ある教養人の人生から  紀田順一郎『幻島はるかなり』
4879843318幻島はるかなり
紀田 順一郎
松籟社 2015-02-10

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 荒俣宏とともに、日本に幻想文学を根付かせた功労者である紀田順一郎。近年、著者の自伝的な随筆が何冊か刊行されましたが、その決定版ともいうべき回想記『幻島はるかなり  推理・幻想文学の七十年』(松籟社)が刊行されました。
 著者の名前は幻想文学ファンにはお馴染みですが、幻想文学だけでなく、戦後日本のミステリ黎明期には、ミステリに関する評論や活動も行っています。実際、本書の一部は『ミステリマガジン』に掲載されています。
 サブタイトルの「推理・幻想文学の七十年」からは、ミステリや幻想文学に絞った内容を思い浮かべますが、実際に扱われている内容はもっと広く、著者の半生記ともいうべき内容になっています。
 両親のことや育った環境、読書に興味を持ったきっかけから、なぜ特定のジャンルに惹かれるようになったのかなど、ミステリや幻想文学に関わるようになった理由が説得力を持って書かれています。
 もともと著者の守備範囲は非常に広く、ミステリや幻想文学だけにとどまるものではありません。著者もはじめからミステリや幻想文学にのめりこんだわけではなく、これらのジャンルにたどりつくまでの必然的な流れがあります。その読書遍歴、ジャンル遍歴を、ひとりの人間の人生、時代背景と重ね合わせながら丁寧に語っていくところが、この本の読みどころでしょう。
 ミステリがまだ広く根付く前のファン活動の様子や、ジャンル小説が当時世間にどう見られていたかなど、当時の時代の空気が感じ取れるところも、時代の証言として参考になります。
 著者が個人的に関わった多くの人が登場しますが、多くのページが割かれているのが、大伴昌司と平井呈一です。ことに大伴昌司との交友に関しては、印象深いエピソードも多く、興味深く読み進めることができます。
 幻想文学ジャンルの話に関しては、一章分が割かれていますが、先に出た『幻想と怪奇の時代』(松籟社)と重複する部分が多いのがちょっと残念ですね。この分野に関してもっと知りたい方は『幻想と怪奇の時代』も併読すると、興趣が増すかと思います。
 時代の背景や、一人の人間がどのように考え生きてきたのかが真摯に描かれており、その意味で、教養書の趣さえあります。衒いのない筆致には、現代の若い読者も共感を持てるでしょう。
 ミステリや幻想文学といったジャンルに興味のある人だけでなく、一般の方にも薦められる良書だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

貪欲な読書術  荒俣宏『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』
4847065506喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~ (ワニブックスPLUS新書)
荒俣 宏
ワニブックス 2014-06-09

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 荒俣宏といえば、今や「知の巨人」といってもいい人です。それだけに、読んでいる本の数も半端ではありません。そんな著者の読書術について語った本が刊行されました。それがこれ、『喰らう読書術 ~一番おもしろい本の読み方~』(ワニブックスPLUS新書)です。
 荒俣さんの著書は膨大で、「本」についての著書もたくさんあります。ですが意外にも、「読書術」について語った本は、今までほとんどなかったように思います。
 媒体が新書だということもあり、内容は実践的・実用的なものになっています。本を読むことのメリットとデメリット、そして読書そのものの楽しみ方などが、丁寧に語られます。
 ただ、実用的とはいいつつも、教養が身につくなどの具体的な効能は否定しているところがミソです。

 で、ここが一番、読者のみなさまには気にかかるところでしょうが、そんなに毎日読書をして、お前はいったいどんな偉い人間になったのだ、という疑問が残りますね。
 正直に、はっきり申します。聖人にも、悪人にも、また偉い物識りにもなれません。ただ一つ、メリットといえば、人生に退屈せずに済んだことです。


 ずいぶん冷めた意見です。ただ、それでも本の紹介部分になると、熱が入ってくるところは流石です。紹介されている本やエピソードを読んでいくと、実際に本を読みたくなってくるというあたり、やはり凡百のガイドとは一線を画していますね。
 博物学関係の話題など、この人の著書を愛読している方ならおなじみのテーマが出てくるので、そういう面での目新しさはありません。ジャンル小説ファンなら期待する、幻想文学関連の話題もほんの少しだけ、稲垣足穂やダンセイニについて軽く触れられる程度です。
 ですが「ノウハウ本」の形をとりながらも、エンタテインメントとして楽しめてしまうところが、荒俣さんの真骨頂。まるでエッセイ集のように楽しむことも可能です。
 先月から刊行中の大アンソロジー『怪奇文学大山脈』といい、70に近い年齢になりながらも、まだまだ衰えていないようです。

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異端の映画ガイド  稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』

4800302838映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~
稲生 平太郎 高橋 洋
洋泉社 2014-03-25

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 稲生平太郎+高橋洋『映画の生体解剖 ~恐怖と恍惚のシネマガイド~』(洋泉社)は、英文学者にして作家の稲生平太郎と、映画『リング』『女優霊』の脚本で知られる脚本家、高橋洋の映画に関する対談をまとめた本です。
 映画ガイド本はあまたありますが、本書のような本は初めて読みました。本書のユニークな点は、まず映画が、監督やジャンルではなく、テーマ別に語られていること。そしてそのテーマの切り口が非常に独特なところです。
 テーマの例をいくつか挙げると、「放電」「手術台」「水」「パラノイア感覚」「姉妹」「フィルムの中のフィルム」など。「パラノイア感覚」「姉妹」などはともかく、「放電」や「手術台」でテーマを立ててしまうところに驚かされます。
 そして各テーマで取り上げられるのは、娯楽映画、ジャンル映画に限りません。また、欧米の作品だけでなく、邦画、インド映画など、国籍も多数。
 著者二人とも、膨大な数の映画を鑑賞していることがわかるのですが、やはり稲生平太郎の該博な知識と独特の見識が目立ちます。ラヴクラフトの某作品が映画の影響で発想されたのではないか、などハッとするような指摘もあります。
 ジャンル映画を専門に語った本ではないので、ジャンル映画のガイドとして読むのとはちょっと違うのですが、とにかく取り上げられる映画作品が多種多様で、観てみたい作品が増えるのは確実です。
 互いに怪奇幻想に造詣が深い著者だけに、ホラー作品に言及される部分も多く、その意味でホラーファンにも楽しんで読めると思います。
怪奇小説のできるまで  都筑道夫『都筑道夫のミステリイ指南』
都筑道夫都筑道夫のミステリイ指南 (講談社文庫)
都筑 道夫
講談社 1990-07

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4939138607黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版
都筑 道夫 小森 収
フリースタイル 2012-04-17

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 都筑道夫は、エンターテインメント小説の創作作法に関して、意識的だった作家です。作家自身の資質ともいえるのでしょうが、エッセイや評論でときおり言及される創作作法が、非常に論理的、かつ説得力があるものなのです。
 例えば、『私の推理小説作法』『黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版』フリースタイル収録)というエッセイがあります。この手の創作技法に関する本だと、得てして精神論的な面が強調されることが多いのに対して、都筑道夫のエッセイでは、具体的かつ詳細にミステリ小説をどう構成して書いていくのかが、書かれています。エッセイ自体が立派なエンターテインメントといってもいいかと思います。
 都筑道夫はミステリだけでなく、いろいろなジャンルの作品を書いた作家ですが、その活動のなかでも大きな部分を占めているのが、怪奇小説です。エッセイにおいても、たびたび言及されますし、上記の『私の推理小説作法』でも、一章が『幽霊探偵について』という、ゴースト・ハンターものの考察にあてられています。
 そんな都筑道夫の怪奇小説の創作方法を具体的に語っているのが、『都筑道夫のミステリイ指南』(講談社文庫)です。
 本書自体は、エンターテインメント小説全般に関する創作の本です。ただ、この本、怪奇小説の創作方法に関する内容が、非常に大きな割合を占めています。二章分が怪奇小説にあてられていて、「怪奇小説を読む」「怪奇小説を書く」がそれに当たります。
 カルチャースクールの創作講座がもとになっているらしく、「怪奇小説を書く」では、生徒の作品の添削なども出てきますが、面白いのは『怪談作法』という短編が、できあがるまでの経緯を語った部分でしょう。実際に目にした情景から、どう着想し、どんな構成にするのか、どんな描写を入れるのか。このあたりの文章は、とても面白く読むことができます。
 しかし本書でいちばん注目すべきは、「怪奇小説を読む」の章でしょう。『風見鶏』という、都筑作品では名作に挙げられる怪奇小説作品がありますが、主にこの作品について語られています。
 なんと、この作品、つごう3回書き直されていて、その全てのバージョンを読むことができます。メインとなるプロットは同じですが、長さもまちまち、設定も微妙に変わっていたりと、読み比べることで、作者の狙いがわかってくるという仕組み。
 作品の推敲過程や異同について、研究者などが考察するというのは、よくあると思うのですが、これを作者自身がやった例は、あまりないのではないでしょうか。ミステリだけでなく、怪奇小説についても、ここまで理詰めで考えているのか、ということがわかって、驚かされます。
 それでいながら、彼自身の怪奇小説の理想は、理知的な作風に反するような、岡本綺堂や内田百閒だったりというのですから、それもまた面白いところですね。
『SFが読みたい!』2010年版
415209107XSFが読みたい! 2010年版―発表!ベストSF2009国内篇・海外篇
SFマガジン編集部
早川書房

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 毎年恒例の『SFが読みたい! 2010年版』(早川書房)が発売され、さっそく目を通してみました。正直、年度ベストにはあまり興味がないのですが、去年読んで衝撃を受けた『紫色のクオリア』(うえお久光)が日本編の10位に入っていたのは嬉しかったです。
 海外編では、3位の『洋梨型の男』(ジョージ・R・R・マーティン)、4位の『TAP』(グレッグ・イーガン)、8位の『時の娘』(中村融編)、13位の『金剛石のレンズ』(フィッツ=ジェイムズ・オブライエン)あたりが、既読のもの。
 毎回そうなのですが、普段とくに要注目しているわけではないジャンル、とくにライトノベルなどで、気になる作品が出て来たりすることがあるので、このガイドは重宝するんですよね。今回気になったのは、樺山三英の『ハムレット・シンドローム』(小学館ガガガ文庫)という作品。久生十蘭の『ハムレット』を翻案した作品らしいです。
 あとは、スルーしていたんですが、アラン・ムーアの『フロム・ヘル』は、やっぱり評価の高い方が多いようで、気になってきました。
 今年度版の特別企画は、『ゼロ年代SFベスト』。アンケートによるベスト、座談会、ベスト30ガイド、で構成されています。海外ものに関しては、ゼロ年代に翻訳された作品という解釈のため、レムの『ソラリス』、べスターやウルフ、ディッシュの作品も入っていたりします。
 そして一番楽しみにしている、各出版社の2010年刊行予定のコーナー。まず目を引かれたのが、河出書房の《ストレンジ・フィクション》という新シリーズです。《奇想コレクション》の長編版といった趣のシリーズのようで、第一段は、アブラム・デイヴィッドスン『エステル・ハージイ博士の事件簿』になるとか。
 《奇想コレクション》の方の新刊は、テリー・ビッスン短編集の第2弾です。うーん、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』は、刊行予定が出てから何年も経っていますが、いっこうに出ませんね。
 国書刊行会からは、ビオイ=カサーレスの短編集『パウリーナの思い出に』、ジャック・ヴァンスの傑作集、『アルフレッド・ジャリ全集』あたり。あと気になるのは、扶桑社のリチャード・マシスン『縮みゆく人間』新訳版と日本オリジナル短編集ぐらいでしょうか。
 今年度版は、特別企画がちょっと物足りない感じでした。結局ベストのベストみたいな感じになっちゃってますし。テーマ別のガイドなんかをつけてくれると嬉しいんですけどね。
アンソロジーの作り方  北村薫『自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室』
北村薫のアンソロジー教室
自分だけの一冊―北村薫のアンソロジー教室 (新潮新書 345)
新潮社

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 北村薫といえば、小説作品の他に、アンソロジーの編者としても、いい仕事をしています。そんな彼がアンソロジー作りの楽しみ方について語った本が、『自分だけの一冊 北村薫のアンソロジー教室』(新潮新書)です。
 高校生時代に作ったアンソロジー・リストや、小学生時代に書いたノートの話など、若き日の話から始まって、編集に関わった創元社の《日本探偵小説全集》のエピソード、実際に作ることになったアンソロジーの話など、話題が盛りだくさんで楽しめます。
 本職がミステリ作家だけに、ミステリの話ばかりかと思いきや、俳句や詩の話題なども盛り込んでいたりと、話題は多岐に渡ります。興味のない人にとっては、退屈になりがちな俳句や詩の話題でも、話の進め方やトピックの出し方が上手いので、興味深く読むことができます。
 例えば、名句として記憶していたある句を、ネットで検索してみると、凡句だったというエピソード。記憶違いかと思い、調べていくと、その句が字余りだったために、一字抜けたままネット上に間違って記載されている例が多かったというのです。しかもその一字があるかないかで、その句の意味がまるで変わってしまう…。このあたりの話の進め方は、「謎解き」であり、ミステリ読者には嬉しい趣向です。
 ミステリファンにとって興味深いトピックは、ルヴェルとビーストンの読み比べ、《日本探偵小説全集》編集のいきさつ、《謎のギャラリー》編纂秘話、あたりでしょうか。
 ルヴェルは、近年短編集が刊行されたので、ご存じの方も多いでしょうが、ビーストンはなかば忘れられていますね。ドンデン返しを得意とした短篇作家で、昭和初期にはルヴェルと並んで、当時の探偵作家に強い影響を与えた作家です。あまりに通俗的な設定や、人物描写が薄いなど、かなり古くなってしまっている部分もありますが、ストーリー展開などは、今読んでも面白い作家だと思います。
 《日本探偵小説全集》編集のいきさつの部分では、監修の中島河太郎と、どの作家を入れるか相談したという問題について書かれていますが、ここが非常に面白いです。

 例えば、蒼井雄です。戦前の本格ミステリについて考えた時、蒼井雄の『船富家の惨劇』は落とせない。長編が入るなら、巻名に『蒼井雄』と入る方が自然ではないかと思いますよね。実際、原案ではそうなっていた。確か『浜尾四郎・蒼井雄』だった。
 ところが先生は、《専門作家で名前が巻名にならない人がいるのに、アマチュアの名が出たりすると反発がある》とおっしゃるんです。《全集で、どういう扱いをされるかは作家にとって、とても大きな問題なんだ》と。


 作家の扱いに注意しろという、現実的なアドバイスなのですが、現実に編集をするときには、単純に机上のプランを実現できるわけではない、ということがわかって興味深いですね。

 もちろん実際にアンソロジーを作る際に参考になるアドバイスもところどころに出てきます。

 超傑作ばかりだと、読者が疲れてしまう。駄作ではないんだけれど、《これはいいな》程度のものが入っていないと傑作がきらめかない。

 作品というのは、固定されたものとしてそこに《ある》わけではない。読みによって、その姿を変えるわけです。そこに読書の味がある。

 読み終えて、自分でもアンソロジーを作ってみたくなる…。そんな気にさせる一冊です。
ホラー映画の味わい方  綾辻行人・牧野修『ナゴム、ホラーライフ』
4840128200ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ (幽ブックス)
綾辻行人、牧野修
メディアファクトリー 2009-06-17

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 ホラー映画好きの二人が、好きなホラー映画について語った『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ』(メディアファクトリー)は、ホラー映画ファンにとっては、たまらなく楽しい本です。
 この本は、作家の綾辻行人と牧野修が、交互にホラー映画について語っていくという、リレー・エッセイで、理論社のサイト上で連載されていたものです。軽めのおしゃべりが続くライトエッセイかと思いきや、ホラー映画の本質をえぐる考察にまで踏み込んでしまうという、意外にも奥行きのあるエッセイになっています。
 何より著者二人の、ホラー映画への愛があふれているところに好感を抱きます。例えば、かねてよりダリオ・アルジェントへの愛着を公言している綾辻行人、B級、Z級ホラーには興味がないのかと思っていましたが、ちゃんとこうした作品にも目を通して、等しくジャンルを愛している様子が窺えます。
 「生物パニックホラー」「Jホラー」「続編もの」「フェイク・ドキュメンタリー」など、いろいろなテーマが俎上に上りますが、読んでいて、興味を引かれたトピックがいくつかあります。まずは「ゾンビ」についての考察。以前はのろのろしていた「ゾンビ」が、いつのころからか「足の速い」タイプが出てきたことについて、語っている部分です。

 ゾンビの怖さ・嫌さは、ゆっくり歩いてきてゆっくりと襲いかかるところにこそある。連中はあんなに大勢いるけれど、頑張れば案外すんなり逃げられそう、やっつけられそう-というひと筋の希望が、それが叶わなかったときの絶望と恐怖を際立たせるのではないか。これが「速いゾンビ」になると、はなから「無理!」と思ってしまう。

 これはなるほど!と思いました。
 あとは、ホラー好きの二人でも、観終わって非常にいやな気分になる作品があって、その感じを本書では、「どよーん」と表現しているのですが、その感じについて考察している部分は、ホラー映画というものについて考えさせられるところが大です。
 主にこの話題は、トビー・フーパー『悪魔のいけにえ』を中心に語られるのですが、牧野修の次のような意見は参考になりますね。

 それはやはり〈どよーんツボ〉は「人によって引き起こされる不快感」を中心としたものに圧されるからで、単なるスプラッタ、たとえば13日の金曜日シリーズのようなものにはあまり圧されることはないはずだ。たとえそれがどれほど不快さを煽ろうとした描写であろうと、だ。
 それはジェイソンが怪物であり人ではないからだ。つまりジェイソンによる死は、事故死とあまりかわりないものなのだ。


 同じアンハッピーエンドを基調とするホラー映画にあっても、観終わった後に、陰惨な気分になるものとそうでないものがありますが、その理由の一端について、初めて納得の行く意見を聞いたように思います。
 ホラーファンにとっては、エッセイ内で言及される、有名無名のタイトルを眺めているだけで楽しめてしまうのですが、著者二人の、重度のホラーファンであるがゆえの深い洞察にも読むべきところが多々あります。
 タイトルと内容からしても、ホラー映画ファンでない人が手に取る本ではないと思いますが、人間の恐怖感情について考察した本として、なかなか面白い本ではないでしょうか。
SFのふるさと  山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』正・続
4896918320トンデモ本?違う、SFだ!
山本 弘
洋泉社 2004-07

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4862480098トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS
山本 弘
洋泉社 2006-03-01

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 数あるSF関連ガイドの中でも、これほど楽しく読める本は、なかなかないでしょう。山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』と続編である『トンデモ本?違う、SFだ! RETURNS』(ともに洋泉社)は、かってSFが持っていた原初的な面白さ、「センス・オブ・ワンダー」にあふれた作品を紹介しようというコンセプトのガイドです。
 ここで取り上げられるのは、正統派のSFというよりも、読者をあっと驚かせてくれるアイディアに溢れた作品たち。結果、長編よりも短編、メジャーよりもマイナーな作品が多数を占めています。著者の山本弘は、このあたりの事情を次のように語っています。

 私見だが、SF作家の偉大さは「バカ度」で決まると思っている。世間の目を気にしてか、あるいは自己満足か、地味で飛躍のないブンガク的作品しか書かない作家は、普通の作家としてならともかく、SF作家としての適性には欠けている。異星人の侵略、パラレルワールド、タイムトラベル、日本沈没……「そんなバカなことがあってたまるか!」と一笑に付されるような荒唐無稽な設定を、バカにすることなく、信念を持って、真剣に書き上げるのが、本物のSF作家なのだ。
 こう言い換えてもいい。
 「SFとは筋のとおったバカ話である」


 一般的にも名の知られたフレドリック・ブラウンやシオドア・スタージョンはともかく、チャールズ・L・ハーネス、ダニエル・F・ガロイ、トム・ゴドウィン、フィリップ・レイサムあたりになると、あまり馴染みのない人がいるかもしれません。しかし、これらのマイナー作家のマイナー作品にこそ、力の入った紹介がなされています。
 とにかく著者の「面白い作品をぜひ読んでもらいたい」という熱意が伝わってくるような文章で、実際に作品を読んでみたくなってきます。
 基本的には、特定作家の作品を章ごとに紹介するスタイルをとっていますが、もちろんその中で、同じ作家の別の作品や関連作品についても言及されていて、よくできたガイドになっています。あとは「インターミッション」として、テーマ別に書かれた長めのエッセイが入っていますが、これがまたどれも面白い!
 『マレイ・ラインスターの魅力』『タイムトラベルSFオンパレード』『海外SF、名タイトル総まくり』『SF版ノックスの十戒を考えよう』『パラノイアSFの系譜』『あの名作の元ネタはこれだ!』など、興味深いテーマが並びます。
 とくに、タイムトラベルの各種類ごとに作品を分類した『タイムトラベルSFオンパレード』と、本当はこの世界は現実ではない…というテーマを並べた『パラノイアSFの系譜』の充実度は半端ではありません。
 紹介されている主だった作品は、1940年~50年代の海外SFが中心となってはいますが、現代の作品やマンガ、映画作品にも筆が割かれていて、とにかく「面白くてしょうがない」作品を集めたという感じの、楽しいおもちゃ箱のような本です。
 正続、二冊のガイドを読み終えたら、読みたい本がたくさん増えているはずです。実際、僕も、ライトノベルだと思って手を出していなかった高畑京一郎『タイム・リープ』や谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』を読む気になったのは、この本のおかげです。
 SFを読んでみようかなと思っているSF初心者の方、そしてSFからは離れてしまった往年の読者の方にもお勧めしたいSFガイドです。
怪談のススメ  東雅夫『怪談文芸ハンドブック』
4840127514怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)
東雅夫
メディアファクトリー 2009-03-25

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 このたび出版された、東雅夫『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー 幽BOOKS)は、今までありそうでなかった「怪談」の入門書です。「怪奇小説」や「ホラー」ではなく、「怪談」というところがポイントですね。

 まず「幻想文学」と総称される、はなはだ広大な文芸ジャンルがあり、そのサブジャンルとして「ファンタジー」「SF」「伝奇小説」などと並んで「ホラー」として括られる一分野がある。さらにその「ホラー」の中のサブジャンルとして「怪談」がある…という構造です。

 つまり「ホラー」よりも狭い概念として「怪談」をとらえているわけです。その言葉通り、本書には、我々がイメージする現代の恐怖小説、いわゆる「モダンホラー」などは登場しません。本書でふれられるのは、欧米ならブラックウッドやマッケン、日本で言えば芥川龍之介や岡本綺堂らの時代まで。言ってみれば「クラシック」な怪談を中心に取り扱っているといっていいでしょう。
 さて内容の方ですが、まず第一部として「怪談をめぐる七つのQ&A」が置かれています。怪談の定義やその魅力、実話怪談などについて、初心者にもわかりやすく、まとめられていて参考になります。懇切な解説もさることながら、ところどころで、著者のこのジャンルに対する愛情がひしひしと感じられます。例えば、次のくだりを見るとそれがよくわかると思います。

 とはいえ、だからといって肩身の狭い思いをする必要はありません。
 ラヴクラフト先生が力説するように、怖いもの見たさに促されるまま、怪談とかホラーの世界に魅力を感ずる読者は「感受性に富む繊細な人間」であり「重要な人びと」なのですから!


 そして第二部は、世界の怪談の歴史を国別に語った歴史編になっています。ギリシャから中国の古典についてふれた第一章。欧米についてふれた第二章。そして日本の作品についてふれた第三章。
 非常に幅広い地域にわたって、古代から近代まで要領よくまとめられています。欧米のみ、もしくは日本のみなど、個々の歴史についてまとめた本は、既にありますが、ここまで広く世界中の「怪談」についてまとめられている本は初めてではないでしょうか。
 具体的に言及される作品についてだけでなく、同テーマの作品やそれに触発されたと思しい現代の作品についてふれられている点も、非常に好感が持てます。例えば『古事記』の部分では、黄泉比良坂伝承をテーマとしたものとして、小松左京、坂東眞砂子、今邑彩、倉橋由美子らの作品についても言及されています。
 ガイドブックとしては、コンパクトにまとめられた良書といえます。ただ、紹介する国や地域を幅広くとっているため、個々の分野については、少々物足りない感はあります。しかし入門書としての性格を考えると、そこまで求めるのは、欲張り過ぎというべきでしょう。
 この本で大まかな「怪談」の歴史と魅力を知ったら、興味を持った分野について、また他のガイドブックや具体的な作品について読み進む、というのも楽しいでしょう。その点では、参考文献リストなどをつけてもらえたら、もっといい入門書になったと思います。
 せっかくなので、個々の分野について、参考になるブックガイドを挙げておきたいと思います。

 中国の怪奇小説に関しては、竹田晃『中国の幽霊』(東京大学出版会)が間違いなくオススメです。
 日本のものでは、須永朝彦『日本幻想文学全景』(新書館)、『日本幻想文学史』(平凡社ライブラリー)、東雅夫・石堂藍編著『日本幻想作家名鑑』(幻想文学出版局)あたりでしょうか。
 ゴシック・ロマンスに関しては、『ゴシック幻想』(紀田順一郎ほか 書苑新社)。
 英米のゴースト・ストーリーに絞るなら、南條竹則『恐怖の黄金時代』(集英社新書)。
 欧米のホラー小説全般に関する通史なら、風間賢二『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)がいちばんでしょう。
 各国の幻想文学をテーマ別にまとめた『幻想文学1500ブックガイド』(「幻想文学」編集部編 国書刊行会)は、読みたいテーマで作品を探せるのがとても便利です。
 他にもいろいろ類書はありますが、主だったガイドを紹介してみました。


プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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