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ロアルド・ダールの皮肉な世界
 「おとなしい凶器」「南から来た男」など、ロアルド・ダール(1916-1990)の短篇は「奇妙な味」の代表的な作品とされています。そのイメージから、ダール作品は「オチ」のある作品が多いのかと思いがちなのですが、実際に読んでみると、意外にそのタイプの作品が多くないことがわかります。そもそも「オチ」以前に、読んでいる途中で結末が予想できてしまう作品も結構あるのですよね。

 「オチ」が重要でないとするならば、ダール作品の特徴・魅力は何かと言うと、まず第一に、語り口の上手さということになるかと思います。ある種ありふれたストーリーであっても、その語り口の魅力、軽やかな話芸には素晴らしいものがあります。
 もう一つの特徴は、登場人物に向けるシニカルな視線です。男も女も、子供でさえも、ダール作品では等しく皮肉な視線から逃れられません。大体の作品において、登場人物たちは「善人」「人格者」であるよりも、「愚者」「小悪党」として描かれます。人間の無知や虚栄心、欲望などを美化せずに描く筆致には、人間観察の鋭さが感じられますね。
 そうした皮肉な視線を浴びせながらも、その描写をユーモアでくるみ、洗練されたストーリーに仕立ているのが、ダール作品の魅力ではないでしょうか。

 それでは以下、ダールの代表的な作品集を見ていきたいと思います。


キス・キス〔新訳版〕
『キス・キス〔新訳版〕』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 若いビジネスマンが泊まることになった奇妙な宿を描く「女主人」、癌のために死んだ夫が死後脳だけで生かされることになるというSF風の「ウィリアムとメアリー」、心配性の妻と意地の悪い夫の物語「天国への道」、牧師のふりをして掘り出し物の古い家具を買いあさる男を描く「牧師の愉しみ」、不倫相手からもらった高価なコートについて策を弄する妻を描いた「ミセス・ビクスビーと大佐のコート」、食べ物を食べてくれない赤ん坊にロイヤルゼリーを与える男を描く「ロイヤルゼリー」、幼い頃のトラウマから女性に恐怖心を抱く男を描く「ジョージー・ポージー」、ある男の人生の始まりを描いた「始まりと大惨事」、猫が作曲家リストの生まれ変わりだと信じる妻とそれを冷ややかに眺める夫とを描く「勝者エドワード」、ベジタリアンの大伯母に育てられた孤児が料理の天分を発揮するという「豚」、レーズンを使ってキジを密漁しようとする二人組の物語「世界チャンピオン」の11篇を収録しています。

 ダール短篇集の中でも「意地悪度」がかなり高い短篇集です。登場する男も女も皆、皮肉な目で描かれています。それは赤ん坊や少年でさえ例外ではなく、例えば「豚」に登場する少年レキシントンは純真無垢な人物として登場しますが、非常に残酷な結末を迎えてしまうのです。

 解説にもあるように、夫婦が登場する作品が多いのも特徴ですね。「ウィリアムとメアリー」「天国への道」「ミセス・ビクスビーと大佐のコート」「ロイヤルゼリー」「勝者エドワード」など、多くの作品に夫婦が登場しますが、そのどれもが不穏な関係をたたえています。
 死後脳だけになった夫と妻の関係が逆転してしまう「ウィリアムとメアリー」、ささいな意地悪の連続が悲惨な結末を迎える「天国への道」、不倫妻とそれを見越した夫とのいびつな情景が描かれる「ミセス・ビクスビーと大佐のコート」、妻にだまって一方的に事を進める夫が登場する「ロイヤルゼリー」、オカルトを信じ込む妻とそれを取り合わない夫との冷めた関係が描かれる「勝者エドワード」など。
 夫と妻それぞれが欠点のある人物だったり、夫妻ともに問題のある人物として描かれることもあったりしますが、どちらにしても登場人物は皆ダールの皮肉な目からは逃れられません。

 話の展開が読めない…という点では「ジョージー・ポージー」「豚」が面白いですね。

 「ジョージー・ポージー」は、幼い頃の母親と関わるトラウマから、女性に恐怖心を抱くようになってしまった男盛りの牧師が主人公。教区の独身女性からいろいろアプローチを受けるものの…という話。
 皮肉な人間喜劇が展開されるかと思いきや、とんでもない方向に。幻覚なのか超自然的なのかはっきりしない結末もユニークです。

 「豚」は、両親が空き巣と間違えられて射殺され孤児になってしまった少年が主人公。ベジタリアンの大伯母に山の中で育てられた少年は、料理の才能を見せ始めます。
 大伯母の死後、都会に出て豚料理を味わった少年はその美味さに驚愕し、その料理法を探ろうと考えます…。両親が殺されてしまうことを皮切りに、少年が人々に度々だまされていくのが描かれます。純真な少年でもその扱いに容赦がないところがダールらしいですね。

 「女主人」「ウィリアムとメアリー」「ロイヤルゼリー」はかなり怪奇度の高い短篇。

 「女主人」は暗示に暗示を重ねた掌編で、明確に何が起こっているのかは描かれないのですが、主人公の青年がおそらく陥るであろう結末が予測できるのが非常に技巧的です。
 「女主人」に関しては面白いエピソードがあって、ダールが編んだ幽霊物語のアンソロジー『ロアルド・ダールの幽霊物語』という本があるのですが、この「まえがき」で自作「女主人」について言及しています。
 引用しますね。

 …またりっぱな幽霊物語を一篇でも書きたいと念願しているのだが、いまだに実現には成功していない。誓っていう、私はやってみたことがあるのだ。一度は成功したとも思った。それは今「女主人」という題の短篇になっている。だが書き終えてよくよく吟味してみると、どうもまだ不十分だとわかった。すっかり仕上がっていないのだ。はっきりいって私は秘訣をつかんでいなかった。そこで結局私は結末を変更して、幽霊物語ではないものに書き改めた。

 「女主人」の現行バージョンは、厳密には「幽霊物語」ではありません。原型が「幽霊物語」であったということを聞くと、どんな結末だったんだろうと想像してみたくなりますね。

 「ウィリアムとメアリー」は、脳だけ生かされた男という、SF的にはあまり新味もないテーマではありますが、脳だけになった男の偏屈な性格、それを密かに憎む妻とがねちっこく描かれ、その人間関係だけでも、充分なホラー作品足りえているかと思います。

 「ロイヤルゼリー」は、食べ物をなかなか食べてくれない赤ん坊の娘に、自ら養蜂したロイヤルゼリーを食べさせる…という物語。ロイヤルゼリーによって不気味な影響が起きる…という話なのですが、その結果をはっきり描かず暗示にとどめているのが技巧的です。

 「勝者エドワード」も取り方によっては超自然的な現象が描かれていますね。音楽を愛する妻は、ある日現れた猫を家に連れて帰りますが、ピアノに聞きほれる猫に気付き、猫は作曲家リストの生まれ変わりではないかと言い出します。夫は取り合いませんが、妻の考えはエスカレートしていき…という話。
 猫が本当に作曲家の生まれ変わりなのかどうか、妻の単なる妄想なのか、どちらとも取れる描き方がされているのは、すごく上手いです。



あなたに似た人〔新訳版〕 Ⅰ あなたに似た人〔新訳版〕 Ⅱ
『あなたに似た人〔新訳版〕』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ダールの大人向け短篇集の中では一番有名なものですが、まさに語り口の上手さここに極まる、といった感じの作品集です。

 名作揃いの作品集ですが、飛びぬけて完成されていると思うのは、やはり「おとなしい凶器」「南から来た男」でしょうか。別れを切り出した夫を仔羊の腿で殴り殺してしまう妻を描いた「おとなしい凶器」、車と引き換えに指を賭けの対象に指定する賭け狂いの男を描いた「南から来た男」
 どちらも「奇妙な味」の代表的な短篇といえますが、とくに「おとなしい凶器」の味わいは格別です。夫を殺してしまった後で、悪意も感じさせずに犯行を隠蔽する若妻のぬけぬけとした行動は、まさに「奇妙な味」そのものでしょう。

 明確な「オチ」があるものよりも、読んでいて結末が予想できながらも語り口の上手さで読ませる…という作品が多いのも特徴です。
 ワインの生産地をめぐってホストの娘との結婚を賭けようとする「味」、招待客の部屋を盗聴しようとする妻と夫とのやりとりを描く「わが愛しき妻、可愛い人よ」、船での賭けを成功させるために海に飛び込む男を描いた「プールでひと泳ぎ」、通勤列車に現れた不愉快な男をめぐる物語「ギャロッピング・フォックスリー」、ベッドシーツに潜り込んだ蛇をめぐるドタバタ劇「毒」、現代彫刻の穴から首が抜けなくなるという風刺的な「首」、恋人に侮辱された男の仕返しが人生を狂わせるという「満たされた人生に最後の別れを」などは、結末が途中で読めてしまうような作品ではありますが、語り口の上手さで読ませられてしまいます。
 逆に言うと、何度読み返しても楽しめるタイプの作品といえましょうか。

 男の語りが異様な状況になっていくという不条理小説「兵士」、絨毯をめぐる少年の空想を描いたファンタスティックな作品「願い」、人間には聞こえない波長の音を聞き取る機械を描く「サウンドマシン」、小説を自動で作る機械を発明した男とその雇い主を描くユーモア篇「偉大なる自動文章製造機」などは幻想的な要素が強い作品ですね。

 あと、巻末に収められた連作短篇「クロードの犬」は、どうにも焦点の定まらない妙な味の作品です。メインは犬を使った「コンゲーム」が主題だと思うのですが、作中に登場するエピソードがどうも歪です。
 ネズミ捕りの不気味なエピソードがあったり、婚約者の父親を納得させるために「蛆虫工場」の話が止まらなくなる青年のエピソードがあったりと、正直失敗作といっていい作品だと思うのですが、妙に捨てがたい味わいがありますね。

 〔新訳版〕では、単行本未収録短篇が2篇収録されています。「ああ生命の妙なる神秘よ」は、仔牛のオスとメスを産み分けさせられると語る男の物語、「廃墟にて」は、核戦争後らしき世界で展開されるショート・ショートです。



飛行士たちの話〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
『飛行士たちの話〔新訳版〕』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ダールの戦争体験が元になった作品を集めた第一短篇集です。いわゆる「戦争文学」的なイメージが強い作品集だと思うのですが、意外に幻想的な要素が強いのに驚きます。

 戦闘機での激しい戦闘が結末で幽霊物語に変転する「ある老人の死」、憎みあう二人の男と消えた牛の乳をめぐる奇談「あるアフリカの物語」、不時着した男が船を持った男を探すという「昨日は美しかった」、行方不明になった飛行士が体験した不思議な現象を描く「彼らに歳は取らせまい」、片足を失くす重症を負った男が病院で目を覚ますが…という「猛犬に注意」、戦争に出かけた息子の死を幻視する母親を描く「このこと以外に」などには、少なからず幻想的な要素が見られます。

 特に「幽霊」がはっきり登場する「ある老人の死」、臨死体験と思しい現象が起きる「彼らに歳は取らせまい」、息子の死の情景について現実と空想が混然となる「このこと以外に」などは、明確に幻想小説を志向した作品ですね。

 毎日消えてしまう乳牛の乳の謎と、殺された犬をめぐって憎みあう二人の男の関係が行き詰るような筆致で描かれる「あるアフリカの物語」、重症を追った男が目をさますとそこは故国イギリスの病院だったが…という「猛犬に注意」などは、後のダールの作風を予見させるような「奇妙な味」の作品です。

 もちろん「戦争文学」的なテーマの作品にも味わいがあります。不時着した飛行士の体験を語る「ちょろい任務」 、強欲な女性の支配する娼館から娼婦を解放しようとする兵士たちを描く「マダム・ロゼット」、戦争遺族の少女を描いて美しい「カティーナ」、戦争で人を殺すことへの思いを描いた「あなたに似た人」など。
 「カティーナ」「あなたに似た人」などは「文学性」も強く、一般小説としても傑作といっていいのではないでしょうか。

 この『飛行士たちの話』、おそらく『あなたに似た人』『キス・キス』でダール短篇の面白さを知った読者が、次に手に取るであろう作品集だと思うのですが、他の作品集と同じような感覚で読むと、物足りないというか、期待していたのとは違った…という感じになる可能性が高いと思います。
 実際、以前に僕が旧訳を読んだときもそんな感じを受けました。ただ『飛行士たちの話』はこれはこれで面白い作品集だと思うので、『あなたに似た人』『キス・キス』のダールのイメージは忘れて、単独で味わうのがいいのではないかな、と思います。
 また、新訳版の方がこの作品集の魅力を引き出せていると思うので、できれば新訳版の方で読まれるのをお薦めします。
 旧訳は永井淳訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)のほか、深町眞理子他訳による『昨日は美しかった 飛行士の10の短篇』(新書館)という版も出ていました。



王女マメーリア
『王女マメーリア』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 何気ない発端から、どんどんと話に引き込まれてしまうという「面白いお話」のオンパレードです。

 ふと乗せたヒッチハイカーはある技術の持ち主だった…という「ヒッチハイカー」、傘と引き換えにタクシー代を貸してほしいという老紳士を描く「アンブレラ・マン」、風采の上がらない男がふとしたきっかけから指揮者になり切るという趣味を持ち始める「ボディボル氏」、侮辱された有名人たちに復讐する機会を提供する会社を作るという「「復讐するは我にあり」会社」、成金の男と洗練された趣味を持つ執事とを描く「執事」、その古本屋には本を売る以外に秘密の商売があった…という「古本屋」、アラブ王族の命を救ったことから高価なダイヤモンドをもらった外科医を描く「外科医」、醜い容貌の孤独な男が王女の命を救ったことからある特権を与えられるという「王女と密猟者」、輝くばかりの美しさを手に入れた王女が傲慢になっていくという「王女マメーリア」の9篇を収録しています。

 小話といった印象の強い「ヒッチハイカー」「アンブレラ・マン」、ブラック・ユーモアの利いた「「復讐するは我にあり」会社」「執事」 「古本屋」、寓話的な「王女と密猟者」「王女マメーリア」など、収録作品はバラエティに富んでいます。

 集中でいちばん読み応えがあるのは「ボディボル氏」でしょうか。成功体験がなく女性にも縁のなかったボディボル氏は、ふとしたきっかけから自分が指揮者になるという空想をすることで気分が良くなることに気付きます。音響装置やちょっとしたコンサート会場を模した部屋まで作ってしまいます。
 レコードを買い込んだ店で若い女性に声をかけられたボディボル氏は、とっさに女性を自宅に招待してしまいますが…。
 冴えない男の人生の転機を描く作品、と思いきや、一概にそういうわけでもないところがダールのダールたる所以でしょうか。それでも物語りに引き込む力はすごいです。

 わりと後期の短篇集ということで、ダールの他の短篇集に比べて陽性な作品が多く(必ずしもハッピーエンドではないのですが)、読後感は非常に良い作品集です。それでも、にわかワイン通を風刺する「執事」、美しさを手に入れた王女がどんどんと鼻持ちならなくなっていく「王女マメーリア」など、ぴりっとした毒を忘れないところが楽しいですね。



ヘンリー・シュガーのわくわくする話 (評論社の児童図書館・文学の部屋)
『ヘンリー・シュガーのわくわくする話』(小野章訳 評論社)

 児童向けの短篇集ですが、大人向け作品にも劣らない魅力のある作品集です。

 浦島太郎を思わせる発端から、童話風のファンタジーに移行する「動物とはなしをした少年」、不思議なヒッチハイカーを拾った作家の話「ヒッチ=ハイカー」、実話を昔話風に語った「ミルデンホールの宝物」、リアリズム風の少年物語が、結末においてファンタジーに昇華する「白鳥」など、バラエティに富んだ作品が集められています。

 なかでも表題作「ヘンリー・シュガーのわくわくする話」の面白さは格別。大金持ちだが欲の尽きることのない男ヘンリー・シュガーが、知り合いの屋敷で見つけたある小冊子。そこには目を使わずにものを見ることのできるインド人の話が記されていました。数年後、その方法を実践して負け知らずのギャンブラーとなったヘンリー・シュガーは世俗的な欲望の空しさに気がつき、孤児院を設立することを思い立ちますが…。
 メタフィクション的な趣向として、作品の結末について作者自身が言及する場面が登場するのも破天荒です。後半になると、ちょっとご都合主義的な部分もあったりはするのですが、先が気になって読ませるという意味では、非常に吸引力のある作品です。
 カジノの用心棒に殺されそうになるのを逃れるエピソードなどは、なかなか気がきいていますね。

 児童向けだからなのか、総じて勧善懲悪的な要素が強いです。そのためダール特有のシニカルな要素は弱いのですが、物語自体はどれも非常に面白いです。天性のストーリーテラーの才能があふれた好短篇集ですね。
 この作品集、新訳も出ていて(柳瀬尚紀訳『奇才ヘンリー・シュガーの物語』)、こちらにも目を通したのですが、個人的には旧訳である小野章訳の方が面白く読めました。



ミステリマガジン 2016年 09 月号 [雑誌]
『ミステリマガジン2016年9月号』(早川書房)

 「ロアルド・ダール生誕100周年特集号」です。初訳短篇、エッセイ、対談、リストなど盛りだくさんで、ダールの大人向け作品の参考書としては、今のところ一番有用な本ではないでしょうか。

 特に面白く読めるのは、田口俊樹×杉江松恋「対談 新訳で読む”ストーリーテラー”ダールの魅力」、若島正「乱視読者の短篇講義(出張版)ダールの「願い」を読む」、宮脇孝雄「ロアルド・ダールはいつイギリスの作家になったか」などでしょうか。

 「対談 新訳で読む”ストーリーテラー”ダールの魅力」では、いろいろと示唆に富む意見が出ていて参考になります。ダールらしさが最も出ているのは「飛行士たちの話」であるとか、<落ちの切れ味>はダールの本質ではないとか、スレッサー「夫と妻の犯罪」のようにダールはドメスティック・ミステリのパターンの先駆者であるとか。ダールは、三人称で複数の人を描いているときに、急に対象者だけに視点を集中させることがある…というのは、なるほどと思いました。

 若島正「乱視読者の短篇講義(出張版)ダールの「願い」を読む」は、ダールの名作「願い」について語っています。この短篇、若島さんは「幻想小説」として読んでいるようです。個人的に昔からちょっと得体の知れない作品だと思っていたので、他の人はこんな風に読んでいたのかと参考になります。

 宮脇孝雄「ロアルド・ダールはいつイギリスの作家になったか」では、近年の大学生にはダールは児童文学作家として認識されているとか、イギリス旅行先でダールの童話を読んでいる場面に出くわした話などが語られます。
 劇作家のノエル・カワードがダール作品について「残酷だ」と評したという意見の紹介から、短篇「サウンドマシン」の「残酷さ」について語っています。確かに僕もこの短篇の主人公は「残酷」だなと思っていました。

 初訳作品としては、ショート・ショート「スモークチーズ」と、「リビアで撃墜されて」が掲載されています。「リビアで撃墜されて」はC・S・フォレスターのアドバイスによって書かれたというデビュー作です。「スモークチーズ」はネズミの被害に悩まされる主人公の秘策を描く楽しい作品。

 ダールの著作リストを見ると、児童文学作品が大部分です。本国での認識も「大人向け作品も書いた児童文学作家」という感じのようですね。
 あと、編集部編「ロアルド・ダール短篇解説」がかなり役に立ちます。ダールの大人向け短篇全てについて簡単なあらすじが載っています。

 この特集号、まだ手に入るんじゃないでしょうか。ロアルド・ダールのファンの人は買っておいて損はないかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

ジョイス・キャロル・オーツの幻想小説を読む
 アメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツは非常に多作な作家です。以前から邦訳はあったのですが、近年は幻想的な要素のある作品がまとまって翻訳紹介されました。オーツの幻想的な作品をいくつか紹介していきたいと思います。



とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 (河出文庫)
『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(栩木玲子訳 河出書房新社)

 7篇の中短篇を収録した作品集です。全体に暗い情念に彩られた作品集で、正直、読後感はあまり良くないのですが、その筆力は強烈で読ませられてしまいます。

「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」
 素行に問題のある少女がその仲間とともに、同級生である金髪の少女を監禁するという物語。犯人である少女、誘拐された少女の母親であるシングルマザー、容疑者になってしまった教師、三者の視点から事件が描写されていきます。
 三者の内面の心理が細かく描かれており読みごたえがあるのですが、特に犯人である少女の内面は歪んでおり、強烈な印象を残します。読者にはすべてが知らされるため、犯人の少女が被害者の母親にわざわざ接触するくだりなど、強烈なサスペンスがあります。収録作中で最も長い力作。

「ベールシェバ」
 見知らぬ女性から誘いをかけられた中年男性が恐ろしい目に会う…という物語。歪んでしまった人間の復讐物語なのですが、その行為が正当なものなのかどうかというのも作中では描かれません。

「私の名を知る者はいない」
 妹に嫉妬する姉娘の姿を幻想的に描いた物語。妹が生まれてから自分への関心が薄れてしまったことに不満を感じている9歳の少女ジェシカ。時を同じくして不思議な猫が姿を現します。やがて猫は赤ん坊に近づいていきますが…。
 猫は現実に存在するのか? 幻想小説ともサイコスリラーとも読める、不思議な手触りの作品です。

「化石の兄弟」
 双子の兄弟をめぐる物語。生まれたときから注目を集め続けエリート街道を進む兄と、身体的な障害を抱えやがてアートの道に進む弟。弟を疎んじる兄と、それでも兄の愛情を求め続ける弟の姿を描いています。

「タマゴテングタケ」
 「化石の兄弟」同様、双子の兄弟を主人公にした作品。周りの人間に多大な迷惑をかけながらも生来の魅力で人々を虜にしてしまう兄は、伯父が死んだ途端、その遺産目当てに姿を現します。
 地味で堅実な弟は、兄を憎み殺そうと考えます。毒のあるタマゴテングタケを入れた料理を兄に食べさせようとしますが…。
 毒殺は成功するのか…?兄を憎みながらも憎み切れない弟の姿が描かれます。ハッピーエンドともバッドエンドともとれる結末は印象的です。

「ヘルピング・ハンズ」
 未亡人の女が帰還兵の男に思いを寄せるという物語。夫を戦場で失い未亡人となったへレーネは、遺品を寄付しようとリサイクルショップを訪れます。店員である帰還兵ニコラスに惹かれたヘレーネは、彼と二人きりになるために、屋敷の品物を取りに来てほしいと連絡しますが…。
 互いに心に傷を持つ者同士の恋愛が始まる…と思いきや、そうはならないところが読みどころです。恋愛感情と思っていたのはただの一方的な思い込みに過ぎなかった…というブラックな味わいの作品。

「頭の穴」
 ブラックでシュールな味わいのホラー・ストーリー。自らの臆病さから外科医になることをあきらめたルーカスは、美容整形外科医としてまずまずの成功を収めていました。ある日馴染みの患者から頭蓋穿孔手術を頼まれたルーカスは、秘密裏に手術をすることを引き受けてしまいます…。
 かって脳の外科手術中に失神したというエピソードを持つ主人公が、頭蓋骨に穴をあける手術をせざるを得なくなる…という時点で非常に嫌な展開なのですが、そのあとも実に嫌な展開が続きます。
 スプラッター描写も強烈で、読む人を選ぶ作品ですが、当事者である主人公の非現実的な態度が、ある種幻想小説的な味わいを醸し出しています。

 各作品とも明確なオチや結末がある作品は少なく、場合によっては「尻切れトンボ」に感じられてしまうような作品も多く含まれています。描かれる事件はフィクションならではのありえないものですが、それを通して描かれる登場人物たちの姿や心理には非常にリアリティがあります。
 特に「とうもろこしの乙女 ある愛の物語」に顕著ですが、人間心理の不可解さ、人生の不条理さを強く感じさせられる…という点で、読み応えのある作品集ですね。



邪眼
『邪眼 うまくいかない愛をめぐる4つの中篇』(栩木玲子訳 河出書房新社)

 副題通り、うまくいかない愛をテーマに4つの中編を集めた作品集です。「嫌な話」「不快な話」のオンパレードで、これは読む人を選びそうです。

「邪眼」
 両親を亡くしたばかりのところに、勤め先の所長オースティンに慰められ彼と結婚することになった女性マリアナ。彼女はオースティンの四番目の妻でした。周りから尊敬されるオースティンですが、一緒に暮らし始めたマリアナは彼が独善的で感情を爆発させる短気な人物であることに気付きます。
 そんな折、オースティンの最初の妻イネスが姪とともに家を訪れることになりますが…。
 身寄りもなく、結婚した男は暴力的。さらに先妻への恐怖におびえる新妻という、ゴシック・ロマンス的なモチーフを持つ作品です。全幅の信頼を置いていた夫が信頼できない人間であることが徐々に判明していきます。
 恐れていた先妻は敵ではなく、むしろ同じ被害者であり、さらには「共犯関係」にもなっていくのではないか…という流れは、非常に面白いですね。「邪眼」から身を守るというトルコの護符「ナザール」、片目のない先妻イネスなど、「眼」のモチーフが頻出するのも、作品の雰囲気を高めています。
 アイダ・ルピノが監督した《ミステリー・ゾーン》のエピソード「生きている仮面」についても言及されますが、これも「見ること」をテーマにした作品ですね。

「すぐそばに いつでも いつまでも」
 奥手な少女リズベスは、青年デスモンドに夢中になります。しかし青年の行動は常軌を逸し始め、やがて「ストーカー」のように、リズベスにつきまとうことになりますが…。
「ストーカー」になった青年の恐怖におびえる少女を描く作品と見えるのですが、その実そう簡単に解釈できる作品ではないところがポイントです。恐れながらも、青年に惹かれる少女の心理があります。
 また、青年は青年で、過去の事件が彼の人生に影を落としていることが描かれます。放り出されるようなラストがまた人生の不条理感を醸し出します。

「処刑」
 甘やかされた青年バートは、親の金を使い込んだりドラッグに手を出したりと放蕩三昧を繰り返していました。クレジットカードを止められたことに激怒したバートは、両親を殺害することを計画します。完璧に立てたはずの犯罪計画は、母親が重傷ながら生き残ったことで崩壊します。
 バートは逮捕され、裁判にかけられることになります。意識を取り戻した母親は、息子は犯人ではないと証言しますが…。
 歪んだ思考を持つ自分勝手な青年が両親を殺害するという、ショッキングな題材を扱っています。自らも殺されかけた母親はなぜ息子をかばうのか? エンタメ作品であれば、青年が自縄自縛に陥って破滅する…という結末になりそうですが、とんでもない方向に話が進むのが面白いですね。

「平床トレーラー」
 名門一家に生まれた女性セシリア。彼女は過去の性的虐待のトラウマから、男性との交際が長続きしませんでした。ある男性Nと出会ったセシリアは、彼に惹かれ過去の記憶を話します。Nは虐待を行った人間に復讐を行おうと提案しますが…。
 トラウマを持つ女性の心が癒やされていく物語かと思いきや、非常に嫌な展開に。交際しているNという男の異常性がわかってくるのみならず、セシリアの異常性もまた露わになっていきます。過去のトラウマは事実なのか? 人間の心の不可解さを描いた一篇。

 基本的に収録作品はどれも「嫌な話」「不快な話」です。しかも、わかりやすい結末で終わらず、明確な勧善懲悪もありません。扱われるのも、DV、ストーカー、殺人、虐待とアンモラルなモチーフばかり。
 特に「処刑」は、自分勝手な青年が殺人を犯しながらも罰も受けない(ある意味では「罰」ではあるのですが)という、不道徳極まりない内容なので、読んでいて不愉快になる方もいるのではないでしょうか。ただ、それでも読ませてしまうストーリーテリングはオーツの魅力といっていいでしょうか。
 ブラックかつ不条理なテーマは、作品集『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』でも見られましたが、『邪眼』の方が、さらにアクの強さ・毒の強さは強烈ですね。まさに「劇物」といっていい作品集です。



生ける屍 (扶桑社ミステリー)
『生ける屍』(井伊順彦訳 扶桑社ミステリー)

 31歳のQ・P(クウェンティン)は、過去に猥褻事件で執行猶予判決を受け保護観察中でした。更生を願う家族のもと、下宿の管理人の仕事をしながら聴講生として大学に通います。しかし彼はとんでもないことを考えていました。
 拉致してきた男たちにロボトミー手術で脳に障害を負わせ、相手を意思のない「生ける屍(ゾンビ)」にしようというのです。しかし、Q・Pは医学の素人。医学書片手に実行しようとするものの、何度も失敗し相手を死に至らしめてしまいます…。

 殺人を繰り返す男を主人公にしたサイコ・スリラーなのですが、動機がとんでもない。他人を自分の意のままにするために、ロボトミー手術を行い、生ける屍(ゾンビ)を作り出そうというのです。
 いわゆる精神異常者を語り手にしたサイコ・スリラー作品で、主人公の内面が赤裸々に語られるという、かなり不快感の高い作品です。興味深いのは、この主人公、虐待にあったり、トラウマがあったりするなど、不幸な生育環境にあったわけではないということ。
 むしろ生育環境としては非常に恵まれた環境にあり、家族も彼のことを思っているのです。それだけに、主人公の自分勝手な欲望があふれる内面描写はかなりおぞましく、こうした作品に慣れていない読者には、読み進むのがつらいかもしれません。

 「ロボトミー手術」の場面も詳細に描かれるので、生理的な嫌悪感も強烈です。世間を騒がせた「ジェフリー・ダーマー事件」がモデルになっているらしく、主人公の人物像には非常にリアリティがあります。
 いわゆるB級ホラーと言ってしまってもいい題材なのですが、この作品をホラー作家ではなく、ノーベル賞候補者とも言われるオーツが書いたことに、ある種の衝撃があります。ブラム・ストーカー賞を受賞していることからも、この作品がホラー小説として受容されたことがうかがえますね。
 ちなみに、この作品で言う「生ける屍」とは、意思がなく思い通りになる人間という意味で、超自然的な動く死体、いわゆる「ゾンビ」ではありません。



ジャック・オブ・スペード
『ジャック・オブ・スペード』(栩木玲子訳 河出書房新社)

 アンドリュー・J・ラッシュは「紳士のためのスティーヴン・キング」と称される人気ミステリー作家。経済的にも成功した彼は、ラッシュ名義では出せない暴力や残酷さに満ちた作品を、覆面作家「ジャック・オブ・スペード」として発表していました。
 ある日、アンドリューはC・W・ヘイダーという人物から、盗作疑惑で告発されてしまいます。アンドリューがヘイダーの家から原稿を盗み出し自分の小説として発表したというのです。しかしヘイダーは、本を出版したこともないアマチュアであり、過去にも別の作家を盗作で訴えていたというのです。
 弁護士はただの言いがかりであり、裁判になっても負けることはないと請け合いますが、アンドリューは事件をきっかけに心の平安を失っていきます…。

 盗作容疑で訴えられたことをきっかけに、作家アンドリューが精神のバランスを失っていく…という作品です。
 アンドリューは適度に上品な作品を書き、地元の名士として任じている人物です。そんな彼は、内なる暴力性にまかせて書き上げた作品を「ジャック・オブ・スペード」として発表しています。
 アンドリューはペンネーム作品のことは家族にも内緒にしており、「ジャック・オブ・スペード」とのつながりを気取られないようにしていました。しかしスペードの作品を読んだ娘の言葉から、アンドリュー自身の人生がそこに反映されていることに気付き、激しく動揺します。
 読んでいるうちに、アンドリューは自分で言うほどの「紳士」ではないことが読者にもわかってきます。アンドリューの態度とは裏腹に、度々、内なる「ジャック・オブ・スペード」が顔を出すようになるのです。
 自らの「善性」を証明しようとするかのように行動するアンドリューですが、そのことごとくが裏目に出て泥沼にはまっていってしまいます。その過程で妻や子供たちとの溝も深まっていき、やがて破滅の道へと向かってしまうのです。

 「サスペンス小説」とはいいましたが、幻想小説的な要素も濃いです。ヘイダーの盗作事件に関わる謎は超自然味を帯びており、真相は最後まではっきりしません。また、主人公アンドリューの二重人格的な側面を描く部分は、ほとんどホラーといっていいのではないでしょうか。
 語り手のアンドリュー自身は認識していないものの、たびたび彼の過去の「犯罪」や、妻や子供たちとのいびつな関係が間接的に読者に示されるあたり、いわゆる「信頼できない語り手」ものでもありますね。

 作品全体にわたって、スティーヴン・キングの名前が頻出し、作中でも間接的に登場するところは非常に楽しいです。主人公アンドリューがキングに自著を送っても無視されたり、贈り物としてキングの『ミザリー』を登場させたりするところなど、作者オーツの遊び心があふれています。
 さらに言うなら、この『ジャック・オブ・スペード』という作品自体が、『ダーク・ハーフ』など、キングの作家をモチーフにした作品へのオマージュともいえる作りになっているのです。

 ある人物の書斎が登場する場面があるのですが、そこには怪奇幻想小説の稀覯本が揃っており、有名作品や作家のタイトルが羅列されます。言及される本は、『フランケンシュタイン』『ドラキュラ』『ねじの回転』、レ・ファニュ、ブラックウッドなど。怪奇幻想ファンならにやりとしてしまいますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第18回読書会 開催しました
キス・キス〔新訳版〕 王女マメーリア (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 12月2日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第18回読書会」を開催しました。

 第1部のテーマは、課題図書としてロアルド・ダール『キス・キス』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)、同じくダール『王女マメーリア』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)を取り上げました。
 ブラックな要素の強い『キス・キス』と陽性の作品の多い『王女マメーリア』、ダールの作風の幅広さを楽しむにはうってつけの作品集だったように思います。

 第2部は読書会結成二周年企画として「本の交換会」を行いました。海外文学、ミステリ、SF、ホラーと様々な本が集まりました。とくにホラー・怪奇幻想分野に関しては珍しいタイトルをお持ちいただいた方もあり、参加者の方は皆なかなかの収穫を得られたのではないでしょうか。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 今回はゲストとして、新紀元社のファンタジー情報サイト『パンタポルタ』の「ぱん太」さんにもご参加いただきました。ありがとうございます。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


●第1部
課題図書
ロアルド・ダール『キス・キス』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
ロアルド・ダール『王女マメーリア』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)


・短篇集のタイトル『キス・キス』の由来は、奥さんだったパトリシア・ニールとの会話から生まれたらしい。

・ダール作品はオチそのものよりも、語り口に魅力がある。有名な「おとなしい凶器」など、オチを知ってから読む人もいるかと思うが、それでも面白く読めてしまう。

・阿刀田高作品におけるダールの影響はかなり強いと思う。『冷蔵庫より愛をこめて』など雰囲気がすごく近い。

・ダール作品を映像化したオムニバスドラマシリーズ《予期せぬ出来事》について。ダール自身が登場していた。映像化作品を見てから原作を読むと、やはり原作には深みがあるように感じられる。

・ダール作品を読んでいると、底に人間不信的なものが感じられる。

・ダールは長さの配分が非常に上手い。緩急が絶妙。

・戦後のエンタメ小説に与えたダールの影響はかなり強いのではないか。

・ダールは夫婦の話が多い。実際に奥さんと不仲だったという話もあり、そのあたりの事情が作品にも反映されている?

・ダールにはギャンブル・賭け事の話がよく出てくるが、ほとんどハッピーエンドで終わった試しがない。

・ロアルド・ダール編『ロアルド・ダールの幽霊物語』について。収録作家に《魔法の本棚》収録作家がたくさん入っているが、もしかしてこの叢書が作られるに当たって影響があった? ヨナス・リーは影響があるような気がする。

・ダール作品の「残酷さ」には「子供っぽさ」を感じる。児童文学でも活躍できたのはそのせい?

・ダールのショート・ショート「スモークチーズ」について。ナンセンスな面白さのある作品。

・「偉大なる自動文章製造機」について。自動で小説を作る機械が登場する。原題のAIでも小説を作れるようになってきている…という話があったが、どうなのだろうか?

・レーモン・ルーセルの小説について。すごく人工的な手段で作った小説で、発想がAIに近いように思う。

・東野圭吾「超読書機械殺人事件」について。ボタンひとつで書評を作成してくれる機械が登場する。

・ショート・ショートの書き方について。カードのランダムの組み合わせでアイディアや発想を作る。ただ物語を膨らませるのが難しい。

・『ユージュアル・サスペクツ』について。咄嗟に話を作り上げるシーンが印象的。

・ダールはオチがわかっていても面白く読めるものが多い。

・ダールは現実の体験が作品に反映されるタイプの作家?

・ダール自身はつきあいにくい性格の人ではないか。『ミステリマガジン』に掲載された来日記録を読んでも、招待側がかなり気を遣っている節がある。エラリイ・クイーンを引き合いに出されたときに、鼻で笑うような描写がある。

・天才的な作家だと思うが、あまり実際には会いたくないタイプの作家。


■『キス・キス』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

「女主人」について
・暗示に暗示を重ねた技巧的な作品。結末をはっきり書かないところが効果的。
・アンソロジー『ロアルド・ダールの幽霊物語』のまえがきによれば、元々ゴースト・ストーリーとして書かれた作品らしい。とすれば最初の案は、女主人が幽霊だったということだろうか。
・スタンリイ・エリン「特別料理」に味わいが似ている。
・映像にしやすそうな感じがする。
・旧訳で読んだときは「女主人」は高齢のイメージがあったのだが、新訳で読むと年齢不詳に感じられるところが面白い。

「ウィリアムとメアリー」について
・脳だけになった夫と妻との関係性を描いた作品。
・生前の夫の嫌らしさがねちっこく描かれる。妻は犠牲者かと思いきや、そうでもない風に描かれるのがミソ。
・「ウィリアム」も「メアリー」も、イギリスの王族の名前で典型的な名前なので、本国の読者にとっては、ある種の雰囲気を持って感じられるのでは。

「天国への道」について
・時間を気にする妻と、それに対しわざと妻をいらつかせる態度を取る夫の話。
・夫は妻の愛情を試している?
・妻がエレベータの音に耳をすますという描写が効果的。
・最後の一文「のんびり」が怖い。
・同じ話を夫の側から描いたら、かなり怖い話になるのではないか。

「牧師の愉しみ」について
・牧師のふりをした骨董商が掘り出し物の家具を安く買いたたこうとするが…という話
・落語のようによくできた話。
・主人公よりも家具がかわいそう。
・オチがわかっていても楽しい。

「ミセス・ビクスビーと大佐のコート」について
・不倫妻が不倫相手からもらったコートを夫に納得させる形で手に入れようとする話
・夫は妻の不倫を全て知っていることがわかるラストが非常に嫌らしい。
・夫と妻の腹の探り合いみたいなところが面白い。

「ロイヤルゼリー」について
・当時はロイヤルゼリーが得体の知れないものとして認識されていた?
・そもそも赤ん坊に蜂蜜を食べさせてもいいのだろうか。
・「昆虫食」的なイメージで描かれている?
・夫はすでにロイヤルゼリーを摂取していることが後半わかるが、夫もすでに蜂のような本能に支配されているのかもしれない。
・父親は「働き蜂」? 「女王蜂」を作ろうとしている?
・赤ん坊がどうなるのかはっきり書かないところが不気味。

「ジョージー・ポージー」について
・女性恐怖症の男が女性に迫られてパニックに陥るという話。
・結末の情景が本当にあったことなのか、それとも幻覚なのかは明確にされない。
・筋の運びが変わりすぎていて、展開が読めない。
・非常にシュール。マジック・リアリズム風?
・妖怪じみた女性の体内に主人公が吸い込まれてしまった? 「体内」には女性がいないので主人公は安堵したのでは?
・主人公の子供時代の体験はかなり強烈で、確かにトラウマにはなると思う。
・結末は妄想とも思えるが、言葉通りにとった方が面白い。

「始まりと大惨事」について
・死の淵をさまよう赤ん坊がある有名人であることがわかる…という物語。
・阿刀田高がエッセイで紹介していた。そこでは赤ん坊の正体が最後に明かされるみたいな表現だったが、実作を読むと結末以前に名前は出てきてしまっていた。
・途中で名前が出るということは、作者としてはどんでん返し的な意図で書いた作品ではないのではないかと思う。
・映像化作品(『予期せぬ出来事』)では、確か最後まで名前が明かされていなかったような気がする。
・物語の登場人物がある有名人だったことがわかるというタイプの話。レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」との比較。

「勝者エドワード」について
・猫が作曲家リストの生まれ変わりだと信じ込む妻とそれを冷ややかに見る夫の物語。
・オカルト的な要素が本当なのかどうかははっきりしない。
・猫が殺されてしまったかどうかも明確ではない。
・旧訳の題名は「暴君エドワード」だったが、新訳の「勝者」の方が作品の内容には合っている気がする。
・原題名は「Edward the Conqueror」なのだが、「the Conqueror」といえば、イギリスでは征服王ウィリアムのことで、本国ではそのイメージで読まれているのではないか。
・サキ「トバモリー」との比較。「天才」である動物の話?

「豚」について
・ベジタリアンの大伯母に育てられた孤児の少年が、長じて料理の才能を現し豚肉の美味さを知る…という話。
・最初は少年が活躍する「ピカレスク小説」かと思った。
・純真な少年がいろいろ騙されてひどい目に会うが、最終的には幸せになる話、と思ったら全然違って驚いた。
・豚肉料理について少年が訊ねる場面で、冗談交じりに人肉が入っているかもと言われるシーンがあるが、結末を読むとそれが冗談ではないように思えてくる。
・屠殺場の人間が平然と喉を切る場面があるが、もしかして何度も繰り返しているのだろうか。
・最後の屠殺シーンは、主人公の幻想かと思った。
・展開が読めなくてすごい話。

「世界チャンピオン」について
・睡眠薬入りのレーズンでキジを密漁しようとする男たちを描く作品。
・ユーモアのあるコン・ゲーム的な作品で楽しい。
・キジを何十羽も乳母車に詰め込む場面があるが、本当にそんなに入るのだろうか。
・結末のイメージが非常に鮮やか。
・登場人物が他の作品にも登場していて面白い。
・絵本化したものを見てみたい。


■『王女マメーリア』(田口俊樹訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

「ヒッチハイカー」について
・ダールの作品なので不穏な出来事が起こると思いながら読んだら、ヒッチハイカーが普通に良い人だった(犯罪ではあるが)。
・よくできた話。
・鮮やかで映画のワンシーンのような趣がある。ロードムービーの始まりのよう。

「アンブレラ・マン」について
・酒を飲む金を作るために、ある策を弄する老紳士の話。
・老紳士は落ちぶれた元紳士なのか、それともそれを演じているのだろうか。
・老紳士を値踏みする母親の描写も嫌らしい。

「ボディボル氏」について
・この短篇集の中では一番読みでのある作品。先が読みにくい。
・指揮者になりきるボディボル氏の姿がユーモラス。オチも楽しい。

「「復讐するは我にあり」会社」について
・コラムニストに侮辱された有名人の復讐代行を行う商売を思いついた男たちの物語。
・復讐の手段にいちいち値段をつけていくところが楽しい。
・ダールにしては一ひねり足りない気がする。

「執事」について
・にわかワイン通になった主人とその執事の物語。
・にわか通を風刺する話。ダールは俗物が嫌いなのだろうか。

「古本屋」について
・亡くなった人の家族へ、故人が人には言えないような本を買っていたと請求書を送って儲ける古本屋の物語。
・本のタイトルがいちいち凝っていて楽しい。
・中に一冊真面目なタイトルの本が混じっていてこれが高価なのだが、ここが儲けているポイントなのだろうか。
・最後に母親と息子が出てきて詩的な終わり方をするのが面白い。

「外科医」について
・アラブの大富豪の命を救った外科医がお礼にダイヤモンドをもらうが…という話。
・ダールとしては素直な展開で、刺激に欠ける。
・『スナッチ』を思い出した。

「王女と密猟者」について
・容貌魁偉な男が王女の命を救ったことから、王様に絶大な権限を与えられる…という話。
・男の性質を見抜いた上で命令を出しているのかもしれないという期はするが、王様もどうかしている気がする。
・童話的な雰囲気が濃い。

「王女マメーリア」について
・突如美しくなった王女マメーリアが、その美しさがゆえにどんどんと性悪になっていくという物語。
・童話的な雰囲気が強めながら、毒が非常に強い。
・表紙の和田誠のイラストは「王女マメーリア」について描かれているのだが、最初何が描いてあるのかわからなかった。
・もっとセクシャルな要素のある作品かと思った。


●読書会結成二周年企画 本の交換会

 いらなくなった本、処分してもいい本を持ち寄って、交換するという企画です。
 参加者の皆さんからたくさんの本をお持ちいただきました。自分で持ってきたよりも多くの本を持ち帰った人もいましたね。
 集まったタイトルの一部をご紹介します。

ガブリエル・ガルシア=マルケス『青い犬の目』
ジュール・ヴェルヌ『カルパチアの城』
稲垣足穂『彗星問答』
矢部嵩『魔女の子供はやってこない』
ウィリアム・アイリッシュ『黒いアリバイ』
ロアルド・ダール編『ロアルド・ダールの幽霊物語』
ジョン・フランクリン・バーディン『殺意のシナリオ』
デイヴィッド・マレル『真夜中に捨てられる靴』
トーマス・M・ディッシュ『プリズナー』
ジョージ・R・R・マーティン『サンドキングス』
アイザック・アシモフ編『恐怖のハロウィーン』
ダグラス・E・ウィンター編『ナイト・フライヤー』
ヘンリー・スレッサー『夫と妻に捧げる犯罪』
ジョン・フランクリン・バーディン『殺意のシナリオ』
矢野浩三郎編『怪奇と幻想』
ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』
町井登志夫『血液魚雷』
筒井康隆『ロートレック荘事件』
『クトゥルー怪異録』
レイ・ゴールデン『5枚のカード』
カール・ジャコビ『黒い黙示録』
ジョゼフィン・テイ『魔性の馬』
リン・カーター『クトゥルー神話全書』
レ・ファニュ『レ・ファニュ傑作集』
大瀧啓裕編『悪魔の夢 天使の溜息』
ケイト・サマースケイル『最初の刑事』
ジェフ・ライマン『エア』
マックス・バリー『機械男』
カズオ・イシグロ作品
深緑野分『戦場のコックたち』
荒俣宏『怪物の友』
『別冊奇想天外 SFファンタジイ大全集』
グレッグ・イーガン『宇宙消失』
『幻想文学25号 ファンタスティック・マガジン』
D・バーンズ『夜の森』
W・バロウズ『ジャンキー』
『SFイズム』
ジョン・フランクリン・バーディン『死を呼ぶペルシュロン』
ハサン・ブラーシム『死体展覧会』
サーバン『人形づくり』
小川洋子編『小川洋子の偏愛短篇箱』
ヨン・アイヴィデ=リンドクヴィスト『Morse』
長江俊和『出版禁止』
飯沢耕太郎『ザンジバル・ゴースト・ストーリーズ』
北野勇作『カメリ』
阿刀田高『海外短編のテクニック』
氏田雄介『54字の物語』
小野不由美『営繕かるかや怪異譚』
小泉武夫『奇食珍食』
マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』
東雅夫編『クトゥルー神話大事典』

 今回は不参加でしたが、常連メンバーのRさんより処分本リストをいただき、欲しい本をお譲りするという提案もいただきました。参加者の方にリストのチェックをしてもらいましたので、次回以降、本をお渡しする予定です。Rさんには感謝申し上げたいと思います。


次回「第19回読書会」は、2019年1月27日(日)開催予定です。
テーマは

 第一部「課題図書 レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
 第二部「課題図書 ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(草鹿外吉訳 白水Uブックス)」

の予定です。

詳細は後日告知いたします。

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文明の鏡像  エドガー・パングボーン『オブザーバーの鏡』
オブザーバーの鏡 (創元SF文庫 ハ 12-1)
 地球には数万年前から火星人が住んでいました。人間社会を影から観察する彼らは「オブザーバー」と呼ばれ、人類が成熟するまで監視を続けようというのです。「オブザーバー」の一人エルミスは、可能性を秘めた才能豊かな少年アンジェロを監視するため、人間に化けて彼の近くで生活することになります。
 少年の才能と可能性を伸ばそうとアンジェロに協力するエルミスに対し、人間に失望した元「オブザーバー」ナミールは、アンジェロに悪影響を与えようと暗躍していました…。

 エドガー・パングボーン『オブザーバーの鏡』(中村保男訳 創元SF文庫)は、人間社会を影から観察する火星人が、地球人の少年の人生に関わりあってゆくというシリアスなSF小説です。登場人物たちの人間性が細かく描写されるという、感性豊かな作品になっています。
 基本的に「オブザーバー」たちは、地球人たちに対して露骨な介入は避けています。しかしナミールは、明らかな悪意を持って少年アンジェロの生活に介入してくるのです。エルミスは、ナミールの行動を邪魔しようとしますが、少年の人生はだんだんと不穏なものになっていきます…。

 利発な少年アンジェロだけでなく、そのガールフレンドである少女シャロンや、隣人フォイヤーマンなど、登場人物の心理や心情が細かく描かれていきます。彼らの人間性に惹かれ、感化されたエルミスもまた、熱い思いを抱いて人間社会に介入するようになるのです。
 一方、暗躍を続けるナミールの影響で、人間社会には混乱が起き始めてしまいます。エルミスは人間社会の崩壊を防げるのでしょうか?

 観察者である火星人たちは、高い技術と資力を持ってはいるものの、特別、強大な力があるわけではありません。またルールにより、積極的な介入は禁じられています。
 それゆえ、火星人たちは人間を見守り、せいぜい、いい影響を及ぼそうとする程度の行動しかできないのです。
 数万年もの間成熟に至らない人間社会、救世主かと思われた少年もまた一人の人間に過ぎないのではないか…という展開もまた、現実的かつ皮肉ではあります。

 人間は愚かかもしれないが、善意と愛を持つ人間もまた存在し、これからも存在するだろう…という透徹した認識が、全編を通して感じられます。それゆえ理想主義的なテーマを扱っていながらも「嘘くさく」ならないのです。これは傑作といっていい作品ではないでしょうか。

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小説のできるまで  ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』
さらば、シェヘラザード (ドーキー・アーカイヴ)
 《ドーキー・アーカイヴ》シリーズの一冊、ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』(矢口誠訳 国書刊行会)は、様々な技法が駆使されながらも、内容は「冗談」のようであるという、遊び心に満ちた作品です

 エド・トップリスは、大学時代の友人である作家のロッドから、ゴーストライターとしてポルノ小説を書かないかと誘われます。ポルノ小説には決まった型があり、上手く行けば10日で1冊書くことが可能だというのです。報酬に惹かれてエドは小説の執筆を始めます。
 しかし29作目に至り、エドは小説が全く書けないことに気付きます。すでに何度も締切を破っているため、今回失敗したら後がないのです。必死であらすじをひねり出しますが上手くいかず、何度も書き直しすることになります。やがて、そこにはエド自身の過去や願望が入り込みはじめ…。

 主人公の素人ポルノ作家が、小説が書けず何度も書き直しているうちに、自身の妄想や主観が入り込んできてしまう…というメタフィクション小説です。
 作中で何度も小説を書き直しては破棄する…という行為が繰り返されるのですが、主人公の過去や実体験が小説と入り混じって、出来事が本当なのかどうかわからなくなっていきます。妻ベッツィーとは倦怠期にあるエドは、性的なファンタジーを小説の中に反映させていきます。
 フィクションとして書かれた情事が記された原稿を見た妻は、情事が事実だと勘違いして出ていってしまいます。やがて、妹から話を聞いたらしいベッツィーの二人の兄が、エドを懲らしめようと家を訪れますが…。

 型どおりのはずのポルノ小説が、明らかに主人公の行動をトレースしていたり、逆に「現実」が小説の内容みたいになったりと、その融通無碍さが楽しい作品です。作中でメタフィクションについて自己言及的な内容が語られたりするのも面白いです。
 本そのもののノンブルとは別に、作中内の小説のノンブルが上部にふられているというのも面白い趣向。途中で挫折し書き直しているため、何度もノンブルが「1」に戻ってしまうのです。

 ポルノ小説が題材だけに描写はきわどい部分が多く、内容もある意味しょうもないのですが、作品全体は恐ろしく技巧的に作られた作品です。解説によると、この作品自体が作者ウェストレイクが過去に書いたポルノ小説のパロディになっているそうで、まさに「怪作」と呼ぶにふさわしい作品でしょう。

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12月の気になる新刊と11月の新刊補遺
発売中 高原英理『エイリア綺譚集』(国書刊行会 2916円)
11月24日刊 尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』(洋泉社 予価1944円)
11月27日刊 横溝正史『由利・三津木探偵小説集成1 真珠郎』(柏書房 予価2916円)
11月27日刊 牧逸馬『世界怪奇残酷実話 浴槽の花嫁』(河出書房新社 予価1988円)
11月30日刊 東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社 予価2160円)
11月30日刊 『ナイトランド・クォータリーvol.15 海の幻視』(アトリエサード 1836円)
12月3日刊 アンジェラ・カーター『ホフマン博士の地獄の欲望装置』(図書新聞 予価2160円)
12月5日刊 大森望編『revisions 時間SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫JA 予価842円)
12月5日刊 ジグムント・ミウォシェフスキ『もつれ』(小学館文庫 予価1048円)
12月6日刊 キャシー・アッカー『血みどろ臓物ハイスクール』(河出文庫 予価1566円)
12月10日刊 レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(ちくま文庫 予価1026円)
12月11日刊 フランチェスコ・コロンナ『ヒュプネロートマキア・ポリフィリ 全訳・ポリフィルス狂恋夢』(八坂書房 予価7452円)
12月12日刊 ショーニン・マグワイア『トランクの中に行った双子』(創元推理文庫 予価950円)
12月13日刊 ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』(東宣出版 予価2376円)
12月20日刊 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(東京創元社 予価3240円)
12月20日刊 江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集3』(創元推理文庫 予価1037円)
12月20日刊 ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』(創元推理文庫 予価1080円)
12月20日刊 ダニロ・キシュ『死者の百科事典』(創元ライブラリー 予価1188円)
12月25日刊 佐藤恵三『スウェーデン王カール十一世の幻視について 奇譚迷宮の散策への誘い』(鳥影社 予価2808円)
12月26日刊 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』(東雅夫・下楠昌哉編)(春風社 予価3996円)


 『エイリア綺譚集』は、高原英理の幻想小説既発表作10篇に書き下ろし中篇『ガール・ミーツ・シブサワ』を加えた傑作集です。

 尾之上浩司編『ロッド・サーリングと『四次元への招待』完全読本』は、『ミステリーゾーン』と並ぶサーリングの代表的シリーズ『四次元への招待』を紹介するガイド本。これは面白そうです。このシリーズのDVDも出るといいのですが。

 東雅夫『クトゥルー神話大事典』は、クトゥルー神話の事典。増補に増補を重ねてきましたが、これが決定版でしょうか。

 大森望編『revisions 時間SFアンソロジー』は、全6篇収録の時間SFのアンソロジー。収録作品が公開されていました。

法月綸太郎「ノックス・マシン」
小林泰三「時空争奪」
津原泰水「五色の舟」
藤井太洋「ノー・パラドクス」
C・L・ムーア「ヴィンテージ・シーズン」
リチャード・R・スミス「退屈の檻」

「ヴィンテージ・シーズン」「退屈の檻」が目玉作品でしょうか。「ヴィンテージ・シーズン」は、『グランド・ツアー』として映画化もされたムーアの名品。「退屈の檻」は、かって『倦怠の檻』(ジュディス・メリル編『宇宙の妖怪たち』所収 ハヤカワ・SF・シリーズ)として訳されていた作品ですね。『倦怠の檻』を紹介しているページはこちら

 レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』は、ロシアとヨーロッパを舞台にした冒険小説的な作品だそうで、これは楽しみです。

 ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅』は、ブッツァーティの未紹介作品集の第2弾。こちらも収録作品が公開されていたので、紹介しておきます。

「卵」
「甘美な夜」
「目には目を」
「十八番ホール」
「自然の魔力」
「老人狩り」
「キルケー」
「難問」
「公園での自殺」
「ヴェネツィア・ビエンナーレの夜の戦い」
「空き缶娘」
「庭の瘤」
「神出鬼没」
「二人の運転手」
「現代の地獄への旅」

 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』は、幻想的な小説で知られる作家フォードの短篇傑作集。13篇を収録した日本オリジナル編集です。

 ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』は、同名のカルト映画の原作となる小説作品です。

 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』は、幻想文学論の古典の邦訳で、ちょっと気になりますね。

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あらかじめ失われた恋  デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』
憑かれた女
 デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』(中村保男訳 文遊社)は、分類の非常に難しい作品です。あえていうなら観念的な幻想恋愛小説、といったところでしょうか。登場する館が魅力的で、ゴシック・ロマンスのような雰囲気もありますね。

 若い女性イズベルは、婚約者のマーシャルに、ある男から古い館の買取を打診されているという話を聞きます。その館、ランヒル・コート館は、13世紀頃にウルフという男が建てたとされていました。ウルフは館の最上階ごとトロールにさらわれ、それ以来、館では失われた部屋が目撃されているというのです。
 マーシャルと伯母とともに館を下見に訪れたイズベルは、同行者がいたときには気付かなかった上り階段が大広間から伸びているのに気付き、階段を登ってみます。登った先の部屋には三つの扉がありました。探索を進めようとした矢先にマーシャルの声が聞こえます。
 マーシャルたちのもとに戻ったイズベルは、階段を登った後の記憶が全く残っていないことに気付きます。イズベルは、秘密を知っているらしい館の主人ジャッジと話すうちに、彼に惹かれつつありました…。

 ある特定の能力を持つ人物にのみ、幻の部屋へと通じる階段が現れる…という幻想的な邸が登場します。面白いのは、この部屋にいる間の記憶は、部屋を出ると失われてしまうというところです。
 婚約者のいるイズベルと、やもめの初老の男ジャッジは互いに惹かれつつも、表立っては礼儀正しい姿勢をくずしません。しかし幻の部屋では不思議な作用により、自分たちの思いを語り合うことになります。しかし部屋の外に出るたびにその記憶は失われてしまいます。彼らの恋の行方はどうなるのか…?

 ストーリーをまとめると上記のような感じになるのですが、著者は観念的な幻想小説『アルクトゥールスへの旅』で知られるリンゼイ。恋愛模様も普通のそれではなく観念的・神秘的な様相を帯びています。
 幻の部屋は異世界らしき場所へつながっています。著者はこの場所を「美しい」と描写するのですが、読んでいる方からするとやたらと「怖い」世界なのですよね。ヒロインの恋愛がどうなっていくのか?という興味と同時に、この異世界はどうなっているのか、ヒロインたちは異世界に行ってしまうのか?という興味でも読み進んでいくことができます。

 「観念的」というと身構えてしまうかもしれませんが、全体に会話が多く、読みやすい作品です。変わった恋愛小説、幻想小説を読んでみたい方にはお薦めしておきたいと思います。「館もの」としても出色の出来ではないでしょうか。

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熊と人間  ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
こうしてイギリスから熊がいなくなりました
 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(田内志文訳 東京創元社)は、イギリスから絶滅してしまった熊をめぐる8つの物語をまとめた短篇集。ユーモアと哀愁に満ちた物語集になっています。

 森の悪魔と恐れられる「精霊熊」との交渉に送り出された男を描く「精霊熊」、死者の罪を引き受けるための供物を食べた熊を描く「罪喰い熊」、闘熊のスターとなった熊を描く「鎖につながれた熊」、サーカスで虐げられている熊たちが脱出するという「サーカスの熊」、下水道で働かされる熊たちを描いた「下水熊」、人間の相棒と共に潜水夫として働く熊を描く「市民熊」、何かに導かれ旅を続ける熊たちを描いた「夜の熊」、熊たちの最後の船出を描く「偉大なる熊」の8篇を収録しています。

 登場する熊たちは、人間と共に働いたり、比較的友好的なものもいるものの、概して、野生的であり攻撃性を残した存在として描かれています。人間から虐待をされる熊だけでなく、人間から(一方的ではありますが)可愛がられている熊でさえ、結局は人間と相容れることはないのです。
 大体の作品において、虐げられていた熊たちは、人間の手から逃亡する形になります。逃げ出した熊たちのその後は、最後の二篇「夜の熊」「偉大なる熊」で描かれます。特に「偉大なる熊」の最後は、非常に詩的で美しく描かれていますね。

 「寓話」といっていい作品なのですが、登場する熊たちの描き方(デフォルメ)が絶妙です。人間と意思を疎通したり仕事を代りにやったりと、そういう意味では「擬人化」がされているのですが、かといって、彼らの中身は「人間」ではありません。飽くまで「野生動物」なのです。
 人間の一方的な思い込みで、虐待されたり枠にはめられたりした熊たちは、それらに対して反乱を起こします。そんな熊たちの悲しみをユーモアを交えて描いた短篇集、といっていいでしょうか。そういう風なので、当然のごとく作者の筆は熊に友好的です。
 熊たちも一方的に虐げられるわけではなく、強欲な人間たちが復讐されたりといった話も見られます。しかし、善意で接する人間も同じように熊に殺されてしまったりと、熊と人間との「分かりあえなさ」を描いており、一筋縄ではいかないところがまた面白いですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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