掲示板
コメント欄を掲示板代りに使っています。何か書き込みくださるとうれしいです。ブログ右側にメールフォームも設置しましたので、コメントとして残したくない方は、そちらもご利用ください。

テーマ:その他 - ジャンル:その他

10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
9月29日刊 江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』(扶桑社文庫 予価894円)
9月30日刊 名梁和泉『マガイの子』(KADOKAWA 予価1620円)
10月6日刊 イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』(白水Uブックス 予価1944円)
10月6日刊 S・K・トレメイン『氷の双子 THE ICE TWINS』(小学館文庫 予価972円)
10月11日刊 ジョン・ディクスン・カー『緑のカプセルの謎 新訳版』(創元推理文庫 予価972円)
10月13日刊 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』 (仮題)(彩流社 予価3024円)
10月13日刊 ケイト・ウィルヘルム『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』 (アトリエサード 予価2400円)
10月20日刊 レイ・ブラッドベリ『万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集』(創元SF文庫 予価1620円)
10月21日刊 リチャード・マグワイア『HERE ヒア』(国書刊行会 予価4320円)
10月21日刊 『新編 日本幻想文学集成 第3巻』(国書刊行会 6264円)
10月21日刊 シャーリイ・ジャクソン『くじ』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
10月21日刊 フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価993円)
10月22日刊 ジム・シェパード『おわかりいただけますかねえ』(白水社 予価2808円)
10月22日刊 『諸星大二郎の世界』(平凡社 予価1728円)
10月24日刊 田辺剛『狂気の山脈にて 1 ラヴクラフト傑作集』(ビームコミックス 予価734円)
10月24日刊 田辺剛『The Outsider 田辺剛 Extra Works』(ビームコミックス 予価864円)


 江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』は、世界のショート・ショートの名作を集めたアンソロジー。ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』、サキ『開いた窓』、ストックトン『女か虎か』、星新一『おーい でてこーい』など、定番中の定番を集めた感がありますね。

 『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』は、女流SF作家、ケイト・ウィルヘルムの傑作集。表題作『翼のジェニー』は、ロマンチックな作品として有名ですが、こちら方面の作品を集めたものなんでしょうか。

 ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年 ケベックの叛乱』 は、未訳だったヴェルヌの冒険歴史小説とのこと。
 ヴェルヌといえば、インスクリプトより刊行予定の出ていた、《ジュール・ヴェルヌ 〈驚異の旅〉 コレクション》シリーズはどうなったのでしょうか。1巻『地球から月へ/月をまわって/上を下への』は、もう何年も前から予告が出ては延期の繰り返しなので、本当に出るのか心配です。

 『万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集』は、タイトル通り、ブラッドベリ自選の傑作集です。かってサンリオSF文庫から出ていたものの新訳版ですね。26編と収録作品数も多く、ブラッドベリ入門には最適の作品集だと思います。

 早川書房の《異色作家短篇集》より、2作が文庫化になります。シャーリイ・ジャクソン『くじ』と、フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』《異色作家短篇集》も、だいぶ文庫化作品が増えてきた感じですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

甘美なる狂気  アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)アンドレ・ド ロルド Andr´e de Lorde

筑摩書房 2016-09-07
売り上げランキング : 3187


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 20世紀初頭のパリ、残酷さを売り物にした恐怖演劇を上演し、話題を呼んだ劇場がありました。その名は「グラン・ギニョル座」。やがてその名前《グラン・ギニョル》は、恐怖演劇の代名詞になります。
 『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳 ちくま文庫)は、その《グラン・ギニョル》の看板作家であった、アンドレ・ド・ロルド(1869-1942)の恐怖短篇を集めた作品集です。

 「恐怖小説」とは言いつつも、ロルドの作品には、幽霊や悪魔、超自然的な現象などは登場しません。そこにあるのは、人間が人間に与える残酷な行為や、狂気に囚われた精神の恐ろしさなのです。
 短い枚数の中に、殺人や拷問など、非常にショッキングな情景を盛り込むのが、ロルドの常套手段です。そのため、ショッキングな行為だけが突出しており、物語が充分に展開する前に終わってしまう作品もあるほど。

 恐怖演出が決まったときのロルド短篇は非常に鮮やかで、例えば、違法な仕事に手を染める医者の父とその娘を描く『助産婦マダム・デュボワ』であるとか、病で動けない妻の過去の不貞を知った男の復讐を描く『恐ろしき復讐』などのクライマックスシーンは実に凄絶。
 また、義理の息子を亡くした継母への疑惑を描く『デスマスク』、愛に殉じた男を語る高級娼婦の物語『無言の苦しみ』など、残酷ではあっても哀感を感じさせる作品もあります。
 集中では長めの作品、『無罪になった女』は、子供殺しの容疑者になった女を描く法廷劇。意外にも硬派のクライム・ストーリーで、なかなか現代的な印象を受ける作品ですが、綺麗に終わらせられるところを、わざわざ「悪趣味」にひっくり返します。ですが、これがロルド作品の面白さなのでしょう。

 ロルド作品では、登場人物に深みはあまりなく、その人物像についても最低限しか描写されません。物語のシチュエーションも、恋人や兄弟の仇であるとか、三角関係であるとか、非常にありきたりなものばかり。言うならば、残虐な行為を扱うためだけに作られたステレオタイプなのです。
 ですが、ステレオタイプゆえに、作中で血が流れても、残酷な行為が行われても、どこか作り物めいた印象を与えます。そのため読者は、一時的にショックは受けても、心から傷つくことはありません。「安心して」恐怖を味わえるのです。ここに当時の人々を熱狂させた、ロルドの魅力の一端があるような気がします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本

4883752372ナイトランド・クォータリーvol.06 奇妙な味の物語
ケン・リュウ ニール・ゲイマン ジョン・コリア 朝松 健
書苑新社 2016-08-26

by G-Tools

『ナイトランド・クォータリーvol.06 奇妙な味の物語』(アトリエサード)
 『ナイトランド』の最新号の特集は《奇妙な味》。ジョン・コリア、サキ、ロバート・ブロック、チャールズ・ボーモント、ネイサン・バリングルード、ニール・ゲイマン、ケン・リュウらの短篇が掲載されています。
 ロバート・ブロック『ひらめきの帽子』は、芸術への創造力を高める「帽子」を手に入れた男の物語、チャールズ・ボーモント『愛車の助言』は、ある日人格を持ち始めた車に翻弄される主人公を描いています。どちらも安定した面白さです。
 いちばんインパクトがあったのが、ネイサン・バリングルード『往く先は風に』。車を盗んだという男と知り合ったシングルマザーの女の情事を描いた作品かと思いきや、予想もしない方向に展開する、まさに《奇妙な味》としかいいようのない作品です。シオドア・スタージョンのある種の作品を髣髴とさせる味わいで、この作家の作品はもっと読んでみたいですね。
 エッセイでは、フィルポッツの異色作品にスポットを当てた、安田均さんの「フィルポッツの奇妙な味」が興味深いです。
 全体に、『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》を思わせるカラーで非常に良かったと思います。本家の『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》特集は、近年すごく薄味になっているので、『ナイトランド』には頑張っていただきたいですね。



4150120854死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン 伊藤典夫
早川書房 2016-08-05

by G-Tools

ハーラン・エリスン『死の鳥』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 エリスンの、既訳ながら雑誌などに埋もれていた作品を集めた作品集です。とはいえ、それぞれが、本国では何らかの受賞作レベルの作品なので、とんでもなくレベルの高い作品集になっています。
 極端な時間管理が行われる社会に反抗する男の物語『悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』、全能の機械にもてあそばれる人間たちを描いた『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』、数十万年ぶりに甦った男の人生を神話的に描いた『死の鳥』、ある殺人事件をきっかけに宗教的な畏怖に囚われる都市幻想小説『鞭打たれた犬たちのうめき』など、SFだけでなく、ホラーやファンタジーも含まれたヴァラエティ豊かな作品集でもあります。



4041043557ずうのめ人形
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 2016-07-28

by G-Tools

澤村伊智『ずうのめ人形』(角川書店)
 オカルト専門雑誌の編集部で働く藤間は、連絡の取れなくなったライターが自宅で死んでいるのを発見します。ライターが遺した原稿の中に「ずうのめ人形」と呼ばれる都市伝説を発見した藤間は、これがライターの死の原因ではないかと疑うようになります。
 やがて、藤間の周辺に顔を糸で覆った謎の人形が姿を現します。その姿は自分にしか見えないのです。段々と近づいてくる人形が、自分のもとにたどり着いたとき、死が訪れることを確信した藤間は、霊能力者の真琴と、真琴の婚約者野崎に助けを求めますが…。
 1作目『ぼぎわんが、来る』でもそうでしたが、作中に登場する怪異の破壊力がすごいです。かぼそい霊的現象というレベルではなく、人が数十人単位で死ぬというレベルのため、巻き込まれた人間たちの緊迫感が半端ではありません。
 現在時間で進行する怪異現象と、都市伝説の誕生をめぐる過去とが交互に描かれ、それがクライマックスで交差するという構成も見事です。
 怪異を前に右往左往するのではなく、それらを実在のものとして捉え、その対策を真摯に考えていくという、ゴースト・ハンターものとしても良質な作品でしょう。



4087716686怪談のテープ起こし
三津田 信三
集英社 2016-07-26

by G-Tools


三津田信三『怪談のテープ起こし』(集英社)
 怪奇小説を集めた短篇集です。作者である三津田信三と、その女性編集者が怪異現象に巻き込まれていくという、メタフィクション的な枠物語の形で進行します。
 死ぬ間際の人間の声を録音したテープを起こし、本を作ろうという企画を持ちかけられるという『死人のテープ起こし』、豪邸に夜一人で留守番をするアルバイトをすることになった女子学生の体験を描く『留守番の夜』、ほとんど知らない者同士で山登りを行うことになった一行の体験を描く『集まった四人』、入院中の母親と同室になった老人が繰り返す奇怪な話を描く『屍と寝るな』、全身黄色の雨具を着けて現れる得体の知れない女の恐怖を描く『黄雨女』、不気味な「黒い人」とすれ違い続ける女性を描く『すれちがうもの』の6篇を収録しています。
 怪異のインパクトをストレートに押し出す『留守番の夜』『すれちがうもの』も面白いですが、間接的な語りとおぼろな記憶が不気味さを高める『屍と寝るな』がベストでしょうか。



4063828255宇宙のプロフィル (ヤンマガKCスペシャル)
こがたくう
講談社 2016-07-20

by G-Tools


こがたくう『宇宙のプロフィル』(ヤンマガKCスペシャル)
 SFマンガ短篇集です。
 遠未来、巨木「エルキド」の幹に住む有角人たちを描く『エルキドの巨木』、宇宙船で別の人間になっている夢を見続ける少女を描く『京子の夢』、海王星を目指す5人のチームの一人が呼びかけに応えなくなるという『ハッピーエンド』、天文学者が自らの人生を回想する『小さな彗星』、太陽が燃え尽き、最後が迫る地球で一人待ち続けるロボットを描く『地球最期の日』を収録。
 どれも秀作ですが、巨木や有角人など、ファンタジー的な設定が結末に至ってSF的な解釈が施される『エルキドの巨木』、二重のどんでん返しが面白い『ハッピーエンド』、情感豊かな『地球最期の日』などが面白いですね。
 特に、50億年も何かを待ち続ける『地球最期の日』はスケールの大きさと相まって、感銘を受ける作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

夢と現実  ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』
4560072051南十字星共和国 (白水Uブックス)
ワレリイ・ブリューソフ 草鹿 外吉
白水社 2016-03-26

by G-Tools

 ワレリイ・ブリューソフは、ロシア革命期に生きた象徴派詩人。革命後もソ連に止まり、政治にも強く関わった人物です。そうした経歴を知ると、その作品にも、多分に政治的な要素が強いのかと思いがちですが、実際に作品を読んでみると、驚くほどそうした要素は感じられません。むしろ、夾雑物を取り除き、純度を高めたかのような作品と感じられます。
 『南十字星共和国』(草鹿外吉訳 白水Uブックス)に収められた短篇作品には、幻想的・SF的な要素を持つ作品が多く含まれていますが、芸術至上主義とでも言えばいいのか、それらの作品は、100年近く経った今でも古びていないのです。

『地下牢』
 トルコに攻められ、地下牢に囚われることになったイタリアの姫君。兵に乱暴され、尊厳も失う中で生きる希望になったのは、同じく囚われた青年の存在でしたが…。
 絶望的な虜囚生活の描写も容赦がないですが、結末には、もっと強烈な残酷さが用意されています。一見ロマンティックな設定ながら、なんともダークな物語です。

『鏡の中』
 ある日、鏡の中の「わたし」に心を支配されるようになり、やがて鏡像と入れ替えられてしまった人妻。再度入れ替わろうと機会を狙いますが…。
 鏡をめぐる幻想小説です。互いに嫌い合いながらも引き寄せられてしまう…という皮肉な作品。

『いま,わたしが目ざめたとき…』
 夢の中で残酷な行為に耽っていた男は、美しい妻をもらい、現実的な幸福を得ます。しかし時を置かずして、再び夢の中での悦楽を求めるようになります…。
 犯罪的な行為を夢の中で実現していた男の狂気とは…? 夢と現実が混交してしまった男のサイコ・スリラーです。

『塔の上』
 夢の中で、中世の騎士の城に囚われた男は、城主の娘と恋仲になります。そこが夢の中であることを確信した男は、反逆を起こしますが…。
 自分が今目覚めていると思っている世界は、夢なのか現実なのか? 不安を残すラストが不気味な短篇です。

『ベモーリ』
 文房具店に勤める内気な娘は、文房具に対して非常な愛着を抱いていました。店をクビになってしまった娘は、かっての勤め先をたびたび訪れますが…。
 これは珍しい、文房具愛を描いた作品。「魔法のお店」テーマに分類してもよさそうな作品ですね。

『大理石の首』
 かって自分が捨てた人妻を記憶から消し去っていた男は、ある日出会った屋敷の大理石の首に、かっての恋人の姿を見出し、後悔にさいなまれますが…。
 運命の皮肉をさらりと描いた小品。妙に心に残る作品ですね。

『防衛』
 美しい未亡人に恋をした青年仕官は、ある夜偶然を装って、未亡人に告白します。亡き夫を今でも愛しているという未亡人に対し、屈辱を覚えた青年は、亡き夫の幽霊のふりをして驚かそうと考えますが…。
 「防衛」しているのは誰なのか? オーソドックスなゴースト・ストーリーです。

『南十字星共和国』
 南極大陸に建設された未来都市、南十字星共和国。膨大な工場を抱える共和国は、繁栄を続けていましたが、ある日、伝染病が発見されます。その病にかかったものは、狂気に囚われてしまうというのです。やがて感染の広がった首都は、壊滅状態に陥りますが…。
 伝染病にかかった狂気の人々の描写がもの凄いですね。未来都市があっという間に廃墟になっていく過程が視覚的に表現されています。集中一の傑作でしょう。

『姉妹』
 3人姉妹の次女と結婚した青年はしかし、他の2人にも惹かれ続けていました。官能的な長女に、無垢な三女。ある夜、それぞれの娘と話した青年は夢ともつかぬ体験をしますが…。
 愛情のもつれを描いた作品と思いきや、途中から、夢とも現実ともつかぬ、悪夢のような様相を呈していきます。まるでモダン・ホラー作品のようですね。

 『地下牢』『いま,わたしが目ざめたとき…』『南十字星共和国』など、ブリューソフの作品では、作中で血が流されたり、残酷な行為が行われたりすることが多いです。しかし、凄惨な光景にもかかわらず、それらがあまり現実感を帯びていないのが不思議です。
 むしろ、夢の中での情景であるかのような雰囲気が漂います。それが「夢と現実は紙一重」というテーマともマッチして、独自の味わいを生み出しているように感じられます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

9月の気になる新刊と8月の新刊補遺
8月24日刊 シャーリイ・ジャクスン『絞首人』(文遊社 予価1944円)
8月25日刊 『新編・日本幻想文学集成 第2巻』(国書刊行会 6264円)
8月26日発売 《ナイトランド・クォータリーvol.6》 (アトリエサード 1836円)
9月7日刊 アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(ちくま文庫 予価907円)
9月12日刊 石塚久郎編『病短編小説集』(仮題)(平凡社ライブラリー 予価1512円)
9月20日刊 ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』(国書刊行会 予価2916円)
9月26日刊 バリントン・J・ベイリー『時間衝突 新版』(創元SF文庫 予価1123円)
9月27日刊 アンナ・スタロビネツ『むずかしい年頃』(河出書房新社 予価2160円)
9月27日刊 ローダ・レヴァイン/エドワード・ゴーリー『ぼくたちが越してきた日から、そいつはそこにいた』(河出書房新社 予価1404円)
9月27日刊 大森望 『SFマニア超入門』(河出書房新社 予価2052円)
9月30日刊 J・G・バラード『J・G・バラード短編全集1 時の声』(東京創元社 予価3888円)
9月30日刊 エドワード・ケアリー『堆塵館 アイアマンガー三部作1』(東京創元社 予価3240円)

東京創元社復刊フェア(9月下旬)
F・W・クロフツ『二つの密室』
イーデン・フィルポッツ『灰色の部屋』
シオドー・マシスン『名探偵群像』
マーガレット・ミラー『狙った獣』
クレイトン・ロースン『棺のない死体』
ヤン・ヴァイス『迷宮1000』
アイザック・アシモフ『暗黒星雲のかなたに』
マンリー・W・ウェルマン&ウェイド・ウェルマン『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』
アーサー・C・クラーク『イルカの島』
アレクサンドル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』


 文遊社から、シャーリイ・ジャクスンの未訳長編『絞首人』が刊行です。東京創元社からも、同一作品の翻訳『処刑人』(仮題)の刊行が秋に予定されており、どちらを購入するか迷いますね。

 《ナイトランド・クォータリーvol.6》 の特集は、〈奇妙な味の物語〉 です。 ケン・リュウ、ニール・ゲイマン、ジョン・コリア、サキ、ロバート・ブロック、チャールズ・ボーモント等の翻訳短篇を掲載。これは楽しみです。

 『ロルドの恐怖劇場』(ちくま文庫)は、残酷劇で有名なグラン=ギニョルの大立者アンドレ・ド・ロルドの作品を集めた作品集。怪奇小説ファンは要チェックです。

 9月のイチオシはこれ、ポーランドの怪奇小説作家、ステファン・グラビンスキの邦訳作品集の第2弾『狂気の巡礼』です。14の短篇を収録とのこと。
 グラビンスキの邦訳が出ると聞いたときは、一冊で終わりだろうな、と思っていただけに、まさか、二冊目が出るとは、驚きと同時に非常に嬉しくもあります。『東欧怪談集』でグラビンスキの名を知ってから、ずっと待ち続けていた甲斐がありました。

 アンナ・スタロビネツ『むずかしい年頃』は、現代ロシアのホラー作品集だとのこと。

 J・G・バラード『J・G・バラード短編全集1 時の声』は、8月刊行予定が変更になったようですね。

 エドワード・ケアリーといえば、『望楼館追想』『アルヴァとイルヴァ』などの邦訳で知られる作家。独特の味を持つファンタジー作家です。『堆塵館』は、《アイアマンガー三部作》と呼ばれる三部作の1作目だそうですが、あらすじを読むだけでも、不思議な魅力が感じられますね。
 「ロンドンにある〈堆塵館〉は、ゴミで材をなしたアイアマンガー一族の広大な屋敷だ。屋敷の裏手には百年以上にわたって集められたロンドンじゅうのゴミが山となって広大な敷地を占領している。屋敷では、一族数百人がひとつ屋根の下で暮らしている。屋敷の地上階に暮らしているアイアマンガーたちは屋敷から出ることをゆるされず、彼らに使える召使いたちもみな一族の遠い縁戚にあたる。アイアマンガー一族は生まれるとすぐに何か品物をひとつ与えられ、生涯持ち続けるのだ。バースオブジェクトという。そんなアイアマンガーのひとり、クロッドには、品物の声が聞こえるという特殊な力があった……。」

 今年度の東京創元社復刊フェアの目玉は、ヤン・ヴァイス『迷宮1000』でしょうか。迷宮をテーマにした幻想小説です。エンタテインメントとして見ると弱いのですが、不思議なイメージにあふれたファンタジーとして、一読の価値はある作品だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

悪夢と予兆  E・F・ベンスン『塔の中の部屋』
488375233X塔の中の部屋 (ナイトランド叢書)
E・F・ベンスン 中野 善夫
書苑新社 2016-07-25

by G-Tools

 《ナイトランド叢書》2期の第1弾として刊行された、E・F・ベンスン『塔の中の部屋』(中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩訳 アトリエサード)は、英国怪奇小説の正統派ともいうべき味わいの怪談集です。
 エドワード・フレデリック・ベンスン(1867-1940)は、カンタベリー大主教にまでなった父親を持つ名門の生まれ。エドワードを含む兄弟3人が、怪談に手を染めていますが、中でもひときわ評価の高いのがE・F・ベンスンです。イギリス怪奇小説の巨匠であるM・R・ジェイムズとも交友があったとか。
 50篇あまりの怪談を残し、それが4冊の怪談集にまとめられています。『塔の中の部屋』は、第1怪談集の全訳になります。邦訳としては、『ベンスン怪奇小説集』 (八十島薫訳 国書刊行会)がありますが、短篇集単位で訳されるのは今回が初めてになります。

 私見では、怪談の魅力は、幽霊なり怪奇現象そのものよりも、それらが出現に至るまでの過程にあります。出るぞ、出るぞ、とヒヤヒヤしながら読んでいる間が楽しいのです。言うならば「間」とでもいいましょうか。E・F・ベンスンは、その「間」の取り方が絶妙なのです。
 例えば、『塔の中の部屋』では、主人公がたびたび見る悪夢が言及されます。悪夢で見る「塔の中の部屋」を恐れ続けた主人公は、結局は悪夢通りの部屋に入ってしまいます。
 また、『かくて恐怖は歩廊を去りぬ』では、屋敷に代々伝わる双子の幽霊について語られます。その幽霊に出くわした人間は、必ず死んでしまうのです。特定の時間に特定の場所にしか現れないとされているため、一族はそこを避けていますが、主人公はある時ふと寝入ってしまい、その場所に取り残されてしまいます…。
 ベンスンは、幽霊もしくは怪奇現象が起こるクライマックスまでに、徐々に不穏な空気を高めていきます。怪奇現象が起こる前に、たいてい、何らかの「予兆」が描かれます。『塔の中の部屋』でも、『かくて恐怖は歩廊を去りぬ』でも、その「予兆」はあったはずなのに、結局は怪奇現象に襲われてしまう…。その悪夢めいたシチュエーションが、何とも魅力的なのです。

 本書には、17篇の作品が収録されていますが、正統派のゴースト・ストーリーであったり、「奇妙な味」風の作品であったり、ユーモアを感じさせるものだったりと、バラエティに富んでおり、名匠の名に恥じない出来栄えです。
 驕慢な女性に捨てられた画家が、異様な猫と出会うという「奇妙な味」の作品『猫』、病が怪物の姿になって現れるという『芋虫』、死刑囚の幽霊が現れるという直球のゴースト・ストーリー『チャールズ・リンクワースの懺悔』、ベッドに現れる幽霊というオーソドックスなテーマを、正攻法で描く力業の幽霊小説『もう片方のベッド』、人間がノウサギに変身するという言い伝えを信じる村人を描き、ユーモアさえ感じさせる『ノウサギ狩り』など。

 E・F・ベンスンには、まだ未訳の作品も多いので、《ナイトランド叢書》でも続刊を出していただきたいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇マンガ強化週間
4865370595戦後怪奇マンガ史
米沢 嘉博 赤田 祐一
鉄人社 2016-07-22

by G-Tools

 米沢嘉博『戦後怪奇マンガ史』(鉄人社)を購入し、さっそく一読しました。
 この本は、漫画評論家の米沢嘉博が、戦後の怪奇マンガの歴史を辿った本です。1980年代の中頃から終わり頃までホラー雑誌に連載されていたものなのですが、その当時すでに古典になりつつあった作品を中心に紹介されており、あまり新しい作家は扱われていません。
 貸本時代の作品から始まり、水木しげる、楳図かずお、古賀新一、萩尾望都、山岸凉子、日野日出志、手塚治虫、諸星大二郎、永井豪、つのだじろうなどが取り上げられています。怪奇専門の作家だけでなく、一時的に怪奇ものに手を染めた作家にも触れられています。
 全体に、古典よりの作品に力が入っているのですが、類書が全くないので、資料的にも貴重な本になるのではないでしょうか。

 もともと、怪奇マンガは大好きなジャンルなのですが、この本を読んで、怪奇マンガ熱が高まってしまいました。そんなわけで、最近読んだ中から、新旧合わせて、いくつかの作品を紹介していきたいと思います。



B016XZZPXM人面蝶
池上 遼一
グループ・ゼロ 2015-10-21

by G-Tools

池上遼一『人面蝶』(講談社KCスペシャル)
 劇画の巨匠として知られる作者の、初期に書かれた怪奇もの作品集です。
 表題作の『人面蝶』のインパクトが強烈です。蝶の採集に訪れた青年は、山の中で男が落石に会う場面に遭遇します。岩がそれたにもかかわらず、全身をつぶされて死んでしまうのを見た青年は、蝶に卵を産み付けられた人間は、蝶が死ぬと同時に死んでしまうのではないかと考えますが…。
 他に、狂った鳩が人間を襲う『狂い鳩』、鬼女に惑わされる三人の足軽の運命を描いた『安達ケ原の鬼女』など。

 

4063131084佐伯かよのSFミステリー傑作選 アリスの13時間 (KCデラックス)
佐伯 かよの
講談社 1989-11-13

by G-Tools

佐伯かよの『アリスの13時間』(講談社KCDX)
 表題作『アリスの13時間』は、難破した船の乗客たちが無人島にたどり着くものの、ラジオにより13時間後にその島で核実験が行われることを知り、実験が始まる13時間以内に島を脱出しようとする物語。外的な脅威に加え、仲間内で争いが始まり…というサスペンスたっぷりな話です。
 理由もなく、次々と自殺する人間たちの謎を追う『黄泉からの声』、人の心が読める少年が人々の心の醜さを暴いていくという『ジムニイの箱』、脳が異常発達し、知能が急激に上がった少女を描く『割れたカップ』など、SF味の強いホラーといった感じでしょうか。
 あらゆる現象が願った通りになる少女の登場する『午後5時1分前…!』は、破滅SFもののバリエーション。
 佐伯かよのの初期作品は、アイディアに富んでいて、今でも面白く読めるものが多いです。



4197805330怖すぎる永井豪 (トクマコミックス)
永井 豪
徳間書店 2012-07-03

by G-Tools

永井豪『怖すぎる永井豪』(トクマコミックス)
 収録作品中でいちばん有名なのは、突然大人たちが子供を殺し始める『ススムちゃん大ショック』でしょうか。レ・ファニュの原作を漫画化した『シャルケン画伯』、亡き親友の恋人と結婚した男の体験を描く『遺品』、いじめっ子たちがいじめられた子の怨念に殺される『雪』など。
 少年向けでも、永井豪作品は描写に容赦がないので、迫力がありますね。



4344836340ぐらんば (バーズコミックス)
押切蓮介
幻冬舎 2016-02-24

by G-Tools

押切蓮介『ぐらんば』(バーズコミックス)
 長年虐げられてきた老婆が、突如煉獄から来た巨大な化け物たちに襲われ、一人立ち向かう…というアクションホラーマンガ。ギャグすれすれの設定なのですが、怪物の造形や、その破壊力がすさまじく、まるでアメコミの実写化を観ているような迫力で楽しめます。



4845844273盆の国 (torch comics)
スケラッコ
リイド社 2016-07-11

by G-Tools

スケラッコ『盆の国』(リイド社torch comics)
 ご先祖様の霊を見ることができる少女は、お盆の同じ一日を何度も繰り返していることに気付きます。霊の話を聞くことができる青年と出会った少女は、協力して止まった時間を動き出させようとしますが…。
 青年の正体、少女の能力の由来、家族の過去…。絵柄はシンプルながら、丁寧に作られた作品です。盆が舞台になっているというのもありますが、清涼感のあふれるファンタジーです。



4022131470眠れぬ夜の奇妙な話コミックス りんたとさじ (ソノラマコミックス 眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
オガツ カヅオ
朝日新聞出版 2009-10-07

by G-Tools

オガツカヅオ『りんたとさじ』(眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)
 霊能力を持ち、怪奇現象に関わるバイトをしている「りんた」と、その恋人の「さじ」が巻き込まれる事件を描いた連作短篇集です。ユーモアの溢れる日常シーンと怪奇シーンとの落差が絶妙です。日常の風景が突然奇妙な情景に移り変わる瞬間が素晴らしい。
 どのエピソードも読み応えがありますが、新婚の妻の話が、だんだんと不穏な方向に向かう『炬燵の人』、両親を殺した男が時空のひずみに取りこまれる『穴の人』、愛猫の死を悲しむ男が隠していた真実が暴かれる『鳴く人』などが、印象に残ります。
 とくに、人生の真実が二転三転し、それが見事に怪奇現象と直結している『鳴く人』は、傑作だと思います。

テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック

謎だらけの物語、または「真相がわからなくても人は物語を楽しめるのか」
B01CK7EE3Oミステリー・ゾーンDVDコレクション(67) 2016年 3/30 号 [雑誌]
アシェット・コレクションズ・ジャパン 2016-03-16

by G-Tools

 オムニバスドラマシリーズ『新トワイライトゾーン』に、『恐怖のメッセージ』(原作シドニー・シェルダン)というエピソードがあります。こんな話です。
  とある町で広がっているという伝染病について調べるため、派遣された調査員エドワード。あらゆる人間に感染するというその病は、人の正気を失わせるというのです。調査の結果、感染した人間が口にする、あるメッセージを耳にしたとたん、その人間の正気が失われることがわかりますが…。
 人間の正気を失わせる「恐怖のメッセージ」が描かれるのですが、そのメッセージの内容は全く描かれません。表面上、人から人へと、ただ狂気が伝染していくという演出が効果を上げています。

 『恐怖のメッセージ』を観ていて、既視感を覚えました。これと似たような話を、観たり、読んだりしたことがあるような気がする…。



4894565900夜が明けたら (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-11

by G-Tools

 まず、思いつくのが、小松左京のショート・ショート『牛の首』『夜が明けたら』ハルキ文庫ほか収録)。
 「牛の首」という、タイトルだけが、世間に流布している怪談がありました。誰もが口をそろえて「あんな恐ろしい話は聞いたことがない」と言うのです。しかし、具体的にどんな話なのか誰に聞いても教えてもらえない…という話。



4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02

by G-Tools

 または、クリーブランド・モフェットの『謎のカード』(深町眞理子訳 紀田順一郎編『謎の物語』(ちくま文庫収録)。
 アメリカ人の青年が、旅先のパリで、見知らぬ美女から一枚のカードを手渡されます。カードには、フランス語らしい言葉が書かれていましたが、フランス語の読めない彼は、ホテルの支配人にそれを読んでもらいます。
 とたんに顔色を変えた支配人は、青年をホテルから追い出してしまいます。それ以降もカードの文面を見た人々はこぞって理由も話さずに青年を拒否するのですが…。
 


4336034621怪奇小説の世紀 第2巻 がらんどうの男
西崎 憲
国書刊行会 1993-02-25

by G-Tools

 ハリファックス卿『ボルドー行の乗合馬車』(倉阪鬼一郎訳 西崎憲編 『怪奇小説の世紀2』国書刊行会収録)も、似た感じの作品です。
 語り手が歩いていると、複数の男がやってきて、ある頼みごとをします。それは通りの突き当たりに立っている女性に、ボルドー行の乗合馬車は何時に出発するのか尋ねてほしい、とのことでした。女性にその件を尋ねると、語り手はなぜか警察に連行されてしまいます。挙句の果ては、裁判で有罪を宣告され、収監されてしまうのです…。



B000HA4E1E-less[レス] [DVD]
ジャン=バティスト・アンドレア
クロックワークス 2006-10-27

by G-Tools

 映画では、ちょっと方向性が違うのですが、『-less レス』(ジャン=バティスト・アンドレア&ファブリス・カネパ監督)が、似たテイストの作品ですね。
 クリスマス・イブの夜、ある一家が、車で親戚のパーティーに向かいます。近道をしようと人気のない森を抜けていくことになりますが、なぜか、行っても行っても出口が見えてきません。
 突然、道ばたに赤ん坊を抱いた白いドレスの女が現れ、車はあわてて停車します。何を聞いても答えず、しかも怪我をしているらしい女を放っておくこともできず、車に同乗させることになります。携帯電話も通じないため、やがて古びた山小屋を発見した一家は、そこで電話を借りようとしますが、つながりません。
 直後に、娘のボーイフレンドが、謎の黒いクラシックカーで連れ去られてしまいます。やがて道ばたに青年の変わり果てた姿を見つけます。その後も、車を止めるたびに、黒いクラシックカーが現れ、家族が殺されてしまうのです…。


 これらの物語、分類するとすると、謎が謎のままで終わるという「リドルストーリー」と言えます。ただ、上記の物語群は、その「リドルストーリー」の中でも、何か妙な魅力があるのです。
 物語中で、主人公や語り手に対して、何か重要な情報が隠されていることが明示されます。そしてその真相を求めて、主人公は駆け回るのですが、結局真相は明かされない…というのが、上記の物語群の骨格といえましょうか。
 読者や視聴者に対し、重要な情報を隠したまま展開する作品、といえば、いわゆる「サスペンス」作品ということになると思います。ただ、サスペンス作品では、真相や謎は最後には明かされます。それに対して、上記に挙げた物語は、隠された情報が結末になっても明かされません。
 真相が、作中で明確には示されない、という作品もないことはありません。例えば、ジーン・ウルフやクリストファー・プリーストの一部の作品。ただ、作中で明確に真相は明かされないものの、読者の推測で真相が窺えるようにはなっていることが多いです。対して、上記の物語群では、真相を明かす気がさらさらない…といった感じなのです。
 ただ、それでも「面白く」感じるということは、ここら辺に、何か「サスペンス」の原型的な味わいが隠されているような気がするのです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する