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『ゴッド・プロジェクト』と『レリック』を読む
4167275287ゴッド・プロジェクト (文春文庫 (275‐28))
J・ソール 田中 靖
文藝春秋 1984-10

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ジョン・ソール『ゴッド・プロジェクト』(田中靖訳 文春文庫)

 コンピュータを生業とするキャリアウーマン、サリーは、夫のスティーヴとの間に二人の子どもにも恵まれ、仕事も私生活も充実した生活を送っていました。しかし、生まれたばかりの娘ジュリーが、ある日突然死んでしまいます。医者は「乳児突然死症候群」であり、親の責任ではないと話しますが、サリーは自分を責め続けます。
 周囲に、同じく娘を突然死で無くした母親が何人もいることに気付いたサリーは、ジュリーの死も何か共通した原因があるのではないかと考え、調査を始めます。
 一方、問題児ではあるものの、健康優良児として知られる少年ランディは、見知らぬ女に誘われ、子どもが集められた研究機関のような場所に監禁されてしまいます。
 サリーは、ランディの母親ルーシイとともに調査を続けますが、やがて浮かび上がってきた事実は意外なものでした。サリーの息子ジェイソン、娘のジュリー、そしてランディは、ある機関によって生後間もない時期から密かに調査の対象になっていたのです。そしてそれらの子どもは、ある特定の医師によって取り上げられた子どもたちでした…。

 秘密機関によって調査されていた子どもたちの恐るべき秘密が明かされる…といった感じのSFホラーです。
 物語の大枠としては、娘の突然死の原因を追及しようとするサリーと、行方不明になった息子を捜すルーシイとの、二人の母親のパートがメインとなっています。そしてその間に、誘拐された少年ランディ、サリーの息子ジェイソン、サリーの担当医ワイズマン、研究機関CHILDの研究者などが、カットバックで描かれていきます。
 リーダビリティは非常に高いです。同時並行で各パートが描かれるのですが、謎の研究機関の思惑は何なのか? 複数のパートはどこまで関連しているのか? といった面がなかなか判明しません。赤ん坊の突然死、子どもの誘拐、研究機関の動きなど、多様な要素で読者の興味を引っ張ります。
 特に、ランディが監禁される少年たちの「学校」のパートは、インパクト大です。その場所では、ランディと同じような少年たちが集められており、ある程度の規律さえ守れば、少年たちの遊びは完全に自由であり、危険な行為や暴力的な行為さえ許されています。無邪気に遊ぶ子どもたちの行動はエスカレートしてゆき、やがて惨事にまで至ってしまうのです。

 子どもたちは何のために監視されているのか? 彼らには何か特殊な能力があるのか? という陰謀の謎は、早い段階で読者にはわかってしまうと思います。ただ、その謎がわかった後でも、別の面での興味が新たに浮かび上がってきます。
 作品中に登場する子どもたちは、肉体的にどこか異常があることに加え、内面もまた、倫理的に麻痺したような面を持っています。これらの子どもたちがどうなるのか? 何を引き起こすのか? といった面で、物語がどうなるのか予断を許さないのです。
 ラストを含め、非常に後味の悪い話なのですが、いろいろな要素の詰まった作品であり、一読の価値がある作品ではないでしょうか。



4594022448レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)
ダグラス プレストン リンカーン チャイルド Douglas Preston
扶桑社 1997-05

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ダグラス・プレストン/リンカーン・チャイルド『レリック』(尾之上浩司訳 扶桑社ミステリー)

 アマゾンの奥地で、謎の種族コソガを調査していた探検隊は不可解な原因で死を遂げていました。
 そして現在、数千人の職員を擁するニューヨーク自然史博物館の内部で、少年二人が惨殺死体で発見されます。引き裂かれた死体の頭部には、何者かが脳の一部を食べたと思われる跡がありました。その後も職員の殺害は続き、博物館の内部に殺人鬼が潜んでいることが確実になります。
 FBI捜査官ペンダーガストとニューヨーク市警察のダガスタ警部補は協力して捜査に当たることになりますが、近々行われる大掛かりな展覧会を前に、館長ライトやその取り巻きたちは、調査に協力的ではありません。
 一方、大学院生のマーゴは、師であるフロック博士とともに独自の調査を開始しますが、そこでわかったのは、殺人を繰り返している何者かは人間ではないということでした。殺人鬼の正体は、コソガ族が崇拝していたという、謎の生物「ンヴーン」なのだろうか…?

 巨大な博物館内部に潜む殺人鬼、しかもそれは人間ではなく、アマゾンの奥地からやってきた謎の生物だった…という伝奇ホラー的な作品です。
 前半は、殺人を繰り返す怪物の正体について、主人公たちが調査を重ねていく様子が描かれます。学者が集まっているという博物館だけに、いちおう学問的なアプローチが進められていくことになります。コンピュータで怪物の正体を解析していくあたりは、ハイテクスリラーっぽいですね。
 後半、怪物が正面きって現れてからは、スペクタクル満開で面白くなります。誤ってセキュリティが破壊され、人々も分散して逃げるなか、どこから怪物が襲ってくるかわからないというシチュエーションは魅力的ですね。
 この怪物が強力で、骨が硬すぎて拳銃も貫通しないという強靭さ。どうやって勝つんだろうと思っていたら、意外にあっさりと決着がついてしまうのには驚きました。
 題材はB級ながら、なかなか面白い作品なのですが、やはり、後半の怪物との対決までの間がかなり長いので、そこまでに退屈してしまう人もいるかもしれません。
 ただ、謎の生物「ンヴーン」の正体にひとひねりが加えられているのには感心しました。


※今回取り上げた2冊は、Greenさんの好意でお貸しいただいた本です。面白い作品を読む機会をいただき、ありがとうございました。

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9月の気になる新刊と8月の新刊補遺
8月26日刊 本の雑誌編集部編『別冊本の雑誌 古典名作本の雑誌』(本の雑誌社 予価1728円)
8月28日発売 『ナイトランド・クォータリーvol.10 逢魔が刻の狩人』(アトリエサード 予価1836円)
8月29日刊 ポール・ウィリアムズ『フィリップ・K・ディックの世界』(河出書房新社 予価3024円)
9月4日刊 『月岡芳年 月百姿』(青幻舎 予価2484円)
9月6日刊 小酒井不木『疑問の黒枠』(河出文庫 予価864円)
9月6日刊 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集 新装版』(河出文庫 予価842円)
9月6日刊 スティーヴン・キング『死の舞踏』(ちくま文庫 予価1620円)
9月8日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語5 ドーン・トレッダー号の航海』(光文社古典新訳文庫)
9月11日刊 レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』(創元SF文庫 予価1188円)
9月12日刊 日下実男『絵ときSF もしもの世界 復刻版』(復刊ドットコム 予価3996円
9月20日刊 アメリア・グレイ『AM/PM』(河出書房新社 予価1728円)
9月21日刊 フィリップ・K・ディック『去年を待ちながら 新訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価1123円)
9月21日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の醜聞 新版』(創元推理文庫 予価799円)
9月23日刊 木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』(角川ホラー文庫 予価562円)
9月23日刊 名梁和泉『二階の王』(角川ホラー文庫 予価821円)
9月25日刊 『ミステリマガジン11月号 幻想と怪奇 ノベル×コミック×ムービー』(早川書房 1296円)
9月29日刊 柳下毅一郎監修『J・G・バラード短編全集4』(東京創元社 予価3888円)

9月下旬発売 創元推理文庫・SF文庫 復刊フェア
ウィリアム・アイリッシュ『黒いカーテン』
F・W・クロフツ『チョールフォント荘の恐怖』
エリザベス・フェラーズ『猿来たりなば』
マーガレット・ミラー『殺す風』
ルース・レンデル『死が二人を別つまで』
中野善夫・吉村満美子編訳『怪奇礼讃』
平井呈一『真夜中の檻』
ロバート・A・ハインライン『宇宙の呼び声』
エドガー・R・バローズ『時間に忘れられた国』
ジェイムズ・P・ホーガン『仮想空間計画』


 『ナイトランド・クォータリー』最新号は、ゴースト・ハンターものの特集。翻訳は、グリン・オーウェン・バーラス、カイトリン・R・キアナン、アラン・バクスター、H・S・ホワイトヘッド、キム・ニューマン、シーベリー・クインらの作品を収録とのこと。

 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集 新装版』は、1990年代初めに出ていた河出文庫の怪談集シリーズ、ラテンアメリカ編の新装版。「怪談」というよりは、奇想にあふれた異色短篇集といった趣のアンソロジーで、何より「お話」が面白いのが魅力です。
 収録作品を挙げておきます。

レオポルド・ルゴネス『火の雨』
オラシオ・キローガ『彼方で』
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『円環の廃墟』
M・A・アストゥリアス『リダ・サルの鏡』
シルビナ・オカンポ『ポルフィリア・ベルナルの日記』
マヌエル・ムヒカ=ライネス『吸血鬼』
エンリケ・アンデルソン=インベル『魔法の書』
ホセ・レサマ=リマ『断頭遊戯』
フリオ・コルタサル『奪われた屋敷』
オクタビオ・パス『波と暮らして』
アドルフォ・ビオイ=カサレス『大空の陰謀』
アウグスト・モンテローソ『ミスター・テイラー』
エクトル・アドルフォ・ムレーナ『騎兵大佐』
カルロス・フェンテス『トラクトカツィネ』
フリオ・ラモン・リベイロ『ジャカランダ』

 この怪談集シリーズ、他にいろいろな国のものがあり、どれも特色のあるアンソロジーでした。このシリーズについては、昔書いた簡単な紹介を載せておきます。

「怪談集」とはいうけれど…  -河出文庫『怪談集』シリーズ-

 スティーヴン・キング『死の舞踏』は、キングが影響を受けたホラー作品について語った大部の評論書。小説作品だけでなく、ラジオドラマやテレビ、映画などへの言及が非常に多いのが特徴ですね。
 何度か復刊されていますが、今回は「2010年版へのまえがき」が新たに付くとのことです。

 木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』は、第24回日本ホラー小説大賞・優秀賞受賞作品。「新人ホラー作家の熊野惣介は、毒舌担当編集者・善知鳥と小説のネタ探しのため心霊スポットを巡るなかで、奇妙な音を出す霊と遭遇し――。霊の見える作家と見えない編集者が「究極のホラー小説」を目指す!」という話だそうで、気になる作品です。

 名梁和泉『二階の王』は、引きこもりをめぐる家庭内の不和が世界の危機につながっていくという、何とも奇妙なテーマの作品で、なかなか面白い作品でした。2015年度刊行作品の文庫化ですが、オススメしておきます。

 今年も、創元推理文庫・SF文庫の復刊フェアの季節になりました。お勧めは、中野善夫・吉村満美子編訳『怪奇礼讃』と平井呈一『真夜中の檻』でしょうか。
 『怪奇礼讃』は、クラシカルなゴースト・ストーリーのアンソロジー。この本でしか読めない作品が多数収録されています。
 『真夜中の檻』は、怪奇小説の名訳者、平井呈一の創作とエッセイを集めた本です。『怪奇小説傑作集』の愛読者だった人なら、必読でしょう。

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8月の気になる新刊
8月7日刊 『月岡芳年 妖怪百物語』(青幻舎 予価2484円)
8月8日刊 ヴァレリー・シュール=エルメル『幻想版画 ゴヤからルドンまでの奇怪コレクション』(グラフィック社 予価3024円)
8月8日刊 コードウェイナー・スミス『三惑星の探求 人類補完機構全短篇3』(ハヤカワ文庫SF 予価1512円)
8月8日刊 アン・モーガン『わたしはヘレン』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1361円)
8月8日刊 『日本SF傑作選1 筒井康隆 マグロマル/トラブル』(ハヤカワ文庫JA 予価1620円)
8月8日刊 澁澤龍彦『バビロンの架空園』(河出文庫 予価950円)
8月9日刊 A・メリット『魔女を焼き殺せ!』(アトリエサード 予価2484円)
8月10日刊 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』(国書刊行会 2700円)
8月10日刊 ジュール・ヴェルヌ『蒸気で動く家』(インスクリプト 予価5940円)
8月12日刊 東雅夫編『文豪妖怪名作選』(創元推理文庫 予価929円)
8月22日刊 アンドルー・ラング『夢と幽霊の書』(作品社 予価2592円)
8月22日刊 小泉喜美子『殺さずにはいられない 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫 予価886円)
8月25日刊 ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会 予価2916円)
8月25日刊 セルジュ・ブリュソロ『闇夜にさまよう女』(国書刊行会 予価2700円)
8月31日刊 ヘレン・マクロイ『月明かりの男』(創元推理文庫 予価1080円)
8月31日刊 ジョー・ウォルトン『わたしの本当の子どもたち』(創元SF文庫 予価1404円)
8月31日刊 中村融編訳『猫SF傑作選 猫は宇宙で丸くなる』(竹書房文庫 予価1188円)
8月下旬刊 『月岡芳年 月百姿』(青幻舎 予価2484円)


 ヴァレリー・シュール=エルメル『幻想版画 ゴヤからルドンまでの奇怪コレクション』は、無気味で幻想的な版画を集めた画集。これは面白そうです。

 《ナイトランド叢書》の新刊は、エイブラム・メリットの『魔女を焼き殺せ!』。1960年代に邦訳が出たものの、稀書になっていた作品なので、新訳刊行は嬉しいですね。
 メリットは、20世紀初頭に活躍したアメリカの作家。『イシュタルの船』『蜃気楼の戦士』など、秘境や異世界を舞台にしたヒロイック・ファンタジーで名をなした作家です。
 『魔女を焼き殺せ!』は、ファンタジーではなく現代ホラー作品のようですが、名作の評価も高いので、読むのが楽しみです。

 『引き潮』は、スティーヴンソンと義理の息子ロイド・オズボーンの合作になる海洋冒険小説。この親子の合作では、過去に『箱ちがい』『難破船』が邦訳されていますが、どちらも非常に面白かったので、こちらの作品も期待大ですね。

 8月の新刊で、イチオシはやはりこれです。ステファン・グラビンスキの怪奇幻想作品集第3弾である『火の書』。〈火〉 をテーマとする短篇小説と、自伝的エッセイ、インタビューを収録とのことです。版元のページでは内容が既に紹介されていますので、転載させていただきます。

赤いマグダ
白いメガネザル
四大精霊の復讐
火事場
花火師
ゲブルたち
煉獄の魂の博物館
炎の結婚式
有毒ガス

[エッセイ]
私の仕事場から
告白

[インタビュー]
ステファン・グラビンスキとの三つの対話
一九二七年/一九三〇年/一九三一年

 セルジュ・ブリュソロは、児童向け作品がいくつか訳されている作家ですが、『闇夜にさまよう女』は、あらすじを見る限り、ちょっと面白そうな作品です。「頭に銃弾を受けた若い女は、脳の一部とともに失った記憶を取り戻そうとする。「正常な」世界に戻ったとき、自分が普通の女ではなかったのではと疑う。追跡されている連続殺人犯なのか? それとも被害者なのか? 」

 中村融編訳『猫SF傑作選 猫は宇宙で丸くなる』は、猫をテーマにしたSFアンソロジー。収録作品はまだわかりませんが、編者はアンソロジストとして定評のある中村さんなので、期待大です。ちなみに、収録作家がシオドア・スタージョン他となっているのですが、スタージョン作品は、雑誌に訳載されたきりの『ヘリックス・ザ・キャット』あたりでしょうか。

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7月の気になる新刊
7月6日刊 イサベル・アジェンデ『精霊たちの家 上下』(河出文庫 予価各1188円)
7月6日刊 澁澤龍彦『極楽鳥とカタツムリ』(河出文庫 予価950円
7月6日刊 アレクサンドラ・オリヴァ『ラスト・ワン』(ハヤカワ文庫NV 予価1253円)
7月11日刊 内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』(講談社選書メチエ 予価1944円)
7月11日刊 ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫)
7月12日刊 エラリー・クイーン『アメリカ銃の謎 新訳版』(創元推理文庫 予価1080円)
7月12日刊 夢野久作『夢Q夢魔物語 夢野久作怪異小品集』(平凡社ライブラリー 予価1512円)
7月14日刊 紀田順一郎『蔵書一代 なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか』(松籟社 予価1944円)
7月17日刊 リズ・ベリー『月影の迷路』(国書刊行会 予価3024円)
7月20日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の秘密 新版』(創元推理文庫 予価799円)
7月25日刊 スタニスワフ・レム『主の変容病院・挑発』(国書刊行会 予価3024円)
7月28日刊 A・E・ヴァン・ヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険 新版』(創元SF文庫 予価950円)
7月28日刊 キャリー・パテル『墓標都市』(創元SF文庫 予価1447円)


 アジェンデ『精霊たちの家』は、幻想的要素のある大河小説。アジェンデ作品は、ラテンアメリカ小説の中では圧倒的に読みやすいので、オススメです。

 澁澤龍彦『極楽鳥とカタツムリ』は、著者の著作の中から、動物をテーマにした物語を集めたというアンソロジー。これは面白そうですね。

 内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』は、アカデミックな視点の評論だと思いますが、題材が乱歩と正史ということで、気になりますね。

 7月の新刊で一番気になるのがこれ、ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』です。マッシモ・ボンテンペッリ(1878-1960)は、イタリアの作家。ユーモアとファンタジーにあふれる作品は、今読んでも面白く、戦前の日本でもいくつかの作品が訳されています。
 ちくま文庫から刊行された短篇集『わが夢の女』(岩崎純孝他訳 ちくま文庫)には、いわゆる《奇妙な味》に近い味わいの作品が収められています。
 ずいぶん昔に、このブログでも紹介したことがあります。
 ブルジョワ娘の空の散歩  マッシモ・ボンテンペルリ『わが夢の女』

 今回刊行される『鏡の前のチェス盤』は、長編ファンタジーのようですね。「語り手である「ぼく」が10歳のころ、部屋にあった鏡のなかの世界に入り込んだ体験を回想するファンタジー。チェスの駒が会話し、現実と非現実の境が曖昧な迷宮ワールドを描く、キャロルの〝アリスもの〟を思わせる幻想的色彩の強い物語。」だそうで、これは楽しみ。いずれ短篇集も新訳刊行してほしいところです。

 ついに、国書刊行会の〈スタニスワフ・レム・コレクション〉 が完結。長かったですね。最終巻は、『主の変容病院・挑発』。レムの処女長篇『主の変容病院』のほか、ナチスによるユダヤ人大虐殺を扱った架空の歴史書の書評『挑発』や『二一世紀叢書』など、メタフィクショナルな中短篇5篇を収録とのこと。

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6月の気になる新刊と5月の新刊補遺
5月31日発売 『ナイトランド・クォータリーvol.09 悪夢と幻影』(アトリエサード 1836円)
6月5日刊 山田英春『奇妙で美しい 石の世界』(ちくま新書 予価994円)
6月6日刊 中野美代子『カニバリズム論』(ちくま学芸文庫 予価1296円)
6月6日刊 パトリック・リー『予言ラジオ』(小学館文庫 予価918円)
6月8日刊 ルース・ウェア『暗い暗い森の中で』(ハヤカワ文庫NV 予価1231円)
6月12日刊 ロバート・シルヴァーバーグ『時間線をのぼろう 新訳版』(創元SF文庫 予価1080円)
6月13日刊 サキ『平和の玩具』(白水Uブックス 予価1728円)
6月13日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語4 カスピアン王子』(光文社古典新訳文庫)
6月13日刊 トーマス・ラープ『静寂 ある殺人者の記録』(東京創元社 予価2376円)
6月13日刊 アレクサンドル・ベリャーエフ『永久パン 他一篇』(アルトアーツ 1188円)
6月22日刊 スティーヴン・ミルハウザー『木に登る王 三つの中篇小説(仮題)』(白水社 予価2804円)
6月22日刊 ジーン・ウルフ『書架の探偵』(新ハヤカワSFシリーズ 予価2376円)
6月24日刊 ジャン・ポール ディディエローラン『6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む』(ハーパーコリンズ・ジャパン 予価1512円)


 『ナイトランド・クォータリー』9号の特集は、「悪夢」。エドワード・ルーカス・ホワイト、リサ・タトル、マンリー・ウェイド・ウェルマン、ロバート・エイクマン、M・P・シールなどの作品が掲載だそうです。

 パトリック・リー『予言ラジオ』は、数時間後の未来のラジオが聞ける機械をテーマにしたSFスリラー。これは面白そうですね。

 白水Uブックスのサキシリーズの新刊は『平和の玩具』。エドワード・ゴーリーの挿絵、G・K・チェスタトンの序文を収録。

 トーマス・ラープ『静寂 ある殺人者の記録』の内容は以下のようなもの。
 「蝶の羽ばたきすら聞こえる、鋭敏な聴覚を持つカール。この世界にとってあまりにも異質に生まれついた、純粋で奇妙な殺人者の生涯とは。」ジュースキントの『香水』みたいな話でしょうか。 

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最近読んだ本

4309207243約束
イジー クラトフヴィル Ji〓´i Kratochvil
河出書房新社 2017-01-24

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イジー・クラトフヴィル『約束』(阿部賢一訳 河出書房新社)
 ナチス・ドイツ占領下のチェコの都市ブルノで、妹の命と引き替えに鉤十字型の邸宅を建てた有名建築家。戦後、秘密警察にマークされた建築家は、捕らえられた妹が自殺するに及び、妹を逮捕した警官に復讐を誓いますが…。

 大枠は、妹を死に追いやった男に復讐をする物語、といえるのですが、ストーリーの筋がなかなかまっすぐ進まないのが特徴です。語り手が次々と変わり、それぞれの視点から物語が語られることもあり、物語の本筋がなかなか見えてきません。
 中盤になり、建築家の復讐の手段が明らかになるのですが、そこからが圧巻です。この建築家、倫理的な義務感の強い男で、警官に苦痛を与えたくはないという観点から、持ってまわった手段を取るのですが、それが仇になり、事態がどんどんエスカレートしていきます。そしていつの間にか、目的自体がすり替わっていくことになるのです。
 最初はシリアスで重厚な物語なのかと思いきや、事態がエスカレートしてからの展開が奇想天外で、驚かされます。物語のところどころに省略があるため、どうしてこうなったのか? 結末は結局どうなったのか? といった部分で、かなりもやもやが残るのではありますが、そのあたりを想像力で補完するという意味では、非常に刺激的な作品ではありますね。



4488010679深い穴に落ちてしまった
イバン・レピラ 白川 貴子
東京創元社 2017-01-21

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イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(白川貴子訳 東京創元社)
 ある日、森で穴に落ちてしまった兄弟。深い穴からどうしても出られない兄弟は、木の根や虫を食べて生き延びようとしますが…。

 穴に落ちた兄弟の、極限状況を描くサバイバル的作品です。兄弟の名前も、穴に落ちた具体的な状況もわからず、ただ穴の中での暮らしと脱出の試みを描いていきます。「寓話的作品」とはいいつつ、実際の飢餓や病気の描写は詳細で、息苦しさを覚えるほど。
 結末にはある種の感動が得られる、不思議な魅力のある作品です。



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母親を喰った人形 (ハヤカワ文庫 NV―モダンホラー・セレクション (447))
ラムジー・キャンベル 小倉 多加志
早川書房 1987-05

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ラムジー・キャンベル『母親を喰った人形』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)
 兄を乗せて車を運転していたクレアは、突然飛び出してきた男をよけようとして事故を起こしてしまいます。兄はドアに片腕を切断され命を落としますが、事故後、その片腕が見つからないのです。あの飛び出してきた男が片腕を持ち去ったのか?
 やがてクレアに接触してきた犯罪ノンフィクション作家は、飛び出してきた男は、子供の頃から異様な行動を繰り返し、殺人の容疑もある男だと話しますが…。

 切断された片腕が消えるという、インパクトのあるシーンから始まる物語ですが、全体の展開は、至って地味な作品です。
 登場人物たちが皆、感情移入をしにくい造形なのに加えて、行動の動機が理解しにくいので、作品のページ数が短い割には、読んでいてなかなか進まないのが難点です。
 ただ、犯人の生い立ちや、中盤から絡んでくる黒魔術の背景などは、非常に不気味な雰囲気が出ています。特に、タイトルの意味が判明する犯人の生誕シーンなどは、強烈なインパクトがあります。
 全体にバランスが悪いのは否めないのですが、ホラー小説としては魅力的な部分もあり、捨てがたい作品ではあります。



415209639Xわすれて、わすれて
清水 杜氏彦
早川書房 2016-09-21

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清水杜氏彦『わすれて、わすれて』(早川書房)
 拳銃の名人「リリイ・ザ・フラッシャー」ことリリイは、強盗に妹と両親を殺されていました。リリイは、自分と同じく、父親を殺された友人カレンの復讐の旅に同行することになります。
 カレンの父を殺したのは、カレンの叔父とその仲間であり、その目的は、記した事柄を忘れさせることができる本〈ダイアリー〉を奪うことでした。〈ダイアリー〉を奪われずにすんだものの、父親は殺されてしまいます。
 カレンの復讐の計画とは、父親を襲った犯人たちを拷問し、その後に〈ダイアリー〉で記憶を消せば、相手からさらに復讐されることを防げる、というものでした…。

 主人公たちが持つのは、人の記憶を消すことのできる本という、強力なアイテム。しかしその存在を知る者が、自分たちに向かって本を使う可能性もあるのです。二人は用心しながら旅を続けますが、思いもかけない事態が起こります。
 本当ならば、復讐として相手を殺したい。けれど、そうしてしまうと自分も同じ人殺しになってしまう。それならば、肉体的に痛めつけた上で記憶を消してしまえばいい、というのが、カレンの発想です。
 しかし、それで復讐はなされたことになるのか? リリイはカレンの考えに賛同しきれない状態で旅を続け、二人の間では、たびたび意見の相違が起こります。
 憎しみの連鎖を防ぐためにはどうしたらいいのか? 記憶とは人間にとって何なのか? 読みやすい文章とリーダビリティを持ちながら、扱うテーマはなかなか重厚で、非常に読み応えのある作品です。



4895728447ブラック・ドッグ
レーヴィ ピンフォールド Levi Pinfold
光村教育図書 2012-09

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レーヴィ・ピンフォールド『ブラック・ドッグ』(片岡しのぶ訳 光村教育図書)
 ある家族が住む、森の中の一軒家。そこにふらりと現れた黒い犬。その姿は家族が見る度に大きくなっていき、やがて家を隠すほどになりますが…。

 人間の想像力をテーマにした絵本です。大人や年上の兄弟たちが犬を恐れるたびに、犬が巨大化していき、最後は末っ子が活躍して一件落着…という、ストーリー的には単純な話ではあるのですが、コマ割の工夫や、それぞれの絵の描き込みが詳細で、見ていて楽しい作品になっています。
 家族が、犬をみて驚くシーンを連続で描いているのですが、犬と家族を同一画面で描かず、窓から覗いて驚く家族と、大きくなっていく犬、それぞれを別コマで描くことによって、家族が犬を客観的に見れていない(恐怖心を過剰に持ってしまっている)というのを表現しており、非常に技巧的です。
 絵のタッチも魅力的で、デフォルメの利いた絵柄はユーモアにあふれています。
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文学フリマのこと
 5月7日に、東京流通センターにて開催された「第24回文学フリマ東京」に行ってきました。もともと興味はあったものの、この手の人が集まるイベントが苦手なこともあり、行くのは初めてです。
 「seaside junk foods」管理人のshigeyukiさんのお誘いで、ご一緒させていただきました。

 会場につくと、まだお昼前ですが、かなり盛況のようでした。
 主に詩や小説などの創作系サークルが中心ですが、批評や翻訳などを扱っているところもあったりと、バラエティに富んでいます。
 驚いたのは、それぞれ、製本や装丁に凝っているものが沢山あったところでしょうか。手で一冊一冊作ったような手製本や、印刷本でも、もの凄く綺麗な仕上がりの本もあり、見ているだけで楽しい本が沢山ありました。

 翻訳もの中心に、何冊か興味のあったものを購入しました。事前にネット上でサークル紹介をいくつか見ていて、いちばん欲しかったのが、ミュノーナ『創造者』(絹山絹子訳 黒死館附属幻稚園)だったのですが、こちらも無事に購入できました。
 以下は、購入したものです。

薄荷企画『ゆびさき怪談(青)』
薄荷企画『ゆびさき怪談(黄)』
 岩城裕明、矢部嵩、堀井拓馬、澤村伊智などの現役ホラー系作家による掌編怪談集です。

ケン・リュウ『天球の音楽』(はるこん・SF・シリーズ)
 ケン・リュウの日本オリジナル短篇集。

クリスティナ・ロセッティ著、アーサー・ヒューズ画『不思議なおしゃべり仲間たち』(市川純訳 レベル)
 クリスティナ・ロセッティの童話の翻訳です。こちらは商業ベースでも販売するようですが、先行発売ということで購入。

れうにおん『こ・めでぃうむver.20170507』
 ホレス・ウォルポールの翻訳が載っていたので。

ミュノーナ『創造者』(絹山絹子訳 黒死館附属幻稚園)
 ドイツの幻想作家ミュノーナの幻想小説の翻訳です。ミュノーナ(1871-1946)は、哲学者ザロモ・フリートレンダーが、小説を書くときに使ったペンネーム。日本では、短篇集『スフィンクス・ステーキ』(鈴木芳子訳 未知谷)が出ています。


4896421272スフィンクス・ステーキ―ミュノーナ短篇集
ミュノーナ Mynona
未知谷 2005-04

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 せっかくなので、ついでに紹介しておきましょう。『スフィンクス・ステーキ』は、ユーモアに満ちた奇想小説やファンタジーを多く収録した、異色作家短篇集に似た味わいの短篇集です。
 人間の体の毛の生え方をオルゴールの筒に移植して、その人間固有の音楽を奏でるという話『性格音楽-毛のお話』、スフィンクスを食べてしまうという、タイトル通りのお話『スフィンクス・ステーキ』、まったく同じ名前、同じ行動をとる40人の集団を描く奇談『謎の一団』、砂漠に現れた巨大な卵をめぐるナンセンス・ストーリー『不思議な卵』などが面白いです。突飛なイメージが印象に残るような作品が多いです。

H・G・ウェルズ『星の児 生物学的幻想曲』(黒死館附属幻稚園)
 戦前の雑誌『科学画報』に掲載された、ウェルズの翻訳の復刻版です。未完で終わっている残りの部分の訳を追加して完訳にしています。

荒川水路編訳『黄金期未訳SFテーマ・アンソロジー 猫の巻』(タイロス出版)
 未訳の黄金期SFから、テーマにそってセレクトしたアンソロジーです。アンドレ・ノートン、A.E.ヴァン・ヴォウト、スタンリー・ミューレンの作品を収録。
 こちらは、amazonでKindle版も出ているようです。

 コピー紙を簡単に製本したものから、厚手の表紙でしっかりした上製本まで、出展している本もそれぞれ趣向が凝らされていて、感心することしきりでした。会場の熱に当てられて、自分でも、何か本を作ってみたくなりました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本

4150413878白夜の一族〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)
スティーヴン・ロイド・ジョーンズ 林 香織
早川書房 2016-06-23

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スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族』(林香織訳 ハヤカワ文庫NV)

 傷ついた夫と幼い娘を連れた女性ハナは、追手から逃げ続けていました。その追手は、ただの人間ではなく、歳を取らず、変身能力を持つ怪物のような男。その男「ジェイカブ」は、数世代にわたって、ハナの一族を追い続けていたのです。
 用意していた隠れ家に辿り着いたものの、衰弱していく夫を前に憔悴するハナでしたが…。

 数世代にわたって一族の女性を追ってくる怪物的な男から逃げ続けるヒロインを描く物語です。この追手の男の変身能力が驚異的で、老若男女誰にでも化けられるのです。そのため、身近な家族でさえ安心はできず、普段から相手を識別する方法を考えなければなりません。
 現代のハナの物語と、1970年代のその母親の世代、そして19世紀ハンガリーの物語と、大きく3つの物語が展開していきます。世代を変えて襲ってくる「ジェイカブ」と、なぜ「ジェイカブ」がハナの一族を追い続けるのかが徐々に明らかになる展開は、じつにサスペンスフル。
 後半には「ジェイカブ」と同じルーツを持つ一族や、その一族を監視する機関の存在が明らかになるなど、スケールが大きくなっていきます。伝奇アクションホラーの佳作といっていいかと思います。



4488014623時間のないホテル (創元海外SF叢書)
ウィル・ワイルズ 若島 正
東京創元社 2017-03-21

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ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(茂木健訳 東京創元社)

 ニールは、クライアントの代わりにイベントに参加し、レポートにまとめるという仕事を生業にしていました。イベントに参加するために泊まることになったホテル「ウェイ・イン」には、不思議な抽象画が飾られていました。そこで出会った女性ディーが言うことには、「ウェイ・イン」の各部屋には、それぞれ異なった手書きの抽象画が飾られており、チェーンの数を考えると、数万枚にも及ぶ絵があるはずだというのです。
 イベントの主催者に出入りを禁止されてしまったニールでしたが、ふとホテル内を歩き続けていると、いつまでも終点につく気配がないのです。いくらホテルが広いといっても、ここまで広いはずがない…。やがて再会した女性ディーは、このホテルの秘密をニールに明かすことになりますが…。

 迷宮のようなホテルを舞台にした幻想小説です。前半は、主人公ニールが、ビジネスとしてイベントに参加するという、リアリズム風の展開が続くので、ちょっと退屈しますが、ホテルの秘密が明らかになってからの後半は、俄然、面白くなってきます。
 何より、迷宮のようなホテルが魅力的です。作者が建築関係の仕事をしていたというだけあって、作中のホテルの存在感が強烈なのです。物語が進むにつれ、ホテル自身が魔力を持った存在であり、主人公ニールもまた、ホテルの魔力に触れうる人間であることがわかってきます。
 主人公が女性関係にだらしなかったり、モラルに欠ける面があったりと、感情移入しにくいキャラクターになっているのですが、そうした性格設定が、「ウェイ・イン」での事件に巻き込まれる要因にもなっているように見えるところは、上手いですね。
 後半はホラー的な色彩が強くなるのですが、そうなってから結末までが意外と短いので、ホラー作品として見ると、ちょっと物足りない感はあります。



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場所 (フィクションのエル・ドラード)
マリオ レブレーロ Mario Levrero
水声社 2017-04

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マリオ・レブレーロ『場所』(寺尾隆吉訳 水声社)

 男が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋でした。そこから出ようとするも、ドアを開ければ、また同じような部屋が続いているのです。前へ進み続けると、人が住んでいるような部屋が現れますが、言葉も通じずコミュニケーションを取ることができません。
 部屋によっては、食料やベッドがある部屋が存在し、それらを活用しながら男は出口を探し続けますが、一向に出口は見えてきません…。

 連続する部屋の中にも違いがあり、食料があったり、寝床があったり、電気が通っていたりします。食料は食べれば、なぜか補充されたりと、住もうと思えば、ずっと住んでいられる部屋もあるのです。
 やがて意思を通じることのできる人間たちと出会うものの、彼らもまた、なぜこの場所に連れてこられたかは皆目わからないのです。
 迷宮のような場所から出ようとする男を描いた不条理小説、といっていいのでしょうか。不条理小説と言うと、観念的で難解なものを思い浮かべてしまいますが、意外とエンターテインメントしているところが魅力的です。具体的なサバイバルの描写や、迷宮の探索、やがて出会う仲間や女性との別れなど、冒険小説的な要素が強いのが特徴です。
 レブレーロはウルグアイの作家で、この『場所』もカルト的な人気がある作だとのこと。『場所』を含む三部作があるそうで、他の2つの作品もぜひ読んでみたいですね。



404897324X無名恐怖 (BOOK PLUS)
ラムゼイ キャンベル Ramsey Campbell
アーティストハウス 2002-06

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ラムゼイ・キャンベル『無名恐怖』(アーティストハウス)

 出版エージェントとして順風満帆な生活を送るバーバラのもとへ、ある日1本の電話がかかってきます。それは何年も前に殺されたはずの娘アンジェラからのものでした。
 もともと娘の死を信じ切れていなかったバーバラは、恋人の男性とともに、娘を探し始めます。やがて、あるカルト教団が娘の失踪に関わりがあるらしいことが判明しますが…。

 カルト教団にさらわれた娘を取り返そうとする母親の物語。というと、超自然味のないスリラー的な作品を想像しますが、娘に超能力的な力があったり、超自然的な存在の影がほのめかされたりと、スーパーナチュラル風味もある作品です。
 全体に派手さはありませんが、娘を探すための調査や探索など、主人公とその周辺の人物がいろいろ動き回るので、退屈はしません。
 登場するカルト教団の教義が「名前を持たない」というもので、さらわれ、洗脳された人間は、自分の名前すら言えなくなってしますのです。このカルト教団を含め、後半まで終始持続する、作品の不気味な雰囲気は素晴らしく、〈雰囲気派〉作家の面目躍如といったところでしょうか。
 エンターテインメントとしては読むには少々きついかもしれませんが、恐怖小説としてはなかなかの佳作ではないでしょうか。



4150121222ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン 川名潤
早川書房 2017-04-20

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ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』(伊藤典夫ほか訳 ハヤカワ文庫SF)

 ハーラン・エリスンの日本オリジナル短篇集です。収録作品のどれを取ってもエネルギーに満ちた作品揃いです。人種差別をテーマにした『恐怖の夜』『死人の眼から消えた銀貨』などの、直接的なメッセージを含んだ作品にしてから、今読んでも生命を失っていません。
 善人が地獄へ送られてしまうという不条理を描いた『ヒトラーの描いた薔薇』、自らの分身が現れるという『解消日』、故郷で裏切り者の烙印を受けた帰還兵が、人々に「死」をまき散らすという『バジリスク』、ガーゴイルの石像が人々を虐殺するという『血を流す石像』、目覚める際に、自分の腹に現れた「口」をめぐって展開する物語『睡眠時の夢の効用』などが印象に残ります。
 とくに、『睡眠時の夢の効用』は、わき腹に現れた口という、突拍子もないイメージから、生と死をめぐる壮大なテーマへと至る傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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