この世は悪党でできている  フランシスコ・ゴメス・デ・ケベード「大悪党(パブロスの生涯)」
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 今回はフランシスコ・ゴメス・デ・ケベード『大悪党(パブロスの生涯)』(桑名一博訳 集英社版世界文学全集6巻所収)。17世紀初頭にスペインで書かれたピカレスク小説の名作です。
 主人公は、床屋にして泥棒の父親と妖術師にして詐欺師の母親から生まれたパブロス。パブロスは、小さい頃からこすっからく、貴族の子弟であるドン・ディエーゴに取り入り、召使いになることに成功します。
 成長した彼は、ドン・ディエーゴとともに寄宿学校にやられます。ところがこの学校の経営者カブラ学士は、とんでもない吝嗇漢です。この男、あまりにケチで、生徒はひもじさで死なんばかり。ドン・ディエーゴとパブロスも餓死寸前になる始末なのです。このあたりの描写は、抱腹絶倒で非常に愉快です。

 わたしは最初の入門的な部分を読むように命じられましたが、あまりにお腹が空いていたものですから、読むべき言葉の半分を飲みこんでそれを朝食にしてしまいました。こうした嘘みたいなことも、カブラ先生の召使いがわたしに語ったことをご存じの方なら、さもありなんと信じてくださるでしょうが、その召使いが言うには、彼がこの家に来たばかりのころ、先生が二頭の大きな馬を家に入れたところ、二日後に空を飛べるぐらい軽い馬が出てきたのや、肥ったマスチフ種の犬を家に入れたら、三時間後にグレーハウンド犬が出てきたのを見たとのことでございます。

 引用の文章のように、主人公のパブロスが一見礼儀正しい口調ながら、自分の悪行をはじめ、様々な悪党たちの愚かしい顛末を語るのが特徴です。当人はずっと真面目な口調で語り続けるのが、笑いを誘います。
 その後パブロスは、なんとか、カブラ学士の手から逃れることに成功します。アルカラにある大学に向かったパブロスとドン・ディエーゴですが、ここでパブロスは本格的に悪行を始め、それは主人のドン・ディエーゴにも手に負えないものになっていきます。
 そんな折り、パブロスの両親が処刑されたという知らせが届きます。処刑人はなんと実の伯父! 両親の遺産を手に入れるべく、主人と離れたパブロスは、その道中、悪党たちとつきあい、その術を学んでゆくのです。泥棒をしたり、乞食になったり、詐欺を働いたりしますが、どれも一時は成功するものの、最終的にはうまくいかず、失敗します。それでも徹底的に悪の道を行こうとする主人公の悪びれなさは、爽快ですらあります。
 主人公の父母は、作中で死刑にされてしまうのですが、その扱い方を見てもわかるように、本書は基本的に冷笑的な態度で書かれています。ユダヤ人やイスラム教に対する偏見が露骨に出ているのも、その表れでしょう。その点、どじな悪党だが心あたたまるストーリー、というわけにはいきません。しかし、主人公をはじめとして詐欺師や悪党たちを笑いのめす、著者の徹底的な筆致は心地よいほどで、今読んでも理屈抜きに面白い小説です。筒井康隆が好きな人なら、楽しめることうけあいの作品でしょう。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学



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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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