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怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会 参加者募集です
いにしえの魔術 (ナイトランド叢書3-2) イギリス怪談集 (河出文庫)

 2019年6月30日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第22回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2019年6月30日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
ブラックウッドと英国怪談の伝統
課題図書
第一部:アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)
第二部:由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。

 今回は、英国怪奇小説の巨匠の一人アルジャーノン・ブラックウッドの傑作集『いにしえの魔術』を取り上げます。様々なジャンルの怪奇作品を手がけ、近代怪奇小説の型の一つを作り上げたというべきブラックウッドの作品を見ていきたいと思います。

 併せて、ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、レ・ファニュ、E・F・ベンスンなど、イギリスの重要な怪奇作品を集めて、英国怪談のショーケースともいうべきアンソロジー『イギリス怪談集』についても話していきたいと思います。
※テキストの『イギリス怪談集』は旧版、新装復刊版どちらでも構いません。


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6月の気になる新刊
6月5日刊 《ナイトランド・クォータリーvol.17 ケルト幻想~昏い森への誘い~》(アトリエサード 予価1836円)
6月6日刊 ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン〔完全版〕1』(ハヤカワ文庫SF 予価1296円)
6月7日刊 八木ナガハル『惑星の影さすとき』(駒草出版 予価1134円)
6月10日刊 浜田雄介編『渡辺啓助探偵小説選Ⅰ』(論創社 予価4104円)
6月12日刊 オルダス・ハクスレー『モナリザの微笑 ハクスレー傑作選』(講談社文芸文庫 予価1836円)
6月12日刊 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社 予価1836円)6月14日刊
6月14日刊 ニール・ゲイマン『壊れやすいもの』(角川文庫)
6月14日刊 クレア・ノース『ホープ、唐突なる出現』(仮題)(角川文庫)
6月14日刊 『ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ』(フィルムアート社 予価3780円)
6月17日刊 『短編画廊 絵から生まれた17の物語』(ハーパーコリンズジャパン 予価2376円)
6月17日刊 ダリオ・コッレンティ『血の郷愁』(ハーパーBOOKS 予価1290円)
6月20日刊 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』(東京創元社 予価2376円)
6月24日刊 垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』(国書刊行会 予価6264円)
6月24日刊 サキ『ウィリアムが来た時』(国書刊行会 予価2520円)
6月25日刊 スティーヴン・ミルハウザー『私たち異者は』(白水社 予価2808円)
6月27日刊 ジャスパー・フォード『Early Riser 上・下』(仮題)(竹書房文庫 予価各1080円)
6月28日刊 キャサリン・M・ヴァレンテ『パリンプセスト』(東京創元社 予価3240円)
6月28日刊 カーター・ディクスン『白い僧院の殺人 新訳』(創元推理文庫 予価994円)

 5月に引き続き、6月も注目本が目白押しですね。

 ハーラン・エリスン編『危険なヴィジョン〔完全版〕1』は、かって1巻のみの邦訳が出たこともある名SFアンソロジーの完全版。今回は全3巻が刊行されるそうです。

 『モナリザの微笑 ハクスレー傑作選』は、珍しいハクスレーの短篇集。これはちょっと気になります。

 『短編画廊 絵から生まれた17の物語』は、エドワード・ホッパーの絵画からインスピレーションを得た作品を集めたアンソロジーのようです。ジェフリー・ディーヴァー、スティーヴン・キング、マイクル・コナリー、リー・チャイルド、ローレンス・ブロックなどの作品を収録。

 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』は、「ルーマニアのカルヴィーノ」ササルマンによる「36の断章から浮かびあがる架空都市の創造と崩壊」を描いた作品だそうで、これは気になります。

 6月のイチオシはこれでしょうか。ドイツ・オーストリアの怪奇短編を集めたアンソロジー、垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』です。収録内容も既に公開されているので、転載しておきますね。

I 人形
「クワエウィース?」フェルディナンド・ボルデヴェイク
「伯林白昼夢」フリードリヒ・フレクサ
「ホルネクの自動人形」カール・ハンス・シュトローブル

II 分身
「三本羽根」アレクサンダー・レルネット=ホレーニア
「ある肖像画の話」ヘルマン・ヴォルフガング・ツァーン
「コルベールの旅」ヘルマン・ウンガー

III 閉ざされた城にて
「トンブロウスカ城」ヨハネス・リヒャルト・ツアー・メーゲデ
「ある世界の終わり」ヴォルフガング・ヒルデスハイマー
「アハスエルス」ハンス・ヘニー・ヤーン

IV 悪魔の発明
「恋人」カール・フォルメラー
「迷路の庭」ラインハルト・レタウ
「蘇生株式会社」ヴァルター・ラーテナウ
  
V 天国への階段
「死後一時間目」マックス・ブロート
「変貌」アレクサンダー・モーリッツ・フライ
「美神の館・完結編」フランツ・ブライ

VI 妖人奇人館
「さまよえる幽霊船上の夜会(抄)」フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキ=オルランド
「人殺しのいない人殺し」ヘルベルト・ローゼンドルファー
「ドン・ファブリツィオは齢二十四にして」ペーター・マーギンター

 訳者が私家版の<ビブリオテカ・プヒプヒ>で刊行した作品もいくつか入っているようですね。これは怪奇幻想ファンとしてはマストアイテムでしょう。

 サキ『ウィリアムが来た時』は「「短編の名手」サキによる、本邦初訳ディストピア歴史IF群像劇!」とのこと。サキの紹介文にはよく引き合いに出されていた作品ですが、まさか邦訳が出るとは思いませんでした。

 ジャスパー・フォード『Early Riser』は、人間が年に数か月冬眠するようになった世界を舞台にしたSF作品だそうで、なかなか気になる作品です。

 キャサリン・M・ヴァレンテ『パリンプセスト』は「夢のなかで訪れることのできる町パリンプセストに魅せられた四人の男女。何度か夢で訪れるうちに彼らは次第に永住を願うようになる。幻想と夢が交錯する極上のファンタジー。」という作品。これも面白そうです。

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復讐の夢  レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』
どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)
 レオ・ペルッツの長篇『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(垂野創一郎訳 ちくま文庫)は、復讐に燃える元捕虜が革命直後のロシアを駆け巡るという冒険小説です。
 他のペルッツ作品にあるような幻想性はないものの、違った意味で不思議な印象を受ける作品です。

 オーストリア陸軍少尉ゲオルク・ヴィトーリンは、ロシアの捕虜収容所から解放されウィーンに戻ってきます。かって収容所で司令官セリュコフから受けた屈辱を晴らすため、仲間とともにロシアに戻ることを誓ったヴィトーリンでしたが、仲間たちは帰還した途端に、一時の気の迷いとして計画から抜けていってしまいます。恋人や家族、有望な仕事を残してヴィトーリンはひとりロシアに向かいますが…。

 革命直後の内戦状態のロシアを舞台に、信念を持った男の復讐を描いた物語なのですが、主人公ヴィトーリンの執念は尋常ではありません。仇敵の行方がわからなくなっても諦めずにしつこく追っていくのはもちろん、そのために自分の命が危機にさらされようとお構いなしなのです。
 赤軍の兵士となって活動したり、日雇い労働者になったり、はたまたヒモになったり、捕虜にされることも度々。波瀾万丈な冒険が続くのですが、仇敵セリュコフの行方は杳として知れません。

 信念を持つ誇り高い男の物語というと聞こえはいいのですが、ヴィトーリンの行動はむしろ「狂気」に近いほどで、彼の無鉄砲な行動のせいで、周りの人間にもかなりの被害が及びます。捕らえられたり処刑されてしまう人間も出てくるのです。
 後半におけるヴィトーリンの行動は憑かれているといっていいほどで、その意味で非常に迫力に満ちています。彼の復讐は成就するのでしょうか?

 波乱万丈な冒険譚でありながら、実のところあまり爽快感はありません。主人公の行動原理が復讐のみに特化しており、それ以外のものを切り捨ててしまうからです。しかもその復讐がうまく運んでいくのかといえばそういうわけでもありません。
 後半、主人公は自身のそれまでの行動について振り返り自問することを余儀なくされます。そしてその結果は必ずしも良い結果ではないのです。しかしそれを否定せず受け入れる…という展開には、奇妙な明るさがあり余韻があります。

 全く違う内容の作品ではあるのですが、このペルッツ作品を読み終えて想起したのはホーソーンの短篇「デーヴィッド・スワン」でした。「デーヴィッド・スワン」は青年が眠っている間に、人生の幸福や不幸が通り過ぎていく…という物語です。
 ペルッツ作品では自身の通ってきた人生・体験が一時の夢であった…とでもいうような不思議な雰囲気があり、そのあたりがシニカルでありながらも、奇妙な明るさを感じるひとつの要因にもなっているように思います。
引き裂く川  ウイリアム・モリス『サンダリング・フラッド』
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 ウイリアム・モリスの長篇『サンダリング・フラッド』(中桐雅夫訳 月刊ペン社)は、大河の両岸で引き裂かれた少年少女の成長と冒険を描くファンタジー小説です。

 ウエザメルと呼ばれる農場で育った少年オズバーンは、幼少の頃より詩の才能と戦士としての才能を発揮していました。
 サンダリング・フラッド(引き裂く川)を挟んだ向こう岸に住む美しい少女エルフヒルドと出会ったオズバーンは彼女と相思相愛になりますが、川に阻まれ直接触れあうことはできません。
 ウエザメルを訪れた不思議な男スティールヘッドから魔剣ボードクリーヴァーを授かったオズバーンは近隣の戦いに参加し、その勇猛さで名を馳せます。やがてある戦いを経て帰還したオズバーンは、盗賊によって村が襲われエルフヒルドがさらわれたことを知ります。
 エルフヒルドを取り戻すため、オズバーンは名将ゴッドリック卿の配下になります。戦いを続けながら、エルフヒルドの行方を探すオズバーンでしたが、彼女の消息は依然として知れません…。

 1898年刊行のウィリアム・モリスの遺作であり、北欧文学に強い影響を受けた作品だとのことです。全編を通して主人公オズバーンの戦いが何度も描かれており、その戦闘描写も非常にリアル。盗賊による略奪の様子や、悲惨な人間の死も多く描かれます。
 おそらく超自然的な存在であり主人公を導く役をするスティールヘッドや、彼から授かった魔剣は魔法を帯びた存在なのですが、直接的な魔法の描写はほとんどありません。そもそも魔剣には使っていい時とそうでない時があり、無尽蔵に使えるわけではありません。
 最終的に戦いには勝利するものの、オズバーンも度々傷付き退却を余儀なくされます。仲間の兵士たちの戦死も描かれており、ファンタジー作品とはいいつつ、戦闘とその結果に関する部分はリアルに描かれていますね。

 序盤、いろいろなエピソードを絡めながら、オズバーンとエルフヒルドが愛情を育てていくという部分は非常に読み応えがあります。何より大河をはさんで愛情を育んでいく少年少女というのはイメージ的にも美しいです。
 中盤からは、オズバーンの戦いの描写が前面に出てくるのですが、小競り合いを含め戦闘描写がずっと続くので、読んでいてちょっと疲れてしまうこともあります。
 愛する少女を求めて転戦を繰り返すオズバーンの姿を描く後半は、ペシミスティックな空気がありながらも読み応えがあるだけに、さらわれてからのエルフヒルドを描くパートがかなり駆け足で終わってしまうのはちょっと残念です。

 中世風のロマンスだけに、登場人物たちの性格やキャラクターはそれほど深く描かれないのですが、主人公二人以外で強い印象を残すのは、オズバーンの良き腹心ともいうべき「大食漢スティーヴン」です。大食らいながら知恵者、温和で力もあるというキャラクターで物語に彩りを添えてくれます。

 結末部分は口述筆記がなされるなど、充分な推敲がとれていない作品らしく、作品の構成やつじつまが合わないところなども多少あります。特に主人公の協力者スティールヘッドについては、その来歴や正体などについてほとんど語られないため、消化不良の感もありますね。
 ただ、全体に力強い物語で、読んでいる間はささいな部分は気になりません。<ヒロイック・ファンタジー>の原型といえる作品で、今現在でも非常に面白く読める作品です。

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歪んだ家  マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』
紙葉の家
 多重の語り、多彩なタイポグラフィ、混沌に満ちた物語…。マーク・Z・ダニエレブスキーの長篇『紙葉の家』(嶋田洋一訳 ソニーマガジンズ)は、造本を含めて重厚な印象を与える問題作であり、「幽霊屋敷」テーマのメタフィクショナルなホラー小説でもあります。

 ジョニー・トルーアントは、友人のアパートで孤独死した盲目の老人ザンパノの部屋で大量の原稿を発見し持ち帰ります。それは『ネイヴィッドソン記録』と題されたドキュメントでした。
 著名なフォト・ジャーナリストであるウィル・ネイヴィッドソンがある家について残した短編映像作品「ネイヴィッドソン記録」、それについてザンパノが注釈や資料をつけたものが『ネイヴィッドソン記録』なのです。
 メインとなるのは、ネイヴィッドソンが移り住んだ奇怪な家についての物語です。そこは突然それまでなかったドアや部屋が出現するなど、次々と姿かたちを変えゆく家だったのです。ある日出現した廊下はだんだんと長くなり始め、やがては巨大な地下迷宮のようなものまでもが出現します。
 ネイヴィッドソンは弟のトム、友人のレストンとともに廊下の奥を探索しますが、そのあまりの広さに探索を諦め、探検のプロを招聘することになります。招かれた探険家ホロウェイは二人の仲間とともに探索を開始しますが、予定の期日を過ぎても彼らは帰ってきません…。

 だんだんと拡がり姿を変えていく奇怪な家の内部を探索してゆくという魅力的な物語なのですが、素直にその物語は進んでくれません。ザンパノによる一見関係のないような注や説明、さらにそのザンパノの原稿にジョニー・トルーアントが編集を加えているため、物語が何度も中断されるのです。
 ジョニー・トルーアントに至っては、注において自伝的な物語を語り始め、それが数ページにわたって続くなど、非常にユニークな構成になっています。その混沌とした物語に合わせるかのように、本そのもののレイアウトも非常に破天荒。
 小さな注が何ページにもわたってページを覆ってしまったり、一行だけのページになったり、文字がページ内を躍ったり斜めになったりのタイポグラフィも多用されていきます。

 本筋の物語の他に「ネイヴィッドソン記録」に関する世間の反応や評論、ネイヴィッドソン夫婦の過去や生育事情に関する文章、著名人のインタビューなど、様々な文章が入り乱れていきます。
 「著名人」の中にはスティーヴン・キングやアン・ライス、キャサリン・ダンなどといった作家たちも登場するのは著者の遊び心といっていいのでしょうか。
 注を含め全ての文章に目を通すのは難しく、思わず読み飛ばしてしまう部分も多数あるのですが、解説によれば、読み飛ばしも著者の意図するところらしいのです。そもそも全ての文章がちゃんとつながっているわけでもなく、最後まではっきりとした事実はわからないのです。

 そもそもザンパノやジョニー・トルーアントの語りに非常に怪しいものがあり、その意味で彼らは「信頼できない語り手」なのです。「ネイヴィッドソン記録」の映像が本当にあったのかどうか、すべてはザンパノの捏造なのではないかという解釈も可能なようになっています。

 何と言っても、ネイヴィッドソンらによる迷宮探索部分が非常に面白いです。入り乱れた文書にもかかわらず、この中心となる物語の魅力が、分厚い本を読み進む原動力になりますね。
 「迷宮」に関しては、疑似科学的であったりオカルト的であったりと、一応の説明がされますが、結局真実はわかりません。それだけに不気味さと得体の知れない魅力があります。

 この作品、造本・レイアウトを含めた総合的な「本」としての完成度が高いです。ごく一部の文字が色を変えて印刷されているなど、印刷にも凝っています。とにかく、ユニークな読書体験のできる本であるのは間違いのないところでしょう。
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大自然と妖精  ユリヨ・コッコ『羽根をなくした妖精』
羽根をなくした妖精 (必読系!ヤングアダルト)
 フィンランドの作家ユリヨ・コッコ(1903-1977)の長篇小説『羽根をなくした妖精』(渡部翠訳 晶文社)は、戦乱に明け暮れる人間世界と、自然と共に生きる妖精たちの世界が対比的に描かれた幻想的なファンタジー小説です。

 森のトロールであるペシは、虹から降りてきたという美しい妖精イルージアと友人になります。しかしイルージアの父親イルージョンに嫉妬するオニグモによって羽根を切られてしまったイルージアは、家に帰れなくなってしまいます。二人は力を合わせて生き抜こうと考えますが…。

 羽根をなくしてしまった可憐な妖精イルージアと彼女を守ろうとするトロール、ペシの二人を主人公とする物語なのですが、彼ら二人の動向が直接描かれる部分の合間に、動物や植物など自然界を描いた部分、そして戦乱の世の中となっている人間世界の描写がはさまれていきます。

 この作品で一番精彩があるのは、自然の動物や植物たちが描かれる部分です。動物たちは擬人化されており、人間のように行動したり話したりします。しかし彼らが生きる自然界自体は非常にハードに描かれているのが特徴で、生き物たちの死がはっきり描かれるなど、甘さ一辺倒なおとぎ話ではないところが面白いところです。
 特に印象に残るのは、カッコーに託卵されてしまったシロビタイジョウビタキの夫婦を描くエピソードです。何も知らないイルージアに、不幸な結末に終わるのがわかりながらも手をださないようにと話すペシの態度には、自然界の掟を破るべきでないとする作者の思想が現れているようです。

 もちろんペシとイルージアの生活にも困難は訪れます。羽根を切られてしまったことを皮切りに、外敵に襲われたり怪我に倒れたりと、いろいろな困難を二人は切り抜けていきます。しかしそうした中にも、自然の美しさや生きる喜びといったきらめくような瞬間が時折訪れるのが、この作品の良さでしょうか。
 種族を超えた愛の結晶が生まれるというクライマックスのビジョンには、ある種の感動がありますね。

 この作品の初版は1944年ということで、まさにソ連との戦乱のさなかに描かれており、作中には戦争の描写や人の死も描かれています。そんな時代に描かれていてもペシミズムに陥ることなく、自然と共に生きる喜びを描いているのが魅力といえるでしょうか。。

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深夜の祝祭  トンマーゾ・ランドルフィ『月ノ石』
月ノ石 (Modern & Classicシリーズ)
 イタリアの作家トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)の長篇『月ノ石』(中山エツコ訳 河出書房新社)は、怪物や幽霊めいたものたちが跳梁しながらも、どこか愉悦感の感じられる不思議な作品です。

 大学生ジョヴァンカルロは、避暑のため叔父一家が住む村を訪れます。そこで近くに住むという美しい娘グルーと出会いますが、グルーの足が山羊のものになっているのに気づき驚きます。叔父たちに訴えても、彼らにはその足が見えないようなのです。
 ジョヴァンカルロはやがてグルーと恋仲になりますが、かって見た山羊の足はそれから目にすることはできません。ある夜グルーに誘われたジョヴァンカルロは、山の中で不思議な体験をすることになりますが…。

 簡単に言うと、青年のイニシエーションを魔術的・幻想的なタッチで描いた作品、といっていいでしょうか。何やら秘密を持っているらしい美女グルーに誘われて、主人公ジョヴァンカルロは様々な不思議なものを目にすることになるのです。
 「山羊の足」というモチーフからも想像されるように、グルーが案内するのは異教的であり、魔女のサバトのような会合です。亡霊や怪物などが現れ主人公を翻弄するのですが、不思議にそこには恐怖感や罪の意識などは少なく、むしろ恍惚とした悦楽、そして祝祭感さえあるのです。

 その「祝祭」と連動するように大自然の風景が前面に現れてくるのも面白いですね。やがて青年は自然の「象徴」と出会うことにもなります。
 大自然を背景にクライマックスで展開される情景は、オカルティックでありながらも色彩豊か。どこかブラックウッドが描く情景にも似ていますね。

 イタリアの作家ということもあるのでしょうが、例えばイギリスやドイツの作家が描く似たテーマの作品に比べても、かなり異質な印象を受ける作品です。言い方はおかしいかもしれませんが、こうした魔術的・呪術的な題材を描くにあたって「後ろめたさ」みたいなものがほとんど感じられないのですよね。
 その意味ですごく「明るい幻想小説」で、妙な高揚感を与えてくれるという、面白い作品です。

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不可視の山  ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』
ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)
 オーストラリアの作家、ジョーン・リンジー(1896-1984)の幻想的な長編小説『ピクニック・アット・ハンギングロック』(井上里訳 創元推理文庫)は、少女たちの失踪事件を描いた、つかみどころのない不思議な作品です。

 1900年、オーストラリアのバレンタインデー、アップルヤード女学院の女子生徒たちは、ハンギングロックのふもとのピクニック場にピクニックに出かけます。
 生徒たちの中でもひときわ目立つ少女ミランダ、アーマ、マリオン、そしてイーディスの4人は岩山をよく見ようと皆から離れて山を登りますが、イーディス以外の3人は何の形跡も残さずに行方不明になってしまいます。
 時を同じくして、教師のマクロウも失踪していたことがわかり、警察は必死の捜索を行いますが、彼女らの行方はわかりません。
 一方、ピクニックの際に同じ場所に居合わせていた貴族の息子マイケルは、目撃したミランダの美しさが忘れられず、独自に捜索をしようと考えます。友人のアルバートと共にハンギングロックに向かうマイケルでしたが…。

 神秘的な失踪事件がメインテーマになっている作品で、その失踪の謎を追いかけていく物語かと思いきや、失踪事件に関しては作中の登場人物たちが必死で捜索を行うものの、ほとんど何もわかりません。
 むしろその事件によって、学院の教師や生徒たちなど、周囲に及ぼす影響や彼らの行動が描かれていくという意味で「群像劇」といってもいいような作品になっています。事件が超常的・幻想的な色彩を帯びているだけに、周りの人間たちの周囲も不穏な雰囲気につつまれていきます。
 残された生徒たちがヒステリーのような状態になったり、学院の将来を心配する校長の心理が描かれたりと、全体にサスペンスが横溢しており、劇的な展開はあまりないものの飽かせずに読ませます。

 様々な登場人物が描かれますが、特に中心的に描かれるのが、貴族の青年マイケルとその友人アルバート。
 直接的なつながりはないものの、失踪直前にふと見かけたミランダの美しさが忘れられないマイケルは、独断で捜索を開始します。世間知らずの友人を心配したアルバートは彼につきあうことになりますが、マイケルの行動が事件の展開を進ませる要因にもなるのです。

 ジャンル分類不能といっていい独自の作風なのですが、非常にユニークな魅力のある作品です。解説によると、編集者の提案で最終章が削除されて刊行されたとのことです。それによって事件の不可解性が増していて、奥行きのある作品になっていますね。
 作中で起こる様々な事件の原因や関連性が全く説明されないため、非常に不条理な感覚が強くなっています。超常現象を肯定も否定もしないため、厳密には怪奇幻想小説とは言えないのですが、この不穏な読後感からは、この作品を怪奇幻想小説といってもよいのではないでしょうか。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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