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10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
9月下旬刊 多田智満子『鏡のテオーリア』(ちくま学芸文庫)※復刊
9月30日刊 岸本佐知子、柴田元幸編訳『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』 (スイッチ・パブリッシング 予価2640円)
10月6日刊 春日武彦『屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理』(河出文庫 予価924円)
10月7日刊 エルビラ・ナバロ『兎の島』(宮﨑真紀訳 国書刊行会 予価3520円)
10月7日刊 アヴラム・デイヴィッドスン『不死鳥と鏡』(福森典子訳 論創社 予価3520円)
10月13日刊 高原英理『ゴシックハート』(ちくま文庫 予価990円)
10月13日刊 鹿島茂『神田神保町書肆街考』(ちくま文庫 予価2200円)
10月18日刊 イアン・リード『もっと遠くへ行こう。』(坂本あおい訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1518円)
10月19日刊 ジョーン・エイキン『ルビーの詰まった脚』(三辺律子訳 東京創元社 予価2420円)
10月19日刊 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(酒寄進一訳 創元推理文庫 予価792円)
10月21日刊 岡本綺堂『江戸の残映 綺堂怪奇随筆選』(白澤社 予価2860円)
10月21日刊 小沼丹『小沼丹推理短篇集 古い画の家』(中公文庫 予価1100円)
10月24日刊 ポール・ギャリコ『ミセス・ハリス、パリへ行く』(亀山龍樹訳 角川文庫 予価990円)
10月26日刊
ロバート・E・ハワード『愛蔵版 英雄コナン全集 2 征服篇』(宇野利泰、中村融訳 新紀元社 予価2420円)
10月28日刊 イサベル・アジェンデ『エバ・ルーナのお話』(木村榮一、窪田典子訳 白水Uブックス 予価2640円)
10月31日刊 リチャード・ラング『彼女は水曜日に死んだ』(吉野弘人訳 東京創元社 予価2310円)
10月31日刊 ウィル・ワイルズ『フローリングのお手入れ法』(赤尾秀子訳 東京創元社 予価2200円)

10月上旬発売
創元推理文庫・創元SF文庫 復刊フェア
M・D・ポースト『アブナー伯父の事件簿』(菊池光訳 創元推理文庫)
F・W・クロフツ『スターヴェルの悲劇』(大庭忠男訳 創元推理文庫)
ドロシー・L・セイヤーズ『五匹の赤い鰊』(浅羽莢子訳 創元推理文庫)
ヒラリー・ウォー『事件当夜は雨』(吉田誠一訳 創元推理文庫)
S・J・ローザン『冬そして夜』(直良和美訳 創元推理文庫)
天藤真『鈍い球音』(創元推理文庫)
アーサー・マッケン『怪奇クラブ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
パトリシア・A・マキリップ『茨文字の魔法』(原島文世訳 創元推理文庫)
ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト 上・下』(創元SF文庫)

 岸本佐知子、柴田元幸編訳『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』は、英語圏の異色短篇を集めたアンソロジー。聞いたことのない作家ばかりなので、ほとんど初紹介でしょうか。これは気になりますね。収録作も紹介しておきます。

岸本佐知子訳
「オール女子フットボールチーム」ルイス・ノーダン
「アホウドリの迷信」デイジー・ジョンソン
「野良のミルク」「名簿」「あなたがわたしの母親ですか?」サブリナ・オラ・マーク
「引力」リディア・ユクナヴィッチ

柴田元幸訳
「大きな赤いスーツケースを持った女の子」レイチェル・クシュナー
「足の悪い人にはそれぞれの歩き方がある」アン・クイン
「アガタの機械」カミラ・グルドーヴァ
「最後の夜」ローラ・ヴァン・デン・バーグ

 エルビラ・ナバロは、本邦初紹介の作家だと思いますが、スペインの作家とのこと。『兎の島』はホラー系の作品集だそうです。紹介文を引用しておきますね。
 「川の中洲で共食いを繰り返す異常繁殖した白兎たち、耳から生えてきた肢に身体を乗っ取られた作家、レストランで供される怪しい肉料理と太古の絶滅動物の目撃譚、死んだ母親から届いたフェイスブックの友達申請……今、世界の文芸シーンでブームの渦中にある〈スパニッシュ・ホラー〉の旗手による、11篇の鮮烈な迷宮的悪夢が本邦初上陸!!! 現実と地続きに現出する奇怪な歪み、底知れぬ不安と恐怖を、生理的嫌悪感を催すような濃密で冷たい筆致で描き切った、現代スペインホラー文芸の旗手による11篇の鮮烈な傑作怪奇幻想短篇集!」
これは期待できそうです。

 アヴラム・デイヴィッドスン『不死鳥と鏡』は、故殊能将之が絶賛していたという、アヴラム・デイヴィッドスンの長篇の初邦訳。「魔術のペダントリーにみちた百科全書的幻想小説」だそうで、これは楽しみですね。

 ジョーン・エイキン『ルビーの詰まった脚』は、『月のケーキ』に続く、エイキン短篇集の第二弾。タイトルからして期待させてくれますね。

 ウィル・ワイルズは不可思議な建築物ホラー『時間のないホテル』が面白かった人ですね。、初紹介の『フローリングのお手入れ法』もちょっと変わった作品のようです。「完璧主義の友人の留守宅を預かることになった男の物語。フローリングを汚さないことと飼い猫の世話をすることが条件だったのだが……。恐ろしくもおかしいカフカ的世界!」。

 10月下旬からは、毎年恒例の創元社の文庫復刊フェアが始まります。要注目は、アーサー・マッケン『怪奇クラブ』、ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』あたりでしょうか。『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』には、幻想的な短編も多く収録されているので、幻想小説ファンにもお勧めです。


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9月の気になる新刊
9月1日刊 ジェローム・ルブリ『魔王の島』(坂田雪子、青木智美訳 文春文庫 予価1375円)
9月2日刊 T・キングフィッシャー『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』(原島文世訳 ハヤカワ文庫FT 予価1320円)
9月9日刊 『ナイトランドクォータリーvol.30』(アトリエサード 予価1980円)
9月12日刊 大下宇陀児『烙印』(創元推理文庫 予価924円)
9月15日刊 東雅夫編『岡本綺堂 怪談文芸名作集』(双葉社 予価3300円)
9月16日刊 『ギリシャ・ミステリ短編傑作集』 (仮題)(橘孝司訳 竹書房文庫 予価1430円)
9月16日刊 フェリクス・J・パルマ『怪物のゲーム 上・下』(宮﨑真紀訳 ハーパーBOOKS 予価各980円)
9月16日刊 ニー・ヴォ『塩と運命の皇后』(金子ゆき子訳 集英社文庫 予価902円)
9月16日刊 眉村卓『仕事ください』(日下三蔵編 竹書房文庫 予価1430円)
9月17日刊 ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿 上』(畑浩一郎訳 岩波文庫 予価1254円)
9月21日刊 谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』(中公文庫 予価770円)
9月24日刊 ノエル・キャロル『ホラーの哲学 フィクションと感情をめぐるパラドックス』(高田敦史訳 フィルムアート社 予価3520円)
9月26日刊 ロジャー・ラックハーツト『[ヴィジュアル版] ゴシック全書』(巽孝之監修、大槻敦子訳 原書房 予価5280円)
9月29日刊 イサベル・アジェンデ『エバ・ルーナ』(木村榮一、新谷美紀子訳 白水Uブックス 予価2860円)
9月30日刊 『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』(中村融他訳 竹書房文庫 予価1430円)
9月30日刊 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』(酒寄進一編訳 東京創元社 予価2200円)
9月30日刊 エル・コシマノ『サスペンス作家が人をうまく殺すには』(辻早苗訳 創元推理文庫 予価1320円)
9月予定 ガストン・ルルー『シェリ=ビビの最初の冒険』(宮川朗子訳 国書刊行会)


 9月の要注目作は間違いなくこれでしょう。ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿 上』。長らく完訳が待たれていた幻想文学の古典作品です。三分冊での刊行となるようです。
 国書刊行会の《世界幻想文学大系》で抄訳が刊行されて以来、完訳の噂が挙がっては消え、ということが繰り返されていただけに、これは慶賀すべきですね。

 ロジャー・ラックハーツト『[ヴィジュアル版] ゴシック全書』は、ゴシックに関するビジュアル系ガイドブックとのこと。これは気になりますね。

 竹書房からは『ギリシャ・ミステリ短編傑作集』 (仮題)と『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』、ギリシャのミステリとSFのアンソロジーが刊行。これはユニークな企画ですね。

 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』は、戦後ドイツを代表する作家カシュニッツの傑作短篇集。短篇集の邦訳としては、すでに『六月半ばの真昼どき』(めるくまーる)が刊行されていますが、こちらを読む限り、幻想性・サスペンス性の高い作風なので、こちらの新刊も非常に楽しみです。


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8月の気になる新刊と7月の新刊補遺
7月31日刊 フレデリック・ダール『夜のエレベーター』(長島良三訳 扶桑社ミステリー 予価968円)
8月3日刊 ベン・H・ウィンタース『その少年は語れない』(上野元美訳 ハヤカワ・ミステリ 予価2750円)
8月9日刊 ロナルド・ファーバンク『足に敷かれた花』(仮題)(浦出卓郎訳 彩流社 予価2750円)
8月10日刊 須永朝彦『王朝奇談集』(ちくま学芸文庫 予価1100円)
8月12日刊 大下宇陀児『偽悪病患者』(創元推理文庫 予価924円)
8月12日刊 リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳 創元SF文庫 予価1100円)
8月12日刊 パメラ・ブランチ『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』(大下英津子訳 論創社 予価3740円)
8月12日刊 カレル・チャペック『マクロプロスの処方箋』(阿部賢一訳 岩波文庫 予価660円)
8月17日刊 エラリイ・クイーン『ダブル・ダブル 新訳版』(越前敏弥訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1540円)
8月17日刊 ルマーン・アラム『終わらない週末』(高山真由美訳 早川書房 予価2860円)
8月19日刊 眉村卓『仕事ください』(日下三蔵編 竹書房文庫 予価1430円)
8月23日刊 ボリス・ヴィアン『北京の秋』(野崎歓訳 河出書房新社 予価2970円)
8月23日刊 井上靖『殺意 サスペンス小説集』(中公文庫 予価946円)
8月24日刊 ピーター・スワンソン『時計仕掛けの恋人』(棚橋志行訳 ハーパーBOOKS 予価990円)
8月25日刊 エマ・ストーネクス『光を灯す男たち』(小川高義訳 新潮社 予価2640円)
8月26日刊 ウォルター・デ・ラ・メア『アーモンドの木』(和爾桃子訳 白水Uブックス 予価1980円)
8月26日刊 ニコール・クラウス『フォレスト・ダーク』(広瀬恭子訳 白水社 予価3960円)
8月26日刊 ロジェ・カイヨワ『石が書く』(創元社 予価4620円)
8月29日刊 『ユリイカ9月号 特集=Jホラーの現在』(青土社 予価1650円)
8月31日刊 『幻想と怪奇11 ウィアード・ヒーローズ 冒険者、魔界を行く』(新紀元社 予価2420円)
8月31日刊 イーライ・ブラウン『シナモンとガンパウダー』(三角和代訳 創元推理文庫 予価1320円)
8月31日刊 東雅夫編『日本鬼文学名作選』(創元推理文庫 予価1100円)

 『足に敷かれた花』(仮題)は、20世紀前半に活躍したイギリスの作家ロナルド・ファーバンクによる作品。代表作「足に敷かれた花」と「見かけ倒しのお姫さま」を収録とのこと。
 「足に敷かれた花」、紹介文を引用しておきます。「架空の王国ピスエルガに仕えるラウラ・デ・ナジアンジは疲倦宮(つかれうみのみや)ユーセフ親王と恋仲だった。宮中ではさまざまな悪謀が渦巻き、ゴシップが囁かれる。そこにユーセフとエルジー姫の結婚の話が持ち上がってくる。同時にユーセフの女ったらしぶりも明らかとなり、ラウラは遊ばれていただけであることがはっきりする。裏切られたと感じたローラは、宮廷から身を引き、修道院へ向かうことになるが……。」

 カレル・チャペック『マクロプロスの処方箋』は、不老不死をテーマとした戯曲。名作だと思うので未読の方はぜひ。

 ルマーン・アラム『終わらない週末』は、あらすじからすると、超自然的な要素ありの作品でしょうか。「 NY近郊の別荘を借りて休暇を過ごす4人家族。休みを楽しんでいたのに、別荘の持ち主という夫婦が現れ、中に入れて欲しいと懇願される。やがて起こる奇妙な現象の数々。世界では、何かが起こっている――? 外界と遮断された6人が、生き残るすべを探し始める。 」

 『仕事ください』は、眉村卓の傑作短篇集。ベスト選集のような本でしょうか。

 『アーモンドの木』は、イギリスの詩人・作家デ・ラ・メアの傑作選集。「アーモンドの木」「伯爵の求婚」「ミス・デュヴィーン 」「シートンの伯母さん」「ルーシー」他、全7篇を収録とのこと。

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7月の気になる新刊と6月の新刊補遺
6月29日発売 『ナイトランド・クォータリーvol.29』(アトリエサード 予価1980円)
6月29日刊 ジーン・リース『あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集』(西崎憲編、安藤しを他訳 亜紀書房 予価2200円)
7月6日刊 スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代訳 文春文庫 予価1408円)
7月6日刊 ガブリエル・ガルシア=マルケス『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』(野谷文昭訳 河出文庫 予価1320円)
7月11日刊 横田順彌『平成古書奇談』(日下三蔵編 ちくま文庫 予価990円)
7月12日刊 岡本綺堂『お住の霊 岡本綺堂怪異小品集』(東雅夫編 平凡社ライブラリー 予価1980円)
7月12日刊 エドワード・ケアリー『呑み込まれた男』(古屋美登里訳 東京創元社 予価2310円)
7月13日刊 フランツ・カフカ『田舎医者/断食芸人/流刑地で』(丘沢静也訳 光文社古典新訳文庫 予価946円)
7月14日刊 越前敏弥、金原瑞人、三辺律子『はじめて読む海外文学ブックガイド』(河出書房新社 予価1540円)
7月19日刊 ジョー・ヒル『ブラック・フォン』(白石朗、大森望、安野玲、玉木亨訳 ハーパーBOOKS 予価1210円)
7月20日刊 ミスター・クリーピーパスタ『【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ』(倉田真木、岡田ウェンディ訳 ハヤカワ文庫NV 予価880円)
7月21日刊 柴田宵曲『完本 妖異博物館』(角川ソフィア文庫 予価1694円)
7月21日刊 橘外男『橘外男日本怪談集 蒲団』(仮題)(中公文庫 予価1100円)
7月21日刊 ショーン・タン『いぬ』(岸本佐知子訳 河出書房新社 予価1980円)
7月21日刊 ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン ある愛の物語』(木原善彦訳 河出書房新社 予価4290円)
7月21日刊 ピエール・マッコルラン『北の橋の舞踏会・世界を駆けるヴィーナス』
(太田浩一、永田千奈、平岡敦訳 国書刊行会 
7月25日刊 ジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』(木原善彦訳 国書刊行会 予価4180円)
7月26日刊 E・T・A・ホフマン『ホフマン小説集成 下』(国書刊行会 予価7700円)
7月28日刊 H・P・ラヴクラフト『アウトサイダー』(南條竹則訳 新潮文庫 予価649円)
7月28日刊 ドナルド・E・ウェストレイク『ギャンブラーが多すぎる』(木村二郎訳 新潮文庫 予価880円)
7月29日刊 アリス・フィーニー『彼は彼女の顔が見えない』(越智睦訳 創元推理文庫 予価1298円)
7月下旬刊 パミラ・ブランチ『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』(大下英津子訳 論創社 予価3740円)


 『呑み込まれた男』はエドワード・ケアリーの邦訳最新刊。ピノッキオがテーマになった作品だそうです。

 ジョー・ヒル『ブラック・フォン』は、かって小学館文庫から『20世紀の幽霊たち』というタイトルで出ていた短篇集の改題復刊。名短篇集なのでこれは慶賀すべきですね。

 ミスター・クリーピーパスタ『【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ』は、ネットの都市伝説から生まれたたホラージャンル「クリーピーパスタ」から、15篇を選んだもの。これは気になりますね。

 ピエール・マッコルラン『北の橋の舞踏会・世界を駆けるヴィーナス』は、〈マッコルラン・コレクション〉の第二弾。『北の橋の舞踏会』『世界を駆けるヴィーナス』『薔薇王』を収録。『薔薇王』は、澁澤龍彦の短篇「マドンナの真珠」の元となった作品だとのことです。

 ジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』は、「奇人変人たちが暴走する、爆笑《労働ブラックコメディ》」だそうで、ちょっと気になります。

 『アウトサイダー』は、南條竹則訳ラヴクラフト作品集の新刊。「アウトサイダー」「銀の鍵」「魔女屋敷で見た夢」など15編を収録。

 パミラ・ブランチ『ようこそウェストエンドの悲喜劇へ』は初めて名前を聞く作家なのですが、なかなか面白そうなあらすじですね。引用します。
 「ひょんな事からコラムニストの代筆を務める事になったバレエダンサーのレックス・トラヴァースは、雑誌『ユー』の編集部へ向かう途中、ビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。そのタイミングで『ユー』編集部への殴り込み事件が発生した。雑誌によって運命を狂わされた人々の悲喜交々をブラックユーモアたっぷりに描く、パメラ・ブランチ最後の長編」とのこと。

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6月の気になる新刊
6月3日刊 ケヴィン・ウィルソン『リリアンと燃える双子の終わらない夏』(芹澤恵訳 集英社 予価2750円)
6月7日刊 ジェス・キッド『壜のなかの永遠』(木下淳子訳 小学館文庫 予価1364円)
6月8日刊 竹本健治選『変格ミステリ傑作選 戦後篇Ⅰ』(行舟文庫 予価1430円)
6月13日刊 E・M・フォースター『E・M・フォースター短篇集』(井上義夫訳 ちくま文庫 予価990円)
6月14日刊 オクテイヴィア・E・バトラー『血を分けた子ども』(藤井光訳 河出書房新社 予価2475円)
6月14日刊 星野太朗『月刊ムー書評大全』(青土社 予価2640円)
6月22日刊 R・L・リプレー『信じようと信じまいと』(庄司浅水訳 河出書房新社 予価1980円)
6月25日刊 カート・ヴォネガット&スザンヌ・マッコーネル『読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」』(金原瑞人、石田文子訳 フィルムアート社 予価3740円)
6月30日刊 牧原勝志編、紀田順一郎・荒俣宏監修『新編 怪奇幻想の文学1 怪物』 (新紀元社 予価2750円)
6月30日刊 ロバート・E・ハワード『愛蔵版 英雄コナン全集1 風雲篇』(宇野利泰、中村融訳 新紀元社 予価2420円)
6月30日刊 東雅夫編『吸血鬼文学名作選』(創元推理文庫 予価1100円)

 ケヴィン・ウィルソン『リリアンと燃える双子の終わらない夏』は、興奮すると〈発火〉する特異体質の子供たちを描いたファンタスティックな作品だとのことで、これは面白そう。

 ジェス・キッド『壜のなかの永遠』は「アイルランドの人魚伝説とビクトリア期ロンドンの誘拐事件をファンタジックに描く、時空を超えた歴史ミステリ。」とのことで、非常に気になります。

 竹本健治選『変格ミステリ傑作選 戦後篇Ⅰ』は、以前に出たアンソロジーの続篇。戦後発表のものから変格作品を選んでいます。収録作は以下のもの。

香山滋「処女水」
大坪砂男「天狗」
橘外男「陰獣トリステサ」
山田風太郎「死者の呼び声」
土屋隆夫「経営者入門」
日影丈吉「鵺の来歴」
陳舜臣「方壺園」
戸川昌子「塩の羊」
小松左京「共喰い―ホロスコープ誘拐事件」
中井英夫「空しい音―愛読者をさがす登場人物」

 牧原勝志編『新編 怪奇幻想の文学1 怪物』は、かって新人物往来社より刊行された怪奇幻想小説の名アンソロジー『怪奇幻想の文学』の新版シリーズ。旧シリーズの編者である紀田順一郎、荒俣宏を監修に迎えています。いわゆる「名作」を新訳でまとめ、いくつかの初訳作品を混ぜ込む、というコンセプトのようです。これは楽しみなシリーズですね。
収録作は以下の通り。

シェリー「変化(へんげ)」
エルクマン-シャトリアン「狼ヒューグ」(本邦初訳)
ビアス「怪物」
ホジスン「夜の声」
ラヴクラフト「壁の中の鼠」
ベンスン「“かくてさえずる鳥はなく”」
リーイ「アムンセンのテント」
ホワイトヘッド「黒いけだもの」
コリア「みどりの想い」
ウェルマン「ヤンドロの小屋」

 ロバート・E・ハワード『愛蔵版 英雄コナン全集1』は、かって創元推理文庫でも刊行されていた、ハワードの代表作シリーズの邦訳全集の愛蔵版。全4巻で刊行とのこと。文庫版も手に入りにくくなっていたので、これは慶賀すべきでしょうか。

 英米の古典吸血鬼小説を集めたアンソロジー『吸血鬼ラスヴァン』(東京創元社)が刊行されたばかりですが、東雅夫編『吸血鬼文学名作選』は、日本篇といった趣でしょうか。こちらも楽しみですね。


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最近読んだ本(評論・エッセイを中心に)

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クライヴ・バーカー、スティーヴン・ジョーンズ『クライヴ・バーカーのホラー大全』(日暮雅通訳 東洋書林)

 百科事典形式で書かれたホラーガイドです。AからZまで、その頭文字から始まるテーマを設定し、それに沿ってホラーの各テーマが語られていくという趣向です。
 例えば「A」の項目は「アメリカン・サイコのA」と題されていて、殺人鬼エド・ゲインの事件から触発・作成されたフィクション、具体的には、ロバート・ブロックの『サイコ』とヒッチコックによる映画化作品、映画『ディレンジド』『悪魔のいけにえ』などについて語られています。
 また「B」の項目は「ベルゼブルのB」として『エクソシスト』の原作小説と映画化作品、「C」の項目は「カオスのC」としてラヴクラフト作品について語られていますね。
 小説と映画、時にアートについて語られていますが、メインで語られているのは映像作品でしょうか。映画のスチール写真やポスター、書影、作家の写真など、ヴィジュアル面が充実した本になっており、眺めていて楽しい本になっています。
 もともとBBCで企画されたテレビ番組をもとに作られたそうです。それもあって、取り上げられている作家や作品は割とメジャー中心になってはいます。ただ、ところどころにマニアックなネタも入れられているので、ホラー初心者にもマニアにも楽しめるのではないかと思います。
 かなりマニアックな章もあって、例えば「J」の項目では「ジャパンのJ」として、塚本晋也監督作品と『ゴジラ』が語られています。また「S」の項目は「女魔術師(ソーサレス)のS」として、一章まるまるがシャーリイ・ジャクスンに当てられています。
 他に面白く読んだのは、映画『悪い種子』や恐るべきこどもたちテーマの映画を扱った「イノセント(無邪気)のI」、グラン・ギニョールについて語った「傑作(キリング)ジョークのK」、怪奇女優バーバラ・スティールを紹介した「夜の女王(ミストレス)のM」、吸血鬼作品を紹介した「むき出しの血管(オープン・ヴェイン)のO」『ローズマリーの赤ちゃん』『悪魔の赤ちゃん』について語った「胎児(アンボーン)のU」あたりでしょうか。
 別枠のコラムとして、小説や映画のデータやリスト、簡単な内容紹介などが度々挟まれています。署名があるものもないものもありますが、これらはもっぱら共著者のスティーヴン・ジョーンズが執筆しているようです。映画作品では、結構厳しい評価がされているのも面白いところですね。
 本全体が横書きであるのと、文字が圧縮されて組まれているので、可読性という点では多少読みにくいのではありますが、全篇ホラー愛にあふれていて、読んでいて楽しい本になっています。



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風間賢二『怪異猟奇ミステリー全史』(新潮選書)

 西洋のゴシック小説を源流とした流れが、いかに現代の日本ミステリーにまでつながっているのかを歴史的に語った本です。
 ウォルポール、ラドクリフといった18世紀イギリスのゴシック小説から、ポー、ドイル、黒岩涙香、押川春浪、明治の文豪たちの探偵小説、「新青年」と江戸川乱歩、現代の推理小説、そして<新本格>まで、様々なトピックが時代順に語られていきます。
 文学・小説作品だけでなく、その時々の科学や学問的動向、流行していた文化など、時代的な背景も一緒に紹介されていくので、大きな「流れ」が見えるようになっているのが特徴ですね。
 タイトルに「怪異猟奇」とあるように、紹介される時代背景やトピックも異端的なものが多くなっており、読物として面白いです。
 歴史順にトピックが紹介されていきますが、章ごとに、そのテーマにおける現代作品や参考書などの言及が挟まっているのも、とっつきやすさにつながっていますね。例えば第一章「ゴシックこそがミステリーの源流」では、関連テーマとして「偽書」作品について触れられ、その現代の末裔として、エーコ『薔薇の名前』、アラスター・グレイ『哀れなるものたち』、マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』、マーク・Z. ダニエレブスキー『紙葉の家』などが言及されています。
 前半では主に西洋のトピック、後半からは西洋作品が日本に流入しどう影響を与えていったのか、といったあたりが中心になっています。このあたりは正統派の日本文学史とも重なってくるのですが、関わってくるのが主に大衆小説畑だけに、目新しいエピソードもあって楽しく読めます。
 最終的に、現代日本の<新本格>や<変格>作品にまで至るのですが、この部分はかなり駆け足で、紹介される作家も少なめです。飽くまで、古典怪奇作品が現代日本作品にいかにつながっているのか、といった視点で書かれた著作です。
 通常のミステリージャンルの歴史とは異なるので、その辺は注意ですね。個人的な読後感としては、現代日本ミステリーのファンに対して、その源流としての怪奇幻想作品の歴史と影響を紹介する入門書、といった意味合いが強い本なのかなと思いました。
 著者の該博な知識と教養があふれていて、いろいろと視野を広げてくれる本です。もちろん読み物としても面白い著作となっています。怪奇幻想分野方面の詳細に興味を持った読者は、同著者の『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)も手に取ると良いかと思います。



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パトリシア・ハイスミス『サスペンス小説の書き方 パトリシア・ハイスミスの創作講座』(坪野圭介訳 フィルムアート社)

 著者ハイスミスが自らの作品を題材に、小説作法について書いた本です。ハイスミスのスタンスは、小説作りそのものは教えようがない、というもののようで、技術指南というよりは、飽くまで自らの小説についての書き方や試行錯誤などが具体的に記されています。その意味では、ハイスミスの小説に関心がある人や、一人の作家の小説作法を見てみたい、といった人向けの本でしょうか。
 初版は1966年に刊行、1981年に増補改訂版が刊行されており、その後も版を重ねて読み継がれているそうです。初版刊行が1960年代だけに、取り上げられる自作も初期のものが多くなっていますね。
 ある作品について、アイディアの段階から、プロットの状態、第一稿から手直しした第二稿、または出版社の容貌によって改稿したものなど、作品内容の変遷が詳しく綴られており、小説が仕上がっていく過程が見えるようで面白いです。代表作であるリプリー・シリーズ作品が多く取り上げられるのはもちろんですが、他によく例として出てくるのは『殺人者の烙印』『ガラスの独房』でしょうか。『殺人者の烙印』はお気に入りだったようで、いろいろな章で出てきますね。『ガラスの独房』に関しては、まるまる一章がこの作品について割かれており、実作と合わせて読むと非常に参考になると思います。
アイディアの原型がどう具体的な小説になるのか、とか、出版社が小説のどの部分に注文をつけてくるのか、といったところも面白く読めます。出版社の要望で、どのように内容を変えたり削ったりしたのか、といったところは、この手の小説作法の本でもあまり触れられないところではないでしょうか。
アイディアについて語った「アイディアの芽」では、ハイスミスの名作短編「すっぽん」の成立過程について語られており、個人的に興味深く読みました。実際に成立した作品と、元のアイディア(友人から聞いた話)がかなり違うのも面白いですね。
 全体に長編についての言及が多いですが、短編についてもいろいろ書かれています。サスペンス短編について書かれた「サスペンス短編小説」では、自作だけでなく、ヴィンセント・スターレットやコーネル・ウールリッチなど、別作家の作品の分析などもあり参考になります。
 取り上げられている実作を読んでいる方がより楽しめるとは思いますが、読んでいなくても、ちゃんと小説の内容やその創作過程が分かるように書かれているので、単独で読んでも充分楽しめる本です。小説技法の参考書というよりは、作家の頭の中を覗き見る、という意味で、とても面白い本だと思います。



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ジョーン・エイキン『子どもの本の書きかた』(猪熊葉子訳 晶文社)

 児童文学・ファンタジーの名手エイキンが、子ども向けの本の創作について語った本です。タイトルに「書き方」とはあるものの、具体的な小説技術についての本というわけではありません。子ども向けの本を書く際の心得や、児童文学とは何なのか、といった、エイキンの児童文学観を語ったエッセイといった感じの本になっています。
 子どもはどんなものを面白がるのか? 本のどんな部分に興味を示すのか? といったところで、子どもの視点からの本の面白さについて語っているところが一番の特徴でしょうか。
 型通りの登場人物ではいけないとか、情報の説明のための「つなぎ部分」はいらないとか、フラッシュバックや長い独白も良くないなど、子どもの本の創作について「やってはいけないこと」と「やった方がいいこと」がいろいろと紹介されていきます。
 大人と違って、子どもの場合、その子の「初めての本」になる可能性がある以上、気を付けなければいけないし、その意味で大人の小説よりも難しい面がある、という詩的はなるほどという感じでした。
 また技術的な難しさの他にも、実際のマーケティング的な部分の指摘もあります。子どもの本はロングセラーになった場合、大人向け作品よりも長い時代にわたって売れ続ける可能性がある一方、新作を書いても、出版社が積極的に売ってくれることは少ないなど、現実的な困難にも触れています。
 登場人物、アイデア、主題など、物語を構成する様々な要素について、項目を立てて解説する部分もあります。具体的な作家の作品に言及して解説しているので、主張が分かりやすくなっていますね。過去の名作や現代作家の作品が紹介されますが、意外なのは、自作を例に取り上ている部分がほとんどないところでしょうか。そのため、エイキン作品の創作秘話的なものはほとんど出てきません。逆に言うと、エイキン作品を読んだことがなくても、独立して読める本になっています。
 また、子ども向けと一口にいっても、年齢層によって気を付けるべきことは異なるとして、年齢別に傾向と対策を記しているところなどは、このジャンルを知り尽くしたエイキンならではでしょうか。
 創作技法の本というより、児童心理的な視点から書かれた児童文学の入門書といえる本です。創作を志す人でなくても、子ども向けの本・児童文学を読むときのいろいろな気づきの視点を与えてくれるという点で、非常に示唆に富む本ではないかと思います。



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井辻朱美『夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり』(NTT出版)

 作家・翻訳家でファンタジーに造詣の深い著者が、ファンタジーについて論じた本です。全九章、一章ごとに、それぞれファンタジーに関わる独自のテーマを立て、それについて論じられています。取り扱われているテーマは「枠物語」「死後譚」「多重人格」「人形」「動物とシャーマニズム」「洞窟」「建築」「ゲーム」など。
 タイトルの印象から、ファンタジーの歴史的や作品紹介的な内容を期待する人もいるかと思いますが、そうした要素はほとんどありません。著者の独自の関心に従ってファンタジーというジャンルを構成する「仕掛け」やその「本質」を探っていく…という感じの本でしょうか。そのために立てられたトピックが独自のセレクションで、他のファンタジーに関する評論やエッセイではあまり見ないところはユニークですね。 個人的には、「枠物語」と「死後譚」について語られらた部分を面白く読みました。
 同著者のファンタジー論集は以前に『ファンタジーの森から』を読んだことがあります。こちらも独自のトピックで語られた短い論が集められており、面白く読みました。正直、日本で書かれたファンタジー評論で、井辻さんの本ほど説得力のある本は読んだことがありません。他にもファンタジー系の評論書がいくつかあるようですので、これらもいずれ読んでみたいところです。



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村山早紀『100年後も読み継がれる 児童文学の書き方』(立東舎)

 児童文学作家としても知られる著者が、児童文学の書き方について語った入門書です。実際の技術論よりも、子どもの本とは何なのか、どういう風に書くべきなのか、どう取り組むべきなのか、といった、このジャンル特有の「姿勢」について多くを語った本になっています。「ただ作家になりたい」「お金を稼ぎたい」人にとって、児童文学はあえて選ぶジャンルではないのではないか、とも。
 作家の収入、印税、新人賞やデビューに関してもかなりシビアな話がされています。実際、著者が作家として認識されるまでも10年以上かかっていて、作家と言う職業に対して、安易に夢を煽る形になっていないところが特色でしょうか。その一方、自分にとって作家は転職であり、楽しい仕事であると語るなど作家と言う職業に対してバランスよく触れられているところに好感が持てますね。
 技術的なところはあまり触れられていないとは書きましたが、付録として実作「トロイメライ」が掲載されており、こちらは技術的にも非常に参考になります。
 小説の添削の形で、ところどころに著者の注釈が入っており、この文章はこういう意図で入れている、こういう意味がある、などと指摘されており、読むとなるほど、という部分が多数です。
 個人的に共感を覚えたのは、執筆環境周りの話でしょうか。原稿用紙から、ワープロ、パソコン、ポメラなど、機械技術の進歩に従って、執筆の環境も変わってきたというところ。
 あと、創作においては一度書き上げた作品にこだわらず、どんどん新しい作品を作るべき、との指摘もなるほどと思いました。
 創作に関してさまざまな話題も取り上げられており、創作をされていない、純粋な読者の方でも面白く読める本だと思います。



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吉田悠軌『現代怪談考』(晶文社)

 現代の怪談について考察した論考です。現代怪談に頻繁に現れる、カシマ、口裂け女、八尺様などの女性の怪人。彼女たちの共通の要素として浮かび上がってくるのが「赤い女」であり、「子殺しの母」「殺された子供」のイメージ。そこから導き出される現代の最も恐ろしい怪談とは『「子殺し」怪談』なのではないか、というコンセプトで書かれています。
 怪談の伝播の過程や、古典文献にそのルーツを当たるなど、かなり本格的な調査がなされており「研究書」に近い体裁の本になっています。
 直接的には結びつきがないと思っていた有名な怪談や伝説が『「子殺し」怪談』の文脈で読み解かれていくのは、読んでいてなるほどという感じです。
 「現代」の怪談を謳っているだけあり、ごく近年に生まれたネット怪談についても、多く触れられているのは興味深いところです。ただ、それらのネット怪談にも、萌芽となる噂や伝承などがあることが示されるあたりも面白いですね。
 メインは『「子殺し」怪談』についての論考なのですが、合間に現代怪談のトピックということで、コラム「現代怪談の最前線」が挟まれています。こちらのコラムでは、それぞれ「歩く死体」「牛の首」「人面犬」「岐阜ポルターガイスト団地」「樹海村」がテーマとして扱われています。
 個人的に面白く読んだのは、山小屋で死んだ相棒の死体が何度も小屋に戻ってきてしまうという怪談「歩く死体」について語った「歩く死体を追いかけろ!」の章です。夢枕獏「何度も雪の中に埋めた死体の話」『世にも奇妙な物語』の一エピソード「歩く死体」、S・H・アダムズ「テーブルを前にした死骸」など、類似テーマの作品が紹介されるほか、このテーマの意外な本質について考察されていきます。テクノロジーの発展が、この都市伝説の普及に一役買ったのではないか…という指摘にも頷けるところがありますね。



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近藤健児『絶版文庫万華鏡』(青弓社)

 戦前から現代まで、絶版になった文庫本タイトルを紹介したガイドブックです。本単体だけでなく、それが属するシリーズや作家についての情報、関連書への言及、翻訳書の場合は他の文庫の邦訳情報などもあります。
 また、著者の私的な回想や本に関する思い出などが挟まれるのも楽しいです。一冊一冊に付けられた注の情報量も膨大で、資料としても役に立ちますね。
 商業出版の文庫だけでなく、盛林堂ミステリアス文庫、イタリアSF文庫といった同人出版のレーベルについても紹介するなど、文庫というメディアを全体的に捕らえた好著だと思います。
 ダンセイニ卿『賢女の呪い』の項の注で拙ブログ「奇妙な世界の片隅で」、レルネット=ホレーニア『白羊宮の火星』の項の注で拙著『海外怪奇幻想小説ブックガイド』にも言及いただいていました。ありがとうございます。



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瀬戸川猛資・松坂健『二人がかりで死体をどうぞ-瀬戸川・松坂ミステリ時評集』(盛林堂ミステリアス文庫)

 1970年代のミステリマガジンに掲載されたミステリ時評集です。瀬戸川猛資と松坂健、それぞれの書評のほか、ミステリ識者たちによるエッセイも収録されています。
 瀬戸川猛資と松坂健、どちらの書評も面白く読めますね。瀬戸川猛資の方はダメなものはダメ、というその歯切れの良さ、松坂健の方は文章の派手さはない代わりに、広い識見の感じられる落ち着いた語り口が魅力です。
 特に松坂健パートでは、怪奇幻想系の作品が多く取り上げられているのも個人的には嬉しいところです。例えば、フレッド・M・スチュアート『悪魔のワルツ』、スタージョン『きみの血を』、ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』、シャーリイ・ジャクスン『山荘綺談』など。
 本邦では先駆的なラヴクラフトの作品集『暗黒の秘儀』(創土社)に関しても、多目のページを割いて取り上げています。創土社の本に関しては、一言触れるのみですが、『ダンセイニ幻想小説集』も取り上げられていますね。
 もちろん本題のミステリ評も面白く、ブックガイドとしても有用な本になっています。


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福井県立図書館編『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(講談社)

 「レファレンス」として、図書館利用者から問い合わせを受けた際、勘違い・間違って覚えていた、覚え違いタイトルの事例を集めた楽しい本です。
 単純な言葉間違いに始まり、作家名や表現がごっちゃになったもの、真逆に覚えてしまっているもの、また、曖昧なあらすじとして覚えているものなど、そのパターンは様々。よくこの情報からタイトルを探し当てられたな、と驚くような事例もありますね。
 面白かったものからいくつかご紹介しておきます。

恩田陸の『なんとかのカーニバル』→恩田陸『夜のピクニック』
『蚊にピアス』『蛇にピアス』
『トコトコ公太郎』『とっとこハム太郎』
『摂氏451度』『華氏451度』
カズキ・イシダ『わたしを探さないで』→カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』
伊坂幸太郎『あと全部ホリデイ』『残り全部バケーション』
フォカッチャ『バカロマン』→ボッカッチョ『デカメロン』
『そのへんの石』『路傍の石』
『ストラディバリウスはこう言った』『ツァラトゥストラはこう言った』
『昔からあるハムスターみたいな本』『ハムレット』
『ハリー・ポッターが書いたうさぎの本』『ビアトリクス・ポターの『ピーターラビットのおはなし』』
『男の子の名前で『なんとかのカバン』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』

 『ハムレット』とか『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に関しては、これでよく分かったなとびっくりしますね。
 間違ったタイトルを見ていると、その間違い方にも特徴があって、人間の記憶や連想について考えさせるという意味でも、面白い本になってますね。
 現在のコンピュータ検索では、「てにおは」が間違っているだけでもヒットは難しいそうですが、この本に挙げられているような例ではますます難しく、人間による「レファレンス」のすごさと有用性についても再考を促してくれます。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

5月の気になる新刊
5月10日刊 サマンサ・ダウニング『とむらい家族旅行』(唐木田みゆき訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1320円)
5月18日刊 フランシス・ハーディング『嘘の木』(児玉敦子訳 創元推理文庫 予価1320円)
5月23日刊 鹿島茂『稀書探訪』(平凡社 予価4400円)
5月26日刊 フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケー『魔法の指輪 ある騎士物語 上・下』(池中愛海、鈴木優、和泉雅人訳 幻戯書房 予価3960円/5280円)
5月26日刊 チャック・ウェンディグ『疫神記 上・下』(茂木健訳 竹書房文庫 予価各1848円)
5月26日刊 ポール・バーバー『ヴァンパイアと屍体 死と埋葬のフォークロア 新装版』(野村美紀子訳 工作舎 予価3520円)
5月27日刊 フリオ・リャマサーレス『リャマサーレス短篇集』(木村榮一訳 河出書房新社 予価3190円)
5月31日刊 夏来健次、平戸懐古編訳『吸血鬼ラスヴァン 英米古典吸血鬼小説傑作集』(仮題)(東京創元社 予価3300円)
5月31日刊 フィン・ベル『壊れた世界で彼は』(安達眞弓訳 創元推理文庫 予価1144円)
5月31日刊 サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』(市田泉訳 竹書房文庫 予価1540円)


 『魔法の指輪 ある騎士物語』は、『ウンディーネ』で知られるドイツ・ロマン派の作家フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケーの冒険ファンタジー小説とのこと。これは気になりますね。

 ポール・バーバー『ヴァンパイアと屍体 死と埋葬のフォークロア 新装版』は、吸血鬼について科学的に探求したノンフィクション作品。書店によっては、以前の版の在庫を置いてあるところもあるようですが、新装版の刊行は慶賀したいところです。

 夏来健次、平戸懐古編訳『吸血鬼ラスヴァン 英米古典吸血鬼小説傑作集』(仮題)は英米の吸血鬼小説を集めたアンソロジーなのですが、その中でもブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』に先駆けた古典的な作品を集めたというユニークなアンソロジーです。 10篇を収録。有名な<ペニー・ドレッドフル>作品『吸血鬼ヴァーニー』の抄訳も収録とのこと。
 
最近読んだ本(ノンフィクション作品を中心に)

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コリン・ディッキー『ゴーストランド 幽霊のいるアメリカ史』(熊井ひろ美訳 国書刊行会)

 アメリカ各地の幽霊スポットや土地に残る幽霊話についてとりあげ、その幽霊話がなぜ広く流布したのか、元になった「事実」はどうだったのかなど、歴史的・社会的な側面から考察していくという本です。ですので、紹介される幽霊のエピソード自体は興味深いものの、著者の興味は、それらが残る土地や風土、歴史といった方面にあるようです。
 幽霊は実在するか否か? といったところには触れられず、飽くまで、幽霊話とそれが伝わる土地の歴史を調査した結果の「事実」を報告するというスタンスなので、結果的に幽霊話がフェイクだったというパターンも多いです。幽霊が出る原因となった殺人事件がそもそもなかったり、殺されたとされる人物が実在しない場合もあります。有名人に関わる事件の場合でも、それがデマや噂だったということが非常に多いのです。
 例えば有名なサラ・ウィンチェスターのエピソード。資産家の未亡人だった彼女が、半永久的に屋敷を建て増しし続けなければ死ぬと恐れていたという話は、明らかなデマだといいます。そもそも生前からその噂は否定されていたにも関わらず、「伝説」になってしまったといいます。
 他のエピソードでも、事実とは異なった伝説、後代に噂に尾鰭が付いてしまった例は数限りないのですが、なぜそうした形で語り伝えられたのか、といったところが時代的・歴史的な文脈で考察される部分には非常に面白味がありますね。数百年といったスパンの場合はもちろん、場合によっては、数十年前の殺人事件が幽霊話の温床になってしまうところには、人間の想像力の豊かさを感じます。
 文学作品が豊富に言及されるところも魅力です。具体的には、ホーソーン『七破風の屋敷』、シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』、スティーヴン・キング『シャイニング』、ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』、レイ・ブラッドベリ「優しく雨ぞ降りしきる」などが紹介されています。
 幽霊エピソードとの関わりや類似性の面で言及されるもののほか、ホーソーンにまつわる幽霊屋敷について語った「隠し階段」、ブラッドベリ作品を引き合いに、全自動の家はある種の幽霊屋敷ではないかと語るエピローグ「ニューマシンの幽霊たち」などでは、かなり深く小説作品について触れられています。
 幽霊話や怪奇実話といった方面の興味を持って手に取ると、少し方向性が異なるのですが、アメリカの歴史的な風土についての理解が深まるという点でも、知的な面白みのある本だと思います。



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トマス・モリス『爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集』(日野栄仁訳 柏書房)

 17~19世紀の医学文献から掘り出された、病気や症例にまつわるおかしな実話・エピソードをまとめた本です。当時の医者や医療者たちが残した医療文献から、現代人の興味を惹きそうな、おかしなエピソードを集めた本になっています。「爆発する歯」「鼻から排尿する女」「人体自然発火」「胎児を吐き出した少年」「水陸両生幼児」などの不思議な症例、当時の医者による変わった治療法などが、著者のユーモアあふれる語り口で紹介されていきます。
中には先駆的・大胆な医療を施したエピソードもありますが、古代からの理論の影響等もあって、大体において、病気や怪我に対してあまり効果的な対策は施されていない、というのが実情です。
 治療法として、何かというと「瀉血」や「下剤」が出てくるのも特徴ですね。とくに「瀉血」が出てくる頻度は高く、明らかに瀕死の患者に「瀉血」を行ったしている例もあります。今見ると頓珍漢なのですが、当時の医者は真面目に治療をしているつもりであり、実際に残された文献の記述も、それを良しとしているのですよね。
 医者や医療の側も、今見るとどうかと思うところはあるのですが、それ以上に興味深いのが患者の側。本人のせいではない病気や怪我はともかく、自ら進んで体内に異物を入れたりするなど、何でこんなことを?という話がたくさん出てきます。体内に異物を挿入したり飲み込んだりする症例は、本書中でも特に多く言及されていますが、よくある症例だったということでしょうか。ナイフを何十本も飲み込んだり、体中から針が出てきたりと、本当に出てくるものも多種多様。大抵は外科的に除去することになるわけですが、当時は麻酔もなく、そうした治療に伴う痛みを想像すると、ぞっとしてしまうシーンもあります。
 一番面白く読んだのは『「鳩の尻」療法』です。19世紀まで実在すると思われていた病気「小児性子癇痙攣発作」の治療法として編み出されたもので、痙攣発作をおこしている子どもの肛門に、鳩の肛門を押し当てるという、何とも奇妙な方法です。子どもの状態が良くなる代わりに、鳩は死んでしまうというのです。ほとんど呪術に近いような治療法なのですが、当時は大真面目に取り上げられていたとか。
 信じられないような話だけれどおそらく実話、というようなものから、眉唾物の話まで、多様な症例が混じっています。文献の引用に対して著者がいろいろとツッコミを入れてくれているので、胡散臭い場合はそこで区別がつくようになっているのも楽しいですね。
 医学的なエピソードを扱っていますが「読んでためになる話」ではありません(基本的に役に立ちません)。「フィクション」どころか「ファンタジー」や「都市伝説」に近いエピソードなども多く含まれており、冗談交じりの医学奇譚集として楽しむのが良い本ではないでしょうか。



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アレクサンダー・トドロフ『第一印象の科学 なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』(みすず書房)

 人間が「顔」に対して抱く印象や、その印象がささいなことで変わってしまうこと、顔から感情をどのように読み取っているのか、顔だけでなく体や動きの印象が認知に影響を与えていることなど、非常に面白い知見と発見にあふれた本です。顔写真のコントラストをちょっと変えただけで、男性と女性の判別もつかなくなったり、顔色やそのテクスチャが認知に大きな影響を与えていることなど、なるほど!と思うような研究結果がいろいろと載っています。
 現代の科学的な研究結果だけでなく、顔や表情からその人間の性質を探ろうとする疑似科学的な学問、いわゆる「観相学」についても触れられていて参考になります。特に予備知識がなくても読めますので、人間の顔や表情に対する認知などに興味がある方にはお薦めしておきたいと思います。



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ミチオ・カク『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』(斉藤隆央訳 NHK出版)

 人類が地球を離れ、宇宙に住むためには何が必要か?というコンセプトで書かれたノンフィクションなのですが、これがすごく面白く、かつわかりやすく書かれています。
 ロケットについての話から、太陽系の惑星の開拓、他の恒星や系外惑星、地球外生命探査、不死のテクノロジーの話など、話題が盛り沢山です。SF作品にも造詣が深く、SFに登場する技術やガジェットなどにも多く言及がされています。世代間宇宙船やデジタルな不死、エイリアンとの遭遇、宇宙の終わりなど、SF的にも面白いトピックも多く登場します。
 この著者、他の本でもそうなのですが、メインテーマに関連する話題を広く解説してくれるので、非常に面白く、ためになりますね。
 ミチオ・カクの本はどれも一般読者にわかりやすく書かれているので、広く勧めたいところです。宇宙の未来について語った『パラレルワールド』、未来の技術について語った『2100年の科学ライフ』、「心」の未来について語った『フューチャー・オブ・マインド』など、どれもお勧め。
 ミチオ・カクの本では、科学技術・知識だけでなくSFのテーマなどについてもよく言及されるので、特にSFが苦手な方は、副読本として読むと良いんじゃないでしょうか。



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ビル・シャット『共食いの博物誌 動物から人間まで』(藤井美佐子訳 太田出版)

 動物学者である著者が、動物と人間、それぞれの「共食い」(カニバリズム)について語ったノンフィクション作品です。動物を扱った1部と、人間を扱った2部とに分かれています。
 1部では、昆虫から大型の哺乳類まで、動物に広く見られるカニバリズムが必ずしも異常な行動ではなく、状況によっては動物にとって正しい戦略であることが描かれます。このテーマではよく挙げられる、クモやカマキリの有名な事例だけでなく、珍しい動物についても触れられています。個人的に興味深かったのはアシナシイモリ。子供は母親の表皮を食べて育つという動物です(皮はすぐ再生するらしいです)。
 2部では、人間のカニバリズムが扱われていますが、一部の有名な例を除き、このテーマで真っ先に思い浮かぶ異常犯罪者の例は考察の対象外となっています。
 取り上げられるトピックは、南米の人食い族、遭難におけるカニバリズム、ミイラの粉末、キリスト教におけるパンとワイン、胎盤食、クール-病、狂牛病など。一見、これもカニバリズムなの?というような話題も取り上げられていますね。
 どの話題も興味深いのですが、印象に残るのは、人食い族の話題と、極限状況におけるカニバリズムの話題でしょうか。人食い族に関しては、南米や太平洋に存在したという、いわゆる「人食い族」が本当にカニバリズムを行っていたのか?ということや、文化人類学者の勘違いや捏造の可能性についても触れています。合わせて、南米を侵略したコロンブスやスペイン人たちが、自分たちに都合の良いように記録を残した例などについても書かれています。
 極限状況におけるカニバリズムについては、アメリカ西部の開拓者たちがドナー峠で冬を迎え遭難してしまうという「ドナー隊の話」や、ウルグアイのラグビー選手団が飛行機の滑落で遭難した事件、中国での「大躍進」における飢餓の事例などが描かれています。 特に「ドナー隊の話」については、かなり詳細に描かれており、強烈なインパクトがありますね。
 また、ホメロス、ヘロドトス、シェイクスピア、『ロビンソン・クルーソー』『ジャックと豆の木』など、文学書や物語に描かれたカニバリズムについても、いろいろ紹介されています。
 扇情的な印象を持たれやすいテーマではあるのですが、かなり真面目に、かつ多面的にカニバリズムを考察している本です。文化や儀礼など、文化人類学的な考え方についても触れられますが、基本は動物学的なアプローチとなっています。論旨も明快で読みやすいです



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堤寛『感染症大全 病理医だけが知っているウイルス・細菌・寄生虫のはなし』(飛鳥新社)

 さまざまな感染症について、具体的な症例、発見の歴史、著者の個人的なエピソードなどがまとめられた、感染症のガイドブックといえる本です。コ ロナウイルスの件で勉強したいと思って購入したのですが、コロナだけでなく感染症全般についていろいろ学べると同時に、面白く読める本でした。口絵として、感染症のもとになる菌やウイルスなどの画像も掲載されています。
 どんな食べ物をどんな形で摂取すると危ないとか、特定の地域ではどんな病気の危険性があるかなど、具体的な危険性や治療法・対策なども盛り込まれていて、参考になりますね。ただ、重症化すると死亡にいたる病気も数多く載っていて、通読していると、想像力豊かな人は気持ちが悪くなってしまうかもしれないので注意です(僕も一気に読めないので、少しづつ読んでいました)。



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頭木弘樹『食べることと出すこと』(医学書院)

 病気により不自由になった「食事」と「排泄」、それによって変わった自分の生活のみならず、社会との関係までを考察した、非常にユニークな本です。
 病気によって「食事」と「排泄」に困難を来たすようになった著者が、その病気と治療の体験を詳細に語るという本なのですが、その過程での自分の肉体的・心理的な変化だけでなく、ふだん健常な人間には気がつきにくい文化的な習慣、恥の感覚など、社会的・哲学的な問題点まで考察するという内容になっています。
 食事の場はコミュニケーション問題そのものであることや、排泄が「恥」や「尊厳」の問題と密接につながっていることなど、気づきを与えてくれる視点が多いです。人と会うときは必ずといっていいほど飲み物が介在していること、勧められた飲食物を断ったときに発生する不和など、これらは皆、食事がコミュニケーションに関わる問題だからこそだ、という部分はなるほどと思いました。
 「排泄」に関わる部分では、子供時代にそれが「笑い」の対象となるのに対して、大人ではそれが「恥」となってしまうというのも、読んでいて説得力を感じる人が多いのではないでしょうか。
 特定の病気や治療の本というよりも、それを通して見えてくる人生観の変化や、それまで意識しなかった社会やコミュニケーションについての気づきを与えてくれる本になっています。病気をテーマにした本をいろいろ読んできましたが、こういうタイプの本は読んだことがありません。
 あと個人的なことになりますが、著者の頭木さんと近い持病があることもあって、ところどころで共感できる部分も多かったです。



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ガイ・レシュジナー『眠りがもたらす奇怪な出来事 脳と心の深淵に迫る』(高橋洋訳 河出書房新社)

 睡眠医学の専門家である著者が、自らが体験したさまざまな睡眠障害についての症例をあげ、その病について考察するという本です。
 タイトルから、常識では考えられないような変わった症例が取り上げられるのかな…と思っていたのですが、案に相違して、かなり真面目に睡眠障害について書かれた本でした。取り上げられるのは、概日リズムの乱れ、夢遊病、睡眠時無呼吸、寝言、情動脱力発作、てんかん、睡眠麻痺など、睡眠の障害として聞いたことのあるものが多いです。それだけにその考察も実用的で、睡眠に関して悩みのある人は、非常に参考になるのではないでしょうか。
 ただ、各章はそれぞれ、著者が体験した具体的な症例をもとに病が考察されていくので、抽象的な話にはならず、とてもわかりやすく書かれています。治療を進めていくうちに、思わぬ事実が判明したり…といった部分には面白みがありますね。
 その意味で面白いのが、第5章「寝言を口走るバス運転手」。バス運転手が寝言の悩みを訴えて来院します。自分では気づいていないのですが、共に暮らすガールフレンドによれば、激しく猥雑な寝言を就寝中に叫んでいるというのです。調べてみるものの、明確な証拠は見つからず、とりあえず器具を使って治療を始めてみます。その直後、患者本人から意外な事実を聞かされます。すべてはガールフレンドの嘘だったというのです。むしろガールフレンドの方に心の病があり、「代理ミュンヒハウゼン症候群」である可能性が出てくる…という興味深い症例になっています。
 睡眠に関わるさまざまな障害と治療を通して、逆に正常な睡眠がどのようになっているのか、どういう役目をなしているのかが、浮かび上がってくるという、非常に面白い本です。



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三上修『電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?』(岩波科学ライブラリー)を読了。電柱と鳥類の関わりについて書かれた、ユニークな研究書です。
日常的な風景として当たり前に見る、電柱に止まる鳥たち。どんな鳥がどのように止まり、どのように利用しているのか、といった、電柱・電線と鳥類との関わりについて書かれた本です。
電線のどのような場所に鳥は止まるのか、鳥は感電しないのか、どのような場所に巣を作るのか、電力会社の鳥対策など、普段思いもかけない視点からの調査内容が紹介されています。一概に鳥といっても、電柱をよく利用する鳥と利用しない鳥があり、さらにその使い方もいろいろ。中では、やはりスズメとカラスの利用率が高いようですね。
 木製の電柱がキツツキによって穴があけられ使えなくなるとか、電柱の上に作られたスズメの巣を狙ってヘビが上に登った結果、感電して停電になるとか、目から鱗の内容も紹介されています。
 一章がまるまる電柱と電線の紹介に費やされているので、電柱と電線の基礎知識も身につくという、優れものの本です。電線の位置や数、区分など、考えたこともなかったので、読んでいて、なるほど合理的にできているな…と納得する部分も多数ですね。
 同じ著者の本では、スズメ全般を分かりやすく解説した『スズメ つかず・はなれず・二千年』(岩波科学ライブラリー)も面白い本でしたので、こちらもお薦めしておきます。



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久保田慶一『モーツァルトに消えた音楽家たち』(音楽之友社)

 モーツァルトと同時代に生き活躍した作曲家たちを紹介した本です。後年モーツァルトの名声の前に存在が薄くなってしまったものの、当時、強く影響力を持った彼らの生涯と作品を紹介しています
 紹介されているのは、モーツァルトの父であり作曲家でもあったレオポルド・モーツァルト、モーツァルトが尊敬していたJ・S・バッハの末っ子「ロンドンのバッハ」ヨハン・クリスティアン・バッハ、ザルツブルグで活躍したハイドンの弟ミヒャエル・ハイドン、イタリア帰りで当時絶大な名声を誇った「イタリアのザクセン人」ヨハン・アドルフ・ハッセ、フランス革命を含む長い時代を生き抜いた「フランス交響曲の父」フランソワ=ジョセフ・ゴセック、当時ヨーロッパ随一といわれたオーケストラを有したマンハイムの音楽家たち、カンナビヒ、ホルツバウアー、カール・シュターミッツ、後年モーツァルトのライバルとして喧伝されたアントニオ・サリエリ、モーツァルトの『レクイエム』を完成させたフランツ・クサーヴァー・ジュスマイアーなど。
 18世紀当時、モーツァルトはそれなりの評価はされていたものの、今ほどの絶大な名声と人気はまだありません。当時の音楽界は、この本で紹介されているような人たちが中心となっていました。その意味で、等身大の18世紀音楽界が大づかみに理解するのに便利な本ではないでしょうか。
 父のレオポルドを始め、モーツァルトとの絡みで紹介される人も多く、その点でも面白いです。章の間に挟まれる、<おもちゃの交響曲>、クレメンティの<魔笛ソナタ>、グルック=ピッチンニ論争、ボヘミア出身の音楽家たち、などを題材にしたコラムも参考になります。
 各章ごとに、紹介される作曲家たちの録音CDが紹介されていますが、本の出版自体が1998年のため、情報は古くなってしまっています。1990年代後半あたりから現在まで、当時のバロック・古典派の作曲家の作品の録音が飛躍的に進んでおり、かなりマイナーな作曲家の作品も聴けるようになってきていますね。

 モーツァルトと言えば、彼をテーマにした面白い短篇小説があって、それがドイツの作家ヘルベルト・ローゼンドルファーの「公園の出会い」(前川道介訳『独逸怪奇小説集成』国書刊行会 収録)という作品。
 モーツァルトの幽霊が現代の演奏会に現れ、そこで聞いたワーグナーの曲をこき下ろすという、ユーモアあふれるゴースト・ストーリーです。
 この「公園の出会い」、翻訳が『ミステリマガジン』に二度掲載されています。二度目に掲載されている号が『1991年10月号 モーツァルト没後200年記念短篇特集』。当時、ミステリ雑誌でモーツァルト特集というのは、すごくユニークな感覚がありました。
 同号掲載のモーツァルト・テーマの短篇では、小池真理子の「ロマンス」が記憶に残っています。モーツァルトの演奏会で出会った老紳士の教養と物腰に魅了された青年が、紳士の自宅を訪れる…というお話なのですが、この作家らしく、日常の狂気が描かれたサイコ・スリラー作品になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2022年4月の気になる新刊
発売中 ダイアン・クック『人類対自然』(壁谷さくら訳 白水社 3300円)
4月6日刊 三島由紀夫『復讐 三島由紀夫×ミステリ』(河出文庫 予価792円)
4月11日刊 レオ・ペルッツ『テュルリュパン ある運命の話』(垂野創一郎訳 ちくま文庫 予価990円)
4月11日刊 スザンナ・クラーク『ピラネージ』(原島文世訳 東京創元社 予価2640円)
4月12日刊 ロバート・ルイス・スティーヴンスン『臨海楼綺譚 新アラビア夜話第二部』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫 予価1078円)
4月12日刊 タリアイ・ヴェーソス『氷の城』(朝田千惠、アンネ・ランデ・ペータス訳 国書刊行会 予価2640円)
4月15日刊 マグナス・ミルズ『鑑識レコード倶楽部』(柴田元幸訳 アルテスパブリッシング 予価1870円)
4月16日刊 エド・サイモン『アートからたどる悪魔学歴史大全』(加藤輝美、野村真依子訳 原書房 予価4950円)
4月20日刊 グレイディ・ヘンドリクス『吸血鬼ハンターのための読書会』(原島文世訳 早川書房 予価3190円)
4月21日刊 遠藤周作『怪奇小説集 恐怖の窓』(日下三蔵編 角川文庫 予価858円)
4月25日刊 スタニスワフ・レム『マゼラン雲』(後藤正子訳 国書刊行会 予価2970円)
4月25日刊 E・T・A・ホフマン『ホフマン小説集成 上』(石川道雄訳 国書刊行会 予価7700円)
4月29日刊 モーリス・ルヴェル『地獄の門』(中川潤編訳 白水Uブックス 予価2200円)
4月29日刊 ドニ・ディドロ『運命論者ジャックとその主人 新装版』(王寺賢太、田口卓臣訳 白水社 予価4400円)


 レオ・ペルッツ『テュルリュパン ある運命の話』は、17世紀を舞台に、町の床屋が陰謀に巻き込まれるという伝奇歴史小説とのこと。これは面白そうですね。

 スザンナ・クラーク『ピラネージ』は、巨大な建物の世界で孤独に暮らす男を描いた幻想小説。気になりますね。

 ロバート・ルイス・スティーヴンスン『臨海楼綺譚 新アラビア夜話第二部』は、『自殺クラブ』の訳題でも親しまれている『新アラビア夜話』の第二部です。いくつかの短篇がまとまっていますが、この形で邦訳されるのは珍しいのではないでしょうか。

 グレイディ・ヘンドリクス『吸血鬼ハンターのための読書会』は、以下のようなお話。 「 アメリカ南部の高級住宅街に住むパトリシア。彼女の忙しい毎日の息抜きは、主婦仲間との連続殺人ノンフィクションの読書会だ。だがある晩、近所の嫌味な老婦人が血まみれでアライグマの死骸をむさぼっているのに遭遇し――不安と興奮に満ちた傑作吸血鬼ホラー 」
 ちょっと変わった吸血鬼小説のようです。

 E・T・A・ホフマン『ホフマン小説集成 上』は、名訳者として知られる石川道雄訳のホフマン作品を集成した作品集の上巻。アルフレート・クービン、フーゴー・シュタイナー=プラーグ、谷中安規などの挿絵も収録した豪華函入愛蔵版とのことで、これは欲しいかも。

 モーリス・ルヴェル『地獄の門』は、以前より同人出版の形でルヴェル作品の邦訳を手掛けていた中川潤編訳になる、ルヴェル短篇の新訳作品集です。同人版にはなかった作品も入っているそうです。



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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