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テーマ:その他 - ジャンル:その他

『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』通販のお知らせ
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 文学フリマ東京で販売した同人誌、『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』 を盛林堂書房さんで通信販売いたします。

 文学フリマで販売したものは手製本でしたが、今回新たにオフセット印刷で刷りなおしています。
 『物語をめぐる物語ブックガイド』は、物語や本をテーマにした小説作品のガイド、『迷宮と建築幻想ブックガイド』 は、迷宮や建築をテーマにした小説作品のガイドです。仕様は以下の通りです。

『物語をめぐる物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:36 ページ
本文の印刷方法:モノクロ
用紙:色上質最厚口
表紙用紙の色:レモン
表紙印刷:カラー

『迷宮と建築幻想ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:32 ページ
本文の印刷方法:モノクロ
用紙:色上質最厚口
表紙用紙の色:レモン
表紙印刷:カラー

盛林堂さんの販売ページはこちらです。
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/

2019.12.28追記
二冊とも初回納品分は完売いたしました。再納品をしていますので、年明け2020年1月4日以降、通販再開する予定です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

マニアライクなアンソロジー  矢野浩三郎編『世界怪奇ミステリ傑作選 正・続』
 矢野浩三郎編のアンソロジー『世界怪奇ミステリ傑作選』『続・世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)は、海外の怪奇幻想小説の秀作を集めた良質なアンソロジーです。珍しい作品も多数収録されています。以下、内容を見ていきましょう。


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矢野浩三郎編『世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)
 内容は「吸血鬼たち」「悪と魔法」「錬金術と秘儀」「超神話」「エッセー」のテーマで分けられています。

シャイラー・ミラー「河を渉って」
 森の中で突然目覚めた男には記憶がありませんでした。あるのはただ血を飲みたいという渇望だけ。森の動物で渇きをいやす男でしたが、なぜか川やその水に触ったとたんに体から力が吸い取られてしまいます。男はやがて物陰から現れた女と出会いますが…。
 吸血鬼になった男を本人の視点から描く物語。本人には記憶がないものの、過去に何があったのかが徐々に明かされる展開はミステリアス。迫力のある吸血鬼小説です。

ロバート・ブロック「蝿の悪魔」
 ハワードは蠅に悩まされていました。常時、自分のそばで飛んでいる蠅について医者に相談しますが、それは自分の妄想ではないかというのです。それが原因で妻は出ていってしまいますが…。
 蠅がつきまとうという妄想にとりつかれた男を描くサイコ・スリラー作品です。

ジャック・シャーキー「魔女志願」
 幼い頃から魔女に憧れるケティは、たびたび魔法をかけようと試みますが、全て失敗してしまいます。成長したケティが出会った魔女らしき老婆は、魔女になるには「愛」を捨てなければならないと言いますが…。
 「愛」ゆえに魔女になれない「魔女志願」の少女を描くファンタジー作品。それまでの展開から暖かい結末が待つのかと思いきや、とんでもなくブラックな結末に。これは一読の価値のある作品ですね。

アーサー・ポージス「三番目のシスター」
 美しい女優の母が病で瀕死の状態にあるのを心配した娘は、熱に浮かされた状態で町に飛び出しますが、ふと三人の老婦人が織物の作業をしている家に飛び込みます。娘は、彼女らは母の命を司る作業をしているのではないかと直感しますが…。
 命を司る女神たちの家に飛び込んだ少女を描く、神話的なファンタジー。美しいファンタジーかと思いきや、これまたブラックな結末に。

ピーター・S・ビーグル「死の舞踏」
 ロンドンに住む資産家フローラ・ネヴィル夫人はパーティを催すことのみが楽しみでしたが、年老いた夫人はそれさえもが退屈になってきていました。ある日、戯れに死神にパーティの招待状を出そうと考えた夫人でしたが、やってきたのは若く美しい娘でした…。
 死神は若く美しい娘だった…という幻想小説。死神の娘を怖がった参加者たちが彼女と踊るのを躊躇う、というシーンは印象的。何とも美しい寓話的ファンタジーです。

W・B・イエイツ「錬金術の薔薇」
 カリスマ的な人物マイケル・ロバーツに誘われ秘 儀的な体験をする語り手を描いた幻想小説です。

ダイアン・フォーチュン「秘儀聖典」
 オカルトに通暁するタヴァナー博士を主人公に、秘儀が記された写本をめぐって、ある人間の転生が描かれるという作品です。

アーシュラ・K・ル=グイン「解放の呪文」
 宿敵ヴォールに囚われた魔法使いフェスティン。様々なものに変身して脱出しようとしたフェスティンでしたが、先回りしたヴォールによって全て阻止されてしまいます。フェスティンはとうとう「解放の呪文」を使いますが…。
 囚われた魔法使いの脱出を描くファンタジー作品です。様々な魔法の効果が描かれるシーンは非常に視覚的で見事ですね。最後まで敵であるヴォール自身が姿を現さないのが面白く、そこがまた伏線にもなっています。短めながら印象に残る作品ですね。

H・P・ラヴクラフト「CTHULHU の喚び声」
 大叔父アンゼル教授が遺した奇怪な薄肉浮彫(バレリーフ)や書類に関心を惹かれた「私」が知ったのは、太古から生き続ける謎の存在でした…。
 ラヴクラフトの代表作ともされる作品です。彫刻家や警察官など、複数の視点から間接的に「謎の存在」が仄めかされます。「CTHULHU」を始め、作中で現れる呪文などがアルファベット表記のままに使われているのが、今見ると面白いですね。

 「錬金術と秘儀」コーナーに入っている、W・B・イエイツとダイアン・フォーチュン作品が浮いている感じはするものの、こうしたオカルト的な作品が一緒に入っているのも、1970年代のアンソロジーだなという感じはしますね。
 全体に面白い作品が集められており、大変良い怪奇アンソロジーです。序盤に並んだ「河を渉って」「蝿の悪魔」「魔女志願」「三番目のシスター」「死の舞踏」などが、どれも秀作・傑作で、読めば満足感が味わえると思います。



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矢野浩三郎編『続・世界怪奇ミステリ傑作選』(番町書房イフ・ノベルズ)
 正編に引き続き、海外の怪奇幻想小説の秀作を集めた良質なアンソロジーです。「戦慄」「変身ものがたり」「もう一つの世界から」「幻覚」「エッセー」にテーマ分けがされています。

スティーヴン・バー「目撃」
 新婚の夫婦エリックとカーロッタは山に登りますが、先に山頂を見た夫は顔色を変えます。夫は理由も語らず、直後に失踪してしまいます。数十年後に夫らしき男の情報を聞いた妻は、彼に会いに出かけますが…。
 災難を避けようとした結果、逆にその結果を引き寄せてしまう…というタイプのストーリー。物語の始まりと終わりがループするような、技巧的な作品です

シリア・フレムリン「階上の部屋」
 夫も外出し、誰もいなくなったアパートで深夜子供たちと自分だけになった主婦マーガレットは不安を感じていました。しかもアパート内には誰か人間の気配がするのです。子供たちが連れてきた、様子のおかしい見知らぬ子供のことを思い出すマーガレットでしたが…。
 「生き霊」もしくは「分身」を扱った物語というべきでしょうか。主婦を襲う「怪物」もまた救われるという、ユニークな幻想小説です。

マイケル・ジョセフ「黄色い猫」
 ギャンブルで生計を立てる男グレイは、ある日自分についてきた黄色い猫を飼うようになってからツキが上がってきたことに気がつきます。しかし付き合い始めた女の言うままに、猫を殺してしまいます…。
 不思議な猫は一体何者なのか? 悪夢のような雰囲気で展開する作品です。トーマス・オーウェン「黒い玉」を思わせるというと、雰囲気がわかってもらえるでしょうか。

ジェラルド・カーシュ「たましい交換」
 黒人をひどく憎んでいた老人の少佐は、逃げ込んだ黒人の男を追って森の中へ入っていきますが、そこから出てきた少佐は、まるで人が変わったようになっていました。彼が言うには、黒人と少佐の中身は入れ替わったというのですが…。
 人格交換を扱った作品ですが、人種差別的な要素も扱っており、テーマ性の強い作品になっています。

ジョイス・マーシュ「樹」
 妻のリータは、庭に生えた大木を気味悪く思っていました。その枝からは人間の血液のような樹液がにじみ出しているのです。それと同時に、夫のジョージがだんだんと体調を悪くしていくのを心配する妻でしたが…。
 植物を扱った怪奇小説ですが、登場する木の気色悪さが強烈です。主人公の若妻がインド出身であるというのも、作品の神秘主義的な色彩を濃くするのに貢献していますね。

チェスター・ハイムズ「へび」
 行方知れずになった息子を探しに訪れた義父は、孫娘がヘビに襲われたと聞き、部屋中を探しますが、ヘビの姿はありません。夫に対して不満を持っていたらしい妻は、義父に関係を迫りますが…。
 超自然的な要素は薄いのですが、何やら不気味な雰囲気のする作品です。ヘビは本当に実在するのかという点も含めて象徴的な要素もあったり、妻と義父の関係も怪しかったりと、妙な気味悪さの横溢する作品ですね。

ヘンリー・ハッセ「バイオリンの弦」
 精神科医シェルマン博士を訊ねた「私」は、フィリップ・マクストンの症例について話を聞きます。フィリップは、頻りに耳にするバイオリンの音色は異次元から彼とコンタクトしようとする女性の弾くものだと話していたというのですが…。
 ラヴクラフト「エーリッヒ・ツァンの音楽」を思わせる音楽怪談です。異次元から現れる魔性の女の不気味さも強烈。

エリオット・オドンネル「開かずの間の謎」
 使用人として、資産家らしき未亡人ビショップ夫人の家に雇われた身寄りのない娘アメリア。夫人の留守中、彼女から立ち入りを禁じられている部屋に入ることに成功したアメリアでしたが…。
 主人は人殺しだったという犯罪実話的な要素と、超自然的な現象の起こる怪談実話的な要素の組み合わさった、ユニークな作品です。

フリッツ・ライバー「煙のお化け」
 ラン氏は電車で通勤する途中、決まった場所に現れる煙のような得体の知れないものに不安を感じていました。他の人間にはそれが見えないようなのです。夜、会社に戻ったラン氏は、秘書のミリック嬢の様子がいつもと違うのに気がつきますが…。
恐怖の焦点が捉えにくいという、ユニークな怪奇小説。「都市怪談」とでもいうべきでしょうか。

ゼナ・ヘンダースン「おいでワゴン!」
 幼いころから甥のサディアスには不思議なところがありました。彼には念動力があるらしいのです。しかし成長するにつれその力は発揮されなくなっていきます…。
 不思議な力を持つ少年を描く物語です。子供と大人、常識的な思考でその純粋さが失われてしまう…というテーマが非常に上手く描かれています。

アンナ・カヴァン「頭の中の機械」
 幻想を伴った散文詩的な作品です。

クリストファー・イシャーウッド「待っている」
 成功した弁護士である弟の家に世話になっている初老の兄。彼には突然未来の情景が垣間見れるという能力がありました。未来に転位した彼は、その部屋にあった雑誌から未来の情報を得ようと考えますが…。
 タイムスリップを扱った幻想小説なのですが、語り手が人生下り坂に入った初老の男性であるのと、能力を使って何かをしたいとう強烈な欲望などがあるわけでもないため、淡々と進む物語になっています。なのですが、微妙なユーモアを伴う語り口のせいもあり、面白く読めるのは不思議ですね。

ロバート・エイクマン「強制ゲーム」
 コリンとグレイスの夫妻は、特別な魅力があるわけではないにもかかわらず隣人のアイリーンと付き合うようになります。あるときを境に妻のグレイスはアイリーンとの都合を優先し始め、夫をないがしろにし始めます。
やがて飛行機の免許を取り、飛行機を購入すると宣言したグレイスはアイリーンと一緒に失踪してしまいますが…。
 何が怖いのかわからない…という定評があるエイクマン作品なのですが、この作品では隣人のアイリーンと、それに「洗脳」されて一緒に姿を消してしまう妻グレイスの行動がかなり具体的なレベルで怖いです。
 人間の心理の怖さを扱った作品かと思いきや、超自然現象らしきものも起きたりと、恐怖の焦点は合いにくいながら、全体を通しても非常に怖さを感じさせられる作品です。

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最近観た映画と「怪奇幻想映画ベスト」
 最近観た映画について、感想をまとめておきたいと思います(といってもホラー映画ばかりですが)。


ハッピー・デス・デイ ブルーレイ+DVD [Blu-ray]
クリストファー・B・ランドン監督『ハッピー・デス・デイ』(アメリカ 2017)

 主人公が何度も同じ一日を繰り返すという「ループもの」に、殺人鬼と犯人探しの要素を加えた作品です。
 性悪なヒロインがパーティーの翌日に見知らぬ青年の部屋のベッドで目を覚ましてから、同じ一日がずっと繰り返されるという物語。しかも最後には必ず仮面をかぶった殺人鬼に殺されてしまい、その結果、もとの時間・場所に戻ってしまうのです。
 ヒロインの性格が悪いため、必然的に協力者はおらず、そのため何度も殺人鬼に殺されてしまいます。やがて自らの行動を振り返ったヒロインが改心しつつ、純粋に恋をするようになる…という流れは上手いですね。
 ループとはいいつつ、殺されるたびにヒロインの体にダメージが蓄積されていく…という設定も秀逸。無制限のループというわけではないのです。コメディ的な演出もありながら、ループの性質や殺人鬼の正体を探っていく過程はサスペンスたっぷりで楽しめます。



ハッピー・デス・デイ 2U ブルーレイ+DVD [Blu-ray]
クリストファー・B・ランドン監督『ハッピー・デス・デイ 2U』(アメリカ 2019)

 『ハッピー・デス・デイ』の直接的な続編になっており、ループから逃れたばかりのヒロインが再び同じ一日のループに巻き込まれてしまいます。面白いのは「平行世界」のアイディアを持ち込んでいることで、ヒロインが新たに巻き込まれたループ世界は、元の世界とは違う世界だったという設定。
 登場人物は共通しているものの、性格や行動が異なっていたり、人間関係も少しづつ異なっているのです。こちらの世界では、前作で主人公が殺される原因になった事件が起きておらず、それゆえ、前作と殺人鬼の正体が異なる…というのも面白い仕掛けです。
 結果として、前作を観ていると、先入観によるミスディレクションが発生してしますのです。主人公は元の世界に戻ろうとしますが、そこである葛藤に巻き込まれてしまいます。元の世界に戻るのか、今の世界にとどまるのか…? 主人公の決断がどうなるのかという部分も興味深く観れますね。
 一作目では、ループもの映画の名作『恋はデジャ・ブ』、二作目では、タイムトラベル映画の金字塔『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイトルが作中で言及されるのですが、それらを含め、ところどころに過去のジャンル映画の影響やオマージュ的な表現が見られるところも面白いです。
 殺人鬼がかぶる仮面が、スラッシャー映画『スクリーム』の殺人鬼を思わせるなと思っていたら、デザインしている人は同一らしいです。
 わざとループさせるために主人公が自ら死ぬ…というブラックなシーンもありますが、基本コメディ調に展開される物語で、残酷シーンなども控えめです。ストーリーの面白さで見せる作品で、これはお薦めしたいですね。
 特に二作目は、一作目の内容自体を伏線とした話になっており、ミステリ好きの人にも楽しめる作品だと思います。



霊的ボリシェヴィキ [DVD]
高橋洋監督『霊的ボリシェヴィキ』(日本 2017)

 廃工場に集められた数人の男女、彼らは皆何らかの形で「死」に触れたことのある人間でした。子供の頃に数ヶ月神隠しにあったことのある由紀子は、婚約者に連れられて会合に参加します。彼らの目的はそれぞれの怪異を語ることにより「あの世」を呼び出そうというものでした…。
 基本的には「百物語」といっていいのでしょうか。怪を語ることにより怪を呼び出そうとする…というテーマなのですが、演出が斬新です。それぞれの登場人物の語りが回想シーンにはならず、ほとんど人物が話すだけ、という地味な展開なのですが、音響の上手さもあり、見ていて「怖い」のですよね。
 話と話の合間に、ふとした違和感や怪異現象のかけらのようなものが挟まれていくのが雰囲気を高めています。主人公由紀子の話を含め、正直なところ、物語の真相ははっきりわからないのですが、とにかくすごい作品を観た、という感覚があります。
 ネットの評を見てもあんまり指摘している人がいないようなのですが、これもしかしてアーサー・マッケンの影響があるんじゃないでしょうか。ところどころマッケン的なモチーフが現れるのと、「パンの大神」を思わせる部分もあります。
 幽霊や怪異の描写もあるのですが、基本的には地味な演出なので、明確なホラー映画を求める人には物足りないかもしれません。ただ「行間を読む」と、いろいろ面白い演出や展開にあふれた映画作品です。古典怪奇小説が好きな人にはすごく面白い映画じゃないでしょうか。
 タイトルもそうですが、突然歌を歌いだしたり、怖い話をしている最中に笑い出したりと、妙な「笑い」の要素があるにもかかわらず、全体としては「怖い」という稀有な作品です。
 シュールかつ前衛的なホラー映画で、観る人は選びそうですが、個人的には面白く観れました。



ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談 [DVD]
ジェレミー・ダイソン、アンディ・ナイマン監督『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(イギリス 2017)

 幽霊現象を暴くのが仕事の合理主義者グッドマン教授が、失踪していた高名な同業者のキャメロン博士から連絡をもらいます。キャメロン博士は自分の仕事は間違っていた、心霊現象は全て存在すると主張します。
 懐疑的なグッドマンに対して、キャメロン博士は3つの超常現象の事件の調査を依頼しますが…。
 探偵訳の教授が3つの事件を順番に調査していくという、いわゆる「ゴースト・ハンターもの」風の展開なのですが、その後が斜め上の展開で、説明しにくいのですが、ここら辺の感覚、小説作品で言うとジョナサン・キャロルっぽいのです。
 この映画については賛否両論で、否定派が結構多いようですね。3つの心霊現象事件がありふれていて「陳腐」であるという意見もありました。でもこの映画、事件がありふれているのはわざとであって、それが結末につながっている感覚が強いのですよね。
 観ているときよりも、観終わって反芻すると評価がぐんと上がるタイプの作品です。ジョナサン・キャロル作品が好きな方とか、幻想小説とミステリとのハイブリッド作品なんかが好きな方は、すごく気に入る作品だと思いますのでお薦めしておきます。



人喰いトンネル MANEATER-TUNNEL [DVD]
マイク・フラナガン監督『人喰いトンネル』(アメリカ 2010)

 アメリカの田舎町、隣町に続く小さなトンネルのそばに住む主婦トリシアは、七年前から失踪した夫ダニエルをずっと探し続けていましたが、捜索をあきらめ死亡証明書を出してもらおうとしていました。そんな折、かって麻薬中毒だったトリシアの妹キャリーが数年間の放浪生活から家に帰ってきます。
 キャリーはジョギングの最中、トンネルで浮浪者のような男から助けを求められますが、そのまま走り去ってしまいます。トリシアは失踪事件の担当の刑事マロリーと恋仲になっており、お腹には赤ん坊もいました。
 マロリーとの新生活を始めようとするトリシアでしたが、日常生活のあちこちで、夫ダニエルの幻影が見えるのです…。
 中盤までは、失踪した夫をあきらめ、新しい恋人と生活を始めようとしている姉、麻薬中毒から更生した妹と、どこかシリアスなホームドラマのような雰囲気で話は進みます。その間に、モチーフにもなっているトンネルの不気味な描写がはさまれますが、あまり物語は進展しません。
 主婦トリシアがやたらと夫の幻影を見るシーンが挿入され、おそらく夫は死んでいるのではないかと思わせます。死者の幻影に悩まされる女性の話なのかなあと思っていると、中盤から意想外の展開に。夫の生死が判明するのですが、そこからが奇想SFのような展開になります。
 とはいいつつ、終始、派手なエフェクトもビジュアルもない低予算の作品で、あくまで登場人物たちの心理を地道に描いていくのがメインの作品になっているので、はっきりしたホラー作品を好む人には不評かもしれません。
 たぶんお話のネタとしては、ありふれたB級のそれなのですが、シリアスな演出や語り口で装い直した…というタイプの作品です。こんな語り口もあるんだ、という面白さがありますね。かすかなクトゥルー風味もあったりなど、見所のいろいろある作品だと思います。 地味ではあるのですが、面白い発想・演出の作品でした。



(r)adius/ラディウス [DVD]
キャロライン・ラブレシュ、スティーヴ・レナード監督『(r)adius ラディウス』(カナダ 2017)

 交通事故で記憶を失った男リアムは、近くの町を訪れますが、その町の住民は皆死んでいました。ようやく生存者を発見するも、彼が近づこうとすると、突如として目の前で死んでしまいます。やがて分かったのは、リアムの半径50フィート以内に近寄った人間は死亡してしまうということ。
 人間を避け家に隠れ潜んでいたリアムでしたが、家を訪れた女性が即死しないのを見て驚きます。リアムと同じく記憶喪失だという女性ジェーンがそばにいる限り、リアムの能力は抑えられることがわかります。二人はこの能力の謎について調べようとしますが…。
 なぜか近づくだけで即死してしまうという能力を持った男を描いたSFホラー作品です。記憶喪失の男が、人に助けを求めようとしてもどんどん目の前で死んでしまう…という序盤の情景はインパクト充分です。主人公の能力を抑える女性が登場してからは、いかに引き離されずに行動できるか、というのがポイントになります。
 殺人の容疑者となってしまった二人が警察に追われてしまう…という展開もお約束ながらサスペンスたっぷりです。説明不足なところもあるので好き嫌いは分かれると思いますが、アイディアの優れた面白い作品ですね。


 ついでに、以前に考えてtwitter上に公開した「怪奇幻想映画ベスト」を挙げておきたいと思います。オールタイムベストの他に、ジャンル別にいくつかベストを作ってみました。


顔のない眼 [DVD] サラゴサの写本 [DVD] ザ・チャイルド 30周年特別版 [DVD] ザ・ブルード/怒りのメタファー [DVD] サスペリア 4K レストア版 Ultra HD Blu-ray 通常版 ゾンゲリア [Blu-ray] ペーパーハウス/霊少女 [DVD] デモンズ ’95 -HDリマスター版- [Blu-ray] マウス・オブ・マッドネス [Blu-ray] アザーズ [DVD]
<怪奇幻想映画ベスト>
『顔のない眼』(ジョルジュ・フランジュ監督 1960)
『サラゴサの写本』(ヴォイチェフ・イエジー・ハス監督 1965)
『ザ・チャイルド』(ナルシソ・イバニェス・セラドール監督 1976)
『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(デヴィッド・クローネンバーグ監督 1979)
『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督 1977)
『ゾンゲリア』(ゲイリー・シャーマン監督 1981)
『ペーパーハウス 霊少女』(バーナード・ローズ監督 1988)
『デモンズ'95』(ミケーレ・ソアヴィ監督 1994)
『マウス・オブ・マッドネス』(ジョン・カーペンター監督 1994)
『アザーズ』(アレハンドロ・アメナーバル監督 2001)


恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ Blu-ray イベント・ホライゾン デジタル・リマスター版 [DVD] ファイナル・デスティネーション [Blu-ray] -less[レス] [DVD] キャビン スペシャル・プライス [DVD] 恐怖ノ黒電話 [DVD] 私はゴースト [DVD] オキュラス/怨霊鏡 [DVD] ハウンター [DVD] パラドクス [DVD]
<奇想ホラー映画ベスト>
『恐怖の魔力/メドゥーサ・タッチ』(ジャック・ゴールド監督 1978)
『イベント・ホライゾン』(ポール・W・S・アンダーソン監督 1997)
『ファイナル・デスティネーション』(ジェームズ・ウォン監督 2000)
『-less レス』(ジャン=バティスト・アンドレア&ファブリス・カネパ監督 2003)
『キャビン』(ドリュー・ゴダード監督 2011)
『恐怖ノ黒電話』(マシュー・パークヒル監督 2011)
『私はゴースト』(H・P・メンドーサ監督 2012)
『オキュラス/怨霊鏡』(マイク・フラナガン監督 2013)
『ハウンター』(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督 2013)
『パラドクス』(イサーク・エスバン監督 2014)


たたり [DVD] チェンジリング [Blu-ray] インフェルノ [DVD] エンゼル・ハート [Blu-ray] スリーピー・ホロウ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] 回路 [DVD] 輪廻 プレミアム・エディション [DVD] フッテージ スペシャル・プライス [DVD] ジェーン・ドウの解剖 [Blu-ray]
<心霊・オカルトホラー映画ベスト>
『たたり』(ロバート・ワイズ監督 1963)
『リーインカーネーション』(J・リー・トンプソン監督 1977)
『チェンジリング』(ピーター・メダック監督 1979)
『インフェルノ』(ダリオ・アルジェント監督 1980)
『エンゼル・ハート』(アラン・パーカー監督 1987)
『スリーピー・ホロウ』(ティム・バートン監督 1999)
『回路』(黒沢清監督 2001)
『輪廻』(清水崇監督 2006)
『フッテージ』(スコット・デリクソン監督 2012)
『ジェーン・ドウの解剖』(アンドレ・ウーヴレダル監督 2016)


血みどろの入江 -HDリマスター版- [DVD] 影なき淫獣 完全版 -デジタル・リマスター版- [DVD] 悪魔のいけにえ 公開40周年記念版(価格改定) [Blu-ray] テラー・トレイン [DVD] 誕生日はもう来ない [DVD] シャドー -HDリマスター特別版- [Blu-ray] フェノミナ インテグラルハード完全版 デジタル・ニューマスター [DVD] アクエリアス -HDリマスター特別版- [Blu-ray] スクリーム [Blu-ray] ミッドナイト・ミート・トレイン [DVD]
<スラッシャーホラー映画ベスト>
『血みどろの入江』(マリオ・バーヴァ監督 1970)
『影なき淫獣』(セルジオ・マルチーノ監督 1973)
『悪魔のいけにえ』(トビー・フーパー監督 1974)
『テラー・トレイン』(ロジャー・スポティスウッド監督 1980)
『誕生日はもう来ない』(J・リー・トンプソン監督 1981)
『シャドー』(ダリオ・アルジェント監督 1982)
『フェノミナ』(ダリオ・アルジェント監督 1984)
『アクエリアス』(ミケーレ・ソアヴィ監督 1986)
『スクリーム』(ウェス・クレイヴン 1996)
『ミッドナイト・ミート・トレイン』(北村龍平監督 2008)

テーマ:ホラー映画 - ジャンル:映画

怪奇のリアリズム  平井呈一訳編『屍衣の花嫁』
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 平井呈一訳編『屍衣の花嫁』(東京創元社)は、1959年、<世界恐怖小説全集>の最終巻として刊行されたアンソロジーです。フィクションではなく、英米の海外怪談実話集から選りすぐった作品集になっています。

 序盤は地味な実録風幽霊談が多いのですが、中盤からは、創作と見紛うような破天荒なエピソードが頻出するという面白い本になっています
 全体は三部に分かれており、一部は古典的な実録風幽霊談、二部は創作味の強い奇談集、三部はアメリカでは有名な「ベル・ウィッチ事件」についての講演録、という並びになっています。ハリファックス卿、キャサリン・クロー、エリオット・オドンネルなど、怪奇実話で有名な著者たちの本からのアンソロジーとは書いてあるものの、一部はしがきにあるものを除いて、どのエピソードが誰のものなのかは記されていません。

 第一部は地味なお話が多いのですが、イギリス心霊学協会の会報に掲載されたという「ある幽霊屋敷の記録」はちょっと出色です。
 持ち主の夫婦が亡くなった後に引っ越してきたモートン家の人々が、女の幽霊に出会った顛末を描くレポートなのですが、最初は普通の人間に見紛うような実在感を備えていた幽霊がだんだんとその存在感を失っていったというのです。
 また面白いのが、語り手が幽霊に対して科学的な興味から、物理的に接触可能かどうかなど、いろいろ実験的なアプローチを行い、それを細かく記述しているところ。それゆえ「怖く」はないのですが、妙な面白さがありますね。

 一番面白いのが第二部で、こちらは興味深いエピソードが目白押しです。首のない幽霊をめぐる「首のない女」、過去の殺人を夢の中で追体験するという「死の谷」、ポルターガイストを引き起こすテーブルの由来について語られる「魔のテーブル」、声の出なくなった歌手の代役として突然現れた不思議な男が引き起こす怪現象を扱った「呪われたルドルフ」、二人組の男女の幽霊が現れる「屍衣の花嫁」、予知夢を扱った「舵を北西に」、宿屋の鏡に起こる怪異を描いた「鏡中影」、汽車の中で過去の惨劇の幻覚を見る「夜汽車の女」、二十年前に失踪した兄の人生を追体験するという「浮標」などが面白く読めます。

 実話というより、創作のようにも見える非常にアイディアのひねられたお話も多いです。例えば「死の谷」では過去の殺人を夢の中で体験する男が描かれるのですが、実は被害者は事故死しており、殺人は行われていなかったというのです。実行するつもりだった殺人の思念を追体験するという面白い趣向です。
 「呪われたルドルフ」では、悪魔的な音楽で人を魅了する怪人物が現れますが、非常によくできたお話で、その読後感はまるでホフマンの作品のようです。
 「鏡中影」は鏡に映った人物が魔術にかけられるという怪奇作品ですが、こちらは、江戸川乱歩の分類でいうところの「鏡怪談」でしょうか。

 第三部の「ベル・ウィッチ事件」は、アメリカでは有名だとされる「ベル・ウィッチ事件」について語ったフォーダー博士の講演録とのこと。「魔女」によって起きた怪奇現象のおかげで最終的に一家の父親が殺されてしまったというお話なのですが、精神分析的な解釈により、一家の娘が父親を殺したのではないかという解釈がされているのが特徴です。これはこれでなかなか面白いノンフィクションではありました。

 様々な趣向のお話がバラエティ豊かに配置されたアンソロジーで、今読んでも非常に面白いです。これは何らかの形で復活させてほしい本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2020年度新年のご挨拶
 2020年最初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。
 昨年は同人誌やグッズを作成したり、「文学フリマ東京」に出店したり、商業誌に記事を書いたりと、例年になく活動的な年でした。今年もその勢いでいろいろ新しいことができたらいいなと考えています。
 昨年から引き続き作成中の同人誌『海外怪奇幻想小説叢書ガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』に関しても、実際の刊行に向けて進めていきたいと思います。

 年末から読んでいるのは、フィリパ・ピアスの怪談集とイーディス・ネズビットのファンタジー作品。どちらも面白く、追いかけたい作家となりました。
 もともと子供の頃から児童文学系の作品にはあまり触れずに来た関係で、幻想小説系の作品に限っても年少向けの作品はたくさん読み残しがあります。このあたりの作品に関しても、追々読んでいけたらなと思います。

 毎年恒例ですが、年末の文学イベント「読んでいいとも!ガイブンの輪」で公開された各出版社の「来年の隠し球」リストと新年に公開された東京創元社の近刊ラインナップから、気になった新刊について書いておきます。

 一番気になるのが、A・N・L・マンビー『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』(羽田詩津子訳 国書刊行会)。M・R・ジェイムズの衣鉢を継ぐとも言われた作家ですが、まさか怪談集が一冊の本として出るとは驚きです。

 あと気になるのは、ベルンハルト・ケラーマン『トンネル』(秦豊吉訳 国書刊行会)、E・T・A・ホフマン『ホフマン作品集成』(石川道雄訳 国書刊行会)、R・L・スティーヴンソン『爆弾魔』(南條竹則訳 国書刊行会)など。『爆弾魔』はおそらく『新アラビア夜話』の続編ですね。訳者も古典新訳文庫で正編を訳した南條竹則さんということで楽しみです。

 <ベル・エポック怪人小説叢書>全3巻(国書刊行会)というのも面白そうです。こちらは、レオン・サジ『ジゴマ』(安川孝訳)、R・スヴェストン&M・アラン『ファントマと囚われの女』(赤塚敬子訳)、ガストン・ルルー『シェリ=ビビとセシリー』(宮川朗子訳)の三巻構成とのこと。

 あとは昨年初頭から予告は出ていた、浅倉久志訳『ユーモア・スケッチ大全』(全五巻)とか、ウッドハウスの新シリーズなども気になります。

 以上は、全部国書刊行会の本です。以下は東京創元社から。

ケイト・マスカレナス『時間旅行者の心理学』(茂木健訳 創元SF文庫)
 1967年のイギリスで、4人の女性科学者がタイムマシンの開発に成功。時間移動を厳格に管理すべく、国家からも独立した〈コンクレーヴ〉と呼ばれる巨大なタイムトラベル運用組織が誕生した。そして2018年、ロンドン郊外において身元不明の射殺体が密室状態で発見される。タイムトラベル絡みの殺人だと判明した事件の真相を突きとめるべく、遺体の第一発見者オデットはタイムトラベラーとしてコンクレーヴに潜入を図る。時間線のもつれを解いた先に現れる真実とは?

ジョーン・エイキン『月のケーキ』(三辺律子訳 四六判上製)
 幼い娘が想像した「バームキン」を宣伝に使ったスーパーマーケットの社長、だが実体のない「バームキン」がひとり歩きしてしまい、世間を大騒ぎさせることに……『バームキンがいちばん』。ヴァイキングの侵略者が攻めてきた。これまでは魔女である祖母が城を守っていたが、祖母亡き今、城の守りは孫のコラムに託された。果たしてコラムはどんな手段を使って城を守るのか?『にぐるま城』など、奇妙な味わいの14編を収めた短編集。

フランシス・ハーディング『幽霊熊憑きの少女』(児玉敦子訳 四六判上製)
 英国、17世紀半ば。幽霊が憑依する体質の少女メイクピースは、暴動で命を落とした母の霊を取り込もうとして、旅の一座に虐待されて死んだクマの霊を取り込んでしまう。クマをもてあましていたメイクピースのもとへ、会ったこともない亡き父親の一族から迎えが来る。父は死者の霊を取り込む能力をもつ旧家の長男だったのだ。屋敷の人々の不気味な雰囲気に嫌気が差したメイクピースは逃げだそうとするが……。ハーディングの最新作。

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2019年を振り返って
 2019年ももうすぐ終わります。毎年恒例ではありますが、今年読んで面白かった作品と個人的なイベントについてまとめておきたいなと思います。

 今年、個人的に最も大きなイベントだったのが、同人誌・グッズを初めて作成したことです。海外の怪奇幻想アンソロジーについてのガイド本『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』、海外怪奇幻想作家のマトリクスをクリアファイルにした『海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル』、物語やメタフィクションを題材にした作品のガイド『物語をめぐる物語ブックガイド』、迷宮や建築テーマ作品のガイド『迷宮と建築幻想ブックガイド』の4点を作成しました。
 特に『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』は非常に好評で、印刷したものがほぼ完売という嬉しい結果になりました。

 同人誌作成に伴い、11月に同人誌即売会「文学フリマ東京」に初出店したのも、自分の中ではかなり大きな出来事でした。本を買ってくれた方はもちろん、ネットでは知っているものの初めて会う人に挨拶できたりなど、コミュニケーション面でも収穫のあるイベントでした。

 次に主宰を務めている読書会「怪奇幻想読書倶楽部」について。今年は8回ほど開催しました。内容は以下の通りです。

1月
第一部:課題図書 ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(草鹿外吉訳 白水Uブックス)
第二部:課題図書 レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)

3月
ダンセイニの幻想と奇想
課題図書
ロード・ダンセイニ『ペガーナの神々』(荒俣宏訳 ハヤカワ文庫FT)
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』(小林晋訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

4月
第一部:課題図書 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美訳 東京創元社)
第二部:私の積読リスト

6月
ブラックウッドと英国怪談の伝統
課題図書
第一部:アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)
第二部:由良君美編『イギリス怪談集』(河出文庫)

8月
ホフマンとデュマのコント・ファンタスティック
課題図書
第一部:E・T・A・ホフマン『ホフマン短篇集』(池内紀訳 岩波文庫)
第二部:アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』
 (前山悠訳 光文社古典新訳文庫)

9月
異色短篇の愉しみ
課題図書
スタンリイ・エリン『特別料理』(田中融二訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
フレドリック・ブラウン『さあ、気ちがいになりなさい』(星新一訳 ハヤカワ文庫SF)

10月
課題図書 『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫)

12月
第一部:課題図書 荒俣宏編『アメリカ怪談集』(河出文庫)
第二部:本の交換会

 レ・ファニュ、ブラックウッド、ホフマンといった怪奇幻想分野の巨匠の作品、エリンやブラウンといった異色作家、イギリスやアメリカのアンソロジーなど、多様な作品を取り上げられたのではないかなと思います。
 印象に残っているのはは、ダンセイニとジェフリー・フォードを取り上げた回でしょうか。ダンセイニ回では、『ペガーナの神々』『二壜の調味料』という、両極端ともいうべき作品を課題書にした関係もあり、非常に多様な話題の出た回でした。
 フォードは、この読書会としては珍しく健在する現代作家ということで、いつもの「古典」とは違った味わいの回になりました。

 前年10月に始めたtwitter上のファンクラブ「#日本怪奇幻想読者クラブ」に関しては、結成一年を迎えましたが、日常的にタグを使っていただいている方のおかげもあり、このジャンルの認知に少しづつ貢献できているのではないかな、という気もしています。

 さて、ここからは、今年印象に残った本について紹介していきたいと思います。まず、2019年度出版の本を先に取り上げています。

 海外作品では、下記の作品が印象に残っています。

メドゥーサ (ナイトランド叢書3-5) フラックスマン・ロウの心霊探究 (ナイトランド叢書3-6) 死者の饗宴 (ドーキー・アーカイヴ) 千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫) 小鬼の市とその他の詩 クリスティナ・ロセッティ詩集 十二の奇妙な物語 (論創海外ミステリ)
 幻の名作と言われ続けていた、E・H・ヴィシャック『メドゥーサ』(安原和見訳 アトリエサード)の邦訳はある種の事件でした。作品バランスはいびつながら、異様な印象を与える幻想小説です。
 E&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探究』(三浦玲子訳 アトリエサード)は、シャーロック・ホームズと同時期に発表されたオカルト探偵ものの先駆的作品。怪奇現象に対するアプローチが風変わりで面白く読める作品でした。
 ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』(横山茂雄、北川依子訳 国書刊行会)は、ジョン・メトカーフ(1891-1965)の怪奇幻想小説を集めた短篇集です。解釈が難しい作品が多いのですが、そのユニークなアイディアと、どこかが狂ったような異様な空気感はこの作家ならではですね。
 アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』(前山悠訳 光文社古典新訳文庫)は、作者のデュマ自身を語り手に、集まった人々が不思議な話や怪奇譚を語ってゆくという、枠物語形式の怪奇幻想小説です。エピソード間のつなぎが非常に上手く、今読んでも十分に面白い物語集でした。
 クリスティナ・ロセッティ『小鬼の市とその他の詩 クリスティナ・ロセッティ詩集』(滝口智子訳 鳥影社)は、イギリス・ヴィクトリア朝期の詩人クリスティナ・ロセッティ(1830-1894)の第一詩集の全訳。表題作はじめ幻想的で物語性の強い詩作品が多く読める本です。
 イギリスの作家サッパーの短篇集『十二の奇妙な物語』(金井美子訳 論創海外ミステリ)は、恋愛もの、ミステリ、サスペンス、恐怖小説と、様々なジャンルの物語が楽しめる作品集。オーソドックスな話が多く、先が読めてしまうものも多いのですが、面白く読めてしまうのは不思議です。


怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集 幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) (創元推理文庫)
 アンソロジーでは、垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』(国書刊行会)と『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫)のインパクトが強烈でした。
 垂野創一郎編訳『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』(国書刊行会)は、ドイツ・オーストリアの未訳の怪奇・幻想短篇を集めた重量級のアンソロジーです。 「人形」や「分身」など、テーマ別にいくつかの作品がまとめられています。未訳かつ珍しい作品が集められており、ドイツ方面の作品紹介が少なくなっている昨今、貴重な作品集でした。
 『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫)は、入手難になっている平井呈一の怪奇小説翻訳とエッセイを集めた本です。どれも滋味のある翻訳文で、怪奇小説ファンにとっては素晴らしい贈り物になりました。


図書館司書と不死の猫 虚ろなる十月の夜に (竹書房文庫) 偶然仕掛け人 方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション) ボーダー 二つの世界 (ハヤカワ文庫NV) イヴリン嬢は七回殺される ブラック・トムのバラード (はじめて出逢う世界のおはなし―アメリカ編)
 現代作家では、以下の作品が印象に残ります。
 イギリスの作家、リン・トラスの長篇小説『図書館司書と不死の猫』(玉木亨訳 東京創元社)は、ブラック・ユーモアにあふれたミステリアスな怪奇幻想小説です。メタな仕掛けも楽しいです。
 ロジャー・ゼラズニイの長篇小説『虚ろなる十月の夜に』(森瀬繚訳 竹書房文庫)は、クトゥルー神話的な世界観の中で、切り裂きジャック、吸血鬼、人狼などが跳梁するという、楽しいホラー作品です。ゲーム的な世界観も面白いですね。
 イスラエルの作家、ヨアブ・ブルームの長篇小説『偶然仕掛け人』(高里ひろ訳 集英社)は、世の中の出来事を偶然によって動かしているという「偶然仕掛け人」をテーマにした、ファンタスティックな作品。
 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』(住谷春也訳 東京創元社)は、ルーマニアの作家による、36の空想都市をテーマにした幻想小説集です。空想・幻想都市小説(というジャンルがあるかわかりませんが)の決定版ともいうべき作品でした。
 スウェーデンの作家、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短篇集『ボーダー 二つの世界』(山田文ほか訳 ハヤカワ文庫NV)は、映画化された表題作ほか11篇を収録した作品集です。恐ろしくハイレベルなホラー短篇集になっています。特に表題作は名作だと思います。
 スチュアート・タートンの長篇小説『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代訳 文藝春秋)は、館ミステリ+タイムループ+人格転移という、複雑怪奇なSFミステリ作品。多少に読みにくさはあるものの、意欲的なエンタメ作品でした。
 ヴィクター・ラヴァル『ブラック・トムのバラード』(藤井光訳 東宣出版)は、H・P・ラヴクラフトの作品「レッド・フックの恐怖」を黒人青年の視点から語りなおしたというホラー作品。極めて現代的なラヴクラフト解釈ともいうべき作品でした。


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 同人出版ですが、モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見傑作集 遺恨』(中川潤訳 エニグマティカ叢書)は、残酷譚で知られるルヴェルの短篇を11篇収録した作品集。質の高い短篇が揃っており、安心して楽しめる作品集になっています。


祭火小夜の後悔 ひとんち 澤村伊智短編集 そのナイフでは殺せない 白昼夢の森の少女 ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊 (講談社タイガ)
 国内作品では、「ゴーストハンター」的な題材を扱った『祭火小夜の後悔』(秋竹サラダ KADOKAWA)、工夫が凝らされた短篇集『ひとんち 澤村伊智短編集』(澤村伊智 光文社)、そのナイフで殺されると特定の時間に完全な状態で生き返ってしまうナイフをテーマにした突拍子もない設定のホラーサスペンス作品『そのナイフでは殺せない』(森川智喜 光文社)、バラエティに富んだ幻想小説集『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎 KADOKAWA)、老舗のホテルを舞台に、霊と話す能力を持つコンシェルジュが様々なトラブルに対応するというホラー・ミステリ作品『ホテル・ウィンチェスターと444人の亡霊』(木犀あこ 講談社タイガ)などを面白く読みました。


有害無罪玩具 (ビームコミックス) ブラック・テラー (バンブーコミックス タタン) マリアの棲む家 (ビームコミックス) おなかがすいたらおともだち (ビッグコミックススペシャル) シャドーハウス 1 (ヤングジャンプコミックス)
 コミック作品では、哲学的でテーマ性の強い短篇マンガ集『有害無罪玩具』(詩野うら ビームコミックス)、かわいらしい絵柄で描かれるブラックな物語集『ブラック・テラー』(三堂マツリ バンブーコミックス タタン)、怪異描写の邪悪さ・異様さが強烈なホラー作品『マリアの棲む家』(ハセガワM ビームコミックス)、虫のような知性体に寄生されたいじめられっ子と優等生の友情を描く奇妙なホラーサスペンス『おなかがすいたらおともだち』(おぐりイコ ビッグコミックススペシャル)、不思議な洋館に住む顔のないシャドー一族と世話係の“生き人形”たちを描くファンタジー作品『シャドーハウス』(ソウマトウ)などが印象に残ります。

 ここからは、旧刊ですが今年読んで印象に残った作品です。

 読書会テーマに取り上げた関係で、邦訳の大部分を読み直した、ロード・ダンセイニとアルジャーノン・ブラックウッドの印象は強いですね。作品の幅広さと闊達さを実感したダンセイニ、その技巧・エンタメ性だけでなく思想的なテーマ性も強いブラックウッド、どちらも魅力的な作家であることを再認識しました。
 ブラックウッドでは、同人誌として翻訳された『万象綺譚集』『深山霊異記』(渦巻栗訳)で、未訳の作品をまとめて読むことができたのも収穫でした。


心地よく秘密めいたところ (創元推理文庫) 完全版 最後のユニコーン ユニコーン・ソナタ
 邦訳をまとめて読んで感銘を受けたのは、アメリカのファンタジー作家、ピーター・S・ビーグルの作品。優しさと癒しに満ちたモダン・ファンタジー『心地よく秘密めいたところ』(山崎淳訳 創元推理文庫)、象徴性の強いモダン・ファンタジー『完全版 最後のユニコーン』(金原瑞人訳 学研)、現代に生きる神々をモチーフにしたファンタジー『風のガリアード』(山田順子訳 ハヤカワ文庫FT)、異世界<シェイラ>と現実世界を往復する少女ジョーイを描いたモダン・ファンタジー作品『ユニコーン・ソナタ』(井辻朱美訳 早川書房)、どれも絶品のファンタジーでした。


恐怖の心理サスペンス―ゾクッ!とする楽しみをあなたに (ワニ文庫)
 アンソロジーでは、無理矢理怪奇実話テイストに改変されてしまったモダン・ホラー・アンソロジー『恐怖の心理サスペンス』(カービー・マッコーリー編 矢野浩三郎訳 ワニ文庫)、B級怪奇小説を集めたアンソロジー『慄然の書 ウィアードテールズ傑作集』(渡部桜訳 荒俣宏解説 継書房)、マニアライクな掘り出し物の多い怪奇アンソロジー『世界怪奇ミステリ傑作選 正・続』(矢野浩三郎編 番町書房イフ・ノベルズ)が、それぞれ楽しい本でした。


世界のかなたの森 (ウィリアム・モリス・コレクション) 死者の誘い (創元推理文庫) 月ノ石 (Modern & Classicシリーズ) 令嬢クリスティナ
 古典では、ゴシック・ロマンスの代名詞ともいうべきアン・ラドクリフの作品『イタリアの惨劇』(アン・ラドクリフ 野畑多恵子訳 国書刊行会)、純度の高いファンタジー小説の元祖『世界のかなたの森』(ウィリアム・モリス 小野二郎訳 晶文社)、シニカルでメタなメルヒェン作品『青い彼方への旅』(ルートヴィヒ・ティーク 垂野創一郎訳 エディション・プヒプヒ)、残酷趣味の強いなフランスの世紀末小説『責苦の庭』(オクターヴ・ミルボー 篠田知和基訳 国書刊行会)、自分の顔が突然知らない男の顔になっていた…という幻想小説『死者の誘い』(ウォルター・デ・ラ・メア 田中西二郎訳 創元推理文庫)、魔女裁判にかけられた少女を描いた救いのない『魔女グレートリ アルプスの悲しい少女』(マリアンヌ・マイドルフ 種村季弘・田部淑子訳 牧神社)、どこか愉悦感の感じられる幻想作品『月ノ石』(トンマーゾ・ランドルフィ 中山エツコ訳 河出書房新社)、先史時代を舞台にした冒険小説『人類創世』(J・H・ロニー兄 長島良三訳 カドカワ・ノベルズ)、怪奇味の濃厚な吸血鬼テーマ作品『令嬢クリスティナ』(ミルチャ・エリアーデ 住谷春也訳 作品社)などの印象が強いです。


紙葉の家 虚ろな穴 (ハヤカワ文庫NV) スカウト52 (ハヤカワ文庫NV) 妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1) ミステリー・ウォーク〈上〉 (創元推理文庫) エヴァが目ざめるとき 冷たい肌 ぼくのゾンビ・ライフ ストレンジ・トイズ (ストレンジ・フィクション) ドグラ・マグラ(上) (角川文庫) 砂の女 (新潮文庫) 人魚呪
 現代作品では、次のような作品を面白く読みました。
 ロマンチックなゴシック・サスペンス『砂の館』(シェリィ・ウォルターズ 小泉喜美子訳 角川文庫)、「幽霊屋敷」テーマのメタフィクショナル小説『紙葉の家』(マーク・Z・ダニエレブスキー 嶋田洋一訳 ソニーマガジンズ)、何でも飲み込んでしまう謎の黒い穴をめぐって異様な人間関係が描かれてゆくというホラー小説『虚ろな穴』(キャシー・コージャ 黒田よし江訳 ハヤカワ文庫NV)、少年たちのサバイバルと感染パニックを組み合わせたモダンホラー『スカウト52』(ニック・カッター 澁谷正子訳 ハヤカワ文庫NV)、氷のような心を持った魔女が愛と憎しみを知るようになるという流麗なファンタジー作品『妖女サイベルの呼び声』(パトリシア・A・マキリップ 佐藤高子訳 ハヤカワ文庫FT)、死者の魂を鎮める能力を受け継いだ少年の成長を描くロバート・R・マキャモン『ミステリー・ウォーク』(山田和子訳 創元推理文庫)、チンパンジーの脳に記憶を移植された少女を描く『エヴァが目ざめるとき』(ピーター・ディッキンソン 唐沢則幸訳 徳間書店)肩書きは「文学」ながらその実怪物との死闘を描くホラー作品『冷たい肌』(アルベール・サンチェス・ピニョル 田澤耕訳 中央公論社)、ゾンビになってしまった人々が生きる権利を求めて戦うという異色の社会派ゾンビ小説『ぼくのゾンビ・ライフ』(S・G・ブラウン 小林真里訳 太田出版)、魔術的な雰囲気に満ちた幻想小説『ストレンジ・トイズ』(パトリシア・ギアリー 谷垣暁美役 河出書房新社)など。
 日本作品では、長年の懸案でしたがようやく読破できた夢野久作の長篇『ドグラ・マグラ』(角川文庫)、不条理小説の名作として名高い『砂の女』(安部公房 新潮文庫)、人魚の肉を食い不老不死になった男を描く伝奇小説『人魚呪』(神護かずみ 角川書店)などが印象に残ります。

 2019年度は読書・関連活動ともに、個人的にはなかなか充実した年になったのではないかと思っています。来年も変わらず活動していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
 また、新年度には挨拶をかねて、記事を更新したいと思っています。

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怪奇幻想読書倶楽部 第26回読書会 開催しました
アメリカ怪談集 (河出文庫)
 2019年12月22日(日曜日)、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第26回読書会」を開催しました。
 第一部は課題図書として、荒俣宏編『アメリカ怪談集』(河出文庫)を取り上げました。
 ポオ、ホーソーン、ヘンリー・ジェイムズから「ウィアード・テイルズ」で活躍したジャンル作家まで、バランス良く編まれた怪奇アンソロジーです。
 第二部では、毎年恒例の本の交換会を行いました。例年になく、持ち寄った本が量・質ともに充実しており、皆さん良い収穫を得られたのではないかと思います。

 今回は、この読書会が結成されてから三周年ということで、手製本として『怪奇幻想読書倶楽部 三周年記念小冊子』を作成し、参加者の方に配らせてもらいました。
 過去に参加してくださった方、常連として参加し続けてくれている方に感謝したいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


■第一部 課題図書 荒俣宏編『アメリカ怪談集』(河出文庫)


●ナサニエル・ホーソーン「牧師の黒いヴェール」

・解釈が分かれる作品だと思うが、宗教的な背景があるのは間違いない。

・黒いヴェールは傲慢の罪の象徴? キリスト教、キングの『スタンド』でも似たようなモチーフがあった。

・周りの人間に罪を自覚させるために、牧師はヴェールをかぶった?

・不気味ではあるけれども、周りの人間がヴェールをかぶった牧師をそんなに怖がる理由がよくわからない。

・色が「黒」であることには意味がある? もし白だったり、他の色であれば意味合いが違ってくるのだろうか。

・ホーソーン『緋文字』の逆バージョンとも取れるのではないか。主人公の不倫相手が牧師なのだが、その罪がもしばれていなかったら、この「牧師の黒いヴェール」のような話になるのでは?

・牧師が過去に何か罪を犯したという具体的な描写でもあれば、分かりやすいのだが、そういう描写もないために、解釈に迷う作品となっている。

・ヴェールをかぶるに至る理由やきっかけも示されないのが不気味。

・ホーソーンの作品では「きず」がどこか似た印象を受ける作品。

・ヴェールによって「顔」を隠すというのが重要? 初めて読んだとき、梅毒にでもかかっているのかとも思った。

・牧師が死ぬ直前に捨て台詞のようなセリフを吐くのもどうかと思う。

・牧師は「言葉」によって神の言葉を伝える人のはずなのに、言葉以外のもの(ヴェール)によって語りはじめてしまった…という風にも見える。そういう意味では切ない話でもあるのでは。

・言葉では伝わらないものに気づいてしまった男の物語? この牧師のみが断絶を感じているのかもしれない。

・この世では顔を隠しているが、あの世の神の前では顔をさらす…という解釈もある?

・カトリックでは告解があるが、プロテスタントにはそれがない。牧師にも聞いてもらいたいという欲求があったのかもしれない。

・聞いてもらいたいけれども、話すこともできないという牧師の絶望が描かれている?

・ヴェールの下に真実の姿がわるわけではなく、人間は全てヴェールをかけており、またそれが本質?

・コッパードの短篇「おーい、若ぇ船乗り!」に服を脱いでいくと消滅してしまう幽霊が出てくるが、あれと似たものを感じる。


●ヘンリー・ジェームズ「古衣裳のロマンス」

・ジェームズとしてはわかりやすいゴースト・ストーリー。

・超自然現象よりも姉妹の確執の方がメイン?

・途中から財産目当てみたいな話になってしまうのがよくわからない。この時代としては衣装は財産と同等の価値のあるものという認識?

・結婚相手の男性としては、特に妹に執着していたわけではない? 姉と妹どちらでも良かったような印象を受ける。

・ジェームズの長篇『ねじの回転』は想像力を働かせないとわかりにくい話だった。ただのヒステリーの話とも読める。

・先妻が亡くなるときに後添えをもらわないでほしい…という話は、日本でもよくある。
・ジェームズの他作品に比べ、登場人物の感情や輪郭もはっきりしている。二時間サスペンスっぽい?


●H・P・ラヴクラフト「忌まれた家」

・ラヴクラフトとしてはマイナーな部類の作品だが力作だと思う。

・登場する怪物の正体がはっきりしないところがある。読んでいてスティーヴン・キングの『IT』を連想した。

・怪物に対抗しようとして、調査したり寝ずの番をしたりするシーンなど、どこかホジスンの「カーナッキもの」に近い印象がある。

・最終的に怪物を硫酸で倒すみたいな描写があるのがちょっと怪しい。

・結末はともかく、それまでの展開は結構怖い。

・アンソロジーの中ではかなり読みにくい部類の作品だった。

・前振りが長い。幽霊屋敷ものはもうちょっと導入部をさらっとやってほしい。

・最終的に怪物を倒せるという点で、ラヴクラフト作品としては珍しい。ラヴクラフトは作品は大抵、主人公が死ぬか発狂して終わるものが多いので。

・ラヴクラフト入門としては、新潮文庫から最近出たラヴクラフト傑作集がお薦め。
創元推理文庫の全集では、4巻、5巻、1巻あたりがお薦め。

・ラヴクラフト作品は、ただただ人間がやられるだけ、という話が多い。


●アルフレッド・H・ルイス「大鴉の死んだ話」

・インディアンの民話みたいな話。超自然現象自体は起こっていない?

・アメリカには大西洋から「妖精」は導入できず、代わりにインディアンやアフリカの人々の神話や文化がその役目を果たしている? ラテンアメリカっぽさもある。

・このアンソロジーの収録作家を見ていくと、主流のアメリカ文学史で取り扱われる作家とそれほどずれてこないというのが興味深い。

・アメリカ・ゴシックの研究書、八木敏雄『アメリカン・ゴシックの水脈』について。イギリスのゴシック小説がアメリカに移入されたとき、アメリカにはない要素の置き換えとして、大自然やインディアンの恐怖が登場するようになった。

・アメリカ・ゴシック作品では、イギリス作品におけるよりも主人公側が抵抗の姿勢を見せることが多い。ヒロインが出てくる場合でも、イギリス作品よりも主体性が強い。

・インディアンのモチーフが重要とはいいつつ、あまり怪奇幻想ジャンルで登場するものは見ることが少ないような気がする。ブラックウッド作品ではよく出てくるが、そういう意味ではブラックウッドはイギリスというよりアメリカ的な作家?

・インディアンであるとか、ヴードゥであるとか、アンソロジー全体に、編者がアメリカの怪奇幻想作品を網羅しようとする意思が感じられる。


●メアリ・E・カウンセルマン「木の妻」

・山間が舞台で、銃や車が登場したりと、アンソロジー内でも、読んでいてアメリカだと感じる要素が強かった。

・導入部は都会的なのだが、話が進むと19世紀のような暮らしをしている人たちが登場したりと、両極端な人々の差が現れているのが面白い。

・カウンセルマンの「七子」について。黒人の家庭にアルビノが生まれる物語。文明と非文明についての物語でもある。

・青年を殺してしまう父親は、ある種の名誉殺人? 娘に子供が出来ているのに父親は気付いていたのだろうか? 気付いていたら結婚式を挙げさせて私生児にはしないようにすると思うので、気付いていなかったのだと思う。


●ヘンリー・S・ホワイトヘッド「黒い恐怖」

・ブードゥーもの作品だが、ファンタジーというよりリアリスティックにそれを描いている作品。

・ホワイトヘッドはもっとファンタジー寄りの作品が多く存在するが、その中でわざわざリアルな要素の強いこの作品をアンソロジーに取っているというのが興味深い。

・結局ブードゥーが押さえられているので、キリスト教的な視点から描かれている感が強い。恐怖小説としてはあまり面白くない気がする。

・キリスト教に帰依したとしても現地の人にはブードゥーの信仰は残っていたりする。

・実際の魔術では、呪った相手に呪いをかけたことを伝えるらしい。それによって心理的に怖がらせる。

・過去に読んだドルイドもの作品で、髪の毛が呪いに使われるので落とさないようにする…という描写があった。


●メアリ・E・ウイルキンズ=フリーマン「寝室の怪」

・下宿の一部屋が異世界につながってしまうという物語。暗闇の中でだけ空間がつながらうという発想が面白い。

・下宿人が行方不明になる(異世界に行ってしまった?)のは、美しい女性を始め、そちらの世界に魅了されてしまったという解釈でOK?

・物語の最初と終わりに出てくる家主の夫人がすごく現実的な人物なのが面白い。

・山の中の妖精郷であるとか、たまたま異世界に遭遇するという話はよくあるが、この話のように条件を同じにすると毎回行ける…というのがシステマチックでSF的な発想だと思う。

・最後の方で「五次元」という言い方をしているが、無理に解釈づけなくても良かったような気はする。

・日本でもこういう空間的なアイディアを使った作品はある? 民話的なモチーフのものはある。「見るなの座敷」など。日本の話では空間が外に広がっていく感じ。

・暗闇の中で別世界に行くとどうなるのだろうか? 感覚的なもので世界を感じ取れるようになるのだろうか。

・ウイルキンズ=フリーマン作品に登場する女性は「強い」女性が多い。「南西の部屋」「ルエラ・ミラー」など。

・「ルエラ・ミラー」について。周りの人々の生気を吸って無意識に人を殺してしまう精神的吸血鬼の物語。

・物語自体が下宿の女主人について語られているので、内容が本当かどうかわからない?信用できない語り手ものとも読めるかも。

・ホール・ベッドルームについて。どういう部屋なのか調べてもちょっとわからなかった。廊下の突き当たりにある小さい部屋、という記述があった。当時の家としては小さい部屋?


●イーディス・ウォートン「邪眼」

・語り手は善人であるといいながら、実はその心の邪悪さが「眼」となって現れている?
・J・D・ベレスフォードの「人間嫌い」という作品を思い出した。

・「眼」によって人が死ぬわけではなく、邪悪さが現れているだけ?

・ブラックウッド「炎の舌」について。似た印象のある作品。ささいな悪口の繰り返しが地獄の罰になって帰ってくる話。内側に地獄がある?

・「邪眼」は本人の幻覚・妄想? 最後に第三者が目撃する描写があるので実在する?

・ウォートンは他の怪奇幻想ものでも、超自然現象が妄想や幻覚である可能性よりも、実在するとはっきり言ってしまう作品が多い。


●アンブローズ・ビアス「ハルピン・フレーザーの死」

・時系列が非常に難しい作品。場所に関しても今どこにいて、どこから来たのかもはっきりしないところがある。

・冒頭の引用文は作者の創作らしい。

・悪霊に憑かれた母親によって息子が殺される…という怪奇小説。クトゥルー神話ものとして分類されることもあるらしい。

・夢の中で殺された結果、現実に死んでしまったのか、悪霊に憑かれた母親の肉体は現存しているのか、など疑問点が多い。

・冒頭、男が森で起き上がる描写があるのだが、これはすでに男が死んでいるのか、それともこれから死ぬところなのか。

・クトゥルー神話ものの怖さについて。宗教的なものというよりも、物理的な巨大さからくる怖さがある。

・荒俣さんがどこかのエッセイで書いていたが「身近なものの恐怖」というのがあって、身内や親愛の情を抱いている人が怪物となって襲ってくる…というのは、単純に怪物が襲ってくるよりも怖い。スティーヴン・キング『ペット・セメタリー』など。


●エドガー・アラン・ポオ「悪魔に首を賭けるな」

・冗談小説みたいな作品。ポオには結構ユーモア小説的な作品もある。

・ユーモアということでは「使いつぶした男」がひどい発想の作品だった。


●ベン・ヘクト「死の半途に」

・過去の殺人の記憶に囚われる男の話。

・老婆は生きているが、登場する猫は幽霊? 猫は殺された被害者の飼い猫だと思うが、ちょっと邪魔をするのがわからない。


●レイ・ブラッドベリ「ほほえむ人びと」

・題材はB級だが、ブラッドベリならではの詩的な表現で成り立っている作品。

・サイコ・スリラー的な作品。死体を並べてずっとそのままにしているなど、主人公の精神状態はおかしくなっている。

・「十月のゲーム」など、ブラッドベリ作品はその「クサさ」が気になってしまうものもある。

・死体などグロテスクなものが出てきても、ブラッドベリは生理的不快感がほとんどなく美しく描かれることが多い。

・このアンソロジーの中ではちょっと浮いている感じがする。モダンすぎる作品?


●デヴィッド・H・ケラー「月を描く人」

・精神病院で狂った画家が絵を描く、というイメージが魅力的。

・登場する絵が魅力的なのだが、レイアウトが複雑で想像しにくい。

・作中に登場するホイッスラーの絵は実在するもの。

・母親が吸血鬼になって帰ってくる。母親への恐怖、女性への恐怖心が描かれている。

・絵に描かれた女性がだんだん古くなってくる…というのも、女性全体への恐怖を表している。

・映像化すると映える話だと思う。


■第二部 本の交換会

 持ち寄った本の数が多かった関係で、具体的なタイトルは省略させていただきます。すでに絶版・品切れになった本を多く持ってきてくれた方が多く、皆さん自分で持ってきたよりも多くの本を持ち帰れた人も多かったようです。タイトルや簡単な内容を紹介したりしたことをきっかけに、話がはずむこともありますね。
 毎年だいたい年末にやっている企画ですが、これは続けていきたいなと思っています。


次回「怪奇幻想読書倶楽部 第27回読書会」は、2020年1月26日(日)に開催予定です。テーマは、

課題図書:モーリス・ルヴェル『夜鳥』(田中早苗訳 創元推理文庫)

の予定です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

1月の気になる新刊と12月の新刊補遺
発売中 ニコライ・レスコフ『魅せられた旅人』(河出書房新社 3190円)
発売中 田辺剛『クトゥルフの呼び声 ラヴクラフト傑作集』(KADOKAWA 913円)
発売中 マルセル・エーメ『壁抜け男 エーメ ショートセレクション(世界ショートセレクション)』(理論社 1430円)
1月6日刊 ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線 新装版』(河出文庫 予価935円)
1月7日刊 マーク・トウェイン『アダムとイヴの日記』(河出文庫 予価836円)
1月7日刊 スタニスワフ・レム『完全な真空』(河出文庫 予価1375円)
1月7日刊 南條竹則『ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚』(KADOKAWA 予価3080円)
1月9日刊 レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集』(光文社古典新訳文庫)
1月10日刊 ディーノ・ブッツァーティ『怪物』(東宣出版 予価2420円)
1月10日刊 フレドリック・ブラウン『フレドリック・ブラウンSF短編全集2 すべての善きベムが』(東京創元社 予価3850円)
1月22日刊 ナターリヤ・ソコローワ『旅に出る時ほほえみを』(白水Uブックス 予価1980円)


 レスコフ『魅せられた旅人』は岩波文庫でも出ていた作品の新訳。饒舌な語りのピカレスク小説です。ほら話的な性格の強い面白い作品なのでお薦めです。

 マルセル・エーメ『壁抜け男 エーメ ショートセレクション(世界ショートセレクション)』は、エーメの短篇傑作選。本邦初訳作品も入っているようです。エーメの作品が訳されるのは久しぶりなので、嬉しい企画です。

 河出文庫からは海外の復刊・文庫化ものがまとめて出るようです。ジェイムズ・ヒルトン『失われた地平線』はロマンティックな秘境もの作品。マーク・トウェイン『アダムとイヴの日記』は、アダムとイヴがそれぞれ日記を書いていたら…という発想の面白い作品です。スタニスワフ・レム『完全な真空』は、実在しない書籍に対する架空の書評集というメタな発想の作品です。

 南條竹則『ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚』は、英国の怪異談に関する随筆集、とのこと。これは面白そうです。

 レオポルド・ルゴーネス『アラバスターの壺/女王の瞳 ルゴーネス幻想短編集』は、日本でも短篇「火の雨」や、ボルヘス選〈バベルの図書館〉の一巻『塩の像』で知られるアルゼンチンの作家ルゴーネスの幻想的な作品集。これは好企画ですね。

 ディーノ・ブッツァーティ『怪物』は、全18篇を収録。著者の未邦訳短篇を集めた短篇集シリーズの第三弾です。


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
2019年10月に作成した「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を盛林堂書房さんで通信販売中です。
2019年12月に同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を刊行予定(盛林堂書房さんで通販予定です)。



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