳、名言・迷言・名台詞、必読の一章…、そういった「名言」をご紹介くださったらと思います。

 いや、今回は難しいですね。最近読んだ本はともかく、読んでから時間がたった本は、物語全体の印象とか、キャラクターの魅力なんかで、記憶に残っているので、特定の一文、というのは、なかなか思い付きませんが、挑戦してみましょう。
 ただ、いわゆる古典や名作の中から引用しても面白くないので、自分の記憶に残った物語の断片、を挙げるような形でやってみたいと思います。とりあえず、まずはこれ。



動物園の麒麟


男性の郵便切手が、はりつく前に
すばらしいことを体験した
彼はお姫様になめられた
そこで彼には恋が目覚めた


ヨアヒム・リンゲルナッツ『郵便切手』(板倉鞆音訳『動物園の麒麟』国書刊行会収録)

 なんと「お姫様になめられた切手のはなし」です。引用部分から後、さらに皮肉な運命が待っています。
 ヨアヒム・リンゲルナッツは、20世紀初頭に活躍したドイツの詩人。ナンセンスとユーモアにあふれた詩と残しました。「詩」といっても、読めば具体的なイメージがわくような「散文詩」といった方が近いような作品が多く、詩に抵抗のある人でも読みやすいと思います。
 この人の作品で素晴らしいのは、その奇想天外なイメージと同時に、どこか哀愁や情緒を感じさせるところでしょう。そして、こんなに短い文章で、これだけの「物語」を予感させてくれるとは! 今でいえば「超短篇」に近い味わいの作品ですので、興味を持たれた方はぜひ。



4622080567悪戯の愉しみ (大人の本棚)
アルフォンス アレー Alphonse Allais 山田 稔
みすず書房 2005-03

by G-Tools


問題のひげというのは、パリでも有数のひげのひとつだったと仮定しよう。そしてもうその話はよそう。

アルフォンス・アレー『ひげ』(山田稔訳『悪戯の愉しみ』みすず書房収録)

 おふざけの名手、アルフォンス・アレーの作品のなかでも、人を食った書き出しでは、いちばんに挙げたい作品。立派なひげを持ちながら無頓着だった男が、ひげを気にし出したことから…という、内容自体はたいしたことのないユーモア・コントなのですが、書き出しの一文の楽しさといったら!



ミステリーゾーン3ミステリーゾーン〈3〉 (文春文庫)
リチャード マシスン 矢野 浩三郎
文藝春秋 1989-11

by G-Tools


顔に笑いをはりつけたままのサルバドア・ロスにむかって、老人は引鉄をひいた。ためらいも、なさけも、やさしさもなく。

ヘンリー・スレッサー『サルバドア・ロスの自己改良』(矢野浩三郎訳『ミステリーゾーン3』文春文庫収録)

 自己中心的な青年サルバドア・ロスが手に入れた悪魔的な能力。それは、他人の持っているものと自分の持っているものとを交換する能力でした。しかも、それは物質的なものに限らないのです。富と、そして誠実な人格まで手に入れた青年が直面する皮肉な結末とは…?
 引用しただけで、結末のネタがバレてしまうのですがご勘弁を。これは文章のレトリックに非常に感心した一編です。



世界ショートショート1

それは赤いバックラム装釘の痛んだ古本。モーティマーが十二歳のときに父親の書斎にある本棚の上段で見つけたものだった。

アルフレッド・ノイズ『深夜特急』(高見沢芳男訳 各務三郎編『世界ショート・ショート傑作選1』収録)

 少年モーティマーが、書斎で見つけた痛んだ古本。それは「深夜特急」と題された本でした。興味を惹かれた彼は、その本を読み始めますが、あるページに差し掛かると、突然怖くなって本を閉じてしまいます。それから何度もその本を読み続けようとしますが、あるページに来ると、それ以上読み進めることができないのです…。
 特定のページ以上に読みすすめることのできない謎の本とは…?大人になった少年は再びその本に出会うのですが…。
 想像力をテーマにした、怪奇幻想小説の名作です。かなり短い掌編ながら、プロローグとエピローグがつながる、その構成の技巧にはうならされるはず。引用したのは冒頭の一行ですが、結末でも同じ文章が効果的に使われています。



戦慄のハロウィーン
戦慄のハロウィーン
アラン ライアン 仁賀 克雄
徳間書店 1987-10

by G-Tools


目覚めると、夜だった-まだハロウィーンの夜。月は動いていなかった。

 マイケル・マクドウェル『ミス・マック』(仁賀克雄訳 アラン・ライアン編『戦慄のハロウィーン』徳間文庫収録)

 豪快で魅力的な女性教師ミス・マック。彼女の親友であるジャニスに思いを寄せる校長は、ミス・マックを疎んじ、魔女の噂のある母親の力を借りて、彼女に呪いをかけてしまいます…。
 女性教師が永遠の夜の森に閉じ込められてしまうという、戦慄度では比類のない作品です。引用した「月は動いていなかった」という文章が作中のところどころで繰り返され、効果を上げています。この女性教師が、変わり者ながらとても魅力的に描かれているだけに、結末の暗さも際立ちます。



失われた部屋失われた部屋 (1979年)
大滝 啓裕
サンリオ 1979-03

by G-Tools


いまは、なにもかもが見える。すべてが同時に、それもぞっとするほどありのままに。

 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『世界を見る』(大瀧啓裕訳『失われた部屋』サンリオSF文庫収録)

 才能のなさに絶望した青年詩人シプリアーノは、奇跡を起こすとまで言われた医者セジリウスに助けを求めます。セジリウスは悪魔的な手段を使い、彼に絶大なる能力を授けます。しかし、その能力には大きな代償があったのです…。
 すべてを理解する能力を得たために、偉大な文学作品や音楽に価値を認めることができなくなった青年詩人。最愛の女性でさえ、ただの血のかたまりにしか見えなくなってしまった男の皮肉な物語です。


最後はシオドア・スタージョンの作品で。


4309621821不思議のひと触れ (シリーズ 奇想コレクション)
シオドア・スタージョン 大森 望
河出書房新社 2003-12-22

by G-Tools


-どんな孤独にもおわりがある。いやというほど長いあいだ、いやというほど孤独だった人にとっては。

シオドア・スタージョン『孤独の円盤』(大森望訳『不思議のひと触れ』河出書房収録)

 ある日、宇宙から飛来した「円盤」に接触した女性のふしぎな物語。「円盤」を「孤独」の象徴に使うなんて、スタージョン以外のだれが思い付くでしょうか。
 ベタな「感動もの」と言われてしまいそうですが、これは外せません。スタージョンの作品は、作品が一見どんな「衣」をまとっていても、その中心には「愛」というテーマが隠されているといっていいのですが、この『孤独の円盤』では、そのメッセージがより読者に近い感じで伝わってくる、という点で、スタージョン作品のなかでも力強い一編です。
 
たらいまわし本のTB企画第40回  こたつで読みたいバカバカしい本
781b63bb9a93571a8cefcbbfcfed746b.jpg

 たらいまわし本のTB企画第40回は「一冊たちブログ」タナカさんの主催。お題は『こたつで読みたいバカバカしい本』です。

 このお正月に、こたつに入ってごろごろしながら読むのにふさわしいような、のんきで、バカバカしい本を挙げていただければと思います。

 たらいまわし本、通称「たら本」は、主催者の提示したテーマに沿って、記事を書き、それを主催者の記事にトラックバックする、というもの。期限もとくに決まっていませんので、面白そうだと思った方はチャレンジしてみてくださいね。


448860501X未来世界から来た男 (創元SF文庫 (605-1))
フレドリック・ブラウン
東京創元社 1963-09

by G-Tools

4488605028天使と宇宙船 (創元SF文庫)
フレドリック・ブラウン
東京創元社 1965-03

by G-Tools

 さて、ばかばかしい作品といえば、真っ先に思い付くのは、やっぱりフレドリック・ブラウンでしょう。突拍子もないアイディアで繰り出される作品は、ときに冗談すれすれまで接近します。とにかく読んで楽しい作品ということでは、他の追随を許しません。
 タイムマシンを使って富や地位を手に入れようとした男が、結局失敗する過程を描いた『タイム・マシンのはかない幸福』(厚木淳訳『未来世界から来た男』創元SF文庫収録)とか、親戚だけのパーティで起こった殺人を描く『ばあさまの誕生日』(厚木淳訳『未来世界から来た男』創元SF文庫収録)、この世に実在するのは自分だけだと言う信念を持つ男の話『唯我論者』(厚木淳訳『天使と宇宙船』創元SF文庫収録)とか、どれをとっても奇想天外です。
 極端に時間の長い惑星で、死刑を宣告される男の物語『死刑宣告』(厚木淳訳『天使と宇宙船』創元SF文庫収録)や、SF雑誌に夢中になる息子に眉をしかめる父親を描いた『非常識』(厚木淳訳『天使と宇宙船』創元SF文庫収録)なんかに至っては、完全に冗談の域に達してますね。



20070211165527.jpg
マルタン君物語
マルセル エーメ 江口 清
筑摩書房 1990-04

by G-Tools

 フランスの作家マルセル・エーメも「ばかばかしさ」では負けていません。
 本ブログでは何度も言及している『マルタン君物語』のほか、ある日突然、美男子になってしまった男が、妻の愛を取り戻そうと、別人として妻を誘惑するという、不可思議な物語『第二の顔』(生田耕作訳 創元推理文庫)も面白い作品です。



4003251814カンディード 他五篇 (岩波文庫)
ヴォルテール 植田 祐次
岩波書店 2005-02

by G-Tools

 哲学者として有名なヴォルテールが書いた物語『カンディード』(植田祐次訳『カンディード』岩波文庫収録)は、今読んでも充分に面白い作品です。異様に楽天的な主人公カンディードが、やたらと不幸な目にあってしまうという、皮肉な物語。その徹底さはグロテスクなほどで、筒井康隆を思わせます。非常に風刺の効いた作品です。
 この短編集には他にも、宇宙からの来訪者が地球の文化を批判する『ミクロメガス』とか、探偵小説の元祖としても取り上げられることのある『ザディーグまたは運命』も収録されていて、非常にお買得。
 どの作品も非常にやさしい文章で書かれた、わかりやすい物語なので、ぜひお勧めしておきたい本ですね。



海の上の少女

海の上の少女―シュペルヴィエル短篇選 (大人の本棚)
ジュール シュペルヴィエル Jules Supervielle 綱島 寿秀
みすず書房 2004-05

by G-Tools

ひとさらい
ひとさらい (1970年)
渋沢 竜彦
薔薇十字社 1970

by G-Tools

火山を運ぶ
火山を運ぶ男 (1980年) (妖精文庫〈24〉)
嶋岡 晨
月刊ペン社 1980-11

by G-Tools

 ジュール・シュペルヴィエルの作品は、一見ばかばかしい題材を取り扱っても、とても詩的で甘美な物語になってしまうところが、凄いです。ヴァイオリンのような声を持つ少女を、思春期の比喩として描いた傑作短篇『ヴァイオリンの声をした少女』(綱島寿秀訳『海の上の少女』みすず書房収録)、子供好きの夫婦が子供をさらってきては育てているという物語『ひとさらい』(澁澤龍彦訳 薔薇十字社)、文字どおり火山を持ち運ぶ男を描いたシュールな物語『火山を運ぶ男』(嶋岡晨訳 月刊ペン社)なんてのもありました。



4044601135神は沈黙せず〈上〉 (角川文庫)
山本 弘
角川書店 2006-11

by G-Tools

4044601143神は沈黙せず〈下〉 (角川文庫)
山本 弘
角川書店 2006-11

by G-Tools

 山本弘『神は沈黙せず』(角川文庫)は、「神とは何か?」という、一見、重厚なテーマを真面目に扱った作品のように見えるのですが、その実「おバカ」なSF作品です。
 人類に「神」の実在が証明され、世界が変革される過程を描いているのですが、ディテールこそ大真面目なものの、核となっているのは、古くからあるSF的なアイディアです。具体的には「この世界は何者かによって作られた」というエドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』とかダニエル・F・ガロイ『模造世界』のような作品がインスピレーションの元になっているようです。
 「星ははりぼてだった」とか「宇宙はいい加減に作られている」など、「トンデモ系」のアイディアがところどころに出てくるのも楽しいです。



怪船マジック
ブラック・ユーモア選集〈4〉怪船マジック・クリスチャン号 (1976年)
早川書房 1976

by G-Tools

 テリイ・サザーン『怪船マジック・クリスチャン号』(稲葉明雄訳『怪船マジック・クリスチャン号』早川書房収録)は、いたずら好きの男が、ひたすら人々にいたずらをして回るという、人を喰った連作短篇シリーズ。金をちらつかせて、人々を思い通りにしたりなど、えげつなさも目立つブラックな作品。



4255960291文体練習
レーモン クノー Raymond Queneau 朝比奈 弘治
朝日出版社 1996-11

by G-Tools

 レーモン・クノー『文体練習』(朝比奈弘治訳 朝日出版社)は、なんの変哲もない出来事を99通もの文章で言い換える、という言語遊戯の本です。いろいろな立場や人物の視点から描かれているのですが、ときには吹き出してしまうようなユーモアも垣間見られます。
 文章の芸を中心に据えているので、翻訳は相当に難しかったろうと思うのですが、日本語としてまったく違和感のない翻訳は、素晴らしい出来栄え。



4102377018透明人間の告白〈上〉 (新潮文庫)
H.F. セイント H.F. Saint 高見 浩
新潮社 1992-05

by G-Tools

4102377026透明人間の告白〈下〉 (新潮文庫)
H.F. セイント H.F. Saint 高見 浩
新潮社 1992-05

by G-Tools

 「ばかばかしい」といえば、これ、H・F・セイント『透明人間の告白』(高見浩訳 新潮文庫)は外せないでしょう。
 事故によって体が透明になってしまった男の運命を描く物語です。ただ、透明人間になったからといって、やりたい放題になるわけではありません。生きのびるためには、どうしたらいいのか?というところに焦点を据えたサバイバル小説になっています。
 ほんとうに体が透明になってしまったら、日常生活はどうなるのか?という具体的な面を詳細に描いているのが非常にユニーク。食物をとったら、それが消化されるまでは目に見えてしまうなど、一応(?)科学的に考察しているのも面白いところです。



4087475484異形家の食卓 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 2003-02

by G-Tools

 田中啓文『異形家の食卓』(集英社文庫)
 全編これ、冗談で出来ているかのようなホラー短編集です。タイトルからして「伊東家の食卓」をもじっているのですが、ほとんどの短篇中で、ダジャレが出てくるという恐るべき作品集。
 究極のグルメ料理の正体を探る『新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け』、怪獣に脳を移植された男の話『怪獣ジウス』、どんなに罵倒されてもにこやかに微笑む外務大臣の秘密を描く、ひたすらグロテスクな物語『にこやかな男』など。
 描写はグロテスクなものの、物語の構成自体はかなりしっかりしています。表面的な悪趣味さが気にならなければ、なかなか読みごたえがあります。



4062638606七回死んだ男 (講談社文庫)
西澤 保彦
講談社 1998-10

by G-Tools

 西澤保彦は、本格推理にSF的なシチュエーションを持ち込むという手法を得意とする作家です。なかでも特にそれが成功しているといってよいのは『七回死んだ男』(講談社文庫)でしょう。
 主人公の高校生、大場久太郎は、ときおり時間の反復現象に巻き込まれてしまいます。 その現象が起こると、同じ一日を9回繰り返すことになるのです。それゆえ、実年齢よりも大分長い人生を生きており、意識的にはかなり老成しています。そんな反復現象に巻き込まれたある日、祖父が殺されてしまいます。久太郎は祖父の死を回避しようとしますが、何度やっても祖父は殺されてしまうのです…。
 「時間ループ」もので、本格推理をやったらどうなるのか?という大胆な試みです。そんなシチュエーションで、本格推理をやる必要があるの?という疑問はさておき、これがまた面白い作品に仕上がっているのです。SF的シチュエーションによる具体的なルールが、物語を面白くしている良い例といっていいかと思います。



羊を数え
羊を数えて眠る本
ブライアン ログウッド Brian Logwood
二見書房 1992-12

by G-Tools

 最後に、とっておきのバカらしい本を紹介しておきましょう。ブライアン・ログウッド『羊を数えて眠る本』(二見書房)です。
 眠気を誘うために、羊を数えようという趣旨で作られた本です。文字どおり、ほぼ全ページに羊の群が延々と描かれているという面白い本。台詞もとくになく、ただただ羊の絵が続くだけ。たしかに眠くなってはきます。洒落た発想の本ではありますね。
たらいまわし本のTB企画第39回 夢見る機械たち
tara39e.gif

 たらいまわし本のTB企画、今回の主催は、kazuouが担当させていただきます。「りつこの読書メモ」のりつこさんから、ご指名いただきました。みなさま、よろしくお願いいたします。あと、素敵なバナーを作ってくださったoverQさんには感謝です!

 たらいまわし本のTB企画、略して「たら本」とは、毎回、主催者の掲げたテーマに沿った記事を書いて、主催者の記事にトラックバックしていただく、という企画です(詳細についてはこちらをご参照ください)。期限はとくに定められていないので、ゆっくりでも大丈夫。初めての方もぜひ、ご参加ください。

 それでは、さっそく今回のテーマを。

 昔から人間は「道具」や「機械」を使って、生身の体では不可能なことを可能にしてきました。日常生活しかり、移動手段しかり。そして物語の中においては、それらは夢や空想を実現する手段としても使われてきたのです。
 今回は『夢見る機械たち』と題して、そんな不思議な「道具」や「機械」を扱った作品を集めてみたいと思います。主要なテーマになっているものでも、印象に残った小道具でもかまいません。漫画やノンフィクションも含めて、いろんな作品を挙げていただきたいです。
 とくにSFやファンタジーにこだわる必要はありませんので、広い意味で「道具」や「機械」がテーマとなっている作品を挙げていただけるといいなあ、と考えています。



4152087862壁抜け男 (異色作家短篇集 17)
マルセル・エイメ 中村 真一郎
早川書房 2007-01

by G-Tools

 まずはこれ、マルセル・エイメ『よい絵』(中村真一郎訳『壁抜け男』早川書房収録』)。
 ラフルールという画家が描いた絵には、きわめて実用的な効用がありました。その絵を見ていると、お腹がいっぱいになってくるのです…。
 文字どおり「栄養のある」絵をめぐる、奇想天外なユーモア小説です。



4309621880ページをめくれば (奇想コレクション)
ゼナ・ヘンダースン 安野 玲 山田 順子
河出書房新社 2006-02-21

by G-Tools

 ゼナ・ヘンダースン『なんでも箱』(安野玲・山田順子訳『ページをめくれば』河出書房新社収録)。
 教室でいつも一人、自分の手の中を見つめている少女がいました。それに気づいた教師は、何をしているのかと尋ねますが、彼女は「なんでも箱」を見ていると答えます…。
 少女にしか見えない「なんでも箱」。「箱」は実在するのでしょうか? 子供の空想を扱った繊細なファンタジーです。



20071108201909.jpg4150401225地図にない町 - ディック幻想短篇集 ハヤカワ文庫 NV 122
フィリップ K.ディック 仁賀 克雄
早川書房 1976-08

by G-Tools

 フィリップ・K・ディック『名曲永久保存法』(仁賀克雄訳『地図にない町』 ハヤカワ文庫NV収録)。
 天才科学者ラビリンス博士は、芸術を愛し、音楽が滅びるのを危惧していました。音楽を生きのびさせるために、博士はある機械を作ります。それは楽譜から生物を作り出す機械! 機械は次々と生物を生み出します。モーツァルト鳥、ブラームス虫、ワグナー獣。しかし森に放たれた獣たちは野生化し、もとの姿をとどめなくなってゆきます…。音楽の生物化、という着想がユニーク。
 同じく、ディックのラビリンス博士シリーズの『万物賦活法』(仁賀克雄訳『地図にない町』 ハヤカワ文庫NV収録)。
 博士は、あらゆる無生物に生命を吹き込む「賦活器」を作り出します。しかし、手始めに生命を与えた靴は逃げ出してしまいます。彼の目的とは…?  生命を得た靴の行動がユーモラスで楽しい作品。



20071108205025.jpgB000J6X89A飛行人間またはフランスのダイダロスによる南半球の発見―きわめて哲学的な物語 (1985年)
植田 祐次
創土社 1985-01

by G-Tools

 レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ『南半球の発見』(植田祐次訳 創土社)
 レチフは、18世紀フランスの作家。人口の翼を開発した主人公が、その翼を利用して、誰も近付けない山頂にユートピアを築くという空想小説です。こんな奇想天外で面白い作品が、すでに18世紀に書かれていたとは驚きです。



20071108203120.gifB000J7TIZW去りにし日々、今ひとたびの幻 (1981年)
ボブ・ショウ 蒼馬 一彰
サンリオ 1981-10

by G-Tools

 ボブ・ショウ『去りにし日々、今ひとたびの幻』(蒼馬一彰訳 サンリオSF文庫)
 光が透過するのに、何年もの歳月を要するというガラス『スローガラス』。例えば、風景の前に置かれたガラスは、何年もその風景を映し出し続けるのです。そしてガラスが映し出すのは風景だけではありません。人間の過去もまたそこには映っているのです…。
 「スローガラス」とそれを巡る人々を描いた、叙情的な連作短篇集。人間の過去を映し出すものとして、比喩的にも物理的にも「スローガラス」が上手く使われています。自分が死刑にした男の、実際の犯行現場が映っているはずのガラスが、その情景を映し出すのを何年も待ち続ける判事の話『立証責任』など、どれも非常に魅力的。



4150712514あなたに似た人
ロアルド・ダール 田村 隆一 Roald Dahl
早川書房 2000

by G-Tools

 ロアルド・ダール『偉大なる自動文章製造機』『あなたに似た人』ハヤカワミステリ文庫収録)
 小説家志望の青年が開発した「自動文章製造機」。それを使えば、あらゆる小説が書けるのです。機械を使って大儲けをたくらむ青年でしたが…。
 作家なら誰でも夢見る(?)究極の機械が登場します。風刺の効いたホラ話です。
 


20071108203334.jpg4828830812スティーヴンソン怪奇短篇集
ロバート・ルイス スティーヴンソン 河田 智雄
福武書店 1988-07

by G-Tools

 R・L・スティーヴンソン『びんの子鬼』(河田智雄『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫収録)
 主人公の若い男は、ある男から不思議なびんを手に入れます。そのガラスは地獄の炎で練られ、中に悪魔を封じこめたという、いわくつきの品物。びんに願いをかければ、あらゆる望みがかなうといいます。しかし、びんを所有したまま死んだ人間は、地獄に堕ちてしまうのです。それを逃れる手段はひとつ。他人にびんを売ること。ただし、買った時よりも安く売らなければならない、というルールがありました…。
 何でも望みのかなう魔法のアイテム、という発想自体は、そう珍しくもないのですが、買った時よりも安く売らなければならない、というルールを導入しているところがユニーク。びんを厄介払いしようとする、人間同士の駆け引きが読みどころです。



4150410798幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる (ハヤカワSF)
仁賀 克雄
早川書房 2005-03-24

by G-Tools

 クリフォード・D・シマック『埃まみれのゼブラ』(小尾芙佐訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇2』ハヤカワ文庫NV収録)
 ある日「わたし」は、机に置いてあった切手がなくなり、組立てブロックが置いてあることに気づきます。また万年筆も、似てはいるものの、得体の知れない道具に置き換わっているのです。それらの品物を調べてみた結果、この世界の品物ではないことが判明します。机の上にできた斑点、どうやらそこは異次元とつながっており、相手側は物々交換をしているつもりのようなのです。「わたし」は次々と物を交換していきますが、問題がひとつありました。どの道具も何に使うのか全くわからないのです…。
 取引をしている相手のエイリアン(?)の正体は全く描写されず、ただ相手は、次々と品物を送ってくるだけ。一儲けをたくらんだ「わたし」の盲点とは…? ユーモアに富んだ「物々交換」小説です。



4488501028怪奇小説傑作集 2 (2)
ジョン・コリアー 中村 能三 宇野 利泰
東京創元社 1969-03

by G-Tools

 H・G・ウェルズ『卵形の水晶球』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)
 骨董店の主人である老人は、家族からも疎まれ、寂しい生活を送っていました。そんな彼の愉しみは、ふとしたことから手に入れた水晶球を眺めること。水晶には、不思議な力がありました。そこには異国、いや異星としか思えない風景が映っていたのです。ある日、水晶球を買いたいという客が現れますが、老人は法外な値段をふっかけて、断ろうとします…。
 モチーフとなる水晶球も魅力的ですが、それを手に入れた老人の、人生の一断面をも見せてくれるかのような、哀愁ただよう展開が魅力的です。


 ヘンリー・カットナー『住宅問題』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)
 共働きの若い夫婦が、家計の足しにと置くようになった下宿人。裕福な様子のその老人は、幸運に恵まれているようでした。なぜか彼の部屋には覆いをかけた鳥籠が置いてあり、中身は全く見えません。しかし生物がいるかのような音が、時おり聞こえるのです。老人は鳥籠に絶対触れるなという言い付けをして出かけますが、夫婦は好奇心に勝てず、のぞき見してしまいます…。
 鳥籠の中にいるものとは…? 予想のつく展開ながら、風刺のきいた結末は魅力的。



B000J8TYNC十二の椅子 (1977年)
江川 卓
筑摩書房 1977-11

by G-Tools

 イリヤ・イリフ、エウゲニー・ペトロフ『十二の椅子』(江川卓訳 筑摩書房)
 資産家の老婦人が、死の間際に、遺産のありかを話します。莫大な価値のあるダイヤモンドを椅子に縫い込んで隠したというのです。それは十二ある椅子のうちどれか一つだというのですが、気が付いたときには、すでに椅子は、家財もろとも没収されていました。各地に散らばった椅子を求めて、遺産の奪い合いが始まります…。
 今世紀初頭に活躍したロシアの合作ユーモア作家、イリフ、ペトロフの傑作ユーモア小説。基本的には「宝探し」小説ですが、その過程がスラップスティック風に描かれる、抱腹絶倒の作品。前半の突拍子もないほどのテンションに比べ、結末付近では、異様に陰鬱になってしまうという、非常にユニークな作品です。



4560070865水蜘蛛
マルセル ベアリュ 田中 義広
白水社 1989-10

by G-Tools

 マルセル・ベアリュ『球と教授たち』(田中義廣訳『水蜘蛛』 白水uブックス所収)
 ある夜、教授たちが遭遇した不思議な球体。彼らはそれが何であるかについて思い悩みますが…。
 タイトル通り「球と教授たち」を扱ったシュールな掌編。イメージの美しさが記憶に残ります。



20071108205531.jpg4041053218鏡地獄―江戸川乱歩怪奇幻想傑作選 (角川ホラー文庫)
江戸川 乱歩
角川書店 1997-11

by G-Tools

 江戸川乱歩『鏡地獄』『鏡地獄―江戸川乱歩怪奇幻想傑作選』 (角川ホラー文庫ほか収録 )
 完全な球体になった鏡の中に入ったら、そこには何が見えるのか? そして入った人間はどうなってしまうのか? 鏡に憑かれた男を描く怪奇小説です。



20071108203242.jpg4150401144火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)
レイ・ブラッドベリ 小笠原 豊樹
早川書房 1976-03-14

by G-Tools

 レイ・ブラッドベリ『優しく雨ぞ降りしきる』(小笠原豊樹訳『火星年代記』ハヤカワ文庫NV収録)
 人間の全くいなくなった邸で、オートメーションの機械たちが、ただただ家事や家の整備をし続ける様子を、淡々と描写しています。静謐なイメージが美しい一編です。



20071108205015.jpgB000J769NGキャメロット最後の守護者 (1984年)
浅倉 久志
早川書房 1984-04

by G-Tools

 ロジャー・ゼラズニイ『フロストとベータ』(浅倉久志訳『キャメロット最後の守護者』ハヤカワ文庫SF収録)。
 人類が絶滅した遠い未来、地球は機械によって支配されていました。地球を統括する機械ソルコンの部下であるフロストは「人間」に興味を抱き、そのデータを集め始めます。データによっては「人間」を知ることはできないと悟ったフロストは、やがて遺された細胞から人間の肉体を再生し、自らの意識をその体に移そうと考えますが…。
 機械が主人公という珍しいお話です。「人間」とはいったい何なのか? 道具立てはSF的ながら、神話の趣さえある壮大なファンタジー。



4102211039スターシップ
レイ・ブラッドベリ 伊藤典夫 浅倉久志
新潮社 1985-12

by G-Tools

 ジェイムズ・イングリス『夜のオデッセイ』(伊藤典夫& 浅倉久志編訳『スターシップ』新潮文庫収録)
 かって人類が宇宙に送り出した恒星間探査機。かれは、人類が滅びた後も、黙々と探査作業を続けます…。
 人間の登場「人物」は全く登場せず、探査機が主人公といってよい存在。果てしなく広い空間と時間を飛び突ける探査機、その広大なスケールには詩情すら感じられる、稀有な名作です。


 次はコミックから。


4344800125Marieの奏でる音楽 上 (1)
古屋 兎丸
幻冬舎 2001-12

by G-Tools
4344800052Marieの奏でる音楽 下  バーズコミックスデラックス
古屋 兎丸
幻冬舎 2001-12

by G-Tools

 古屋兎丸『Marieの奏でる音楽』(上下巻 幻冬舎バーズコミックスデラックス)
 中世ヨーロッパを思わせる、争いごとのない平和な世界が舞台。工業や機械産業が中心の町で暮らす少年カイは、幼い頃の事故がきっかけで、特殊な聴覚を身につけます。そのときから、世界を見守っているという女神Marieの奏でる音楽が、カイに聞こえるようになったのです。カイを想う幼なじみの少女ピピの気持ちに気付きながらも、カイはMarieに惹かれる気持ちを抑えることができなくなっていきます…。
 ヨーロッパ風の異世界を舞台にしたファンタジー作品ですが、この異世界の描写が素晴らしいです。機械細工や歯車などのオブジェが、細密な表現で描かれます。物語の方も、最初のほうこそ、ゆったりとした人物や世界の描写が続きますが、後半の怒濤の展開は、じつにサスペンスフル!
 世界の成り立ちとは? 女神Marieとはいったい何なのか? カイの能力の秘密とは? そして、伏線が冴え渡る驚愕の結末。世界創造の謎にまで迫る、本格的なファンタジー作品です。ラストでは泣かせてくれる、隠れた名作。



4091311946羽衣ミシン (フラワーコミックス)
小玉 ユキ
小学館 2007-08-24

by G-Tools

 小玉ユキ『羽衣ミシン』(小学館フラワーコミックス)
 工学部の学生、陽一は、ある日、工事現場に足を挟まれた白鳥を助けます。その夜、陽一の部屋を、見覚えのない若い女性が訪れます。彼女は、自分は助けてもらった白鳥で、彼にひと目惚れをしてしまったと言うのです…。
 「鶴の恩返し」を現代にアレンジしたファンタジー作品です。白鳥の化身である女の子の恩返しは、ミシンで裁縫をすること、というのが、いかにもモダンでチャーミング。予定調和ではありつつも、せつない結末は読者のこころを打つはず。ほのかな暖かさにつつまれた、近年稀に見る傑作漫画。


 架空の「道具」を扱った本からいくつか。



20071108205006.jpgB000J8PGL6
おかしな道具のカタログ (1977年)
高橋 彦明
Parco出版局 1977-10

by G-Tools

 ジャック・カレルマン『おかしな道具のカタログ』(高橋彦明訳 PARCO出版)
 空想的な「道具」を集めたというコンセプトのイラスト本です。空想的なのですが、日常で実際に使えなくもない…という微妙なラインに沿って並べられた道具たちは、どれも非常に魅力的です。引抜く釘を痛めない「ソフト釘抜き」、トゲトゲのついた「サボテン用手袋」、デリケートな仕事に最適な「ガラス・ヘッド製ハンマー」、ぺったんこの「扁平椅子」など、どれも実用には全く役に立ちませんが、見ているだけで楽しくなってきます。


 さて、この手の空想的なフェイクを得意とするクリエーターといえば、もちろんクラフト・エヴィング商會です。


4480872922どこかにいってしまったものたち
クラフト・エヴィング商會
筑摩書房 1997-06

by G-Tools

 なかでも、一番に挙げたいのは『どこかにいってしまったものたち』(筑摩書房)です。かって存在したというクラフト・エヴィング商會の扱っていた商品目録を紹介するというコンセプトで作られています。
 クラフト・エヴィング商會の特徴は、文章だけでなく、イラストやパッケージまで作成して、飽くまで本物のようなリアリティを追求しているところ。ただし扱う品物は、みな幻想的かつ空想的なものばかりです。「アストロ燈」「万物結晶器」「ムーングラス」「水蜜桃調査猿」「全記憶再生装置」など、名前を見ているだけで空想がふくらむような、魅力的な品々が並びます。稲垣足穂を思わせる感性の溢れた、すばらしい作品です。


4480873325ないもの、あります
クラフト・エヴィング商會
筑摩書房 2001-12

by G-Tools

 また『ないもの、あります』(筑摩書房)は、慣用的な言い回しに登場するものを、実際に品物にしてしまうというもの。「堪忍袋の緒」「左うちわ」「舌鼓」などが、実際にあったら…という、遊び心に溢れています。


4480873260らくだこぶ書房21世紀古書目録
クラフト・エヴィング商會
筑摩書房 2000-12

by G-Tools

 『らくだこぶ書房21世紀古書目録』は、その名の通り、架空の本の目録という体裁の本です。未来から送られてくる「レトロ」本というテーマが素晴らしい!

 次回の「たら本」主催は「一冊たちブログ」のタナカさんに引き受けていただきました。よろしくお願いいたします。


テーマ:本の紹介 - ジャンル:小説・文学

私家版・世界幻想短編集十選
 寡聞にして知らなかったのですが、どうやら巷でいろいろな「十選」が流行っているそうです。「世界十大文学」を皮切りに、自分の好みの「十選」を挙げるという試み、なかなか面白そうなので、僕もちょっと考えてみました。
 自分のいちばん好きなものは、と考えると、やっぱり短篇。あとジャンル的には「幻想小説」ですね。ということで、幻想的な要素のある短編集から選んでみました。


4003241428ホフマン短篇集 (岩波文庫)
ホフマン E.T.A. Hoffmann 池内 紀
岩波書店 1984-09

by G-Tools

E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
 まずは、ドイツ・ロマン派の幻想作家ホフマンの作品。基本的にはどの作品でもいいんですが、訳の素晴らしさとバランスの取れたセレクションでは、この岩波文庫版が随一でしょう。
 フロイトがとり上げたことでも有名な、元祖サイコ・ホラーともいうべき『砂男』、ユーモアと切なさが同居する音楽奇譚『クレスペル顧問官』、この世ならざるヴィジョンが美しい、鉱物幻想小説『ファールンの鉱山』など、傑作揃いです。



4480420274稲垣足穂コレクション2 (ちくま文庫)
稲垣 足穂
筑摩書房 2005-02-09

by G-Tools

稲垣足穂『ヰタ マキニカリス』(河出文庫、ちくま文庫ほか)
 近代的な意味での「人間」を描くことを拒否して、ただただ星と月をめぐる物語をつづり続けた作家、稲垣足穂。その特質がもっとも純粋に現れた作品集です。
 おとぎ話の枠を超えて、形而上の域にまで達した感のある掌編集『一千一秒物語』、ダンセイニを換骨奪胎した月取り物語『黄漠奇聞』、カルヴィーノを思わせる月光ファンタジー『ココァ山の話』など。今読んでも全く古びていません。



B000J8IRJO失われた部屋 (1979年)
大滝 啓裕
サンリオ 1979-03

by G-Tools

フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『失われた部屋』(大瀧啓裕訳 サンリオSF文庫)
 19世紀半ば、珠玉のような作品を遺した、伝説の幻想作家フィッツ=ジェイムズ・オブライエンの短編集。現在のSFやファンタジーの原形であり、その純粋さが薄れていなかった時代の、みずみずしいファンタジーです。
 エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』を先取りしたかのような、小宇宙におけるラブストーリー『ダイヤモンドのレンズ』、壁から口や手の生えた奇怪な館の登場する、シュールなファンタジー『口から手へ』、優しさと切なさのあふれる人形物語『ワンダースミス』、怪奇小説のマスターピースとしても有名な『あれは何だったのか』など。



448002395Xマルタン君物語
マルセル エーメ 江口 清
筑摩書房 1990-04

by G-Tools

マルセル・エーメ『マルタン君物語』(江口清訳 ちくま文庫)
 奇天烈な物語設定を得意とするエーメの作品中でも、とびきり奇天烈な物語が収められた連作短編集です。
 登場人物を殺しまくる小説家が小説の世界に巻き込まれる『小説家のマルタン』、一日おきに存在しなくなるという男の奇怪な運命を描いた『死んでいる時間』など、この作家にしか描きえないファンタジーが目白押しです。
 くわしい記事はこちらにあります。



488611301X階段の悪夢―短篇集
ディーノ・ブッツァーティ 千種 堅
図書新聞 1992-06

by G-Tools

ディーノ・ブッツァーティ『階段の悪夢』(千種堅訳 図書新聞)
 最近、光文社の古典新訳文庫からも、作品集が刊行されて話題になった、ブッツァーティの短編集。短い掌編が中心ですが、そのアイディアの斬新さ、技巧の冴えは素晴らしいの一言。
 時間をめぐる連作ファンタジー『時間のほつれ』、何の変哲もない日常風景が、悪夢のようになってしまうという、超絶的な技巧が凝らされた『クレシェンド』、二人の会話が現実をも変えてしまう驚異の作品『二人噺』など。この手の作品に慣れた人でも、驚かされる部分が多いでしょう。
 なお、ブッツァーティに関してはこちらをご参照ください。



B000J79VTA今夜の私は危険よ―ウールリッチ幻想小説集 (1983年)
高橋 豊
早川書房 1983-11

by G-Tools

コーネル・ウールリッチ『今夜の私は危険よ』(高橋豊訳 ハヤカワ・ミステリ)
 もともと、雰囲気的には幻想小説に近しいものをもつウールリッチですが、この短編集は、超自然味のある、文字どおりの幻想小説を集めた珍しい一冊です。
 悪魔のドレスを着た女性の運命を描く『今夜の私は危険よ』、蘇生させられた女性をめぐる純愛物語『ジェーン・ブラウンの体』など、題材こそホラーですが、そのトーンはやはりウールリッチだけあって、甘美なものが多いです。



B000J941A2刺絡・死の舞踏―他 シュトローブル短篇集 (1974年)
前川 道介
創土社 1974

by G-Tools

カール・ハンス・シュトローブル『刺絡・死の舞踏他』(前川道介訳 創土社)
 20世紀前半にオーストリアで活躍した作家、シュトローブルの怪奇小説集。怪奇小説にはユーモアも必要だ、と言ったことでも有名ですが、実作でもそれを実践しているようです。
 悪夢じみたラストの情景が美しい『死の舞踏』。筒井康隆を思わせる、スラップスティックなユーモア怪奇小説『メカニズムの勝利』などが秀逸です。



B000J8H3C6妖精たちの王国 (1979年) (妖精文庫〈20〉)
八十島 薫
月刊ペン社 1979-05

by G-Tools

シルヴィア・タウンゼント・ウォーナー『妖精たちの王国』(八十島薫訳 月刊ペン社)
 ウォーナーは、現代に「妖精物語」を蘇らせた功労者ともいうべき人。その作品は、現代に生きる妖精を描いたモダン・フェアリー・テイルとなっています。ユーモアに富んだ軽やかな物語でありながら、ときに登場人物には残酷な運命が待っていたりするのが、一筋縄ではいかないところ。とくに、互いに入れ替えられた妖精と人間の子供の運命を描く『ひとりともうひとり』は大傑作です。



4622080567悪戯の愉しみ (大人の本棚)
アルフォンス アレー Alphonse Allais 山田 稔
みすず書房 2005-03

by G-Tools

アルフォンス・アレー『悪戯の愉しみ』(山田稔訳 みすず書房)
 エスプリに満ちたシュールなコントをたくさん遺したアレーのコント集。いたずらやブラックユーモアに満ちた作風は、真面目な人には眉をひそめられてしまうかも。
 水の中の微生物が苦しむことに怒りを覚える男の話『小さな生命を大切に』、ニシンが進化しはじめる冗談のような物語『ウソのような話』、死体をエネルギー源にしようとするブラックな話『ザ・コープスカー』など。一読、唖然とすること請け合いです。



448801609Xロコス亭の奇妙な人々
フェリペ アルファウ Felipe Alfau 青木 純子
東京創元社 1995-11

by G-Tools

フェリペ・アルファウ『ロコス亭の奇妙な人々』(青木純子訳 東京創元社)
 「ロコス亭」に集まる人々の奇妙な運命を描いた連作短編集、なのですが、作品世界内で、登場人物が違う役割で登場したり、思わぬところで物語がつながっていたりと、メタフィクション的な要素を多分に含んだ作品になっています。個々の話も、財布を盗まれた警視総監だとか、存在感が薄すぎて誰にも気づいてもらえない男だとか、気妙奇天烈なものばかり。とにかく、あちらこちらにある「仕掛け」が楽しい一冊です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

たらいまわし本のTB企画第38回「何か面白い本ない?」という無謀な問い
tara38.jpg
 本好きの間では有名な(?)「たらいまわし本のTB企画」、略して「たら本」
 第38回になる今回は、「りつこの読書メモ」りつこさんの主催で、テーマは「『何か面白い本ない?』という無謀な問いかけに答える」です。この企画、参加してみたいとは思いつつも、今まで機会がなかったのですが、りつこさんが参加しやすいテーマを挙げてくださったので、初参加してみたいと思います。

普段本を読まないあの人でも、「登場人物の名前がなかなか覚えられなくて…」と言っているあの人でも、「携帯があれば本なんかいらない」と言っているあの人でも、寝食忘れて読んでしまうぐらい面白い本。本の世界から離れたくない、読み終わりたくないと思うくらいの面白い本。あなたにはそんな本がありませんか?

 「面白い本」とはまた、適用範囲が広いんですが、このブログの趣旨は「マイナー」でありますので、メジャーどころを微妙に外したセレクションで、いくつかご紹介したいと思います。


 まずはこれ、ロバート・コーミア『フェイド』(北沢和彦訳 扶桑社ミステリー)。
4594011454フェイド
ロバート・コーミア 北沢 和彦 Robert Cormier
扶桑社 1993-04

by G-Tools

 一族に代々伝わるという「透明になれる能力」を生まれ持った少年。能力ゆえに苦しむ少年の青春を描く、ほろ苦い成長小説です。「透明」を使った作品といえば、クリストファー・プリーストの『魔法』を思い浮かべる人もいるでしょうが、『フェイド』は、プリーストほどトリッキーではなく、手触りとしては、スティーヴン・キングの『デッド・ゾーン』なんかに近い感じです。細やかな心理描写が魅力的な作品ですね。


 さて、最近「面白い本」を書く作家と言えば、クリストファー・プリースト。彼の作品なら『奇術師』『魔法』あるいは『双生児』が真っ先に挙がりそうですが、あえてここでは『ドリーム・マシン』(中村保男訳 創元SF文庫)を挙げたいと思います。
4488655025ドリーム・マシン
クリストファー・プリースト 中村 保男
東京創元社 1979-07

by G-Tools

 数十人の男女の無意識をつないだ機械。その作用により、未来の世界が仮想的に作り上げられます。彼らはそこで生活し、そのデータを回収するために現実世界に連れ戻される予定でした。しかし、一人の男が現実世界に戻るのを拒否しはじめたことから異変が…。
 仮想現実を扱った、簡単に言ってしまうと、映画『マトリックス』みたいな話です。ただ発表年は1977年とちょっと早いですね。プリースト作品に共通する「現実とは何か?」というテーマを扱った意欲作です。


 カレル・チャペックは、日本でもとても人気のある作家です。基本的にどの作品でもいいんですが、個人的にお気に入りなのは、短編集『ひとつのポケットから出た話』(栗栖継訳 晶文社)です。
4794912420ひとつのポケットから出た話 (ベスト版 文学のおくりもの)
カレル チャペック Karel Capek 栗栖 継
晶文社 1997-08

by G-Tools

 ミステリ、ファンタジー、普通小説、とジャンルはさまざまですが、共通するのは登場人物によせる作者の暖かい視線。とにかく登場する人物たちが、どれも非常にチャーミングなのです。


 チャーミングといえば、ジョセフィン・テイ『魔性の馬』(堀田碧訳 小学館)の登場人物もとても魅力的です。
4093564612魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)
ジョセフィン テイ Josephine Tey 堀田 碧
小学館 2003-03

by G-Tools

 行方不明の跡取りと容姿が似ているのを利用して、財産をだまし取るために資産家の家にもぐりこんだ主人公。しかし孤独に生きてきた彼は、やがて「仮の」家族たちに愛情を感じはじめます…。
 お家乗っ取りをたくらむ悪党物語のはずが、孤独な男の魂を癒すヒューマン・ストーリーに。謎解き・サスペンス・恋愛など、さまざまな要素が詰め込まれ、結末の収束も見事な、まさに物語の「粋」と呼びたいような作品。


 パトリック・クェンティンは、二転三転するサスペンスを得意とした作家ですが『追跡者』(大久保康雄訳 創元推理文庫)は、その娯楽要素を極限まで追求したかのような作品です。
448814702X追跡者
パトリック・クェンティン 大久保 康雄
東京創元社 1962-12

by G-Tools

 遠国へ出稼ぎにでかけていた男が帰宅すると、妻は行方知れず、そしてそこには男の射殺体が。殺人犯は妻なのか?妻を守るため、彼は死体を隠して、彼女の行方を探しに出かけますが…。
 とにかく、めまぐるしい展開が読みどころ。登場人物は、誰が味方で誰が敵なのかまったくわからないので、終始、緊張感が持続します。人間関係のサスペンスだけで、ここまで読ませる作品も珍しいですね。


 最後に、あんまり話題にならなかったけれど、とびきり面白い本を。
 20世紀初頭に活躍した、ドイツの作家ミュノーナの短編集『スフィンクス・ステーキ』(鈴木芳子訳 未知谷)です。
4896421272スフィンクス・ステーキ―ミュノーナ短篇集
ミュノーナ Mynona 鈴木 芳子
未知谷 2005-04

by G-Tools

 いわゆる「異色短篇」に似た味の短篇が集められていますが、とぼけたユーモアやナンセンスは、ミュノーナ独自のもの。
 人間の体の毛の生え方をオルゴールの筒に移植して、その人間固有の音楽を奏でるという話『性格音楽-毛のお話』。スフィンクスを食べてしまうという、タイトル通りのお話『スフィンクス・ステーキ』。まったく同じ名前、同じ行動をとる40人の集団を描く奇談『謎の一団』。砂漠に現れた巨大な卵をめぐるナンセンス・ストーリー『不思議な卵』など。突飛なイメージが印象に残るような作品が多いです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する