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悪意のデパート  シャーリイ・ジャクスン作品を読む
 シャーリイ・ジャクスンは、代表作『くじ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)や『丘の屋敷』(創元推理文庫)など、独自の作風で日本の読者にも長く読まれてきた作家です。ただ邦訳が少ないこともあり、その全体像は見えずにいました。
 ただ、2015年に短篇集『なんでもない一日』(創元推理文庫)が出版されたのを皮切りに、今年は何冊もジャクスン作品が邦訳されるという、記念すべき年になりました。
 ジャクスンは、1916年生まれなので、今年は生誕100周年に当たるのですね。それもあり、まとめてジャクスン作品を読んでみよう!という機運が自分の中に生まれました。そんなわけで、それらのジャクスン作品についてレビューしていきたいと思います。



4336060592鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE)
シャーリイ・ジャクスン 北川依子
国書刊行会 2016-11-24

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シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』(北川依子訳 国書刊行会)
 博物館勤めで、頭痛持ちの内気な20代前半の女性エリザベス・リッチモンド。彼女は両親を亡くし、叔母とともに静かに暮らしていました。博物館の工事の最中、自らの勤務場所のすぐそばに穴が開けられたのと時を同じくして、エリザベスの行動がおかしくなりはじめます。
 不審に思った叔母が、精神科医ライト医師に相談したところ、エリザベスには従来の人格に加え、いくつかの多重人格が生まれているというのです。精神科医は、おとなしく魅力的な人格にベス、天衣無縫で悪巧みの得意な人格にベッツィと名前を付け、彼女らの人格を統合しようとカウンセリングを開始しますが…。

 多重人格を扱った作品です。最初は突飛な行動がたまに起きる程度だったのが、やがて人格の交代が頻繁に起き、今誰が体を支配しているのかがわからなくなるほどになります。
 ややこしいのは、ある人格が別の人格の行動を把握しているということ。しかもすべての人格が互いに把握しているのではなく、人格によっては他の人格の行動がわからないのです。それを利用して、別の人格にいたずらをしたりする人格もいるのです。
 主治医となったライト医師も、すぐに激昂するなど精神のバランスの悪い人物で、これが混乱に拍車をかけます。人格の一人ベスに魅力を感じたライト医師は、本来の人格ではなく、ベスを中心に統合が図れないかとさえ考えるのです。
 ベスに弱い医師をだますために、人格の一人ベッツィはベスのふりをするなど、医師を翻弄します。それぞれの人格と対話を続け、光明が見え始めた矢先、さらに新しい人格が発生し、医師を困惑させるのです。
 登場人物は、ヒロインの人格を除けば、メインで登場するのは、ほぼ3人で、物語の舞台もほぼ密室で起きます。人格同士の関係、そしてそれぞれの人格と叔母、医師との関係性の変化を丹念に追っていく構成になっています。最初は消滅すべき人格と考えていたベッツィと医師が、新たな人格を共通の敵として、共犯関係になっていくところなど、じつにスリリングです。
 行き詰るような対決シーンがあるかと思えば、ブラック・ユーモアに満ちたやり取りもあり、狂気に満ちた部分もありと、ジャクスン作品の中でも一、二を争う傑作ではないでしょうか。



4488583059処刑人 (創元推理文庫)
シャーリイ・ジャクスン 市田 泉
東京創元社 2016-11-30

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シャーリイ・ジャクスン『処刑人』(市田泉訳 創元推理文庫)
 17歳の少女ナタリーは、大学入学を機に、女子寮に入ることになります。決まった友人もできないナタリーは、学内での生活を、皮肉屋で専制的な作家の父親に書き送りますが…。

 思春期の少女の大学生活が地道に描写される普通小説、に見えるのですが、やはり「普通」ではありません。まずヒロインのナタリーにしてからが、人との会話の最中に、刑事に詰問される妄想をするなど、異様な創造力を持つ少女として描かれています。
 両親もまた「普通」ではなく、結婚生活を悔やみ続ける母親はともかく、父親の性格を描写させた文章を娘に書かせるなど、尊大かつひねくれた性格の父親との関係など、ナタリーは、家庭生活に息苦しいものを感じています。
 大学に開放感を求めるものの、そこでも特に救いはもたらされません。友人は少ないものの、穏便な学校生活が、やがて幻想と入り混じりはじめて…。
 物語の開始時点から、ヒロインの妄想と現実の区別がつきにくく、その意味で「信頼できない語り手」なのですが、後半になるにしがたって、その程度は激しくなっていきます。唯一無二の友人に出会えたと思いきや、その友人も、一緒にした行動も、現実なのかがわからなくなっていくのです。
 夢幻的な雰囲気に満ちた幻想小説と言えます。



4488583032丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)
シャーリイ・ジャクスン 渡辺 庸子
東京創元社 2008-09

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シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』(渡辺庸子訳 創元推理文庫)
 心霊現象を調査する科学者モンタギュー博士の呼びかけにより、丘の屋敷に集まった3人の男女。中でもポルターガイストの経験者であるエレーナは、感応しやすい体質を持っていました。
 屋敷で暮らしているうちに、精神のバランスをくずしてゆくエレーナ。それと同時に不思議な現象が起こり始めますが…。

 屋敷の霊的現象よりも、ヒロインのバランスを失った心理のあやが読みどころです。帰るところなどない…というヒロインの絶望感が何より強烈です。彼女にとっては、例え、お化け屋敷だとしても、家よりも居心地がいい場所なのです、
 20年以上前に旧訳『山荘綺談』(ハヤカワ文庫NV)で読んでいたのですが、再読してみました。以前は《モダンホラー・セレクション》の枠で出ていたこともあり、「お化け屋敷ホラー」として読んでいたのですが、今回は違った読み方ができた気がします。「お化け屋敷ホラー」ではなく、むしろニューロティックなサスペンスとして読むべき作品ではないでしょうか。



4151823018くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
シャーリイ・ジャクスン 深町 眞理子
早川書房 2016-10-21

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シャーリイ・ジャクスン『くじ』(深町眞理子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
 問題作『くじ』を含む《異色作家短篇集》収録短篇集の文庫化作品。
 どれをとっても悪意に満ちた登場人物や展開のオンパレードです。
 突如、恋人が行方不明になった女性が、恋人を探し回るという『魔性の恋人』、女友達を食事に招いた男性が、その振る舞いに不快にされるという『おふくろの味』、家政婦の一方的な言動を止めることのできない主婦を描く『大きな靴の男たち』など。勉強熱心な少年に買うべき本を教えてもらった成り上がりの男性を描く『曖昧の七つの型』では、ジャクスンらしからぬ「いい話」かと思った先のひっくり返しが、また悪意に満ちています。
 ただ後味の悪い作品、というわけではなく、そのブラック・ユーモアも読みどころです。
 家具を買いに訪れた部屋で、そこの住人のふりをすることになる『ヴィレッジの住人』や、盗みに入られた女性が犯人を問い詰めようとするが果たせないという『決闘裁判』などに見られる奇妙なユーモアは、決して不快ではないのが、またジャクスンの魅力でしょうか。
 ところどころで、ジェームズ・ハリスという名の人物が名前を変え、悪魔的な人物として登場するのも面白いところですね。
 そして、村に長年伝わる「くじ」の風習を描いた、表題作の『くじ』は、恐怖小説の古典とされていますが、やはり再読・三読に耐える名作。何の気のない地の文章に、深み読みさせるような描写がひそんでいます。



0809066505Shirley Jackson's "the Lottery": The Authorized Graphic Adaptation
Miles Hyman
Hill & Wang Pub 2016-10-25

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Miles Hyman "Shirley Jackson's "the Lottery""
 『くじ』文庫化とちょうど同時期に、本国では、ジャクスンの実の孫マイルズ・ハイマン(Miles Hyman)による、『くじ』のグラフィックノヴェル(コミック)化作品も刊行されました。こちらも原書を手に入れて、読んでみました。原作を読んでいれば、細かい英語がわからなくても、大体の物語は読み取れました。
 派手さのないリアルな画風が、『くじ』に合っていますね。
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12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
発売中 《ナイトランド・クォータリーvol.07 魔術師たちの饗宴》(アトリエサード 1836円)
11月30日刊 フレイザー・リー『断頭島(ギロチンアイランド)』(竹書房文庫 予価864円)
12月2日刊 稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス 21世紀タルホスコープ』(河出文庫 予価1296円)
12月6日刊 レジナルド・ライト・カウフマン『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』(国書刊行会 予価2160円)
12月6日刊 ファーガス・ヒューム『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』(国書刊行会 予価2268円)
12月7日刊 エドワード・アタイヤ『細い線 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価864円)
12月7日刊 エゼキエル・ブーン『黒い波 破滅へのプレリュード』(ハヤカワ文庫NV 予価1145円)
12月8日刊 ドロレス・レドンド『バサジャウンの影』(ハヤカワ・ミステリ 予価2052円)
12月8日刊 チャイナ・ミエヴィル『爆発の三つの欠片(かけら)』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価2700円)
12月8日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語2 ライオンと魔女と衣装だんす』(光文社古典新訳文庫)
12月14日刊  三田順、岩本和子編『幻想の坩堝』(松籟社 予価1944円)
12月14日刊 『諸星大二郎の世界』(平凡社 予価1728円)
12月21日刊 大瀧啓裕『翻訳家の蔵書』(東京創元社 予価3240円)
12月22日刊 『新編 日本幻想文学集成 第4巻』(国書刊行会 6264円)
12月23日刊 小野俊太郎『ドラキュラの精神史』(彩流社 予価1944円)
12月25日刊 フランシスコ・ナルラ『ブラックボックス』(ハーパーBOOKS 予価819円)


 フレイザー・リー『断頭島(ギロチンアイランド)』は、ちょっと気になる作品。「家賃が払えず、アパートメントを追い出されたマーラは最高の仕事を見つけた――。億万長者が所有する島の管理人“点灯員(ランプライター)"だ。簡単な仕事に破格の給料。しかしその島は、生きて出た者はいない恐ろしい場所だった……。」

 エドワード・アタイヤ『細い線 新訳版』は、サスペンスの古典的作品。不倫相手を殺してしまった男が、罪の意識に囚われてゆく…といった感じの作品。確か乱歩も褒めていましたね。

 三田順、岩本和子編『幻想の坩堝』は、本邦初のベルギーの幻想文学アンソロジーです。収録作家は、マーテルランク、ローデンバック、ピカール、エレンス、ゲルドロード、オーウェン、ジャン・レー、ティリーなど。これは楽しみですね。
 ベルギー幻想文学といえば、ジャン・レーの未訳作品もどこかで出してくれないものでしょうか。

 『諸星大二郎の世界』は、ムック本のようですね。諸星大二郎といえば、今月の新刊で『BOX 箱の中に何かいる」(モーニング KC)という作品が出ています。それぞれ異なったパズルを手に入れた男女たちが、謎の迷宮に閉じ込められる…という作品。あらすじを見たときは、流行りの<デスゲームもの>なのかな、と思いきや、内容はしっかりと諸星節になっているところがさすがでした。ユーモアもある、不条理スリラーとしてオススメです。

 大瀧啓裕『翻訳家の蔵書』は、怪奇幻想小説の翻訳で有名な著者のエッセイ集。この方の本は、マニアックな幻想小説の話題が散りばめられていて楽しいのですよね。

 フランシスコ・ナルラ『ブラックボックス』は、あらすじが面白そうですね。
「テロか、事故か? 生存者ゼロ――。おぞましい連続殺人、ケルト神話が息づく村、一族の封印された忌まわしい秘密……」。オカルトスリラーっぽい作品のようです。

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怪奇幻想読書倶楽部 第2回読書会 参加者募集です
 「怪奇幻想読書倶楽部 第2回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2016年12月11日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1200円(予定)
テーマ:
第1部 怪奇幻想小説のアンソロジーをめぐって
第2部 《異色作家短篇集》と<奇妙な味>の作家たち

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※事前に紹介チラシを作るので、皆の前で自己紹介をする必要はありません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

 第1部は、第1回読書会から引き続きのテーマで、日本で刊行された海外の怪奇幻想小説アンソロジーをめぐってのトークです。前回からの議論が続いているわけではないので、2回目からの参加でも大丈夫です。
 第2部のテーマは《異色作家短篇集》。ダール、エリン、コリア、マシスン、ブラッドベリ、ジャクスンなど、数十年にわたって、プロアマ問わず、日本のエンタテインメントに影響を与えてきたシリーズです。シリーズに収録された作家はもちろん、その周辺領域の作家たちの作品についても語り合いたいと思います。


11月30日追記

第2回読書会のメンバー募集ですが、締め切りとしたいと思います。お問い合わせくださった方、ありがとうございました。

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『新トワイライトゾーン』第3シーズン完結
ミステリー・ゾーンDVDコレクション(75) 2016年 7/20 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(76) 2016年 8/3 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(77) 2016年 8/17 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(79) 2016年 9/14 号 [雑誌] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(80) 2016年 9/28 号 [雑誌]: ミステリー・ゾーンDVDコレクション 増刊 ミステリー・ゾーンDVDコレクション(82) 2016年 10/26 号 [雑誌]: 増刊
 DVDマガジンで刊行されてきた『ミステリーゾーン』にて、『新トワイライトゾーン』の第3シーズンが完結しました。第3シーズンは、大部分がカナダで作成されたシリーズらしいのですが、一番の特徴は、J・マイケル・ストラジンスキーが脚本家として関わっているということ。
 ストラジンスキーは、自らの脚本をノベライズした短篇集『新トワイライトゾーン』(扶桑社ミステリー)を刊行しており、日本でも1991年に邦訳が刊行されています。この作品集が非常に面白かったため、第3シーズンが実際に視聴できる日を心待ちにしていました。
 以下、面白かったエピソードを紹介しておきたいと思います。

『猿の大群』
 ある夜、突然、年配の女性が目がおかしいと、病院に駆け込んできます。診察を待つ間に失明してしまった女性に驚く医者でしたが、翌日から世界中で同じように失明してしまう人間が現れ始めます…。
 なぜ、大量の人間が失明し始めたのか? 寓意性の強いミステリアスなエピソードです。

『テレビタレント』
 平凡な男ジョンは、洗面所で髭を剃っていた際に、ふとしたことから隠しカメラを見つけます。なんと彼の日常生活はテレビで放映され、いつの間にかスターになっていたのです…。
 映画『トゥルーマン・ショー』の先駆といえるアイディアが使われています。自分の人生そのものが虚構なのではないか…?という、深いテーマを含んだ佳作。

『特異な症例』
 精神科医のもとに、女性たちが相談に訪れます。エドガー老人が様々ながらくたを溜め込んだうえに、さらに新しいがらくたを探しているというのです。老人によれば、それらの品物は世界を救うために必要だというのですが…。
 世界のバランスはがらくたの上にできている…という、冗談のようなコメディSF。

『曲がり角』
 小児病棟を建設するために奔走している神父のマークは、あるとき、一台の赤い車が事故に遭い炎上するところを目撃します。しかしその光景はマークにしか見えないのです…。
 自分のなすべきことは何なのか? 罪の意識が見させる幻影なのか? 静けさに満ちた作品です。

『不思議な旅』
 治療士メアリーの仕事は、催眠術により患者の前世の記憶を呼び起こし治療するというものでした。ある日目覚めると、メアリーは、あらゆる人間が自分の前世について知っているという世界に転移していたのです…。
 主人公の設定もユニークなのですが、その設定を反転させたかのような別世界を登場させるという、アイディア勝ちのようなエピソードです。

『生への執念』
 老婦人セリーナは、死に直面していました。彼女の面倒を見るためにやってきた姪のデボラの手をつかんだ直後、セリーナは元気を取り戻します。セリーナが活気を取り戻すにしたがって、デボラは衰弱してきますが…。
 ロッド・サーリングの原案を、ストラジンスキーが小説化したという、文字通りサーリングの「新作」というべきエピソード。ゴシック風の雰囲気といい、ストーリーは面白いのですが、やはり尺が足りない憾みが残りますね。

『怒りの化身』
 主婦ルイーズは、夫から日常的に虐待を受けていました。ある日以来、ルイーズが怒りを感じると、本物のドーベルマンが現れるようになりますが…。
 ドーベルマンは、自分でも制御できない怒りの象徴なのか? 現代的なテーマを扱った意欲作。

『トランク』
 ホテルで働く純朴な青年ウィリーは、ある日、客室に置き忘れたトランクを見つけます。そのトランクは願えば、願ったとおりのものが現れるという不思議な力を持っていたのです。トランクの力を使い、いろんな品物を用意した彼はパーティを開いて、周りの人間たちを招待しますが…。
 本当の幸福は物質的なものにはない…という作品。

『約束』
 心臓移植の手術を終えたトムは、以前とは変わった行動を取るようになっていました。そして、散歩中に見かけたある女性に妙に心を惹かれるようになります。ウエイトレスとして働く女性のお店に通い、アプローチを続けるトムでしたが、相手には全くその気はありません…。
 序盤からネタが割れるような話ではあるのですが、当然ハッピーエンドになるのだろうな…という結末がそうならないところに、妙なオリジナリティを感じます。ある意味モダンな結末ですね。

『宇宙の法則』
 宇宙船のパイロット、トーマスは、熱病の血清をある星に届ける任務に当たっていました。最速で薬を届けるため、船には余計な荷物はなく、燃料も必要最低限しか積んでいません。ところが、その船に兄に会うために密航した少女がいることが発覚しますが…。
 少女の命と大量の人々の命、どちらかを捨てなければならないとき、人はどうすべきなのか? 究極の決断を描いた、トム・ゴドウィンの傑作短篇『冷たい方程式』の映像化作品です。シンプルな構造の原作だけに、映像化しても心に沁みる作品でした。

『壁の中の顔』
 ある療養所に赴任してきた精神科医マロリー。そこで出会った患者のジャロンは、部屋のシミや服の柄などに極度の恐怖を抱いていました。彼女の恐怖の秘密を探ろうと考えるマロリーでしたが…。
 壁の中には何がひそんでいるのか…? 正体がはっきりしないだけに、なかなか不気味なホラー・ストーリーでした。

『危険なチャレンジ』
 自分をビリヤードの達人と信じるジェシーは、今は亡き伝説の名人ビッグ・ブラウンの名を叫び、自分と勝負しろと叫びます。すると死んだはずのビッグ・ブラウン本人が現れ、彼と命をかけた勝負をしようと持ちかけてきますが…。
 オリジナル版の1エピソードのリメイク的作品ですが、なんとオリジナルとは異なる結末になっています。作品単体としてはどうということはないのですが、オリジナルエピソードを見ていると楽しめる作品ですね。

『信念の脱出』
 戦争につながる研究をしていたマーティンは、その研究を狙う組織に監禁され、拷問されていました。ある時、同じ独房に投獄されてきた男は、彼を助けに来たと放します。彼によれば、精神的な力でいつでも別の世界に脱出できるというのです。半信半疑のマーティンでしたが…。
 なんとなくオチの予想はつくのですが、さらにそれをひっくり返すオチがつくという、なかなか面白い作品です。精神的な脱出というテーマは、ジャック・ロンドン『星を駆けるもの』を思わせます。

『記憶の値段』
 失職したフォスターは、金を引き換えに質屋に記憶を売ってしまいます。ほんの少しだけと思いながら、何度も記憶を売っていった彼は大部分の記憶を失ってしまいますが…。
 アイディアはいいのですが、記憶のディテールが粗かったりと演出面で弱く、インパクトの薄い作品になっています。もったいない作品ですね。

『霊界のランデブー』
 老女バーバラは、死に取り憑かれていました。無関係な人の葬式に現れては、感銘を受けていたのです。自らも死を望む彼女の態度は、息子からも非難を受けていました。ある夜、瀕死の強盗が家に侵入しますが、バーバラは、彼が死にかけているのを静かに見つめ続けます…。
 死を追い求める老女という、何やらブラッドベリ風の空気に満ちたファンタジー。

『生の証明』
 79歳の経営者ダリアスは、本来なら死んでいたところを、人工の脳と体を手に入れることによって甦ります。精力的に働き始めた彼に対し、父親は死んだと信じるマイケルは、訴訟を起こしますが…。
 機械化された人間は本当に人間といえるのか…? 人工の脳は人間と見なせるのかという、現代的なテーマを扱った作品。30分で終わらせるにはもったいないですね。

 第3シーズンは、正直、平凡な作品が多かった印象です。ストラジンスキーが絡んだ作品はそれなりに面白く観れるのですが、小説版を先に読んでいると、やはり描写の足りないテレビ作品の方は貧弱に感じられてしまいますね。

 とりあえず、これで『ミステリーゾーン』『新トワイライトゾーン』のシリーズは全て視聴したことになります(未収録のエピソードも何話かありますが)。シリーズ開始から完結まで、3年半ぐらいでしたでしょうか。非常に長かった。
 ロッド・サーリング、リチャード・マシスン、チャールズ・ボーモントといった異色作家たちによるエピソードは、今観ても非常に面白いものが多かった反面、非常に古びてしまったエピソードも多かったです。
 時代的には新しい1980年代の『新トワイライトゾーン』のエピソードの方が、『ミステリーゾーン』のエピソードよりも古びているパターンもあり、それだけに、オリジナル版におけるサーリングの存在感を認識させられました。
 全体的に見ると、やはり一つ一つのエピソードの完成度は『新トワイライトゾーン』よりも、オリジナルの『ミステリーゾーン』の方が遙かに高い、というのは事実だと思います。
 ただ、『新』を含めて、観る《異色作家短篇集》とでもいうべきこのシリーズを通して視聴できたことは、このジャンルのファンとしては、長年の課題の一つを解決できたようで、ちょっとホッとしています。

テーマ:海外ドラマ(欧米) - ジャンル:テレビ・ラジオ

怪奇幻想読書倶楽部 第1回読書会 開催しました
 11月13日の日曜日、高田馬場駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第1回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 当初の予定では2時間ほどの会だったのですが、延長し、約3時間半の長丁場となりました。おつきあいいただいた参加者の皆さま、ありがとうございました。
 僕自身、主催者が初めてということもあり、段取り的には、かなりぎこちない面があったかと思います。ただ、第1回目の会を開催してみて、何となく自分のやりたい読書会というものが見えてきたような気がしています。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 あらかじめメールにて、参加者の皆さんにアンケートをお願いしていました。そこから名前(ハンドルネーム)と好きな作家・作品・ジャンルを抜き出して、参加者全員のプロフィールをまとめたチラシを作りました。
 チラシは、PDFにして1週間ほど前にメールで配信しています。参加者の方には、自分以外の参加者の人数とプロフィールが、事前にわかる仕組みです。

 当日、参加者が揃ったところで、全員の紹介を行います。その際、事前に配信していたチラシの紙プリント版と、参加者の名前(ハンドルネーム)の入った名札を渡します。
 チラシを見ながら、主催者が名前を呼び、それに返事をしてもらう形で点呼を取ります。特別、自己紹介は行いませんので、これで顔を名前を一致させてもらいます。

 そしてメインのフリートークの時間です。第1回のテーマは「怪奇幻想小説のアンソロジーをめぐって」。とっかかりがないと話しづらいかと思い、日本で刊行された怪奇幻想小説のアンソロジーのリストを作り、配布しました。
 基本的には、話したい人が自由に発言してOKです。別に話さず、聞いているだけでも構いません。
 アンソロジーに関わる話題とはしましたが、厳密にそれにこだわる必要はありません。収録作品や作家の話でも構いませんし、お気に入りの本を持ってきた方は、それを紹介してもらっても構いません。本に関する思い出話でもいいし、入手に苦労した話でも構いません。
 結果として、多彩な話題が出てきたと思います。順不同で話題になったトピックを並べてみましょう。沢山の話題が出たので、記憶にあるものだけですが。

『怪奇小説傑作集』について。どの巻がいちばん面白いか? 4巻フランス篇の独自性について。
・怪奇小説は筋が覚えにくいものが多い? 雰囲気だけで怖い作品、ギルマン『黄色い壁紙』、ウェイクフィールド『赤い館』など。ミステリやSFとの比較。
・怪奇小説は、押さえるべき古典作品の数が少ないので、後発でも網羅が可能?
・怪奇小説は、時代が下るにつれて、物理的な恐怖が心理的な恐怖に変わってくる。ジャクスン『たたり』、ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』など。
・オカルト探偵ものの特徴について。超自然だけでなく、人間の仕業というものも多い。ホジスン《カーナッキ》、ホック《サイモン・アーク》など。
・超常現象を背景としたミステリについて。ストリブリング《ポジオリ教授もの》など
・ジェイコブス『猿の手』について
・「悪魔との契約もの」について。風間賢二編『天使と悪魔の物語』など。
・風間賢二編『クリスマス・ファンタジー』について。シーベリイ・クインの『道』の素晴らしさ。
『ミステリマガジン』の特集について。《幻想と怪奇》特集のこと。
・新人物往来社『怪奇幻想の文学』について。奇跡譚を集めた6巻の紹介。ロバート・リンドナー『宇宙を駆ける男』について。
・鮎川哲也、芦辺拓編『妖異百物語』の面白さ。
・スタニスワフ・レムについて。『ソラリス』のロマンス性。『宇宙創世記ロボットの旅』、レムの自伝について
・フィリップ・K・ディックについて。初期短篇の素晴らしさと後期作品の難しさ。仁賀克雄編の短篇集など。
・仁賀克雄編『幻想と怪奇』について。ロバート・ブロック好き?
『ミステリーゾーン(トワイライトゾーン)』について。
・中田耕治編『恐怖通信』について。
・翻訳について。平井呈一の訳文。村上春樹訳のチャンドラーについて。
・差別表現の表記について。昔の少年小説の例など。
・新しい世代の幻想小説家は出てきているのか? ケヴィン・ブロックマイヤーの作品について。『終わりの街の終わり』『第七階層からの眺め』など。
・スティーヴン・キングとジョー・ヒルの短篇について。『ナイト・フライヤー』など。
・ロード・ダンセイニの作品について。
・江戸川乱歩の映画化作品について。
・幻想文学ファンは『ハリー・ポッター』を読んでいるのか?
・トールキン『指輪物語』、ルイス『ナルニア国物語』、ル・グィン『ゲド戦記』などについて。
・ラヴクラフト作品の特徴。「名状しがたいもの」について。全集を読むのはつらい?
・パルプマガジン作品について。その面白さとは?
《ウィアード・テールズ》について。国書刊行会版『ウィアード・テールズ』についての感想。
・モーリス・ルヴェルとその作品について。ルヴェルの残酷性と叙情性など。
・モーリル・ルナールの作品について。
・ロアルド・ダールについて。
・ロバート・エイクマン作品の面白さ。短篇集『奥の部屋』『鳴りひびく鐘の町』、刊行予定の自伝について。
・国書刊行会《ドーキー・アーカイヴ》について。
・シャーリイ・ジャクスンの魅力。『ずっとお城で暮らしてる』の解釈について。『たたり』『野蛮人との生活』など。
・アンソロジーシリーズ《ナイトヴィジョン》の魅力。『スニーカー』『ハードシェル』について。
・戦前の猟奇的な作品について。
・論創社ミステリについて。収録作品は玉石混淆。
・戦前の探偵作家について。今でも面白く読めるものがある?
・古い翻訳について。当時の外国文化はどう訳されているか?
・短篇集の読み方について。収録順には読まない!
・翻訳作品は今でも読まれているのか?
・翻訳作品の出版部数について。
・各出版社の文庫の書体の読みやすさ。
・個人の蔵書数とその扱いについて。

 課題図書のないフリートークということもあり、間が持つかな、と不安に思っていたのですが、杞憂でした。参加者が全員、怪奇幻想プロパーのファンというわけではなく、また怪奇幻想ジャンルのファンであっても、やはり読んでいる本や好きな作家は異なります。ミステリファン、SFファン、海外文学ファンと、微妙に読書背景の違う人たちが集まったことで、逆に多彩な話題が出てきたのかな、という気はします。

 以前に書いたように、毎回テーマを設定してジャンルを絞るというのは、方針として変わっていません。ただ、そのテーマに引っかかる形で思いついた話題を、主催者だけでなく、参加者の方がどんどん出していく、という形で行うと、フリートークでも、すごく盛り上がるのですよね。
 その時々で出た話題に関して、人によっては絡みにくいものや興味のないものもあるかと思います。ただ、どんどん話題を出すことによって、どんな人でも、何かしらの興味を持ってもらえる話題がいずれ出てきます。話題を出して、あんまり話が広がらなくてもそれはそれでOKで、また違った話題をどんどん出していく…と。
 結果的に、参加した人が、何かしら面白いものや話題を持ち帰れる、おもちゃ箱のような読書会ができたらいいな…と考えています。

 とりあえず、12月中に第2回目の開催を目指して、準備していきたいと思います。第2回目のテーマとして、今考えているのは、「《異色作家短篇集》と<奇妙な味>の作家たち」。ただ、怪奇幻想アンソロジーについては、とても1回でまとめきれる内容ではなかったので、続けてテーマにしてもいいのかなとは思います。もしくは、少し間を空けて、再度取り上げるのもありかもしれません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

二つの「弾丸」をめぐって  SFとファンタジーに見る世界観の違い
sfsahou.jpg 壜の中の世界 (文学の冒険シリーズ)
 ベン・ボーヴァ『SF作法覚え書 あなたもSF作家になれる』(酒井昭伸訳 東京創元社)は、SF作家にして編集者でもあるベン・ボーヴァが、SF小説の作法について解説した技法書です。
 文章の技法などには触れず、あくまでプロットやお話の組み立て方に特化して書かれています。例となるSF短篇を取り上げ、それを元にいろいろ解説していますが、それぞれの章で、モデルとなる短篇がまるごと収録されているのが特徴です。
 収録された短篇はボーヴァ自身の作品で、技法書でありながらボーヴァ短篇集でもあるというお得な作り。
 さて、この本に収録された作品で『平和的な人々』という作品があり、これが科学的な設定を使った面白い短篇でした。

 地球のあちこち、そして衛星上でもロシアとアメリカが争いを起こしているなか、月基地においては、両国が平和的に共存しています。国連代表トーガスンは、訪れたアメリカ基地で、平和的に共存するための方法を探り出そうとします。話相手のパットン大佐から、突然伏せるように言われたトーガスンは、伏せた直後に何かが壁を貫通していくのを目撃します。
 それは大量の弾丸でした。月に基地を建設した直後に、小競り合いにおいて発射された弾丸は、摩擦がないために、月の周回軌道に乗り、ずっと飛び続けているというのです…。

 実際に月で発砲して、弾丸が飛び続けることになるかはともかく、科学的には説明がつけられ、読者にはなるほどと思わせる作りになっています。
 一方、ドイツの作家クルト・クーゼンベルクの『休まない弾丸』(前川道介他訳『壜の中の世界』国書刊行会収録)という短篇では、定期的に弾丸が飛んでくる…という、同じようなシチュエーションが扱われています。

 ある射手が試し撃ちのような形で発射した弾丸には、魔女の血が含まれていました。その影響で、弾丸はエネルギー法則を無視し、永遠に飛び続けることになります。障害物があってもそれを貫通し、突き進むのです。
 やがてその軌道が判明し、観光のような形で有名になる一方、その軌道に人を誘い込み殺人に利用する人物も現れますが…。

 こちらでは、魔女の呪い(?)で永遠に飛び続けることになった弾丸がテーマになっています。物理的に止められないため、これを利用して殺人が起こったりと、様々な事件が発生します。
 同じような事象を取り上げながら、科学的な説明があるのかないのかで、だいぶ作品のカラーが変わってくるものですね。『休まない弾丸』でも、一応、弾丸が飛ぶ理由は述べられています。ただ理由が「呪い」とか「魔術」だった場合、SFとは捉えにくくなっており、ジャンル分けするとすれば、ファンタジーになるのでしょうか。

 料理の仕方次第で、いろんな作品が出来るという例ではあるのですが、ただ、どちらが魅力的かといえば、圧倒的にクーゼンベルクの作品なのですよね。
 ここまで書いてきて、ふと思い当たりました。自分は真相が明確でない物語が好きなんじゃないかと。例えば、イタロ・カルヴィーノとか、スティーヴン・ミルハウザーの一部の作品によく登場する言い回し、「~であると言われている」「~であるという説もある」「~であるのかもしれない」という部分が、とても好きなんですよね。
 事象に対して、しっかりとした説明を与えれば、リアリティが増す…。確かにそうなのですが、物語のジャンルによっては、曖昧にした方が魅力的になることもあるのです。真相ははっきりしないが、Aかもしれない、またはBかもしれない。物語に広がりが出るというか、読者の想像の余地が増えるというか。そのあたりに魅力の核があるような気がしています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

意地悪な終末  シャーリイ・ジャクスン『日時計』
4892571164日時計
シャーリイ・ジャクスン 渡辺庸子
文遊社 2016-01-05

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 シャーリイ・ジャクスンの第4長編『日時計』(渡辺庸子訳 文遊社)は、ジャクスンの代表作と言える『丘の屋敷(たたり)』『ずっとお城で暮らしてる』に先立つ作品。ミステリ、SF、ホラーの要素は少しづつ持ちながらも、ジャンル小説とは微妙に異なるベクトルの作品になっています。

 舞台は、大富豪ハロラン一族の住む広大な屋敷。当主のリチャードは老衰し、息子のライオネルが死んだことにより、家の実権はリチャードの妻オリアナが握ることになります。孫娘ファンシー以外、眼中にないオリアナは、リチャードの妹ファニーやライオネルの嫁メリージェーン、司書のエセックスなど、邪魔者を早速追い出しにかかります。しかし、時を同じくして、ファニーが死んだ父親の「お告げ」を聞いたことから、考えを変えることになります。
 「お告げ」によれば、世界は滅びることになっている。ただ、屋敷にいる限りは安全が保証されるというのです。一族の人間はそれを信じ始め、崩壊後の世界で生き延びるための準備を始めます。やがて一族の計画は、オリアナの友人や、村にやってきた男などを巻き込んでいきますが…。

 世界の破滅を前にして、人間たちは何を考え、どう行動するのか? いわゆる「破滅もの」や「大災害小説」のバリエーションといえる作品なのですが、そこはジャクスン、一筋縄ではいきません。
 真面目に災害後の準備をするかと思えば、些細なことで喧嘩をしたり茶化したり。一族の人間も本気で「お告げ」を信じているのかどうかもはっきりしません。
 何しろ、登場人物たちが揃いも揃って、尋常な人間ではないのです。皆が皆、自分の欲望のみを優先し、しかもその意図を隠そうともしません。
 権力欲の強いオリアナ、虚栄心の塊であるファニー、皮肉屋のエセックスなど、大人はもちろん、幼い孫娘のファンシーさえ、平気で自分の祖母や一族を罵倒するという有様。
 そもそも、生き残るための条件は、一族の一員である必要すらなく、その破滅の時点に屋敷内にいればいいのです。結局、その破滅の存在により、人間たちが行動を改めることもなく、内面が変化することもありません。そんな大人たちを皮肉るように、孫娘ファンシーは次のように語ります。

 「だから」ファンシーはのろのろと言った。「みんなは世界のすべてが変わることを望んでいるんでしょ。そうなったら自分たちもきっと変わるだろうと思って。でも、世界が新しくなったくらいで、人間まで変われるなんて、あたしは思わない。だいたい、その世界だって、この世界以上に確かな存在ってわけじゃないし」

 愚かな人間たちが愚かなままで終わる物語。そう言ってしまうと、身も蓋もないのですが、実際、身も蓋もない物語なのです。

 ストーリー上、大きな起伏はなく、屋敷に集まったハロラン一族や使用人、客などの行動が細かく描かれていくのみです。起きるのは、大概がささいな事件といっていいのですが、読んでいて飽きさせないのは、ジャクスンのブラック・ユーモアあふれる人物描写の面白さゆえでしょうか。
 作中で、家族を皆殺しにしたという女性の逸話が登場し、この部分はすこぶる面白いのですが、それを本筋にからめることもなく、単発的に終わらしてしまうところも、ジャクスンらしいといえばジャクスンらしい。

 読後に読み取れるテーマも一つにとどまらず、読む人によって、それぞれ異なった感想が出てくるのではないでしょうか。多面性のある、実に味わいのある作品と言えます。

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11月の気になる新刊
11月上旬刊 『ロシアSF短編集』(アルトアーツ 1188円)
11月8日刊 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』(中央公論新社 予価1080円)
11月9日刊 『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ハヤカワ文庫SF 予価1058円)
11月10日刊 『定本 夢野久作全集 第1巻』(国書刊行会 10,260円)
11月11日刊 ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(創元推理文庫 予価1253円)
11月11日刊 アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(東京創元社 予価2160円)
11月15日刊 戸川安宣『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会 予価3240円)
11月18日刊 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』(彩流社 予価3024円)
11月19日刊 G・K・チェスタトン『詩人と狂人たち 新訳版』(創元推理文庫 予価864円)
11月22日刊 ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価972円)
11月22日刊 バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
11月25日刊 シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』(国書刊行会 予価2592円)
11月30日刊 ブライアン・エヴンソン『ウインドアイ』(新潮社 予価2160円)
11月30日刊 シャーリイ・ジャクスン『処刑人』(創元推理文庫 予価994円)
11月刊 フランシス・M・ネヴィンズ『エラリー・クイーン 推理の芸術』(国書刊行会 予価3888円)

 アルトアーツの『ロシアSF短編集』は、本邦初訳の作品ばかりを集めたロシアの古典SFアンソロジー。オドエフスキー、ボグダーノフ、ステーチキン、クプリーン、ズゾーリャ、アレリスキーらの作品を収録。ちなみに、こちらの作品集は、基本的にアルトアーツのサイトからの受注生産になります。

 『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』は、伊藤典夫翻訳のSF短篇を集めたアンソロジーのようです。表題作は、ルイス・パジェット(ヘンリー・カットナー)の名作短篇。他の収録作品は不明ですが、表題作だけでも買いのアンソロジーだと思います。

 寓意に満ちたファンタジー『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の作者アンドリュー・カウフマンによる邦訳2作目『奇妙という名の五人兄妹』は、これまた奇妙な味の作品のようです。「13日後に死ぬと予言した祖母の指示で、ウィアード家の末娘は兄と姉二人、弟を探す旅に出る。」

 チェスタトン『詩人と狂人たち 新訳版』は、ミステリと幻想小説の境目にあるような味わいの作品ですが、難解な面もあったので、新訳は歓迎したいところですね。

 ダンセイニの奇妙な味のミステリ『二壜の調味料』が文庫化。詳しい紹介は過去の記事を参照ください。
→ 「黄昏のミステリ   ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』」

 バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』は、単行本未収録のベイリーの短篇を集めた傑作集。これは楽しみです。

 シャーリイ・ジャクスンの作品がなんと2冊刊行です。国書刊行会の『鳥の巣』と、創元推理文庫の『処刑人』『処刑人』の方は、すでに邦訳が出ている『絞首人』と同じ作品ですね。〈ドーキー・アーカイヴ〉の『鳥の巣』は、多重人格を扱った作品だそうです。




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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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