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テーマ:その他 - ジャンル:その他

波との暮らし方  パス『波と暮らして』とその絵本化作品
400110864Xぼくのうちに波がきた (大型絵本)
オクタビオ・パス キャサリン・コーワン マーク・ブエナー
岩波書店 2003-06-20

by G-Tools

 メキシコの詩人オクタビオ・パスに、『波と暮らして』(井上義一訳 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』福武文庫収録)という、幻想的な短篇小説があります。
 海に出かけた男性が、「波」を見初めて家に連れ帰り、一緒に暮らし始めます。最初は楽しかった生活ですが、気まぐれな「波」は、物を壊したりと自分勝手を始めます。逃げ出した男性が、冬に家に戻ってみると…という物語。
 「波」を「女性」の擬人化として描いた、ファンタスティックな作品です。男性をからかったり、嫉妬させたりと、現実の女性のアナロジーとして描かれており、官能的な要素も強くなっています。

 かなりエロティックな作品といえるのですが、なんとこの作品を絵本化した作品があります。それがこれ、『ぼくのうちに波がきた』 (キャサリン・コーワン文、マーク・ブエナー絵 岩波書店)。
 子供向けのアレンジのため、エロティックな要素はなくなっています。そのため、こちらの作品では、主人公は少年で、「波」は少女として描かれています(といっても、ヴィジュアル的にはただの「波」なのですが)。「波」が少女(子供)のように描かれているため、後半に波が荒れ狂う場面も、子供のわがままとして解釈できるところは、見事な換骨奪胎ですね。
 お話の流れは、原作とほぼ同じです。原作では「波」を連れ帰ろうと、飲料水タンクに「波」を入れた主人公が、毒を入れた容疑をかけられ、刑務所に1年間入れられてしまうという部分があるのですが、さすがにそれはカットされています。
 画面いっぱいにヴィジュアル化された「波」が非常にユーモラスに描かれており、見応えがあります。これは絵本ならではの表現ですね。
 絵本だけで読んでも、充分魅力的ですが、原作と絵本を読み比べると、いっそう楽しめると思いますので、気になった方はぜひ。
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会 参加者募集です
 「怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年2月26日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1200円(予定)
テーマ
第1部:夢と眠りの物語
第2部:テーマなしフリートーク

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。メインは「怪奇幻想」ですが、ミステリ・SF・ファンタジー・文学・コミックなど、関連分野についても話しています。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

第1部のテーマは「夢と眠りの物語」。
 古来より神秘的とされてきた「夢」と「眠り」。古典の時代から現代まで、物語においても、様々に取り上げられてきました。
 例えば、ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス『円環の廃墟』、ジョン・コリア『夢判断』、夏目漱石『夢十夜』、エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』、筒井康隆『パプリカ』、キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』、内田善美『星の時計のLiddell』、ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』、アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』、澁澤龍彦『夢ちがえ』など。魅力的な「夢」と「眠り」にまつわる物語について話したいと思います。

第2部は、テーマを限定しないフリートークとして、最近読んだ面白い本や映画の話、紹介したいオススメ本の話、参加者に聞いてみたい疑問など、興の向くままにおしゃべりしたいと思います。

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《ナイトランド叢書》の続刊について
 『SFが読みたい!2017年版』(早川書房)を読みました。目当ては2017年度の各出版社の刊行予定なのですが、アトリエサードの出版予定がすごかったです。
 海外怪奇幻想小説を紹介しているシリーズ《ナイトランド叢書》の第三期の続刊が紹介されていたのですが、二期に引き続き、マニアックなタイトルばかりで驚きました。


第二期

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(安田均編)
1 ゾシーク篇(発売中)
2 ハイパーボリア篇
3 アヴェロワーニュ篇

オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(中川聖訳)

マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(尾之上浩司訳)

M・P・シール『紫の雲』(南條竹則訳)


第三期

E・ヘロン&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探求』

A・メリット『魔女を焼き殺せ』

サックス・ローマー『魔女の血脈』

E・H・ヴィシャック『メデューサ』

エドワード・ルーカス・ホワイト『セイレーンの歌』『ルクンド』


 すでに1巻が刊行されている、C・A・スミスの短篇集は2分冊ではなく、3分冊になったようです。増補作品も入るのでしょうか。
 ヘロンの『フラックスマン・ロウの心霊探求』は、オカルト探偵ものでは有名な作品の一つですね。《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》に分類されることもあります。
 メリット『魔女を焼き殺せ』は、50年近く前の邦訳があるものの、稀書に近い状態だったので、刊行は嬉しいところです。
 ヴィシャック『メデューサ』は、幻想小説の古典的名作と言われているものの一つ。確か《世界幻想文学大系》の幻の候補作の一つにも挙がっていました。
 個人的に一番うれしいのは、エドワード・ルーカス・ホワイトの作品。怪奇アンソロジーのマスターピースとして、作品がよく収録されるホワイトの作品ですが、個人傑作集は編まれたことがなかったので、これは快挙です。
 この感じだと、W・W・ジェイコブスとかシンシア・アスキスあたりの邦訳も夢ではなさそうですね。

 アトリエサードの刊行予定では、SF作品もいくつか挙がっていますが、中では、アルジス・バドリス『無頼の月』が気になります。

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邪悪なる祈り  ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』
4336055351悪の誘惑
ジェイムズ ホッグ James Hogg
国書刊行会 2012-08

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 享楽的な領主の父と、厳格なキリスト教徒の母との間に生まれた二人の兄弟。兄のジョージは、父親のもとで、寛大な心を持つ好青年に育ちます。一方、弟のロバートは、狂信的な牧師と母との間で育てられ、他人からは近寄りがたい人間に育ちます。
 成長したロバートは、仇のように兄ジョージを追い回し、嫌がらせをし続けます。やがて、ジョージが死体となって発見されますが、犯人はジョージと口論をしていたドラマンドという男だとされていました。
 やがて父親が亡くなり、ジョージの代わりに、家督をついだロバートでしたが、父親の家政婦だった女性は、ロバートこそジョージ殺害犯だと確信し、調査を始めます…。

 『悪の誘惑』(高橋和久訳 国書刊行会)は、羊飼いから作家になったという、異色の経歴を持つスコットランドの作家、ジェイムズ・ホッグの作品です。
 大きく三部に分かれており、一部と三部は編者からの「客観的な」語り、二部は弟の視点による語りになっています。一部でまず、客観的な事件の顛末が描かれ、二部では弟の狂信的な視点から描かれた「手記」が語られます。そしてまた三部では、その「手記」についての編者の見解が描かれる、といった構成になっています。
 兄弟間の憎しみや、殺人さえ描かれるにも関わらず、一部はかなりユーモアに富んだ筆致になっているのが面白いところです。好青年の兄に対し、弟は徹頭徹尾「嫌な」男で、兄を追い回します。たびたび兄弟は遭遇し、いさかいを起こすのですが、弟がなぜそこまで兄を憎むのかや、兄ジョージの死の真相は前半では明かされません。

 二部では、弟ロバートの視点から描かれた物語が語られますが、ここからが圧巻です。異様なまでの宗教教育を受け、ゆがんだ視点を持った男の独善的な行動が描かれていきます。子供のころから嘘をつき、悪事を働いてきたにもかかわらず、自分は神に許されているという考えを持っているため、自らの行動に対し良心の呵責を全く覚えないのです。 
 やがてロバートの考えに賛同してくれる、謎の男が現れます。最初はロバートの思想や行動を褒め称えていた男は、段々と悪事を働くようにそそのかしていきますが、ロバートもそれに従い、破滅的な行為を繰り返していくことになるのです。
 この「謎の男」、たびたび姿や声を変えたりと、悪魔のような人物なのですが、この男が実在しているかどうかも、じつは定かではありません。ロバートの「悪の心」の分身なのか、それとも本当の「悪魔」なのか。
 殺人を含む、あらゆる悪事を行いながら、独善的な論理でそれらを全て正当化しようとするロバート。その告白が、異様な熱気を持って語られる後半の展開は、凄いの一言です。

 作品全体の構成も、読者を眩惑するような作りになっています。一部の編者の「客観的な」語りと、二部の弟の独白とで、同じ事件に対する細部や解釈が異なっているのです。もちろん二部の語り手であるロバートは「嘘つき」なので、その語りを信用はできないのですが、かといって編者の語りが信用できるかというと、そういうわけでもないのです。
 とくに三部では、発見された手記について、作者自身であるジェイムズ・ホッグ自身も作中人物として登場します。しかも編者はホッグは信用できない…などという意見も書いているのです。
 この時代の小説には、「手記」や「手紙」という設定はよく使われるのですが、この作品では、その視点のずれが多重になっていて、真実がぼやかされる…という効果を発揮しています。

 19世紀前半に書かれた、いわゆる「ゴシックロマンス」に属する作品なのですが、このジャンルの作品としては、分量的にもあまり長くなく、読みやすい作品です。ミステリの先駆的作品としても、熱気に満ちた幻想小説としても読めますが、何より、今読んでも面白さを感じられるという意味で、古典的な傑作と呼んでもいい作品でしょう。

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怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会 開催しました
 1月29日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 テーマは、第1部「奇想小説ワンダーランド!」、第2部「私の読書法」です。本会は4時間、二次会は3時間ほどの長丁場でしたが、話がつきることなく、楽しく終えることができました。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。
 テーマが「奇想小説」ということで、同時にオススメの「奇想小説」があればタイトルを挙げてくださいとお願いしていました。主催者含め、参加者のオススメ「奇想小説」をまとめたリストを作成し、当日資料として配付しました。

 前回同様、あらかじめ作っておいたプラスチック製ネームプレートを、参加者それぞれの前に立てたうえで、参加者を紹介しておきます。今回は、新規の方のみ主催者から紹介し、2回目以降の参加者には、軽く自己紹介をしてもらいました。
 自己紹介のあとに、主催者や他の参加者から、ちょっとした質問などもはさみながら進んだので、紹介だけで30分以上かかってしまいました。ただ、この時点で話がはずんだ部分もあり、緊張をほぐすのには良かったかなと思います。

 以下、順不同で話題になったトピックの一部を並べてみましょう。例によって、記憶に残っているものだけですが。

第1部
・クライヴ・バーカー作品について。純粋なホラー作品は初期に集中していて、ある時期を境にファンタジーの方向に行ってしまった。面白いのは、やはり初期作品。『血の本』は、スプラッター色が強烈なので避けられがちだが、ブラック・ユーモア作品も入っていたりとバラエティに富んでいる。巻頭の『ミッドナイト・ミートトレイン』に馴れてしまえば、後は普通に読める? 『丘に、町が』は、奇想にあふれた傑作作品。
・サキの作品について。白水Uブックスから刊行されている新訳本は、原著の短篇集単位だが、それ以前のものは、ほぼ全て選集。ちくま文庫から刊行されていた『ザ・ベスト・オブ・サキ』の翻訳は素晴らしい。
・W・H・ホジスンの作品について。《ボーダーランド三部作》の邦訳が揃うとは思わなかった。雑誌『ナイトランド』の編集部にホジスンファンがいる?
・ホジスン『ナイトランド』の面白さ。前半は恋愛もの要素が非常に強いが、後半からは冒険小説的な色彩が強くなる。世界観の独創性は素晴らしい。
・月刊ペン社《妖精文庫》について。まりの・るうにいのカバーと挿絵の素晴らしさ。刊行当時の《妖精文庫》の思い出など。
・ポール・ボウルズ作品について。『優雅な獲物』など。
・多岐川恭作品の面白さについて。変わった作品がたくさんある作家。創元推理文庫から選集も出ている。『異郷の帆』『おやじに捧げる葬送曲』など。
・エドワード・ケアリー『堆塵館』は面白かった。
・シオドア・スタージョン作品の「奇想性」について。「奇を衒って」いるのではなく、感性そのものが相当変わっている。ただ「普通」のユーモアSF(例えば『昨日は月曜日だった』)も書ける器用さも持った作家である。『考え方』『孤独の円盤』『ビアンカの手』『墓読み』『人間以上』『きみの血を』など。
・エドモンド・ハミルトン作品の面白さ。長篇が典型的な娯楽SFなのに対して、短篇ではけっこう先鋭的な作品がある。『フェッセンデンの宇宙』『反対進化』など。ハヤカワSFシリーズ版の作品集『フェッセンデンの宇宙』は、同名の河出文庫版作品集と収録作品が異なるが、ハヤカワ版も傑作揃い。
・バリントン・J・ベイリー作品の面白さ。アイディアの臆面のなさが凄い。馬鹿らしいネタでもそれらしい理屈や哲学がくっついてくるのが楽しい。『ゴッド・ガン』『ブレイン・レース』『大きな音』『ドミヌスの惑星』『禅銃』『カエアンの聖衣』など。長篇よりも短篇の方が面白い。最近出た作品集『ゴッド・ガン』も面白いが、過去に出た作品集『シティ5からの脱出』も面白い。
・ドイツの作家、クルト・クーゼンベルク作品の面白さについて。短篇『ニヒリート』は、接着剤についてだけで一つの短篇になっているというユーモア作品。
・グレッグ・イーガンは、理系でなくても充分読める。短篇のリーダビリティは高い。
・R・A・ラファティの奇想作品について。『九百人のお祖母さん』『スロー・チューズデー・ナイト』『せまい谷』など。
・リチャード・マグワイアのグラフィック・ノヴェル『HERE ヒア』の独創性。複数の時代を一つの場所に詰め込むというアイディアが素晴らしい。
・架空の博物誌について。ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』、レオ・レオーニ『平行植物』など。
・マルク=アントワーヌ・マチューのバンド・デシネ(フランスのコミック)作品について。3秒間の出来事をいろんなアングルから描いていく『3秒』、神が光臨した世界を風刺的に描く『神様降臨』など。
・ディーノ・ブッツァーティについて。不条理な作風だが、物語性や娯楽性が強いので楽しんで読める。あらすじを紹介すると、意外に何も起こっていないことが多いのに気付いて驚く。大まかにまとめると「不安」がテーマの作家。イラストレーターとしても魅力的。『七階』『バリヴェルナ荘の崩壊』『タタール人の砂漠』『シチリアを征服したクマ王国の物語』など。
・江戸川乱歩『鏡地獄』の独創性。乱歩には『屋根裏の散歩者』『人間椅子』などフェティシズムを扱った作品が多い。『鏡地獄』の鏡は実際に作れるのか?
・西澤保彦のSFミステリについて。「どうしてそうなっているのかはわからないが」、なぜか特殊な設定の世界観で展開されるミステリ。アイディアは面白い。『七回死んだ男』『人格転移の殺人』『複製症候群』『ナイフが町に降ってくる』など。
・諸星大二郎のマンガ作品について。『感情のある風景』のように、哲学的なセンスさえ感じさせる作品のある一方で、『鯖イバル』など、馬鹿らしいアイディアのユーモア作品もある。オススメは『妖怪ハンター』シリーズ。
・伊藤潤二のマンガ作品の面白さについて。どの作品もアイディアの奇想性はすごい。描線も非常に魅力的。自分と同じ顔の気球が首を吊ろうと襲ってくる『首つり気球』、どんどん夢が長くなっていくという『長い夢』、地球を平らげようと悪魔のような星がやってくるという『地獄星レミナ』など。とくに『レミナ』の後半、地球の環境が激変する部分でのヴィジュアル描写はものすごい。
・映画作品『主人公は僕だった』の紹介。小説の登場人物になってしまった主人公が、小説家を探し出し自分の運命を変えようとする話。本来メタな視点であるはずの「作家」が創作物である「主人公」と同じ階層にいるという、ユニークな設定の作品。
・映画作品『フリーズ・フレーム』の紹介。過去に濡れ衣をきせられノイローゼになった主人公が、家中にカメラをしかけて自分の行動を記録に撮るという物語。最後まで主人公が悲惨なので、あまりオススメできない作品。
・澤田知子の写真集『ID400』の紹介。写真家自身がメイクや仮装をして、別の人物になりきるというパフォーマンスを400パターンの証明写真の形でやってしまったという実験的な作品。他の澤田知子作品の紹介も。
・トーベ・ヤンソン『ムーミン』シリーズの面白さについて。原作小説は、アニメと違ってかなり「暗い」。ムーミンパパはやたらと居なくなる。最初の巻は、退屈な部分もあるが、後半の巻は大人の鑑賞に耐える出来映え。
・A・E・コッパード『ジプシー・チーズの呪い』は、コッパード作品の中でも「暗く」、かなり怪奇小説方面に寄った作品。
・半村良『箪笥』は奇想小説? 能登の方言で書かれた作品。作者は地元出身ではないが、方言はかなり正確(らしい)。
・エリック・マコーマックは作風上、係累のいない突然変異的な作家だと感じる。短篇集『隠し部屋を査察して』、長篇『パラダイス・モーテル』など。
・フリオ・コルタサル『占拠された屋敷』は、コルタサルとしては、かなり怪奇方面に寄った作品。他に『続いている公園』など。
・ポピー・Z・ブライト作品について。セクシュアル・マイノリティに親近性を持つ作家。『絢爛たる屍』は、どぎつい設定ではあるものの、中身は意外にも純粋な恋愛小説。
・筒井康隆作品は奇想小説の宝庫。『驚愕の曠野』『虚航船団』『残像に口紅を』など。
・木原善彦による実験小説のブックガイド『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』の面白さ。内容紹介など。
・泡坂妻夫の『しあわせの書』『生者と死者』の超絶技巧。『生者と死者』の袋とじの趣向はすごい。
・レシェク・コワコフスキ『ライロニア国物語』の面白さ。哲学的な寓話集とはいいながら、ユーモラスかつナンセンスな話も多く楽しめる。集中の一篇『こぶ』は『東欧怪談集』にも収録されている。
・国書刊行会の本は、数十年経っても在庫があるものがある。
・エドワード・ゴーリーの絵本について。徹底的にブラックな作品が多い中にあって、エドワード・リア作品のために描いた『ジャンブリーズ』は非常に楽しい作品。
・エドゥワルド・メンドサ『グルブ消息不明』の作品紹介とその魅力。宇宙人が地球にまぎれこむコメディ。そのギャップが面白い。
・東宣出版の《はじめて出逢う世界のおはなし》シリーズは、精力的に面白い作品を紹介していて楽しみ。
・映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』と『コーンヘッズ』の面白さ。
・昔の名画座など、中小映画館の思い出と魅力について。解説者が解説したり、オーナーがお菓子を配ったりなんてこともあったそう。
・ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』について。発想はすごいが、個々のエピソードはそれほど面白くない? 通読するより拾い読みする方が楽しい。男性版と女性版の違いは? パヴィチは他にも『風の裏側』など、前衛的な手法の作品を書いている。
・ジュール・シュペルヴィエル作品について。『火山を運ぶ男』のオリジナリティ。『ひとさらい』『海に住む少女』など、発想はぶっ飛んでいても、物語は詩的。
・ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』の魅力について。病のイメージの美しさ。ヴィアンは書き飛ばしたような作品も多いが、魅力的な作品も多い。
・芸術がテーマと結びついている作品だと、その芸術に興味がないと、味わいが半減してしまう。フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』など。
・『居心地の悪い部屋』は、ちょっと期待はずれだった。
・角川のホラー作品は、翻訳が読みにくいものが多い。ただ、古くからホラー系統の作品を紹介してくれている出版社ではある。角川ホラー文庫の海外ラインナップは微妙だった。
・ダフネ・デュ・モーリアの短篇について。デュ・モーリアの作品には「嫌な」登場人物がよく登場するが、同じ「嫌らしさ」でも、例えばシャーリイ・ジャクスンの登場人物が理解しがたい人物像が多いのに比べて、デュ・モーリアの場合、現実にありそうな「嫌らしさ」がある。近刊の短篇集『人形』も面白い作品揃い。

第2部
・本棚の並べ方について。出版社別、作者別、文庫の種類別など。テーマ別の分類は難しい?
・図書館の利用について。近い場所にないと使いにくい。本を買うのと併行していると、借りても読み切れない。
・文庫本の値上がりについて。最近の文庫本の値はかなり上がっている? 相対的に以前は割高感のあったちくま文庫が安く思えるようになった。
・本の帯はとっておく派? 捨てる派? デザインの一部になっているものや、情報が書いてあるものは捨てにくい。
・お風呂で本を読む? 駄目になるのを前提で読むこともある。風呂で読む用のプラスチック本もある。
・自分で買った本の方が、ちゃんと読む気になる。が、100円均一の本は例外。
・新しい分野や作家の本を開拓しようとする場合、どういう風にすべきか? アンソロジーで気になった名前を片っ端から芋づる式に読んでみる。
・北欧ミステリは社会問題を扱ったりと、全般的に重い作品が多い。
・読んだ本の記録をつける? ノートに感想をつける。ブログで感想を書く、など。データベースに著作リストを作っている人も。
・蔵書リストの登録について。同じ本を二度買ってしまうことがある。

二次会
・ジュール・ヴェルヌ作品について。ヴェルヌは科学的に正確に書く作家なので、作中の現象が正確かどうか計算が可能。インスクリプト刊の新シリーズについても。
・理系のSFファンは、ハードSFについて、科学的に正確か計算する?
・SFファンは、サイバーパンクでついていけなくなった人も多い? ただ、今読むとそこそこ読めるものも多い。
・かっての福島正実編のアンソロジーのような、入門編的な作品集は今ではなくなってしまった? 福島正実のテーマ別の編集は非常にわかりやすかった。
・SF作品は時間が経つと古びるものだが、フレドリック・ブラウンは今でも古びていない。発想も独特で、フィリップ・K・ディックの先駆者的な面があるのでは?
・アニメ『バーナード嬢曰く』の面白さ。おそらく馴染みのないだろう小説に関する話でも、饒舌に話せる声優のプロ技術に脱帽した。
・ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』のすごさ。語り手の狂信が強烈。手記や編者が多重になっていて、メタな作りになっている。書かれた時代を考えると、非常に先駆的。
・コードウェイナー・スミス作品の視覚的効果について。『人びとが降った日』など。
・ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品について。タイトルの付け方が素晴らしい。SFというよりはファンタジー寄りの作風? 『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』など。
・電車や乗り物を扱った作品について。ピーター・へイニング編『死のドライブ』、ブッツァーティの鉄道が舞台の作品、フリードリッヒ・デュレンマット『トンネル』など。
・アンソロジー『妖魔の宴』(竹書房文庫)について。中身はけっこうオーソドックス。今では手に入りにくい?
・蔵書数について。手狭な部屋で本を増やさないためには。
・雑誌の魅力。時間が経つと、中身の情報だけでなく、雑誌自体の時代感が出てくるのが魅力。なので、単行本より雑誌の方が捨てにくくなる。
・電子書籍では買いたくない本のジャンルは? 絵本・画集など。
・怪奇小説アンソロジー(特に翻訳もの)は、絶版になりやすいので、集めるのが大変。
・職場で本の話ができる人がいる? ほとんどいないという人が大半。
・短篇集と長編はどちらが読みやすい? 短篇集やアンソロジーの方が、一篇ごとに頭を切り替えないといけないので、時間がかかる。
・ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』の面白さ。構成上の工夫も魅力的。完全版の邦訳はいつ出るのか? 映画版の方は、入れ子形式の展開がとんでもない。
・音楽を扱った作品について。ルイス・シャイナー『グリンプス』、ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』など。
・最近面白かった映画について。『ロブスター』など。結婚相手を見つけないと、政府に動物にされてしまうという話。設定はへんてこだが、テーマは意外と真摯にできている。
・最近面白かった本。イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』について。穴に落ち込んだ兄弟が脱出しようとする話。脱出方法が力業でびっくりする。
・ライトノベルで面白い作品は? 西尾維新《物語》シリーズ、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』など。
・クラシック音楽を聴くなら何がいい? 名曲集で自分のお気に入りを見つけるのが良し。バロック音楽、サティ、ドビュッシーなど。
・枠物語について。井上雅彦編『物語の魔の物語 異形ミュージアム2 メタ怪談傑作選』は、メタフィクショナルな作品を集めた好アンソロジー。
・ハーラン・エリスン『死の鳥』(原書版)は面白かった。オリジナル版の邦訳はもう出ないのだろうか?
・ホラー小説好きでも、ホラー映画を見るとは限らない。逆もしかり。むしろ小説を読まないホラー映画ファンは多い。
・小説ファンと映画ファンは意外に重ならない?
・ジェシー・ダグラス・ケルーシュ『不死の怪物』について。ロマンス部分が多い。古典的な名作は、読んでみるとがっかりすることも。
・文春文庫のホラー作品は打ち切り?
・パウル・シェーアバルトは難しい。
・翻訳者で作品の雰囲気はずいぶん違う。シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』の読み比べ。
・大瀧啓裕の訳文は、当たり外れが大きい。ラヴクラフトは微妙だが、C・A・スミスはかなり合っている。すでに普及している作家名や作品名の表記を、わざわざ変えるのはどうかと思う。
・欧米怪奇小説ファンの少なさについて。
・レーモン・ルーセル作品について。創作方法が独特なので、楽しんで読むのは難しい?

 二次会は、お店の都合上、テーブルが分かれてしまったのですが、途中で一部の人の場所を変えて、なるべくいろんな人と話せるようにしました。とはいえ、僕自身が聞けなかった部分もあるので、二次会のトピックについては、書けなかったものもあるかと思いますが、悪しからず。

 今回は、第1回・第2回と比べても、わりと親密な雰囲気の会になりました。発言の多寡はありますが、ほぼ全ての参加者が、何らかの形で話に参加できたのではないかと思います。もともと、聞いているだけでもいいという方針なので、無理に話す必要はないのですが、やはり話の合いの手を入れてくれるだけでも、流れは違ってきますね。
  『ムーミン』の意外な読みどころや、写真集にも面白そうな作品があるなど、僕個人にとっても得るところの多い会になりました。

 第4回読書会は、2月の後半を予定しています。

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2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
発売中 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(アトリエサード 2376円)
2月7日刊 フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(白水Uブックス 予価1512円)
2月17日刊 J・L・ボルヘス『アレフ』(岩波文庫 778円)
2月17日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
2月中旬刊 只野真葛『奥州ばなし』(勝山海百合訳 荒蝦夷 予価2268円)
2月23日刊 ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
2月25日刊 近藤ようこ『帰る場所』(KADOKAWA 予価950円)
2月25日刊 近藤ようこ『水の蛇』(KADOKAWA 予価950円)
2月27日刊 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(創元海外SF叢書 予価3024円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』(創元推理文庫 予価1188円)
2月27日刊 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫 予価1080円)
2月下旬予定 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国2』(アトリエサード)


 1巻目はもうすでに発売中のようですが、《ナイトランド叢書》の最新刊は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』。かって創土社から出た1巻本を再編集して2分冊にしたもののようです。2巻は今月下旬の発売予定。
 ただ、スミスの作品に関しては、大瀧啓裕訳による創元推理文庫の3冊がありますし、既訳が多いのではないかと思ったのですが、確認してみたら、この3冊も、井辻朱美訳『イルーニュの巨人』も、すでに絶版なのですね。その点、スミス入門編としてはタイミングはいいのかもしれません。

 只野真葛『奥州ばなし』は、分身テーマではよく言及される「影の病」を含む怪異譚集。現代語訳ということで、これは読んでみたいところです。

 ロマンチックSFの名手、ロバート・F・ヤングの短篇集『時をとめた少女』が、ハヤカワ文庫SFから登場です。初訳2篇を含む全7篇を収録とのこと。これは楽しみです。

 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』は、世界幻想文学大賞受賞作品とのことですが、なかなか面白そうです。「中東の専制国家で生きるハッカー・アリフは、恋人から謎の古写本を託される。存在するはずのない本に記された、人間が知るべきではない秘密とは?」。

 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』は、構成のかなり凝った感じのするミステリ。「2014年カリフォルニアで解体予定の家から発見された貴重品箱。そのなかには三つのものが入っていた。1945年に刊行されたパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、軍支給の便箋に書かれた『改訂版』と題された原稿……。開戦で反日感情が高まるなか、作家デビューを望んだ日系青年と、編集者のあいだに何が起きたのか?」。

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怪奇と幻想のロマンス  J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』
448850602Xドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)
J・S・レ・ファニュ 千葉 康樹
東京創元社 2017-01-21

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  アイルランドの作家、J・S・レ・ファニュ(1814-1873)は、19世紀の怪奇幻想小説の分野では「巨匠」とされる作家の一人です。本邦で有名な作品としては、官能的な吸血鬼小説『吸血鬼カーミラ』や、サイコ・スリラー的な要素もある怪奇小説『緑茶』あたりが挙げられるでしょうか。
 怪奇小説の「巨匠」というと、我々は20世紀以降の作品、ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズのような作品を考えてしまうのですが、実のところ、19世紀以前の作品は、20世紀以降の作品のような、純粋な怪奇小説というのは、あまりありません。細かく言うと、「怪奇」や「幻想」そのものが主題になる作品があまりない、ということです。あくまで作品の味付けとしてそれらがある、といった方がいいのでしょうか。
 そうした時代にあって、レ・ファニュは、例外的に怪奇幻想の要素が強い作品を多く書きました。ただ、「ロマンス」や「メロドラマ」の要素は強く、そうしたところが古色蒼然とした印象を与える理由にもなっているのですが、今現在では、逆にその古色蒼然さが魅力ともなっているのです。

 レ・ファニュの主な邦訳としては、以下のようなものがあります。

長編
『墓地に建つ館』(榊優子訳 河出書房新社)
『アンクル・サイラス』(榊優子訳 創土社)
『ワイルダーの手』(日夏響訳 国書刊行会)
『ゴールデン・フライヤーズ奇談』(室谷洋三訳 福武文庫)

短篇集
『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
『レ・ファニュ傑作集』(小池滋、斉藤重信訳 国書刊行会)

 短篇作品は80篇ぐらいあるらしいのですが、未訳が多く、まとめて短篇作品を読めるのは50年近く前に出版された『吸血鬼カーミラ』のみでした。そんな状況だっただけに、今回刊行された、レ・ファニュの作品集『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』は、怪奇幻想ファンにとって、またとない贈り物となりました。
 以下、収録作品を紹介していきたいと思います。

『ロバート・アーダ卿の運命』
 悪魔らしき人物との契約により、命を狙われる男の物語を、「伝説」と「事実」との2通りで描いた物語です。
 いかにも伝説然とした展開の1話目と、キャラクターを描き込み、小説としての余韻を加えた2話目と、2つの味わいを楽しめます。集中もっとも「怪奇小説」らしい作品です。

『ティローン州のある名家の物語』
 資産家の娘ファニーは、嫁ぎ先の貴族グレンフォーレン卿の屋敷に迎えられますが、屋敷内で気味の悪い盲目の女を見かけます。自分に対して攻撃的な女の態度にファニーは怯えますが…。
 謎の女、夫の秘密、ゴシック的な道具立てたっぷりの作品です。「秘密」に関しては、すぐに気付いてしまうのですが、それでも読ませるサスペンス味は流石というべきでしょうか。

『ウルトー・ド・レイシー』
 ウルトー・ド・レイシーは、政治的な駆け引きで失脚し、財産や領地を失ってしまった結果、二人の娘を伴って、辺鄙な場所に移り住みます。彼の希望は美しい妹娘ウナを資産家の青年と結婚させることでしたが、ウナは見知らぬ男に恋しているようなのです…。  
 先祖の因縁により復讐されるというゴースト・ストーリー。先祖から伝わる警告にもかかわらず、悲劇は起きてしまうという運命譚になっています。

『ローラ・シルヴァー・ベル』
 魔術を使うと噂されるカークばあさんは、捨て子だった娘ローラ・シルヴァー・ベルを可愛がっていました。ある日、ばあさんは汚らしく忌まわしい男に出会い、ローラをよこせと言われますが、すぐにはねつけます。しかし、ローラ自身には男が魅力的に見えているようなのです…。
 妖精に狙われる娘の物語なのですが、さらわれて終わり、ではなく、その後を描いているところが新鮮ですね。しかも、その後が描かれた部分がじつに禍々しい雰囲気なのです。邪悪なフェアリー・テールとでもいうべき作品です。

『ドラゴン・ヴォランの部屋』
 パリに「冒険」のために向かっていた英国人青年ベケットは、旅の途上、馬車トラブルに巻き込まれたサン=タリル伯爵夫妻を手助けします。伯爵夫人に一目ぼれしてしまったベケットは、夫人が不幸な結婚をしていることを知り、自分の手で彼女を助け出そうと考えますが…。
 怪奇幻想味はほとんどない作品ですが、リーダビリティは非常に高いサスペンス小説になっています。青年が伯爵夫人と恋仲になるまでの前半はいささか退屈しますが、後半になり、ある計画が持ち上がってからは手に汗握る展開になります。前半に登場する青年の「病気」がしっかりとした伏線になっているところには感心しました。

 19世紀の作家ゆえと言うべきか、作品の始まりは、たいてい舞台となる村や自然の描写が丁寧にされていきます。一見、退屈になりそうな部分なのですが、情景描写が巧みなので、すぐに作品の舞台に入り込めます。特に、森や古城などが登場する作品の雰囲気は絶品です。
 純サスペンス作品である『ドラゴン・ヴォランの部屋』が典型ですが、レ・ファニュが、怪奇小説の名手である以前に、当時のエンターテイメントの名手でもあったことのわかる作品集でした。レ・ファニュの当時の異名「アイルランドのウィルキー・コリンズ」は、コリンズに劣らぬストーリー・テラーぶりを表わしたものでしょうか。

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最近読んだ本(オーストリア幻想小説を中心に)
4560071985裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)
アルフレート クビーン 吉村 博次
白水社 2015-03-07

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アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(吉村博次、土肥美夫訳 白水Uブックス)

 主人公の画家夫婦のもとに、学生時代の友人からの使いだという男が現れます。彼が言うには、その友人パテラは、東方で莫大な富を手に入れ、その富を利用して「夢の国」を建設したというのです。
 「夢の国」ペルレにたどり着いた主人公夫婦は、その国が年中霧に覆われ、人々も鬱々としていることに驚きます。しかも肝心の友人パテラには、なかなか会えないのです。
 やがてアメリカから大富豪がやってきたことから、「夢の国」の崩壊が始まりますが…。

 「夢の国」といいながら、主人公たちにとっても、既に住む人々にとっても、そこは、理想郷ではありません。日々暮らすことはできても、活気も希望もない街なのです。支配者である友人パテラに会おうとするものの、なぜか会えず、そのうちに街から出ようとする気力もなくなっていきます。不条理小説風の前半は、雰囲気は良いのですが、いささか冗長なきらいもあります。
 対して、アメリカからの大富豪が現れ、国の崩壊が始まる後半からが読みどころでしょうか。病が蔓延し、動物たちが暴れ出したり、人々が次々と死んでしまう…。それまでモノクロだった画面が、急に極彩色になったかのようです。
 作者は幻想的な画家として有名な人ですが、それだけに視覚的な描写は素晴らしく、ことにクライマックスの狂騒的な場面は読み応えがありますね。



4488010369両シチリア連隊
アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 垂野 創一郎
東京創元社 2014-09-12

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』(垂野創一郎訳 東京創元社)

 第一次大戦後のウィーンが舞台。大戦時に、両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレと一緒に、夜会に招かれます。席上、大佐は、見知らぬ男から奇妙な話を聞くことになります。その男は、ロシアで捕虜となって脱走し、ニコライ大公に別人と取り違えられたというのです。
 夜会がお開きとなる直前、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で殺害されているのを発見されます。そして、事件を調べていた元連隊の少尉もまた行方不明となりますが…。

 「両シチリア連隊」の兵士たちが次々と死んでゆく謎を追う、ミステリ風味の強い幻想長篇です。章ごとに、それぞれの兵士たちにスポットを当てていくという形式になっています。
 序盤の取り違え話が、後半になると、さらに複雑な様相を呈してきます。取り違えられた人物は、生きているのか死んでいるのか? 死んだはずの人間が現れたりと、真実が二転三転するクライマックスのサスペンスは強烈です。
 正直、純粋なミステリとして読むと、割り切れない要素が多すぎますが、幻想小説としては、何とも魅力的な作品と言えます。



hore.jpg白羊宮の火星 (福武文庫)
アレクサンダー レルネット・ホレーニア 前川 道介
福武書店 1991-02

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『白羊宮の火星』(前川道介訳 福武文庫)

 オーストリアの貴族であり、第一次大戦への従軍経験のある軍人ヴァルモーデンは、戦争の訓練のため、ウィーン郊外の連隊に入営します。
 開戦直前に、神秘的な女性ピストルコールスに夢中になったヴァルモーデンは、招集されてからも彼女と連絡を取ろうとしますが…。

 第二次大戦の前夜、風雲急を告げる時代が舞台なのですが、殺伐とした感じではなく、なにやら浮世離れした夢幻的な雰囲気で描かれる作品です。戦時中だというのに、軍人であるはずの主人公ヴァルモーデンが、社交生活をしたり、女性に夢中になったりと、日常と変わらぬ生活を送っています。
 作品の半ばも過ぎて、ようやく戦闘に駆り出されることになるのですが、そこでも戦闘を抜け出して、女性に会いに行ったりと、緊張感は感じられないのが面白いところ。
 作品自体に幻想的な雰囲気は流れているのですが、実際に超自然(のような)出来事が起こるのは、結末寸前のみです。その意味では、起伏の少ない作品なのですが、非常に洒脱かつ軽い雰囲気なこともあって、読みやすい作品ではあります。
 幻想的な要素のある、一般小説といった感じの作品ですね。



4874176941レオナルドのユダ (エディションq)
レオ ペルッツ Leo Perutz
エディションq 2001-08

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レオ・ペルッツ『レオナルドのユダ』(鈴木芳子訳 エディションq)

 レオナルドは、修道院のために描いている「最後の晩餐」の製作が止まっていることに対して文句を言われていました。レオナルドによれば、ユダを描くためには、ユダと同じような罪を背負ったモデルが必要であり、そのモデルが見つからないために製作が進まないと言うのです。
 一方、ミラノを訪れた商人ベーハイムは、借金を一向に返さない強欲な男ボッチェッタに恨みを抱いていました。挙句の果てには、ボッチェッタを襲う計画まで立てますが、夢中になっている美しい女性ニッコーラが、ボッチェッタの娘であることを知り、悩みながらも、ある計画を考え付きます…。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの名作「最後の晩餐」に描かれたユダに、モデルがあったのではないか? という想像から生まれたと思しき歴史小説です。
 憎き仇への恨みと、愛する女性がその仇の娘であるという事実との間で悩む主人公が取った手段とは? そこにユダの顔を見たレオナルドを絡ませていくのが面白いところ。
 主人公ベーハイムの恋のライバル的な存在として、マンチーノという男が登場するのですが、このマンチーノが、なかなか味のあるキャラクターとして描かれます。記憶喪失だという設定なのですが、結末ではこの男の来歴が匂わされるなど、細かい部分でも楽しめます。
 邦訳のある、他のペルッツ作品と比較すると小粒な印象ですが、これはこれで味わいのある歴史奇譚ですね。

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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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