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クリスマスの恐怖 『ミステリアス・クリスマス1・2』
ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし
 『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』(安藤紀子ほか訳 ロクリン社)は、1990年代初頭にイギリスで刊行されたクリスマス怪談集3冊より、7つの作品を選んだアンソロジーです。ヤングアダルト向けながら、ひたすらダークでブラックな作品ばかりなのが特徴。

ジリアン・クロス「スナップドラゴン」
 クリスマスの日、問題児のトッドのいたずらにつき合わされるベンでしたが、幽霊屋敷と噂される家に忍び込んだトッドは怪我をして動けなくなってしまいます。誰もいないはずの家にはなぜか老婆がいて、一緒に遊びをしようというのですが…。
 いたずらをする子供が異界に連れ去られてしまう…という物語。結末はかなり怖いですね。

デイヴィド・ベルビン「クリスマスを我が家で」
 父親の虐待に耐えかねて路上生活をしていた少年ビリーは、食べるものにも事欠くようになり、仕方なく実家に帰ろうとヒッチハイクをすることになります。ようやく載せてくれた運転手の男ハンクは、ビリーに恐るべき話を始めますが…。
 ヒッチハイクで載せてくれた男は精神異常者だった…という話かと思いきや、実に意外な展開に。少年も運転手の男も暗い過去を背負っているという、現実的にも重い描写がされてゆきます。
 残酷な話ながら、どこかしんみりとした味わいもありますね。まるで、リチャード・ミドルトン「ブライトン街道で」の現代的な変奏といってもいいような作品です。

スーザン・プライス「果たされた約束」
 クリスマスの夜、外出した母親の代りに弟のケニーの面倒を見ていたデイヴィドは、いい子にしていなければサンタクロースの代りに魂をさらうウォータンがやってくると脅します。やがてケニーの姿が見えなくなったことに気付いたデイヴィドでしたが…。
 悪気はなく異教の神に祈ってしまった少年のもとに、実際に神が現れてしまう…という物語。
 弟を助けようと必死になる少年でしたが、残酷な結末が待っています。

ロバート・スウィンデル「暗い雲におおわれて」
 母親が病気のため部屋にこもるようになって以来、家庭が暗くなっていくことを心配していたローラは、ある日画廊のウィンドウで空が雲に覆われた絵を見つけ惹きつけられます。絵を見るたびに、雲の間から日がさしてくるように変化していたのです。
絵の変化とともに母親の体調が回復しているのを見たローラは、絵を手に入れたいと考えますが…。
 変化する絵と病気の母親を描いた非常にいい話、と思いきや、とんでもなくブラックな展開になってしまうのに驚きます。

ギャリー・キルワース「狩人の館」
 狩の最中、事故で銃弾を受けて気を失った男が目覚めると、目の前には優雅な館が建っていました。<狩人の館>と呼ばれるその屋敷には狩人たちばかりが集まっているといいます。そしてその狩人たちは皆既に死んでいるのだと…。
 死後の世界を描いた作品なのですが、そこは狩人のみが来る世界だった…というユニークなテーマの作品です。結末にはブラック・ユーモアが効いていますね。
 キルワースの名前に見覚えがあると思ったら、SFアンソロジー『アザー・エデン』「掌篇三題」を寄せていた人ですね。「掌篇三題」もそうでしたが、この人の作品はどれもユニークで惹かれるものがあります。

ジョーン・エイキン「ベッキー人形」
 両親から構われなかった少年ジョンは、おじの家に預けられていました。従姉のベッキーが名付け親から高価な人形をもらったのを見たジョンは、その人形を盗んでやろうと考えますが…。
 少年の行動と超自然現象との因果関係が明確には描かれないものの、登場する人形の不気味さは強烈です。集中でも力作と呼べる作品ですね。

アデーレ・ジェラス「思い出は炎のなかに」
 父親と暮らすルーは、ある日ショッピング街の中に「思い出は炎のなかに」という変わった名前の店を見つけます。クレイオーと名乗る店主の女性はルーに過去を思い出させるという緑のろうそくを買うことを勧めますが…。
 過去を思い出させる不思議なろうろくの力で、皆が少しだけ幸せになる…という物語。このアンソロジーの中では、唯一ポジティブな作品です。

 この『ミステリアス・クリスマス』、1999年にパロル舎から刊行された同名の本の改訳新版です。2016年刊行なので、まだ新刊で手に入るのではないでしょうか。
 ちなみに、続編『メグ・アウル ミステリアス・クリスマス2』は復刊されていないようです。



メグ・アウル―ミステリアス・クリスマス〈2〉
 『メグ・アウル ミステリアス・クリスマス2』 (安藤紀子ほか訳 パロル舎)は、クリスマス怪談を集めた『ミステリアス・クリスマス』の続編のアンソロジーです。『1』同様、ブラックな作品が多く集められています。

ジリアン・クロス「クリスマス・プレゼント」
 実父に甘やかされたイモジェンとポールは、あまり富裕でない義父ヘンリーに不満を抱いていました。二人は「ファーザー・クリスマス」を信じているヘンリーの連れ子ベッキーを唆して、欲しい物リストを作らせますが…。
 性根の悪い子供が恐ろしい目に会う…という物語。超自然的な存在を仄めかす結末も見事ですね。

ギャリー・キルワース「メグ・アウル」
 ティムはある日道で妙な卵を拾い、家に持ち帰ります。やがて卵から生まれたのは年取った女の顔をしたフクロウでした。フクロウは邪悪な力でティムを操るようになりますが…。
 人間に自らの餌を運ばせるという邪悪なフクロウ「メグ・アウル」の力に囚われた少年を描く作品です。少年がやらされる行為が非常にグロテスクで気味が悪いですね。集中でも、ブラックさでは群を抜いている作品です。

ジル・ベネット「また会おう」
 ピーターは義父の娘メアリ・アンへのプレゼントとして、ふと買った奇妙なビデオテープを贈ります。それは見るたびに内容が変わる不思議なテープでした。それを見たメアリ・アンの様子は段々とおかしくなり、やがて家族を不幸が次々と襲います…。
 ビデオテープというガジェットがいささか古びてしまっている部分はあるものの、不気味な雰囲気はなかなかです。メアリ・アンの人格が変わってしまったことを示すラストシーンはインパクトがありますね。

テッサ・クレイリング「クリスマスの訪問者」
 クリスマスの日、おばの家に預けられたポールは、仄かに思いを寄せる従姉のクリスティーナに会えて喜んでいました。しかしクリスティーナの妹アンシアから姉には恋人がいるらしいことを聞いてショックを受けます。
 一人留守番することになったポールは、クリスティーナの日記を覗き見しようとしたところ、何か動物のようなものが家に侵入しようとしていることに気がつきますが…。
 クリスマスに家を訪れた妖怪らしき存在を描く物語。様々なものに化けたりと、日本の妖怪譚のような趣もありますね。

スーザン・プライス「荒れ野を越えて」
 炭坑で働く兄のジョンを迎えにきたエミリー。しかし、ジョンはせっかく買った鵞鳥をかけてレスリングの賭けを行い、負けてしまいます。取り返すために再度の賭けを申し込むジョンでしたが、どうやら相手は生きている人間ではないようなのです…。
 死者と賭けをすることになった兄妹を描く物語。二人は生きて帰れるのかどうか、クライマックスのサスペンス感は強烈です。

 このアンソロジー、ヤングアダルト向けながら、ブラックな結末だったり、怖い作品が多く、子供が読んだらトラウマになってしまいそうな作品が多く収録されています。逆に、大人が読んでも面白く読み応えのある作品が多いので、怪奇・ホラー作品がお好きな方にはお薦めしておきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ファンタジー風SF作品集  グレッグ・ベア『タンジェント』
タンジェント (ハヤカワ文庫SF)
 グレッグ・ベア『タンジェント』(山岸真編 ハヤカワ文庫SF)は、SFというよりは、ファンタジーに近い作品が集められた短篇集です。いわゆるSF的な題材やガジェットを使っていても、ファンタジーのような雰囲気が強いのは、この作家の資質と言うべきなのでしょうか。

 探査計画の失敗により父親を亡くした娘が、小惑星を占拠して地球への墜落を計画するという「炎のプシケ」、孤独なオールドミスの女性が、辞書を使って理想の男性を生み出すという「ウェブスター」、何らかの力によってさまざまな時空からの生命体が集められてしまうという「飛散」、世界を構成していた要素が消失した後の不安定な世界を、中世ヨーロッパ風の世界観で描いた「ペトラ」、お話を語る謎の老夫婦との出会いにより、自らも物語を創造する少年を描く「白い馬にのった子供」などが収録されています。
 とくに印象に残るのは、遺伝子操作を描いた「姉妹たち」、次元テーマの「タンジェント」、童話的味わいの「スリープサイド・ストーリー」でしょうか。

「姉妹たち」
 子供たちの大部分が、遺伝子を操作され、美しい容貌と優れた能力を持つようになった未来、遺伝子を操作されなかった自然体の少女は、彼らに対して劣等感を感じていましたが…。
 遺伝子操作が当たり前になった世界を、学園を舞台に描いた作品です。
 ただでさえ感じやすい思春期の少女が、遺伝子操作された友人たちを見て、自分も遺伝子操作されて生まれてきたかったと訴えます。従来なら優れた能力を評価されるべき少女も、彼らに比べると凡人なのです。しかし、優れた能力の代償か、遺伝子操作された子供たちには恐るべき疾患が隠れていたのです。そんな中、少女の考えも変わっていきますが…。
 生まれつきの能力の長短が全てではない…という、ヒューマニズムにあふれた作品です。

「タンジェント」
 優れた才能を持ちながら、自らの性癖のため、不遇な生活を送っている初老の数学者は、近所に住む韓国人の少年と出会います。少年は別次元を見ることができる能力を持っていました。やがて別次元の知的生命体を見つけた少年は、彼らの世界へと姿を消してしまいますが…。
 自らの居場所を居心地悪く感じている男と少年が、別世界を見つけるという物語。男を支える作家の女性が、脇役としていい味を出しています。

「スリープサイド・ストーリー」
 純真無垢な若者は、母親を助けるため、悪名高い娼婦の館に囚われの身となります。しかし噂とは異なり、娼婦は悪人ではないと知った若者は、彼女に惹かれていきますが…。
 魔法によって美しさと若さを保ち、何人もの夫を持ったという伝説の娼婦。美しい容貌と莫大な富がありながら、彼女は幸福ではないのです。彼女が求めるのは無償の愛。若者は家族の元に帰りたいという思いと、娼婦への思いの間で葛藤します。
 おとぎ話的な雰囲気を持つ作品です。〈美女と野獣〉を反転させたというコンセプトだそうですが、元の作品よりも数段ダークに仕上がっています。というのも、現在も娼婦であることを含め、ヒロインが、かなりの暗い過去と罪を持っているからです。若者はそんな彼女を救うことができるのか? 結末は多少ご都合主義な感じもありますが、非常に読み応えのあるファンタジーです。

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幻想の少女  ジェフリー・フォード『ガラスのなかの少女』
ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 ジェフリー・フォードの長篇小説『ガラスのなかの少女』(田中一江訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)は、1930年代のアメリカを舞台にインチキ降霊術師たちが少女誘拐に巻き込まれるという、ユーモア・陰謀・サスペンスなど多彩な要素のある楽しい作品です。

 メキシコからの不法移民であるディエゴはインド人に扮し、父親代わりの凄腕詐欺師シェル、腕っ節の強いアントニーとともにインチキ降霊術で荒稼ぎしていました。富豪パークスの依頼による降霊術の席上、シェルはガラスの中に幻の少女を目撃します。
 少女は、誘拐された名士の娘シャーロット・バーンズではないかと考えたシェルたちは、娘の父親バーンズに誘拐事件の捜査の協力を約束します。そこで彼らが出会ったのは本物の霊能力者であるというリディア・ハッシュという美しい女性でした…。

 誘拐された少女の行方を追う詐欺師一行が思いもしなかった真実を知り、やがて大掛かりな陰謀に巻き込まれるという、サスペンス・冒険小説的な要素の濃い作品です。物語の展開はそれほどスピーディではなく、なかなか事件の本質が見えてこないのですが、その代わり主要な登場人物たちのキャラクターが掘り下げられていき、キャラ同士の掛け合いの方が楽しくなってくるという作品といってもいいでしょうか。
 不法移民ながら素直で賢明な少年ディエゴ、クールで計算高さを持ちながらも情に深い詐欺師シェル、気のいい話し相手であり怪力の持ち主アントニーの3人は特に魅力的です。
 そして謎を秘めた霊媒師リディア、ディエゴの恋人となるコケティッシュな娘イザベル、ほかにも詐欺師仲間の協力者たちも多数登場し、物語を色彩豊かに彩ってくれます。
 やがて報復かと思われた少女誘拐が、スケールの大きな陰謀に関わっていることを知ったシェルたちは命の危険を覚えるまでになりますが…。

 「幻想作家」フォードの書いたミステリだけに、現実離れした犯罪計画や幻想的なエッセンスも散りばめられています。特に詐欺師シェルの愛好する蝶趣味は作品全体のモチーフにもなっていますね。後半登場する「敵」たちもかなりぶっとんだ設定で怪奇スリラーとしても魅力的。
 雰囲気も非常に軽やかで、登場人物同士の愛情や恋愛、友情などがユーモアを持って描かれます。「最終計画」には主人公たちだけでなく、彼らの「仲間」が集結するという展開も熱いですね。読んでいてとにかく楽しい作品です。

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怪奇幻想読書倶楽部 第23回読書会 参加者募集です
ホフマン短篇集 (岩波文庫) 千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)
 2019年8月11日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第23回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年8月11日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後16:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
ホフマンとデュマのコント・ファンタスティック
課題図書
E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』(前山悠訳 光文社古典新訳文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。

 今回は、ホフマンの『ホフマン短篇集』とデュマの『千霊一霊物語』を取り上げたいと思います。
 ドイツのみならず欧米の幻想文学の祖の一人といえるE・T・A・ホフマンの作品は、19世紀フランスの作家たちに絶大な影響を与えました。デュマの怪異譚集『千霊一霊物語』もその流れの一つとして位置づけられます。
 ドイツ・フランス、それぞれの名手の幻想小説を読んでいきたいと思います

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脳髄の幻想  夢野久作『ドグラ・マグラ』
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫) ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)
 夢野久作の長篇『ドグラ・マグラ』(角川文庫)、長年の懸案の作品でしたが、ようやく読むことができました。非常に要約が難しく、「奇書」としかいいようのない作品です。

 九州帝国大学の精神病科の独房で目を覚ました青年は、自らに記憶がないことに気付きます。隣の独房では何やら少女が泣き叫んでいました。やがて現れた若林博士は、青年がある殺人事件に関係しており、その詳細を知るためにも記憶を取戻してほしいと語ります。
 青年は、天才と言われた精神病科教授の正木博士が提唱した「狂人の解放治療」計画の重要な対象患者でしたが、正木博士は1ヶ月前に自殺してしまったといいます。若林博士の話、そして正木博士が残した資料を読み進むうちに、青年は、過去の殺人事件には恐るべき因縁が潜んでいることに気がつきます…。

 基本は、青年が博士から聞く話と関連資料とから成っているのですが、途中で正木博士が書いたという論文「胎児の夢」「脳髄論」「キチガイ地獄外道祭文」などが挿入されます。これらの資料があまりにも饒舌かつ読みにくいのです。
 青年が成したであろう殺人には真犯人がいるのではないか? という疑問が途中で提出され、読者としてはその謎が気になるのですが、その間に正木博士の長い文章が挟まれてしまい、物語の流れを何度も中断してしまいます。
 ただ、文庫版にして上巻を超えるあたりから、物語が本格的に動き出し、多少読みやすくなります。一族に伝わる絵巻物の因縁と由来が登場してからは、一気に伝奇色が濃くなり、その面白さで最後まで読めるかと思います。

 ものすごく大雑把に要約すると、先祖の精神病質の遺伝によって現代において惨劇が起こる…というちょっとゴシックっぽい話です。そこに人の手が加わり、独自の思想や哲学が肉付けされていくという感じでしょうか。しかも「語り」が作中で自己否定されたりするので、非常にややこしくなってくるのです。
 日本ミステリの三大奇書の一つとされる作品ですが、これをミステリだと思って読むと、読み切るのは難しいのではないかと思います。幻想小説だと割り切って読む方が読みやすいのではないでしょうか。

 これから読もうと思っている人に一つアドバイスしておきたいと思います。読み始めてしばらくしてから出てくる「キチガイ地獄外道祭文」、「チャカポコ」のフレーズで有名な部分です。ここで挫折してしまう人が結構いると思うのですが、正直ここは読み飛ばしても、物語を読み取るのにそうそう影響はないと思います。ここで挫折してしまうよりは、読み飛ばしてでも話を先に進めた方がいいのじゃないかなと思います。

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サイキック・オカルト・スリラー  ジョン・ファリス『フューリー』
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 ジョン・ファリスのオカルト・スリラー小説『フューリー』(田中亮訳 三笠書房)は、超能力者哀話であり、親子の情を描いた作品であり、巨大な陰謀スリラーでもあるという欲張りなエンターテインメント作品です。現在では、ブライアン・デ・パルマの映画化作品の方が有名かもしれませんね。

 巨大な資産を持つベラヴァー家の娘ギリアンは、ある日浮浪者のような男を目撃した直後に、男が殺される場面を幻視し昏倒してしまいます。彼女には透視能力があったのです。一方、超能力者である息子ロビンをある組織にさらわれた元工作員ピーターは、息子の行方を探すうちに、同じような能力を持つ少女ギリアンの存在を知ります。組織がギリアンにも目をつけていることを知ったピーターはギリアンに接触しようと考えますが…。

 強力な超能力者ギリアンとロビンを手に入れようとする秘密組織と、息子を取り返そうとする父ピーターの争いを本筋に、能力に目覚めたギリアンとロビンが周りに与える影響をカットバックで描いていくという作品です。
 超能力者二人の能力がすさまじくて、見た相手の過去や素性を見破るのはもちろん、念動力で吹き飛ばしたり、人間を溶かしたり、失血死させたりと、相手が何十人いても勝てないだろうというレベルの能力なのです。

 組織に誘拐され能力を自らの意思で使えるようになるというロビンも強力なのですが、自らの能力をコントロールし切れないギリアンの方が周りの人間にとっては危険なのです。病気や傷口がある場合にそれを極端に悪化させるという能力で、胃潰瘍があるだけで彼女に近づくと死んでしまうという強烈さ。
 ギリアンに近づいた人間がどんどんと死んでしまうシーンは視覚的にもインパクトがありますね。かといって、超能力者たちが一方的に力を振るうわけではなく、周りの人物たちも劣らず強烈なキャラが登場します。

 二人を守ろうとする立場の元工作員ピーターは凄腕の暗殺者であり、人間業では考えられないような技術を持つ人物です。そしてピーターを殺そうと襲ってくる組織の人間もプロの暗殺者揃い。
 ピーターが活躍する章では、敵が一般人に変装したり、パーティ会場でいきなり襲ってきたりと、戦闘シーンがアクションたっぷりに描かれます。人間対人間のシーンでさえスペクタクルに富んだ場面なのですが、これにさらにロビンとギリアンの超能力による攻撃シーンが加わり、非常に見ごたえ(読みごたえ)のある作品になっています。

 アクションだけでなく、ロビンと父ピーターとの親子の絆や、ギリアンと両親との関係、友人との交流など、感情豊かな部分もあって、最後まで飽きさせません。
 アクションシーンと日常シーンや回想シーンなどの緩急のつけ方も上手く、エンタメ長篇ホラー作品としては、ある種の理想形に近い作品ではないかなと思います。

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怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会 開催しました
 2019年6月30日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会」を開催しました。

 今回のテーマは「ブラックウッドと英国怪談の伝統」として、アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)と由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)を取り上げました。
 怪奇小説の巨匠ブラックウッドのユニークな短篇と、英国怪奇小説の代表的な作家たちの短篇、これだけまとめて英国怪奇小説について語ったのは、この読書会でも初めてかもしれません。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 以下話題になったトピックの一部を紹介していきますね。


いにしえの魔術 (ナイトランド叢書3-2)
■アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)

●「いにしえの魔術」について
・ふと降り立ったフランスの田舎街で前世(?)の記憶に導かれる…という物語。

・扱われているのは黒ミサ・黒魔術? 村人たちは邪悪な信仰に染まっている感じだが、ブラックウッドはそれらをそれほど悪として断罪していないのが面白い。

・題材が「猫」なのには意味がある? ブラックウッドにはいろいろな獣・スピリットが出てくるので、それほど気にしていない気はする。

・萩原朔太郎「猫町」について。ブラックウッド作品とはそれほど似ていないと思う。テーマ的な関連が取り沙汰されるが、たまたま似ただけでは。

・主人公は逃げ出すことに成功するが、邪悪なものに取り込まれたらそれでもいい…というような感覚もある。実際最後にその場所に戻るかもしれないと仄めかす描写もある。

・怪異の側に対する憧れや陶酔のような感覚も強い。

・列車で主人公にアドバイスをくれた人は何者だったのだろうか? その人も昔同じ経験をしたことがある人なのだろうか。

・主人公が村に降り立ったのは、運命に引き寄せられたとの描写があるが、もしかしたら魂自体は輪廻し続けていて、この主人公の前の世代が来ていたかもしれないし、子孫の世代もまた来るのかもしれない、と思わせる広がりがある。

・「輪廻」的なテーマはブラックウッド作品の中でよく出てくる。『ケンタウロス』もその種の作品。

・精神が変容を遂げる…というブラックウッドお得意のテーマが、この作品では観念的なものではなく「猫」という具体的なイメージに落とし込まれているせいで、読みやすくなっている作品ではないだろうか。

・未訳作品の中では、別次元の世界に行く…という話がいくつかある。


●「秘法伝授」について
・甥に導かれ、曾祖父の魂と神秘的な世界に触れる男の物語。

・「美」に出会って人生が一変する話?

・短篇「告別に来た友」でも、死んだ友人が「美」の象徴となって現れる。テーマ的に通じるものがある。「美」が「永遠なるもの」につながっている?

・せちがらいが心の底では「美」の価値を知っている…というようなタイプの登場人物がブラックウッド作品にはよく出てくる。作家本人の投影なのだろうか。

・ブラックウッド作品は、作家の実体験が相当反映されているように思う。


●「神の狼」について
・カナダから故郷に戻ってきた男のもとに「神の狼」が現れるという怪奇小説。

・「ウェンディゴ」が引用されるのが興味深い。

・登場人物たちの間がこじれていく心理的なサスペンスも面白い。

・「狼」の正体は、人間が変身した狼? それとも純粋な精霊的な存在なのだろうか?
はっきり書かれていないので正体はわからない。「神の狼」なので、邪悪な存在ではないのでは。

・当時の怪奇小説では「東洋」で罪を犯した人物が追いかけられる…というテーマの話が多い。コナン・ドイル『クルンバーの謎』など。

・ブラックウッド作品にとって「森」は重要な意味を持っている。

・ブラックウッドは汎神論的な要素が強いが、日本のそれのように「物」には魂を認めていないような気がする。あくまで有機物にしか魂を認めていないのでは。


●「獣の谷」について
・強気な狩猟家が「獣の谷」と呼ばれる聖なる土地に入り込むが、そこで人間としての意識を失い獣のようになってしまう…という話。

・杖のせいで最後に助かるが、この杖はガイドが置いていったもの? こういうマジック・アイテムが出てくるのはブラックウッドには珍しい。

・杖の効果は動物たちを抑えるもの? それとも人間としての意識を目覚めさせるもの? 杖は別世界に出入りできる効果があるのでは?

・神や精霊はブラックウッド作品にはよく出てくるが、この作品のように人格神のようなはっきりした形で登場する神は珍しいのでは。

・この作品では、キリスト教の神は無力。むしろインディアンの神様が救い主として描かれる。


●「エジプトの奥底へ」 について
・魂が古代エジプトに吸い取られてしまう…という物語。

・『人間和声』同様、言葉の力によって神秘的な力が発現する…というテーマも登場する。ユダヤ教の言葉の力の教義が使われているのだろうか。

・表面上、ホテルで登場人物たちが話し合っているだけの物語なので、ストーリー的には起伏が少なく読むのがなかなか大変だった。

・魂を抜かれてしまった男が廃人になるのではなく、内面は空っぽではあるものの、表面上は魅力的な人物として生き続ける…というのは面白い。

・登場人物のモールソンは、悪意を持って儀式を行った? モールソン自体は邪悪な意図をもっているように描かれるが、もしかしてエジプトによって操られているのだろうか。
・現代のエジプトと古代のエジプトが二重写しになっていて、登場人物たちが魂を吸い取られたのは古代エジプトの方?

・最後の方で別の都市に移動するシーンがあるが、その場所がおそらく過去のエジプトと現代のエジプトのクロスポイントなのではないか。

・吸い取られた魂は、その場所で永遠に生きるのだろうか? 集合的無意識みたいな状態?

・ブラックウッド作品にはよくエジプトが登場する。ジョン・サイレンスものの「炎魔」にも同じモチーフが登場している。

・ブラックウッドには、別世界に行ってしまったりする登場人物が多く登場するが、語り手がそうなることは少ない。これは客観的な描写をするためか。一人称よりも三人称の方が、怪奇小説としてリアリティが増す?



・同時代の作家に比べても、ブラックウッドにはキリスト教的な要素が薄い? 東洋や西洋の神秘思想がごたまぜになったような思想が登場することが多い。

・「邪悪なる祈り」などが典型例だが、キリスト教がむしろ悪の側として描かれることもある。

・ブラックウッドは肉体を絶対視していない。あくまで魂が最終的に合一に至るのであれば、肉体はどうでもいいという感覚がある。

・長篇『ケンタウロス』について。魂の合一を目指すという思想的な要素の強い作品で、ブラックウッドの思想面が強く出ている。ストーリー的な起伏は少ないが、読んでいると妙な心地よさがある。

・ブラックウッド作品を再読する場合は、ストーリー上の起伏がないものに関しては、それがわかっているので、意外と読めのは苦にならない。

・土地の力について。ブラックウッド作品では特別な力を持つ土地の話がよく出てくる。地球自体が生き物である…というようなテーマの作品も。

・短篇「転移」について。生命力を吸い取る場所と、生命力を吸い取る人間の対決を描く物語。エネルギーの「転移」を描いている。結末の描写にはある種のブラック・ユーモアもある。

・中篇「地獄」について。悪霊たちの力が相殺されて表面上、何も起こらない…というユニークな発想の物語。

・神秘的なものを感じ取ることのできる人間とそうでない人間、ブラックウッドにはそういう面での選民思想のような考え方がある。

・短篇「霊魂の侵略者」について。書けなくなったユーモア作家が霊の影響を受けている…という話。ジョン・サイレンスが猫と犬を連れていくが、猫は霊魂側に行ってしまうという描写は面白い。

・短篇「人形」について。過去にインドで罪を犯したらしい軍人のもとに呪われた人形が送られてくる…という物語。非常にオーソドックスだが、描写は非常に怖い。

・未訳作品『ポールおじさんの教育』について。別世界で大切にしていない「物」が登場する。

・ブラックウッドの原書の古書価について。現在でもそれほど高くない。当時のベストセラー作家ゆえ、本がたくさん残っているから?

・ホジスン作品の原書は古書価が高い。一冊数十万円するものも。ラヴクラフトやクトゥルー神話の絡みもあるゆえか。カーナッキのキャラクター人気も高い。

・カナダとスイスの山奥がやたらと出てくるのは、実体験が反映している? 「柳」に登場するダニューブ川もおそらく実際に行っているのではないか。

・短篇「もとミリガンといった男」について。中国の山水画の中に入っていってしまうという物語。入れ子状になった世界観が魅力的。ラフカディオ・ハーンの「果心居士のはなし」が発想元になっているらしい。

・アレイスター・クロウリーや「黄金の夜明け団」との関係について。

・ブラックウッド作品には、女性がほとんど活躍しない気がする。登場人物として登場することはあるが、主人公格の人物としてはほとんど出てこないのでは。女性恐怖症的な面があるのだろうか。

・ジム・ショートハウスものについて。主人公が結構ぼんくら。ジョン・サイレンスなどに比べると扱いがひどい。「窃盗の意図をもって」では、散々な目にあっている。

・「秘書綺譚」について。狼狂の話? ブラックウッドにしては変な話。『怪奇小説傑作集』に収録されていて日本では有名だが、あの中ではちょっと浮いている。代表作とするにはちょっと変なセレクションでは。

・光文社文庫『秘書綺譚』は、軽みがあって読みやすい作品集だった。

・短篇「炎の舌」について。呪われた舌の話。

・短篇「野火」について。地球の力が登場する。

・ラヴクラフトはブラックウッドの影響を受けている?「いにしえの魔術」と「インスマスの影」の構成はすごくそっくりに出来ている。荒俣宏のラヴクラフト論「ラヴクラフトと彼の昏い友愛団」では、他の関連作品との比較が行われている。

・ブラックウッドは、晩年ラヴクラフト作品を読んでいた?

・〈ジョン・サイレンス〉は〈ゴースト・ハンターもの〉の先駆と呼ばれるが、あまり推理ものという感じはしない。対してホジスンの〈カーナッキ〉は推理要素が結構強い。欧米では〈カーナッキ〉はパスティーシュがあるが、〈ジョン・サイレンス〉は見当たらないのはそれも原因だろうか。

・ジョン・サイレンスはキャラクター色が薄い。

・ブラックウッドの未訳作品について。古代ローマの壺を掘り出す話、星々の運行が巨大なキャッチボールに見立てられる話など。

・ブラックウッド作品には同じモチーフが繰り返し出てくるので、まとめて読んでいると似た印象を受ける作品もよくある。

・現状、新刊でブラックウッド作品が4冊手に入るのは、考えたらすごい状況ではないか。

・アトリエサードのブラックウッド作品集は、思想色の濃いものと娯楽色が濃いものとを適度に混ぜ合わせているように思う。

・電子書籍の『木の葉を奏でる男 アルジャーノン・ブラックウッド幻想怪奇傑作選』(BOOKS桜鈴堂訳 Amazon Kindle)は、「柳」や「ウェンディゴ」など代表的な有名作品も含んでおり、すごくバランスの良い短篇集だと思う。

・短篇「柳」について。嵐の森林の中での描写は迫力があってすごい。非常に怖い作品。構成も上手い。

・ブラックウッドで一番「怖い」作品は? 「柳」か「ウェンディゴ」だと思う。

・ブラックウッドでは「森」が登場するだけでかなり怖い。「いにしえの光」は、主人公が森に化かされる話で迫力があった。

・「サイモン・パーキュナートの奇行」は、ブラックウッドとしても風変わりな話で面白かった。

・短篇「想像力」について。作家が登場して、その作家が描いているイメージとしてケンタウロスが扱われる。ケンタウロスは獣と人間を合成したイメージだが、獣の部分が人間が本来持っていた部分であり、人間の部分が理性を表すのではないか。両方を持ち合わせた理想像としてのイメージ。

・ケンタウロスはキリスト教以前のイメージ。アーサー・マッケンでも牧神などが登場するが、その持つ意味合いは大分異なる。

・短篇「牧神のたわむれ」では牧神が登場する。野性的な娘の導きで牧神の祭儀に出会う男の話。結末で主人公を裏切っている娘に罰が与えられるのが面白い。

・ジャック・サリヴァン編『幻想文学大辞典』のブラックウッドの項目を見ると、描写がくどすぎることがあるという評価がされていた。実際、ブラックウッド作品では物語が始まった直後に、登場人物についてやたらと長い説明が続くことがある。

・ブラックウッドは、あまり初めから構成をきっちりと考えるタイプではない? ストレートな話が多いような気がする。

・短篇「毒殺魔マックス・ヘンシッグ」について。記者が毒殺の容疑者に殺されそうになるのをサスペンスたっぷりに描く。超自然現象のない純心理スリラー。登場する記者が酒飲みばかりなのはブラックウッドの実体験が反映している。

・ブラックウッドは麻薬などで精神を拡大する…みたいなモチーフがよく登場する。

・ラジオで朗読されたという未訳作品の中に、日本の妖怪が登場する作品があるらしい。
・ブラックウッドの傑作集『幽霊島』(東京創元社)について。非常に傑作揃いのアンソロジー。これだけでしか読めない作品も多いので、ぜひ復刊してほしい。

・短篇「片袖」について。ヴァイオリン収集家の兄弟のもとに獣のような怪物が現れる…という話。

・短篇「迷いの谷」について。精神的な結びつきの強い双子の兄弟に精神的・霊的な危機が訪れる、という話。かなりの傑作だと思う。



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■由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)

●A・N・L・マンビー「霧の中での遭遇」について
・マンビーは、M・R・ジェイムズの後継者と言われた作家。

・いいことをしようとして、それが災難に結びついてしまうという発想が面白いゴースト・ストーリー。


●アルジャーノン・ブラックウッド「空き家」について
・ジム・ショートハウスが登場する、オーソドックスな幽霊屋敷もの。

・過去の霊現象が再現される…というタイプの作品。

・ブラックウッド作品では、霊現象が物質的・フィジカルな感じで登場することが多い。強烈なポルターガイスト?

・短篇「壁に耳あり」でも霊現象が再現されるが、これは一回体験すると終わる…という設定が面白い。家主が知っているのに教えなかったというのもブラック。


●M・R・ジェイムズ「若者よ、口笛吹けば、われ行かん」について
・学者が遺跡で拾った笛で、古代の霊が呼び出される…という話。

・ジェイムズの典型的な作風が現れた作品。固い職業の主人公、遺跡趣味など。

・ゴースト・ストーリーはわりと真面目な性格の人が主人公であることが多い気がする。
・ジェイムズは物につくタイプの呪いなどの話が多い。この作品で現れる幽霊は、物質と霊的なものが入り混じっている感じ。

・ジェイムズは物語の型がわりと決まっているが、どれもちゃんと面白いのがすごい。ちょっと「ストイック」である。


●H・G・ウェルズ「赤の間」について
・心理的な恐怖を扱った作品。

・つけるそばから蝋燭が消えていくのは、外から見るとちょっと滑稽。

・アイディア・ストーリー的な面が強いので、再読するとあまり面白くない。

・ウェルズはSFの人だと思っていたので新鮮だった。


●A・J・アラン「ノーフォークにて、わが椿事」について
・話し言葉風の翻訳が味がある。


●A・クィラ=クーチ「暗礁の点呼」について
・難破船の生き残りの兵同士が友情を結び、死後も相手のもとに現れる…という話。

・クライマックスで兵隊たちが忠義と友情を持って現れる…というのが味わい深い。

・クィラ=クーチは「一対の手」など、優しい感触の怪奇小説が多い。

・トランペットはおそらく宗教的なイメージを表している。トランペットは宗教音楽などでは神の栄光を象徴する楽器で、実際、オーケストラ団員の中でトランペット奏者は高い給料をもらっていたらしい。


●A・E・コッパード「おーい、若ぇ船乗り!」について
・水兵の主人公が夜に出会った女の幽霊の物語。

・服を着る幽霊というモチーフが非常に面白い。

・生前の妄執が「服の霊」となって現れている?

・コッパードは発想がユニークな作品が多い。ファンタジー、奇妙な味的なものも多い。「ロッキーの魔法」など。


●ブラム・ストーカー「判事の家」について
・家に憑いている霊が非常に邪悪。初めから人を殺そうとしている感が強い。

・巨大なネズミに聖書をぶつけるとダメージを与えられる…というシーンは面白い。

・主人公の学生が最後まで超自然現象を信じ切れていない。理系学生だから?

・ストーカー作品では「猫の復讐」でも残酷さがストレートに出ている。『ドラキュラ』でも直接的な暴力描写が多い。

・ネズミが使われているのは、伝染病を運んだりと、災いを運んでくる害獣というイメージから? ラヴクラフト「壁の中の鼠」、香山滋「ネンゴ・ネンゴ」など。


●J・S・レファニュ「遺言」について
・遺産相続をめぐって兄弟の争いが描かれるゴースト・ストーリー。短いが密度が高い作品。

・最初は好青年だった弟が物語が進むにつれて悪くなっていくところが印象深い。

・ラジオドラマでやっていたことがあるらしい。

・父親が転生しているかのような犬が非常に不気味。猫はよくある気がするが、犬が悪霊的な感じで出てくる作品は少ないように思う。

・レ・ファニュは作品で動物をよく使う。「緑茶」の猿など。

・レ・ファニュは風景描写に味がある。「ゴシック」風味? 物語の始まり方が風景や場所の描写から始まることが多い。

・レ・ファニュの長篇で面白いものは? 『アンクル・サイラス』『ワイルダーの手』『ゴールデン・フライヤーズ奇談』など。ダシール・ハメットが構成面でレ・ファニュの影響を受けているという説も。

・瀬戸川猛資のレ・ファニュ『ワイルダーの手』の書評は名作だと思う。作品そのものよりも面白いのでは。『ワイルダーの手』自体も味わいはある作品。

・レ・ファニュ作品が軒並み古書価が高騰している。瀬戸川猛資の影響もある。


●M・P・シール「ヘンリとロウィーナの物語」について
・裏切った恋人が復讐される…という、話としては珍しいものではないが、文体のきらびやかさで読ませる。

・「ゼリューシャ」もそうだが、19世紀ロマン主義的というか、ペダンティックな言葉の使い方などで読ませる作品だと思う。

・長篇『紫色の雲』について。破滅SFの先駆的作品。主人公が変わった人物で、行動原理がよく分からない。作中でアーサー・マッケンが出てくるのは面白い。SF史では、ホジスン『幽霊海賊』『異次元を覗く家』などと一緒に古典SF作品として扱われることもある

・シール本人の経歴も面白い作家。


●H・R・ウェイクフィールド「目隠し遊び」について
・M・R・ジェイムズを更にそぎ落としたかのような作品。恐怖そのものを追求している。
・結末の男のフレーズが繰り返されるのが効果的。

・「ダンカスターの十七番ホール」について。これも怖い話だった。

・ジャン・レイ『ゴルフ奇譚集』について。ゴルフをテーマにした恐怖小説集。呪いのゴルフボールなど、かなり直接的なテーマが多い。


●E・F・ベンスン「チャールズ・リンクワースの告白」について
・死刑囚が許しを得るために霊となって現れる話。

・客観的に霊現象が確認できるのが面白い。

・結末のシーンは非常に上手い。

・実は死刑囚は無実だった…という展開だと思ったらそうでなかった。

・モダンな印象の怪奇短篇。リチャード・マシスンが描いたといっても通用しそう。


●ローズマリー・ティンパリイ「ハリー」について
・現代的で怖い作品。シャーリイ・ジャクスンっぽさもある?

・家族による虐待などを思わせる部分もある。

・妹を愛する兄が霊となって守っている…というならわかるが、最後に連れていってしまう…というのが怖い。もしかして死後、兄は邪悪な霊になってしまっているのかもしれない。

・母親からの視点で描かれるのが効果的。女性ならではの作品?


●リチャード・ミドルトン「逝けるエドワード」について
・死んでしまった少年を悼む散文詩的作品。

・運転手が少年がいたように錯覚する、というところが唯一超自然味があるが、全体に心霊的な雰囲気が一貫して存在する。

・ミドルトン作品では、生者と死者の世界がすごく近い感じがする。「ブライトン街道で」など。


●J・S・レファニュ「ロッホ・ギア物語」について
・ロッホ・ギアに伝わる魔法使いの伝説をいくつかのエピソードで構成した作品。

・長篇に挟まれたエピソード的な趣もある。民話風の味わいもある。


●アルジャーノン・ブラックウッド「僥倖」について
・宿に泊まった牧師補が、精霊の導きで災難を逃れるという物語。

・宿に現れた精霊(神)の姿形がよくわからない。

・最後の場面で山に帰っていくシーンが面白い。

・災難自体が神が主人公を試すためだった…という考え方もできるのではないか。

・舞台がジュラ山脈で、ブラックウッド作品には定番の場所。


●E&H・ヘロン「ハマースミス「スペイン人館」事件」について
・幽霊屋敷にゴースト・ハンターが乗り込む、という話。

・浮き袋の霊とか、部屋中に粉をばらまくとか、いちいちおかしい行動が多い。

・最後、根本的に解決されないのも面白い。

・探偵が明かす真相もトンデモ理論で面白い。

・アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』について。ロマンス要素の強い、端正なゴースト・ハンターもの作品。


●ヴァーノン・リー「悪魔の歌声」について
・過去の悪魔的な歌手の幻影が蘇る…という物語。

・歌手は生前から超自然的な能力を持っていたのだろうか。

・歌手の幻影(霊?)が出てくるまでの流れが非常に良い。

・「フニクリ・フニクラ」がちょっと浮いている?

・主人公が最後に作曲能力を失ってしまうのは精神的な去勢行為(カストラートと重ねている)なのだろうか?

・『教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集』について。幻想・芸術的な要素の強い作品集。


●F・マリオン・クロフォード「上段寝台」について
・上段寝台に現れる水死体の話。

・この時代にこの作品のように明確に怪物が怪物として現れるパターンは珍しいのでは。

・全体に気色の悪いものに触る…という話が多いような気がする。

・船は常に動いているはずなのだが、この水死体はどこから来るのだろうか? 船に憑いている幽体で船に入った時点で実体化している?

・特定の場所・時間に怪物が出現することが明確になっているのが、逃げ場がなくて怖い感じがする。

・イギリス怪談に海を舞台にした話が多いのは、お国柄なのだろうか。

・もしかして、毎日現れる水死体は別人の可能性がある? 上段寝台に寝ていて殺されて(自殺して)しまった人間が交代に現れる…という解釈も可能だと思う。

・岡本綺堂訳は味わいがあった。

・長篇『プラハの妖術師』などではオカルト要素も強いので、クロフォードにはそういう素養があったのだろうか。



・〈世界恐怖小説全集〉について。今見ても、先進的な内容だと思う。W・F・ハーヴィーとL・P・ハートリーが入った巻と、『屍衣の花嫁 世界怪奇実話集』など、このシリーズでしか読めない作品が入っている巻は古書価が高くなっている。

・古書で箱と中身が違うものや、カバーと中身が違う本を買った体験など。ソノラマ海外シリーズのカバーで中身が違う本はどうかと思う。

・ソノラマ海外シリーズの古書価高騰について。一番高い巻は? ブラックウッド『死を告げる白馬』は万単位で出ていることも。レイ・ラッセル『血の伯爵夫人』やフリッツ・ライバー『闇の世界』なども高い。後半に出た怪奇アンソロジーは貴重な作品が多い。

・シオドア・スタージョン『コズミック・レイプ』について。ブラックウッドっぽさがある?

・シオドア・スタージョン作品について。スタージョンでは、登場する人物が日陰者というかひねくれ者というか、そういう人物が多いので、はまる人はすごくはまるが、僧でない人は受け付けないこともある。若い頃は素直に読めたものの、年を重ねてから再読してみると気色悪さを感じたという人も。「孤独の円盤」『夢見る宝石』など。

・スタージョン「もうひとりのシーリア」について。人間の皮をかぶった異星人を描く奇妙な味の作品。

・スタージョン『一角獣・多角獣』について。絶版になった一時期、ものすごい値段がついていた。復刊後、また品切れで高騰している。

・ペーパーバックの保管状態について。時間が経つと劣化が進んで崩れてしまう。


次回「第23回読書会」は、2019年8月11日(日)に開催予定です。
テーマは

「ホフマンとデュマのコント・ファンタスティック」
第一部 課題図書 E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
第二部 課題図書 アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』(前山悠訳 光文社古典新訳文庫)

の予定です。

詳細は後日告知いたします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

思念の力  南條竹則編訳『地獄 英国怪談中篇傑作集』
地獄 英国怪談中篇傑作集 (幽クラシックス)
 南條竹則編訳『地獄 英国怪談中篇傑作集』(メディアファクトリー幽books)は、ウォルター・デ・ラ・メーア「シートンのおばさん」、メイ・シンクレア「水晶の瑕」、アルジャノン・ブラックウッド「地獄」の3つの中篇を収録した怪奇小説アンソロジーです。

ウォルター・デ・ラ・メーア「シートンのおばさん」
 格別親しくもない学友シートンから家に招待されたウィザーズは、仕方なしに彼の家を訪れます。保護者である「おばさん」を気味悪がるシートンにウィザーズは不審の念をいだきますが…。
 デ・ラ・メア怪奇小説の代表作ともいうべき作品。非常にわかりにくいと言われるものを新訳した作品です。シートンのおばさんは精神的な吸血鬼であると言われていますが、改めて読み直してもはっきりしたことは書いておらず、読んだ人によって解釈は分かれる作品ですね。

メイ・シンクレア「水晶の瑕」
 アガサは精神を病んだ妻のいる男性ロドニーに恋心を抱いていました。アガサは自身の持つ癒しの能力でロドニーとその妻を癒します。同じく精神を病んだ男ハーディングに同情したアガサは、彼の心も癒そうとしますが…。
 癒しの能力を持つ女性が、友人の夫の狂気を治療したことから、自らも狂気に感染するという物語。「狂気」自体の得体の知れなさが不気味です。

アルジャノン・ブラックウッド「地獄」
 ビルとフランシスの兄妹は未亡人となった旧友メイベルから誘いを受け彼女の家に滞在することになります。メイベルの夫サミュエル・フランクリンは資産家ながら狂信家であり、それを嫌った兄妹はしばらく行き来をしていなかったのです。
 フランクリンは生前、自分と同じ信仰を持たぬ者は地獄に堕ちると信じていました。夫の影響力を受け続けたメイベルは陰鬱な屋敷の中で不安に陥っていましたが…。
 かなり長い中篇なのですが、何も変わった事件は起きず、異様な雰囲気だけが続く…という作品です。その理由がユニークです。この作品の舞台となる屋敷がドルイド教の人身御供が行われた場所で、古代から現代に至るまで狂信者といっていい人間が入れ替わり立ち替わり住んだ場所だというのです。
 そのため彼らの「霊」というか「思念の力」といったものが互いに拮抗しあって、結果的に何も起こらない状態になっているというのです。
 人間の見えないところで異様な力が渦巻いているものの、表面上は何も起きていないように見える…という、かなりユニークな発想の怪奇小説です。「物語」として面白いかどうかは微妙なのですが、この発想は一読の価値があるのではないかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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