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同人誌『海外ファンタジー小説ブックガイド2』刊行のお知らせ
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 2022年4月ごろに刊行した、海外のファンタジー小説のレビューをまとめた同人誌『海外ファンタジー小説ブックガイド1』、その続刊である『海外ファンタジー小説ブックガイド2』を刊行いたします。
 前巻同様、大まかにテーマを分けて作品を分類しています。狭義のファンタジー小説だけでなく、SFやホラー、文学といった隣接ジャンルとの境界作品なども併せて紹介しています。
 本巻では、「闇のメルヘン」として、怪奇・ホラー味の濃い作品、「ジョーン・エイキンのおかしな世界」では、ファンタジーの大家ジョーン・エイキンの作品をまとめて紹介しています。
 本の完成は、9月上旬から中旬を予定しています。

通信販売は、以下のお店で扱っていただく予定です。

書肆盛林堂さん
CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
享楽堂さん

※CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さんに関しては、刊行前に事前に予約を受け付けています。
※書肆盛林堂さん、享楽堂さんに関しては、印刷完了後の販売となります。

仕様は以下の通りです。

『海外ファンタジー小説ブックガイド2』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:252ページ(表紙除く)
表紙印刷:カラー
本文印刷:モノクロ
表紙用紙:アートポスト200K
本文用紙:書籍72.5K(クリーム)
表紙PP加工あり


内容は以下の通り。

まえがき

変身の物語
ハンス・ファラダ『田園幻想譚』
ロバート・ストールマン『孤児』
ロバート・ストールマン『虜囚』
ロバート・ストールマン『野獣』
ピーター・ディッキンソン『エヴァが目ざめるとき』
シオドア・スタージョン『人間以上』
シオドア・スタージョン『夢みる宝石』
ウォルター・テヴィス『地球に落ちて来た男』
ロバート・ウェストール『弟の戦争』
フィリップ・プルマン『ぼく、ネズミだったの!』
フランシス・ハーディング『ガラスの顔』

人生の不思議
マルセル・エイメ『壁抜け男』
イタロ・カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』
ヨアヒム・リンゲルナッツ『動物園の麒麟』
ティルデ・ミヒェルス『レムラインさんの超能力』
ロバート・ネイサン『川をくだる旅』
エドワード・ケアリー『アルヴァとイルヴァ』
ロイス・ダンカン『とざされた時間のかなた』
イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』
ラインハルト・ユング『おはなしは気球にのって』
エドワード・ケアリー『飢渇の人』
マット・ヘイグ『ミッドナイト・ライブラリー』
エミリー・ロッダ『彼の名はウォルター』

自然と動物たち
W・デ・ラ・メア『魔女の箒』
オラシオ・キローガ『南米ジャングル童話集』
ジョン・コリア『モンキー・ワイフ』
アリソン・アトリー『氷の花たば』
アリソン・アトリー『西風のくれた鍵』
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『精霊たちの庭』
D・ブッツァーティ『シチリアを征服したクマ王国の物語』
ユリヨ・コッコ『羽根をなくした妖精』
ポール・ギャリコ『トマシーナ』
ポール・ギャリコ『トンデモネズミ大活躍』
ロイド・アリグザンダー『人間になりたがった猫』
ロバート・ネイサン『タピオラの冒険』
フィリパ・ピアス『まぼろしの小さい犬』
アンドレ・アレクシス『十五匹の犬』

異界の物語
ウイリアム・モリス『世界のかなたの森』
ウイリアム・モリス『サンダリング・フラッド』
ウイリアム・モリス『輝く平原の物語』
ピエール・ルイス『ポーゾール王の冒険』
アレクサンドル・グリーン『波の上を駆ける女』
アレクサンドル・グリーン『黄金の鎖』
アレクサンドル・グリーン『深紅の帆』
レイ・ブラッドベリ『火星年代記』
ジェーン・ギャスケル『奇妙な悪魔』
アンリ・ボスコ『ズボンをはいたロバ』
マリア・グリーペ『忘れ川をこえた子どもたち』
タデウシュ・コンヴィッキ『ぼくはだれだ』
テリー・ビッスン『世界の果てまで何マイル』
J・ティプトリー・Jr『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』
ショーニン・マグワイア『不思議の国の少女たち』
ショーニン・マグワイア『トランクの中に行った双子』
ショーニン・マグワイア『砂糖の空から落ちてきた少女』
スザンナ・クラーク『ピラネージ』

神話を超えて
I・ブルリッチ=マジュラニッチ『昔々の昔から』
オーブリ・ビアズレー『美神の館』
ケネス・ウォーカー『箱船の航海日誌』
ペネローピ・ファーマー『イヴの物語』
ロジャー・ゼラズニイ『光の王』
タニス・リー『タマスターラー』
アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』
ピーター・S・ビーグル『風のガリアード』
アンドルス・キヴィラフク『蛇の言葉を話した男』

幻獣の物語
ピーター・S・ビーグル『完全版 最後のユニコーン』
ピーター・S・ビーグル『ユニコーン・ソナタ』
R・A・マカヴォイ『黒龍とお茶を』
タニス・リー『ゴルゴン 幻獣夜話』
ジョー・ウォルトン『アゴールニンズ』
メガン・シェパード『ブライアーヒルの秘密の馬』

啓示と奇跡
セルマ・ラーゲルレーフ『幻の馬車』
A・ブラックウッド『ポール伯父の参入』
バラージュ・ベーラ『ほんとうの空色』
カレル・チャペック『絶対子工場』
ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』
ロナルド・ファーバンク『オデット』
ポール・ギャリコ『スノーグース』
ポール・ギャリコ『雪のひとひら』
デイヴィッド・グレゴリー『ミステリー・ディナー』
ヨアブ・ブルーム『偶然仕掛け人』
A・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』
パヴェル・ブリッチ『夜な夜な天使は舞い降りる』
A・F・ハロルド『ぼくが消えないうちに』

都会の幻想
ジャック・フィニイ『夢の10セント銀貨』
ジャック・フィニイ『夜の冒険者たち』
ロバート・ネイサン『夢の国をゆく帆船』
ジェフリー・フォード『シャルビューク夫人の肖像』
A・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』

闇のメルヘン
タニス・リー『冬物語』
タニス・リー『悪魔の薔薇』
タニス・リー『血のごとく赤く 幻想童話集』
メレディス・アン・ピアス『ダークエンジェル』
エマ・テナント『まぼろしの少年リック』
フィリパ・ピアス『幽霊を見た10の話』
フィリパ・ピアス『こわがってるのはだれ?』
クリス・プリーストリー『モンタギューおじさんの怖い話』
クリス・プリーストリー『船乗りサッカレーの怖い話』
クリス・プリーストリー『トンネルに消えた女の怖い話』
クリス・プリーストリー『ホートン・ミア館の怖い話』
スーザン・プライス『24の怖い話』
ナタリー・バビット『悪魔の物語』
ナタリー・バビット『もう一つの悪魔の物語』
ロバート・ウェストール『ゴーストアビー』

ジョーン・エイキンのおかしな世界
ジョーン・エイキン『月のケーキ』
ジョーン・エイキン『月のしかえし』
ジョーン・エイキン『夜八時を過ぎたら…』
ジョーン・エイキン『ぬすまれた夢』
ジョーン・エイキン『魔法のアイロン』
ジョーン・エイキン『しずくの首飾り』
ジョーン・エイキン『ふしぎな八つのおとぎばなし』
ジョーン・エイキン『心の宝箱にしまう15のファンタジー』
ジョーン・エイキン『おとなりさんは魔女』
ジョーン・エイキン『ねむれなければ木にのぼれ』
ジョーン・エイキン『ゾウになった赤ちゃん』
ジョーン・エイケン『台所の戦士たち』
ジョーン・エイケン『海の王国』

アンソロジーの愉しみ
神宮輝夫編『銀色の時 イギリスファンタジー童話傑作選』
神宮輝夫編『夏至の魔法 イギリスファンタジー童話傑作選』
『ミステリアス・クリスマス』
『ミステリアス・クリスマス2』
西周成編訳『ロシアのおとぎ話』
ひとりだけのもの  長谷川まりる『かすみ川の人魚』
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 長谷川まりる『かすみ川の人魚』(講談社)は、人魚を見つけた少年二人の日常を描いた、幻想的な味わいの児童文学です。

 大賀は友だちの少ない少年でした。皆と打ち解けるのが苦手な大賀は、ある日授業の中休みに、先生に外で遊ぶように言われた際、そっと学校を抜け出し、近くにあるかすみ川を訪れます。そこで、顔は人で体は魚の人魚のような小さな生き物を見つけますが、その生き物はぐったりしていました。
 川が汚れていることが原因かとも思われましたが、人魚のことを唯一の友だち千秋に打ち明けることになります。千秋は、人気のない山の池に人魚を移すことを提案します。やがて人魚は元気を取り戻し、二人は「かすみ」と名付けた人魚の世話を、試行錯誤しながら続けることになりますが…。

 人魚の世話をすることになった少年二人の不思議な日常を描いた、幻想的な味わいの児童文学です。
 多少可愛らしい顔をしているとはいえ、登場する人魚の造形は結構不気味です。言葉は話せず、大賀たちの言葉も理解しているのかは怪しいのです。人魚に「かわいらしさ」を感じ、ペットのように扱う大賀に対し、千秋は人魚を不気味がりながらも、人魚の食生活や生態などを知りたがります。科学的なものに興味がある千秋は、それらをノートに記録したりと調査を重ねることになるのです。

 大賀は、人魚を自分だけのものにしておきたいという独占欲にかられていました。彼は一人でずっと本を読んでいることが多く、自分の知識が多いことや頭の良いことを鼻にかけていました。人魚の世話をするようになってからも、千秋を除いて誰も知らない秘密を持っていることが、自らの優越感につながっていたのです。それゆえ、人魚の生態を調べる過程で、千秋が自分の知らない科学的な知識を持っていることに嫉妬を抱いたりもします。
 後半、人魚と千秋、どちらかを優先しなければならない事態に陥ったとき、大賀は人魚を優先してしまいます。友情にひびを入れてしまったことに対して、大賀は深く内省することにもなるのです。

 人魚をめぐって、二人の少年の友情と成長が描かれていくという作品で、感性豊かなファンタジーといえるのですが、後半からは、人魚の秘密を知るらしいある人物も現れ、少々の伝奇小説風味も出てくるあたりも興味深いですね。
 幻想的な物語ではありますが、人付き合いの下手な少年の心理には非常にリアルな質感があります。全体に丁寧に描かれた秀作です。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

複雑な未来  久米康之『猫の尻尾も借りてきて』
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 久米康之の長篇『猫の尻尾も借りてきて』(ソノラマ文庫)は、「時間移動」の面白さと複雑さを突き詰めた、ユニークなタイムトラベル小説です。

 東林工学の中央研究所、天才科学者と言われる林宗男の助手を勤める村崎史郎は、同じく林の秘書を務める矢野祥子に思いを寄せていました。史郎への祥子の態度はどちらともつかぬもので、その一方、社長秘書の大野亜弓からは熱烈なアプローチをされていました。
 研究所で開発された人工知能「ニタカ」は、祥子には恋人がいるため、史郎は諦めるべきだと史郎に提案します。がっかりする史郎に追い打ちをかけるように、祥子が殺されたというニュースが入ります。その犯人は不明でした。
 林と話すうちに、彼がタイムマシンの設計を終えていることを知った史郎は、彼と協力し、タイムマシンを完成させます。タイムパラドックスのために祥子の命を救うことは不可能であり、せいぜい彼女を殺した犯人を知るだけにとどめるべきだという林の言葉に納得したふりをしながら、史郎は祥子の命を無理にでも助けることを決心していました…。

 思いを寄せる女性を助けるために、タイムマシンで過去に飛ぶ青年を描いたSF作品です。
 過去に戻った主人公史郎が、祥子の殺人現場にたどりつき、そこで信じられない光景を目撃したことから、単純かと思われていた殺人事件が一気に複雑化していくことになります。どうやら祥子の殺害にはタイムマシンが関わっているようなのです。史郎以外にもタイムマシンを持つ時間旅行者がいることが示唆され、さらに史郎自身も何度も過去に戻る行為を繰り返すことになります。
 複数の人物が繰り返し過去に戻ることによって、引き起こされる事態の結果や因果関係がどんどんと複雑化していく流れは、目が回ってしまうほど。史郎一人の動きに限っても理解が覚束ないほどで、何しろ「未来の史郎」が過去に先回りして行った結果を「現在の史郎」が見つける…などという展開が頻発するのです。
 中盤では、タイムマシン以外にも、ある未来の技術が導入されることになります。これによりさらに事態はとんでもない方向に行ってしまいます。

 タイムトラベル、タイムパラドックス(厳密にはパラドックスは起きていないようですが…)的な面白さを追求したSF作品です。
 最終的に何が起こっていたのかは、結末で説明されはするのですが、説明されても完全には理解できないほどの複雑さ。とくに時代を行き来するタイムマシンの「動き」には唖然としてしまいます。国産タイムトラベル小説の傑作の一つでしょう。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

謎の万能機械  アンドリュー・ノリス『秘密のマシン、アクイラ』 
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 アンドリュー・ノリスの長篇『秘密のマシン、アクイラ』(原田勝訳 あすなろ書房)は、不思議な飛行機械を見つけた少年二人の冒険を描く作品です。

 勉強嫌いで劣等生の少年ジェフとトムは、課外活動で訪れたピーク国立公園の石切り場跡で、たまたま隠されていた洞窟を見つけます。中には古代ローマ人らしい鎧をつけた骸骨がありましたが、そのそばになにか大きなものがあるのに気が付きます。それは表面がなめらかで、小さな船に似た、機械のようなものでした。
 様々な色のランプがついており、でたらめに押した結果、機械は飛び上がります。どうやらこれは飛行するための機械のようなのです。機械に書いてあった言葉から、その機械を「アクイラ」と名付けたジェフとトムは、それを使って様々な冒険に乗り出すことになりますが…。

 遺跡跡から、不思議な飛行機械アクイラを手に入れた少年二人が、それを使って冒険を繰り広げるというファンタジー作品です。
 古代ローマ人の死体と一緒に発見されたことから、古代ローマで使われていたらしいアクイラなのですが、それがどのような由来のものなのかは一切分かりません。
 アクイラは、現代のテクノロジーでは考えられないような機械で、高速で飛行するのはもちろん、その他にも様々な機能があるのです。多数のボタンが搭載されており、それぞれ別の機能があるようなのですが、最初は使い方が分からず、少年たちの試行錯誤が描かれていきます。
 上下左右の移動など飛行に使うボタンだけでなく、透明になるボタン、レーザーを出すボタンなど、思いもかけない機能が存在し、それらを探求していく過程が抜群に面白いです。思わず押したボタンがレーザー光線を出すもので、家を十件以上貫通し大火災を引き起こしてしまうなど、そのトラブル加減も強烈です。

 少年たちがアクイラを通して、知的好奇心に目覚めていく…という流れも面白いですね。徹底した勉強嫌いで、授業中でも隠れてやりすごしていたような二人が、アクイラのコントロールのため、様々な知識を知ろうとし始めるのです。
 透明になったアクイラが勝手に動き出してしまい、その距離を計算するために数学を勉強したり、ラテン語で示されるアクイラへの指示をするためにラテン語を勉強したり、燃料を調べるために物理を勉強したりと、徹底して実用的な観点から知識を知ろうとするのですが、先生たちには急に勉強好きになったように見えて、感心されてしまうのです。
 その一方、疑い深い教頭先生は、少年二人が悪だくみをしているものと思い込み、あら探しをし続ける…というのも楽しいですね。
 ジェフとトムが、アクイラに関して度々新しい勉強を始め(ているように見え)、そのたびに驚く教師と教頭先生が描かれるシーンはユーモアたっぷりです。

 アクイラを通して、少年二人が知的にだけでなく人格的にも成長を遂げ、そしてそれは彼らの親や隣人、教師たちにもいい影響を及ぼし、全てが幸福な方向に進む、という、徹底して明るいトーンの物語になっています。
 実のところ、少年たちが好き勝手をやっているだけなのですが、周囲の「誤解」がいい影響を生む…という過程が、皮肉を交えずに語られるあたりも後味が良いですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

呪われた物語たち  深志美由紀『怖い話を集めたら 連鎖怪談』
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 深志美由紀『怖い話を集めたら 連鎖怪談』(集英社文庫)は、仕事で、聞き取った怪異談を文章にまとめることになった作家の恐怖体験を描くホラー作品です。

 仕事が減り、困窮していた恋愛小説家の齋藤いつきは、以前に知り合いだった出水青葉から連絡を受けます。編集者だった出水は自らスマートフォン用ゲーム会社を起ち上げており、ノベルアプリのための怪異談をまとめる仕事を任せたいというのです。
 仕事を引き受けることになったいつきでしたが、彼女が体験者から聞き出した話は、それぞれ「呪い」に関わるものでした。仕事をすすめるうちに、いつき自身の身の回りにも変化が起き始めますが…。

 仕事に困っていた恋愛小説家のいつきが請け負ったのは、ノベルアプリのための怪異談を体験者から聞き取り、物語の形にまとめる仕事でした。しかしそれぞれの体験者の話には、それぞれ恐ろしい「呪い」が関わっていたのです。
 プロローグの後に、それぞれ違う体験者による怪異談が語られていきます。一族に伝わる呪いの面について語られる「第一章 御嫁様」、何か動物の鳴き声のようなものが聞こえるマンションをめぐる「第二章 黒い顔」、男女の不倫関係をめぐって異常な事件が起こる「第三章 揺れる」、幽霊屋敷を肝試しに訪れた少年たちの恐怖体験を語る「第四章 空き家の話」、ある人物の壮大な「呪い」の計画が綴られる「第五章 憑くもの」の五章から構成されています。

 各章のエピソードは男女関係のもつれや恨みがモチーフになったものが多く、エロティックな描写もままあります。特に第三章は、男女の不倫がメインとなるだけでなく、歪んだ性愛関係が描写されたりと、そうした方面でもハードなお話になっていますが、これは本業が官能小説家という著者の本領発揮といったところでしょうか。

 一番怖いエピソードは「第一章 御嫁様」です。豪農として知られた酒々井家には、家を加護すると言われる「御嫁様」という面が受け継がれていました。それは能面に似た若い女の顔をした面でした。面は代々継承の儀式が行われ、それが正常に行われないと不幸なことが起こるというのです。
 また酒々井家の男子は代々短命であり、頭や顔に怪我や病気をして亡くなることが多いと言います。そこにはある呪いが隠されていました…。
 奇怪な由来を持つ面に呪われた家系を描くエピソードです。先祖の罪が代々に祟る、というオーソドックスなテーマではありながら、面の得体の知れなさが強烈で、非常に怖いエピソードとなっています。面が作られたグロテスクな由来や、当代の当主が妻よりも面の美しさに惹かれているなど、フェティシズム的なモチーフが現れるところも興味深いですね。

 大枠となる、いつきの物語でも、個々のエピソード同様、何らかの「呪い」が動いていることが示唆されています。いつきには、学生時代からの親友で霊感のある荒銀凪や、これまた霊感のあるイラストレーターの知り合い守富美弥子がおり、彼らから忠告を受けることになるのですが、精神的にバランスを崩したいつきには、彼らの制止は届きません。このまま、いつきが「呪い」に巻き込まれてしまうのか…? という部分でのサスペンス味もあります。

 どのエピソードでも、それぞれ異なった形で「呪い」が関わってくるのですが、それらの描かれ方がユニークなのです。作中でも言及されますが、呪いはある種のシステムであり、正しい順序を踏んでいれば、動き出してしまうものだというのです。
 霊が見えようが見えまいが、巻き込まれてしまえば逃れられない…、というところで、人間の手を離れたシステマチックなものとして描写されています。
 個々のエピソードにせよ、大枠のいつきの物語にせよ、その根底には、どろどろした人間関係や情念が背景にあります。その一方、主題となる「呪い」の部分は「非人間的」で「機械的」なものとして描かれているという点で、ユニークな味付けのホラー小説と言えるでしょうか。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

都会の「村」  篠たまき『月の淀む処』
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 篠たまきの長篇『月の淀む処』(実業之日本社)は、生活を一新しようと、中古マンションに移り住んだ女性が奇怪な体験をすることになるというホラー・サスペンス作品です。

 フリーライターの紗季は、会社の倒産と恋人との別れを経て、築40年のマンション、パートリア淀ヶ月に引っ越してきます。そこはかって、児童虐待死事件があったことでも知られる場所でした。
 やがて紗季は、親切ではあるものの、どこかおかしなマンションの住人たちの態度に違和感を感じるようになっていきます。
 紗季は、隣家に住む記者、真帆子と友人になりますが、彼女はマンションや住人達に不審な点を感じ、独自に調査をしていました。調べるうちに、ある人物が殺されたのではないかという疑いが持ち上がり、紗季は真帆子に押される形で、マンションの住人たちや過去の事件について、共に調べ始めることになりますが…。

 異様な住人たちの住むマンションに移り住むことになった女性の恐怖を描くホラー・サスペンス作品です。
 マンション内での葬儀や祭り、不審な部屋割り、謎の骨壺の存在など、マンション内では異様な風習が存在していました。マンション内はまるで村のようであり、住人たちの距離の近さにも、紗季は違和感を感じるようになります。
 隣家の真帆子に押される形で、共にマンション内を調べていくことになりますが、まともな感覚を持っていると思っていた真帆子も、どこかおかしな性格を秘めていることが分かります。
 さらには、紗季自身にも犯罪すれすれの行為を行った過去があること、非常に危うい精神を抱えていることが判明することになるのです。
 特ダネを求めて秘密を暴こうとする真帆子に表面上は協力する一方、マンションの住人たちの優しさに触れた紗季は、真帆子の行動に疑問を抱くことにもなります。住人たちは本当に犯罪を行うカルト集団なのか…?
 経済的にも苦しい状態にあるため、なるべく事を荒立てたくない…と感じていたこととも相まって、自分がどうすべきか悩むことにもなるのです。

 異様な思想を信奉する共同体と、そこに取り込まれていく女性の恐怖を語った作品といえますが、共同体側が完全な「悪」とはいいきれないこと、主人公にも後ろ暗い過去があり、罪を犯した形跡があること、などから、一方的な迫害や支配の物語にはなっていないところが面白いですね。「善悪」も視点によって異なってくるあたり、深みのあるお話になっています。
 マンション自体が「村」を思わせる共同体になっているという発想も興味深いです。田舎の土俗的な風習を描いたホラーはよくありますが、本作では、いわば都会のど真ん中にそれらの「田舎」を持ってきてしまった形なわけで、これは発想の妙でしょうか。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

秘められた欲望  篠たまき『氷室の華』
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 篠たまき『氷室の華』(朝日文庫)は、氷室守りだった祖父に影響を受けた男が、ある欲望を抱え犯罪を起こしていくことになるという、異常心理サスペンス作品です。

 両親の不仲から、白姫澤村に住む祖父に預けられることになった小学生のユウジは、彼の家系が代々の氷室守りだったことを知ります。氷を貯える洞窟を祖父に見せられたユウジは、そこで美しくも恐ろしいものを発見します。それ以来、よこしまな欲望を抱くようになったユウジの人生は歪んでいきます。
 一方、白姫澤村の血を引く女性、葵は、龍一と名乗る魅力的な男性とつきあい始めていました。しかし龍一の行動には不審な点があり、葵は彼の秘密を探っていくことになります。また、葵の従姉妹である静花は、恋人のカメラマン岳志と同棲していましたが、ある仕事を境に精神のバランスを崩し引きこもるようになった岳志に嫌悪感を感じていました…。

 氷室守りをしていた祖父への愛情と、女性の「ひらこ」(指の間の水かき)への執着から、少年が歪んだ欲望を持つことになり、それに巻き込まれた女性たちが描かれていくという、異常心理サスペンス小説です。
 白姫澤の血を引く人間には、「ひらこ」と呼ばれる指の間の水かきが存在していました。「ひらこ」と氷室に憑かれたユウジは、子どものころから嗜虐的な傾向を示し、大人になってからは、その行為がエスカレートしていくことになります。
 また、白姫澤の血を引くらしい女性、葵と静花の動向が描かれ、彼女たちがユウジの犠牲になってしまうのか…というところでサスペンスが高まっていきますが、葵はともかく、静花はユウジと近い感性の持ち主であり、二人が出会ったときにどうなってしまうのか? と言う部分でも興味が湧いてきますね。
 ユウジを狂わせてしまう「氷室の華」に関しては、フェティシズムやエログロ要素も強いのですが、それが耽美的・幻想的な雰囲気で語られていくため、気色悪さよりも美しさが勝った形になっています。
 舞台となる白姫澤には、かって猟奇的な事件が起こっていたことや、歪んだ因習があったことも判明します。そうした因習に満ちた村において、美的な感覚を持っていたユウジの祖父と、それを受け継いだユウジの、グロテスクではありながら、ある種の美しさを伴った行為が描かれる部分には、耽美的な魅力がありますね。

 歪んだ形ではありながら、美的・芸術的な感性を持って犯罪を犯していく男が描かれる、怪奇ロマン作品といえるでしょうか。倒錯した愛情や猟奇的な行為が描かれるあたり、江戸川乱歩や横溝正史のある種の作品を思い起こさせる味わいもあります。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

狂気のドライブ  三浦晴海『走る凶気が私を殺りにくる』
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 三浦晴海の長篇『走る凶気が私を殺りにくる』(メディアワークス文庫)は、正体不明の車から追われ続ける女性ドライバーの恐怖を描いたホラー作品です。

 介護タクシー会社に勤務する芹沢千晶は、老人ホームから、認知症の老人龍崎を、墓参りのために墓地まで送り届ける仕事を請け負います。運転中に背後からやってきた黒い巨大な車は、千晶の車を煽り、追いかけ続けていました。
 殺意を感じさせるような動きをする車に対し、千晶は、車を運転しているのは、彼女に恨みを抱く男なのではないかと考えていました…。

 殺意を持って追ってくる車から逃げ続ける女性ドライバーの恐怖を描くホラー作品です。正体不明の車に追いかけられる話…というと、リチャード・マシスンの名作『激突!』(スピルバーグによる映画化作品の方がより有名でしょうか)を思い浮かべるのですが、『激突!』同様、いわれもなく襲われる恐怖感・不条理感があるお話となっています。
 ただ、こちらの作品では、「敵」の正体の推測が語られ、それと共にヒロイン千晶の過去が明かされていく…という、別の面での面白さもあります。

 逃げ続ける過程で、千晶の過去が明かされていき、その過程で彼女に恨み(逆恨み)を抱いたであろう人物たちが回想されていきます。複数いるそれらの人物の誰が彼女を追ってくるのか? というところで、サスペンスの豊かな物語となっています。
 さらに、同情している認知症の老人龍崎の存在も物語にユニークな彩りを添えています。普段は紳士的ながら、時折認知症の影響からか豹変したりと、不穏な人物。ただ、追跡の過程でアドバイスをしたりと、千晶の役に立つ場面もあるなど、一筋縄ではいかない人物となっています。

 ほぼ最後まで、走り続ける車の中でストーリーが展開されるというのも面白いです。もっぱら電話で情報を得ることになるのですが、その連絡のたびに事態が急展開することにもなり、終始躍動感のある物語になっています。
 暴走車から逃れられるのか? というのが一番の目的なのですが、ある種の「ワンシチュエーション」ということで想像されるような単線的なお話ではなく、物語が進むに従って、また別の脅威も現れることにもなります。
 主人公千晶の過去の苦難も語られていく部分では、ヒューマン・ストーリーとしての面白さもありますね。快作ホラーと言える作品です。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

まぼろしの人生  新名智『あさとほ』
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 新名智の長篇『あさとほ』(KADOKAWA)は、妹の失踪事件をきっかけに、不思議な出来事に巻き込まれることになる女性を描いた幻想的な作品です。

 幼い頃、目の前で双子の妹、青葉の失踪を目撃した夏日は、両親や周囲の人間から、自分には妹などいなかったということを聞かされ愕然とします。青葉の記憶があるのは、幼馴染で共に青葉の失踪に立ち会った少年、明人だけでした。
 かって、衝突事故で青葉の顔に傷をつけてしまったことから、彼女に対して責任感を感じていた明人は、青葉を見つけることを誓います。
 大学生となった夏日は、担当教授の藤枝が突然の失踪を遂げたことを知り驚きます。過去には、同じ文学部で、講師の清原なる人物も失踪しているというのです。清原が研究していたのは、散逸物語の研究だったといいます。
 友人の亜津沙が学校に出てこなくなったことを心配した夏日ともう一人の友人澪は、亜津沙の部屋を訪ねますが、部屋にはつけっぱなしのノートパソコンがありました。
 その画面には、かって散逸したと思われたものの、数百年ぶりに発見されたという平安時代の物語「あさとほ」についての文章が記されていました…。

 目の前で妹の失踪を目撃した過去を持つ女子大生、夏日が、不思議な物語「あさとほ」に関わり合っていくうちに、妹の失踪事件についての真実にも近づいていく…という幻想的な作品です。
 夏日と明人以外には誰の記憶にも残っていない妹青葉は本当に存在したのか? 何人もの人間の失踪に関わっている「あさとほ」なる物語はいったい何なのか? 全く何も分からないなかで、事態だけが進んでいくという序盤の不気味さ・不穏さは強烈です。
 「あさとほ」に事件の鍵があるらしいことを気づいた夏日と、再会することになった明人は、共に調査を進めていくことになりますが、物語を追っていくうちに、互いの信じている過去が食い違っていくことにもなります。
 過去ばかりか、現在の世界そのものが本当に自分の信じていた世界なのか、分からなくなってくるのです。そうした現実崩壊感覚が現れてくるあたり、まるでフィリップ・K・ディックかジョナサン・キャロル作品を思わせますね。

 物語のメインモチーフとなっている、散逸物語「あさとほ」にも魅力がありますね。恋愛を扱った典型的な平安文学としながらも、その物語を通して人が失踪していることなどから、いわゆる「呪われた本」的な登場をする形になるのですが、単純な「呪いのアイテム」とは、一味違った扱い方がされています。

 全体を通して「物語」がテーマともなっており、それはフィクションとしてのそれだけでなく、主要な登場人物たちの「人生」そのものをも指しているのです。主人公夏日の選択した「物語」とは何だったのか? それが示されるラストにはある種の感慨があります。
 自らが自らの人生をコントロールしている…。そんな自意識を壊されてしまうような、アイデンティティーに絡むホラー作品でもあり、読んでいる読者にも一抹の不安を与えてくるという意味で、非常に恐怖度も高い作品となっていますね。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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