おとぎの国の狂紳士  リチャード・ダッド
20070215221538.jpg  20070215221151.jpg  20070215221552.jpg  20070215221246.jpg

 比喩的に「狂気の画家」などという表現が、使われることがあります。「天才と狂人は紙一重」などという言葉もあるように、狂気には、どこか恐れと同時に、憧れの感情が混ざることも、ままあるようです。ですが、実際に「狂った」画家というのは、あまり褒められたものではありません。
20070215221223.jpg そもそも精神の荒廃した人間に、魅力的な絵が描けるのか?という点では、大いに疑問を抱かざるをえないのです。ですが、その疑問を打ち破るような人物が存在します。イギリスの画家リチャード・ダッド、彼こそは文字どおり「狂気の画家」なのです。
 19世紀前半、イギリスに生まれたリチャード・ダッドは、早くから絵の才能を表し、将来を嘱望されていました。しかし中東旅行を期に、精神病を発病してしまいます。帰国した後も病状は悪化し、ついには父親を悪魔だと思い込み、刺殺してしまうのです。
 精神病院に収容されたダッドは、その後も絵を描き続けます。発病後も、絵の才能が衰えることはありませんでした。死去するまでの40数年間、ダッドは精神病院内で絵を描きつづけたのです。
20070215221204.jpg さて「狂気の画家」の作品は、どんなものなのかと思いきや、想像するほどには非常識なものはありません。ダッドの場合、狂気によって創造力が活性化された、というよりは、絵の才能と意欲が狂気を押さえつけた…という面が強いのかもしれません。
 彼の作品の大部分は水彩画なのですが、全体的に色彩が薄い傾向があります。ありあまる技量は感じ取れるものの、深い印象を与えるものは多くはありません。その中で印象に残るのは、バラードの物語に想を得たという『狂えるジェーン』でしょうか。他の作品にも共通するのですが、人物の表情に、ある種、鬼気迫るものが感じられます。
 やはり彼の本領が発揮されているのは、油彩画でしょう。とくに「妖精」を扱った、いくつかの作品は、迫力に満ちています。全作品に占める割合は少ないのですが、ダッドが「妖精画家」と呼ばれるのも、ゆえなしとしません。
 叙情的な『夕辺』、愛らしい『パック』、妖気ただよう『バッカス祭の情景』もそれぞれ素晴らしい作品ですが、代表作としては、やはりこの2点があげられます。『お伽の樵の入神の一撃』『対立・オベロンとティターニア』です。
 どちらの作品も、すさまじい細密描写が特徴です。偏執的なまでの描き込みが、リアリズムの方向ではなく、逆にファンタジーの方向へと、作品を押しやっているようです。ことに『お伽の樵の入神の一撃』に至っては、画面上のすべての要素が等しく描き込まれており、一度見ただけでは焦点がつかみにくいほどです。9年近い歳月を費やして、まだ未完成というから、まったく空恐ろしい作品です。 
 センセーショナルな話題が先行してしまう感のあるリチャード・ダッドですが、その作品にはやはり、再評価に値する魅力が充分にあります。
 本邦では、唯一の画集『夢人館8 リチャード・ダッド』(小柳玲子編 岩崎美術社)が刊行されていますが、内容・解説ともに充実の一冊になっていますので、興味を持たれた方は、御覧になってはいかかでしょうか。



錬金術的ファンタジー  レメディオス・バロ
20070208204742.jpg 20070208203939.jpg 20070208203925.jpg 20070208203915.jpg

 今回から〈ファンタスティック・ギャラリー〉と題して、不定期に、お気に入りの美術や画家を取り上げていきます。まず最初は、スペインで生まれ、後にメキシコで活躍した女流画家、レメディオス・バロを紹介したいと思います。
20070208204727.jpg アカデミックな芸術教育を受けたバロは、若くして芸術活動を始めます。アンドレ・ブルトンを代表とする、いわゆる「シュルレアリスム」運動に参加するものの、この時点ではまだ、見るべき作品はないようです。彼女が本領を発揮するのは、メキシコに渡ってからです。
 「魔術」や「錬金術」が、モチーフに現れるようになり、徐々に神秘的な傾向が強くなってくるのです。具体的には、星や月、鳥といった錬金術的アイテムが多くとりあげられています。例えば、代表作とも言うべき『星粥』を見てみましょう。かごの中の月の赤ちゃんに、星を砕いて作ったお粥を与える情景を描いた、何ともファンタスティックな作品です。また『星の狩人』では、虫取り網(星取り網?)で星を捕まえる女性が描かれています。
20070208204823.jpg そしてバロの作品の最大の特徴として、よく登場するのが「機械」。それもありきたりの既製品ではなく、バロのオリジナルかつファンタスティックな「機械」なのです。『星粥』でも、星を砕いて粥にする「機械」が登場していましたが、多くの作品で、それぞれ独自の、奇妙ながらも空想的な「機械」が現れます。
 『鳥の創造』では、星の光を調合して、絵の具を作り出す「機械」が登場しています。その絵の具から飛び出すのは本物の鳥! 逃亡する男女を描いた『逃亡』では、二人が乗る乗り物が描かれています。また、螺旋形の城塞を描いた『螺旋の運航』や、どことも知れぬ峡谷を行く船を描いた『彼岸の世界』でもオリジナルの船が登場しています。バロは、技師だった父親に製図の訓練を受けたということですが、その影響もあるのでしょう。デザイン的にも独創的で、見ていて飽きさせません。
20070208204814.jpg20070208204756.jpg 基本的に、バロの作品では、現実が舞台になることはなく、どことも知れぬ幻想的な空間が舞台になっています。森の奥深くであったり、湖であったり、塔の上だったりと、そこに共通するのは童話的な世界。しかも、その世界に違和感を抱かせることなく存在するファンタスティックな「機械」。何とも魅力的な世界を作り出しているのです。
 絵画とはいいながら、「機械」をはじめとする細部をじっくり眺めることによって、そこに物語が浮かび上がってきます。その意味で、まさに「見る物語」といっていいのかもしれません。
 ちなみに日本では、1999年に一度だけバロの展覧会が開かれており、その際に作られた図録は非常にすばらしい出来なので、機会があったら御覧になることをオススメします。

テーマ:イラスト - ジャンル:その他



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する



Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ





<!--アクセス解析タグ ここまで-->