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《ナイトランド叢書》の続刊について
 『SFが読みたい!2017年版』(早川書房)を読みました。目当ては2017年度の各出版社の刊行予定なのですが、アトリエサードの出版予定がすごかったです。
 海外怪奇幻想小説を紹介しているシリーズ《ナイトランド叢書》の第三期の続刊が紹介されていたのですが、二期に引き続き、マニアックなタイトルばかりで驚きました。


第二期

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(安田均編)
1 ゾシーク篇(発売中)
2 ハイパーボリア篇
3 アヴェロワーニュ篇

オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(中川聖訳)

マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(尾之上浩司訳)

M・P・シール『紫の雲』(南條竹則訳)


第三期

E・ヘロン&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探求』

A・メリット『魔女を焼き殺せ』

サックス・ローマー『魔女の血脈』

E・H・ヴィシャック『メデューサ』

エドワード・ルーカス・ホワイト『セイレーンの歌』『ルクンド』


 すでに1巻が刊行されている、C・A・スミスの短篇集は2分冊ではなく、3分冊になったようです。増補作品も入るのでしょうか。
 ヘロンの『フラックスマン・ロウの心霊探求』は、オカルト探偵ものでは有名な作品の一つですね。《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》に分類されることもあります。
 メリット『魔女を焼き殺せ』は、50年近く前の邦訳があるものの、稀書に近い状態だったので、刊行は嬉しいところです。
 ヴィシャック『メデューサ』は、幻想小説の古典的名作と言われているものの一つ。確か《世界幻想文学大系》の幻の候補作の一つにも挙がっていました。
 個人的に一番うれしいのは、エドワード・ルーカス・ホワイトの作品。怪奇アンソロジーのマスターピースとして、作品がよく収録されるホワイトの作品ですが、個人傑作集は編まれたことがなかったので、これは快挙です。
 この感じだと、W・W・ジェイコブスとかシンシア・アスキスあたりの邦訳も夢ではなさそうですね。

 アトリエサードの刊行予定では、SF作品もいくつか挙がっていますが、中では、アルジス・バドリス『無頼の月』が気になります。

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2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
発売中 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(アトリエサード 2376円)
2月7日刊 フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(白水Uブックス 予価1512円)
2月17日刊 J・L・ボルヘス『アレフ』(岩波文庫 778円)
2月17日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
2月中旬刊 只野真葛『奥州ばなし』(勝山海百合訳 荒蝦夷 予価2268円)
2月23日刊 ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
2月25日刊 近藤ようこ『帰る場所』(KADOKAWA 予価950円)
2月25日刊 近藤ようこ『水の蛇』(KADOKAWA 予価950円)
2月27日刊 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(創元海外SF叢書 予価3024円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』(創元推理文庫 予価1188円)
2月27日刊 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫 予価1080円)
2月下旬予定 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国2』(アトリエサード)


 1巻目はもうすでに発売中のようですが、《ナイトランド叢書》の最新刊は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』。かって創土社から出た1巻本を再編集して2分冊にしたもののようです。2巻は今月下旬の発売予定。
 ただ、スミスの作品に関しては、大瀧啓裕訳による創元推理文庫の3冊がありますし、既訳が多いのではないかと思ったのですが、確認してみたら、この3冊も、井辻朱美訳『イルーニュの巨人』も、すでに絶版なのですね。その点、スミス入門編としてはタイミングはいいのかもしれません。

 只野真葛『奥州ばなし』は、分身テーマではよく言及される「影の病」を含む怪異譚集。現代語訳ということで、これは読んでみたいところです。

 ロマンチックSFの名手、ロバート・F・ヤングの短篇集『時をとめた少女』が、ハヤカワ文庫SFから登場です。初訳2篇を含む全7篇を収録とのこと。これは楽しみです。

 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』は、世界幻想文学大賞受賞作品とのことですが、なかなか面白そうです。「中東の専制国家で生きるハッカー・アリフは、恋人から謎の古写本を託される。存在するはずのない本に記された、人間が知るべきではない秘密とは?」。

 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』は、構成のかなり凝った感じのするミステリ。「2014年カリフォルニアで解体予定の家から発見された貴重品箱。そのなかには三つのものが入っていた。1945年に刊行されたパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、軍支給の便箋に書かれた『改訂版』と題された原稿……。開戦で反日感情が高まるなか、作家デビューを望んだ日系青年と、編集者のあいだに何が起きたのか?」。

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新年のご挨拶
 あけましておめでとうございます。2017年初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 12月の半ばから咳が止まらず、風邪かと思っていたのですが、年末に病院で診てもらったところ、軽い肺炎になっていました。おかげで年末からずっと寝ています。
 この際、懸案の本を読んでおこうかな、ということで、気になりつつも積んでいた本を中心に読みました。これだけ続けて本を読めたのは、随分久しぶりな気がします。


4003279026遊戯の終わり (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-06-16

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4003279034秘密の武器 (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-07-19

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4891762861すべての火は火 (叢書アンデスの風)
フリオ コルタサル Julio Cortazar
水声社 1993-06

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フリオ・コルタサル『遊戯の終わり』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『秘密の武器』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『すべての火は火』(木村榮一訳 水声社)

 まずは、幻想短篇の名手とされるコルタサルの作品集をまとめて読みました。アンソロジーなどの収録作はわりと読んでいますが、今まで肌に合わないと思って、作品集には手を出していませんでした。まとめて読んでみると、なかなか面白く読めたのは意外でした。
 『遊戯の終わり』収録作では、メタフィクション的な掌編『続いている公園』、セーターを着るだけの話が異界へ通じる幻想小説になってしまうという『誰も悪くはない』、オーソドックスな怪奇もの『いまいましいドア』、同時代に同じ人間が転生するという『黄色い花』、山椒魚に意識が乗り移ってしまうという『山椒魚』などが面白いですね。
 『秘密の武器』収録作では、写真の中の人物が動き始めるという『悪魔の涎』、女性の過去の悪夢が恋人に影響していくという『秘密の武器』『すべての火は火』収録作では、渋滞している道路上で日常生活を始めてしまう人々を描いた不条理小説『南部高速道路』、年老いた母親に息子の死を隠すため、親戚一同が息子のふりをして手紙を書くという『病人たちの健康』、観客として観劇中に、急に役者として舞台に出されてしまう男を描いた『ジョン・ハウエルへの指示』などが印象に残ります。
 コルタサル作品は、明確な幻想小説でない場合でも、筆致が幻想小説っぽいので、読むのに集中力を要しますね。


4334752721すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)
オルダス ハクスリー Aldous Huxley
光文社 2013-06-12

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4151200533一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久
早川書房 2009-07-18

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オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行訳 光文社古典新訳文庫)
ジョージ・オーウェル『一九八四年 新訳版』(高橋和久訳 ハヤカワepi文庫)

 ディストピア小説の古典として名高い2作ですが、読むのは初めてです。

 ハクスリー『すばらしい新世界』は、人間の出生・成長が完全に管理された世界を舞台にした作品。親子関係は存在せず、階級ごとに条件付けられた人間は、それぞれの役目を疑問に思うことはないようになっていました。最上位階級に属しながら、幸福感を感じられないバーナードは、「野蛮人」の青年ジョンと出会うに及び、社会の仕組みに疑問を抱きます…。

 オーウェル『一九八四年』は、全ての国民の思想が統制され、政府にとって都合の悪い過去の事実はすぐに書き換えられてしまう世界が舞台。記録の改竄作業を行っていた主人公は、体制へ批判的な考えを抱くようになる…という物語。

 どちらの作品も極端な管理社会ではあるのですが、対照的といってもいいほど、社会の描かれ方は異なります。ハクスリー作品は、風刺的なタッチが強いのに対して、オーウェル作品はシリアスなタッチですね。
 とくにオーウェル作品後半の行き詰るような閉塞感は強烈です。現在でも重要なテーマをはらんだ部分も多く、古典的傑作と言われるだけのことはある作品でした。


443422719XSF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?
青木 敬士
江古田文学会 2016-11

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 ちなみに、なぜこのディストピア小説2作を読む気になったかというと、青木敬士『SF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?』(江古田文学会)という本を読んだからです。この本の中でオーウェル『一九八四年』が取り上げられており、こんなに面白そうな作品だったのか! ということで読もうと思ったのですが、 オーウェルを読むなら、ハクスリーも読んでおかないとな、ということで2作を読むことになりました。
 『SF小説論講義』は、大学の講義が元になっているらしいのですが、SF小説を一冊も読んだことのない人を対象にしたSF論、というコンセプトの講義です。オーウェルの章では、作中で展開される言語の改変や、それが人間に与える影響を、マッキントッシュのCMやニコニコ動画などに言及しながら語っています。
 他にも、小川一水『ギャルナフカの迷宮』を題材にして物語の作法を語る章だとか、アニメ『イブの時間』を題材にしたロボット論など、興味深いテーマがいっぱいです。語り口も柔らかで読みやすく、オススメの一冊です。


415010194910月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194)
フレッド・ホイル 伊藤 典夫
早川書房 1976-05

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フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 
 作曲家であるリチャードは、友人の物理学者ジョンとともにハワイへ出かけますが、その間にアメリカとの連絡がとれなくなったというニュースを耳にします。アメリカ大陸の人間は、都市ごと消滅していたのです。
 同時に、世界中で異なる時代が出現していました。フランスやドイツでは第一次大戦、ギリシャでは古代、故郷のイギリスもまた微妙に異なる時間に属していたのです。この事態を改善するため、イギリス政府が中心になり調査隊を各地に派遣することになりますが…

 1966年発表の時間SFの名作の一つに数えられる作品です。パッチワークのように、異なる時代が同時に出現してしまった地球を舞台にしています。作者がプロの天文学者でもあるために、かなり専門的な議論も頻出します。
 事件が起こるまでが長いことと、主人公の職業であるクラシック音楽への言及が多いことなどもあって、とっつきにくい話ではあるのですが、その発想や時間に関する議論は興味深く読めます。
 ハードSFというよりは、ファンタジー、幻想小説に近い味わいなのも意外でした。


4879843520幻想の坩堝
三田 順
松籟社 2016-12-14

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岩本和子・三田順編訳『幻想の坩堝』(松籟社)

 ベルギーの幻想小説を集めた本邦初のアンソロジーです。純文学系の作家よりも、大衆小説系の作家の作品の方が面白く読めますね。
 ジャン・レー『夜の主』は、中年になった男性が、かっての家族の幻影に出会うという物語。こう紹介するとノスタルジックな作品を思い浮かべますが、実際は逆で、禍々しい暗黒小説ともいうべき力作になっています。
 トーマス・オーウェン『不起訴』は、何者かに尾行されていると感じている男のモノローグが、やがて不条理な事態に至るという不気味な作品。
 集中いちばん面白かったのは、フランス・エレンス『分身』という作品。あるオランダ人一家の気弱な青年が植民地に渡ったことから、性格が豹変していきます。その秘密を探りに出かけた「私」は恐るべき事実を知ります。青年が語るには、自分の分身が現れたが、それは女性の形をしており、その女性を妻にしたというのです。しかもその「妻」から子供が生まれるに及び、青年の性質は更に変化していきます…。
 「分身」を扱った作品なのですが、何ともユニークな発想で描かれています。不気味さと同時に、そこはかとないユーモアも漂う幻想小説です。


4062117983オデット
ロナルド・ファーバンク 山本 容子 柳瀬 尚紀
講談社 2005-12-14

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ロナルド・ファーバンク『オデット』(柳瀬尚紀訳 講談社)

 オデットは、両親を失い、叔母に引き取られた幼い少女。夜中に聖母マリアに会いたいと屋敷を抜け出し、娼婦と出会ったオデットでしたが…。
 世間ずれした娼婦と、純真無垢なオデット、二つの全く異なる世界観を持つ二人が出会ったときに生まれたものとは? 原題のサブタイトル「けだるい大人のための童話」の通り、アンニュイかつ美しい作品です。


4488010555堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2016-09-30

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エドワード・ケアリー『堆塵館』(古屋美登里訳 東京創元社)

 19世紀イギリス、ロンドン郊外のごみ山の中に立つ巨大な屋敷「堆塵館」。そこはごみで財を成したというアイアマンガー一族が建てたものでした。地上の階では、純潔のアイアマンガーが、地下の階では、一般の人間と結婚したアイアマンガーの子孫が召使として働いていました。
 アイアマンガー一族には、生まれた時に与えられる「誕生の品」を生涯持ち続けなければならないという掟がありました。主人公クロッドは、その品物の声を聞くことができるという能力がありました。物たちは、それぞれ自分の名前を叫び続けているのです。
 一方、孤児院で生まれた少女ルーシーは、アイアマンガーの血が入っているということで、堆塵館で召使として働くことになります。厳しい掟に反抗し続けるルーシーでしたが、館の中でクロッドと出会ったことから、互いに愛し合う関係になります…。

 《アイアマンガー三部作》の1作目に当たる作品です。ごみ山の中に立つ巨大な屋敷、エキセントリックな登場人物、物の声を聞くことのできる少年、孤児ながら自らの運命を切り開こうとする少女。魅力的な要素のたっぷりつまった物語です。
 「誕生の品」を身につけ続けなければならないというアイアマンガー一族の掟が、単なる設定だと思いきや、そうしなければならない理由が後半に判明するなど、細かい伏線もしっかりしています。
 一族の掟を守り続けなければならないと思い込んでいた主人公クロッドが、少女ルーシーとの出会いにより、一族を裏切る方向へ動き出すことになります。一度、屋敷に召使として入った人間は二度と出れないという掟があるなか、ルーシーを外へ連れ出すことができるのか…というのが、主人公の当面の目的になっています。
 物語のほぼ全体が屋敷の中で起こるにもかかわらず、最初から最後まで波乱万丈の物語で、これはぜひ続編を読みたい作品になりました。続編は5月ごろ刊行予定ということで、楽しみにしたいと思います。

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2016年を振り返って
 もうすぐ2016年が終わります。今年は、とても変化のある年になりました。
 ブログ開設10周年を迎えたこと、twitterを始めたことなど、いろいろありますが、何といっても、いちばんの変化は、テーマ別のフリートーク読書会「怪奇幻想読書倶楽部」を始めたことですね。11月に第1回、12月に第2回を行いました。
 僕自身、人前で話したり、積極的に企画を考えたりするタイプではない…と自認していたので、何とか開催を終えて、自分で自分にびっくりしているぐらいです。
 フリートークという点で不安を感じつつも、またそれゆえに話が盛り上がることもありました。フリートークで一番いい点は、自分が話したい話題をすぐ出せる、というところですね。他の人があまり興味がなくて続かない場合もありますが、またすぐに別の話題が出てきます。
 参加者同士の相性、テーマとの相性などもあり、毎回どういう方面に話が流れるか、事前には全然わかりませんが、それがまた面白いところでもあります。

 まだ2回ほど開催したのに過ぎませんが、自分でも課題というか、問題点などがいくつか思い浮かんでいて、そのあたりを、これから改善していけたらな、と思っています。


 それでは、2016年度刊行で面白く読んだものをまとめておきたいと思います。


日時計 鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE) 処刑人 (創元推理文庫) くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 まずは、シャーリイ・ジャクスン。今年は、生誕100周年ということもあり、ジャクスンの邦訳が、改訳・新訳含めて多く刊行されました。
 ブラック・ユーモアに満ちた終末もの『日時計』(渡辺庸子訳 文遊社)、多重人格をめぐるサスペンス『鳥の巣』(北川依子訳 国書刊行会)、青春幻想小説『処刑人』(市田泉訳 創元推理文庫)、いわずと知れた名短篇集の改訳『くじ』(深町眞理子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)など。
 一気に邦訳が進んだ感じですが、未訳の作品も刊行してもらえると嬉しいですね。


虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ) 人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)
 刊行が開始された《ドーキー・アーカイヴ》(国書刊行会)は、風変わりなエンターテインメント作品を収録するシリーズです。どんでん返しの頻発するサスペンス、L・P・デイヴィス『虚構の男』(矢口誠訳 国書刊行会)、官能的な幻想小説集である、サーバン『人形つくり』(館野浩美訳 国書刊行会)は、どちらも魅力的な作品でした。


〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書) 塔の中の部屋 (ナイトランド叢書) ウェンディゴ (ナイトランド叢書)
 《ナイトランド叢書》(アトリエサード)からは、ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(野村芳夫訳)、E・F・ベンスン『塔の中の部屋』(中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩訳)、アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(夏来健次訳)が刊行されました。
 ホジスン作品は、かなりアクション要素の強い怪奇冒険小説、ベンスン、ブラックッドの作品集は安定した作りで、クラシック・ホラー好きには格好の贈り物となりました。


狂気の巡礼 奥の部屋: ロバート・エイクマン短篇集 (ちくま文庫) 南十字星共和国 (白水Uブックス) むずかしい年ごろ ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫) 10の奇妙な話
 怪奇幻想分野の作品集としては、ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』(芝田文乃訳 国書刊行会)、ロバート・エイクマン『奥の部屋』(今本渉訳 ちくま文庫)、ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(草鹿外吉訳 白水Uブックス)、アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』(沼野恭子、北川和美訳)、アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳 ちくま文庫)、ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』(田内志文訳 東京創元社)などが良かったですね。


ロシア幻想短編集 名前のない街: ロシア幻想短編集Ⅱ 灰色の自動車: A・グリーン短編集 鼠捕り業者 他2篇: アレクサンドル・グリーン短編集Ⅱ (アルトアーツ) ロシアSF短編集
 アルトアーツから刊行された、ロシアの幻想小説ものも未訳のものばかりで、貴重な収穫でした。西周成編訳『ロシア幻想短編集』と続編の『名前のない街 ロシア幻想短編集Ⅱ』、アレクサンドル・グリーン短編集『灰色の自動車』『鼠捕り業者』『ロシアSF短編集』も珍しいラインナップでした。

 ほかに短篇集で面白かったものとしては、

あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF) ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫) ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫SF) 死の鳥 (ハヤカワ文庫SF) 伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ (ハヤカワ文庫SF) 楽しい夜 30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』(伊藤典夫、小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF)
カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』(高野優訳 創元推理文庫)
バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(大森望、中村融訳 ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン『死の鳥』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
岸本佐知子編訳 『楽しい夜』 (講談社)
江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』(扶桑社文庫)


 長編作品では、

ラスト・ウェイ・アウト (ハヤカワ・ミステリ文庫) ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫) ジグソーマン (扶桑社ミステリー) カエアンの聖衣〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF) 奇妙という名の五人兄妹
フェデリコ・アシャット『ラスト・ウェイ・アウト』(村岡直子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(雨海弘美訳 角川文庫)
ゴード・ロロ『ジグソーマン』(高里ひろ訳 扶桑社ミステリー)
バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣 新訳版』(大森望訳 ハヤカワ文庫SF)
アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(田内志文訳 東京創元社)

 日本作家の作品では、

三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫) ずうのめ人形 怪談のテープ起こし QJKJQ やみ窓
岩城裕明『三丁目の地獄工場』(角川ホラー文庫)
澤村伊智『ずうのめ人形』(角川書店)
三津田信三『怪談のテープ起こし』(集英社)
佐藤究『QJKJQ』(講談社)
篠たまき『やみ窓』(KADOKAWA)

 コミック作品では、

カナリアたちの舟 (アフタヌーンKC) 異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集<ラヴクラフト傑作集> (ビームコミックス) 闇に這う者 ラヴクラフト傑作集<ラヴクラフト傑作集> (ビームコミックス) ぐらんば (バーズコミックス) 盆の国 (torch comics) 宇宙のプロフィル (ヤンマガKCスペシャル)
高松美咲『カナリアたちの舟』(講談社アフタヌーンKC)
田辺剛『異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)
田辺剛『闇に這う者 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)
押切蓮介『ぐらんば』(バーズコミックス)
スケラッコ『盆の国』(リイド社torch comics)
こがたくう『宇宙のプロフィル』(ヤンマガKCスペシャル)

などを面白く読みました。


 それでは、2017年もよろしくお願いいたします。

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1月の気になる新刊
1月7日刊 アルフレッド・ベスター『破壊された男』(ハヤカワ文庫SF 予価864円)
1月11日刊 オスカー・ワイルド『幸福な王子/柘榴の家』(光文社古典新訳文庫 予価950円)
1月12日刊 ウォルター・テヴィス『地球に落ちて来た男』(二見書房 予価2700円)
1月12日刊 ダフネ・デュ・モーリア『人形 デュ・モーリア傑作集』(創元推理文庫 予価1080円)
1月12日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』(創元推理文庫 予価799円)
1月12日刊 ムア・ラファティ『魔物のためのニューヨーク案内』(創元推理文庫 予価1404円)
1月12日刊 ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ 月をまわって 上を下への』(インスクリプト 予価6264円)
1月18日刊 高原英理『ゴシックハート』(立東舎文庫 予価972円)
1月18日刊 イジー・クラトフヴィル『約束』(河出書房新社 予価2592円)
1月18日刊 澤村伊智『恐怖小説 キリカ』(講談社 予価1620円)
1月19日刊 近藤ようこ『夢十夜』(岩波書店 1404円)
1月21日刊 J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫 予価1080円)
1月21日刊 イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(東京創元社 予価1620円)
1月28日刊 『J・G・バラード短編全集2 歌う彫刻』(東京創元社 予価3888円)
1月28日刊 カーター・ディクスン『かくして殺人へ』(創元推理文庫 予価929円)


 1月の注目本は、創元推理文庫の2冊、デュ・モーリアの短篇集『人形 デュ・モーリア傑作集』と、レ・ファニュの傑作集『ドラゴン・ヴォランの部屋』でしょうか。

 『人形 デュ・モーリア傑作集』は、デュ・モーリアの初期短篇14編を収録とのこと。
 東京創元社のHPより、紹介文を引用しておきましょう。
 島から一歩も出ることなく、判で押したような平穏な毎日を送る人々を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された謎の手記に記された、異常な愛の物語「人形」。上流階級の人々が通う教会の牧師の徹底した俗物ぶりを描いた「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」。独善的で被害妄想の女の半生を独自形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。
 収録作品は以下の通り。

『東風』
『人形』
『いざ、父なる神に』
『性格の不一致』
『満たされぬ欲求』
『ピカデリー』
『飼い猫』
『メイジー』
『痛みはいつか消える』
『天使ら、大天使らとともに』
『ウィークエンド』
『幸福の谷』
『そして手紙は冷たくなった』
『笠貝』

 19世紀最大の怪奇作家のひとり、J・S・レ・ファニュは、すでに創元推理文庫に、長年のロングセラー『吸血鬼カーミラ』がありますが、久方ぶりの短篇紹介になりますね。『ロバート・アーダ卿の運命』『ティローン州のある名家の物語』『ウルトー・ド・レイシー』『ローラ・シルヴァー・ベル』『ドラゴン・ヴォランの部屋』の5篇を収録しています。
 『ティローン州のある名家の物語』は、シャーロット・ブロンテの長編『ジェイン・エア』に影響を与えているということでも有名な作品ですね。
 レ・ファニュといえば、長編作品も全て絶版状態です。『墓地に建つ館』『ワイルダーの手』は、長大すぎて少々きついですが、『アンクル・サイラス』『ゴールデン・フライヤーズ奇談』は、今読んでもなかなか面白いと思うので、ぜひ復刊してほしいところです。

 数年前から刊行予告が出たり消えたりを繰り返していた、インスクリプトの《ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション》は、ようやく始動のようです。全巻の構成は以下の通り。

第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円+税[完訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊)特大巻:5,800円+税[完訳]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊)予価:5,000円+税[本邦初訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊)予価:5,500円+税[本邦初訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊)予価4,200円+税 [本邦初訳]

本邦初訳も多く、ヴェルヌファンは入手しておいた方がよさそうですね。

イヴァン・レピラは、初紹介の作家のようですが、『深い穴に落ちてしまった』の紹介文はなかなか魅力的です。「名も年もわからない兄弟が穴に落ちて出られなくなってしまった。素数で構成された章番号や文章に隠された暗号の意味とは。読後に驚愕と強い感動をもたらす大人のための寓話。」

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最近読んだ本

4883752437ウェンディゴ (ナイトランド叢書)
アルジャーノン・ブラックウッド 夏来 健次
書苑新社 2016-10-20

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アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(夏来健次訳 アトリエサード)
 イギリスの怪奇小説の巨匠ブラックウッドの中篇3作を集めた作品集です。
 表題作『ウェンディゴ』は、カナダに伝わる精霊ウェンディゴを扱った作品。調査のため森林地帯に入り込んだ男たちの一人が、突然失踪し、行方が分からなくなります。ようやく見つけた男は、別人のようになり、なぜか自らの足を隠そうとしますが…。
 大自然の中、人間もほとんどいない場所で出会った怪異を描いていて、その迫力はただ事ではありません。描かれる怪異の得体の知れなさがまた素晴らしい。すでに邦訳のある作品ですが、ブラックウッド作品の中でも一、二を争う傑作だと思います。
 『砂』は、エジプトの秘儀を扱った神秘小説、『アーニィ卿の再生』もまた秘儀を扱っていますが、何事にも覇気の足りない青年に生命力をもたらそうと、家庭教師がその秘儀を利用しようとするという、変わったシチュエーションの物語で面白いですね。



4150121044ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫 SF ヘ)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
早川書房 2016-11-22

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バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(大森望、中村融訳 ハヤカワ文庫SF)
 奇想で知られるイギリスのSF作家ベイリーの短篇集です。どれも突拍子もないアイディアと、それを固める物語のディテールが見事です。
 表題作の『ゴッド・ガン』は、神を殺す兵器を開発する男の話。結末も脱力系で、SFホラ話といった感じの作品ですね。
 宇宙でいちばん大きな音を追求する男を描いた『大きな音』、地底を掘り進む船を描いた『地底潜艦』、特殊な性的嗜好を研究する博士を描く『ロモー博士の島』、文字通り「脳の競争」を描いた『ブレイン・レース』、蟹の生殖活動を青春小説風に描いた『蟹は試してみなきゃいけない』など、奇想のオンパレードです。
 特に、『ブレイン・レース』の突拍子のなさがすごいです。主人公の男たちは、事故で死んでしまった仲間を助けるため、外科技術に優れているという異星人に手術を頼みますが、仲間が施されたのはとんでもない手術でした…。グロテスクかつ悪夢のような、ホラーSFの傑作です。
 『邪悪の種子』は、この作品集の中では、いちばんSFらしいSFでしょうか。不死とされる種族が地球に亡命を求め、それを地球は受け入れます。周りの人々が平和的に彼を受け入れるのとは異なり、外科医のジュリアンは彼の身体を調べて不死の秘密を探ろうと考えます。場合によっては彼を殺してでもと考えるジュリアンでしたが…。
 強烈な欲望を持つ男と不死人との攻防が、膨大な時間の経過を経て描かれる、スケールの大きな作品です。



4488010644奇妙という名の五人兄妹
アンドリュー・カウフマン 田内 志文
東京創元社 2016-11-11

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アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(田内志文訳 東京創元社)
 ウィアード家の三女アンジーは、祖母に病院に呼ばれます。祖母は、自分は十三日後の誕生日に死ぬことになると予言するとともに、不思議なことを言い出します。
 祖母は五人の孫の誕生時に、それぞれ〈力〉を与えたというのです。それらは、危機を回避する力、道に迷わない力、希望を失わない力、許しの力、戦う力。しかしその能力によって、孫たちの人生は台無しになってしまった。死ぬ前に、それらの力を消すために、兄妹全員を祖母の元に連れてくる必要があるのだと。
 祖母の言葉を信じたアンジーは、兄妹を集める旅に出ますが…。

 以前に邦訳の出た『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』同様、ファンタジーがかった設定が魅力的な作品です。
 この作品で真っ先に目に付くのは、兄妹に与えられた不思議な力の数々です。面白いのは、それらの力が、特殊能力というより「性質」に近いものだということ。例えば「許しの力」は、どんなにひどいことをされても、相手を「許し」てしまうというもので、そのために他の人々から利用されてしまうこともあるというのです。
 それぞれ力を持ちながら、またそれを持つがゆえに、兄妹たちは人生において躓いています。一番役立ちそうな「戦う力」でさえ、それを持っていてもほとんど何の役にも立たないのです。
 兄妹がそれぞれ抱える問題を描きながら、予告された祖母の死までに兄妹を集めることができるのか? というタイムリミットサスペンスにもなっていますが、ヒロインを含め、兄妹たちの旅の行程にそれほどの切迫感はありません。人生におけるしがらみが、回想シーンを含め描かれていく感じでしょうか。
 旅の途中においても、それほどの困難があるわけではありません。また、トラブルがあるとしても、兄妹たちの力がそれほど活用されるわけでもないところに拍子抜けしてしまうのですが、そもそも作者の狙いが「能力を使って危機を乗り越える」といった方面にないようなので、そういう趣向を期待すると、あまり面白くないかもしれません。個人的には、これはこれで面白いと思います。
 兄妹だけではなく、圧倒的な支配力を持つ祖母、行方をくらまして死んだとされる父親、精神の壊れてしまった母親など、家族の面々が色彩豊かに描かれます。寓意に満ちたファンタスティックな家族小説として、一読の価値はある作品でしょう。



4756245536KOMA―魂睡
ピエール・ワゼム フレデリック・ペータース
パイインターナショナル 2014-10-12

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ピエール・ワゼム、フレデリック・ペータース『KOMA―魂睡』(鈴木賢三訳 パイインターナショナル)
 父親と共に煙突掃除の仕事をしている少女アディダスには、突然気絶してしまうという持病がありました。ある日、アディダスは、煙突の奥深くで、巨大な怪物と出会います。実は、地中では、地上の人間の感情や体調を管理する機械が存在し、怪物はそれらの仕事に従事していたというのです。やがて、機械の存在を知り、利用しようとする勢力が現れますが…。

 スイス作家によるバンドデシネ(コミック)作品。世界はあるシステムによって支配されており、その支配を覆そうとするヒロインを描くファンタジー作品です。
 「機械」によって管理されているということから、固定されたシステムなのかと思いきや、世界は精神的な力によって作られているということが判明します。後半から登場する、その精神的な世界の描写が何とも魅力的です。
 世界は「作られている」というフィリップ・K・ディック的な序盤から、世界創造に至る後半まで、スケールの大きなファンタジーといえます。



4336058962ぼくのミステリ・クロニクル
戸川安宣 空犬太郎
国書刊行会 2016-11-17

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戸川安宣著、空犬太郎編『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)
 東京創元社の名物編集者として知られた著者の回想記です。大きく「読み手」「編み手」「売り手」としての面から、自らの人生を語っています。
 「読み手」としては、子供の頃から青年時代に至る読書について語り、「編み手」としては、東京創元社の編集者として編集実務を語り、「売り手」としては、ミステリ専門書店「TRICK+TRAP」の経営と販売について語るという、多彩な面からのアプローチになっており、ミステリだけでなく、本全般について興味のある人には、面白く読める回想記になっています。
 ジャンル小説のファンや東京創元社のファンとしては、やはり編集者時代のパートが、いちばん関心を持って読めるところでしょう。
 《日本探偵小説全集》を企画したときに、普通の文庫2冊分の場所を取ってしまうのだから、2冊分の売上げがなければ駄目だと言われたことや、エーコ『薔薇の名前』が文庫化されない理由など、興味深いエピソードがたくさん出てきます。
 個人的になるほどと思ったのは、もともと翻訳もの専門だった東京創元社が日本作家の作品を出すようになったというところ。翻訳ものがあまり売れなくなった現代において、日本作家の作品を取り扱うようになったことは、社にとって必要なことだった、という認識のようですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
発売中 《ナイトランド・クォータリーvol.07 魔術師たちの饗宴》(アトリエサード 1836円)
11月30日刊 フレイザー・リー『断頭島(ギロチンアイランド)』(竹書房文庫 予価864円)
12月2日刊 稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス 21世紀タルホスコープ』(河出文庫 予価1296円)
12月6日刊 レジナルド・ライト・カウフマン『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』(国書刊行会 予価2160円)
12月6日刊 ファーガス・ヒューム『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』(国書刊行会 予価2268円)
12月7日刊 エドワード・アタイヤ『細い線 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価864円)
12月7日刊 エゼキエル・ブーン『黒い波 破滅へのプレリュード』(ハヤカワ文庫NV 予価1145円)
12月8日刊 ドロレス・レドンド『バサジャウンの影』(ハヤカワ・ミステリ 予価2052円)
12月8日刊 チャイナ・ミエヴィル『爆発の三つの欠片(かけら)』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価2700円)
12月8日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語2 ライオンと魔女と衣装だんす』(光文社古典新訳文庫)
12月14日刊  三田順、岩本和子編『幻想の坩堝』(松籟社 予価1944円)
12月14日刊 『諸星大二郎の世界』(平凡社 予価1728円)
12月21日刊 大瀧啓裕『翻訳家の蔵書』(東京創元社 予価3240円)
12月22日刊 『新編 日本幻想文学集成 第4巻』(国書刊行会 6264円)
12月23日刊 小野俊太郎『ドラキュラの精神史』(彩流社 予価1944円)
12月25日刊 フランシスコ・ナルラ『ブラックボックス』(ハーパーBOOKS 予価819円)


 フレイザー・リー『断頭島(ギロチンアイランド)』は、ちょっと気になる作品。「家賃が払えず、アパートメントを追い出されたマーラは最高の仕事を見つけた――。億万長者が所有する島の管理人“点灯員(ランプライター)"だ。簡単な仕事に破格の給料。しかしその島は、生きて出た者はいない恐ろしい場所だった……。」

 エドワード・アタイヤ『細い線 新訳版』は、サスペンスの古典的作品。不倫相手を殺してしまった男が、罪の意識に囚われてゆく…といった感じの作品。確か乱歩も褒めていましたね。

 三田順、岩本和子編『幻想の坩堝』は、本邦初のベルギーの幻想文学アンソロジーです。収録作家は、マーテルランク、ローデンバック、ピカール、エレンス、ゲルドロード、オーウェン、ジャン・レー、ティリーなど。これは楽しみですね。
 ベルギー幻想文学といえば、ジャン・レーの未訳作品もどこかで出してくれないものでしょうか。

 『諸星大二郎の世界』は、ムック本のようですね。諸星大二郎といえば、今月の新刊で『BOX 箱の中に何かいる」(モーニング KC)という作品が出ています。それぞれ異なったパズルを手に入れた男女たちが、謎の迷宮に閉じ込められる…という作品。あらすじを見たときは、流行りの<デスゲームもの>なのかな、と思いきや、内容はしっかりと諸星節になっているところがさすがでした。ユーモアもある、不条理スリラーとしてオススメです。

 大瀧啓裕『翻訳家の蔵書』は、怪奇幻想小説の翻訳で有名な著者のエッセイ集。この方の本は、マニアックな幻想小説の話題が散りばめられていて楽しいのですよね。

 フランシスコ・ナルラ『ブラックボックス』は、あらすじが面白そうですね。
「テロか、事故か? 生存者ゼロ――。おぞましい連続殺人、ケルト神話が息づく村、一族の封印された忌まわしい秘密……」。オカルトスリラーっぽい作品のようです。

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11月の気になる新刊
11月上旬刊 『ロシアSF短編集』(アルトアーツ 1188円)
11月8日刊 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』(中央公論新社 予価1080円)
11月9日刊 『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ハヤカワ文庫SF 予価1058円)
11月10日刊 『定本 夢野久作全集 第1巻』(国書刊行会 10,260円)
11月11日刊 ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(創元推理文庫 予価1253円)
11月11日刊 アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(東京創元社 予価2160円)
11月15日刊 戸川安宣『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会 予価3240円)
11月18日刊 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』(彩流社 予価3024円)
11月19日刊 G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち 新訳版』(創元推理文庫 予価864円)
11月22日刊 ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価972円)
11月22日刊 バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
11月25日刊 シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』(国書刊行会 予価2592円)
11月30日刊 ブライアン・エヴンソン『ウインドアイ』(新潮社 予価2160円)
11月30日刊 シャーリイ・ジャクスン『処刑人』(創元推理文庫 予価994円)
11月刊 フランシス・M・ネヴィンズ『エラリー・クイーン 推理の芸術』(国書刊行会 予価3888円)

 アルトアーツの『ロシアSF短編集』は、本邦初訳の作品ばかりを集めたロシアの古典SFアンソロジー。オドエフスキー、ボグダーノフ、ステーチキン、クプリーン、ズゾーリャ、アレリスキーらの作品を収録。ちなみに、こちらの作品集は、基本的にアルトアーツのサイトからの受注生産になります。

 『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』は、伊藤典夫翻訳のSF短篇を集めたアンソロジーのようです。表題作は、ルイス・パジェット(ヘンリー・カットナー)の名作短篇。他の収録作品は不明ですが、表題作だけでも買いのアンソロジーだと思います。

 寓意に満ちたファンタジー『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の作者アンドリュー・カウフマンによる邦訳2作目『奇妙という名の五人兄妹』は、これまた奇妙な味の作品のようです。「13日後に死ぬと予言した祖母の指示で、ウィアード家の末娘は兄と姉二人、弟を探す旅に出る。」

 チェスタトン『詩人と狂人たち 新訳版』は、ミステリと幻想小説の境目にあるような味わいの作品ですが、難解な面もあったので、新訳は歓迎したいところですね。

 ダンセイニの奇妙な味のミステリ『二壜の調味料』が文庫化。詳しい紹介は過去の記事を参照ください。
→ 「黄昏のミステリ   ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』」

 バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』は、単行本未収録のベイリーの短篇を集めた傑作集。これは楽しみです。

 シャーリイ・ジャクスンの作品がなんと2冊刊行です。国書刊行会の『鳥の巣』と、創元推理文庫の『処刑人』『処刑人』の方は、すでに邦訳が出ている『絞首人』と同じ作品ですね。〈ドーキー・アーカイヴ〉の『鳥の巣』は、多重人格を扱った作品だそうです。




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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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