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12月の気になる新刊と11月の新刊補遺 
11月24日刊 『瀬下耽探偵小説選』(論創社 2940円)
11月26日刊 H・P・ラヴクラフト 宮崎陽介画『邪神伝説 クトゥルフの呼び声』(PHP研究所 1050円)
11月26日刊 チャールズ・ディケンズ 坂田靖子画 『クリスマス・キャロル』〈古典新訳コミック〉(光文社 予価1260円)
11月下旬刊 北島明弘『映画・TVで見るエドガー・アラン・ポー』(仮題)(近代映画社 予価945円)
12月10日刊 A・E・コッパード『天来の美酒/消えちゃった』(光文社古典新訳文庫)
12月10日刊 スチュアート・M・カミンスキー編『ポーに捧げる20の物語』(ハヤカワ・ミステリ 予価1680円)
12月11日刊 ギルバート・アデア『閉じた本』(創元推理文庫 予価882円)
12月14日刊 長山靖生『日本SF精神史 幕末・明治から現代まで』(河出ブックス 予価1260円)
12月15日刊 中井英夫『新装版 トランプ譚 幻想博物館』(講談社文庫)
12月16日刊 M・A・アストゥリアス『グアテマラ伝説集』(岩波文庫)
12月19日刊 ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫 予価903円)
12月25日刊 ローレンス・ブロック『やさしい小さな手』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価924円)

 論創社はマイナーな探偵作家の作品集を続々と刊行していますが、今回はなんと瀬下耽の作品集。彼の作品は、怪奇小説の名作『柘榴病』の他、数編がアンソロジーで読める程度でした。作品数も少ない関係で、今回の作品集はほぼ「全集」になるようです。怪奇探偵小説のファンなら買いでしょう。
 対照的なコミカライズが2作出ます。ラヴクラフトの漫画化『邪神伝説 クトゥルフの呼び声』は、タイトルからして、ちょっとB級っぽいですね。坂田靖子の 『クリスマス・キャロル』は、なかなかセンスのいいセレクションかも。この〈古典新訳コミック〉、継続的にシリーズ化するのだとすると、楽しみですね。
 来月のいちばん気になる新刊はこれ。A・E・コッパード『天来の美酒/消えちゃった』。幻想短篇の名手コッパードの短編集が、まさか古典新訳文庫から出るとは。本当に侮れない叢書ですね。
 以前に国書刊行会から出た作品集『郵便局と蛇』では、文学臭の強い作品が多かったのですが、今回は文庫ということもありますし、もう少しとっつきやすい作品が集められているのかもしれません。ちなみに、表題作の『消えちゃった』は、平井呈一の翻訳もある、ユーモアあふれる幻想譚です。お勧め。
 前回の『幽霊の2/3』に続いて、ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』がついに刊行。こちらはサスペンス風味が強そうなので、期待しています。
宇宙をやりなおしてでも  うえお久光『紫色のクオリア』
404867904X紫色のクオリア (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-07-10

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 最近のライトノベルは、一般の小説作品と比べても、遜色のないものが多くなってきている…。そんな気はしていましたが、ここまで来ると、立派なSF作品と呼んでいいのではないでしょうか。
 うえお久光『紫色のクオリア』(電撃文庫)は、一見、何気ない学園ドラマから始まりながら、あれよという間に壮大なスケールへと舞台を広げていきます。そのイメージの飛躍はまさに驚異的。
 語り手の少女、波濤マナブの親友である毬井ゆかりには、ある特殊な能力がありました。彼女の眼には、あらゆる人間がロボットに見えるというのです。ただ、自分の姿を除いて。
 ゆかりは、美しい外見にもかかわらず、周りの人間たちに対してコンプレックスと疎外感を抱いていました。またそれゆえ、人一倍周りの人間たちに対して、愛情を抱いてもいたのです。そんなゆかりに愛しさを感じるマナブでしたが、ある事件をきっかけにして、二人の人生は大きく変化していきます。
 ゆかりには人間が全てロボットに見える。それはまた、その人間の能力や性質が、具体的なイメージとなって、眼に見えるということでもありました。その能力ゆえに、警察からも一目置かれる存在になっていたのです。
 連続殺人の犯人を写真から指摘したゆかりでしたが、それが原因で、マナブは殺人鬼に誘拐されてしまいます…。
 上に紹介したあらすじは、第一章『毬井についてのエトセトラ』についてのもの。ここまででも、それなりに魅力的な物語ではあるのですが、この作品が本当に傑作になるのは、次章の『1/1,000,000,000のキス』からです。
 誘拐事件をきっかけにして、ある特殊な能力を手に入れた波濤マナブは、ゆかりの危機を救うために、能力を駆使していきます。その過程を通じて、マナブは神にも等しい超越的な存在になっていくのです。しかし、その超越的な力をもってしても、ゆかりの運命を救うことはできません…。
 これ以上、具体的な詳細を書くと、未読の方の興味を削いでしまうので書きませんが、パラレルワールドを利用したネタとだけ言っておきましょう。
 神にも等しい能力を手に入れたマナブの唯一の「誤算」とは? 変わり過ぎてしまったマナブに対して、ゆかりが放った言葉とは?
 親友を救うために、世界、そして宇宙、時空までもを犠牲にしてしまうという、壮大なスケールの物語。たった一人の友のために、全てをなげうつ愚かしさと、そして愛しさ。
 ライトノベルの枠を超えた大傑作。近年稀に見る日本SFの収穫といっていいのではないでしょうか。
最近読んだ本など(まとめて)
 最近忙しく、本の感想を書く時間もなかなかありません。そういうわけで、まとめて簡単に。


4042980015地球の静止する日 (角川文庫)
南山 宏
角川グループパブリッシング 2008-11-22

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『地球が静止する日』(角川文庫)
 創元の同名アンソロジーと同じく、映像化された短篇SFを集めたアンソロジーです。表題作の『地球が静止する日』(ハリー・ベイツ)は、展開が地味だというのを除いても、かなり古びてしまってますね。本好きにはたまらない、『ミステリーゾーン』原作の『廃墟』(リン・A・ヴェナブル)、そして『ターミネーター』のネタ元として有名な、『38世紀から来た兵士』(ハーラン・エリスン)が楽しめます。『闘技場』(フレドリック・ブラウン)は何度目かの再読になりますが、やっぱり名作だと思います。



4488715036時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)
中村 融
東京創元社 2009-10-10

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中村融編『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)
 巻頭作の、『チャリティのことづて』(ウィリアム・M・リー)は、かってオムニバスドラマシリーズ『新トワイライト・ゾーン』で映像化されたこともある作品。オーソドックスながら味わいのある佳作です。
 『台詞指導』(ジャック・フィニイ)や『時が新しかったころ』(ロバート・F・ヤング)は、それぞれの持ち味が出た安定した作品。『時の娘』は、ハインラインの『輪廻の蛇』を思わせる、タイム・パラドックスを使った怪作でした。全体に、あまり斬新な作品は見当たらないのですが、ロバート・M・グリーン・ジュニア『インキーに詫びる』は、じつに独創的な時間SFで、驚かされました。
 個人的には満足できたアンソロジーなのですが、人によっては食傷気味になってしまうような気もします。



4152088222ミスフォーチュン
Wesley Stace
早川書房 2007-06

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ウェズリー・ステイス『ミスフォーチュン』(早川書房)
 ひょんなことから、富裕な貴族ラヴホール家の当主に拾われた主人公ローズは、跡取り娘として何不自由ない生活を送ります。しかし、レディとして育てられたローズは、実は「男」だったのです。長じるにしたがって、違和感に苦しむローズ。そして、その秘密を知った親戚たちは、遺産を横取りするために館に乗り込んできます…。
 19世紀初頭、イギリスを舞台にしたディケンズ風大河小説です。とにかく、波瀾万丈で最後まで飽きさせません。主人公が、父親を失ったあと、あれよという間に邸や財産を乗っ取られるなど、展開はオーソドックスで、新味はありませんが、安定した出来で楽しめます。最後の方の展開に、かなりご都合主義的なものが続くのはちょっと気になりますが、それを差し引いても充分良質なエンタテインメントと言えるかと思います。
 作者がミュージシャンだけあって、作中で、歌が重要な役割を果たすのも読みどころ。



4043943180嘘神 (角川ホラー文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-10-24

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三田村志郎『嘘神』(角川ホラー文庫)
 主人公のコーイチは、ある日気づくと、高校の仲間5人とともに、見たことのない部屋に閉じ込められていました。「嘘神」と名乗る存在から、「ゲーム」に勝てば、この部屋から生きて帰れると、いくつかのルールを提示されます。しかし、そのルールの中には、ひとつだけ嘘があるというのです。最初は協力し合っていた仲間たちは、やがて仲間割れを起こして、殺し合いが始まります…。
 極限状況でのサバイバルを描く、いわゆる「デスゲーム」小説です。正直、人物描写が全体に浅いのが気になります。わざとなのかもしれませんが、会話もちょっといただけません。趣向自体は面白いと思いますが、「小説」としてはかなり落ちる作品。



4047260851芋虫 (BEAM COMIX)
エンターブレイン 2009-10-26

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丸尾末広『芋虫』(エンターブレイン)
 江戸川乱歩の『芋虫』を漫画化した作品です。戦傷で両手両足を失った夫を介護する妻という、原作からしてドロドロの情念に満ちた作品なのですが、この漫画化作品では、それがさらに倍加された感じです。独特の文章のトーンにくるんで語られる原作小説に比べ、具体的な映像表現を使わざるを得ない漫画では、あまりに身も蓋もない描写になってしまうので、「幻想」や「ファンタジー」の入る余地がないんですよね。
 これはこれで傑作だと思うのですが、個人的には、前作『パノラマ島綺譚』のような幻想的な味を、もう一度味わいたいと感じてしまいます。

 
4152087110アトモスフィア〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
早川書房 2006-03

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西島大介『アトモスフィア』(ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
 ある時を境に、世界中に人々の「分身」が現れます。自分と入れ替わろうとした「分身」から、すんでのところで「守る会」に助けられたヒロインは、「会」に参加します。しかし分身現象はまったく収まらず、コピーは増え続けていきます…。
 「分身」現象の原因を合理的に解き明かすとか、「分身」たちと本体たちとの壮絶な戦いを描くとか、そういう方面の話ではありません。世界にも自分にもまったく「期待しない」という、空虚なヒロインが、世界や自分に対して折り合いをつけるという、いわゆる「セカイ系」の物語。
奪われた人生  ジョージ・R・R・マーティン『洋梨型の男』
4309622046洋梨形の男 (奇想コレクション)
中村 融
河出書房新社 2009-09-15

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 ジョージ・R・R・マーティンのノンシリーズの短編集としては、『サンドキングス』(ハヤカワ文庫SF)以来となる、『洋梨型の男』(河出書房新社)。今回は、ホラー寄りの作品が集められています。
 ダイエットしようとした男が「猿」にとりつかれる『モンキー療法』や、落ちぶれた友人にまつわるサイコ・スリラー『思い出のメロディー』あたりは、上手いながらもマーティンにしては水準作かな、と思わせます。
 諷刺に満ちたショート・ショート『終業時間』も楽しいのですが、残りの3編、『子供たちの肖像』『洋梨型の男』『成立しないバリエーション』は、どれも傑作といえる出来栄え。生理的な気色悪さを前面に出したシュールな奇譚『洋梨型の男』も捨てがたいのですが、『子供たちの肖像』『成立しないバリエーション』が、群を抜いて素晴らしいです。
 『子供たちの肖像』は、次のような物語。一人で暮らす初老の作家のもとに、ある日一枚の肖像画が送られてきます。それは彼の小説の主人公を描いた画でした。夜になると、その主人公が現実の姿をとって、作家の前に現れて…。
 前例のある「登場人物が現実に現われる」というアイディアを扱っていますが、その扱い方が、尋常ではないほどの上手さ。親子問題、ひいては「作家」という存在の本来的な「罪深さ」までもを描いた力作です。
 『成立しないバリエーション』は打って変わって、タイムトラベルを扱った、わりとSF寄りの作品となっています。かってチェス大会にともに出た仲間たちが、みな零落している中で、ただひとり富を成した男。彼の邸に呼ばれた友人たちは、とんでもない話を聞かされます。みなの人生を狂わせた、過去のチェス勝負に取り憑かれた男。彼の目的とはいったい何なのか…?
 失われた人生を取り戻す方法はあるのだろうか? 運命は変えられるのだろうか? 悔恨と希望、過去と現在が交錯します。そして最後に待ち受けるのは、ほろ苦い真実。SF小説であり、チェス小説であり、青春小説でもあるという逸品。圧倒的な筆力で読ませる傑作小説です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

11月の気になる新刊と10月の新刊補遺
10月26日刊 江戸川乱歩/丸尾末広『芋虫』(エンターブレイン 1260円)
11月10日刊 R・L・スティーヴンスン『ジーキル博士とハイド氏』(光文社古典新訳文庫)
11月11日刊 アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件 新版』(創元推理文庫)
11月20日刊 ガイ・バート『ソフィー』(創元推理文庫)
11月13日刊 ワシントン・アーヴィング『プレイスブリッジ邸』(岩波文庫 945円)
11月25日刊 ローラ・リップマン『心から愛するただひとりの人』〈現代短篇の名手たち6〉(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価945円)
11月25日刊 大森望編『不思議のトビラ 時を超える愛編』(角川文庫 予価540円)

 乱歩の『パノラマ島奇譚』の見事な漫画化を成し遂げた丸尾末広が、今度はなんと『芋虫』を漫画化です。乱歩の作品は、どれも少なからずショッキングな要素がありますが、なかでも『芋虫』は強烈な作品だけに、どんな作品に仕上がっているのか楽しみですね。
 光文社の古典新訳文庫からは、名作『ジーキル博士とハイド氏』が登場。この叢書で、スティーヴンソンはわりと厚遇されている作家ですね。できれば『誘拐されて』とか『虜囚の恋』とか、現在手に入りにくいものを出してほしいところです。
 ガイ・バート『ソフィー』は、サイコ・サスペンスの名作。繊細な心理描写は読みごたえがありますので、ぜひ。
 大森望編『不思議のトビラ 時を超える愛編』は「古今東西、SFテイストをもった作品の中から、本読みのプロがすすめるベスト」だとのことですが、ガイド本なのかアンソロジーなのか、ちょっとはっきりしませんね。アンソロジーだとすると、先日出た、中村融編『時の娘』と内容がかぶってしまうような気が。ただ、シリーズ続刊がありそうなので楽しみです。
ループものライトノベル4題
「時間SF」は、個人的に大好きなジャンルで、この手の作品は極力読むようにしています。なかでも、時間の繰り返しを描く「ループ」ものには、特に目がありません。最近のライトノベルで、この「ループ」ものが多いということを耳にはさんだので、いくつか評判のよいものを読んでみました。
 結果としては、なかなかの収穫だったと言えるかと思います。それでは以下、いくつか紹介していきましょう。

4086302195ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫)
集英社 2004-12

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 桜坂洋『ALL YOU NEED IS KILL』(集英社スーパーダッシュ文庫)
 地球人は、意思の疎通すら困難な異星人「ギタイ」との戦争を続けていました。初年兵キリヤ・ケイジは、初の戦闘で死亡していまいますが、気が付くとなぜか意識を取り戻していました。しかも、何とそこは出撃前の朝。出撃して死亡するたびに、同じ朝に戻ってしまうのです。過去へのループにとらわれたと気づいた彼は、ループを利用して戦闘技術を磨いていきます…。
 同じ時間を繰り返す「ループ」ものでは、泥沼にはまった状態を繰り返してしまう、というのが読みどころの一つになりますが、これはそれを極端することによってサスペンスを高めています。何しろ、気を抜いたらすぐ自分が死んでしまうのですから。
 ストーリー上はわりとシンプルな話なのですが、後半それを乱すような要素が投入され、物語が単調になるのを防いでいます。傑作といっていいかと思います。

 
4048674617空ろの箱と零(ゼロ)のマリア (電撃文庫)
アスキーメディアワークス 2009-01-07

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 御影瑛路『空ろの箱と零のマリア』(電撃文庫)
 平凡な高校生である星野一輝は、ある日転校してきた少女、音無彩矢から、お前を殺す、と宣言されます。世界は同じ一日をすでに何万回と繰り返しており、この繰り返しを起こしている原因は、星野一輝にあるというのです。それを終わらせるために、彼を殺さなければならない…。
 繰り返しに対し、主人公も記憶を失ってしまう、というところがユニークです。最初は主人公が「ループ」を引き起こしていると思われていたのですが、徐々に「真犯人」が別にいるだろうことが仄めかされます。
 犯人探しの面白さも加味したミステリータッチの作品。キャラクターに「厚み」があり、ライトノベルとは思えない重厚な読みごたえがあります。

 
4094511555クイックセーブ&ロード (ガガガ文庫)
染谷
小学館 2009-08-18

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 鮎川歩『クイックセーブ&ロード』(小学館 ガガガ文庫)
 榊潔人は「死ぬ」ことによって、過去に「セーブ」した時間・場所から人生をやり直す能力を持っていました。ただし「セーブ」できるポイントは常にひとつであり、上書きしてしまえば、以前の「セーブ」ポイントは消えてしまうのです。連続殺人に巻き込まれた幼なじみの姉妹を助けるために、潔人は人生を繰り返すのですが…。
 「セーブ」や「ロード」という、完全にゲーム的な設定で描かれた作品です。それはいいのですが、やり直す手段が「死ぬ」ことなので、作品中で何回も主人公が自殺を繰り返すのは、なんとも後味が悪いです。しかも、題材となる事件も陰惨なものなので、なおさらです。
 お話自体は真摯なもので、青春ものとしては悪くないのではないかと思います。ところどころで、ご都合主義的な展開が起こるのと、そもそも物語の前提条件の「セーブ&ロード」能力を受け入れられるかどうかで、この作品を楽しめるかどうかが決まりそうです。クライマックスで示される解決手段は、かなり斬新なアイディアかも。

 
4044743010サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-30

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 河野裕『サクラダリセット』(角川スニーカー文庫)
 なぜか理由はわからないながらも、住民の大半が特殊能力を持っている街、咲良田市。記憶を保持する能力をもつ少年、浅井ケイは、時間を三日分巻き戻すことのできる能力を持つ少女、春埼美空とコンビを組み、能力者たちを管理する「管理局」の仕事をしていました。
 ある日持ち込まれた「死んだ猫を生き返らせてほしい」という依頼から、二人は思いもかけない事件に巻き込まれることになります…。
 「リセット」能力に対して、いろいろ条件をつけているのが特色です。能力者の春埼美空自身も「リセット」に対する記憶をとどめておくことができず、記憶を保てる浅井ケイと組んで初めて、その能力を発揮できる、という設定が秀逸。
 あらすじだけ読むと、超能力者たちのバトルもの、といった印象を受けますが、謎解きの過程や登場人物の描き分けも丁寧で、読後感も悪くない良作です。

 あと、テレビアニメ版で話題になった、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズの短篇『エンドレスエイト』なんてのもありますね。短篇ということもあり「ループ」ものとしては、シンプルな作品でした。
暗黒のロマンス  C・H・シュピース『侏儒ペーター』
侏儒ペーター世界幻想文学大系〈第18巻〉侏儒ペーター (1979年)
国書刊行会 1979-12

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 怪奇小説やホラー小説を読んでいて、気分が憂鬱になることは稀です。題材に超自然的な要素が使われていても、それが表層的なものにとどまる限り「楽しむ」ことができるからです。エンタテインメントとして書かれた作品なら、なおのこと、その傾向は強いでしょう。
 しかし時折、こちらの心をえぐるような作品に出会うことがあります。18世紀ドイツの作家、C・H・シュピースの『侏儒ペーター』(波田節夫訳 国書刊行会)もそんな作品のひとつ。読んでいて息苦しくなるような作品です。
 舞台は13世紀のドイツ。若くして城主となった青年ルードルフは、狩りに明け暮れ、女性とは縁のない生活を送っていました。そんな彼の前に、小人の老人が現れます。先祖代々、一族の前にあらわれるこの老人は「ペーター」と呼ばれ、一族の守護霊とみなされていました。ペーターは、ルードルフに女性への興味をかきたてます。やがてレギーナという令嬢と恋に落ちたルードルフは、彼女との結婚を望みます。
 ペーターの策略により、レギーナの父親との軋轢を引き起こしてしまったルードルフは、レギーナと駆け落ちをしようと考え、実行します。しかし貞操を傷つけられたと考えたレギーナは、自害してしまいます。
 後悔の念にとらわれるルードルフでしたが、その後も、知り合う女性と恋に落ちるたびに相手の女性を不幸にし、死に至らしめてしまうのです。倫理観の麻痺したルードルフは、悪事を働くのに何の呵責も覚えなくなっていきます…。
 18世紀の作品ということで、いわゆる「ゴシック・ロマンス」に分類される作品ですが、読んでいて目を引くのは、その徹底した暗さと救いのなさです。
 悪魔の手先ペーターにそそのかされて、悪事を重ね続けるルードルフ。最初は純粋だったルードルフが悪事を重ねるにつれ、ペーターさえ驚くような犯罪に手を染めていきます。彼の欲望のままに、善人も悪人も次々と死んでいくのです。その徹底ぶりは、現代の犯罪小説そこのけ。
 死んだと思われていた人間が生きていたという「ご都合主義」が何回も現われるのですが、それさえもさらなる殺人・惨事を起こすための題材に過ぎない、という徹底ぶりです。
 悪事の原因は、主人公をそそのかす悪魔にあるとはいえ、悪事を行う決断をするのはあくまで主人公であるルードルフです。そこに人間の欲望やエゴを読み取ることもできるという点で、心理小説としての一面も持っています。
 ただ、陰惨なだけの作品になっていないことも記しておくべきでしょう。ヨーロッパ、アフリカ、中近東と次々に移り変わる舞台、魔女によって塔にとらえられたり、サルタンの囚人になったりと絶え間なく起こる事件。物語はサスペンスたっぷりで、読者を飽きさせません。
 正直、読んでいてその残酷さ、やり切れなさに最後まで読めない人もいるかと思います。まさに「暗黒小説」といっていい作品です。その意味で、現代でも、いまだ強烈なインパクトを持った作品といえるでしょう。覚悟して読むことをお勧めします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

10月の気になる新刊
10月1日刊 バーナード・マラマッド『喋る馬』〈柴田元幸翻訳叢書〉(スイッチ・パブリッシング 予価2205円)
10月10日刊 ブノワ・デュトゥールトゥル『幼女と煙草』(早川書房 予価2100円)
10月10日刊 中村融編『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』(創元SF文庫 予価966円)
10月14日刊 『ジョン・マーティン画集』(河出書房新社 予価3990円)
10月20日刊 平山蘆江『蘆江怪談集』(ウェッジ文庫 予価780円)
10月23日刊 ニール・ゲイマン 『壊れゆくもの』(角川書店 予価1785円)
10月24日刊 柴田元幸編『僕の恋、僕の傘』(角川文庫 予価840円)
10月25日刊 マイクル・Z・リューイン『探偵学入門』〈現代短篇の名手たち5〉(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価882円)
10月29日刊 アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』(創元推理文庫 予価966円)

 〈柴田元幸翻訳叢書〉の新刊は、マラマッドの短編集。いいセレクションですね。マラマッドの短篇は、『ミステリマガジン』に載っていても違和感のないような、フィーリングに訴える作品が多いので、ジャンル小説ファンにも受け入れられるのではないかなと思います。
 中村融編の『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』は、時間SF、しかもロマンス系の作品を集めたアンソロジー。来月の一押しはこれですね。収録作家にフィニィやヤングの名が挙がっていますが、ヤングの名作『たんぽぽ娘』も収録されるのでしょうか。
 『モンス・デジデリオ画集』に引き続いて、『ジョン・マーティン画集』が復刊です。もしかして、かっての《ピナコテーカ・トレヴィル》全10巻を復刊する予定なんでしょうか。ジョン・マーティンは、イギリスの画家ですが、ハリウッドの史劇を先取りしたかのような、雄大なスケールの神話画を描いた画家。劇的な演出が特徴で、見ていて「かっこいい」のです。お勧めの画集ですね。
 こんな渋い本が文庫で出るとは!と驚かされたのが、平山蘆江『蘆江怪談集』。怪談アンソロジーには、いくつか蘆江の短篇が収録されたものがありましたが、まとめて読む機会はなかったので、これは嬉しいです。


プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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