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迷宮の犯罪  ギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』
オックスフォード連続殺人 (扶桑社ミステリー)
 アルゼンチンの作家、ギジェルモ・マルティネスの長篇『オックスフォード連続殺人』(和泉圭亮訳 扶桑社ミステリー)は、天才数学者が連続殺人に挑むというミステリ作品なのですが、全体に<奇妙な味>的な味わいの強い作品になっています。

 アルゼンチンからの奨学生の「私」はオックスフォード大学に留学しますが、下宿先の家主イーグルトン老婦人の他殺死体を発見してしまいます。共に第一発見者となった伝説的な数学者セルダム教授のもとには、謎の記号が書かれた殺人予告メモが届けられていました。これは教授への挑戦なのか?
 メモの「論理数列」が解ければ犯人の正体が分かるかもしれないと調査を続ける「私」とセルダム教授でしたが、その後も、謎のメッセージを伴う殺人事件が続いてしまいます…。

 数学的メッセージで捜査を撹乱する連続殺人犯と伝説的な大数学者との知的戦い…という装いの作品なのですが、実際のところ「戦い」というほどの緊迫感はありません。探偵役セルダム教授が世離れした人物で、その発言がどれも仄めかしに満ちていることや、起こる殺人事件も意外と地味なのもあって、静的な印象の強い作品なのです。

 全体に散りばめられた数学的・哲学的な意匠やペダントリーなど、不思議な味わいのエピソードなど、全体を見るに、どこかミステリのパロディ的な意図で書かれたかのような感じも受けますね。特にいくつか挿入されるエピソードはどれも〈奇妙な味〉的な味わいが強いです。
 エピソードで目立つのは、病院を訪れた教授が、ディーノ・ブッツァーティの短篇小説「七階」は作家自身のその病院での体験が元になっていると話す挿話です。なんとその中に登場する三階の患者は教授自身だというのです。

 他にも、挫折した作家が人を殺すまでに至るエピソードや、妻殺しの計画を詳細に記していた医者が逆に妻に殺されてしまうエピソード、交霊術の席上テレパシー実験で実験者が焼き殺されてしまうエピソードなど、挟まれるエピソードがどれも幻想的、奇怪な味わいで非常に楽しめます。

 解説文にもありますが、ボルヘスの影響もあるのではと窺わせる様な作風で、本格ミステリファンよりも幻想小説ファンに親和性の高い作品ではないかと思います。もちろんミステリ上のトリック・構成もしっかりしていて、ミステリ作品としても充分に楽しめる作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

空想都市と幻想都市  ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』
方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)
 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』(住谷春也訳 東京創元社)は、ルーマニアの作家による、36の空想都市をテーマにした幻想小説集です。
 現実の都市をモデルにしたらしき都市もあれば、完全に空想上の都市もあり、舞台となる時代も古代から未来まで様々、寓話的な展開もあれば、超技術が扱われたSF的な展開もありと、まさに空想・幻想都市小説(というジャンルがあるかわかりませんが)の決定版ともいうべき作品です。

 基本は都市の概観や描写、その起源や変遷といった、都市そのものが主人公であるような描き方なのですが、時には登場人物が主人公となり、都市を探索する物語のような形で展開されることもあります。
 住民の格差がピラミッド型の都市で表された「ヴァヴィロン 格差市」、再建するたびに滅ぼされてしまう都市を描いた「トロパエウム 凱歌市」、老成し過ぎた住民によって滅亡の危機にさらされるという「セネティア 老成市」、巨大なドーム内で人類がどんどん野生化するという「プロトポリス 原型市」、多数の天才たちによって重層的な都市が建設されるという「ムセーウム 学芸市」、等質な都市から等質な住民が生まれてくるという「ホモジェニア 等質市」、自分たちの都市が宇宙船の内部にあることを発見する「コスモヴィア 宇宙市」、月に都市を建設しようとするも精神的汚染が進んでいることがわかるという「セレニア 月の都」、アトランティス滅亡の瞬間に訪れた時間旅行者たちを描く「アトランティス」、悪夢の中の都市を描く「アルカヌム 秘儀市」などを面白く読みました。

 同じ空想・幻想都市を描いていながらも、幻想小説的なアプローチとSF小説的なアプローチが混ざっているのが興味深いですね。
 例えば「ホモジェニア 等質市」。あまりに等質な都市を作ったがために住民までが等質になってゆく…という作品です。後半の展開が圧巻で、家族制度がなくなったのを手始めに、年齢や性差が消失し、完全に同質になった人間が全て同期する…という、シュールかつ幻想的な展開です。
 この作品のように、SF的な設定で始まりながらも、幻想的な結末を迎える作品もあれば、最初から最後までSF風の作品、寓話的な作品もありと、バラエティに富んだ作品集となっています。

 読んでいて、似たテーマを扱った『見えない都市』(イタロ・カルヴィーノ)を思い出すのですが、直接的な影響はないそうです。制作年代は近いのですが、ササルマンはしばらく後までカルヴィーノ作品の存在は知らなかったそうです。
 『方形の円』には、マルコ・ポーロと大ハーンが登場する「モエビア、禁断の都」なんて『見えない都市』を思わせる作品も収録されています。
 直接的な関係はなくても、カルヴィーノ作品にも通底する名作として、これから語られていくことになるのは間違いないと思います。

 イタロ・カルヴィーノやスティーヴン・ミルハウザー、あるいはアンリ・ミショーなど、架空の事物がカタログのように並べられていくという「博物学的幻想小説」が好きな読者にはたまらない作品で、この手の作品が好きな方には強くお薦めしておきたいと思います。

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偶然と宿命  ヨアブ・ブルーム『偶然仕掛け人』
偶然仕掛け人
 イスラエルの作家、ヨアブ・ブルームの長篇小説『偶然仕掛け人』(高里ひろ訳 集英社)は、世の中の出来事を偶然によって動かしているという「偶然仕掛け人」をテーマにした、ファンタスティックな作品です。

 駆け出しの「偶然仕掛け人」であるガイは、同期の仲間であるエリックとエミリーとともに仕事に勤しんでいました。「偶然仕掛け人」とは、人間のふりをして社会に溶け込み、人々に気付かれないようにささいな偶然を作り出し、世の中の出来事を動かす秘密工作員なのです。
 秘かに届けられる封筒の指示書通りに仕事をこなすガイでしたが、その仕事は男女の縁結びなど、スケールの小さなものばかり。しかも彼の心の中には、前職の「想像の友だち」であったときに愛し合っていた女性「カッサンドラ」の面影がずっと消えずに残っていました。
 ある日、今までのものとは異なる突飛な指示を受け取ったガイは、スケールの大きな事件に巻き込まれることになります。一方、計画を立てるだけでターゲットをほぼ殺してしまうという凄腕の殺し屋「ハムスターを連れた男」が暗躍を続けていましたが…。

 世の中は「偶然仕掛け人」の偶然を装った行動によって動かされているという、ファンタスティックな設定の物語です。「偶然仕掛け人」にもレベルがあり、主人公たちが起こすのは、コップをひっくり返したり、水道管を破裂させたりするなどの「レベル2」に相当する仕事を担当しています。
 これが「レベル5」や「レベル6」になると人類全体に影響を及ぼすというのですが、そのレベルの「偶然仕掛け人」は伝説的な存在になっていました。縁結びや、頭の固い男に詩を書かせるなど、自分たちのささいなレベルの偶然でさえ時折失敗してしまうガイやエミリーは、日々頭を悩ませているのです。

 面白いのは、この世界では「偶然仕掛け人」の他にも「想像の友だち」「夢織り人」「幸運配達人」「点火者」など、世界を裏から支える工作員が多数存在しているというところ。主人公のガイは元「想像の友だち」で、そのときに出会った同じ「想像の女性」カッサンドラが忘れられずにいるのです。
 二度と会えないカッサンドラを思い続けるガイに対し、彼にほのかの思いを寄せるエミリー。過去のガイとカッサンドラのエピソードとともに、現在進行形でのエミリーとの関係も描かれていきます。

 「偶然」がテーマであるだけに、事件がどこまで仕組まれているのか、黒幕はだれなのか、主人公たちの依頼主は誰なのか、ミステリ的な興味で全篇飽きさせません。
 サブストーリーとして展開する殺し屋のエピソードも非常に面白く描かれています。優しくて人も殺せない人物がいつの間にか大物殺し屋になってしまったり、ハムスターを可愛がっているためにあだ名が「ハムスターを連れた男」になっているというのもユーモラス。

 ミステリ、サスペンス、SF、ラブストーリーなど、様々な要素が含まれていますが、全体はファンタジー小説といっていいでしょうか。
 主人公たちが「偶然」と言う名の「宿命」を打ち破れるのか? という全体を貫くテーマも見てとれますね。
 帯文にあるように、カルヴィーノ、ディック、ジョナサン・キャロル、あるいはボルヘス的な要素も感じられます。ただユーモアある語り口の読みやすいエンターテイメント作品で、後味も非常によい作品です。これは広くお薦めしたい作品ですね。

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大自然と妖精  ユリヨ・コッコ『羽根をなくした妖精』
羽根をなくした妖精 (必読系!ヤングアダルト)
 フィンランドの作家ユリヨ・コッコ(1903-1977)の長篇小説『羽根をなくした妖精』(渡部翠訳 晶文社)は、戦乱に明け暮れる人間世界と、自然と共に生きる妖精たちの世界が対比的に描かれた幻想的なファンタジー小説です。

 森のトロールであるペシは、虹から降りてきたという美しい妖精イルージアと友人になります。しかしイルージアの父親イルージョンに嫉妬するオニグモによって羽根を切られてしまったイルージアは、家に帰れなくなってしまいます。二人は力を合わせて生き抜こうと考えますが…。

 羽根をなくしてしまった可憐な妖精イルージアと彼女を守ろうとするトロール、ペシの二人を主人公とする物語なのですが、彼ら二人の動向が直接描かれる部分の合間に、動物や植物など自然界を描いた部分、そして戦乱の世の中となっている人間世界の描写がはさまれていきます。

 この作品で一番精彩があるのは、自然の動物や植物たちが描かれる部分です。動物たちは擬人化されており、人間のように行動したり話したりします。しかし彼らが生きる自然界自体は非常にハードに描かれているのが特徴で、生き物たちの死がはっきり描かれるなど、甘さ一辺倒なおとぎ話ではないところが面白いところです。
 特に印象に残るのは、カッコーに託卵されてしまったシロビタイジョウビタキの夫婦を描くエピソードです。何も知らないイルージアに、不幸な結末に終わるのがわかりながらも手をださないようにと話すペシの態度には、自然界の掟を破るべきでないとする作者の思想が現れているようです。

 もちろんペシとイルージアの生活にも困難は訪れます。羽根を切られてしまったことを皮切りに、外敵に襲われたり怪我に倒れたりと、いろいろな困難を二人は切り抜けていきます。しかしそうした中にも、自然の美しさや生きる喜びといったきらめくような瞬間が時折訪れるのが、この作品の良さでしょうか。
 種族を超えた愛の結晶が生まれるというクライマックスのビジョンには、ある種の感動がありますね。

 この作品の初版は1944年ということで、まさにソ連との戦乱のさなかに描かれており、作中には戦争の描写や人の死も描かれています。そんな時代に描かれていてもペシミズムに陥ることなく、自然と共に生きる喜びを描いているのが魅力といえるでしょうか。。

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やさしい孤独  アンドレイ・クルコフ『ペンギンの憂鬱』
ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)
 ウクライナの作家、アンドレイ・クルコフの長篇『ペンギンの憂鬱』(沼野恭子訳 新潮クレストブックス)は、ファンタジー的な要素と現実的な要素が絶妙にブレンドされた作品です。

 売れない小説家ヴィクトルは、ウクライナのキエフで暮らす孤独な男。エサ代が払えなくなった動物園からもらい受けた憂鬱症のペンギン、ミーシャとともに暮らしていました。ヴィクトルは新聞の死亡記事を書く仕事を手に入れ、生活は安定し始めます。
 しかし、生きている人間の死亡記事を書いておく仕事を手がけるようになったとたん、その人々が次々に死に始めます。一方、友人から預かった娘ソーニャ、ベビーシッターのニーナ、そしてミーシャとともにヴィクトルは出来合いの家族を形成し、ささやかな幸福に浸っていましたが…。

 ソ連崩壊後のウクライナ、政情不安定でマフィアが横行するこの国で、孤独だったヴィクトルがペンギンのミーシャを通していろいろな人々と知り合っていくという話です。警察官のセルゲイ、〈ペンギンじゃないミーシャ〉、その娘ソーニャ、セルゲイの姪ニーナ、動物学者のピドパールィ…。
 即席ながらも、ちょっとした家族を得たヴィクトルでしたが、そこには本物の愛情はないと自分で認識しています。ペンギンのミーシャと暮らしていても、互いに孤独なように、ソーニャにとってのヴィクトルはあくまで「おじさん」でしかありません。
 非常にシニカルな人生観が全編のトーンを支配しているのですが、冷たい感じにはならず、不思議とこれが心地よいのですよね。

 何と言っても、この作品の一番の魅力はペンギンのミーシャにあります。犬や猫のように積極的に飼い主に情愛を表すわけではなく、しかしふと気付くとそばにいる。哀しげな目をして飼い主の孤独を分かち合うミーシャは、非常に魅力的な存在です。

 お話自体も、ただ漫然と日常が描写されるだけでなく、ヴィクトルの書く死亡記事の謎、庇護者の謎など、いくつかの謎も用意され、その点でも飽きさせません。ペットのペンギンというファンタスティックな要素を持ち込みながらも、あくまでストーリーは現実の枠内で進行するのも特徴です。

 舞台となるキエフという都市は、日常生活で銃撃やマフィアなどが横行しており、日本の読者からすると、現実というよりもファンタジーに近い感じを受けるかもしれません。結末も非常に寓話的であり、その意味で幻想小説とも読めますね。翻訳はまだないのですが続編もあるそうで、ぜひ読んでみたいところです。

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短篇集を読む

4309023800ゾンビ・アパート
飯野 文彦
河出書房新社 2015-05-24

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飯野文彦『ゾンビ・アパート』(河出書房新社)
 主にノベライズで知られた作家ですが、時折発表していたホラー作品は、なかなか魅力的で短篇集がまとまるのを楽しみにしていました。
 将来を嘱望されていた落語家が邪神の眷属だったという、ひねったクトゥルー神話作品『襲名』、ゆがんだ親子愛を描く『愛児のために』などが面白いですね。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』に着想を得たと思しい『横恋慕』は、レンズ効果を使い、自分の頭の中に横恋慕した女性を取り込んでしまおうとする男を描いた、奇想に富んだホラー作品。突拍子のなさに驚かされます。



4334753108薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集 (光文社古典新訳文庫)
モラヴィア 関口 英子
光文社 2015-05-12

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アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)
 イタリアの文豪モラヴィアには、幻想的・超現実的な短篇を集めた《シュルレアリスム・風刺短篇集》があり、『薔薇とハナムグリ』には、50篇以上からなるこの作品集から、15篇が訳されています。
 割と単純な寓話から、ホラーそこのけの幻想小説まで、傾向もさまざまで楽しめます。
 投機目的で、生物とも物ともつかない謎の品物「パパーロ」を買い込んだ男の悲喜劇を描く『パパーロ』、悪臭を発し、さらに病気が進むと悪臭がかぐわしい香りに変わるという病気を描いた風刺的作品『疫病』などが面白いです。
 いちばん読み応えがあるのは、夢によって全島民を支配する怪物を描いた『夢に生きる島』。テーマはボルヘス、描写はカルヴィーノ、怪物はラヴクラフトといった感じの作品で、ユーモアさせたたえた不思議な雰囲気の怪奇小説です。



4153350206紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ケン・リュウ 古沢嘉通
早川書房 2015-04-22

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ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 アジア系アメリカ作家によるSF短篇集です。表題作の『紙の動物園』もなかなか良いのですが、他の収録作品がどれを取っても面白いので驚かされます。
 縄を結ぶことで情報を伝えるという技術を持つミャンマーの民族を描いた『結縄』、宇宙人がどんな「本」を作り得るのかを描いた『選抜宇宙種族の本づくり習性』、愛を持ったAIを作ろうとする夫婦を描く『愛のアルゴリズム』など。
 アジア風のウェットな感性を中心に据えた作品もあるかと思えば、中国風幻想譚とサイバーパンクを合わせたような『良い狩りを』みたいな作品もあり、伝統的なSFのテーマに沿って描かれた作品もありと、素晴らしい短篇集だと思います。一冊読めば、必ずどれか気に入る作品があるでしょう。、

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謎が謎を呼ぶ  紀田順一郎編『謎の物語』
4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02-08

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 結末を明示せず、読者の想像力に委ねる…という物語。いわゆる「リドル・ストーリー」には何ともいいようのない魅力があります。作品を読む読者によって、それぞれの結末を考えることができる…という点で、読者が物語づくりに参加できるような感触を持てるからでしょうか。
 紀田順一郎編『謎の物語』(ちくま文庫)は、そんな「リドル・ストーリー」を集めたアンソロジーです。かって、ちくまプリマーブックスの一冊として出ていましたが、今回ちくま文庫より復刊になりました。文庫化にあたり、おまけが少しはあるのかなと思っていたら、予想以上の面目一新!ほとんど別アンソロジーといってもいいほどの増補がされていました。

 収録作品を挙げておきます。
マーク・トウェイン『恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス』
フランク・R・ストックトン『女か虎か』
フランク・R・ストックトン『三日月刀の督励官』
ジャック・モフィット『女と虎と』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード 続』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
小泉八雲『茶わんのなか』
O・ヘンリー『指貫きゲーム』
ハックスリー『ジョコンダの微笑』
ロード・ ダンセイニ『野原』
サキ『宵やみ』
ラドヤード・キプリング『園丁』
ディーノ・ ブッツァーティ『七階』

 あらすじを述べると、興をそいでしまう恐れのあるジャンルなので、内容に関しては詳説は避けることにしますが、やはりストックトン作品のインパクトは別格です。続編での続け方も人を煙に巻くようなやり方で、さすがに古典になるだけのことはあります。読者の求めるところを心得ているなという出来です。
 あとは、クリーヴランド・モフェット『謎のカード』の続編の収録が嬉しいところです。本編は人を煙に巻くような、典型的な「リドル・ストーリー」なのですが、続編は完全に「種明かし」になっています。
 「種明かし」が、ミステリというよりは、ほとんどホラーになっていてびっくりしました。これはこれで面白いのですが、真相がわかってしまうと、やはり「普通」の小説になってしまいますね。ストックトンとモフェットの、それぞれの続編の書き方を較べると、「リドル・ストーリー」の本質というか魅力といったものに関して見えてくるものもあるかと思います。
 さて、ついでに旧版(ちくまプリマーブックス版)の収録作品も紹介しておきます。

フランク・R・ストックトン『女か虎か』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ディーノ・ ブッツァーティ『なにかが起こった』
小泉八雲『茶わんのなか』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
木々高太郎『新月』
上田秋成『青頭巾』
ウォルター・デ・ラ・メア『なぞ』
稲垣足穂『チョコレット』
ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』

 新版では、ブッツァーティ作品が差し替えられていますが、彼の作品は、その多くが「リドル・ストーリー」に分類しても差し支えない類のものなので、よしとしましょう。
 デ・ラ・メアの『なぞ』や稲垣足穂『チョコレット』は他の本でも読めると思うのでいいのですが、新版でおちてしまった中では、唯一、ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』が惜しいです。荒俣宏編訳『魔法のお店』(ちくま文庫)にも収録されていますが、こちらも絶版のようです。簡単に内容紹介しておきましょう。
 中年男性の主人公が、ふと骨董店のウィンドウに目を留めます。そこにあったのは、自分が二十年も前に持っていたおもちゃでした。懐かしくなった男が店の中に入ると、そこにあったのは自分が持っていたおもちゃばかりだったのです…。
 「リドル・ストーリー」というとちょっと違う感触の作品ですが、とても味のある作品なので、これも収録してほしかったですね。
 とにかく『謎の物語』は「リドル・ストーリー」を扱ったアンソロジーとしては、質量ともに圧巻のアンソロジーといっていいかと思います。読んでいる最中、また読み終わってからも、そういえば過去に読んだあの作品も「リドル・ストーリー」だよな…と思い浮かんできたりもして、そういう点でもとても楽しめる作品集になっています。
 「リドル・ストーリー」の章として5編を収録しているアンソロジー『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』 (角川文庫)と合わせると、「リドル・ストーリー」の全体像をつかめるかと思いますので、こちらもオススメしておきましょう。

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責任の在り処  パトリシア・カーロン『沈黙の代償』
4594030769沈黙の代償
パトリシア カーロン Patricia Carlon 池田 真紀子
扶桑社 2001-02

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 自分のとった行動が、間接的に犯罪を助長してしまう…。こんなとき、その責任は自分にあるのだろうか…? パトリシア・カーロン『沈黙の代償』(池田真紀子訳 扶桑社ミステリー)は、そんな疑問を抱かせるサスペンス小説です。
 ある夜、富豪のジョージ・ウィントンのもとに、新聞記者を名乗るエヴァン・カイリーから電話がかかってきます。内容は、カイリーの息子が誘拐されたというもの。カイリーは、ウィントンにも責任がある、というのです。以前に同じく、娘を誘拐されたウィントンが、警察に対して何も言わなかったという過去があったのです。しかもベビーシッターの女性も殺されたと言います。罪悪感にとらわれたウィントンは、カイリーに協力しようとしますが…。
 一代で財を成した、気の良いウィントンに対して、押し付けがましく、強烈な個性を持ったカイリーの人物像が対照的です。前半は、あくまで誘拐された子どもの救出が中心となり、カイリーのいうままにウィントンはその行為を手伝うことになります。
 しかし中盤にいたって、話は急展開を迎えます。ひょんなことから、ウィントンは殺人の容疑をかけられてしまうのです。しかし、事実を話せば、カイリーの妻が刑務所行きとなってしまう、という二進も三進もいかない状態に。
 なかなかひねったサスペンスです。真相がわりと推理しやすそうな感じだな、と思うと、意外な展開に感心します。伏線もかなり上手くはられています。なにより、丁寧に描写された登場人物たちのキャラクターやその関係が、ミスディレクションとしてうまく機能しているところが巧妙です。
 いわゆる「巻き込まれ型サスペンス」であり、主人公も一般人なので、感情移入がしやすいのも長所でしょう。ただ、クライマックスでも、大立ち回りがあるわけではないので、そのあたり、いまいち物足りなく感じられる部分もあります。

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あまりにもオーソドックスな  F・ロッテンシュタイナー編『異邦からの眺め』
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異邦からの眺め
フランツ・ロッテンシュタイナー
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 F・ロッテンシュタイナー編『異邦からの眺め』(深見弾・他訳 ハヤカワ文庫SF)は、珍しいヨーロッパSFを集めたアンソロジー。収録作家の出身国もフランス、ドイツ、チェコ、ポーランド、イタリア、ソ連(ロシア)と幅広い層から集めています。さて内容の方はというと、かなりオーソドックスな話が多いようです。原著刊行の1973年としても、かなり古い感じは否めません。英米の1940~50年代のSFに近い感じでしょうか。いくつか紹介してみましょう。

 スタニスワフ・レム『完世音菩薩』 宙道士トルルは、クラパウチュスとの話のなりゆきから「普遍的善」を生み出してみせると豪語します。トルルは、察知するあらゆるものから幸福を得る「完全な幸福に浸る菩薩」すわなち「完世音菩薩」を作り出すのですが…。
 「完世音菩薩」をはじめ、トルルが善のために作り出すいろいろな発明が、ことごとく失敗してゆくというユーモア短編。善を観察するために、トルルが作り出す極小の文明社会など「フェッセンデンの宇宙」的なテーマも見られます。完璧な善など存在しないという、文明批評的な要素を持つ作品。

 J・P・アンドルヴォン『カドラーニュ観察日誌』 異星人に捕らえられた人間の男女。彼らは衣服をはぎとられ、透明な壁をへだてて閉じ込められます。貞淑な人妻である女は、粗野な男の野蛮さに眉をひそめます。やがて異星人は壁を消して二人を一緒にするとどうなるのか、観察を始めるのですが…。
 人間を捕らえた異星人の観察日記という、ある種、古くさいアイディア・ストーリー。異星人から見た人間の習性や態度が、いかに愚かで無意味であるかを描く、という点では、目新しさが全然ありません。ただ、この男女の性的な関係をねちっこく描いているのが、ユニークなところでしょうか。

 スヴェン・オゲ・マセン『指輪』 畑仕事をしていた男が、拾った指輪をはめてみたことから、突如として異世界にさらわれます。そこは球体をした超越的な存在者が作り出した世界でした。超越者は、男に三通りのあり得べき世界を示して、男に選択を迫るのですが…。
 なにやら民話の「金のおのと銀のおの」を思わせる作品です。選択できることがわかってしまったら、必ず後で後悔が残る、という皮肉な主題を持つ作品。作者は、SFプロパーの作家でないらしく、異世界の描写に独自色が感じられます。

 ヨゼフ・ネズヴァドバ『ネモ船長の最後の冒険』 数々の英雄的な功績を持つ、宇宙飛行士ペジンカ大尉は、民衆から「ネモ船長」と呼ばれ、尊敬を受けていました。ある日、彼は、かってないほどの重要な任務を任されます。それは太陽系に近づきつつある謎の宇宙船を、破壊もしくは追い払う任務でした。その宇宙船は宇宙を動き回っては、星をつぎつぎと爆破していたのです。彼らが太陽系に到着するのは1年後、それまでに彼らを止めなくてはならない。しかし宇宙船は、光速で航行するため乗組員が地球に帰還できたとしても、それは1000年後になってしまうのです! 「ネモ船長」はためらいますが、妻や息子との不和もあり、乗組員とともに出発するのですが…。
 宇宙から現れた謎の外敵、戦いのために故郷を捨てる英雄。雄大なスペース・オペラかと思いきや、意外な展開が待ち受けています。時代によって価値観は移り変わってしまう、英雄的な人間の勇気さえもが相対化されてしまうという、皮肉な作品。本書で一番SFらしい作品でしょう。

 リーノ・アルダーニ『おやすみ、ソフィア』 近未来、人間同士の恋愛はほとんど消滅し、人々は「ドリーム・フィルム」によって、その欲望を満足させていました。人気女優ソフィア・バーロウは、フィルムのロケに向かう途中、飛行機の故障によって、パイロットの男とともに僻地に取り残されてしまいます。ソフィアのファンであるその男は、本人を目の前にして、実物よりも「ドリーム・フィルム」を選ぼうとするのですが…。
 人々の願望充足のために作られる「ドリーム・フィルム」。今読んでいるこの話は本当に現実なのか?と言ってしまうとオチが割れてしまいそう。ブラウンやシェクリイを思わせるアイディア・ストーリーの佳作です。

 セーヴェル・ガンソフスキー『実験場』 軍隊は、インデアンの住む島を強制撤収し、新しく開発された兵器のための実験場にします。その兵器とは、人間の恐怖を関知して自動的に攻撃を開始するという画期的なもの。しかし、作動し始めた兵器は、兵隊や幹部たちをも攻撃し始めます。しかも機械には停止スイッチはついていなかったのです…。戦争の愚かしさを描く作品。軍人たちが殺される描写が、なかなか凄惨です。

 ワジム・シェフネル『内気な天才』 子供のころから発明癖のあったセルゲイは、恋人リューシャではなく別の女と結婚してしまいます。しかし口うるさく利己的な妻から、発明品をけなされ続けるセルゲイは、再びリューシャのもとに走ります…。
 主人公の発明品の描写が愉快です。未来が撮れるカメラ、重力を減らす「反効器」、周囲の障害物を透かして内部を見ることのできる「電場可眼」など、どうしてこんなすごい発明品が、反響を巻き起こさないのか疑問に思ってしまいます。世間に受け入れられない孤独な天才発明家、みたいな話だと思うのですが、その発明品があまりに超絶的すぎるのが逆に不自然。こんなすごい発明をしていたら、社会がほっとかないはず、と思ってしまうのは、アメリカSFを読み過ぎなのでしょうか。

 本書には、いわゆる前衛的な作品は皆無で、レムを除いて、どれもわかりやすい作品が並んでいます。レムの作品が頭抜けているほかは、ネズヴァドバ、アルダーニ、ガンソフスキーの作品が水準作といったところでしょうか。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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