3年半ほど前になるでしょうか。ネットを徘徊していて、あるオムニバスドラマシリーズの紹介をしているサイトにぶつかりました。その時紹介されていたエピソードのあらすじを読んで、何か聞き覚えのある話だな、と思ったのが、そのドラマを見始めたきっかけでした。 ドラマの名は《ナイトビジョン》。《ミステリーゾーン》や《トワイライトゾーン》タイプの、一話完結のドラマシリーズです。毎回、ひねりの利いたストーリーで唸らされました。 見始めてから後のエピソードは、全て見ることができましたが、気になっているのが、肝心の「聞き覚えのある話」のエピソードです。『異次元への窓』と題されたそのエピソードのクレジットを調べてみると、原作は、ボブ・レマンとなっています。いろいろ調べた結果、かって『SFマガジン』に訳載された『窓』(浅倉久志訳『SFマガジン 1982年2月号』収録 早川書房)が該当作品のようです。 あらすじを覚えているということは、読んだことがあるのは確かなのですが、読み返そうにも雑誌が見つかりません。捨ててしまったんでしょうか。その内、なんとなく忘れてしまっていたのですが、最近、該当の『SFマガジン』を再び手に入れる機会があり、さっそく読み直してみました。 この作品に間違いありません。ものすごくインパクトのあったストーリーなので、記憶に残っていたのでしょう。そんなわけで、今回はこの『窓』をご紹介したいと思います。
上司の命令を受けて、政府の実験場を訪れたギルスンは、責任者のクランツと大佐に引き合わされます。実験場に、場違いなヴィクトリア朝風の屋敷を認めたギルスンは驚きます。しかも大佐は、突然家に向かって石を投げつけたのです。石は家の上部で消えてしまいます。
「ちょっと」とギルスンはいった。「こっちにもやらせてくれ」 彼は野球のボールのように、石を投げた。思いきり高く。石は家から約十五メートル手前で消えてしまった。消失点を見つめているうちに、ギルスンはなめらかな緑の芝生が、ちょうとその真下で切れていることを発見した。
家は、研究者カルヴァギャストの実験の結果、爆発とともに現れたものだというのです。新築に見えるその家の外観から判断して、1870か80年ごろ。つまり彼らは過去を見ているのではないかと考えていました。しかも、その家にはある家族が住んでいるらしいのです。
「あれの性質については、なにもわからない。ここに窓があり、それがどうやら過去に開いているらしい。その中をのぞけるところから見て、光を通すことはわかる。ただし、一方向にしか通さない。その証拠に、あの中にいる人びとは、まったくわれわれの存在に気づいていないんだ。光以外は、なにもあれを通りぬけることはできない。石がどうなったかは、さっき見たとおり。あの境界面に長い棒を押しこんでみることもやった−抵抗はまったくない。だが、中へ入った部分は消えてしまう。神のみぞ知るどこかに。なにをあの中へ入れても、もどってこない。」
実験の結果、十五時間二十分おきに、五秒間だけ《窓》が開くことが確認されます。事態を上司に報告するというギルスンに対し、熱狂家の青年リーヴズは反対します。家に住んでいる幸せそうな家族に感情移入していたリーヴズは、彼らの暮らしを壊したくないというのです。彼は、家族のひとりひとりに名前をつけており、ことに小さな女の子をマーサと名づけていました。
「ちょっとしたもんでしょう。あれこそ人間らしい暮らしですよ。このくそったれな現代生活におさらばして、あの時代にもどって、あんな生活ができたらなあ……。それにマーサ、マーサを見ましたか? 天使ですよ、ねえ? もし、あそこに行けるなら−」
政府の介入が避けられないことを知ったリーヴズは、次に《窓》が開いた瞬間、家のある空間に向かって飛びこんでしまうのです。
「リーヴズ、よせ!」クランツだった。ギルスンは駆けていく足音を聞き、視野の隅にすばやい動きを認めた。ふりむくと、リーヴズのひょろ長い体がさっと通り過ぎていった。リーヴズは頭から境界面に飛びこみ、ぶざまに芝生の上へ投げ出された。
《過去》に飛び込んだリーヴズの運命は? あそこは本当に《過去》なのでしょうか? 幸せな家族に憧れた青年に、思いもかけない事態が降り掛かります…。
過去への郷愁にとらわれた青年が、その空間へ入り込んでしまう。どこかジャック・フィニィ風のノスタルジーに満ちた作品かと思いきや、結末は正反対のトーンを迎えます。まったく予想もしない展開に、読者は戦慄を覚えるはず。ノスタルジーを逆手にとった、おそるべき恐怖小説です。
この『窓』を《ナイトビジョン》で映像化したエピソード、ネットで検索してみると、ニコニコ動画で見れることがわかりました。著作権の関係で、あんまり勧められないのですが、興味のある人は探してみてください。非常にショッキングなのでご注意を。 テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学
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