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怪奇幻想読書倶楽部 第10回読書会 参加者募集です
 2017年11月19日(日曜日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第10回読書会」を開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年11月19日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:H・G・ウェルズの空想世界
第2部:第10回記念企画 本の交換会

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


 第1部のテーマは「H・G・ウェルズの空想世界」。
 ジュール・ヴェルヌと並びSFの祖とされる作家、H・G・ウェルズの作品について話し合いたいと思います。
 代表作であり、この種のジャンルの開祖ともいうべき作品群、時を超える機械を生み出した『タイム・マシン』、透明になった男の悲喜劇を描く『透明人間』、生物改造テーマの嚆矢といえる『モロー博士の島』などだけでなく、ウェルズは、「マジック・ショップ」「塀についた扉」「故エルヴィシャム氏の物語」など、幻想小説を数多く残した幻想作家でもあります。
 現代のエンターテインメントの原型ともいうべき、ウェルズの作品世界について検討していきたいと思います。

※ウェルズに関しては、各社から作品集が出されていますが、一番入手しやすく、まとまっているのは岩波文庫版です。『タイム・マシン 他九篇』『モロー博士の島 他九篇』『透明人間』(3冊とも橋本槙矩他訳 岩波文庫)の収録作品をメインに話していきたいと思います。

 第2部は、第10回記念企画として「本の交換会」を行いたいと思います。
 いらなくなった本を持ち寄り、他の人の本と交換しようという趣旨の企画です。お持ちいただくのは何冊でも構いません。ジャンルは特に怪奇幻想にこだわらなくて結構ですので、ご自由にお持ちください。
 あわせて、お持ちいただいた本の紹介の時間も取りたいと考えています。

※お持ちいただく本がない場合、もらうだけでも構いません。
※本の紹介は強制ではありませんので、したい方だけで結構です。
※時間が余った場合、フリートークの時間としたいと思います。

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最近読んだ本

君と時計と嘘の塔 第一幕 (講談社タイガ) 君と時計と塔の雨 第二幕 (講談社タイガ) 君と時計と雨の雛 第三幕 (講談社タイガ) 君と時計と雛の嘘 第四幕 (講談社タイガ)
綾崎隼『君と時計と嘘の塔』(講談社タイガ)
 高校生の少年、綜士は、思いを寄せていた幼馴染の芹愛が死ぬという悪夢を見た直後に、あることに気がつきます。親友がいなくなっていたのです。しかも親友の存在を、自分以外の誰も覚えていないのです。
 『時計部』という部活で独自の研究を続ける先輩の千歳と、同級生雛美の助けを借り、綜士は、事態を打開しようと調査を開始しますが…。

 何度も同じ時間を繰り返すという、タイムリープを扱った作品です。このタイムリープの特徴は強制的であるところ。条件をクリアできないと、何度も過去に戻されてしまうのです。問題はタイムループを繰り返す度に、主人公の大切な人間が一人ずつ消えていくということ。初めは親友、そして次々に周りの人間が消えていってしまうのです。
 タイムリープというと、気軽に何度でも試行錯誤ができる…というイメージを抱きがちなのですが、この作品の場合、誰か大切な人が消えてしまうという点で、毎回、失敗はできないという深刻さをはらんでいます。
 物語の要請上、主人公は失敗を繰り返していくわけですが、事態がどんどんと悪化していく絶望感がすごいです。探偵役である千歳の活躍で、少しづつループの原因や対策が判明していくものの、何かが改善されても、別の何かが悪化してしまうので、なかなか前に進むことができません。
 4部作になっていますが、それぞれの巻末の引きが強烈で、特に3巻の巻末では最大級の困難が発生します。結末が多少あっさりしている感はあるのですが、それまではハラハラドキドキの連続で、非常に面白い作品だと言えます。



4336025827狼男(ウルフ)卿の秘密 (ドラキュラ叢書)
E・フィルポッツ 桂千穂
国書刊行会 1976-11

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イーデン・フィルポッツ『狼男卿の秘密』(桂千穂訳 国書刊行会)
 芸術家気質の青年ウィリアムは、父親の死により、ウルフ卿として爵位を継ぐことになります。管理人として呼び寄せた親友、同じ気質を持つ従兄弟、忠実な従僕、相思相愛の婚約者に囲まれ、幸せな生活を送っているかに見えたウィリアムでしたが、ある屋敷の中で見つけた古文書を見たことから、その生活に影が差すことになります。
 古文書に書かれた詩によれば、ウルフ家の末裔には、人狼の血が流れており、破滅が予言されているというのです。予言を信じるウィリアムは、徐々に内向的になっていきます。時を同じくして、ウィリアムの周りで、狼の仕業としか思えない事件が頻発するようになりますが…。

 前半は、自然に囲まれた屋敷を舞台に、主人公とその友人たちとの交流が丁寧に描かれていきます。神秘主義的な傾向を持つ主人公ウィリアムが、自分が人狼になるのではないかという恐れに取りつかれ、それと同時に、周りで不可解な事件が起き始めます。
 だんだんと怪奇ムードが高まっていき、とうとう人狼の出現か! というところで、読者はびっくりするのではないでしょうか。というのも、この作品、怪奇小説かと思っていると、最後に合理的に謎が解き明かされてしまうのです。ジャンルで言うとミステリなのですね。
 怪奇小説の古典を集めた《ドラキュラ叢書》に収められた作品だけに、純粋な怪奇ものとして読んでいく読者も多いと思うのですが、それがために、後半の謎解きが始まると、逆にびっくりしてしまうと思います。
 最後まで怪奇小説で行ってほしかったという感じはしますが、作品全体の雰囲気は上質で、味わいのある作品です。



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シャドウアイズ (創元ノヴェルズ)
キャスリン プタセク 中原 尚哉
東京創元社 1989-10

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キャスリン・プタセク『シャドウアイズ』(中原尚哉訳 創元ノヴェルズ)
 ニューメキシコの山の中で、複数の人間が無残に殺されます。たびたび起こる殺人事件は、その規模と惨状から考えても人間の仕業ではありませんでした。
 インディアンの末裔であり、シャーマンの能力を持つ青年チャトは、犯人はインディアンに伝わる怪物だと確信し、それを止めるために調査を開始しますが…。

 インディアンに伝わる怪物という、ユニークなテーマのホラー作品です。この怪物の攻撃能力がすさまじく、複数の人間をあっという間にバラバラにしてしまうのです。
 最初はこの怪物を利用しようとする勢力が現れるのですが、やがて彼らの手には負えなくなり、ついに主人公が登場するという形になります。
 主人公は、子供の頃から部族のシャーマンとしてその能力を発揮していたものの、部落を離れ、大学教授になったものの、職を辞して放浪している、というプロフィールの人物。
 先住民のシャーマンの能力と西洋的な思想を同時に持つ人物という、なかなか興味深い設定なのですが、特別それが活かされたりしないところは、もったいないですね。
 主人公の恋人役として、インテリの記者の女性が登場するのですが、後半になってから突然このヒロインが退場して、別のヒロインが登場するのには驚きました。
 怪物ホラーとしては、エキゾチックな題材を使っており、なかなかユニークではあるのですが、お話自体の作りがかなり大雑把なのが気になります。ただ怪物の造形とその描写には生彩があります。作品の読みやすさを含め、B級の水準作という感じでしょうか。



4800312213世にも不思議な怪奇ドラマの世界
山本 弘 尾之上 浩司
洋泉社 2017-04-05

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山本弘著、尾之上浩司監修『世にも不思議な怪奇ドラマの世界』(洋泉社)
 アメリカのオムニバスドラマシリーズ『ミステリー・ゾーン』と『世にも不思議な物語』を解説したガイドブックです。
 『世にも不思議な物語』の方に関しては、あまり観ていないので何ともいえませんが、『ミステリー・ゾーン』に関しては、ファンとしてこれを待っていた!という感じの本です。
 それぞれのエピソードを詳しく解説し、エピソードによっては、内容に関する考察や関わった関係者の情報が載っていたりと、いたせりつくせりのガイドブックです。これからは『ミステリー・ゾーン』に関しては、この本が基本図書になるのではないでしょうか。 『新トワイライトゾーン』の方も、こんな感じのガイドブックがあるといいのですが。

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時を変える女  ジェリー・ユルスマン『エリアンダー・Mの犯罪』
4167309114エリアンダー・Mの犯罪 (文春文庫)
ジェリー ユルスマン 小尾 芙佐
文藝春秋 1987-01

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 時代は1984年、離婚したばかりの女性レスリー・モーニングは、父方の祖母について、母親からショッキングな事実を聞かされます。祖母エリアンダー・モーニングは、1913年、ウィーンのカフェで、見ず知らずの青年画家を射殺したというのです。
 レスリーは、急逝した父親の遺品の中から「タイム・ライフ版「第二次世界大戦史」」という本を見つけます。その中には「第二次世界大戦」について、詳細な記録と写真が掲載されていました。しかし彼女の知る限り、「第二次世界大戦」などという戦争は起こったことがないのです。
 その本のあまりの完成度に、それがフィクションだとは思えなくなったレスリーは、映画監督や撮影技師、歴史家、退役軍人ら、専門家を集めて本の内容を鑑定してもらいます。結果は本物ではありえないが、本物としか思えない…というもの。中でも「ナチス・ドイツ」についての記述は、集まった人間に衝撃を与えていました。
 祖母について調べていたレスリーは、過去の新聞記事で祖母エリアンダーの事件の詳細を知ります。祖母が射殺した画家の名はアドルフ・ヒトラー、「第二次世界大戦史」の中で、ナチスの指導者として記されていた人物でした…。

 ジェリー・ユルスマン『エリアンダー・Mの犯罪』(小尾芙佐訳 文春文庫)は、アドルフ・ヒトラーが殺されたため、ナチス・ドイツは存在せず、第二次世界大戦も起こらなかった世界を舞台にした作品です。
 調べていくうちに、祖母エリアンダーがヒトラーを殺したために、世界の歴史が変わったことがわかってきます。彼女はどうやってヒトラーの存在を知ったのか? どんな目的があったのか? 世界改変の謎、エリアンダーの生涯の謎が物語を引っ張っていきます。

 祖母エリアンダーの人生を描くパートと、祖母の生涯と世界の変化について調べていくレスリーのパートが併行して描かれていきます。
 ミステリー的な興味はあるものの、動きの少ないレスリーのパートに比べて、躍動感あふれるエリアンダーのパートの方が読み応えがありますね。
 女性の社会進出がまだ少なかった時代を舞台に、知恵と行動力で未来を切り開こうとするエリアンダーのキャラクターは印象に残ります。何より、彼女の行動原理は「大切な人を守るため」であり、夫や息子、友人たちのために様々な困難に立ち向かいます。
 そして、彼女がヒトラーを暗殺しようと考えるまでの決意の過程とその結果も、また強い印象を残すのです。

 この作品の舞台はいわゆる「パラレルワールド」であるわけですが、世界の変化の前後で変わった箇所がところどころで提示され、そのあたりがどうなっているのか読むのも楽しみの一つです。
 ナチスの大物たちが、普通の市民だったり、成功した商人になっていたり、逆に有名な指導者たちが、ろくに活躍もせずに引退していたりします。
 過去のエリアンダーのパートでは、H・G・ウェルズが重要な役目で登場するのも楽しいところですね。

 あまり動きのなかった現代のレスリーのパートも、後半になると、きなくさい展開になっていきます。「第二次世界大戦史」から影響を受けたドイツの軍人たちが、行動を起こし始めるのです。
 変化後の世界では、ドイツが世界で最大の国、唯一の核保有国になっています。これを利用しようとする軍人ザイドリッツを止めようと、レスリーとザイドリッツの甥パウルは秘密の計画を立てますが…。

 設定の細かい部分で、曖昧なところもなくはないのですが、読んでいる間は全く気になりません。複雑かつ繊細なストーリー、厚みのある人物描写、香気あふれる雰囲気と、傑作といっていい作品ではないでしょうか。

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完璧な乳母  ダン・グリーンバーグ『ナニー』
4102283013ナニー (新潮文庫)
ダン グリーンバーグ 佐々田 雅子
新潮社 1989-02

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 フィルとジュリーの若夫婦は、生まれた赤ん坊の世話に四苦八苦した結果、ナニー(乳母)として女性をやとうことにします。イギリス出身のナニー、ルーシー・レッドマンは、赤ん坊の世話だけでなく、あらゆる家事に長けた有能な女性でしたが、傲慢で夫婦を見下すような態度をとります。
 やがてルーシーは、夫婦両方に対して性的な誘惑を始めます。危機感を抱いたフィルは、ルーシーの元の雇い主に話を聞こうと考えますが、彼らは皆、話をしてくれません。ようやく話をしてくれた元雇い主から漏れたのは、恐るべき事実でした…。

 ダン・グリーンバーグ『ナニー』(佐々田雅子訳 新潮文庫)は、恐るべきナニーを描くサスペンス・ホラーです。ナニーは、赤ん坊の世話や家事だけでなく、やがて夫婦それぞれの心理まで手玉に取るようになっていきます。
 このナニーのキャラクターが強烈で、最初は傲慢な態度で夫婦を支配するものの、やがて態度を変え、信頼を寄せられるという形で心理的に支配するようになっていきます。

 夫のフィルはナニーの性的誘惑に負けてしまい、彼女の前歴に疑わしい点がわかってからも、良心の呵責から彼女を一方的に追い出すことができなくなってしまうのです。また妻の方も、ナニーの手伝いなしには、生活が成り立たなくなるまでになってしまいます。 前半、夫婦が赤ん坊の世話をする苦労がみっちり描き込まれるだけに、夫婦がナニーに依存してしまう心理も納得しやすいものになっています。

 後半、ナニーの真実を知った夫婦は赤ん坊とともに逃走することになるのですが、そこからのナニーの攻勢はインパクト充分です。彼女は超自然的な力まで持っていることが明かされますが、その能力や由来を具体的に説明しないため、その得体の知れなさが、またホラーとしての魅力を増しています。
 前半は日常的なドメスティック・サスペンス、後半は超自然的なホラーと、一冊で二種類の物語が楽しめる、良質なエンタテインメント作品です。

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11月の気になる新刊
11月7日刊 ウィリアム・ゴールディング『後継者たち』(ハヤカワepi文庫 予価994円)
11月7日刊 エイミー・ジェントリー『消えたはずの、』(ハヤカワ文庫NV 予価1058円)
11月7日刊 ケイティ・カーン『君の彼方、見えない星』(ハヤカワ文庫SF 予価994円)
11月7日刊 香山滋『海鰻荘奇談』(河出文庫 予価950円)
11月11日刊 東雅夫編『山怪実話大全 岳人奇談傑作選』(山と渓谷社 予価1296円)
11月15日刊 H・P・ラヴクラフト『クトゥルーの呼び声』(星海社 予価1512円)
11月21日刊 フィリップ・K・ディック『シミュラクラ 新訳版』(ハヤカワ文庫SF 予価1058円)
11月22日刊 A・E・W・メースン『矢の家 新版』(創元推理文庫 予価1080円)
11月22日刊 マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』(国書刊行会 予価2808円)
11月24日刊 ミシェル・ウエルベック『H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って』(国書刊行会 予価2052円)
11月24日刊 ジョージ・A・ロメロ他『NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 死者の章』(竹書房文庫 予価810円)
11月24日刊 ジョージ・A・ロメロ他『NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 生者の章』(竹書房文庫 予価810円)
11月24日 エセル・M・マンロー/サキ『サキの思い出 付 サキ短篇選』(彩流社 予価2160円)
11月29日刊 星新一『進化した猿たち The Best』(新潮文庫)
11月30日刊 ソフィア・サマター『図書館島』(東京創元社 予価3132円)
11月30日刊 アルフレッド・ベスター『イヴのいないアダム ベスター傑作選』(創元SF文庫 予価1188円)[amazon]


H・P・ラヴクラフト『クトゥルーの呼び声』は、ラヴクラフト作品の新訳になる短篇集。収録作品は以下の通り。
「ダゴン」
「神殿」
「マーティンズ・ビーチの恐怖」
「クトゥルーの呼び声」
「墳丘」
「インスマスを覆う影」
「永劫より出でて」
「挫傷」(H・S・ホワイトヘッド作)
ラヴクラフト作品の新訳は、ずいぶん久しぶりではないでしょうか。これは楽しみですね。

ミシェル・ウエルベック『H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って』は、作家として知られる著者のデビュー作だそうですが、なんとラヴクラフトの伝記というか評論みたいな本のようです。これは気になりますね。

《ドーキー・アーカイヴ》の続刊は一年ぶりぐらいでしょうか。マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』は、メタホラーの傑作として日本でも名前が知られていた作品です。これは楽しみ。

ジョージ・A・ロメロ他『NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド』は、ロメロ監督『ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド』に触発された作品を集めたテーマ・アンソロジーのようです。収録作品が公開されていました。

『死者の章』
序説:ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/ジョージ・A・ロメロ
まえがき 〜朽ちかけた映画館での奇妙な少年の回想〜/ジョナサン・メイベリー
デッドマンズ・カーブ/ジョー・R・ランズデール
スーという名のデッドガール/クレイグ・E・イングラー
ファスト・エントリー/ジェイ・ボナンジンガ
この静かなる大地の下に/マイク・ケアリー
ジミー・ジェイ・バクスターの最後で最高の日/ジョン・スキップ
身元不明遺体/ジョージ・A・ロメロ
安楽死/ライアン・ブラウン
軌道消滅/デヴィッド・ウェリントン
乱杭歯/マックス・ブラリア
灼熱の日々/キャリー・ライアン

『生者の章』
その翌日/ジョン・A・ルッソ
卓上の少女/アイザック・マリオン
ウィリアムソンの愚行/デイヴィッド・J・スカウ
動物園の一日/ミラ・グラント
発見されたノート/ブライアン・キーン
全力疾走/チャック・ウェンディグ
孤高のガンマン/ジョナサン・メイベリー
現場からの中継/キース・R・A・ディカンディード
死線を越えて/ニール&ブレンダン・シャスターマン
ジョージ・A・ロメロへの追悼文

 星新一『進化した猿たち The Best』は、かって新潮文庫から出ていた同名書籍のベスト版のようですね。外国の一コマ漫画について語ったエッセイ集で、読んでいていろんなアイディアの浮かんでくるような面白さにあふれています。

 アルフレッド・ベスター『イヴのいないアダム ベスター傑作選』は、以前に河出書房から出た『願い星、叶い星』の増補新版。新訳2編を増補しているとのことです。

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知られざる惨劇  ジョン・ソール『惨殺の女神』
4150404410惨殺の女神 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
相沢 次子 ジョン・ソール
早川書房 1987-04

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 ボストンから引っ越してきた医者一家の養女ミシェルは、本当の娘と変わらぬ愛情を持って育てられていました。しかし、落下事故で片足をくじいてから彼女の運命は変わり始めます。
 片足が不自由になったミシェルは、学校の生徒たちとも上手くいかなくなり始めます。妹が生まれてから、両親からの愛情も失ったと思い込んだ彼女は、内にこもってしまいます。彼女の友人は、自分にだけ見えるという「アマンダ」だけだったのです。
 やがて、ミシェルをいじめていたクラスメイトが事故死します。直前まで、ミシェルと二人でいるところを目撃されたことから、ミシェルが殺したのではないかという噂が広まります。それ以降も、ミシェルと接触した子供たちが突然死を遂げるという事件が相次ぎますが…。

 ジョン・ソール『惨殺の女神』(相沢次子訳 ハヤカワ文庫NV)は、過去に恨みを持って死んだ少女の霊が、現代の少女に取り憑き惨劇を繰り返す…といった感じの作品です。 ミシェルが亡霊に憑かれていることは、序盤から明確にされているのですが、そのことは最後まで周囲の人間にはわかりません。超自然的な現象が多発しているにもかかわらず、それらは皆、少女の責任とされてしまうのです。

 とにかく、主人公の少女ミシェルがいじめ抜かれます。クラスメイトや学校の生徒だけではなく、感情的な行き違いから、父親からも放置されるようになってしまいます。
 かって子供を治療できず死なせてしまったミシェルの父親は、自分の娘を含め、子供に対して恐怖を抱いてしまうのです。やがて、かっては可愛がっていた自分の娘との距離もおかしくなってしまいます。

 殺害されるのも子供、そして容疑者扱いされ虐待されるのも子供という、非常に後味の悪い作品なのですが、なぜか最後まで読ませられてしまうのは、ソールの筆力ゆえでしょうか。
 怪異現象やそれに翻弄される子供に対し、救いの手もなく、またそれらに対する解決もありません。そもそも怪異現象があるという事実さえ、登場人物たちには認識されないのです。
 認識しているのは読者だけなのですが、この作品形式、何かに似ています。読者には初めから手の内を明かしておいて、何も知らない登場人物がどうなるのかやきもきさせる…。考えてみたら、シャーロット・アームストロングのサスペンスに似ている気がするのです。その意味で、読者を焦らせる…という手法をホラーで実践しているのが、ジョン・ソールということになるのでしょうか。

※この作品は、ブログ「閑中忙有」をやっておられる、るねさんのご厚意でお譲りいただきました。面白い作品を読む機会をいただき、ありがとうございました。

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孤独な夜  チャールズ・L・グラント『ペットの夜』
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ペットの夜 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
チャールズ・L. グラント 竹生 淑子
早川書房 1989-02

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 獣医になることを夢見ている、孤独な高校生ダンは、自分の部屋に飾られた剥製の動物やポスターなどに話しかけることを日課にしていました。
 教師である両親からは獣医の夢を否定され、学校では父親と対立する教師からにらまれたり、いじめっ子からは目を付けられるなど、ダンは悶々とした日々を送っていました。
 時を同じくして、町には連続殺人が起こり、ダンの知り合いの女子生徒が殺されます。両親との確執から家を飛び出したダンは、折悪しく連続殺人鬼に襲われてしまいますが…

 チャールズ・L・グラント『ペットの夜』(竹生淑子訳 ハヤカワ文庫NV)は、周りに虐げられている内気な青年が、ある出来事をきっかけに超常的な力を発揮する…という物語です。
 ただこの作品の場合、超常現象は、青年自身ではなく、青年の部屋のポスターに描かれた馬が実体化するという形をとります。
 馬は、主人公ダンが憎しみを向ける人物のもとに現れ、次々と殺害していきます。ダン自身がコントロールすることはできず、いつの間にか人々の元に現れるのです。やがてダンがふと不満を抱いた、ダン自身の母親やガールフレンドにまで、その魔の手は迫り、ダンは馬を止めようと奔走することになります。

 ホラー小説の主人公である「孤独で内気ないじめられっ子」というのは、ある種のステレオタイプではあるのですが、この作品では、その鬱屈した日常がこれでもかと描かれます。
 校長である父親は、息子よりも保身を優先する人物、母親は息子の担当教師と不倫をしていたり、いじめっ子たちは様々ないたずらをしてはダンのせいにします。ようやくできたガールフレンドも、別の男友達との間を揺れ動いていたりするのです。
 その鬱屈が溜まりきったときに、怪物が現れるわけですが、それまでの主人公の境遇が非常に救われないものなので、読んでいて、ある種のカタルシスがあります。しかし、作者は単純なカタルシスを否定し、事件を終息させてしまうのです。このあたり、読んでいて非常に不満がたまる展開ではあるのですが、ホラー小説としてはこれが正道なのでしょう。

 ポスターから抜け出る馬、というのは、伝統的な怪奇小説のテーマである「絵画怪談」の現代的なバリエーションといっていいでしょうか。媒体が「ポスター」というのが、いかにも安っぽく思われてしまうのですが、作者の丹念な描写の積み重ねもあって、作品の雰囲気は損なわれていません。さすが、雰囲気派の巨匠といったところでしょうか。
 リーダビリティも高く、思春期の青年を描いた青春ホラー小説として、上質な作品といっていいかと思います。

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怪奇幻想読書倶楽部 第9回読書会 開催しました
 10月8日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第9回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め8名でした。
 テーマは、第1部「怪奇幻想小説の叢書を振り返る」、第2部「作家特集 シャーリイ・ジャクスン」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。
 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部のテーマは「怪奇幻想小説の叢書を振り返る」。
 主に戦後に刊行された、翻訳ものの怪奇幻想小説の叢書を振り返ってみようという試みです。資料として、主要な怪奇幻想小説叢書リストと、叢書の刊行年代チャートを作ってみました。
 近年の叢書はまだ馴染みのある方がいるのですが、《ドラキュラ叢書》や《妖精文庫》あたりになると、見たこともない人がいたりなどして、時代を感じてしまったシーンもありました。

 第二部のテーマは「作家特集 シャーリイ・ジャクスン」。今回はこちらの方がメインとなった感じでしょうか。
 参加者にジャクスンのファンが多く、代表作は一通り読んでいたこともあり、それぞれの作品について、解釈にまで踏み込んだ意見も見られました。

 それでは、以下話題になったトピックについて記したいと思います


●第一部
・《世界恐怖小説全集》(東京創元社)について。
戦後初の本格的な怪奇小説叢書で、創元推理文庫の《怪奇小説傑作集》の原型になったシリーズ。ブラックウッドの傑作集や、W・F・ハーヴィーの作品が入っている巻があったりと、今でもこの叢書でしか読めない作品がある。

・《異色作家短篇集》(早川書房)について。
我が国のエンタメに強い影響を与えたシリーズ。改訂版では6巻が削られたが、2000年代の最新版では復活している。文庫化されているものもあり。ブラウンの『さあ、気ちがいになりなさい』は、よくそのままのタイトルで刊行できたなあと思う。

・創土社《ブックス・メタモルファス》について。
マニアライクな幻想小説を少部数、しっかりした装丁で刊行していた。『ホフマン全集』など、造本の完成度は非常に高い。未完に終わった、荒俣宏訳『ラヴクラフト全集』には、大瀧啓裕の下訳も見える。

・《怪奇幻想の文学》(新人物往来社)について。
画期的な怪奇小説アンソロジー。これ以降の幻想文学関連出版には、ほぼ荒俣宏と紀田順一郎の名前が見えるようになる。

・《世界幻想文学大系》(国書刊行会)について。
幻想文学の記念碑的なシリーズ。第一期はオーソドックスなセレクションだが、二期・三期になると、風変わりなタイトルが出てくる。荒俣宏の科学・博物学趣味が反映されているのではないか。

・《ドラキュラ叢書》(国書刊行会)について。
英米のエンタメ系怪奇小説を集めたシリーズ。ブラックウッド『ジョン・サイレンス』、ホジスン『カーナッキ』など、別の形で再刊している本も多い。表紙画の趣味が悪く、あまり売れなかった原因の一つかもしれない。ジャック・ロンドン『星を駆ける者』、H・S・ホワイトヘッド『ジャンビー』などは傑作だと思う。

・《妖精文庫》(月刊ペン社)について。
荒俣宏肝いりのファンタジー系叢書。純粋なファンタジーから、現代文学まで多彩なラインナップだった。セレクションには、リン・カーター《バランタイン・アダルト・ファンタジー》の影響がある? ジャン・ロラン『フォカス氏』などをファンタジーの枠で出していたのは斬新だった。
ブラックウッドとダンセイニは全ての期に入っていて、優遇されている感がある。
エディスン『邪龍ウロボロス』は、下巻が出ないうちに出版社がつぶれてしまったが、後に創元推理文庫から完訳が出た。ホジスン『ナイトランド』の下巻の刊行も遅かった覚えがある。別巻の『妖精画廊』や『別世界通信』もいい本だった。
今でも古書価はそんなに高くなく(高くても1000~2000円)、古書としては手に入れやすい。

・《朝日ソノラマ文庫海外シリーズ》について。
最初は1950年代のSF中心で、後にホラー・幻想怪奇方面へとシフトしていった。表紙の趣味が良くなかったり、タイトルが意訳されていたいするが、短篇集中心で、今でも貴重なラインナップ。デニス・ホイートリー編の『恐怖の一世紀』などは、いいアンソロジーだと思う。

・《アーカム・ハウス叢書》(国書刊行会)について。
アメリカの怪奇幻想専門出版社アーカム・ハウス社の単行本を装丁もそのままに翻訳したというコンセプトのシリーズ。
カール・ジャコビ『黒い黙示録』はゴリゴリのホラーで楽しい。デイヴィッド・H・ケラー『アンダーウッドの怪』は、SFとホラーが未分化だった時代の作品が多く面白い。収録作の一つ「健脚族の反乱」は、近未来人間がほとんど自分の足で歩かなくなった時代を舞台にしたSF作品。

・《フランス世紀末文学叢書》(国書刊行会)について。
フランス文学の叢書だが、幻想的な要素の多い作品も多い。とくにオクターヴ・ミルボー『責苦の庭』は残酷趣味の強い傑作だと思う。装丁や造本も魅力的。まだ在庫のある巻もある。

・《モダンホラーセレクション》(ハヤカワ文庫NV)について。
モダンホラーブーム時に刊行されたシリーズ。当時の最新作と同時に、シャーリイ・ジャクスン『山荘綺談』やアイラ・レヴィン『ローズマリーの赤ちゃん』など、早川書房の過去のホラー作品も組みこまれている。B級作品も多いが、面白い作品も多い。
マイクル・F・アンダースン『総統の頭蓋骨』は、タイトルと表紙絵でネタバレしてしまっているB級作だが、これはこれで面白い。
デイヴィッド・ショービン『アンボーン ―胎児―』は、人工知能に操られる胎児の物語。ハイテク部分を除けば、今読んでも面白い。

・ボルヘス選《バベルの図書館》(国書刊行会)について。
ボルヘスが編んだ世界の幻想文学選集。一巻の収録作品が少なく、薄いのでコストパフォーマンスは低い。逆に新編集版のコスパは良い。
収録作家の一人、ジョヴァンニ・パピーニは、澁澤龍彦が翻案したことでも知られる。

・《魔法の本棚》(国書刊行会)について。
怪奇幻想系のマイナー作家を集めたシリーズ。装丁・造本など本としての作りが非常に魅力的。コッパード、ウエイクフィールド、エイクマンの3冊が文庫化されている。

・《書物の王国》(国書刊行会)について。
各巻、幻想文学の主要テーマを取り上げ編まれたアンソロジー。東西の小説、詩、エッセイなどがいっしょくたに入っているところが特徴。後半の巻、須永朝彦編『王朝』や『義経』は、斬新なテーマだった。

・《晶文社ミステリ》(晶文社)と《Kawade Mystery》(河出書房新社)について。
《晶文社ミステリ》は、アントニイ・バークリー作品とともに、「異色作家」系の短篇集がいくつも入っていて、2000年代の短篇集邦訳ブームの一因ともなったシリーズ。ジェラルド・カーシュ、シオドア・スタージョン、デイヴィッド・イーリイの作品集などを紹介。
《Kawade Mystery》は《晶文社ミステリ》の後継的なシリーズで、怪奇小説集といっていいL・P・ハートリー『ポドロ島』などを紹介している。

・ウラジーミル・ソローキン『テルリア』の紹介。わりとエンタメ度高し。

・木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』(角川ホラー文庫)について。「視覚以外で認識する幽霊」という発想は斬新。怪奇現象の真相についても工夫されていて面白い作品だった。


●第二部
・シャーリイ・ジャクスン作品と「イヤミス」について。「イヤミス」は意図的に「嫌な」作品として書かれているが、ジャクスンは特に意識的に書いているわけではない。ただ現代の作家からすると「イヤミス」の源流の一つではあると思う。

・ジャクスンの活躍した時代は、女性の社会進出がまだそれほどではない時期で、家庭における閉塞感みたいなものがジャクスンの作品には感じられる。フェミニズム的な観点からジャクスンを研究する人もいるようだ。

・ジャクスンが影響を与えた作家はいると思うが、ジャクスン自身が影響を受けた作家というのは、あまり思い浮かばない。非常にオリジナルな発想の作家だと思う。

・トークショーで聞いた平山夢明氏の発言についての紹介。ホラーとコメディは紙一重、ホラーの火力を上げるとコメディになる。ジャクスンに関してもうなづける面がある。

・ジャクスンの同時代で同じような視点を持った女性作家はいるのか? 女性作家では例えばデュ・モーリアがいるが、彼女の作品は非常に技巧的に描かれているのに対し、ジャクスンはそうした技巧的な面があまり感じられない。

・『野蛮人との生活』『こちらへいらっしゃい』は古書でも非常に高値がついてしまっている。ぜひ復刊して欲しい。


『丘の屋敷』(『たたり』『山荘綺談』)について
・怪奇現象は屋敷が起こしているのか、それともヒロインの能力が起こしているのかはっきりしない。

・ヒロインの「家」に対する執着。壁に書かれたメッセージ「帰りたい」は、誰がどこに帰りたいのか?

・序盤、屋敷の家政婦が話すセリフは印象的。

・屋敷は、最終的にヒロインにとっての「家」になってしまう。だがそれがヒロイン自身の意志なのか、屋敷がそう仕向けているのかはわからない。

・明確な霊現象というのは少ない。ラップ音、壁の落書きなど。屋敷の一部に冷気を感じる…という部分は客観的に描かれているが、その意味ははっきりしない。

・屋敷で死んだ人たちがいるという描写はあり、実際に(かどうかはわからないが)霊現象らしきものも起こるが、死んだ人たちの人格を思わせる形では出現しない。屋敷自体が主人公といってもいいのでは? 過去に死んだ人たちも屋敷に執着していた…という描写がある。

・スティーヴン・キングがエッセイ集『死の舞踏』で『丘の屋敷』について書いているのは非常に参考になる。『丘の屋敷』には三つの層がある。ヒロインが「丘の屋敷」が幽霊屋敷だと信じるのが第一層、「丘の屋敷」こそ自分のための場所で自分を待っていた場所だと信じるのが第二層、自分が怪物に利用されていたこと-じつは自分が裏で糸を引いていたと無意識のうちに信じ込まされていたことを理解するのが第三層。

・『丘の屋敷』の映画化作品、ロバート・ワイズ監督『たたり』とヤン・デ・ボン監督『ホーンティング』について。『たたり』は、ヒロインが博士に恋心を抱いたり、博士の夫人が行方不明になったりと、改変部分もあるが、かなり原作に忠実な映像化だった。原作と同様、明確な幽霊を出さないのが特徴。
『ホーンティング』の方は、原型をとどめないほどの改変がされている。幽霊をガンガン出したり、SFXを多用しているため、原作とは似ても似つかないファンタジーになってしまっている。屋敷が変形してヒロインを襲ったり、屋敷の主人の霊が実体化して襲ってくるのはやりすぎだと思う。


『日時計』について
・世界が滅ぶという「お告げ」をなぜ登場人物は信じてしまうのか? 家族はもちろん、後から加わる外部からの登場人物もなぜか「お告げ」を信じてしまう。

・登場人物のひとり「キャプテン」は、ジャクスン作品には珍しい嫌味のないキャラクターだと思う。

・世界の終わりは実際には来ないという解釈について。「屋敷」が家族たちを操っているとも考えられる。鏡に映る幻視も屋敷内の出来事だし、最終的に窓を覆って外界から見えないようにする、というのも屋敷のなせる業? その意味で『日時計』は『丘の屋敷』のプロトタイプではないか?

・最年少のキャラクター、ファンシーは、いちばん屋敷に囚われている人物のような気がする。作中二人ほどの死人が出るが、犯人はファンシーではないか?
子供とは思えない発言をするが、意外にも作中でいちばんまともなことを言っている。

・翻訳を通してだが、傍線がやたらと頻出する(とくに文末)のが気になる。何か意味があるのでは?

・タイトル=作中にも登場する「日時計」は、太陽が出ていなければ何も分からない…という象徴?


『ずっとお城で暮らしてる』について
・ヒロインとその家族に対する村人の悪意がすごい。クライマックスではほとんどリンチに近い行為を行っているのに戦慄を覚える。

・ヒロインの姉はヒロインの狂気を知った上で妹をかばっている。一度は外の世界に出ようとするものの、最終的にはもう諦めてしまっているのかもしれない。

・途中で登場する従兄弟は打算的な人物(ヒロインの視点)だが、対応次第では、ヒロインたちが外の世界に出て行ける契機になる可能性はあった。

・作中の屋敷に対してどのぐらいの大きさを想像している? かなり大きい、こじんまりとしたイメージなど様々。『丘の屋敷』や『日時計』に比べたら、こじんまりとした感じ。大きさ的には、大きい順に『日時計』『丘の屋敷』『ずっとお城で暮らしてる』?
『ずっとお城で暮らしてる』の屋敷は、敷地は大きいが、屋敷は小さめ?

・「幽霊屋敷もの」において、幽霊屋敷に乗り込んでいく登場人物は病的な人が多い気がする。

・ヒロインの精神年齢は実年齢よりも相当幼く感じる。例えばヒロインの毒殺計画は、姉が砂糖を食べないというところに立脚しているが、その根拠も確実ではなくて、そのあたりに非常に子供っぽさを感じる。

・脇役である伯父も、事あるごとに毒殺事件を家族に思い出させたり、狂気を感じさせる。

・初読のときはハッピーエンドの可能性もあると思って読んでいるが、再読のときはそうでないことがわかりつつ読むので、登場人物たちの悲惨さが際立つ気がする。


『鳥の巣』について
・母親との関係についてトラウマを抱える孤独な女性が、あるきっかけから多重人格症を発生させてしまう物語。

・最終的に主人格以外に3つの人格が現れるが、それぞれ独自の特徴を持っている。第2人格はおしとやか、第3人格は奔放、第4人格は子供っぽく金にうるさい、と描き分けがなされている。それぞれの人格は、従来の人格がなりたかったものや、母親の性質をトレースしているような気がする。

・人格間に強さのヒエラルキーがあり、別の人格についての情報を得られる人格もあれば、そうでない人格もある。人格のデフォルメ度は強くて「マンガチック」ではある。

・ヒロインを診察する精神科医も精神的にバランスが悪い人物で、感情のたかぶりが激しい。ジャクスンらしいキャラクター。

・人と話している間にもめまぐるしく人格が変わっていくので、常にどの人格が話しているのかわからなくなってしまう。会話が成り立たないことも多く、読者として非常にいらつきを感じる場面も。

・第3の人格「ベッツィー」は、幻の母親を求めて家出してしまうが、その逃避行は現実のものというよりは、幻想的な要素が強い。従来の人格の自立したいという思いが反映されている?

・多重人格に関しては、超自然的な解釈はしにくいようになっている。ただジャクスンの筆致自体が幻想的なものを感じさせる。


『処刑人』について
・家族との間に精神的な軋轢を抱えるヒロインが大学に行くが、そこでも友人はなかなかできず、精神的な彷徨を繰り返すという物語。

・全体的に習作的な要素が強い作品だが、娘に文章修行をさせ、それを評論するという父親、娘に結婚生活についてこぼす母親など、ジャクスン独自の人物描写はすでに完成されている?

・大学卒業後、すぐに結婚したというジャクスン自身の実体験が反映された作品?

・ジャクスンには珍しいハッピーエンド作品である。ヒロインにとっての「孤独」の意味が変わった…という解釈もできる。

・ヒロインと母親との関係も不穏なものがある。


短篇「くじ」について
・村人たちは「くじ」制度度を変更しようとはしていない。「くじ」は、村を維持するためのシステムといっていいのだろうか。

・村人たちの「くじ」に対する反応を見る限り、善悪の視点すら感じられないのが無気味である。「くじ」の行事は村人たちにとって、楽しいイベントであるかのような雰囲気すらある。怖がって逃げ出す人もいないのが不思議である。

・となりの村でも「くじ」をやっていた(すでに廃止されている)という描写を見ると、ほんとうに単なる文化的な習俗であって、「くじ」を止めることによるペナルティ(たたりや災難)すら関係ないという印象を受ける。

・人類学的に見た視点について。「くじ」は由来が失われた「供儀」なのではないか? 映画『ウィッカーマン』などとも通じるものを感じる。ただ、ジャクスン自身はそんなことを考えてもいないような気はする。

・家族のメンバーが「くじ」に選ばれた一家は、その後どうなるのか?と想像すると怖くなる。

・超自然的な視点について。「くじ」に選ばれるのは「運命」や「宿命」であって、人々はそれに異を唱える権利すらない。選んでいる主体は「村」自身の意志?

・「くじ」に選ばれるハッチンソン夫人の描写について。彼女は「フェアじゃない」という発言を連発するが、この時点ですでに村の意志から拒絶される行為をしているのかもしれない。

・ジャクスン自身が「くじ」について語ったエッセイが『こちらへいらっしゃい』に収録されているが、結局のところ、解釈ははっきりしない。エッセイには、「くじ」を読んだ当時の読者の感想が多く並んでいるが、ほとんどは否定的な意見だった。作者は「くじ」を「ただの物語」という呼び方をしているのが特徴的。

・ジャクスンの実孫マイルズ・ハイマンによる「くじ」のグラフィック・ノヴェル作品「SHIREY JACSON'S "THE LOTTERY"」の紹介。よく出来ているが、やはり原作にはかなわない。


短篇集『くじ』について
・「曖昧の七つの型」について。古書店に日参する少年が欲しがっている古書を売ってしまう古書店主の話。非常に悪意がある。

・「魔性の恋人」について。結婚式当日に行方をくらましてしまった夫を探す新妻の物語。夫は人間ではないという解釈もできる。

・「おふくろの味」について。スケッチ風の軽い作品だが、ジャクスンらしい作品。

・「決闘裁判」について。留守中に持ち物を盗む老婦人の証拠をつかもうと、相手の部屋に侵入する女の話。妙にしんみりとした結末が味わい深い。

「歯」について。よくわからない話。歯を抜きに行くだけで幻想的な話になってしまう。


『野蛮人との生活』について
・作者自身の子育てにまつわるエッセイ集。これを読むと、語り手(ジャクスン自身)は優しく、ものわかりのいい母親に感じられる。『くじ』や『丘の屋敷』などを書いた作家とのギャップを強く感じる。

・収録作品『チャールズ』は、『くじ』と『野蛮人との生活』両方の短篇集に収録されている。『野蛮人との生活』の流れで読むと、子供に関する笑い話として読めるが、『くじ』の方で単体で読むと、邪悪な少年のホラー作品としての要素が強く感じる。


短篇集『なんでもない一日』について
「バージョン1 スミス夫人の蜜月」「バージョン2 新妻殺害のミステリー」について。殺人鬼らしい夫に気付かずに新婚生活を送る妻の物語。バージョン1では、夫の正体に気が付いていないように描かれているが、バージョン2ではそれを知りつつ、一緒に暮らしているように読める。バージョン2は非常にジャクスンらしく感じる。

・「ネズミ」について。ネズミを退治するため、罠を買うようにと夫は妻に命じるが…。非常に嫌な雰囲気の話。

・「なんでもない日にピーナツを持って」について。善悪の行為を交代で繰り返す夫婦の物語。「なんでもない日」というタイトルは皮肉が効いている。

・「悪の可能性」について。歪んだ信念から、周りの人間に悪意をばらまく匿名の手紙を投函していた老婦人が、その行為を知られた何者かから悪意のしっぺ返しを受けるという物語。結末の描写が印象的で、「悪意」というものについて非常にスマートに描かれた作品だと思う。


短篇集『こちらへいらっしゃい』について
・遺作である未完の長篇「こちらへいらっしゃい」の他、短篇と創作に関するエッセイがいくつか入っている作品集。創作エッセイは非常に参考になる。

・「夏の終り」について。リゾート地にシーズン後も残ることにした夫婦が、だんだんと孤立していく物語。なんともいえない嫌な味がある。

・「ルイザよ、帰ってきておくれ」について。家出して近くの町に隠れ住んでいた娘が、家族が自分を探していることを知り、知り合いと共に家に戻るが、家族は娘のにせものだと言って追い返されるという物語。非常にジャクスンらしい話だと思う。

・「夜のバス」について。老婦人がバスで降りる場所を間違え、最寄の宿屋に止まるがそこで恐ろしい体験をする…という話。『くじ』収録の「歯」と似た雰囲気がある。


・shigeyukiさんによる、ジャクスンと似た雰囲気を持つ作品のリスト紹介。
ジーン・リース「サルガッソーの広い海」
ハナ・グリーン「デボラの世界」
アンナ・カヴァン「アサイラム・ピース」
デューナ・バーンズ「夜の森」
残雪「黄泥街」
マーガニータ・ラスキ「ヴィクトリア朝の寝椅子」
イルゼ・アイヒンガー「より大きな希望」
ウニカ・チュルン「ジャスミンおとこ」
ソログープ「光と影」
ウィリアム・フォークナー「エミリーに薔薇を」
ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」
P・K・ディック「暗闇のスキャナー」
J・G・バラード「楽園への疾走」
アーサー・マッケン「夢の丘」
リチャード・ブローティガン「ハンバーガー殺人事件」
西丸四方「病める心の記録 ある精神分裂者の世界」

・ソログープ「光と影」の結末は「ずっとお城で暮らしてる」の結末のイメージと近いものがあると思う。

・デューナ・バーンズ「夜の森」について。同性愛的・性的な要素の強い作品。

リチャード・ブローティガン「ハンバーガー殺人事件」について。ハンバーガーの代わりに拳銃を買ってしまう主人公の話。

・何が起こっているのかわからない、という作品がいちばん怖い。理屈に落ちない作品の方が心に残る。

・復刊されたアンソロジー『怪奇礼賛』(中野善夫/吉村満美子編 創元推理文庫)について。冒頭の収録作品が「塔」(マーガニタ・ラスキ)、最後が「のど斬り農場」(J・D・ベレスフォード)という構成はインパクトが強い。

・マーガニタ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』について。ヴィクトリア朝の寝椅子を手に入れたことから、ヴィクトリア朝の瀕死の病人に意識が転移してしまう婦人を描いた幻想小説。得体の知れない雰囲気が強烈。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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