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同人誌『夢と眠りの物語ブックガイド』刊行のお知らせ
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 新しく、同人誌を作成することにしました。タイトルは『夢と眠りの物語ブックガイド』。「夢」や「眠り」をテーマとしたフィクション作品を紹介したガイド本です。小説作品のほか、絵本、漫画、映画作品などについても触れています。
 現在、印刷中です。10月半ばぐらいの完成を見込んでいますが、販売予定日など、詳細が決まりましたら、また告知させていただきたいと思います。

 ページ巻頭に、表紙と目次、本文のサンプルページの画像を付けていますので、ご参照ください(画像はデータ段階のものですので、本の現物そのものではありません)。


仕様は以下の通りです。

『夢と眠りの物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:88ページ(表紙除く)
表紙印刷:CMYKフルカラー
本文印刷:モノクロ
表紙用紙:マットポスト220K
本文用紙:書籍用紙90K(クリーム)


内容は以下の通り。

まえがき

●中国の夢物語の古典から
干宝「二人同夢」
沈既済「枕の中の世界の話」
李公佐「南柯郡太守の物語」
白行簡「三つの夢の話」
蒲松齢「宰相の夢のあと」
紀昀「農婦の夢」

●同じ夢を見る
W・サマセット・モーム「マウントドレイゴ卿」
都筑道夫「殺し殺され」
ヘンリイ・スレッサー「夢を見る町」
ローラン・トポール「静かに! 夢を見ているから」
ウリ・オルレブ「クジラの歌」
半村良「夢あわせ」

●夢見る人と夢見られる人
ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス「円環の廃墟」
ジョヴァンニ・パピーニ「〈病める紳士〉の最後の訪問」
アドルフォ・ビオイ=カサーレス「パウリーナの思い出に」
眉村卓「仕事ください」
眉村卓「ピーや」
ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』
ジュール・シュペルヴィエル「海の上の少女」
デヴィッド・アンブローズ「覚醒するアダム」
ジェフリー・フォード「光の巨匠」
三田村信行「ゆめであいましょう」
佐々木淳子「ミューンのいる部屋」

●夢見られる世界
エドモンド・ハミルトン「眠れる人の島」
ロード・ダンセイニ『ぺガーナの神々』
ロード・ダンセイニ「ヤン川を下る長閑な日々」
ロード・ダンセイニ「ブウォナ・クブラの最後の夢」
チャールズ・ボーモント「トロイメライ」
アルベルト・モラヴィア「夢に生きる島」
ダニエル・F・ガロイ「今宵、空は落ち…」
クリストファー・プリースト『ドリーム・マシン』
小林泰三「目を擦る女」
小林泰三「影の国」
押井守監督『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』
フィリップ・ハース監督『レイス・オブ・ヘブン 天のろくろ』

●夢の中の家
A・M・バレイジ「夢想の庭園」
アンドレ・モーロワ「夢の家」
イギリス民話「夢の家」
内田善美『星の時計のLiddell』
キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
バーナード・ローズ監督『ペーパーハウス/霊少女』
E・F・ベンソン「塔のなかの部屋」
三津田信三「夢の家」

●どちらが夢なのか?
アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
ロバート・シェクリイ「夢の世界」
ロバート・シェクリイ「夢売ります」
リーノ・アルダーニ「おやすみ、ソフィア」
ヘンリー・カットナー「大ちがい」
R・A・ラファティ「夢」
ジェラルド・ペイジ「幸福な男」
オースン・スコット・カード「解放の時」
チャールズ・ボーモント「夢と偶然と」
ラムジー・キャンベル「夢で見た女」
ワレリイ・ブリューソフ「いま、わたしが目ざめたとき…」
フリオ・コルタサル「夜、あおむけにされて」
楳図かずお「楳図かずおの呪い 幽霊屋敷」
結城真一郎『プロジェクト・インソムニア』
エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』

●人生は夢
ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ「人の世は夢」
ナサニエル・ホーソーン「デーヴィッド・スワン」
エルクマン=シャトリアン「壜詰めの村長」
トマス・ピアース「実在のアラン・ガス」
半村良「夢たまご」
半村良『夢中人』

●死出の旅としての夢
ロバート・F・ヤング「河を下る旅」
アンブローズ・ビアス「ハルピン・フレーザーの死」
ライアン・スミス監督『スモーク』

●悪夢を見る人々
三田村信行「ゆめのなかの殺人者」
フィリップ・K・ディック「凍った旅」
シャーリイ・ジャクスン「夜のバス」
W・W・ジェイコブズ「人殺し」
ウィルキー・コリンズ「夢のなかの女」
ロバート・R・マキャモン「ミミズ小隊」
シーリア・フレムリン「特殊才能」
ロード・ダンセイニ「悪夢」
アラン・ワイクス「悪夢」
H・P・ラヴクラフト「魔女の家の夢」
ジョナサン・キャロル「卒業生」
半村良「夢の底から来た男」
都筑道夫「夢買い」
楳図かずお「錆びたハサミ」
高橋葉介『悪夢交渉人』
チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』

●未来の夢
H・G・ウェルズ「世界最終戦争の夢」
クリス・ヴァン・オールズバーグ『ゆめのおはなし』
クリス・ヴァン・オールズバーグ『まさ夢いちじく』

●予知夢について
リヒャルト・レアンダー「夢のブナの木」
リチャード・マシスン「おれの夢の女」
ステファニー・ケイ・ベンデル「死ぬ夢」
ジョン・コリア「夢判断」
アベル・ユゴー「死の刻限」
スティーヴン・キング「ハーヴィの夢」
ローレンス・ブロック「頭痛と悪夢」
ミッシェル・フェイバー『祈りの階段』
フィリパ・ピアス「クリスマス・プディング」
I・S・トゥルゲーネフ「夢」

●不思議な眠り
テオフィル・ゴーチェ「ミイラの足」
レイ・ブラッドベリ「熱にうかされて」
J・G・バラード「マンホール69」
ジョン・コリア「眠れる美女」
ヘルムート・M・バックハウス「眠れる美女」
L・P・ハートリー「合図」
マルセル・ベアリュ「諸世紀の伝説」
レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」
諸星大二郎「夢みる機械」
J・M・ストラジンスキー「夢の扉」

●夢に潜り込む
ピーター・フィリップス「夢は神聖」
筒井康隆『パプリカ』
ウォシャウスキー兄弟監督『マトリックス』シリーズ
ターセム・シン監督『ザ・セル』
クリストファー・ノーラン監督『インセプション』

●異世界の夢
アラン・E・ナース「悪夢の兄弟」
ジョーン・エイキン「ぬすまれた夢」
ジョーン・エイキン「ねむれなければ木にのぼれ」
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」
ジャック・ロンドン『星を駆ける者』
萩尾望都『バルバラ異界』
佐々木淳子『ダークグリーン』
佐々木淳子「赤い壁」

●冷凍睡眠をめぐる物語
C・D・シマック『なぜ天国から呼び戻すのか?』
アーナス・ボーデルセン『蒼い迷宮』
J・ティプトリー・ジュニア「グッドナイト、スイートハーツ」
トマス・ワイルド「乳母」

●夢さまざま
ロード・ダンセイニ「予言者の夢」
夏目漱石「夢十夜」
澁澤龍彦「夢ちがえ」
ロバート・アーウィン『アラビアン・ナイトメア』
フジモトマサル『夢みごこち』
岸浩史『夢を見た』
ロジャー・マンベル『呪いを売る男』
イヴァン・ヴィスコチル「飛ぶ夢」
高原英理「青色夢硝子」
高原英理「ブルトンの遺言」
澤村伊智「夢の行き先」
スタンリイ・エリン「壁のむこう側」
安部公房『笑う月』
福澤徹三「廃憶」
眉村卓「疲れ」
マーガレット・ミラー『見知らぬ者の墓』
ウォルター・デ・ラ・メア『死者の誘い』
ミルチャ・エリアーデ『令嬢クリスティナ』
エドワード・ルーカス・ホワイト『ルクンドオ』


以下の、書肆盛林堂さんのページで通信販売をしていただく予定です(まだ販売ページには品物が反映されていないので、ご注意ください)。
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/


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置き去りにされた時間  ロイス・ダンカン『とざされた時間のかなた』

とざされた時間のかなた (海外ミステリーBOX) (日本語) 単行本 – 2010/1/1


 ロイス・ダンカンの長篇『とざされた時間のかなた』( 佐藤見果夢訳 評論社)は、父の再婚相手の女性の屋敷で、その家族と共に住むことになった娘の不可思議な体験を描いた、ゴシック・サスペンス作品です。

 父親から、再婚相手の住む屋敷で家族と共に過ごさないかと言われた17歳の娘ノア。母親が死んでから一年も経たずに再婚した父親にもやもやした気持ちを抱きながらも、その提案を受け入れます。
 ルイジアナにある『風と共に去りぬ』を思わせる屋敷シャドー・グローヴに到着したノアは、その屋敷の広大さと再婚相手リゼットの美しさに驚かされます。リゼットの連れ子である、息子のゲイブ、娘のジョジーもその容姿は美しく、特に同世代のゲイブにノアは惹かれます。
 歓迎を受け、子供たちからは友好的な態度を受けていたものの、リゼットが自分に対してどこか冷ややかな視線を向けるのにノアは気付きます。
 ゲイブやジョジーと楽しい日々を過ごしているうちに、二人の話には時々、どこかおかしい点があるのにノアは気がつきます。彼らの話す過去の体験や出来事のつじつまが合わないのです。ジョジーの希望を容れて、ゲイブを含む三人でディスコに行った夜を境に、ノアと彼らの間には亀裂が生じることになりますが…。

 アメリカ南部の大邸宅で、何か秘密を抱えているらしい父の再婚相手とその家族と暮らすことになった少女の冒険を描く作品です。
 序盤から、ノアの夢の中に死んだ母親が登場し、娘に警告を与えるなど、超自然味が濃厚です。事実、再婚相手のリゼットとその子供たちの秘密にも超自然的な色彩が強いです。その秘密は読んでいくと何となく分かるようにはなっており、その意味では、あまり意外性はありません。ただその秘密が分かってから判明する、家族たちの悲哀とその残酷さが描かれる部分が読み所でしょうか。
 その秘密に絡んでノアの命が狙われることになり、自分の命を守ることと、何も知らない父親にその事実をどう伝えるか? といったところが主人公の目的となっていきます。 用意周到な継母の策略により、父親が娘の言うことを信じなくなってしまう、という流れもサスペンスを高めていますね。

 ミステリの叢書として刊行されている作品ですが、はっきりとした超自然現象が描かれる、完全な幻想小説といっていい作品です。舞台となる広壮な館や一族の歴史など、ゴシック風味も濃厚で、ミステリとホラーのハイブリッドとしても魅力的な作品になっています。
 作者のロイス・ダンカン、日本での知名度はあまりないと思うのですが、本国ではかなりの人気作家だとか。映画化されヒットした『ラストサマー』の原作者でもありますね。


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評論・ブックガイドを読む
 最近読んだ評論・ブックガイド的な本をまとめて紹介しておきたいと思います。


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風間賢二『きみがアリスで、ぼくがピーター・パンだったころ おとなが読むファンタジー・ガイド』(ナナコーポレートコミュニケーション)

 欧米のファンタジーの流れを時代順に分かりやすく解説した、啓蒙書的なガイドブックです。
 グリム童話、アンデルセン、アラビアン・ナイトあたりから説き起こし、ドイツ・ロマン派のメルヒェン、ジョージ・マクドナルド、チャールズ・キングズレー、ルイス・キャロル、ラファエル前派、ジェイムズ・バリー、ボーム、ネズビット、C・S・ルイス、トールキン、ル・グィン、エンデ、そして『ハリー・ポッター』に代表される現代のファンタジーまで、要所要所のポイントを押さえた、非常に分かりやすいファンタジーの概説書となっています。
 代表的なタイトルが挙げられるものの、古典的名作でも、つまらないものはつまらないと言い切っているところが清清しいですね。
 個人的に面白く読んだのは、主にイーディス・ネズビットの業績について語った<エブリデイ・マジック>の章。<エブリデイ・マジック>とは、別世界に旅立ちそこで魔法と出会う物語の逆で、現実世界に魔法(やその代行者・アイテム)が侵入してくるというタイプのファンタジー。
 ネズビットの強い影響で、別世界ファンタジーがしばらく影を潜めてしまったそうです。ネズビットの代表的なフォロワーであるエドワード・イーガーを始め、彼女の影響が及んだ後続の作家は数多いと言うことで、C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』にもネズビットの影響があるとか。
 2002年刊行ということで、現代ファンタジーに関してもその年代までの作品が取り上げられていますが、結構辛口で、J・K・ローリング『ハリー・ポッター』、クリフ・マクニッシュ『レイチェルと滅びの呪文』、ポール・スチュワート『崖の国物語』などは評価が低いです。
 逆に評価されているのは、フィリップ・プルマン『ライラの冒険』、『ダレン・シャン』、レモニー・スニケット『世にも不幸なできごと』など。
 ファンタジーの原型ともいうべき民話や『アラビアンナイト』の改変問題、「フォルクスメルヘン」と「クンストメルヘン」の違い、ラファエル前派の絵画の影響、アンデルセンやルイス・キャロルの人物像など、いろいろと面白くためになるトピックが盛り沢山で、短めながら充実したガイドとなっています。
 小谷真理『ファンタジーの冒険』(ちくま新書)、石堂藍『ファンタジー・ブックガイド』(国書刊行会)、リン・カーター『ファンタジーの歴史』(東京創元社)などと並び、日本におけるファンタジー概説書の基本図書となり得る本だと思います。



たのしく読める英米幻想文学 (シリーズ文学ガイド (4)) (日本語) 単行本 – 1997/5/1


大神田丈二、笹田直人編『たのしく読める英米幻想文学』(ミネルヴァ書房)

 英米の幻想文学作品を120作紹介したブックガイドです。
 18世紀頃から現代までの英米の幻想文学の名作を紹介しています。あらすじ、読み方、作家の履歴、読書案内、さわりの部分の原文引用などが、それぞれ分かりやすくまとめられています。アン・ラドクリフやジェイムズ・ホッグといったゴシック小説から、ピンチョンやバーセルミといった現代の文学的な幻想小説まで、幅広く取り上げられていますね。
 執筆陣は大学の研究者たちから成るようで、いわゆる文学中心のセレクションになっています。ただブラックウッドやラヴクラフトといった怪奇プロパーの作家や、ブラッドベリ、バラード、ル・グィンといったエンタメ系の作家もちょくちょく取り上げられており、全体的にバランスの良い入門書となっているのではないでしょうか。
 個人的には、純文学系の作家の知られざる幻想作品を知ることができる、という意味で面白く読みました。基本的には邦訳のある作品が紹介されていますが、中には未訳作品の紹介もあって、参考になりますね。
 1997年初版(で改版はされていないようです)なのですが、まだ在庫があるようで、新刊で買えます。幻想文学に興味のある人には参考になるガイドではないかなと思います。



境界への欲望あるいは変身-ヴィクトリア朝ファンタジー小説- (日本語) 単行本 – 2009/1/1


桐山恵子『境界への欲望あるいは変身 ヴィクトリア朝ファンタジー小説』(世界思想社)

19世紀イギリスのファンタジーや、そうした要素を含んだ文学作品について語った評論集です。
 全9章、それぞれ興味深いテーマなのですが、一番興味深く読んだのは「第1章 プリンセスでなくなるお姫さま」。メアリー・ド・モーガン、イーヴリン・シャープなど、ヴィクトリア朝に書かれた5つのフェアリー・テールを取り上げ、それらが型どおりのハッピー・エンドではなく、ヒロインが独自の立ち位置を手に入れる…というのを語った論考です。
 「第8章 『不思議な訪問』の文明化された空の妖精」も面白いです。ヴィクトリア朝に書かれた、ゴブリンが登場する童話をいくつか取り上げ、それらを比較考察するというもの。
 クリスティーナ・ロセッティ、マリー・コレリ、ディケンズ・ジョージ・マクドナルドらの作品について触れています。マリー・コレリに関しては、未訳の『サタンの悲しみ』についても一章が割かれていますね(「第3章 欲望の生産および達成メカニズム」)。



シンポ教授の生活とミステリー (光文社文庫) (日本語) 文庫 – 2020/7/8


新保博久『シンポ教授の生活とミステリー』(光文社文庫)

 ミステリに関わる様々な話題について触れたエッセイ集です。ミステリに関する該博な知識と、ユーモアたっぷりの語り口が楽しい本になっています。数十年間の文章を精選したそうで、それだけに密度が濃いですね。
 個人的に面白く読んだのは、サスペンス小説のジャンルについて語った「ウールリッチとハイスミスの間には深くて暗い河がある」、<奇妙な味>について語った「“奇妙な味”とはアンチ人情話である」でしょうか。特に「ウールリッチと…」は、サスペンス小説好きは必読の文章だと思います。
 あと、カルチャースクールの講座について面白おかしく語った「カルチャーな日々」も楽しいですね。



フリースタイル45 短篇ミステリとは何か(小森収×杉江松恋) (日本語) 単行本 – 2020/8/8


「フリースタイル vol.45」(フリースタイル)

収録されている対談「短篇ミステリとは何か」(小森収×杉江松恋)が大変面白いです。30ページ近くある長丁場の対談なのですが、短篇ミステリについてのいろんな論点が出されています。
 いろいろ興味深い話題が挙げられてるのですが、短篇ミステリのハイタイムが1980年までではないか、という小森さんの意見はなるほどと思いました。僕も短篇ミステリは好きで、邦訳されたアンソロジーや雑誌は結構読んでるのですが、1980年代あたりの作品から、全体に短篇の傾向が変わってきているような気がしていたのですよね。
 現にエドガー賞の受賞作を年代順に集めたアンソロジー『エドガー賞全集』『 新エドガー賞全集』『エドガー賞全集 1990~2007』を読むと、やはり『エドガー賞全集』が圧倒的に面白いのです(好みによる要素もあるかもしれないですが)。
 どんなジャンルでも自分がそれを読み出した年代のものが一番面白く感じる、といわれることがあります。僕が短篇ミステリを読み出したのは1990年代ですが、その時点で1980~1990年代の作品はあまり面白く感じず、1950~1970年代ぐらいの作品を面白く読んでいたような気がします。
 あと、対談で面白いと思ったのは、ミステリとSFのジャンル的な比較でしょうか。ミステリが「EQMM」のおかげでスリックマガジンとのつながりができたのに対して、SFには「EQMM」のような存在がなく、またファンダムの力が強かったために、内省を迫られ、その結果ニューウェーブが生まれたというのです。
 他にもいろんな意見や論点が出てきて面白い対談です。



ベストミステリー大全 (日本語) 単行本 – 2002/5/1


北上次郎『ベストミステリー大全』(晶文社)

 1988年から2001年にかけて「小説現代」に掲載された海外ミステリの書評をまとめたガイド本です。400冊以上の本が取り上げられています。
 ミステリだけでなく、SFやホラー・冒険・ロマンスなど様々なジャンルの本が取り上げられており、読み応えがあります。後世には残らないようなB級作品や「変な作品」も紹介されているところが面白いですね。
 紹介されている中では、地下鉄で暮らすことになった少年を描いた『地下鉄少年スレイク』(フェリス・ホルマン 原生林)、老人の顔を持つ少年を描いた医学スリラー、『遺伝子操作』(アラン・エンゲル ハヤカワ文庫NV)の二冊が特に気になりました。



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横田順彌『ヨコジュンの読書ノート 附:映画鑑賞ノート』(盛林堂ミステリアス文庫)

 先年亡くなった横田順彌の学生時代の読書感想ノートを、ノートのような体裁のレイアウトで再現した本です。つまらないものはつまらない、とはっきり書かれているところも良いですね。
 1960年代半ばから後半にかけて書かれていて、当時邦訳されたり創作されたSF作品に、リアルタイムで触れた読者の素直な感覚が伝わってくる貴重な本になっています。
 アシモフ、ハインライン、ブラッドベリ、ブラウンなど、名作SFのタイトルがぞろぞろ出てきて楽しいのですが、どうやら横田さんは怪奇幻想的な作品が苦手だったらしく、その種の作品の評価は低いようです。例えば何回か作品が登場して評価も高いH・G・ウェルズも、「モロー博士の島」など、幻想小説的な作品はあまり面白くないと言っていますね。
 異色作家系もあまり合わなかったらしく、ブラッドベリは例外のようですが、レイ・ラッセル、シオドア・スタージョン、リチャード・マティスン(マシスン)などはあまり評価が高くないです。特にスタージョンに関しては「よくわからない」という感想。
 意外だったのは、モルデカイ・ロシュワルト『レベル・セブン』やピーター・ブライアント『破滅への二時間』など、当時の政治状況を反映した「破滅SF」的な作品の評価が高いこと。
 作家になる前の学生時代、発表する予定もなかったノートだけに、当時の一人の読者としての素直な感想が綴られており、その意味でも興味深いですね。若い頃の感想なので、後年評価が変わったものもあるのかもしれないですが、これはこれで「時代の証言」として面白いものです。



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『カモガワGブックスVol.1 非英語圏文学特集』
『カモガワGブックスVol.2 英米文学特集』


 評論やブックガイドを中心とした文学同人誌です。
 ブックガイドが非常に充実しています。≪フィクションのエル・ドラード≫や≪東欧の想像力≫全レビュー、柴田元幸編アンソロジー全レビュー、プリースト全レビューなどのブックガイドは本当に重宝します。
 あと面白く読んだのは、ボルヘス最後の短編について語ったエッセイ「失われた短編を求めて -ボルヘス唯一の未訳短編「シェイクスピアの記憶」について」(鯨井久志)。
 おまけとして付けてくれていた頒布ペーパーに、この短編の翻訳が載っており、こちらも読んでみました。
 ある男から「シェイクスピアの記憶」を譲り受けた男の物語で、ボルヘスらしさの横溢する作品でした。記憶に関して、意図的に思い出そうとするのではなく、たまたま見つからなくてはならない…というのもボルヘスらしい発想ですね。

 こちらで購入できます。 
 https://hanfpen.booth.pm/


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10月の気になる新刊と9月の新刊補遺
9月25日刊 ウィリアム・リンゼイ・グレシャム『ナイトメア・アリー 悪夢小路』(矢口誠訳 扶桑社ミステリー 予価1155円)
10月3日刊 朱鷺田祐介『クトゥルフ神話ガイドブック 改訂版』(新紀元社 予価2750円)
10月7日刊 スティーヴン・キング『マイル81 わるい夢たちのバザールⅠ』(文春文庫 予価1078円)
10月7日刊 スティーヴン・キング『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールⅡ』(文春文庫 予価1078円)
10月10日刊 東雅夫編『ゴシック文学神髄』(ちくま文庫 予価1430円)
10月10日刊 ジョン・ディクスン・カー『死者はよみがえる 新訳版』(三角和代訳 創元推理文庫 予価1012円)
10月12日刊 ヤロスラフ・ハシェク『ハシェク短編小説集 不埒な人たち』(飯島周編訳 平凡社ライブラリー 予価1650円)
10月15日刊 柴田元幸編集『MONKEY vol.22 特集「怪談」』(仮)』(スイッチパブリッシング 1320円)
10月15日刊 山内淳監修『西洋文学にみる異類婚姻譚』(小鳥遊書房 予価2860円)
10月16日刊 J・D・バーカー『猿の罰』(富永和子訳 ハーパーBOOKS 予価1310円)
10月22日刊 野呂邦暢『野呂邦暢ミステリ集成』(中公文庫 予価1100円)
10月23日刊 イアン・ワトスン『オルガスマシン』(大島豊訳 竹書房文庫 予価1320円)
10月26日刊 アフマド・サアダーウィー『バグダードのフランケンシュタイン』(柳谷あゆみ訳 集英社 予価2640円)
10月26日刊 未谷おと編『片山廣子幻想翻訳集 ケルティック・ファンタジー』(幻戯書房 予価5280円)
10月29日刊 スティーヴン・キング、オーウェン・キング『眠れる美女たち 上・下』(白石朗訳 文藝春秋 予価各2750円)
10月30日刊 都筑道夫『推理作家の出来るまで 上・下』(フリースタイル 予価2200円、2310円)
10月30日刊 マイケル・ドズワース・クック『図書室の怪 四編の奇怪な物語』(山田順子訳 創元推理文庫 予価1012円)


 東雅夫編『ゴシック文学神髄』は、ゴシック小説の名作を名訳で味わう、というコンセプトのゴシック小説アンソロジー。
 こちらに、レ・ファニュ「死妖姫(カーミラ)」が収録されているのですが、奇しくも同月刊行の雑誌『MONKEY』の怪談特集でも、レ・ファニュ 「カーミラ」(柴田元幸訳)が取り上げられるようです。

 アフマド・サアダーウィー『バグダードのフランケンシュタイン』は、イラクの作家によるディストピアSF作品だそうです。内容紹介を引用しておきますね。
 「連日自爆テロの続く2005年のバグダード。古物商ハーディーは町で拾ってきた遺体のパーツを縫い繋ぎ、一人分の遺体を作り上げた。しかし翌朝遺体は忽然と消え、代わりに奇怪な殺人事件が次々と起こるようになる。そして恐怖に慄くハーディーのもとへ、ある夜「彼」が現れた。自らの創造主を殺しに――
不安と諦念、裏切りと奸計、喜びと哀しみ、すべてが混沌と化した街で、いったい何を正義と呼べるだろう?
国家と社会を痛烈に皮肉る、衝撃のエンタテインメント群像劇。」

 未谷おと編『片山廣子幻想翻訳集 ケルティック・ファンタジー』は、大正期に活躍した翻訳家、片山廣子(松村みね子)の幻想的な翻訳作品を集めた作品集。フィオナ・マクラウドの名作『かなしき女王』が完全収録とのこと。内容は以下の通り。

ケルト綺譚「かなしき女王」 マクラオド作
 海豹
 女王スカーアの笑い
 最後の晩餐
 髪あかきダフウト
 魚と蠅の祝日
 漁師
 精
 約束
 琴
 浅瀬に洗う女
 剣のうた
 かなしき女王
参考資料●初出誌版(かなしき女王/女王スカーアの笑ひ/一年の夢/海豹/琴 
夏目漱石「幻影の盾」 現代語訳
印度風綺譚 ベイン作
 闇の精
 スリヤカンタ王の恋
 青いろの疾風
アイルランド民話
 河童のクウさん
 主人と家来 
 鴉、鷲、鱒とお婆さん
 ジェミイの冒険 
「燈火節」より
 北極星
 大へび小へび
 蝙蝠の歴史
 燈火節
 古い伝説
 四つの市
 ミケル祭の聖者
 イエスとペテロ
 アラン島
 王の玄関
 鷹の井戸
 過去となったアイルランド文学
編者解説

 マイケル・ドズワース・クック『図書室の怪 四編の奇怪な物語』は、英国作家によるクラシックな香り高い怪奇幻想譚ということで、楽しみなタイトルです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

人間の罪と罰  ヒュー・ウォルポール『暗い広場の上で』

暗い広場の上で (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (日本語) 新書 – 2004/8/10


 ヒュー・ウォルポールの長篇『暗い広場の上で』(澄木 柚訳 ハヤカワ・ミステリ)は、悪や良心、罪の意識など、人間の暗い部分をテーマにした、重厚な心理サスペンス作品です。

 第一次大戦後のロンドン、経済的に困窮したディック・ガンは、そのプライドから、少ない所持金を食事ではなく散髪に費やすことにします。床屋で乱闘騒ぎに巻き込まれたディックはその最中、十数年前に友人たちを追い込んだ仇敵ペンジュリーの姿を目撃します。
 ペンジュリーの後を追ったディックは、その先でかっての友人たちと再会します。紳士ながら癇癪もちのジョン・オズマンド、その友人のブラーとヘンチ、そしてかってディックが思いを寄せていたオズマンドの妻ヘレンもそこにはいました。
 オズマンド、ブラー、ヘンチは、かってペンジュリーの密告により服役を余儀なくされたという過去がありました。ヘンチに至っては間接的に妻の死にもつながったというのです。ペンジュリーから会見を申し込まれたと話す彼らに、ディックも同席することになりますが、会見は不穏な雰囲気で始まります…。

 卑劣な脅迫者ペンジュリーに相対した男たちが、その怨恨から彼を殺してしまうことになり、その罪をめぐって苦しむことになる…という心理サスペンス作品です。
 語り手はディックなのですが、作品の実質的な主人公はオズマンドとなっています。
このオズマンド、普段は温厚で、男気のある紳士なのですが、癇癪癖があり、激昂するとその場を台無しにするような言動を自分でも抑えられない、という設定です。正義感も強いだけに、ペンジュリーの不遜な態度を前にして、怒りを抑えられなくなってしまい、彼を殺害してしまうことになります。
 仲間内でも、自首するべきという意見とこのまま闇に葬るべきだという意見が対立し、結局は犯罪の痕跡を隠そうとするのですが、その過程で再び問題が持ち上がってしまいます。また、オズマンドに対して恐れを感じていた妻ヘレンも、夫がついに殺人に手を染めてしまったことで、その夫婦間の亀裂が決定的になってしまいます。そこへ、かって思いを寄せたこともあるディックが現れたことで、犯罪の後始末と同時に、奇妙な三角関係をも生まれてしまうことになります。
 恐れを感じながらも夫を守る義務に駆られるヘレン、ヘレンを愛しながらも、友人であるオズマンドを裏切ることはできないと自制するディック。それぞれの登場人物が心の闇を抱えていくことになるのです。

 そもそもペンジュリーに密告されることになった事件自体も、オズマンドら三人のいたずらじみた動機が元になっており、その意味では彼らにも責任があるのです。彼らもそれは分かっているだけに、卑劣な脅迫者とはいえ、ペンジュリー殺害に対して罪の意識を持つことになってゆく、という流れには非常に説得力がありますね。

 殺人を含め、作中で起こる事件はそれほど派手なものではなく、そのストーリー自体にも特に捻りがあるわけではありません。ただ登場人物たちの心理描写は厚みがあって、その緊迫感は強烈です。特に殺人が起こってからの緊張感は半端ではなく、異様な読み心地のサスペンス作品として一読の価値があるのではないかと思います。
 超自然現象は起こらないのですが、個人的な読後感としては、ほとんど幻想小説に分類してもおかしくない作品だと思います。クライマックスに至っては、ほとんど「幻視」といっていいほどのシーンが描かれています。


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神話と宿命  アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』

ふくろう模様の皿 (児童図書館・文学の部屋) (日本語) 単行本 – 1972/1/20


 アラン・ガーナーの長篇『ふくろう模様の皿』(神宮輝夫訳 評論社)は、夫と妻、その愛人にかけられた呪いの伝説が現代に再現されるという、神話的なファンタジー作品です。

 母親マーガレットが再婚したことから、義理の父親クライブとその息子ロジャと家族になった少女アリスン。家族と共にウェールズの別荘にやってきたアリスンとロジャは、現地の家政婦として雇われたナンシイの息子グウィンと友人になります。
 子どもたちは屋根裏部屋からたくさんの皿を見つけます。皿に描かれた花柄の模様を引き写していたアリスンは、それがの隠し絵になっているのを発見します。フクロウの模様を切り抜いてみるものの、それらはいつの間にか姿を消してしまいます。
 また川辺で遊んでいたロジャは、穴が空いた状態の妙な岩を見つけていました。
 やがてグウィンはアリスンに恋するようになっていきますが、それに嫉妬したロジャは、グウィンを敵視し始めます。
 グウィンの母親ナンシイは、息子がアリスンに関わることを止めようとします。彼女を含め村の人々は何かを知っているようなのですが、グウィンにはそれを話そうとしません。唯一グウィンに話をしてくれるのは、精神をおかしくしながらも村人たちには敬われているらしい老人ヒューでした…。

 アリスンとその義兄ロジャ、アリスンに恋するグウィンの三人が三角関係となる物語なのですが、そこに神話の時代から続く呪いが彼らのもとに降りかかる…というファンタジー作品になっています。

 テーマとなる伝説は『マビノーギオン』から取られたという次のようなもの。
 母親の呪いによって人間の妻を娶ることができなくなった男フリュウが、ギディオンにより花から作られた女プロダイウィズを娶って夫婦となります。しかしプロダイウィズは愛人グロヌーを作り、フリュウを殺そうとします。
 ギディオンの力により一命を取り留めたフリュウはグロヌーを殺し、プロダイウィズは罰としてふくろうに変えられてしまいます…。

 伝説が呪いとなり息づく土地で、現代の少年少女にも同じ運命が降りかかっていくことになります。グウィンはやがてその伝説を知り、自分は別の運命をつかみ取ろうとするのですが、結局は伝説をなぞるようになってしまうことになるのです。
 伝説の呪い以前に、アリスンとグウィンの階級と民族的な違いが二人を引き裂く形になっています。アリスンは資産家の娘でイングランド人、グウィンは下層階級の息子でありウェールズ人。またグウィンがアリスンを思うほどには、アリスンはグウィンのことを思っておらず、その温度差も悲劇を呼び込む原因となってしまいます。

 運命によって悲劇を決定づけられた恋を描く作品ですが、そもそもその恋自体が本当に自分たちの意思で発生したものなのかどうか、というテーマも見え隠れしますね。
 ロジャやその父親クライブのセリフに顕著ですが、イングランド人である彼らの、ウェールズ人に対する軽蔑の念も描かれています。一方、現地のウェールズの人々は伝説を信じ込む迷信深い人々として描かれているのも特徴的ですね。
 今まで何度もそれが繰り返されてきたことから、現代においても伝説が再現されると信じて止まない村人たちの様子が描かれるのですが、彼らはただ傍観するだけ…というあたり、非常に怖いです。
 傍観する周囲の人物たちに比べ、自分の息子がそれに関わらないように厳しい態度を取る母親ナンシイのキャラクターもインパクトがあります。

 最初は仲良くしていた三人が、それぞれの親からの影響もあり、自分たちの立場を認識していくことになります。親と同様、将来の安泰な立場が用意されているアリスンとロジャ。自分の力で将来を切り開いていかなければならないグウィン。
 グウィンのことを思いながらも、自分の立場を捨てることまではしないアリスン。その不和が、自分たちの意思とは必ずしも関係なく、伝説の三人と同じ立場に彼らを追い込んでいくことになります。三人の中で一番独立心を持ち、周りの意見に左右されない人物として描かれるグウィンが、またそれゆえに伝説と同じような立場に自分を追い込んでしまう…という流れは皮肉です。

 描かれた物語の象徴性が高く、いろいろな意味や伏線を織り込んだ作品になっています。その意味で物語を解読するのはかなり難しく、再読、三読したときにいろいろ気づきをもたらす作品ではないでしょうか。
 物語に埋め込まれた花やふくろうのモチーフも美しく、特に結末シーンのイメージはひときわ輝いています。

 ちなみに、本作は『マビーノギオン』のエピソード「マソウヌイのむすこ、マース」を元にしたストーリーではありますが、作中でその伝説の概要が語られるので、原話を知らなくても読むのに支障はありません。


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怪談さまざま  南條竹則『ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚』

ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚 (日本語) 単行本 – 2020/1/7


 南條竹則『ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚』(KADOKAWA)は、英国の怪談や伝承、民話などについて語った随筆集です。

 主に英国の民間伝承的な題材を扱っていますが、関連して、そうした分野について書いた作家やその創作についても触れています。また東西における類似テーマや、著者自身の体験やエピソードなど、話題は幅広く、読んでいて非常に楽しいエッセイ集となっています。
 章によっては、ジェームズ・ブランチ・キャベルやフィオナ・マクラウドの短篇の翻訳がまるまる収録されている部分もあり、読み進めていくうちにそんな短篇に出会うと、ちょっと得した気分になりますね。

 肩の凝らない読み物ではあるのですが、ミルトンやコールリッジなど、英国の大詩人たちの作品について紹介した部分もあり、教養書としても役に立つ本です。詩人が紹介されていることからも分かるように、詩や韻文、古歌謡などが重要なテーマとして扱われています。
 怪談といえば散文という意識が強かったので、これだけ韻文による怪談の伝統がある、というのは目から鱗でした。

 面白く読んだのは、東西の類似テーマについて語った「アイルランドの「杜子春」物語」、バラッドを中心に魔性の恋人テーマを紹介する「魔性の恋人」、バーラム『インゴルズビー伝説』をメインに紹介した「栄光の手」、ファム・ファタルについて語る「おとこごろし」、ジョージ・ボロー『ラヴェングロー』を中心に、木に触るという迷信と強迫観念について語った「木にさわる男」、オーストラリアの有名な幽霊事件について語る「見えない幽霊」などの章でしょうか。

 博覧強記、ユーモアたっぷりの語り口で洒脱な本です。この分野では等閑視されがちな、詩や韻文を大きく取り上げているのもユニークですね。とにかく読んでいて楽しい本になっています。

 特筆したいのは、本の装丁と造本です。金の箔押しがされた表紙も美しいのですが、紫インキによる本文印刷も美しいです。色付きインキは読みにくいのでは?と思いがちですが、可読性は墨のインキとそう変わらないです。
 造本と内容、ともに瀟洒な本といっていいのではないでしょうか。


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小鳥の世界  マルセル・エーメ『他人の首・月の小鳥たち』

他人の首・月の小鳥たち (1958年) - – 古書, 1958/1/1


 マルセル・エーメの『他人の首・月の小鳥たち』(宗左近訳 東京創元社)は、「他人の首」「月の小鳥たち」の二篇を収録した戯曲集です。

「月の小鳥たち」
 大学入学資格試験予備校が舞台、校長のシャベールは、娘のエリザから、彼女の夫であり学校の教師として働くヴァランタンについて相談をしたいと打ち明けられます。
 現れたヴァランタンは、ジュール・ヴェルヌとセギュール伯爵夫人の本を読んだ結果、他人を小鳥に変えてしまう能力を得たというのです。話を信じないシャベールでしたが、直後に彼の妻が小鳥になってしまったことを知り、ヴァランタンの力を信じざるを得なくなります。小鳥になった方が幸せだという持論を持つヴァランタンは、学校の生徒やその親たちを次々と小鳥にしていきますが…。

 唐突に人を小鳥に変えてしまう能力を手に入れた男が巻き起こすトラブルをコミカルに描いた不条理劇です。
 小鳥に変えるはいいものの、元に戻す力はなく、そのために鳥になった直後に猫に襲われて死んでしまう者も現れます。
 行方不明になった人を調べに訪れた警察関係者も、片っ端から小鳥にしてしまうのです。
 序盤で小鳥にされてしまうシャベール夫人が、亡くなった富豪の親戚の遺産相続者になっていたことがわかり、その相続をめぐって娘たちが争ったり、ヴァランタンが学校の秘書シルヴィに恋してしまったりと、様々な要素が絡み合って、非常に複雑なお話になっています。
 脱走した元シャベール夫人の小鳥が、これまた小鳥に変えられた教師と並んでいるところを、片方が猫に食べられてしまい、生き残ったのは一体どちらなのか? という謎も面白いですね。
 奇想天外な設定と展開ながら、登場人物の心理はリアルです。特に事件の張本人ヴァランタンとその妻エリザ、ヴァランタンが恋する少女シルヴィとその恋人マルチノンの関係も複雑で、恋愛物語としても面白く読めます。
 一連の事件の解決方法が突然訪れる、いわゆる「デウス・エクス・マキナ」的な結末なのですが、それもファンタジーに満ちたこの作品には合っているのかもしれません。

「他人の首」
 マイヤール検事は、証拠のあまりない難しい殺人事件の容疑者に死刑に追い込んだことで高揚していました。妻と友人が出かけた直後に、友人のベルトリエ検事の妻で愛人であるロベルトと逢引をしていたマイヤールは、突然闖入者の訪問を受けます。
 それはマイヤールが死刑宣告したばかりの男ヴァロランでした。輸送車が事故に会い運よく逃げ出したというのです。彼は自分が無実だと訴えます。何故なら殺人があった晩にはある女性と一緒であり、その女性とは今この場にいるロベルトだと言うのです。
 ロベルト自身もそれを認めた結果、マイヤールは困った立場に立たされます。無実である以上、ヴァロランの冤罪を証明しなければならないが、それをするためにはマイヤールやベルトリエのスキャンダルにもつながりかねないのです…。

 殺人容疑で死刑囚となった男の冤罪をめぐって展開される、恐ろしく複雑怪奇な心理サスペンス劇です。
 マイヤールは友人ベルトリエの妻ロベルトと浮気をしているのですが、このロベルトが稀代の悪女で、無実なのを知りながら、ヴァロランが死刑宣告されるのを見ていたというとんでもない人物。
 かといってヴァロランが善人なのかといえばそうではなく、こちらはこちらで悪質な女たらしなのです。滞在することになったマイヤール家で、マイヤールの妻ジュリエットを誘惑して愛人にしてしまうという始末。
 ヴァロランに再度興味を持ち出したロベルトとジュリエットが対立し、またジュリエットはマイヤールに対してヴァロランをかばう、その間にもマイヤールとベルトリエは事件をいかに穏当に済ませようかと考えている、という具合。
 登場人物たちの愛憎が次々に入れ替わっては、敵味方もどんどん入れ替わるというサスペンスは強烈です。
 実際の殺人事件の真犯人は誰なのか? という部分も意外にちゃんとしていて、結末までに解決されることになります。
 主要な登場人物たちがそろってモラルのない利己的な人物たちなので、その点あまり愉快な話ではないのですが、お話の面白さは格別で、次にどうなってしまうのか、ハラハラドキドキ感がありますね。
 上質なユーモア・サスペンス劇で、上演当時人気があったというのも頷けます。


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です(クリアファイルは品切れ中)。
10月中に『夢と眠りの物語ブックガイド』を通販予定。11月の文学フリマ東京では『奇妙な味の物語ブックガイド』を出品する予定です。



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