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テーマ:その他 - ジャンル:その他

怪奇幻想読書倶楽部 第16回読書会 参加者募集です
4334751393新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)
ロバート・ルイス スティーヴンスン Robert Louis Stevenson
光文社 2007-09-06

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4003725069マーカイム・壜の小鬼 他五篇 (岩波文庫)
スティーヴンソン 高松 雄一
岩波書店 2011-12-16

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 2018年8月26日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第16回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、メールにて連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2018年8月26日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:2000円(予定)
テーマ
第1部:スティーヴンスンの怪奇と冒険
課題図書
ロバート・ルイス・スティーヴンスン『新アラビア夜話』(南條竹則/坂本あおい訳 光文社古典新訳文庫)
ロバート・ルイス・スティーヴンスン『マーカイム・壜の小鬼 他五篇』(高松雄一/高松禎子訳 岩波文庫)
第2部:〈奇妙な味〉について考える

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも安心して参加できると思います。


 第1部のテーマは「スティーヴンスンの怪奇と冒険」と題して、ロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850-1894)の作品を読んでいきたいと思います。スティーヴンスンは、『宝島』を始めとした冒険小説で有名な作家ですが、怪奇幻想的な作品にも名作をいくつか残しています。
 この分野で一番有名なのは『ジキル博士とハイド氏』ですが、今回は、隠れた名作ともいうべき連作短編集『新アラビア夜話』と、幻想や奇想にあふれた短篇を含む作品集『マーカイム・壜の小鬼 他五篇』を取り上げたいと思います。

 第2部のテーマは「〈奇妙な味〉について考える」。
 江戸川乱歩が提唱したことで知られる概念〈奇妙な味〉。当時、乱歩が考えていたのは、ロバート・バー『健忘症連盟』、ロード・ダンセイニ『二瓶の調味剤』、ヒュー・ウォルポール『銀仮面』といった、とぼけたユーモア、残酷趣味、人間の異常心理など、それまでのジャンルでは区分しきれない、新しいタイプの作品でした。そしてまた、現在に至ってもそれに類する作風の作品は書かれ続けているのです。
 現在でも、多様な意味合いを持って使われる〈奇妙な味〉。その魅力について探っていきたいと思います。併せて、類似概念である「異色短篇」や「異色作家」、また《異色作家短編集》についても話していきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

幻想文学関連の評論・ノンフィクションから
 最近読んだ、幻想文学関連の評論・ノンフィクションからいくつか紹介していきたいと思います。


gennsounobigaku.jpg幻想の美学 (文庫クセジュ 310)
ルイ・ヴァックス 窪田 般彌
白水社 1961-10

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ルイ・ヴァックス『幻想の美学』(窪田般彌訳 文庫クセジュ)

 海外の幻想文学について紹介した本です。原著が1960年、翻訳が1961年と古い本ですが、非常に要領よくまとめられていて、今でも参考になる本だと思います。面白いのは文学の分野だけでなく、幻想的な美術分野についても紹介されているところ。
 ボッシュ、ブリューゲル、アルチンボルド、デジデリオ、ゴヤ、モロー、ルドン、現代に近いところでは、アンソール、ロップス、レオノール・フィニ、ダリ、デルヴォーなどが紹介されています。画像は全くなく、文章だけの本なのが残念ですが。

 さて、幻想文学の章では、各国の代表的な幻想作家と作品が紹介されています。ドイツは、ルートヴィヒ・ティーク、アヒム・フォン・アルニム、ホフマン、シュトルム、カフカ。フランスは、ジャック・カゾット、ドールヴィイ、ノディエ、バルザック、メリメ、モーパッサンなど。
 英米はさすがに多いです。ウォルポール、ラドクリフ、M・G・ルイス、スコット、ポオ、レ・ファニュ、ヘンリー・ジェイムズ、スティーヴンスン、M・R・ジェイムズ、ブラックウッド、ラヴクラフトなど。記述もこの部分が一番詳細ですね。
 その他の国では、ヤン・ポトツキ、ゴーゴリ、アレクセイ・トルストイ、コルタサル、ボルヘスなど。著者がフランス人だけに、フランス作品にも結構な記述が割かれています。

 面白いと思ったのは「M・R・ジェイムズがメリメに近いように、レ・ファニュはモーパッサンに近い。一方の二人は病人で、その不安を告白しているのに対し、他方の二人は芸術家で、冷静に恐ろしい物語を生み出すのだ。」という箇所ですね。
 レ・ファニュとモーパッサン、全然比較したこともない組み合わせの作家なのですが、確かに考えると共通点があるような気もします。これは非英米の人ならではの視点というべきでしょうか。



kyouhusyousetusi.jpg

エディス・バークヘッド『恐怖小説史』(富山太佳夫ほか訳 牧神社)

 「恐怖小説史」とはいうものの、原著が1921年刊行ということもあり、新しい時代(原著刊行時)の作品にはあまり触れられません。18世紀末~19世紀初頭の作品が中心です。
 ウォルポール『オトラント城』に始まり、アン・ラドクリフ、M・G・ルイス、マチューリン、ベックフォード、ウィリアム・ゴドウィン、ウォルター・スコット、メアリ・シェリーなどが主に論じられていきます。特にラドクリフはかなり詳しく紹介されていますね。M・G・ルイスやマチューリンの未訳作品についても多く触れられているほか、日本ではあまり知名度のない、ネイサン・ドレイク、イートン・スタナード・バレット、レジーナ・マリア・ローシュといった作家の珍しい作品についても言及されており、参考になります。
 本の8割方がイギリスの作品で占められていますが「アメリカの恐怖小説」という章では、C・B・ブラウン、ワシントン・アーヴィング、ホーソーン、ポオらについても触れられています。この章の中心はホーソーンでしょうか。

 全体にかなりよくまとめられている本です。主要作品のあらすじも詳しく、ブックガイドとしても読めます。その作家や作品が誰に影響を受けている…といった影響関係がこまめに書かれているのが参考になります。それだけに、新しい時代の作品にまで筆が及んでいないのが残念ですね。
 レ・ファニュ、ブラックウッド、E・F・ベンスンといった近代怪奇小説の「大物」は、結びで少し触れられるぐらいでしょうか。



433604080X異形のテクスト―英国ロマンティック・ノヴェルの系譜
横山 茂雄
国書刊行会 1998-07-01

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横山茂雄『異形のテクスト 英国ロマンティック・ノヴェルの系譜』(国書刊行会)

 18世紀末から19世紀にかけて書かれたイギリスの「ロマンティック・ノヴェル」について論じた本です。
 主に取り上げられている作品は、ウィリアム・ゴドウィン『サン・レオン』、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、ジェイムズ・ホッグの『義とされた罪人の手記と告白』(『悪の誘惑』)、シャーロッテ・ブロンテ『ヴィレット』です。
 リアリズムを旨とする「ノヴェル」に対する存在として「ロマンティック・ノヴェル」という概念が置かれています。「ゴシック的」な要素がある作品にもかかわらず「ゴシック・ロマンス」という言葉を使わないのは、年代的にも「ゴシック・ロマンス」が終焉した時代の作品も含む概念だからだそうです。
 それぞれの章で一つづつ作品を取り上げ論じています。特に面白いと思ったのは、ゴドウィン『サン・レオン』、シェリー『フランケンシュタイン』、ホッグ『義とされた罪人の手記と告白』の章。『フランケンシュタイン』には『サン・レオン』の影響が強い…というのも初めて知りました。

 イギリスで起きたゴシック小説ブームの直接の火元はアン・ラドクリフであって、ホレス・ウォルポール『オトラント城』ではなかったというのもなるほどという感じでした(もちろんウォルポール作品が嚆矢ではあります)。
 アン・ラドクリフの作品は、最終的に超自然現象が合理的に説明されるという「解明される超自然」を旨としています。本当の「超自然小説」ではないところが、リアリズム信奉が強かった当時のイギリスで彼女の作品がヒットした理由ではないか、というのは目から鱗でした。
 確かに「ゴシック小説」の中には「解明される超自然」型の小説が結構あるのですよね。ただそれらも「恐怖」がメインテーマではあるので、「超自然小説」ではないかもしれないけれど「怪奇小説」ではあります。
 時代はちょっと下りますが、レ・ファニュやウィルキー・コリンズの一部のスリラー作品は「解明される超自然」が洗練されたタイプの作品なのではないかなあ、と考えたりもしました。



4562054727怖い女
沖田瑞穂
原書房 2018-01-29

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沖田瑞穂『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』(原書房)

 「怖い女」「怖い女神」の系譜を語った本です。各国の神話だけでなく、都市伝説、ホラー映画、コミック、小説などを題材に、現代にもそのモチーフが受け継がれているといいます。
 具体的には、神話そのものの他に、『リング』や『呪怨』などのホラー映画、三津田信三、貴志祐介などのホラー小説、美内すずえや山岸凉子などのホラー漫画、「ひきこさん」「テケテケ」といった都市伝説なども取り上げられています。
 各章は「怖い女」のいろいろな特徴や側面を語っていて、それぞれ興味深いのですが、「口裂け女」の系譜を語った第一章「口裂け女」と、神話の「パンドラの箱」、都市伝説の「コトリバコ」、京極夏彦『魍魎の匣』などをめぐって展開される第四章「怖い箱」は特にユニークな試みだと思いました。



4044003491人は「死後の世界」をどう考えてきたか
中村 圭志
KADOKAWA 2018-03-22

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中村圭志『人は「死後の世界」をどう考えてきたか』(KADOKAWA)

 「死後の世界」について、さまざまな宗教や神話からの考え方をまとめた本です。その範囲はギリシャ・ローマ、オリエント、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教など、非常に幅広いです。
 ギリシャの「地獄」には懲罰的な要素がないとか、仏教の「地獄」とキリスト教の「煉獄」の概念は近いとか、はっとするような考え方がいろいろと出てきて参考になります。
 キリスト教の「煉獄」と「地獄」の概念がいまいち理解できなかったのですが、この本でようやく得心がいった感じです。キリスト教の「地獄」は救いの可能性がまったくない世界で、対して「煉獄」はそこでの過ごし方によって救われる可能性がある世界なのですよね。
 仏教の「地獄」は膨大な懲罰の時間を強制される世界ではあるのですが、救済の可能性は残されています。なので、仏教における「地獄」に対応するのは、キリスト教における「地獄」ではなく「煉獄」だ、との意見にはなるほどと思いました。

 死後の世界を紹介した本とか、各国の天国・地獄の概念を紹介した本とか、この手のジャンルの本を何冊か読んでみましたが、この本ほどわかりやすいものはなかったです。単なるカタログ形式のガイドではなくて、それぞれの死後に対する考え方の比較や意味などについても触れられています。
 現代編では、C・S・ルイス、トーベ・ヤンソン、ミヒャエル・エンデ、新海誠の作品に現れる死生観などにも触れられています。ファンタジーや幻想小説好きの人にとっても、参考になる本だと思います。



4309253849とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ
コーディー・キャシディー ポール・ドハティー 梶山あゆみ
河出書房新社 2018-06-07

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コーディー・キャシディー、ポール・ドハティー『とんでもない死に方の科学』(梶山あゆみ訳 河出書房新社)

 いろんな人間の死に方のシチュエーションを「科学的」に検討するという、不謹慎ながらも興味深い本です。
「雷に打たれたら」とか「旅客機の窓が割れたら」とか、あり得そうなシチュエーションはもちろん、「バナナの皮を踏んだら」「無数の蚊に刺されつづけたら」などの冗談のような項目もあります。そうした冗談のような話題でも、科学的に大真面目に検討する姿勢が非常に楽しいです。
 笑える部分だけでなく、非常に参考になる部分もたくさんあります。「粒子加速器に手を突っ込んだら」「本物の人間大砲となって打ち出されたら」などでは、どのように人体に悪影響があり、どういう最期を迎えるのか、詳しく描写されていて、背筋が寒くなってしまいますね。

 一番興味深く読んだのは「乗っているエレベーターのケーブルが切れたら」の項目。どのようにしたら助かる可能性があるのか? という部分がすごく面白いです。75階分落下して生還した人がいるとか。これまた冗談のようなのですが、加速の衝撃をいちばん和らげる姿勢は「仰向け」らしいです。
 一項目あたり、5~6ページでさらっと読めるので、興味のある項目だけ拾い読みしても楽しいです。タイトルだけ見るとちょっと扇情的ですが、ためになる科学エッセイとしてお薦めしたい本です。



4781601200死なないための智恵
上野 正彦
イースト・プレス 2009-03-01

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上野正彦『死なないための智恵』(イースト・プレス)

 『とんでもない死に方の科学』とはアプローチは全く異なるのですが、法医学者、上野正彦さんのこの本も面白いので、ついでに紹介しておきたいと思います。
 こちらは、主として犯罪に巻き込まれたときに死なないためにはどうしたらいいか? というハウツーをまとめた本です。
 犯人に刃物で襲われたときの対応とか、実際に刺されてしまったときにどうしたらいいのか? とか、すごく実用的な知識がつまっています。片刃と両刃で刺されたときの傷口の違いの図解が載っているのは、この本ぐらいじゃないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

現実と夢想  ジャック・フィニイの作品世界
 アメリカの作家、ジャック・フィニイ(1911-1995)は、ミステリ、サスペンス、SF、ファンタジーなど、多様な作品を書いた作家です。その本領は「過去への郷愁」や「ノスタルジー」をベースとしたファンタジーにあり、長編では『ふりだしに戻る』、短編集では『ゲイルズバーグの春を愛す』が、その最良の部分が表れた作品といえるでしょうか。

 「過去への郷愁」「ノスタルジー」といった言葉を使うと、願望充足的な作品を思い浮かべる人もいるかと思います。確かにそうした面もあるのですが、フィニィの作品では単純な願望充足で終わる作品は意外に多くありません。「願望」や「夢」が成功したとしても、そこには一抹の「ほろ苦さ」があるのです。
 その「ほろ苦さ」は、ミステリ・サスペンス系の作品でも同様です。作中で描かれる計画が失敗することもあれば、成功したとしても主人公たちの胸中には苦い思いが残る…というパターンが多いのです。
 その意味で、フィニィは単なる理想主義者ではなく、現実を認識したうえでのロマンティストといっていいかもしれません。その現実と理想とのはざまで描かれる作品世界にこそ、フィニィ作品の魅力があるのです。
 今回は、そんなジャック・フィニィ作品について見ていきたいと思います。



4152087587レベル3 (異色作家短篇集)
ジャック フィニイ Jack Finney
早川書房 2006-09-01

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『レベル3』(福島正実訳 早川書房)

 「過去への郷愁」が「時間旅行」と結びついたファンタジーが多く収められた短編集です。同じ「時間もの」作品でも、SF風、ファンタジー風、コメディ風、ホラー風と、見せ方に工夫が凝らされているところが楽しいですね。

 存在しないはずの地下三階をめぐる「レベル3」、未来からやってきたらしい夫婦を描く「おかしな隣人」、時間の狂いをドキュメンタリー風に語る「こわい」、別世界への切符を手に入れた男を描く「失踪人名簿」、互いに想像を凝らす恋人たちの物語「雲のなかにいるもの」、過去の妄念が時間を越えて幽霊として現れる「潮時」、願いをかなえる植字機によって世界を変えようとする「ニュウズの蔭に」、未来から持ち込んだ飛行機で南北戦争に勝とうとする「世界最初のパイロット」、同じロマンス小説を読んだ男女のロマンティック・コメディ「青春一滴」、車好きの青年が復元したクラシックカーが過去に迷い込むという「第二のチャンス」、風で飛ばされた書類を取るためにビルのへりを歩くことになるという「死人のポケットの中には」の11篇を収録しています。

 フィニィの「時間もの」作品では、当時の服や持ち物を身につけその時代の人間になりきる…という「ジャック・フィニィ型タイム・トラベル」が有名ですが、短篇では、「おかしな隣人」のように、機械(タイム・マシン)による時間移動も描かれていますね。
 現実からの脱出、というテーマの作品が多く見られますが、主人公たちは必ずしもそれに成功するわけではない…というところが、また味わいがあります。一度きりの現実からの脱出に失敗してしまうという「失踪人名簿」の結末はほろ苦さにあふれています。

 歴史改変小説とも読めるのが「潮時」「第二のチャンス」です。「潮時」では主人公の前に「幽霊」が現れ、それがまだ生きている人間の過去の姿であることがわかります。当人から過去の重大な決断を聞かされた主人公は、自らもまた決断をすることになります。その結果得られたものと失われたものとは?
 「第二のチャンス」では、車好きの青年が壊れた古い車を手に入れます。それは数十年前に事故で運転手が亡くなったという車でした。修理によって当時の姿を取り戻した車でドライブをしていた青年は、過去に迷い込んだことに気がつきます。青年が過去に現れたことにより、ある家族の運命が変わるのです。
 「第二のチャンス」は希望にあふれた作品で、フィニィ作品の一般的なイメージとしては正にぴったりの作品です。対して、同じような過去改変テーマを扱っていても「潮時」は、多少ペシミスティックな味わいのある作品ですね。
 人間のどんな選択も、それが正しいかどうかはわからない…という「潮時」を読むと、フィニィが単純なロマンティストではないことがわかります。「現実」を認識したうえでの「夢想家」、かすかな皮肉と憂愁をたたえた部分もまた、フィニィの魅力といっていいのかもしれません。



4150200262ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)
ジャック・フィニイ 福島 正実
早川書房 1980-11-01

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『ゲイルズバーグの春を愛す』(福島正実訳 ハヤカワ文庫FT)
 収録作品がバラエティに富んでいるのは『レベル3』と同様ですが、洗練度はこちらの方が上でしょうか。ロマンティックな「愛の手紙」の印象が強いですが、コメディやホラー風の作品などもあり、名短篇集といっていい作品集です。

「ゲイルズバーグの春を愛す」
 イリノイ州ゲイルズバーグで起こる不思議な事件を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。古き良き街で頻発する不思議な現象の目的は一体何なのか?
 「過去」の力は「現在」よりも強い…。フィニィ作品に共通する「過去への郷愁」がもっとも物理的・攻撃的な形で現れるという、その意味でユニークな作品です。

「悪の魔力」
 街歩きが趣味の「ぼく」はある日、マジック・ショップで入荷したばかりという不思議な眼鏡を手に入れます。それをかけると女性の服が透けて見えるのです。同じく街歩きが趣味の同僚フリーダをその眼鏡で覗いた「ぼく」は驚きますが…。
 不思議な道具の効果とその顛末を描きながら、「ぼく」と友人フリーダとの恋愛模様が同時進行するという、ロマンス風味の強い作品です。街歩きとものづくりが趣味だというフリーダのキャラクターが魅力的ですね。

「クルーエット夫妻の家」
 富裕なクルーエット夫妻が過去の家の図面に魅せられたことから、その過去の様式で家を建てるという物語。実業家であり非常に現実的であった夫妻が、家の影響でだんだんと外界との接触をなくしていく…という、ある意味ホラーチックな展開もユニーク。

「おい、こっちをむけ!」
 作家マックス・キンジェリーは、才能豊かながら経済的にも恵まれず不遇な日々を送っていました。彼の友人になった「わたし」は妻ともども、彼の面倒をいろいろと見てやっていたのです。しかし「わたし」が家をしばらく空けている間に、マックスは流行性感冒であっさりと死んでしまいます。彼の死後半年して「わたし」は、街中でマックスの「幽霊」を見かけます。マックスは何のために現れたのか…?
 死んだ友人が幽霊となって現れるという、お話としては単純な作品なのですが、作家としての矜持を持つマックスと、それを理解する「わたし」との友人関係、また作家と批評家としての関係性が全体に流れており、読み応えのある作品になっています。
 霊となって現れるという執念がありながらも、この世に残せるものがない…というマックスの姿が非常に哀感を感じさせます。彼が最後に残した「もの」とは何だったのか? 様々な解釈ができそうな、深みを持った短篇といえますね。

「もう一人の大統領候補」
 語り手の「私」は友人チャーリイを大統領候補になってもおかしくないと男だと断言します。チャーリイの少年時代のエピソードの中でも最大の事件は、脱走した虎に催眠術をかけるというものでした…。
 チャーリイは本当に虎に催眠術をかけたのか? 利発な少年の活躍もさりながら、彼の活躍を描く「私」の語り口にもユーモアが感じられる楽しい作品です。

「独房ファンタジア」
 死刑執行が近づいた若いメキシコ人の死刑囚ペレスは、絵を描くための道具と、独房の壁に壁画を描きたいという請願書を典獄に提出していました。
許可が下りるとペレスはさっそく壁に絵を描き始めます。時間が経つにつれ、その絵がドアを描いたものだということが判明しますが…。
 死刑執行までに絵は完成するのか? ペレスの意図は何なのか? 死刑執行までのタイムリミット・サスペンスでもあり、そのファンタスティックな結末も魅力的です。

「時に境界なし」
 物理学の助教授ウェイガンは警察のイリーン警部に呼び出されます。捜査の手伝いをしてほしいというイリーンはいくつかの事件を語り始めます。
 どの事件でも、容疑者は消えたきり行方が杳として知れません。彼らは「過去」へ逃亡したのではないかと話すイリーンに対し、ウェイガンは困惑しますが…。
 「過去」へ行ってしまった容疑者に対してさえ執念を燃やすイリーン警部のキャラクターが強烈です。彼の取った最終的な手段とは…?

「大胆不敵な気球乗り」
 チャーリイは妻子が留守の間、ふと空を飛びたいという衝動にかられます。百科事典の気球の項目を読み、さっそく気球を自作し完成にこぎつけたチャーリイは、夜になるのを待って気球で空に上がります。
 飛行している姿を、近所に住むレニダス夫人に目撃されたチャーリイは、次の夜、彼女から一緒に気球に乗せてほしいと懇願されます。やがて二人は気球で夜の冒険に出かけることになりますが…。
 深夜、気球で大空を飛ぶ男女二人組を描いた、大人の童話ともいうべき作品です。この二人がそれぞれ既婚者でありながら、恋愛感情が絡まず、純粋に「憧れ」を共有する…というスタンスが良いですね。結末も非常に洒落ています。

「コイン・コレクション」
 結婚して四年になる「私」は、妻マリオンへの態度が原因で彼女を怒らせてしまいます。ある日「私」はズボンのポケットに、見たことのない十セント銀貨が紛れ込んでいるのに気がつきます。銀貨にはウッドロー・ウィルソンが描かれていましたが、「私」はそれを新しい硬貨だと思い、その銀貨で新聞を買います。その直後「ココ・クーラ」と描かれたペンキ塗りの広告を目撃した「私」は自分が別の世界に来たことを確信します。自宅に戻った「私」を出迎えたのは妻である「ヴェラ」でした…。
 銀貨を媒介に訪れたのは、かっての恋人と別れずに結婚していたら…というパラレルワールドだったのです。その世界では様々なものが「現実」とは違っており、作家たちの寿命が延びた結果、知られざる新作が書かれたりもしています。
 日常的に別世界の硬貨が日常に紛れ込んでおり、また別の世界への移動の可能性も匂わせていたり、設定に厚みがありますね。

「愛の手紙」
 「ぼく」は、古道具屋で時代ものの机を手に入れます。机は取り壊し中のヴィクトリア朝風の大きな邸から出たもので、三段の小抽斗がついていました。ある夜抽斗を触っていた「ぼく」は、奥に隠し抽斗があることに気付きます。
 抽斗に隠されていたのは手紙でした。ヘレンという結婚間近の娘が、空想上の恋人に向かって書いた手紙らしいのです。ふと手紙に返事を書くことを思いついた「ぼく」は、返事をしたためると、当時の切手を貼り、古い郵便局のポストに投函します。
 その後二番目の隠し抽斗に隠されていた古びた手紙を見て「ぼく」は驚きます。自分が出した手紙に対し、1880年代にいるはずのヘレンの返事が入っていたのです…。
 過去の「物」を媒介にして過去とつながる…というフィニィお得意のテーマの作品ですが、ここでは人は移動できず、移動できるのは手紙だけ、という状況が描かれます。しかもやりとりできるのは抽斗の数だけ。つまり、手紙のやりとりも数通しか出来ないのです。その数通の手紙の中で、互いに恋愛感情を抱く男女ですが、その結末は悲恋に終わらざるを得ません。しかしそこに悲愴な感覚がないのは、フィニィの作家性ゆえでしょうか。「障害」は恋愛小説の要諦ともいえますが、ここで恋人たちを隔てるのは「時間の壁」なのです。
 時間テーマの作品はロマンスと相性がいいと言われますが、その中でも屈指の名編といっていい作品ではないでしょうか。



4150200025夢の10セント銀貨 (ハヤカワ文庫 FT 2)
ジャック・フィニイ 山田 順子
早川書房 1979-02-01

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『夢の10セント銀貨』(山田順子訳 ハヤカワ文庫FT)

 29歳の男性ベンは、結婚して四年になる妻ヘティとの間に倦怠期を感じていました。ある日ズボンのポケットに、ウッドロー・ウィルソンが描かれた硬貨を見つけたベンは、ニューススタンドでその硬貨を使った直後、周りの光景がいつもと違っていることに気がつきます。
 生産をやめたはずの車が走り、勤め先のビルがなくなっていたのです。ベンは自分が「現実」とは異なる世界に来ていることに気付きます。自宅に戻ると、そこにいた妻は、かっての恋人テシーでした。この世界では、ベンはヘティとは出会わずテシーと結婚していたのです。
 テシーとの生活を楽しむベンは、この世界では発明されていない品物の特許をとって大もうけしようと考え、さっそく弁理士事務所にコンタクトをとります。現れた弁理士はかっての知り合いカスターでした。カスターを自宅に招待したベンは、カスターが連れてきた婚約者の女性を見て驚きます。女性はかっての「妻」ヘティだったのです。結婚を予定しているという二人に嫉妬したベンは、彼らの仲を裂こうとあれこれ策略をめぐらしますが…。

 主人公が、それぞれ別の妻がいるパラレルワールドを行き来するという、どたばたファンタジーコメディです。短篇「コイン・コレクション」『ゲイルズバーグの春を愛す』収録)を長編化した作品で、序盤の展開は、ほぼ短篇版を踏襲しています。大きく異なるのは、短篇版には出てこないカスターというキャラの存在です。
 後半は、ヘティをめぐってのカスターとの争いがメインになり、スラップスティック色が濃くなっていきます。パラレルワールドの妻テシーは魅力的な女性として描かれるものの、ヘティが別の男と結婚しようとしていることがわかると、主人公の注意はそちらに完全に移ってしまいます。
 傑作とはいいにくい作品ではあるのですが、もちろん読みどころもいろいろあります。短篇では細かいところまで描かれなかったパラレルワールドの世界観や主人公夫婦の日常生活の描き込みなどは密になっており、読み応えは増していますね。
 とくにパラレルワールドの設定は面白いです。あるはずのものがなかったり、逆にないはずのものがあったりします。また、かっての知り合いが別の形で出てきたり、有名な映画俳優がこの世界では一般人として暮らしていたりするのです。
 後半は、パラレルワールド間の移動を利用して大金を手に入れようとしたり、移動が原因でのっぴきならない状態に陥ったりと、お話としては動きが多く読ませます。
 正直、主人公がかなり「身勝手」なキャラなので、好き嫌いは分かれると思いますが、ファンタジーコメディとして面白い作品です。



4042735037マリオンの壁 (角川文庫)
ジャック フィニイ Jack Finney
角川書店 1993-02

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『マリオンの壁』(福島正実訳 角川文庫)

 ニックと妻のジャンが移り住んだのは、かってニックの父親が若い頃住んでいたという家でした。家の壁紙をはがすとそこに現れたのは「マリオン・マーシュここに住めり」という文字。ニックの父親は、かって自分の恋人であったマリオンが書いたものだと話します。
 才能があったものの奔放な性格だったマリオンは、女優として成功するためハリウッドに行きたいと言います。その件で、ニックの父親と喧嘩し、直後に事故で死んでしまったというのです。マリオンが出演した映画をテレビでたまたま目にしたニックとジャンは、彼女の魅力に捕えられます。
 映画を見た直後、ジャンの様子が豹変します。自分はマリオンだと言い出したのです。どうやら映画女優の幽霊がジャンに取り憑いたらしいということを認識したニックは、マリオンの魅力に惹かれながらも、妻に対する裏切りになるのではないかと疑問を抱き始めます…。

 映画女優の幽霊に取り憑かれた妻とその夫を描く、ロマンティックなファンタジーコメディ小説です。
 本来おとなしい性格の妻ジャンと、映画女優マリオンが憑依したときの奔放な性格のギャップが読みどころです。妻を愛しながらも、マリオンのコケティッシュな性格にも惹かれてしまう夫ニックの逡巡が描かれます。
 マリオンは役者であり、憑依した状態で本来の人格ジャンのふりをしたりもするのだから非常にややこしい。やがてマリオンは自分の生前の夢をかなえるために、ニックとジャンに協力しろと言い出します。ついにはマリオンだけでなく、ニックにもある映画俳優が憑依することになります。
 マリオンの夢は実現するのか? ニックと妻ジャンとの関係は元に戻るのか? 不思議な三角関係が描かれるのと同時に、背景には1920年代のサイレント映画への作者フィニィの憧れの念が描かれます。やがてそれらの二つの流れがひとつになるという結末は非常に見事。
 フィニィの他の作品でも見られる、過去への郷愁は本作でも描かれますが、それがノスタルジックな作品のテーマとも連動しており、嫌味になっていません。非常に肩の力が抜けた感のある作品で、主人公(?)マリオンのキャラの魅力とも相まって、フィニィ作品の傑作の一つといっていいかと思います。



4042735010ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫)
ジャック・フィニイ 福島 正実
角川書店 1991-10-01

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4042735045フロム・タイム・トゥ・タイム―時の旅人 (角川文庫)
ジャック フィニイ Jack Finney
角川書店 1999-01

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『ふりだしに戻る』(福島正実訳 角川文庫)
『時の旅人』(浅倉久志訳 角川書店)(文庫化名『フロム・タイム・トゥ・タイム 時の旅人』角川文庫)

 1970年のニューヨーク、広告代理店でイラストの仕事をしているサイは、訪ねてきたルーブから奇妙な誘いを受けます。彼はある計画の候補者としてサイが選ばれたことを話します。サイが訪れた古いビルの地下には、1920年代の住宅街の精巧なセットが作られていました。
 このプロジェクトの目的は、過去の特定の時代に現代の人間を送り込むことだったのです。サイは、女友達ケイトの養父の父の自殺現場に残された青い封筒の謎を突き止めるため、1880年のニューヨークへ旅立ちますが、過去で出会った女性に恋をしてしまいます…。

 過去のある場所にいると思い込むことで、タイムトラベルをするという、フィニィ独自のタイムトラベル方法が使われている作品です。女友達ケイトの養父の父が自殺したという謎や、主人公が参加することになる国家的プロジェクトに関わる陰謀などもあるものの、作品のメインとなるのは、過去の時代・街に対する主人公のノスタルジーと、過去の時代の女性とのラブストーリーです。
 実際、作中の大部分で19世紀末の写真やイラストなどがこれでもかとばかりに紹介され、街の細かい描写が続きます。フィニィの「過去への郷愁」が最も強く出た作品といえますね。

 続編『時の旅人』では、サイが再びタイムトラベルを行います。前作よりも「歴史改変もの」的な要素が強くなっていますね。前作から20年以上時間が空いていることもあり、作品の感じも大分異なっています。正直、こちらは無理に読まなくてもいいかも。



4150116369盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)
ジャック・フィニイ ハヤカワ・デザイン
早川書房 2007-09-20

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『盗まれた街』(福島正実訳 ハヤカワ文庫SF)

 小さな街サンタ・マイラで医者を務めるマイルズは、かって思いを寄せていた女性ベッキィの訪問を受けます。ベッキィは、彼女の従姉妹ウィルマについての相談のためやってきたと言います。ウィルマは、父親であるアイラ伯父が本物でないと話しているというのです。
 マイルズは直接ウィルマから話を聞き、アイラ伯父に会ってみたものの、特におかしな点は感じることができません。似たようなことを訴える患者が増えてきたことについて、精神医学の権威であるマニーは、集団ヒステリーではないかと話します。
 そんな折、マイルズは街に住む作家ジャックから連絡を受けます。ジャックの家を訪れたマイルズは、そこにあった人間の死体らしきものに驚きます。しかもよく見ると、それは死体ではなかったのです…。

 小さな街で、家族が偽者になってしまったと訴える人間が急激に増えてきます。訴える人によれば、記憶も人格も体に残った傷跡さえも同じながら、何かが決定的に違うというのです。集団ヒステリーかと思われた事件は、やがて深刻な局面を迎えることになります。身近な人、大切な家族が、いつの間にか「何か」と入れ替わっている…という不安感が支配する序盤のサスペンスは強烈です。
 具体的に何がおかしいのかもわからず、入れ替わったと思われる「何か」の正体も全くわからないのです。
 後半、その「何か」の正体は判明するのですが、今度はその「何か」が自分と入れ替わって自分の存在が消滅してしまう…というアイデンティティーに関わる不安が前面に出てきます。

 侵略SFの古典的作品ですが、今読んでもそのサスペンスと恐怖感は強烈です。侵略SFは数あれど、この作品ほど、原初的な不安感・恐怖感にあふれた作品は少ないのではないでしょうか。作品発表時のアメリカの政治状況と絡めて語られることもある作品ですが、そうした文脈を抜きにしても、非常に面白く、ホラー小説としてみても第一級の作品です。


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ことば四十八手 (1980年) (楽しみと冒険〈9〉)
井上 ひさし
新潮社 1980-01

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「従兄レンの驚異の形容詞壺」(田村義進訳 井上ひさし編『楽しみと冒険9 ことば四十八手』新潮社 収録)

 ジャーナリストである従兄レンは、質流れの店で不思議な壷を買ってきます。消火栓に似た形のその壷を「ぼく」もレンも塩壷だと思っていました。ある日レンがコラムを書いた後、壷をいじっていると、いつの間にかコラムの文章が変わっていることに気がつきます。
 文章から形容詞と副詞が削られており、しかも文章は引き締まっていました。壷は形容詞と副詞を吸い取る「形容詞壷」だったのです。「形容詞壷」を利用して書いたレンのコラムはどんどん評価を上げていきますが…。

 短篇集『レベル3』が翻訳されるときに割愛されてしまった短篇なのですが、これが実に味わいがあって良い作品なのです。
 文中に、レンが書いた文章が記され、実際に「形容詞壷」によって削られた文章も引用されます。それがちゃんと引き締まった文章になっているのが説得力がありますね。文章を書くときの指針としてもためになる作品です。
 初訳は『ミステリマガジン1978年3月号』(田村義進訳 早川書房)。後に、井上ひさし編『楽しみと冒険9 ことば四十八手』(新潮社)にも再録されています。『ことば四十八手』は様々なことばに関する文章を集めたアンソロジーで、文章技術としての面白さも勘案されて再録されたものでしょうか。



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五人対賭博場 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジャック・フィニィ 伊東 守男
早川書房 1977-01

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『五人対賭博場』(伊東守男訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 19歳の大学生「ぼく」ことアルと、その友人ブリック、ガイ、ジェリーは、学生生活に鬱屈していました。何か大それたことがやりたいという彼らは、冗談交じりに賭博場を襲ったら…ということを話し合っていました。
 ウェイトレスのティナに入れ込むアルは、彼女のために大金が欲しくなり、襲撃計画を本気で考え始めます。ティナを加えた5人は、それぞれの事情から、やがて計画に本気で取り組み始めます。襲うのはネバダ州レノ、巨大な賭博場「ハロルド・クラブ」。厳重な警備の中、彼らの計画は成功するのか…?

 賭博場を襲撃し大金を盗み出そうという計画を描いたサスペンス作品です。
 主人公たち5人が賭博場襲撃計画のプランを立て、実現可能な案を考えていく過程がじっくり描かれます。アルバイトで務めたことのある者の経験や、実際に偵察に訪れたりと、計画が煮詰まっていく流れは、高揚感にあふれており楽しいところです。
 しかし考え方の違いから、5人の中にも不穏な空気が流れ始めます。計画の中止はできず、そのまま襲撃計画を実行することになりますが、さらにアクシデントが起こり、計画遂行の雲行きも怪しくなっていくのです。
 若者たちが大それたことをしたい…という序盤から、青春小説的な要素が濃いのですが、結末で彼らが遭遇することになる「現実」は、非常に苦い味わいです。ほろ苦さはフィニィ作品の常ではあるのですが、この作品のそれは一際強烈で、フィニィ作品の中でもいちばんと言っていいのではないでしょうか。



4150720541完全脱獄 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジャック・フィニイ 宇野輝雄
早川書房 2007-09-26

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『完全脱獄』(宇野輝雄訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)

 詐欺の容疑でサンクェンティン刑務所に収監されていたアーニー・ジャーヴィスは、脱獄をしようとして失敗し、しかも直後に看守を殴ってしまいます。その結果、法律上は死刑になる可能性があることに気付いたアーニーは、面会に訪れた弟ベンに脱獄の協力を要請します。
 ベンはアーニーの婚約者ルースと共に脱獄の計画を進めます。夫婦であると偽って刑務所の近くに家を借りた二人でしたが、折悪しく、すぐそばには刑務所に勤める刑務官ノヴァも住んでいました。不安を抱えながらも、脱獄計画をスタートさせる二人でしたが…。

 死刑になる可能性のある兄を救うために、兄の婚約者とともに兄を脱獄させようとする弟の物語です。脱獄の過程だけでなく、登場人物同士の心理にも多く触れられており、読み応えのある作品ですね。
 脱獄計画自体はわりとシンプルで、その計画の過程も地味に面白いところなのですが、それ以上に目を引くのが、登場人物たちの関係性です。収監されているアーニーは、一見魅力的ながら自尊心が異様に高く、後先をあまり考えない性格。弟のベンは逆に思慮深い性格です。
 あまりに思慮のないアーニーの行動に失望したルースは、ベンに惹かれていきます。ベンもまた義務の念からアーニー救出をしようとしますが、ルースに惹かれていくのを止めることはできません。不穏な思いを抱えながら計画を成功させることができるのか?

 救出される囚人が、ある種の「ならず者」なのがポイントで、計画の成否と同時に、「ならず者」アーニーが問題を引き起こさないか、ハラハラドキドキするという意味のサスペンスもありますね。
 脱獄計画自体もわりと小粒、主な登場人物たちも少数(登場人物表は5人のみ)なので、非常に読みやすい作品になっています。小粋なサスペンスといっていい作品です。



4150010099クイーン・メリー号襲撃 (ハヤカワ・ミステリ 1009)
ジャック・フィニイ 伊藤 哲
早川書房 1967-11

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『クイーン・メリー号襲撃』(伊藤哲訳 ハヤカワ・ミステリ)

 青年ヒューは、ついた仕事がどれも長続きせず、心の奥では冒険を求めていました。そんな折、再会した海軍時代の友人ヴィックは、冒険と大金が手に入る機会があると、ヒューをある計画に誘います。
 計画の立案者フランクは、計画について語ります。それは第一次大戦時に沈んだ潜水艦Uボートを引き上げ、その潜水艦を使って豪華客船クイーン・メリー号を襲撃する、というものでした。しかし40年以上海に沈んでいた潜水艦はそのままでは使えません。彼らは協力し、潜水艦に修理を施そうとしますが…。

 豪華客船クリーン・メリー号を襲撃し、莫大な金銭を奪い取ろうとする男たちの奇想天外な計画を描く、犯罪サスペンス作品です。
 潜水艦で客船を襲って大金を奪う…という、かなり単純な犯罪計画ではあるのですが、その過程や登場人物たちのやり取りが詳細に描かれ、飽きさせません。そもそも計画の実行が始まるのが、作品もかなり後半になってからなのです。それまでは、計画の準備が丁寧に描かれていきます。
 古い潜水艦が壊れていないのか、バッテリーは使えるのか、動力はどうするのか、といった問題を一つ一つクリアしていく過程は地味ながら面白く読ませます。並行して、主人公たちの性格や軋轢も描かれていきます。一味の紅一点ローザをめぐっての、主人公ヒューと船長モレノの対立も読みどころの一つ。
 冒険とロマンを求める主人公ヒューですが、計画の実行段階に及んで、現実と夢との落差を実感することになります。モラルを捨てて富を手に入れるのか?自らの正義感を守るのか?
 奇想天外な犯罪の一部始終を描く犯罪小説であり、青年の夢の実現と挫折を描く青春小説でもある作品です。読み終えた後に残るほろ苦さには、独特の味わいがありますね。



yorunobouken.png夜の冒険者たち (1980年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジャック・フィニイ 山田 順子
早川書房 1980-09

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『夜の冒険者たち』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 法律事務所に勤める青年リュウは、仕事も順調、恋人ジョーとの仲も問題ない状態ながら、鬱屈したものを抱えていました。ある夜眠れなくなったリュウは深夜一人で散歩に出かけます。夜の街の魅力に捕えられたリュウは、ジョーの他、親友ハリーとそのパートナーシャーリーの4人での深夜の散歩を提案します。
 無人の高速道路での大騒ぎを皮切りに、警官との追いかけっこを体験した4人の行動はエスカレートしていきます。それはやがて犯罪すれすれの行動にまで発展しますが…。

 夜の都会を舞台に、4人の男女の冒険を描くサスペンス作品です。
 序盤は若者たち4人が、深夜の街を散歩する…という、ロマンティックながら、いささか退屈しかねない展開なのですが、やがてスリルを求める彼らの行動がエスカレートしていき、警官との追跡が始まるに及んで、俄然サスペンスが高まってきます。
 基本的に主人公たちが行うのは「いたずら」なのですが、それを理解しない警官たちとの間に軋轢を引き起こしてしまいます。引くべきところでも相手を挑発してしまい、事態は悪化していきます。しかし4人は中途半端に「いたずら」をやめようとはしません。
 主人公たちは、最後の最後まで「いたずら」を繰り返し、結末では非常に大掛かりな「いたずら」を計画します。いい大人が子供のようないたずらを繰り返すという、ある意味「子供っぽい」物語ではあるのですが、その一貫性が非常に心地よいのです。
 舞台となる夜の街も非常に雰囲気があります。中盤で展開される深夜の図書館への侵入は何とも魅力的。サスペンスというべきか冒険小説というべきか。言うならば「大人気ない大人の冒険小説」。フィニィならではの不思議な味わいの作品です。


フィニィのオマージュおよび関連作品についても、いくつか紹介しておきたいと思います。



4488612067万華鏡 (ブラッドベリ自選傑作集) (創元SF文庫)
レイ・ブラッドベリ 中村 融
東京創元社 2016-10-20

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レイ・ブラッドベリ「狐と森」(中村融訳『万華鏡』創元SF文庫 収録)

 ジャック・フィニィの短篇「おかしな隣人」の中で言及されるレイ・ブラッドベリの短篇です。タイトルは言及されず、内容だけが紹介されるのですが、ほぼこの作品と断定してよいかと思います。

 国家が国民を管理する未来社会で、タイムマシンで時間旅行を許された夫婦が偽名を使い、現代のメキシコに逃げ込みます。しかし秘密警察の追っ手らしき男が現れ…という物語です。
 読んでいて、なるほど、フィニィの「おかしな隣人」の発想元はこれか…と思わせる作品です。ただ、ブラッドベリ作品に比べ、フィニィの料理の仕方はユニークです。フィニィの方は、未来社会に失望した国民たちが皆過去に逃げ出してしまい、国が成り立たなくなってしまうのです。
 飽くまで生真面目なブラッドベリ作品と、風刺的な目を失わないフィニィ作品、それぞれの作家の特徴がよく出ていて面白いですね。



4150308039サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)
新城 カズマ
早川書房 2005-07-21

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新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』(ハヤカワ文庫JA)

 時間跳躍能力を持ったヒロインとその仲間たちをめぐる青春小説です。作中でヒロインの能力を知った仲間たちが、タイムトラベルを扱ったフィクションを集めて研究するというくだりがあって、非常に楽しいです。
 『ジェニーの肖像』『リプレイ』『トムは真夜中の庭で』など、沢山のタイムトラベル作品が言及されるのですが、中でも、ジャック・フィニィ作品の言及が多いのです。登場人物がさりげなく『ゲイルズバーグの春を愛す』を読んでいたり、浴衣の柄が『ゲイルズバーグの春を愛す』の表紙画になっていたり。
 浴衣の柄に関しては、二巻の表紙(全二巻です)が、ちょうどヒロインがそのフィニィ柄の浴衣を着ているイラストになっているという凝り様です。また、登場人物たちもフィニィ作品は別格として扱っているようで、セリフの端々にそれが見られますね。
 作中から一部引用してみましょう。

 「フィニィ的思考の勝利だわ」謳うように、響子の御託宣。「過去への憧れ。失われたものへの想い。『ふりだしに戻る』-『レベル3』-『愛の手紙』。でなきゃマシスンの『ある日どこかで』とか。過去を望まない人間がいるかしら?それこそお目にかかりたいものだわ!」

 登場人物たちがタイム・トラベル作品を分類した表が実際に載せられているのですが、その分類の仕方がユニークです。縦軸が「過去が改変可か不可か」、横軸が「悔恨欲と俯瞰欲」で、4つに区切られた表に作品が分類されています。
 例えば、ウェルズ『タイム・マシン』は俯瞰欲が優勢で過去改変は不可、フィニィ「愛の手紙」は悔恨欲が優勢で過去改変可に分類されています。「過去の改変」はともかく「悔恨欲と俯瞰欲」という分類は非常にユニークですね。でも言われてみると確かにうなずける考え方ではありますね。



409408134820世紀の幽霊たち (小学館文庫)
ジョー ヒル Joe Hill
小学館 2008-09-05

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ジョー・ヒル「黒電話」『20世紀の幽霊たち』小学館文庫 収録)

 少年ジョン・フィニィは、誘拐犯アルにさらわれ地下室に閉じ込められてしまいます。地下室内に黒い旧式の電話があるのを見つけますが、その電話線は切られていました。数日後、希望を失いかけたフィニィは、切られているはずの電話が鳴っているのに気づきます…。
 作風的には全くフィニィとは異なる作品なのですが、フィニィへのオマージュがところどころに見られます。
 主人公の少年の名前がフィニィであり、作中でも名前のジョンではなく苗字のフィニィで描写されます。殺人鬼の通称が〈ゲイルズバーグの人さらい〉だったりと、ジャック・フィニィを意識した作品です。実際作者のあとがきでも、フィニィに対し最大級の賛辞を送っています。
 お話は、つながるはずのない電話から聞こえた声に従い、地下室から脱出しようとする少年を描いていて、ちょっと幻想がかったサスペンス短篇になっています。削除されたという最終章も同じ本に収録されていて、こちらも合わせて読むと興趣が増しますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第15回読書会 開催しました
4150200262ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)
ジャック・フィニイ 福島 正実
早川書房 1980-11-01

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 7月29日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第15回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め14名でした。
 テーマは、第1部「課題図書 ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』(福島正実訳 ハヤカワ文庫FT)」、第2部「参加者が選ぶ!自分だけのベスト10」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部は、課題図書として、ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』(福島正実訳 ハヤカワ文庫FT)」をとり上げました。フィニィを初めて読むという人もいましたが、思っていたほどロマンティック一辺倒ではなく、現実的な要素やほろ苦さもある作品集だという意見が多かったように思います。
 一番人気があったのは、やはり「愛の手紙」。他に「大胆不敵な気球乗り」や「独房ファンタジア」なども人気がありました。

 第2部は「参加者が選ぶ!自分だけのベスト10」。それぞれ事前に参加者にベストを挙げていただき、それについて話していこうという企画です。テーマは自由で、ジャンル、ベストの数、海外作品か日本作品か、などについてもそれぞれの裁量に任せていたので、本当に様々なベストが集まった感じです。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


●第1部「課題図書 ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』(福島正実訳 ハヤカワ文庫FT)」

・フィニィへのオマージュも入った時間SF小説、新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー』の紹介。作中で紹介される、時間SFの分類軸が非常にユニーク。表紙絵の浴衣がハヤカワ文庫版の『ゲイルズバーグの春を愛す』になっているなど、小ネタも楽しい。

・『ゲイルズバーグの春を愛す』の表紙絵、内田善美のイラストの影響は非常に強いと思う。

・藤子不二雄A『憂夢』の紹介。フィニィへのオマージュがある。

・『盗まれた街』は、身近なものがすり替わる恐怖が感じられる。子供のころ、親が本物の親ではないのではないか、などと考えたことにも通じるものがある。

・『ふり出しに戻る』の前半の過去の街の描写は非常に細かい。作者が調べた資料が反映されているのだろうが、偏執的なほど。

・『時の旅人』について。『ふりだしに戻る』の続編だが、つじつまが合わないところがあったりと、完成度はそんなに高くない。

・長篇『マリオンの壁』について。女優の幽霊が夫婦の妻に憑依する話。フィニィにしては珍しく、過去より未来へのベクトルが強い?

・フィニィの本質は「第二のチャンス」。やり直したいという欲望が原動力ではないか。

・スティーヴン・キング「刑務所のリタ・ヘイワース」について。特定の箇所にずっと気がつかないのは不自然な気がする。

・フィニィは題材が「過去」なので古いイメージが強いが、小説技法的には非常にモダンな人だと思う。

・フィニィの短篇が発表された雑誌が男性読者がメインターゲットなので、その当時の男性が喜ぶタイプの話が多い?

・フィニィ作品では、個人の強烈な意思の力が現実を変えてしまう…という話が多い。似たようなテーマの作品では、小松左京「召集令状」がある。

・フィニィのミステリ・サスペンス作品について。大体どれも「ほろ苦さ」がある。超自然現象が起きなくても、フィニィ作品に共通する味わいがある。

・フィニィはいろんなジャンルの作品を書いていて、すごく器用な作家。

・『五人対賭博場』『クイーン・メリー号襲撃』について。どちらも計画を立てていく部分が面白い。『クイーン・メリー号襲撃』では主人公が計画実行の時点で嫌気が差してしまったりと、計画は空想のあいだの方が楽しい…という感が強い。

・レイ・ブラッドベリ「雷のような音」について。ささいなことから歴史が変わってしまうというタイムトラベルもの。

・フィニィは厳密にタイム・パラドックスやパラレルワールドについて書かないが、逆にそれをしてしまうと「個人の物語」ではなくなってしまうからかもしれない。

・タイムトラベルものは、未来に行くより過去に行くものの方が多い気がする。

・時代によって未来の描写も変わってくる。昔は交通機関などの要素が強かったが、現代は電脳空間的な要素が強い。

・フィニィ作品で過去への郷愁を持つ人物が多く登場するが、同じような考え方を持つ仲間を集めたりしようとしないところが気になる。あくまで個人的な話に終始することが多い。

・フィニィ作品が、SF系の人だった福島正実による翻訳が多いせいもあるのだろうが、日本のSF作家たちに与えた影響が大きいのではないか。

・日本SFの理論派だった福島正実が、フィニィ作品やハインライン『夏への扉』など、ロマンティックな作品の紹介者でもあったことは面白い。

・アメリカ人は歴史が浅い分、近い歴史に対する重いが強い? 自分の先祖ではない古い家族写真などを集める人がいると聞くが、それもその例証かもしれない。


■「ゲイルズバーグの春を愛す」
 イリノイ州ゲイルズバーグで起こる不思議な事件を、ドキュメンタリータッチで描いた作品。古き良き街で頻発する不思議な現象の目的は一体何なのか?

・アイディアが面白い。
・「失踪人名簿」(『レベル3』収録)とも印象が似ている。
・一見「過去」を守ろうとするいい話に見えるが、作中で起こる現象がずっと続くのだとするとちょっと怖い話である気もする。内容は違うが『盗まれた街』とも通じるところがある?
・同じアイディアでスティーヴン・キングが書いたら面白そう。
・「過去」と「現在」とのせめぎあいで、抵抗してはいるけれど「過去」は少しづつ負けていく…という話だと思う。


■「悪の魔力」
 街歩きが趣味の「ぼく」はある日、マジック・ショップで入荷したばかりという不思議な眼鏡を手に入れる。それをかけると女性の服が透けて見える。同じく街歩きが趣味の同僚フリーダをその眼鏡で覗いた「ぼく」は驚くが…。

・道具屋に納品をしている男は「悪魔」?
・この手の話では魔法の道具の使用に対する代償を要求されることが多いが、この作品ではそれがない。
・フリーダのキャラクターは、当時の時代を考えると先進的な女性像だと思う。
・男性に都合のいい展開?


■「クルーエット夫妻の家」
 富裕なクルーエット夫妻が過去の家の図面に魅せられたことから、その過去の様式で家を建てるという物語。実業家であり非常に現実的であった夫妻が、家の影響でだんだんと外界との接触をなくしていく。

・結末はホラーチック。
・描かれないが、配管や水周りが気になる。日常生活の描写がないのがポイント。
・雰囲気的には家ごと過去に行ってしまいそうな感じがするが、最後まで明確な超自然現象が起きないのもポイントか。
・家の「幽霊」? クルーエット夫妻の次に住む住人は家に憑かれてしまうのではないか。ジャクスン『丘の屋敷』にも通じるものがある。


■「おい、こっちをむけ!」
 作家マックス・キンジェリーは、才能豊かながら経済的にも恵まれず不遇な日々を送っていた。彼の友人になった「わたし」は妻ともども、彼の面倒をいろいろと見てやっていたが、マックスは流行性感冒であっさりと死んでします。彼の死後半年して「わたし」は、街中でマックスの「幽霊」を見かける。マックスは何のために現れたのか…?

・フィニィの自画像が反映されている?
・結末の解釈の難しさ。幽霊になったマックスが伝えたかったものは? つけを払ってもらえたかっただけ?
・幽霊になったのは、作品を再び書きたいため?
・自分の名前を残したいという欲望が描かれている。
・長篇『マリオンの壁』との共通点。道半ばで死んでしまった芸術家の執念。


■「もう一人の大統領候補」
 語り手の「私」は友人チャーリイを大統領候補になってもおかしくないと男だと断言する。チャーリイの少年時代のエピソードの中でも最大の事件は、脱走した虎に催眠術をかけるというものだった…。

・あんまりフィニィっぽくない作品?
・作中の少年は「ハックルベリー・フィン」を思わせる。ホラ話風?
・連作のはじめっぽい雰囲気がある。いくつものエピソードが続くようなイメージ。
・思い出話と見せかけて「演説原稿」というのがポイント。


■「独房ファンタジア」
 死刑執行が近づいた若いメキシコ人の死刑囚ペレスは、絵を描くための道具と、独房の壁に壁画を描きたいという請願書を典獄に提出していた。ペレスはさっそく壁に絵を描き始めるが、時間が経つにつれ、その絵がドアを描いたものだということが判明する。

・フィニィ作品のイメージから、壁に描かれるドアから脱出する光景を想像してしまう。
・ホラー好きとしては、ドアから逆に何かが出てくると思った。
・壁のドアから見える女性は奥さん?
・現象は一回限りの奇跡なのか、それともペレスが持っていた能力なのか?
・絵を描く行為そのものによって、現実が変容する話。
・もしかしたら、家にいる奥さんの側からもペレスが見えていたのではないか?そうすると、ペレスの行為は自分が見たいというより、相手に見せたいという意思の方が強いという解釈もできる。
・典獄が不安を抱きつつ、絵を描く行為を黙認するのが、雰囲気を高めている。


■「時に境界なし」
 物理学の助教授ウェイガンは警察のイリーン警部に呼び出される。捜査の手伝いをしてほしいというイリーンはいくつかの事件を語り始める。どの事件でも、容疑者は消えたきり行方が杳として知れない。彼らは「過去」へ逃亡したのではないか…。

・警部自身を語り手にしないところが上手い。他の作品でも当事者からずらしたキャラクターを語り手に設定することが多いように思う。警部自身を語り手にすると「感じが悪い」というのもあるかも。
・警部が歴史を変えてしまう…という可能性が高いのだが、そこらへんがぼかされている。
・過去へ行った人が自分の存在を知らせるために、未来に対して報告するところが律儀。


■「大胆不敵な気球乗り」
 チャーリイは妻子が留守の間、ふと空を飛びたいという衝動にかられる。百科事典の気球の項目を読み、さっそく気球を自作し完成にこぎつけたチャーリイは、夜になるのを待って気球で空に上がる。
 飛行している姿を、近所に住むレニダス夫人に目撃されたチャーリイは、次の夜、彼女から一緒に気球に乗せてほしいと懇願される。やがて二人は、気球で夜の冒険に出かけることになるが…。

・ブラッドベリっぽい雰囲気がある。ロマンチックなおとぎ話。
・恋愛に発展しないところがポイント。二人の仲が「同士」に近い。
・作中に使われる歌が良い。You tubeで実際に聞ける。『タイタニック』の甲板で演奏されていたのと同じ曲らしい。
・レニダス夫人のストッキングの色が気になる。フェティッシュな面を感じる。夫人がサーカスの空中ブランコ乗りでも演じているような心境を表わしている?


■「コイン・コレクション」
 結婚して四年になる「私」は、妻マリオンへの態度が原因で彼女を怒らせてしまう。ある日「私」はズボンのポケットに、見たことのない十セント銀貨が紛れ込んでいるのに気がつく。その銀貨で新聞を買った「私」は別世界に来てしまう。その世界の自宅で「私」を出迎えたのは妻である「ヴェラ」だった…。

・コインで別世界に行ける話。ガジェットとしては魅力的。
・男性にとって都合がいい話? 長篇版『夢の10セント銀貨』はさらに都合が良くなっている。
・第二の世界だけでなく、他の世界にも行ける可能性を示唆している。
・ニューススタンドがきっかけなのは、いろんな世界のコインが混ざってくるから?
・リチャード・マシスンの『ある日どこかで』でコインが出てくるのは、この作品の影響?

※長篇『夢の10セント銀貨』
・女性に対する扱いが雑な気がする。
・元妻に執着するようになって以降、現妻がほとんど描かれなくなってしまう。
・パラレルワールドに転移しているということは、別世界の自分も別の世界に移行しているのではないか? そのあたりの設定は厳密でない。
・パラレルワールドの描写は楽しい。商品の名前が違っていたり、実在の俳優が一般人として登場したりする。


■「愛の手紙」
 「ぼく」は、古道具屋で時代ものの机を手に入れる。机は取り壊し中のヴィクトリア朝風の大きな邸から出たもので、三段の小抽斗がついていた。ある夜抽斗を触っていた「ぼく」は、奥に隠し抽斗があることに気付く。
 抽斗に隠されていたのは手紙だった。ヘレンという結婚間近の娘が、空想上の恋人に向かって書いた手紙らしい。ふと手紙に返事を書くことを思いついた「ぼく」は、返事をしたためると、当時の切手を貼り、古い郵便局のポストに投函する。
 その後二番目の隠し抽斗に隠されていた古びた手紙を見て「ぼく」は驚く。自分が出した手紙に対し、1880年代にいるはずのヘレンの返事が入っていたのだ…。

・三通しか手紙をやり取りできないという設定が秀逸。
・一通の手紙で人生を変えられてしまった女性は幸福だったのか?
・当時の女性として、ヘレンに対する結婚への圧力があったのではないか?
・ヘレンの家は、兄が跡継ぎ、家もそれなりの資産家らしいという描写があるので、独身でも生きることができた?
・ヘレンは、若死にではなく長生きしている。その時間の経過を考えると、切なさを感じる。若死しているという話であれば美しい話になったろうが、そうしないところが名作たる所以。
・ヘレンは結婚相手がよっぽと嫌だったのか? もしかしたら語り手の手紙が結婚したくないという意志を後押ししてくれたのかもしれない。
・手紙の相手は語り手でなくても良かった?
・福島正実訳では重要なところで訳に問題がある部分がある。


●第2部「参加者が選ぶ!自分だけのベスト10」

 内容を全て取り上げると膨大になってしまうので、当日挙げられた、参加者それぞれのリストを紹介する形で代えさせてもらいたいと思います。

■ユーモア幻想小説ベスト10
ジョン・コリア「恋人たちの夜」
クロード・クロッツ『パリ吸血鬼
アルベルト・モラヴィア「夢に生きる島」
マイクル・Z・リューイン『神さまがぼやく夜』
アルジャーノン・ブラックウッド『人間和声』
トニー・デュヴェール『小鳥の園芸師』
H・F・セイント『透明人間の告白』
マルセル・エーメ「サビーヌたち」
アンリ・トロワイヤ「恋のカメレオン」
ジョン・ケンドリック・バングズ「ハロウビー館のぬれごと」

■海外SF・幻想文学短編集ベスト
ヒュー・ウォルポール「銀の仮面」
イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」
トルーマン・カポーティ「夜の樹」
レオ・ぺルッツ「アンチクリストの誕生」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」
トマス・M・ディッシュ「アジアの岸辺」
サミュエル・R・ディレイニー「ドリフトグラス」
ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」
バリントン・J・ベイリー「シティ5 からの脱出」
コードウェイナー・スミス「シェイヨルという名の星」

■日本SF・幻想系短編集ベスト
山尾悠子「夢の棲む街」
荒巻義雄「柔らかい時計」
石川宗生「半分世界」
津原泰水「11 eleven」
水見稜「マインド・イーター」
山野浩一「鳥はいまどこを飛ぶか」
飛浩隆「自生の夢」
伊藤計劃「The Indiff erence Engine」
瀬名秀明「希望」
宮内悠介「盤上の夜」

■超絶SF短編(よくわからないところがあるけどとにかく凄いと思わせる作品)
デイヴィッド・I・マッスン「旅人の憩い」
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「愛はさだめ、さだめは死」
テッド・チャン「息吹」
グレッグ・イーガン「ルミナス」
スタニスワフ・レム「仮面」
ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」
シオドア・スタージョン「海を失った男」
荒巻義雄「大いなる正午」
石原藤夫「宇宙船オロモルフ号の冒険」
酉島伝法「皆勤の徒」

■びっくりした小説(主にミステリ中心)
T・S・ストリブリング「カリブ諸島の手がかり」
ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ「嘲笑う闇夜」
ダニー・Z・ダニエレブスキー「紙葉の家」
フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」
マイクル・ビショップ「誰がスティーヴ・クライを造ったか」
殊能将之「ハサミ男」
島田荘司「斜め屋敷の犯罪」
円城塔「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」(年刊日本SF 傑作選『虚構機関』収録)
麻耶雄嵩「神様ゲーム」
法月綸太郎「ノックス・マシン」

■家に関する短篇ベスト10
1.ブライアン・エヴンソン「ウインドアイ」
2.スティーヴン・ミルハウザー「屋根裏部屋」
3.カリール・ジブラン「柘榴」
4.トーマス・マン「衣裳戸棚」
5.リサ・タトル「クローゼットの夢」
6.マグナス・ミルズ「からっぽの家」
7.トーマス・オーウェン「売り別荘」
8.アルベルト・モラヴィア「二重生活」
9.ウォルター・デ・ラ・メア「謎」
10.フィッツ= ジェイムズ・オブライエン「なくした部屋」

■繰り返し読みたい短編小説(or シリーズ) ベスト10
1.ピーター・トレメイン『アイルランド幻想』 or こちらは光文社文庫からですが、光文社古典新訳文庫の数冊を含む(ブラックウッドやマッケン、コッパード、ブッツァーティ、コルタサルなどの短編集)
2.ロバート・ブロック『血は冷たく流れる』 or 異色作家短編集all
3.デヴィット・イーリイ『ヨットクラブ』 or 晶文社ミステリの中の数冊
4.ロバート・トゥーイ『物しか書けなかった物書き』 or KAWADE MYSTERY 3 長編を除く10 冊
5.リチャード・ミドルトン『幽霊船』 or 魔法の本棚 all
6.オーガスト・ダーレス『ジョージおじさん~十七人の奇怪な人々』 or ナイトランド叢書 10冊程
7.ウイリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』 or 短編小説の快楽all
8.ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』 or ミステリーの本棚 の中の2冊
9.エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』 or 奇想コレクションall
10.C・L ムーア『シャンブロウ』 or ダークファンタジー・コレクション の中の6冊程

■読んでみたら期待以上に面白かった長編小説ベスト10
1.アルベール・サンチェス・ビニョル『冷たい肌』
2.ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』
3.ロバート・ブロック『ザ・スカーフ』
4.ニコール・クラウス『ヒストリー・オブ・ラブ』
5.スーザン・ヴリーランド『ヒヤシンスブルーの少女』
6.ドナルド・タイスン『アルハザード(上下2冊)』
7.ロード・ダンセイニ『エルフランドの王女』
8.J・R・R・トールキン『ホビットの冒険~指輪物語(全10冊)』
9.C・S・ルイス『ナルニア国物語(全7 冊)』
10.アーシュラ・K・ル・グウィン『ゲド戦記(全6冊)』

■特にファンという意識なく集まってしまった女性探偵シリーズものベスト
スー・グラフトン《キンジー・ミルホーン》『アリバイのA』~『ロマンスのR』までの中の10冊ちょっと 
サラ・パレッキー《V・I ウォーショースキー》『サマータイムブルーズ』~『ハードタイム』まで中の6冊
パトリシア・コーンウェル《ケイ・スカーペッタ》『検視官』~初期のシリーズで6冊
アレグザンダー・マコーレ・スミス《マ・ラモツエ》『№ 1 レディーズ探偵社』の計4 冊
ジャネット・イヴァノビッチ《ステファニー・ミルズ》『私が愛したリボルバー』~の4 冊
ローラ・ダラム《アナベル》『ウエディングプランナーは眠れない』計3冊
アリス・キンバリ《ペネロピー》『幽霊探偵からのメッセージ』計3冊
C・C・ベニスン《ジェインビー》『バッキンガム宮殿の殺人』計3冊
ジル・チャーチル《ジェーン》『ゴミと罰』と『死の拙文』の2冊
P・D・ジェイムズ《コーネリア・グレイ》『女には向かない職業』計2冊

■ハヤカワ文庫SFの10冊(順不同)
コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』
グレッグ・イーガン『ディアスポラ』
ジョン・ヴァーリィ『残像』
シオドア・スタージョン『人間以上』
アルカジイ・ストルガツキ ー/ボリス・ストルガツキー『ストーカー』
テッド・チャン『あなたの人生の物語』
J・ティプトリー・ジュニア『星々の荒野から』
チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』
アーシュラ・K・ル=グウィン『闇の左手』
アレクセイ・パンシン『成長の儀式』

■好きなSF小説ベスト10
バリントン・J・ベイリー『ゴッドガン』
グレッグ・イーガン『ディアスポラ』
アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』
ピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』
アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』
ロバート・L・フォワード『竜の卵』
H・G・ウェルズ『タイムマシン』
ケン・リュウ『母の記憶に』
ジェイムズ・ティプトリー・Jr『愛はさだめ、さだめは死』
ウラジーミル・ソローキン『テルリア』
番外:ハーラン・エリスン『火の鳥』

■ジャック・ケッチャム ベスト10
1.『オフシーズン』グロ度★★★
2.『オンリーチャイルド』グロ度★★
3.「川を渡って」(中編集『閉店時間』収録)グロ度★★★
4.『老人と犬』グロ度★
5.『森の惨劇』グロ度★★★
6.「閉店時間」(中編集『閉店時間』収録)グロ度★
7.『隣の家の少女』グロ度★★
8.「ヒッチハイク」(中編集『閉店時間』収録)グロ度★★
9.『黒い夏』グロ度★★
10.『ザ・ウーマン』グロ度★★★

■ゴシック叢書プラス
海外篇 全10巻13冊
トルーマン・カポーティ/ カーソン・マッカラーズ「遠い声遠い部屋/ 悲しき酒場の唄」マルキ・ド・サド「悪徳の栄え」(Ⅰ、Ⅱ)
ジュリアン・グラッグ/ ジョルジュ・ローデンバック「アルゴールの城にて/ 死都ブリュージュ」
シャーリイ・ジャクスン「丘の屋敷」
スティーヴ・エリクソン「彷徨う日々」
ガルシア・マルケス「百年の孤独」
ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」(Ⅰ、Ⅱ)
デュ・モーリア「レベッカ」
マーヴィン・ピーク「タイタス・グローン」
短編集(Ⅰ、Ⅱ)
 シャーロット・パーキンス・ギルマン「黄色い壁紙」
 ウィリアム・フォークナー「エミリーに薔薇を」
 カルロス・フェンテス「アウラ」
 アンナ・カヴァン「母斑」
 コルタサル「占拠された屋敷」
 エッサ・デ・ケイロース「縛り首の丘」
 M・R・ジェイムズ「秦皮の樹」
 マルキ・ド・サド「ロドリグあるいは呪縛の塔」
 デュ・モーリア「モンテ・ヴェリタ」
 ヴァージニア・ウルフ「憑かれた家」
 エリザベス・ボウエン「猫は跳ぶ」
 イサク・ディネセン「ノルデルナイの大洪水」
 アンデルセン「赤い靴」
 アンリ・ボスコ「シルヴィス」

日本篇 全10巻
夢野久作「ドグラ・マグラ」
村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」
江戸川乱歩「孤島の鬼」
山尾悠子「ラピスラズリ」
澁澤龍彦「高丘親王航海記」
中井英夫「虚無への供物」
桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
小野不由美「残穢」
野阿梓「凶天使」
短編集
 上田秋成 雨月物語より「浅茅ケ宿」「蛇性の婬」
 筒井康隆「遠い座敷」
 星新一「門のある家」
 野坂昭如「骨餓身峠死人葛」
 平井呈一「真夜中の檻」
 小川未明「赤い蝋燭と人魚」
 小川未明「火を点ず」
 小松左京「くだんのはは」
 半村良「箪笥」
 内田百閒「サラサーテの盤」
 吉村昭「少女架刑」

※「ゴシック叢書プラス」に関しては、shigeyukiさんのブログにも公開されていますので、詳細はそちらもご参照ください。
漂着の浜辺から

■海外文学ベスト10
アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』
マルセル・ブリヨン『砂の都』
ロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏』
パスカル・キニャール『アマリアの別荘』
クロード・シモン『三枚つづきの絵』
イスマイル・カダレ『砕かれた四月』
ダニロ・キシュ『砂時計』
パオロ・ジョルダーノ『素数たちの孤独』
ウィリアム・ギャディス 『カーペンターズ・ゴシック』
ヴォルフガング・ヒルビヒ『私』

■復刊してうれしかったリスト
「37 の短篇」
「異色作家短編集」
「殺人者と恐喝者」(カーター・ディクスン)
マクロイ「殺す者と殺される者」「暗い鏡の中に」「幽霊の2/3」
デュ・モーリア「レイチェル」(「愛と死の記録」)

■恋愛に主眼を置いたミステリ
クリスティ「パーカー・パインの事件簿」
クリスティ「ナイル殺人事件」
ディクスン・カー「眠れるスフィンクス」
※番外編 ポピー・Z・ブライト「絢爛たる屍」

■ミステリの内容よりも主人公の人生が気になる
ジェーン・デンティンガー「別れのシナリオ」の「ジョスリン」シリーズ(3冊)
デヴィット・ハンドラーの「ホーギー」シリーズ
ドロシー・キャネル「未亡人クラブ」の「エリー」シリーズ(早川)
マーサ・グライムズ「パブ」シリーズ
エリザベス・ジョージの「リンリー」シリーズ
ハイスミス「リプリー」シリーズ

■自分だけのベスト10(2018夏)
1.『レベッカ』(新潮文庫)
2.『モレルの発明』(水声社)
3.『ドン・キホーテ後編(一)』(岩波文庫)
4.『火の書』(国書刊行会)
5.『火刑法廷』(ハヤカワ文庫)
6.『こちらゆかいな窓ふき会社』(評論社)R・ダール
7.『それから』(岩波文庫)
8.『宇宙戦争』(ハヤカワ文庫)
8.『定本 映画術』(晶文社)ヒッチコック、トリュフォー
10.『錯乱のニューヨーク』(ちくま学芸文庫)

■本棚にあった荒俣宏ベスト
1.『決戦下のユートピア』
2.『開化国助っ人奮戦記』(小学館ライブラリー)
3.『パラノイア想像史』(ちくま文庫)
4.『大東亞科學綺譚』(ちくま文庫)
5.『広告図像の伝説』(平凡社ライブラリー)
6.『奇想の二十世紀』(NHKライブラリー)
7.『アラマタ図像館5エジプト』(小学館文庫)
8.『黄金伝説』(集英社)

■思い出に残る怖い話10
「石子詰めの三作」(奈良の昔話)
ゴーゴリ「ヴィイ」
上田秋成「吉備津の釜」(『雨月物語』)
レイ・ブラッドベリ「十月のゲーム」(『とうに夜半を過ぎて』)
シャーリイ・ジャクスン「くじ」
スタンリイ・エリン「特別料理」
ラフカディオ・ハーン「鳥取の布団」
田中貢太郎「竃の中の顔」
「柏槙(びゃくしん)の話」(『グリム童話』)
スティーヴン・キング「ミスト」

■オールタイムベスト海外編
1.ロバート・F・ヤング『時が新しかったころ』
2.アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』
3.ジョー・ウォルトン『図書室の魔法』
4.ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』
5.シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』
6.フレドリック・ブラウン『天の光はすべて星』
7.アンディ・ウィアー『火星の人』
8.エレノア・ホジマン・ポーター『少女パレアナ』
9.トム・ゴドウィン他『冷たい方程式』
10.ニール・シャスタマン『僕には世界がふたつある』

■「動物」テーマのホラー(極私的)ベスト10
1.スティ-ブ・オルテン「メガロドン」
2.吉村昭「羆嵐(くまあらし)」
3.エドガー・アラン・ポー「黒猫」
4.篠田節子「神鳥 -イビス-」
5.ダフネ・デュ・モーリア「鳥」
6.西村寿行「滅びの笛/滅びの宴」
7.スティーヴン・キング「魔性の猫」
8.ショーン・ハトスン「スラッグス」
9.ジェームズ・ハーバート「鼠」
10.ピーター・ベンチリー「ビースト」

その他、
パトリシア・ハイスミス「すっぽん」
サキ「スレドニ・ヴァシュター」


「第16回読書会」は、8月26日(日)に開催予定です。テーマは、

第一部:スティーヴンスンの怪奇と冒険
課題図書
ロバート・ルイス・スティーヴンスン『新アラビア夜話』(南條竹則/坂本あおい訳 光文社古典新訳文庫)
ロバート・ルイス・スティーヴンスン『マーカイム・壜の小鬼 他五篇』(高松雄一/高松禎子訳 岩波文庫)

第二部:〈奇妙な味〉について考える

詳細は後日あらためて公開したいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

最近読んだ本
4336062463夢のウラド: F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集
フィオナ マクラウド Fiona Macleod
国書刊行会 2018-02-27

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フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ『夢のウラド』(中野善夫訳 国書刊行会)

 スコットランドの作家ウィリアム・シャープの本名名義の作品と、彼が女性名フィオナ・マクラウド名義で発表した作品、それぞれの作品を収録した作品集です。
 マクラウド名義の作品は、全体に「死」の香りが強く、形容するなら「昏い」「夢幻的な」ファンタジーでした。知識を持つ賢者も、全能の王も、みな等しく死の世界へ消えてゆく…といった感が強いです。
 ちょっと意外だったのは、シャープ名義の作品。マクラウド作品と同様「昏さ」はあるのですが、マクラウド名義よりも「地上的」で人間味のある作品が多いのです。巻末の「〈澱み〉のマッジ」「ヴェネツィア舟歌」は殊にその要素が強いです。
 「〈澱み〉のマッジ」は、貧困と暴力に囲まれて育った娘が、「宿敵」である男性と恋人になるが…という話。「ヴェネツィア舟歌」は兵役で別れ別れになった恋人たちが引き裂かれそうになる…という作品です。
 「地上的」な題材とはいえ、「〈澱み〉のマッジ」の結末において、やはり「死の世界」が現れるところは、マクラウド的といっていいのでしょうか。
 ちなみに、マクラウド名義の作品では、作中で他の作品が言及されることが多く、ゆるやかに世界観がつながっているようです。



jimboo.jpgジンボー (1979年) (妖精文庫)
アルジャナン・ブラックウッド 北村 太郎
月刊ペン社 1979-10

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アルジャナン・ブラックウッド『ジンボー』(北村太郎訳 月刊ペン社)

 想像力豊かな少年ジンボーは、家庭教師としてやってきたミス・レークの言葉によって、古くから地所の端にあった「空屋」に対する恐怖をうえつけられてしまいます。事故で気を失ったジンボーが気がつくと、たくさんの子供たちと一緒に室内に閉じ込められていました…。

 生と死の狭間の世界を描いた美しいファンタジー小説です。ジンボーが閉じ込められている世界は、明らかにこの世のものでなく、生と死の狭間の世界であることがわかります。そこから脱出できなければ、おそらく永遠に幽閉されてしまうのです。この世界が不気味であると同時に、また魅力を感じさせる部分でもありますね。
 ジンボーの前に現れたのは、解雇されたはずのミス・レークでした。彼女は「つぐない」のために、ジンボーをこの世界から脱出させようとします…。
 後半の脱出行のシーンは得も言われぬ美しさ。童心に満ちた傑作ファンタジーといっていいかと思います。



aoimeikyuu.jpg蒼い迷宮 (角川文庫)
アーナス ボーデルセン 村田 靖子
角川書店 1988-01

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アーナス・ボーデルセン『蒼い迷宮』(村田靖子 角川文庫)

 雑誌編集者ブルーノは、不治の病を宣告されます。現代の医療では治癒は不可能、しかし20年後には確実に治療法があるというのです。実用化されたばかりの冷凍睡眠に入ってみる気はないかと勧められたブルーノは、天涯孤独の身だったこともあり、冷凍睡眠に入ることになります。
 20数年後に目覚めたブルーノは自分の体が治癒していることに気がつきます。すでに不老が実現したその社会では、自然死を受け入れるグループと、不老を選ぶグループとに人は別れていました。ブルーノもどちらを選ぶか選択を迫られます。
 孤独感に囚われたブルーノは、かって短い間恋人だった女性ジェニーの行方を探します。バレリーナとして大成したジェニーはしかし、脊椎の事故に会い、それを復元する技術が開発されるまで、冷凍睡眠に入っているというのですが…。

 冷凍睡眠をテーマにしたSF小説です。目覚めた未来は、様々な技術が進んだ社会なのですが、社会は停滞しており、そこに生きる人間は皆、活気を欠いています。病からは逃れられたものの、主人公は、そもそもそれほど生に執着していたわけではないことに気付くのです。恋人がまだ若いまま冷凍睡眠されていることを知ったブルーノは、彼女に会おうと思い切った手段を取ることになりますが…。
 未来社会がディストピアっぽいというのもありますが、作品全体に動きは少なく、結末まで諦観に満ちた「暗い」作品ではあります。ただ、環境の変化に対する主人公の心の動きが独特で、読んでいてなかなか面白いのですよね。ユニークな「SF心理小説」として、一読の価値はある作品かと思います。



4488014631世界の終わりの天文台 (創元海外SF叢書)
リリー・ブルックス=ダルトン 加藤 直之
東京創元社 2018-01-12

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リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳 東京創元社)

 何らかの原因で人類が滅亡を迎えようとしているなか、年老いた学者オーガスティンは、皆と一緒の撤収を拒否して、ひとり北極の天文台に残ります。誰もいなくなったと思った直後に、オーガスティンは一人の少女を発見します。少女の身の上もはっきりしないまま、彼は少女と一緒に共同生活を始めます。
 一方、木星探査から帰還中の宇宙船「アイテル」の乗組員は、地球からの反応が全くなくなったことに不安を隠せません。核戦争なのか、疫病なのか?乗組員たちは必死で調査を進めますが…。

 「破滅SF」作品にあるような、人類や世界が破滅していく様というのはほとんど描かれません。では何が描かれるかというと、そうした災難を迎えた後の、少数の人間たちの行動と心理が丁寧に描かれていくのです。
 具体的には、地球の天文台で暮らすオーガスティンと、宇宙船乗組員の女性サリー、彼ら二人が今までの人生を振り返りつつ、当面どう生きていくのかが描かれていきます。二人はどちらも優秀ではあるものの、人間関係を築くのが下手で、家族とも別れてしまったという後悔の念を持っています。
 「世界の終わり」にあたってオーガスティンとサリーは自分の人生を肯定できるのか?というのが読みどころですね。ハッピーエンドというわけではないにしても、二人にとっての「救い」がほの見えるラストも非常に好感触です。表立った「感動作」とは違いますが、しんみりとした味わいのある佳作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

8月の気になる新刊と7月の新刊補遺
7月刊 フアン・ホセ・アレオラ『共謀綺談』(松籟社 予価1944円)
8月7日刊 カート・ヴォネガット『人みな眠りて』(河出文庫 予価920円)
8月7日刊 ジョー・ヒル『ファイアマン 上・下』(小学館文庫 予価各1080円)
8月10日刊 東雅夫編『猫のまぼろし、猫のまどわし』(創元推理文庫 予価994円)
8月10日刊 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(東京創元社 予価1620円)
8月18日刊 ジャン=クリストフ・グランジェ『通過者』(TAC出版 予価3024円)
8月20日刊 マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社 予価2808円)
8月22日刊 ヘレン・マクロイ『悪意の夜』(創元推理文庫 予価1015円)
8月22日刊 エドワード・ゴーリー『失敬な召喚』(河出書房新社 予価1296円)
8月22日刊 トニー・アイカー『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(河出書房新社 予価2376円)
8月30日刊 ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』(竹書房文庫 予価1080円
8月刊 三馬志伸編訳『ヴィクトリア朝怪異譚』(作品社 予価3780円)


 フアン・ホセ・アレオラ『共謀綺談』は、日本では「転轍手」で知られるメキシコ作家の短篇集。これは気になりますね。

 東雅夫編『猫のまぼろし、猫のまどわし』は、東西の猫をテーマにした怪奇幻想小説のアンソロジー。猫アンソロジーはちょくちょくありますが、日本と海外両方の作品を収録したものはあまりないような気がします。

 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』は、「熊」をテーマにした8つの作品を集めた作品集だそう。ジャクソンは『10の奇妙な話』が奇妙なテイストの作品集で面白かったので期待大です。

 8月の新刊でいちばん気になるのはこの本ですね。マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』。著者はアルゼンチンの女性作家、「ホラーのプリンセス」と称されているとか。ホラー・幻想小説集のようです。

 ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』は、同タイトルの有名な短篇を含むシリーズ短篇集だそう。

 三馬志伸編訳『ヴィクトリア朝怪異譚』は、ヴィクトリア朝の怪奇小説のアンソロジー。ウィルキー・コリンズ、ジョージ・エリオット、メアリ・エリザベス・ブラッドン、マーガレット・オリファントの作品などを収録とのことです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

アメリカン・ゴシックの開祖  チャールズ・ブロックデン・ブラウン作品を読む
 チャールズ・ブロックデン・ブラウン(1771-1810)は、18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍した「アメリカ小説の父」と呼ばれる作家です。
 日本では『ウィーランド』『エドガー・ハントリー』、代表作とされる2作が邦訳されています。作風的にはいわゆるゴシック小説の作家といっていいのですが、このジャンルの本場とされるイギリスの同種の作品と比べ、ブラウンの作品にはユニークな点が見られます。
 まず、舞台となる時代が遠い過去ではなく現代であること。巨大な城や館などの建築物がこれといって登場しないこと。登場人物が積極的に事件に対して動くこと。大まかに挙げるとこんなところでしょうか。逆に、これらの特徴を反転させると、イギリスのゴシック小説の特徴になります。
 時代が遠い過去だったり、巨大な建築物が出てきたりと、基本的にはイギリスのゴシック小説はかなり「非現実的」な要素が強い小説です。つまり、イギリスのゴシック小説の特徴を反転させると、逆に「リアル」な物語になるといってもいいかと思います。ブラウンの作品は、その意味でリアリズム要素の強いゴシック小説なのです。

 それでは、具体的に作品を見ていきましょう。


braun001.jpg世界幻想文学大系〈3〉ウィーランド (1976年)
紀田 順一郎 荒俣 宏
国書刊行会 1976

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『ウィーランド』(志村正雄訳 国書刊行会 1798年)
 ドイツ出身の一族の末裔であるセオドア・ウィーランドと妹クララは、アメリカで平穏に暮らしていました。セオドアは友人プレイエルの妹キャサリンと結婚し、何人かの子どもにも恵まれます。
 ある日、カーウィンと名乗る男が現れ、ウィーランド家と友人付き合いを始めます。見た目は粗野ながら異様な魅力を持つカーウィンに対して、クララは不審の念を抱きます
 セオドアは、外出した際に経験した奇妙な出来事を語ります。家の中にいたはずの妻キャサリンの声が聞こえたというのです。「声」を聞いた日を境に、セオドアの様子が変わり始めたのにクララは気付きます。
 そんな折、プレイエルは故郷ドイツの領地の相続権がセオドアにあることを知り、ともにドイツに行くことをセオドアに提案しますが…。

 物語は妹クララの一人称で語られる形式になっています。兄妹の父親が宗教的な情熱に憑かれた人物で、超自然的とも思われる形で謎の焼死を遂げたことが序盤で語られます。兄セオドアもまた父の血を継ぎ、敬虔でありながらも、どこか危うい人物として描かれるのがポイントです。
 前半はウィーランド家の幸福な生活について描かれ、語り手クララも、友人プレイエルに恋心を抱いていることが語られます。謎の人物カーウィンの登場と、セオドアが聞いた「声」の事件を境に、一家の幸福はだんだんと危ういものになっていき、最後には悲劇が起こるのです。
 「悲劇」の犯人はほぼはっきりしているので、その部分に対する驚きはありません。ただその人物像と犯行に至る動機が異様で、その異常心理描写は今読んでも読み応えがあります。
 語り手クララが、多少思い込みの強い女性として設定されているのもポイントです。「信頼できない語り手」というほどではないのですが、事件が本当にクララのとらえている形でいいのだろうか、と考えながら読んでいく過程もなかなかサスペンスフルですね。
 ひたすら暗く、救いがない作品なのですが、そのサスペンスには吸引力があります。



braun002.jpgエドガー・ハントリー (1979年) (ゴシック叢書〈10〉)
C.B.ブラウン 八木 敏雄
国書刊行会 1979-06

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『エドガー・ハントリー』(八木敏雄訳 国書刊行会 1799年)
 語り手の青年エドガー・ハントリーは、友人であるウォルドグレイヴを殺害した犯人を見つけようと、殺害現場を訪れます。そこで目にしたのは、挙動不審な行動をする謎の男の姿でした。男が、友人イングルフィールドの召使クリゼローであることを認めたエドガーは、彼を問い詰めます。
 クリゼローは自らの過去を話し始めます。故郷アイルランドで領主の妻ロリマー夫人に可愛がられ執事まで勤めたクリゼローは、夫人の不肖の弟アーサーをふとしたことから殺してしまいます。事実を知ったロリマー夫人は衝撃から命を落としてしまいます。
 やがてアメリカに渡ってきたクリゼローは、罪の意識から夢遊病にかかっているというのです。事実を話し終えたクリゼローは自らの命を絶とうと失踪してしまいます。クリゼローに同情の念を覚えたエドガーは、彼が隠れているらしい洞窟に出かけますが…。

 プロットが複雑かつ錯綜している作品で、最初は友人殺しの犯人探しが始まるかと思いきや、容疑者クリゼローは犯人ではなく、かれの過去の回想が始まります。そこからはクリゼローを助けようとするエドガーの行動が描かれます。
 その間にウォルドグレイヴが横領を働いていたのではという疑惑が発生し、一方、エドガーは遭難してしまいます。同時に、村をインディアンが襲撃してくる…という激しい動きのある展開です。
 ゴシック小説らしい古城や巨大な邸などは登場せず、その代わりに洞窟や森といった大自然が前景に出てきます。実際、主人公エドガーが戦うのは、大自然そのものといっていいのです。クリゼローを追いかけていったエドガーが遭遇するのは、巨大な豹や集団で攻撃してくるインディアンたちです。
 後半のインディアンとの戦闘はアクション小説そこのけの激しさで、まさかりでインディアンを仕留めたり、銃で複数のインディアンたちと渡り合ったりと、激しいバイオレンス描写が続きます。
 上記のように、動きが非常に激しい作品なので、物語が動き始めると退屈せずに読ませます。ゴシック小説というよりは、アクション小説、冒険小説的な要素が強く、現代の読者が読んでも楽しめる作品ではないかと思います。
 超自然的な要素はほぼなく、謎はほぼ結末までに解き明かされます。ミステリ的な技法も使われており、ミステリやサスペンスのご先祖様といった面もありますね。

 ブラウンの作品では、舞台が現代(作品発表当時)であり、登場人物も自分たち(読者)とそう変わらない人々に設定されています。いわば「自分にも起こり得る」物語であり、その点非常にリアルな物語なのです。当時の読者にとってはかなり「怖い」作品だったのではないでしょうか。

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非情なる運命  モーリス・ルヴェル『ルヴェル新発見傑作集 仮面』
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 モーリス・ルヴェル(1875-1926)は、残酷譚で知られるフランスの短篇作家。20世紀初頭には日本にも短篇が翻訳紹介され、江戸川乱歩を初めとした探偵作家たちにも人気がありました。
 『ルヴェル新発見傑作集 仮面』(中川潤訳 エニグマティカ叢書)は、そんなルヴェルの未紹介短篇を集めた作品集です。

 夫の死後、遺言書の内容を知り、妻の愛人が心変わりするという「足枷」、医者の男が愛人の夫を治療することになるという「視線」、友人の妻が狂気に陥ったことを知るというポオ風の「伴侶」 、列車事故で顔を押しつぶされてしまった瀕死の男を描く「変わり果てた顔」、ギャンブル狂の男が生家で体験する奇談「鏡」、仮面舞踏会で出会った奇怪な仮面の女を描く 「仮面」、徴兵された孫の手紙を読むために文盲の祖母が文字を習うという「最後の授業」、海岸沿いに建てられた古い屋敷で起こる会現象を描いた「誰が呼んでいる?」の8篇を収録しています。

 ルヴェル作品では、人間の「悪意」や「残酷さ」、または「運命の残酷さ」が描かれます。意図的に人間が人間に対して悪意を施すこともあれば、正直に生きる人間が運命の手によって残酷な目に合うこともあります。共通するのは悲劇的な結末なのですが、読後感が意外に悪くないのは不思議です。

 どれも面白く読んだのですが、お気に入りは「足枷」「変わり果てた顔」「仮面」でしょうか。
 「足枷」は妻とその愛人の関係が、夫が残した遺言書によって二転三転するという、上質なミステリ劇になっています。どちらを選んでも不幸になるというリドル・ストーリー的な結末も良いですね。
 「変わり果てた顔」では、列車事故で顔をめちゃくちゃにされ死を待つばかりの男が、結婚直前の婚約者を待ち続けるという掌編。男は、婚約者に会いたいという思いと、どうせ死んでしまう自分の醜い顔を見せたくないという思いに引き裂かれます。短い作品ながら、とてもドラマ性に満ちた作品です。
 「仮面」では、舞踏会上で出会った奇怪な仮面をつけた女性と一夜を共にした男が、女性の正体を知るというショッキングな作品。グロテスクながら鮮やかなイメージの作品です。

 解説にも、いろいろ興味深い新情報が載っています。ルヴェルの短篇は300篇以上あるらしく、未訳の作品がまだまだあるそうです。また、本国フランスでも再評価の機運があることなどが語られています。
 驚いたのは、ルヴェルの母親がマルセル・シュオッブの母親の妹であったということ。つまり、ルヴェルとシュオッブは従兄弟だというのですね。これは知りませんでした。
 今回の作品集は、訳文もこなれており、非常に上質な作品集です。続刊の予定もあるそうで、楽しみに待ちたいと思います。

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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