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暗い未来  平井和正『悪夢のかたち』
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 平井和正『悪夢のかたち』(ハヤカワ文庫JA)は、SFの名手である著者の初期短篇を集めた作品集です。全体に、ディストピア的な世界観や人間の暴力性など、暗い情念が描かれているものが多いですね。

「レオノーラ」
 白人が力を失った近未来、黄色人種であるライターのケンは、ふとしたことから白人たちにリンチに遭い、肉体的のみならず精神的にもトラウマを抱えてしまいます。人間恐怖症となった彼は、妹のジュリの世話のもと地下の部屋にこもり暮らしていました。
 ジュリが家を留守にするのに伴い、女性型アンドロイドのレオノーラがケンの世話をすることになりますが、ケンはレオノーラの優しさに癒やされていました…。
 人間不信になった青年が女性型アンドロイドの優しさによって癒やされる…という物語なのですが、悲劇的な結末が待ち構えています。人間の「獣性」とアンドロイドの「人間性」について描かれた秀作でしょう。

「ロボットは泣かない」
 足に欠陥があり、びっこを引いているということで、安く買うことが出来た特Aクラスの家政婦アンドロイド「アン」。一家の主人であるリュウは彼女の優しさと繊細さに感じ入りますが、妻や子どもたちは「アン」を道具としてしか見ず、虐待を繰り返していました…。
 これはアンドロイド差別を扱った作品。残酷な人間よりも、よっぽど優しいアンドロイド像が描かれています。

「革命のとき」
 地上が荒廃し、地下で人類が暮らす時代。精神改造機から逃げ出した人間たちは、一丸となって祈った結果、過去の人間の体の中に精神が転移してしまいます…。
 未来社会で挫折した革命を過去で行おうとする人間たちの物語です。ここでは機械文明の行きつく先が超管理社会のように描写されていますね。

「虎は目覚める」
 近未来、増加する犯罪への対応として、深層催眠技術を使って人間の精神は改造されていましたが、その副作用として文化自体も衰退していました。
 ロケット・マンのリュウは一年ぶりに帰還しますが、故郷の人々が怯えていることに気付きます。シティに現れた「虎」が何人もの人間を惨殺しているというのですが…。
 暴力衝動を封じ込めるために、生きる活力までもが失われてしまった世界で、暴力の固まりのような存在が現れる、というお話です。

「百万の冬百万の夢」
 冬の寒さが苦手な夫は、仕事に行くのにも億劫になっていました。もうすぐ赤ん坊が生まれる妻に急かされて、嫌々出かけることになりますが、早く夏が来ないかと願っていました。そんなある日、都市を核爆弾の攻撃が襲います…。
 面倒な日常も、消え去る一時の幻想に過ぎない…という物語。ある種、救いのない結末ですね。

「悪夢のかたち」
 病院の新生児室に入り込んだ不定形の異星人は、体を二つに分け、二人の赤ん坊の体を乗っ取ります。数十年後、中田は理想的な女性ケイを妻として幸福な生活を送っていました。しかし友人佐野に、タレントの砧佐知を紹介されて以来、なぜか彼女に惹かれ、つきあい始めます。やがてその浮気は家庭が崩壊するまでにエスカレートしていきます…。
 幸福な家庭を持っていたはずの男が、なぜかタレント女性に破滅的に惹かれてしまうという、一見平凡な浮気話なのですが、そこには体に潜んだ異星人に理由があった…ということで、異色の味わいのSFとなっています。
 元が異星人だけに惹かれあう、というところよりも、それまでは人間的な感性で普通の恋愛・家庭を築けていた、というところがむしろ興味深いですね。

「殺人地帯」
 アルは、隣人となった「ニップ(日本人)」のミネが、妻子を持ち、幸せに暮らしていたにもかかわらず「殺人地帯」で命を落としたことを知って不審に思います。「殺人地帯」は政府の管理の下、合法的に殺人ができるという無法地帯だったからです。
 衝動に突き動かされて「殺人地帯」に入り込んだアルは、薬によって体を成長させた子どもたちに襲われます…。
 娯楽として殺意を弄ぶ人間たちに対して、自身も殺し返すべきなのか…。人間の過度の暴力性の恐ろしさと、その反動としての平和な虚無について描かれた作品でしょうか。
 この世界では日本の国土が住めなくなっており、民族としての日本人が絶滅の危機にある、という設定も興味深いですね。

「死を蒔く女」
 精神病医は、周囲の人間の死を願うとそれが実現してしまうという女の訴えを聞いていました。自分を裏切った男のみならず、ナンパをしてきた見知らぬ男を本人の意志とは無関係に電車に飛び込ませてしまったというのです。
 医師は妄想を否定するために、その力が本物ならば、目の前の猫を殺してみなさいと挑発しますが…。
 妄想に過ぎないと思っていた超能力が実は本物だった…というタイプの怪奇小説です。落ちもホラー的で面白いですね。

「人狩り」
帰還兵の男は、銀行強盗の際に殺人を犯してしまい、広大な密林に逃げ込むことになります。野生の自然の中を進むうちに、原始の「幻」が現れますが…。
都市文明に馴染めない男が、逃走の途中で原始の自然に出会う…という物語。奇妙な美しさがあります。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

死の国から  東雅夫編『アンソロジー 死神』
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 東雅夫編『アンソロジー 死神』(角川ソフィア文庫)は、内外の<死神もの>が集められた、バラエティに富んだ好アンソロジーです。マンガ作品も入っています。

 自死した三島由紀夫の霊を利用して陰謀を企む死神の物語「死神のささやき」(水木しげる)、死神から医者のまねごとをして金を稼ぐ方法を教えられた男の運命を描く落語「死神」(三遊亭円朝/三遊亭金馬(二代目))と「死神」(柳家小三治)、名づけ親になった死神から死にゆく人の見分け方を教わった青年の物語「死神の名づけ親 第一話・第二話」(グリム兄弟/金田鬼一訳)、死神の家族の仕事ぶりを描いた「死神」(織田作之助)、死にたいと思っていた青年と少女の仲を死神が取り持つという「死神と少女」(武者小路実篤)、陰謀によって社長の地位を奪われた男が、仇たちを呪い殺そうとする「死神になった男」(源氏鶏太)、奇怪な女が現れるたびに親しい人間が死んでいくという「背の高い女」(アラルコン/桑名一博・菅愛子訳)、電車内に現れた、全身が褪めたような奇怪な女を描く「色の褪めた女」(小山内薫)、小山内薫が恐れていた幽霊について書かれた実話「色あせた女性」(鈴木鼓村)、読んだものが皆死んでしまう呪いの漫画を扱った「死神の涙」(つのだじろう)を収録しています。

 <死神>テーマの作品をいろいろ集めた、ユニークなアンソロジーです。
 落語の「死神」二種とその原本となったと思しいグリム童話のエピソード、文学畑の作家の<死神>テーマ作品三篇、実話風作品三篇、そして最初と最後を<死神>テーマのマンガで挟むという、見事な構成となっていますね。
 落語の「死神」二種とグリム童話が並べられたパートでは、作品の詳細やバリエーションが異なっており、その変奏も楽しめるようになっています。

 織田作之助「死神」は、語り手が死神で、自分たちの一族が起こした大惨事を語っていくという面白い趣向の作品なのですが、未完だそう。これは続きが読んでみたかったですね。

 小説らしいディテールがしっかりしていて、印象に残るのは、アラルコン「背の高い女」(桑名一博・菅愛子訳)です。
 営林技師ガブリエルは、亡くなった友人テレスフォーロの話を語り出します。
 テレスフォーロは、一人でいるときに、相手も一人でいる女に出会うことに対して病的な恐怖心を持っていました。ある日、異様に背が高く、醜い老婆に出会い、彼女が自分を追ってくることに気付き、恐怖に陥ります。さらに、その直後に父の訃報を聞かされて驚くことになります。
 時を経て女と再び出会ったテレスフォーロは、直後に婚約者ホアキーナが亡くなったことを知りますが…。
 人間とは思えず、会うたびに周囲に死者が発生する奇怪な女を扱った実話風怪談作品です。女が人間なのか超自然的存在なのかは、最後まではっきりしません。またテレスフォーロと何らかの関係があったことが匂わされるのですが、そちらの事情も明かされずに終わってしまうなど、不条理味も強い怪奇小説になっていますね。妖怪じみた「背の高い女」のインパクトは強烈です。

 つのだじろう「死神の涙」は、読んだものが皆死んでしまう呪いのマンガを描く作品。B級テーマのお話ではあるのですが、さすがに演出が上手いので、怖さが感じられますね。最後に明かされるメタな趣向も楽しいです。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

死と共に生きる人々  セコイア・ナガマツ『闇の中をどこまで高く』
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 セコイア・ナガマツ『闇の中をどこまで高く』(金子浩訳 東京創元社)は、致死的な疫病に見舞われた人類の姿をオムニバス形式で描くSF作品です。

 感染すると臓器が別の臓器に置き換わってしまうという疫病「北極病」が世界中で流行するようになります。感染すれば、ほぼ完全に死んでしまうのです。病にかかった当人だけでなく、家族や友人、恋人など、周囲の人間たちが、死と病にどのように向き合ったのか?といったところがエピソード単位で描かれていきます。
 また疫病の流行と同時に、地球規模の環境の変化が起こり、非常に住みにくい世界になっていることも示されます。これらの設定から、地球規模での人類の滅亡が緩やかに描かれる、例えばネヴィル・シュートの長編小説『渚にて』などを想像してしまうのですが、本作はまた違った味わいです。

 不治の病、大量の死と、絶望的な状況が描かれながらも、その「死」を必ずしも否定的に捉えていません。死にゆく者の思いを汲んで、残された者たちが生きていく様を肯定的に描いており、読んでいて共感を呼ぶ作品といえるでしょうか。
 例えば、「笑いの街」のエピソード。疫病にかかった子どもたちを楽しませたまま安楽死させるアミューズメントパークが舞台です。そこに勤めるようになったコメディアンの青年スキップは、疫病にかかった息子フィッチを連れた母親ドリーと知りあい、彼らを愛するようになりますが…。
 治療は続けるものの、その効果は限定的で死は避けられません。息子を安楽死させるべきか悩む母親と、彼らを愛しながらも、そばで見守ることしかできない青年の逡巡が描かれます。

 「豚息子」のエピソードも魅力的。北極病の治療法の一つとして、豚の体内に人間に移植するための臓器を培養する実験の最中、知性を持ち、人間と会話が出来る豚スノートリアスが誕生します。彼に教育を施し、人間と同様の愛情を注ぐスタッフたちでしたが、やがて彼との別れがやってきます…。
 やがて来る別れを伝えるべきか否か、知性ある生物を人間のために「消費」していいのか、といった倫理的なテーマが扱われています。

 「吠えろ、とってこい、愛してると言え」はきわめて現代的なモチーフの物語。「わたし」は、壊れたロボドッグの修理を請け負っていましたが、修理できるものは多くありませんでした。修理できたとしても以前の「記憶」を失ってしまうことが多かったのです。「わたし」の息子である明希は、亡き母綾乃の声を録音したロボドッグ「ハリウッド」を愛玩していましたが、そのロボットの調子も悪くなってきていました…。
 亡き人々の「声」や「記憶」が残されたロボットは単純な物ではない…。亡き母と息子との絆。そして父子の親子愛が描かれたエピソードです。

 病に翻弄される人類の姿が描かれるのと同時に、エピソードが進むに従って、時代が進み人類のテクノロジーも発展していく、というのも興味深いところです。
 そのテクノロジーによって起こるトラブルや葛藤などがテーマになったエピソードも登場します。中には宇宙船によって宇宙に飛び出す人々のエピソードなども登場してきますね。

 プロローグ的なエピソード「三万年前からの弔辞」では、疫病のもととなった未知のウイルスが発見される経緯が描かれるのですが、ここも味わい深いです。シベリアで研究を行っていた女性クララが墜落死し、その近辺から過去の人類の死体が発見されます。三万年前のものとされた少女の遺体を調査するために、クララの父親の「わたし」が現地を訪れることになります…。
 研究に没頭し、孫娘ユミとの交流も少なかった娘クララ、その娘のやりたかったこと・人生の目的を理解するために、父親が研究の現地を訪れる…というエピソードです。家族愛の一つの形を描くエピソードなのですが、それがまた地球規模での災厄に繋がってしまう、というのも皮肉な展開です。
 またこちらのエピソードの真実というか、隠された事実についても後半明かされることになります。

 非常にエモーショナルで切ないエピソードが並ぶ連作となっています。最初はSF要素は少ないように見えるのですが、後半からはかなりSF要素も強くなっていますね。
 作者は日系の作家だそう。舞台として日本が登場したり、日系の登場人物が多く登場することもあって、日本人読者としては馴染みやすい作風だと思います。なお、パンデミックをテーマにしていますが、コロナウイルス流行以前に書かれていたとのことです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

歪められた愛  飛鳥部勝則『黒と愛』
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 飛鳥部勝則の長篇『黒と愛』(早川書房)は、奇怪な館で起きた殺人事件をめぐるホラー・ミステリ作品です。

 亜久直人は、テレビ局に勤める友人、崔川真二から心霊スポット特番のロケハンに助手として同行してほしいと頼まれます。取材場所は、北条夏夫なる老人が所有する「奇傾城(きけいじょう)」。そこは城を改造した和洋折衷の建物で、奇妙な展示物ばかりが災いして、現状は閉鎖されていました。以前に建物内で自殺者が出ており、兵士の幽霊が出るという噂もありました。
 ロケハンには霊能者が同行する予定でしたが、とある事情から急遽代理として、女子高生である示門黒(しもんくろ)が連れてこられることになります。彼女に思いを寄せる者は多いようなのですが、黒はテレビ局のディレクター蒲生巧とは特別な関係のようなのです。亜久もまた黒に惹かれることになります。
 ロケハン当日、蒲生は奇傾城内の幽霊が出るという「絵画の間」で一泊したいと言い出します。折しも嵐が激しくなり、離れ小島にある奇傾城に繋がる橋が流されそうになったため、蒲生に連絡しようとしたところ、部屋は内側から鍵がかかっており、返事もないようなのです。ようやく開けた部屋の中には蒲生の生首が転がっており、首無し死体が椅子に縛り付けられていました…。

 奇人が作った施設、奇傾城で猟奇的な殺人事件が起き、その犯人が取り沙汰されていく…というホラー・ミステリ作品です。
 舞台が風変わりなのに加えて、登場人物たちも奇矯な人間ばかり。誰が犯人でも、どんな動機が出てきてもおかしくはない、という雰囲気になっています。さらに探偵役である亜久が犯人を指摘するのもかなり序盤で、その構造も風変わりです。

 密室殺人の謎よりも、メインに描かれるのは、神秘的な謎めいた少女黒と、彼女をめぐる人々の倒錯的な愛情と変態的と言えるまでの心理描写です。黒自身が、周囲には理解不能な行動と発言で謎めいた人物なのですが、それにもまして彼女をめぐる人々が奇人・怪人揃いなのです。実際、心理的にだけでなく、肉体的にも常人ではない人間が混じっていることが後半に明かされ、クライマックスの突拍子の無さには驚かされてしまいます。
 正直、あまりに設定が奇抜過ぎて「真犯人」を予測するのは難しいと思います。後半、合理的な謎解きがされることにはなるのですが、それよりも黒をめぐって「暴走」する人々が何をやらかしてしまうのか…という方面で読むのが楽しい作品ですね。
 容易に本音を見せない黒本人はもちろん、周囲の人物もその愛情の発露の仕方が異常です。サイコパス的な人物が多数登場し、その行動が描かれていく部分には読み応えがあります。特に、黒を愛するあまり、ネクロフィリアの気がある黒が隠匿する死体を隠そうとする「先生」の一連の行動を描く部分は完全にダークなホラーとなっていますね。

 ミステリとしては完全に破綻しているのだと思いますが、異形のホラー・幻想小説として読むと、とても魅力的な作品だと思います。後半に唐突に登場する超自然的な展開は、同じ飛鳥部作品の某作品とのリンクがされているとのことで、こちらもいずれ読んでみたいところです。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

4月の気になる新刊
4月8日刊 エドマンド・バーク『崇高と美の起源』(大河内昌訳 平凡社ライブラリー 予価1870円)
4月8日刊 利根川真紀編訳『母娘短編小説集』(平凡社ライブラリー 予価1980円)
4月8日刊 『ナイトランド・クォータリーvol.35』(アトリエサード 予価2090円)
4月10日刊 マルレーン・ハウスホーファー『人殺しは夕方やってきた マルレーン・ハウスホーファー短篇集』(松永美穂訳 書肆侃侃房 予価2310円)
4月12日刊 ジャック・ロンドン『ザ・ロード アメリカ放浪記』(川本三郎訳 ちくま文庫 予価968円)
4月18日刊 ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』(市田泉訳 東京創元社 予価2640円)
4月20日刊 ミカ・ヴァルタリ『エジプト人シヌヘ 上・下』(セルボ貴子訳 みずいろブックス 予価各2750円)
4月22日刊 エーリヒ・ケストナー『消え失せた密画』(小松太郎訳 中公文庫 予価990円)
4月23日刊 ネイサン・オーツ『死を弄ぶ少年』(山田佳世訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1320円)
4月30日刊 アラスター・グレイ『ほら話とほんとうの話、ほんの十ほど 新装版』(高橋和久訳 白水社 予価2860円)
4月30日刊 エドワード・ゴーリー『青い煮凝り』(柴田元幸訳 河出書房新社 予価1540円)
4月30日刊 マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『ある晴れたXデイに カシュニッツ短編傑作選』(酒寄進一訳 東京創元社 予価2310円)


 『人殺しは夕方やってきた マルレーン・ハウスホーファー短篇集』は、SF的なサバイバル小説『壁』(同学社)が非常に面白かったオーストリア作家の短篇集。これは面白そうです。

 4月の一押しはこれでしょうか。ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』は、幽霊物語を100編収めた短編集とのこと。邦訳としては『終わりの街の終わり』『第七階層からの眺め』などが出ており、どちらも不思議な味わいの幻想小説なのですが、版元がなくなってしまったため、絶版になってしまっていますね。
 今回の邦訳を機にまた紹介が進むといいなと思います。

 エーリヒ・ケストナー『消え失せた密画』は、以前創元推理文庫から出ていたユーモア冒険小説の再刊。これは楽しい本です。

 『ある晴れたXデイに カシュニッツ短編傑作選』は、『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』が好評だったドイツの作家マリー・ルイーゼ・カシュニッツの短篇集第二弾。こちらも期待大です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

それぞれの結末  滝川さり『ゆうずどの結末』
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 滝川さり『ゆうずどの結末』(角川ホラー文庫)は、少しでも読めば死の呪いがかかってしまう呪いの本をめぐる連作ホラー作品です。

 大学に入ったばかりの菊池斗真は、サークルの同級生の女性宮原の投身自殺を目撃してしまいます。遺書もあったことからその死は自殺と断定されていました。菊地はサークルの先輩日下部から、表紙に赤黒い染みのある本を手渡されます。宮原が死の瞬間に持っていた本だというのです。
 それは「ゆうずど」というタイトルで、角川ホラー文庫から数十年前に刊行されたというホラー小説でした。内容は読んだら死んでしまう呪いの本の話だといいます。しかし、本を読んだ日下部は自殺してしまいます。
 その後、菊地の手元に「ゆうずど」の本が現れていました。気味悪がった菊地は何度も「ゆうずど」を捨てようとしますが、なぜか何度も手元に戻ってきてしまうのです。本には黒い栞が挟まれており、それはどんどんとページを進んでいました。やがて他の人間には見えない紙の化物が菊地の目には見えるようになりますが…。

 少しでも読むと呪われ、タイムリミットが来ると必ず殺されてしまうという呪いの本「ゆうずど」をめぐる連作ホラーです。
 「ゆうずど」には強力な呪いがかかっており、全体ではなく、内容を少しでも読んだだけで呪われてしまうのです。移動する黒い栞が最終ページに来るまでがタイムリミットになっており、それに気づいた人間たちが呪いを解除しようと奔走する…というのが、各エピソードの肝となっています。
 一話目の主人公は大学生、それ以降も女子高生や小学生、時には夫婦同時に呪われるパターンもあるなど、呪われる人々も様々です。呪われて以降、本に現れる黒い栞や、自分にしか見えない化物が見えるようになるなど、明確に異常な出来事が起こるので、呪いの存在をはっきり認識できるようになっています。それだけに呪いの解除に命がかかってきており、そのサスペンスもたっぷりですね。

 「ゆうずど」に関してどこまで情報を得られるのか、というあたりは、各エピソードの主人公によって変わっており、まともに情報を得られないまま死んでしまう人もいれば、かなりの情報を手に入れられる人間もいます。各主人公が「ゆうずど」の呪いから逃げられるのか、それとも殺されてしまうのか?という部分も含めて、ハラハラドキドキの連続です。
 単純に「呪われる」話だけでなく、その本を利用して他人を殺そうと画策する話や、親子二代で呪われた家族がそれを利用して呪いを解こうとする話など、呪いのバリエーションも多彩ですね。
 作中の呪いの本「ゆうずど」が角川ホラー文庫から刊行されているという設定になっていることも含めて、全体にメタフィクショナルな仕掛けが施されているところも興味深いです。「呪い」テーマホラーの快作でしょう。


テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

家族たち  間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』
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 間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)は、手術によって年を取らなくなった女性が100年にわたる家族の歴史を回想するというSF小説です。

 2123年、九州の山奥に一人で住む女性の「わたし」は、自己流の家族史を書き始めます。生まれる際に母親を亡くし、父親と二人で暮らしていた「わたし」は、幼い頃からの身体の不調を抱え、自殺願望を抱えていました。父親の知り合いである医者から、脳と人工の身体を接続する「ゆう合手術」を勧められた「わたし」は機械の身体となり、年齢を取らない状態になります。
 長い時を生きることになるだろう「わたし」に向かって、父親が提案したのが家族史でした。やがて父親やきょうだいを含めた家族は皆いなくなる。その過程を「わたし」に書いてほしいと。
 約100年後、父親、こうにいちゃん、まりねえちゃん、さやねえちゃん、そして甥であり「わたし」の恋人でもあった「シンちゃん」、家族全員の死を看取った「わたし」は、彼らと彼らに関わる自身の人生を回想することになります…。

 手術によって人工の身体になった女性の「わたし」が、家族と自身の人生を振り返ることになるという作品です。
 身体の不調から解放され半永久的に生きることになった「わたし」が、それによって幸福になったかというと、そういうわけではありません。もともと生まれる際に出産が原因で母親を亡くしており、年の離れた兄や姉たちは、それが原因で「わたし」を憎んでいるのです。
 愛妻を失った父親は「わたし」を可愛がる一方、精神的な虐待まがいのことを繰り返しており、「わたし」の不調には、そこに起因している部分もあるようなのです。家族内では、未婚の母となったさやねえちゃんのみが、「わたし」に同情的です(といっても、そこには利己的な動機もあるのですが)。また彼女の息子シンちゃんは「わたし」が母親以上に面倒を見ることになるのですが、それによって無条件で「わたし」を愛してくれる存在となります。

 シンちゃんとの関わりは、「わたし」にとってもっとも重要なところで、息子的な存在から彼の希望によって「恋人」的なパートナーとなることになります。その関係性に倫理的な問題があることだけでなく、彼の人生を狂わせてしまったのではないか? 父親に人生を狂わされたと感じている「わたし」が、同じことを甥に繰り返してしまったのではないか?という後悔の念が、その語り全篇にわたってにじみ出ることになります。

 「語り」も独特です。「わたし」自身の語り言葉で語られるのですが、ひらがな主体のやさしい文章で綴られており、そこにはあまり物事に対する感動が感じられません。悲劇的な出来事に対しても淡々と記しており、機械の身体となった弊害で、人間的な感情を失ってしまったのではないか?ということも推量させます。
 感情も平板になってしまっており、実際、父親はそんな「わたし」に嫌悪感を抱くようになってしまいます。自分は他人に愛情を与えられたのか? 自分の人生は何か意味のあるものであったのか?シンちゃんを含む家族全員が亡くなった後、自身の人生の目的を失った「わたし」に待ち構えているのは、SF的な急展開。
 「人間を超えた存在」となりながら、100年を家族との生活のみで過ごし、社会には全くといっていいほど触れてこなかった「わたし」。終盤ではその人生観を変えるような大きな価値判断を迫られることになり、この作品がSFである所以が明かされることにもなります。

 「わたし」が人生に悩み、人間としての価値を疑い続けてきた先に、本当の人間らしさ、自分らしさについて肯定的な思いが生まれてくる…という部分には、大きな感動がありますね。
 SF的な作品ではありながら、家族との愛情、人生の価値など、普遍的なテーマを盛り込んでおり、共感を呼ぶ作品といえるのではないでしょうか。


テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第52回読書会 参加者募集です
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定員になりましたので、締め切らせていただきました。


 2024年4月21日(日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第52回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。

kimyonasekai@amail.plala.or.jp

メールの件名は「読書会参加希望の件」とでもしていただければと思います。本文にお名前と読書会参加希望の旨、メールアドレスを記していただければ、詳細に関してメールを返信いたします。

開催日:2024年4月21日(日)
開 始:午前10:00
終 了:午後12:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ(東京)
参加費:1500円(予定)
課題書 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』(河出文庫)

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※対面型の読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。
※「怪奇幻想読書倶楽部」のよくある質問については、こちらを参考にしてください。
※扱うジャンルの関係上、恐縮ですが、ご参加は18歳以上の方に限らせていただいています。


 今回取り上げるのは、鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』(河出文庫)。ラテンアメリカ作家の幻想小説を俯瞰するのに最適なアンソロジーです。ヨーロッパ、アメリカのものとは一味違った怪奇幻想作品を楽しんでいきたいと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

商売さまざま  G・K・チェスタトン『奇商クラブ【新訳版】』
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 G・K・チェスタトン『奇商クラブ【新訳版】』(南條竹則訳 創元推理文庫)は、奇抜な商売を旨とする「奇商クラブ」をめぐって展開されるユーモアとナンセンスに溢れた連作集です。

 ロンドンに存在するという謎の組織「奇商クラブ」。そのクラブは、前例のない独創的な商売を考え出し、なおかつその商売によって生計を立てている者しか入れないというクラブでした。
 突然の狂気によって公職を退いた元法曹家のバジル・グラントとその友人スウィンバーンは、たびたび奇抜な商売を行う者たちと出会うことになりますが…。

 主人公バジルとその友人スウィンバーンが、前例のない新しい商売で生計を立てている者たちが集う「奇商クラブ」の面々と、様々な場面で遭遇し、不思議な事件に巻き込まれる…という連作集です。
 様々な新商売を考え出した人物たちが登場する、奇人怪人小説集といった趣の作品なのですが、面白いのは、初めから「奇商クラブ」の実体が登場するわけではないところ。語り手スウィンバーンによって、一話目でその結社の存在とコンセプトが語られるものの、「奇商クラブ」自体、最後の方まで明確には登場しない、もやもやした組織となっています。

 バジルと友人スウィンバーン、時にはバジルの弟で素人探偵ルーパートも一緒になって、不思議な事件に遭遇し、それが実は奇抜な新商売を考え出した者の仕業であることが分かる、というのが物語のパターンとなっています。
 犯罪を思わせる不穏な事件はもちろん、時にはささいな日常の出来事さえもが、「奇商クラブ」の会員の仕業であることが分かり、その真相が明かされたときには驚きと共にクスリと笑えるユーモアがありますね。

 花の文字で書かれた自らの死のメッセージを受け取った元軍人の冒険を描く「ブラウン少佐の途轍もない冒険」、才気煥発で皮肉屋の青年の秘密が明かされる「赫々(かくかく)たる名声の傷ましき失墜」、晩餐会に行く直前に突然現れ、奇妙な話を始める牧師の物語「牧師さんがやって来た恐るべき理由」、転居を重ねる男に目を付けたルーパートの捜査が思わぬ事態につながる「家宅周旋人の突飛な投資」、学識豊かな教授が突然喋らなくなってしまうという「チャド教授の目を惹く行動」、囚われた老婦人を救おうとするルーパートとスウィンバーンの冒険を描く「老婦人の風変わりな幽棲」を収録しています。

 「奇商クラブ」の面々が風変わりなのはもちろんなのですが、主人公であるバジルも元法曹家のエリートでありながら、ある日狂気に囚われて引きこもってしまったという奇怪な人物。その発想や考え方は常人とは異なるがゆえに、「奇商クラブ」の人々の新商売を素早く見抜く…というところも面白いですね。
 一話目で「奇商クラブ」の存在が明かされるので、二話目以降は「奇商クラブ」の奇抜な商売が登場するだろうことは分かるのですが、物語のどの人物がその商売人で、どんな商売をしているのかは分からない、というところで、毎回意外な真相が楽しめます。
 正直、驚愕の真相、というのはなくて、脱力系のオチが待っているエピソードが多いのですが、それだけに肩の力を抜いて楽しめるユーモア作品集です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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