 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。
今回は幻想文学・ホラーについての本を紹介します。 尾之上浩二編『ホラー・ガイドブック』(角川ホラー文庫)は、小説だけでなくテレビや映画など、ホラー全般に関する通史やエッセイを多く収録し、初心者にうってつけの本です。角川映画をやたらと褒めたりしていて、出版元礼賛が露骨に鼻につく部分を除けば、なかなかよくできたガイドです。 同じく角川ホラー文庫から、風間賢二『ホラー小説大全』。ホラー小説の通史を始め〈ゴシック小説〉〈モダンホラー〉などのジャンルの説明、ドラキュラや狼男などについてのエッセイなど、これ一冊でホラー小説の全体像をつかめるという、非常に有益な一冊。怪奇小説の古典がしっかりと押さえられているのに好感が持てます。どれか一冊といったら、これをオススメしておきましょう。 荒俣宏『ホラー小説講義』(角川書店)もまた面白い一冊です。通史とするにはちょっとずれがありますが、著者独自の視線でホラーを考察しています。日本の怪談に触れたパートもあります。 同著者の『空想文学千一夜』(作品社)は、ホラー・ファンタジー・幻想文学に関する文章を集めた決定版的な本。レ・ファニュやマチューリンなどのゴシック小説から、ハワード、メリットなどのヒロイック・ファンタジー、ラヴクラフトとウィアード・テイルズ派、ダンセイニとケルティック・ファンタジー、キングほかのモダンホラーなど圧倒的なバラエティを誇り、資料としても第一級の著書です。 「幻想文学」編集部編『幻想文学1500ブックガイド』(国書刊行会)は、幻想文学の主要作品を簡単なあらすじにまとめた本。とにかく紹介されている作品の数が多いのが特徴。国別・テーマ別に紹介されていて、興味のあるテーマを探すには非常に便利です。 大瀧啓裕『魔法の本箱』(青土社)は、モダンホラーに関するエッセイ集。かなりマニアックです。蘊蓄も素晴らしく、たまに脱線する著者の日常も楽しめます。 フランツ・ロッテンシュタイナー『ファンタジー【幻想文学館】』(創林社)は、ガイド本なのにオールカラーという珍しい本です。とにかく毎ページに配置された、ホラー映画のスチール写真、書影や挿絵などビジュアル部分が充実しています。ポーランド版M・R・ジェイムズの作品の挿絵など、かなり珍しい画像が見られます。 沼野充義『夢に見られて ロシア・ポーランドの幻想文学』は、著者の専門分野であるロシア・ポーランドの幻想小説についての珍しいガイド。スタニスワフ・レム、ブルガーコフ、オレーシャ、アレクサンドル・グリーンなどの作家論の他に、ロシアのゴシック・ロマンスやソビエトSFについての通史もあります。競合本がないこともあり、実に貴重な一冊。 ゴシック小説に関しては小池滋他編『城と眩暈』(国書刊行会)と紀田順一郎ほか『ゴシック幻想』(書苑新社)の二冊が決定版。『ゴシック幻想』の方は作品のあらすじも丁寧に紹介されていて、割合楽しめるのですが、『城と眩暈』の方はかなりマニアックかつ研究者向けに書かれているので、ちょっと初心者には歯が立たないかも。 スティーヴン・キング『死の舞踏』(バジリコ)は、実に分厚い評論集。ホラー小説の章もあるのですが、キングが影響を受けた作家ばかりなので、ちょっと見方が偏っている感じもします。マシスンやフィニィなどの異色作家への言及もあり。小説よりもラジオドラマ、テレビ、映画に関する章の方が、分量も多く生彩があります。 江戸川乱歩『火星の運河』(角川ホラー文庫)は、乱歩のホラー関連の随筆を集めたもの。定番の『怪談入門』を始め、見えないものの恐ろしさを語る『透明の恐怖』、〈人造人間テーマ〉を扱った『フランケン奇談』、モーリス・ルヴェルを礼賛した『少年ルヴェル』など、今読んでも面白い随筆が目白押しです。 そして、このジャンルの決定版事典として、荒俣宏『世界幻想作家事典』(国書刊行会)があります。膨大な分量をほぼ一人で書き上げてしまったという、まさに驚異的な事典。狭義のホラーだけでなく、ファンタジー、文学など、幻想的な要素のある作家・作品が網羅されています。著者独自の見解によって書かれているので、それぞれの作家の紹介にかなり価値判断が入っているところがミソ。そういう意味で文学事典としての客観性には欠けるところもあります。わずか数行ですまされている作家もあり、資料性という点でも物足りなさが残るのですが、読む事典としては最高級のものでしょう。 似たようなタイトルの、ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(国書刊行会)というものもあります。タイトルに「幻想文学」とはありますが、狭義のホラー・怪奇小説に特化した事典です。なので、トールキンやブルトンやら狭義のホラーから外れるものは収録されていません。その代わりホラーに関する情報量は凄まじいの一言。著者が外国人のため、未訳の作品についてもかなりの情報が得られます。マイナーな怪奇作家でも一人一人にかなりのページが割かれています。恐怖映画・恐怖絵画はともかく、恐怖音楽などというよくわからないジャンルが入っているのを除けば、怪奇小説ファンならぜひ手元に置いておきたい一冊です。 主に1990年代に出版されたホラー作品の書評を集めた東雅夫『ホラー小説時評』(双葉社)は、基本的にエンタテインメント中心ですが、国内物、海外もの問わずにセレクションされています。狭義のホラー小説紹介では、まず読むべき本。 日本作家に関しては『別冊幻想文学 日本幻想作家名鑑』(幻想文学出版局)が一番でしょう。作家別にそれぞれの幻想的な要素を含む作品を詳説している本です。プロパー作家だけでなく、漱石、鴎外やらの文豪や純文学作家の幻想作品にも数多く言及していて参考になります。 ちなみにもう廃刊になってしまいましたが、季刊で出ていた雑誌『幻想文学』は、どの号も非常にマニアックで濃い特集をしていたので、古本屋で見かけたら購入することをオススメしておきます。「英国怪談」「ケルトファンタジー」「夢文学」「吸血鬼文学」「建築幻想」「アンソロジー」など珍しい特集のほか、国別の幻想文学特集など、どれも類書の少ないもので、持っておいて損はありません。 次回は、その他のジャンル編です。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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