物語を変えろ!  マーク・フォースター監督『主人公は僕だった』
B000X4FHEM主人公は僕だった コレクターズ・エディション
マギー・ギレンホール エマ・トンプソン ウィル・フェレル
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2007-12-19

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 登場人物が作家に出会う…。メタフィクション的な小説では時折見られるこの手法。まさか実写映画化が可能だとは…。
 マーク・フォースター監督『主人公は僕だった』(2006年 アメリカ)は、奇想天外な設定ながら、人生の寓意を含んだ、良質な作品に仕上がっています。
 国税庁に勤めるハロルド・クリックは、面白みのない人間でした。計算が得意な彼は、何事も無駄なくこなす代わりに、仕事以外に何の趣味も持たずに、決まりきった日常を送っていたのです。
 そんなある日、ハロルドの耳に、聞き覚えのない女性の声が響きます。その声は、ハロルドの行動、そして心理さえも、的確な表現でナレーションしています。しかもその声は、周りの人間には聞こえず、ハロルド自身にしか聞こえないようなのです。
 相談を受けた文学部のヒルバート教授は、ナレーションの言い回しから、語り手は「全能の第三者」だと断定します。つまり「作家」がハロルドを主人公に、物語を語っているというのです。
 変わりばえのしない日常をただ描写していた「声」は、ある日ハロルドの死を予告します。どうせ死ぬなら好きなことをしてから死にたい、ハロルドはやりたかったことを始め、思いを寄せていた女性アナに告白します。
 人生が好転しだした直後、ハロルドはたまたまテレビに映った女性の声を聞いて驚きます。その声こそ、ナレーションの「声」だったのです。ヒルバート教授から「声」の主が女性作家カレン・アイフルであることを知ったハロルドは、また彼女の過去の作品は全て悲劇であり、主人公は必ず死んでいる、ということも知らされます。ハロルドは、彼女に会って、自分の運命を変えてもらおうと考えますが…。
 主人公の耳に、主人公を描写する作家の「声」が聞こえてしまう、という何とも人を食った設定の作品です。
 「声」はただナレーションをするだけであり、主人公に具体的な力を及ぼしたり、行動を妨げたりするわけではありません。
 しかし、主人公の仕事中にも「声」が聞こえて邪魔をしたり、思いを寄せている女性の前では、その恋心さえも「描写」されてしまうのには笑わされてしまいます。
 「声」が妄想ではなく、現実のものだと認識したハロルドは、文学研究者であるヒルバート教授に相談するのですが、この教授がしごく真面目に「物語」を特定しようとするのが面白いところ。これは悲劇なのか喜劇なのか? 全能の作家に主人公の運命は決められているのか? それとも登場人物のキャラクターがストーリーを進めるタイプなのか? 何もしなかったらどうなるのか試してみろ、という教授の助言に従って、家にこもっていたハロルドを襲うアクシデントも強烈。
 几帳面で数字にうるさい主人公の名前がクリックと、時計を連想させることからもわかるように、時計がモチーフとして、ところどころで用いられて、重要な小道具になっています。序盤で止まった時計の描写が、後半の伏線になっているというのも、非常に芸が細かいですね。
 自分の死期がわかってしまったときに、人は何をすればいいのか?という問題も重要なモチーフになっています。実際、死を意識することによって、主人公ハロルドの生き方は変わり、精神的な成長を遂げるのです。ただこの作品の場合、作者であるカレンによって、運命は変えられる可能性が残っているので、あまり切迫感はありません。
 その代わりに、クライマックスでクローズアップされるのは「主人公の死によって作品が傑作になるときに、主人公を生かすべきなのか?」という問題です。過去の小説の登場人物には、ためらいなく死を下してきたカレンも、自分の死の運命を知ってしまった主人公に対して、本当に死を下せるのか、悩みぬくのです。そして結末の下書きを読んだハロルドのとった決断とは…?
 自分の人生は、本当に自分の意志で生きているのか? 運命は変えられないのだろうか? なかなか考えさせるテーマを含んだ作品といえるでしょう。
 俳優陣による丁寧な演技はもちろんですが、何より、よく練られた脚本が素晴らしい。笑いの要素もほど良く挟まれた、ハートウォーミングな佳作です。
夢の中の夢  チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』
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夢の中の恐怖
マイケル・レッドグレーブ バジル・ラドフォード チャールズ・クライトン
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 オムニバス・ホラーと呼ばれるジャンルの映像作品があります。怪奇・ホラー味のある短篇を枠物語でつなぐ、というタイプの作品ですが、このジャンルの元祖ともいうべき作品がこれ。チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』(1945 イギリス)です。
 公開年が1945年なので、当然モノクロですし、映像表現的にはかなり稚拙な部分も見えるのですが、今見ても面白い部分が少なくありません。全5話のうち、2話分が原作ものですが、これが、H・G・ウェルズとE・F・ベンスンによるものなのが驚きです。
 さて、枠となる物語は、家の修理を依頼された建築家クレイグが、ある屋敷に赴くところから始まります。家の主から、中に案内されたクレイグは、数人の男女が居間に集まっているのを見て、呆然とします。なぜなら、彼らの顔はみな、主を含め、クレイグが何度も見る悪夢に登場していた人物と同じだったからです。そのことを口にすると、皆は、おのおの体験したという、不思議な話を始めます…。

 第1話 事故で九死に一生を得たレーサーは、病院である夜、不思議な夢を見ます。それは霊柩車に乗った御者に招かれる、というものでした。やがて退院した彼は、ある日バスに乗ろうとしますが、その運転手は夢で見た御者とそっくりでした…。
 いわゆる予知夢を扱った作品。非常にオーソドックスな話です。

 第2話 クリスマス・パーティの夜、かくれんぼを始めた子供たち。主人公の少女は、ボーイフレンドとともに屋根裏の部屋に隠れますが、そこで少年は少女を怖がらせようと、数十年前に、その家で起こったという殺人事件の話を始めます。狂った少女が殺人を犯し、自殺したというのです。しかもこの家には幽霊が出ると。笑ってとりあわない少女は、ふと別の小部屋への入り口を見つけ、入り込みます。そこには幼い少年が泣いていました…。
 「あとになって」わかるというタイプのゴースト・ストーリー。「幽霊」とは誰の幽霊なのかがわからないままにストーリーが進むのは、なかなか技巧的。原作はE・F・ベンスン『塔のなかの部屋』(平井呈一訳『怪奇幻想の文学1』新人物往来社 収録)です。

 第3話 結婚を間近に控えたカップル。女は、骨董屋で買った鏡を男にプレゼントします。男は、鏡の中に、まったく別の部屋が映っているのに気がつきます。古風なベッドに暖炉、明らかに古い時代の部屋が映るのです。しかし女には何も見えません。ノイローゼだと言う男を心配した女は、骨董屋に鏡の来歴を聞いて驚きます。その鏡の持ち主だった男は、嫉妬のために妻を殺したのだというのです。やがて男は性格が変わったように嫉妬深くなりますが…。
 「呪われた鏡」の物語。男には見える光景が、他の人間には見えない、というところがミソ。男の妄想である可能性も否定していません。ただ結末では、憑き物が落ちたようになってしまうので、その解釈はとりにくいのですが。

 第4話 ゴルフに熱中する二人の男。同じ女性を取り合うことになった二人は、ゴルフで勝負を決めることになります。負けた男は自殺してしまいます。やがて結婚を控えたある日、新郎の男の前に、死んだはずの男が現れ、ことあるごとに邪魔をします。花嫁を諦めれば、この世に出現するのはやめると言う幽霊に対して、男は承諾します。ところが幽霊は、消え方を忘れてしまった、と言うのです…。
 「消え方」を忘れてしまった「未熟」な幽霊が、終始、恋敵にちょっかいをかけまくるという、ユーモア・ゴースト・ストーリー。今見ると、特殊効果が貧弱なのはご愛嬌ですね。原作はH・G・ウェルズ『不案内な幽霊』(南條竹則訳『イギリス恐怖小説傑作選』ちくま文庫 収録)です。

 第5話 評判をとる腹話術師フレル。彼の相棒である人形ヒューゴは、まるで自分の意志を持っているかのように話すのです。舞台を見ていた同業者キーは、人形を通して楽屋に誘われ、部屋を訪れます。しかしフレルは、無愛想な態度であしらったかと思うと、キーを追い出します。別のホテルでフレルに再会したキーは、喧嘩にまきこまれたフレルを介抱し、部屋に寝かせます。しかし、その夜中にキーの部屋に飛び込んできたフレルは、自分の人形を盗んだのではないかと、因縁をつけます…。
 人形の「意志」を制御できず、自分を失ってゆく腹話術師を描いたサイコ・スリラー。人形はフレルの別人格なのか、それとも超自然的な存在なのかを明示せず、ぼかしているのが非常に効果的。主人公を演じているマイケル・レッドグレーヴの演技が素晴らしく、今見てもかなり怖い一編。

 第5話を除くと、正直、他の4話は、非常にオーソドックス。現在見ると、ちょっと退屈してしまう作品もあるかと思います。
 ただ特筆したいのは、枠物語の構成の見事さです。クレイグは、集まった人々を見て、夢の通りだと話しますが、やがて彼は、このまま話し続けると、恐ろしい事が起こるという予感に囚われます。しかし、彼は悪夢で終わるはずの、この夢の詳細をなかなか思い出せないのです。
 集まった男女がそれぞれの話を語るわけですが、客たちが、基本的には超自然現象を肯定する立場なのに対して、客の一人である精神科医は、それらの現象を否定して、合理的な解釈を示します。やがてクレイグと精神科医、二人だけが居間に残った後に起きた、恐るべき出来事とは…?
 エピソード自体の出来はそれほどではないものの、エピソードをはめ込んでいる、枠物語の完成度が半端ではありません。それを見るためだけでも、一見の価値のある作品です。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

明るい治療計画  ロイ・ウォード・ベイカー監督『アサイラム 狂人病棟』
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 切れ味するどいホラー短篇を得意としたアメリカの作家、ロバート・ブロック。彼の作品は、ときに殺人や猟奇的なシーンが描かれる場合でも、現代のそれのように具体的・直接的な行為は描写されません。そのためブロックの作品を読んでいても、あまり陰惨な印象を受けることは少なく、その手触りはむしろファンタジーに近付いています。いうならば「明るいホラー」といった感じでしょうか。
 1960〜70年代にかけて、ブロックはいくつかの映画脚本を手掛けていますが、それらの映画作品でも、ホラー作品でありながら、どこかおとぎ話めいた雰囲気が出ているのが特徴です。ロイ・ウォード・ベイカー監督『アサイラム・狂人病棟』(1972 イギリス)もそのうちのひとつです。
 『アサイラム』は、短篇を枠物語でまとめた、オムニバス作品になっています。脚本は全てロバート・ブロック。
 作品は、若い医師マーティンが、とある精神病院を訪ねるところから始まります。面接を受けに来たマーティンは、車椅子に乗った副院長に迎えられます。院長はどこかという問いに、副院長は困惑ぎみに答えます。スター院長は精神の病にかかり、この病院に患者として入院している、と。彼は、別人である妄想に囚われているというのです。副院長はテストとして、何人かの患者に会い、院長が誰であるかを当てたなら、合格にする、と提案します。マーティンは一人ずつ患者の部屋に入っていきますが…。

 第1話 夫が愛人といっしょになるために、妻を殺害しようとします。しかし魔術に凝っていた妻の復讐が始まる…というもの。筋立ても単純な、オーソドックスかつストレートなホラーです。

 第2話 家賃を払えず、立ち退きを迫られている仕立屋のもとに、突然見知らぬ客が現れます。持参した生地で、息子の服を作ってほしい、作業は深夜の特定の時間にしか行ってはならない。不審に思いながらも、高額の報酬を提示された仕立屋は、仕事を引き受けます。服を完成させた仕立屋は、客の家に服を持っていきますが、客は思いがけないことを言い出します…。
 呪われた服、というありふれたテーマながら、後半の展開はなかなか面白いです。「死者を蘇らせる本」という、どうやらクトゥルー神話っぽいアイテムも登場します。闇の中で光る生地の特殊効果が、今見ると安っぽいのはご愛嬌。

 第3話 退院したばかりのバーバラは、兄とともに家に帰ります。しかし出迎えたのは看護婦。いまだに病人扱いする二人に対して、彼女は機嫌を害します。ベッドで寝ていたバーバラのもとに、突然親友のルーシーが現れます。彼女は、いっしょに家から逃げ出そうと提案しますが…。
 バーバラの病気とはいったい何なのか? ルーシーはいったい何者なのか? 設定の説明がまったくなされないため、話の先が読めないサスペンス作品。ちなみに、主人公のバーバラ役を演じているのは、シャーロット・ランプリング。

 第4話 ここで舞台は、枠物語である精神病院に戻ります。バイロン博士と自称する男は、人形を何体も作っていました。彼は語ります。人形の顔は過去の同僚たちのものであり、今作っている最後の人形は、自分のミニチュアである、そして自分はこの人形に乗り移るのだ、と。マーティンは、彼こそ精神を病んだスター院長ではないかと疑います。再度面接に望んだマーティンは、副院長に向かって、この病院の非人道性を訴えます。二人が話しているうちに、副院長の背後から近付いてきたものとは…?
 妄想していたことが現実だった…という話ですが、あんまりひねりがないので、少々あっけないかも。ただ事件が終わったと思った後の、どんでん返しは面白いです。

 総じて、どの話もストレートなホラーですが、演出がどうも垢抜けないので、間が抜けてしまっているのは否めません。はっきり言うと、迫力が全然ないのです。ストーリー自体は面白いのですが、やはり演出の悪さが、作品の勢いを殺してしまっていますね。ただ、作品の舞台となっている精神病院の雰囲気は悪くありませんでした。
 ちなみに、確認した範囲では、第3話と第4話の原作が、邦訳されています。第3話は、『ルーシーがいるから』(各務三郎訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇2』ハヤカワ文庫NV収録)、第4話は『恐怖の粘土人形』(仁賀克雄編訳『ポオ収集家』新樹社収録)です。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

夜が明けたら  フィリップ・ハース監督『天のろくろ』
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Lathe of Heaven -天のろくろ-
ジェームズ・カーン アーシュラ・K.ル=グウィン フィリップ・ハース
B000KLNS3A

 アーシュラ・K・ル・グィンの『天のろくろ』は、夢で世界を改変してしまう能力を持った青年を描いた傑作小説。この作品を映像化したのが、同名タイトルの、フィリップ・ハース監督『天のろくろ』(2002 カナダ・アメリカ)です。
 ジョージ・オア青年は、軽犯罪で裁判を受けさせられた結果、精神科医の治療を受けることになります。悪夢に悩まされていた彼は、夢を見ずにすむように、薬を盗んだというのです。担当医となったヘイバー博士は、ジョージから驚くべきことを聞き出します。
 ジョージは、見た夢によって現実を改変することができるというのです。ただし夢の内容は自分で決めることはできません。夢を見るたびに、思いもかけぬ方向に、現実が少しづつ変わっているのだと。
 博士は、夢の内容を操作する「増幅機」を使って、ジョージを治療しようと考えますが、治療を続けるうちに、ジョージの能力に気付きはじめます。ジョージの能力を利用して、自らの富と権力を増大させようと計る博士。その意図に気付いたジョージは、弁護士ヘザーの力を借り、ヘイバーから逃げ出そうとします…。
 ストーリーや登場人物などを始め、原作をかなり忠実に映像化しています。もともと原作でも、それほど派手な展開はないだけに、この映画版もかなり地味な展開ではあります。
 現実世界の改変、というのが、この作品の見せ所なわけですが、目を引くCGやSFXは、ほとんど使われていません。というか、現実世界そのものが変容するシーンなどは、全く描かれません。ジョージが目覚めた後に、室内のインテリア、窓から見える景色、周りの人物の服装などを変えることによってのみ、現実が改変されたことを表しています。
 原作を読んでいないと、序盤は何が起こっているのか、わかりにくいかもしれませんが、慣れてくると、毎回ジョージが目覚めるたびに、ヘイバー博士や秘書の服装、性格までもが一変していく、という趣向はとても面白いです。ただ現実世界そのものがどのように変わったのか?という情報は、テレビのニュースであるとか、細かい描写などで示されるので、注意して見ていないと、気付きにくいのは確かです。疫病で人口が減った結果、電車がガラガラになるとか、人口問題の解決で居住スペースが巨大になったりするなど、なかなか芸が細かい描写になっています。
 メインストーリーに関しては、改変能力を巡っての、ジョージとヘイバー博士の対立、という点では原作と同じテーマを共有しています。ただ原作では、改変を巡っての倫理的な問題がクローズアップされていましたが、映画版では、そうした思想的な対立よりも、権力関係の対立の側面が強くなっています。あとは、ヘザーとのラブストーリー的な面も強調されています。
 全編これ、会話がやたらに多く、見た目のスペクタクルは皆無に等しいのですが、その静謐な雰囲気は、原作をうまく映像化しており、これはこれで味のある秀作ではないでしょうか。

※原作の感想はこちらです。
取り返しのつかない夜  フランシスコ・プラサ監督『クリスマス・テイル』
B000JVS584スパニッシュ・ホラー・プロジェクト クリスマス・テイル
マル・バルディビエルソ; イバナ・バケロ フランシスコ・プラサ
video maker(VC/DAS)(D) 2006-12-22

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉最後の一本は、フランシスコ・プラサ監督の『クリスマス・テイル』です。『スタンド・バイ・ミー』を思わせる雰囲気のこの作品、かなり異色です。主人公は、12才の5人の少年少女で、物語の舞台もわざわざ1980年代に設定してあるところも、どこか確信犯的です。
 クリスマスも間近いある日、5人の仲良しの少年少女が、森の中の穴に落ちているサンタ姿の女性を見つけます。とりあえず彼女を穴から助け出そうとしますが、警察に向かった少年が見た指名手配書によって、この女性が、大金を盗んで逃亡中の指名手配犯、レベッカであることを知ります。
 子供たちは警察への通報を取り止め、レベッカから金のありかを聞き出そうとします。最初はしらを切っていた彼女も、怪我と飢えから、とうとう金を渡すことを承知します。しかし今さら出す事はできない、と子供たちが内輪もめをしている間に、レベッカは死んでしまいます。恐くなった彼らは、警官に連絡しますが、たどりついた穴の底はからっぽでした。そしてクリスマス、子供たちのたまり場に現れたのは…。
 前半は、ひとりの人間の運命を手中にした子供たちの心理が描かれます。最初は面白がっていた彼らも、だんだんと不安になっていきます。散々もてあそんでおきながら、今さら出したら報復が恐い、として金だけ受け取り後は放置してしまおう、とするエウヘニオたちに対して、リーダー格のコルドや紅一点のモニは、約束は守るべきだとして、グループ内に反目が置きます。総じて、子供たちの残酷さ、身勝手さ、醜さが描き込まれているところに、見応えがあります。
 後半は、穴から抜け出したレベッカに追われる子供たちを描いて、アクション風に展開します。あれだけ弱って、怪我もしているレベッカがそんなに動けるのか、という点も不自然ですし、最後の撃退シーンにいたっては失笑もので、安っぽい展開です。ここの部分は、本当にB級で、退屈するのは否めません。
 しかし結末で、その印象は覆されます。それまでは、それこそテレビ映画のノリで冒険をしているつもりだった彼らに、現実が突き付けられるのです。自分たちが犯してしまったことに愕然とする子供たち。今までの安っぽい演出は、このためだったのか、と感心させられました。
 相手が強盗犯とはいえ、残酷な行為を繰り返す子供たちを描いている前半は、見ていてかなり不快感を感じる方もいるでしょう。レベッカをもっと重罪人、たとえば殺人犯などに設定してあれば、もう少し子供たちの行為にも説得力が増したのに、とは思いますが、子供の理不尽な残酷さを描く、という点を考えると、これはこれでよかったのではないかとも思えます。
 テレビやフィクションに影響されて行動してしまう子供たち、という極めて現代的なテーマを、いかにもわかりやすく描いた作品として、なかなかの佳作ではないかと思います。ただ、中盤かなりだれるので、もっと時間を刈り込んでいた方がよかったのは確かですね。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

消えた胎児  ナルシソ・イバニエス=セラドール監督『産婦人科』
B000JVS58Eスパニッシュ・ホラー・プロジェクト 産婦人科
ニエベ・デ・メディーナ; モンセ・モスタサ; アレハンドラ・ロレンソ ナルシソ・イバニエス=セラドール
video maker(VC/DAS)(D) 2006-12-22

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本『産婦人科』は、ナルシソ・イバニエス=セラドール監督の作品。彼は、大人を襲う子供たちを描いたショッキングなホラー『ザ・チャイルド』で知られる人ですが、この作品でも同じく「子供」がテーマになっています。
 未婚の母である看護婦グロリアは、友人の産婦人科医アナの家に、一緒に住まないかという誘いを受け、承知します。娘ビッキーの学費や家賃の値上げで困っていたグロリアにとっては、願ってもないことでした。診療所兼自宅で、アナの助手として働くことになったグロリアでしたが、広く静かな家に時々、妙な気配がすることに気付きます。
 そんな折り、グロリアは、アナから診療所で行っている裏の仕事を手伝ってくれないかと、打ち明けられます。それは、望まぬ妊娠をしてしまった女性に堕胎を行うこと。アナに対する恩義もあり、ためらいながらも、グロリアはその仕事を手伝うことになります。新しい生活にも慣れつつあったグロリアでしたが、つきあっていた男との間に子供ができてしまったことを知ります。アナは激怒し、堕胎を勧めます。
 弟を欲しがるビッキーの姿を見て、一時は生むことを決心したグロリアですが、経済的な不安から、結局は堕胎を決心します。アナの手で堕胎手術を受けたグロリアは傷心で眠りにつきます。一方、アナが、手術室から目を離したすきに、なんと堕胎した胎児の姿が消えていることに気がつきます。時を同じくして、屋根裏で見つけたという箱を手もとから離さなくなったビッキー。まさか…と思いながらも、アナは不安を隠せません。
 その後、堕胎手術を受けにやってきた若い女性が、診療所内で殺されているのが発見されるのですが…。
 ミステリアスな要素が散りばめられた作品です。どうやらレズビアンの気があるらしい産婦人科医アナ、行方知れずの前住人、隣に住む寝たきりの老女とその狂信的な妹、ビッキーが手もとから離さない謎の箱。魅力的な謎がたっぷりなのですが、これらの要素や伏線が、ほとんど発展もせず、解消もされないところに致命的な弱点があります。ただ、作品内の雰囲気を高めるための小道具としてしか、機能していないのです。
 唯一、物語のミスディレクションとして、ビッキーの箱の謎が生かされていますが、それ以外は完全に物語が破綻しているとしかいいようがありません。さらに致命的なのは結末。唐突に打ち切られたかのような印象を受けてしまいます。好意的に見れば、意味をとれなくもないのですが、それにしても、それまでの展開からすると、不自然すぎます。
 題材が題材だけに、流血シーンが満載かと思いがちですが、意外なほどその種のシーンはありません。殺人シーンも直接描写は全くなく、間接的なものになっていますし、堕胎シーンに関してもあっさりとしています。全体に演出面に関しては、抑制が利いていて、かなり洗練されている印象を受けるので、脚本面でも、もっとしっかりしていれば、佳作になったのではないかと思うと残念ですね。

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

死んでも愛してる  マテオ・ヒル監督『エル・タロット』
B000IHXTYYスパニッシュ・ホラー・プロジェクト エル・タロット
ホルディ・ダウデール; フアン・ホセ・バイェスタ; ナタリア・ミヤン マテオ・ヒル
video maker(VC/DAS)(D) 2006-11-24

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 年上の謎めいた女性に憧れる少年、というのは、よくあるテーマですが、〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、マテオ・ヒル監督『エル・タロット』もそのテーマをうまく使った佳作です。
 初老の作家トマスは、40数年ぶりに故郷の町に帰ってきます。田園地帯だった町は、すっかり近代化されていましたが、丘の上の家だけは、町を離れたときのまま。かって、その家に住んでいた女性モイラと、トマスは恋愛関係にあったのです。
 好奇心から、魔女の噂をたてられている女性を見ようと、友人たちと丘の上の家を訪れたトマスは、ふとした拍子で転び、気絶してしまいます。そこに住む女性モイラに介抱されたのをきっかけに、トマスは彼女に恋心を抱きます。しかし、町の人間は、モイラを淫らな女だとして、軽蔑の念を隠そうともしません。
 人々の噂など信じなかったトマスでしたが、やがて嫉妬の念から、隠れた男がいるのではないかと、疑心暗鬼に駆られます。夜に合うことを頑なに拒むモイラの態度をいぶかしんだトマスは、意を決して深夜モイラの家に出かけます。そこでトマスが見たものとは…。
 ホラー映画シリーズの一編ながら、後半ギリギリまで、とくに超自然的なことは起こりません。主人公が見る幻影、象徴的なシーンなど、ツボとなるポイントはあるものの、基本的には年上の女性を恋する少年の視点で物語は進みます。
 前近代的な村、宗教心の強い人々、異様に潔癖な母親など、モイラとトマスの恋の障害となる舞台設定は細かくできています。男女の仲になりながらも、何かを隠し続けるモイラに対し、トマスが疑心暗鬼になってゆく過程も説得力豊かに描かれます。
 交互にあらわれる年老いたトマスのパートから、件の女性モイラがすでに死んでいることはわかるのですが、それがなぜ起こったのか、トマスとの恋の行方はどうなったのか?というサスペンス風味も用意されています。
 後半に起こる惨劇シーンも直接的な描写を避けて、暗示や象徴でうまくまとめており、淡い恋物語のトーンをうまく崩すことなく物語を構成しているのには、感心しました。それだけに、最後の最後で起こる超自然的なシーンのインパクトが強く感じられる仕組みになっています。
 青春物語としても秀逸な、異色のホラー作品です。
芸がなさ過ぎ  ジャウマ・バラゲロ監督『悪魔の管理人』
B000IHXTYOスパニッシュ・ホラー・プロジェクト 悪魔の管理人
マカレナ・ゴメス; アドリア・コヤド; ヌリア・ゴンザレス ジャウマ・バラゲロ
video maker(VC/DAS)(D) 2006-11-24

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 〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、ジャウマ・バラゲロ監督『悪魔の管理人』。これはいまどき珍しい、コテコテのスプラッターでした。
 家を売ってしまい、立ち退き期限が迫っている若夫婦のクララとマリオ。広告で見つけた物件を見にいこうと、マリオはクララとともに郊外に向かいます。しかしたどり着いた場所は、廃墟と見まがうばかりのさびれた土地。アパート自体もひどい代物で、クララは帰りたがりますが、管理人の女性が来てしまったために、とりあえず中を見ることになります。
 アパートのひどさとは対照的に、管理人の女性は上機嫌でアパートのメリットをまくしたてます。そのうちに、妊娠中のクララは、気分が悪くなり、寝室で少し休むことになります。ふと部屋のすみに目をやったマリオは、自分が捨てたはずのスニーカーが置いてあるのを見つけ驚きます。そしてクララが見つけた写真立てには、彼ら夫婦の写真がなぜか飾ってあったのです…。
 邦題のタイトルから、だいたいの内容は想像がつくと思いますが、まったくその通りの話です。狂った管理人に襲われた夫婦を描く、スプラッターホラー。それはかまわないのですが、問題は脚本の甘さ。単純なB級ホラーに脚本もなにもあったものではないといえば、そうなのですが、それにしてもツッコミ所が多すぎます。
 主人公たちがよけいなことをし過ぎ、もしくはしなさ過ぎ、なのです。いちいち危険を招くような行為をしたり、チャンスがあったのに、みすみす逃すとか、見ていて腹が立つぐらい登場人物がバカに見えてしまいます。
 作中で、意味深な夢のシークエンスがはさまれるので、これは何か構成上に工夫があるのかと思いきや、まったく何もありません。夢のシーン自体、話の展開にまったく関与してこないのです。
 話そのものも、ほんとうにただの殺人鬼ホラーで、何の新味もありません。演出もどこかで見たようなものばかり。夫婦が逃げるシーンで、カメラがやたらと揺れるのは演出なんでしょうが、これもただ不快なだけ。結末のばからしさにも唖然としてしまいます。
 ただ流血シーンだけは、やけに生彩があります。とはいっても全体の印象をくつがえすほどのものもなし。
 監督のジャウマ・バラゲロは、『ネイムレス』『ダークネス』では、非常にシャープでダークな映像を見せてくれていたので、この作品も期待していたのですが、期待外れもいいところでした。典型的な駄目ホラーなので、見るほどのことはありません。

お友達といっしょ  エンリケ・ウルビス監督『リアル・フレンド』
B000HXE3IKスパニッシュ・ホラー・プロジェクト リアル・フレンド
ゴヤ・トレード; ネレア・インチャウスティ; ホセ・マリア・ポウ エンリケ・ウルビス
video maker(VC/DAS)(D) 2006-10-27

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 ホラー映画競作シリーズ〈スパニッシュ・ホラー・プロジェクト〉の一本、エンリケ・ウルビス監督『リアル・フレンド』は、想像力の豊かな少女を主人公にした、変わり種の作品。この主人公が、ホラー小説や映画のファンであるというところが、ホラー映画ファンの心をくすぐります。ちなみに、監督のウルビスは、『ナインスゲート』の脚本家だそうです。
 小さいころに父親を亡くし、母親と二人暮らしをしている少女エストレイヤ。仕事の忙しい母親は、不在がちで、エストレイヤはホラー小説やホラー映画を見たりして過ごしています。彼女の友達は、ホラー映画の怪物たち。『悪魔のいけにえ』の殺人鬼レザーフェイスを空想上の友達として、寂しさをまぎらわせていました。
 そんなある日、エストレイヤの前に、映画で見た吸血鬼そっくりの男が現れます。彼女は、男とすっかり仲良しになります。しかし、ことあるごとに、空想の友達の話をするエストレイヤを、母親は心配します。そして、ある夜、とうとうエストレイヤは「吸血鬼」を夕食に連れてくるのですが…。
 ホラーというよりは、ファンタジーといった方がふさわしい、不思議な感触の作品です。空想上の友達、この作品の場合「レザーフェイス」なのですが、それを少女の空想だけでなく、現実の日常生活の場面にも登場させてしまう、というところが、なかなか面白い試みになっています。
 学校の授業中にエストレイヤのとなりに座ったレザーフェイスが、他の少女にいたずらをしようとするのを叱る場面など、じつにシュールな光景で、おかしなユーモアをたたえています。いわば映画自体が、少女の空想的な視線から作られているわけですね。
 それだけに、作品中で起こる出来事が、実際に客観的に起こった出来事なのか、少女の空想なのかが、はっきりとしない仕組みになっています。画面に登場する怪物の存在だけでなく、友達になった男は、本当に吸血鬼なのか。さらに言えば、母親は本当に管理人の男と恋仲になっているのか、という現実生活におけるレベルの出来事さえ、事実なのかどうかが、判然としないのです。
 作品の後半、死んだはずの父親の正体、そして母親の過去などが、少女の聞いていたものとは違うことが仄めかされます。それに対して、事実を隠そうとする母親。そして醜い事実を聞きたくないという、少女自身の望みに従って、レザーフェイスは現実を抹殺しようとするのです。
 身も蓋もない、きわめて現実的な話を、少女の空想的な視線を通して語るという、考えるとかなり技巧的な作品です。漫然と見ていると、冗長な話だととられかねないのですが、いま語られていることが事実なのか、それとも少女自身の空想(希望)なのかと、注意しながら見ると、なかなか面白い発見のある、刺激的な作品でしょう。



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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