最近読んだ本

4150413878白夜の一族〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)
スティーヴン・ロイド・ジョーンズ 林 香織
早川書房 2016-06-23

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スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族』(林香織訳 ハヤカワ文庫NV)

 傷ついた夫と幼い娘を連れた女性ハナは、追手から逃げ続けていました。その追手は、ただの人間ではなく、歳を取らず、変身能力を持つ怪物のような男。その男「ジェイカブ」は、数世代にわたって、ハナの一族を追い続けていたのです。
 用意していた隠れ家に辿り着いたものの、衰弱していく夫を前に憔悴するハナでしたが…。

 数世代にわたって一族の女性を追ってくる怪物的な男から逃げ続けるヒロインを描く物語です。この追手の男の変身能力が驚異的で、老若男女誰にでも化けられるのです。そのため、身近な家族でさえ安心はできず、普段から相手を識別する方法を考えなければなりません。
 現代のハナの物語と、1970年代のその母親の世代、そして19世紀ハンガリーの物語と、大きく3つの物語が展開していきます。世代を変えて襲ってくる「ジェイカブ」と、なぜ「ジェイカブ」がハナの一族を追い続けるのかが徐々に明らかになる展開は、じつにサスペンスフル。
 後半には「ジェイカブ」と同じルーツを持つ一族や、その一族を監視する機関の存在が明らかになるなど、スケールが大きくなっていきます。伝奇アクションホラーの佳作といっていいかと思います。



4488014623時間のないホテル (創元海外SF叢書)
ウィル・ワイルズ 若島 正
東京創元社 2017-03-21

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ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(茂木健訳 東京創元社)

 ニールは、クライアントの代わりにイベントに参加し、レポートにまとめるという仕事を生業にしていました。イベントに参加するために泊まることになったホテル「ウェイ・イン」には、不思議な抽象画が飾られていました。そこで出会った女性ディーが言うことには、「ウェイ・イン」の各部屋には、それぞれ異なった手書きの抽象画が飾られており、チェーンの数を考えると、数万枚にも及ぶ絵があるはずだというのです。
 イベントの主催者に出入りを禁止されてしまったニールでしたが、ふとホテル内を歩き続けていると、いつまでも終点につく気配がないのです。いくらホテルが広いといっても、ここまで広いはずがない…。やがて再会した女性ディーは、このホテルの秘密をニールに明かすことになりますが…。

 迷宮のようなホテルを舞台にした幻想小説です。前半は、主人公ニールが、ビジネスとしてイベントに参加するという、リアリズム風の展開が続くので、ちょっと退屈しますが、ホテルの秘密が明らかになってからの後半は、俄然、面白くなってきます。
 何より、迷宮のようなホテルが魅力的です。作者が建築関係の仕事をしていたというだけあって、作中のホテルの存在感が強烈なのです。物語が進むにつれ、ホテル自身が魔力を持った存在であり、主人公ニールもまた、ホテルの魔力に触れうる人間であることがわかってきます。
 主人公が女性関係にだらしなかったり、モラルに欠ける面があったりと、感情移入しにくいキャラクターになっているのですが、そうした性格設定が、「ウェイ・イン」での事件に巻き込まれる要因にもなっているように見えるところは、上手いですね。
 後半はホラー的な色彩が強くなるのですが、そうなってから結末までが意外と短いので、ホラー作品として見ると、ちょっと物足りない感はあります。



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場所 (フィクションのエル・ドラード)
マリオ レブレーロ Mario Levrero
水声社 2017-04

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マリオ・レブレーロ『場所』(寺尾隆吉訳 水声社)

 男が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋でした。そこから出ようとするも、ドアを開ければ、また同じような部屋が続いているのです。前へ進み続けると、人が住んでいるような部屋が現れますが、言葉も通じずコミュニケーションを取ることができません。
 部屋によっては、食料やベッドがある部屋が存在し、それらを活用しながら男は出口を探し続けますが、一向に出口は見えてきません…。

 連続する部屋の中にも違いがあり、食料があったり、寝床があったり、電気が通っていたりします。食料は食べれば、なぜか補充されたりと、住もうと思えば、ずっと住んでいられる部屋もあるのです。
 やがて意思を通じることのできる人間たちと出会うものの、彼らもまた、なぜこの場所に連れてこられたかは皆目わからないのです。
 迷宮のような場所から出ようとする男を描いた不条理小説、といっていいのでしょうか。不条理小説と言うと、観念的で難解なものを思い浮かべてしまいますが、意外とエンターテインメントしているところが魅力的です。具体的なサバイバルの描写や、迷宮の探索、やがて出会う仲間や女性との別れなど、冒険小説的な要素が強いのが特徴です。
 レブレーロはウルグアイの作家で、この『場所』もカルト的な人気がある作だとのこと。『場所』を含む三部作があるそうで、他の2つの作品もぜひ読んでみたいですね。



404897324X無名恐怖 (BOOK PLUS)
ラムゼイ キャンベル Ramsey Campbell
アーティストハウス 2002-06

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ラムゼイ・キャンベル『無名恐怖』(アーティストハウス)

 出版エージェントとして順風満帆な生活を送るバーバラのもとへ、ある日1本の電話がかかってきます。それは何年も前に殺されたはずの娘アンジェラからのものでした。
 もともと娘の死を信じ切れていなかったバーバラは、恋人の男性とともに、娘を探し始めます。やがて、あるカルト教団が娘の失踪に関わりがあるらしいことが判明しますが…。

 カルト教団にさらわれた娘を取り返そうとする母親の物語。というと、超自然味のないスリラー的な作品を想像しますが、娘に超能力的な力があったり、超自然的な存在の影がほのめかされたりと、スーパーナチュラル風味もある作品です。
 全体に派手さはありませんが、娘を探すための調査や探索など、主人公とその周辺の人物がいろいろ動き回るので、退屈はしません。
 登場するカルト教団の教義が「名前を持たない」というもので、さらわれ、洗脳された人間は、自分の名前すら言えなくなってしますのです。このカルト教団を含め、後半まで終始持続する、作品の不気味な雰囲気は素晴らしく、〈雰囲気派〉作家の面目躍如といったところでしょうか。
 エンターテインメントとしては読むには少々きついかもしれませんが、恐怖小説としてはなかなかの佳作ではないでしょうか。



4150121222ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン 川名潤
早川書房 2017-04-20

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ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』(伊藤典夫ほか訳 ハヤカワ文庫SF)

 ハーラン・エリスンの日本オリジナル短篇集です。収録作品のどれを取ってもエネルギーに満ちた作品揃いです。人種差別をテーマにした『恐怖の夜』『死人の眼から消えた銀貨』などの、直接的なメッセージを含んだ作品にしてから、今読んでも生命を失っていません。
 善人が地獄へ送られてしまうという不条理を描いた『ヒトラーの描いた薔薇』、自らの分身が現れるという『解消日』、故郷で裏切り者の烙印を受けた帰還兵が、人々に「死」をまき散らすという『バジリスク』、ガーゴイルの石像が人々を虐殺するという『血を流す石像』、目覚める際に、自分の腹に現れた「口」をめぐって展開する物語『睡眠時の夢の効用』などが印象に残ります。
 とくに、『睡眠時の夢の効用』は、わき腹に現れた口という、突拍子もないイメージから、生と死をめぐる壮大なテーマへと至る傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
時間のないホテル
主人公よりも謎の美女ディーが魅力的。頭脳明晰、長身に燃え立つ赤毛、優れた身体能力。それでも敵に引導を渡すのは主人公なのですね。装幀の建築物群も良いです。これからホテルを利用する際に抽象画を探してしまいそう。
【2017/05/06 08:12】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ヒロインがずいぶん破天荒ですよね。結局、最後まで主人公といい仲になるわけでもないし。抽象画の設定は、ボルヘス風というかエッシャー風というか、すごく魅力的でした。
【2017/05/06 17:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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