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最近観たホラー・ファンタジー映画

ゴーストランドの惨劇 [DVD]


パスカル・ロジェ監督『ゴーストランドの惨劇』(フランス 2018年)

 変わり者で知られた叔母の家を相続して、そこに越してきたシングルマザーの母親と双子の娘。引越しの当日、突然家を暴漢二人組が襲撃してきますが、母親の必死の抵抗で二人組は殺されてしまいます。
 16年後、ホラー小説家として成功した妹ベスは、姉ヴェラからの助けを求める電話を受け、実家に帰ることになります。ヴェラはあの惨劇の夜から精神を病み、ずっと家に閉じこもっていたのです。ヴェラの言動、そして母親の態度からも何か不穏な気配を感じるベスでしたが…。

 暴漢に襲われた夜から心を病んでしまった姉を見舞う妹、何やら心の病だけではない何かを、姉は恐れているようなのです。なかなか先の読めない展開の作品で、殺された暴漢の霊が悪さをしているのかとも予測しましたが、それとはまた違う方向の展開でちょっと驚かされます。
 主人公の妹娘が、人見知りながら作家志望で、しかも好きなのはホラー小説、敬愛するのはラヴクラフトという、ホラーファンには楽しい設定になっています。後半ではラヴクラフト本人も登場するのは、ホラーファンには嬉しい趣向ですね。
 お話自体は非常にハードで、精神的にも肉体的にもダメージが来るので、そうした描写が苦手な人にはきつい作品かもしれません。ただ少女が「現実」を受け入れ「成長」するというテーマも強調されていて、観終わってみると、ある種「いい話」だとも思えるところが、なかなか面白いですね。



ムーンプリンセス 秘密の館とまぼろしの白馬 [DVD]


ガボア・クスポ監督『ムーンプリンセス 秘密の館とまぼろしの白馬』(イギリス 2009年)

 父を亡くし孤児となった少女マリアは家庭教師のヘリオトロープ先生とともに、おじであるベンジャミン・メリウェザー卿の領地ムーンエーカーに引き取られることになります。メリウェザー一族と、隣り合った森で密猟をして暮らすド・ノワール一族には、数百年に及ぶ因縁がありました。
 月と自然の力を得たことから<月姫>と呼ばれた女性が持ってた強大な力を持つという月の真珠、それをめぐってメリウェザーとド・ノワールは仲たがいをし、それを悲しんだ<月姫>は谷全体に呪いをかけます。5千回目の満月の夜までに魔法を解かないと呪いは現実のものになってしまうというのです。
 代々伝わる本によって、その呪いを知ったマリアは、二つの一族を和解させるために、消えてしまったという真珠を探し始めます。捜索の過程で、マリアは、謎の女性ラブデイ、ド・ノワール一族の当主の息子である少年ロビンらの手を借りることになりますが…。

 エリザベス・グージ『まぼろしの白馬』が原作で、美しい舞台とロマンティックな物語が魅力のファンタジー作品です。
 「王道」と言えるほどロマンティックなお話で、そのあたりは原作の雰囲気をかなり忠実に再現していますね。ヒロインとなるマリアが非常にポジティブなキャラクターで、事態を打開するために積極的に動くという展開にも爽快感があります。
 舞台となる古い館や周囲の森林、部屋の調度や主人公の衣装などを含め、全体に絵作りが美しく、それらを見ているだけでも楽しいです。
 CGが使われているらしい魔法のシーンも浮き立っておらず自然な感じです。特にクライマックス、魔法の白馬が登場するシーンは美しいですね。
 基本的には原作を踏襲した映画化なのですが、大きく変えられているのは、ロビンとラブデイの設定でしょうか。原作ではこの二人が親子という設定だったと思うのですが、映画版では姉弟で、かつ敵方のド・ノワール一族の人間、ということになっています。
 良質なファンタジー映画作品で、原作ファンも安心して観れる作品になっているかと思います。



カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇― [DVD]


 リチャード・スタンリー監督『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』(ポルトガル・アメリカ・マレーシア合作 2019)
 水文学者ワード・フィリップスは、水質の調査のためアーカム郊外の田舎を訪れます。ワードは、ガンになった母の回復を祈って魔術の儀式を行っていた娘ラヴィニア・ガードナーと、森の中で出会います。彼女は、父ネイサン、母テレサ、ベニーとジャックの2人の弟と暮らしていました。
 テレサの病気はあるものの、幸せに暮らしていたガードナー一家の庭に、ある日、隕石が落下します。悪臭を放つ隕石はしばらくして消えてしまいますが、それから一家の人々に異常が起き始めます。テレサは料理中に放心状態になり指を切り落としてしまいます。 ジャックは井戸の中にいる男と会話していると話し、庭に長時間たたずんでいました。やがて、父ネイサンの精神状態も尋常でなくなっていきますが…。

 H・P・ラヴクラフトの短篇「異次元の色彩」の映画化作品です。隕石と共に降り立った何物かにより、周辺の土地や生物のみならず、居住している人間にも異様な影響が及んでいく…というホラー作品です。
 序盤は家族の日常生活やキャラクターの描写が主で、なかなか出来事が起こらないのですが、隕石が墜ちて以降、ガードナー家の人々が異様な状態になっていくのが見所でしょうか。ヒロインのラヴィニアと弟ベニーは、後半まで比較的まともな精神状態を保っているのですが、両親とジャックに関しては、すぐに異様な状態になってしまい、何を起こすのか分からない状態が続くところにサスペンスがありますね。
 土地に降り立った何物かによる影響で、周囲の土地や生物は異様な変容を遂げていきます。昆虫、動物、果ては人間まで。ガードナー家の人々も精神だけでなく、肉体も変容を遂げていくことになるのです。
 変容を遂げた人間の造形は怪物そのもの。『遊星からの物体X』を思わせるような強烈な印象のクリーチャーも登場します。
 序盤が静謐な雰囲気だっただけに、後半の展開は非常に強烈。「色」によって歪む空間や時間、変容を遂げた怪物と、インパクトたっぷりの画面が展開されることになります。

 ついでに、新訳版で原作も読み直してみました。「異次元の色彩」(南條竹則訳『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』新潮文庫 収録)です。
 原作では、事件が起こった随分後に、事件を知る男に経緯を聞くという、間接的な語りになっています。隕石が墜ちた影響により、土地や人々に異様な影響が及ぶ、という大枠は同じですが、被害を受ける家族の構成やその行く末なども異なっていますね。
 ラヴクラフト作品の通例で、影響を受けた人間の肉体的な変容が匂わされてはいるものの、具体的な描写はなく、読者の想像力にまかされています。

 映画版では原作には少なかった視覚的な効果が、具体的に描写されていて迫力があります。
 魔術に傾倒しているラヴィニアが持っている本は「ネクロノミコン」、水文学者ワードが読んでいる本はアルジャーノン・ブラックウッドの「柳」だったりするのも、怪奇小説ファンには楽しいところですね。
 さらに言うなら、登場人物の一人ワード・フィリップスは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトから取った名前なのでしょう。
 ラヴクラフト作品の現代における映画化として、非常に良く出来た作品なのではないかと思います。



ビハインド・ザ・マスク [DVD]


スコット・グロサーマン監督『ビハインド・ザ・マスク』(アメリカ 2006年)

アメリカの小さな町グレン・エコー、そこで20年前ある事件が起こります。悪魔の子供だとされた少年が滝に落とされ死んだというのです。その少年は甦り、町の住民に復讐するという噂が流れていました。レスリー・ヴァーノンはその少年こそ自分であり、ジェイソンやフレディの正統な後継者だと話します。
レスリーは、ターゲットを決め、連続殺人鬼として自分をプロデュースするための計画を着々と進めていました。女性レポーターのテイラー率いる取材班は、レスリーに密着し、準備段階から彼の行動を記録することになりますが…。

 連続殺人鬼の行動の裏側を追う…というフェイク・ドキュメンタリー風に描かれたホラー作品です。ホラー映画において、なぜ殺人鬼に裏をかかれてしまうのか? 犠牲者が都合よく殺人鬼に捕まってしまうのはなぜなのか?といった理由が描かれていきます。
 その理由とは、殺人鬼が綿密に計画を練っているから、という人を食ったものでした。 殺人の舞台となる家にさまざまな仕込みをしておくのはもちろん、犠牲者を不安にするようなささいな演出を細かく実行したり、複数の犠牲者たちが逃げるときの導線を検討したりと、その行動は非常に合理的。
 普段から体を極限まで鍛えていたり、奇術師を師匠としてトリックの準備も怠らなかったりと、準備万端なのです。殺人犯の青年自体も気さくな性格で、取材にも協力的だったりと、好青年に描かれているのがユニークです。
 青年の熱意にほだされて、取材クルーも純粋に彼を手伝うようになっていく、というのも面白いところですね
 前半は、青年レスリーの計画の舞台裏が彼の苦労とともに描かれていき、そのまま最後まで計画の実行がなされるのかと思いきや、後半思わぬ展開になっていきます。しかも、前半で描かれた殺人計画そのものが後半の伏線になっているという凝った作りになっています。
 連続殺人鬼の舞台裏を取材するという、メタフィクショナルな着想の、非常に面白い作品になっています。全体はコメディタッチで描かれるのですが、クライマックスでの殺人シーンは意外に本格的だったりするのも面白いところです。
 ミステリ的な趣向もあるので、そちらのファンにも楽しめる作品だと思います。



ドント・ゴー・ダウン(字幕版)


トム・パットン監督『ドント・ゴー・ダウン』(イギリス 2020年)

 とある紛争地帯、機密書類を奪うために派遣された傭兵部隊は敵の野営地を奇襲します。奇襲は成功しますが、テントのなかには一般人らしき女性がとらわれていました。女性の正体は分からず、つぶやいた現地の言葉は「ドント・ゴー・ダウン」(決して降りるな)という意味のようでした。
 隊長のスタントンの命令により、クラークは女性を銃殺してしまいます。基地に帰還した部隊は上層階に向かおうとしますが、エレベーターが故障していたため、階段を上がることになります。しかし、上がり続けても一向に部屋には到着することができません。
 突然サイレンが鳴り響きます。状況を確認しようと階段を下りた仲間は何者かに襲われて、逃げろと言い残して絶命します。階段を上り続けて、ようやく外につながるらしいドアを見つけた一行でしたが、ドアの外に広がっていたのは、奇襲して殲滅したはずの敵の野営地でした…。

 戦場で無限のタイムループに巻き込まれた傭兵部隊の運命を描いたSFアクション・ホラーです。
 部隊は、基地の無限に続く階段に囚われてしまい、そこから抜け出せなくなってしまいます。どうやら任務中に殺した捕虜の女性の呪い(?)のせいで、ループに囚われてしまっているようなのです。
 一定時間ごとにサイレンが鳴り響き、その階に留まっていると、下の階から怨霊のような存在に追いつかれ殺されてしまいます。階段を上り続けていると定期的に現れるドアから過去に戻り、捕虜を殺させないようにするしか打開策はないようなのです。何度も過去に戻る一行ですが、何度やっても上手くいきません。
 過去に戻って捕虜を殺させないようにしなければ抜け出せない。しかし毎回蘇る敵の勢力と過去の自分たち、多人数を相手に対抗しようとするものの、だんだんと味方は怪我をして脱落していき、体力は減る一方という、悪夢のようなミッションが描かれていきます。
 襲い来る怨霊とループ現象、そして軍事アクション、様々な要素を組み合わせた、意欲的なホラー作品です。ループ現象や怨霊について、明確なルールが最後まで分からないのですが、それにより不条理感が強い作品になっていますね。
 もともといつ死んでもおかしくないという軍事行動に加えて、減る一方の味方、削られる体力など、主人公たちの疲弊感が強烈で、悪夢のような空気が満ちています。
 過去の自分を殺した場合どうなるのかなど、タイム・パラドックス的な面に関しては多少曖昧にしている感はあるのですが、今までにないタイプの要素の組み合わせで、非常に面白い作品だと思います。


恐怖のオムニバス  ダン・カーティス監督『恐怖と戦慄の美女』
 ダン・カーティス監督のオムニバス映画『恐怖と戦慄の美女』(1975年 アメリカ)は、リチャード・マシスンの短篇が原作の三話からなるホラー・ムービーです。

第一話「ジュリー」
 英語教師のジュリーは、生徒であるチャドに恋人になってほしいと迫られ、それを断りますが…。
 生徒である少年に脅されてしまう女性教師を描いていますが、実は…という作品です。結末は非常にブラック。

第二話「ミリセントとテレーズ」
 真面目で貞淑な姉ミリセントと、奔放で色情狂の妹テレーズ。代わる代わる男を連れ込むばかりか、黒魔術にまで手を出しているテレーズを、ミリセントは憎んでいました。彼女は妹について主治医のラムジー博士に相談しますが…。
 対照的な姉妹を描いたサイコ・スリラー作品。妹に憎悪をふくらませていく姉は、とうとう妹を始末しようと考えます…。意外な結末が楽しいエピソードですね。

第三話「アメリア」
アメリアは母親の元を離れて、一人でマンションに住んでいました。毎週金曜日には淋しがる母親と共に過ごす約束でしたが、その日はある男性と食事の約束をしていたために、母親との約束を断ろうとして口論になってしまいます。
アメリアはボーイフレンドへのプレゼントとして、古道具屋でズーニ族に伝わる呪いの人形を購入していました。付属の紙には、人形に付けられた金の鎖が外れてしまうと、魂が入り込み人形が動き出す…ということが記されていましたが、アメリアは本気にしません。ふとした拍子に鎖が外れてしまった人形は動き出し、刃物を持ってアメリアに襲いかかります…。
 人形が女性を襲うというショッキングなエピソードです。演出の上手さもあり、かなり怖いお話になっています。人形がどこから襲ってくるかわからず、ドアを破ったり、トランクに閉じ込めてもこじ開けてきたりと、その力とエネルギーも強烈。
 登場人物はヒロイン一人なので、人形との一人芝居になるわけですが、主演のカレン・ブラックの演技力もあり、恐怖感の醸成が巧みです。『チャイルド・プレイ』を始めとする、後年の人形ホラー作品にも影響を与えたといわれる作品で、確かに今見ても傑作と言っていい作品だと思います。

 この『恐怖と戦慄の美女』、三話がそれぞれ違ったテーマで構成されていて、バラエティに富んでいるのも魅力ですね。三話とも主人公を女優のカレン・ブラックが演じていて、同じ人とは思えないほどの演じ分けがされているのも凄いです。特に第三話「アメリア」での演技は見事ですね。
 もともとテレビ用に作られた作品だそうですが、小粋な秀作として、今でも楽しめる作品だと思います。

原作となるエピソードは全て邦訳があります。
紹介しておきますね。

第一話 「ジュリー」
原作:リチャード・マシスン「わが心のジュリー」(尾之上浩司訳 ジェフ・ゲルブ編『震える血』祥伝社文庫収録)

第二話「ミリセントとテレーズ」
原作:リチャード・マシスン「針」(尾之上浩司訳 尾之上浩司編『運命のボタン』ハヤカワ文庫NV 収録)

第三話「アメリア」
原作:リチャード・マシスン「狙われた獲物」(仁賀克雄訳『不思議の森のアリス』論創社 収録)

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

めくるめく世界  イシュトヴァーン・オロス『タイムサイト』

 『タイムサイト』は、ハンガリーの作家・デザイナーである、イシュトヴァーン・オロスのアニメーション作品集。オロスは、エッシャーの影響を受けた、だまし絵的な作品を得意とするグラフィック・デザイナーとして有名で、日本で刊行されただまし絵作品集にも、よく取り上げられています。
 6つの短めのアニメ作品が収録されていますが、共通するのは、エッシャー風の不可能空間や図形が頻出すること、あるイメージが別の似た(あまり似てないこともありますが)イメージに変容する幻想的な光景が描かれること、寓意的なテーマが盛り込まれていること、などでしょうか。
 ストーリーはあってないようなもので、その華麗で緻密なイメージの奔流を楽しむのが、楽しみ方としては正解なのでしょう。以下、収録作のレビューです。

「マインド・ザ・ステップ」
 集合住宅地を舞台に引越しの情景が描かれる作品、といえば、そのとおりなのですが、その間に様々な人々の幻想的なイメージがどんどんと入れ替わっていきます。エッシャーのだまし絵的な空間が頻繁に登場するのが特徴で、それによって社会の閉塞感を表現しているといった感じです。
 たんすを運んでいる引越し業者がエッシャー的な空間ですれ違い、たんすの端がぶつかりあったり、ボールが無限階段を延々と落ち続ける…というシーンは圧巻ですね。

「ザ・ガーデン」
 少年が庭で車椅子の美しい女性に出会い、彼女の入浴を覗く…というのが幻想的かつ官能的に描かれる作品。
 全編、銅版画風の絵柄で構成されていて、場面場面が一つの絵として美しいです。女性が人魚に変容するシーンが幻想的に表現されています。

「叫び」
 赤ん坊の叫びから始まり、生まれた病院の鳥瞰図から宇宙にまで至るスケールが展開されたかと思うと、再び成人男性の画像へ…。
 人間の一生を象徴的に描いた作品なのでしょうか。

「ブラックホール-ホワイトホール」
 ペンを持つ手が描いた手がさらにペンを持って手を描いてゆくという、目くるめくイメージから始まり、様々なイメージが相似形に展開されてゆくという作品。
 次に何が出てくるのか分からない予想のつかなさが面白いです。

「タイムサイト」
男と女が時間と空間を越えて出会う…という象徴的な物語。銅版画が元になっているという線画が素晴らしいです。背景の一部が一時的に女性の顔になり、それがまた溶け込んでいくという、だまし絵的な技法が使われており、大変魅力的。
男性と女性のナレーションが同時に発音され、一人は過去形、もう一人は未来系で話すという前衛的な演出がされているのも面白いですね。

「迷路」
 数字をモチーフにした9つの迷路が現れ、その迷路が変容して様々なイメージを展開してゆくという、シュールな作品です。
 視覚的な効果としては、これが一番面白い作品でしょうか。


テーマ:映画 - ジャンル:映画

モダン・ホラーのショーケース  『悪魔の異形』
悪魔の異形 HAMMER HOUSE OF HORROR コンプリートDVD-BOX
 ドラキュラやフランケンシュタインの怪物など、モンスターをメインとしたゴシック調のホラー映画で一世を風靡したイギリスの映画会社ハマー・フィルム・プロ。『エクソシスト』に代表されるようなリアルな恐怖映画に押され始めていたハマー・フィルムが、得意のゴシックを封印し、モダンな恐怖を扱ったテレビ・ムービーのシリーズが『悪魔の異形』(1981年)です。
 全13話が作られており、どれも水準の高いエピソードになっています。魔女や狼男など、伝統的な怪物が登場する回もあるのですが、単純な怪物ホラーではなく、ひねりを加えたり、サイコ・スリラー的な味わいを混ぜ込んだりと、いろいろ工夫の感じられるシリーズになっています。
 以下、各エピソードを紹介していきましょう。


「鏡の底に悪魔が.....」
 アンティーク店の主人ロバーツは、同業者のローラがオークションで入手した古い鏡を預かって帰る途中、若い女性アリスンを拾い家に連れ帰ります。鏡と共に消えてしまったアリスンについて調べるうちに、ロバーツはコロンゾンという悪魔を信仰しているグループがその鏡を必要としていること、鏡は魔術師ジョン・ディーが作ったという悪魔を呼び出すための鏡であることを知ります。コロンゾン会の司祭ランドルフの魔の手が伸びていることを知ったロバーツはアリスンを救おうとしますが…。

 悪魔を信仰するカルト教団と、妖術の道具となる鏡とをめぐるオカルト・スリラーです。かなり古めかしいテーマではあるのですが、後半にはちょっとしたひねりもあり面白く観れます。もともと教団に属していた女性が、本当に仲間なのかそうでないのかが最後まで分からないのが、サスペンスを高めていますね。


「魔女の復讐」
 音楽家である夫デイヴィッドと、女優である妻のメアリーの夫婦。メアリーは主治医と浮気をしていました。妻の留守中、雷鳴と共にデイヴィッドの前にルシンダと名乗る女が現れます。彼女は17世紀から魔女狩りを逃れて飛んできたというのです。やがてデイヴィッドはルシンダの魅力の虜となってしまいます。ルシンダはメアリーの前にはその姿を現さず、デイヴィッドの精神に異常が起こったのではないかと訝しむことになりますが…。

 過去から来た魔女に取り憑かれてしまう男を描いたエピソードです。序盤は魔女の存在自体が夫の妄想の可能性もあるかのように描かれるのですが、後半ではその存在が疑いないものとなり、夫婦が対抗して追い払う…という流れになります。
 妻が浮気をしているのではないかという不安が根底にある主人公が。既にして精神を病んでおり、無意識に妻を殺そうとしているのではないかという解釈も可能なようになっています。一方、本当に浮気をしている妻は、夫が自分を殺そうとしているのではないかと考える…という、心理的なサスペンス部分も面白いですね。
 オカルトと心理サスペンスが融合した作風で、これはかなり面白いです。


「カラパチアの呪い」
 心臓を抉られて男が殺されるという事件が相次ぎます。警部クリフは、スリラー小説を執筆する女流作家ナタリーと知り合い、紹介された小説のモデルの子孫ハンスカ夫人を訪れます。夫人から大量殺人を行った伯爵夫人の話を聞いたクリフは、犯人がその伝説をまねているのではないかと考えます。夫人の甥である亡命者タデックに疑惑を抱いたクリフは彼をつけまわしますが…。

 相次ぐ猟奇殺人を描いたサイコ・スリラー作品です。視聴者には犯人は誰か始めからわかってしまうのですが、その動機はわかりません。殺人を繰り返す理由については、超自然的な原因によるものなのか、それとも意図的なものなのか、その辺はかなり曖昧なまま終わってしまうため、観ていてちょっと消化不良の感はあります。
 ただ事件と平行して、女流作家と刑事のラブストーリーが進行し、そちらのロマンスの結末がどうなるのかも気になる作りにはなっていますね。


「血の流れる家」
 家族との時間を増やすため病院へ転職し、古い家を買い入れたウィリアム。妻のエマ、娘のソフィーと共にその家に引っ越してきますが、引っ越し直後から壁から血の染みが浮き出したり、ガス栓が止まらなくなるなどの怪現象が相次ぎます。
 飼い猫は怪死し、ソフィーはショックを受けてしまいます。ウィリアム夫妻は、向かいに住む夫婦ジョージとジーンから、かってその家で夫が妻を惨殺した事件があったということを聞きます。
 家を改装し、ソフィーの誕生パーティーを開いたウィリアムとエマでしたが、パーティーの最中に恐ろしい事件が発生します…。

 かって残酷な殺人事件が起こった古い家、そこに住むことになった親子が体験する霊的体験を描いたエピソードです。霊的体験とはいいながら全体に流血シーンが多くなっています。段々と被害がエスカレートし家族に危害が及ぶのか?という矢先の捻り方がユニーク。サイコ・スリラー的な結末も面白いです。


「戦慄の叫び」
 刑務所から出所したチャックは、度々刑務所に慈善活動に訪れ、出所祝いに現金ももらっていた老人ブルック氏のもとにお礼を言いに訪れます。ペットショップを経営するブルックはチャックに仕事として、自分が密かに飼っている猛獣たちの世話をしてくれないかと話します。
 彼によれば、独自の飼育法の研究をするため、猛獣たちの檻は開けてありますが、そこには高圧電流が流れています。ベルの音で食事の時間のみ通れるようにしてあるというのです。世話を始めるチャックでしたが、飼育場にある金庫が気になり始め、とうとう金庫を開けてしまいます。開けた瞬間に、床の扉が開き、チャックは硬い壁に覆われた牢獄に落ち込んでしまいます…。

 頭のおかしい老人により監禁されてしまう男を描いたサイコ・スリラー的エピソードです。名優ピーター・カッシングが、動物ばかりでなく人間を対象に実験を行い始める老人を演じていますが、表面上善人でありながら、にじみ出る狂気が感じられるという特徴的なキャラクターになっていますね。
 主人公が前科者で、いろいろ問題を起こしているために警察には連絡できないというのもポイントで、後半では、夫チャックを心配した妻アニーが、夫を助けるために奔走するという展開になります。ようやくブルックから逃れられたと思ったら…という最後の「オチ」も強烈です。


「天使たちの伝説」
 休暇中のトムとサラの夫婦は、目的地に向かう途中で自動車が故障して、森の中で立ち往生してしまいます。偶然見つけた森の中の屋敷を訪ねると、その家の主婦アードイ夫人に歓待されます。すぐに救援が来ないとわかった夫妻は、その家に泊めてもらうことになります。
 家には沢山の子供がいましたが、どの子も様子が普通ではありません。車に荷物を取りに戻ったトムは異様な怪物に襲われ、舞い戻ってきます。アードイ夫人は鹿を見間違えたのではないかと言いますが、トムは納得できません。夜は部屋から出ないようにと言われたサラは不安に駆られますが…。

 前半は雰囲気のあるゴシック調の屋敷で怪奇ものとして展開され、後半は家に戻った妻が変貌するサイコ・スリラー、といった構成になっています。
 典型的な怪物ホラーかと思いきや、異様な雰囲気の主婦や、その怪しい子供たちは何者なのか? という謎もあり、飽きずに観られます。
 気がつくと病院におり、あの館での体験は夢だったのか…という流れも上手いですね。古いタイプの怪奇ものを構成の妙で魅せるといった感じの作品でしょうか。


「サイコの爪」
 家族旅行の最中、田舎道を車で走っていたルイス一家は、突然飛び出してきたレインコートの男に驚きますが、夫のマーティンは男をヒッチハイクさせてやろうと車に乗せます。直後に男はマーティンに襲いかかり、車は事故を起こしてしまいます。
 妻のジャネットが目を覚ますと、そこは病院で、息子のデイヴィッドは無事だったものの、夫は首の怪我のため口がきけなくなっていました。夫を襲った男は死んだと聞かされたジャネットは死体を確認しますが、その顔はマーティンとそっくりでした。
 やがて退院したマーティンを迎えたジャネットでしたが、その異様に伸びた爪をみて、夫を襲った男の手を思い出します。夫が入れ替わっているのではと考えたジャネットは、再度、男の死体を確認することにしますが…。

 事故後に再会した夫が何者かと入れ替わっているのではないかという、妻の疑惑をメインとした不条理スリラーになっています。察しの通り、夫は入れ替わっているのですが、それがわかっても色々と不明点が多いです。
 いわゆる「ドッペルゲンガー」テーマを扱っていますが、本当に起こっている現象が「ドッペルゲンガー」なのかも含めて解釈がいろいろ出そうな作りで、何とも不気味かつ魅力的なエピソードになっています。
 このシリーズでは最も評価の高いエピソードのようですが、確かにトラウマになりそうなお話ではありました。


「ウサギの詩」
 息子のウィリアムを亡くした後、モートン夫妻は養護施設からジェイムズを養子に迎えます。しかしジェイムズが来てからモートン家には不思議な事件が多発していました。
 またジェイムズ自身、不可解な言動を繰り返して夫妻を困惑させます。植物学者であるモートンは、食糧事情を解決するための研究を、ウサギを実験台に行っていました。食料機関の代表者が視察に訪れた日、ジェイムズは犬の散歩に出かけますが、ちょうどウィリアムの墓を通る際に犬が突然暴れ出します…。

 息子が怪死(おそらく父親の研究で作られた薬を飲んで死亡)した後、養子の子供を引き取りますが、その子供が来て以来、怪奇現象が起こり始める…という話です。子供が悪意を持っている、もしくは悪魔の手先だというパターンかと思っていると、養子の子供自身には悪意はなく、霊能力を持っている少年を通して、死んだ実子が何かを訴えようとしているのではないかという流れになります。とはいえ、少年のキャラクターの言動が非常に不気味で、最後までどうなるのかはわかりません。
 客観的にはバッド・エンドにも関わらず、ハッピーエンドのような結末もユニークですね。


「人形の牙」
 急死した叔父の遺産として骨董品や絵画を相続したグラハム。妻のセーラは骨董品の中からアフリカで呪術に使われていたという呪い人形を気に入り、それを持ち帰ることにします。
 財産の大部分は、いとこのマークが相続していました。マークが出資することで、グラハムとフィルとともにCMプロダクションを設立する約束になっていたにも関わらず、マークは約束を反故にして資産を馬に投資すると言い出します。
 怒ったグラハムはマークのことを考えながら人形にナイフを刺しますが、その後マークは乗馬中の事故で死んでしまいます。呪いが本当に効いたのかと驚くグラハムでしたが、その直後にフィルが撮影中の事故で命を落としてしまいます。その後もグラハムの周りで関係者の死が相次ぎ…。

 呪いの人形によるヴードゥーの魔術を扱ったエピソードです。呪いの結果、自分たちにも危害が及ぶことがわかり、主人公夫妻は呪いを解くために奔走することになります。オーソドックスな展開で話はだいたい読めてしまうのですが、主人公夫妻が助かるのか否か、というところにサスペンスがありますね。
 主人公の妻セーラが黒人でありながら理性的で、むしろ呪いを深く信じるのが白人である夫グラハムであるというのも面白い設定です。


「13回目の晩餐」
 婦人欄担当の女性記者ルースは、病院で主催している減量の会に潜入して記事を書いてほしいという依頼を受けます。会でベンという男性と出会ったルースは彼に惹かれますが、間もなく自動車事故でベンは死んでしまいます。
 葬式の日に、葬儀社の社員アンドリューに声をかけられたルースは、彼から、社長と上司が定期的に太った人間の死体をどこかに運んでいるらしいということを聞きます。深夜に納骨堂に忍び込んだルースとアンドリューは、ベンの棺の中が空っぽであることを発見しますが…。

 太った人間を集める減量の会、定期的に消える死体の行方…。観ていると何となくネタがわかるタイプの話ではありますが、主人公の女性記者が活動的で場面展開が早いのもあり、終始楽しく観れます。ひねりはあまりないものの、語り口の面白さで見せるブラック・ユーモア作品です。
 スタンリイ・エリン「特別料理」、あるいはガストン・ルルー「胸像たちの晩餐」などを思わせる話、というとネタバレになってしまうでしょうか。


「地獄の刻印」
 病院の解剖室で助手を務めるエドウィンは、ある日、電気ドリルで自らの頭に穴を開け自殺した男ホルトが、悪魔のビールスに冒されたと信じていたということを知ります。精神的なバランスを崩したエドウィンは、自らも悪魔によるビールスに感染したと思い込みます。
 エドウィンの家の間借り人である未婚の母ステラはエドウィンを誘惑しますが、やがて母親が悪魔の一味だと信じ込んだエドウィンは母を刺殺してしまいます。ステラは死体の始末を手伝うばかりか、異様な行動をし始めます…。

 悪魔に狙われていると信じ込んだ男を描いた異様なサスペンス・ホラーです。序盤から、主人公は精神のバランスが不安定な人間として描かれているため、その疑いが本当なのか、彼の妄想なのかがわからないようになっています。
 特定の数字が悪魔の印だと思い込んだり、周りの人間が皆敵なのではないかと思い込んだりと、主人公エドウィン役の俳優が演技力豊かなのも相まって、異様な迫力があります。物語自体はかなり混沌としていて、分かりにくい話ではあるのですが、妙に心に残るエピソードとなっています。


「美の迷路」
 不動産業者のノーマンの事務所を男が訪れます。彼は管財人であり、亡くなった持ち主から屋敷の処分をまかされているというのです。屋敷を売るにあたって下見をして欲しいと言われたノーマンは屋敷を訪れます。荒れ果てた屋敷の中で、ノーマンは「なぜ奥さんを殺した?」という不思議な声を聞きます。
 妻は死んでいないというノーマンの前に、エレベーターから妻の死体が転がり落ちます。目が覚めると、ノーマンは妻エミリーと一緒のベッドに寝ていました。夢だったのかと安心したノーマンでしたが、秘書のローリーから、実際に屋敷のあった場所を訪れてみたらと言われ、そこを車で訪れます。しかしその場所には屋敷はありませんでした…。

 悪夢を繰り返し見る男を描いた作品です。悪夢の中ではたびたび古い屋敷が登場し、奥さんを殺したと責められるのですが、実際の妻は生きているのです。秘書のローリーと結婚したいと考えているノーマンは妻に離婚を持ちかけますが、相手にしてもらえません。 悪夢が終わり、目が覚めたという描写がありながら、それがさらに別の夢だった…という非常に手の込んだ構成のエピソードになっています。それが多重に繰り返され、観ている人間も、どこからどこまでが夢なのかわからなくなってしまうのです。
 しかも、過去の悪夢を全て記憶しているノーマンに対し、妻エミリーや秘書ローリーなど他の人物はそうした記憶はありません(夢なので当然なのですが)。妻に離婚を切り出した話も、「次」の悪夢では妻には伝わっていないことになっているのです。
 何度も繰り返される、ベッドで目を覚ます描写も、その部分だけは現実なのか、それも含めて夢なのかもはっきりしなくなってきて、何とも眩暈のするようなお話になっていますね。
 夢が変わるごとに、秘書ローリーの格好や雰囲気が一変しているのも面白い趣向です。セクシーな格好だったりパンクな格好だったりと容姿が変わっているのはもちろん、同一人物がまるで性格の異なった人物として登場していながら、「主人公」のノーマンはそれが当たり前であるかのように振る舞っているのが、いかにも「夢」感を醸し出しています。
 悪夢だけに、毎回不条理な展開と主人公がひどい目にあって目を覚ます…という繰り返しが続くのですが、最後には現実に戻る…と思いきや、それさえも悪夢であるように思わせる描写があったりと、最後まで気が抜けません。
 例えば、ジョン・コリアの「夢判断」や、チャールズ・ボーモントの「トロイメライ」など、異色作家による夢ファンタジーを思わせるようなエピソードで、これは夢を描いた映像作品として傑作の一つといってよいのではないかと思います。


「疑惑の弾痕」
 恋人ハリーが出張中、一人で家で休んでいたペニーは深夜ドアを突き破って侵入した男に襲われます。ペニーは、とっさに部屋にあった猟銃で男を撃ってしまいます。ショックで気を失ったペニーは、帰ってきたハリーとともに部屋から消えていた男の行方を探しますが、彼は森の中で死んでいました。
 男はハリーのギャンブル仲間チャールズであり、彼はハリーへの借りの取立てにやってきたようなのです。ハリーは違法に猟銃を所持していたことから、ペニーは精神の病を抱えており病院に連れ戻されるのを恐れて、二人は死体と車の証拠隠滅を図ります。
しかしその直後から、ペニーはチャールズの幻影を何度も目撃するようになります。ペニーは、ハリーの知り合いである霊媒マーガレットに相談を持ちかけることになりますが…。

 正当防衛とはいえ殺してしまった男の亡霊に付きまとわれる女性を描いたエピソードです。元々精神に問題を抱えている女性が、罪の意識と、幻覚(かどうかは途中の時点ではわかりません)から、どんどんと追い詰められていくというサスペンスが見所でしょうか。警官に質問されたり、ほかの人への態度を自然なものに装ったりしようするシーンはヒロインの不安定さがにじみ出ていて見事ですね。白昼、ヒロインの目の前に現れる血まみれの男はかなり怖いです。
 後半ひっくり返しがあるのですが、ミステリ好きな人なら展開の予想がつくかもしれません。似た傾向の作品でいうと、マーク・マクシェーン『雨の午後の降霊会』あたりと似た印象がありますね。クライム・サスペンスとゴースト・ストーリーが融合したタイプのエピソードです。


 間違いなく一番インパクトがあるエピソードは「サイコの爪」。ドッペルゲンガーテーマの話なのですが、シュールな展開とその不条理さで一見の価値があります。
 あと夢テーマの「美の迷路」、魔女とサイコ・スリラーを組み合わせた「魔女の復讐」、夫婦が老人に監禁されてしまう「戦慄の叫び」、ブラック・ユーモアに富んだ「13回目の晩餐」、妄想のある男の幻覚と悪魔崇拝を絡ませた「地獄の刻印」などを面白く観ました。
 DVDも廃盤で、最近は観るのが難しくなっていますが、ホラーファンには楽しめるシリーズだと思います。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

怪奇画廊  『四次元への招待』
四次元への招待 -日本語吹替音声収録コレクターズ・エディション- [DVD]
 『ミステリーゾーン』の後に、ロッド・サーリングが関わったオムニバスドラマシリーズ『四次元への招待』(原題『ナイト・ギャラリー』)。パイロット版三話はビデオ時代から発売されていましたが、今回第一シーズンがまとめてDVD-BOX化されました。
 SF・ファンタジー寄りだった『ミステリーゾーン』に比べ、『四次元への招待』は全体にホラー味が強いのが特徴です。

●パイロット版

「復讐の絵画」
 遺産目当てに伯父を殺した甥は、伯父の死後、屋敷に飾られた伯父の絵がだんだんと変化するのに悩まされていました。執事に訊いてみても絵に変化はないというのです。絵の変化は自分にしか見えないのだろうか…。
 殺した伯父の描いた絵が変化するという絵画怪談です。墓地の情景に棺桶が現れたり、そこから死人が起き上がってきたりと、物語の展開が絵だけで表されるという技巧的な作品です。M・R・ジェイムズ風の怪奇的な雰囲気がたまりません。

「アイズ」
 資産家の夫人メンロー女史は、生まれつき目が見えませんでしたが、他人の視神経を移植することで一時的に視力を回復する手術を行います。しかし視力を回復したとしても数十時間しか持たないこと、他人の視力を奪うことになることから、医師は反対しますが、医師の弱みを握ったメンロー女史は無理矢理手術を決行しまう…。
 若きスピルバーグの監督作で、超自然味はないものの非常に面白いサスペンスに仕上がっています。皮肉な結末も魅力的です。

「絵になった男」
 アルゼンチンに潜伏中のナチ戦犯ジョセフは、追い詰められたストレスから精神を消耗していました。ある日美術館で見た釣り人を描いた絵に惹かれた彼は、絵を見ている内に一時的に絵の世界の中に入ってしまいます…。
 主人公である戦犯の男が精神的に追い詰められていく過程をじっくり描いていて重厚な作品です。悪人だけれども同情の余地があるように描かれていて、それでも残酷な結末になってしまうというのには味わいがありますね。


●第一シーズン

「生と死」
 レッドフォード博士は、精神的な暗示により肉体に様々な病を再現できる特異体質の青年を使って研究をしていました。「完全な健康体」の暗示をかけられた青年は輝くばかりの肉体美を発揮しますが、博士の妻は青年に夢中になってしまいます。催眠術による仮死状態の実験中、青年は目を覚まさなくなってしまいますが…。
 催眠をテーマにした怪奇作品です。催眠術にかけられたまま死んだ青年はどうなってしまうのか? という、ポオの「ヴァルドマアル氏の病症の真相」を思わせる怪奇譚になっています。
 演出が上手く、なかなかに怖いエピソードになっています。原作はフリッツ・ライバー「死んでいる男」(仁賀克雄訳 マイクル・パリー編『フランケンシュタインのライヴァルたち』ハヤカワ文庫NV 収録)。

「家政婦」
 資産家で美人ながら性格の悪い妻。彼女から離婚を切り出される寸前の夫は、黒魔術を使って家政婦と妻の人格を入れ替えようと考えますが…。
 人格入れ替わりをテーマにした作品です。カエルを使った黒魔術の様子が何ともおかしいですね。ブラックなコメディ作品です。

「窓からの景色」
 寝たきりでベッドから動けない資産家ジェイコブは、双眼鏡で外を眺めているうちに、妻と運転手の浮気に気付きます。運転手と婚約中の看護婦にある用事を言い渡すジェイコブでしたが…。
 これはファンタジーではないクライム・ストーリー。達観した資産家のキャラクターにブラック・ユーモアが効いていますね。
 ロッド・サーリングのドラマというよりは、『ヒッチコック劇場』的な感覚が強いですね。

「小さい鞄」
 元医師ながらホームレスに落ちぶれてしまった老人ウィリアム。彼がゴミ箱から見つけたのは医者の診療鞄で、中には見たこともないような器具が詰まっていました。ウィリアムはその道具を使って、少女の重い病気を治すことに成功します。
 鞄が未来から送られてきたものだと考えたウィリアムは、それを使って人々の病気や怪我を治そうと考えますが…。
 未来の医療器具を手に入れた元医師が、それを使って人々を癒やそうとする物語です。予算の関係なのか、手術や治療の際の特殊効果は全く写されず、メスや道具を振り上げた状態で次のシーンに行ってしまうのがちょっと残念。
 原作は、C・M・コーンブルースのSF短篇「小さな黒いカバン」(逸見一好訳「SFマガジン1974年8月号」早川書房 収録)です。

「見えざる敵」
 月面基地の建築のために送られた隊員からの連絡が途絶え、救助に向かった宇宙飛行士から宇宙センターに連絡が入ります。人々の姿は全くなく、ようやく彼が見つけたのは奇妙な人工物でした…。
 月にいた「敵」とは何なのか? ちょっとブラックなSFホラー作品です。

「夢に見た家」
 サナトリウムを退院する直前の若い女性は、主治医に自分が何年も見ているという夢の話をし始めます。それは車に乗った自分が、通りかかった美しい家の前で車を降りてドアのノッカーを叩くという夢でした。ドアが開かれる直前に夢はいつも終わってしまうのです。
 どこかで見た家の記憶が無意識に残っているのではと主治医は話しますが、女性は釈然としません。退院した女性は来るまで走っている途中に、夢の家と瓜二つの家を見つけます。たまたま居合わせた不動産屋の男からちょうど家が売りに出されていることを知り、家を買う決心をする女性でしたが、不動産屋からこの家には幽霊が出るということを聞かされます…。
 原作はアンドレ・モーロワ「夢の家」(矢野浩三郎訳 各務三郎編『世界ショートショート傑作選1』講談社文庫 収録)です。非常に魅力的なエピソードだったのですが、原作のモーロワ作品はかなり短いショート・ショートだったはず。
 ちょっとこちらも読み直してみました。主人公の女性が夢に見た家を訪れるという流れは同じです。大きく違うのは女性が入院していたり主治医と話すような描写はないことと、夢の家を訪れた際にそこで管理人と出会って詳細を聞かされる、というところでしょうか。基本的に原作はオチでびっくりさせる作品なのですが、ドラマの方は詳細を膨らませ幻想的なエピソードにしている感じですね。
 ドラマ版では、夢の家を買って自分で住むようになってからの展開を描いているところが興味深いです。単純なオチのある話ではなく、ちょっと哲学的な味わいもある幻想譚になっていて、これは魅力的なエピソードでした。

「影を残すもの」
 屋敷の主である長女のエマは死の床についていました。姉の世話をするために呼ばれている医師の弟スティーヴンは、もう二人の姉レベッカとアンに、エマはあと数日の命だと話します。まだ生きているエマの遺産について話すスティーヴンに二人の姉は眉をひそめますが、その最中にエマが亡くなります。
 その直後から、壁にエマと思しい影が出現します。光線の具合を変えても家具の位置を変えてもその影は消えません。ペンキで塗りつぶしてしまおうとするスティーヴンでしたが、それでも影は消せません…。
 原作はメアリー・ウィルキンズ・フリーマン「壁にうつる影」(梅田正彦編訳『ざくろの実 アメリカ女流作家怪奇小説選』鳥影社 収録)。重々しい雰囲気に満ちた、ゴシック調のゴースト・ストーリーです。
 古屋敷に住み、病床の姉と遺産をめぐっていがみ合う姉弟たち。ドロドロとした人間ドラマの背景に、怪奇現象が起き続ける…というエピソード。幽霊そのものは出現せず、ただ壁に映る影が映し出され続ける、というシンプルな演出ながら、怖さは一級です。
 結末の処理もさらに怖いです。サイコ・スリラー的な怖さと超自然現象の怖さが相乗的に現れているという作品ですね。原作とは設定や登場人物を変えていますが、原作の味を生かしつつ、ドラマならではの効果も出せている秀作だと思います。

「笑いを売る男」
 売れないお笑い芸人のジャッキーは、酒場で“奇跡を起こす男”を名乗る男に出会います。何でも願いを叶えることができるという男に、ジャッキーは自分の話で人々が笑うようにしてほしいと頼みます
 男は自分の願いは不完全であり、必ず副作用を伴うといいますが、ジャッキーは押し切って願いを叶えます。やがてジャッキーが口を開くだけで、人々は爆笑するようになりますが…。
 あらゆる人間を笑わせる能力を手に入れた男が皮肉な運命に直面する…というストーリーです。主人公の芸人が必死でギャグを言うものの、観客がみな冷めている、というシーンの演出は冴えていますね。

「追う者と追われる者」
 狩りこそ人生だと称する元軍人の父親に、息子は根性なしと罵られていました。弁護士から、亡き妻から息子への信託財産のサインを求められた父親は、その条件として息子に野生の獣を一頭殺すことを求めます。
 息子は反発しながらも、父親に従って狩りに出ます。一方、父親に仕えていたアフリカ人の召使いは呪術の儀式を行っていました…。
 強圧的な父親と心優しい息子との対立が描かれる作品です。息子を罵倒し続ける父親に対して、息子が銃を構えるシーンにはインパクトがあります。正直、親子の対立を描く部分と、召使いが行う呪術の部分とが少々ミスマッチなきらいもあるのですが、親子間のドラマ部分が秀逸なのであまり気になりません。

「死してのち」
 ジョナサンの前に死んだ妻の亡霊が現れ、生前と変わらぬおしゃべりを始めます。ジョナサンはそんな妻に嫌気がさして彼女を殺したというのですが…。
 妻を殺した夫がその死後も妻の幽霊のおしゃべりに悩まされるというブラックな短篇です。

「ただ一人の生存者」
 客船に救助された遭難者の男は、タイタニック号が沈没する際に脱出したと話します。しかしタイタニック号が沈んだのは三年も前のことなのです。戦時中ということもあり、船長や医師たちは、男がドイツのスパイなのではないかと疑いますが…。
 男の正体はいったい何なのか? 『ミステリーゾーン』風の奇妙な味の物語です。

「呪いの人形」
 インド帰りの軍人マスターズ大佐が家に帰ると、姪は気味の悪い人形で遊んでいました。人形はインドから送られてきており、家庭教師は大佐の贈り物だと考えていましたが、大佐はそんなものは送っていないと言います。姪によれば、人形は頻繁に話しかけてくるというのですが…。
 届けられたインドの人形の呪いにより家の主人が殺されてしまうという話です。原作はアルジャーノン・ブラックウッドの「人形」『幽霊島 世界恐怖小説全集2』(平井呈一訳 東京創元社 収録)という短篇です。
 原作からちょっと詳細を変えているのですが、大きく変えているのが結末。原作は原作で怖いのですが、このドラマ版も、結末はかなりショッキングで怖いですね。登場する人形の造形もかなり気味が悪いです。

「過去からの歌声」
 かっては才気豊かだった販売部長ランディは、中年になり気力を失っていました。思い出すのは若い頃、亡き妻がまだ生きていたころのことばかり。若き日に通った馴染みの酒場が壊されるのを知った彼は段々と投げやりになっていきます…。
 「ミステリーゾーン」の名エピソードを彷彿とさせる、ノスタルジックなテーマのエピソード。度々過去の世界に足を踏み入れようとする主人公が描かれるのですが、単純な「逃避」にはならない展開には奥深いものがありますね。評価の高かった脚本ということですが、確かに名作エピソードだと思います。

「あやまち」
 半身不随で寝たきりになった男は、妻と主治医とが不倫をしていると思い込んでいました。意思の力で霊体化したまま動けることが出来るようになった男は、主治医を殺害しようと考えますが…。
 超自然的な能力を利用して殺人を考えた男の話。オチは非常にブラックですね。
原作はデイヴィス・グラッブ「離魂術」(柿沼瑛子訳『月を盗んだ少年』ソノラマ文庫海外シリーズ 収録)です。


 この『四次元への招待』、ロッド・サーリングが深く関わったシリーズということで、もう一つの『ミステリーゾーン』的な印象が強いのですが、実際のところ、怪奇・ホラー色が思った以上に強く、ホラーファンに訴えるところのあるシリーズではないかなと思います。サーリングのオリジナル脚本にしても怪奇色が結構強いですし。
 印象に残ったエピソードとしては、死んだ叔父の絵画が変化するという怪奇談がひねりをつけて語られる「復讐の絵画」、特異体質の青年に催眠術をかけ死なせてしまうという「生と死」、未来の医療器具で人々を直そうとする元医師の物語「小さい鞄」、夢に見た家を実際に手に入れるという「夢に見た家」、死んだ長姉の影が壁に映り続けるという「影を残すもの」、タイタニック号の生存者だという男が三年ぶりに救助されるという「ただ一人の生存者」、インドから送られてきた人形の呪いを描く「呪いの人形」、過去の時代を懐かしみその時代に戻ろうとする男を描く「過去からの歌声」などが挙げられるでしょうか。
 第二シーズン以降も、怪奇系のエピソードが多いらしく、そちらもぜひDVD化してもらいたいものですね。

 2018年末に、『四次元への招待』のガイドブックとして、尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』(洋泉社)が出版されています。ついでにこちらも簡単に紹介しておきますね。


ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本
尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』(洋泉社)

 「ミステリーゾーン」の生みの親、ロッド・サーリングのもう一つの代表的アンソロジー・ドラマシリーズ『四次元への招待』を紹介したガイドブックです。
 ドラマのエピソードガイドだけでなく、シリーズが作られることになった由来や製作者・番組に関わった人々についての解説、サーリング自身の伝記的な部分も面白く読むことができます。

 興味深いのは『ミステリゾーン』と異なり、『四次元への招待』に関してはサーリングが番組の全権を握っていたのではないということ。プロデューサーのジャック・レアードとの対立の中、苦心するサーリングの姿が描かれています。
 このジャック・レアードが古典怪奇小説のファンだったらしく、それもあって番組の怪奇色が強くなったようです。原作に取り上げられている作品は、怪奇幻想ファンにとっては魅力的なタイトルが並んでいますね。
 フリッツ・ライバー「死んでいる男」、アンドレ・モーロワ「夢の家」、メアリー・E・ウィルキンズ・フリーマン「壁にうつる影」、ディヴィス・グラッブ「離魂術」、マーガレット・セント・クレア「地震を予知した少年」、ジョルジュ・ランジュラン「他人の手」、ヴァン・ヴォクト「最後の魔女」、ジョーン・エイキン「ママレード・ワイン」、デイヴィッド・イーリイ「理想の学校」、コンラッド・エイケン「ひそかな雪、ひめやかな雪」、M・W・ウェルマン「悪魔を侮るな」、リチャード・マシスン「箱の中にあったものは?」、オーガスト・ダーレス「幽霊屋敷」「黒い髪の少年」、ラヴクラフト「ピックマンのモデル」「冷気」、R・C・クック「園芸上手」、リチャード・マシスン「葬式」、C・A・スミス「妖術師の帰還」、フリッツ・ライバー「飢えた目の女」など。ドナルド・ワンドレイやブラックウッドの未訳作品が原作のものもあるようです。

 編者の尾之上浩司さんによれば、出来の悪いエピソードも相当あるそうですが、怪奇幻想ファンとしては気になるエピソードがたくさんあります。例えば、ラヴクラフト原作、ロッド・サーリング脚色の「冷気」なんてすごく気になりますね。
 番組自体を観たことがない人でも、非常に面白く読める本ですので、ロッド・サーリングや怪奇幻想小説に関心のある人にはお薦めしておきたいと思います。版元の洋泉社が消滅した関係で、いずれ入手が難しくなると思いますので、興味のある方は今のうちに。

テーマ:ホラー映画 - ジャンル:映画

最近観た映画と「怪奇幻想映画ベスト」
 最近観た映画について、感想をまとめておきたいと思います(といってもホラー映画ばかりですが)。


ハッピー・デス・デイ ブルーレイ+DVD [Blu-ray]
クリストファー・B・ランドン監督『ハッピー・デス・デイ』(アメリカ 2017)

 主人公が何度も同じ一日を繰り返すという「ループもの」に、殺人鬼と犯人探しの要素を加えた作品です。
 性悪なヒロインがパーティーの翌日に見知らぬ青年の部屋のベッドで目を覚ましてから、同じ一日がずっと繰り返されるという物語。しかも最後には必ず仮面をかぶった殺人鬼に殺されてしまい、その結果、もとの時間・場所に戻ってしまうのです。
 ヒロインの性格が悪いため、必然的に協力者はおらず、そのため何度も殺人鬼に殺されてしまいます。やがて自らの行動を振り返ったヒロインが改心しつつ、純粋に恋をするようになる…という流れは上手いですね。
 ループとはいいつつ、殺されるたびにヒロインの体にダメージが蓄積されていく…という設定も秀逸。無制限のループというわけではないのです。コメディ的な演出もありながら、ループの性質や殺人鬼の正体を探っていく過程はサスペンスたっぷりで楽しめます。



ハッピー・デス・デイ 2U ブルーレイ+DVD [Blu-ray]
クリストファー・B・ランドン監督『ハッピー・デス・デイ 2U』(アメリカ 2019)

 『ハッピー・デス・デイ』の直接的な続編になっており、ループから逃れたばかりのヒロインが再び同じ一日のループに巻き込まれてしまいます。面白いのは「平行世界」のアイディアを持ち込んでいることで、ヒロインが新たに巻き込まれたループ世界は、元の世界とは違う世界だったという設定。
 登場人物は共通しているものの、性格や行動が異なっていたり、人間関係も少しづつ異なっているのです。こちらの世界では、前作で主人公が殺される原因になった事件が起きておらず、それゆえ、前作と殺人鬼の正体が異なる…というのも面白い仕掛けです。
 結果として、前作を観ていると、先入観によるミスディレクションが発生してしますのです。主人公は元の世界に戻ろうとしますが、そこである葛藤に巻き込まれてしまいます。元の世界に戻るのか、今の世界にとどまるのか…? 主人公の決断がどうなるのかという部分も興味深く観れますね。
 一作目では、ループもの映画の名作『恋はデジャ・ブ』、二作目では、タイムトラベル映画の金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイトルが作中で言及されるのですが、それらを含め、ところどころに過去のジャンル映画の影響やオマージュ的な表現が見られるところも面白いです。
 殺人鬼がかぶる仮面が、スラッシャー映画『スクリーム』の殺人鬼を思わせるなと思っていたら、デザインしている人は同一らしいです。
 わざとループさせるために主人公が自ら死ぬ…というブラックなシーンもありますが、基本コメディ調に展開される物語で、残酷シーンなども控えめです。ストーリーの面白さで見せる作品で、これはお薦めしたいですね。
 特に二作目は、一作目の内容自体を伏線とした話になっており、ミステリ好きの人にも楽しめる作品だと思います。



霊的ボリシェヴィキ [DVD]
高橋洋監督『霊的ボリシェヴィキ』(日本 2017)

 廃工場に集められた数人の男女、彼らは皆何らかの形で「死」に触れたことのある人間でした。子供の頃に数ヶ月神隠しにあったことのある由紀子は、婚約者に連れられて会合に参加します。彼らの目的はそれぞれの怪異を語ることにより「あの世」を呼び出そうというものでした…。
 基本的には「百物語」といっていいのでしょうか。怪を語ることにより怪を呼び出そうとする…というテーマなのですが、演出が斬新です。それぞれの登場人物の語りが回想シーンにはならず、ほとんど人物が話すだけ、という地味な展開なのですが、音響の上手さもあり、見ていて「怖い」のですよね。
 話と話の合間に、ふとした違和感や怪異現象のかけらのようなものが挟まれていくのが雰囲気を高めています。主人公由紀子の話を含め、正直なところ、物語の真相ははっきりわからないのですが、とにかくすごい作品を観た、という感覚があります。
 ネットの評を見てもあんまり指摘している人がいないようなのですが、これもしかしてアーサー・マッケンの影響があるんじゃないでしょうか。ところどころマッケン的なモチーフが現れるのと、「パンの大神」を思わせる部分もあります。
 幽霊や怪異の描写もあるのですが、基本的には地味な演出なので、明確なホラー映画を求める人には物足りないかもしれません。ただ「行間を読む」と、いろいろ面白い演出や展開にあふれた映画作品です。古典怪奇小説が好きな人にはすごく面白い映画じゃないでしょうか。
 タイトルもそうですが、突然歌を歌いだしたり、怖い話をしている最中に笑い出したりと、妙な「笑い」の要素があるにもかかわらず、全体としては「怖い」という稀有な作品です。
 シュールかつ前衛的なホラー映画で、観る人は選びそうですが、個人的には面白く観れました。



ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談 [DVD]
ジェレミー・ダイソン、アンディ・ナイマン監督『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(イギリス 2017)

 幽霊現象を暴くのが仕事の合理主義者グッドマン教授が、失踪していた高名な同業者のキャメロン博士から連絡をもらいます。キャメロン博士は自分の仕事は間違っていた、心霊現象は全て存在すると主張します。
 懐疑的なグッドマンに対して、キャメロン博士は3つの超常現象の事件の調査を依頼しますが…。
 探偵訳の教授が3つの事件を順番に調査していくという、いわゆる「ゴースト・ハンターもの」風の展開なのですが、その後が斜め上の展開で、説明しにくいのですが、ここら辺の感覚、小説作品で言うとジョナサン・キャロルっぽいのです。
 この映画については賛否両論で、否定派が結構多いようですね。3つの心霊現象事件がありふれていて「陳腐」であるという意見もありました。でもこの映画、事件がありふれているのはわざとであって、それが結末につながっている感覚が強いのですよね。
 観ているときよりも、観終わって反芻すると評価がぐんと上がるタイプの作品です。ジョナサン・キャロル作品が好きな方とか、幻想小説とミステリとのハイブリッド作品なんかが好きな方は、すごく気に入る作品だと思いますのでお薦めしておきます。



人喰いトンネル MANEATER-TUNNEL [DVD]
マイク・フラナガン監督『人喰いトンネル』(アメリカ 2010)

 アメリカの田舎町、隣町に続く小さなトンネルのそばに住む主婦トリシアは、七年前から失踪した夫ダニエルをずっと探し続けていましたが、捜索をあきらめ死亡証明書を出してもらおうとしていました。そんな折、かって麻薬中毒だったトリシアの妹キャリーが数年間の放浪生活から家に帰ってきます。
 キャリーはジョギングの最中、トンネルで浮浪者のような男から助けを求められますが、そのまま走り去ってしまいます。トリシアは失踪事件の担当の刑事マロリーと恋仲になっており、お腹には赤ん坊もいました。
 マロリーとの新生活を始めようとするトリシアでしたが、日常生活のあちこちで、夫ダニエルの幻影が見えるのです…。
 中盤までは、失踪した夫をあきらめ、新しい恋人と生活を始めようとしている姉、麻薬中毒から更生した妹と、どこかシリアスなホームドラマのような雰囲気で話は進みます。その間に、モチーフにもなっているトンネルの不気味な描写がはさまれますが、あまり物語は進展しません。
 主婦トリシアがやたらと夫の幻影を見るシーンが挿入され、おそらく夫は死んでいるのではないかと思わせます。死者の幻影に悩まされる女性の話なのかなあと思っていると、中盤から意想外の展開に。夫の生死が判明するのですが、そこからが奇想SFのような展開になります。
 とはいいつつ、終始、派手なエフェクトもビジュアルもない低予算の作品で、あくまで登場人物たちの心理を地道に描いていくのがメインの作品になっているので、はっきりしたホラー作品を好む人には不評かもしれません。
 たぶんお話のネタとしては、ありふれたB級のそれなのですが、シリアスな演出や語り口で装い直した…というタイプの作品です。こんな語り口もあるんだ、という面白さがありますね。かすかなクトゥルー風味もあったりなど、見所のいろいろある作品だと思います。 地味ではあるのですが、面白い発想・演出の作品でした。



(r)adius/ラディウス [DVD]
キャロライン・ラブレシュ、スティーヴ・レナード監督『(r)adius ラディウス』(カナダ 2017)

 交通事故で記憶を失った男リアムは、近くの町を訪れますが、その町の住民は皆死んでいました。ようやく生存者を発見するも、彼が近づこうとすると、突如として目の前で死んでしまいます。やがて分かったのは、リアムの半径50フィート以内に近寄った人間は死亡してしまうということ。
 人間を避け家に隠れ潜んでいたリアムでしたが、家を訪れた女性が即死しないのを見て驚きます。リアムと同じく記憶喪失だという女性ジェーンがそばにいる限り、リアムの能力は抑えられることがわかります。二人はこの能力の謎について調べようとしますが…。
 なぜか近づくだけで即死してしまうという能力を持った男を描いたSFホラー作品です。記憶喪失の男が、人に助けを求めようとしてもどんどん目の前で死んでしまう…という序盤の情景はインパクト充分です。主人公の能力を抑える女性が登場してからは、いかに引き離されずに行動できるか、というのがポイントになります。
 殺人の容疑者となってしまった二人が警察に追われてしまう…という展開もお約束ながらサスペンスたっぷりです。説明不足なところもあるので好き嫌いは分かれると思いますが、アイディアの優れた面白い作品ですね。


 ついでに、以前に考えてtwitter上に公開した「怪奇幻想映画ベスト」を挙げておきたいと思います。オールタイムベストの他に、ジャンル別にいくつかベストを作ってみました。


顔のない眼 [DVD] サラゴサの写本 [DVD] ザ・チャイルド 30周年特別版 [DVD] ザ・ブルード/怒りのメタファー [DVD] サスペリア 4K レストア版 Ultra HD Blu-ray 通常版 ゾンゲリア [Blu-ray] ペーパーハウス/霊少女 [DVD] デモンズ ’95 -HDリマスター版- [Blu-ray] マウス・オブ・マッドネス [Blu-ray] アザーズ [DVD]
<怪奇幻想映画ベスト>
『顔のない眼』(ジョルジュ・フランジュ監督 1960)
『サラゴサの写本』(ヴォイチェフ・イエジー・ハス監督 1965)
『ザ・チャイルド』(ナルシソ・イバニェス・セラドール監督 1976)
『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(デヴィッド・クローネンバーグ監督 1979)
『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督 1977)
『ゾンゲリア』(ゲイリー・シャーマン監督 1981)
『ペーパーハウス 霊少女』(バーナード・ローズ監督 1988)
『デモンズ'95』(ミケーレ・ソアヴィ監督 1994)
『マウス・オブ・マッドネス』(ジョン・カーペンター監督 1994)
『アザーズ』(アレハンドロ・アメナーバル監督 2001)


恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ Blu-ray イベント・ホライゾン デジタル・リマスター版 [DVD] ファイナル・デスティネーション [Blu-ray] -less[レス] [DVD] キャビン スペシャル・プライス [DVD] 恐怖ノ黒電話 [DVD] 私はゴースト [DVD] オキュラス/怨霊鏡 [DVD] ハウンター [DVD] パラドクス [DVD]
<奇想ホラー映画ベスト>
『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』(ジャック・ゴールド監督 1978)
『イベント・ホライゾン』(ポール・W・S・アンダーソン監督 1997)
『ファイナル・デスティネーション』(ジェームズ・ウォン監督 2000)
『-less レス』(ジャン=バティスト・アンドレア&ファブリス・カネパ監督 2003)
『キャビン』(ドリュー・ゴダード監督 2011)
『恐怖ノ黒電話』(マシュー・パークヒル監督 2011)
『私はゴースト』(H・P・メンドーサ監督 2012)
『オキュラス/怨霊鏡』(マイク・フラナガン監督 2013)
『ハウンター』(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督 2013)
『パラドクス』(イサーク・エスバン監督 2014)


たたり [DVD] チェンジリング [Blu-ray] インフェルノ [DVD] エンゼル・ハート [Blu-ray] スリーピー・ホロウ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] 回路 [DVD] 輪廻 プレミアム・エディション [DVD] フッテージ スペシャル・プライス [DVD] ジェーン・ドウの解剖 [Blu-ray]
<心霊・オカルトホラー映画ベスト>
『たたり』(ロバート・ワイズ監督 1963)
『リーインカーネーション』(J・リー・トンプソン監督 1977)
『チェンジリング』(ピーター・メダック監督 1979)
『インフェルノ』(ダリオ・アルジェント監督 1980)
『エンゼル・ハート』(アラン・パーカー監督 1987)
『スリーピー・ホロウ』(ティム・バートン監督 1999)
『回路』(黒沢清監督 2001)
『輪廻』(清水崇監督 2006)
『フッテージ』(スコット・デリクソン監督 2012)
『ジェーン・ドウの解剖』(アンドレ・ウーヴレダル監督 2016)


血みどろの入江 -HDリマスター版- [DVD] 影なき淫獣 完全版 -デジタル・リマスター版- [DVD] 悪魔のいけにえ 公開40周年記念版(価格改定) [Blu-ray] テラー・トレイン [DVD] 誕生日はもう来ない [DVD] シャドー -HDリマスター特別版- [Blu-ray] フェノミナ インテグラルハード完全版 デジタル・ニューマスター [DVD] アクエリアス -HDリマスター特別版- [Blu-ray] スクリーム [Blu-ray] ミッドナイト・ミート・トレイン [DVD]
<スラッシャーホラー映画ベスト>
『血みどろの入江』(マリオ・バーヴァ監督 1970)
『影なき淫獣』(セルジオ・マルチーノ監督 1973)
『悪魔のいけにえ』(トビー・フーパー監督 1974)
『テラー・トレイン』(ロジャー・スポティスウッド監督 1980)
『誕生日はもう来ない』(J・リー・トンプソン監督 1981)
『シャドー』(ダリオ・アルジェント監督 1982)
『フェノミナ』(ダリオ・アルジェント監督 1984)
『アクエリアス』(ミケーレ・ソアヴィ監督 1986)
『スクリーム』(ウェス・クレイヴン 1996)
『ミッドナイト・ミート・トレイン』(北村龍平監督 2008)

テーマ:ホラー映画 - ジャンル:映画

闘争と逃走  『プリズナーNo.6』
プリズナーNo.6 Blu-ray Collecter's BOX(5枚組) 『プリズナーNo.6』完全読本
 1967~1968年にかけてイギリスで放映されたテレビドラマシリーズ『プリズナーNo.6』。放映から50年以上が経ちますが、今でもその前衛的かつシュールな内容は高く評価され、カルト的な人気を博しています。
 最近、初めて全17話を鑑賞する機会があったのですが、よくこんな内容をテレビドラマでやろうと思ったなあ、というのが正直な感想です。

 一話完結の番組なのですが、毎回シュールなストーリーが展開されてびっくりします。 基本のストーリーは次のようなもの。諜報員らしき主人公が、職場を辞職して家を出ようとしたところ、拉致され謎の村に連れてこられます。その村では人々は数字で呼ばれていました。主人公は「No.6」と名付けられ、辞職した理由を聞かれ続けますが、絶対に話そうとしません…。

 村のトップは「No.2」と呼ばれる存在なのですが、毎回、主人公にいろいろな手段で口を割らそうとします。一方、主人公は村を脱出しようとしますが失敗してしまいます。いろいろバリエーションはあるものの、基本のストーリーは毎回このパターンです。

 ユニークなのは、敵方のトップ「No.2」が毎回変わること。特に説明はされないのですが、毎回「No.2」が新しくなるのです。その「No.2」も男だったり女だったり、若かったり年配だったりと様々。エピソードによっては、思わぬ人物が「No.2」だった…というパターンもあります。
 毎エピソード、「No.2」が交代するのはもちろん、一話の中で交代することもあります。更にその交替劇がプロットに組み込まれたエピソードまであるという複雑さ。

 敵の組織が秘密を聞き出すために行う手段や作戦が、非常に持ってまわったもので、村全体で主人公をあざむいたり、脱出できたように見せかけたりと、大掛かりかつ手間のかかるものばかりなところが、シュールな印象を強めています。
 面白いのは、主人公以外のレギュラーキャラが基本的に登場しないところ。それゆえキャラの掘り下げがなく、人間同士の関係性で話が展開してゆく…ということもありません。主人公を補助するキャラが登場しても、それが敵か見方かもわからないのです(大抵は敵なのですが)。

 主人公含め皆が番号で呼ばれること、舞台となる「村」や登場する機械類やガジェットにどこか「作りもの感」があること、ストーリー自体に抽象性が強いことなど、作品が全体に寓話的な空気を帯びているのも特徴ですね。

 このドラマに登場するユニークなガジェットの一つに、村人を監視・拘束する謎の白い球体「ローヴァー」があります。後半はあまり登場しなくなるのですが、存在感は強烈です。主人公が外部に逃げようとしても、大抵これにつかまってしまうのです。

 傑作エピソードは前半に集中している感じでしょうか。後半はかなりだれるエピソードも多い印象です。ただ最終二話はシュールさの桁が外れている感じで、一見の価値があるかと思います。
 面白かったエピソードとしては、壮大な脱出劇が虚構だったことがわかる第2話「ビックベンの鐘」、秘密を聞き出すため夢をコントロールされるという第3話「A,B&C」、閉鎖された村で行われる選挙を描く皮肉な第4話「われらに自由を」、主人公の偽者を用意し主人公自身が本物を演じている偽者だと思わせるという第5話「暗号」、村全体が突然もぬけの殻になる第7話「皮肉な帰還」、敵のはずの「No.2」を守る羽目になるという第11話「暗殺計画」、人格入れ替わりが行われるSF色の強い第13話「思想転移」などが印象に残ります。

 観ていて、あの作品に設定が似ているな…と思わせることが多いのは、後続の作品に広い影響を与えているという証拠でしょう。閉鎖空間に閉じ込められるというテーマの作品も、現在では珍しくなくなりました。ただ閉鎖空間なのに「デスゲーム」的展開にならないというのもこのドラマのユニークな点ですね。主人公がいくら反抗しようとも、敵の組織は彼を殺そうとはせず、また主人公も相手を殺そうとはしないのです。
 その意味で、主人公と相手の組織との関係は「馴れ合い」と見える部分もあり、作品全体が「箱庭」であるかのような印象も受けます。

 シュールかつ不条理なスリラーです。フランツ・カフカ、ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス、ディーノ・ブッツァーティ、カリンティ・フェレンツ。あるいは、リチャード・マシスン、J・G・バラード、トマス・M・ディッシュ。こうした作風の作家が好きな方には、面白く観れるシリーズではないでしょうか。

  ちなみに、尾之上浩司編「『プリズナーNo.6』完全読本」(洋泉社)は非常に参考になるガイドブックで、これを片手に視聴すると、より楽しめるかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

異世界のオムニバス  ラジオ・サイレンス他監督『サウスバウンド』
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キングレコード 2017-07-05

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 『サウスバウンド』(2015年 アメリカ)は、砂漠に面した街道を舞台に、それぞれゆるくつながった5つのエピソードを描く、オムニバス・ホラー映画です。それぞれのエピソードは、突然始まり突然終わる…といった感じの不条理感が溢れており、独特の味わいがあります。

ラジオ・サイレンス監督『The Way Out』
 街道を走る車の中の二人の男は血まみれでした。車の後ろからは、謎の怪物が空に浮かんだまま、追いかけてきます。
 立ち寄ったドライブインを出て、再び街道を走っていると、再び同じドライブインの前に来てしまいます。何度行っても同じ場所に戻ってしまうのです。その間にも怪物が近づいてきますが…。

ロクサーヌ・ベンジャミン監督『Siren』
 ガールズバンドを組んでいる3人の若い女性は、乗っている車が街道でパンクしてしまいます。通りかかった夫婦の家に一泊することになった3人でしたが、セイディ以外の2人は、食事に出された異様な肉を食べ、気分を悪くしてしまいます。2人は謎の薬を飲まされた直後、セイディを置いて姿を消してしまいます…。

デビッド・ブルックナー監督『The Accident』
 よそ見運転をしていたルーカスは、道に飛び出してきた女性を轢いてしまいます。救急車を呼ぶものの、場所がわからず呼ぶことができません。救命士から自ら病院へ患者を運ぶように言われたルーカスは、車で病院を探すことになります。
 やがて見つけた病院でしたが、なぜか誰も人がおらず、治療をすることができません。電話の主は、指示をするから、ルーカス自身に治療をして欲しいと話しますが…。

パトリック・ホーバス監督『Jailbreak』
 バーに銃を構えて入ってきた男は、自分は強盗ではない、妹を捜しているだけだと話します。突如、客の一人の手がかぎ爪に変化し、男の背中を襲います。銃で客の手を吹き飛ばした男は、妹を知っているという店主に案内をさせることになりますが…。

ラジオ・サイレンス監督『The Way In』
 夫、妻、娘の家族は、別荘で一家団欒をしていました。ドアを叩く音がしたかと思うと、仮面をかぶった3人の男が押し入ってき、夫妻は拘束されてしまいます。目的は何だと叫ぶ夫ですが、やがて理由に思い至り謝罪を始めます。娘だけは助けてくれと言う夫でしたが…。

 それぞれのエピソードは、ゆるくつながっています。例えば1話の登場人物が入ったモーテルの別の部屋に泊まっていたのが、2話目の主人公たちだったり、という感じです。
 内容はバラエティに富んでいて、1話は謎の怪物、2話はカルト教団、3話は不条理スリラー、4話は怪物の町、5話は集団殺人鬼がテーマとなっています。
 1話に登場する怪物の造形がなかなかユニークで、インパクトがあります。宙を飛ぶ骸骨といった感じの造形なのですが、他のエピソードにもちょこっとずつ顔を出します。5話目で再び怪物の由来にスポットが当たるという構成も見事です。
 5話全てがつながっているといっても、演出上ゆるやかにつながっているというだけです。直接、話がつながっているのは1話と5話だけで、他のエピソードは直接的な世界観はつながっていないようですね。

 一番面白かったのは3話目の『The Accident』。よそ見運転で人を轢いてしまった男が、自分で治療をする羽目になるという不条理スリラーです。
 事故を起こした現場の周りに何もなかったり、たどり着いた病院が無人だったりと、その時点で不条理感が満載なのですが、病院についてからの展開がさらに不条理で強烈です。
 電話でつながった救命士と医者(らしき人物)の指示の通りに、患者の治療を進めることになるのですが、指示通りにするたびに、患者の容態が悪化していくというブラック・ユーモアあふれる作品です。

 他のエピソードにも共通するのですが、起こっている現象や事件に対して説明があまり加えられないのが特徴です。例えば、4話目の怪物のいる世界は何なのか? とか、5話目の夫が過去に犯した罪は何なのか? など、わからないままのことが多く、それがまた不条理感を高めています。
 ただそれゆえに、明快な起承転結を求めるタイプの人には、もやもやした感じを与えがちな作品ではありますね。
 全体の整合性とかバランスなどを考えると「傑作」とは言いにくいのですが、妙な魅力がある作品です。曖昧な点が多いせいもあり、物語の「深読み」が可能であり、その意味で作品世界に広がりがあります。鑑賞した後、誰かと話し合いたくなるような面白さがありますね。

テーマ:ホラー映画 - ジャンル:映画

侵略する雨  イサーク・エスバン監督『ダークレイン』
B01MY27UGVダークレイン [DVD]
アメイジングD.C. 2017-04-05

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 世界中が激しい豪雨に見舞われていたある夜、人里離れたバスの待合所内では、数人の人々がバスを待っていました。しかしバスは数時間も遅れており、一向にやってくる気配がありません。
 客がいらだちを募らせるなか、ウィルスに感染したらしい人間が現れます。やがて一人一人感染者が増えていきますが、なぜか待合所からは出られません。ガラスは防弾になっており、銃ですら開けることができないのです。
 ラジオからは、世界中で同じように、伝染病でパニックが起きているらしいことがわかりますが…。

 イサーク・エスバン監督『ダークレイン』は、1960年代のメキシコを舞台にした超常スリラー映画です。
 序盤から、世界中で何かが起きているらしいこと、バスが一向に現れないこと、待っている客たちがいらだちを募らせていることなどがわかりますが、それに加えて、登場人物たちがどれも不穏な状況を抱えているらしいことが、見ている者の不安に拍車をかけます。
 妻の出産にかけつけようとしている夫、暴力をふるう夫から逃げ出してきた臨月の妊婦、言葉が通じないシャーマンの老婆、反政府運動に従事しているらしい医学生、重い障害がある息子とその母親など。そんな人物たちが閉鎖的な環境に閉じ込められたことから、互いに不信感を抱き、争いが起き始めます。
 ウィルス感染らしき患者が現れたことから、それが政府の陰謀だと思い込んだり、悪魔の呪いだと言い出したりする人間がいるなか、とうとう暴力が発生してしまいます。

 作品のメインとなる「病」が単なる病気というよりは、超自然的な様相を持つものなので、「病」の原因は合理的なものではないことが予想はできるのですが、加えて、一向にやまない雨や、なぜか出ることのできない待合所などの要素も、超自然的な印象を高めます。
 出来事の原因や全体像が一向につかめない中盤までの展開は、とてもサスペンスフルです。中盤あたりから事態の原因がなんとなくわかってくるのですが、そこからはまた別の異様な要素が投入され、違った味わいの作品になっていきます。

 舞台は、ほぼ待合室の中だけに限定されています。おそらく低予算ゆえなのでしょうが、待合室の外、そして世界がどうなっているかが全くわからず、ラジオから断片的な情報だけが流れてくるという演出が、観ている者の想像力を高めます。
 また、「病」が蔓延した結果、世界中が変化してしまうのですが、その「病」の内容が人間の本質を問うものであったり、1960年代という時代が登場人物の設定に深みを与えるなど、いろいろと細かい部分で工夫がされています。

 監督のイサーク・エスバンは、ループものの新機軸というべき『パラドクス』を撮った人ですが、本作も、単純なSFやホラーには当てはまらない怪作です。前作もそうですが、SFやホラーに、ちょっと哲学的なスパイスを利かせた感じの作風が特徴です。
 この監督、非常に癖があるので、一般受けは難しいかもしれませんが、非常に独創的な作品を作る人なので、次回作が楽しみですね。

テーマ:洋画 - ジャンル:映画



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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