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同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』刊行のお知らせ
 twitterの方では進捗状況などを挙げていましたが、ブログの方ではお知らせしていなかったので、改めてお知らせしておきたいと思います。実は同人誌を作成しています。
 タイトルは『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』。日本で刊行された海外怪奇幻想小説アンソロジーを紹介してゆくというガイド本です。テーマごとにアンソロジーを紹介しているのと、巻末には怪奇幻想小説のガイド本のガイド「海外怪奇幻想小説参考書ガイド」もつけています。
 具体的な仕様と内容は以下の通りです。


『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』

サイズ:A5
印刷:オフセット
印刷色:表紙カラー・本文モノクロ
本文:縦組み二段
総ページ数:112ページ(表紙除く)

目次

まえがき
最初に読みたい怪奇幻想アンソロジー
『怪奇幻想の文学』の素晴らしさ
古典怪奇幻想アンソロジー
女流作家による怪奇幻想アンソロジー
河出文庫〈怪談集〉シリーズ
〈ハヤカワ・SF・シリーズ〉の怪奇幻想アンソロジー
東雅夫編『世界幻想文学大全』
荒俣宏編の怪奇幻想アンソロジー
風間賢二編の怪奇幻想アンソロジー
中村融編の怪奇幻想アンソロジー
吸血鬼テーマのアンソロジー
怪物テーマのアンソロジー
モダンホラーのアンソロジー
エロティック・テーマの怪奇幻想アンソロジー
〈ソノラマ文庫海外シリーズ〉の怪奇幻想アンソロジー
〈ダーク・ファンタジー・コレクション〉の怪奇幻想アンソロジー
〈ウィアード・テイルズ〉のアンソロジー
ゴシック小説のアンソロジー
テーマ別怪奇幻想アンソロジーさまざま
その他の怪奇幻想アンソロジー
フランスの怪奇幻想アンソロジー
ドイツ・オーストリアの怪奇幻想アンソロジー
ロシアの怪奇幻想アンソロジー
東欧の怪奇幻想アンソロジー
ラテンアメリカの怪奇幻想アンソロジー
その他の国の怪奇幻想アンソロジー
海外怪奇幻想小説参考書ガイド
あとがき


 盛林堂書房さん(東京・西荻窪)で通販を扱っていただけることになりました。8月中ぐらいには出せたらなと考えていますが、具体的な販売時期や価格などに関しては、決まり次第、告知させていただきたいと思います。
 以下は内容のサンプルページです。ご興味のある向きは、お買い上げいただけると嬉しいです。

tameshisyuturyoku-42.jpg tameshisyuturyoku-46.jpg tameshisyuturyoku-62.jpg tameshisyuturyoku-72.jpg tameshisyuturyoku-15.jpg tameshisyuturyoku-17.jpg tameshisyuturyoku-20.jpg

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

空想都市と幻想都市  ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』
方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)
 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』(住谷春也訳 東京創元社)は、ルーマニアの作家による、36の空想都市をテーマにした幻想小説集です。
 現実の都市をモデルにしたらしき都市もあれば、完全に空想上の都市もあり、舞台となる時代も古代から未来まで様々、寓話的な展開もあれば、超技術が扱われたSF的な展開もありと、まさに空想・幻想都市小説(というジャンルがあるかわかりませんが)の決定版ともいうべき作品です。

 基本は都市の概観や描写、その起源や変遷といった、都市そのものが主人公であるような描き方なのですが、時には登場人物が主人公となり、都市を探索する物語のような形で展開されることもあります。
 住民の格差がピラミッド型の都市で表された「ヴァヴィロン 格差市」、再建するたびに滅ぼされてしまう都市を描いた「トロパエウム 凱歌市」、老成し過ぎた住民によって滅亡の危機にさらされるという「セネティア 老成市」、巨大なドーム内で人類がどんどん野生化するという「プロトポリス 原型市」、多数の天才たちによって重層的な都市が建設されるという「ムセーウム 学芸市」、等質な都市から等質な住民が生まれてくるという「ホモジェニア 等質市」、自分たちの都市が宇宙船の内部にあることを発見する「コスモヴィア 宇宙市」、月に都市を建設しようとするも精神的汚染が進んでいることがわかるという「セレニア 月の都」、アトランティス滅亡の瞬間に訪れた時間旅行者たちを描く「アトランティス」、悪夢の中の都市を描く「アルカヌム 秘儀市」などを面白く読みました。

 同じ空想・幻想都市を描いていながらも、幻想小説的なアプローチとSF小説的なアプローチが混ざっているのが興味深いですね。
 例えば「ホモジェニア 等質市」。あまりに等質な都市を作ったがために住民までが等質になってゆく…という作品です。後半の展開が圧巻で、家族制度がなくなったのを手始めに、年齢や性差が消失し、完全に同質になった人間が全て同期する…という、シュールかつ幻想的な展開です。
 この作品のように、SF的な設定で始まりながらも、幻想的な結末を迎える作品もあれば、最初から最後までSF風の作品、寓話的な作品もありと、バラエティに富んだ作品集となっています。

 読んでいて、似たテーマを扱った『見えない都市』(イタロ・カルヴィーノ)を思い出すのですが、直接的な影響はないそうです。制作年代は近いのですが、ササルマンはしばらく後までカルヴィーノ作品の存在は知らなかったそうです。
 『方形の円』には、マルコ・ポーロと大ハーンが登場する「モエビア、禁断の都」なんて『見えない都市』を思わせる作品も収録されています。
 直接的な関係はなくても、カルヴィーノ作品にも通底する名作として、これから語られていくことになるのは間違いないと思います。

 イタロ・カルヴィーノやスティーヴン・ミルハウザー、あるいはアンリ・ミショーなど、架空の事物がカタログのように並べられていくという「博物学的幻想小説」が好きな読者にはたまらない作品で、この手の作品が好きな方には強くお薦めしておきたいと思います。

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真実の探究  E&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探究』
フラックスマン・ロウの心霊探究 (ナイトランド叢書3-6)
 E&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探究』(三浦玲子訳 アトリエサード)は、シャーロック・ホームズと同時期に発表されたオカルト探偵ものの先駆的作品です。収録作は何篇か邦訳もありますが、全訳は初めてになりますね。

 心霊学に精通する学者肌の探偵フラックスマン・ロウが、様々な怪奇事件に遭遇し、それらを解決していくという作品です。黎明期の作品ゆえか、型にはまらない構成や展開が多く、ユニークな味わいがあります。
 まず主人公ロウは、基本的に単独で動きます。エピソードによっては協力者も出てくるのですが、相棒などはおらず単独で捜査を行います。また「心霊研究者」でありながら、その捜査は意外と現実的で、怪奇現象に対しても冷めた意識を持っているのが特徴です。実際、個々の事件も超自然現象に見えたものがそうでないことがわかるパターンもあります(といっても、相当おかしな現象ではあるのですが)。
 また超自然現象が絡む場合にも、純粋に霊的な現象というよりも、妙に物理的な側面があることが多いという印象です。それが端的に現れたのが既訳もある「ハマースミス「スペイン人館」事件」で、この短篇で現れるのは純粋な霊現象であるにも関わらず、物理的な対応が可能なのです。

 探偵が理性的かつ冷めている(淡白である)ので、事件の真相を見抜くものの、とくに明確な解決をせずに終わってしまう…という、あっさりした作品もあったりするのが面白いですね。

 収録作中では、異常な身体能力を持つ謎の男に襲われる「荒地道の事件」、幽霊とも吸血鬼ともとれる怪物の登場する「バエルブロウ荘奇談」、次々と人が吊られて死んでしまう呪われた屋敷を描く「グレイ・ハウス事件」、一族の者は必ず自殺してしまう呪われた家系を描いた「セブンズ・ホールの怪」、死んだカリスマ指導者の霊が生者に憑依するという「サドラーズ・クロフト事件」、そこで過ごすと突然死してしまう屋敷を描いた「カルマ・クレッセント一番地の謎」、ロウとその宿敵の対決を描く「クロウズエッジの謎」「フラックスマン・ロウの事件」などが面白く読めます。
 巻末の二篇は直接物語がつながる連作になっています。ロウと同等か、それ以上に心霊能力を持つ宿敵が現れ、探偵は苦境に追い込まれることになるのです。

 この作品集、怪奇現象に対するアプローチが風変わりなこと、事件が超自然現象であることもそうでないこともあることなどから、次にどんなことが起こるのか予想できない面白さがありますね。今現在読んでも、感覚が新しい作品がちょこちょこあります。特に「荒地道の事件」は、まるで現代のホラー映画みたいな展開で、かなり面白く読みました。

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クリスマスの恐怖 『ミステリアス・クリスマス1・2』
ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし
 『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』(安藤紀子ほか訳 ロクリン社)は、1990年代初頭にイギリスで刊行されたクリスマス怪談集3冊より、7つの作品を選んだアンソロジーです。ヤングアダルト向けながら、ひたすらダークでブラックな作品ばかりなのが特徴。

ジリアン・クロス「スナップドラゴン」
 クリスマスの日、問題児のトッドのいたずらにつき合わされるベンでしたが、幽霊屋敷と噂される家に忍び込んだトッドは怪我をして動けなくなってしまいます。誰もいないはずの家にはなぜか老婆がいて、一緒に遊びをしようというのですが…。
 いたずらをする子供が異界に連れ去られてしまう…という物語。結末はかなり怖いですね。

デイヴィド・ベルビン「クリスマスを我が家で」
 父親の虐待に耐えかねて路上生活をしていた少年ビリーは、食べるものにも事欠くようになり、仕方なく実家に帰ろうとヒッチハイクをすることになります。ようやく載せてくれた運転手の男ハンクは、ビリーに恐るべき話を始めますが…。
 ヒッチハイクで載せてくれた男は精神異常者だった…という話かと思いきや、実に意外な展開に。少年も運転手の男も暗い過去を背負っているという、現実的にも重い描写がされてゆきます。
 残酷な話ながら、どこかしんみりとした味わいもありますね。まるで、リチャード・ミドルトン「ブライトン街道で」の現代的な変奏といってもいいような作品です。

スーザン・プライス「果たされた約束」
 クリスマスの夜、外出した母親の代りに弟のケニーの面倒を見ていたデイヴィドは、いい子にしていなければサンタクロースの代りに魂をさらうウォータンがやってくると脅します。やがてケニーの姿が見えなくなったことに気付いたデイヴィドでしたが…。
 悪気はなく異教の神に祈ってしまった少年のもとに、実際に神が現れてしまう…という物語。
 弟を助けようと必死になる少年でしたが、残酷な結末が待っています。

ロバート・スウィンデル「暗い雲におおわれて」
 母親が病気のため部屋にこもるようになって以来、家庭が暗くなっていくことを心配していたローラは、ある日画廊のウィンドウで空が雲に覆われた絵を見つけ惹きつけられます。絵を見るたびに、雲の間から日がさしてくるように変化していたのです。
絵の変化とともに母親の体調が回復しているのを見たローラは、絵を手に入れたいと考えますが…。
 変化する絵と病気の母親を描いた非常にいい話、と思いきや、とんでもなくブラックな展開になってしまうのに驚きます。

ギャリー・キルワース「狩人の館」
 狩の最中、事故で銃弾を受けて気を失った男が目覚めると、目の前には優雅な館が建っていました。<狩人の館>と呼ばれるその屋敷には狩人たちばかりが集まっているといいます。そしてその狩人たちは皆既に死んでいるのだと…。
 死後の世界を描いた作品なのですが、そこは狩人のみが来る世界だった…というユニークなテーマの作品です。結末にはブラック・ユーモアが効いていますね。
 キルワースの名前に見覚えがあると思ったら、SFアンソロジー『アザー・エデン』「掌篇三題」を寄せていた人ですね。「掌篇三題」もそうでしたが、この人の作品はどれもユニークで惹かれるものがあります。

ジョーン・エイキン「ベッキー人形」
 両親から構われなかった少年ジョンは、おじの家に預けられていました。従姉のベッキーが名付け親から高価な人形をもらったのを見たジョンは、その人形を盗んでやろうと考えますが…。
 少年の行動と超自然現象との因果関係が明確には描かれないものの、登場する人形の不気味さは強烈です。集中でも力作と呼べる作品ですね。

アデーレ・ジェラス「思い出は炎のなかに」
 父親と暮らすルーは、ある日ショッピング街の中に「思い出は炎のなかに」という変わった名前の店を見つけます。クレイオーと名乗る店主の女性はルーに過去を思い出させるという緑のろうそくを買うことを勧めますが…。
 過去を思い出させる不思議なろうろくの力で、皆が少しだけ幸せになる…という物語。このアンソロジーの中では、唯一ポジティブな作品です。

 この『ミステリアス・クリスマス』、1999年にパロル舎から刊行された同名の本の改訳新版です。2016年刊行なので、まだ新刊で手に入るのではないでしょうか。
 ちなみに、続編『メグ・アウル ミステリアス・クリスマス2』は復刊されていないようです。



メグ・アウル―ミステリアス・クリスマス〈2〉
 『メグ・アウル ミステリアス・クリスマス2』 (安藤紀子ほか訳 パロル舎)は、クリスマス怪談を集めた『ミステリアス・クリスマス』の続編のアンソロジーです。『1』同様、ブラックな作品が多く集められています。

ジリアン・クロス「クリスマス・プレゼント」
 実父に甘やかされたイモジェンとポールは、あまり富裕でない義父ヘンリーに不満を抱いていました。二人は「ファーザー・クリスマス」を信じているヘンリーの連れ子ベッキーを唆して、欲しい物リストを作らせますが…。
 性根の悪い子供が恐ろしい目に会う…という物語。超自然的な存在を仄めかす結末も見事ですね。

ギャリー・キルワース「メグ・アウル」
 ティムはある日道で妙な卵を拾い、家に持ち帰ります。やがて卵から生まれたのは年取った女の顔をしたフクロウでした。フクロウは邪悪な力でティムを操るようになりますが…。
 人間に自らの餌を運ばせるという邪悪なフクロウ「メグ・アウル」の力に囚われた少年を描く作品です。少年がやらされる行為が非常にグロテスクで気味が悪いですね。集中でも、ブラックさでは群を抜いている作品です。

ジル・ベネット「また会おう」
 ピーターは義父の娘メアリ・アンへのプレゼントとして、ふと買った奇妙なビデオテープを贈ります。それは見るたびに内容が変わる不思議なテープでした。それを見たメアリ・アンの様子は段々とおかしくなり、やがて家族を不幸が次々と襲います…。
 ビデオテープというガジェットがいささか古びてしまっている部分はあるものの、不気味な雰囲気はなかなかです。メアリ・アンの人格が変わってしまったことを示すラストシーンはインパクトがありますね。

テッサ・クレイリング「クリスマスの訪問者」
 クリスマスの日、おばの家に預けられたポールは、仄かに思いを寄せる従姉のクリスティーナに会えて喜んでいました。しかしクリスティーナの妹アンシアから姉には恋人がいるらしいことを聞いてショックを受けます。
 一人留守番することになったポールは、クリスティーナの日記を覗き見しようとしたところ、何か動物のようなものが家に侵入しようとしていることに気がつきますが…。
 クリスマスに家を訪れた妖怪らしき存在を描く物語。様々なものに化けたりと、日本の妖怪譚のような趣もありますね。

スーザン・プライス「荒れ野を越えて」
 炭坑で働く兄のジョンを迎えにきたエミリー。しかし、ジョンはせっかく買った鵞鳥をかけてレスリングの賭けを行い、負けてしまいます。取り返すために再度の賭けを申し込むジョンでしたが、どうやら相手は生きている人間ではないようなのです…。
 死者と賭けをすることになった兄妹を描く物語。二人は生きて帰れるのかどうか、クライマックスのサスペンス感は強烈です。

 このアンソロジー、ヤングアダルト向けながら、ブラックな結末だったり、怖い作品が多く、子供が読んだらトラウマになってしまいそうな作品が多く収録されています。逆に、大人が読んでも面白く読み応えのある作品が多いので、怪奇・ホラー作品がお好きな方にはお薦めしておきたいと思います。

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ファンタジー風SF作品集  グレッグ・ベア『タンジェント』
タンジェント (ハヤカワ文庫SF)
 グレッグ・ベア『タンジェント』(山岸真編 ハヤカワ文庫SF)は、SFというよりは、ファンタジーに近い作品が集められた短篇集です。いわゆるSF的な題材やガジェットを使っていても、ファンタジーのような雰囲気が強いのは、この作家の資質と言うべきなのでしょうか。

 探査計画の失敗により父親を亡くした娘が、小惑星を占拠して地球への墜落を計画するという「炎のプシケ」、孤独なオールドミスの女性が、辞書を使って理想の男性を生み出すという「ウェブスター」、何らかの力によってさまざまな時空からの生命体が集められてしまうという「飛散」、世界を構成していた要素が消失した後の不安定な世界を、中世ヨーロッパ風の世界観で描いた「ペトラ」、お話を語る謎の老夫婦との出会いにより、自らも物語を創造する少年を描く「白い馬にのった子供」などが収録されています。
 とくに印象に残るのは、遺伝子操作を描いた「姉妹たち」、次元テーマの「タンジェント」、童話的味わいの「スリープサイド・ストーリー」でしょうか。

「姉妹たち」
 子供たちの大部分が、遺伝子を操作され、美しい容貌と優れた能力を持つようになった未来、遺伝子を操作されなかった自然体の少女は、彼らに対して劣等感を感じていましたが…。
 遺伝子操作が当たり前になった世界を、学園を舞台に描いた作品です。
 ただでさえ感じやすい思春期の少女が、遺伝子操作された友人たちを見て、自分も遺伝子操作されて生まれてきたかったと訴えます。従来なら優れた能力を評価されるべき少女も、彼らに比べると凡人なのです。しかし、優れた能力の代償か、遺伝子操作された子供たちには恐るべき疾患が隠れていたのです。そんな中、少女の考えも変わっていきますが…。
 生まれつきの能力の長短が全てではない…という、ヒューマニズムにあふれた作品です。

「タンジェント」
 優れた才能を持ちながら、自らの性癖のため、不遇な生活を送っている初老の数学者は、近所に住む韓国人の少年と出会います。少年は別次元を見ることができる能力を持っていました。やがて別次元の知的生命体を見つけた少年は、彼らの世界へと姿を消してしまいますが…。
 自らの居場所を居心地悪く感じている男と少年が、別世界を見つけるという物語。男を支える作家の女性が、脇役としていい味を出しています。

「スリープサイド・ストーリー」
 純真無垢な若者は、母親を助けるため、悪名高い娼婦の館に囚われの身となります。しかし噂とは異なり、娼婦は悪人ではないと知った若者は、彼女に惹かれていきますが…。
 魔法によって美しさと若さを保ち、何人もの夫を持ったという伝説の娼婦。美しい容貌と莫大な富がありながら、彼女は幸福ではないのです。彼女が求めるのは無償の愛。若者は家族の元に帰りたいという思いと、娼婦への思いの間で葛藤します。
 おとぎ話的な雰囲気を持つ作品です。〈美女と野獣〉を反転させたというコンセプトだそうですが、元の作品よりも数段ダークに仕上がっています。というのも、現在も娼婦であることを含め、ヒロインが、かなりの暗い過去と罪を持っているからです。若者はそんな彼女を救うことができるのか? 結末は多少ご都合主義な感じもありますが、非常に読み応えのあるファンタジーです。

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幻想の少女  ジェフリー・フォード『ガラスのなかの少女』
ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 ジェフリー・フォードの長篇小説『ガラスのなかの少女』(田中一江訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)は、1930年代のアメリカを舞台にインチキ降霊術師たちが少女誘拐に巻き込まれるという、ユーモア・陰謀・サスペンスなど多彩な要素のある楽しい作品です。

 メキシコからの不法移民であるディエゴはインド人に扮し、父親代わりの凄腕詐欺師シェル、腕っ節の強いアントニーとともにインチキ降霊術で荒稼ぎしていました。富豪パークスの依頼による降霊術の席上、シェルはガラスの中に幻の少女を目撃します。
 少女は、誘拐された名士の娘シャーロット・バーンズではないかと考えたシェルたちは、娘の父親バーンズに誘拐事件の捜査の協力を約束します。そこで彼らが出会ったのは本物の霊能力者であるというリディア・ハッシュという美しい女性でした…。

 誘拐された少女の行方を追う詐欺師一行が思いもしなかった真実を知り、やがて大掛かりな陰謀に巻き込まれるという、サスペンス・冒険小説的な要素の濃い作品です。物語の展開はそれほどスピーディではなく、なかなか事件の本質が見えてこないのですが、その代わり主要な登場人物たちのキャラクターが掘り下げられていき、キャラ同士の掛け合いの方が楽しくなってくるという作品といってもいいでしょうか。
 不法移民ながら素直で賢明な少年ディエゴ、クールで計算高さを持ちながらも情に深い詐欺師シェル、気のいい話し相手であり怪力の持ち主アントニーの3人は特に魅力的です。
 そして謎を秘めた霊媒師リディア、ディエゴの恋人となるコケティッシュな娘イザベル、ほかにも詐欺師仲間の協力者たちも多数登場し、物語を色彩豊かに彩ってくれます。
 やがて報復かと思われた少女誘拐が、スケールの大きな陰謀に関わっていることを知ったシェルたちは命の危険を覚えるまでになりますが…。

 「幻想作家」フォードの書いたミステリだけに、現実離れした犯罪計画や幻想的なエッセンスも散りばめられています。特に詐欺師シェルの愛好する蝶趣味は作品全体のモチーフにもなっていますね。後半登場する「敵」たちもかなりぶっとんだ設定で怪奇スリラーとしても魅力的。
 雰囲気も非常に軽やかで、登場人物同士の愛情や恋愛、友情などがユーモアを持って描かれます。「最終計画」には主人公たちだけでなく、彼らの「仲間」が集結するという展開も熱いですね。読んでいてとにかく楽しい作品です。

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怪奇幻想読書倶楽部 第23回読書会 参加者募集です
ホフマン短篇集 (岩波文庫) 千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)
 2019年8月11日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第23回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年8月11日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後16:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
ホフマンとデュマのコント・ファンタスティック
課題図書
E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』(前山悠訳 光文社古典新訳文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。

 今回は、ホフマンの『ホフマン短篇集』とデュマの『千霊一霊物語』を取り上げたいと思います。
 ドイツのみならず欧米の幻想文学の祖の一人といえるE・T・A・ホフマンの作品は、19世紀フランスの作家たちに絶大な影響を与えました。デュマの怪異譚集『千霊一霊物語』もその流れの一つとして位置づけられます。
 ドイツ・フランス、それぞれの名手の幻想小説を読んでいきたいと思います

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

脳髄の幻想  夢野久作『ドグラ・マグラ』
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫) ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)
 夢野久作の長篇『ドグラ・マグラ』(角川文庫)、長年の懸案の作品でしたが、ようやく読むことができました。非常に要約が難しく、「奇書」としかいいようのない作品です。

 九州帝国大学の精神病科の独房で目を覚ました青年は、自らに記憶がないことに気付きます。隣の独房では何やら少女が泣き叫んでいました。やがて現れた若林博士は、青年がある殺人事件に関係しており、その詳細を知るためにも記憶を取戻してほしいと語ります。
 青年は、天才と言われた精神病科教授の正木博士が提唱した「狂人の解放治療」計画の重要な対象患者でしたが、正木博士は1ヶ月前に自殺してしまったといいます。若林博士の話、そして正木博士が残した資料を読み進むうちに、青年は、過去の殺人事件には恐るべき因縁が潜んでいることに気がつきます…。

 基本は、青年が博士から聞く話と関連資料とから成っているのですが、途中で正木博士が書いたという論文「胎児の夢」「脳髄論」「キチガイ地獄外道祭文」などが挿入されます。これらの資料があまりにも饒舌かつ読みにくいのです。
 青年が成したであろう殺人には真犯人がいるのではないか? という疑問が途中で提出され、読者としてはその謎が気になるのですが、その間に正木博士の長い文章が挟まれてしまい、物語の流れを何度も中断してしまいます。
 ただ、文庫版にして上巻を超えるあたりから、物語が本格的に動き出し、多少読みやすくなります。一族に伝わる絵巻物の因縁と由来が登場してからは、一気に伝奇色が濃くなり、その面白さで最後まで読めるかと思います。

 ものすごく大雑把に要約すると、先祖の精神病質の遺伝によって現代において惨劇が起こる…というちょっとゴシックっぽい話です。そこに人の手が加わり、独自の思想や哲学が肉付けされていくという感じでしょうか。しかも「語り」が作中で自己否定されたりするので、非常にややこしくなってくるのです。
 日本ミステリの三大奇書の一つとされる作品ですが、これをミステリだと思って読むと、読み切るのは難しいのではないかと思います。幻想小説だと割り切って読む方が読みやすいのではないでしょうか。

 これから読もうと思っている人に一つアドバイスしておきたいと思います。読み始めてしばらくしてから出てくる「キチガイ地獄外道祭文」、「チャカポコ」のフレーズで有名な部分です。ここで挫折してしまう人が結構いると思うのですが、正直ここは読み飛ばしても、物語を読み取るのにそうそう影響はないと思います。ここで挫折してしまうよりは、読み飛ばしてでも話を先に進めた方がいいのじゃないかなと思います。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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