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同人誌『謎の物語ブックガイド』及び『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』刊行のお知らせ

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 新しく、同人誌を作成することにしました。タイトルは『謎の物語ブックガイド』。物語中で提示された謎が謎のまま終わってしまうという<リドル・ストーリー>を紹介したブックガイドです。
 <リドル・ストーリー>の代名詞とも言える、フランク・R・ストックトン「女か虎か」のような二者択一型の作品、芥川龍之介「藪の中」のように解釈が複数可能な作品、クリーヴランド・モフェット「謎のカード」のように真相が最後まで分からない作品、ウォルター・デ・ラ・メア「なぞ」のように物語自体が謎につつまれている作品など、大まかにテーマで分類して作品を紹介しています。
 併せて、「女か虎か」のパロディ・オマージュ作品、リドル・ストーリーそのものをテーマにした作品、リドル・ストーリーについて言及されているエッセイ・評論についても紹介を行っています。

 文学フリマ東京に合わせて刊行しますが、通信販売も行います。以下のお店で扱っていただく予定です。刊行は11月中旬頃を予定しています。

書肆盛林堂さん
CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
享楽堂さん
文藝イシュタルさん

仕様は以下の通りです。

『謎の物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:96ページ(表紙除く)
表紙印刷:モノクロオンデマンド
本文印刷:モノクロオフセット
表紙用紙:アートポスト200K
本文用紙:書籍90K(クリーム)
表紙PP加工あり

内容は以下の通り。

目次

まえがき

二者択一型の作品
フランク・R・ストックトン「女か虎か」
フランク・R・ストックトン「三日月刀の督励官」
ジャック・モフィット「女と虎と」
マーク・トウェイン「恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス」
マーク・トウェイン「天国だったか? 地獄だったか?」
H・G・ウェルズ「塀についたドア」
O・ヘンリー「指貫きゲーム」
スタンリイ・エリン「決断の時」
五味康祐「柳生連也斎」
星新一「友情の杯」
ロード・ダンセイニ「ネザビー・ガーテンズの殺人」
A・H・Z・カー「ティモシー・マークルの選択」
ハル・エルスン「最後の答」
ジョン・コリア「死者の悪口を言うな」
グレアム・グリーン「弁護側の言い分」
シャーロット・アームストロング「あなたならどうしますか?」
佐野洋「金属音病事件」
菊地秀行「香水」
松尾由美「琥珀のなかの虫」
法月綸太郎「使用中」
山本弘『夏葉と宇宙へ三週間』

解釈が複数可能な作品
アンブローズ・ビアス「月明かりの道」
芥川龍之介「藪の中」
ガストン・ルルー「恐怖の館」
マーク・トウェイン「終りのない話」
サキ「宵やみ」
ギ・ド・モーパッサン「手」
A・ハックスリー「ジョコンダの微笑」
江戸川乱歩「陰獣」
江戸川乱歩「盗難」
木々高太郎「新月」
アルベルト・モラヴィア「いまわのきわ」
都筑道夫「夢見術」
A・ビオイ=カサレス「大空の陰謀」
ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』
パトリシア・ハイスミス「からっぽの巣箱」
眉村卓「執念」
パトリック・マグラア『グロテスク』
レイ・ブラッドベリ「青い壜」
ジョン・ヴァーリィ「ブラックホールとロリポップ」

真相が最後まで分からない作品
上田秋成「青頭巾」
クリーヴランド・モフェット「謎のカード」
クリーヴランド・モフェット「続・謎のカード」
エドワード・D・ホック「謎のカード事件」
W・W・ジェイコブズ「失われた船」
ハリファックス卿「ボルドー行の乗合馬車」
フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「絶対の秘密」
ロード・ダンセイニ「三つの悪魔のジョーク」
ロード・ダンセイニ「悪魔の感謝」
ロード・ダンセイニ「書かれざるスリラー」
スタンリイ・エリン「不当な疑惑」
稲垣足穂「チョコレット」
小松左京「牛の首」
筒井康隆「熊の木本線」
半村良「罪なき男」
山本周五郎「その木戸を通って」
バリイ・ペロウン「穴のあいた記憶」
田中小実昌「えーおかえりはどちら」
マヌエル・ペイロウ「わが身にほんとうに起こったこと」
クレイ・レイノルズ『消えた娘』
マルセル・ベアリュ「球と教授たち」
テレビドラマ「恐怖のメッセージ」

物語自体が謎につつまれている作品
ウォルター・デ・ラ・メア「失踪」
ウォルター・デ・ラ・メア「なぞ」
ナサニエル・ホーソーン「ヒギンボタム氏の災難」
ナサニエル・ホーソーン「牧師の黒のベール」
ラドヤード・キプリング「園丁」
小泉八雲「茶わんのなか」
ロード・ダンセイニ「野原」
A・E・コッパード「消えちゃった」
イーディス・ウォートン「万霊節」
イーデス・ウォートン「ざくろの実」
イーディス・ウォートン「一壜のペリエ水」
夢野久作「縊死体」
リチャード・マシスン「消えていく」
ジョン・コリア「少女」
ジョン・コリア「むかしの仲間」
城昌幸「古い長持」
フリオ・コルタサル「占拠された家」
アルベルト・モラヴィア「パパーロ」
ディーノ・ブッツァーティ「七階」
ディーノ・ブッツァーティ「なにかが起こった」
ディーノ・ブッツァーティ「怪物」
ハンス・カール・アルトマン「解けない謎」
都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』
小松左京「お召し」
テリー・カー「試金石」
ハーヴィ・ジェイコブズ「おもちゃ」
諸星大二郎「黒石島殺人事件」
諸星大二郎「流砂」
ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』
テレビドラマ『プリズナー№6』
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『エレヴェイテッド』
剣先あおり「埃家」
剣先あおり「侵蝕」
澤村伊智「ありふれた映像」
マット・オスターマン監督『400デイズ』
ブラッド・アンダーソン監督『リセット』

「女か虎か」のパロディ・オマージュ作品
福永武彦「女か西瓜か」
都筑道夫「別巻一 ストックトン集 女か虎か」
小松左京「女か怪物(ベム)か」
生島治郎「男か?熊か?」
E・D・ホック「女かライオンか」
家田満理「女も、虎も……」
芦辺拓「異説・女か虎か」
芦辺拓「女も虎も」
東野圭吾「女も虎も」
高橋葉介「女か虎か」
高井信「女か虎か」

リドル・ストーリーそのものをテーマにした作品
米澤穂信『追想五断章』
山口雅也『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』
北村薫「走り来るもの」

リドル・ストーリーについて言及されているエッセイ・評論
各務三郎『ミステリ散歩』
石川喬司『夢探偵 SF&ミステリー百科』
高井信『ショートショートの世界』
北村薫『謎のギャラリー 名作博本館』
飯城勇三『本格ミステリ戯作三昧』
新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』



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 もう一冊、以前に刊行したブックガイドの増補版『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』も刊行いたします。
 「夢」や「眠り」をテーマとしたフィクション作品を紹介したガイド本です。小説作品のほか、絵本、漫画、映画作品などについても触れています。
 旧版の内容に加えて、8ページほど増ページ、十数作品のタイトルを追加しています。表紙デザインを変更したほか、まえがき、作品タイトルの順番などを多少変更しています。

 文学フリマ東京に合わせて刊行しますが、通信販売も行います。以下のお店で扱っていただく予定です。刊行は11月中旬頃を予定しています。

CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
享楽堂さん
文藝イシュタルさん

仕様は以下の通りです。

『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:96ページ(表紙除く)
表紙印刷:フルカラーオンデマンド
本文印刷:モノクロオフセット
表紙用紙:アートポスト200Kアートポスト200K
本文用紙:書籍用紙90K(クリーム)

内容は以下の通り。

目次

まえがき

中国の夢物語の古典から
干宝「二人同夢」
沈既済「枕の中の世界の話」
李公佐「南柯郡太守の物語」
白行簡「三つの夢の話」
蒲松齢「宰相の夢のあと」
紀昀「農婦の夢」

同じ夢を見る
W・サマセット・モーム「マウントドレイゴ卿」
都筑道夫「殺し殺され」
ヘンリイ・スレッサー「夢を見る町」
ローラン・トポール「静かに! 夢を見ているから」
ウリ・オルレブ「クジラの歌」
半村良「夢あわせ」
夢見る人と夢見られる人
ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス「円環の廃墟」
ジョヴァンニ・パピーニ「〈病める紳士〉の最後の訪問」
A・ビオイ=カサーレス「パウリーナの思い出に」
眉村卓「仕事ください」
眉村卓「ピーや」
都筑道夫「流刑囚」
ジュール・シュペルヴィエル「海の上の少女」
ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』
デヴィッド・アンブローズ「覚醒するアダム」
佐々木淳子「ミューンのいる部屋」
ジェフリー・フォード「光の巨匠」
三田村信行「ゆめであいましょう」

夢見られる世界
ロード・ダンセイニ『ぺガーナの神々』
ロード・ダンセイニ「ヤン川を下る長閑な日々」
ロード・ダンセイニ「ブウォナ・クブラの最後の夢」
エドモンド・ハミルトン「眠れる人の島」
クリストファー・プリースト『ドリーム・マシン』
チャールズ・ボーモント「トロイメライ」
アルベルト・モラヴィア「夢に生きる島」
ダニエル・F・ガロイ「今宵、空は落ち…」
押井守監督『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
小林泰三「影の国」
小林泰三「目を擦る女」
アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』
フィリップ・ハース監督『レイス・オブ・ヘブン 天のろくろ』

夢の中の家
A・M・バレイジ「夢想の庭園」
アンドレ・モーロワ「夢の家」
イギリス民話「夢の家」
内田善美『星の時計のLiddell』
E・F・ベンソン「塔のなかの部屋」
キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
バーナード・ローズ監督『ペーパーハウス/霊少女』
三津田信三「夢の家」

どちらが夢なのか?
アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
A・M・バレイジ「もうひとりいる自分」
ヘンリー・カットナー「大ちがい」
リーノ・アルダーニ「おやすみ、ソフィア」
ロバート・シェクリイ「夢売ります」
ロバート・シェクリイ「夢の世界」
チャールズ・ボーモント「夢と偶然と」
R・A・ラファティ「夢」
オースン・スコット・カード「解放の時」
ジェラルド・ペイジ「幸福な男」
ラムジー・キャンベル「夢で見た女」
ワレリイ・ブリューソフ「いま、わたしが目ざめたとき…」
フリオ・コルタサル「夜、あおむけにされて」
楳図かずお「楳図かずおの呪い 幽霊屋敷」
結城真一郎『プロジェクト・インソムニア』
エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』


人生は夢
ナサニエル・ホーソーン「デーヴィッド・スワン」
ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ「人の世は夢」
アースキン・コールドウェル「夢」
エルクマン=シャトリアン「壜詰めの村長」
半村良「夢たまご」
半村良『夢中人』
トマス・ピアース「実在のアラン・ガス」

死出の旅としての夢
アンブローズ・ビアス「ハルピン・フレーザーの死」
ライアン・スミス監督『スモーク』
ロバート・F・ヤング「河を下る旅」

悪夢を見る人々
ウィルキー・コリンズ「夢のなかの女」
ブラム・ストーカー「血まみれの手の悪夢」
シャーリイ・ジャクスン「夜のバス」
W・W・ジェイコブズ「人殺し」
シーリア・フレムリン「特殊才能」
ロード・ダンセイニ「悪夢」
アラン・ワイクス「悪夢」
ロバート・R・マキャモン「ミミズ小隊」
フィリップ・K・ディック「凍った旅」
H・P・ラヴクラフト「魔女の家の夢」
半村良「夢の底から来た男」
タニス・リー「アヴィリスの妖杯」
ジョナサン・キャロル「卒業生」
三田村信行「ゆめのなかの殺人者」
都筑道夫「夢買い」
高橋葉介「悪夢交渉人」
楳図かずお「錆びたハサミ」
チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』
瀬川貴次「心配しないで」

未来の夢
H・G・ウェルズ「世界最終戦争の夢」
クリス・ヴァン・オールズバーグ『ゆめのおはなし』
クリス・ヴァン・オールズバーグ『まさ夢いちじく』
クルト・クーゼンベルク「蒼い夢」

予知夢について
アベル・ユゴー「死の刻限」
リヒャルト・レアンダー「夢のブナの木」
ジョン・コリア「夢判断」
I・S・トゥルゲーネフ「夢」
リチャード・マシスン「おれの夢の女」
スティーヴン・キング「ハーヴィの夢」
ステファニー・ケイ・ベンデル「死ぬ夢」
フィリパ・ピアス「クリスマス・プディング」
ミッシェル・フェイバー『祈りの階段』
ローレンス・ブロック「頭痛と悪夢」
レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」

不思議な眠り
テオフィル・ゴーチェ「ミイラの足」
マルセル・ベアリュ「諸世紀の伝説」
レイ・ブラッドベリ「熱にうかされて」
J・G・バラード「マンホール69」
ジョン・コリア「眠れる美女」
ヘルムート・M・バックハウス「眠れる美女」
J・M・ストラジンスキー「夢の扉」
L・P・ハートリー「合図」
諸星大二郎「夢みる機械」
榊林銘「不眠症」

夢に潜り込む
ピーター・フィリップス「夢は神聖」
筒井康隆『パプリカ』
ジーン・ウルフ「探偵、夢を解く」
ウォシャウスキー兄弟監督『マトリックス』シリーズ
ターセム・シン監督『ザ・セル』
クリストファー・ノーラン監督『インセプション』

異世界の夢
アラン・E・ナース「悪夢の兄弟」
ジョーン・エイキン「ねむれなければ木にのぼれ」
ジョーン・エイキン「ぬすまれた夢」
ジャック・ロンドン『星を駆ける者』
萩尾望都『バルバラ異界』
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」
佐々木淳子「赤い壁」
佐々木淳子『ダークグリーン』
有栖川有栖「夢物語」

冷凍睡眠をめぐる物語
C・D・シマック『なぜ天国から呼び戻すのか?』
山田風太郎「冬眠人間」
トマス・ワイルド「乳母」
アーナス・ボーデルセン『蒼い迷宮』
J・ティプトリー・ジュニア「グッドナイト、スイートハーツ」

夢さまざま
ロード・ダンセイニ「予言者の夢」
ロバート・アーウィン『アラビアン・ナイトメア』
ロジャー・マンベル『呪いを売る男』
澁澤龍彦「夢ちがえ」
夏目漱石「夢十夜」
岸浩史『夢を見た』
イヴァン・ヴィスコチル「飛ぶ夢」
安部公房『笑う月』
眉村卓「疲れ」
スタンリイ・エリン「壁のむこう側」
高原英理「青色夢硝子」
高原英理「ブルトンの遺言」
澤村伊智「夢の行き先」
福澤徹三「廃憶」
フジモトマサル『夢みごこち』
マーガレット・ミラー『見知らぬ者の墓』
ミルチャ・エリアーデ『令嬢クリスティナ』
ウォルター・デ・ラ・メア『死者の誘い』
エドワード・ルーカス・ホワイト『ルクンドオ』
シャーロット・マクラウド「執念」
津川智宏『人魚町』

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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真実の魔法  ポール・ギャリコ『ほんものの魔法使』

ほんものの魔法使 (創元推理文庫 F キ 3-2) 文庫 – 2021/5/10


 ポール・ギャリコの長篇『ほんものの魔法使』(矢川澄子訳 創元推理文庫)は、奇術師たちが暮らす都市に、ほんものの魔法使が現れたことから起こる騒動を描いたファンタジー作品です。

 奇術師や手品師を生業とする人々が多く住まう都市マジェイア。ものいう犬モプシーを連れた青年アダムは、マジェイアの魔術師名匠組合への加入を申請するためにやってきたと言います。
 市長である「偉大なるロベール」の娘ジェインを助手とすることになったアダムは、審査会で不思議な術を披露して喝采を受けます。アダム本人はそれを「ほんものの魔法」だと説明しますが、周囲の人間はそれを信じてくれません。友人のジェインすらも種があると信じていました。
 「偉大なるロベール」、そして彼と敵対する腹黒い魔術師「全能マルヴォリオ」たちは、それぞれアダムの魔法の種を探り出そうと必死になっていました…。

 魔術師(厳密には奇術師)たちが暮らす都市に、ほんものの魔法を使う魔法使が現れてしまう…というファンタジー作品です。魔法使の当人アダムは純粋な青年で、自らが行う魔法を全く隠さないのですが、周囲はそれを特殊な奇術であって、種を出し渋っているだけだと勘ぐってしまうのです。

 アダムの魔法の種を知って自らの利益にしたいと思う者、彼に危険性を感じて排除しようとする者など、皆が皆、自らのために動くなか、唯一助手となったジェインのみはアダムの味方となります。しかしジェインも、最初はアダムが飽くまで優れた奇術師であって、その種を教えてくれないことに不満を持っていました。
 やがてアダムの魔法が「ほんもの」であること。見渡せば世界中に魔法が満ちており、自らの心次第でそれを感じ取れること、を知ることになります。
 アダムにとって魔法が「ほんもの」で「自然」であることは、彼が名乗る「ただのアダム」というニックネームにも現れていますね。

 飽くまで魔法を信じない奇術師たちと、魔法を信じるアダムやジェイン、その中間的な立ち位置として描かれるのがニニアンでしょうか。
 失敗続きの二流の奇術師で、アダムによって手助けをされて一時的に喝采を浴びることになりますが、自らの技量を客観的に把握しており、不安をずっと抱えています。アダムを裏切ることになってしまうのですが、後半ではそれを後悔することにもなります。
 善性と悪性、両方を抱えた人間味あるキャラクターとなっています。

 周囲の人物の悪意と嫉妬を知ってさえ、最後までアダムは彼らに仕返しをしようとはしません。むしろ恩恵さえ施すことになります。
 敵方となる魔術師の親玉ともいえるキャラに「全能マルヴォリオ」がいますが、むしろ「全能」にふさわしいのはアダムの方だといえるでしょうか。実際アダムは「全能」どころか「神」にも近い能力を持っています。それでいて驕らず、彼の魔法は、後に都市の住民たちに不思議な後味を残すことになるのです
 アダムがジェインに魔法(というよりはその概念といえるでしょうか)の意味を教えるシーンは、作中でも繊細で美しいシーンになっています。

 作品全体を見て、一見、にせもの(奇術)がほんもの(魔法)によって暴かれる…みたいなテーマを考えてしまうのですが、実のところ、そう単純なお話にはなっていないのも興味深いところです。奇術があったからこそ、魔法を受け入れられた…とも考え得るわけで、そのあたり、寓話としても面白い作品となっていますね。

 アダムが連れている、ものいう犬モプシーも盛んに活躍して楽しいキャラクターとなっています。アダムには間違いなくモプシーの言葉が聞こえているのですが、他の人間には彼の言葉が聞こえておらず、「ものいう」のもアダムにとってだけのようなのです。
 モプシーは、人間たちの態度に対してやたらと悪口を繰り返しますが、当の本人たちには、賛辞を言っていると思わせるアダムが描かれるシーンがたびたび登場し、笑ってしまいますね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

真実の友だち  A・F・ハロルド『ぼくが消えないうちに』

ぼくが消えないうちに (ポプラせかいの文学) 単行本 – 2016/10/4


 A・F・ハロルドの長篇『ぼくが消えないうちに』(エミリー・グラヴェット絵 こだまともこ訳 ポプラ社)は、少女の想像によって生み出された、空想上の少年の冒険を描いたファンタジー小説です。

 少年ラジャーは、想像力の豊かな少女アマンダの空想から生まれた少年でした。ラジャーはアマンダのみにしか見えませんが、二人は親友となり毎日を楽しく過ごしていました。
 ある日家に調査と称して現れたアロハシャツで禿頭の男は、バンティングと名乗りますが、彼は不気味な少女を連れていました。アマンダの母親には見えないその少女はどうやら男の「見えないお友だち」のようなのです。
 バンティングと少女はそれからもアマンダとラジャーの前に現れ続けますが、彼らのせいでアマンダは交通事故に遭い救急車で運ばれてしまいます。アマンダと離れ離れになったラジャーは、自分の体が透けてきていることに気が付きますが…。

 自分を作り出した少女と離れ離れになってしまった、空想の「見えないお友だち」の少年の冒険を描いたファンタジー童話作品です。
 いわゆる「イマジナリーフレンド」を扱っていますが、ユニークなのは、作り出された個人と離れても、存在し続ける者たちが登場する世界観です。創造主のアマンダと離れてしまったラジャーは、消滅の危機に立たされますが、同じような境遇の「見えないお友だち」たちと出会い救われることになります。彼らを存在させ続けているのは「信じる力」で、彼らを必要とする新たな子どもたちと出会えれば、存在し続けることができるのです。
 新しい子どもの友人を見つけ、行方と安否の知れないアマンダを探そうと考えるラジャーでしたが、その前には様々な困難が待ち構えています。

 当人であるラジャーも知らない「見えないお友だち」に関するルールが、冒険を重ねるにつれて明らかになってゆく過程が抜群に面白いです。存在するための条件やその寿命、消えたらどうなってしまうのか、など。はかない存在である彼らの悲劇的な運命と同時に、その喜びをも知ることになります。
 アマンダだけでなく、「見えないお友達」をめぐる他の子どもたちの様子や、大人になってしまったかっての子どもたちのことについても描かれます。アマンダの母親とその「見えないお友達」が、後半でアマンダとラジャーを助けることになる、という流れも良いですね。

 また「見えないお友だち」の「天敵」ともいえる伝説的な存在バンティングとその供の少女が、ところどころでラジャーたちを襲うことになり、その脅威を追い払うシーンにもサスペンスが溢れていますね。
 明確には描かれないのですが、バンティングとお供の少女をめぐる過去の都市伝説風のエピソード、そして彼が起こす行動が描かれる部分は非常に恐怖度が高く、ホラー味もあります。

 想像上の友だちではありながら、アマンダとラジャーの互いを思う心が描かれており、全体を通してとても読後感の良い作品となっています。
 「空想上の存在」にも生きる権利があり生きる意志がある…。空想と現実、想像力と人生について語られる真摯な物語で、これは傑作と言って良い作品だと思います。


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血と魂  メレディス・アン・ピアス『ダークエンジェル』

ダークエンジェル (ハヤカワ文庫 FT (102)) 文庫 – 1987/9/1


 メレディス・アン・ピアスの長篇『ダークエンジェル』(井辻朱美訳 ハヤカワ文庫FT)は、美しい吸血鬼に囚われた少女が、彼を滅ぼすために冒険をするというファンタジー作品です。

 結婚式に使う花を摘むため、主人のエオドゥインと共に山に登っていた召使いの少女エイリエル。突然現れた翼を持つ美しい吸血鬼ダークエンジェルに、エオドゥインはさらわれてしまいます。友人でもあったエオドゥインの復讐のため、ダークエンジェルを殺そうとするエイリエルでしたが、逆にさらわれてしまいます。
 ダークエンジェルが住む城には、過去に彼が花嫁としてさらってきた13人の女性がいました。花嫁たちはダークエンジェルに血と魂を奪われた上に亡霊となり、個人の区別もつかない状態になっていました。
 侍女として彼女らに仕えるうちに、エイリエルは恐ろしい事実を知ります。魂を奪われたものの、それはまだダークエンジェルが持っているといいます。14人分の魂を集め、それらをダークエンジェルの母親である水の魔女ローレライに捧げたとき、彼は完全な吸血鬼となり、さらに花嫁たちの魂は魔女に囚われて無になってしまうというのです。
 14人目の花嫁が連れてこられる前に、ダークエンジェルを殺す必要があることを知ったエイリエルは、城に昔から住んでいるというデュアロー族のタルブの助けも借り、その方法を探すことになりますが…。

 女性の血ばかりか魂までも飲み干す恐るべき吸血鬼、その吸血鬼ダークエンジェルに囚われた少女エイリエルの冒険を描くファンタジー作品です。
 この吸血鬼が恐るべき力の持ち主で、見つめられれば力を失い、思いのままになってしまうのです。囚われた花嫁たちの侍女として連れてこられたエイリエルは、その恐ろしさにおびえながらも、その美しさと、また哀れみから、彼に惹かれるようにもなります。

 前半は、城に囚われたエイリエルの行動が描かれ、その意志の強さでダークエンジェルに一目置かれるようにもなります。しかし花嫁として連れてこられた女性たちの魂の安寧が脅かされるのみならず、それが魔女ローレライの世界の支配にまで影響することを知ったエイリエルは、ダークエンジェルを倒す方法を探すために城を出ることになり、後半は冒険小説的な色彩が濃くなります。
 城を出たエイリエルは、魔法の力を持つ守護者たち、ライオンのペンダルロン、星馬アヴァルクロンらと出会うことにもなります。彼らの協力を得て、ヴァンパイアを倒す手段を探すことになるのです。

 ヴァンパイアという「怪物」が登場しながらも、ホラー要素は強くなく、あくまで「ファンタジー」として展開される作品です。魔法や幻獣が多数登場する一方、SF的な世界設定を匂わせたりと、謎を含んだ神秘的な世界観も魅力となっています。
 物語の舞台が地球ではない星であるようなのも独特の設定です。創世神話のような形でたびたび言及されるのですが、地球からやってきた者たちによってこの世界が作られたようなのです。空に浮かぶ星「ソルスター」は恐らく地球なのでしょう。

 主人公エイリエルは強い意思を持つキャラクターとして描かれています。特にその優しさ・寛容さは際だっていて、殺すべき敵であるダークエンジェルの境遇にも同情し、彼が苦しむ場面では手を差し伸べようとしてしまうのです。
 しかし彼を殺さなければ、花嫁たちの魂も世界も救われません。彼女の思い切った決断が描かれるクライマックスには感動がありますね。

 解説によれば、ユングの自伝のエピソードとして語られる、十八歳の女性患者の訴えた幻覚のイメージから物語が着想されたそうです。それもあって、確かに夢幻的・象徴的な雰囲気が強い作品となっていますね。
 続編も書かれているそうなのですが未訳です。一応一作で完結しているものの、続きを匂わせる形で終わっており、続編も気になるところではあります。


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幻獣たち  タニス・リー『ゴルゴン 幻獣夜話』

ゴルゴン―幻獣夜話 (ハヤカワ文庫FT) 文庫 – 1996/3/1


 タニス・リー『ゴルゴン 幻獣夜話』(ハヤカワ文庫FT)は、幻獣をテーマにした短篇を収めています。どれも広い意味でのファンタジーですが、ホラー、コメディ、サスペンスなど、様々な要素が盛り込まれており、バラエティに富んだ作品集となっています。

「ゴルゴン」
 ギリシアのダフォー島にやってきた作家の「私」は、沖の近くに浮かぶ小島に関心を抱きます。島へ渡ることはおろか、そこについて話すことも嫌がる現地の人々に不審の念を抱く「私」は、島にゴルゴンが住んでいるという噂があることを知ります。
 一人で島に渡った「私」が出会ったのは、仮面をかぶった不思議な女性でした…。
 ゴルゴンが住むと噂される島を訪れた作家が、仮面を付けた女性に出会うという物語です。彼女は本当に見た者を石に変えるという妖女なのか? 極めて神話的な雰囲気で展開される物語でありながら、実際に現れるのは残酷な現実なのです。しかもその「真実」によって、「私」自身も変化を遂げることになる…というシニカルな幻想小説となっています。

「アンナ・メディア」
 両親も手の付けられない子どもたちロジャーとサイベル。何人もの家庭教師が匙を投げていましたが、新しくやってきたアンナ・メディアは見事に子どもたちを大人しくさせます。夫のクロードはその働きに満足していましたが、妻のクロエは彼女に嫌悪感を抱き、
 アンナ・メディアをくびにしてほしいと言い出します。アンナ・メディアが黒魔術を行っているのではないかという疑いを抱いたクロードは彼女を追い出してしまいますが…。
 有能ながら独特の雰囲気を持つ冷ややかな家庭教師アンナ・メディア。彼女はいったい何者なのか?彼女がいなくなった後に家族には災難が訪れるのですが、黒魔術を行っていた邪悪な人物がアンナ・メディアだったのか、それとも別の人物だったのか、またそれは本当に黒魔術だったのか…、そのあたりは曖昧にされています。

「にゃ~お」
 スティルの恋人となった少女キャシーは、両親から受け継いだ家に沢山の猫と共に暮らしていました。キャシーは、家を出て二人で新しい家に住もうというスティルの提案を受け入れようとはしません。
 猫に取り憑かれたかのようなキャシーの姿にショックを受けたスティルは、彼女と別れようと決心しますが…。
 猫に憑かれた少女と青年との不思議なラブストーリーです。キャシーが憑かれたのが、ただの猫なのか、それとも違う存在なのかは曖昧にされていますね。

「狩猟、あるいは死―ユニコーン」
 ユニコーンに関わることになった人物レイスファンの人生が、生まれ変わりを通して三通りに描かれるという作品です。最初はユニコーンを目撃した音楽家の男ラウロとして、次にユニコーンへの生け贄として育てられた娘シフェイナとして、そして最後にユニコーン自身として…。
 転生を経て、ユニコーンと関わり続ける人物を描いたファンタジーなのですが、男、女、そしてユニコーン自身にまで転生してしまうという、ユニークな構成となっています。
 一話目と二話目は、それぞれ男と女がユニコーン自身に対して抱いていたイメージが裏切られ、ある種の失望を抱く…という展開になっていますが、三話目では、ユニコーン自身となった存在がそれらの人間的感情から自由になり、神話的存在と一体化していくという、神秘的なファンタジーとなっています。

「マグリットの秘密諜報員」
 下着売り場で働く女店員の「わたし」は、ある日客として訪れたベスマス親子に出会います。その息子は車椅子に乗せられた非常に美しい青年で「わたし」は一目で魅了されてしまいます。入荷した品物を届けるという名目で、ベスマス家を訪れた「わたし」は、青年の名前がダニエルであり、彼がまともに人間とコミュニケーションが取れないことを知ります。度々ベスマス家を訪れているうちに、ミセス・ベスマスからダニエルの父親は名前も知らない「海の男」であることを聞き出すことになりますが…。
 人間離れした美しさを持つ白痴のような青年に魅了された女性が、不思議な体験をすることになるという物語です。青年の父親がおそらく人間ではないだろうことが示唆されるのですが、青年自身も最終的に海に帰っていってしまう…という幻想的なラストを迎えることになります。
 お話の枕として、ルネ・マグリットの絵画「秘密諜報員」の内容について語られ、それが物語の展開を象徴するものともなっています。ついでにマグリットの作品「秘密諜報員」も紹介しておきますね。
secret agent

「猿のよろめき」
 数百年前、ダージラ=ニイと呼ばれる土地にやってきた「栄国人」たちは、そこに住む先住民ダージラ人たちを支配するようになります。遍歴の旅に送り出された栄国人の勇士エドモンドは、美しき魔物と出会い、その虜となってしまいますが、助かるためにはある条件を満たさなければならないと教えられます。そのヒントとして出された言葉は「猿のよろめき(モンキーズ・スタガー)」でした…。
 「猿のよろめき」とは一体何を表しているのか? 魔物の手から逃れるために冒険を繰り広げる青年を描いた楽しいファンタジーです。登場する魔物自体もどこかユーモラス。青年が身柄を拘束されてしまうのみならず、「性的」(?)にも虜になってしまうという、官能的な要素もありますね。

「シリアムニス」
 美しく精悍な若殿リュシアスは、奴隷商人から東方の出身らしい美しい女奴隷シリアムニスを買い受けます。彼女が来てからリュシアスは怒りっぽくなり、様子が変わり始めます。リュシアスを可愛がっていた老召使トーメットは、シリアムニスが魔物でありリュシアスに悪い影響を与えていると考え、彼女の秘密を探ろうとしますが…。
 美しい女奴隷が魔物であり、青年に悪影響を及ぼしていく…というダーク・ファンタジー作品です。変身したり、精気を吸い取ったりと、悪魔のような存在なのですが、その正体ははっきりしないばかりか、最後まで不幸を与え続ける…という物語。官能的な雰囲気も濃いですね。

「海豹」
 無口で狷介な海の男ハス・ハラス。彼の誘いを断った女は今までいませんでしたが、唯一モーナのみはその誘いを断ります。モーナを手に入れるため、彼女が欲しがる海豹の毛皮を求めて狩りに出たハス・ハラスは、巨大な金色の海豹を狩りその皮を剥ぎます。
 ある夜、彼の小屋に毛皮を取り戻しに来たという女が現れ、毛皮の代わりに望みを叶えようと言いますが…。
 <海の民>の王子である海豹を殺したために、その母親が人間の姿を取って現れるという幻想譚です。神話的な貫禄のある作品になっていますね。

「ナゴじるし」
 ペットである猫に悩まされていた「彼」は、ある日奇妙な異星人にさらわれてしまいます。その行状を知りながらも、異星人の保護者である存在はそれを許していました…。
 飼い主を困らせる「猫」たち。人間と猫の関係が、異星人のそのペットについてスケールを代えて語られるという、ブラック・ユーモアたっぷりのSF作品です。

「ドラコ、ドラコ」
 薬売りの老人は、馬を失った騎士カイと出会い、旅の道連れとなります。辿り着いた村ではドラゴンの生け贄として生娘を捧げていました。カイはドラゴンを殺して英雄になると息巻きますが、生け贄の娘ニエメは自らが殺されることを覚悟し、老人に痛みを感じなくなる薬をくれないかと懇願します…。
 ドラゴン退治を描くファンタジーなのですが、この作品でのドラゴンは、理性も持たない文字通りの「怪物」で、普通の人間では手に負えない存在として描かれています。息巻く騎士に対し、彼にはドラゴン退治など無理だと悟った老人の視点から物語が語られていきます
 現実的に生き残ることは無理だと考える生け贄の娘と、その思いを汲んだ老人の心理と行動が描かれており、哀切な雰囲気を醸し出していますね。
 「ドラゴン退治」というファンタジーの定型的なモチーフを、極端に「現実的」に描くというユニークな試みがされています。肉体的・心理的な「痛み」が強く感じられる作品です。

「白の王妃」
 権威に憧れ、100歳を超える老王に嫁いだ娘。王妃となったその夜に王に先立たれ、その後の人生を、無人の塔で死ぬまで過ごすことになります。ある日現れた黒いカラスにより、王妃は時を超えて美しく若い王と出会い、恋をすることになりますが…。
 監禁された元王妃が、結ばれることのないだろう美しい王と出会い恋をする…という美しい恋愛物語に見えるのですが、その実、その時を超えた恋ゆえに、王妃も、相手の王も、それぞれの不幸な運命を招き寄せてしまっていた…という、時の因果を巡る残酷な物語となっています。
 「白の王妃」「黒いカラス」など、作中での色の対比、王妃と王の若さと老いの対比などもあり、構成的にも美しい作品になっていますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

不幸のない国  ライマン・フランク・ボーム『魔法がいっぱい!』

魔法がいっぱい! (ハヤカワ文庫 FT 36) 文庫 – 1981/11/30


 『オズの魔法使い』で知られるアメリカの作家ライマン・フランク・ボーム(1856-1919)の『魔法がいっぱい!』(ハヤカワ文庫FT)は、人の死なない<モーの国>で繰り広げられる不思議な出来事が、ユーモアたっぷりに語られるファンタジー童話集です。

 <モーの君>が治める<モーの国>は、住む人皆が幸せに暮らす国でした。必要なものは食べ物を含め、全てが木になるので、働く必要はなく、貧富の差もありません。人々は死ぬことがなく、手足を切られたりしても再びくっつけることも可能なのです。
不思議な国でのおかしな出来事や、風変わりな人物たちが起こす事件が、ユーモラスかつナンセンスに語られていく童話集となっています。各エピソードの主人公となるのは、王さまや王子、王女といった王族たちの人物がメインとなりますが、彼らに降りかかるのは思いもかけない事件ばかりなのです。

 <モーの国>の概要が語られる「モーの<美しが谷>の巻」、ドラゴンに首を食いちぎられた王さまが様々な代わりの首を探すという「王さまの首の不思議な冒険の巻」、モーの国に入り込んだ犬と王さまの出会いを描く「ノラ犬と王さまの堪忍袋の巻」、困り者のジンロク王子がフルーツケーキばかりがなる島に置き去りにされるという「フルーツケーキ島の腹痛の巻」、王さまの誕生祝いの席で、湖に落ちた者たちの救出活動が描かれる「王さまの誕生祝いの巻」、モーの国を憎むニガムシ王が作った鉄人に国が襲われるという「ニガムシ王と鋳鉄怪人の巻」、癇癪持ちの姫に恋した青年がその癇癪を治すため魔女のもとに向かう「ティムトムとパイケーキ姫の巻」、怪物ギーガブーとヨーキナ王子の戦いを描く「ヨーキナ王子の勇気の巻」、魔法使いに親指を盗まれた姫の冒険を描く「魔法使いとトルエラ姫の巻」、河の穴に落ち、全てがアベコベだという国に入り込んだ公爵夫人の困惑を描く「パントバタ公爵夫人、アベコベ国への巻」、巨人の夫婦に招かれたキーキコ王子がひょんなことからぺしゃんこになってしまう「キーキコ王子と巨人の巻」、サルが社会を営む国で動物園に囚われたジンロク王子を描く「サル人間の国の巻」、盗まれたプラム・プディングをめぐって犯人探しが行われる「ぬすまれたプラム・プディングの巻」、モーの国を荒らし続けるドラゴンが退治された経緯が語られる「ムラサキ・ドラゴン退治の巻」が収録されています。

何が起こってもおかしくない不思議な国モーでの様々なトラブルやエピソードが描かれてゆきます。この国では人が死なないのですが、事故や事件は起こるので、人々はたびたび怪我をしたりもします。首をちぎられたり、手足を切られたり、ぺしゃんこになったりするのですが、その姿のまま生きて行動しているという、何ともシュールでナンセンスな世界が展開されます。
 「王さまの首の不思議な冒険の巻」では、首をなくした王さまが様々な別の首をすげかえたりしますし、「キーキコ王子と巨人の巻」では、ぺしゃんこになった王子が丸まって転げ落ちたりもするのです。
 モーの国の人は死なないのですが、別の国の人や怪物は死ぬという設定なので、ちょっとした残酷風味もあるのが興味深いところですね。

 ナンセンス味が突き抜けた結果、どこか哲学のような味わいが感じられる部分もあります。全てが逆になった世界を舞台にした「パントバタ公爵夫人、アベコベ国への巻」、サルだけの国で人間が見世物にされてしまうという「サル人間の国の巻」などは、常識を笑うという諷刺的なエピソードとなっています。
 「王さまの首の不思議な冒険の巻」では、木樵りの首をつけた王さまが、自分が木樵りなのか王さまなのか分からなくなります。「王さまの誕生祝いの巻」では、沈んだ人間を釣り上げるために、釣り竿の先に、なんと「キス」や「笑い声」をくっつけたりするのです。
 こうした個々のシーンにも、言葉遊び、ナンセンス、さらにはちょっとした哲学風味までがあって、どのエピソードも楽しめるお話になっています。

 ボームの代表作『オズの魔法使い』以前に書かれた作品集であるらしく、後にオズシリーズに再登場したり、原型となったキャラクターも多く含まれているそうです。
 どのキャラもユニークですが、図書室の本を食べつくした結果、国一番の学者になった<知恵者のロバ>、役に立たない博士たちを挽肉にして混ぜ合わせ焼き直した<博士>のキャラクターは目立って楽しいです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

生と死の喜び  ソーン・スミス『トッパー氏の冒険』
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 アメリカの作家ソーン・スミス(1892-1934)の長篇『トッパー氏の冒険』(井上一夫訳『世界ユーモア文学全集 第13巻』筑摩書房 収録)は、平凡な中年男性が、事故死した夫婦の幽霊と出会い、人生を変えてゆくというファンタジー作品です。

 40年配の真面目な中年男性トッパー氏は、自動車修理屋で見かけた車に気を惹かれ、衝動的にその車を買ってしまいます。その車は、かって資産家の若夫婦ジョージとマリオンのカービー夫妻のものでした。数か月前に車で事故を起こし、夫妻は亡くなってしまったのです。修理された車を使って、トッパーは密かに運転の練習を重ねます。
 免許を手に入れたトッパーは、妻を驚かせようと、休暇を取って車で妻の前に現れますが、夫人はドライブを拒否し車を罵倒します。憤慨したトッパーはそのまま走り出し、やがてカービー夫妻が事故を起こした木のある場所を通ることになります。
 トッパーは、突如、姿の見えない男と女の声が聞こえてくるのに驚きます。いつの間にか、車には事故で死んだカービー夫妻の霊が乗り込んでいたのです。夫妻と意気投合したトッパーは、彼らと共に様々な冒険に繰り出すことになりますが…。

 真面目な中年男性トッパーが、事故死した陽気な若夫婦カービー夫妻の幽霊と出会い、彼らと共に冒険を繰り広げるという、都会派ファンタジーです。
 生前にはほとんど接点のなかったカービー夫妻と出会ったトッパーが、従来の彼の性格からは考えられないようなどんちゃん騒ぎや冒険を繰り返し、懐の広い、魅力的な人間になっていくことになります。
 トッパーは最初はカービー夫妻両人とつきあっていたものの、やがて放浪癖のある夫のジョージが長旅に出てしまい、もっぱら妻のマリオンと共に行動することになります。やがて二人の間には恋のような感情までもが生まれることになります。

 明確には説明されないのですが、この作品に登場する幽霊は、どこか別世界へ行く前の中間段階のような存在らしく、部分的に物理世界に干渉もできる、という設定です。普段は人には姿が見えませんが、霊体エネルギーを使って集中すれば、生前の姿を現すことも可能になっています。
 また飲み食いしたり、物を持ったりすることもできるので、場合によっては、生者と区別もできないほどなのです。
 ばか騒ぎが好きで童心を持つマリオンにそそのかされて、トッパーはいろんなトラブルに巻き込まれますが、それを通してトッパーが生きる喜びを見出していく、という作品になっています。

 後半では、カービー夫妻以外にも幽霊が存在することが示されます。中でもユニークな存在が犬の幽霊オスカー。エネルギーが不足しているため、いつも部分的にしか実体化できず、お尻だけとか尻尾だけとか、体の一部だけが現れているという面白いキャラクターとなっています。

 死者たちに接触することによって、逆に生の喜びを知るという逆説的なファンタジーです。幽霊たちもまた生の世界を楽しんでおり、こうした死者や幽霊を扱った作品でありがちな「彼岸への憧れ」といったものがほとんど出てこないのがユニークなところではありますね。
 「ヒロイン」である幽霊マリオン・カービーがとてもコケティッシュで魅力的に描かれています。トッパーとの間に仄かな恋愛が生まれるのですが、幽霊であるだけにそこは生々しくはなく、プラトニックな感情や友情的なものが強くなっています。彼女との別れが描かれる結末には、ある種の感動がありますね

 生真面目で、人生に特に劇的なことも起こらない。何かを変えたいと思いつつも何をしたら良いのかも分からない…。そんな男性の不思議な冒険を描いており、ある程度年齢を重ねた読者には、より心に響く作品ではないでしょうか。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

10月の気になる新刊
10月5日刊 R・A・ラファティ『町かどの穴 ラファティ・ベスト・コレクション1』(牧眞司編 伊藤典夫・浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF 予価1540円)
10月6日刊 今野圓輔編『日本迷信集』(河出文庫 予価990円)
10月8日刊 「ナイトランド・クォータリー vol.26 異教の呼び声」(アトリエサード 1870円)
10月11日刊 東雅夫編『鬼 文学怪談ライバルズ!』(ちくま文庫 予価1210円)
10月12日刊 「紙魚の手帖 vol.1」(東京創元社 予価1540円)
10月12日刊 ロバート・ルイス・スティーヴンソン『さらわれて デイビッド・バルフォアの冒険』(佐復秀樹訳 平凡社ライブラリー 予価1650円)
10月12日刊 浅羽通明『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』(筑摩選書 予価2200円)
10月13日刊 芥川龍之介『黒衣聖母 探偵くらぶ』(日下三蔵編 光文社文庫 予価880円)
10月21日刊 小林泰三『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』(角川ホラー文庫 予価748円)
10月22日刊 ピエール・マッコルラン『黄色い笑い/悪意』(中村佳子・永田千奈訳 国書刊行会 予価4620円)
10月26日刊 沼野充義、沼野恭子編訳『ヌマヌマ はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』(河出書房新社 予価3520円)
10月26日刊 ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで 改装版』(直野敦訳 法政大学出版局 予価2750円)
10月29日刊 スティーヴン・ミルハウザー『夜の声』(柴田元幸訳 白水社 予価2750円)
10月刊 アラン・ムーア作、ジェイセン・バロウズ画『ネオノミコン』(柳下毅一郎訳 国書刊行会 予価3080円)

創元推理文庫 復刊フェア
F・W・クロフツ『マギル卿最後の旅』
H・C・ベイリー『フォーチュン氏の事件簿』
ドロシー・L・セイヤーズ『毒を食らわば』
マイケル・ギルバート『捕虜収容所の死』
ピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』
アントニー・マン『フランクを始末するには』
アーサー・マッケン『夢の丘』
W・H・ホジスン『夜の声』
ロバート・A・ハインライン『大宇宙の少年』
川又千秋『幻詩狩り』


 『町かどの穴 ラファティ・ベスト・コレクション1』は、異色作家R・A・ラファティのベスト選集の第一巻。これは好企画ですね。


 ミステリ専門誌「ミステリーズ!」が休刊し、その後継誌として創刊される「紙魚の手帖 vol.1」は、ミステリだけでない総合ジャンルを扱う雑誌のようです。これは気になりますね。

 ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで 改装版』は、エリアーデの迷宮的幻想小説の改装版。エンターテインメントとしても面白く読める作品です。

 アラン・ムーア作、ジェイセン・バロウズ画『ネオノミコン』は、H・P・ラヴクラフトとクトゥルー神話作品に触発されたグラフィック・ノベルとのこと。これは面白そうです。

 毎年恒例の創元推理文庫の復刊フェアが今月開催です。怪奇幻想ジャンル的には、アーサー・マッケン『夢の丘』、W・H・ホジスン『夜の声』が要注目でしょうか。アントニー・マン『フランクを始末するには』も<奇妙な味>の短篇集で面白いのでお勧めしておきます。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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