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ホラー映画の味わい方  綾辻行人・牧野修『ナゴム、ホラーライフ』
4840128200ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ (幽ブックス)
綾辻行人、牧野修
メディアファクトリー 2009-06-17

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 ホラー映画好きの二人が、好きなホラー映画について語った『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ』(メディアファクトリー)は、ホラー映画ファンにとっては、たまらなく楽しい本です。
 この本は、作家の綾辻行人と牧野修が、交互にホラー映画について語っていくという、リレー・エッセイで、理論社のサイト上で連載されていたものです。軽めのおしゃべりが続くライトエッセイかと思いきや、ホラー映画の本質をえぐる考察にまで踏み込んでしまうという、意外にも奥行きのあるエッセイになっています。
 何より著者二人の、ホラー映画への愛があふれているところに好感を抱きます。例えば、かねてよりダリオ・アルジェントへの愛着を公言している綾辻行人、B級、Z級ホラーには興味がないのかと思っていましたが、ちゃんとこうした作品にも目を通して、等しくジャンルを愛している様子が窺えます。
 「生物パニックホラー」「Jホラー」「続編もの」「フェイク・ドキュメンタリー」など、いろいろなテーマが俎上に上りますが、読んでいて、興味を引かれたトピックがいくつかあります。まずは「ゾンビ」についての考察。以前はのろのろしていた「ゾンビ」が、いつのころからか「足の速い」タイプが出てきたことについて、語っている部分です。

 ゾンビの怖さ・嫌さは、ゆっくり歩いてきてゆっくりと襲いかかるところにこそある。連中はあんなに大勢いるけれど、頑張れば案外すんなり逃げられそう、やっつけられそう−というひと筋の希望が、それが叶わなかったときの絶望と恐怖を際立たせるのではないか。これが「速いゾンビ」になると、はなから「無理!」と思ってしまう。

 これはなるほど!と思いました。
 あとは、ホラー好きの二人でも、観終わって非常にいやな気分になる作品があって、その感じを本書では、「どよーん」と表現しているのですが、その感じについて考察している部分は、ホラー映画というものについて考えさせられるところが大です。
 主にこの話題は、トビー・フーパー『悪魔のいけにえ』を中心に語られるのですが、牧野修の次のような意見は参考になりますね。

 それはやはり〈どよーんツボ〉は「人によって引き起こされる不快感」を中心としたものに圧されるからで、単なるスプラッタ、たとえば13日の金曜日シリーズのようなものにはあまり圧されることはないはずだ。たとえそれがどれほど不快さを煽ろうとした描写であろうと、だ。
 それはジェイソンが怪物であり人ではないからだ。つまりジェイソンによる死は、事故死とあまりかわりないものなのだ。


 同じアンハッピーエンドを基調とするホラー映画にあっても、観終わった後に、陰惨な気分になるものとそうでないものがありますが、その理由の一端について、初めて納得の行く意見を聞いたように思います。
 ホラーファンにとっては、エッセイ内で言及される、有名無名のタイトルを眺めているだけで楽しめてしまうのですが、著者二人の、重度のホラーファンであるがゆえの深い洞察にも読むべきところが多々あります。
 タイトルと内容からしても、ホラー映画ファンでない人が手に取る本ではないと思いますが、人間の恐怖感情について考察した本として、なかなか面白い本ではないでしょうか。
7月の気になる新刊
7月2日刊 『SF本の雑誌』(本の雑誌社 1575円)
7月7日刊 尾崎翠『第七官界彷徨』(河出文庫 予価630円)
7月7日刊 結城信孝編『岡本綺堂 怪談選集』(小学館文庫)
7月上旬刊 C・ヴァルスチェック『人形遣いの謎』(未知谷 予価2520円)
7月16日刊 J・L・ボルヘス『続審問』(岩波文庫)
7月17日刊 黒羽英二『十五号車の男』(河出書房新社 予価1890円)
7月25日予定 『都筑道夫の読ホリデイ 上・下』(フリースタイル 予価各2625円)
7月25日刊 デニス・ルヘイン『コーパスへの道』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価672円)
7月25日刊 イアン・ランキン『貧者の晩餐会』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価882円)
7月下旬刊 トマス・M・ディッシュ『歌の翼に』(国書刊行会 予価2520円)
7月下旬刊 ロバート・チャールズ・ウィルスン『無限記憶』(創元SF文庫 予価1302円)
7月下旬刊 アーサー・C・クラーク『90億の神の御名』(ハヤカワ文庫SF 予価924円)

 『SF本の雑誌』は、『本の雑誌』に掲載された、SF関係の記事をまとめたガイド本のようですね。テーマ別のエッセイも多く収録されているようで、期待大です。
 尾崎翠は、個人的に大好きな作家なんですが、なかでも『第七官界彷徨』は、傑作中の傑作だと思っています。ちくまから集成版も出ていますが、今回は選集になるのでしょうか。ちなみに先日出た尾崎翠に関するムック『KAWADE道の手帖 尾崎翠 モダンガアルの偏愛』は、充実した出来で、ファンの方なら楽しめます。
 『岡本綺堂 怪談選集』は、たぶん綺堂の怪談の選集なんでしょうが、単行本未収録作品などがあるのか気になりますね。
 ボルヘス『続審問』は、かって晶文社から『異端審問』というタイトルで出ていたものの文庫化です。ボルヘスのエッセイって、難解なイメージがありますが、この本に関してはかなりわかりやすいです。目から鱗が落ちるような発想が含まれているので、読んでみていただきたいです。
 ハヤカワ・ミステリ文庫からは、《現代短篇の名手たち》という新シリーズがスタート。かって光文社文庫から出た《英米短編ミステリー名人選集》というシリーズがありましたが、あれの現代版といった感じですね。第1回配本は、ルヘインとランキン。短編好きには期待が高まるシリーズですね。
女性のための幽霊物語  川本静子・佐藤宏子編訳『ゴースト・ストーリー傑作選』
462207463Xゴースト・ストーリー傑作選――英米女性作家8短篇
川本静子・佐藤宏子
みすず書房 2009-05-23

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 みすず書房から刊行された『ゴースト・ストーリー傑作選 英米女性作家8短篇』(川本静子・佐藤宏子編訳)は、英米の女性作家による怪奇小説を集めたアンソロジーであり、怪奇小説ファンにとっては、ひじょうにありがたい企画です。
 ただ、『淑やかな悪夢』(倉阪鬼一郎ほか編訳 創元推理文庫)や、梅田正彦による二冊のアンソロジー『ざくろの実―アメリカ女流作家怪奇小説選』『鼻のある男―イギリス女流作家怪奇小説選』という、同テーマのアンソロジーがいくつも出てしまっている現在では、やはりその有り難みは半減してしまいます。それに加えて、今回のアンソロジー、編者がどうやらアカデミック畑の方らしいということと、収録作品が8つと少なめなことから、正直、あまり期待せずに読み始めました。
 意外、と言っては失礼ですが、訳文はこなれていて、かなり読みやすくなっています。そして、肝心の内容の方ですが、こちらも安定した出来で、楽しむことができました。それでは、いくつか紹介していきましょう。

 エリザベス・ギャスケル『老いた子守り女の話』 両親を亡くし、親戚の家に預けられた娘は、雪の中で凍える幼い女の子を目撃し、彼女を助けてと懇願します。それを聞いた邸の老嬢は驚愕します。それは数十年以上前に、彼女が見殺しにした姪だったのです…。
 アンソロジー・ピースとしても有名な、ギャスケルの名作短編です。かっての悲劇が目の前で再現される、というオーソドックスな展開ながら、落ち着いた語り口と滋味のある描写で読ませます。

 メアリー・エリザベス・ブラッドン『冷たい抱擁』 絶対の愛を誓いあった、いとこ同士のふたり。しかし画家である男は、外国に渡り、婚約者のことを忘れてしまいます。父親から意に染まぬ結婚を強制された女は、自ら死を選びます。やがて故郷に戻った男の身に不可解な現象が起こり始めます…。
 背後から首に巻き付く腕だけの幽霊、というのが恐怖感を煽ります。無人の大広間で、男が死ぬまで踊らされるという結末のシーンはじつに圧巻。

 シャーロット・リデル『ヴォクスホール通りの古家』 父親と仲たがいした青年は家を飛び出しますが、行く当てはありません。やがて出会ったかっての使用人の好意で、古い家に泊めてもらうことになりますが、そこはかって殺人があった家でした。やがて青年は不思議な夢を見て…。
 幽霊と出会った経験が青年を成長させ、親子の和解をもたらすという、成長小説的な側面も持つユニークな作品。

 ヴァイオレット・ハント『祈り』 死んだ夫のベッドの横で、ひたすら祈り続ける妻。そのかいあって、夫は奇跡的に生き返ります。しかしそれ以後、夫は冷たい人間になり、子供すらも怖がって近付かなくなってしまいます。やがて夫婦の間には破局が訪れて…。
 夫が生き返ったのは超自然的な現象なのかは、はっきりと示されません。それゆえ夫婦間の破局が、超自然によるものなのかそうでないのか、両方の解釈が可能となっています。

 ケイト・ショパン『手紙』 死期を予期した妻は、かって恋人と交わした手紙を焼き捨てていきます。しかしどうしても捨てられない手紙が残ってしまいます。開封せずに処分してくれと、妻から託された夫は、迷いつつも、河へ投げ捨てます。しかし失われた妻の秘密に対し、夫は煩悶を繰り返します…。
 妻の秘密とはいったい何だったのか? 信頼を受け、それに応えた夫はしかし、やり切れない思いにとらわれます。固有名詞や具体的な時日を排しているため、かなり象徴性が高く、寓意の強い作品になっています

 メアリ・ウィルキンズ・フリーマン『ルエラ・ミラー』 愛らしい容姿を持ち、見る人を魅了せずにはおかない若い娘、ルエラ・ミラー。しかし彼女に関わる人間はみな、早死にしてしまうのです。夫をはじめ、義妹、手伝いにきてくれる娘や親戚、やがて再婚した相手もまた死んでしまいます。村中から忌まれるようになった彼女はやがて衰弱していきますが…。
 周りの人間の精気を吸い取ってしまうかのような娘ルエラ・ミラー。しかし彼女自身にその自覚は全くありません。精神的な吸血鬼小説、という解釈も可能でしょう。語り手となる老婆のキャラクターと語り口になかなか魅力があります。

 全体にレベルの高いアンソロジーではあるのですが、収録作品が少な目なことと、それにしては高い定価(3360円)なので、コストパフォーマンスを考えると、いちがいにお勧めしかねる本ではあります。マニアのためのアンソロジーといえるでしょうか。
無限のエンディング
帝都最後の恋―占いのための手引き書 (東欧の想像力) 宿命の交わる城 (河出文庫) ファンタジーの文法―物語創作法入門 (ちくま文庫)

 セルビアの作家、ミロラド・パヴィチの『帝都最後の恋 −占いのための手引き書』(三谷惠子訳 松籟社)が刊行され、早速入手しました。
 これは、タロットカードの1枚1枚に対応した22の章で構成され、章の順番どおりに読むもよし、タロットを手引きにランダムに読んでもいい、という凝った趣向の作品です。
 タロットを使った小説といえば、イタロ・カルヴィーノの『宿命の交わる城』に前例があります。違いと言えば、パヴィチの作品の方が、読者の参加の余地が多い、というところでしょうか。
 パヴィチの作品は、既に二冊ほど邦訳が出ています。ひとつは、どこからでも読める事典形式の小説『ハザール事典』(東京創元社)。もうひとつは、本の両端から始まった二つの物語が中心で出会うという『風の裏側』(東京創元社)です。このパヴィチという人、作品がどれも非常に凝った趣向で書かれていて、読者の「読み」の可能性を広げてくれるというところが魅力です。
 さて、『帝都最後の恋 −占いのための手引き書』の作品本文は、まだ全然読んでいないのですが、今回語りたいのは、解説の部分。そこで、未訳のパヴィチの作品にいくつか触れているのですが、気になったのが『あなただけの物語』という作品です。
 この作品、なんと結末が百通りあるというのです。具体的には、同じ作品で、結末が違う本が、百種類あるということです。自分の買った本の結末は、他の本のどれとも異なります。まさに「自分だけの物語」というわけです。
 読者参加型の小説作品は、いくつかありますが、これはその極致でしょう。ぜひ邦訳してほしいところですが、印刷・出版コストの面を考えると、日本での出版は難しそうです。
 結末が複数ある小説、といえば、思い出すのがイタリアの作家ジャンニ・ロダーリの『物語あそび −開かれた物語−』(窪田富男訳 筑摩書房)という作品。これは、ロダーリが途中まで作ったお話の結末を、子供たちに考えてもらう、という趣向の本です。子供たちが考えた、それぞれ何種類かの結末に加え、それに対するロダーリの考えも述べられています。結末を選ぶことができ、それが気に入らなければ、自分だけの結末を考えることもできます。
 想像力を刺激するという意味で、ほんとうに「ファンタジー」に富んだ本なので、これはぜひ再刊してほしい本ですね。ちなみにロダーリの創作論である『ファンタジーの文法』(窪田富男訳 ちくま文庫)と連動しているので、合わせて読むと、非常に楽しめます。
 作家と読者という面に光を当ててみると、小説作品に対する可能性がもっと開けるような気がしてきます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

6月の気になる新刊
6月9日刊 ロベルト・ボラーニョ『通話』(白水社 予価2310円)
6月10日刊 ウラジーミル・プロップ『魔法昔話の研究 口承文芸学とは何か』(講談社学術文庫)
6月12日刊 徳永康元『ブダペストの古本屋』(ちくま文庫 予価945円)
6月19日刊 柴田元幸編訳『いずれは死ぬ身』(河出書房新社 予価1995円)
6月中旬刊 鹿島茂『馬車が買いたい! 新版』(白水社 予価3360円)
6月25日刊 チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』(早川書房 予価3360円)
6月25日発売 『ミステリマガジン8月号』(特集=幻想と怪奇 ポー生誕200周年〉(早川書房 840円)
6月30日刊 大森望・日下三蔵編『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(創元SF文庫)
6月刊 『SF本の雑誌』(本の雑誌社 予価1575円)

 徳永康元『ブダペストの古本屋』は、元本を既読なのですが、味のあるエッセイ集でした。古本の話題もありますが、戦前の外国語学習や留学の話がとても面白く、興味深く読めます。
 柴田元幸編の最新アンソロジーは、「死、喪失、別離、崩壊」を扱ったもの。今回はかなりシリアスなテーマですね。ただ編者には、以前にも老人を扱ったアンソロジー『いまどきの老人』があって、ただ重いだけではなくて、軽妙な作品も混ぜたりと、上手い編集になっていたので、今回も期待できそうです。
 『ミステリマガジン』は、恒例の《幻想と怪奇》特集。ポーを主眼とした特集が組まれるようです。
 大森望・日下三蔵編の《年刊日本SF傑作選》は、はやくも続編が登場です。こういうアンソロジーは末永く続けてほしいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

機械のための機械  ヒース・ロビンソン
4480877126わが庭に幸いあれ―紳士の国の園芸術
K.R.G. Browne W.Heath Robinson 中尾 真理
筑摩書房 1998-03

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1585679801Heath Robinson Contraptions
Geoffrey Beare
Overlook Pr 2007-11

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 SF作家の星新一は、欧米の一コマ漫画に興味を持っていて、その探求成果を『進化した猿たち』(新潮文庫)という楽しい本にまとめています。これはテーマ別にスクラップした一コマ漫画を、文章とともに紹介するというものでした。僕がこの手のジャンルの漫画に興味を持ったのも、おそらく、この本がきっかけだったと思います。
 その後、一コマ漫画を扱った本をいくつか読む機会がありましたが、とりわけ印象に残ったのが、やたらと機械が出てくる漫画でした。本来、機械というものは実用に役立てる便利なもののはずですが、その漫画では、やたらと複雑化して、どう考えても役に立つとは思えない機械がところ狭しと描かれていました。
 気になったものの、その機械の漫画の作者名はわかりませんでした。こうした一コマ漫画を扱った本は、以前は作者名を記していないものが多かったのです。そんな折り、古本屋で手に入れた『文藝春秋デラックス 世界のマンガ』(文藝春秋)という本で、ようやく機械の漫画の作者名を知ることができました。
 その名は、ウィリアム・ヒース・ロビンソン。イギリスで19世紀末から20世紀前半に活躍した有名な画家兼漫画家でした。家族がみな画家の一家で、兄のチャールズ・ロビンソンなどは、非常に美しい絵を描いています。
 ヒース・ロビンソンにも正統的な挿絵の仕事がありますが、彼を有名にしたのは、やはりナンセンスな機械を描いた一連の漫画です。単なる日常的な作業をするための巨大で複雑な機械、生活を便利(不便)にするための奇想天外なアイディア。今見てもユーモアにあふれた、楽しい絵なのです。
 彼の絵の魅力は、その機械のナンセンスさはもちろん、込み入った機械のディテールまで丁寧に細かく描かれているところでしょう。実際に3次元で作ろうと思えば作れるほど細かく描かれていて、実際に作ってみた例もあるようです。
 日本語で読める本は少ないのですが、筑摩書房から出た『わが庭に幸いあれ 紳士の国の園芸術』(K.R.G.ブラウン文・ヒース・ロビンソン絵 中尾真理訳)はお勧めの本ですね。一見、園芸に関する蘊蓄をユーモアを交えて語ったエッセイ集みたいに見えるのですが、その実、完全なおふざけで書かれた冗談みたいな本です。コーリイ・フォードの『わたしを見かけませんでしたか』(ハヤカワepi文庫)と似たタッチの本と言えば、分かる人もいるかもしれません。
 そして注目すべきは、ヒース・ロビンソンの挿絵です。ここでも彼は園芸をテーマに、奇想天外な機械を描いています。「屈まなくてもすむ方法」「拡声器つき鳥脅し装置」「猫用水かけ装置」「花粉飛ばし器」「鳥が動かすカラスの行水式バード・バス」など、ユーモアにあふれた機械の数々が紹介されます。ブラウンの文、ヒースの絵、ともに楽しめる第一級の「ユーモア・スケッチ」作品です。
 ヒース・ロビンソンの漫画をまとめて見たいという方には、洋書ですが近年出た『Heath Robinson Contraptions』(Overlook Pr)がお勧め。ヒース・ロビンソンの漫画の傑作集で、カラー図版も収録されています。
ヒース1 ヒース2 ヒース3 ヒース4 ヒース5 ヒース6 ヒース7 ヒース8

テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術

SFのふるさと  山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』正・続
4896918320トンデモ本?違う、SFだ!
山本 弘
洋泉社 2004-07

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4862480098トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS
山本 弘
洋泉社 2006-03-01

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 数あるSF関連ガイドの中でも、これほど楽しく読める本は、なかなかないでしょう。山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』と続編である『トンデモ本?違う、SFだ! RETURNS』(ともに洋泉社)は、かってSFが持っていた原初的な面白さ、「センス・オブ・ワンダー」にあふれた作品を紹介しようというコンセプトのガイドです。
 ここで取り上げられるのは、正統派のSFというよりも、読者をあっと驚かせてくれるアイディアに溢れた作品たち。結果、長編よりも短編、メジャーよりもマイナーな作品が多数を占めています。著者の山本弘は、このあたりの事情を次のように語っています。

 私見だが、SF作家の偉大さは「バカ度」で決まると思っている。世間の目を気にしてか、あるいは自己満足か、地味で飛躍のないブンガク的作品しか書かない作家は、普通の作家としてならともかく、SF作家としての適性には欠けている。異星人の侵略、パラレルワールド、タイムトラベル、日本沈没……「そんなバカなことがあってたまるか!」と一笑に付されるような荒唐無稽な設定を、バカにすることなく、信念を持って、真剣に書き上げるのが、本物のSF作家なのだ。
 こう言い換えてもいい。
 「SFとは筋のとおったバカ話である」


 一般的にも名の知られたフレドリック・ブラウンやシオドア・スタージョンはともかく、チャールズ・L・ハーネス、ダニエル・F・ガロイ、トム・ゴドウィン、フィリップ・レイサムあたりになると、あまり馴染みのない人がいるかもしれません。しかし、これらのマイナー作家のマイナー作品にこそ、力の入った紹介がなされています。
 とにかく著者の「面白い作品をぜひ読んでもらいたい」という熱意が伝わってくるような文章で、実際に作品を読んでみたくなってきます。
 基本的には、特定作家の作品を章ごとに紹介するスタイルをとっていますが、もちろんその中で、同じ作家の別の作品や関連作品についても言及されていて、よくできたガイドになっています。あとは「インターミッション」として、テーマ別に書かれた長めのエッセイが入っていますが、これがまたどれも面白い!
 『マレイ・ラインスターの魅力』『タイムトラベルSFオンパレード』『海外SF、名タイトル総まくり』『SF版ノックスの十戒を考えよう』『パラノイアSFの系譜』『あの名作の元ネタはこれだ!』など、興味深いテーマが並びます。
 とくに、タイムトラベルの各種類ごとに作品を分類した『タイムトラベルSFオンパレード』と、本当はこの世界は現実ではない…というテーマを並べた『パラノイアSFの系譜』の充実度は半端ではありません。
 紹介されている主だった作品は、1940年〜50年代の海外SFが中心となってはいますが、現代の作品やマンガ、映画作品にも筆が割かれていて、とにかく「面白くてしょうがない」作品を集めたという感じの、楽しいおもちゃ箱のような本です。
 正続、二冊のガイドを読み終えたら、読みたい本がたくさん増えているはずです。実際、僕も、ライトノベルだと思って手を出していなかった高畑京一郎『タイム・リープ』や谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』を読む気になったのは、この本のおかげです。
 SFを読んでみようかなと思っているSF初心者の方、そしてSFからは離れてしまった往年の読者の方にもお勧めしたいSFガイドです。
悪夢と哄笑  仁賀克雄編訳『新・幻想と怪奇』
4150018243新・幻想と怪奇〔ハヤカワ・ミステリ1824〕 (ハヤカワ・ミステリ 1824)
仁賀克雄
早川書房 2009-05-08

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 先日、収録作品を紹介した『新・幻想と怪奇』 (仁賀克雄編訳 ハヤカワ・ミステリ)が発売されましたので、内容を紹介したいと思います。
 結果から言うと、編者が以前に編んだハヤカワ文庫版の『幻想と怪奇』に連なる路線のアンソロジーでした。狭義の「怪奇小説」だけでなく、SFやミステリ的な要素も含んだ、エンタテインメント作品全般を集めたアンソロジーになっています。
 それでは、以下いくつかの作品について、ご紹介します。

 ローズマリー・ティンパリー『マーサの夕食』 家事をそつなくこなし、夫に対して常に尊敬の念を忘れない理想の妻マーサ。それをいいことに、夫のポールは愛人エステルとの逢瀬を繰り返していました。しかしある日、約束通りエステルの家に着くと、彼女はいませんでした。不審に思いながらも、自宅に戻ったポールに対し、マーサは不可解な態度をとりますが…。
 完璧な妻マーサが見せる静かな狂気とは…? 抑えた筆致で描かれるサイコ・スリラーの佳品です。

 ロバート・シェクリイ『思考の匂い』 星間郵便配達人のクリーヴィは、宇宙船の故障で、未開拓の惑星に不時着を余儀なくされます。その星で出会った生物には、どれも眼と耳がありませんでした。しかしそれにもかかわらず、獣たちは、クリーヴィを食べようと襲ってきます。なんと獣たちはテレパシーで思考を読むことによって、獲物をとらえていたのです! クリーヴィは彼らの注意をそらせようと、必死に考えますが…。
 「思考の匂い」が読まれてしまう惑星で、獣たちから逃れようとする男を描いたアイディア・ストーリーです。思考の中で牝になってみたり、猛獣になってみたりと、試行錯誤が非常に愉しい作品。

 チャールズ・ボーモント『不眠の一夜』 怪奇現象について盛り上がっている一座のなかで、ひとり沈黙を守っている男クリールは、皆の求めに応じて自らの体験を語り始めます。それは奇妙な話でした…。
 非常に短い作品ながら、無気味な余韻を残す都市伝説風の奇談です。

 アンソニイ・バウチャー『ジェリー・マロイの供述』 芸人コンビ、ジェリーとジーンの人気はうなぎのぼりでした。しかもジーンには、ステラという美しい恋人もできていたのです。しかしジーンとジェリーとの仲を嫉妬するステラは、ジーンにジェリーとのコンビを解消するようにそそのかします…。
 人間関係のもつれから破局が訪れるクライム・ストーリー、と思いきや、語りに仕掛けがしかけられています。結末を読んでから再読したときに、その上手さが感じられる技巧的な作品。

 アラン・ナース『虎の尾』 万引を繰り返す女を見つけたデパートの店員は驚きます。ハンドバッグの中に、とんでもない数の品物を放り込んでいたからです。しかもそれだけの品物を入れながら、ハンドバッグは一向に膨らまないのです。やがて捕らえた万引犯は、万引の事実を覚えていませんでした。ハンドバッグを調べた科学者のコリンズは、バッグの中は別の世界に通じていることを発見しますが…。
 バッグを通じて品物を集める「かれら」の目的はいったい何なのか? 侵略SFのバリエーション的な作品です。

 リチャード・ウィルスン『ひとけのない道路』 夜半まで運転していた男は、眠気を感じて、コーヒーでも飲もうと食堂に立ち寄ります。店には客はおろか、店員もいませんでした。不審に思いながらも、料金を置いて運転に戻った男は、ガソリンスタンドにも、町にすら人が一人もいないのを確認して、驚きを隠せません…。
 自分以外の人間がいなくなってしまうという、いわゆる「マリー・セレスト」風奇談。過去に死んだ息子の話をからめて、主人公の孤独感がじつに上手く表現されています。雰囲気もすばらしい傑作。

 ウィリアム・テン『奇妙なテナント』 ビル管理の責任者ブレイクのもとに、ある日、奇妙な二人組が現れます。トウフとボウフと名乗る二人組は、十三階のフロア全体を借りたいと申し出ます。しかしこのビルの十二階の次は十四階であり、十三階は存在しないのです! ブレイクは事情を説明し断りますが、二人組は本社にかけ合い、十三階を借りてしまいます。やがて訪れた二人組はエレベーターに乗って、存在しないはずの十三階に行ってしまいます。掃除婦やエレベーター係などから、十三階が実在することを聞いたブレイクは、真偽を確かめるため、十三階に行こうとしますが、どうしてもたどり着くことができません…。
 存在しない十三階をめぐる、スラップスティック風味のファンタジー短編。終始、陽気な雰囲気で進むものの、結末はかなりブラックです。

 A・M・バレイジ『暗闇のかくれんぼ』 クリスマス・イブの夜、ジャクスンは遊びに加わらない理由を訊ねられ、話を始めます。過去にかくれんぼの最中、階段から落下して死んだ女の子がいたというのです。そして数年後、「スミー」と呼ばれるかくれんぼを同じ屋敷で行った客たちは、不思議な現象に出会います…。
 内容的にはオーソドックスなゴースト・ストーリーですが、語り口が上手いので、飽きさせずに読ませます。かくれんぼの最中に起こる怪奇現象の雰囲気は秀逸。

 リチャード・マシスン『万能人形』 芸術家の夫妻の間に生まれた赤ん坊ガードナーは、ひどく性格が悪く、両親の作品を壊しては、親を嘆かせていました。子供に友人を与えればおとなしくなるのではないかと考えた母親は、高価な「万能人形」を買い与えます。歩き、話し、食べることもできるその人形を与えてから、ガードナーはおとなしくなったように思えましたが…。
 赤ん坊に悩まされる夫婦の話、なのですが、ストーリーが進むにつれブラックな雰囲気が増していく怪作。

 ローズマリー・ティンパリー『レイチェルとサイモン』 ジョンは、引越先で出会った美しい女性アンジェラ・フランシスに心惹かれます。彼女にはレイチェルとサイモンという二人の子供がいるという話を聞きますが、夫は亡くなっていると知り、彼女と親交を深めようと考えます。しかしいつまで経っても、レイチェルとサイモンには会えず、姿はおろか声さえも聞くことができません。やがてジョンは、用務員から、アンジェラには子供などいないということを聞きます…。
 いないはずの子供がいると言い張るアンジェラは気が狂っているのだろうか? やがて破局が訪れて…。
 ティンパリーの名作短編『ハリー』にも通じるところのある、ゴーストストーリーの変種的作品。ただ結末はやさしさに満ちていて、読後感は悪くありません。

 既訳もいくつかあるものの、全体的に質が高く楽しめます。ハヤカワ文庫版『幻想と怪奇』が好きだった人は買いでしょう。もちろん、旧版を読んでない方にもお勧めです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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