 アンドリュー・ノリスの長篇『秘密のマシン、アクイラ』(原田勝訳 あすなろ書房)は、不思議な飛行機械を見つけた少年二人の冒険を描く作品です。
勉強嫌いで劣等生の少年ジェフとトムは、課外活動で訪れたピーク国立公園の石切り場跡で、たまたま隠されていた洞窟を見つけます。中には古代ローマ人らしい鎧をつけた骸骨がありましたが、そのそばになにか大きなものがあるのに気が付きます。それは表面がなめらかで、小さな船に似た、機械のようなものでした。 様々な色のランプがついており、でたらめに押した結果、機械は飛び上がります。どうやらこれは飛行するための機械のようなのです。機械に書いてあった言葉から、その機械を「アクイラ」と名付けたジェフとトムは、それを使って様々な冒険に乗り出すことになりますが…。
遺跡跡から、不思議な飛行機械アクイラを手に入れた少年二人が、それを使って冒険を繰り広げるというファンタジー作品です。 古代ローマ人の死体と一緒に発見されたことから、古代ローマで使われていたらしいアクイラなのですが、それがどのような由来のものなのかは一切分かりません。 アクイラは、現代のテクノロジーでは考えられないような機械で、高速で飛行するのはもちろん、その他にも様々な機能があるのです。多数のボタンが搭載されており、それぞれ別の機能があるようなのですが、最初は使い方が分からず、少年たちの試行錯誤が描かれていきます。 上下左右の移動など飛行に使うボタンだけでなく、透明になるボタン、レーザーを出すボタンなど、思いもかけない機能が存在し、それらを探求していく過程が抜群に面白いです。思わず押したボタンがレーザー光線を出すもので、家を十件以上貫通し大火災を引き起こしてしまうなど、そのトラブル加減も強烈です。
少年たちがアクイラを通して、知的好奇心に目覚めていく…という流れも面白いですね。徹底した勉強嫌いで、授業中でも隠れてやりすごしていたような二人が、アクイラのコントロールのため、様々な知識を知ろうとし始めるのです。 透明になったアクイラが勝手に動き出してしまい、その距離を計算するために数学を勉強したり、ラテン語で示されるアクイラへの指示をするためにラテン語を勉強したり、燃料を調べるために物理を勉強したりと、徹底して実用的な観点から知識を知ろうとするのですが、先生たちには急に勉強好きになったように見えて、感心されてしまうのです。 その一方、疑い深い教頭先生は、少年二人が悪だくみをしているものと思い込み、あら探しをし続ける…というのも楽しいですね。 ジェフとトムが、アクイラに関して度々新しい勉強を始め(ているように見え)、そのたびに驚く教師と教頭先生が描かれるシーンはユーモアたっぷりです。
アクイラを通して、少年二人が知的にだけでなく人格的にも成長を遂げ、そしてそれは彼らの親や隣人、教師たちにもいい影響を及ぼし、全てが幸福な方向に進む、という、徹底して明るいトーンの物語になっています。 実のところ、少年たちが好き勝手をやっているだけなのですが、周囲の「誤解」がいい影響を生む…という過程が、皮肉を交えずに語られるあたりも後味が良いですね。
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