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ポオに触発された作品たち
 エドガー・アラン・ポオの作品は、後続の作家たちに多大な影響を与えました。ポオ作品にインスピレーションを受けて創作された作品の中から、いくつか紹介していきたいと思います。


4787584987ポオ収集家
ロバート ブロック Robert Bloch
新樹社 2000-03

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ロバート・ブロック「ポオ収集家」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 「わたし」が知り合いになった男ラウンスロット・キャニングは、ポオに関する収集家でした。彼の家に招待された「わたし」は、祖父、父と三代にわたって収集されたコレクションに目を見張ります。しかし、キャニングの祖父はコレクションのために、人には言えないようなこともしていたというのです。
 キャニングが見せてくれたのは、通常のコレクションだけでなく、ポオの未発表作品の原稿でした。「わたし」は、収集熱のあまりキャニングは自分がポオだと思い込んだのではないかと疑いますが…。

 タイトル通り、ポオの作品や遺物を収集する男を描いた物語です。語り手の「わたし」がキャニングの館を訪れるというのがメインストーリーなのですが、その全体がポオの「アッシャー家の崩壊」のパロディになっているという手の込みようです。ちょっとしたクトゥルー風の味付けも楽しい作品ですね。
 ちなみに、この作品、ロバート・ブロック作品を元にしたオムニバスホラー映画『残酷の沼』(フレディ・フランシス監督)で、映像化もされているので、興味のある方はぜひ。

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Happinet(SB)(D) 2015-10-02

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ロバート・ブロック「灯台」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 自ら一人になる時間を作るために、犬一匹だけを連れて灯台にこもった男。やがて孤独に耐えられなくなった男は、精神の力だけで「物」を作り出す能力を開発します。
 バラについて念じた男は、灯台の下にありえるはずのないバラが現れたのを見て自分の能力を確信します。理想の伴侶を生み出すべく精神の力を振り絞った男は、灯台の外に何者かが立っているのに気がつきますが…。

 ポオの未完の短篇「灯台」をロバート・ブロックが書き継いで完成させた作品です。ポオの味を上手く生かした怪奇小説になっていて、正直どこからブロックが書き継いだのかがわからないほどです。
 ちなみに、ポオのオリジナルの「灯台」は本当に「断片」で、まだ話が全然展開していない段階で途絶しています。ブロックが書き継いだ部分では犬が錯乱するシーンがあるのですが、もしかしたらこのシーン、『ピム』を意識しているのかもしれません。
 ポオのオリジナルの「灯台」は、『大渦巻への落下・灯台』(巽孝之訳 新潮文庫)や『E・A・ポー ポケットマスターピース9』(鴻巣友季子/桜庭一樹編 集英社文庫)で読めます。



4150117640火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ Ray Bradbury
早川書房 2010-07-10

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レイ・ブラッドベリ「第二のアッシャー邸」(小笠原豊樹訳『火星年代記』ハヤカワ文庫SF 収録)

 その時代、ポオやラヴクラフトなどの「恐怖と幻想の物語」は焚書にされ、禁じられていました。反逆の意味を込めて、資産家スタンダールは、火星にポオの作品に触発された巨大な屋敷「アッシャー邸」を建造します。
 さっそく調査に現れた道徳風潮調査官ギャレットは、邸の取り壊しを明言します。壊す前に内部をちょっと見てみたらというスタンダールの誘いに乗り、ギャレットは邸の内部を見て回ることになりますが…。

 ポオの「アッシャー家の崩壊」にインスパイアされた物語です。邸の内装や、そこで演じられるパフォーマンスは、皆ポオの作品からインスピレーションを得たものになっている…というのが凝っていますね。
 作中では「早まった埋葬」「モルグ街の殺人」「アモンティリヤアドの酒樽」などからの情景が再現されます。そして作品全体は「アッシャー家の崩壊」へのオマージュになっているという、ポオづくしの物語です。



4488612059ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
レイ・ブラッドベリ 大西 尹明
東京創元社 2006-02-27

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 「恐怖と幻想の物語」が禁止される世界というのは、ブラッドベリが非常に危惧していたことのようで、「亡命した人々」 (大西尹明訳『ウは宇宙船のウ』創元SF文庫 収録)という短篇でも、似たモチーフが扱われています。

 やはり「恐怖と幻想の物語」が焚書にされてしまった世界が舞台です。火星には作家たちの魂(?)が住んでいました。彼らの本が一冊でも残っている限り、作家たちの魂は生き延びているのです。
 地球からの討伐隊は、作家たちの最後の本を積んだ宇宙船で火星に向かっていました。作家たちは力を合わせて、敵を撃退しようとしますが…。

 ここに登場する作家は、ポオ、ビアス、マッケン、ブラックウッド、コパード、ディケンズなど。自分は怪奇作家に間違えられただけだ…と言うディケンズのセリフが哀感を誘います。
 「第二のアッシャー邸」「亡命した人々」に登場する、「焚書」に対する抵抗というテーマは、後の長篇『華氏四五一度』(宇野利泰訳 ハヤカワ文庫SF)にもつながっているのでしょう。



4198908834幻夢エドガー・ポー最後の5日間 (徳間文庫)
スティーブン・マーロウ 広津 倫子
徳間書店 1998-04

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スティーヴン・マーロウ『幻夢  エドガー・ポー最後の5日間』(広津倫子訳 徳間文庫)

 ポーが死の直前に五日間ほど行方不明だったという事実をもとに、想像をふくらまして書かれた歴史ミステリー小説です。
 困窮したポーの死去直前の行動を想像で描きながら、その合間に過去のポーの回想が描かれます。この回想部分は、おおむね伝記的事実に沿っているらしいのですが、情感豊かに描かれていて読みでがあります。
 回想が進むにつれて、明らかに現実ではありえないような事件や情景がはさまれてきます。ポーが偽名を名乗ったのをきっかけに、別の人格が生まれ、そちらの人格はまた別の物語を語りだすのです。史実にはない、パリでの行動では、アレクサンドル・デュマと友人づきあいをしたりします。
 そしてオーギュスト・デュパンが実在の人物として登場し、ポーとともに「モルグ街の殺人」を思わせる殺人事件を調査するのです。他にもポーの作品を思わせるガジェットや事件が頻出し、ポーの愛読者には興味深く読めるのではないでしょうか。



norowaretae.jpg呪われた絵 (1978年) (海外ベストセラー・シリーズ)
スティーヴン・マーロウ 高儀 進
角川書店 1978-11

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 スティーヴン・マーロウは、歴史ものなどの邦訳もあるアメリカの作家です。個人的には、1976年発表のモダンホラー小説『呪われた絵』(高儀進訳 角川書店)が印象に残っています。ついでに紹介しておきましょう。

 17世紀フランスの伝説的画家コロンビーヌの作品が、アメリカのある町に譲られることになります。しかしその絵が到着してから、町には異変が起こり始めます。
 折りしも、フランス留学から戻った主人公のヒロインは、ジプシーからもらった古い日記を読み始めます。それは画家コロンビーヌの手記でした。彼はジプシーとともに黒魔術を学んでいました。家族を殺された画家は、絵に呪いをかけていたのです。やがてその影響はヒロインにも及びますが…。

 過去の画家の呪いが現代に甦るというオカルト・ホラー小説です。絵の影響で、一つの町そのものが呪いの影響下に置かれるのですが、ヒロインがかかる呪いも拒食症だったりと、派手さはあまりないのが特徴。ただ過去の歴史が現代の町に二重写しで再現されるという趣向は非常に面白いです。
 現代のパートと、過去の画家の手記パートが交互に現れるのですが、画家のパートの方が伝奇小説的な面白さがありますね。丁寧に描かれた幻想小説として、佳作といっていい作品だと思います。

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エドガー・アラン・ポオの怪奇とユーモア
ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1) ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2) ポオ小説全集 3 (創元推理文庫 522-3) ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)
 アメリカの作家エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)は、様々なジャンルの作品を残した作家です。その本領は怪奇幻想分野の作品にありますが、今でいうところのミステリ・SF・ユーモア小説などに分類される作品も多く書いています。
 ポオの小説作品は、唯一の長篇「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」を除けば、ほぼ短篇です。ポオの短篇はかなり短いものが多いのですが、その完成度は圧倒的。
 神経症的な兄妹と館の崩壊の物語「アッシャー家の崩壊」や、分身物語「ウイリアム・ウィルソン」、病を擬人化した象徴的な「赤死病の仮面」などの代表作は、極限まで無駄が省かれている…といった印象を受けますね。

 怪奇幻想的な作品では、悪魔に襲われる町を描いた「鐘楼の悪魔」であるとか、古風なゴシック・ロマンス「メッツェンガーシュタイン」などの古いタイプの作品もありますが、新しいタイプの怪奇小説も多く書いています。
 「新しいタイプの怪奇小説」とは、いわゆるヨーロッパの怪奇幻想小説の伝統的な素材、悪魔・妖精・幽霊といった素材を使わずに書かれた小説のことです。
 例えば「群衆の人」。この作品では、「群衆」の中にまぎれこまずには生きられないという男が描かれますが、これは非常に新しいタイプの作品だと思います。
 大渦に巻き込まれた男の体験談「メエルシュトレエムに呑まれて」、異端審問所で拷問にさらされる「陥穽と振子」などは、ほぼクライマックスのスペクタクル部分だけを取り出したようなエンターテインメントですし、患者が医者に化けるという「タール博士とフェザー教授の療法」は、正気と狂気の境目がわからなくなるような作品で、まるでロバート・ブロックが書きそうな題材です。
 「黒猫」「告げ口心臓」といった人間の異常心理が描かれる作品は「人間の恐ろしさ」を描いているという点で、非常に近代的な作品で、現代の「サイコスリラー」の原型といってもいいでしょうか。
 上記で「古風」と形容した「メッツェンガーシュタイン」も、実はポオがパロディとして書いたという話で、意識的にいろいろなタッチの作品を描き分けられるというポオの器用さが感じられますね。

 陰鬱でダークなイメージのあるポオの作品ですが、意外にユーモアの要素があるものが多いのも特徴です。「息」がなくなってしまう男を描いた「息の喪失」、立派な男の正体が明かされる「使いきった男」、視力の悪さからとんでもない恋愛事件を引き起こす「眼鏡」などの、明確にユーモア小説を志向した作品の他にも、一般的には「ユーモアもの」だと思われていない作品、例えば「盗まれた手紙」「お前が犯人だ」、一見シリアスながら脱力するような結末が待っている「スフィンクス」といった作品にも、ユーモアの要素が感じとれます。
 あと、不条理を信じない男がおかしな出来事に遭遇する「不条理の天使」などは、幻想小説とユーモア(というよりはナンセンスでしょうか)が融合した、非常に面白い作品だと思います。

 非常に「想像力」や「ファンタジー」に富んだ発想の作品を描く一方、ジャーナリストでもあったポオらしく、リアリティに富んだ実録風の作品もあって、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」やロッキー山脈横断を描く「ジューリアス・ロドマンの日記」といった冒険ものは、ポオのそんな部分が発揮された作品でしょう。
 ただリアリズム要素の強い『ピム』の中にも、ところどころ奇想天外な要素は出てきます。逆に、気球で月に向かうという「ハンス・プファアルの無類の冒険」のように、実録風でありながらファンタジー要素の方が多い作品もあったりと、現実と想像の匙加減は絶妙ですね。

 ポオの小説は、創元推理文庫刊の『ポオ小説全集』でほぼ網羅されているので、ポオの小説を全部読みたい!という人にはこちらをお勧めしておきます。
 ただ、1巻の序盤の収録作品は比較的とっつきにくい作品が多いので、推奨したい読み方としては、まず3巻か4巻、次に1巻、余裕があったら2巻、といった感じで読むと、読みやすいかと思います。

 ポオのユーモアについて触れたついでに『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』の収録作品を考えてみました。今回の記事のおまけとして載せておきたいと思います。

『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』目次

「眼鏡」
「息の喪失」
「鐘楼の悪魔」
「使いきった男」
「チビのフランス人は、なぜ手に吊繃帯をしているのか?」
「週に三度の日曜日」
「ミイラとの論争」
「タール博士とフェザー教授の療法」
「お前が犯人だ」
「盗まれた手紙」
「スフィンクス」
「不条理の天使」

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迷宮と建築幻想をめぐる物語
 「迷宮」「迷路」「巨大建築物」「地下都市」…。現実には不可能な規模の建築物や、現実にはあり得ない建物など、フィクションには様々な建造物が登場します。本を読んでいて、作品中の「建築物」や「館」などの印象で記憶に残っている作品も多いでしょう。そんな中から、いくつかの作品を紹介していきたいと思います。あわせて、必ずしも建造物が登場するわけではなくても、物語自体が「迷宮」的なテーマを扱った作品も紹介しています。



masyonomori.jpg
魔性の森 (1982年) (角川文庫)
ハーバート・リーバーマン 斎藤 伯好
角川書店 1982-04

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ハーバート・リーバーマン『魔性の森』(斎藤伯好訳 角川文庫)
 イギリスの山中の森に測量のために入り込んだ数人の男女。しかし測量人が発作を起こし、道がわからなくなってしまいます…。
 遭難するのは中年の男女なのですが、みな幼馴染であり、過去の因縁から心理的な対立が始まります。人間関係をめぐる心理描写部分は非常にリアルなのですが、全体としては非常にファンタスティックな幻想小説になっているという、ユニークな作品です。



4575517712MAZE 新装版 (双葉文庫)
恩田 陸
双葉社 2015-04-16

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恩田陸『MAZE』(双葉文庫)
 神原恵弥は、友人の満とともに中東で発見された白い遺跡の調査に訪れます。そこでは人々が消えてしまうという噂がありました。過去の記録から、人が消えるための条件があるのではと考えた満は仮説を立てますが…。
 人が消えてしまう迷路についての物語です。迷路そのものの探検というより、それをめぐる仮説を楽しむというタイプの作品です。魅力的な題材なのですが、結末にはちょっと不満が残るかも。



4488543014迷宮1000 (創元推理文庫)
ヤン・ヴァイス 深見 弾
東京創元社 1987-08-28

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ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(創元推理文庫)
 男が目覚めると、そこは奇妙な塔のような場所でした。しかも男には記憶がないのです。持ち物から、自分が探偵ピーター・ブロークであり、失踪者を探すためにこの建物「ミューラー館」に潜入したことを知ります。独裁者オヒスファー・ミューラーによって支配される1000階建のビル「ミューラー館」の調査を始めるブロークでしたが…。
 チェコで1920年代に書かれた「迷宮」テーマ作品です。1000階建のビルという魅力的な建造物が登場します。



kurono.jpg
黒の迷路 (ハヤカワ文庫 NV 20)
ロレンス・ダレル 沢村 灌
早川書房 1972-07-31

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ロレンス・ダレル『黒の迷路』(沢村灌訳 ハヤカワ文庫NV)
 ギリシャのクレタ島で、発見されたばかりの洞窟の迷路に入り込んだ観光団が突然の落盤で閉じ込められます。ガイドは事故で死亡し、暗闇の中、人々は散り散りになってしまいます。人々は洞窟から脱出できるのでしょうか…。?
 上記の粗筋からだとすごく面白そうなのですが、実際読んでみるとちょっとニュアンスが違います。粗筋自体は間違いではないのですが、この洞窟の冒険に至るまでが、やたら長いのです。全体で350ページぐらいある作品ですが、洞窟場面に来るまで250ページぐらいを要します。それまでは何が描かれるかというと、登場人物たちのそれまでの人生とか精神的危機などが描かれるのです。
 人物描写部分はそれはそれで興味深いのですが、かなり退屈する場面が長く続きます。ただ洞窟で事故が発生してからの展開は非常に面白く、そこまで我慢して読む価値はあるかと思います。散り散りになった人々の運命がそれぞれ描かれるのですが、中には幻想的な展開になるものもあります。
 一番面白いのは、何とか脱出に成功したものの、人里離れた場所に出てしまう夫婦のエピソード。そこで出会ったのは謎の老婦人。彼女も迷路から来たものの、絶壁に囲まれた土地から出られず20年以上そこで暮らしているというのです…。
 正直、全体を通して読んで傑作かというと微妙なのですが、妙に心に残る作品ではありますね。



4582765491エル・アレフ (平凡社ライブラリー)
ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges
平凡社 2005-09-01

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ホルヘ・ルイヘボルヘス「二人の王と二つの迷宮」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
ホルヘ・ルイヘボルヘス「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
 どちらも迷宮を扱った作品です。
 「二人の王と二つの迷宮」は象徴的な迷路もの作品。迷宮で迷わされたアラビアの王はバビロニアの王に対して復讐を誓いますが…。
 「アベンハカン・エル・ボハリー」では、自分の命を守るため迷宮を作る男が描かれます。殺された男は誰だったのか?といったミステリ的な部分も面白い作品です。



4562035102ナイトランド
ウィリアム・ホープ ホジスン William Hope Hodgson
原書房 2002-05

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W・H・ホジスン『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)
 遠未来、絶滅の危機を逃れた人類が暮らすピラミッドの外界は、巨大な怪物が闊歩する「ナイトランド」でした。主人公は過去に死に別れた恋人がこの時代に転生していることを知り、彼女を求めて冒険の旅に出ます…。
 怪物が跋扈する世界観からして強烈ですが、作中に登場する「ラスト・リダウト」は百万単位の人類が居住するという設定の巨大な建物。その中で全てがまかなわれる一つの都市のような存在で、フィクションで登場する想像上の建物としては最大級のものでは。



4488629156ハイ・ライズ (創元SF文庫)
J・G・バラード 村上 博基
東京創元社 2016-07-10

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J・G・バラード『ハイ・ライズ』(村上博基訳 創元SF文庫)
 40階の高層住宅を舞台にした作品です。もともと格差のある上層と下層の住民たちが対立し始め、やがて暴力的な行為が日常的になっていく…という物語。
 学校や商業施設まである、テクノロジーの固まりの巨大ビルで展開される人間の行為が野蛮で獣性に満ちたものだった…というのが面白いですね。



4882930781座敷ぼっこ (ふしぎ文学館)
筒井 康隆
出版芸術社 1994-04-01

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筒井康隆「遠い座敷」(『座敷ぼっこ』出版芸術社収録)
 山のふもとに住む少年が、山の上の方にある友人の家に遊びに行きます。帰りが遅くなってしまった少年は座敷づたいに帰ればいいのではと勧められます。彼らの家同士は極端に長い座敷が連なっていたのです…。
 延々とつながる座敷を舞台にした作品です。帰路に通りかかる日本家屋の描写が非常に怖いですね。



4770403186エペペ
カリンティ・フェレンツ 池田 雅之
恒文社 1978-12

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カリンティ・フェレンツ『エペペ』(池田雅之訳 恒文社)
 言語学者ブダイは、ヘルシンキで行われる会議に出席するため飛行機で出国しますが、乗り間違いからか全く見知らぬ国に連れて来られたことに気がつきます。その国では、ブダイの言葉ばかりか身振りまでもが全く通じません。言語学者であるブダイの知るどの系統の言葉とも違った言葉が使われていました。
 パスポートも紛失し、出国の手立ても失ってしまいます。ホテルへの投宿には成功するものの、手持ちの金は底をつき仕方なく肉体労働に従事することになります。言葉が通じないものの唯一コミュニケートできるのは、ホテルのエレベーターガールの女性でした。ブダイは彼女を「エペペ」と名付けますが…。
 外国で言葉が通じない…という状況は誰にでも起こり得ますが、この作品の場合、ヨーロッパ言語ばかりかアジア言語やアラビア語に通じている言語学者が全く意思を通じさせることができない、という皮肉な状況が描かれます。その国の言葉には外来語がほとんどないため、言葉を類推することもできません。
 単純な数を示す言葉でさえ、聞くたびに違う単語が返ってくるのです。大使館も見つからず、わざと警察につかまっても留置されるだけ。やがて主人公は、自暴自棄になり、ホームレスのような状態になってしまいます。
 主人公が不条理な目に会う…という作品は数多くありますが、この作品ほど「怖い」作品はそうそうないと思います。コミュニケーションのあらゆる手段が通じず、その様子は、ほとんど他惑星に降り立った異星人のような感じなのです。



4588490249ムントゥリャサ通りで
ミルチャ エリアーデ Mircea Eliade
法政大学出版局 2003-10-01

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ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』(直野敦訳 法政大学出版局)
 小学校の元校長ファルマは、かっての教え子を訪ねますが、相手はファルマのことを知らないと突っぱねます。何らかの陰謀があるのではないかと考えた政府はファルマから話を聞きだそうとしますが、彼が話すのは際限のない物語でした…。
 作品の核になるのは、ある地下室で少年が消えてしまったというエピソードなのですが、その物語を説明するには過去の別の物語が必要になり、さらにまた別の物語が展開される…という風に、際限なく物語が広がっていってしまうという、ものすごい作品です。
 老人ファルマの語りが人を喰っていて、この物語を説明するには数百年前の出来事に遡らねばならない、などと口にするのです。それを真面目に聞いている政府の役人もどこかとぼけています。
 怪力を持つ大女の物語だとか、少女から老女まで年齢が変化する女の物語だとか、それぞれのエピソードが既に幻想的ではあるのですが、膨大なエピソードの集積がさらに幻想性を増していますす。
 挿話が挿話を生んでいくという、まるで「迷宮」のような作品ですが、何ともいえない魅力がありますね。ユーモアの要素が強いのも好感触。



4828831673ホーニヒベルガー博士の秘密 (福武文庫)
ミルチャ エリアーデ 直野 敦
福武書店 1990-10

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ミルチャ・エリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』(直野敦/住谷春也訳 福武文庫)
 表題作「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」が収録されていますが、どちらも東洋をテーマにした神秘主義的な作品です。
 「ホーニヒベルガー博士の秘密」は、インド研究者のホーニヒベルガー博士について研究していたというゼルレンディ博士の未亡人から、夫の仕事をまとめてほしいという依頼を受けた語り手が体験する不思議な物語です。
 ゼルレンディの書類を読み進むうちに、サンスクリット語で書かれた秘密の日記を発見した語り手は、ゼルレンディがヨガの奥義を体得し、不思議な能力を身につけていたことを発見します。やがて語り手も奇妙な体験をすることになりますが…。
 「セランポーレの夜」は、次のような話です。インドのリゾート地セランポーレのバンガローに滞在していた語り手と友人たちは、ある夜一本道であるはずの道で迷い、どことも知れぬ森の中にさまよいこんでしまいます。
 近くの屋敷で泊めてもらおうと考える一行でしたが、屋敷の主人の妻が殺されたばかりだと聞き、いたたまれずに屋敷を去ります。翌朝、家に戻った一行は自分たちの体験を話しますが、そもそもその付近に住んでいる人間などいないというのです…。
 どちらの作品も、神秘主義的な体験をした主人公が別の時間や世界に入り込んでしまう…という作品です。「セランポーレの夜」では時間、「ホーニヒベルガー博士の秘密」では世界全体が歪んでしまいます。とくに「ホーニヒベルガー博士の秘密」の結末は非常に不気味で、まるでパラレルワールドSFですね。



4560043175誰がドルンチナを連れ戻したか
イスマイル カダレ Ismail Kadare
白水社 1994-01

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イスマイル・カダレ『誰がドルンチナを連れ戻したか』(平岡敦訳 白水社)
 遠方の国に嫁いだヴラナイ家の娘ドルンチナが、ある日突然、生家の母親のもとに帰ってきます。ドルンチナは兄のコンスタンチンに連れられて来たと話しますが、コンスタンチンを含むヴラナイ家の息子たちは全て死んでいるのです。
 村人たちはコンスタンチンの幽霊が現れたと信じますが、警備隊長ストレスはドルンチナが嘘をついているのではないかと考えます。事件の噂が広まり教会も介入を始めるなか、ストレスは謎を解くべく調査を進めますが…。
 幽霊が本当に現れたという説のほか、現実的な解釈においてもいくつもの説が提示されます。仮説が次々に現れる、ミステリのような技法が使われていて、リーダビリティも非常に高いです。
 舞台は中世、超自然的な要素もあるものの、完全に「幻想小説」に行ききらず、虚構と現実の間を行き来するようなバランスが非常に魅力的。何ともミステリアスな作品です。



4488070701夢宮殿 (創元ライブラリ)
イスマイル・カダレ 村上 光彦
東京創元社 2012-02-29

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イスマイル・カダレ『夢宮殿』(村上光彦訳 創元ライブラリ)
 その帝国では、人々の見る夢の中に国家の災いになる予兆が現れると信じられていました。そのため国は〈夢宮殿〉と呼ばれる機関を設立します。そこでは、国中から集められた夢を管理しているのです。
 帝国の名門キョプリュリュ家に属する青年マルク=アレムは、ある日突然〈夢宮殿〉に配属されることになります。まずは<選別>課で働くことになったマルク=アレムは、自分でも理由のわからないまま昇進していきますが…。
 主人公マルク=アレムは〈夢宮殿〉に配属されてからも、仕事の内容が全くつかめません。周りの人間に尋ねても一向に要領を得ないのです。わずかな立ち話などで、断片的な情報を得るものの、全貌はつかめません。そのような状態でありながら、なぜか昇進が続いてしまうという、悪夢的な状況が描かれます。
 非常にもやもやした話なので、〈夢宮殿〉という魅力的なガジェットの内容もあまり掘り下げられません。ただ、全編を覆う「不安」は強烈で、一読の価値はある作品だと思います。



4892570893黒いダイヤモンド
ジュール・ヴェルヌ Jules-Descartes Férat
文遊社 2013-12-30

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ジュール・ヴェルヌ『黒いダイヤモンド』(新庄嘉章訳 文遊社)
 栄えていたスコットランドのアバーフォイル炭坑は、石炭を採りつくしたために閉鎖されます。十年後、炭鉱の監督であった技師ジェイムズ・スターのもとに、坑夫頭を務めていたサイモン・フォードから炭鉱まで来て欲しいという手紙が届きます。
 さっそく出立の準備をするスターでしたが、その直後にやはり来るなという手紙が届きます。不審に思いながらも現地に飛んだスターは、サイモンから、掘りつくしたと思われていた炭鉱にまだ石炭が残っている可能性があると聞かされます。
 サイモン、サイモンの息子ハリー、スターの3人は炭鉱の奥深くで、自然に出来たと思しい広大な洞窟を発見します。そこには湖があり、良質な石炭が大量に眠っていたのです。サイモンの妻マッジを含め出直した4人は、その空間の探索を始めますが、何者かによって洞窟に閉じ込められてしまいます…。
 炭鉱の地下深くの広大な洞窟を見つけるものの、悪意のある人物によって閉じ込められる、というのが前半で、後半は洞窟内に都市を建設し、ひとつの小さな町ができるという過程が描かれます。この地下都市の描写が非常に魅力的です。
 ヴェルヌの他の作品でもそうなのですが、閉鎖的な空間や変わった場所に作られる町や都市がよく描かれ、「秘密基地」的な魅力があります。それらの中でも、この炭坑の地下の町は、ひときわ魅力を放っているように思います。
 舞台は妖精や精霊の伝説が伝わる土地であり、作中で起こる不思議な現象もそうした存在のせいなのではないかといった、幻想的な味付けも読みどころです。ヴェルヌ作品に頻出する科学的解説も抑え目で、ロマンティックな味付け、シンプルなストーリーと、ヴェルヌの美質が良く出た秀作かと思います。
 ちなみに「黒いダイヤモンド」とは石炭のこと。作品の舞台は、エネルギー源がまだ石油になる前の時代であり、その点古さを感じさせますが、ヴェルヌは作中で、石炭はすぐに枯渇するという意見も紹介しているのは流石というべきでしょうか。



4594007716アッシャー家の弔鐘 (上) (扶桑社ミステリー)
ロバート・R・マキャモン 大滝 啓裕
扶桑社 1991-07

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ロバート・R・マキャモン『アッシャー家の弔鐘』(大瀧啓裕訳 扶桑社ミステリー)
 巨大な軍需産業を経営するアッシャー家の次男リックスは、家業に関わるのを嫌い、作家として生計を立てようとしていました。愛妻の死を境に体調を悪くしたリックスは、一家に伝わる遺伝病「アッシャー病」に自らも犯されつつあるのに気付きます。
 「アッシャー病」により危篤にあるという父親から呼ばれたリックスは、一家が住む「アッシャーランド」に帰省します。巨額の遺産を狙う兄ブーンと対立するなか、リックスはアッシャー家の歴史を本にまとめようと、過去の書類を探り始めますが、次々とアッシャー家の秘密が明らかになっていきます…。
 ポオの短篇「アッシャー家の崩壊」に登場するアッシャー家は実在した…というテーマの作品です。
 前半は、リックスが探るアッシャー家の過去の歴史がメインになります。それと同時に「アッシャーランド」内に住む少年ニューの冒険行が描かれていきます。特殊な能力があるらしいニューは「アッシャーランド」で起こる子供の行方不明事件に関わっていくことになります。
 アッシャー家の秘密、少年ニューの能力の由来、そして行方不明事件の真実などが明らかになる後半の展開は怒涛の面白さです。加えて魅力的なガジェットやモチーフが頻出するのが興味深いところ。
 構造が変化し人を迷わせる「ロッジ」、聴いたものを自殺に追い込む「アッシャー・コンチェルト」、アッシャー家の最終兵器「振子」など。ところどころにポオの作品のモチーフが散りばめられているのも、非常に楽しいです。
 ポオの「アッシャー家の崩壊」はあくまでインスピレーション元といった程度なので、ポオ作品を読んでいなくても充分に楽しめる作品です。結末にはちょっとしたクトゥルー風味があったりと、これはぜひ復刊して欲しい作品ですね。



4488654037インフェルノ SF地獄篇 (創元推理文庫 654-3)
ラリー・ニーヴン ジェリー・パーネル 小隅 黎
東京創元社 1978-05

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ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル『インフェルノ SF地獄篇』(小隅黎訳 創元SF文庫)
 SF大会で酔っぱらい、ホテルの上層階から落ちた作家のカーペンタイアーが目を覚ますと、そこはダンテの「地獄篇」そっくりの場所でした。そこで出会った男ベニトは、死んで地獄に来たと言いますが、カーペンタイアーは信じません。
 全てが作り物だと考えるカーペンタイアーは、ベニトとともに出口を目指しますが、旅の途中で出会う情景は本当の地獄としか思えなくなってきます…。
 主人公がSF作家だけに、信じられない情景を見てもSF的な解釈をしてしまいます。「地獄」は遠未来のテクノロジーなのではないかと考えてしまうのです。
 旅の途次でカーペンタイアーは、かっての知り合いたちが罰を受けているのを目撃します。あれだけの苦しみを受けるだけの罪を犯したのだろうか? 地獄の存在を信じ始めるのと同時に、地獄の意味について考え始めるのです。
 全体にユーモアのある語り口で読みやすい作品なのですが、後半になるに従ってシリアス度が上がってきます。何より地獄の情景や刑罰シーンがかなり強烈なのです。結末では人間の罪と罰について考えさせられてしまうという、意外(といっては失礼ですが)な秀作でした。



4488539025夜の庭師 (創元推理文庫)
ジョナサン・オージエ 山田 順子
東京創元社 2016-11-11

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ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(山田順子訳 創元推理文庫)
 故郷アイルランドを離れ、両親とも生き別れたモリーとキップの姉弟は、イングランドのある屋敷に雇い口を見つけます。その屋敷は巨木に密着して立てられた奇妙な屋敷で、住人のウィンザー一家は、主人を始め皆不健康そうな顔をしていました。
 主人のバートランドは、子供時代に屋敷で両親が行方不明になり逃げ出したという過去を持ちながら、再び自分の妻子を連れて屋敷に戻ってきていました。金がないといいながら、バートランドはどこからか金を調達してきます。他の家族も、それぞれ秘密を抱えていることにモリーは気付きます。
 屋敷に何か秘密があることに気付いたモリーは、ある日出入りを禁止されていた部屋に入ることに成功しますが…。
 親とも生き別れながら強く生きる少女モリーと弟キップのキャラクターが非常に秀逸です。姉モリーは「語り部」であり、危機を「お話」で乗り越えるという才能の持ち主。弟キップは生まれつき片足が不自由であり、とくに目立った才能はないものの、姉以上に強く強靭な意志の持ち主として描かれます。
 姉弟が不思議な屋敷の秘密に触れ、自分たちの欲望を試される…というのがメインのお話。しかし、ただで欲望がかなえられるわけはなく、その代償が遅いかかってきます。
 前半こそ、落ち着いた雰囲気の寓話なのかなと思わせますが、後半から一気にスピード感あふれる追跡劇に。「夜の庭師」を倒し、一家と姉弟は自分たちの人生を取り戻せるのでしょうか? 子供も大人も楽しめるダークなファンタジーです(子供にはちょっと「怖すぎる」かもしれませんが)。



maruperu.jpgマルペルチュイ (1979年) (妖精文庫〈19〉)
ジャン・レー 篠田 知和基
月刊ペン社 1979-02

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ジャン・レー『マルペルチュイ』(篠田知和基訳 月刊ペン社)
 莫大な資産を持つカッサーヴ叔父は、死の間際に一族を集めて遺産の相続について話します。一族全員に遺産を分け与えるが、その条件とは、一族全員が「マルペルチュイ館」に生涯住み続けなければいけないというものでした。やがて一族全員が「マルペルチュイ館」に集まり、共同生活を始めます。
 「マルペルチュイ」に移り住んだジャン=ジャックは、輝くばかりの美しさを持つウリアルに惹かれつつも、妖艶なアリスにもまた惹かれ始めます。やがて館の中では不思議な現象が起き、住人たちは一人また一人と行方がわからなくなっていきますが…。
 メインとなる物語は、ジャン=ジャックの語る「マルペルチュイ」における一族の生活なのですが、それらについて、さまざまな語り手が別の視点・別の時間軸から物語を補填するという構成になっています。
 後半になるにしたがい、幻想的ではあるものの「普通の人間」の恋愛だと思っていた物語が、全く別の様相を帯びてくるのには驚かされます。カッサーヴの目的とはいったい何だったのか? 人知を超えた計画とその顛末とは…?
 陰鬱な館で展開されるゴシックロマンスであり、神話的なファンタジーでもある作品です。幻想文学史に残る傑作といっていいのではないでしょうか。



taruno.jpegたるの中から生まれた話 (福武文庫)
テオドル シュトルム 矢川 澄子
福武書店 1990-01

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テオドール・シュトルム「ブーレマンの家」(矢川澄子訳『たるの中から生まれた話』福武文庫収録)
 大きな屋敷と資産を受け継いだ男ブーレマンは、恐ろしくけちな男でした。人間嫌いで可愛がるのは飼っている猫だけ。ある日困窮した姉が病気の息子を連れて援助を求めてきますが、にべもなく断ります。やがて息子は亡くなりますが、その直後からブーレマンの体は小さくなり家から出られなくなります…。
 後半は閉じ込められた家からブーレマンが脱出しようとするのですが、全く果たせません。自分の体に対して大きくなった猫が襲ってきて、自由に動くこともできないのです。さらに、少したつとなぜか眠りが襲ってきて、何年も経過してしまいます。
 物語の中では何十年も経過するのですが、その間ブーレマンも猫も年を取りません。おそらくこれが「永遠」に続く…と匂わせて終わります。陰鬱な館の雰囲気も強烈で救いがなく、この作品、子供の頃に読んだらトラウマ級の作品だと思います。



4061495321迷宮学入門 (講談社現代新書)
和泉 雅人
講談社 2000-12

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和泉雅人『迷宮学入門』(講談社現代新書)
 世界の迷宮イメージの変遷や文化的な意味などについて書かれた「迷宮」の入門書です。
 面白いのは「迷宮」と「迷路」が異なるということ。もともと「迷宮」は一本道であり、人を迷わせるものではなかった…というのは目から鱗でした。人を迷わせるための「迷路」のイメージと段々混交していったということのようです。
 内容は主にヨーロッパの絵画や美術がメインなので、フィクションにおける「迷宮」や「迷路」にはほとんど触れられないのですが、欧米の「迷宮」イメージについて非常に勉強になる本です。

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怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会 開催しました
 1月28日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め12名でした。
 テーマは、第1部「迷宮と建築幻想」、第2部「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部「迷宮と建築幻想」では、「迷宮」「迷路」を扱った作品を初め、巨大建築物や地下都市など、フィクションならではの建造物を扱った作品について話しました。フィクションだけでなく、現実の奇想建築に関する資料や写真集などを持ってきてくれた方もあり、非常に面白いテーマになったと思います。
 主催者の方でテーマに属する作品リストを用意していたのですが、それを補填するようなリストを作ってくださったshigeyukiさんには感謝です。作中で登場する建造物の細かい設定などは非常に参考になりました。

 第2部は「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」。アメリカの文豪であり怪奇幻想小説の巨匠でもあるポオの作品についてのトークでした。
 やはり19世紀の作家でもあり、入り込むまでに時間がかかるものの、流れに乗ると非常に面白い作品が多かったというのが、皆さんの全体的な感想でしょうか。怪奇幻想小説の印象が強いですが、改めて読んでみて、いろいろなジャンルの作品を手がけていたんだな、という認識を新たにしました。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


●一部

・和泉雅人『迷宮学入門』について。「迷宮」について、古来から近代までのイメージの変遷を追った本。「迷宮」と「迷路」は異なるもの、というのがポイント。「迷宮」は一本道でいずれ中心にたどり着くもので通過儀礼的な意味を持つもの、「迷路」は人を惑わせるようにつくられたもの、という違いがある。近代では二つのイメージは混交して、
ほぼ同じ意味で使われている。

・矢部嵩『〔少女庭国〕』について。迷宮に閉じ込められた少女たちを描いている。他の少女を殺せば脱出できるという「デスゲーム」もののはずが、脱出をあきらめ人を増やして「国」を作ってしまうという奇想に満ちた作品。閉じ込められた少女たちの複数のグループの行動パターンがいくつも示され、結果的に架空の博物誌のようになっている。カルヴィーノ『見えない都市』にも似たものを感じる。

・カリンティ・フェレンツ『エぺぺ』について。言語学者が飛行機で寝過ごし、言葉の全く通じない国に迷い込んでしまうという物語。言葉も身振り全く通じずコミュニケーションがとれない…ということ事態が非現実的ではあるが、寓話としてのリアリティは強烈。後半に暴動に参加する主人公の行動には妙なカタルシスがある。希望がほの見える結末もあり、意外と後味は悪くない。作中に登場する工事中のビルは「バベルの塔」の象徴か。

・不条理小説について。カフカを始め、不条理小説においては、その状況に一方的に流されるタイプの話が多いように思う。その点『エぺぺ』はユニークな展開かもしれない。

・恩田陸『MAZE』について。東南アジアで発見された人が消えてしまう迷路についての物語。いろいろな仮説が示される過程は魅力的だが、結末はちょっといただけない。

・ヤン・ヴァイス『迷宮1000』について。チェコで戦前に書かれた「迷宮」テーマ作品。1000階建のビルを支配する独裁者を追う物語。悪夢的な描写が魅力的。

・マリオ・レブレーロ『場所』について。突然「迷宮」に迷い込んだ男の物語。内部に人が普通に暮らしていたりするので、あまり閉塞感はないのが特徴。冒険ものとしても面白い。

・ボルヘス「二人の王と二つの迷宮」「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」について。どちらも迷宮を扱った作品。「二人の王と二つの迷宮」では象徴的な迷路、「アベンハカン・エル・ボハリー」では物理的な迷宮が扱われている。

・トマス・M・ディッシュ「降りる」について。永遠に続くエスカレーターを降りる男の物語。

・イサーク・エスバン監督の映画『パラドクス』について。 無限に繰り返される空間に閉じ込められた人々を描く作品。ディッシュ「降りる」に似たシーンもあり。作品内のガジェットとしてフィリップ・K・ディック作品が使われていたりするので、監督はSFファンかもしれない。

・ゴシック・ロマンスには定番といっていいほど、巨大な城がよく登場する。ホレス・ウォルポールやウィリアム・ベックフォードに至っては、自身が巨大な城を建造している。

・ベックフォード『ヴァテック』について。悪行の限りをつくす親子の物語。内容的には、悲惨な話だが、描写にデフォルメがきいていて面白く読める作品。

・スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』について。理想のホテルを建造しようとする男の物語。小物だったりホテルだったり対象は様々だが、ミルハウザーには職人の仕事を描いた作品が多い。

・W・H・ホジスン『ナイトランド』について。遠未来で展開されるファンタジー作品。作中に登場する「ラスト・リダウト」は百万単位の人類が居住するという設定の巨大な建物。その中で全てがまかなわれる一つの都市のような存在で、フィクションで登場する想像上の建物としては最大級のものではないだろうか。

・J・G・バラード『ハイライズ』について。巨大ビルで展開される人間の獣性の物語。テクノロジーと対比される野生がポイントか。

・ロバート・R・マキャモン『アッシャー家の弔鐘』について。ポオの「アッシャー家」が実在したら、という設定のホラー作品。作中に登場する屋敷が、入る度に部屋の配置が変わったりする幽霊屋敷なのだが、これは実在する「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」をモデルにしているらしい。

・小川一水「ギャルナフカの迷宮」について。地下の迷宮を舞台にした冒険小説。これは面白かった。

ジュール・ヴェルヌ『黒いダイヤモンド』について。鉱山の地下で発見された広大な空間に都市を建設する話。ヴェルヌの描く人工都市には魅力がある。

・デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』について。不思議な館を舞台にした恋愛小説。物語自体は結末を含め非常に曖昧だが、妙な魅力がある。

・筒井康隆「遠い座敷」について。延々とつながる座敷を舞台にした作品。日本家屋の扉を開けるのは怖いイメージがある。

・トマス・M・ディッシュ『334』について。タイムスリップで精神を病む男の話など、ユニークなストーリーで構成された連作短篇。

・「沢田マンション」について。高知県に実在する建築物。素人が違法に増築・改築を繰り返したというユニークな建物。

・エッシャーの版画には、無限を思わせる空間が頻出して魅力的。

・エリック・ラーソン『悪魔と博覧会』について。連続殺人鬼H・H・ホームズについてのノンフィクション。彼が住んでいた館が非常に印象的。

・『ゴーメンガースト』シリーズについて。登場する建造物は広大で把握が難しいほど。非常に長大なサーガなので読み通すのはなかなか難しい。奥さんが書いたという4巻目は、訳者が変わっているせいもあり読みやすい。

・ジョン・ソール『マンハッタン狩猟クラブ』について。地下鉄構内で展開されるマンハントもの。雰囲気が非常に良い。

・山尾悠子「遠近法」について。円筒形の内部に存在する世界を舞台にした作品。

・筒井康隆「家」について。巨大な家が舞台の作品。上の階に住む者が下の階に下りてくるのは許されているが、下の階の者が上の階に行くことは禁じられている、という設定が面白い。

・kashmir『てるみな』について。異様な世界観の鉄道マンガ。

・ピラネージの『牢獄』は今見てもすごいイメージの作品。ユルスナール『ピラネージの黒い脳髄』など。

・フィリップ・ホセ・ファーマー『リバーワールド』シリーズについて。巨大な川のそばに再生された人間を描く物語。キャラクターに有名人が出てきたりする。ファーマーは変梃なアイディアの作品が多い。


●二部

・ポオはミステリ、SF、怪奇小説、ユーモア小説など、様々なジャンルの作品を遺しており、非常に多彩な作家だったといえる。

・「赤死病の仮面」について。病が人の形をとって現れるという象徴的な短篇。作中で使われる色彩といい、イメージが素晴らしい作品。

・「群衆の人」について。「群衆」のそばでないと安心できないという男をめぐる異常心理小説。当時としては非常に斬新な作品だと思う。

・ポオの作品はいわゆる「怪奇幻想小説」に属するものが多いと思うが、ヨーロッパの同種のものと違って、妖精や悪魔など、伝統的な超自然要素を使わずに描いているものが多く、その点で新しいタイプの作品を開拓しているのではないか。

・「黒猫」について。ポオの代表作といっていい作品。殺人を犯した男を描く異常心理サスペンス。映像化作品があるが、凄惨な印象だった。猫好きにはお勧めしない。

・「ヴァルドマアル氏の病症の真相」について。催眠術で死を食い止めるという物語。迫力があり怪奇小説の名作だと思うが、発想自体はトンデモ系な気がする。

・ポオの時代においては、催眠術はかなり高度な科学だったのではないか。現代の小説では催眠術や多重人格は安易に使えない題材になっている。

・「メエルシュトレエムに呑まれて」について。巨大な渦に巻き込まれた男の物語。迫力がすごい。一夜にして白髪になるというイメージも強烈。

・「タール博士とフェザー教授の療法」について。患者と医者が入れ替わるという作品。非常にモダンなテーマの作品だと思う。

・「楕円形の肖像」について。妻を絵に描くことによって死なせてしまう画家の物語。ポオ自身がモデル?

・「陥穽と振子」について。巨大な振子というガジェットのインパクトがすごい。振子の印象が強いが、他にも落とし穴や迫ってくる壁など、いくつかのトラップも登場し、そのあたりも面白い。

・ポオはミステリの祖とされるが、「モルグ街の殺人」にせよ「盗まれた手紙」にせよ、現在考えるようなミステリとはかなり違ったタイプの作品だと思う。

・ポオは翻訳家によって大分感触が異なる。創元推理文庫版に関しても読みやすかったという人と読みにくかったという人が。「赤死病の仮面」などはストーリーよりもイメージの固まりといった作品なので、翻訳によって良し悪しが出るのでは。

・ポオの作品には非常に論理的な語りが多い。その最たるものが「メルツェルの将棋差し」だが、物語が始まる前の前置きが非常に長く書かれ、その部分が今となっては冗長になってしまっている部分もある。

・ポオ作品では、前置きがあまり良くないのに対して、結末は非常に印象的なものが多い気がする。「アッシャー家の崩壊」「陥穽と振子」など。

・「ウイリアム・ウィルソン」について。ドッペルゲンガーをテーマにした作品の代表作ともいえる作品。完成度が高い。

・「メッツェンガーシュタイン」について。ポオがゴシック・ロマンスのパロディとして書いた作品だが、あまりに完成度が高いため「ゴシック・ロマンス」の名作とされてしまったという作品。

・「眼鏡」について。視力の悪さから自分の老齢の祖母に求婚してしまうというユーモア小説。大げさな文体も効果的。

・「スフィンクス」。遠近を見誤って蛾を怪物と認識してしまう物語。「ミイラとの論争」などもそうだが、本気なのか冗談なのかよくわからない作品。やっつけ仕事なのか?

・息をなくしてしまうという「息の喪失」、使い切った男を描く「使いきった男」、不条理な出来事に襲われるという「不条理の天使」など、ポオにはユーモア要素の強い作品も多い。

・ロバート・ブロック『ポオ収集家』について。ポオの原稿や資料を集めるポオ収集家を描いたホラー短篇。作品の始まりと終わりが「アッシャー家の崩壊」のパロディになっているところが凝っている。ちなみに、阿刀田高の『ナポレオン狂』は発想が非常に似ているが影響を受けているのだろうか。

・館や屋敷が崩れ落ちたり、焼け落ちたりするという終わり方はフィクションで良く見るが、その原型は「アッシャー家の崩壊」なのかもしれない。

・ポオの未完の作品「灯台」について。ロバート・ブロックが完成させた作品が先に翻訳されていたが、ブロック版は継ぎ目がわからないくらいよく書けていた。思念による物質の創造というのがテーマになっているが、これは明らかにブロックのアイディア。
ポオのオリジナル版が後に訳されたが、まだ事件がまったく起こらない段階で絶筆になっていた。

・ポオの時代、作家業だけで食べていくのは大変だったのではないか。作家だけで食べていけるようになるのは、ジュール・ヴェルヌあたりから? ヴェルヌは今でいうところの少年マンガ作者的な感じがある。

・ヴェルヌ作品は、だいたい登場人物の型が決まっていて、今で言えば、アニメの『タイム・ボカン』シリーズみたいな安定感がある。

・「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」について。ポオ唯一の長篇でありエンタメ要素の強い作品。少年が主人公ながら、出会う困難の暴力度は強烈。結末がちょっと投げやりっぽい面もあるが、今読んでも面白い作品。

・ジュール・ヴェルヌ『氷のスフィンクス』について。ポオの「ピム」の直接の続編。冒険小説としては非常に面白いが、ポオの描いた幻想的な要素を「科学的」に解明してしまうのは残念。

・ヴェルヌはポオに非常に影響を受けていると思う。『氷のスフィンクス』もそうだが、『チャンセラー号の筏』などではカニバリズムが出てくるが、このあたりもポオの「ピム」の影響ではないか?

・ポオはフランスで非常に評価されていた。例えばシュオッブが書いてもおかしくないような象徴派的な作品があったりと、もともとフランス人に受け入れやすい要素があったのかもしれない。

・「ちんば蛙」について。こびとの復讐物語。江戸川乱歩の『踊る一寸法師』への影響もあり? 差別的なニュアンスからか「跳び蛙」や「ホップフロッグ」の訳題もある。乱歩の「一寸法師」も考えたら、すごいタイトルだと思う。

・差別用語を自粛する動きが最近は多い。例えば、ラヴクラフト作品でも差別的な用語があったりして、新訳作品集でも苦労したという話を聞いた。そんななかハヤカワ文庫のフレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』はよく出せたなと思う。

・ポオは薄幸のヒロインをよく描くが、意外に個性がない。「ベレニス」「モレラ」「リジイア」など、各作品のヒロインのイメージがごっちゃになりがち。

・スティーヴン・キング『シャイニング』中で、『不思議の国のアリス』と「赤死病の仮面」の引用が使われていて効果的だった。『アリス』の引用は他の作品でもよく見るが、ホラー作品で使われているのは珍しい。

・ポオの作品は、後続の作家に対して広い影響を与えている。例えばフリオ・コルタサルの「占拠された屋敷」もポオの影響を感じる。

・集英社文庫の「E・A・ポー ポケットマスターピース」は選集としては、非常にいいセレクションだと思う。「ピム」がまるごと入っていたり、未完作品「灯台」が入っているあたりはユニーク。

・「庭園」「アルンハイムの地所」について。資産家になった青年が自分の理想の場所を作ろうとする物語。江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』などにも影響が見える。

・アメリカ、ボルチモアの野球チーム、ボルチモア・レイブンズのマークは、ポオの「大鴉」にちなむらしい。地元ではやはり有名?

・「モルグ街の殺人」について。この時代の欧米人には「猿」に対して恐怖の感情があったのだろうか。日本でのイメージと比較すると興味深い。

・ポオの探偵デュパンは、ドイルのシャーロック・ホームズの原型という意味では、強い影響を与えている。

・「早まった埋葬」「アッシャー家の崩壊」などに顕著だが、ポオは死への恐怖心が非常に強かった人なのではないか?

・ポオがよく使う、仮死状態からよみがえるというシチュエーションは、当時としてはかなり恐怖心を煽るものだったと思う。デュマの『モンテ・クリスト伯』や楳図かずお『紅グモ』などでも同じようなシチュエーションが使われている。


●二次会
・ジャン・レイ『マルペルチュイ』について。ギリシャの神々の幽閉をテーマにした幻想小説。傑作だと思う。

・朝里樹『日本現代怪異事典』について。戦後日本の都市伝説を集めた本。非常な労作

・ミルチャ・エリアーデの小説作品について。『令嬢クリスティナ』『ホーニヒベルガー博士の秘密』『ムントゥリャサ通りで』は傑作。『エリアーデ幻想小説全集』が絶版で古書でも高騰しているのは残念。

・ステファン・グラビンスキの邦訳書の装丁について。『火の書』『狂気の巡礼』はそれぞれ工夫を凝らしていて素晴らしい。

・ロバート・ブロック作品について。突き抜けた傑作というのは少ないが、晩年まで安定した作品を書いていた作家だと思う。短篇集『殺しのグルメ』(徳間文庫)は秀作揃い。

・エドワード・ケアリー《アイアマンガー三部作》について。一巻は素晴らしく面白く、二巻がちょっと中だるみするが、三巻で盛り返す。

・「新本格」について。定義がはっきりしない。綾辻行人をはじめ、1980年代後半から90年代にかけてデビューした一連の作家群を指す?

・「本格推理」の傑作を書くのは作家にとって難しい? ホラーも書いている某作家が「ホラーに逃げている」ということを言われているが、ホラーはホラーで書くのは難しいと思う。

・『ハリー・ポッター』シリーズについて。古典ファンタジーと比べると軽いが、読みやすさもあり、ファンタジー入門には最適だと思う。

・地方の書店の状況について。翻訳書の数が少なく、新しい作家に出会うチャンスが少ない。

・ハヤカワ文庫《モダンホラー・セレクション》について。シリーズ完結後も、一時期はどこの古書店でも見たように覚えているが、現在は本当に見なくなってしまった。

・ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の映画『キューブ』について。迷宮テーマの作品。シリーズが何作か作られたが、1作目が一番面白い。2作目以降は「罠」に力を入れすぎ。1作目のDVDのおまけの短篇映画『エレヴェイテッド』は面白かった。

・リチャード・マーカンド監督の映画『レガシー』について。ホラー映画としての評価はあまり高くないが、屋敷から脱出しようとして何度も同じところに戻ってきてしまうシーンは秀逸だった。

・ピーター・メダック監督の映画『チェンジリング』について。非常に怖い作品だった。

・ディーノ・ブッツァーティ「屋根裏部屋」について。突然屋根裏に現れた腐らないリンゴの話。インパクトのある寓話。

・「異世界もの」について。現代の若い読者は、「異世界転生もの」は好むが、異世界だけで完結する物語(ハイ・ファンタジー?)は好まない。

・「異世界もの」において、現実世界と同じ物を安易に持ち込むべきではない? ライトノベルなどでは、読者はファンタジー的な記号をテンプレとして認識しているので、現実と同じ物を持ち込んでもそんなに違和感を感じない。場合によっては情景描写も不必要とされることも。

・小・中学校の読書感想文について。課題図書が決められていることが多いが、子供の読みたいものにすべき。感想に関しても、だいたい何を書いてほしいのかが決められているように思う。

・仁賀克雄さんの翻訳やアンソロジーについて。怪奇幻想作品の紹介者は他にもいるが、B級作品に対して愛情が強かったという意味では唯一無二の人だと思う。


「第13回読書会」は、3月25日(日)に開催予定です。テーマは、

第一部:物語をめぐる物語
第二部:作家特集 ステファン・グラビンスキ

詳細は後日あらためて公開したいと思います。

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2月の気になる新刊
2月6日刊 シッゲ・エクランド『迷路の少女』(ハヤカワ文庫NV 予価1296円)
2月6日刊 エラン・マスタイ『時空のゆりかご』(ハヤカワ文庫SF 予価1188円)
2月7日刊 尾之上浩司編『ゴースト・ハンターズ完全読本 怪異を追う者たち『事件記者コルチャック』から『死霊館』まで』(洋泉社 予価2160円)
2月9日刊 長山靖生編『丘の上 豊島与志雄 メランコリー幻想集』(彩流社 予価2592円)
2月10日刊 山白朝子『私の頭が正常であったなら』(角川書店 予価1620円)
2月19日刊 イサベル・アジェンデ『日本人の恋びと』(河出書房新社 予価3024円)
2月20日刊 ケン・リュウ編『現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 予価2052円)
2月20日刊 トマス・ペリー『アベルVSホイト』(ハヤカワ文庫NV 予価994円)
2月21日刊 ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』(創元推理文庫 予価1188円)
2月21日刊 日下三蔵編 小泉喜美子『月下の蘭/殺人はちょっと面倒』(創元推理文庫 予価1404円)
2月23日刊 岡本綺堂『異妖新篇 岡本綺堂読物集六』(中公文庫 予価799円)
2月26日刊 森瀬繚『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』(三才ブックス 予価2480円)
2月28日刊 西崎憲『蕃東国年代記』(創元推理文庫 予価756円)
2月予定 中野善夫訳『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(国書刊行会)

 エラン・マスタイ『時空のゆりかご』は時間ものSF作品だそう。「めざすは1965年!? 自分の時間旅行が原因で世界を変えてしまった男の獅子奮迅の活躍をユーモラスに描いた時間テーマSFの傑作!」。

 『現代中国SFアンソロジー 折りたたみ北京』は、ケン・リュウが選んだ中国SFのアンソロジーだそうで、これは面白そうです。

 最近、小泉喜美子作品の復刊が相次いでいますね。『月下の蘭/殺人はちょっと面倒』は、短篇集二冊の合本です。特に『月下の蘭』は、花・星・蟲・鳥を題材とした短編を収める幻想的な作品集でお勧めです。

 あと、具体的な刊行日はまだ出ていませんが、中野善夫訳『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(国書刊行会)が2月刊行予定だそうです。
 (2018年2月4日追記)国書刊行会のサイトに詳細情報が出ていましたので、転載しておきたいと思います。

フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ『夢のウラド F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集』(中野善夫訳 予価4,968円)
死後に同一人物であることが明かされた二人の作家、フィオナ・マクラウドとウィリアム・シャープ。尾崎翠が思慕し三島由紀夫が讃美した、稀有な魂をもつ作家の作品を初めてひとつに集成する。いま百年の時を経て瑞々しく甦るスコットランドの幻想小説集。
「毎朝こんなふうに世界の美しさに向かって帽子を取ることにしている」
蘇生するケルトの息吹、悲哀と慈愛のロマンス、哲学的な思索の旅……神秘のヴェールに包まれた伝説の作家の知られざる名作幻想小説20篇。

目次
●フィオナ・マクラウド
鳥たちの祝祭
夢のウラド
アンガス・オーグの目覚め
暗く名もなき者
聖別された男
島々の聖ブリージ
射手
最後の晩餐
ルーエルの丘
聖なる冒険
風と沈黙と愛

●ウィリアム・シャープ
ジプシーのキリスト
ホセアの貴婦人
彫像
フレーケン・ベルグリオット
丘の風
涙の誕生と死、そして再生
臆病者
〈澱み〉のマッジ
ヴェネツィア舟歌


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ポオとヴェルヌの「ピムの物語」
 アメリカの文豪エドガー・アラン・ポオの小説作品はその大部分が短篇ですが、唯一、長篇といっていい長さの作品があって、それが『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』(大西尹明訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫 収録)です。


4488522025ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2)
エドガー・アラン・ポオ 大西 尹明
東京創元社 1974-06-28

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 ナンタケット島出身の冒険好きな少年ピムは、親友のオーガスタスが、船長である父親と共に航海に出ることを知り、オーガスタスの手引きで船に隠れることになります。オーガスタスの合図が来るまで、部屋に潜むことになったピムでしたが、何日経ってもオーガスタスは部屋に現れず、出ようとしたピムは扉が開かなくなっていることに気がつきます。
 体は衰弱し、一緒に潜ませていた愛犬にも襲われるなど、命の危機を迎えるピムでしたが、やがて現れたオーガスタスによって部屋から脱出することに成功します。助かったと思いきや、オーガスタスは船員たちが反乱を起こし、船が乗っ取られたことを伝えます。対応次第では命を失う危険があることも。
 オーガスタスに目をかけていた屈強な船乗りダーク・ピーターズは、オーガスタスからピムの存在を聞き、ピムを利用して、船を取り返そうと考えますが…。

 上にあげたあらすじは、この作品のほんの一部といった程度です。ここまででも、閉じ込められたピムが死にそうになったり、狂った愛犬が襲ってきたり、船員が次々と殺されたりと、波乱万丈なのですが、その部分も全体のほんの一部でしかない、というところに驚きます。船乗っ取り事件の後も、次から次へと困難が襲ってくるのです。
 少年が主人公といえど、襲い来る困難や事件はハードかつ残酷です。敵は容赦なく襲ってきますし、人は次々と死にます。生き残るために、ピムもまた人殺しに加担せざるを得なくなっていくのです。

 作者ポオが本気で書いたエンターテインメントであり、今読んでもその面白さは衰えていません。
 長い作品のため、アンソロジーや文学全集などに収録されることも少なく、それゆえポオの作品としては読まれることは少ないと思うのですが、これは第一級の冒険小説であり怪奇小説といっていいかと思います。

 この『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』、結末も謎に満ちた終わり方であり、それが作家たちを刺激したらしく、この作品から触発されたと思しい作品もいろいろ書かれています。ポオ作品の設定を取り込んで書かれた、H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集4』創元推理文庫 収録)などがその代表例ですが、なかでもポオ作品の直接の続編といえる作品があり、それが、ジュール・ヴェルヌの『氷のスフィンクス』(古田幸男訳 集英社文庫)です。


B00I9OLXHI氷のスフィンクス(ジュール・ヴェルヌ・コレクション) (集英社文庫)
ジュール・ヴェルヌ 古田幸男
集英社 1994-01-25

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 博物学者ジョーリングは、滞在中の島にやってきたスクーナー船ハルブレイン号に乗せてもらおうとしますが、船長のレン・ガイはなぜか首を縦に振りません。しかし、レン・ガイはやがて態度を変えて、乗船を許可します。その理由は、ジョーリングがコネチカット出身であり、ナンタケット島のことを知っているからだというのです。
 ポオの『アーサー・ゴードン・ピムの物語』が真実だというレン・ガイの言葉を一笑に付すジョーリングでしたが、ガイは、自分がピムを乗せたスクーナー船ジェイン号の船長ウィリアム・ガイの弟だということを明かします。そして兄を探すために航海をしているということも。
 航海中に、行方不明だったジェイン号の航海士パターソンの遺体を発見したことから、ポオの物語は真実だとジョーリングも確信し、ガイ船長に協力を約束します。捜索を開始するに当たって、レン・ガイは船員を大量に補充します。新たに加わったハントと名乗る男は有能な働き者ながら、その来歴は謎に包まれていました…。

 ポオが描いた物語は真実であり、ピムの旅で行方不明になった船員たち、そしてピム自身も生きているのではないかと考えた主人公たちは、彼らの捜索を始めます。準備万端で出航したものの、思いもかけないトラブルが続きます。自分たちの命が危機に陥るなか、行方不明者たちを見つけられるのでしょうか?
 ポオの続編という肩書きは別として、純粋に航海物語として読んでも非常に面白い作品です。航海上のトラブルだけでなく、途中からは船員の反乱の可能性が予想されており、彼らに対する監視を行いながらも捜索を続けなくてはいけないというサスペンスフルな状況になってしまうのです。

 ポオ作品で描かれた事件から十数年が経過しているという設定なのですが、行方不明者たちが生存するための科学的な条件がきちんと提示されているところは、ヴェルヌらしいというべきでしょうか。
 ポオ作品の結末で描かれた超自然的な現象に対しても「科学的」に説明されてしまうので『ピム』を幻想小説として読んでいた読者としては、ちょっとがっかりしてしまう部分もありますね。

 作中で、前作『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』のあらすじが詳細に記されるので、ポオ作品を読んでいなくても大丈夫ですし、単体でも充分に面白い作品です。ただポオの『ピム』を読んでいるとさらに楽しめることは間違いありません。。前作の登場人物が再登場したり、関係者が登場したりします。前作で起こった事件が伏線になっていたりするところは、非常に芸が細かいです。『海底二万里』との関係がちょっと匂わされたりするところも、ヴェルヌファンには楽しいですね。

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愛と孤独  バリ・ウッド『殺したくないのに』
4087600823殺したくないのに (集英社文庫)
ウッド 高見 浩
集英社 1983-02

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 ニューヨーク市警の刑事スタヴィツキーは、ずっと追い続けていた凶悪犯ロバーツが死んだという報告を受けます。ロバーツは、仲間とともに、ある資産家の家に強盗に入った際、突然、首の骨を折って死んだというのです。しかし検死の結果、首の骨は常識ではありえないような力が加えられた結果、折れているということがわかります。しかも相当苦しんだはずだということも。
 調査を続けていくうちに、資産家の夫人ジェニファーの周囲では、過去に何度も不可解な死亡事故が多発していることが判明します。スタヴィツキーは、ジェニファーが超能力による殺人を行ったのではないかと考えますが…。

 バリ・ウッド『殺したくないのに』(高見浩訳 集英社文庫)は、超能力者を扱ったユニークなサスペンスホラー作品。超能力によって殺人が行われたのではないかと考えた刑事が、容疑者の女性ジェニファーの過去を調べていくうちに、彼女の生涯をたどっていくことにもなり、いつの間にか彼女に惹かれるようになる…というストーリーです。
 もちろん、最初から超能力の存在が肯定されるわけではなく、過去の死亡事故や彼女の能力を調べた学者たちなどの話を聞いていくうちに、刑事は確信を深めていくことになります。
 ジェニファーの幼少期から現在までの、過去のエピソードが少しづつ明かされ、超能力者ゆえの孤独をかかえていることが示されます。例え超能力を使わないにしても、彼女には普通の人間をよせつけない雰囲気が生まれつき備わっており、親でさえ彼女を怖がっているのです。
 彼女の人生の悲しさ、孤独さを知った刑事スタヴィツキーは、それでも調査を続けます。やがて彼女を追い詰めることになりますが、最終的にスタヴィツキーとジェニファーはわかりあうことができるのでしょうか?
 過去に数件の死亡事故を起こしている彼女も、そのほとんどは不可抗力の結果であり、好んで人を殺しているわけではないのです。その意味でタイトルの「殺したくないのに」は、実にぴったりなタイトルと言えますね。
 哀感にあふれたサスペンス・ホラーの名品です。

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怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会 参加者募集です
 2018年1月28日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第12回読書会」を開催いたします。
若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2018年1月28日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:迷宮と建築幻想
第2部:作家特集 エドガー・アラン・ポオ

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


第1部のテーマは「迷宮と建築幻想」。
 迷路・迷宮を扱った作品や巨大建築物、または現実にはありえない建物など、フィクションならではの建造物をテーマにした作品について話していきたいと思います。
 迷宮そのものを描いた、恩田陸『MAZE』や矢部嵩『〔少女庭国〕』、現実にはあり得ない建物を描いたホルヘ・ルイヘ・ボルヘス『バベルの図書館』やロバート・A・ハインライン『歪んだ家』、理想のホテルを描いた、スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』、人間を支配する建物を描いたスティーヴン・キング『シャイニング』や、閉鎖空間が人間を狂わせるJ・G・バラード『ハイライズ』、また建造物が作品で重要な意味を持つ、エドガー・アラン・ポオ「アッシャー家の崩壊」やフリオ・コルタサル「占拠された屋敷」など、広い意味での「幻想的な建物」を扱った作品について話していきたいと思います。

第2部のテーマは「作家特集 エドガー・アラン・ポオ」
 「アッシャー家の崩壊」「モルグ街の殺人」「赤死病の仮面」「黒猫」「ウイリアム・ウィルソン」「陥穽と振子」…。
 アメリカの文豪エドガー・アラン・ポオは怪奇幻想小説の巨匠であり、またミステリの祖でもあり、SFの先駆者でもあります。多様な面を持つポオの作品を、今一度読み直してみようという企画です。

※創元推理文庫から出版されている『ポオ小説全集』(全4巻)をメインに話していきたいと思いますが、各社から出ている選集(ちくま文庫、岩波文庫、新潮文庫、光文社古典新訳文庫など)で代表作だけ読んできていただいても構いません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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