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テーマ:その他 - ジャンル:その他

「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」頒布のお知らせ
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 今回、本ではないのですが、怪奇幻想ジャンル関連アイテムとして「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を作成することにしました。海外の主要な怪奇幻想作家を作風別に分類して作成したマトリクス、それを表面に印刷したクリアファイルです。サイズは一般的なA4サイズの紙が入る大きさです。
 盛林堂書房さんで通信販売をしていただく予定です。価格は今のところ、700円~800円ぐらいを予定しています。
 現在印刷中ですが、10月末ぐらいまでには完成するのではないかと思います。販売日に関しては、詳細が決まり次第、また告知したいと思います。

●仕様
製品サイズ:310×220mm(A4サイズの紙が入る大きさです)
色:フルカラーオフセットUV印刷
材質:PP半透明【スタンダード】
厚み:0.2mm(一般的な厚さ)
加工:超音波溶着

盛林堂書房さんの販売ページ
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本

みんな行ってしまう (創元SF文庫)
マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』(嶋田洋一訳 創元SF文庫)

 粒ぞろいのSFモダンホラー短編集。収録作はどれも面白いのですが、特に面白かったのは、「地獄はみずから大きくなった」「猫を描いた男」「バックアップファイル」「いつも」でしょうか。

「地獄はみずから大きくなった」
 あらゆる病気を治療するナノテク装置を目指して研究を続ける、男女三人の科学者。しかし実験の途中で感染した菌で女が死んでしまったことから、研究の目的は別のものにすり替わっていきます。
 亡き女性と話をするために、霊媒の脳を研究し、生理学的に霊と接触できるようにしようというのです。実験は成功しますが、ナノマシンの繁殖力は予想を遙かに超えて、世界中に広がってゆきます。死者が見えるようになった人々はつぎつぎと混乱を来し、世界は終末を迎えようとしていました…。
 死者と接触する能力を、物理的に作り出そうとする発想が秀逸です。普通の作家なら、滅び行く世界で希望を失わない少数者たちの物語にでもなるのでしょうが、スミス作品は圧倒的にペシミスティックです。

「猫を描いた男」
 ある日ふらりと現れた長身の男は絵描きだと名乗り、まるで長年その町にいたように生活にとけ込んでしまいます。彼の描く絵は素晴らしく、飛ぶように売れていきます。画家は、思いを寄せていた人妻と息子に対して夫が暴力をはたらいているのを知ります。
 画家は「自分の一部」を込めて虎の絵を描きますが、激昂した男が絵の前に現れたとき起きたこととは…?
 奇妙な味の作品です。オーソドックスな題材ですが、丁寧な作りで読ませます。不思議な能力を持つよそ者を、超自然には懐疑的な語り手が語るという、これまた伝統的な語りで語った手堅い作品。

「バックアップファイル」
 愛する人を失った男が、家族を蘇らせようとします。その手段とは「バックアップファイル」によるものでした…。
 蘇りが超自然的なものではなく、SF的な設定によってなされるというユニークな作品。ただ、その方法がどのような仕組みになっているのかは一切説明されません。
 男のヴァーチャル空間における幻影なのかと思いきや、読み進むと実体のある存在であることが判明します。下手な説明がないだけに、余計に不気味な雰囲気を出していますね。

「いつも」
 父親がいつもくれるプレゼントの包装があまりに完璧なことから、超自然的な方法が使われているのではないかと、娘は想像します。母の死後、訪れた家で父親は母親の遺体を小さく「包装」しますが…。
 あっけらかんとするほどの雰囲気の中で、ある種不気味な後味を残す、象徴的な作品。失った家族に対する愛がテーマの作品でもあります。



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エリック・フランク・ラッセル『金星の尖兵』(井上一夫訳 創元推理文庫)

 工場経営者ハーパーは、突如頭の中に悲鳴が響くのを聞きます。彼はテレパス能力者だったのです。声の先には警官が倒れており、彼はやがて死亡しますが、第一発見者のハーパーは容疑者としてマークされてしまいます。事件を独自に調べ始めたハーパーは、能力を使い容疑者を絞り込んでいきます。
 やがて犯人らしき女性を特定したハーパーは、その人物にあったとたん、衝動的に相手を射殺してしまいます。ハーパーが捉えた相手の意識は人間のそれではなかったのです…。
 テレパス能力を持つ主人公が、他惑星からの侵略者が人間に化けていることに気付いてしまい、彼らから追われる…という侵略テーマ作品です。時代的なものもあるのでしょうが(1955年発表)、敵方の宇宙人が妥協の余地のない「悪」として扱われています。それだけに「善悪の是非」とか「思想性」などは皆無のエンターテインメントになっており、終始爽快な作品になっています。
 主人公のテレパス能力がかなりご都合主義的に使われている面もないではないのですが、それを差し引いても、痛快な娯楽作として今でも非常に面白い作品です。



脳波 (1978年) (ハヤカワ文庫―SF)
ポール・アンダースン『脳波』(林克己訳 ハヤカワ文庫SF)

 地球の全生物の知能が飛躍的に増大したらどうなるか、というテーマのSF作品です。スケールが大きくなりそうなテーマなのですが、あまりそうならないところが逆に面白いですね。
 ある日、宇宙線によって、生物の知能が飛躍的に増大するという現象が起こります。人間が使い切れていない脳の能力が発揮されるようになったというのです。しかし人間はその知能に適応する者と適応できないものとに分かれてしまいます。
 学者である主人公コリンズと凡人である妻シーラ、もともと知能にかなりの差がある夫婦は、知能の増大によって亀裂を深めていきますが…。
 人間の知能増大によって個人や社会にどんな影響が出てくるのか…という設定を、非常に丁寧に描いた良作です。ただ「人類の進化のヴィジョン」みたいな壮大な話にはならず、飽くまで、小さな範囲での個人や集団の軋轢を中心に描かれていきます。
 オーソドックスな作品ではあるのですが、それだけにSFが苦手な人でも楽しく読める作品ではないでしょうか。



クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))
E・L・カニグズバーグ『クローディアの秘密』(松永ふみ子訳 岩波少年文庫)

 少女クローディアは、弟のジェイミーを伴って家出をすることにします。二人はニューヨークのメトロポリタン美術館に忍び込み、夜はそこで過ごすことになります。折りしも、美術館が購入した天使の像がミケランジェロ作であるかどうかをめぐって議論が交わされていました。
 姉弟は天使の像をめぐって、ある秘密を発見したのではないかと大喜びしますが…。
 家出した姉弟のささやかな冒険を描いた瀟洒な作品です。おおらかな姉と、お金にうるさいながらしっかり者の弟のコンビには味がありますね。この二人、家出しながらもまったくホームシックにかからず、楽しげに暮らしている…というのが面白いところ。
 何より、二人が選んだ住処であるメトロポリタン美術館での生活が非常に楽しげに描かれています。時代物のベッドで寝たり、噴水で水浴びしたり、時には展示品を見て回ります。誰もいない広大な博物館内で子供たちがたった二人。非常に夢見心地になるようなシチュエーションなのです。
 作品自体が枠物語になっているのも面白い趣向です。大枠の物語は、資産家のフランクワイラー夫人が弁護士サクソンバーグにあてて書いた手紙の内容ということになっており、姉妹の物語は、その語りに挟まれる形で描かれていきます。この夫人や弁護士の物語への関わり具合も工夫されていますね。
 タイトルにもある「クローディアの秘密」とは何なのか? シンプルながら考えさせるテーマも含んでいる作品で、名作とされるのもうなずける作品ではありました。
 超自然的なことが起こるわけではないのですが、子供時代のある種の夢と冒険を描いているという意味で「ファンタジー」に近い肌触りの作品です。



孤独な場所で (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ドロシイ・B・ヒューズ『孤独な場所で』(吉野美恵子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 1950年代に書かれたサイコ・サスペンスの古典的作品です。主人公ディックスは、戦争中に出会って恋仲になった女性が原因で精神のバランスを崩していました。ディックスは刑事になった旧友に再会しますが、彼は世間を騒がせている美女連続殺人について捜査していました。だんだんと不安にかられはじめるディックスでしたが…。
 明言はされないのですが、主人公が犯人であることはうすうすわかるようになっています。主人公の内面が細かく描写されていくという作品で、連続殺人鬼側から描かれたサスペンス小説といっていいでしょうか。ただこの主人公、それほど異常性を感じさせる人物ではありません
 むしろ、一般人が共感できるようなごく普通の内面が描写されていきます。それゆえ主人公に感情移入してしまい、ハッピーエンドを迎えてほしいなと思ってしまうぐらいです。殺人鬼を主人公にしながらも、殺人のときも犯行の様子そのものは全く描写されないという面白い趣向で、もしかしたら事件の犯人は別の人物なのでは…という楽しみもあります。隣に住む女優の元夫の行方がわからなくなっていることが判明するあたりなど、思わせぶりな展開も面白いです。
 精神異常者の犯罪を描く作品ではありますが、現代の作品に比べると非常に地味ではあります。細かい心理描写が積み重ねられて違和感が増していく…というタイプの作品ですが、今読んでも読み応えがありますね。精神分析的な要素をほとんど持ち込まないところも逆に好感が持てます。



イギリスの老男爵 (ゴシック叢書)
クレアラ・リーヴ『イギリスの老男爵』(井出弘之訳 国書刊行会)

 ホレス・ウォルポール『オトラント城』に影響を受けて書かれたというゴシック・ロマンス作品です。
 話としては、貴族の血を引く主人公が、本来の自分の領地と立場を取り戻すという、お決まりのパターンなのですが、その決着がつくのが非常に速い。主人公の立場が確定してから、領地や遺産をどう分配するのかという話題だけで、後半長大なページ数を費やすという構成になっています。
 興味深いのは後半の資産分けの部分です。「有徳の騎士」や「正義漢」であるはずの人たちが、自分たちの権利をいろいろ主張してくるのです。これは化けの皮がはがれたというわけではなく、どうやら当時としては、貴族たちの当然の権利で全くおかしいことではない…という感覚らしいのですよね。
 著者によれば、『オトラント城』の超自然味が大げさすぎるので、自分ならもっと自然な形で物語に溶け込ませてみせる…というのが創作動機だそうです。
 確かに「自然」ではあるのですが、出来上がったものがエンタメとして『オトラント城』より面白いかといえば微妙です。ただ、本来、ロマンティックなはずのロマンスで、現実的な金銭問題を延々とやっているというミスマッチさとその人間臭さ。そういう面から見ると非常に面白い作品ではあります。



魔法使いとリリス (ハヤカワ文庫FT)
シャロン・シン『魔法使いとリリス』(中野善夫訳 ハヤカワ文庫FT)

 魔法を学ぶ青年オーブリーが、師である魔法使いの妻リリスに恋するという物語です。「変身の魔法」が重要なテーマになっていて、それゆえに単純なラブロマンスに終わらないところが素晴らしいですね。リリスの「その愛では足りない」という言葉が印象に残ります。
 師匠の魔法使いグラインレンドンが使う魔法が「変身」であること、最初はグラインレンドンが登場するまで間があることから、もしかして妻のリリスは、グラインレンドンが変身した姿なんじゃ…と早合点してしまったのは秘密です。



黒い羊 他
アウグスト・モンテロッソ『黒い羊 他』(服部綾乃、石川隆介訳 書肆山田)

 メキシコの作家、アウグスト・モンテロッソ(1921-2003)の掌編集です。ショート・ショートと言っていい長さの、幻想的な寓話が集められた作品集になっています。
 主に動物を主人公にした寓話が多いのですが、どれも皮肉とブラック・ユーモアが効いたお話が多いですね。風刺作家になるためにあらゆる動物の本性を知り尽くすという「風刺作家になりたかったサル」、鷲になった夢を見るハエを描いた「夢の中で鷲になるハエ」、黒い羊が銃殺されるたびに像が建てられるという「黒い羊」、哲学者ゼノンのエピソードのパロディ「カメとアキレス」、夢を見たゴキブリがその夢の中でさらに夢を見るという「夢見るゴキブリ」、復活を繰り返すキリストを描く「輪廻転生」、パチンコで鳥を殺したことを後悔する少年の人生を描いた「ダヴィデくんとパチンコ」などが面白いですね。
 どれも短いお話でさらっと読めます。ブラック・ユーモアがあるといっても、そんなに毒のあるものではないので、読後感も悪くありませんね。
 書肆山田からは、モンテロッソの短篇集『全集 その他の物語』という本も出ていて、こちらもお薦めです。こちらは、かなり毒のあるブラック・ユーモア短編が入っています。世界一短い短篇として有名な「恐竜」も収録。短いので「恐竜」の全文を紹介しておきますね。

目を覚ましたとき、恐竜はまだそこにいた。



ネクロフィリアの食卓 (竹書房文庫)
マット・ショー、マイケル・ブレイ『ネクロフィリアの食卓』(関麻衣子訳 竹書房文庫)

 父親になることを上手く受け入れられないライアンは、友人と酒を飲んだ直後に何者かに拉致されてしまいます。気付くと彼は手錠でつながれていました。
 一方、ガソリンスタンドで働く女性クリスティーナは客である老人と老女に襲われ意識を失ってしまいます。
 縛られた状態で目を覚ましたクリスティーナは、目の前に奇怪なマスクをかぶった巨体の男がいることに気がつきますが…。
 殺人鬼夫妻とその息子に監禁された男性と女性の運命を描いていくというホラー小説です。よくあるタイプのホラーといえばそうなのですが、面白いのは焦点が被害者側よりも加害者側に合っているというところです。
 息子が人間離れした力を持つ怪物として描かれるのですが、その実、生まれる前の母親への虐待により障害を持って生まれてきたり、父親から虐待をされて育ったという設定であり、彼自身はあまり「悪」として認定されていません。
 本当の意味での殺人鬼は父親である老人だけなのですが、長年の虐待と洗脳により妻である老女は夫の協力者になってしまっているのです。最初はまともだったこの老女がだんだんと狂っていくという過程がたっぷり描かれるのですが、正直、この部分の方が本筋よりも怖いです。
 肉体的なものよりも精神的な虐待シーンがあったり、結末がかなりアンモラルなこともあり、あんまりホラー慣れしていない人には勧めません。帯の推薦文がショーン・ハトスンであることで、作品の雰囲気がわかる人にはわかるかもしれませんね。



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ジョージ・バーナード・ショー『奇跡の復讐』(稲垣博訳 ペガーナワークス)

 奇行を繰り返す風変わりな青年ゼノ・レッグは、枢機卿である叔父からある依頼を受けます。フォー・マイル・ウォーターという村で起こったという奇跡が本物かどうか、密かに調べてきてほしいと言うのです。
 奇跡は、村で不敬なならず者として知られていたブライムストン・ビリーが死んだ後、彼の墓が別の場所に移されていた、というものでした。奇跡を報告してきたヒッキイ神父のもとを訪れたゼノは、神父の姪ケイトの魅力の虜となってしまいますが…。
 皮肉に満ちた奇跡譚です。主人公の青年が頭の箍が外れているキャラクターで、その時点ですでに面白い物語なのですが、その青年がほれ込んだ娘にはすでに恋人がいて、奇妙な三角関係になるという、面白い展開です。
 主人公の青年が何をするかわからないという「トリックスター」的存在で、きわめて人間的な理由で「奇跡」がひっくり返されてしまうという、皮肉に富んだ物語でした。これは面白い作品ですね。



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石野重道『不思議な宝石  石野重道童話集』(盛林堂ミステリアス文庫)

 稲垣足穂の盟友であったという石野重道の、新発見の童話を集めた作品集です。稲垣足穂同様、ファンタスティックな香気にあふれた作品集でした。
 少年ヴァイオリン弾きが音楽で狼から逃れるという「ヴァイオリン弾きと狼」、悪魔が悪戯のために作った不思議な石をめぐる「不思議な宝石」、謎の青い染料で大もうけする農夫を描いた「不思議な塔」、病気を治すため星を取ろうと考える少年を描く「セデアとお星様」などが面白いですね。
 「不思議な塔」「セデアとお星様」では、星や月や青空が人の手で届くところに現れたり、物理的に接触できたりと、まるで稲垣足穂の『一千一秒物語』を思わせるようなオブジェ感に満ちています。



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石野重道『重道庵夜話 壱阡壱秒譚 ネクタイピン物語』(東都我刊我書房)

 タイトルの「壱阡壱秒譚」からもわかるように、稲垣足穂『一千一秒物語』にも通じる、ナンセンスでファンタスティックなコント集です。
 掌編9篇で構成された「ネクタイピン物語」と短篇「老婆ひとり」が収録されています。
 「ネクタイピン物語」はどれもナンセンスなショートコントで、「ビール瓶の中から月を出すというお話」とか「星に揺り起こされた話」などは、ほとんど足穂と区別がつかない味わいです。
 一番面白かったのは「汽船を懐ろに入れた話」という作品。タイトル通りのお話ですが、遠近法を無視したような発想がすごく楽しいです。
 「老婆ひとり」は、犬を飼う貧しい老婆を描いた小品で、これはこれで味わいがありますね。
 表紙・造本も非常にお洒落で、愛らしい本に仕上がっています。

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すれ違いの悲劇  モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見傑作集 遺恨』
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 モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見傑作集 遺恨』(中川潤訳 エニグマティカ叢書)は、ルヴェルの短篇を11篇収録した作品集。質の高い短篇が揃っており、安心して楽しめる作品集になっています。

 容姿に問題をかかえる男が文通を通じて美しい女性と恋仲になるという「嘘」、先妻に飛び降り自殺をされた男が再婚した妻との関係を語る「窓」、息子が死んだことで年金が転がり込んだ老夫婦を描く「生還者」、体が不自由な鐘楼番が火事を必死で知らせようとする「鐘楼番」、独身の実業家同士の男の不和を描く「遺恨」、恐怖のあまり衝動的な殺人を犯してしまうという「恐れ」、美しい髪を持つ愛人をめぐって争いが起こる「髪束」、処刑寸前の兵士の心境を描く「壁を背にして」、亡き妻の不貞の証拠を発見した男が二人の息子について疑惑を抱くという「どちらだ?」、妻の肖像画について画家と夫の意見が相違するという「妻の肖像画」、島に突然謎の建造物が出現するという「バベルの塔」を収録しています。

 思い込みや強迫観念によって悲劇が起こる「窓」「恐れ」「どちらだ?」などは、ルヴェルらしさの出た作品ですね。ルヴェルには親子の情愛を描いて人情味のある作品がいくつかありますが、同じような題材を扱っていながらバッドエンドになる「どちらだ?」は予想を裏切る展開で面白いです。
 いい話ではあるのですが真相はかなり残酷な「鐘楼番」、処刑寸前の兵士の心境が短時間に変化する様を描いて秀逸な「壁を背にして」、風刺的なタッチの「妻の肖像画」も面白いです。

 巻末の「バベルの塔」はちょっとSF風というか幻想小説的な作品で印象に残ります。
 船員の「わたし」は、ある島に以前にはなかった人工的な構築物があるのを発見します。それはどんどんと高くなっていきますが…。
 ルヴェル作品ではあまり見かけないタイプの作品で非常にユニーク。ルヴェル作品の通例で、すぐに終わってしまう短い作品なのですが、これはもうちょっと長く読んでいたいと思わせる作品でした。

 中川潤さん訳のルヴェル、紙の本では3冊目となる作品集ですが、作品のセレクション、お話の面白さ、上質な訳文と、もはや安定した出来の作品集で、これは広くお薦めしたい本です。

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境界と断絶  ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『ボーダー 二つの世界』
ボーダー 二つの世界 (ハヤカワ文庫NV)
 ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短篇集『ボーダー 二つの世界』(山田文ほか訳 ハヤカワ文庫NV)は、映画化された表題作ほか11篇を収録した作品集です。どれも非常にハイレベルなホラー短篇集になっています。

「ボーダー 二つの世界」
 税関で働く女性ティーナは、罪や不安な思いを嗅ぎわける能力を持っていました。密輸や運び屋をほぼ摘発できる彼女の能力は高く評価されていたのです。ある日税関に現れた男ヴォーレが何かを隠しているのを感じたティーナでしたが、彼からは何も発見することができません…。
 人の心から不安を感じとることのできる能力を持つ女性ティーナが主人公です。経済的には成功した彼女は、その容貌や性格から他人と上手く接することができず、孤独な思いを抱えていました。ある日出会った男ヴォーレに自分と同じようなものを感じたティーナは、彼に惹かれていくようになるのです。
 孤独を抱える超能力者というテーマかと思って読み進めると驚愕の展開が待っています。自分の能力の由来を知ったヒロインは、更に他人との断絶を実感することにもなります。ティーナは自分の居場所を見つけることができるのか?「孤独とその救済」について、このような形で描かれた物語は前代未聞では。

「坂の上のアパートメント」
 ヨエルは数十年住み続けているアパートが傾いているのではないかという思いに囚われます。建築の専門家である友人に調べてもらった結果、確かにわずかに傾いているのです。加えて、同じアパートに住む恋人アニータがずっと不在であることに、ヨエルは不安を抱きますが…。
 日常生活でふと兆した不安がだんだんと膨らんでいく…という恐怖小説です。非常に不穏なトーンで進む作品なのですが、結末のインパクトが強烈です。作中でも「緩急」の度合いは一番の作品では。

「Equinox」
 留守中の友人の家の管理を頼まれた主婦の「わたし」は、それをきっかけに他人の家に忍び込み中を密かに探る行為がやみつきになってしまいます。ある時侵入した家のベッドに男の死体を発見した「わたし」は驚きますが、腐りもしていないその死体に魅了されるようになります…。
 詮索癖を持つ主婦の物語で、それだけでも面白いのですが、彼女が「死体」を発見してからは更に異様な展開になります。「死体」が動いたり話したりするのですが、それが現実なのか主婦の妄想なのかがわからなくなってくるのです。異様な手触りのサイコ・スリラーです。

「見えない!存在しない!」
 カメラマンのフランクは長時間の張り込みの結果、有名女優と恋人とのキスシーンを撮影することに成功します。しかし、現像した写真には人の姿は全く写っていませんでした…。
 目の前で目撃した人間の姿がカメラには映っていないという怪奇現象から、主人公の過去がフラッシュバックして、現実が変容していく…という幻想小説です。非常に不気味な短篇ですね。

「臨時教員」
 少年時代に突然行方をくらました、かっての親友マッテから連絡を受けた「僕」は彼から少年時代の臨時教員について話を聞きます。その女性教員ヴィーラにおかしなものを感じたマッテは彼女を調べようと自宅に忍び込んだというのですが…。
 人間社会に人間でない存在が紛れ込んでいる…というフィリップ・K・ディック的なテーマを扱った作品です。ただその「人間でない存在」の正体がはっきりしないのが怖いです。

「エターナル/ラブ」
 愛し合うカップル、アンナとヨーセフ。彼らは永遠に一緒にいたいという思いを持っていました。海で溺れかかったところを九死に一生を得たヨーセフは、その体験から「死」を欺く手段を見つけたとアンナに話しますが…。
 「死」を欺こうとする、いわゆる「死神」テーマの作品です。「死」が物理的な形態をとって現れるのですが、クライマックスで現れるその現象は視覚的で強烈。ぞっとさせる作品です。

「古い夢は葬って」
 かってスイミングプールで起こった猟奇的な殺人事件。事件の関係者であったステファンとカリンの夫婦と知り合いになった「私」は彼らと親友づきあいをするようになります。長い付き合いの中で、「私」は事件について少しづつ彼らから話を聞くことになりますが…。
 リンドクヴィストの長篇『MORSE』の外伝的な短篇です。メインはあくまでステファンとカリンの夫婦の生活なのですが、その背景として『MORSE』の事件が描かれます。そもそも夫婦が知り合ったのも事件のせいであり、警察関係者であったカリンに至っては、数十年が経過しても事件を調べ続けているのです。
 やがて老いや病気のせいで引き裂かれるのではないかと不安に囚われた夫婦の取った手段とは…?
 外伝的な位置づけとはいえ、この短篇だけでも抜群の完成度を誇る作品です。老夫婦の愛情と不安を描きながら、『MORSE』の事件と絡ませていく手腕は実に見事。
 結末では『MORSE』の主人公オスカルとエリのその後がどうなったかがわかる仕組みになっています。

「音楽が止むまであなたを抱いて」
 最初から最後まではっきりしたことがわからない掌編なのですが、作中不穏な単語や仄めかしが多用される不気味な作品です。

「マイケン」
 娘の死をきっかけに精神的に閉じこもるようになった夫を介護する「私」は、スーパーのサポートに電話した際、歯に衣着せぬ物言いをする女性マイケンと知り合い、彼女とたびたび電話をするようになります。万引きを推奨するマイケンは「私」にもその活動を手伝うよう話しますが…。
 「私」が魅了されている「マイケン」が実在するのか、「私」の話すことがそもそも真実なのかがわからなくなってくる、という作品です。「信頼できない語り手」を描いた作品といってもいいでしょうか。
 超自然的な要素はないのですが、「マイケン」自体に何やら超自然的な感触が感じられますね。

「紙の壁」
 父親が持ってきてくれた巨大なダンボールに魅了された「ぼく」は、森の中の秘密基地にそれを持ち込みます。ダンボールを家としてそこで一晩を過ごすことにした「ぼく」は、ダンボールの外から何かの生物の気配がするのに気がつきます…。
 少年の冒険のさなかに現れる超自然的な気配をさらっと描いた作品です。どこかノスタルジックな雰囲気も感じられます。


「最終処理」
 音楽業界の底辺で運び屋をやっているカッレに対して、大学で働く姉と父はカッレにいい感情を持っていませんでした。突然カッレに輸送の仕事を頼んできた父は、彼にヒース特別区に行ってほしいと言います。そこは蘇った死者が集められて研究されているという場所でした。
 特別区の周辺で出会った女性フローラに魅了されるカッレでしたが、フローラは死者たちを解放するのが自分の使命だと話し、カッレにも協力を求めます…。
 いわゆる「ゾンビ」が存在する世界を舞台に、彼らの魂を解放しようとする女性と、その恋人になった主人公を描く作品です。登場する「ゾンビ」が物理的な特性だけでなく「魂」を持っているなど、何やら超自然的な要素もあるのが面白いところ。
 家庭的な問題やトラウマを抱えた、さえない主人公が段々と成長を遂げていくというのも良いですね。集中で一番長い中篇ですが、最もソフトな語り口で後味もいい作品です。

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ずっと一緒に  ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE ―モールス』
MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV) MORSE〈下〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)
 スウェーデンの作家、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの長篇小説『MORSE ―モールス』(富永和子訳 ハヤカワ文庫NV)は、北欧を舞台に、子供たちの純愛が描かれるという吸血鬼小説です。

 舞台は1980年代、ストックホルム郊外の町ブラッケベリに母親と住む12歳の少年オスカルは、学校で酷いいじめにあっていました。友人もなく、いじめっ子に復讐をする想像をしては気を紛らわしていたオスカルは、隣の部屋に美しい少女エリが父親らしき男と一緒に引っ越してきたのを知ります。
 学校にも通わず夜にしか姿を見せないエリに不思議に思うオスカルですが、やがて彼女と心を通わせるようになります。
 一方オスカルが住む町の周辺では猟奇的な殺人事件が続いていました…。

 いじめられっ子の少年が美しい少女と出会い、交流を深めていくのですが、その少女が実は吸血鬼だった…というお話です。この吸血鬼エリは200年近く生きているのですが、子供の姿である見た目通り精神も幼く、大人の協力者がいないと、食物である人間の血を手に入れることができないのです。
 そのため、エリは大人のパートナー、ホーカンとともに仕方なく人間を殺し続けていました。体力の弱りつつあったホーカンが殺しに失敗し、仕方なくエリ本人が血を取るため人を襲うことになりますが、血を取った後、上手く殺すことができずに、ヴァンパイア化してしまう人間も出てしまいます。

 エリ自身からは吸血鬼の生態に関する説明はあまりされず、むしろヴァンパイア化してしまった犠牲者の視点から、この作品での吸血鬼の生態や特徴などが判明する…という流れは上手いですね。
 吸血鬼でありながらも「ヒロイン」のエリがとにかく健気で可憐です。序盤は恐るべき力の持ち主のように描かれますが、後半では、別の怪物的存在や吸血鬼を殺そうとする人間たちから追われるなど、迫害される側として描かれるようになります。
 主人公オスカルもまた、エリとの交流を通して少しづつながら成長を遂げていくという流れも見逃せません。エリの正体を知ってなお、彼女を助けようとするオスカルの覚悟がエリを助けることにもなるのです。

 タイトルの「モールス」は、オスカルとエリが壁越しにモールス信号メッセージを伝えあうシーンから取られているようです。二人の交流を表すいいシーンなのですが、原題は「正しき者を入れたもう」というような意味で、こちらの方が内実をよく表しているかもしれません。
 吸血鬼は招かれなければ家に入れない…という言い伝えがあり、この作品でもそれは踏襲されています。吸血鬼の特性だけでなく、主人公オスカルがエリの存在を受け入れる…という意味も兼ねているのでしょうか。

 オスカルとエリの周辺とは別に、地元の中高年グループたちにスポットが当てられているのも面白いところです。仲間の一人が殺されたのを皮切りに、彼らは犯人を探そうとしますが、その最中に女性の一人がヴァンパイア化してしまいます。
 それをめぐって男女の愛憎が描かれるなど、このあたりにも読みどころが多いですね。
 面白いのは、我々がスウェーデンという国に抱く先進国的なイメージとは裏腹に、この作品で描かれるのは経済的な貧困を抱えた人々や、陰湿ないじめなど、社会的な暗い側面が多いのです。
 それにもかかわらず、全体に「美しい」吸血鬼小説になっているのは不思議ですね。

 リアルないじめの描写、グロテスクな殺人シーン、強烈な性的描写などがあるため、そのあたりが苦手な人は避けた方がいいかもしれません。ただ、吸血鬼小説としてのみならず、幼い子供たちの「恋」や心の交流を描いた作品としても非常に魅力的な作品です。

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ホフマンの周辺で
 先日、読書会のテーマとして、ドイツの作家E・T・Aホフマンを取り上げたこともあり、ホフマンに関連する本と映画をいくつか鑑賞しました。紹介していきたいと思います。


ホフマン物語: ホフマンの幻想小説からオッフェンバックの幻想オペラへ (オペラのイコノロジー)
長野順子『ホフマン物語 ホフマンの幻想小説からオッフェンバックの幻想オペラへ』(ありな書房)

 オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』とホフマンの原作を様々な面から考察した本です。
 オペラ『ホフマン物語』の各エピソードの内容を原作との関わりから考察していく部分がメインですが、他にもE・T・A・ホフマン自身の経歴や作品の概説、フランスにおけるホフマンの影響、その影響によって生まれたフランスの幻想文学の紹介、フランスにおけるオペラ・オペレッタについてや、オッフェンバックの作品について、また内容的に関連するモーツァルト作品についてなど、内容は盛り沢山で非常に参考になります。
 作曲者が完結させる前に亡くなったため、『ホフマン物語』には、後世の人々によって改変・再編されたいろいろな版(バージョン)があるということも初耳でした。
 特に「大晦日の夜の冒険」を元にした「ジュリエッタ」の幕では、殺人が登場したり悲劇的な結末になっているバージョンが多いため、省かれることも多かったというのは、なるほどという感じです。
 全体に非常にわかりやすく書かれており、ホフマン作品やフランスにおけるその影響、または19世紀フランスの文化や音楽史的な面などに興味がある人には面白く読める本だと思います。
 そもそも自分自身、ホフマンの幻想小説には馴染みがあるものの、オペラの『ホフマン物語』は観たことがありません。この本を読んで関心を惹かれたので、とりあえず映画版『ホフマン物語』(1952 イギリス マイケル・パウエル 、エメリック・プレスバーガー監督)を観てみたいと思います。



ホフマン物語《4Kレストア版》  Blu-ray マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー
オペラ映画『ホフマン物語』(1952 イギリス マイケル・パウエル 、エメリック・プレスバーガー監督)

 オッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』をイギリスにて映画化した作品。豪華な舞台が美しい作品です。
 初めて観てみましたが、非常に面白い作品です。枠物語になっており、現在の主人公ホフマンが過去の恋人との物語を回想するという形式になっています。毎回悲劇的な結末に終わるのですが、そこには必ず悪魔的な人物が登場し、ホフマンの恋を邪魔するのです。
 元になっているエピソードは、それぞれ「砂男」「クレスペル顧問官」「大晦日の夜の冒険」。原作と比べながら観ていくと面白いですね。目に付く大きな違いは、まずホフマンの親友「ニクラウス」が常時登場していること。
 ところどころホフマンを諌めたり手伝ったりするのですが、時折邪魔をするようなそぶりをすることもあって、一筋縄ではいかないキャラクターです。
 毎エピソード、敵役のキャラが登場するのですが「クレスペル顧問官」を元にしたエピソードでは、原作には登場しない敵役「ミラクル博士」が登場します。
 一番大幅な改編がされているのが「大晦日の夜の冒険」を元にしたエピソード。こちらでは敵役の他に、ホフマンの恋敵としてシュレミール(シャミッソー「影をなくした男」の主人公)が登場します。原作でも少しだけ出てきたと思いますが、こちらではメインキャラクターとして登場するのが面白いです。
 「大晦日の夜の冒険」を元にしたエピソード「ジュリエッタ」の幕は、『ホフマン物語』の様々な版の中でも、いろいろな結末があるそうです。恋人を殺してしまったりするバージョンなどもあるようですが、ここではホフマンが恋敵シュレミールを決闘で殺してしまいます。
 全体としては、現世の恋に破れたホフマンがミューズによって芸術の世界に導かれる…というようなテーマになっているようです。その意味ではホフマンの邪魔をする「悪魔」も彼を導いている…と取ってもいいのかもしれません。
 古い映画ながら、豪華絢爛な舞台と衣装は今見ても見事です。手塚治虫の漫画『リボンの騎士』はこの『ホフマン物語』から多大な影響を受けているとか。なるほどという感じですね。
 演出も面白いです。特に「砂男」を元にした「オランピア」の幕では、自動人形オランピアにわざとぎこちない踊りをさせたりもしています。時折ねじを巻いたりしているのにも、恋におぼれたホフマンは気が付かない…という、なかなかに気のきいた演出です。
 もちろん音楽も、有名な「ホフマンの舟歌」初め、チャーミングな曲が多く登場します。
 この作品だけ観ても充分面白い作品ですが、原作小説を読んでから観ると、さらに面白く観れるのではないかと思います。



ホフマン物語 (KCスペシャル)
水野英子『ホフマン物語』(講談社KC SPECIAL)

 オペラ『ホフマン物語』の漫画化作品です。オペラ版、というか映画版に忠実な漫画化といっていいのでしょうか。繊細な描写で、舞台よりも物語がわかりやすくなっています。
 コマ割をとりはらった複雑な画面構成がちょくちょく現れるのが特徴で、読んでいて舞台感が味わえるのが特徴でしょうか。
 物語が非常にわかりやすいので、この漫画作品を読んでからオペラ版・映画版の方を見るのもありかもしれませんね。
 背景や風景、特に建物の造形にマリオ・ラボチェッタっぽいものを感じるのですが、もしかして多少影響があるのでしょうか。ラボチェッタはイタリア出身で絵本『ホフマン物語』に挿絵を書いたりなどしている挿絵画家です。



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雑誌『ユリイカ1975年2月号 特集ホフマン 悪夢と恍惚の美学』(青土社)

 ドイツの幻想作家E・T・A・ホフマンの特集号です。ホフマンに関するエッセイ・評論が盛り沢山で、今でも読み応えがあります。
 面白く読んだのは、フランス文学におけるホフマンの影響を語った「ホフマン変幻」(稲生永)、ホフマンとポーを比較した「魔界を視る者」(島田太郎)、ヴェルヌにおける ホフマンの影響を語った「ホフマンとジュール・ヴェルヌ」(私市保彦)、ホフマン、シャミッソー、中国古典などについて触れたエッセイ「影を失った男たち」(多田智満子)、学生時代のホフマンについての思い出を語るエッセイ「ホフマン・思い出すことなど」(日影丈吉)などでしょうか。
 「ホフマン変幻」(稲生永)では、フランスにおけるホフマンの翻訳とその影響について語れらていますが、当時フランスの文芸に与えた影響は強かったようですね。ちょっと引用します。

ホフマンがフランスに登場する有様はやはり異常というほかはない。
短期間にくりひろげられた激烈な翻訳合戦は、同時にその幻想的作品がフランス人に強烈な魅力をもつものであったことを如実に裏付けている。その人気は本国でのそれをはるかに凌駕するものであったといってもよいであろう。
豊かで奔放な想像力の生み出す幻想の世界は、フランスのロマン派に神秘と幻想の源泉を教え、すでに十九世紀初頭にフランスで猛威をふるっていた十八世紀イギリスの《暗黒小説》あるいは《ゴシック小説》のもたらす怪奇的中世趣味の影響と合体して、フランスに新たな《幻想小説》の様式を生み出すきっかけとなった。


 ウォルター・スコットがホフマンを批判した論文が雑誌に掲載されたものの、逆にホフマンに対する関心を集めてしまったとか、仏訳ホフマン作品集にそのスコットの文章が載ってしまった…というのも皮肉めいて面白いですね。

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怪奇幻想読書倶楽部 第25回読書会 参加者募集です
幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) (創元推理文庫)
 2019年10月22日(火曜日・祝日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第25回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年10月22日(火曜日・祝日)
開 始:午後13:30
終 了:午後16:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
課題図書
『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。


 今回は、怪奇幻想小説の名訳者として知られる平井呈一の怪奇小説翻訳を集めたアンソロジー『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』を課題書として取り上げます。
 個々の作品だけでなく、英米の怪奇幻想小説や平井呈一の翻訳についても話していきたいと思います。

※2019年10月10日追記 募集を締め切らせていただきました。

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ユーモアと風刺  ヘンリー・カットナー『世界はぼくのもの』
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 アメリカの作家、ヘンリー・カットナー(1915-1958)の短篇集『世界はぼくのもの』(米村秀雄編訳 青心社)は、SF・ファンタジー的な作品を集めた短篇集。非常にレベルの高い作品揃いなのですが、中でもユーモアを基調とした作品に才気を感じますね。

「世界はぼくのもの」
 ギャラハーが二日酔いから目覚めると、見たこともない小動物が三匹ほど目の前に立っていました。彼らは500年先の未来の火星からやってきて、世界は自分たちのものだと豪語します。どうやらギャラハーが酔って自分でもわからぬうちに、タイムマシンを発明したようなのです。
 リブラと名乗る小動物たちの言うままに作った光線銃はすさまじい威力を持っていました。その直後に、何者かわからぬ死体が突然出現しますが…。
 タイムマシンによって未来から火星人が出現し、彼らの知識のおかげで、未来ばかりか並行世界までが不安定になる…という、SF設定がてんこ盛りの作品です。とにかくアイディアが沢山つめこまれているのと、ところどころで炸裂するぶっ飛んだユーモアが楽しいです。「リブラ」たちの存在もキュート。

「どん底より」
 分裂症を患う「わたし」は度々<雲>の訪問を受けていました。やがて別の存在<訪問者たち>が「わたし」を訪れるようになります。彼らは異界の存在であり「わたし」を触媒としているのだというのです。「わたし」は医者に彼らのことを話しますが、妄想だと取り合ってもらえません…。
 妄想だと思っていた精神的存在が実は実在した…というテーマの作品なのですが、さらにそれをひねった展開が待っています。<訪問者たち>そして<雲>の不気味さが強烈ですね。終始不穏な雰囲気に支配された怪奇小説です。

「ショウガパンしかない」
 意味論を研究するラザフォードとオブライエンは、意味論に従った完璧な文句ができれば、それは頭から忘れられないものになるという理論を発見します。彼らはドイツ語の歌を作り、ドイツ向けの放送でその歌を流すことにしますが…。
 その歌を聞くと、まともに物が考えられなくなるという歌をテーマにした作品です。その歌をドイツ軍に広め、彼らをかく乱しようというのです。
 第二次大戦終結前に書かれた作品らしく、戦意高揚的な面もあるのですが、それを差し引いても、ブラック・ユーモアがあふれており面白い作品です。

「小人の国」
 青年ティム・クロケットは労働条件の調査のため、炭鉱夫に化けて炭鉱に潜入しますが、ダイナマイトの爆発に巻き込まれ岩盤の奥に閉じ込められてしまいます。気がつくと彼の体は醜い小人になっていました。
 突如現れたグルー・マグルーと名乗る小人は、子孫を増やせない小人を補充するため、定期的に人間を小人に変えて連れてくるというのです。長時間労働に就かされたクロケットは周りの小人たちを扇動して、小人の王に歯向かわせようと考えますが…。
 小人にされてしまった青年の脱出行を描くユーモア・ファンタジー。小人たちは皆長時間労働を何とも思わず、唯一の趣味が「喧嘩」であるなど、小人や彼らの国の様子がユーモアたっぷりに描かれます。後半の王との争いは魔法合戦の趣もあり、こちらも楽しいですね。デフォルメの効いた楽しい作品です。

「大いなる夜」
 物質転送機の普及で、時代遅れになりつつあったハイパーシップ「ラ・クカラチャ」。あくまで船の輸送にこだわるサム・ダンバース船長は老朽化した船を修理する費用を工面するために、無茶な行動を始めます。ベテラン航宙士ヒルトンは船長を止めようとしますが…。
 宇宙を舞台に輸送船とその乗組員たちを描くスペース・オペラ作品です。ただテクノロジーの進歩で、船もその乗組員たちも時代遅れになっており、皆が将来を悲観する中、船長やベテラン乗組員などが自らの信念を貫こうとする…という男気にあふれた作品になっています。
 船長を時代遅れだと考える航宙士ヒルトンが、考えを翻すシーンにはある種の感動がありますね。微かな諦観が全篇を覆う作品で、ちょっと方向性は違うのですが、例えばエドモンド・ハミルトン「プロ」などにも似た雰囲気の感じられる作品です。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(盛林堂書房さんでの通販分は完売。2019年11月に開催の「文学フリマ東京」にて少数ですが販売予定です)。



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