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最近読んだ本(評論・ガイドブックを中心に)
 最近読んだ評論・ガイドブック本について、まとめてレビューを上げておきたいと思います。


ゴシック小説をよむ (岩波セミナーブックス (78))
小池滋『ゴシック小説をよむ』(岩波セミナーブックス)

 イギリスで生まれた「ゴシック小説」について、生まれた背景や、主だった「ゴシック小説」の紹介、その特徴について丁寧に語った本です。
 ホレス・ウォルポールの『オトラント城』からゴシック小説は生まれた…と説き起こすのは定番なのですが、そういう作品が生まれ、受け入れられた土壌がその時代のイギリスにはあるとして、当時の文化背景を丁寧に解説していく部分が非常に分かりやすいです。
 具体的には、次のような点が重要だと書かれています。文化では比較的後進国だったイギリスが「グランド・ツアー」などにより、大陸の先進国フランスやイタリアの異文化を輸入したこと、特にイタリアへ入国する際のアルプス山脈を通じて大自然の厳しさ・美しさを知ったこと。クロード・ロランやサルヴァトール・ローザの絵画などの人工的な自然風景、いわゆる「理想風景」を通じて「ピクチャレスク」という考え方が普及したこと、結果として、建築や庭園にそうした「ピクチャレスク」趣味が生まれてきたこと、などがゴシック小説誕生の下地にはあったと言います。
 ゴシック小説の背景として、そうした文化的背景があった…ということは何となく知ってはいたのですが、この本でようやく納得の行く形の説明に出合えた気がします。この本、講演が元になっているため、話し言葉で書かれていて、それも読みやすさの一因でしょうか。
 『オトラント城』を初めとして『イギリスの老男爵』『マンク』『ヴァテック』『放浪者メルモス』『ケイレブ・ウィリアムズ』『フランケンシュタイン』『ウィーランド』『悪魔の霊液』などの代表的なゴシック小説の紹介のほか、ゴシックの影響が見られる主流文学についてや、アメリカやフランスなど、他国への影響などについても語られています。特にバルザックやメリメについての影響を語ったフランスの章は面白く読めますね。
 非常に読みやすく、ゴシック小説について一通りの知識が得られる優れた本です。「ゴシック小説」入門として、日本語文献の中でも最もわかりやすい本ではないかと思います。



アメリカ・ゴシック小説―19世紀小説における想像力と理性
ドナルド・A・リンジ『アメリカ・ゴシック小説 19世紀小説における想像力と理性』(古宮照雄ほか訳 松柏社)

 アメリカのゴシック小説について書かれた研究書です。専門書ではありますが、丁寧な記述で読みやすい本になっています。
 アメリカにおいてゴシック小説がどう発展を遂げていったのかが丁寧に書かれています。イギリスやドイツのゴシック小説が一方的に輸入されていた段階から始まり、「アメリカ小説の父」と呼ばれるチャールズ・ブロックデン・ブラウンによるアメリカ・ゴシック小説の実作の出現、そしてその影響、作家単位では、ブラウンの他、ワシントン・アーヴィング、エドガー・アラン・ポー、ナサニエル・ホーソーンにスポットが当てられています。なかでもチャールズ・ブロックデン・ブラウンの評価が非常に高いようです。
 アメリカの作家だけでなく、彼らに影響を与えたイギリスやドイツの作家についても詳しく記述されているのが特徴です。ブラウン、ポオ、アーヴィング、ホーソーンの作品に具体的に影響を与えている作家や作品について細かく見ていくのは、非常に実証的ですね。ポオの章を例にとると、「メッツェンガーシュタイン」には、ウォルポール『オトラント城』、「約束ごと」にはアン・ラドクリフ『ユードルフォの謎』、「陥穽と振子」にはマチューリン『放浪者メルモス』が影響を与えているとしています。
 また、ポオにはウォルター・スコット経由でホフマンの影響があるのではないかとか、ポオはフケー『ウンディーネ』を高く評価していたとか、そのあたりの影響関係についても詳しく書かれています。
 ウォルポールやラドクリフ以外の「群小」のゴシック作家・作品についても多く触れられますが、それらに対してもあらすじやテーマを含め丁寧に解説がされるので、非常に参考になります。
 アメリカ・ゴシック小説についての本ではありますが、本家のイギリス・ゴシック小説についても一通り解説がされていますので、ゴシック小説一般の入門書としても読めると思います。また、日本語文献では情報の少ない、チャールズ・ブロックデン・ブラウンについてまとまった情報が得られるという意味でも貴重な本です。



アメリカン・ゴシックの水脈
八木敏雄『アメリカン・ゴシックの水脈』(研究社出版)

 アメリカにおけるゴシック小説についての研究書です。開拓時代の回想録や記録などの「アメリカ文学」以前から説き起こし、C・B・ブラウン、ワシントン・アーヴィング、フェニモア・クーパー、ポー、ホーソーン、メルヴィルらの作品におけるゴシックについて論じています。
 ユニークなのは、開拓時代の回想録や記録などを取り上げ、小説ではない文章に「ゴシック」の要素を見て取るところです(中には魔女狩りに関する記録も)。さらにアメリカの建国事情(移民したピューリタンが中心となって作った国であることなど)からして、ゴシックを受け入れやすい余地があったこと、アメリカ文学史では、イギリスのそれとは異なり、文学史上の主要な位置をゴシック的な要素を持つ作品が占めていることなど、読んでいてなるほど、という指摘が多いです。
 ポーやホーソーンのゴシック的な面を見ていく章も興味深いですが、個人的に一番興味を持って読んだのが、C・B・ブラウンを中心に展開される「アメリカン・ゴシックの誕生」の章。C・B・ブラウンはイギリスのゴシック小説の強い影響からアメリカン・ゴシック小説を生み出し、それがアメリカ文学の母体となっていく、というのは興味深いですね。 具体的なタイトルで言うと、イギリス・ゴシック小説の中でも「変り種」とされる、ウィリアム・ゴドウィン「ケイレブ・ウィリアムズ」が、C・B・ブラウンの『ウィーランド』につながるというのです。
 全体に論理的に構築された感のある本で、アメリカ・ゴシック作品を考える上で非常に示唆に富む本ではないかと思います。ただ、著者の語り口にかなり癖がある(冷めているというか、ちょっとシニカル?)ので、そこが気になると読みにくいと感じる人もいるかもしれません。



クトゥルー神話大事典
東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)

 タイトル通り、クトゥルー神話に関する事典です。何度も版を重ねていて、本書はその最新版になりますが、かなり面目を一新しています。事典部分は、用語と作家の項目が一緒に並んでいます。非常に整理されていてわかりやすい印象です。
 神話作品に登場する固有名詞やアイテム、神話作品を書いた作家の作品概説や作家自身の経歴や代表作、ダンセイニ、マッケン、ブラックウッドなど、ラヴクラフト自身が影響を受けた作家の紹介などもあります。
 巻末には、ラヴクラフトの生涯を語った「異次元の人」、ラヴクラフトと神話作品の拡がりについて語った「それからのクトゥルー神話」、日本におけるラヴクラフト作品の受容と日本における展開を語った「ラヴクラフトのいる日本文学史」も収められています。
 特に「ラヴクラフトのいる日本文学史」は、ラヴクラフトと夢野久作との比較から始まり、乱歩によるラヴクラフト紹介、本格的な翻訳書の登場、日本における神話作品の展開など、要領よくまとめられており、非常に参考になります。
 ラヴクラフト及びクトゥルー神話に関しては、この『クトゥルー神話大事典』と『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』(森瀬繚 三才ブックス)の2冊があれば、大抵のことは足りるんじゃないでしょうか。



路地裏の迷宮踏査 (キイ・ライブラリー)
杉江松恋『路地裏の迷宮踏査』(東京創元社キイ・ライブラリー)

 海外ミステリについてのエッセイ集です。作家自身の人生や、有名人同士の意外なつながり、著者自身による大胆な推測など、取り上げられている話題が本当に幅広く、楽しんで読める本になっています。
 全体に古典的な作家・作品がメインになっている感じでしょうか。ただ古典的な作家が話題に取り上げられている場合でも、思いもかけなかった解釈や意見が出されていて、なるほど!と思わせる章が多いです。
 個人的に面白く読んだのは、パット・マガー作品の特徴について語った「パット・マガーの『アメリカの悲劇』」、ウッドハウス作品が後続作家に与えた影響について語る「ウッドハウスという鋳型」、ストリブリングの社会問題的な作品について語る「ストリブリング、交わらない線」などでしょうか。
 いわゆるプロパーのミステリ作家だけでなく、ジェイムズ・ヒルトン、O・ヘンリー、ヴィッキイ・バウムなど、隣接領域の作家についての章もあり、このあたりも非常に面白く読みました。
 取り上げている作家・作品について、ある程度の知識が前提とされている章もあり、そういう意味ではあまり初心者向けではないのかもしれません。ただ、この作家はこんな風にも読めるのかとか、芋づる式に読書の関心を広げてくれるような本で、ミステリファンに限らずお勧めしたいところです。



ミステリの辺境を歩く
長谷部史親『ミステリの辺境を歩く』(アーツアンドクラフツ)

 邦訳された海外小説の中から、ミステリ要素の強いもの、ミステリの萌芽を含むものなど、36作を紹介したブックガイドです。
 ジェーン・オースティン、ヴォルテール、バルザックなど、ミステリジャンルが生まれる前の古典文学作品の中でミステリの萌芽が見られる作品、コンラッド、フォークナー、エリザベス・ボウエンなどの現代作家におけるミステリ要素が強い作品、はてはウーグロン、シャギニャンといった日本では知名度の低い作家の作品など、従来ミステリとは認識されていなかった作品をとりあげています。その作品自身の紹介のほか、作家自身の生涯や別の作品などについても、それぞれ紹介されているのが特徴です。
 個人的に面白く読んだのは、ゴシック・ロマンスとの関係を軸にした「ジェーン・オースティンの『ノーサンガー・アベイ』」、少年探偵の元祖と言える童話作品「E・ネズビットの『宝さがしの子供たち』」、モームの甥が実在の幽霊船事件に材をとったという「ロビン・モームの『十一月の珊瑚礁』」、実際に起こった冤罪事件を擁護するという「ヴォルテールの『寛容論』」、暗号解読が登場するミステリ要素の強い「ジュール・ヴェルヌの『ジャンガダ』」、人間と動物の権利について描かれたSF味の強い「ヴェルコールの『人獣裁判』」の賞などでしょうか。
 有名な作家も、日本では知名度のあまりない作家も、それぞれの紹介が非常に詳細に触れられており、参考になりますね。ただ、有名作家はともかく、そうでない作家の作品に関しては、取り上げられた作品それ一冊しか邦訳紹介されていないことも多く、本の入手に関しては難しいものも多いようです。



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高井信『日本ショートショート出版史 ~星新一と、その時代~』(ネオ・ベム)

 星新一がデビューした1957年から亡くなった1997年までを中心に、日本におけるショートショート関連書籍を編年体で紹介していくという面白い本です。
 日本における唯一のショートショート専門家(?)である高井さんの労作です。ショートショートであればジャンルもSFにこだわらず、多くの分野の本が取り上げられています。非常にマイナーな部類の本が沢山取り上げられているのが特徴で、ブックガイドとしても有用な本といえますね。
 叢書やシリーズについても触れられており、出版史としても面白く読めます。
またこの本の魅力の一つとして膨大な書影が上げられます。あとがきによれば画像の数は1000枚を超えているそうです。怪奇・幻想系の本についても多く取り上げられています。 この本、著者の高井さんによる自費出版(オンデマンド出版)なのですが、ショートショートや海外短篇小説に関心のある人にはとても面白い本だと思います。



フィクションの中の記憶喪失 (世界思想ゼミナール)
小田中章浩『フィクションの中の記憶喪失』(世界思想社)

 タイトル通り、小説や演劇や映画などのフィクションに登場する記憶喪失についてまとめた本です。
 研究書ではなくて、あくまで主眼はフィクションにあり、その題材についての「記憶喪失」について語られています。古典的な小説や映画に始まり、ウィリアム・アイリッシュやラヴクラフト、果ては韓流ドラマにまで言及されます。個々の作品のあらすじがしっかり書かれており、記憶喪失ものブックガイドとしても使えそうです。



キリスト教と死 最後の審判から無名戦士の墓まで (中公新書)
指昭博『キリスト教と死 最後の審判から無名戦士の墓まで』(中公新書)

 キリスト教における死生観について、非常にわかりやすくまとめられている本です。キリスト教における天国と地獄、煉獄など、概念的なものだけでなく、疾病・災害・処刑・葬儀・モニュメントなど、死にかかわる様々なトピックが語られていて参考になります。 著者はイギリス史が専門ということで、イギリスの事例が中心になりますが、他の国との比較、現代日本との比較などもされています。
どの章も興味深いのですが、やはり白眉は一章「キリスト教の来世観」と二章「幽霊の居場所」でしょうか。
 「キリスト教の来世観」では、キリスト教において来世がどう考えられていたかを、天国と地獄、煉獄、往生術などを中心に解説されています。面白いのはカトリックとプロテスタントでも来世についての考え方がかなり異なること。
 「最後の審判」が行われるまで死者の魂はどこにいるのか? ということについても、宗派によって考え方がかなり違うようです。
 「幽霊の居場所」では、キリスト教において幽霊がどう捉えられていたのかについて語られています。幽霊=悪魔説や、煉獄が否定されたプロテスタントの幻覚説など、幽霊といえども、宗教的に理屈の通った解釈がされているのだなあと、思わされます。
キリスト教において「死」や「神」や「来世」がどう考えられていたのかがコンパクトにまとめられており、欧米の怪奇小説やファンタジー小説などを読む際にも、非常に参考になる本だと思います。論旨も明快で読みやすく、お薦めしたい本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

幻想文学関連の評論・ノンフィクションから
 最近読んだ、幻想文学関連の評論・ノンフィクションからいくつか紹介していきたいと思います。


gennsounobigaku.jpg幻想の美学 (文庫クセジュ 310)
ルイ・ヴァックス 窪田 般彌
白水社 1961-10

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ルイ・ヴァックス『幻想の美学』(窪田般彌訳 文庫クセジュ)

 海外の幻想文学について紹介した本です。原著が1960年、翻訳が1961年と古い本ですが、非常に要領よくまとめられていて、今でも参考になる本だと思います。面白いのは文学の分野だけでなく、幻想的な美術分野についても紹介されているところ。
 ボッシュ、ブリューゲル、アルチンボルド、デジデリオ、ゴヤ、モロー、ルドン、現代に近いところでは、アンソール、ロップス、レオノール・フィニ、ダリ、デルヴォーなどが紹介されています。画像は全くなく、文章だけの本なのが残念ですが。

 さて、幻想文学の章では、各国の代表的な幻想作家と作品が紹介されています。ドイツは、ルートヴィヒ・ティーク、アヒム・フォン・アルニム、ホフマン、シュトルム、カフカ。フランスは、ジャック・カゾット、ドールヴィイ、ノディエ、バルザック、メリメ、モーパッサンなど。
 英米はさすがに多いです。ウォルポール、ラドクリフ、M・G・ルイス、スコット、ポオ、レ・ファニュ、ヘンリー・ジェイムズ、スティーヴンスン、M・R・ジェイムズ、ブラックウッド、ラヴクラフトなど。記述もこの部分が一番詳細ですね。
 その他の国では、ヤン・ポトツキ、ゴーゴリ、アレクセイ・トルストイ、コルタサル、ボルヘスなど。著者がフランス人だけに、フランス作品にも結構な記述が割かれています。

 面白いと思ったのは「M・R・ジェイムズがメリメに近いように、レ・ファニュはモーパッサンに近い。一方の二人は病人で、その不安を告白しているのに対し、他方の二人は芸術家で、冷静に恐ろしい物語を生み出すのだ。」という箇所ですね。
 レ・ファニュとモーパッサン、全然比較したこともない組み合わせの作家なのですが、確かに考えると共通点があるような気もします。これは非英米の人ならではの視点というべきでしょうか。



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エディス・バークヘッド『恐怖小説史』(富山太佳夫ほか訳 牧神社)

 「恐怖小説史」とはいうものの、原著が1921年刊行ということもあり、新しい時代(原著刊行時)の作品にはあまり触れられません。18世紀末~19世紀初頭の作品が中心です。
 ウォルポール『オトラント城』に始まり、アン・ラドクリフ、M・G・ルイス、マチューリン、ベックフォード、ウィリアム・ゴドウィン、ウォルター・スコット、メアリ・シェリーなどが主に論じられていきます。特にラドクリフはかなり詳しく紹介されていますね。M・G・ルイスやマチューリンの未訳作品についても多く触れられているほか、日本ではあまり知名度のない、ネイサン・ドレイク、イートン・スタナード・バレット、レジーナ・マリア・ローシュといった作家の珍しい作品についても言及されており、参考になります。
 本の8割方がイギリスの作品で占められていますが「アメリカの恐怖小説」という章では、C・B・ブラウン、ワシントン・アーヴィング、ホーソーン、ポオらについても触れられています。この章の中心はホーソーンでしょうか。

 全体にかなりよくまとめられている本です。主要作品のあらすじも詳しく、ブックガイドとしても読めます。その作家や作品が誰に影響を受けている…といった影響関係がこまめに書かれているのが参考になります。それだけに、新しい時代の作品にまで筆が及んでいないのが残念ですね。
 レ・ファニュ、ブラックウッド、E・F・ベンスンといった近代怪奇小説の「大物」は、結びで少し触れられるぐらいでしょうか。



433604080X異形のテクスト―英国ロマンティック・ノヴェルの系譜
横山 茂雄
国書刊行会 1998-07-01

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横山茂雄『異形のテクスト 英国ロマンティック・ノヴェルの系譜』(国書刊行会)

 18世紀末から19世紀にかけて書かれたイギリスの「ロマンティック・ノヴェル」について論じた本です。
 主に取り上げられている作品は、ウィリアム・ゴドウィン『サン・レオン』、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、ジェイムズ・ホッグの『義とされた罪人の手記と告白』(『悪の誘惑』)、シャーロッテ・ブロンテ『ヴィレット』です。
 リアリズムを旨とする「ノヴェル」に対する存在として「ロマンティック・ノヴェル」という概念が置かれています。「ゴシック的」な要素がある作品にもかかわらず「ゴシック・ロマンス」という言葉を使わないのは、年代的にも「ゴシック・ロマンス」が終焉した時代の作品も含む概念だからだそうです。
 それぞれの章で一つづつ作品を取り上げ論じています。特に面白いと思ったのは、ゴドウィン『サン・レオン』、シェリー『フランケンシュタイン』、ホッグ『義とされた罪人の手記と告白』の章。『フランケンシュタイン』には『サン・レオン』の影響が強い…というのも初めて知りました。

 イギリスで起きたゴシック小説ブームの直接の火元はアン・ラドクリフであって、ホレス・ウォルポール『オトラント城』ではなかったというのもなるほどという感じでした(もちろんウォルポール作品が嚆矢ではあります)。
 アン・ラドクリフの作品は、最終的に超自然現象が合理的に説明されるという「解明される超自然」を旨としています。本当の「超自然小説」ではないところが、リアリズム信奉が強かった当時のイギリスで彼女の作品がヒットした理由ではないか、というのは目から鱗でした。
 確かに「ゴシック小説」の中には「解明される超自然」型の小説が結構あるのですよね。ただそれらも「恐怖」がメインテーマではあるので、「超自然小説」ではないかもしれないけれど「怪奇小説」ではあります。
 時代はちょっと下りますが、レ・ファニュやウィルキー・コリンズの一部のスリラー作品は「解明される超自然」が洗練されたタイプの作品なのではないかなあ、と考えたりもしました。



4562054727怖い女
沖田瑞穂
原書房 2018-01-29

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沖田瑞穂『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』(原書房)

 「怖い女」「怖い女神」の系譜を語った本です。各国の神話だけでなく、都市伝説、ホラー映画、コミック、小説などを題材に、現代にもそのモチーフが受け継がれているといいます。
 具体的には、神話そのものの他に、『リング』や『呪怨』などのホラー映画、三津田信三、貴志祐介などのホラー小説、美内すずえや山岸凉子などのホラー漫画、「ひきこさん」「テケテケ」といった都市伝説なども取り上げられています。
 各章は「怖い女」のいろいろな特徴や側面を語っていて、それぞれ興味深いのですが、「口裂け女」の系譜を語った第一章「口裂け女」と、神話の「パンドラの箱」、都市伝説の「コトリバコ」、京極夏彦『魍魎の匣』などをめぐって展開される第四章「怖い箱」は特にユニークな試みだと思いました。



4044003491人は「死後の世界」をどう考えてきたか
中村 圭志
KADOKAWA 2018-03-22

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中村圭志『人は「死後の世界」をどう考えてきたか』(KADOKAWA)

 「死後の世界」について、さまざまな宗教や神話からの考え方をまとめた本です。その範囲はギリシャ・ローマ、オリエント、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教など、非常に幅広いです。
 ギリシャの「地獄」には懲罰的な要素がないとか、仏教の「地獄」とキリスト教の「煉獄」の概念は近いとか、はっとするような考え方がいろいろと出てきて参考になります。
 キリスト教の「煉獄」と「地獄」の概念がいまいち理解できなかったのですが、この本でようやく得心がいった感じです。キリスト教の「地獄」は救いの可能性がまったくない世界で、対して「煉獄」はそこでの過ごし方によって救われる可能性がある世界なのですよね。
 仏教の「地獄」は膨大な懲罰の時間を強制される世界ではあるのですが、救済の可能性は残されています。なので、仏教における「地獄」に対応するのは、キリスト教における「地獄」ではなく「煉獄」だ、との意見にはなるほどと思いました。

 死後の世界を紹介した本とか、各国の天国・地獄の概念を紹介した本とか、この手のジャンルの本を何冊か読んでみましたが、この本ほどわかりやすいものはなかったです。単なるカタログ形式のガイドではなくて、それぞれの死後に対する考え方の比較や意味などについても触れられています。
 現代編では、C・S・ルイス、トーベ・ヤンソン、ミヒャエル・エンデ、新海誠の作品に現れる死生観などにも触れられています。ファンタジーや幻想小説好きの人にとっても、参考になる本だと思います。



4309253849とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ
コーディー・キャシディー ポール・ドハティー 梶山あゆみ
河出書房新社 2018-06-07

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コーディー・キャシディー、ポール・ドハティー『とんでもない死に方の科学』(梶山あゆみ訳 河出書房新社)

 いろんな人間の死に方のシチュエーションを「科学的」に検討するという、不謹慎ながらも興味深い本です。
「雷に打たれたら」とか「旅客機の窓が割れたら」とか、あり得そうなシチュエーションはもちろん、「バナナの皮を踏んだら」「無数の蚊に刺されつづけたら」などの冗談のような項目もあります。そうした冗談のような話題でも、科学的に大真面目に検討する姿勢が非常に楽しいです。
 笑える部分だけでなく、非常に参考になる部分もたくさんあります。「粒子加速器に手を突っ込んだら」「本物の人間大砲となって打ち出されたら」などでは、どのように人体に悪影響があり、どういう最期を迎えるのか、詳しく描写されていて、背筋が寒くなってしまいますね。

 一番興味深く読んだのは「乗っているエレベーターのケーブルが切れたら」の項目。どのようにしたら助かる可能性があるのか? という部分がすごく面白いです。75階分落下して生還した人がいるとか。これまた冗談のようなのですが、加速の衝撃をいちばん和らげる姿勢は「仰向け」らしいです。
 一項目あたり、5~6ページでさらっと読めるので、興味のある項目だけ拾い読みしても楽しいです。タイトルだけ見るとちょっと扇情的ですが、ためになる科学エッセイとしてお薦めしたい本です。



4781601200死なないための智恵
上野 正彦
イースト・プレス 2009-03-01

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上野正彦『死なないための智恵』(イースト・プレス)

 『とんでもない死に方の科学』とはアプローチは全く異なるのですが、法医学者、上野正彦さんのこの本も面白いので、ついでに紹介しておきたいと思います。
 こちらは、主として犯罪に巻き込まれたときに死なないためにはどうしたらいいか? というハウツーをまとめた本です。
 犯人に刃物で襲われたときの対応とか、実際に刺されてしまったときにどうしたらいいのか? とか、すごく実用的な知識がつまっています。片刃と両刃で刺されたときの傷口の違いの図解が載っているのは、この本ぐらいじゃないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ある教養人の人生から  紀田順一郎『幻島はるかなり』
4879843318幻島はるかなり
紀田 順一郎
松籟社 2015-02-10

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 荒俣宏とともに、日本に幻想文学を根付かせた功労者である紀田順一郎。近年、著者の自伝的な随筆が何冊か刊行されましたが、その決定版ともいうべき回想記『幻島はるかなり  推理・幻想文学の七十年』(松籟社)が刊行されました。
 著者の名前は幻想文学ファンにはお馴染みですが、幻想文学だけでなく、戦後日本のミステリ黎明期には、ミステリに関する評論や活動も行っています。実際、本書の一部は『ミステリマガジン』に掲載されています。
 サブタイトルの「推理・幻想文学の七十年」からは、ミステリや幻想文学に絞った内容を思い浮かべますが、実際に扱われている内容はもっと広く、著者の半生記ともいうべき内容になっています。
 両親のことや育った環境、読書に興味を持ったきっかけから、なぜ特定のジャンルに惹かれるようになったのかなど、ミステリや幻想文学に関わるようになった理由が説得力を持って書かれています。
 もともと著者の守備範囲は非常に広く、ミステリや幻想文学だけにとどまるものではありません。著者もはじめからミステリや幻想文学にのめりこんだわけではなく、これらのジャンルにたどりつくまでの必然的な流れがあります。その読書遍歴、ジャンル遍歴を、ひとりの人間の人生、時代背景と重ね合わせながら丁寧に語っていくところが、この本の読みどころでしょう。
 ミステリがまだ広く根付く前のファン活動の様子や、ジャンル小説が当時世間にどう見られていたかなど、当時の時代の空気が感じ取れるところも、時代の証言として参考になります。
 著者が個人的に関わった多くの人が登場しますが、多くのページが割かれているのが、大伴昌司と平井呈一です。ことに大伴昌司との交友に関しては、印象深いエピソードも多く、興味深く読み進めることができます。
 幻想文学ジャンルの話に関しては、一章分が割かれていますが、先に出た『幻想と怪奇の時代』(松籟社)と重複する部分が多いのがちょっと残念ですね。この分野に関してもっと知りたい方は『幻想と怪奇の時代』も併読すると、興趣が増すかと思います。
 時代の背景や、一人の人間がどのように考え生きてきたのかが真摯に描かれており、その意味で、教養書の趣さえあります。衒いのない筆致には、現代の若い読者も共感を持てるでしょう。
 ミステリや幻想文学といったジャンルに興味のある人だけでなく、一般の方にも薦められる良書だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

貪欲な読書術  荒俣宏『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』
4847065506喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)
荒俣 宏
ワニブックス 2014-06-09

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 荒俣宏といえば、今や「知の巨人」といってもいい人です。それだけに、読んでいる本の数も半端ではありません。そんな著者の読書術について語った本が刊行されました。それがこれ、『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』(ワニブックスPLUS新書)です。
 荒俣さんの著書は膨大で、「本」についての著書もたくさんあります。ですが意外にも、「読書術」について語った本は、今までほとんどなかったように思います。
 媒体が新書だということもあり、内容は実践的・実用的なものになっています。本を読むことのメリットとデメリット、そして読書そのものの楽しみ方などが、丁寧に語られます。
 ただ、実用的とはいいつつも、教養が身につくなどの具体的な効能は否定しているところがミソです。

 で、ここが一番、読者のみなさまには気にかかるところでしょうが、そんなに毎日読書をして、お前はいったいどんな偉い人間になったのだ、という疑問が残りますね。
 正直に、はっきり申します。聖人にも、悪人にも、また偉い物識りにもなれません。ただ一つ、メリットといえば、人生に退屈せずに済んだことです。


 ずいぶん冷めた意見です。ただ、それでも本の紹介部分になると、熱が入ってくるところは流石です。紹介されている本やエピソードを読んでいくと、実際に本を読みたくなってくるというあたり、やはり凡百のガイドとは一線を画していますね。
 博物学関係の話題など、この人の著書を愛読している方ならおなじみのテーマが出てくるので、そういう面での目新しさはありません。ジャンル小説ファンなら期待する、幻想文学関連の話題もほんの少しだけ、稲垣足穂やダンセイニについて軽く触れられる程度です。
 ですが「ノウハウ本」の形をとりながらも、エンタテインメントとして楽しめてしまうところが、荒俣さんの真骨頂。まるでエッセイ集のように楽しむことも可能です。
 先月から刊行中の大アンソロジー『怪奇文学大山脈』といい、70に近い年齢になりながらも、まだまだ衰えていないようです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

異端の映画ガイド  稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』

4800302838映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~
稲生 平太郎 高橋 洋
洋泉社 2014-03-25

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 稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』(洋泉社)は、英文学者にして作家の稲生平太郎と、映画『リング』『女優霊』の脚本で知られる脚本家、高橋洋の映画に関する対談をまとめた本です。
 映画ガイド本はあまたありますが、本書のような本は初めて読みました。本書のユニークな点は、まず映画が、監督やジャンルではなく、テーマ別に語られていること。そしてそのテーマの切り口が非常に独特なところです。
 テーマの例をいくつか挙げると、「放電」「手術台」「水」「パラノイア感覚」「姉妹」「フィルムの中のフィルム」など。「パラノイア感覚」「姉妹」などはともかく、「放電」や「手術台」でテーマを立ててしまうところに驚かされます。
 そして各テーマで取り上げられるのは、娯楽映画、ジャンル映画に限りません。また、欧米の作品だけでなく、邦画、インド映画など、国籍も多数。
 著者二人とも、膨大な数の映画を鑑賞していることがわかるのですが、やはり稲生平太郎の該博な知識と独特の見識が目立ちます。ラヴクラフトの某作品が映画の影響で発想されたのではないか、などハッとするような指摘もあります。
 ジャンル映画を専門に語った本ではないので、ジャンル映画のガイドとして読むのとはちょっと違うのですが、とにかく取り上げられる映画作品が多種多様で、観てみたい作品が増えるのは確実です。
 互いに怪奇幻想に造詣が深い著者だけに、ホラー作品に言及される部分も多く、その意味でホラーファンにも楽しんで読めると思います。
怪奇小説のできるまで  都筑道夫『都筑道夫のミステリイ指南』
都筑道夫都筑道夫のミステリイ指南 (講談社文庫)
都筑 道夫
講談社 1990-07

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4939138607黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版
都筑 道夫 小森 収
フリースタイル 2012-04-17

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 都筑道夫は、エンターテインメント小説の創作作法に関して、意識的だった作家です。作家自身の資質ともいえるのでしょうが、エッセイや評論でときおり言及される創作作法が、非常に論理的、かつ説得力があるものなのです。
 例えば、『私の推理小説作法』『黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版』フリースタイル収録)というエッセイがあります。この手の創作技法に関する本だと、得てして精神論的な面が強調されることが多いのに対して、都筑道夫のエッセイでは、具体的かつ詳細にミステリ小説をどう構成して書いていくのかが、書かれています。エッセイ自体が立派なエンターテインメントといってもいいかと思います。
 都筑道夫はミステリだけでなく、いろいろなジャンルの作品を書いた作家ですが、その活動のなかでも大きな部分を占めているのが、怪奇小説です。エッセイにおいても、たびたび言及されますし、上記の『私の推理小説作法』でも、一章が『幽霊探偵について』という、ゴースト・ハンターものの考察にあてられています。
 そんな都筑道夫の怪奇小説の創作方法を具体的に語っているのが、『都筑道夫のミステリイ指南』(講談社文庫)です。
 本書自体は、エンターテインメント小説全般に関する創作の本です。ただ、この本、怪奇小説の創作方法に関する内容が、非常に大きな割合を占めています。二章分が怪奇小説にあてられていて、「怪奇小説を読む」「怪奇小説を書く」がそれに当たります。
 カルチャースクールの創作講座がもとになっているらしく、「怪奇小説を書く」では、生徒の作品の添削なども出てきますが、面白いのは『怪談作法』という短編が、できあがるまでの経緯を語った部分でしょう。実際に目にした情景から、どう着想し、どんな構成にするのか、どんな描写を入れるのか。このあたりの文章は、とても面白く読むことができます。
 しかし本書でいちばん注目すべきは、「怪奇小説を読む」の章でしょう。『風見鶏』という、都筑作品では名作に挙げられる怪奇小説作品がありますが、主にこの作品について語られています。
 なんと、この作品、つごう3回書き直されていて、その全てのバージョンを読むことができます。メインとなるプロットは同じですが、長さもまちまち、設定も微妙に変わっていたりと、読み比べることで、作者の狙いがわかってくるという仕組み。
 作品の推敲過程や異同について、研究者などが考察するというのは、よくあると思うのですが、これを作者自身がやった例は、あまりないのではないでしょうか。ミステリだけでなく、怪奇小説についても、ここまで理詰めで考えているのか、ということがわかって、驚かされます。
 それでいながら、彼自身の怪奇小説の理想は、理知的な作風に反するような、岡本綺堂や内田百閒だったりというのですから、それもまた面白いところですね。
『SFが読みたい!』2010年版
415209107XSFが読みたい! 2010年版―発表!ベストSF2009国内篇・海外篇
SFマガジン編集部
早川書房

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 毎年恒例の『SFが読みたい! 2010年版』(早川書房)が発売され、さっそく目を通してみました。正直、年度ベストにはあまり興味がないのですが、去年読んで衝撃を受けた『紫色のクオリア』(うえお久光)が日本編の10位に入っていたのは嬉しかったです。
 海外編では、3位の『洋梨型の男』(ジョージ・R・R・マーティン)、4位の『TAP』(グレッグ・イーガン)、8位の『時の娘』(中村融編)、13位の『金剛石のレンズ』(フィッツ=ジェイムズ・オブライエン)あたりが、既読のもの。
 毎回そうなのですが、普段とくに要注目しているわけではないジャンル、とくにライトノベルなどで、気になる作品が出て来たりすることがあるので、このガイドは重宝するんですよね。今回気になったのは、樺山三英の『ハムレット・シンドローム』(小学館ガガガ文庫)という作品。久生十蘭の『ハムレット』を翻案した作品らしいです。
 あとは、スルーしていたんですが、アラン・ムーアの『フロム・ヘル』は、やっぱり評価の高い方が多いようで、気になってきました。
 今年度版の特別企画は、『ゼロ年代SFベスト』。アンケートによるベスト、座談会、ベスト30ガイド、で構成されています。海外ものに関しては、ゼロ年代に翻訳された作品という解釈のため、レムの『ソラリス』、べスターやウルフ、ディッシュの作品も入っていたりします。
 そして一番楽しみにしている、各出版社の2010年刊行予定のコーナー。まず目を引かれたのが、河出書房の《ストレンジ・フィクション》という新シリーズです。《奇想コレクション》の長編版といった趣のシリーズのようで、第一段は、アブラム・デイヴィッドスン『エステル・ハージイ博士の事件簿』になるとか。
 《奇想コレクション》の方の新刊は、テリー・ビッスン短編集の第2弾です。うーん、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』は、刊行予定が出てから何年も経っていますが、いっこうに出ませんね。
 国書刊行会からは、ビオイ=カサーレスの短編集『パウリーナの思い出に』、ジャック・ヴァンスの傑作集、『アルフレッド・ジャリ全集』あたり。あと気になるのは、扶桑社のリチャード・マシスン『縮みゆく人間』新訳版と日本オリジナル短編集ぐらいでしょうか。
 今年度版は、特別企画がちょっと物足りない感じでした。結局ベストのベストみたいな感じになっちゃってますし。テーマ別のガイドなんかをつけてくれると嬉しいんですけどね。
アンソロジーの作り方  北村薫『自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室』
北村薫のアンソロジー教室
自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書 345)
新潮社

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 北村薫といえば、小説作品の他に、アンソロジーの編者としても、いい仕事をしています。そんな彼がアンソロジー作りの楽しみ方について語った本が、『自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室』(新潮新書)です。
 高校生時代に作ったアンソロジー・リストや、小学生時代に書いたノートの話など、若き日の話から始まって、編集に関わった創元社の《日本探偵小説全集》のエピソード、実際に作ることになったアンソロジーの話など、話題が盛りだくさんで楽しめます。
 本職がミステリ作家だけに、ミステリの話ばかりかと思いきや、俳句や詩の話題なども盛り込んでいたりと、話題は多岐に渡ります。興味のない人にとっては、退屈になりがちな俳句や詩の話題でも、話の進め方やトピックの出し方が上手いので、興味深く読むことができます。
 例えば、名句として記憶していたある句を、ネットで検索してみると、凡句だったというエピソード。記憶違いかと思い、調べていくと、その句が字余りだったために、一字抜けたままネット上に間違って記載されている例が多かったというのです。しかもその一字があるかないかで、その句の意味がまるで変わってしまう…。このあたりの話の進め方は、「謎解き」であり、ミステリ読者には嬉しい趣向です。
 ミステリファンにとって興味深いトピックは、ルヴェルとビーストンの読み比べ、《日本探偵小説全集》編集のいきさつ、《謎のギャラリー》編纂秘話、あたりでしょうか。
 ルヴェルは、近年短編集が刊行されたので、ご存じの方も多いでしょうが、ビーストンはなかば忘れられていますね。ドンデン返しを得意とした短篇作家で、昭和初期にはルヴェルと並んで、当時の探偵作家に強い影響を与えた作家です。あまりに通俗的な設定や、人物描写が薄いなど、かなり古くなってしまっている部分もありますが、ストーリー展開などは、今読んでも面白い作家だと思います。
 《日本探偵小説全集》編集のいきさつの部分では、監修の中島河太郎と、どの作家を入れるか相談したという問題について書かれていますが、ここが非常に面白いです。

 例えば、蒼井雄です。戦前の本格ミステリについて考えた時、蒼井雄の『船富家の惨劇』は落とせない。長編が入るなら、巻名に『蒼井雄』と入る方が自然ではないかと思いますよね。実際、原案ではそうなっていた。確か『浜尾四郎・蒼井雄』だった。
 ところが先生は、《専門作家で名前が巻名にならない人がいるのに、アマチュアの名が出たりすると反発がある》とおっしゃるんです。《全集で、どういう扱いをされるかは作家にとって、とても大きな問題なんだ》と。


 作家の扱いに注意しろという、現実的なアドバイスなのですが、現実に編集をするときには、単純に机上のプランを実現できるわけではない、ということがわかって興味深いですね。

 もちろん実際にアンソロジーを作る際に参考になるアドバイスもところどころに出てきます。

 超傑作ばかりだと、読者が疲れてしまう。駄作ではないんだけれど、《これはいいな》程度のものが入っていないと傑作がきらめかない。

 作品というのは、固定されたものとしてそこに《ある》わけではない。読みによって、その姿を変えるわけです。そこに読書の味がある。

 読み終えて、自分でもアンソロジーを作ってみたくなる…。そんな気にさせる一冊です。
ホラー映画の味わい方  綾辻行人・牧野修『ナゴム、ホラーライフ』
4840128200ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ (幽ブックス)
綾辻行人、牧野修
メディアファクトリー 2009-06-17

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 ホラー映画好きの二人が、好きなホラー映画について語った『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ』(メディアファクトリー)は、ホラー映画ファンにとっては、たまらなく楽しい本です。
 この本は、作家の綾辻行人と牧野修が、交互にホラー映画について語っていくという、リレー・エッセイで、理論社のサイト上で連載されていたものです。軽めのおしゃべりが続くライトエッセイかと思いきや、ホラー映画の本質をえぐる考察にまで踏み込んでしまうという、意外にも奥行きのあるエッセイになっています。
 何より著者二人の、ホラー映画への愛があふれているところに好感を抱きます。例えば、かねてよりダリオ・アルジェントへの愛着を公言している綾辻行人、B級、Z級ホラーには興味がないのかと思っていましたが、ちゃんとこうした作品にも目を通して、等しくジャンルを愛している様子が窺えます。
 「生物パニックホラー」「Jホラー」「続編もの」「フェイク・ドキュメンタリー」など、いろいろなテーマが俎上に上りますが、読んでいて、興味を引かれたトピックがいくつかあります。まずは「ゾンビ」についての考察。以前はのろのろしていた「ゾンビ」が、いつのころからか「足の速い」タイプが出てきたことについて、語っている部分です。

 ゾンビの怖さ・嫌さは、ゆっくり歩いてきてゆっくりと襲いかかるところにこそある。連中はあんなに大勢いるけれど、頑張れば案外すんなり逃げられそう、やっつけられそう-というひと筋の希望が、それが叶わなかったときの絶望と恐怖を際立たせるのではないか。これが「速いゾンビ」になると、はなから「無理!」と思ってしまう。

 これはなるほど!と思いました。
 あとは、ホラー好きの二人でも、観終わって非常にいやな気分になる作品があって、その感じを本書では、「どよーん」と表現しているのですが、その感じについて考察している部分は、ホラー映画というものについて考えさせられるところが大です。
 主にこの話題は、トビー・フーパー『悪魔のいけにえ』を中心に語られるのですが、牧野修の次のような意見は参考になりますね。

 それはやはり〈どよーんツボ〉は「人によって引き起こされる不快感」を中心としたものに圧されるからで、単なるスプラッタ、たとえば13日の金曜日シリーズのようなものにはあまり圧されることはないはずだ。たとえそれがどれほど不快さを煽ろうとした描写であろうと、だ。
 それはジェイソンが怪物であり人ではないからだ。つまりジェイソンによる死は、事故死とあまりかわりないものなのだ。


 同じアンハッピーエンドを基調とするホラー映画にあっても、観終わった後に、陰惨な気分になるものとそうでないものがありますが、その理由の一端について、初めて納得の行く意見を聞いたように思います。
 ホラーファンにとっては、エッセイ内で言及される、有名無名のタイトルを眺めているだけで楽しめてしまうのですが、著者二人の、重度のホラーファンであるがゆえの深い洞察にも読むべきところが多々あります。
 タイトルと内容からしても、ホラー映画ファンでない人が手に取る本ではないと思いますが、人間の恐怖感情について考察した本として、なかなか面白い本ではないでしょうか。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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