物語の作り方の楽しみ方  エンタテインメントとしての創作ガイド
 作家の頭の中はどうなっているの? どうやってアイディアを考えているの? 本好き、物語好きの人なら、一度は考える疑問でしょう。そうした要望に答えてか、世の中には、小説の書き方の本、指南書というものが多く存在します。
 僕は、この手のジャンルの本を見つけると、思わず手にとってしまいます。時には、作品を読んだことがない作家の本も読んでしまうぐらいです。やはり小説好きにとって、作家の頭の中、創作法というのは、非常に興味を惹かれるテーマなのでしょう。
 今回は、このジャンルの中で、エンタテインメントとして面白く読んだ本について、いくつか紹介していきたいと思います。
 

448807068X[最新版]ミステリを書く! 10のステップ (創元ライブラリ)
野崎 六助
東京創元社 2011-10-21

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野崎六助『ミステリを書く! 10のステップ』(創元ライブラリ)
 実践的な小説の書き方の本として、第一に挙げたい本です。
 ステップごとに、具体例(主に自作)を挙げて、小説の書き方を解説しています。理論的でわかりやすいのですが、紹介されている著者の作品があまり読みたくならないあたり、理詰め過ぎるというか、頭でっかちの感がありますね。



4041102529小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌
角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-08-01

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大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術』(角川書店)
 実際に生徒に書いてもらった小説を題材に、どこが駄目なのかなど、具体的に添削していくという講義スタイルの本。作品を書く上での技術だけでなく、作家として生きていくための指針や世渡りについてなど、過不足なく書かれた良書だと思います。



4309014984何がなんでも作家になりたい!
鈴木 輝一郎
河出書房新社 2002-09

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鈴木輝一郎『何がなんでも作家になりたい!』(河出書房新社)
 創作法ではなく、作家として生きていくための実務面に軸足を置いて書かれたユニークな本です。職業としての作家がいかに厳しいかがはっきりと書いてあり、これを読んで作家をあきらめた人もいるのでは? と思わせます。未読ですが、続編もあるようです。



4087205487小説家という職業 (集英社新書)
森 博嗣
集英社 2010-06-17

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森博嗣『小説家という職業』(集英社新書)
 職業としての作家を、著者なりの捉え方で論じた本、といっていいのでしょうか。作家を「ビジネス」としてとらえているという点で、「ビジネス書」的な側面の強い本です。斬新ではありますが、独特の考え方が多く、本好きの人には受け入れにくいかもしれません。



4334766943努力しないで作家になる方法 (光文社文庫)
鯨 統一郎
光文社 2014-02-13

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鯨統一郎『努力しないで作家になる方法』(光文社文庫)
 著者が作家になるまでを、読み物風に描いた自伝的作品です。状況は厳しいにもかかわらず、主人公(著者)が楽観的なのに驚きます。良くも悪くもフィクション的な美化が強い感じがしますね。



4828413987小説家になる方法
清水 義範
ビジネス社 2007-11-07

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パスティーシュと透明人間 (新潮文庫)
パスティーシュと透明人間 (新潮文庫)清水 義範

新潮社 1995-09
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清水義範『小説家になる方法』(ビジネス社)
 著者が小説家になるまでを描いた回想録的な作品です。著者はパスティーシュ小説の名手だけに、そうした小説技術的な内容を期待してしまいますが、そうした技術に関する部分はほぼ皆無です。
 かといって、かなり真面目に書かれているのもあって、小説としても微妙な感じになってしまっています。むしろ創作的な内容では、『パスティーシュと透明人間』(新潮文庫)あたりが、面白く参考にもなります。



4022643005物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン (朝日文庫)
大塚 英志
朝日新聞社 2003-04

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4048674153ストーリーメーカー 創作のための物語論 (アスキー新書 84)
大塚 英志
アスキー・メディアワークス 2008-10-09

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大塚英志『物語の体操』(朝日文庫)
大塚英志『キャラクター小説の作り方』(角川文庫)
大塚英志『物語の命題 6つのテーマでつくるストーリー講座』 (アスキー新書)
大塚英志『ストーリーメーカー 創作のための物語論』 (アスキー新書)
大塚英志『キャラクター小説の作り方』(星海社新書)ほか
 大塚英志の創作に関する本は、小説の書き方の技術をシステマチックに解説する、といった要素が強いです。何冊かタイトルを挙げましたが、このジャンルに関する著書が多くあります。
 どれもなるほどと思わせる内容なのですが、この方法で書かれた作品が面白くなるかはちょっと疑問に思ってしまうところがあります。



4094026266ミステリを書く! (小学館文庫)
綾辻 行人 法月 綸太郎 山口 雅也 大沢 在昌 笠井 潔 柴田 よしき 馳 星周 井上 夢人 恩田 陸 京極 夏彦 千街 晶之
小学館 2002-02

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4094028366ホラーを書く! (小学館文庫)
朝松 健 瀬名 秀明 森 真沙子 井上 雅彦 菊地 秀行 篠田 節子 皆川 博子 飯田 譲治 小野 不由美 小池 真理子 東 雅夫
小学館 2002-06

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『ミステリを書く!』 (小学館文庫)
『ホラーを書く!』 (小学館文庫)
 タイトルは書き方の本のようですが、創作法ではなく、作家個人に対するインタビュー集です。インタビュー自体は、掘り下げが深く、面白く読むことができます。創作に関する話も出ますが、一般的なものではなく、作家個人のものなので、それぞれの作家に対する興味がないと、読むのが難しいかも。



4344019156ミステリーの書き方
日本推理作家協会
幻冬舎 2010-12

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日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』(幻冬舎)
 ミステリジャンルの作家43人が、それぞれ創作法について語った本です。1冊のコンセプトがあって、項目別にそれぞれの作家が担当しているというような作り方ではなく、それぞれの作家が自分の創作法を好き勝手に語るというスタイルです。ひとつひとつがエッセイとしても楽しめるようになっています。ストーリーテラーと目される作家の章は、もっと読みたいと思わせるところが流石ですね。



4150304092スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)
野田 昌宏
早川書房 1994-10

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4150309329スペース・オペラの読み方 (ハヤカワ文庫JA)
野田 昌宏
早川書房 2008-08

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野田昌宏『スペース・オペラの書き方』(ハヤカワ文庫JA)
 SF愛があふれており、読んでいてとても楽しい本。創作に役立つかは別として、エッセイとしても読めます。姉妹編の『スペース・オペラの読み方』(ハヤカワ文庫JA)も併せて読みたいですね。



4022611561ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)
ディーン・R. クーンツ Dean R. Koontz
朝日新聞社 1996-07

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ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』(大出健訳 朝日文庫)
 ベストセラー作家、クーンツの文字通り「ベストセラー」を書くための指南書です。基本的に大衆受けする娯楽作品を書くのが主眼の本なので、読んでいて受け入れにくい人もいるかも。
 小説作品と同じく、ユーモアを交えながら軽く読んでいけるあたりは、やはりプロのエンタテインメント作家ですね。



4562035994ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門
ローレンス ブロック Lawrence Block
原書房 2003-01

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ローレンス・ブロック『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』(田口俊樹・加賀山卓朗訳 原書房)
 クーンツと同じく「ベストセラー」の名を冠しているものの、はるかに面白く読める本です。小説技法の紹介の仕方がものすごく洗練されています。他作家の作品を俎上に上げて紹介する際も、その作品が読みたくなるという語り口の上手さ。ウィリアム・トレヴァーを絶賛するなど、ブロックの読み巧者としての一面も窺えます。エンタテインメントとして読める創作本として、いちばんにオススメしたい本です。



4152034173ミステリの書き方
H.R.F.キーティング H.R.F. Keating 長野 きよみ
早川書房 1989-11

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H・R・F・キーティング『ミステリの書き方』(長野きよみ訳 早川書房)
 ミステリのジャンルについて、広く俯瞰した本です。範囲が広いだけに、それぞれの項目の掘り下げが浅いのが玉に瑕ですね。基本図書として読むべき本でしょう。



4062638576ミステリーの書き方 (講談社文庫)
アメリカ探偵作家クラブ 池上 冬樹
講談社 1998-07-15

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ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』(大出健訳 講談社文庫)
 名だたるアメリカのミステリ作家たちが、それぞれの創作法について語った本。上述の日本版『ミステリーの書き方』と同じような方針でまとめられています(というか日本版の方が、この本を参考にしているのではないでしょうか。)
 どの作家の章も、それだけでまるで短篇を読んでいるかのような面白さ。プロ作家の面目躍如ここにあり、といった感じの本です。フレドリック・ブラウン、スタンリイ・エリン、ヘレン・マクロイなど、ミステリ短篇の名手の章は圧倒されます。



4061885537SFの書き方 (How to write books)
アメリカSF作家協会 小隅 黎
講談社 1984-08

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アメリカSF作家協会編『SFの書き方』(小隅黎訳 講談社)
 上の『ミステリーの書き方』のSF版といった感じの本です。面白く読めますが、ミステリ版ほどではないでしょうか。ケイト・ウィルヘルム、ポール・アンダースン、ガードナー・ドゾア、ジョージ・R・R・マーティンなどの名前が見えます。



4488015093SF作法覚え書―あなたもSF作家になれる (Key library)
ベン・ボーヴァ 酒井 昭伸
東京創元社 1985-12

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ベン・ボーヴァ『SF作法覚え書―あなたもSF作家になれる』(酒井昭伸訳 東京創元社)
 かなり実用的に書かれた本ですが、SFへの興味がないと、ちょっとつらいかもしれません。

 日本のものでは、日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』、海外のものでは、ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』、ローレンス・ブロック『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』がオススメでしょうか。この3冊はまだ在庫があるようです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ4 その他のジャンル編-
ファンタジーの歴史――空想世界 ファンタジーの冒険 妖精のアイルランド―「取り替え子」(チェンジリング)の文学史 乱視読者の帰還 そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド ショートショートの世界 アメリカン・ヒーロー伝説

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 前回から、かなり間が空いてしまいましたが、今回はその他のジャンル編です。
 まずはファンタジーから。
 リン・カーター『ファンタジーの歴史』(東京創元社)は、タイトル通りファンタジーの通史ですが、古典ファンタジーにかなり力点が置かれてます。ウィリアム・モリス、ダンセイニ、E・R・エディスン、トールキンなど。とくにヒロイック・ファンタジーに関しては詳しくふれられているので、その種のファンには楽しめます。
 高杉一郎編『英米児童文学』(中教出版)は、英米の児童向け作品の概説書。作品論だけでなく、作家やその文学史的な意義など、けっこう詳しい情報が載っていて参考になります。アーサー・ランサム、イーディス・ネズビット、エリナー・ファージョンなどプロパー作家だけでなく、古典的な作家のファンタジー的な作品をも射程内に入れているのが特徴。マーク・トウェインやH・G・ウェルズ、キプリング、サッカレーなどにも言及されています。
 私市保彦『ネモ船長と青ひげ』(晶文社)は、日本唯一のヴェルヌ研究家(?)である著者が、ヴェルヌとフランス児童文学について語ったエッセイ集。いくつか収録されたヴェルヌ論も、それぞれホフマンや『ロビンソン・クルーソー』と比較するなど、目の付け所が面白いです。
 小谷真理『ファンタジーの冒険』(ちくま新書)は、ファンタジーの通史。ルイス・キャロル、ジョージ・マクドナルドなどの古典ファンタジーから、現代ファンタジーまで、バランスのとれた構成。個々の作品についてはあまり詳しくないのですが、要領よくまとめてあるので、ファンタジーの流れをつかむには最適の一冊です。
 下楠昌哉『妖精のアイルランド』(平凡社新書)は、斬新な切り口で書かれた非常に面白い本です。ブラム・ストーカー、オスカー・ワイルド、ラフカディオ・ハーン、イェイツなどいわゆるケルティック・ファンタジーの作家を取り上げた章もあるのですが、なんといっても第一章『ブリジット・クリアリー焼殺事件』が圧巻。人間が妖精と入れ替わるという「取り替え子」の伝説を信じた男による妻殺しの事件を通して、現実のアイルランドと妖精伝承との関わり合いを追うという、面白い論考になっています。

 文学よりのガイドとしては、
 風間賢二『ダンスする文学』(自由国民社)が、ジャンルにとらわれず一般の人が読んでも面白い小説をとりあげています。ポストモダン小説、ラテンアメリカ文学、ホラーなど、バラエティに富んだ構成。
 同じく風間賢二『ジャンル・フィクション・ワールド』(新書館)は、ミステリ、SF、ホラーなど、いわゆる大衆小説の各ジャンルの面白さを、初心者からすれっからしの読者まで、誰が読んでも面白い読み物に仕立てた啓蒙的ガイド。図版もたくさんあり、オススメの一冊です。
 若島正『乱視読者の新冒険』『乱視読者の帰還』(みすず書房)は、文学の目利きというべき著者の評論集。専門であるナボコフへの言及が多いのですが、それ以外でも、なかなか穿った見方を見せてくれます。とくに『…帰還』に収められた『失われた小説を求めて』は、主に未訳の奇想天外な小説がたくさん紹介されていて、興味をそそります。
 同じく若島の『乱視読者の英米短篇講義』(研究社)は、マイナー(?)な海外短篇を取り上げて、読み込むという書物。アンブローズ・ビアス、シャーリイ・ジャクスン、A・E・コッパード、ミュリエル・スパーク、フラン・オブライエンなど実にマニアックな作家がとりあげられているのが嬉しいところ。
 澁澤龍彦『悪魔のいる文学史』は、副題〈神秘家と狂詩人〉が表すように、文学史のアウトサイダーというべき風変わりな人物がとりあげられています。中には作家というよりは、詩も書いた殺人者といった方がふさわしい、ラスネールのような人物も入っています。サド、マゾッホ、ブルトンなどの有名な作家に混じって、グザヴィエ・フォルヌレ、シャルル・クロスなどのマイナー作家にも、かなり詳細な記述が割かれているのが面白いところでしょう。
 豊崎由美『そんなに読んでどうするの?』(アスペクト)は、副題〈縦横無尽のブックガイド〉とあるように、ジャンルや国にこだわらない、多彩な作品を集めたガイドブック。何より著者の特徴的な文体が面白い一冊です。

 冒険小説に関しては、
 珍しい評論集、北上次郎『冒険小説論』(早川書房)があります。デュマの剣豪小説からアメリカのスパイ小説まで、実に幅広い国・時代・作品にわたっています。英米の冒険小説に見られる騎士道の変化について語った部分など、なかなか示唆に富む指摘もたくさんあります。類書があまりない貴重な本。
 小鷹信光『アメリカン・ヒーロー伝説』(ちくま文庫)は、アメリカが生み出したヒーローの変遷をたどるという趣向の本です。扱っている時代は、19世紀から20世紀の前半まで。著者がミステリ畑の翻訳家だけに、ポーやジャック・フットレル、M・D・ポーストなどミステリ作家が多く取り上げられますが、マーク・トウェインやO・ヘンリーなどの大衆作家も取り上げられています。他にもアメリカ版〈切り裂きジャック〉と称される「リジー・ボーデン事件」を扱った章などもあり、バラエティに富んでいます。ミステリファンには、マイナーなミステリ作家を一望した『アメリカのホームズたち』などが興味深いでしょう。
 
 ノンジャンル方面では、
 石上三登志『地球のための紳士録』(奇想天外社)は、辞典形式の面白い本。前の項目で紹介された人物と関わりのある人物が次にとりあげられていくという面白い試みです。今で言うハイパーリンク形式とでもいうのでしょうか。取り上げられるのは、映画監督や俳優など、作家に限らないのですが、実にユニークな本です。
 北村薫『謎のギャラリー -名作館 本館-』(新潮文庫)は、同名のアンソロジーシリーズ〈謎のギャラリー〉の解説編というべきエッセイ集です。対話形式でいくつかのテーマについて、作品を紹介する形式をとっています。どちらかと言えばミステリ寄りの作品が多いのですが、日本の純文学や中国の古典など、ジャンルを飛び越えたものも散見されます。「リドルストーリー」と「こわい話」を扱った章などが面白いですね。
 高井信『ショート・ショートの世界』(集英社新書)は、タイトル通りショート・ショートについてのガイド本。ショート・ショートの定義から、歴史的な流れ、代表的な作家・作品など、まさにショート・ショートに関する全てが網羅されています。ショート・ショートといえば思い浮かべる星新一から、城昌幸、生島治郎、都筑道夫、ビアス、サキ、モーリス・ルヴェル、フレドリック・ブラウン、ヘンリー・スレッサーと多くの作家を紹介しており、読書ガイドとしても非常に有用です。

〈ブック・ガイドの愉しみ1 ミステリ編〉は、こちら
〈ブック・ガイドの愉しみ2 SF編〉は、こちら
〈ブック・ガイドの愉しみ3 幻想文学・ホラー編〉は、こちら です。

テーマ:**本の紹介** - ジャンル:本・雑誌

ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ3 幻想文学・ホラー編-
ホラー・ガイドブック ホラー小説大全 空想文学千一夜―いつか魔法のとけるまで 幻想文学1500ブックガイド ゴシック幻想 幻想文学大事典 ホラー小説時評1990‐2001

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 今回は幻想文学・ホラーについての本を紹介します。
 尾之上浩二編『ホラー・ガイドブック』(角川ホラー文庫)は、小説だけでなくテレビや映画など、ホラー全般に関する通史やエッセイを多く収録し、初心者にうってつけの本です。角川映画をやたらと褒めたりしていて、出版元礼賛が露骨に鼻につく部分を除けば、なかなかよくできたガイドです。
 同じく角川ホラー文庫から、風間賢二『ホラー小説大全』。ホラー小説の通史を始め〈ゴシック小説〉〈モダンホラー〉などのジャンルの説明、ドラキュラや狼男などについてのエッセイなど、これ一冊でホラー小説の全体像をつかめるという、非常に有益な一冊。怪奇小説の古典がしっかりと押さえられているのに好感が持てます。どれか一冊といったら、これをオススメしておきましょう。
 荒俣宏『ホラー小説講義』(角川書店)もまた面白い一冊です。通史とするにはちょっとずれがありますが、著者独自の視線でホラーを考察しています。日本の怪談に触れたパートもあります。
 同著者の『空想文学千一夜』(作品社)は、ホラー・ファンタジー・幻想文学に関する文章を集めた決定版的な本。レ・ファニュやマチューリンなどのゴシック小説から、ハワード、メリットなどのヒロイック・ファンタジー、ラヴクラフトとウィアード・テイルズ派、ダンセイニとケルティック・ファンタジー、キングほかのモダンホラーなど圧倒的なバラエティを誇り、資料としても第一級の著書です。
 「幻想文学」編集部編『幻想文学1500ブックガイド』(国書刊行会)は、幻想文学の主要作品を簡単なあらすじにまとめた本。とにかく紹介されている作品の数が多いのが特徴。国別・テーマ別に紹介されていて、興味のあるテーマを探すには非常に便利です。
 大瀧啓裕『魔法の本箱』(青土社)は、モダンホラーに関するエッセイ集。かなりマニアックです。蘊蓄も素晴らしく、たまに脱線する著者の日常も楽しめます。
 フランツ・ロッテンシュタイナー『ファンタジー【幻想文学館】』(創林社)は、ガイド本なのにオールカラーという珍しい本です。とにかく毎ページに配置された、ホラー映画のスチール写真、書影や挿絵などビジュアル部分が充実しています。ポーランド版M・R・ジェイムズの作品の挿絵など、かなり珍しい画像が見られます。
 沼野充義『夢に見られて ロシア・ポーランドの幻想文学』は、著者の専門分野であるロシア・ポーランドの幻想小説についての珍しいガイド。スタニスワフ・レム、ブルガーコフ、オレーシャ、アレクサンドル・グリーンなどの作家論の他に、ロシアのゴシック・ロマンスやソビエトSFについての通史もあります。競合本がないこともあり、実に貴重な一冊。
 ゴシック小説に関しては小池滋他編『城と眩暈』(国書刊行会)と紀田順一郎ほか『ゴシック幻想』(書苑新社)の二冊が決定版。『ゴシック幻想』の方は作品のあらすじも丁寧に紹介されていて、割合楽しめるのですが、『城と眩暈』の方はかなりマニアックかつ研究者向けに書かれているので、ちょっと初心者には歯が立たないかも。
 スティーヴン・キング『死の舞踏』(バジリコ)は、実に分厚い評論集。ホラー小説の章もあるのですが、キングが影響を受けた作家ばかりなので、ちょっと見方が偏っている感じもします。マシスンやフィニィなどの異色作家への言及もあり。小説よりもラジオドラマ、テレビ、映画に関する章の方が、分量も多く生彩があります。
 江戸川乱歩『火星の運河』(角川ホラー文庫)は、乱歩のホラー関連の随筆を集めたもの。定番の『怪談入門』を始め、見えないものの恐ろしさを語る『透明の恐怖』、〈人造人間テーマ〉を扱った『フランケン奇談』、モーリス・ルヴェルを礼賛した『少年ルヴェル』など、今読んでも面白い随筆が目白押しです。
 そして、このジャンルの決定版事典として、荒俣宏『世界幻想作家事典』(国書刊行会)があります。膨大な分量をほぼ一人で書き上げてしまったという、まさに驚異的な事典。狭義のホラーだけでなく、ファンタジー、文学など、幻想的な要素のある作家・作品が網羅されています。著者独自の見解によって書かれているので、それぞれの作家の紹介にかなり価値判断が入っているところがミソ。そういう意味で文学事典としての客観性には欠けるところもあります。わずか数行ですまされている作家もあり、資料性という点でも物足りなさが残るのですが、読む事典としては最高級のものでしょう。
 似たようなタイトルの、ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(国書刊行会)というものもあります。タイトルに「幻想文学」とはありますが、狭義のホラー・怪奇小説に特化した事典です。なので、トールキンやブルトンやら狭義のホラーから外れるものは収録されていません。その代わりホラーに関する情報量は凄まじいの一言。著者が外国人のため、未訳の作品についてもかなりの情報が得られます。マイナーな怪奇作家でも一人一人にかなりのページが割かれています。恐怖映画・恐怖絵画はともかく、恐怖音楽などというよくわからないジャンルが入っているのを除けば、怪奇小説ファンならぜひ手元に置いておきたい一冊です。
 主に1990年代に出版されたホラー作品の書評を集めた東雅夫『ホラー小説時評』(双葉社)は、基本的にエンタテインメント中心ですが、国内物、海外もの問わずにセレクションされています。狭義のホラー小説紹介では、まず読むべき本。
 日本作家に関しては『別冊幻想文学 日本幻想作家名鑑』(幻想文学出版局)が一番でしょう。作家別にそれぞれの幻想的な要素を含む作品を詳説している本です。プロパー作家だけでなく、漱石、鴎外やらの文豪や純文学作家の幻想作品にも数多く言及していて参考になります。
 ちなみにもう廃刊になってしまいましたが、季刊で出ていた雑誌『幻想文学』は、どの号も非常にマニアックで濃い特集をしていたので、古本屋で見かけたら購入することをオススメしておきます。「英国怪談」「ケルトファンタジー」「夢文学」「吸血鬼文学」「建築幻想」「アンソロジー」など珍しい特集のほか、国別の幻想文学特集など、どれも類書の少ないもので、持っておいて損はありません。
 次回は、その他のジャンル編です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ2 SF編-
「科学小説」神髄―アメリカSFの源流 SF万国博覧会 SFベスト201 図説 ロボット―野田SFコレクション 図説 ロケット―野田SFコレクション 図説 異星人―野田SFコレクション

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 前回に引き続き、今回はSFについての本を紹介します。
 まずは、日本SFの育ての親というべき福島正美の著書。SFのテーマについてそれぞれ語った『SFの世界』『SF入門』などがあります。SFの意義を語るなど、力が入っているというか、きわめて生真面目な語り口なのが特徴です。SFが根付いていなかったころの啓蒙書、といった面が強いようです。
 それよりも彼の編纂したアンソロジーの方が今読んでも面白いでしょう。かって講談社文庫から出ていたアンソロジーシリーズはどれも楽しめる傑作集です。作品解説と合わせれば、そのテーマについて理解が深まります。とくに破滅テーマを集めた『破滅の日』、時間テーマの『時と次元の彼方から』、ミュータントテーマ『人間を越えるもの』などが面白いです。
 石川喬司『IFの世界』(毎日新聞社)は、掲載紙の関係からか、初心者向けにSFの各テーマについて懇切丁寧に解説した良書。ところどころに見られる当時の時代風俗が古びているのはご愛敬ですが、非常にわかりやすく書かれています。
 同じく石川喬司『SFの時代』(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集36)は、主に日本SFについての評論集。筒井康隆、星新一、小松左京、広瀬正などの作家論のほか、SF黎明期に出版されたSF小説の時評などを収録。福島正美と同じく、SF普及のアジテーター的な側面が強い著書です。
 野田昌宏『スペース・オペラの読み方』(早川書房)はタイトル通りスペース・オペラについてのエッセイですが、ブラッドベリに代表される名作短篇の紹介コーナーなどもあって、とにかく楽しめる一冊。この人、作品紹介が異様にうまいんですよね。下手をすると、実際の作品よりも面白いかもしれません。とにかく読んで楽しい紹介文では、この人の右に出るものはいないでしょう。
 同著者の『科学小説神髄』(東京創元社)は、戦前の、黎明期アメリカSFの作品の紹介をしています。SFファンでも馴染みのない名前がけっこう出てくるのですが、例によって楽しい語り口なので、安心して読めます。
 同じく野田昌宏編のビジュアル本三部作『図説ロケット』『図説異星人』『図説ロボット』(いずれも河出書房 ふくろうの本)もオススメ。著者のSF関係の蔵書からセレクションしたカバーアートや挿絵など、SFのエッセンスを視覚的に楽しめるシリーズです。
 石原藤夫+金子隆一『SFキイ・パーソン&キイ・ブック』(講談社現代新書)は、SF通史ですがほとんどハードSFにしぼった内容です。これはこれでユニークですね。
 北原尚彦『SF万国博覧会』(青弓社)は、英米に偏りがちなSFガイドの中にあって、その他の国々の作品を紹介している点で、珍重すべき一冊です。フランス・ドイツ・イタリアを始め、東欧やアジアの国のものにもページが割かれています。SFジャンル自体がほとんど存在しない国の紹介では、自然と周辺領域の作品もとりこんでいるため、文学寄りの作品が多く紹介されているのが特徴です。
 ジャック・サドゥール『現代SFの歴史』(早川書房)は、フランス人によるSF通史。英米の作品紹介はもちろんのこと、フランスSFに多くページが割かれているのが、貴重です。個々の作品の紹介は、数行ですまされる簡単なものなので、初心者向けではありません。
 ロジェ・カイヨワ『妖精物語からSFへ』(サンリオSF文庫)。タイトルはSFっぽいのですが、著者の関心がSFとは別のところにあるので、ちょっと期待はずれに思う人もいるかも。まともにSFにふれてるのは第一部だけで、それもどっちかと言えば幻想小説についてのエッセイでしょうか。むしろ第二部の〈夢〉を扱った章の方が面白かったりします。ちなみにこの本、絶版ですが、同著者の『イメージと人間』(思索社)と全く同じ内容ですので、こちらの方が手に入りやすいかもしれません。
 〈破滅と終末〉〈未来ともう一つの歴史〉〈ロスト・ワールドとパラレル・ワールド〉など、SF固有のテーマ別に、解説を行ったものがブライアン・アッシュ編『SF百科図鑑』(サンリオ)です。執筆者もアシモフ、クラーク、シェクリイなど有名作家が顔を揃えており、資料性・娯楽性をともに備えた、このジャンルの決定版事典です。発行から数十年経つので、紹介されている作品はかなり古くなっているのですが、SFのエッセンスを掴むにはいまだに有益です。
 最後に、最近出た伊藤典夫編『SFベスト201』(新書館)を挙げておきましょう。古典よりも現代ものに比重がかかっていたりと、作品選定の基準にはいささか疑問があるのですが、短すぎず長すぎない個々の解説がなかなか参考になります。
 次回は幻想文学・ホラー編をお届けします。

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ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ1 ミステリ編-
夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波 夢想の研究―活字と映像の想像力 怪奇幻想ミステリ150選―ロジカル・ナイトメア ミステリー倶楽部へ行こう 水面の星座 水底の宝石 バカミスの世界―史上空前のミステリガイド 江戸川乱歩全集 第26巻 幻影城

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 とりあえず、今回はミステリ畑から。
 筆頭にあげられるのは、やはり瀬戸川猛資の著作です。『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)は、本格ミステリから奇妙な味まで、さまざまなジャンルのミステリの魅力を語った本。一つ一つの記述は短いながらも、要点を得た解説は見事です。
 同じく瀬戸川の『夢想の研究』(創元ライブラリ)は、ミステリに限らず小説や映画について考察したエッセイ。欧米の小説に出てくる悪魔像や、破滅SFについての章などもあって、その縦横無尽な切り口は、才気を感じさせます。
 植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』(晶文社)は、かって創元社から出ていた〈クライム・クラブ〉シリーズの解説を始め、著者が惚れ込んだ作品について語ったエッセイです。邦訳が出たものの、絶版であるとか、そもそも邦訳がないもの、どっちにしても手に入らない作品についてのエッセイが多いのが難点ですが、柔らかい話し言葉のような文体に、はまる人もいるはず。紹介文であるという以上に、著者の話芸、といった要素が強いです。
 本来合理的であるはずのミステリの、とくに幻想的な要素の強いものを集めるというユニークな切り口なのが、千街昌之『怪奇幻想ミステリ150選』(原書房)。国内ものと海外ものとのバランスのとれた構成です。カーの『火刑法廷』に代表されるようなミステリとホラーの境界線上の作品が多いようです。
 同著者の『水面の星座 水底の宝石』(光文社)は、ミステリに関する評論集。個々の作品を語るのではなく〈名探偵〉〈偶然〉〈見立て〉〈語り手〉など、ミステリの要素について考察を深めた独創的な評論です。
 山口雅也『ミステリー倶楽部へ行こう』(講談社文庫)は、珍しい作品についての宝庫です。忘れられたミステリの面白さを語る『プレイバック』コーナーや、ミステリに関する蘊蓄など、すれっからしのミステリファンにも楽しめる構成になっています。
 初心者やミステリ入門者のための指針となる本としては『ミステリ絶対名作201』『ミステリベスト201』(どちらも瀬戸川猛資編 新書館)がオススメです。『ミステリ絶対名作201』は、本格やサスペンス、ハードボイルドなどミステリの各ジャンルの、誰もが認める名作をセレクションした解説書。
 対して『ミステリベスト201』はその現代編ですが、多様化した作品群を反映してか、ジャンル分けをせず、面白さのランクで分けているのが面白いところ。
 『バカミスの世界』(小山正とバカミステリーズ編 B・S・P)は、ディクスン・カーの諸作を始め、馬鹿馬鹿しいミステリ、通称「バカミス」を集めたもの。オーソドックスなミステリに飽きた人向けです。
 『深夜の散歩』(ハヤカワ文庫JA)は、福永武彦、中村真一郎、丸谷才一がそれぞれミステリについて語ったエッセイ集。いかにも好きで語っているという、ファン気質が感じられる語り口が心地よい一冊。
 小鷹信光『パパイラスの舟』(早川書房)は、基本的にはハードボイルドの記述が多いのですが、ミステリ短篇について触れた章もいくつかあり、読み応えがあります。とくに「中古帆船暴走中!」と題された章は、リチャード・マシスン論の力作です。
 松村喜雄『怪盗対名探偵』(晶文社)は、著者専門のフランス・ミステリについて語ったエッセイ集。デュマやヴェルヌ、ボアゴベなどフランス・ミステリ成立以前から説き起こし、ルブラン、ルルー、シムノンなどの大家まで、通史としてもしっかりとしています。またカミ、シュオッブ、ルヴェルなど忘れられかけている短編作家にもしっかりとページを割いており、これ一冊でフランス・ミステリを鳥瞰できる得難い本です。
 阿刀田高『恐怖コレクション』(新潮文庫)は、作者の恐怖の原体験を語るというエッセイ集ですが、ジョン・コリア、ロアルド・ダール、ヘンリイ・スレッサー、ロバート・ブロックなど異色作家の作品への言及が非常に多く、ブックガイドとしても重宝します。
 そうそう忘れていました。このジャンルでは外せない江戸川乱歩『幻影城』(光文社文庫)。今となってはいささか古い感があるものの、いまだ影響力を持ち続ける力作評論集です。怪談の面白さを語った『怪談入門』など、ジャンル外の読者にも楽しめるエッセイが収録されているので、ぜひどうぞ。
 あとは、森英俊編の分厚い辞典『ミステリ作家事典 本格派編』と同じく『ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』があります。情報量はすさまじいものですが、かなり入れ込んだファン向けでしょう。個人的には異色作家に割かれたページが少ないのに不満を覚えます。
 ジャンル小説としては、とびぬけてファン数が多いものか、ミステリに関するエッセイ・評論というのは数多くあります。とりあえずこのぐらいで。次回はSF編を予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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